(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/058 20100101AFI20231107BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20231107BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20231107BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20231107BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20231107BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20231107BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M10/0567
H01M4/13
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01M10/0568
(21)【出願番号】P 2020175882
(22)【出願日】2020-10-20
【審査請求日】2022-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】長野 彩香
(72)【発明者】
【氏名】河口 優祐
【審査官】山下 裕久
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-167054(JP,A)
【文献】特開2016-146341(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/058
H01M 10/0567
H01M 10/0568
H01M 4/13
H01M 10/052
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
極板群が正極板と負極板とがセパレータを挟んで構成されており、前記負極板は、ナトリウム塩を有する添加物を含み、非水電解液が
リチウムビスオキサレートボレートを含むリチウム塩を有する添加剤を含み、前記極板群と前記非水電解液とを電槽に収容する組立工程と、
組立工程で組み立てたリチウムイオン二次電池の充放電を行うコンディショニング工程を備えたリチウムイオン二次電池の製造方法において、
前記コンディショニング工程に先立って、
前記非水電解液の浸透開始から浸透完了までの期間のうち、最初の3分の2までの期間に行い、電流を流す時間を5秒以上30秒以下とし、電流量を0.1C以上、10C以下として前記非水電解液の極板群への浸透中に電流を印加する先行充電工程を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池の製造方法に係り、詳しくは、Li析出耐性の高いリチウムイオン二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、高いエネルギー密度を有し、高容量であることから、電気自動車(EV)やハイブリッド自動車(HEV)等の駆動用電源として用いられている。リチウムイオン二次電池は、電極芯体の両面に活物質層を設けた正極板及び負極板をセパレータを介して捲回又は積層した電極体であれば、正極板及び負極板の対向面積が大きくなり大電流を取り出し易いものとなる。
【0003】
一方、リチウムイオン二次電池は、高温環境下で使用した場合には電池特性が低下する等、使用する環境の影響を受けて電池の容量維持率が低下したり、また電極の内部抵抗が増加したりするという問題がある。
【0004】
そこで、被膜形成剤としてのリチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)を非水電解液に添加し、LiBOBに由来する被膜を均一な状態で負極に形成して、この負極に形成した被膜で電池性能を維持させる技術が提案されている。しかしながら、LiBOBの被膜は不均一になりやすいという問題があった。LiBOB被膜が不均一になると、被膜の厚さに起因する抵抗差により電流密度が不均一になり、一部分でリチウム析出耐性が低下する。その結果、二次電池の充電電流が低下した部分のLi析出耐性に制限され、その電池全体の性能が低下することとなっていた。
【0005】
そこで、特許文献1では、以下のような発明でLiBOB被膜の電流密度の均一化を図っている。負極板はナトリウム塩を有する添加物を含み非水電解液は、リチウム塩を有する添加剤を含んでいる。極板群は、巻き軸方向の両側面の間の中央となる位置を含んで巻き軸方向に所定の幅Wを有する中央部分を捲回方向に延設させており、正極板の正極容量に対応する負極板の負極容量が中央部分では中央部分の両側面側に隣接する部分に比べて大きい。
