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特許7379261豪雨時の河川氾濫予測方法および河川氾濫予測装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】豪雨時の河川氾濫予測方法および河川氾濫予測装置
(51)【国際特許分類】
   G01W 1/10 20060101AFI20231107BHJP
   G08B 31/00 20060101ALI20231107BHJP
【FI】
G01W1/10 P
G08B31/00 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020069465
(22)【出願日】2020-04-08
(65)【公開番号】P2021165689
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2023-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中渕 遥平
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 博人
(72)【発明者】
【氏名】田中 淳一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】大西 瑞紀
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-269656(JP,A)
【文献】特開2020-016462(JP,A)
【文献】特開2016-029533(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0354873(US,A1)
【文献】伊藤弘之、江頭進治、菊森佳幹、原田大輔、中村要介、池内幸司,“中山間地河川における洪水予測手法の開発 -洪水氾濫をもたらすような大雨を対象として-”,土木研究所資料,第4376号,日本,国立研究開発法人土木研究所,2018年04月,pp.1-24,https://www.pwri.go.jp/icharm/publication/pdf/2018/4376.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01W 1/00 - 1/18
G08B 19/00 - 19/02
G08B 21/00 - 21/24
G08B 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気象情報配信サーバより取得した数時間先の予測降雨量情報と実測降雨量情報とに基づいて判断対象の河川の氾濫を予測する豪雨時の河川氾濫予測方法であって、
着目する水位観測所の上流側の河川流域情報を取得して流域を設定する第1ステップと、
前記第1ステップで設定された流域内の少なくとも24時間以上先の予測降雨量を所定時間ごとに取得し、流域内の平均予測降雨量を算出する第2ステップと、
前記第1ステップで設定された流域内の実測降雨量情報を前記所定時間ごとに取得し、流域内の平均実測降雨量を算出する第3ステップと、
前記第2ステップで算出された流域内の平均予測降雨量および前記第3ステップで算出された流域内の平均実測降雨量と、前記着目する水位観測所ごとに設定された計画降雨量とに基づいて判断対象の河川が氾濫するか否か判定する第4ステップと、
を含むことを特徴とする豪雨時の河川氾濫予測方法。
【請求項2】
気象情報配信サーバより取得した数時間先の予測降雨量情報と実測降雨量情報とに基づいて判断対象の河川の氾濫を予測する豪雨時の河川氾濫予測方法であって、
着目する地点の上流側の河川流域情報を取得して流域を設定する第1ステップと、
前記第1ステップで設定された流域内の少なくとも24時間先の予測降雨量を所定時間ごとに取得し、流域内の平均予測降雨量を算出する第2ステップと、
前記第1ステップで設定された流域内の実測降雨量情報を前記所定時間ごとに取得し、流域内の平均実測降雨量を算出する第3ステップと、
前記第2ステップで算出された流域内の平均予測降雨量と前記第3ステップで算出された流域内の平均実測降雨量に基づいて、前記予測降雨量の取得時直前から予測先時間までの一定時間帯における所定時間の累計雨量の最大値を算出する第4ステップと、
前記第4ステップで算出された累計雨量の最大値が、前記着目する地点に対応して予め設定された降雨量判定値よりも多いか否か判定し、前記累計雨量の最大値が前記降雨量判定値を超えた場合に氾濫予測警報を出力する第5ステップと、
