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特許7379248多孔質セラミック構造体および多孔質セラミック構造体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】多孔質セラミック構造体および多孔質セラミック構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 38/06 20060101AFI20231107BHJP
   B01J 23/83 20060101ALI20231107BHJP
   B01J 35/04 20060101ALI20231107BHJP
   C04B 35/195 20060101ALI20231107BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20231107BHJP
【FI】
C04B38/06 D
B01J23/83 A
B01J35/04 301P
C04B35/195
F01N3/28 301P
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020057683
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021155277
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【弁理士】
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】泉 有仁枝
(72)【発明者】
【氏名】日高 憲一
(72)【発明者】
【氏名】三浦 晃弘
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-030105(JP,A)
【文献】特開2002-121085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84,38/00-38/10
B01J 35/04、23/83
F01N 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質セラミック構造体であって、
主成分がコージェライトである多孔質の構造体本体と、
前記構造体本体に固定されたセリウム含有粒子と、
鉄、マンガンおよびコバルトのうち少なくとも1種を含むスピネル型構造を有する酸化物の粒子であり、前記構造体本体の気孔の内部に固定された金属酸化物粒子と、
を備え、
前記金属酸化物粒子は、
前記構造体本体の内部に位置する固定部と、
前記固定部に連続するとともに前記気孔内に突出する突出部と、
を備え、
前記多孔質セラミック構造体において、
鉄が含まれる場合の鉄の含有率は、Fe換算で1.5質量%以上かつ3.0質量%以下であり、
マンガンが含まれる場合のマンガンの含有率は、Mn換算で1.5質量%以上かつ3.0質量%以下であり、
鉄またはマンガンと共にコバルトが含まれる場合のコバルトの含有率は、Co換算で1.5質量%以上かつ3.0質量%以下であり、
鉄およびマンガンは含まれずコバルトが含まれる場合のコバルトの含有率は、Co換算で3.0質量%以上かつ6.0質量%以下であり、
セリウムの含有率は、CeO換算で1.5質量%以上かつ4.5質量%以下であり、
CeO換算でのセリウムの含有率に対する、Fe換算での鉄の含有率とMn換算でのマンガンの含有率とCo換算でのコバルトの含有率との和の割合は、1.0以上かつ4.0以下であり、
前記金属酸化物粒子の含有率は、0.3質量%以上かつ8.0質量%以下であることを特徴とする多孔質セラミック構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の多孔質セラミック構造体であって、
前記金属酸化物粒子は、鉄、マンガンおよび酸素を含むスピネル型構造を有する酸化物の粒子、または、コバルトおよび酸素を含むスピネル型構造を有する酸化物の粒子であることを特徴とする多孔質セラミック構造体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の多孔質セラミック構造体であって、
前記金属酸化物粒子の平均粒径は、10nm以上かつ1μm以下であることを特徴とする多孔質セラミック構造体。
【請求項4】
請求項1ないしのいずれか1つに記載の多孔質セラミック構造体であって、
ディーゼルエンジンから排出される排ガス中の粒子状物質を捕集するディーゼル・パティキュレート・フィルタに使用されることを特徴とする多孔質セラミック構造体。
【請求項5】
多孔質セラミック構造体の製造方法であって、
a)原料を混練して坏土を調製する工程と、
b)前記坏土を成形して成形体を得る工程と、
c)前記成形体を焼成する工程と、
を備え、
前記原料は、
コージェライトと、
セリウムと、
鉄、マンガンおよびコバルトのうち少なくとも1種と、
を含み、
前記c)工程により、主成分がコージェライトである多孔質の構造体本体と、前記構造体本体に固定されたセリウム含有粒子と、鉄、マンガンおよびコバルトのうち少なくとも1種を含むスピネル型構造を有する酸化物の粒子であり、前記構造体本体の気孔の内部に固定された金属酸化物粒子と、を備える多孔質セラミック構造体が形成され、
前記多孔質セラミック構造体において、
鉄が含まれる場合の鉄の含有率は、Fe 換算で1.5質量%以上かつ3.0質量%以下であり、
マンガンが含まれる場合のマンガンの含有率は、Mn 換算で1.5質量%以上かつ3.0質量%以下であり、
鉄またはマンガンと共にコバルトが含まれる場合のコバルトの含有率は、Co 換算で1.5質量%以上かつ3.0質量%以下であり、
鉄およびマンガンは含まれずコバルトが含まれる場合のコバルトの含有率は、Co 換算で3.0質量%以上かつ6.0質量%以下であり、
セリウムの含有率は、CeO 換算で1.5質量%以上かつ4.5質量%以下であり、
CeO 換算でのセリウムの含有率に対する、Fe 換算での鉄の含有率とMn 換算でのマンガンの含有率とCo 換算でのコバルトの含有率との和の割合は、1.0以上かつ4.0以下であり、
前記多孔質セラミック構造体は、ZnO換算で0.03質量%以上かつ2.5質量%以下の亜鉛を含み、
前記c)工程は、
c1)前記成形体を、液相生成温度以下の第1温度まで昇温する工程と、
c2)前記成形体を、前記第1温度から、前記液相生成温度よりも高くかつ前記金属酸化物粒子の結晶化温度未満の第2温度まで昇温する工程と、
c3)前記成形体を、前記第2温度から、前記結晶化温度よりも高くかつ最高温度以下の第3温度まで昇温する工程と、
c4)前記成形体を前記最高温度にて所定時間維持する工程と、
を備え、
前記c2)工程における昇温速度は、100℃/h以上かつ200℃/h以下であることを特徴とする多孔質セラミック構造体の製造方法。
【請求項6】
請求項に記載の多孔質セラミック構造体の製造方法であって、
前記c3)工程における昇温速度は、100℃/h以上かつ200℃/h以下であることを特徴とする多孔質セラミック構造体の製造方法。
【請求項7】
多孔質セラミック構造体の製造方法であって、
a)原料を混練して坏土を調製する工程と、
b)前記坏土を成形して成形体を得る工程と、
c)前記成形体を焼成する工程と、
を備え、
前記原料は、
コージェライトと、
セリウムと、
鉄、マンガンおよびコバルトのうち少なくとも1種と、
を含み、
前記c)工程により、主成分がコージェライトである多孔質の構造体本体と、前記構造体本体に固定されたセリウム含有粒子と、鉄、マンガンおよびコバルトのうち少なくとも1種を含むスピネル型構造を有する酸化物の粒子であり、前記構造体本体の気孔の内部に固定された金属酸化物粒子と、を備える多孔質セラミック構造体が形成され、
前記多孔質セラミック構造体において、
鉄が含まれる場合の鉄の含有率は、Fe 換算で1.5質量%以上かつ3.0質量%以下であり、
マンガンが含まれる場合のマンガンの含有率は、Mn 換算で1.5質量%以上かつ3.0質量%以下であり、
鉄またはマンガンと共にコバルトが含まれる場合のコバルトの含有率は、Co 換算で1.5質量%以上かつ3.0質量%以下であり、
鉄およびマンガンは含まれずコバルトが含まれる場合のコバルトの含有率は、Co 換算で3.0質量%以上かつ6.0質量%以下であり、
セリウムの含有率は、CeO 換算で1.5質量%以上かつ4.5質量%以下であり、
CeO 換算でのセリウムの含有率に対する、Fe 換算での鉄の含有率とMn 換算でのマンガンの含有率とCo 換算でのコバルトの含有率との和の割合は、1.0以上かつ4.0以下であり、
前記多孔質セラミック構造体は、ZnO換算で0.03質量%以上かつ2.5質量%以下の亜鉛を含み、
前記c)工程は、
c1)前記成形体を、液相生成温度以下の第1温度まで昇温する工程と、
c2)前記成形体を、前記第1温度から、前記液相生成温度よりも高くかつ前記金属酸化物粒子の結晶化温度未満の第2温度まで昇温する工程と、
c3)前記成形体を、前記第2温度から、前記結晶化温度よりも高くかつ最高温度以下の第3温度まで昇温する工程と、
c4)前記成形体を前記最高温度にて所定時間維持する工程と、
を備え、
前記c2)工程における昇温速度は、1℃/h以上かつ10℃/h以下であることを特徴とする多孔質セラミック構造体の製造方法。
【請求項8】
請求項ないしのいずれか1つに記載の多孔質セラミック構造体の製造方法であって、
前記c3)工程において、前記成形体が前記結晶化温度にて所定時間維持されることを特徴とする多孔質セラミック構造体の製造方法。
【請求項9】
多孔質セラミック構造体の製造方法であって、
a)原料を混練して坏土を調製する工程と、
b)前記坏土を成形して成形体を得る工程と、
c)前記成形体を焼成する工程と、
を備え、
前記原料は、
コージェライトと、
セリウムと、
鉄、マンガンおよびコバルトのうち少なくとも1種と、
を含み、