【0006】
負極表面に被膜の集中が生じたとしても電流密度を平均化して電池性能の劣化を抑えることができた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載された発明では、負極のリチウム析出耐性が均一化されセル電池のリチウム析出耐性が向上するものの、電池構造が複雑になるという解決すべき課題があった。本発明のリチウムイオン二次電池の製造方法は、簡単な構成で負極のリチウム析出耐性を均一化させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明のリチウムイオン二次電池の製造方法では、極板群が正極板と負極板とがセパレータを挟んで構成されており、前記負極板は、ナトリウム塩を有する添加物を含み、非水電解液がリチウム塩を有する添加剤を含み、前記極板群と前記非水電解液とを電槽に収容する組立工程と、組立工程で組み立てたリチウムイオン二次電池の充放電を行うコンディショニング工程を備えたリチウムイオン二次電池の製造方法において、前記コンディショニング工程に先立って、前記非水電解液の極板群への浸透中に電流を印加する先行充電工程を含むことを特徴とする。
【0010】
前記リチウム塩がリチウムビスオキサレートボレートを含むことが好ましい。
前記先行充電工程は、前記非水電解液の浸透開始から浸透完了までの期間のうち、最初の3分の2までの期間に行うことが好ましい。
【0011】
前記先行充電工程は、電流量を0.1C以上とすることも好ましく、10C以下とすることも好ましい。
前記先行充電工程は、電流を流す時間を5秒以上30秒以下とすることも好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のリチウムイオン二次電池の製造方法では、電池自体の構成を変更せず、負極の被膜形成が均一化され、セル電池のリチウム析出耐性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態のリチウムイオン二次電池の斜視図。
【
図3】本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法を示すフローチャート。
【
図4】本実施形態のリチウムイオン二次電池の組み立て後の先行充電工程とコンディショニング工程の時間と充電のために印加する電流を示すグラフ。
【
図5】本実施形態の時間Xが経過する前の期間の負極における非水電解液の浸透の様子と被膜形成を示す模式図。
【
図6】本実施形態の非水電解液の浸透が完了した時間Xにおける負極の被膜形成を示す模式図。
【
図7】実施例1~6の先行充電工程の条件を示す表。
【
図8】実施例1~6の先行充電工程の結果を示す表。
【
図9】従来のリチウムイオン二次電池の組み立て後のコンディショニング工程の時間と充電のために印加する電流を示すグラフ。
【
図10】従来の時間Xが経過する前の期間の負極における非水電解液の浸透の様子と被膜形成を示す模式図。
【
図11】従来の非水電解液の浸透が完了した時間Xにおける負極の被膜形成を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1~8を参照して、本発明のリチウムイオン二次電池の製造方法を、一実施形態を例に説明する。ここで、「Li析出耐性」とは、Li析出の発生を抑制しつつ電池の最大性能を得るための充放電制御の最大電流値である。このLi析出耐性は、負極において局所的に抵抗の大きな部分があると、その抵抗値より負極全体のLi析出耐性が低くなる。そのため、本実施形態では、この負極に形成される膜厚を均一化することで、負極全体のLi析出耐性を高めている。
【0015】
<従来のコンディショニング工程>
非水電解液は保護被膜を形成する目的でLiBOBを含む添加剤が含まれている場合がある。この場合、従来の技術では保護被膜が局所的に通常よりも厚い部分が生じ、Liの析出する充電電流で示されるLi析出耐性が低下する場合がある。本発明者らは、保護被膜が局所的に通常よりも厚くなる理由として以下のような理由を見出した。
【0016】
