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  • 特許-制御装置 図1
  • 特許-制御装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/06 20060101AFI20231107BHJP
   B60K 6/46 20071001ALI20231107BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20231107BHJP
   B60W 20/00 20160101ALI20231107BHJP
   F02D 29/06 20060101ALI20231107BHJP
   B60L 50/61 20190101ALI20231107BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20231107BHJP
【FI】
B60W10/06 900
B60K6/46 ZHV
B60W10/08 900
B60W20/00 900
F02D29/06 D
B60L50/61
B60L15/20 Y
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020185978
(22)【出願日】2020-11-06
(65)【公開番号】P2022075287
(43)【公開日】2022-05-18
【審査請求日】2022-02-16
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【弁理士】
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】中本 和男
(72)【発明者】
【氏名】鳥田 博幸
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-230526(JP,A)
【文献】特開2007-245770(JP,A)
【文献】特開2006-144589(JP,A)
【文献】特開2020-168971(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-20/50
B60K 6/20- 6/547
F02D 29/06
B60L 1/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの動力を電力に変換する発電機および電力で駆動されるモータを搭載し、前記モータが発生する動力が駆動輪に伝達されて走行するハイブリッド車両に用いられる制御装置であって、
前記発電機が前記モータの出力に応じた発電を行うよう、前記エンジンの出力を調整するエンジン出力調整手段と、
前記発電機からの電力で前記モータが駆動されるHV走行中に前記駆動輪のスリップが発生した場合に、そのスリップの発生から前記駆動輪のグリップが復帰するまでの期間内において、前記モータのトルクを低減するモータトルク低減手段と、を含み、
前記エンジン出力調整手段は、前記モータトルク低減手段により前記モータのトルクが低減されているときに、前記エンジンの停止を禁止し、前記エンジンの回転数の下限値を設定して、前記エンジンの回転数が前記下限値を下回らない範囲で、前記エンジンの回転数を一定に固定する、制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両(HV:Hybrid Vehicle)に用いられる制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シリーズ方式のハイブリッド車両では、エンジンと、エンジンの動力で発電する発電モータ(発電機)と、走行のための駆動力を発生する駆動モータと、駆動モータに供給される電力を蓄える電池とが搭載されている。
【0003】
駆動モータに要求される出力が電池の出力より小さいときには、電池からの電力で駆動モータが駆動されて、駆動モータから駆動輪に駆動力が伝達される。これにより、ハイブリッド車両がEV(Electric Vehicle)走行する。一方、駆動モータに要求される出力が電池の出力を上回るときには、エンジンの動力で発電モータが発電を行う。そして、発電モータからの電力で駆動モータが駆動されて、駆動モータから駆動輪に駆動力が伝達される。これにより、ハイブリッド車両がHV走行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-88381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
HV走行中は、駆動モータの出力に対して良好な燃費率が達成される高効率点でエンジンが動作するように、エンジンの回転数およびトルクが制御される。
【0006】