を含むことを特徴とする豪雨時の河川氾濫予測方法。
【請求項3】
前記着目する地点は判断対象の河川に設けられている水位観測所であり、前記降雨量判定値は国土交通省により水位観測所ごとに設定された計画降雨量であることを特徴とする請求項2に記載の豪雨時の河川氾濫予測方法。
【請求項4】
前記数時間先の予測降雨量情報は、気象庁より3時間ごとに発表される39時間先予測降雨量情報であることを特徴とする請求項2または3に記載の豪雨時の河川氾濫予測方法。
【請求項5】
前記実測降雨量情報は、気象庁より1時間ごとに発表される降雨量情報であることを特徴とする請求項2~4のいずれかに記載の豪雨時の河川氾濫予測方法。
【請求項6】
気象情報配信サーバより取得した数時間先の予測降雨量情報と実測降雨量情報とに基づいて判断対象の河川の氾濫を予測する豪雨時の河川氾濫予測装置であって、
着目する水位観測所の上流側の河川流域情報を取得して流域を設定する流域設定手段と、
前記流域設定手段により設定された流域内の少なくとも24時間先の予測降雨量に基づいて流域内の平均予測降雨量を算出する予測降雨量算出手段と、
前記流域設定手段により設定された流域内の実測降雨量情報に基づいて流域内の平均実測降雨量を算出する実測降雨量算出手段と、
前記平均予測降雨量と前記平均実測降雨量に基づいて、前記予測降雨量情報の取得時直前から予測先時間までの一定時間帯における所定時間の累計雨量の和を算出し、当該累計雨量の和が前記水位観測所に設定されている計画降雨量よりも多いか否か判定する氾濫予測判定手段と、を備えることを特徴とする豪雨時の河川氾濫予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、豪雨時の河川氾濫予測技術に関し、例えば河川の氾濫により冠水のおそれのある車両留置箇所に留置中の鉄道車両を避難するのに利用して有用な豪雨時の河川氾濫予測方法および河川氾濫予測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、集中豪雨の頻発に伴い河川の氾濫によって車両留置箇所が冠水して留置中の鉄道車両が水に浸かる被害が発生するおそれが増加している。河川の氾濫に関しては、国土交通省が、避難指示等の発令判断基準として全国の主要な河川について、概ね1時間ごとに3時間先の水位を公表している。また、気象庁が、中小河川に関して、河川氾濫の可能性を数値化した指標として、概ね1時間ごとに6時間先の流域雨量指数を公表している。
一方、従来、河川の氾濫を予測する技術としては、雨量データやテレメータなどの観測データや水位予測データを用いて任意の破堤点の氾濫解析を行う氾濫解析手段を備えた氾濫シミュレーションシステムに関する発明が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-197554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鉄道車両の車両留置箇所からの避難に際しては、運転士の手配や翌日の運行ダイヤを考慮した退避先の選定などの準備作業が必要であること、退避先までの距離や移動時間が長いことなど鉄道特有の事情があるため、できるだけ早い段階で予測できることが望まれる。
また、鉄道車両の車両留置箇所からの避難に関しては、一旦避難を実施すると翌日以降の車両の運行に多大な影響を与え、ダイヤ通りの運行が困難になり利用者に多大な不便をかけるおそれがあるため、河川の氾濫に関しては精度の高い予測が求められるという課題がある。
【0005】
特許文献1に記載されている発明は、数時間若しくは数日間先までの予測を行うことができるものの、河川氾濫の判定が得られる時間が氾濫の数時間前から数日前といったように時間幅が大きく、例えば24時間前のような早い段階で正確な予測が得られるものではないため、鉄道車両の避難タイミングの予測に利用するには課題がある。
この発明は上記のような背景のもとになされたものでその目的とするところは、比較的早い段階で、着目する地点の河川の氾濫発生を予測することができる豪雨時の河川氾濫予測方法および河川氾濫予測装置を提供することにある。
この発明の他の目的は、予測降雨量のみで判定する場合に比べて精度の高い判定が行える豪雨時の河川氾濫予測方法および河川氾濫予測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明は、
