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特許7379243ガスセンサの検査装置、ガスセンサの検査方法及び基準センサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】ガスセンサの検査装置、ガスセンサの検査方法及び基準センサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/26 20060101AFI20231107BHJP
   G01N 27/409 20060101ALI20231107BHJP
   G01N 27/41 20060101ALI20231107BHJP
   G01N 27/419 20060101ALI20231107BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20231107BHJP
【FI】
G01N27/26 391B
G01N27/409 100
G01N27/41 325Z
G01N27/419 327Z
G01N27/26 391Z
G01N27/416 331
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020055660
(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2020165970
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2019069156
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【復代理人】
【識別番号】100225440
【弁理士】
【氏名又は名称】門山 廣大
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】関谷 高幸
(72)【発明者】
【氏名】服部 宏昭
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 靖昌
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-223860(JP,A)
【文献】米国特許第05614655(US,A)
【文献】特開2011-145234(JP,A)
【文献】特開2017-181213(JP,A)
【文献】特開2020-153931(JP,A)
【文献】特表2013-525780(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのセンサ素子が装着されるチャンバと、
前記チャンバに所定の検査用ガスを供給するガス供給手段と、を有し、
前記ガス供給手段は、
複数のガス供給源と、
各前記ガス供給源に対応して接続された複数の開閉器と、
各前記ガス供給源に対応して複数の前記開閉器の前段または後段にそれぞれ接続され、それぞれ流量が異なる複数の流量固定ノズルと、
複数の前記流量固定ノズルが互いに並列に接続され、複数の前記流量固定ノズルからの複数種のガスを混合する混合器と、を有する、ガスセンサの検査装置。
【請求項2】
請求項1記載のガスセンサの検査装置において、
各前記ガス供給源に対応して、前記複数の開閉器の後段に前記複数の流量固定ノズルが接続されている、ガスセンサの検査装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載のガスセンサの検査装置において、
前記混合器と前記チャンバとの間に接続された流量固定ノズルを有する、ガスセンサの検査装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のガスセンサの検査装置において、
前記流量固定ノズルが臨界ノズルである、ガスセンサの検査装置。
【請求項5】
少なくとも1つのセンサ素子が装着されるチャンバに所定の検査用ガスを供給してガスセンサの検査を実施するガスセンサの検査方法において、
複数のガス供給源からそれぞれ出力された複数のガスを、各前記ガス供給源に対応して接続された複数の開閉器に送るステップと、
前記複数の開閉器からの複数のガスを、各前記ガス供給源に対応して接続され、それぞれ流量が異なる複数の流量固定ノズルに送るステップと、
前記複数の流量固定ノズルからの複数のガスを、複数の前記流量固定ノズルが互いに並列に接続される混合器で混合するステップと、
前記混合器からの混合ガスを前記チャンバに供給するステップと、を有する、ガスセンサの検査方法。
【請求項6】
請求項5記載のガスセンサの検査方法において、
前記混合器からの混合ガスを1つの流量固定ノズルに送るステップと、
前記1つの流量固定ノズルからの混合ガスを前記チャンバに送るステップと、を有する、ガスセンサの検査方法。
【請求項7】
請求項5又は6記載のガスセンサの検査方法において、
前記流量固定ノズルが臨界ノズルである、ガスセンサの検査方法。
【請求項8】
ガスセンサの検査装置に使用され、酸素及びNOxのいずれか一方を特定ガスとし、他方を含まず該特定ガスとベースガスとを含む試験用ガスを被測定ガスとして、該被測定ガス中の該特定ガスの濃度である特定ガス濃度を検出する基準センサであって、
前記ガスセンサの検査装置は、
少なくとも1つのセンサ素子が装着されるチャンバと、
前記チャンバに所定の検査用ガスを供給するガス供給手段と、を有し、
前記ガス供給手段は、
複数のガス供給源と、
各前記ガス供給源に対応して接続された複数の開閉器と、
各前記ガス供給源に対応して複数の前記開閉器の前段または後段にそれぞれ接続され、それぞれ流量が異なる複数の流量固定ノズルと、
複数の前記流量固定ノズルからの複数種のガスを混合する混合器と、を有し、
前記基準センサは、
酸素イオン伝導性の固体電解質からなる構造体を有するセンサ素子と、
前記構造体を有する前記センサ素子へのガスの導入部に拡散を律速させるための拡散律速部と、
前記構造体に形成され、被測定ガスが導入されるガス導入口と、
前記ガス導入口に連通した主空室と、
前記被測定ガスと接触するように前記構造体の外側に配設され、触媒活性を有する貴金属を含む第1外側電極と、
前記被測定ガスと接触するように前記構造体の外側に配設され、触媒活性を有する貴金属を含む第2外側電極と、
前記主空室の内部に配設され、触媒活性を有する貴金属を含む測定電極と、
前記構造体に形成され、基準ガスが導入される基準ガス導入空間と、
前記基準ガス導入空間に形成された基準電極と、
前記第1外側電極と前記測定電極間への一定電圧の印加によって、前記第1外側電極と前記測定電極間に流れる限界電流に基づいて特定ガスの濃度を検出する第1濃度検出部と、
前記第2外側電極と前記基準電極との間の濃度差によるネルンスト起電力に基づいて特定ガスの濃度を検出する第2濃度検出部と、を有する、基準センサ。
【請求項9】
請求項8記載の基準センサにおいて、
前記第1濃度検出部の出力と、前記第2濃度検出部の出力をモニタして、異常の有無をモニタする自己診断部を有する、基準センサ。
【請求項10】
請求項8又は9記載の基準センサにおいて、
前記構造体に形成されたヒータ部を有し、
前記ヒータ部は、2つの通電用リードと、2つの電圧測定用リードとを有する、基準センサ。
【請求項11】
請求項8~10のいずれか1項に記載の基準センサにおいて、
前記第2外側電極は、前記第1外側電極よりも面積が小さい、基準センサ。
【請求項12】
請求項8~11のいずれか1項に記載の基準センサにおいて、
前記第1外側電極と前記第2外側電極は、この順番で、前記構造体の奥行方向に配列されている、基準センサ。
【請求項13】
請求項12記載の基準センサにおいて、
前記第1外側電極は、前記第2外側電極と対向する部分に凹部を有し、
前記第2外側電極は、前記凹部内に形成されている、基準センサ。
【請求項14】
請求項8~11のいずれか1項に記載の基準センサにおいて、
前記第1外側電極と前記第2外側電極は、前記構造体の幅方向に配列されている、基準センサ。
【請求項15】
請求項8~14のいずれか1項に記載の基準センサにおいて、
前記拡散律速部は、前記ガス導入口の上部と対向する部分並びに下部と対向する部分にそれぞれスリットを有する、基準センサ。
【請求項16】
請求項8~15のいずれか1項に記載の基準センサにおいて、
前記拡散律速部は、多孔質層にて構成されている、基準センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサの検査装置、ガスセンサの検査方法及び基準センサに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1記載のセンサ素子の検査装置は、検査効率が優れると共に、信頼性の高い検査を行える検査装置を提供することを課題としている。
【0003】