前記c)工程により、主成分がコージェライトである多孔質の構造体本体と、前記構造体本体に固定されたセリウム含有粒子と、鉄、マンガンおよびコバルトのうち少なくとも1種を含むスピネル型構造を有する酸化物の粒子であり、前記構造体本体の気孔の内部に固定された金属酸化物粒子と、を備える多孔質セラミック構造体が形成され、
前記多孔質セラミック構造体において、
鉄が含まれる場合の鉄の含有率は、Fe 換算で1.5質量%以上かつ3.0質量%以下であり、
マンガンが含まれる場合のマンガンの含有率は、Mn 換算で1.5質量%以上かつ3.0質量%以下であり、
鉄またはマンガンと共にコバルトが含まれる場合のコバルトの含有率は、Co 換算で1.5質量%以上かつ3.0質量%以下であり、
鉄およびマンガンは含まれずコバルトが含まれる場合のコバルトの含有率は、Co 換算で3.0質量%以上かつ6.0質量%以下であり、
セリウムの含有率は、CeO 換算で1.5質量%以上かつ4.5質量%以下であり、
CeO 換算でのセリウムの含有率に対する、Fe 換算での鉄の含有率とMn 換算でのマンガンの含有率とCo 換算でのコバルトの含有率との和の割合は、1.0以上かつ4.0以下であり、
前記多孔質セラミック構造体は、ZnO換算で0.03質量%以上かつ2.5質量%以下の亜鉛を含み、
前記c)工程は、
c1)前記成形体を、液相生成温度以下の第1温度まで昇温する工程と、
c2)前記成形体を、前記第1温度から、前記液相生成温度よりも高くかつ前記金属酸化物粒子の結晶化温度未満の第2温度まで昇温する工程と、
c3)前記成形体を、前記第2温度から、前記結晶化温度よりも高くかつ最高温度以下の第3温度まで昇温する工程と、
c4)前記成形体を前記最高温度にて所定時間維持する工程と、
を備え、
前記c3)工程において、前記成形体が前記結晶化温度にて所定時間維持されることを特徴とする多孔質セラミック構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質セラミック構造体および多孔質セラミック構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、鉄およびマンガンを含む遷移金属酸化物を、表面または内部に備える二酸化セリウム粒子が提案されている。このような二酸化セリウム粒子は、例えば、DOC(Diesel Oxidation Catalyst)およびCSF(Catalyzed Soot Filter)を含むDPF(Diesel Particulate Filter)において、酸化触媒として利用することが想定されている。
【0003】
特許文献2および特許文献3では、DPF等に使用される多孔質セラミック構造体において、触媒活性を維持するために十分な量の触媒を担持可能とする技術が提案されている。当該多孔質セラミック構造体では、二酸化セリウム粒子の一部が構造体内部に取り込まれ、他の一部が構造体の気孔表面に露出している。特許文献2の多孔質セラミック構造体では、二酸化セリウム粒子のうち気孔表面に露出している部位が鉄酸化物を備える。特許文献3の多孔質セラミック構造体では、二酸化セリウム粒子のうち気孔表面に露出している部位に、白金族元素の触媒微粒子が担持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-186220号公報
【文献】特開2018-30105号公報
【文献】特開2017-171543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
DPF等に使用される多孔質セラミック構造体では、圧力損失の低減、および、触媒能の増大の両立が求められている。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、圧力損失が低く、高い触媒能を有する多孔質セラミック構造体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の好ましい一の形態に係る多孔質セラミック構造体は、主成分がコージェライトである多孔質の構造体本体と、前記構造体本体に固定されたセリウム含有粒子と、鉄、マンガンおよびコバルトのうち少なくとも1種を含むスピネル型構造を有する酸化物の粒子であり、前記構造体本体の気孔の内部に固定された金属酸化物粒子と、を備える。前記金属酸化物粒子は、前記構造体本体の内部に位置する固定部と、前記固定部に連続するとともに前記気孔内に突出する突出部と、を備える。前記多孔質セラミック構造体において、鉄が含まれる場合の鉄の含有率は、Fe換算で1.5質量%以上かつ3.0質量%以下であり、マンガンが含まれる場合のマンガンの含有率は、Mn換算で1.5質量%以上かつ3.0質量%以下であり、鉄またはマンガンと共にコバルトが含まれる場合のコバルトの含有率は、Co換算で1.5質量%以上かつ3.0質量%以下であり、鉄およびマンガンは含まれずコバルトが含まれる場合のコバルトの含有率は、Co換算で3.0質量%以上かつ6.0質量%以下であり、セリウムの含有率は、CeO換算で1.5質量%以上かつ4.5質量%以下である。CeO換算でのセリウムの含有率に対する、Fe換算での鉄の含有率とMn換算でのマンガンの含有率とCo換算でのコバルトの含有率との和の割合は、1.0以上かつ4.0以下である。前記金属酸化物粒子の含有率は、0.3質量%以上かつ8.0質量%以下である。
【0008】
換言すれば、本発明の好ましい一の形態に係る多孔質セラミック構造体は、主成分がコージェライトである多孔質の構造体本体と、前記構造体本体に固定されたセリウム含有粒子と、鉄、マンガンおよびコバルトのうち少なくとも鉄またはマンガンを含むスピネル型構造を有する酸化物の粒子であり、前記構造体本体の気孔の内部に固定された金属酸化物粒子と、を備える。前記金属酸化物粒子は、前記構造体本体の内部に位置する固定部と、前記固定部に連続するとともに前記気孔内に突出する突出部と、を備える。前記多孔質セラミック構造体において、鉄が含まれる場合の鉄の含有率は、Fe換算で1.5質量%以上かつ3.0質量%以下であり、マンガンが含まれる場合のマンガンの含有率は、Mn換算で1.5質量%以上かつ3.0質量%以下であり、コバルトが含まれる場合のコバルトの含有率は、Co換算で1.5質量%以上かつ3.0質量%以下であり、セリウムの含有率は、CeO換算で1.5質量%以上かつ4.5質量%以下である。CeO換算でのセリウムの含有率に対する、Fe換算での鉄の含有率とMn換算でのマンガンの含有率とCo換算でのコバルトの含有率との和の割合は、1.0以上かつ4.0以下である。前記金属酸化物粒子の含有率は、0.3質量%以上かつ8.0質量%以下である。
【0009】
あるいは、本発明の好ましい一の形態に係る多孔質セラミック構造体は、主成分がコージェライトである多孔質の構造体本体と、前記構造体本体に固定されたセリウム含有粒子と、コバルトを含むとともに鉄およびマンガンを含まないスピネル型構造を有する酸化物の粒子であり、前記構造体本体の気孔の内部に固定された金属酸化物粒子と、を備える。前記金属酸化物粒子は、前記構造体本体の内部に位置する固定部と、前記固定部に連続するとともに前記気孔内に突出する突出部と、を備える。前記多孔質セラミック構造体において、コバルトの含有率は、Co換算で3.0質量%以上かつ6.0質量%以下であり、セリウムの含有率は、CeO換算で1.5質量%以上かつ4.5質量%以下である。CeO換算でのセリウムの含有率に対するCo換算でのコバルトの含有率の割合は、1.0以上かつ4.0以下である。前記金属酸化物粒子の含有率は、0.3質量%以上かつ8.0質量%以下である。
【0011】
好ましくは、前記金属酸化物粒子は、鉄、マンガンおよび酸素を含むスピネル型構造を有する酸化物の粒子、または、コバルトおよび酸素を含むスピネル型構造を有する酸化物の粒子である。
【0012】
好ましくは、前記金属酸化物粒子の平均粒径は、10nm以上かつ1μm以下である。
【0013】
好ましくは、前記多孔質セラミック構造体は、ディーゼルエンジンから排出される排ガス中の粒子状物質を捕集するディーゼル・パティキュレート・フィルタに使用される。
【0014】
本発明は、多孔質セラミック構造体の製造方法にも向けられている。本発明の好ましい一の形態に係る多孔質セラミック構造体の製造方法は、a)原料を混練して坏土を調製する工程と、b)前記坏土を成形して成形体を得る工程と、c)前記成形体を焼成する工程と、を備える。前記原料は、コージェライトと、セリウムと、鉄、マンガンおよびコバルトのうち少なくとも1種と、を含む。前記c)工程により、主成分がコージェライトである多孔質の構造体本体と、前記構造体本体に固定されたセリウム含有粒子と、鉄、マンガンおよびコバルトのうち少なくとも1種を含むスピネル型構造を有する酸化物の粒子であり、前記構造体本体の気孔の内部に固定された金属酸化物粒子と、を備える多孔質セラミック構造体が形成される。前記多孔質セラミック構造体において、鉄が含まれる場合の鉄の含有率は、Fe 換算で1.5質量%以上かつ3.0質量%以下であり、マンガンが含まれる場合のマンガンの含有率は、Mn 換算で1.5質量%以上かつ3.0質量%以下であり、鉄またはマンガンと共にコバルトが含まれる場合のコバルトの含有率は、Co 換算で1.5質量%以上かつ3.0質量%以下であり、鉄およびマンガンは含まれずコバルトが含まれる場合のコバルトの含有率は、Co 換算で3.0質量%以上かつ6.0質量%以下であり、セリウムの含有率は、CeO 換算で1.5質量%以上かつ4.5質量%以下であり、CeO 換算でのセリウムの含有率に対する、Fe 換算での鉄の含有率とMn 換算でのマンガンの含有率とCo 換算でのコバルトの含有率との和の割合は、1.0以上かつ4.0以下である。前記多孔質セラミック構造体は、ZnO換算で0.03質量%以上かつ2.5質量%以下の亜鉛を含む。前記c)工程は、c1)前記成形体を、液相生成温度以下の第1温度まで昇温する工程と、c2)前記成形体を、前記第1温度から、前記液相生成温度よりも高くかつ前記金属酸化物粒子の結晶化温度未満の第2温度まで昇温する工程と、c3)前記成形体を、前記第2温度から、前記結晶化温度よりも高くかつ最高温度以下の第3温度まで昇温する工程と、c4)前記成形体を前記最高温度にて所定時間維持する工程と、を備える。前記c2)工程における昇温速度は、100℃/h以上かつ200℃/h以下である。