捲回電極体を備える非水電解液二次電池にみられるBOB由来の被膜の形成量のムラについて検討した。その結果、その原因の一つとして電池ケース内、典型的には負極を構成するバインダーに不純物として不可避的に含まれるNa成分の存在があることを見出した。即ち、捲回電極体を構成する正極、負極およびセパレータを作製する際に用いられる原料には、Na成分(例えばNa塩)を含むものが多い。従って、捲回電極体に非水電解液を含浸させると、まず、Na成分(典型的にはNaイオン、以下「Naイオン」という。)が電極体から非水電解液中に溶出する。非水電解液に溶出したNaイオンは、非水電解液の捲回電極体中での移動に従って移動する。典型的には非水電解液は捲回軸方向の両端から中心に向けて含浸してゆくので、Naイオンもそれに合わせて捲回軸方向の中心付近に移動していく。このとき、Naイオンと比較して、BOBの捲回電極体中における浸透速度は、Naイオンの浸透速度よりも遅い。このため、捲回電極体の捲回軸方向の中心付近では、非水電解液の到達に因るNa成分(Naイオン)の高濃度化が起こり、その後にBOBが遅れて到達する。その結果、難溶性のNaBOB(オキサラトボレート錯体のナトリウム塩(例えばナトリウムビスオキサラトボレート・Na(B(C2O4)2)))が優先的に形成されてしまう。そのため、中央部cでは、所望のBOBによるSEI被膜の形成が困難となる或いは被膜形成量が著しく減少する事態となっていた。
【0017】
図9は、従来のリチウムイオン二次電池の組み立て後のコンディショニング工程の時間と充電のために印加する電流[A]を示すグラフである。従来は、リチウムイオン二次電池の組み立て後に非水電解液を注入するが、非水電解液が極板群のセパレータに浸透するには時間Xが掛かり、時間Xの経過後にコンディショニング工程として充電電流をリチウムイオン二次電池に印加する。
【0018】
図10は、時間Xが経過する前の負極における非水電解液の浸透の様子と被膜形成を示す模式図である。非水電解液の浸透は、矢印で示すように端部から中央部に向かって浸透する。図に示す中央部のドットで示す部分は、未だ非水電解液自体の浸透がされていない「非水電解液未浸透領域NS」である。図に示すNaイオン濃度のグラフのように、Naイオンは、負極のバインダーに含まれているが、Naイオンは浸透速度が速く、非水電解液により端部から中央部に浸透する。非水電解液未浸透領域NSに浸透する非水電解液の先端はNaイオン濃度が高くなっている。
【0019】
先に浸透したNaイオンに遅れて、LiBOBが点線で示すように追いかけるように浸透していく。LiBOBは、Naイオンに出会うと、難溶性のNaBOBが形成されて、BOBが消費されていく。
【0020】
図11は、非水電解液の浸透が完了した時間Xにおける負極の被膜形成を示す模式図である。Naイオンは、浸透速度が速いため、LiBOBからNaBOBに変化する前に、先に中央部まで浸透し濃縮され偏在するため、中央部のNaイオン濃度が高くなっている。Naイオンに遅れて浸透するLiBOBは、端部からNaイオンを追いかけるように浸透し、LiBOBは、Naイオンと結びついてBOBを消費する。そのため、中央部付近では、BOBを消費し尽くして
図11の点線で示すようにNaBOBが中央部を挟んで、2つのピークを備えた厚さの分布となる。そして、中央部はLiBOBもNaBOBも量が少ない領域となり、膜厚の薄い領域ができてしまう。このように負極に形成される膜厚は不均一のものとなってしまう。
【0021】
<本実施形態の概要>
図4は、本実施形態のリチウムイオン二次電池の組み立て後の先行充電工程とコンディショニング工程の時間と充電のために印加する電流[A]を示すグラフである。
図5は、本実施形態の時間Xが経過する前の負極における非水電解液の浸透の様子と被膜形成を示す模式図である。
図6は、本実施形態の非水電解液の浸透が完了した時間Xにおける負極の被膜形成を示す模式図である。
【0022】
図4に示すように、本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法では、コンディショニング工程に先立って、前記非水電解液の浸透中にNaBOB被膜を形成するための電流を印加する先行充電工程を含む。
【0023】
図5に示すように、非水電解液の浸透中は、まずNaイオンが先行して浸透し、負極の中央部cの濃度が最も高くなるのは、従来技術と同様である。本実施形態では、非水電解液の浸透中に、被膜形成を生じる程度の電流を所定の条件で印加する。
【0024】
図6に示すように、非水電解液の浸透が完了した時点では、LiBOB被膜が負極の中央部cにおいて十分な厚さで形成することができる。これは、非水電解液の浸透完了前に、先行充電工程で所定条件で充電することで、Naイオンを消費する。このことで、負極中央部におけるNaイオン濃度を低下させる。
【0025】
負極中央部におけるNaイオン濃度を低下させることで、LiBOBがNaイオンと結合することなく、負極の中央部まで浸透させることができる。そして、コンディショニング工程では、この負極の中央部に浸透した非水電解液の添加物であるLiBOBに由来するSEI被膜が、従来よりも均一な厚さで形成される。
【0026】
<実施形態の作用>