当該課題を解決するため、特許文献1記載の検査装置及び検査方法は、素子挿脱部と、テーパー部と、ガス導入部とを備えるチャンバを準備する。素子挿脱部は、一方端側が外部に開口した開口部であると共に、他方端側が有底端部である略筒状体であり、開口部から続く略筒状の空間である。テーパー部は、素子挿脱部と連接し、且つ、内部に向かうほど長手方向に垂直な断面が大きい断面視テーパー状の空間である。ガス導入部は、テーパー部から底部まで連続する略筒状の空間である。
【0004】
そして、センサ素子を、チャンバとの間に隙間を設けつつ先端がテーパー部に達するようにチャンバ内へ挿入した状態で、所定のガス供給手段からガス導入部に設けた供給口を通じてチャンバに対し検査用ガスを供給し、検査用ガスを隙間から流出させつつ、センサ素子の電気的測定を行う。
【0005】
特許文献2記載のガスセンサは、センサ素子における測定電極の感度低下をより抑制することを課題としている。
【0006】
当該課題を解決するため、特許文献2記載のガスセンサは、拡散律速部を備え、該拡散律速部が被測定ガス流通部の上下左右の内周面のうち1以上3以下の面である上側の面と隔壁との間に形成されている。測定電極は、第3内部空所の上下左右の内周面のうち拡散律速部が形成された面とは異なる方向の面である下側の面に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4944972号公報
【文献】特開2015-200642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、NOセンサ等のガスセンサの特性評価には、モデルガス生成装置が必要である。モデルガス生成装置は複数のガスを、それぞれの配管に繋いだ流量調整器(例えばマスフローコントローラ)のバランスを調整して任意の濃度の混合ガスを作ることができる。混合ガスのガス濃度のばらつきは、流量調整器の精度に依存する。流量調整器は流量を可変するため、制御誤差も乗る。混ぜるガス種が多い場合は、複数の流量調整装置を使うので、より誤差が大きくなり、そのガス濃度精度は原理的に良くならない。
【0009】
また、ガスセンサの製造工程では、製造後にガスセンサの特定ガス濃度の検出の性能を検査する検査工程が行われる。検査工程前の試験用ガス中の特定ガス濃度の測定を行うための測定機として、例えば特許文献1に記載されたガスセンサを用いることが考えられる。しかし、測定精度が低い場合があり、これにより特定ガス濃度が所望の値からずれたスパンガスを用意してしまう場合があった。
【0010】
本発明は、このような課題を考慮してなされたものであり、混合ガスの濃度誤差を低減することができるガスセンサの検査装置、ガスセンサの検査方法及び基準センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様は、少なくとも1つのセンサ素子が装着されるチャンバと、前記チャンバに所定の検査用ガスを供給するガス供給手段と、を有し、前記ガス供給手段は、複数のガス供給源と、各前記ガス供給源に対応して接続された複数の開閉器と、各前記ガス供給源に対応して接続され、それぞれ流量が異なる複数の流量固定ノズルと、複数の前記ガス供給源からの複数種のガスを混合する混合器と、を有する。
【0012】
本発明の第2の態様は、少なくとも1つのセンサ素子が装着されるチャンバに所定の検査用ガスを供給してガスセンサの検査を実施するガスセンサの検査方法において、複数のガス供給源からそれぞれ出力された複数のガスを、各前記ガス供給源に対応して接続された複数の開閉器に送るステップと、前記複数の開閉器からの複数のガスを、各前記ガス供給源に対応して接続され、それぞれ流量が異なる複数の流量固定ノズルに送るステップと、前記複数の流量固定ノズルからの複数のガスを混合器で混合するステップと、前記混合器からの混合ガスを前記チャンバに供給するステップと、を有する。
【0013】
本発明の第3の態様は、第1の態様に係るガスセンサの検査装置に使用され、酸素及びNOxのいずれか一方を特定ガスとし、他方を含まず該特定ガスとベースガスとを含む試験用ガスを被測定ガスとして、該被測定ガス中の該特定ガスの濃度である特定ガス濃度を検出する基準センサであって、酸素イオン伝導性の固体電解質からなる構造体を有するセンサ素子と、前記センサ素子へのガスの導入部に拡散を律速させるための拡散律速部と、前記構造体に形成され、被測定ガスが導入されるガス導入口と、前記ガス導入口に連通した主空室と、前記被測定ガスと接触するように前記構造体の外側に配設され、触媒活性を有する貴金属を含む第1外側電極と、前記被測定ガスと接触するように前記構造体の外側に配設され、触媒活性を有する貴金属を含む第2外側電極と、前記主空室の内部に配設され、触媒活性を有する貴金属を含む測定電極と、前記構造体に形成され、基準ガスが導入される基準ガス導入空間と、前記基準ガス導入空間に形成された基準電極と、前記第1外側電極と前記測定電極間への一定電圧の印加によって、前記第1外側電極と前記測定電極間に流れる限界電流に基づいて特定ガスの濃度を検出する第1濃度検出部と、前記第2外側電極と前記基準電極との間の濃度差によるネルンスト起電力に基づいて特定ガスの濃度を検出する第2濃度検出部と、を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の第1の態様、第2の態様又は第3の態様によれば、混合ガスの濃度誤差を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態に係る検査装置及び検査方法に供されるセンサ素子の一例を示す断面図である。
図2】本実施形態に係る検査装置の構成の一例を示すブロック図である。
図3】比較例に係る検査装置を示すブロック図である。
図4】流量調整器(マスフローコントローラ)の流量による精度の違いを示すグラフである。
図5】比較例に係る検査装置を使用した場合の設定濃度に対する各ガスの濃度精度誤差、混合ガスの精度誤差を示す表1である。
図6】実施例1に係る検査装置を使用した場合の設定濃度に対する各ガスの濃度精度誤差、混合ガスの精度誤差を示す表2である。
図7】本実施形態に係る検査装置及び検査方法に供される基準センサの一例を示す断面図である。
図8】基準センサのヒータ部の電気的な接続関係を示す説明図である。
図9】制御装置とセンサ素子との接続関係を示すブロック図である。
図10図10Aは第1外側電極と第2外側電極の配置関係の第1例を示す平面図であり、図10Bは第1外側電極と第2外側電極の配置関係の第2例を示す平面図であり、図10Cは第1外側電極と第2外側電極の配置関係の第3例を示す平面図である。
図11図11Aは被測定ガス流通部の拡散律速部の一例を示す断面図であり、図11Bは拡散律速部の他の例を示す断面図である。
図12】制御電圧とポンプ電流との関係を示すグラフである。
図13】試験用ガスの実濃度(NO濃度:500ppm)を、実施例2のガスセンサが検出した測定回数毎のNO濃度と、比較例2のガスセンサが検出した測定回数毎のNO濃度との関係を示すグラフである。
図14図13の結果に基づく、実施例2の測定ばらつきと、比較例2の測定ばらつきとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るガスセンサの検査装置、ガスセンサの検査方法及び基準センサの実施の形態例を図1図14を参照しながら説明する。
【0017】
先ず、本実施形態に係るガスセンサの検査装置(以下、検査装置10と記す)が適用されるガスセンサ12のセンサ素子14は、図1に示すように、酸素イオン伝導性固体電解質であるジルコニアを主成分とするセラミックスを構造材料として構成されたNOxセンサである。
【0018】
センサ素子14は、第1内部空室16が第1拡散律速部18、第2拡散律速部20を通じて外部空間に開放されたガス導入口22と連通し、第2内部空室24が第3拡散律速部26を通じて第1内部空室16と連通する構成を備える、いわゆる直列二室構造型のNOxセンサ素子である。このセンサ素子14を用い、以下のようなプロセスが実行されることで、被測定ガス中のNOxガス濃度が算出される。
【0019】
先ず、第1内部空室16に導入された被測定ガスは、センサ素子14の外面に設けられた外側ポンプ電極30と、第1内部空室16に設けられた内側ポンプ電極32と、これら両電極間のセラミックス層34とによって構成される電気化学的ポンプセルである主ポンプセルのポンピング作用(酸素の汲み入れ、あるいは汲み出し)によって、酸素濃度が略一定に調整された上で、第2内部空室24に導入される。第2内部空室24においては、同じく電気化学的ポンプセルである、外側ポンプ電極30と、第2内部空室24に設けられた補助ポンプ電極36と、両電極の間のセラミックス層38とによって構成される補助ポンプセルのポンピング作用により、被測定ガス中の酸素が汲み出されて、被測定ガスが十分な低酸素分圧状態とされる。
【0020】