気象情報配信サーバより取得した数時間先の予測降雨量情報と実測降雨量情報とに基づいて判断対象の河川の氾濫を予測する豪雨時の河川氾濫予測方法において、
着目する水位観測所の上流側の河川流域情報を取得して流域を設定する第1ステップと、
前記第1ステップで設定された流域内の少なくとも24時間以上先の予測降雨量を所定時間ごとに取得し、流域内の平均予測降雨量を算出する第2ステップと、
前記第1ステップで設定された流域内の実測降雨量情報を前記所定時間ごとに取得し、流域内の平均実測降雨量を算出する第3ステップと、
前記第2ステップで算出された流域内の平均予測降雨量および前記第3ステップで算出された流域内の平均実測降雨量と、前記着目する水位観測所ごとに設定された計画降雨量とに基づいて判断対象の河川が氾濫するか否か判定する第4ステップと、
を含むようにしたものである。
【0007】
上記のような氾濫予測方法によれば、少なくとも24時間先の予測降雨量に基づいて上流側の河川流域の降雨量を算出して判断するため、気象庁より出される流域雨量指数を利用する場合よりも早い段階で、着目する地点の河川の氾濫発生を予測することができる。そして、これにより、鉄道車両を避難させるための準備作業を早めに開始させることができる。
【0008】
あるいは、気象情報配信サーバより取得した数時間先の予測降雨量情報と実測降雨量情報とに基づいて判断対象の河川の氾濫を予測する豪雨時の河川氾濫予測方法において、
着目する地点の上流側の河川流域情報を取得して流域を設定する第1ステップと、
前記第1ステップで設定された流域内の少なくとも24時間先の予測降雨量を所定時間ごとに取得し、流域内の平均予測降雨量を算出する第2ステップと、
前記第1ステップで設定された流域内の実測降雨量情報を前記所定時間ごとに取得し、流域内の平均実測降雨量を算出する第3ステップと、
前記第2ステップで算出された流域内の平均予測降雨量と前記第3ステップで算出された流域内の平均実測降雨量に基づいて、前記予測降雨量の取得時直前から予測先時間までの一定時間帯における所定時間の累計雨量の最大値を算出する第4ステップと、
前記第4ステップで算出された累計雨量の最大値が、前記着目する地点に対応して予め設定された降雨量判定値よりも多いか否か判定し、前記累計雨量の最大値が前記降雨量判定値を超えた場合に氾濫予測警報を出力する第5ステップと、
を含むようにする。
【0009】
上記のような氾濫予測方法によれば、少なくとも24時間先の予測降雨量に基づいて上流側の河川流域の降雨量を算出して判断するため、気象庁より出される流域雨量指数を利用する場合よりも早い段階で、着目する地点の河川の氾濫発生を予測することができる。 また、着目する河川上流側の流域における所定時間内の予測降雨量と実測降雨量の累計雨量の最大値と予め設定された判定値とを比較して判定するため、予測降雨量のみで判定する場合に比べて精度の高い判定が行える。
【0010】
ここで、前記着目する地点は判断対象の河川に設けられている水位観測所であり、前記降雨量判定値は国土交通省により水位観測所ごとに設定された計画降雨量であるようにする。
かかる方法によれば、既に公表されている情報を利用して適切な降雨量判定値を設定して、精度の高い氾濫発生予測を行うことができる。
【0011】
また、前記数時間先の予測降雨量情報は、気象庁より3時間ごとに発表される39時間先予測降雨量情報であるようにする。
上記のような方法によれば、高性能のスーパーコンピュータを使用して予測降雨量を出す気象庁より発表される情報を使用するため、自前のコンピュータを用いて予測降雨量を算出する場合に比べて、容易かつ迅速に氾濫発生予測を行うことができる。
【0012】
さらに、前記実測降雨量情報は、気象庁より1時間ごとに発表される降雨量情報であるようにする。
上記のような方法によれば、きめ細かな情報網を用いて収集した情報を使用して実測降雨量を算出する気象庁より発表される情報を使用するため、自前の情報網を用いて収集した情報を使用して実測降雨量を算出する場合に比べて、低コストで氾濫発生予測を行うことができる。
【0013】
本出願の他の発明は、
気象情報配信サーバより取得した数時間先の予測降雨量情報と実測降雨量情報とに基づいて判断対象の河川の氾濫を予測する豪雨時の河川氾濫予測装置において、
着目する水位観測所の上流側の河川流域情報を取得して流域を設定する流域設定手段と、
前記流域設定手段により設定された流域内の少なくとも24時間先の予測降雨量に基づいて流域内の平均予測降雨量を算出する予測降雨量算出手段と、
前記流域設定手段により設定された流域内の実測降雨量情報に基づいて流域内の平均実測降雨量を算出する実測降雨量算出手段と、
