(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】シリカガラスキャップの製造方法及びシリカガラスキャップ
(51)【国際特許分類】
C03B 20/00 20060101AFI20231107BHJP
H01L 33/58 20100101ALI20231107BHJP
【FI】
C03B20/00 C
C03B20/00 E
H01L33/58
(21)【出願番号】P 2020110726
(22)【出願日】2020-06-26
【審査請求日】2022-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】507182807
【氏名又は名称】クアーズテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100194124
【氏名又は名称】吉川 まゆみ
(74)【代理人】
【識別番号】100131026
【氏名又は名称】藤木 博
(72)【発明者】
【氏名】ヴァレプ ラメッシュ
(72)【発明者】
【氏名】宮本 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 弘明
(72)【発明者】
【氏名】上本 英雄
(72)【発明者】
【氏名】横山 優
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-046826(JP,A)
【文献】国際公開第2019/186693(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/208855(WO,A1)
【文献】特開2020-117425(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 20/00,
H01L 33/52-33/60,23/02-23/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカガラスよりなるキャップ部とフランジ部とを有し、前記フランジ部の裏面に金属層が形成されたシリカガラスキャップの製造方法であって、
シリカ粉原料と、分散剤と、ゲル化剤と、ゲル化剤の硬化剤と、水とを含むスラリーを成形型に流し込み、ゲルキャスト法により、フランジ成形部に複数のキャップ成形部がアレイ状に配列されたキャップアレイ形状成形体を形成する成形体形成工程と、
前記成形体形成工程の後、前記キャップアレイ形状成形体を焼結し、フランジ焼結部に複数のキャップ焼結部がアレイ状に配列されたキャップアレイ形状焼結体を得る焼結体形成工程と、
前記焼結体形成工程の後、前記キャップアレイ形状焼結体に対し、前記フランジ焼結部の裏面を必要に応じて平坦に加工し、少なくともその一部に、乾式めっきにより金属層を形成する金属層形成工程と、
前記金属層形成工程の後、前記キャップアレイ形状焼結体を前記キャップ焼結部毎に個片化するように切断し、個片化した前記キャップ焼結部よりなるキャップ部と前記フランジ焼結部よりなるフランジ部とを有するシリカガラスキャップを形成する切断工程と
を含むことを特徴とするシリカガラスキャップの製造方法。
【請求項2】
前記フランジ部の辺の長さは2.5mm以上5mm以下、前記フランジ部の厚みは0.3mm以上、前記キャップ部の高さは0.75mm以上、前記キャップ部の外径と内径の中心位置ズレが100μm以下、前記キャップ部の裏面の表面粗さは50nm、前記フランジ部の平行度は100μm以下であることを特徴とする請求項1記載のシリカガラスキャップの製造方法。
【請求項3】
前記金属層形成工程において、乾式めっきは、真空蒸着法、スパッタリング法、又は、イオンプレーティング法であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のシリカガラスキャップの製造方法。
【請求項4】
前記キャップアレイ形状焼結体のフランジ焼結部の厚みは1mm以上、辺の長さは30mm以上とすることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1に記載のシリカガラスキャップの製造方法。
【請求項5】
前記成形体形成工程において、前記キャップアレイ形状成形体に、前記金属層を形成する際に位置合わせをするための金属層用アライメントを形成することにより、前記キャップアレイ形状焼結体に金属層用アライメントを形成することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1に記載のシリカガラスキャップの製造方法。
【請求項6】
前記シリカ粉原料は、真球度が0.9以上、平均粒径が3μm以下であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1に記載のシリカガラスキャップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に発光ダイオード(Light Emitting Diode;LED)のキャップに適したシリカガラスキャップの製造方法及びシリカガラスキャップに関する。