低酸素分圧状態の被測定ガス中のNOxは、第2内部空室24に保護層40に被覆される態様にて設けられた測定電極42において還元ないし分解される。そして、この還元ないし分解によって生じた酸素イオンが、測定電極42と、基準ガス導入口44に通じる多孔質アルミナ層46内に設けられた基準電極48と、両者の間のセラミックス層50とによって構成される電気化学的ポンプセルである測定ポンプセルによって汲み出される。そして、その際に生じる電流(NOx電流)の電流値と、NOx濃度との間に線形関係があることに基づいて、被測定ガス中のNOx濃度が求められる。
【0021】
なお、センサ素子14には、図示しないヒータ部が設けられており、上述の動作は、ヒータ部に通電することでセンサ素子14を600℃~800℃程度の温度に加熱しつつ行われる。そのため、検査装置10における検査も、上述した温度までセンサ素子14を加熱した上で行われる。
【0022】
そして、検査装置10は、図2に示すように、少なくとも1つのセンサ素子14が装着されるチャンバ100(取付チャンバともいう。)と、チャンバ100に所定の検査用ガスを供給するガス供給手段102(モデルガス生成装置102ともいう。)と、を有する。
【0023】
ガス供給手段102は、複数のガス供給源、すなわち、NO(1%)の第1ガス供給源104A、O(100%)の第2ガス供給源104B及びN(100%)の第3ガス供給源104Cを有する。ガス供給手段102は、第1ガス供給源104Aに対応して接続された4つの第1開閉器106a~106dと、第2ガス供給源104Bに対応して接続された4つの第2開閉器108a~108dと、第3ガス供給源104Cに対応して接続された4つの第3開閉器110a~110dとを有する。
【0024】
また、ガス供給手段102は、4つの第1開閉器106a~106dに対応して接続され、それぞれ流量が異なる第1流量固定ノズル112a~112dと、4つの第2開閉器108b~108dに対応して接続され、それぞれ流量が異なる第2流量固定ノズル114a~114dと、4つの第3開閉器110b~110dに対応して接続され、それぞれ流量が異なる第3流量固定ノズル116a~116dとを有する。
【0025】
第1流量固定ノズル112a~112dは、それぞれ個別の流量(ガス濃度)となるように、管内の絞り部分が加工された臨界ノズルで構成されていることが好ましい。高い流量精度を得ることができる。第2流量固定ノズル114a~114d、第3流量固定ノズル116a~116dについても同様である。
【0026】
ガス供給手段102は、4つの第1流量固定ノズル112a~112d、4つの第2流量固定ノズル114a~114d及び4つの第3流量固定ノズル116a~116dからの複数種のガスを混合する1つの混合器120を有する。
【0027】
第1開閉器106a~106d、第2開閉器108a~108d及び第3開閉器110a~110dとしては、例えばコック式の開閉バルブ等を使用することができる。
【0028】
さらに、ガス供給手段102は、混合器120とチャンバ100との間に接続された1つの流量固定ノズル122を有する。この流量固定ノズル122についても臨界ノズルにて構成することが好ましい。
【0029】
ここで、検査装置10の作用を説明する。先ず、第1ガス供給源104Aから出力されたガスは、第1開閉器106a~106dのうち、閉(ON)とされた開閉器を通じて流量固定ノズルに流通する。図2の例では、第1開閉器106aのみが閉(ON)となっているため、第1ガス供給源104Aから出力されたガスは、第1開閉器106aを通じて、対応する第1流量固定ノズル112aに流通する。第1流量固定ノズル112aで流量(濃度)を調整されたガスは、後段の混合器120に供給される。
【0030】
第2ガス供給源104Bから出力されたガスは、第2開閉器108a~108dのうち、閉(ON)とされた開閉器を通じて、対応する流量固定ノズルに流通する。図2の例では、第2開閉器108aのみが閉(ON)となっているため、第2ガス供給源104Bから出力されたガスは、第2開閉器108aを通じて、対応する第2流量固定ノズル114aに流通する。第2流量固定ノズル114aで流量(濃度)を調整されたガスは、後段の混合器120に供給される。
【0031】
同様に、第3ガス供給源104Cから出力されたガスは、第3開閉器110a~110dのうち、閉(ON)とされた開閉器(図2の例では第3開閉器110a)を通じて、対応する流量固定ノズル(図2の例では第3流量固定ノズル116a)に流通する。この場合も、第3流量固定ノズル116aで流量(濃度)を調整されたガスは、後段の混合器120に供給される。
【0032】
すなわち、混合器120において、第1流量固定ノズル112aからのガスと、第2流量固定ノズル114aからのガスと、第3流量固定ノズル116aからのガスとが混合されて、混合ガスとして出力される。
【0033】
混合器120からの混合ガスは、流量固定ノズル122によって流量が固定された後、後段のチャンバ100に供給され、複数のセンサ素子14の検査用ガスとして供される。
【0034】
上述の例では、3種類のガス供給源を示したが、使用するガスの種類に応じて1つ、2つ、4つあるいは5つ以上のガス供給源を用いてもよい。また、開閉器として、各ガス供給源に対応して、それぞれ4つの開閉器、4つの流量固定ノズルを用いたが、使用する濃度に応じて1つ、2つ、3つあるいは5つ以上の開閉器、流量固定ノズルを用いてもよい。
【0035】
混合器120とチャンバ100との間に流量固定ノズル122を接続した例を示したが、混合器120から一定の流量が出力されるのであれば、必ずしも流量固定ノズル122を接続しなくてもよい。
【0036】
[第1実施例]
次に、検査装置10の利点について、比較例に係る検査装置200(以下、比較例200と記す)と比較しながら説明する。
【0037】
[比較例200]
先ず、比較例200は、図3に示すように、NO(1%)のガス供給源202Aに第1開閉器204aを介して接続された1つの第1流量調整器206a(High Range)と、NO(3000ppm)のガス供給源202Bに第2開閉器204bを介して接続された1つの第2流量調整器206b(Low Range)と、O(1%)のガス供給源202Cに直接接続された1つの第3流量調整器206cと、N(100%)のガス供給源202Dに直接接続された1つの第4流量調整器206dとを有する。
【0038】
さらに、比較例200は、第1流量調整器206a~第4流量調整器206dからの複数種のガスを混合する1つの混合器208を有する。混合器208の後段には、チャンバ100が接続されている。
【0039】
一般に、NOxセンサ等のガスセンサの特性評価には、モデルガス生成装置が必要である。モデルガス生成装置は、複数のガスを、それぞれの配管に繋いだ流量調整器(例えばマスフローコントローラ)のバランスを調整して任意の濃度の混合ガスを作ることができる。ガス濃度のばらつきは、流量調整器の精度に依存する。流量調整器は流量を可変するため、制御誤差が生じる。混ぜるガス種が多い場合は、複数の流量調整装置を使うので、より誤差が大きくなり、そのガス濃度精度は原理的に良くならない。
【0040】
また、流量調整器としてのマスフローコントローラは、通常、図4に示すように、高流量と低流量で精度が異なるものが多い。フルスケールに対して30%以上の場合は、セットポイントに対して1%の精度誤差を持つが、30%未満の場合はフルスケールの1%の精度誤差である。つまり、流量がフルスケールの30%未満ではセットポイントの1%以上の精度誤差になってしまう。
【0041】
上述の事項を確認するため、流量調整器としてのマスフローコントローラを使用した上述の比較例200について、NO:1%、O:20%、N:100%の元ガスを使って、NO濃度が0ppm~3000ppm、O濃度が0~20%の混合ガスを作る場合の最大精度誤差及び二乗平方根を確認し、図5の表1に示した。
【0042】
図5の表1からわかるように、設定濃度として、NO濃度が500ppm以上の場合、精度誤差は6.0以下であり、1000ppm以上の場合、3.0以下であった。また、O濃度が1%の場合、精度誤差は6.0、5%の場合、精度誤差は1.2、20%の場合、0.3であった。なお、N濃度はいずれも100%付近であったため、精度誤差は1.0であった。
【0043】
この結果、混合器208(図3参照)から出力される混合ガスの最大精度誤差は、1桁台のほか、31.0%や13.0%があり、ばらつきがあった。二乗平方根については、設定濃度として、NOが100ppm、O濃度が0%、N濃度が99.99の例が30.0と突出しており、大きくばらつきがあった。
【0044】
[実施例1]
本実施形態に係る検査装置10について、上述した比較例200と同様の条件で、最大精度誤差及び二乗平方根を確認し、図6の表2に示した。
【0045】
図6の表2からわかるように、比較例200の流量調整器に代えて、臨界ノズルを使用したため、各ガスの濃度精度誤差の欄に示すように、臨界ノズルを通過する際の精度誤差はいずれも0.4であり、精度上のばらつきはなかった。
【0046】
その結果、混合器208から出力される混合ガスの最大精度誤差は、0.4、0.8、1.2であり、また、二乗平方根も0.4、0.6、0.7であり、高い濃度精度であることがわかる。