【0015】
好ましくは、前記c3)工程における昇温速度は、100℃/h以上かつ200℃/h以下である。
【0016】
好ましくは、前記c3)工程において、前記成形体が前記結晶化温度にて所定時間維持される。
【0017】
本発明の好ましい他の形態に係る多孔質セラミック構造体の製造方法は、a)原料を混練して坏土を調製する工程と、b)前記坏土を成形して成形体を得る工程と、c)前記成形体を焼成する工程と、を備える。前記原料は、コージェライトと、セリウムと、鉄、マンガンおよびコバルトのうち少なくとも1種と、を含む。前記c)工程により、主成分がコージェライトである多孔質の構造体本体と、前記構造体本体に固定されたセリウム含有粒子と、鉄、マンガンおよびコバルトのうち少なくとも1種を含むスピネル型構造を有する酸化物の粒子であり、前記構造体本体の気孔の内部に固定された金属酸化物粒子と、を備える多孔質セラミック構造体が形成される。前記多孔質セラミック構造体において、鉄が含まれる場合の鉄の含有率は、Fe 換算で1.5質量%以上かつ3.0質量%以下であり、マンガンが含まれる場合のマンガンの含有率は、Mn 換算で1.5質量%以上かつ3.0質量%以下であり、鉄またはマンガンと共にコバルトが含まれる場合のコバルトの含有率は、Co 換算で1.5質量%以上かつ3.0質量%以下であり、鉄およびマンガンは含まれずコバルトが含まれる場合のコバルトの含有率は、Co 換算で3.0質量%以上かつ6.0質量%以下であり、セリウムの含有率は、CeO 換算で1.5質量%以上かつ4.5質量%以下であり、CeO 換算でのセリウムの含有率に対する、Fe 換算での鉄の含有率とMn 換算でのマンガンの含有率とCo 換算でのコバルトの含有率との和の割合は、1.0以上かつ4.0以下である。前記多孔質セラミック構造体は、ZnO換算で0.03質量%以上かつ2.5質量%以下の亜鉛を含む。前記c)工程は、c1)前記成形体を、液相生成温度以下の第1温度まで昇温する工程と、c2)前記成形体を、前記第1温度から、前記液相生成温度よりも高くかつ前記金属酸化物粒子の結晶化温度未満の第2温度まで昇温する工程と、c3)前記成形体を、前記第2温度から、前記結晶化温度よりも高くかつ最高温度以下の第3温度まで昇温する工程と、c4)前記成形体を前記最高温度にて所定時間維持する工程と、を備える。前記c2)工程における昇温速度は、1℃/h以上かつ10℃/h以下である。
【0018】
好ましくは、前記c3)工程において、前記成形体が前記結晶化温度にて所定時間維持される。
【0019】
本発明の好ましい他の形態に係る多孔質セラミック構造体の製造方法は、a)原料を混練して坏土を調製する工程と、b)前記坏土を成形して成形体を得る工程と、c)前記成形体を焼成する工程と、を備える。前記原料は、コージェライトと、セリウムと、鉄、マンガンおよびコバルトのうち少なくとも1種と、を含む。前記c)工程により、主成分がコージェライトである多孔質の構造体本体と、前記構造体本体に固定されたセリウム含有粒子と、鉄、マンガンおよびコバルトのうち少なくとも1種を含むスピネル型構造を有する酸化物の粒子であり、前記構造体本体の気孔の内部に固定された金属酸化物粒子と、を備える多孔質セラミック構造体が形成される。前記多孔質セラミック構造体において、鉄が含まれる場合の鉄の含有率は、Fe 換算で1.5質量%以上かつ3.0質量%以下であり、マンガンが含まれる場合のマンガンの含有率は、Mn 換算で1.5質量%以上かつ3.0質量%以下であり、鉄またはマンガンと共にコバルトが含まれる場合のコバルトの含有率は、Co 換算で1.5質量%以上かつ3.0質量%以下であり、鉄およびマンガンは含まれずコバルトが含まれる場合のコバルトの含有率は、Co 換算で3.0質量%以上かつ6.0質量%以下であり、セリウムの含有率は、CeO 換算で1.5質量%以上かつ4.5質量%以下であり、CeO 換算でのセリウムの含有率に対する、Fe 換算での鉄の含有率とMn 換算でのマンガンの含有率とCo 換算でのコバルトの含有率との和の割合は、1.0以上かつ4.0以下である。前記多孔質セラミック構造体は、ZnO換算で0.03質量%以上かつ2.5質量%以下の亜鉛を含む。前記c)工程は、c1)前記成形体を、液相生成温度以下の第1温度まで昇温する工程と、c2)前記成形体を、前記第1温度から、前記液相生成温度よりも高くかつ前記金属酸化物粒子の結晶化温度未満の第2温度まで昇温する工程と、c3)前記成形体を、前記第2温度から、前記結晶化温度よりも高くかつ最高温度以下の第3温度まで昇温する工程と、c4)前記成形体を前記最高温度にて所定時間維持する工程と、を備える。前記c3)工程において、前記成形体が前記結晶化温度にて所定時間維持される。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、圧力損失が低く、高い触媒能を有する多孔質セラミック構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】排ガス浄化システムの構成を示す図である。
図2】多孔質セラミック構造体を示す図である。
図3】多孔質セラミック構造体を示す断面図である。
図4】隔壁の一部を拡大して示す図である。
図5】ハニカム構造体の細孔の表面を示すSEM画像である。
図6】細孔の表面上の金属酸化物粒子を拡大して示すSEM画像である。
図7】金属酸化物粒子近傍の部位の断面図である。
図8】多孔質セラミック構造体の製造方法の流れを示す図である。
図9】多孔質セラミック構造体の製造方法の流れを示す図である。
図10】焼成工程の温度プロファイルの例を示す図である。
図11】焼成工程の温度プロファイルの例を示す図である。
図12】焼成工程の温度プロファイルの例を示す図である。
図13】焼成工程の温度プロファイルの例を示す図である。
図14】焼成工程の温度プロファイルの例を示す図である。
図15】実施例3の多孔質セラミック構造体の表面を示すSEM画像である。
図16】実施例3の多孔質セラミック構造体の細孔の表面を拡大して示すSEM画像である。
図17】実施例4の多孔質セラミック構造体の表面を示すSEM画像である。
図18】実施例4の多孔質セラミック構造体の細孔の表面を拡大して示すSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、排ガス浄化システム8の構成を示す図である。排ガス浄化システム8は、エンジンから排出される排ガスを浄化するものである。排ガス浄化システム8は、DPF(Diesel Particulate Filter)81と、SCR(Selective Catalytic Reduction)触媒コンバータ85と、尿素噴射器86とを備える。DPF81、尿素噴射器86およびSCR触媒コンバータ85は、排ガスが流れる方向に沿って、この順にて配置される。
【0023】
DPF81は、DOC(Diesel Oxidation Catalyst)82と、CSF(Catalyzed Soot Filter)83とを備える。DOC82は、内部が隔壁により複数のセルに仕切られたハニカム構造体と、当該隔壁に担持された貴金属の酸化触媒とを備える。CSF83は、上記と同様のハニカム構造体と、当該ハニカム構造体の隔壁に担持された金属系の酸化触媒とを備える。CSF83の構造の詳細については後述する。尿素噴射器86は、DPF81とSCR触媒コンバータ85との間における排ガスの経路に設けられる。SCR触媒コンバータ85は、上記と同様のハニカム構造体と、当該ハニカム構造体の隔壁に担持されたSCR触媒とを備える。
【0024】
エンジンから排出された排ガスは、DPF81のDOC82に流入する。排ガスには、一酸化窒素(NO)、酸素(O)、窒素(N)が含まれており、DOC82において、下記式1および式2の反応が起こる。式1の反応では、二酸化窒素(NO)が生成される。なお、下記式2におけるSOF(可溶性有機成分:Soluble Organic Fraction)は、排ガス中のPM(粒子状物質)に含まれるものである。
【0025】
2NO+O=2NO (式1)
【0026】
SOF+O=CO,CO,HO (式2)
【0027】
CSF83では、排ガスに含まれる炭素(スス)が捕集される。また、CSF83では、当該ススとNOとの下記式3、式4および式5の反応(燃焼反応)が起こり、NOからNOが生成される。
【0028】
C(スス)+2NO=CO+2NO (式3)
【0029】
C(スス)+NO=CO+NO (式4)
【0030】
C(スス)+1/2O+NO=CO+NO (式5)
【0031】
尿素噴射器86では、CSF83から排出された排ガスに尿素が混合され、尿素から分解生成されたアンモニア(NH)を含む排ガスがSCR触媒コンバータ85に流入する。SCR触媒コンバータ85では、下記式6、式7および式8の反応が起こることにより、排ガスに含まれるNOxが浄化される。
【0032】
4NO+4NH+O=4N+6HO (式6)
【0033】
NO+NO+2NH=2N+3HO (式7)
【0034】
6NO+8NH=7N+12HO (式8)
【0035】
式7の反応は、Fast SCR反応と呼ばれており、式6および式8の反応よりも反応速度が速い。式7に従って、SCR触媒コンバータ85における反応を効率よく進めるには、SCR触媒コンバータ85に流入するNOの物質量とNOの物質量とが1:1となることが求められる。一方、CSF83では、既述の式3、式4および式5のように、ススの燃焼により多くのNOが消費され、NOが生成される。
【0036】