【背景技術】
【0002】
水銀ランプの規制に伴い、代替として短い波長、特に紫外線領域の光を出すことができるUV(ultraviolet)-LEDが注目されている。LEDは、任意の波長を取り出すことができ、用途に応じた波長のLEDが開発されている。例えば、UV領域である265nmの波長は、細菌のDNAを破壊することに有効な波長であることが知られており、265nmの波長の光を出すUV-LEDが殺菌用途として開発されている。UV-LEDは、シリカガラス製のキャップ又はレンズと光学素子が配置されているセラミックス筐体とをパッケージングして使用されている。シリカガラスは、高温でも安定しており、紫外線などの光の透過性に優れ、また、自身が紫外線などで劣化しないため、LEDのキャップやレンズなどの材料としてとても好ましい。なお、パッケージングの方法としては、一般的に、キャップ又はレンズとセラミックス筐体との接合にAu-Sn(金-錫)はんだが使用されている。気密性が良く、信頼性が高いからである(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-344978号公報
【文献】特願2017-164573号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、シリカガラスキャップと、セラミックス筐体とは、Au-Snはんだで直接接合することが難しい。そこで、シリカガラスキャップの接合面にAu(金)等の金属層を形成し、この金属層を介して、シリカガラスキャップとセラミックス筐体とをAu-Snはんだにより接合することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。シリカガラスに対する金属層の成膜手法としては、湿式めっきと乾式めっきがあるが、乾式めっきの方が、より高純度な金属層を成膜することができるので好ましい。
【0005】
しかしながら、LED用のシリカガラスキャップは非常に小さい小片であるので、ハンドリング性が悪い。その結果、露光時の位置合わせが難しく、金属層のパターンの位置精度が悪くなるという問題があった。また、洗浄後に、金属層をパターニングする箇所に接触して汚染してしまい、成膜前の清浄度不足により金属層について良好な密着力を得ることができないという問題もあった。
【0006】
本発明は、このような問題に基づきなされたものであり、金属層について良好な密着力を得ることができ、かつ、高精度なパターン形成をすることができるシリカガラスキャップの製造方法及びシリカガラスキャップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のシリカガラスキャップの製造方法は、シリカガラスよりなるキャップ部とフランジ部とを有し、フランジ部の裏面に金属層が形成されたシリカガラスキャップを製造するものであって、シリカ粉原料と、分散剤と、ゲル化剤と、ゲル化剤の硬化剤と、水とを含むスラリーを成形型に流し込み、ゲルキャスト法により、フランジ成形部に複数のキャップ成形部がアレイ状に配列されたキャップアレイ形状成形体を形成する成形体形成工程と、成形体形成工程の後、キャップアレイ形状成形体を焼結し、フランジ焼結部に複数のキャップ焼結部がアレイ状に配列されたキャップアレイ形状焼結体を得る焼結体形成工程と、焼結体形成工程の後、キャップアレイ形状焼結体に対し、フランジ焼結部の裏面を必要に応じて平坦に加工し、少なくともその一部に、乾式めっきにより金属層を形成する金属層形成工程と、金属層形成工程の後、キャップアレイ形状焼結体をキャップ焼結部毎に個片化するように切断し、個片化したキャップ焼結部よりなるキャップ部とフランジ焼結部よりなるフランジ部とを有するシリカガラスキャップを形成する切断工程とを含むものである。
【0008】
本発明のシリカガラスキャップは、本発明のシリカガラスキャップの製造方法により得られたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ゲルキャスト法によりキャップアレイ形状成形体を形成し、焼結してキャップアレイ形状焼結体とし、フランジ焼結部の裏面の少なくとも一部に金属層を形成した後、キャップ焼結部毎に個片化するようにしたので、複数のキャップ焼結部を結合した大きなキャップアレイ形状焼結体の状態で、加工したり、金属層を形成することができ、正確性やハンドリング性を改善することができる。よって、露光時の位置合わせが容易となり、金属層のパターンの位置精度を向上させることができると共に、洗浄後に、金属層をパターニングする箇所に接触して汚染してしまうことを抑制することができ、金属層について良好な密着力を得ることができる。従って、例えば、フランジ部の辺の長さが2.5mm以上5mm以下の非常に小さく、かつ、精密な形状に加工されたシリカガラスキャップを容易に得ることができる。