【0047】
次に、上述したモデルガス生成装置102から出力されるモデルガスの濃度を調整するために使用される基準センサ500について、図7図11Bも参照しながら説明する。
【0048】
先ず、図7に示すように、基準センサ500は、酸素及びNOxのいずれか一方を特定ガスとし、他方を含まず特定ガスとベースガスとを含む試験用ガスを被測定ガスとして、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出する。基準センサ500は、図7に示す長尺な直方体形状をしたセンサ素子502と、ポンプ電源504と、ポンプ電流取得部510と、起電力取得部512と、図8に示すヒータ電源514と、ヒータ電流取得部516と、ヒータ電圧取得部518と、図9に示す制御装置520と、表示操作部522と、を有する。
【0049】
図7に示すように、センサ素子502は、第1基板層530と、第2基板層532と、第3基板層534と、第1固体電解質層536と、スペーサ層538と、第2固体電解質層540との6つの層が下側からこの順に積層された構造体542(素子本体の一例)を有する。この6つの層は、それぞれがジルコニア(ZrO)等の酸素イオン伝導性固体電解質層からなる。また、これら6つの層を形成する固体電解質は緻密で気密な電解質である。
【0050】
センサ素子502のうち、前端部側の第2固体電解質層540の下面と第1固体電解質層536の上面との間には、ガス導入口550と、拡散律速部552と、内部空所554(主空室)とがこの順に連通する態様にて隣接形成されている。ガス導入口550から内部空所554に至る部位を被測定ガス流通部とも称する。この被測定ガス流通部において、ガス導入口550は、センサ素子502の前端面で外部空間に対して開口している。ガス導入口550を通じて外部空間からセンサ素子502内に被測定ガスが取り込まれる。拡散律速部552は、ガス導入口550から取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する。拡散律速部552は、上下2本のスリットとして設けられている。各々のスリットの開口の長手方向は、左右方向に沿っている。拡散律速部552を通過した被測定ガスは、内部空所554に流入して測定電極556に到達する。
【0051】
センサ素子502は、被測定ガス流通部の反対側(ここでは後端側)に、基準ガス導入空間558が設けられている。基準ガス導入空間558は、第2基板層532の上面と、第1固体電解質層536の下面との間であって、側部を第3基板層534の側面で区画される位置に設けられている。基準ガス導入空間558は、センサ素子502の後端面に開口部が設けられている。基準ガス導入空間558には、特定ガス濃度の測定を行う際の基準ガスとして、例えば大気が導入される。
【0052】
また、センサ素子502は、ポンプセル560と、センサセル562と、ヒータ部564と、を備えている。
【0053】
ポンプセル560は、内部空所554から酸素を汲み出すための電気化学的ポンプセルである。ポンプセル560は、第1外側電極570と、測定電極556と、第1外側電極570及び測定電極556間の酸素イオンの流路となる第2固体電解質層540と、を備えている。第1外側電極570は、被測定ガスと接触するように、センサ素子502の外側に配設されている。より具体的には、第1外側電極570は、第2固体電解質層540の上面の前側に配設されている。
【0054】
一方、測定電極556は、内部空所554のうち第2固体電解質層540の下面に配設されている。但し、測定電極556は、被測定ガス流通部のうち、拡散抵抗が付与された後の被測定ガスが到達する位置に配設されていればよく、例えば第1固体電解質層536の上面に配設されていてもよい。
【0055】
センサセル562は、酸素濃淡電池セルの一例である。センサセル562は、第2外側電極572と、基準電極574と、第2外側電極572及び基準電極574の間に設けられた第1固体電解質層536、スペーサ層538及び第2固体電解質層540と、を備えている。第2外側電極572は、被測定ガスと接触するように、センサ素子502の外側に配設されている。より具体的には、第2外側電極572は、第2固体電解質層540の上面の前側に配設されている。第2外側電極572は、第1外側電極570の後方に配設されている。基準電極574は、基準ガスと接触するように、基準ガス導入空間558内に配設されている。本実施形態では、基準電極574は、第1固体電解質層536の下面に配設されている。このセンサセル562では、第2外側電極572の周囲と基準電極574の周囲との酸素濃度差に応じて、第2外側電極572と基準電極574との間にネルンスト起電力に基づく起電力Veが生じる。この起電力Veによって、第2外側電極572の周囲の酸素濃度(酸素分圧)がわかるようになっている。
【0056】
第2外側電極572は、第1外側電極570よりも面積が小さいことが好ましい。第2外側電極572は、起電力Veの測定に用いられ、電流はほとんど流れないから、面積を小さくしても貴金属の酸化による触媒活性の変化が生じにくい。しかも、面積を小さくすることで、ヒータ580に加熱された際の第2外側電極572内の温度分布が生じにくい。すなわち、第2外側電極572の内部で温度が均一化しやすい。そのため、第2外側電極572の面積が小さい方が、起電力Veと特定ガス濃度との対応関係が変化しにくい。従って、第2外側電極572の面積が第1外側電極570より小さいことで、特定ガス濃度の検出精度が低下しにくい効果と、検出された特定ガス濃度の異常判定の精度が高まる効果と、の少なくとも一方の効果が得られる。ここで、第1外側電極570及び第2外側電極572の面積は、素子本体(ここでは積層体)のうち第1外側電極570及び第2外側電極572が配設された面(ここではセンサ素子502の上面)に垂直な方向から見たときの面積(ここでは上面視での面積)とする。本実施形態では、図7及び図10Aに示すように、第2外側電極572の方が第1外側電極570よりも前後の長さが短いことにより、第2外側電極572の方が第1外側電極570よりも面積が小さくなっている。もちろん、図10Bに示すように、第1外側電極570と第2外側電極572を左右に並べて配置してもよい。また、図10Cに示すように、第1外側電極570が凹部576を有しており、第2外側電極572が凹部576内に配置されていてもよい。
【0057】
また、上述した実施形態では、図7及び図11Aに示すように、センサ素子502の被測定ガス流通部はガス導入口550、拡散律速部552及び内部空所554を備えていたが、これに限られない。被測定ガス流通部は、センサ素子502の素子本体の内部に配設され、被測定ガスを導入して拡散抵抗を付与しつつ測定電極556まで流通させるものであればよい。例えば、図11Bに示すように、被測定ガス流通部は、多孔質体からなる拡散律速部552aを備えていてもよい。この場合、拡散律速部552aの前面がガス導入口550となる。また、拡散律速部552aは、測定電極556を被覆する多孔質体であってもよい。また、被測定ガス流通部が内部空所554を備えず、被測定ガス流通部全体が多孔質体で満たされていてもよい。また、本実施形態では、拡散律速部552及び内部空所554はそれぞれ1つとしたが、被測定ガス流通部は、複数の拡散律速部や複数の内部空所を備えていてもよい。
【0058】
第1外側電極570、第2外側電極572、基準電極574及び測定電極556は、それぞれ、触媒活性を有する貴金属(例えばPt、Rh、Pd、Ru、及びIrの少なくともいずれか1つ)を含む電極である。第1外側電極570、第2外側電極572、基準電極574(図7参照)及び測定電極556は、それぞれ、貴金属と酸素イオン伝導性を有する酸化物(ここでは、ZrO)とを含むサーメットからなる電極とすることが好ましい。
【0059】
また、第1外側電極570、第2外側電極572、基準電極574及び測定電極556は、それぞれ、多孔質体であることが好ましい。本実施形態では、第1外側電極570、第2外側電極572、基準電極574及び測定電極556は、いずれも、PtとZrOとの多孔質サーメット電極とした。
【0060】
図7に示すように、ヒータ部564は、固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるために、センサ素子502を加熱して保温する温度調整の役割を果たす。ヒータ部564は、ヒータ580と、リード部582と、スルーホール584と、ヒータコネクタ電極590と、ヒータ絶縁層592と、を備えている。
【0061】
ヒータ580は、センサ素子502の内部において、第1基板層530及び第2基板層532間に挟まれるように配設されている。ヒータ580は、電気抵抗体であり、外部から給電されることにより発熱する。
【0062】