本実施形態のリチウムイオン二次電池では、負極において形成されるSEI被膜が、従来よりもより均一なものとなる。SEI被膜が均一なものになると、その抵抗が均一化され、負極の局所的な電流密度も均一なものとなる。ここで、「リチウム析出耐性」とは、リチウムを析出させることとなるときの充電電流で示すことができ、充電電流が大きいほど耐性が高く、充電電流値が小さいほど耐性が低い。本実施形態のリチウムイオン二次電池において、Li析出の発生を抑制しつつ電池の最大性能を得るための充放電制御の最大電流値であるLi析出耐性は、負極に局所的に抵抗の大きな部分があると、その抵抗値に依存する。そのため、本実施形態では、負極に形成される膜厚を均一化することで抵抗を均一化し、負極全体のLi析出耐性を高めている。
【0027】
<本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法>
図3は、本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法を示すフローチャートである。以下、
図3を参照して本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法の詳細を説明する。
【0028】
<セル電池組立工程(S1)>
本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法では、最初にセル電池組立工程(S1)を行う。まず、組み立てられるセル電池であるリチウムイオン二次電池10の構成から説明する。
【0029】
<本実施形態のリチウムイオン二次電池>
図1は、本実施形態のリチウムイオン二次電池10の斜視図である。
図1に示すように本実施形態のリチウムイオン二次電池10は、セル電池として構成され、上側に開口部を有する直方体形状の電池ケース11と、電池ケース11を封止する蓋体12と、電池ケース11の内部に収容される極板群20と、電池ケース11内に注入された非水電解液25とを備える。電池ケース11及び蓋体12はアルミニウム合金等の金属で構成されている。リチウムイオン二次電池10は、電池ケース11に蓋体12を取り付けることで密閉された電槽が構成される。またリチウムイオン二次電池10は、蓋体12に、電力の充放電に用いられる2つの外部端子13を備えている。
【0030】
図2は、捲回される前の極板群20の構成を示す模式図である。極板群20は、正極板21と負極板22とそれらの間に配置されたセパレータ23とが扁平に捲回されて形成されている。極板群20は、捲回される方向(捲回方向)に直交する方向(巻き軸方向)の一端側に正極板21がはみ出た正極部21aと、同直交する方向の他端側に負極板22がはみ出た負極部22aとを有する。巻き軸方向は、
図2において上下方向である。
【0031】
<正極板21>
正極板21は、正極基材の表面に正極合材が塗布されている。正極合材は正極活物質を有する。正極活物質は、リチウムを吸蔵・放出可能な材料であり、例えばコバルト酸リチウム(LiCoO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)等を用いることができる。また、LiCoO2、LiMn2O4、LiNiO2を任意の割合で混合した材料を用いてもよい。
【0032】
また、正極合材は導電材を含んでいてもよい。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、黒鉛(グラファイト)を用いることができる。
【0033】
正極板21は、例えば、正極活物質と、導電材と、溶媒と、結着剤(バインダー)とを混練し、混練後の正極合材を正極基材に塗布して乾燥することで作製される。ここで、溶媒としては、例えばNMP(N-メチル-2-ピロリドン)溶液を用いることができる。また、バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等を用いることができる。また、集電体となる正極基材として、アルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金からなる薄膜を用いることができる。
【0034】
<負極板22>
負極板22は、負極基材の表面に負極合材が塗布されている。本実施形態では、負極基材の表面が負極の表面を構成する。
【0035】
負極活物質は、リチウムを吸蔵・放出可能な材料であり、例えば、黒鉛(グラファイト)等からなる粉末状の炭素材料を用いることができる。そして、負極板22は、正極板21と同様に、負極活物質と、溶媒と、バインダーとを混練し、混練後の負極合材を負極基材に塗布して乾燥することで作製される。本実施形態では、バインダーはナトリウム塩を有し、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)が挙げられる。このため、負極板22は、非水電解質に浸漬されるとNaイオンが遊離する。