そこで、本発明に係る排ガス浄化システム8では、CSF83として、酸化触媒を備える多孔質セラミック構造体(後述)が設けられる。当該多孔質セラミック構造体は、一部のNOを酸化してNOを生成する、すなわち、NOをNOに変換する。これにより、SCR触媒コンバータ85に流入するNOの物質量とNOの物質量とを1:1に近づけて、SCR触媒コンバータ85における反応を効率良く進めることが可能となる。
【0037】
また、排ガス浄化システム8では、CSF83に一定量以上のススが堆積した場合、ススの燃焼処理(すなわち、再生処理)が行われる。この場合も、CSF83では、上述の式3、式4および式5の反応(燃焼反応)が起きる。当該反応により発生した一酸化炭素(CO)がSCR触媒コンバータ85に多量に流入すると、SCR触媒コンバータ85におけるNOxの浄化効率が低下するおそれがある。また、ススの燃焼処理の際に、CSF83に供給される燃料に含まれる炭化水素(HC)がSCR触媒コンバータ85に多量に流入した場合も同様である。
【0038】
本発明に係る排ガス浄化システム8では、上述の酸化触媒を備える多孔質セラミック構造体がCSF83として設けられることにより、一部のCOを酸化して二酸化炭素(CO)を生成し、一部のHCを酸化してCOおよびHOを生成する。これにより、SCR触媒コンバータ85へのCOおよびHC等の流入を抑制し、SCR触媒コンバータ85におけるNOxの浄化効率の低下を抑制することが可能となる。
【0039】
図2および図3は、多孔質セラミック構造体1を簡略化して示す図である。多孔質セラミック構造体1は、一方向に長い筒状部材であり、図2では、多孔質セラミック構造体1の長手方向における一方側の端面を示している。図3は、多孔質セラミック構造体1を示す断面図であり、図3では、多孔質セラミック構造体1の長手方向に沿う断面の一部を示している。
【0040】
多孔質セラミック構造体1は、多孔質の構造体本体であるハニカム構造体10と、セリウム含有粒子と、酸化触媒である金属酸化物粒子とを備える。ハニカム構造体10は、筒状外壁11と、隔壁12とを備える。筒状外壁11は、長手方向に延びる筒状である。長手方向に垂直な筒状外壁11の断面形状は、例えば円形であり、多角形等であってもよい。隔壁12は、筒状外壁11の内部に設けられ、当該内部を複数のセル13に仕切る。ハニカム構造体10は、内部が隔壁12により複数のセル13に仕切られたセル構造体である。筒状外壁11および隔壁12は、多孔質材料により形成される。後述するように、排ガスは隔壁12の細孔を通過する。多孔質セラミック構造体1の強度を向上するには、隔壁12の厚さは、例えば、50μm(マイクロメートル)以上であり、好ましくは100μm以上であり、より好ましくは150μm以上である。隔壁12における圧力損失を低減するには、隔壁12の厚さは、例えば500μm以下であり、好ましくは450μm以下である。
【0041】
各セル13は、長手方向に延びる空間である。長手方向に垂直なセル13の断面形状は、例えば多角形(三角形、四角形、五角形、六角形等)であり、円形等であってもよい。複数のセル13は、典型的には同じ断面形状を有する。複数のセル13には、異なる断面形状のセル13が含まれてもよい。多孔質セラミック構造体1の酸化性能を向上するには、セル密度は、例えば8セル/cm(平方センチメートル)以上であり、好ましくは15セル/cm以上である。圧力損失を低減するには、セル密度は、例えば95セル/cm以下であり、好ましくは78セル/cm以下である。
【0042】
CSF83に用いられる多孔質セラミック構造体1では、長手方向におけるハニカム構造体10の一端側を入口とし、他端側を出口として、DOC82からの排ガスが流れる。所定数のセル13において、入口側の端部に封止部14が設けられ、残りのセル13において、出口側の端部に封止部14が設けられる。したがって、ハニカム構造体10内に流入する排ガスは、入口側が封止されないセル13から、隔壁12を通過して、出口側が封止されないセル13へと移動する(図3中の矢印A1参照)。このとき、隔壁12が備える金属酸化物粒子(すなわち、酸化触媒)によって排ガスが酸化される。ハニカム構造体10の入口側の端部、および、出口側の端部のそれぞれでは、セル13の配列方向に沿って1つ置きに封止部14が設けられることが好ましい。
【0043】
ハニカム構造体10の主成分はコージェライトである。ハニカム構造体10は、コージェライトのみにより形成されてもよく、コージェライト以外の材料(例えば、金属、または、コージェライト以外のセラミック)を含んでいてもよい。ハニカム構造体10におけるコージェライトの含有率は、例えば75質量%以上であり、好ましくは80質量%以上である。本実施の形態では、ハニカム構造体10は、実質的にコージェライトのみにより形成される。
【0044】
図4は、多孔質セラミック構造体1の隔壁12の一部を拡大して示す図である。ハニカム構造体10には、多数の気孔(以下、「細孔121」とも呼ぶ。)が設けられている。細孔121の内部には、上述の金属酸化物粒子2およびセリウム含有粒子3が固定されている。図4では、細孔121の表面に位置する金属酸化物粒子2およびセリウム含有粒子3を区別することなく、平行斜線を付して模式的に示す。なお、金属酸化物粒子2およびセリウム含有粒子3は、細孔121の表面全体を被覆しているわけではない。
【0045】
多孔質セラミック構造体1の圧力損失を低減するには、ハニカム構造体10の隔壁12の開気孔率は、例えば25%以上であり、好ましくは30%以上であり、より好ましくは35%以上である。多孔質セラミック構造体1の強度を確保するという観点では、隔壁12の開気孔率は、例えば70%以下であり、好ましくは65%以下である。当該開気孔率は、例えば、純水を媒体としてアルキメデス法により測定可能である。
【0046】
ハニカム構造体10の隔壁12の平均細孔径は、例えば5μm以上であり、好ましくは8μm以上である。開気孔率と同様に、隔壁12の平均細孔径が大きいほど、多孔質セラミック構造体1の圧力損失が低くなる。多孔質セラミック構造体1の酸化性能を向上するためには、ハニカム構造体10の平均細孔径は、例えば40μm以下であり、好ましくは30μm以下であり、より好ましくは25μm以下である。当該平均細孔径は、例えば水銀圧入法(JIS R1655準拠)により測定される。多孔質セラミック構造体1の設計によっては、封止部14が省略され、セル13の表面に、金属酸化物粒子2が層状に保持されてもよい。
【0047】
図5は、ハニカム構造体10の細孔121の表面を示すSEM(走査型電子顕微鏡)画像である。図5では、比較的粒径が小さい多数の金属酸化物粒子2と、金属酸化物粒子2よりも粒径が大きい多数のセリウム含有粒子3が、細孔121の表面上に固定されている。金属酸化物粒子2の平均粒径は、例えば10nm以上である。金属酸化物粒子2の粒径は、例えば1μm以下であり、好ましくは100nm以下であり、より好ましくは60nm以下である。セリウム含有粒子3の平均粒径は、金属酸化物粒子2の平均粒径よりも大きい。セリウム含有粒子3の平均粒径は、例えば0.5μm以上であり、好ましくは1μm以上であり、より好ましくは2μm以上である。セリウム含有粒子3の粒径は、例えば30μm以下であり、好ましくは20μm以下であり、より好ましくは10μm以下である。
【0048】
金属酸化物粒子2の平均粒径は、例えば、SEMを用いて金属酸化物粒子2を所定の倍率で撮影した画像において、金属酸化物粒子2の粒径の平均値を算出することにより求められる。セリウム含有粒子3の平均粒径についても同様である。金属酸化物粒子2およびセリウム含有粒子3の平均粒径は、レーザー回折法により求められてもよい。また、X線回折法(XRD)により求めた金属酸化物粒子2およびセリウム含有粒子3の結晶子径を平均粒径とみなしてもよい。
【0049】
金属酸化物粒子2は、鉄(Fe)元素、マンガン(Mn)元素およびコバルト(Co)元素のうち少なくとも1種を含むスピネル型構造(すなわち、スピネル型の結晶構造)を有する酸化物の微粒子である。金属酸化物粒子2は、例えば、Fe、MnおよびCoのうち1種以上を含む酸化物のみにより構成される。好ましくは、金属酸化物粒子2は、Fe、Mnおよび酸素(O)を含むスピネル型構造を有する酸化物(FeMn(xおよびyは、x+y=3を満たす正の数値))の粒子、または、Coおよび酸素(O)を含むスピネル型構造を有する酸化物(Co)の粒子である。セリウム含有粒子3は、セリウム(Ce)元素を含む微粒子である。セリウム含有粒子3は、例えば、二酸化セリウム(CeO)粒子である。
【0050】
多孔質セラミック構造体1にFeが含まれる場合、多孔質セラミック構造体1におけるFeの含有率は、Fe換算で、0.1質量%以上であり、好ましくは1.5質量%以上である。また、当該Feの含有率は、Fe換算で、3.0質量%以下である。なお、Fe換算でのFeの含有率とは、多孔質セラミック構造体1に含まれるFe成分が、全てFeとして存在すると仮定した場合のFeの重量を、多孔質セラミック構造体1の重量で除算した値の百分率である。
【0051】
多孔質セラミック構造体1にMnが含まれる場合、多孔質セラミック構造体1におけるMnの含有率は、Mn換算で、0.1質量%以上であり、好ましくは1.5質量%以上である。また、当該Mnの含有率は、Mn換算で、3.0質量%以下である。なお、Mn換算でのMnの含有率とは、多孔質セラミック構造体1に含まれるMn成分が、全てMnとして存在すると仮定した場合のMnの重量を、多孔質セラミック構造体1の重量で除算した値の百分率である。
【0052】
多孔質セラミック構造体1にCoが含まれる場合、多孔質セラミック構造体1におけるCoの含有率は、以下の通りである。Coが、FeまたはMnと共に多孔質セラミック構造体1に含まれる場合(すなわち、多孔質セラミック構造体1に、Coと、FeおよびMnのうち少なくとも1種とが含まれる場合)、多孔質セラミック構造体1におけるCoの含有率は、Co換算で、0.1質量%以上であり、好ましくは1.5質量%以上である。また、当該Coの含有率は、Co換算で、3.0質量%以下である。