HV走行中の加速時に駆動輪のスリップ(タイヤスリップ)が発生すると、スリップを抑えるために、駆動モータのトルクが低減される(トラクションコントロール)。駆動モータのトルクが低減されると、駆動モータのトルクと回転数との乗算値であるモータ出力が低下するので、それに伴って、エンジンの回転数が変動し、ドライバに違和感を与える。
【0007】
本発明の目的は、ハイブリッド車両のHV走行中に駆動輪のスリップが発生した場合に、モータの出力に応じた電力を発電機で発電しつつ、エンジンの回転数の変動を抑制できる、制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するため、本発明の一の局面に係る制御装置は、エンジンの動力を電力に変換する発電機および電力で駆動されるモータを搭載し、モータが発生する動力が駆動輪に伝達されて走行するハイブリッド車両に用いられる制御装置であって、発電機がモータの出力に応じた発電を行うよう、エンジンの出力を調整するエンジン出力調整手段と、発電機からの電力でモータが駆動されるHV走行中に駆動輪のスリップが発生した場合に、そのスリップの発生から駆動輪のグリップが復帰するまでの期間内において、モータのトルクを低減するモータトルク低減手段とを含み、エンジン出力調整手段は、モータトルク低減手段によりモータのトルクが低減されているときに、モータの出力の変動に対してエンジンの回転数の変動が緩慢になる制御を行う。
【0009】
この構成によれば、ハイブリッド車両のHV走行中に駆動輪のスリップが発生した場合、そのスリップの発生から駆動輪のグリップが復帰するまでの期間内において、モータのトルクが低減される。これにより、駆動輪のスリップを抑制することができ、ハイブリッド車両の安定性を保つことができる。
【0010】
駆動輪のスリップによるモータのトルクの低減に伴い、発電機がモータの出力に応じた発電を行うよう、エンジンの出力が調整される。そして、そのエンジンの出力調整においては、モータの出力の変動に対してエンジンの回転数の変動が緩慢になる制御が行われる。そのため、モータの出力に応じた電力を発電機で発電しつつ、エンジンの回転数の変動を抑制することができる。その結果、エンジンの回転数の変動による違和感をドライバに与えることを防止できる。
【0011】
モータのトルクが低減されているときに、モータの出力の変動に応じてエンジンの回転数が変動する場合、駆動輪のグリップが復帰するまでに、エンジンの回転数が大きく低下したり、エンジンが停止したりする場合がある。駆動輪のタイヤのグリップが復帰すると、モータのトルクが加速要求に応じた目標トルクに戻されるが、エンジンの回転数が大きく低下またはエンジンが停止していると、エンジンの回転数がモータの目標出力に応じた回転数に上昇するのに時間がかかり、モータの出力に遅れが生じる。
【0012】
エンジン出力調整手段は、モータトルク低減手段によるモータのトルクの低減に応じてエンジンのトルクを低下させる制御により、エンジンの回転数の変動を緩慢にすることが好ましい。
【0013】
エンジンのトルクを低下させることにより、エンジンの回転数の低下が抑制される。そのため、駆動輪のグリップが復帰するまでに、エンジンの回転数が大きく低下したり、エンジンが停止したりすることを防止でき、駆動輪のタイヤのグリップが復帰したときに、エンジンの回転数をモータの目標出力に応じた回転数まで即座に上げることができ、モータの出力に遅れが生じることを抑制できる。
【0014】
本発明の他の局面に係る制御装置は、エンジンの動力を電力に変換する発電機および電力で駆動されるモータを搭載し、モータが発生する動力が駆動輪に伝達されて走行するハイブリッド車両に用いられる制御装置であって、発電機がモータの出力に応じた発電を行うよう、エンジンの出力を調整するエンジン出力調整手段と、発電機からの電力でモータが駆動されるHV走行中に駆動輪のスリップが発生した場合に、そのスリップの発生から駆動輪のグリップが復帰するまでの期間内において、モータのトルクを低減するモータトルク低減手段とを含み、エンジン出力調整手段は、モータトルク低減手段によりモータのトルクが低減されているときに、ハイブリッド車両の車体速に応じた目標値を設定し、エンジンの回転数を目標値に保持する制御を行う。
【0015】
この構成によれば、ハイブリッド車両のHV走行中に駆動輪のスリップが発生した場合、そのスリップの発生から駆動輪のグリップが復帰するまでの期間内において、モータのトルクが低減される。これにより、駆動輪のスリップを抑制することができ、ハイブリッド車両の安定性を保つことができる。
【0016】
駆動輪のスリップによるモータのトルクの低減に伴い、発電機がモータの出力に応じた発電を行うよう、エンジンの出力が調整される。そして、そのエンジンの出力調整においては、ハイブリッド車両の車体速に応じた目標値が設定されて、エンジンの回転数をその目標値に保持する制御が行われる。そのため、モータの出力に応じた電力を発電機で発電しつつ、エンジンの回転数の変動を抑制することができる。その結果、エンジンの回転数の変動による違和感をドライバに与えることを防止できる。