【0010】
また、金属層を乾式めっきにより形成するようにしたので、金属層の純度及び緻密性を高めることができ、筐体と良好に接合することができる。
【0011】
更に、キャップアレイ形状成形体のフランジ成形部の厚みや辺の長さを、ある程度大きくすることができるので、キャップアレイ形状焼結体のフランジ焼結部の平行度、すなわちフランジ部の平行度を高めることができ、キャップ部の傾きを小さくして、配向のばらつきを小さくすることができる。
【0012】
加えて、キャップアレイ形状焼結体のフランジ焼結部の厚みを1mm以上、辺の長さを30mm以上とするようにすれば、金属層を形成する際のハンドリング性を高めることができ、良好な金属層を形成することができる。
【0013】
更にまた、キャップアレイ形状成形体に、金属層を形成する際に位置合わせをするための金属層用アライメントを形成することにより、キャップアレイ形状焼結体に金属層用アライメントを形成するようにすれば、金属層の形成位置精度をより高めることができる。
【0014】
加えてまた、シリカ粉原料の真球度を0.9以上、平均粒径を3μm以下とするようにすれば、流動性と充填性を高めることができ、キャップアレイ形状成形体の収縮量のばらつきを小さくすることができ、品質を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るシリカガラスキャップの製造方法により作製するシリカガラスキャップの構造を表す図である。
【
図2】本発明の一実施の形態に係るシリカガラスキャップの製造方法の工程を表す流れ図である。
【
図3】
図2に示したシリカガラスキャップの製造方法の一工程を表す図である。
【
図4】
図2に示したシリカガラスキャップの製造方法の他の一工程を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施の形態に係るシリカガラスキャップの製造方法により製造するシリカガラスキャップ10の構成を表すものである。
図1において、(A)は表側から見た構成を表し、(B)は(A)の側面図を表している。このシリカガラスキャップ10は、シリカガラスよりなるキャップ部11とフランジ部12とを有し、フランジ部12の裏面に金属層13が形成されている。このシリカガラスキャップ10は、例えば、LED用キャップとして用いられるものであり、LEDが配設された筐体に対して配設される。なお、このシリカガラスキャップ10において、表側というのはキャップ部11が突出している側を意味し、裏面というのは表側と反対の裏側の面を意味している。また、フランジ部12の裏面とは、キャップ部11が突出して形成された面と反対側の平らな面のことである。なお、
図1(A)では、金属層13の位置を破線及び梨地で表している。
【0018】
キャップ部11は、中空の非球面や長球状など種々の形状で良いが、例えば、中空の半球状であり、フランジ部12から表側に突出して設けられている。キャップ部11の高さHは、好ましくは、0.75mm以上である。0.75mm未満だとキャップ形状の転写性が悪化し、精度の良いキャップを得ることが難しくなる。1mm以上だとなお好ましい。また、キャップ部11の高さHは、例えば、10mm以下である。キャップ部11の外径と内径の中心位置ズレは、100μm以下とすることが好ましい。100μm以下とすることで光の配向のばらつきを小さくすることができる。キャップ部11の裏面の表面粗さRaは50nm以下であることが好ましい。表面粗さRaが50nmよりも大きいと、光の散乱が大きくなり、LED用キャップとして用いた時に、光の取り出し効率が悪くなるからである。そのため、必要に応じて研磨などの加工を行い50nm以下にすることが好ましい。また、裏面に限らず、キャップ部11の表面も同様の理由で50nm以下の表面粗さであることが好ましい。
【0019】
フランジ部12は、例えば、LEDが配設された筐体に対して配設するためのものであり、フランジ部12の裏面が筐体に対する接合部となっている。フランジ部12は、例えば、キャップ部11の周縁部に設けられており、表面側から見た外周形状は矩形状とされている。フランジ部12の辺の長さLは、例えば、2.5mm以上5mm以下であるが、3mm以上5mm以下であれば、各段に製造しやすくなり好ましい。フランジ部12の厚みTは0.3mm以上であることが好ましい。0.3mmよりも薄いと、筐体と接合する際に、破損しやすくなるからである。フランジ部12の平行度は100μm以下であることが好ましい。100μmよりも大きいと、キャップ部11の傾きが大きくなり、配向のばらつきが大きくなるからである。なお、フランジ部12の平行度が100μm以下というのは、フランジ部12の表面から裏面までの距離の最大長さと最小長さとの差が100μm以下ということを意味している。