ヒータ580は、複数回折り返されるように引き回されており、第1外側電極570、第2外側電極572、基準電極574、測定電極556の下方の全域に亘ってセンサ素子502に埋設されている。ヒータ580は、センサ素子502を、固体電解質が活性化する温度(例えば800~900℃)に調整することが可能となっている。
【0063】
リード部582は、図8に示すように、ヒータ580の両端に接続された一対の通電用リード582a、582bと、該ヒータ580の両端に通電用リード582a、582bと並列に接続された一対の電圧測定用リード582c、582dと、を備えている。ヒータコネクタ電極590は、第1基板層530(図7参照)の下面の後端部に配設された電極である。
【0064】
ヒータコネクタ電極590は、図7では1つのみ図示しているが、図8に示すように、一対の通電用リード582a、582bに電気的に接続された一対のヒータコネクタ電極590a、590bと、一対の電圧測定用リード582c、582dに電気的に接続された一対のヒータコネクタ電極590c、590dとの4個が存在する。
【0065】
図8に示すように、通電用リード582a、582bとヒータコネクタ電極590a、590bとは、それぞれスルーホール584(図7では1つのみ図示)を介して接続されている。電圧測定用リード582c、582dとヒータコネクタ電極590c、590dとは、センサ素子502の側面及び下面に配設された図示しないリードを介して接続されている。図7に示すように、ヒータ部564は、ヒータコネクタ電極590を介してセンサ素子502の外部と電気的に接続できるようになっている。
【0066】
ヒータ絶縁層592は、ヒータ580及びリード部582の上下面に配設されており、ヒータ580及びリード部582と第1基板層530及び第2基板層532とを絶縁する。ヒータ絶縁層592は、例えば、アルミナ等の絶縁体である。
【0067】
図7及び図9に示すように、ポンプ電源504は、ポンプセル560の第1外側電極570と測定電極556との間に制御電圧Vpを印加する。制御電圧Vpによってポンプセル560にポンプ電流Ipが流れることにより、ポンプセル560は内部空所554内の酸素を第1外側電極570の周囲すなわち外部空間に汲み出す。
【0068】
ポンプ電流取得部510は、ポンプ電流Ipを取得する電流検出回路として構成されている。ポンプ電流取得部510は、図7に示すように、第1外側電極570とポンプ電源504との間に接続されている。ポンプ電流取得部510は、取得したポンプ電流Ipを制御装置520に出力する。
【0069】
起電力取得部512は、起電力Veを取得する電圧検出回路として構成されている。起電力取得部512は、図7に示すように、第2外側電極572と基準電極574との間に接続されている。起電力取得部512は、取得した起電力Veを制御装置520に出力する。
【0070】
図8に示すように、ヒータ電源514は、ヒータコネクタ電極590a、590b及び通電用リード582a、582bを介してヒータ580と接続されている。ヒータ電源514はヒータ580に電力を供給してヒータ580を発熱させる。ヒータ電源514により、ヒータ580にはヒータ電流Ihが流れる。
【0071】
ヒータ電流取得部516は、ヒータ電流Ihを取得する電流検出回路として構成されている。ヒータ電流取得部516は、ヒータコネクタ電極590aとヒータ電源514との間に接続されている。ヒータ電流取得部516は、取得したヒータ電流Ihを制御装置520(図9参照)に出力する。
【0072】
図8に示すように、ヒータ電圧取得部518は、ヒータ580の両端の電圧(電位差)であるヒータ電圧Vhを取得する電圧検出回路として構成されている。ヒータ電圧取得部518は、ヒータコネクタ電極590c、590dの間に接続されている。ヒータ電圧取得部518は、取得したヒータ電圧Vhを制御装置520(図9参照)に出力する。
【0073】
図9の表示操作部522は、例えばタッチパネルやボタン等の操作部と、LEDやディスプレイ等の表示部と、を備えており、作業者からの指示を入力したり作業者に情報を出力したりする。
【0074】
図9に示すように、制御装置520は、演算部600、記憶部602及び入出力部604等を有する。演算部600は、CPU等を備えるプロセッサを有し、プロセッサが記憶部602に記憶されるプログラムを実行することにより、各種機能を実現する。
【0075】
本実施の形態において、演算部600は、少なくともガスセンサ制御部610と、第1特定濃度検出部612Aと、第2特定濃度検出部612Bと、特定濃度決定部614と、異常判定部616として機能する。記憶部602は、ROMとRAM等の記憶装置を含む。なお、制御装置520からの各種制御信号の出力や外部からの各種信号の入力は入出力部604を通じて行われる。
【0076】
記憶部602には、例えば後述する特定ガス濃度の検出を行う際に演算部600にて実行される処理プログラムのほか、第1対応関係620A及び第2対応関係620B等が記憶されている。
【0077】
記憶部602に記憶された第1対応関係620Aは、一定の制御電圧Vp下でのポンプ電流Ipと被測定ガス中の特定ガス濃度との対応関係を表す情報である。第2対応関係620Bは、起電力Ve(EMF)と被測定ガス中の特定ガス濃度との対応関係を表す情報である。第1対応関係620A及び第2対応関係620Bは、それぞれ、例えば関係式(例えば一次関数の式)やマップ等の情報を含んでいる。第1対応関係620A及び第2対応関係620Bは、予め実験やシミュレーション等により求めておくことができる。
【0078】
ガスセンサ制御部610は、ポンプ電流取得部510からのポンプ電流Ip、起電力取得部512からの起電力Ve、ヒータ電流取得部516からのヒータ電流Ih、ヒータ電圧取得部518からのヒータ電圧Vh及び表示操作部522からの操作信号等を入力する。ガスセンサ制御部610は、ポンプ電源504及びヒータ電源514に制御信号を出力してポンプセル560及びヒータ部564を制御したり、表示操作部522に表示信号を出力する。
【0079】
こうして構成された基準センサ500の使用例を以下に説明する。先ず、作業者は、基準センサ500のセンサ素子502を図示しない配管に取り付ける。このとき、作業者は、例えばセンサ素子502を図示しない素子封止体によって封入固定することで、配管内のガスがセンサ素子502の前端側に到達可能であり、且つ、後端側は基準ガス(ここでは大気)に晒された状態にする。また、作業者は、特定ガスとベースガス(例えば窒素)とを所定の割合で混合して、所望の特定ガス濃度になるように試験用ガスを、本実施形態に係るモデルガス生成装置102(図2参照)を使って調製する。
【0080】
その後、この試験用ガスを被測定ガスとして配管内に流す。これにより、センサ素子502の前端側に被測定ガスが到達して、第1外側電極570及び第2外側電極572が被測定ガスに接触する。また、被測定ガスがガス導入口550から被測定ガス流通部に導入されると、被測定ガスは、第1拡散律速部552を通過して内部空所554に到達する。
【0081】
この場合、モデルガス生成装置102は、上述したように、流量の違うノズルとその系の開閉とその組み合わせで所望の濃度に調整する。すなわち、調整によって、モデルガスの濃度はステップ的に変化する。そのため、基準センサ500は、モデルガスの濃度調整のために使うだけでなく、自己診断のために使うことができる。すなわち、モデルガス生成装置102の日常点検に使ったり、ガスセンサ12の取付チャンバ100からの外気のリークチェック等に使うことができる。基準センサ500が自己診断機能を備えることで、より確実にガス濃度を担保することができる検査装置を提供することができる。
【0082】
以下、基準センサ500が特定ガス濃度を検出する際の動作について説明する。
先ず、ヒータ580の温度は、ヒータ580の抵抗値と比例関係にある。そのため、ガスセンサ制御部610は、ヒータ電流Ihとヒータ電圧Vhとに基づく抵抗値を導出し、導出した抵抗値を温度に換算して、上述したヒータ電源514のフィードバック制御を行う。なお、ガスセンサ制御部610は、抵抗値を温度に換算せず、導出した抵抗値が目標抵抗値になるようにフィードバック制御を行ってもよい。こうしても、実質的にはガスセンサ制御部610は、ヒータ580の温度が目標温度になるようにフィードバック制御を行っていることになる。
【0083】
ここで、図8に示すように、リード部582は、通電用リード582a及び582bと、通電用リード582a及び582bに並列に接続された電圧測定用リード582c及び582dと、を備えている。そして、ヒータ電圧取得部518は、この電圧測定用リード582c及び582d間の電圧をヒータ電圧Vhとして測定する。そのため、ガスセンサ制御部610は、いわゆる4端子法によりヒータ580の抵抗値を導出することになる。これは、基準センサ500の特徴の1つであり、温度一定制御を正確に行うために実施される。
【0084】