【0017】
また、エンジンの回転数が車体速に応じた目標値に保持されるので、駆動輪のグリップが復帰するまでに、エンジンの回転数が大きく低下したり、エンジンが停止したりすることがない。そのため、駆動輪のタイヤのグリップが復帰したときに、エンジンの回転数をモータの目標出力に応じた回転数まで即座に上げることができ、モータの出力に遅れが生じることを抑制できる。
【0018】
本発明のさらに他の局面に係る制御装置は、エンジンの動力を電力に変換する発電機および電力で駆動されるモータを搭載し、モータが発生する動力が駆動輪に伝達されて走行するハイブリッド車両に用いられる制御装置であって、発電機がモータの出力に応じた発電を行うよう、エンジンの出力を調整するエンジン出力調整手段と、発電機からの電力でモータが駆動されるHV走行中に駆動輪のスリップが発生した場合に、そのスリップの発生から駆動輪のグリップが復帰するまでの期間内において、モータのトルクを低減するモータトルク低減手段とを含み、エンジン出力調整手段は、モータトルク低減手段によりモータのトルクが低減されているときに、エンジンの停止を禁止してもよい。
【0019】
この構成によれば、ハイブリッド車両のHV走行中に駆動輪のスリップが発生した場合、そのスリップの発生から駆動輪のグリップが復帰するまでの期間内において、モータのトルクが低減される。これにより、駆動輪のスリップを抑制することができ、ハイブリッド車両の安定性を保つことができる。
【0020】
駆動輪のスリップによるモータのトルクの低減に伴い、発電機がモータの出力に応じた発電を行うよう、エンジンの出力が調整される。そして、そのエンジンの出力調整が行われている間、エンジンの停止が禁止されて、エンジンの稼動が継続される。これにより、エンジンの始動および停止が繰り返されることによる違和感をドライバに与えることを防止できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ハイブリッド車両のHV走行中に駆動輪のスリップが発生した場合に、モータの出力に応じた電力を発電機で発電しつつ、エンジンの回転数の変動を抑制することができ、エンジンの回転数の変動による違和感をドライバに与えることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係る制御装置が搭載されたハイブリッド車両の構成を示すブロック図である。
図2】MG2トルク、MG2回転数、MG2出力およびエンジン回転数の時間変化の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0024】
<ハイブリッド車両>
図1は、ハイブリッド車両1の構成を示すブロック図である。
【0025】
ハイブリッド車両1は、シリーズ方式のハイブリッドシステム2を搭載している。ハイブリッドシステム2には、エンジン11、発電モータ(MG1)12、駆動モータ(MG2)13、バッテリ14およびPCU(Power Control Unit:パワーコントロールユニット)15が含まれる。
【0026】
エンジン11は、たとえば、ガソリンエンジンまたはディーゼルエンジンである。
【0027】
発電モータ12は、たとえば、永久磁石同期モータからなる。発電モータ12の回転軸は、エンジン11のクランクシャフトとギヤ(図示せず)を介して機械的に連結されている。たとえば、エンジン11のクランクシャフトにエンジン出力ギヤが相対回転不能に支持され、発電モータ12の回転軸にモータギヤが相対回転不能に支持されて、エンジン出力ギヤとモータギヤとが噛合している。
【0028】
駆動モータ13は、たとえば、発電モータ12よりも大型の永久磁石同期モータからなる。駆動モータ13の回転軸は、ハイブリッド車両1の駆動系16に連結されている。駆動系16には、デファレンシャルギヤが含まれており、駆動モータ13の動力は、デファレンシャルギヤに伝達され、デファレンシャルギヤから左右の前輪または後輪からなる駆動輪17に分配されて伝達される。これにより、左右の駆動輪17が回転し、ハイブリッド車両1が前進または後進する。
【0029】
バッテリ14は、複数の二次電池(たとえば、リチウムイオン電池)を組み合わせた組電池である。バッテリ14は、たとえば、約200~350V(ボルト)の直流電力を出力する。
【0030】
PCU15は、発電モータ12および駆動モータ13の駆動を制御するためのユニットであり、第1インバータ21、第2インバータ22およびコンバータ23を備えている。
【0031】
エンジン11の始動時には、バッテリ14から出力される直流電力がコンバータ23により昇圧されて、昇圧された直流電力が第1インバータ21で交流電力に変換され、交流電力が発電モータ12に供給される。これにより、発電モータ12が力行運転されて、エンジン11が発電モータ12によりモータリングされる。モータリングによりエンジン11のクランクシャフトの回転数が始動に必要な回転数まで上昇した状態で、エンジン11の点火プラグがスパークされると、エンジン11が始動する。