【0053】
一方、多孔質セラミック構造体1にFeおよびMnは含まれずCoが含まれる場合、多孔質セラミック構造体1におけるCoの含有率は、Co換算で、0.2質量%以上であり、好ましくは3.0質量%以上である。また、当該Coの含有率は、Co換算で、6.0質量%以下である。なお、Co換算でのCoの含有率とは、多孔質セラミック構造体1に含まれるCo成分が、全てCoとして存在すると仮定した場合のCoの重量を、多孔質セラミック構造体1の重量で除算した値の百分率である。なお、上記いずれの場合であっても、多孔質セラミック構造体1に含まれるFe,Co,Mnは、そのほとんどが金属酸化物粒子2として存在するが、一部がハニカム構造体10に固溶することも考えられる。
【0054】
多孔質セラミック構造体1におけるCeの含有率は、CeO換算で、0.1質量%以上であり、好ましくは1.5質量%以上である。また、当該Ceの含有率は、CeO換算で、10質量%以下であり、好ましくは4.5質量%以下である。なお、CeO換算でのCeの含有率とは、多孔質セラミック構造体1に含まれるCe成分が、全てCeOとして存在すると仮定した場合のCeOの重量を、多孔質セラミック構造体1の重量で除算した値の百分率である。なお、多孔質セラミック構造体1に含まれるCeは、そのほとんどがセリウム含有粒子3として存在するが、一部がハニカム構造体10に固溶することも考えられる。
【0055】
上述のCeO換算でのCeの含有率に対する、Fe換算でのFeの含有率とMn換算でのMnの含有率とCo換算でのCoの含有率との和の割合(すなわち、Fe換算でのFeの含有率とMn換算でのMnの含有率とCo換算でのCoの含有率との合計を、CeO換算でのCeの含有率により除算した値)は、0.8以上であり、好ましくは1.0以上である。当該割合は、9.5以下であり、好ましくは4.0以下である。以下の説明では、当該割合を「Fe・Mn・Co割合」と呼ぶ。
【0056】
多孔質セラミック構造体1における金属酸化物粒子2の含有率は、0.3質量%以上かつ8.0質量%以下である。金属酸化物粒子2の含有率とは、多孔質セラミック構造体1の結晶相における金属酸化物粒子2の質量比率である。好ましくは、金属酸化物粒子2の含有率は、2.0質量%以上かつ8.0質量%以下である。
【0057】
多孔質セラミック構造体1における金属酸化物粒子2の担持量は、例えば2.0g/L(グラム毎リットル)以上であり、好ましくは3.0g/L以上であり、より好ましくは5.0g/L以上である。また、多孔質セラミック構造体1における金属酸化物粒子2の担持量は、例えば50g/L以下であり、好ましくは45g/L以下であり、より好ましくは40g/L以下である。金属酸化物粒子2の担持量(g/L)は、ハニカム構造体10の単位容積(L)当たりに担持される金属酸化物粒子2の量(g)を示す。
【0058】
図6は、細孔121の表面上の金属酸化物粒子2を拡大して示すSEM画像である。図6に示すように、金属酸化物粒子2は、ハニカム構造体10の内部から、細孔121内へと部分的に突出した形態を有する。図7は、図6中の金属酸化物粒子2近傍の部位の断面図である。
【0059】
金属酸化物粒子2は、固定部21と、突出部22とを備える。固定部21は、ハニカム構造体10の内部に位置する。ハニカム構造体10の内部とは、ハニカム構造体10に設けられた細孔121の内部という意味ではなく、細孔121を囲むコージェライトの内部という意味である。固定部21は、金属酸化物粒子2のうち、ハニカム構造体10の主材料であるコージェライトと結合し、当該コージェライトの内部にて固定化されている結合部である。換言すれば、固定部21は、金属酸化物粒子2のうち、ハニカム構造体10の細孔121の表面から、当該細孔121とは反対側に向かってコージェライトの内部へと潜り込んでコージェライトに取り込まれている部分である。さらに換言すれば、固定部21は、金属酸化物粒子2のうち、当該コージェライトに表面を被覆されている部位である。
【0060】
突出部22は、金属酸化物粒子2のうち、細孔121の表面から細孔121内に突出する部分である。換言すれば、突出部22は、上記コージェライトの表面から露出している部位である。突出部22は、固定部21と連続する。
【0061】
なお、多孔質セラミック構造体1では、ハニカム構造体10に対してγ-アルミナ等によるコート処理(いわゆる、ウォッシュコート)は行われていない。したがって、細孔121の表面には、上記コート処理により形成される被膜は形成されておらず、当然に、金属酸化物粒子2は、当該被膜を介してハニカム構造体10に固定されているわけではない。
【0062】
多孔質セラミック構造体1に含まれる多数の金属酸化物粒子2のうち、一部の金属酸化物粒子2は、上述のように細孔121の内部において細孔121の表面上に固定されており、他の金属酸化物粒子2は、粒子全体がハニカム構造体10の内部に位置する。セリウム含有粒子3についても同様である。
【0063】
次に、多孔質セラミック構造体1の製造方法の一例について図8を参照しつつ説明する。多孔質セラミック構造体1の製造では、まず、ハニカム構造体10の材料と、セリウム含有粒子3の材料(例えば、CeO)と、金属酸化物粒子2の材料と、が秤量されて混合されることにより、構造体原料が調製される。金属酸化物粒子2の材料は、Fe、MnおよびCoのうち少なくとも1種を含む。金属酸化物粒子2の材料は、例えば、FeおよびMn、あるいは、Coである。ハニカム構造体10の材料の主成分は、ハニカム構造体10の骨材であるコージェライトである。ハニカム構造体10の材料の主成分は、コージェライトの原料であるカオリン、タルク、アルミナ等であってもよい。ハニカム構造体10の材料には、造孔剤およびバインダ等も含まれている。続いて、構造体原料がニーダーにより乾式混合された後、水が投入され、さらにニーダーにより混練されて坏土が調製される(ステップS11)。
【0064】
上述の乾式混合および混練に要する時間は、例えば、15分間および30分間である。乾式混合時間および混練時間は様々に変更されてよい。上述のセリウム含有粒子3の原料は、硝酸セリウム等の塩類であってもよい。また、上述の金属酸化物粒子2の原料は、硝酸鉄や硝酸マンガン、あるいは、硝酸コバルト等の塩類であってもよい。
【0065】
ステップS11では、セリウム含有粒子3の原料と、金属酸化物粒子2の原料とが、ハニカム構造体10の骨材等に個別に添加されているが、当該添加方法は様々に変更されてよい。例えば、金属酸化物粒子2の原料をCeOに含浸させて乾燥および焼成することにより生成された添加物を、ハニカム構造体10の骨材等に添加してもよい。当該添加物では、金属酸化物粒子2の原料の一部が、CeOに固溶または付着している。
【0066】
ステップS11において調製された坏土は、真空土練機等により柱状に成形された後、押出成形機によりハニカム状の成形体(以下、「ハニカム成形体」とも呼ぶ。)として押出成形される(ステップS12)。当該ハニカム成形体は、内部に流体の流路となる複数のセルを区画形成する格子状の隔壁を備えたものである。当該ハニカム成形体のハニカム径は30mm、隔壁厚さは12mil(約0.3mm)、セル密度は300cpsi(cell per square inches:46.5セル/cm)、外周壁厚さは約0.6mmである。なお、ステップS12では、押出成形以外の成形方法によりハニカム成形体が成形されてもよい。
【0067】
続いて、ステップS12において作製されたハニカム成形体が乾燥される。ハニカム成形体の乾燥方法は、特には限定されない。当該乾燥方法は、例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥または凍結乾燥等であり、これらの乾燥方法のいずれかの組み合わせであってもよい。例えば、ハニカム成形体は、マイクロ波乾燥により約50%~80%の水分が蒸散された後、熱風により乾燥(60℃~100℃×6時間~20時間)される。好ましくは、ハニカム成形体は、マイクロ波乾燥により約70%の水分が蒸散された後、熱風により乾燥(80℃×12時間)される。次に、ハニカム成形体が、450℃に維持された脱脂炉に投入され、ハニカム成形体に残留する有機物成分が除去(すなわち、脱脂)される。
【0068】
その後、ハニカム成形体の焼成処理(本焼成)が行われることにより、ハニカム構造体10、セリウム含有粒子3および金属酸化物粒子2を備える多孔質セラミック構造体1が得られる(ステップS13)。上述の製造方法により製造された多孔質セラミック構造体1は、貴金属を含んでいないため、低コストにて製造することができる。
【0069】
ステップS13の焼成処理は、例えば、大気圧下において、所定の温度プロファイルにて行われる。図9は、ステップS13の焼成工程の詳細を示す図である。図10および図11は、第1の焼成工程の温度プロファイルを示す図である。
【0070】
第1の焼成工程では、まず、ハニカム成形体が、常温(例えば、20℃)から、液相生成温度t以下の第1温度tまで昇温される(ステップS21)。液相生成温度tとは、加熱中のハニカム成形体において、原料の液相生成が開始される温度である。液相生成温度tは、例えば、1100℃~1170℃の範囲内の温度である。図10では、第1温度tが、液相生成温度tと同じ温度である場合を示す。上述のように、第1温度tは、液相生成温度tよりも低い温度であってもよい。液相生成温度tまでの昇温速度は、特に限定されないが、例えば、100℃/h以上かつ200℃/h以下である。
【0071】
続いて、ハニカム成形体は、第1温度tから、第1温度tよりも高い第2温度tまで昇温される(ステップS22)。第2温度tは、液相生成温度tよりも高く、かつ、金属酸化物粒子2の結晶化温度t未満の温度である。結晶化温度tは、加熱中のハニカム成形体において、金属酸化物粒子2が結晶化して析出し始める温度である。結晶化温度tは、例えば、1250℃~1350℃の範囲内の温度である。第2温度tは、例えば、1170℃~1250℃の範囲内の温度である。ステップS22におけるハニカム成形体の昇温速度は、100℃/h以上かつ200℃/h以下である。