図9に示すように、ガスセンサ制御部610は、ポンプ電源504が第1外側電極570と測定電極556との間に一定の制御電圧Vpを印加するように、ポンプ電源504に制御信号を出力する。この制御電圧Vpと測定電極556の触媒活性とによって、測定電極556の周囲では酸素イオンが発生し、酸素イオンが電子のキャリアとなって固体電解質層(ここでは第2固体電解質層540)内を通過して第1外側電極570に向かうことで、ポンプ電流Ipが流れる。測定電極556の周囲で発生する酸素イオンは、特定ガスがNOxの場合には、内部空所554まで流通してきた被測定ガス中のNOxが還元されて生じる酸素に由来する酸素イオンである。
【0085】
このように、制御電圧Vpによってポンプ電流Ipを流すことで、特定ガスに由来する酸素が測定電極556の周囲から第1外側電極570の周囲に汲み出される。従って、このポンプ電流Ipは、被測定ガス中の特定ガス濃度に応じた値となる。
【0086】
また、制御電圧Vpは、測定電極556の周囲の酸素濃度が実質的にゼロとなるように、実験により予め定められている。より具体的には、ポンプ電流Ipが限界電流となるような値として、制御電圧Vpが定められている。ポンプ電流Ipが限界電流となるための制御電圧Vpの値は、外部から測定電極556までの被測定ガス流通部の拡散抵抗(ここでは、主に拡散律速部552の拡散抵抗)と、被測定ガス中の特定ガス濃度とに応じて変化する。そのため、この拡散抵抗と、今回調製したい所望の特定ガス濃度とに応じて、予め適切な制御電圧Vpを定めておくことができる。ポンプ電流Ipが限界電流であることで、ポンプ電流Ipは、被測定ガス中の特定ガス濃度に精度良く対応した値になる。第1特定濃度検出部612Aは、ポンプセル560のポンプ電流Ipに基づいて、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出する。
【0087】
ここで、ポンプ電流Ipは、上述したように被測定ガス中の特定ガス濃度に対応した値になっている。そのため、第1特定濃度検出部612Aは、ポンプ電流取得部510から取得したポンプ電流Ipと、第1対応関係620Aと、に基づいて第1特定ガス濃度を検出することができる。検出した第1特定ガス濃度は、例えば入出力部604を介して記憶部602に記憶される。
【0088】
一方、上述したように第2外側電極572は触媒活性を有する貴金属を含んでいるため、特定ガスがNOxの場合には、センサセル562には第2外側電極572の周囲の被測定ガス中のNOxが還元されて生じる酸素濃度に基づく起電力Veが生じる。従って、起電力Veも、被測定ガス中の特定ガス濃度に対応した値になる。
【0089】
そのため、第2特定濃度検出部612Bは、起電力取得部512から取得した起電力Veと、第2対応関係620Bと、に基づいて特定ガス濃度を検出する。検出した第2特定ガス濃度は、例えば入出力部604を介して記憶部602に記憶される。
【0090】
特定濃度決定部614は、記憶部602に記憶された第1特定ガス濃度と第2特定ガス濃度とから予め設定されたアルゴリズムに従って、特定ガス濃度を決定する。特定濃度決定部614は、例えば第1特定ガス濃度を特定ガス濃度とする、あるいは第2特定ガス濃度を特定ガス濃度とする。
【0091】
異常判定部616は、第1特定濃度検出部612A及び第2特定濃度検出部612Bで検出された第1特定ガス濃度及び第2特定ガス濃度の異常の有無を判定する。異常判定部616は、例えば第1特定濃度検出部612A及び第2特定濃度検出部612Bでの処理を1回実行する毎に、異常判定処理を行う。異常判定部616は、先ず、記憶部602に記憶されたポンプ電流Ipに基づく特定ガス濃度と、起電力Veに基づく特定ガス濃度と、をそれぞれ取得する。
【0092】
異常判定部616は、取得した第1特定ガス濃度と第2特定ガス濃度との相違に基づいて、これらの値の少なくとも一方に異常があるか否かを判定する。異常判定部616は、例えば取得した2つの特定ガス濃度の差又は比が所定の閾値より大きい場合に、異常があると判定する。異常判定部616は、異常があると判定すると、特定ガス濃度の値に異常があることを作業者に報知する。例えば表示操作部522に表示信号を出力して、作業者に異常を報知する。これにより、作業者は、今回検出された試験用ガス中の特定ガス濃度の値が正しくない可能性を知ることができる。その後、作業者は、必要に応じて基準センサ500の特定ガス濃度の検出精度を確認し、また、基準センサ500の校正を行う。制御装置520は、作業者に異常を報知すると、特定ガス濃度検出処理を終了する。
【0093】
制御装置520は、特定ガス濃度を検出すると、検出された特定ガス濃度の値を出力する。例えば、制御装置520は、記憶部602に値を出力して記憶させたり、表示操作部522に値を出力して作業者に値を表示させたりする。制御装置520は、異常がなかった場合に、検出された特定ガス濃度の値を出力し、異常があった場合には、特定ガス濃度の値を出力しないようにしてもよい。制御装置520は、異常がなく、検出された特定ガス濃度の値を出力した場合には、特定ガス濃度検出処理を終了する。
【0094】
ここで、試験用ガスは、例えば内燃機関の排ガスと異なり、特定ガス濃度が安定している。そのため、制御装置520は、特定ガス濃度検出処理を少なくとも1回行えばよい。また、制御装置520は、特定ガス濃度検出処理を所定回数実行する毎又は所定時間経過毎等において、所定の異常判定で行ってもよい。但し、制御装置520は、1回の特定ガス濃度検出処理において、異常判定を少なくとも1回行うことが好ましく、特定ガス濃度検出を行う毎に異常判定を行うことがより好ましい。
【0095】
基準センサ500は、酸素とNOxとの一方しか含まない試験用ガスを被測定ガスとして想定しているため、酸素とNOxとの分離を行う必要がない。このことを利用して、基準センサ500では、複数のフィードバック制御を行わず、単に一定の制御電圧Vpをポンプセル560に印加してポンプ電流Ipを流すようにしている。そのため、基準センサ500では、フィードバック制御の不安定さに起因する検出精度の低下は生じない。また、基準センサ500では、ポンプ電流Ipが限界電流となるような値として、制御電圧Vpが定められている。
【0096】
ここで、図12は、制御電圧Vpとポンプ電流Ipとの関係を示す説明図である。例えば、ポンプ電流Ipが限界電流(図12の値b)となるように制御電圧Vpの値(図12の値a)を適切に定めておけば、ポンプ電流Ipは被測定ガス流通部が付与する拡散抵抗及び特定ガス濃度に基づく値となる。
【0097】
また、使用に伴って基準センサ500の第1外側電極570及び測定電極556の貴金属が酸化して触媒活性が変化した場合を考える。この場合、制御電圧Vpとポンプ電流Ipとの関係は、図12の一点鎖線のようにポンプ電流Ipが限界電流になるまでの立ち上がり部分は変化するが、限界電流の値(図12では値b)自体は変化しにくい。
【0098】
そのため、このように安定してポンプ電流Ipが限界電流になるような範囲(例えば図12の領域R)内で制御電圧Vpを定めておけば、基準センサ500の使用に伴ってポンプ電流Ipが特定ガス濃度に対応する正しい値からずれにくい。
【0099】
以上のように、基準センサ500では、ポンプセル560の制御にフィードバック制御を用いていないこと、及びポンプ電流Ipが限界電流になるように制御電圧Vpを定めていることにより、特定ガス濃度に精度良く対応するポンプ電流Ipを得ることができる。
【0100】
[第2実施例]
以下に、ガスセンサを具体的に作製した例を実施例として説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0101】
先ず、モデルガス生成手段として、図2に示すように、本実施形態に係るモデルガス生成装置102を使用した。
【0102】
[実施例2]
実施例2として、チャンバ100(図2参照)に1本の基準センサ500を装着した。基準センサ500は、以下のようにして作製した。すなわち、図7図10A及び図11Aに示したセンサ素子502を作製し、図9に示すようにセンサ素子502及び制御装置520と、ポンプ電源504及びヒータ電源514と、ポンプ電流取得部510、起電力取得部512、ヒータ電流取得部516及びヒータ電圧取得部518と、表示操作部522とを接続して基準センサ500を作製した。
【0103】
センサ素子502は、以下のように作製した。先ず、安定化剤のイットリアを4mol%添加したジルコニア粒子と有機バインダーと分散剤と可塑剤と有機溶剤とを混合してテープ成形により成形したセラミックスグリーンシートを6枚用意した。このグリーンシートには印刷時や積層時の位置決めに用いるシート孔、内部空所554及び基準ガス導入空間558に対応する孔、スルーホール584等を予め複数形成しておいた。また、各々のグリーンシートには各電極やヒータ部564を形成するためのペーストのパターンを印刷した。そして、6枚のグリーンシートを所定の順序に積層して、所定の温度・圧力条件を加えることで圧着させた。こうして得られた圧着体からセンサ素子502の大きさの未焼成積層体を切り出した。そして、切り出した未焼成積層体を、焼成して、センサ素子502を得た。第1外側電極570、第2外側電極572、測定電極556及び基準電極574を形成するための導電性ペーストは、Ptと、ジルコニア粉末と、バインダーとを混合することによって作製した。