【0032】
ハイブリッド車両1の走行時には、駆動モータ13が力行運転されて、駆動モータ13が動力を発生する。
【0033】
駆動モータ13に要求される出力がバッテリ14の出力より小さいときには、ハイブリッド車両1がEV走行する。すなわち、エンジン11が停止されて、発電モータ12による発電が行われず、バッテリ14から駆動モータ13に電力が供給されて、その電力で駆動モータ13が駆動される。
【0034】
一方、駆動モータ13に要求される出力がバッテリ14の出力を上回るときには、ハイブリッド車両1がHV走行する。すなわち、エンジン11が稼動状態にされて、発電モータ12が発電運転されることにより、エンジン11の動力が発電モータ12で交流電力に変換される。そして、発電モータ12からの交流電力が第1インバータ21で直流電力に変換され、第1インバータ21から出力される直流電力が第2インバータ22で交流電力に変換されて、その交流電力が駆動モータ13に供給されることにより、駆動モータ13が駆動される。
【0035】
また、バッテリ14の残容量が所定以下に低下すると、駆動モータ13の駆動/停止にかかわらず、エンジン11が稼動している状態で、発電モータ12が発電運転される。このとき、発電モータ12からの交流電力が第1インバータ21で直流電力に変換され、第1インバータ21から出力される直流電力がコンバータ23で降圧されて、降圧後の直流電力がバッテリ14に供給されることにより、バッテリ14が充電される。
【0036】
また、ハイブリッド車両1には、複数のECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)が搭載されている。各ECUは、マイコン(マイクロコントローラユニット)を備えており、マイコンには、たとえば、CPU、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリおよびDRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリが内蔵されている。複数のECUは、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向通信が可能に接続されている。各ECUには、制御に必要な各種センサが接続されており、その接続されたセンサの検出信号が入力される。また、各ECUには、各種センサから入力される検出信号以外に制御に必要な情報が他のECUから入力される。
【0037】
図1には、複数のECUのうち、ハイブリッドシステム2を制御するECU31が示されている。
【0038】
<トラクションコントロール>
図2は、MG2トルク、MG2回転数、MG2出力およびエンジン回転数の時間変化の一例を示す図である。
【0039】
ハイブリッド車両1では、HV走行中は、発電モータ12が駆動モータ13の出力に応じた発電を行い、かつ、駆動モータ13の出力に対して良好な燃費率が達成される高効率点でエンジン11が動作するように、ECU31により、エンジン11の回転数およびトルクが制御される。
【0040】
HV走行中の加速時に駆動輪17のスリップが発生すると(時刻T1)、そのスリップを抑制するために、トラクションコントロールが作動し、駆動モータ13のトルクであるMG2トルクが駆動モータ13の目標トルクに対して低減される(時刻T2)。
【0041】
駆動モータ13の目標トルクは、ECU31により、アクセル開度に応じて設定される。アクセル開度は、アクセルペダルの最大操作量に対するドライバ(運転者)による操作量の割合である。たとえば、ECU31には、アクセルペダルの操作量に応じた検出信号を出力するアクセルセンサが接続されており、アクセル開度は、ECU31によって、アクセルセンサの検出信号から算出される。
【0042】
駆動輪17がスリップすると、駆動輪17と機械的に接続された駆動モータ13の回転数であるMG2回転数が上昇し、そのMG2回転数とハイブリッド車両1の車体速に応じたMG2回転数とに乖離が生じる。したがって、実際のMG2回転数と車体速から推定されるMG2回転数とに一定以上の乖離が生じた場合、駆動輪17のスリップが発生したと判断することができる。
【0043】
その後、実際のMG2回転数と車体速から推定されるMG2回転数との乖離がほぼなくなり、ECU31により、駆動輪17のグリップが復帰したと判断されると、トラクションコントロールの作動が終了されて、MG2トルクの低減が解除される(時刻T3)。MG2トルクの低減の解除後、MG2トルクがアクセル開度に応じた目標トルクまで速やかに上げられる。これにより、MG2出力が即座に上昇し、ハイブリッド車両1がアクセル開度に応じた加速度で加速する。
【0044】