【0072】
次に、ハニカム成形体は、第2温度tから、第2温度tよりも高い第3温度tまで昇温される(ステップS23)。第3温度tは、結晶化温度tよりも高く、かつ、最高温度tmax以下の温度である。最高温度tmaxは、例えば1350℃~1500℃の範囲内の温度である。図10では、第3温度tが最高温度tmaxと同じ温度である場合を示す。上述のように、第3温度tは、最高温度tmaxよりも低い温度であってもよい。ステップS23におけるハニカム成形体の昇温速度は、特に限定されないが、例えば、25℃/h以上かつ200℃/h以下であり、100℃/h以上かつ200℃/h以下であることが好ましい。
【0073】
その後、ハニカム成形体が最高温度tmaxにて所定時間維持された後、常温まで降温される(ステップS24)。これにより、ハニカム成形体の焼成処理(ステップS13)が終了し、多孔質セラミック構造体1が生成される。ステップS24における最高温度tmaxでの維持時間(以下、「最高温維持時間」とも呼ぶ。)は、例えば、5時間以上かつ50時間以下である。なお、第3温度tが最高温度tmaxよりも低い場合、ステップS23とステップS24との間において、ハニカム成形体が第3温度tから最高温度tmaxまで昇温される。第3温度tから最高温度tmaxまでの昇温速度は、特に限定されないが、例えば、25℃/h以上かつ75℃/h以下である。
【0074】
第1の焼成工程では、図11に示すように、ステップS23の途中でハニカム成形体の昇温が一旦停止されてもよい。具体的には、ステップS23において、ハニカム成形体の温度が結晶化温度tまで昇温されると、昇温が一旦停止され、ハニカム成形体の温度が結晶化温度tである状態が、所定時間(以下、「中間維持時間」とも呼ぶ。)維持される。中間維持時間は、例えば1時間以上かつ100時間以下であり、好ましくは5時間以上かつ75時間以下である。なお、中間維持時間は、1時間未満であってもよく、100時間よりも長くてもよい。また、図10に示す例は、中間維持時間が0時間の温度プロファイルに相当する。図11に示す例では、中間維持時間が経過すると、ハニカム成形体の昇温が再開され、第3温度t図11に示す例では、最高温度tmaxと同じ温度)まで昇温される。
【0075】
次に、ステップS13の焼成工程の第2の例について、図12および図13を参照しつつ説明する。焼成工程の詳細な流れについては、図9に示すものと同様である。図12および図13は、第2の焼成工程の温度プロファイルを示す図である。
【0076】
第2の焼成工程では、上記第1の焼成工程と同様に、ハニカム成形体が、常温から、液相生成温度t以下の第1温度tまで昇温される(図9:ステップS21)。液相生成温度tは、例えば、1100℃~1170℃の範囲内の温度である。図12では、第1温度tが、液相生成温度tと同じ温度である場合を示す。上述のように、第1温度tは、液相生成温度tよりも低い温度であってもよい。液相生成温度tまでの昇温速度は、特に限定されないが、例えば、50℃/h以上かつ200℃/h以下である。図12に示す例では、当該昇温速度が、900℃付近を境に減少している。
【0077】
続いて、ハニカム成形体が、第1温度tから、第1温度tよりも高い第2温度tまで昇温される(ステップS22)。第2温度tは、液相生成温度tよりも高く、かつ、金属酸化物粒子2の結晶化温度t未満の温度である。結晶化温度tは、例えば、1250℃~1350℃の範囲内の温度である。第2温度tは、例えば、1170℃~1250℃の範囲内の温度である。ステップS22におけるハニカム成形体の昇温速度は、第1の焼成工程とは異なり、1℃/h以上かつ10℃/h以下である。
【0078】
次に、ハニカム成形体は、第2温度tから、第2温度tよりも高い第3温度tまで昇温される(ステップS23)。第3温度tは、結晶化温度tよりも高く、かつ、最高温度tmax以下の温度である。最高温度tmaxは、例えば1350℃~1500℃の範囲内の温度である。図12では、第3温度tが最高温度tmaxと同じ温度である場合を示す。上述のように、第3温度tは、最高温度tmaxよりも低い温度であってもよい。ステップS23におけるハニカム成形体の昇温速度は、特に限定されないが、例えば、25℃/h以上かつ200℃/h以下である。
【0079】
その後、ハニカム成形体が最高温度tmaxにて所定時間維持された後、常温まで降温される(ステップS24)。これにより、ハニカム成形体の焼成処理(ステップS13)が終了し、多孔質セラミック構造体1が生成される。ステップS24における最高温度tmaxでの維持時間(すなわち、最高温維持時間)は、例えば、5時間以上かつ50時間以下である。なお、第3温度tが最高温度tmaxよりも低い場合、ステップS23とステップS24との間において、ハニカム成形体が第3温度tから最高温度tmaxまで昇温される。第3温度tから最高温度tmaxまでの昇温速度は、特に限定されないが、例えば、25℃/h以上かつ75℃/h以下である。
【0080】
第2の焼成工程では、図13に示すように、ステップS23の途中でハニカム成形体の昇温が一旦停止されてもよい。具体的には、ステップS23において、ハニカム成形体の温度が結晶化温度tまで昇温されると、昇温が一旦停止され、ハニカム成形体の温度が結晶化温度tである状態が、所定時間(すなわち、中間維持時間)維持される。中間維持時間は、例えば1時間以上かつ100時間以下であり、好ましくは5時間以上かつ75時間以下である。なお、中間維持時間は、1時間未満であってもよく、100時間よりも長くてもよい。また、図12に示す例は、中間維持時間が0時間の温度プロファイルに相当する。図13に示す例では、中間維持時間が経過すると、ハニカム成形体の昇温が再開され、第3温度t図13に示す例では、最高温度tmaxと同じ温度)まで昇温される。
【0081】
次に、ステップS13の焼成工程の第3の例について、図14を参照しつつ説明する。焼成工程の詳細な流れについては、図9に示すものと同様である。図14は、第3の焼成工程の温度プロファイルを示す図である。
【0082】
第3の焼成工程では、上記第1および第2の焼成工程と同様に、ハニカム成形体が、常温から、液相生成温度t以下の第1温度tまで昇温される(図9:ステップS21)。液相生成温度tは、例えば、1100℃~1170℃の範囲内の温度である。図14では、第1温度tが、液相生成温度tと同じ温度である場合を示す。上述のように、第1温度tは、液相生成温度tよりも低い温度であってもよい。液相生成温度tまでの昇温速度は、特に限定されないが、例えば、50℃/h以上かつ200℃/h以下である。図14に示す例では、当該昇温速度が、900℃付近を境に減少している。
【0083】
続いて、ハニカム成形体が、第1温度tから、第1温度tよりも高い第2温度tまで昇温される(ステップS22)。第2温度tは、液相生成温度tよりも高く、かつ、金属酸化物粒子2の結晶化温度t未満の温度である。結晶化温度tは、例えば、1250℃~1350℃の範囲内の温度である。第2温度tは、例えば、1170℃~1250℃の範囲内の温度である。ステップS22におけるハニカム成形体の昇温速度は、第1および第2の焼成工程とは異なり、特に限定されない。当該昇温速度は、例えば、10℃/hよりも大きく、かつ、100℃/hよりも小さい。
【0084】
次に、ハニカム成形体は、第2温度tから、第2温度tよりも高い第3温度tまで昇温される(ステップS23)。第3温度tは、結晶化温度tよりも高く、かつ、最高温度tmax以下の温度である。最高温度tmaxは、例えば1350℃~1500℃の範囲内の温度である。図14では、第3温度tが最高温度tmaxと同じ温度である場合を示す。上述のように、第3温度tは、最高温度tmaxよりも低い温度であってもよい。ステップS23におけるハニカム成形体の昇温速度は、特に限定されないが、例えば、10℃/hよりも大きく、かつ、100℃/hよりも小さい。
【0085】
第3の焼成工程では、ステップS23の途中でハニカム成形体の昇温が一旦停止される。具体的には、ステップS23において、ハニカム成形体の温度が結晶化温度tまで昇温されると、昇温が一旦停止され、ハニカム成形体の温度が結晶化温度tである状態が、所定時間(すなわち、中間維持時間)維持される。中間維持時間は、例えば1時間以上かつ100時間以下であり、好ましくは5時間以上かつ75時間以下である。なお、中間維持時間は、1時間未満であってもよく、100時間よりも長くてもよい。中間維持時間が経過すると、ハニカム成形体の昇温が再開され、第3温度t図14に示す例では、最高温度tmaxと同じ温度)まで昇温される。
【0086】
その後、ハニカム成形体が最高温度tmaxにて所定時間維持された後、常温まで降温される(ステップS24)。これにより、ハニカム成形体の焼成処理(ステップS13)が終了し、多孔質セラミック構造体1が生成される。ステップS24における最高温度tmaxでの維持時間(すなわち、最高温維持時間)は、例えば、5時間以上かつ50時間以下である。なお、第3温度tが最高温度tmaxよりも低い場合、ステップS23とステップS24との間において、ハニカム成形体が第3温度tから最高温度tmaxまで昇温される。第3温度tから最高温度tmaxまでの昇温速度は、特に限定されないが、例えば、25℃/h以上かつ75℃/h以下である。
【0087】
次に、表1~表4を参照しつつ、実施例1~10の多孔質セラミック構造体1における圧力損失および触媒能について説明する。比較例1についても同様である。実施例1~10のうち、実施例1~6と実施例7~10とでは、後述するように材料組成および結晶相の組成が異なる(表2~表3参照)。なお、表2に示す材料組成は、多孔質セラミック構造体1の製造に使用される材料の組成(すなわち、仕込み組成)である。また、表3に示す結晶相の組成は、製造された多孔質セラミック構造体1における結晶相の組成である。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