前記平均予測降雨量と前記平均実測降雨量に基づいて、前記予測降雨量情報の取得時直前から予測先時間までの一定時間帯における所定時間の累計雨量の和を算出し、該累計雨量の和が前記水位観測所に設定されている計画降雨量よりも多いか否か判定する氾濫予測判定手段と、を備えるようにしたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の豪雨時の河川氾濫予測方法および河川氾濫予測装置によれば、比較的早い段階で、着目する地点の河川の氾濫発生を予測することができる。また、それにより集中豪雨発生時に例えば車両留置箇所に留置中の鉄道車両を避難させ、河川の氾濫によって車両留置箇所が冠水して留置中の鉄道車両が水に浸かる被害が発生するのを防止することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る豪雨時の河川氾濫予測方法を適用する氾濫予測システムの構成例を示すブロック図である。
図2】(A)は本発明に係る豪雨時の河川氾濫予測方法における流域降雨と計画高水位の関係を示す概略図、(B)は本発明に係る豪雨時の河川氾濫予測方法を適用する予測対象箇所と河川および流域の例を示した地図である。
図3】本発明に係る豪雨時の河川氾濫予測方法の手順の一例を示すフローチャートである。
図4】実施形態の河川氾濫予測方法により予測処理を行う際に使用する降雨量の実測値と雨量の予測値の時系列データの例を示す図表である。
図5】実施形態の河川氾濫予測方法により予測処理の途中で算出される予測雨量および実測雨量の時系列データの例を示す図表である。
図6】実施形態の河川氾濫予測方法を過去に発生した河川氾濫時のデータに適用して得られた2日間雨量の変化を示すグラフである。
図7】実施形態の河川氾濫予測方法を過去に発生した豪雨で河川が氾濫しなかった時のデータに適用して得られた3日間雨量の変化を示すグラフである。
図8】実施形態の河川氾濫予測方法を過去に発生した豪雨で他の河川が氾濫しなかった時のデータに適用して得られた2日間雨量の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る豪雨時の河川氾濫予測方法の一実施形態を説明する。本発明に係る豪雨時の河川氾濫予測方法の基本的な考え方は、流域降雨量を判断指標として使用し、計画降雨量を判断基準として、着目する地点での氾濫を予測するというものである。
本発明を適用するに当たっては、先ず判断したい箇所を選定し、国土交通省が公表している河川に関する資料から、選定した箇所に隣接する河川に設けられている水位観測所のうち選定箇所に最も近い水位観測所を、着目する地点として決定する。そして、着目する地点の水位観測所の計画高水位を調べるとともに、その水位観測所の上流側の河川流域を設定する。
【0017】
ここで、計画高水位は、河川構造を決めるための確率降雨量(河川の流域に降る雨水の平均値)である計画降雨量に相当する量の雨が降った場合の河川流量および河川幅に基づいて定めた河川水位であり、当該河川の堤防は、図2(A)に示すように、計画高水位に基づいて高さが設計され造築される。従って、流域降雨量が計画高水位を超えると、河川が氾濫する危険性が高くなると言える。
【0018】
また、流域降雨量は、気象庁が1時間ごとに発表する現在までの降雨量(実測値)と、気象庁が3時間ごとに発表する39時間先の予測降雨量とを加算することで算出する雨量である。降雨量は、図2(B)に示すように、5km間隔の格子状に区分けした領域ごとの実測降雨量および予測降雨量として発表される。一方、各河川の流域の範囲に関しては、国土交通省が公開している情報があるので、それを利用することができる。河川の流域Bの一部でも重なっている格子については、降雨量の算出の対象として組み込む。なお、図2(B)において、星印が付されているのは車両留置所のような浸水を予測したい箇所、△印が付されているのは予測箇所に最も近い水位観測所である。
【0019】
図1は、本実施形態の豪雨時の河川氾濫予測方法を適用する氾濫予測システムの構成例を示すブロック図である。
図1に示すように、氾濫予測システムは、マイクロコンピュータなどからなる河川氾濫予測装置10と、該装置とインターネットのような通信ネットワークNWを介して気象情報配信サーバ20とにより構成されている。気象情報配信サーバ20は、各地域の降雨量の実測値や39時間先の予測降雨量を提供するサーバであり、気象庁が管理するサーバを利用することができる。また、通信ネットワークNには、各河川に設けられている水位観測所での水位の実測値や各河川の流域情報、各水位観測所の計画降雨量など河川に関する情報を提供する河川情報サーバ30が接続されている。河川情報サーバ30は、国土交通省が管理するサーバを利用することができる。