【0104】
[比較例2]
比較例2として、ガス分析計(株式会社ベスト測器製、Bex-1003NH)を使用した。
【0105】
[評価試験]
実施例2及び比較例2の検出精度を比較した。先ず、ベースガスが窒素であり、NO濃度が既知であり、酸素を含まないガスを用意して、試験用ガスとした。この試験用ガスのNO濃度を、実施例2及び比較例2でそれぞれ100回測定した。実施例2のNO濃度は、ポンプ電流Ipに基づく値とした。毎回の測定のタイミングは、比較例2のガス分析計で定められた校正タイミング(4時間毎)の直前とした。すなわち、比較例2では、時間の経過に伴って適切に校正タイミングで校正を行いつつ、校正を行う直前の最も検出精度が低下しやすいタイミングでの特定ガス濃度の測定を、100回行った。1回の測定に要する時間(試験用ガスを流す時間)は実施例2及び比較例2共に約15分である。また、1回目の測定から100回目の測定までの経過時間は、約850時間である。この850時間のうち、実施例2の基準センサ500が駆動し、試験用ガスに晒されていた時間は、約15分×100回=約25時間である。比較例2についても同様である。
【0106】
図13は、試験用ガスの実濃度(NO濃度:500ppm)を、実施例2のガスセンサが検出した測定回数毎のNO濃度(「×」参照)と、比較例2のガスセンサが検出した測定回数毎のNO濃度(「---」参照)との関係を示すグラフである。図14は、図13の結果に基づく、実施例2の測定ばらつき(「×」参照)と、比較例2の測定ばらつき(「---」参照)との関係を示すグラフである。
【0107】
図13及び図14に示すように、比較例2は、実施例2と比して、全般的に測定ばらつきが大きく、最大値が506.9、最小値が494.1、二乗平均平方根が約2.32であった。これに対して、実施例2は、全般的に測定ばらつきが小さく、最大値が501.3、最小値が498.7、二乗平均平方根が約0.71であり、全般的に測定ばらつきが小さかった。
【0108】
図13及び図14並びに上述した事項から、実施例2は、比較例2と比べて、測定回数1~100回のいずれの測定期間においても、実濃度(500ppm)からのずれ割合が小さかった。すなわち、実施例2は、最大値、最小値、二乗平均平方根のいずれも、比較例2と比べて0%に近かった。実施例2の基準センサ500は、比較例2のガス分析計と比べて常に検出精度が高い傾向にあった。また、比較例2の実濃度からのずれ割合は、上述した通り、定期的な校正を行う場合の校正直前の状態での値であり、定期的な校正を行っていても、この程度の検出精度の低下はあり得ることがわかる。これに対し、実施例2の基準センサ500は、100回の測定期間中には校正を行っていないにも関わらず、比較例2(ガス分析計の校正直前の状態)よりも検出精度が高い傾向にあった。また、実施例2の基準センサ500では、測定回数が増えることによる検出精度の低下はみられず、長期に亘って測定精度が維持されていた。
【0109】
[実施の形態から得られる発明]
上記実施の形態から把握しうる発明について、以下に記載する。
【0110】
[1] 本実施形態に係るガスセンサの検査装置10は、少なくとも1つのセンサ素子14が装着されるチャンバ100と、チャンバ100に所定の検査用ガスを供給するガス供給手段102と、を有し、ガス供給手段102は、複数のガス供給源(104A、104B、104C)と、各ガス供給源(104A、104B、104C)に対応して接続された複数の開閉器(第1開閉器106a~106d、第2開閉器108a~108d、第3開閉器110a~110d)と、各ガス供給源(104A、104B、104C)に対応して接続され、それぞれ流量が異なる複数の流量固定ノズル(第1流量固定ノズル112a~112d、第2流量固定ノズル114a~114d、第3流量固定ノズル116a~116d)と、複数の流量固定ノズルからの複数種のガスを混合する混合器120と、を有する。
【0111】
従来、モデルガス生成装置は、複数のガスを、それぞれの配管に繋いだ流量調整器(例えばマスフローコントローラ)のバランスを調整して任意の濃度の混合ガスを作るようにしていた。しかし、混合ガスのガス濃度のばらつきは、流量調整器の精度に依存し、流量調整器は流量を可変するため、制御誤差も乗るという問題があった。
【0112】
これに対して、本実施形態に係る検査装置10は、流量制御の際に誤差が生じる流量調整器に代えて、それぞれ流量が異なる複数の流量固定ノズルを使用し、さらに、複数の流量固定ノズルに対して選択的にガスを供給する開閉器を接続するようにしている。その結果、流量固定ノズルを通過する際の精度誤差は小さく、精度上のばらつきはほとんどない。また、それぞれ流量が異なる複数の流量固定ノズルを使用するため、適宜組み合わせることで、任意のガス濃度に混合することができる。
【0113】
[2] 本実施形態において、各ガス供給源(104A、104B、104C)に対応して、複数の開閉器(第1開閉器106a~106d、第2開閉器108a~108d、第3開閉器110a~110d)の後段に複数の流量固定ノズル(第1流量固定ノズル112a~112d、第2流量固定ノズル114a~114d、第3流量固定ノズル116a~116d)が接続されている。
【0114】
これにより、ガス供給源からのガスを必要な流量固定ノズルのみに供給することができるため、ガス供給の効率化を図ることができる。なお、例えば各流量固定ノズルの後段にそれぞれ開閉弁を設置した場合、すべての流量固定ノズルにガスが供給された後に、閉動作された開閉弁のみを通じて後段に流れるため、ガスを余分に流す必要があり、効率的ではない。
【0115】
[3] 本実施形態において、混合器120とチャンバ100との間に接続された流量固定ノズル122を有する。これにより、混合器120から出力されるガスの流量を、一旦、流量固定ノズル122にて固定することができるため、チャンバ100に供給される検査用ガスの濃度安定化を迅速にすることができる。
【0116】
[4] 本実施形態において、流量固定ノズルが臨界ノズルである。流量固定ノズルとして、臨界ノズルを使用することで、高い流量精度を得ることができる。
【0117】
[5] 本実施形態に係るガスセンサの検査方法は、少なくとも1つのセンサ素子14が装着されるチャンバ100に所定の検査用ガスを供給してガスセンサ12の検査を実施するガスセンサの検査方法において、複数のガス供給源(104A、104B、104C)からそれぞれ出力された複数のガスを、各ガス供給源(104A、104B、104C)に対応して接続された複数の開閉器(第1開閉器106a~106d、第2開閉器108a~108d、第3開閉器110a~110d)に送るステップと、複数の開閉器からの複数のガスを、各ガス供給源(104A、104B、104C)に対応して接続され、それぞれ流量が異なる複数の流量固定ノズル(第1流量固定ノズル112a~112d、第2流量固定ノズル114a~114d、第3流量固定ノズル116a~116d)に送るステップと、複数の流量固定ノズルからの複数のガスを混合器120で混合するステップと、混合器120からの混合ガスをチャンバ100に供給するステップとを有する。
【0118】
[6] 本実施形態において、混合器120からの混合ガスを1つの流量固定ノズル122に送るステップと、1つの流量固定ノズル122からの混合ガスをチャンバ100に送るステップとを有する。
【0119】
[7] 本実施形態において、上述した流量固定ノズル122がそれぞれ臨界ノズルである。臨界ノズルは、それぞれ個別の流量(ガス濃度)となるように、管内の絞り部分が加工されているため、高い流量精度を得ることができる。
【0120】
ところで、NOxセンサ、Oセンサの製造工程では製品の感度の性能を検査するための工程があり、検査のためのガス濃度を担保するためには基準が必要である。基準にはガス分析計や標準NOxセンサが使われる。その原理は、赤外線吸収法(NDIR/FTIR)、化学発光法(CLD)を利用した装置がある。
【0121】
一般に、測定精度を維持するために、スパンガス(基準ガス)を用いて数時間毎のキャリブレーションをしながら運用する必要がある。また、NOxセンサ、Oセンサを使った計測器を基準とすることもある。これらセンサの電極には白金及び白金に微量な物質を添加した触媒金属が使われる。例えばNOxセンサの場合、触媒電極は触媒反応を使ってOとNに分解し、そのO濃度からNO濃度を測定している。触媒性電極の電極材料として使われているPtやRhがOに曝されると、PtO、PtOやRhOが作られ、それらはPtやRhに比べ低温で蒸発する。また、PtやRhが酸化されると、触媒反応性が悪化し、ガスの分解力が低下し、その結果、センサ感度が低下するため、定期的なキャリブレーションが必要となる。
【0122】