駆動輪17のスリップ中、つまりトラクションコントロールの作動中においても、発電モータ12により駆動モータ13の出力に応じた発電が行われるよう、エンジン11の出力が調整される。このスリップ中におけるエンジン11の出力調整では、エンジン11のトルクが制御されて、エンジン11の回転数(エンジン回転数)がハイブリッド車両1の車体速に応じた目標値に保持される。
【0045】
<作用効果>
以上のように、ハイブリッド車両1のHV走行中の加速時に駆動輪17のスリップが発生した場合(時刻T1)、そのスリップの発生から駆動輪17のグリップが復帰するまでの期間T2-T3において、駆動モータ13のトルクであるMG2トルクが目標トルクに対して低減される。これにより、駆動輪17のスリップを抑制することができ、ハイブリッド車両1の安定性を保つことができる。
【0046】
駆動輪17のスリップによるMG2トルクの低減に伴い、発電モータ12が駆動モータ13の出力であるMG2出力に応じた発電を行うよう、エンジン11の出力が調整される。そして、そのエンジン11の出力調整においては、ハイブリッド車両1の車体速に応じた目標値が設定されて、エンジン11の回転数をその目標値に保持する制御が行われる。そのため、MG2出力に応じた電力を発電モータ12で発電しつつ、エンジン11の回転数の変動を抑制することができる。その結果、エンジン11の回転数の変動による違和感をドライバに与えることを防止できる。
【0047】
図2に二点鎖線で示されるように、MG2トルクが低減されているときに、MG2出力の変動に応じてエンジン11の回転数が変動する場合、駆動輪17のグリップが復帰するまでに、エンジン11の回転数が大きく低下したり、エンジン11が停止したりする場合がある。駆動輪17のタイヤのグリップが復帰すると、MG2トルクがアクセル開度に応じた目標トルクに戻されるが、このとき、エンジン11の回転数が大きく低下またはエンジン11が停止していると、エンジン11の回転数が駆動モータ13の目標出力に応じた回転数まで上昇するのに時間がかかり、図2に二点鎖線で示されるように、MG2出力が目標出力に追従できず、MG2出力に目標出力に対する遅れが生じる。
【0048】
MG2トルクの低減中、エンジン11の回転数が車体速に応じた目標値に保持される制御では、駆動輪17のグリップが復帰するまでに、エンジン11の回転数が大きく低下したり、エンジン11が停止したりすることがない。そのため、駆動輪17のタイヤのグリップが復帰したときに、エンジン11の回転数を駆動モータ13の目標出力に応じた回転数まで即座に上げることができ、MG2出力に遅れが生じることを抑制できる。
【0049】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0050】
たとえば、前述の実施形態では、駆動輪17のスリップ抑制のためのMG2トルクの低減中、エンジン11の回転数がハイブリッド車両1の車体速に応じた目標値に保持されるとしたが、その目標値は、車体速に応じた値に限らず、車体速と関係なく設定された一定値であってもよい。また、エンジン11の回転数が目標値に保持されることにより固定されるのではなく、エンジン11の回転数の下限値が設定されて、エンジン11の回転数がその下限値を下回らない範囲で、エンジン11の出力が駆動モータ13の出力であるMG2出力に応じて調整されるように、エンジン11のトルクが制御されてもよい。
【0051】
すなわち、駆動モータ13のトルクであるMG2トルクの低減に応じてエンジン11のトルクを低下させる制御により、エンジン11の回転数の変動を緩慢にすることができればよく、エンジン11の回転数を一定に固定することにより、エンジン11の回転数の変動が緩慢にされてもよいし、エンジン11の回転数が下限値を下回らない範囲でエンジン11のトルクおよび回転数を調整することにより、エンジン11の回転数の変動が緩慢にされてもよい。
【0052】
エンジン11の回転数を一定に固定する制御およびエンジン11の回転数の下限値が設定される制御では、エンジン11の停止が実質的に禁止されるので、エンジン11の始動および停止が繰り返されることによる違和感をドライバに与えることを防止できるという効果も奏する。
【0053】
また、前述の実施形態では、HV走行中の加速時に駆動輪17のスリップが発生した場合に、駆動モータ13のトルクであるMG2トルクが目標トルクに対して低減される例を取り上げたが、HV走行中のアクセル開度が一定の定常走行時にも、たとえば、路面μの低い路面に駆動輪17が差し掛かったときなどに、駆動輪17のスリップが発生する場合があるので、かかる場合にも、MG2トルクが目標トルクに対して低減されて、前述した制御が行われてもよい。
【0054】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0055】
1:ハイブリッド車両
11:エンジン
12:発電モータ(発電機)
13:駆動モータ(モータ)
17:駆動輪
31:ECU(制御装置、エンジン出力調整手段、モータトルク低減手段)
図1
図2