【0020】
河川氾濫予測装置10は、マイクロプロセッサ(CPU)のような演算処理装置11、RAMやROM、キーボードやマウスなどの入力装置12、ハードディスクドライバなどの記憶装置13、液晶ディスプレイのような表示装置14、通信ネットワークNWを介して気象情報配信サーバ20や河川情報サーバ30との間でデータ通信を行う通信装置15、これらの機能ブロック間を接続するバス16などを備えたパーソナルコンピュータなどからなるデータ処理装置により構成されている。
【0021】
上記記憶装置13には、本発明に係る豪雨時の河川氾濫予測方法を実行するプログラムが格納されており、演算処理装置11と記憶装置13に格納されているプログラムとの協働によって、各種機能や着目する水位観測所よりも上流側の河川流域における降雨量を算出する実測降雨量算出手段、河川流域における今後予測される降雨量を算出する予測降雨量算出手段、河川氾濫判定手段などが実現される。
【0022】
次に、上記河川氾濫予測装置10を利用した本実施形態の豪雨時の河川氾濫予測方法の処理手順の一例について、図3のフローチャートを用いて説明する。図3のフローチャートに従った処理は、河川氾濫予測装置10を構成する演算処理装置11が、記憶装置13内に記憶されている河川氾濫予測プログラムを実行することで実施される。図3のフローチャートの処理は、判断したい箇所(例えば車両留置所)を選定してその選定箇所に最も近い水位観測所を設定してから、氾濫予測プログラムを実行させることで開始される。なお、以下に説明する処理手順は一例であって、これに限定されるものでない。
【0023】
図3の河川氾濫予測処理においては、先ず、設定された水位観測所の水位観測所の計画降雨量を河川情報サーバ30内のデータを検索して取得するとともに、その水位観測所の上流側の河川流域情報を取得して流域を設定する(ステップS1)。
次に、気象情報配信サーバ20より39時間先の予測降雨量が発表されているか否か判定する(ステップS2)。ここで、39時間先の予測降雨量が発表されていると判定すると、ステップS2で設定した流域の39時間先の予測降雨量を取得する(ステップS3)。
【0024】
続いて、ステップS3で取得した予測降雨量に基づいて、今後39時間以内に設定流域内で降ると予測される平均降雨量を算出する(ステップS4)。次に、気象情報配信サーバ20より直近3時間の着目流域内における実測降雨量を取得し(ステップS5)、流域内の平均実測降雨量を算出する(ステップS6)。
そして、次に、上記ステップS4で算出した平均予測降雨量とステップS6で算出した平均実測降雨量とに基づいて、前記予測降雨量の取得時直前から予測先時間までの一定時間帯(例えば84時間)における所定時間の累計雨量として、2日間平均降雨量または3日間平均降雨量に相当する降雨量を算出しその最大値を取得する(ステップS7)。
【0025】
ここで、2日間平均降雨量または3日間平均降雨量に相当する降雨量を算出するとしたのは、国土交通省が発表している計画降雨量が、2日間降雨量または3日間降雨量をもとにして決定しているためである。具体的には、例えば千曲川や多摩川沿いの水位観測所の計画降雨量は2日間降雨量をもとにして決定され、荒川沿いの水位観測所の計画降雨量は3日間降雨量をもとにして決定されているものが多い。
【0026】
その後、ステップS7で取得された累計雨量の最大値が、着目する水位観測所の計画降雨量よりも多いか否かすなわち累計雨量の最大値が計画降雨量を超えたか否か判定する(ステップS8)。ここで、累計雨量の最大値が、着目する水位観測所の計画降雨量を超えていない(No)と判定すると、ステップS2へ戻って上記ステップS2~S7の処理を繰り返す。一方、ステップS8で、累計雨量の最大値が着目する水位観測所の計画降雨量を超えた(Yes)と判定すると、ステップS9へ進み、表示装置14により河川氾濫の警報を出力する。なお、累計雨量の最大値と計画降雨量とを比較する代わりに、最大値を求める前の各累計雨量と計画降雨量とをそれぞれ比較するようにしても良い。
【0027】