【0036】
集電体となる負極基材としては、例えば銅やニッケルあるいはそれらの合金からなる薄膜を用いることができる。
<非水電解液25>
非水電解液25は、非水溶媒に支持塩が含有された組成物である。ここで、非水溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等からなる群から選択された一種または二種以上の材料を用いることができる。また、支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiI等から選択される一種または二種以上のリチウム化合物(リチウム塩)を用いることができる。
【0037】
また、本実施形態にかかるリチウムイオン二次電池10では、非水電解液25に添加剤としてのリチウム塩としてのリチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)を添加する。例えば、非水電解液25におけるLiBOBの濃度が0.001~0.1[mol/L]となるように、非水電解液25にLiBOBを添加する。
【0038】
<セパレータ23>
セパレータ23は、正極板21及び負極板22の間に非水電解液25を保持するためのポリプロピレン製等の不織布である。また、セパレータ23としては、多孔性ポリエチレン膜、多孔性ポリオレフィン膜、および多孔性ポリ塩化ビニル膜等の多孔性ポリマー膜、又は、リチウムイオンもしくはイオン導電性ポリマー電解質膜を、単独、又は組み合わせて使用することもできる。非水電解液25に極板群20に浸漬させるとセパレータ23の端部から中央部に向けて非水電解液が浸透する。このとき、負極板22との親和性や、分子の大きさなどにより、成分により浸透する速度が異なる。前述のように非水電解液に添加したLiBOBは、負極から遊離したNaイオンより、浸透の速度が遅い。
【0039】
<セル電池の組立>
次に、上述のような構成のセル電池組立工程(S1)について説明する。まず、極板群20を捲回して扁平な形状に成形する。そして、正極部21a及び負極部22aはそれぞれその一部が圧縮されるとともに、それら正極部21a及び負極部22aのうちの圧縮された部分にはそれぞれ外部端子13に接続される電極端子(不図示)を溶接する。
【0040】
このような極板群20を電池ケース11に収容し、十分に乾燥させたら蓋体12を電池ケース11に溶接し封止する。
<電解液注液(S2)>
電池ケース11の電槽内に蓋体12の電解液注入孔(図示略)から非水電解液25を注入する。なお、以後の非水電解液25を浸透させる工程では、ケース内を減圧して行ってもよい。
【0041】
<電解液浸透開始(S3)>
電池ケース11の電槽内に非水電解液25を注入すると、極板群20が非水電解液25に浸漬される。そうすると、極板群20の両端部から、正極板21と負極板22の間に挟まれたセパレータ23の多孔性の不織布に非水電解液25が浸透し始める。この時点を
図4に示すグラフの時間0とする。
【0042】
<密封(S4)>
注入が完了したら電解液注入孔を溶接して封止し密閉する。このとき、電槽内では既に非水電解液は浸透を開始している。
【0043】
<先行充電工程(S5)>
続いて、本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法の特徴である、先行充電工程(S5)を行う。非水電解液の浸透は、
図4に示す時間0から開始され、時間Xで完了する。この、先行充電工程(S5)は、時間0から時間Xの3分の2の時間が経過するまでの期間に行う。すなわち、このタイミングでは、非水電解液は、
図2に示すセパレータ23の端部23aから負極板22の中央部cの2/3までLiBOBの浸透が進行中の状態である。この段階で
図4に示すような状態で被膜形成に十分な充電電流を印加すれば、セパレータ23の端部23aから負極板22の中央部cの2/3までの領域は、LiBOBとNaイオンの双方が存在する領域であるので、被膜形成に必要な電流を与えることで主にNaBOBの被膜が形成される。一方、セパレータ23の端部23aから負極板22の中央部cの2/3よりも中央部c寄りの領域では、NaイオンのみでLiBOBが存在しないので、電流を流しても被膜は形成されない。セパレータ23の端部23aから負極板22の中央部cの3分の2までの領域でNaBOBの被膜が形成されると、非水電解液中に遊離しているNaイオンが消費されNaイオンの濃度が低下する。そうすると、Naイオンは負極板22に由来するため存在量が限定される。結果として、中央部c近傍にまで移動するNaイオンが減少する。また、セパレータ23の端部23aから負極板22の中央部cの2/3までの領域では、非水電解液中に遊離しているNaイオンが減少するので、中央部c近傍との濃度勾配が生じ、中央部c近傍のNaイオンは、当該2/3までの領域に移動する。このような現象により、中央部c近傍にNaイオンが集中することもなく、電解液由来のLiBOBも存在するため被膜が均一に形成されることとなる。