フランジ部裏面の表面粗さRaも50nm以下であることが好ましい。50nmよりも大きいと金属層を平坦に形成する際に支障が出やすくなるからである。
【0020】
金属層13は、フランジ部12と筐体とをはんだにより接合する際に、はんだとの相性を向上させ、良好に接合するためのものである。金属層13は、Au層13Aを有していることが好ましい。AuはAuSnはんだと反応して合金化するので相性が良いからである。Au層13Aの厚みは、Au層13Aの多くがAuSnはんだと反応して金属間化合物となり強度が低下したり、剥離したりせず、また、凝集したりしない範囲で適宜設定すればよい。
【0021】
金属層13は、また、Au層13Aとフランジ部12との間には、下地層13Bを有していることが好ましい。フランジ部12の濡れ性を改善し、良好なAu層13Aを形成することができるようにするためである。下地層13Bは、Cu(銅)層、Cr(クロム)層、Ti(チタン)層、Pt(白金)層などの中から1種以上からなることが好ましく、Cu層又はCr層とその表面に設けたNi(ニッケル)層とを含むようにしてもよい。Ni層は酸化を防止するためのものである。金属層13の厚みは、応力を緩和しつつ、強度を保持することができる範囲で適宜設定すればよい。
【0022】
図2は、本発明の一実施の形態に係るシリカガラスキャップの製造方法の流れを表すものである。
図3及び
図4は、製造方法における一工程を表すものである。
図3は横から見た図、
図4は裏面から見た図である。このシリカガラスキャップの製造方法は、例えば、ゲルキャスト法によりキャップアレイ形状成形体20を形成する成形体形成工程(ステップS101)と、成形体形成工程の後、キャップアレイ形状成形体20を焼結してキャップアレイ形状焼結体30を得る焼結体形成工程(ステップS102)と、焼結体形成工程の後、キャップアレイ形状焼結体30の裏面を必要により研磨等の加工をし、キャップアレイ形状焼結体30に対し金属層13を形成する金属層形成工程(ステップS103)と、金属層形成工程の後、キャップアレイ形状焼結体30を切断する切断工程(ステップS104)とを含んでいる。
【0023】
成形体形成工程(ステップS101)では、例えば、シリカ粉原料と、分散剤と、ゲル化剤と、ゲル化剤の硬化剤と、水とを含むスラリーを成形型に流し込み、ゲルキャスト法により、アレイ状に並べた複数のキャップ成形部21がフランジ成形部22により結合されたキャップアレイ形状成形体20を形成する(
図3参照)。ゲルキャスト法によれば、シリカ粉原料と、分散剤と、ゲル化剤と、ゲル化剤の硬化剤と、水とを含むスラリーをキャップアレイ形状の成形型に流し込んで成形し、乾燥後、成形体の形状を維持して脱型することができるので、精度良くキャップアレイ形状成形体20を得ることができ、その後、焼結することにより、精度の良いシリカガラス製のキャップアレイ形状焼結体30を簡単に得ることができるからである。キャップアレイ形状の成形型は、下型の凹部と上型の凸部の中心位置を合わせて組み立てた成形型を用いることが好ましく、これにより外径と内径の中心位置ズレを100μm以下とした高精度なキャップ部11を形成することができる。
【0024】
なお、キャップアレイの製造方法としては、シリカガラスの板材などからの機械加工やプレス成形等も考えられる。しかし、機械加工ではキャップアレイ専用の加工装置が必要となり、容易に製造することが難しく、プレス成形では高温に耐えられる高精度な金型が必要となり、また成型の降温時にシリカガラスの収縮で金型に食い込み、キャップアレイが破損する問題があるので好ましくない。
【0025】
成形体形成工程(ステップS101)において用いるシリカ粉原料は、真球度が0.9以上1以下であり、平均粒径が3μm以下であることが好ましい。流動性と充填性を高めることができるので、キャップアレイ形状成形体20の収縮量のばらつきを小さくすることができ、品質を安定させることができるからである。また、シリカ粉原料の平均粒径があまりに小さすぎると、スラリーの混錬や成形体の乾燥などに時間がかかりすぎてしまうため、平均粒径はサブミクロン(0.1μm)以上とすることが好ましい。
このようなシリカ粉原料を用い、表面粗さが0.05μm以下の成形型を用いれば、表面粗さの小さなシリカガラスキャップを得ることが可能である。
【0026】
なお、本発明における真球度とは、ひとつのシリカ粉における最大直径に対する最小直径の比によって表され、真球度の値は、シリカ粉の電子顕微鏡写真において、ランダムに20個の紛を選んで、それぞれの最大直径と最小直径を測定して算定したものである。また、本発明において平均粒径は、BET法により測定する。本発明で用いるシリカ粉原料において、真球度が0.9以上1以下のシリカ粉がシリカ原料粉全体の90%以上、好ましくは100%を占めている。
【0027】