上記のような手順に従った河川氾濫予測処理を実行することにより、着目する地点で実際に河川氾濫が起きるタイミングよりも相当前の時点(例えば24時間前)に、河川氾濫が起きることを予測して報知することができる。その結果、国や自治体が公表しているハザードマップで浸水のおそれのあるとされる危険エリアに存在している車両留置箇所の近傍の河川の氾濫の判断に適用した場合には、早い段階で河川氾濫を予測し、車両留置箇所に留置されている車両や今後留置が予定されている車両を、比較的余裕をもって浸水のない安全な標高位置にある線路へ退避させることができる。
【0028】
次に、図4図6を用いて、本発明者らが、過去に河川氾濫が発生した豪雨の中から令和元年10月10日~13日の台風19号に伴う豪雨で千曲川において発生した氾濫を選択して、上記手順に従った河川氾濫予測方法を適用してシミュレーションを行なった結果について説明する。なお、着目した水位観測所は、氾濫箇所に最も近い下流側の立ヶ花観測所であり、その計画降雨量は186mmであった。
【0029】
図4には、上記ステップS3で取得した気象庁発表の39時間先の予測降雨量に基づいてステップS4で算出した3時間ごとの設定流域内における平均予測降雨量と、上記ステップS5で取得した流域内降雨量の実測値に基づいて上記ステップS6で算出した平均実測降雨量とを、時系列の表形式で記載した例が示されている。
なお、図4において背景がグレーになっている領域の数値は実測値に基づく平均降雨量で、背景が白になっている領域の数値は予測値に基づく平均降雨量である。ステップS7では2日間雨量すなわち48時間雨量が算出されるので、図4の列ごとに16個の数値が累計される。
【0030】
図5には、上記ステップS7で取得した所定時間の累計雨量(2日間平均降雨量に相当する降雨量)の最大値と、この最大値の内訳に相当する実測降雨量および予測降雨量を時系列の表形式で記載したものが示されている。
図5の左から2番目の列はステップS7で取得した所定時間の最大累計雨量、右から2番目の列は最大累計雨量に占める実測降雨量合計値、最も右側の列は最大累計雨量に占める予測降雨量合計値である。なお、図5は10日から13日までの4日間の雨量が表記されている。紙面の大きさの都合で、図4には10日0時から11日18時までの雨量のデータを表記し、11日21時以降のデータの表記は省略した。
【0031】
ここで、図4および図5を用いて、ステップS7における所定時間の累計雨量の最大値(最大累計雨量)の算出の仕方について、一例として図5において四角で囲まれている11日18時のデータを例にとって説明する。
本実施例においては、予測雨量発表時点直前の84時間内における2日間すなわち48時間の雨量の最大値を求めるので、ステップS7では、先ず3時間ごとのデータを表わす図4において実線で囲まれた16個のデータの累計から、破線で囲まれた16個のデータの累計まで、1段(1セル)ずつずらしながら合計12個の累計値を算出する。
【0032】
次に、算出された12個の累計値の中から最大のものを選択する。そして、この最大値を図5の「予測降雨量+実測降雨量の最大値」の欄に記入する。図4に示す11日18時のデータの場合、実線で囲まれた16個のデータの累計値(185.2)が最も大きいので、この値が図5に記入されることとなる。また、図3の氾濫予測処理を適用した場合、この時点で最大値は立ヶ花観測所の計画降雨量(186mm)を超えていないので、氾濫予測警報は出されないが、12日0時の最大値(196.3mm)は計画降雨量(186mm)を超えるのでこの時点で氾濫予測警報が出されることとなる。
【0033】
なお、上記説明より、予測降雨量+実測降雨量の最大値を算出せずに、11日18時に直近の48時間の(予測降雨量+実測降雨量)を算出した値(185.2)でも立ヶ花観測所の計画降雨量(186mm)にかなり近いので、氾濫の危険性が高いと判断して警報を出すようにしても良いことが分かる。
ただし、このようにして出した警報により、車両の避難等を開始すると、警報が誤りであった場合の影響が非常に大きいので、氾濫予測警報の精度を高めるためには、上記のように、予測降雨量+実測降雨量の最大値を算出するとともに、氾濫判定値を例えば計画降雨量を5%割増しした値(195mm)に設定することが考えられる。そして、このようにしたとしても、図6より、12日0時~3時の段階、つまり氾濫の24時間以上前に氾濫予測警報を出すことができることが分かる。
【0034】
図6は、図5の表を棒グラフとして表わしたものである。図6において、メッシュが付されている棒は上記最大累計雨量に占める39時間平均予測降雨量、ハッチングが付されている棒は上記最大累計雨量に占める実測平均降雨量で、1つの棒全体が上記最大累計雨量を表わしている。また、破線RLで示されているのは立ヶ花観測所の計画降雨量、符号Taが付されているタイミングは、令和元年の台風19号で実際に千曲川において氾濫が発生した時刻である。