【0044】
先行充電工程(S5)における印加する充電電流については、SEI被膜形成に十分な電流とする必要がある。電流が小さいと、LiBOBの分解電位に届かず、SEI被膜が形成しない可能性がある。
【0045】
一方、中央部c近傍においてLiBOB被膜を形成するだけのBOBイオンを残しておく必要がある。電流が大きすぎて端部近傍でNaBOB被膜形成でBOBを消費し過ぎると、中央部c近傍においてLiBOB被膜を形成するだけのBOBイオンが中央部に到達しない可能性がある。
【0046】
そこで本実施形態では、電流量を0.1C以上、10C以下とすることが好ましい。さらに好ましくは、電流量を0.5C以上、5C以下とすることが好ましい。さらに好ましくは、電流量を2C以上、5C以下とすることが好ましいことを実験で確認した。
【0047】
また、電流を流す時間が、1秒以上60秒以下が好ましい。さらに好ましくは電流を流す時間が、5秒以上30秒以下が好ましい。さらに好ましくは電流を流す時間が、20秒以上30秒以下が好ましい。
【0048】
また、先行充電工程(S5)を行うときは、非水電解液の浸透完了時間をXとすると、2X/3以内の間の期間に流すことが好ましい。
<浸透完了(S6)>
先行充電工程(S5)完了後、非水電解液が極板群20に浸透が完了(S6)する時間Xが経過するのを待つ。この間は、被膜形成が生じるような電流は印加しない。浸透完了(S6)を待ってコンディショニング工程(S7)に移行する。
【0049】
<コンディショニング工程(S7)>
次に、コンディショニング工程(S7)を行う。コンディショニング工程(S7)は、リチウムイオン二次電池10の充電および放電を実施する。
図4に示すグラフでは、時間Xの経過後、充放電を1回行う例が例示されているが、所定の回数繰り返すことで実施することもできる。例えば、コンディショニング工程は、20℃の温度条件下において0.1Cの充電レートで4.1Vまで定電流定電圧で充電する操作と、0.1Cの放電レートで3.0Vまで定電流定電圧放電させる操作をそれぞれ3回繰り返すことで実施することができる。なお、コンディショニング工程はこの条件に限定されることはなく、充電レート、放電レート、充放電の設定電圧は任意に設定することができる。本実施形態のリチウムイオン二次電池10では、製造後にコンディショニング工程を実施することにより、負極板22の表面にLiBOBに由来する被膜である保護被膜を形成することができる。
【0050】
図5に示すように先行充電工程(S5)では、負極板22の端部において不溶性のNaBOBの被膜を形成した。ここで、非水電解液中のNaイオンを消費した。そのため、
図11に示すNaイオンと比較して負極の中央部c近傍のNaイオンの極端なピークは無くなっている。続いて、
図6を参照して説明する。このような状態から、コンディショニング工程において、Naイオンが少なくなっている中央部c近傍に十分な電流を印加すると、LiBOBは非水電解液中に豊富に存在するため、Naイオンを取り込んでNaBOBの被膜を形成して、Naイオンを消費し尽くす。その結果、Naイオンがほとんど存在しない負極板22の中央部cでは、LiBOBの被膜が形成されることになる。均一な厚さの保護被膜は、Li析出を有効に抑制し、リチウム析出耐性の高い保護被膜を形成することができる。
【0051】
<エージング工程(S8)>
コンディショニング工程(S7)が完了したら、エージング工程(S8)を行う。エージング工程(S8)は、高温下で一定時間保存し、金属異物の溶解やSEI被膜の安定化を行う。
【0052】
<検査(S9)>
エージング工程(S8)が完了したら、電圧や内部抵抗の検査を行い、検査に合格したら製品として出荷できる。
【0053】
<電池ユニット組立工程(S10)>
完成したセル電池は、電池ユニット組立工程(S10)で複数のセル電池がスタックされ、バスバーにより連結される。そして、各種のセンサや制御装置を装着されて樹脂ケースに収容され車両用の電池ユニットとして製品が出荷される。
【0054】
<実験例>
図7は、実施例1~6の先行充電工程の条件を示す表であり、
図8は、実施例1~6の先行充電工程(S5)の結果を示す表である。
【0055】
本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法における先行充電工程(S5)において、充電の印加電流及び充電時間の条件を変えた実施例1~5と、負極板の22の抵抗の均一性[Ω]と、BOB被膜の均一度[μm]と、Li析出耐性[A]の結果を、先行充電工程を行わなかった実施例6のリチウムイオン二次電池と比較した。