シリカ粉原料は、不純物の含有量ができるだけ少ないほうが好ましい。紫外線透過性を高めることができるからである。このシリカ粉原料を用いて製造したシリカガラスキャップ10には、Na(ナトリウム)、Mg(マグネシウム)、Al(アルミニウム)、K(カリウム)、Ca(カルシウム)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Mn(マンガン)、Fe(鉄)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)およびMo(モリブデン)から選ばれる一種以上の元素がシリカの重量に対して合計2ppm以下の量で含まれていてもよい。2ppm以下であれば、紫外線透過率を大きく低下させることもなく、焼結体の強度向上効果も期待できるからである。これらの元素は、シリカガラスキャップ10を製造するに際して、シリカ粉原料以外の材料、例えば、ゲル化剤、ゲル化剤の硬化剤、分散剤からも混入するため、これらについても純度の高いものを用いることが必要である。これらの不純物の種類および含有量はICP発光分光分析により測定することができる。
【0028】
成形体形成工程(ステップS101)において用いる分散剤としては、例えば、ポリカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリエーテル酸、ポリエチレングリコール、ポリエチレンイミンを挙げることができる。ゲル化剤としては、例えば、水系エポキシ、アクリルアミド、水性ポリオールを挙げることができる。ゲル化剤の硬化剤(架橋剤)としては、例えば、ポリアミノアミド、変性ポリアミン、ポリエチレンイミン、メチレンビスアクリルアミド、水性イソシアネートを挙げることができる。なお、ゲル化剤又は硬化剤は分散剤を兼ねていても良い。
【0029】
成形体形成工程(ステップS101)では、例えば、シリカ粉原料にイオン交換水、分散剤、ゲル化剤、およびゲル化剤の硬化剤(架橋剤)等を混合してスラリーを調製する。例えば、エポキシモノマー(ゲル化剤)とアミン系架橋剤(ゲル化剤の硬化剤)の重合反応、アクリルモノマー(ゲル化剤)と架橋剤アクリルアミド(ゲル化剤の硬化剤)の重合反応によるゲル化により成形することができる。
【0030】
シリカ粉原料にイオン交換水、分散剤を投入した後、ゲル化剤とゲル化剤の硬化剤(架橋剤)の投入順番は、特に問題とされない。すなわち、成形型に鋳込む際のスラリーが、シリカ粉原料にイオン交換水、分散剤、ゲル化剤、およびゲル化剤の硬化剤(架橋剤)等を混合したものであれば良い。スラリーの粘度は、600mPa・s以下、更には、400mPa・s以下であれば、成形型に鋳込みやすいので好ましく、100Pa・s以上とすれば、スラリーを成形型の中にいきわたらせ泡が残りにくいので好ましい。
【0031】
また、スラリーには必要に応じて、反応促進剤を添加してもよい。この反応促進剤としては、過硫酸アンモニウムなどを挙げることができる。
【0032】
成形体形成工程(ステップS101)では、例えば、成形型にスラリーを流し込み、室温で硬化させ、硬化時間はおよそ0.5時間以上3時間以下に設定される。室温とは、およそ5℃~30℃の範囲をいう。成形型としては、常温付近の温度でシリカ粉原料を含むスラリーを流し込んだ際に、形状が維持できるものであればよく、種々の樹脂材質の成形型を使用することができる。樹脂製の成形型には、例えば、ポリプロピレン(PP)製、ポリエチレン(PE)製、アクリル(PMMA)製、フッ素樹脂(PTFE)製、またはシリコーン製の成形型が挙げられる。成形型の表面粗さRaは0.1μm以下であることが好ましい。キャップアレイ形状成形体20に微細な凹凸(形状)を転写しないためであり、また脱型時に欠けや傷を防止するためである。
【0033】
成形型には、成形しようとするキャップアレイ形状成形体20の形状に合わせて凹部を形成した下型と、凸部を形成した上型とを、凹部と凸部の中心位置を合わせて組み立てて用いることが好ましい。すなわち、アレイ状に並べた複数のキャップ成形部21がフランジ成形部22により結合された形状を成形できるように下型に凹部を形成すると共に、上型に凸部を形成する。成形型にスラリーを流し込み、固化および乾燥させた後、成形型から脱型することにより、キャップ成形部21とフランジ成形部22とを有するキャップアレイ形状成形体20が得られる。キャップアレイ形状成形体20は、乾燥や焼結で収縮するので、成形型の形状及びキャップアレイ形状成形体20の大きさは、収縮量を見越して決定することが好ましい。
【0034】
キャップアレイ形状成形体20の表面側から見た外周形状は矩形状である。フランジ成形部22の厚みは1mm以上とすることが好ましい。乾燥収縮時における反りを小さくすることができ、キャップアレイ形状焼結体30のフランジ焼結部32の平行度、すなわちフランジ部12の平行度を高めることができるからである。また、フランジ成形部22の厚みは20mm以下とすることが好ましい。20mm以上では、成形体を乾燥する時に成形体表面と内部に乾燥ムラが発生し、乾燥時にクラックが生じやすい。