【0035】
図6から分かるように、実際に千曲川において氾濫が発生した時刻が13日3時頃であるのに対して、グラフでは12日0時に最大累計雨量が計画降雨量RLを超えている。従って、図3のフローチャートによる処理で、累計雨量が計画降雨量RLを超えたことを判定した時点で警報を出すことによって、実際の氾濫発生のおよそ24時間前に警報を出すことができたことが分かる。
【0036】
次に、比較のため、令和元年10月10日~13日の台風19号に伴う豪雨で荒川と多摩川において発生した事象を選択して、上記実施例の河川氾濫予測方法を適用して上記と同様なシミュレーションを行なった結果について説明する。なお、着目した水位観測所は、荒川においては治水橋観測所、多摩川においては田園調布観測所であり、治水橋観測所の計画降雨量は548mm、田園調布観測所の計画降雨量は457mmであった。
【0037】
図7には荒川の治水橋観測所に着目してシミュレーションを行なって得られた39時間平均予測降雨量と実測平均降雨量との最大累計雨量を表わしたグラフが、図8には多摩川の田園調布観測所に着目してシミュレーションを行なって得られた39時間平均予測降雨量と実測平均降雨量の最大累計雨量を表わしたグラフが示されている。なお、荒川の治水橋観測所に関しては3日間雨量で計画降雨量が設定され、多摩川に関しては2日間雨量で計画降雨量が設定されているので、図7のグラフは縦軸に3日間雨量を、図8のグラフは縦軸に2日間雨量を表わした。
【0038】
図7より、荒川に関しては最大累計雨量が計画降雨量RLを超えることはなく、図8より、多摩川に関しては最大累計雨量が計画降雨量RLにほぼ一致した状態が長時間にわたって続いており、令和元年10月の台風19号が上陸した際に、実際に荒川と多摩川で発生した状況に類似していることが分かる。
以上説明したように、上記実施形態の豪雨時の河川氾濫予測方法によれば、24時間以上前にかなり正確に河川の氾濫を予測して警報を出すことができる。
【0039】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではない。例えば前記実施例では、上流側の河川流域を水位観測所からの距離にかかわらず一律に扱っているが、水位観測所から流域までの距離に応じて、算定する雨量に時間差を設定して判断するようにしても良い。
また、前記実施形態の氾濫予測処理(図3のフローチャート)では、ステップS3で気象庁が発表した39時間先の予測降雨量を取得しているが、予測降雨量は気象庁が発表するものに限定されないとともに、時間に関しても39時間先に限定されず、例えば24時間よりも前に氾濫発生の予測結果を得たいのであれば、少なくとも24時間以上先の予測値を取得すれば良い。
【0040】
また、前記実施形態の氾濫予測処理では、ステップS7で最大累計雨量が計画降雨量を超えた(Yes)と判定したらステップS8へ進んで警報を出しているが、最大累計雨量が計画降雨量を超えたと判定したら一端ステップS2へ戻り、再度ステップS7で最大累計雨量が計画降雨量を超えたと判定した場合、つまり2回続けて計画降雨量を超えたと判定した場合にステップS8へ進み、河川氾濫の警報を出力するようにしても良い。
また、氾濫発生の予測の判定までを河川氾濫予測装置10で行い、判定結果を他の装置へ送信して警報を別の装置で出力させるようにシステムを構成しても良い。
【0041】
さらに、前記実施形態では、気象情報配信サーバ20として気象庁が管理するサーバを使用するとしたが、気象情報を提供する民間の会社が運営するサーバを使用するようにしても良い。また、河川や流域に関する情報を国土交通省が管理するサーバから取得する説明したが、これらの情報は予め河川氾濫予測装置10の記憶装置13にデータベースとして用意しておくようにしても良い。
以上、本発明を豪雨時に車両を冠水のおそれがある車両留置箇所から避難させる際の判断するシステムに適用することを想定して説明したが、本発明は、鉄道以外の例えばバスやトラックの退避や住民の避難などのタイミングを判断するシステムにも利用することができる。
【符号の説明】
【0042】
10 河川氾濫予測装置
11 演算処理装置
12 入力装置
13 記憶装置
14 表示装置
15 通信装置
16 バス
20 気象情報配信サーバ
30 河川情報サーバ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8