【0056】
それぞれの判定基準は、実施例6の測定結果を基準値として、その効果を比較した。
「抵抗の均一度」は、抵抗分布測定を行い、抵抗の均一度を確認した。ベース部分と抵抗が最も高くなった値を算出する。その値RがR<5の場合を効果大として◎、5<R<10の場合を効果中として○、10<R<20の場合を効果小として△、20<Rの場合を効果なしとして×と評価した。
【0057】
「BOB被膜の均一度」は、負極板22の中央部c近傍と端部22bのBOB被膜の厚さTの差を比較した。
その値がT<0.02の場合は効果大として◎、0.02<T<0.05の場合は効果中として○、0.05<T<0.1の場合は効果小として△、0.1<Tの場合は効果なしとして×と評価した。
【0058】
「Li析出耐性」は、任意のプログラムを回し、300サイクル後の容量維持率を確認した。
その値Cが、98%<Cの場合は効果大として◎、96%<C<98%の場合は効果中として○、94%<C<96%の場合は効果小として△、C<94%の場合は効果なしとして×と評価した。
【0059】
充電電流を印加したタイミングは、時間Xの2/3を経過した時点で行った。
<実施例1>
電流2Cで20秒で先行充電工程(S5)を行ったところ、抵抗の均一性は効果大、BOB被膜の均一度は効果大、Li析出耐性は効果大であった。
【0060】
<実施例2>
電流5Cで30秒で先行充電工程(S5)を行ったところ、抵抗の均一性は効果中、BOB被膜の均一度は効果小、Li析出耐性は効果中であった。
【0061】
<実施例3>
電流0.5Cで5秒で先行充電工程(S5)を行ったところ、抵抗の均一性は効果小、BOB被膜の均一度は効果小、Li析出耐性は効果小であった。
【0062】
<実施例4>
電流10Cで60秒で先行充電工程(S5)を行ったところ、抵抗の均一性は効果小、BOB被膜の均一度は効果なし、Li析出耐性は効果小であった。
【0063】
<実施例5>
電流0.1Cで1秒で先行充電工程(S5)を行ったところ、抵抗の均一性は効果なし、BOB被膜の均一度は効果小、Li析出耐性は効果なしであった。
【0064】
<実施例6>
比較のため先行充電工程(S5)を行なわなかった。当然ながら比較の基準値であるので抵抗の均一性[Ω]と、BOB被膜の均一度[μm]と、Li析出耐性[A]のいずれも改善の効果はない。
【0065】
<実験結果のまとめ>
上記実験の結果、電流量を0.1C以上、10C以下とすることが好ましい。さらに好ましくは、電流量を0.5C以上、5C以下とすることが好ましい。さらに好ましくは、電流量を2C以上、5C以下とすることが好ましいことを確認した。
【0066】
また、電流を流す時間が、1秒以上60秒以下が好ましい。さらに好ましくは電流を流す時間が、5秒以上30秒以下が好ましい。さらに好ましくは電流を流す時間が、20秒以上30秒以下が好ましいことを確認した。
【0067】
(実施形態の効果)
(1)本実施形態のリチウムイオン二次電池においては、一定条件で先行充電工程(S5)を行うことで、リチウムイオン二次電池10自体の構造に問わず、Li析出耐性を高め、リチウムイオン二次電池10の容量の劣化を抑制することができる。
【0068】
(2)対象となるリチウムイオン二次電池10の負極の材料構成や、非水電解液の添加物などの組成に合わせて、先行充電工程(S5)の条件を変更することで、そのリチウムイオン二次電池の特性に合わせた先行充電工程(S5)とすることができる。
【0069】
(3)先行充電工程(S5)は、特別の装置を必要とせず、容易に自動的に制御できるので、スキルなしで簡易に実施することができる。
(4)先行充電工程(S5)は、特別の装置を必要とせず、生産コストを上昇させることもない。
【0070】
(別例)
○本実施形態の極板群は、捲回タイプを例示したが、積層タイプの極板群としてもよい。また、各原材料は例示であり、これらに限定されるものではない。
【0071】
○
図3に示すフローチャートは、例示でありその手順を付加し削除し変更し、順序を変えても実施することができる。
○例示したリチウムイオン二次電池10は、板状のケースを備えるが、円筒形など、その形状は限定されない。
【0072】
○本実施形態のリチウムイオン二次電池の製造方法は発明の一実施形態であり、特許請求の範囲を逸脱しない限り、実施形態に限定されず当業者によりその構成を付加し、削除し、若しくは変更して実施できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0073】
10…リチウムイオン二次電池
11…電池ケース
12…蓋体
13…外部端子
20…極板群
21…正極板
22…負極板
23…セパレータ
25…非水電解液