【0035】
成形体形成工程(ステップS101)では、例えば、キャップアレイ形状成形体20に、金属層13を形成する際に位置合わせをするための金属層用アライメント23を形成することにより、キャップアレイ形状焼結体30に金属層用アライメント33を形成することが好ましい。金属層13の形成位置精度を高めることができるからである。金属層用アライメント23,33は、2点以上設けることが好ましい。金属層用アライメント23,33の位置は特に制限しないが、キャップ成形部21の外形から3mm以内に設けるようにすれば、金属層13の形成位置精度をより高めることができるので好ましい。金属層用アライメント23,33の形状は特に限定されず、例えば、窪み、貫通孔、又は、突起のいずれでもよく、また、丸形でも十字形でもよい。金属層用アライメント23,33は、成形型の対応箇所に、凸部又は凹部を形成することにより、形成することができる。
なお、金属層用アライメントは、成形型で設けず、硬化および乾燥後に改めてドリルなどで設けても良い。
【0036】
焼結体形成工程(ステップS102)では、例えば、キャップアレイ形状成形体20を焼結し、アレイ状に並べた複数のキャップ焼結部31がフランジ焼結部32により結合されたシリカガラスよりなるキャップアレイ形状焼結体30とする。キャップアレイ形状焼結体30には、キャップアレイ成形体20に形成された金属層用アライメント23に対応して金属層用アライメント33が形成されている。焼結は、大気雰囲気下、またはヘリウム等の希ガス雰囲気下、窒素等の不活性ガス雰囲気下、または真空雰囲気下において、1300℃以上1500℃以下で0.5時間以上3時間以下の範囲で行う。焼結には、一般的なセラミックで用いられる電気炉を使用することができる。
【0037】
キャップアレイ形状焼結体30の表面側から見た外周形状は矩形状である。キャップアレイ形状焼結体30の辺の長さは、30mm以上であることが好ましい。金属層13を形成する際のハンドリング性を高めることができるからである。また、キャップアレイ形状焼結体30の辺の長さは、200mm以下とすることが好ましい。大きくなると矩形形状のため収縮にばらつきが生じ、歪みを生じてしまうからである。また、矩形形状の面内の収縮バラつきにより、キャップの位置精度が安定しなくなるためである。
【0038】
金属層形成工程(ステップS103)では、例えば、キャップアレイ形状焼結体30の裏面を、必要に応じて、加工機で研磨し、目的とするキャップ部11の裏面の表面粗さRa、例えば50nm以下とすることが好ましい。焼結体形成工程(ステップS102)で十分な平坦度が達成できていれば、必ずしも研磨をする必要はない。また、フランジ焼結部32の厚みは、目的とするフランジ部12の厚みT、例えば0.3mm以上となるようにすることが好ましく、フランジ焼結部32の平行度は、目的とするフランジ部12の平行度、例えば100μm以下となるようにすることが好ましい。キャップ焼結部31がキャップ部11、フランジ焼結部32がフランジ部12となるからである。なお、キャップアレイ形状焼結体30の裏面というのは、キャップ焼結部31が突出している表側と反対の裏側の面である。
【0039】
金属層形成工程(ステップS103)では、キャップアレイ焼結体30に対し、フランジ焼結部32の裏面の少なくとも一部に、乾式めっきにより金属層13を形成する(
図4参照)。なお、
図4では、分かりやすくするために金属層13に梨地を付して示している。乾式めっきは、湿式めっきに比べて、金属層13の純度及び緻密性を高めることができ、筐体と良好に接合することができるからである。乾式めっきとしては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、又は、イオンプレーティング法が挙げられ、中でも、スパッタリング法、又は、イオンプレーティング法が好ましい。金属層13の密着性を高くすることができるからである。
【0040】
金属層形成工程(ステップS103)では、具体的には、例えば、キャップアレイ焼結体30の裏面全体に乾式めっきにより金属膜を成膜したのち、露光及び現像によりレジストパターンを形成し、エッチングによりフランジ焼結部32の裏面の所定箇所に金属層13を形成する。金属層13は、切断工程(ステップS104)において切断する箇所には形成しないことが好ましい。金属膜は、金属層13の構成に合わせて成膜する。レジストパターンをパターニングする際には、例えば、キャップアレイ焼結体30に形成された金属層用アライメント33を基準として、位置決めをすることが好ましい。また、パターニングの際には、金属層13を形成するためのパターン以外に、キャップアレイ焼結体30を切断するための切断用アライメント41のパターンも一緒に形成し、金属膜により切断用アライメント41を形成することが好ましい。切断時の加工の基準とすることができるからである。