また、センサは、温度コントロールが重要であるが、センサのヒータ部にはヒータ駆動のための2端子か、さらにヒータのリード部の電圧降下をモニタするための1端子を追加した3端子が使われている。しかし、センサ検出部とセンサコントローラ部のコネクタ部の接点抵抗等の影響を受け、温度制御の狂いや、センサ素子の温度が変化し、その結果、センサの出力がばらつくことがある。
【0123】
さらに、従来のNOxセンサは数100~約10ppmの濃度測定を実現するためには、3つの空室を持ち、第1の部屋でNOの分離、測定部である第3空室は10e-9以下の低濃度にする必要がある。そのため、第2、第3室の空室濃度相当の電圧V1、V2及び第2室から汲み出す電流Ip1の3つのパラメータを同時に一定制御する必要がある。しかし、その制御がずれると、最終出力である電流Ip2の大きさが変化し、その結果、センサのNO出力がばらつくことがある。
【0124】
これらの問題を解決するために、下記[8]以降の構成を採用することが好ましい。
【0125】
[8] すなわち、本実施形態において、上述したガスセンサの検査装置10に使用され、酸素及びNOxのいずれか一方を特定ガスとし、他方を含まず該特定ガスとベースガスとを含む試験用ガスを被測定ガスとして、該被測定ガス中の該特定ガスの濃度である特定ガス濃度を検出する基準センサ500であって、酸素イオン伝導性の固体電解質からなる構造体542を有するセンサ素子502と、センサ素子502へのガスの導入部に拡散を律速させるための拡散律速部552と、構造体542に形成され、被測定ガスが導入されるガス導入口550と、ガス導入口550に連通した主空室(内部空所554)と、被測定ガスと接触するように構造体542の外側に配設され、触媒活性を有する貴金属を含む第1外側電極570と、被測定ガスと接触するように構造体542の外側に配設され、触媒活性を有する貴金属を含む第2外側電極572と、主空室554の内部に配設され、触媒活性を有する貴金属を含む測定電極556と、構造体542に形成され、基準ガスが導入される基準ガス導入空間558と、基準ガス導入空間558に形成された基準電極574と、第1外側電極570と測定電極556間への一定電圧Vpの印加によって、第1外側電極570と測定電極556間に流れる限界電流Ipに基づいて特定ガスの濃度を検出する第1特定濃度検出部612Aと、第2外側電極572と基準電極574との間の濃度差によるネルンスト起電力に基づいて特定ガスの濃度を検出する第2特定濃度検出部612Bと、を有する。
【0126】
すなわち、以下の(1)~(3)を採用する。
(1)触媒の反応性の変化を受けない測定原理を使う。
(2)ヒータを正確に制御するために、コネクタ等、接触抵抗の影響を受けない接続法を使う。
(3)複雑な制御を使わない。
【0127】
上記(1)は、センサ素子502のガス導入部に拡散を律速させるための拡散層を設け、限界電流特性を使い、検出部に固定の電圧Vpを印加したときの電流Ipを測定する。その電流Ipは、拡散抵抗とのみ関係があるため、触媒劣化による反応抵抗の影響を受けにくい。
【0128】
上記(2)は、ヒータを正確に制御するために、電流端子と電圧端子を分けた4端子を使う(図8参照)。電圧端子には電流が流れないため、コネクタ部の接触抵抗の影響を受けずに測定できるため、ヒータ部分の電圧を正確に把握することができる。これにより、正確な温度制御を実施することができる。
【0129】
上記(3)は、一定電圧Vpを印加するだけの最小の制御とすることで、制御不安定による出力ばらつきをなくすことができる。
【0130】
[9] 本実施形態において、第1特定濃度検出部612Aの出力と、第2特定濃度検出部612Bの出力をモニタして、異常の有無をモニタする自己診断部(異常判定部616)を有する。例えば第1特定濃度検出部612Aの出力と第2特定濃度検出部612Bの出力との差が、予め設定した正常範囲を超えている場合に、異常が起こったとして知らせることができる。
【0131】
[10] 本実施形態において、構造体542に形成されたヒータ部564を有し、ヒータ部564は、2つの通電用リード582a、582bと、2つの電圧測定用リード582c、582dとを有する。すなわち、電流端子と電圧端子を分けた4端子を使う。電圧端子には電流が流れないため、コネクタ部の接触抵抗の影響を受けずに測定できるため、ヒータ部分の電圧を正確に把握することができ、正確な温度制御を行うことができる。
【0132】
[11] 本実施形態において、第2外側電極572は、第1外側電極570よりも面積が小さい。ここで、第2外側電極572は、起電力Veの測定に用いられ、電流はほとんど流れないため、面積を小さくしても貴金属の酸化や揮発による触媒活性の変化が生じにくい。面積を小さくすることで、第2外側電極572内の温度分布が生じにくい、すなわち、第2外側電極572の内部で温度が均一化しやすいから、起電力Veと特定ガス濃度との対応関係が変化しにくい。従って、特定ガス濃度の検出精度が低下しにくい効果と、検出された特定ガス濃度の異常判定の精度が高まる効果との少なくとも一方の効果を得ることができる。ここで、第1外側電極570の面積は、構造体542のうち第1外側電極570が配設された面に垂直な方向から見たときの面積とする。第2外側電極572の面積は、構造体542のうち第2外側電極572が配設された面に垂直な方向から見たときの面積とする。
【0133】
[12] 本実施形態において、第1外側電極570と第2外側電極572は、この順番で、構造体542の奥行方向に配列されてもよい。
【0134】
[13] 本実施形態において、第1外側電極570は、第2外側電極572と対向する部分に凹部576を有し、第2外側電極572は、凹部576内に形成されている。第1外側電極570と第2外側電極572とが互いに近い位置に配設されて互いの温度差が生じにくい。従って、検出された特定ガス濃度の異常判定の精度が高まる。
【0135】
[14] 本実施形態において、第1外側電極570と第2外側電極572は、構造体542の幅方向に配列されている。この場合も、第1外側電極570と第2外側電極572との間に温度差が生じにくい。従って、検出された特定ガス濃度の異常判定の精度が高まる。
【0136】
[15] 本実施形態において、拡散律速部552は、ガス導入口550の上部と対向する部分並びに下部と対向する部分にそれぞれスリットを有する。すなわち、ガス導入口550の上部に形成されたスリットと、ガス導入口550の下部に形成されたスリットにて拡散律速部552を構成することができる。
【0137】
[16] 本実施形態において、拡散律速部552aは、多孔質層にて構成されている。この場合、拡散律速部552aの前面がガス導入口550を構成する。
【0138】
本発明についての好適な実施形態を上述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能である。
【0139】
なお、本発明の実施に当たっては、本発明の思想を損なわない範囲で自動車用部品としての信頼性向上のための諸手段が付加されてもよい。
【符号の説明】
【0140】
10…検査装置 12…ガスセンサ
14…センサ素子 100…チャンバ
102…ガス供給手段(モデルガス生成装置)
104A…第1ガス供給源 104B…第2ガス供給源
104C…第3ガス供給源 106a~106d…第1開閉器
108a~108d…第2開閉器 110a~110d…第3開閉器
112a~112d…第1流量固定ノズル
114a~114d…第2流量固定ノズル
116a~116d…第3流量固定ノズル
120…混合器 122…流量固定ノズル
500…基準センサ 502…センサ素子
504…ポンプ電源 510…ポンプ電流取得部
512…起電力取得部 514…ヒータ電源
516…ヒータ電流取得部 518…ヒータ電圧取得部
520…制御装置 522…表示操作部
530…第1基板層 532…第2基板層
534…第3基板層 536…第1固体電解質層
538…スペーサ層 540…第2固体電解質層
542…構造体 550…ガス導入口
552…拡散律速部 552a…拡散律速部
554…内部空所(主空室) 556…測定電極
558…基準ガス導入空間 560…ポンプセル
562…センサセル 564…ヒータ部
570…第1外側電極 572…第2外側電極
574…基準電極 576…凹部
580…ヒータ 582…リード部
582a、582b…通電用リード 582c、582d…電圧測定用リード
584…スルーホール
590、590a~590d…ヒータコネクタ電極
592…ヒータ絶縁層 600…演算部
602…記憶部 604…入出力部
610…ガスセンサ制御部 612A…第1特定濃度検出部
612B…第2特定濃度検出部 614…特定濃度決定部
616…異常判定部 620A…第1対応関係
620B…第2対応関係
Ih…ヒータ電流 Ip…ポンプ電流
Ve…起電力 Vh…ヒータ電圧
Vp…制御電圧
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14