【表3】
【0091】
【表4】
【0092】
実施例1,2,7の多孔質セラミック構造体1は、上述の第3の焼成工程にて焼成した。実施例3,8の多孔質セラミック構造体1は、上述の第2の焼成工程にて焼成した。実施例4~6,9,10の多孔質セラミック構造体1は、上述の第1の焼成工程にて焼成した。表中の昇温速度C2は、上述のステップS22における昇温速度(℃/h)(すなわち、1時間当たりの昇温温度)を示す。また、昇温速度C3は、上述のステップS23における昇温速度(℃/h)を示す。中間維持時間(h)は、上述のステップS23における結晶化温度tでの維持時間である。最高温維持時間(h)は、上述のステップS24における最高温度tmaxでの維持時間である。
【0093】
実施例1,2,7では、第3の焼成工程における中間維持時間を変更している。なお、実施例1,2,7の昇温速度C2は12℃/hであり、1℃/h~10℃/hの範囲内ではなく、100℃/h~200℃/hの範囲内でもない。実施例1,2,7の温度プロファイルは図14に示すタイプである。実施例3,8では、第2の焼成工程における昇温速度C2は3℃/h(すなわち、1℃/h以上かつ10℃/h以下)である。なお、実施例3,8では、中間維持時間は設けていない。実施例3,8の温度プロファイルは、図12に示すタイプである。
【0094】
実施例4~6,9,10では、第1の焼成工程における昇温速度C2は、180℃/h~200℃/h(すなわち、100℃/h以上かつ200℃/h以下)である。実施例4,5,9,10では、昇温速度C2を100℃/h以上かつ200℃/h以下として、昇温速度C3を変更した。なお、実施例4,5,9,10では、中間維持時間は設けていない。実施例4,5,9,10の温度プロファイルは、図10に示すタイプである。実施例6では、昇温速度C2を100℃/h以上かつ200℃/h以下として、中間維持時間を10h設けた。実施例6の温度プロファイルは、図11に示すタイプである。
【0095】
表中のFe・Mn・Co割合は、多孔質セラミック構造体1の材料組成のうち、Fe換算でのFeの含有率(質量%)とMn換算でのMnの含有率(質量%)とCo換算でのCoの含有率(質量%)との合計を、CeOの含有率(質量%)により除算して求めた。
【0096】
多孔質セラミック構造体1の結晶相の組成(すなわち、結晶相の構成成分の質量比率)は、次のように同定および定量した。各粒子の結晶相は、作成された試料に対し、X線回折装置(回転対陰極型X線回折装置:理学電機株式会社製、RINT2500)を用いて測定した。ここで、X線回折測定の条件は、CuKα源、50kV、300mA、2θ=10°~60°とし、得られたX線回折データを市販のX線データ解析ソフトを用いて解析した。結晶相のFeMnは、FeおよびMnから構成されるスピネル型酸化物である。FeMnのxおよびyは、x+y=3を満たす正の数値である。FeMn(xおよびyは、x+y=3を満たす正の数値)の平均粒径は、結晶子径とした。結晶子径は、上記のX線回折装置によるX線回折測定によって得られたデータに基づき、これをシェラーの式(τ= Kλ/βcosθ)に当て嵌めることで算出した。ここで、τ:結晶子の平均サイズ、K:形状因子(固体中に含まれる結晶子の大きさと回折パターンのピーク幅との関係を結びつける因子)、λ:X線波長、β:ピーク値全幅(ラジアン単位)、および、θ:ブラッグ角である。結晶相のCoは、Coのスピネル型酸化物である。Coの平均粒径は、上述のFeMnの平均粒径と同様にして求めた。CeOの平均粒径についても同様にして求めた。FeMn、CoおよびCeOの定量は、得られたX線回折データを用いてリートベルト解析により行った。多孔質セラミック構造体1の開気孔率は、純水を媒体としてアルキメデス法により測定した。上述のように、開気孔率が高くなると、多孔質セラミック構造体1の圧力損失は低減する。
【0097】
多孔質セラミック構造体1のNO吸着量は、次のように求めた。まず、多孔質セラミック構造体1と同等の試料にNOを含む導入ガスを供給して吸着試験を行った。導入ガスは、ヘリウム(He)をバランスガスとして、200体積ppmのNOと、10体積%の酸素(O)とを含む混合ガスである。吸着試験は、250℃で60分間行った。吸着試験終了後、試料をHe中にて昇温脱離し、得られた導出ガスの一部をサンプリングした。そして、サンプリングされた導出ガスを質量分析計(ファイファーバキューム社製GSD320)にて分析することにより、試料に吸着されたNOの量を求めた。NO吸着量が多い方が、一般的に多孔質セラミック構造体1の触媒能が高くなる傾向がある。
【0098】
多孔質セラミック構造体1のNO酸化温度は、次のように求めた。まず、多孔質セラミック構造体1のNO変換率と温度との関係を求めた。NO変換率は、NOを含む導入ガスを空間速度(SV)24400h-1にて多孔質セラミック構造体1に供給し、多孔質セラミック構造体1を通過した導出ガスにおいて、NOに変換されているNOの割合である。導入ガスには、NOが100ppm、COが1500ppm、COが5%、プロパン(C)が450ppm、HOが2%含まれている。導出ガスの分析は、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR:Fourier Transform Infrared Spectroscopy)により行った。NO変換率は、低温の間はおよそ0%であり、温度の上昇に従って漸次増大して最大値となった後、漸次減少する。NO変換率が高い方が、多孔質セラミック構造体1の触媒能は高い。NO変換率と温度との関係が求められると、当該関係において、低温側から温度を上げていった場合に、NO変換率が最大値の1/2になる温度をNO酸化温度として求める。NO酸化温度が低い方が、多孔質セラミック構造体1の触媒能は高い。
【0099】
実施例1~6では、Feの含有率はFe換算で2.6質量%(すなわち、0.1質量%以上かつ3.0質量%以下)であり、Mnの含有率はMn換算で2.4質量%(すなわち、0.1質量%以上かつ3.0質量%以下)であり、Ceの含有率はCeO換算で5.0質量%(すなわち、0.1質量%以上かつ10質量%以下)である。実施例1~6では、多孔質セラミック構造体1にCoは実質的に含まれておらず、Coの含有率はCo換算で0.0質量%である。Fe・Mn・Co割合(すなわち、CeO換算でのCeの含有率に対する、Fe換算でのFeの含有率とMn換算でのMnの含有率とCo換算でのCoの含有率との和の割合)は、1.0(すなわち、0.8以上かつ9.5以下)である。
【0100】
実施例7~10では、多孔質セラミック構造体1にFeおよびMnは実質的に含まれておらず、Feの含有率はFe換算で0.0質量%であり、Mnの含有率はMn換算で0.0質量%である。Coの含有率はCo換算で5.5質量%(すなわち、3.0質量%以上かつ6.0質量%以下)であり、Ceの含有率はCeO換算で4.5質量%(すなわち、1.5質量%以上かつ4.5質量%以下)である。Fe・Mn・Co割合は、1.2(すなわち、1.0以上かつ4.0以下)である。この場合、Fe・Mn・Co割合は、実質的に、CeO換算でのCeの含有率に対するCo換算でのCoの含有率の割合である。
【0101】
図15は、実施例3の多孔質セラミック構造体1の表面を示すSEM画像である。図16は、実施例3の多孔質セラミック構造体1の細孔121の表面を拡大して示すSEM画像である。図17は、実施例4の多孔質セラミック構造体1の表面を示すSEM画像である。図18は、実施例4の多孔質セラミック構造体1の細孔121の表面を拡大して示すSEM画像である。図15および図17中の黒い部分は細孔121であり、グレーの部分はハニカム構造体10であり、白い部分は金属酸化物粒子2およびセリウム含有粒子3である。図15図18では、多孔質セラミック構造体1の細孔121の表面に、金属酸化物粒子2およびセリウム含有粒子3が存在している。
【0102】
実施例1~10では、金属酸化物粒子2の含有率は、2.0質量%~6.0質量%(すなわち、0.3質量%以上かつ8.0質量%以下)であった。金属酸化物粒子2の含有率とは、上述のように、結晶相における金属酸化物粒子2の質量比率であり、表3では、結晶相におけるFeMnおよびCoの質量比率の合計である。また、実施例1~10では、金属酸化物粒子2の平均粒径は、15nm~22nm(すなわち、10nm以上かつ1μm以下)であった。
【0103】
実施例1~10では、開気孔率は52%~62%と比較的高いため、多孔質セラミック構造体1の圧力損失は低く抑えられている。また、実施例1~10では、NO吸着量は0.01(μmol/g)~0.05(μmol/g)であり、NO酸化温度は490℃~520℃と低いため、多孔質セラミック構造体1は高い触媒能を有することが分かる。また、昇温速度C3が200℃/h(すなわち、100℃/h以上かつ200℃/h以下)の実施例5では、NO吸着量が0.05(μmol/g)と最大であり、昇温速度C3が60℃/hの実施例4のNO吸着量(0.04(μmol/g))よりも大きかった。
【0104】
一方、比較例1では、原料の組成は実施例1~6と同じであるが、昇温速度C2は、12℃/hである。すなわち、比較例1の昇温速度C2は、1℃/h以上かつ10℃/h以下(実施例3,8)の範囲からも、100℃/h以上かつ200℃/h以下(実施例4~6,9,10)の範囲からも外れている。また、比較例1では、実施例1,2,6,7とは異なり、温度プロファイルに中間維持時間も設けられていない。このため、結晶相における金属酸化物粒子2の質量比率が1.8質量%と、実施例1~6(2.0質量%~6.0質量%)に比べて低かった。また、金属酸化物粒子2の平均粒径が50nmと、実施例1~6(18nm~22nm)に比べて大きかった。したがって、比較例1では、NO吸着量が0.00(μmol/g)であり、NO酸化温度が540℃と高かった。