【0041】
切断工程(ステップS104)では、キャップアレイ形状焼結体30をキャップ焼結部31毎に個片化するように切断し、個片化したキャップ焼結部31よりなるキャップ部11とフランジ焼結部32よりなるフランジ部12とを有するシリカガラスキャップ10を形成する。切断の加工方法は限定されないが、ダイサーにより加工することが好ましい。精度よく高速に加工することができるからである。また、切断の際には、切断用アライメント41を基準として加工することが好ましい。これにより、シリカガラスキャップ10が得られる。
【0042】
このように本実施の形態によれば、ゲルキャスト法によりキャップアレイ形状成形体20を形成し、焼結してキャップアレイ形状焼結体30とし、フランジ焼結部32の裏面の少なくとも一部に金属層13を形成した後、キャップ焼結部31毎に個片化するようにしたので、複数のキャップ焼結部31を結合した大きなキャップアレイ形状焼結体30の状態で、金属層13を形成することができ、ハンドリング性を改善することができる。よって、露光時の位置合わせが容易となり、金属層13のパターンの位置精度を向上させることができると共に、洗浄後に、金属層13をパターニングする箇所に接触して汚染してしまうことを抑制することができ、金属層13について良好な密着力を得ることができる。従って、例えば、フランジ部12の辺の長さが2.5mm以上5mm以下の非常に小さく、かつ、良好な特性を有するシリカガラスキャップ10を容易に得ることができる。
【0043】
また、金属層13を乾式めっきにより形成するようにしたので、金属層13の純度及び緻密性を高めることができ、筐体と良好に接合することができる。
【0044】
更に、キャップアレイ形状成形体20のフランジ成形部22の厚みを1mm以上とするようにすれば、乾燥収縮時における反りを小さくすることができ、キャップアレイ形状焼結体30のフランジ焼結部32の平行度、すなわちフランジ部12の平行度を高めることができ、キャップ部11の傾きを小さくして、配向のばらつきを小さくすることができる。キャップアレイ形状焼結体30のフランジ焼結部32の厚みが1mm以上であれば、さらに好ましい。
【0045】
加えて、キャップアレイ形状焼結体30の辺の長さを30mm以上とするようにすれば、金属層13を形成する際のハンドリング性を高めることができ、良好な金属層13を形成することができる。
【0046】
更にまた、キャップアレイ形状成形体20に、金属層13を形成する際に位置合わせをするための金属層用アライメント23を形成することにより、キャップアレイ形状焼結体30に金属層用アライメントを形成するようにすれば、金属層の形成位置精度をより高めることができる。
【0047】
加えてまた、シリカ粉原料の真球度を0.9以上、平均粒径を3μm以下とするようにすれば、流動性と充填性を高めることができ、キャップアレイ形状成形体20の収縮量のばらつきを小さくすることができ、品質を安定させることができる。
【実施例】
【0048】
(実施例)
真球度0.9、平均粒径2μmの球状シリカ粉を原料として、分散剤及びゲル化剤としてのポリエチレンイミン(日本触媒製)を1wt%添加し、イオン交換水を加えてスラリー化して、ボールミルにて50rpmで24時間撹拌した。撹拌後は、さらにゲル化剤の硬化剤としてエポキシ(ナガセケムテックス)を1wt%添加し、真空脱泡しながら混合した。得られたスラリーを、次の樹脂製の下型の凹部と上型の凸部の中心の位置合わせて組み合わせた成形型に注入した。成形型の下型は、47.7mm(縦)×47.7mm(横)の上面の外周から縦横いずれも5.0mm内側の37.7mm(縦)×37.7mm(横)の位置で、深さ2.4mmの段差部上面に曲率半径1.2mmの球面凹部が3.6mmピッチで6×6で配列された凹み形状を持つ表面粗さRaが0.05μmのシリコーンゴム製であり、この角に位置する球面凹部からX方向に3mm離れた位置に、外形直径が1mm、高さ0.5mmの金属層用アライメントを形成するための突起を4つ設けた。また、成形型の上型は、47.7mm(縦)×47.7mm(横)の下面の外周から縦横いずれも5.0mm内側の37.7mm(縦)×37.7mm(横)の位置で、厚み2.4mmの段差部底面に先端部曲率半径0.94mm、高さ3.6mmの球面凸部が3.6mmピッチで6×6で配列された突起形状を持つ表面粗さRaが0.05μmのシリコーンゴム製である。スラリーを成形型に鋳込んだ時の温度は25℃であり、そのまま24時間おいて硬化及び乾燥させ、成形型から脱型し、キャップアレイ形状成形体20を得た(成形体形成工程;ステップS101)。
【0049】
得られたキャップアレイ形状成形体20を真空雰囲気において1400℃で焼結させることで、外形32mm(縦)×32mm(横)×2mm(厚み)のフランジ焼結部32に、外径2mm、内径1.6mmのキャップ焼結部31が3.05mmピッチで6×6で配列しているシリカガラスよりなるキャップアレイ形状焼結体30を得た(焼結体形性工程;ステップS102)。得られたキャップアレイ形状焼結体30の裏面全体をフランジ焼結部32の厚みが0.3mmになるまで研磨した(金属層形成工程;ステップS103)。
【0050】
研磨した後、キャップアレイ形状焼結体30の裏面全体に、厚み100nmのCr膜、厚み200nmのNi膜、厚み350nmのAu膜をこの順でスパッタリング法にて成膜した。成膜後、マスクレス露光機にて、4つの金属層用アライメントを基準としてθ回転方向の角度調整及びXYの位置調整を行い、露光及び現像し、レジストパターンを形成し、エッチングによりフランジ焼結部32の一部に対応して金属層13を形成した(金属層形成工程;ステップS103)。その際、金属層13と共に、金属膜よりなる切断用アライメント41も形成した。金属膜13を形成したのち、切断用アライメント41を基準にダイシングして個片化し、シリカガラスキャップ10を得た(切断工程;ステップS104)。フランジ部12の辺の長さは、縦横共に3mmである。得られたシリカガラスキャップ10をマイクロスコープにて観察したところ、金属層13の位置精度は±0.05mmであり、狙いの位置に形成されていることを確認した。
【0051】
作製したシリカガラスキャップ10と、LEDが中央に収容された板状のアルミナ系セラミックス製の筐体との間にAu・Snはんだを挿入し、270℃で0.5MPaの荷重で60分間プレスして接合し、メタルシールされた光学素子パッケージを得た。得られた光学素子パッケージについて、炉内を300℃にしたオーブンで20分間加熱し、その後、85℃-85%RHの条件となっている恒温恒湿槽内で1週間放置する工程を1サイクルとする耐熱・耐湿テストを5サイクル行った。その結果、シリカガラスキャップ10とアルミナ系セラミックス製の筐体との剥離は無く、気密性は保たれていた。
【0052】
(比較例)
実施例と同形状のフランジ付きキャップ形状を機械加工でシリカガラスのブロックから切り出した。フランジの辺の長さは、縦横共に3mmである。加工後、実施例と同様に、裏面全体に、厚み100nmのCr膜、厚み200nmのNi膜、厚み350nmのAu膜をこの順でスパッタリング法にて成膜し、マスクレス露光機にて露光及び現像を行い、レジストパターンを形成し、エッチングによりフランジの一部に対応して金属層を形成した。得られたシリカガラスキャップをマイクロスコープにて観察したところ、金属層の位置精度は±0.2mmで金属層の位置ズレを確認した。
【0053】
比較例のシリカガラスキャップについても、実施例と同様に、LEDが中央に収容された板状のアルミナ系セラミックス製の筐体との間にAu‐Snはんだを挿入し、270℃で0.5MPaの荷重で60分間プレスして接合し、メタルシールされた光学素子パッケージを得た。得られた光学素子パッケージをフロリナート試験したところ、バブルが確認され、気密性が担保されていないことを確認した。接合した光学素子パッケージを引張り、シリカガラスキャップとアルミナ系セラミックス製の筐体とを剥離させたところ、シリカガラスキャップと金属層との界面に剥離が確認された。
【0054】
すなわち、本実施例によれば、金属層13のパターンの位置精度を向上させることができると共に、金属層13について良好な密着力を得ることができることが分かった。
【0055】
以上、実施の形態及び実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態及び実施例に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態及び実施例では、シリカガラスキャップ10の構成について具体的に説明したが、他の構成を有していてもよい。例えば、上記実施の形態及び実施例では、キャップ部11の形状が中空の半球状の場合について説明したが、非球面や半長球状等、半球(球面)以外の形状であってもよい。また、フランジ部13の外周形状が矩形の場合について説明したが、円形でもよく、矩形以外の多角形でもよい。また、本発明のシリカガラスキャップは、中空形状でレンズ機能を有するものであってもよい。
【0056】
更に、上記実施の形態及び実施例では、シリカガラスキャップの製造方法の各工程について具体的に説明したが、全ての工程を含んでいなくてもよく、また、他の工程を含んでいてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、特に光源用部材などに用いることができる。
【符号の説明】
【0058】
10…シリカガラスキャップ、11…キャップ部、12…フランジ部、13…金属層、13A…Au層、13B…下地層、20…キャップアレイ形状成形体、21…キャップ成形部、22…フランジ成形部、23…金属層用アライメント、30…キャップアレイ形状焼結体、31…キャップ焼結部、32…フランジ焼結部、33…金属層用アライメント、41…切断用アライメント