【0105】
以上に説明したように、多孔質セラミック構造体1は、構造体本体(すなわち、ハニカム構造体10)と、セリウム含有粒子3と、金属酸化物粒子2と、を備える。ハニカム構造体10は、主成分がコージェライトである多孔質の部材である。セリウム含有粒子3は、ハニカム構造体10に固定されている。金属酸化物粒子2は、Fe、MnおよびCoのうち少なくとも1種を含むピネル型構造を有する酸化物の粒子である。金属酸化物粒子2は、ハニカム構造体10の気孔(すなわち、細孔121)の内部に固定されている。金属酸化物粒子2は、固定部21と、突出部22とを備える。固定部21は、ハニカム構造体10の内部に位置する。突出部22は、固定部21に連続するとともに細孔121内に突出する。
【0106】
多孔質セラミック構造体1において、Feが含まれる場合のFeの含有率は、Fe換算で0.1質量%以上かつ3.0質量%以下であり、Mnが含まれる場合のMnの含有率は、Mn換算で0.1質量%以上かつ3.0質量%以下である。FeまたはMnと共にCoが含まれる場合のCoの含有率は、Co換算で0.1質量%以上かつ3.0質量%以下であり、FeおよびMnは含まれずCoが含まれる場合のCoの含有率は、Co換算で0.2質量%以上かつ6.0質量%以下である。Ceの含有率は、CeO換算で0.1質量%以上かつ10質量%以下である。CeO換算でのCeの含有率に対する、Fe換算でのFeの含有率とMn換算でのMnの含有率とCo換算でのCoの含有率との和の割合(すなわち、Fe・Mn・Co割合)は、0.8以上かつ9.5以下である。金属酸化物粒子2の含有率は、0.3質量%以上かつ8.0質量%以下である。
【0107】
これにより、実施例1~10に示すように、多孔質セラミック構造体1における圧力損失を低減することができるとともに、多孔質セラミック構造体1におけるNO吸着量を増大することができる。また、多孔質セラミック構造体1におけるNO変換率を増大し、NO燃焼温度を低減することもできる。さらには、COをCOへと変換する変換率、および、CHをCOおよびHOに変換する変換率を増大することもできる。換言すれば、多孔質セラミック構造体1を上記構成とすることにより、圧力損失が低く、高い触媒能を有する多孔質セラミック構造体1を提供することができる。
【0108】
多孔質セラミック構造体1では、上述のようにFe・Mn・Co割合が0.8以上かつ9.5以下であることにより、多孔質セラミック構造体1の製造時において、スピネル型構造を有する酸化物である金属酸化物粒子2を好適に生成することができる。また、金属酸化物粒子2の含有率が、上述のように0.3質量%以上かつ8.0質量%以下であることにより、多孔質セラミック構造体1において、圧力損失の低減と触媒能の向上とを好適に両立することができる。
【0109】
多孔質セラミック構造体1は、上述のように、圧力損失が低く、高い触媒能を有するため、ディーゼルエンジンから排出される排ガス中の粒子状物質を捕集するディーゼル・パティキュレート・フィルタでの使用に特に適している。
【0110】
上述のように、多孔質セラミック構造体1において、Feが含まれる場合のFeの含有率は、Fe換算で1.5質量%以上かつ3.0質量%以下であり、Mnが含まれる場合のMnの含有率は、Mn換算で1.5質量%以上かつ3.0質量%以下であることが好ましい。また、FeまたはMnと共にCoが含まれる場合のCoの含有率は、Co換算で1.5質量%以上かつ3.0質量%以下であり、FeおよびMnは含まれずCoが含まれる場合のCoの含有率は、Co換算で3.0質量%以上かつ6.0質量%以下であることが好ましい。さらに、Ceの含有率は、CeO換算で1.5質量%以上かつ4.5質量%以下であることが好ましい。CeO換算でのCeの含有率に対する、Fe換算でのFeの含有率とMn換算でのMnの含有率とCo換算でのCoの含有率との和の割合(すなわち、Fe・Mn・Co割合)は、1.0以上かつ4.0以下であることが好ましい。これにより、多孔質セラミック構造体1において、より一層高い触媒能を実現することができる。
【0111】
上述のように、金属酸化物粒子2は、Fe、Mnおよび酸素を含むスピネル型構造を有する酸化物の粒子、または、Coおよび酸素を含むスピネル型構造を有する酸化物の粒子であることがさらに好ましい。これにより、多孔質セラミック構造体1において、より一層高い触媒能を実現することができる。
【0112】
上述のように、金属酸化物粒子2の平均粒径は、10nm以上かつ1μm以下であることが好ましい。これにより、多孔質セラミック構造体1において、圧力損失の低減と触媒能の向上とをさらに好適に両立することができる。
【0113】
上述の多孔質セラミック構造体1の製造方法は、原料を混練して坏土を調製する工程(ステップS11)と、当該坏土を成形して成形体を得る工程(ステップS12)と、当該成形体を焼成する工程(ステップS13)と、を備える。上記原料は、コージェライトと、Ceと、Fe、MnおよびCoのうち少なくとも1種と、を含む。そして、ステップS13により、主成分がコージェライトである多孔質の構造体本体(すなわち、ハニカム構造体10)と、ハニカム構造体10に固定されたセリウム含有粒子3と、Fe、MnおよびCoのうち少なくとも1種を含むスピネル型構造を有する酸化物の粒子であり、ハニカム構造体10の気孔(すなわち、細孔121)の内部に固定された金属酸化物粒子2と、を備える多孔質セラミック構造体1が形成される。
【0114】
ステップS13は、上記成形体を液相生成温度t以下の第1温度tまで昇温する工程(ステップS21)と、当該成形体を、第1温度tから、液相生成温度tよりも高くかつ金属酸化物粒子2の結晶化温度t未満の第2温度tまで昇温する工程(ステップS22)と、当該成形体を、第2温度tから、結晶化温度tよりも高くかつ最高温度tmax以下の第3温度tまで昇温する工程(ステップS23)と、当該成形体を最高温度tmaxにて所定時間(すなわち、最高温維持時間)維持する工程(ステップS24)と、を備える。上記第1の焼成工程では、ステップS22における昇温速度C2は、100℃/h以上かつ200℃/h以下である。当該製造方法によれば、実施例4~6,9,10に示すように、圧力損失が低く、高い触媒能を有する多孔質セラミック構造体1を容易に製造することができる。
【0115】
上述のように、好ましくは、ステップS23における昇温速度C3も、100℃/h以上かつ200℃/h以下である。これにより、多孔質セラミック構造体1において、高い触媒能を実現することができる。
【0116】
好ましくは、ステップS23において、上記成形体が結晶化温度tにて所定時間(すなわち、中間維持時間)維持される。これにより、多孔質セラミック構造体1において、高い触媒能を実現することができる。
【0117】
また、上述のステップS13は、ステップS21~S24を備え、上記第2の焼成工程では、ステップS22における昇温速度C2は、1℃/h以上かつ10℃/h以下である。当該製造方法によれば、実施例3,8に示すように、圧力損失が低く、高い触媒能を有する多孔質セラミック構造体1を容易に製造することができる。
【0118】
好ましくは、ステップS23において、上記成形体が結晶化温度tにて所定時間(すなわち、中間維持時間)維持される。これにより、多孔質セラミック構造体1において、より一層高い触媒能を実現することができる。
【0119】
また、上述のステップS13は、ステップS21~S24を備え、上記第3の焼成工程では、ステップS23において、上記成形体が結晶化温度tにて所定時間(すなわち、中間維持時間)維持される。当該製造方法によれば、実施例1,2,7に示すように、圧力損失が低く、高い触媒能を有する多孔質セラミック構造体1を容易に製造することができる。
【0120】
上述の多孔質セラミック構造体1および多孔質セラミック構造体1の製造方法では、様々な変更が可能である。
【0121】
例えば、金属酸化物粒子2の平均粒径は、10nmよりも小さくてもよく、1μmよりも大きくてもよい。
【0122】
金属酸化物粒子2は、FeおよびMnのうち一方のみを含むスピネル型構造を有する酸化物の粒子であってもよい。また、金属酸化物粒子2は、FeおよびCoを含みMnを含まないスピネル型構造を有する酸化物の粒子であってもよく、MnおよびCoを含みFeを含まないスピネル型構造を有する酸化物の粒子であってもよい。金属酸化物粒子2は、Fe、MnおよびCoを全て含むスピネル型構造を有する酸化物の粒子であってもよい。また、金属酸化物粒子2は、Fe、MnおよびCo以外の金属を含んでいてもよい。
【0123】
多孔質セラミック構造体1では、セリウム含有粒子3および金属酸化物粒子2以外の粒子がハニカム構造体10(すなわち、構造体本体)に固定されていてもよい。
【0124】
多孔質セラミック構造体1では、上述の構造体本体の形状は、ハニカム状には限定されず、ハニカム以外の様々な形状(例えば、略円筒状)であってもよい。
【0125】
多孔質セラミック構造体1の製造方法は、上述のものには限定されず、様々に変更されてよい。
【0126】
多孔質セラミック構造体1は、ディーゼル・パティキュレート・フィルタ以外の用途に利用されてもよい。
【0127】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明は、粒子状物質を捕集するフィルタ、例えば、ディーゼルエンジンから排出される排ガス中の粒子状物質を捕集するディーゼル・パティキュレート・フィルタに利用可能である。
【符号の説明】
【0129】
1 多孔質セラミック構造体
2 金属酸化物粒子
3 セリウム含有粒子
10 ハニカム構造体
21 固定部
22 突出部
81 DPF
83 CSF
S11~S13,S21~S24 ステップ
図1
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