(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】タンパク質精製のための超分子フィラメント集合体
(51)【国際特許分類】
C07K 14/31 20060101AFI20231107BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20231107BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20231107BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20231107BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20231107BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20231107BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20231107BHJP
【FI】
C07K14/31 ZNA
C07K19/00
C07K16/00
C12N15/31
C12N15/62 Z
C12N15/13
C12P21/08
(21)【出願番号】P 2020509080
(86)(22)【出願日】2018-08-17
(86)【国際出願番号】 US2018046924
(87)【国際公開番号】W WO2019036631
(87)【国際公開日】2019-02-21
【審査請求日】2021-07-30
(32)【優先日】2017-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501335771
【氏名又は名称】ザ・ジョンズ・ホプキンス・ユニバーシティ
(73)【特許権者】
【識別番号】391015708
【氏名又は名称】ブリストル-マイヤーズ スクイブ カンパニー
【氏名又は名称原語表記】BRISTOL-MYERS SQUIBB COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100214259
【氏名又は名称】山本 睦也
(72)【発明者】
【氏名】ホンガン ツイ
(72)【発明者】
【氏名】イー リー
(72)【発明者】
【氏名】リー リン ロック
(72)【発明者】
【氏名】シュアンクオ シュー
(72)【発明者】
【氏名】チョンジエン リー
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06013763(US,A)
【文献】米国特許第06197927(US,B1)
【文献】特表2020-512385(JP,A)
【文献】GONG, Y., et al.,"Development of the Double Cyclic Peptide Ligand for Antibody Purification and Protein Detection.",BIOCONJUGATE CHEMISTRY,2016年06月30日,Vol.27,pp.1569-1573+Supp.Info.(S1-S15),DOI: 10.1021/acs.bioconjchem.6b00170
【文献】VAN ELDIJK, M.B., et al.,"Thermodynamic investigation of Z33-antibody interaction leads to selective purification of human antibodies.",JOURNAL OF BIOTECHNOLOGY,2014年03月22日,Vol.179,pp.32-41,DOI: 10.1016/j.jbiotec.2014.03.023,[online]
【文献】HUTTL, C., et al.,"Self-assembled peptide amphiphiles function as multivalent binder with increased hemagglutinin affinity.",BMC BIOTECHNOLOGY,2013年06月18日,Vol.13,51(pp.1-10),DOI: 10.1186/1472-6750-13-51,[online]
【文献】DENG, M., et al.,"Self-assembly of peptide-amphiphile C12-Abeta(11-17) into nanofibrils.",THE JOURNAL OF PHYSICAL CHEMISTRY B,2009年06月01日,Vol.113, No.25,pp.8539-8544,DOI: 10.1021/jp904289y
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種以上の免疫‐両親媒性物質を含むイミュノファイバー組成物、ここで、前記免疫‐両親媒性物質が炭化水素鎖に結合した抗体結合ペプチドを含む、
ここで、前記炭化水素鎖は、前記抗体結合ペプチドのN末端側のみに存在する、
ここで、前記抗体結合ペプチドは、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のプロテインAのZ33ペプチドの親水性アミノ酸配
列を有する。
【請求項2】
前記免疫‐両親媒性物質が、生理的なpHの水溶液中にある場合にαヘリックス構造を有する、請求項1に記載のイミュノファイバー組成物。
【請求項3】
前記抗体結合ペプチドが、アミノ酸配列FNMQQQRRFYEALHDPNLNEEQRNAKIKSIRDD (配列番号(SEQ ID NO): 1
)を有する、請求項1に記載のイミュノファイバー組成物。
【請求項4】
前記抗体結合ペプチドが、配列番号1-7からなる群から選択される親水性アミノ酸配列を有する、請求項1に記載のイミュノファイバー組成物。
【請求項5】
前記炭化水素鎖が8~22個の炭素長であり、直鎖又は分枝鎖である、請求項1~4の何れか一項に記載のイミュノファイバー組成物。
【請求項6】
前記炭化水素鎖が直鎖である、請求項5に記載のイミュノファイバー組成物
【請求項7】
前記炭化水素鎖が8~12個の炭素長である、請求項6に記載のイミュノファイバー組成物。
【請求項8】
イミュノファイバー結合分子を含むイミュノファイバー組成物、ここで前記結合分子は抗体結合ペプチド(抗体結合ペプチドはそのN末端側のみで炭化水素鎖に結合している)を含む、及び前記結合ペプチドは第1スペーサー・ペプチドに結合し、第1スペーサー・ペプチドはそのC末端で黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のプロテインAのZ33ペプチドの親水性アミノ酸配
列を有する抗体結合ペプチドに結合する、並びにここで、前記第1スペーサー・ペプチドはXXYYZZという一般式のアミノ酸配列を含む、ここで、XXは、小さい疎水性側鎖を有する2つのアミノ酸であり、且つ同じアミノ酸又は異なるアミノ酸であることがある、YYは、正電荷の側鎖を有する2つのアミノ酸であり、且つ同じアミノ酸又は異なるアミノ酸であることがある、並びにZZは、小さい中性側鎖を有する2つのアミノ酸であり、且つ同じアミノ酸又は異なるアミノ酸であることがある。
【請求項9】
前記抗体結合ペプチドが、アミノ酸配列FNMQQQRRFYEALHDPNLNEEQRNAKIKSIRDD (配列番号(SEQ ID NO):
1)を有する、請求項8に記載のイミュノファイバー組成物。
【請求項10】
前記抗体結合ペプチドが、配列番号1-7からなる群から選択される親水性アミノ酸配列を有する、請求項8に記載のイミュノファイバー組成物。
【請求項11】
前記炭化水素鎖が8個の炭素長である、請求項8に記載のイミュノファイバー組成物。
【請求項12】
小さい疎水性側鎖を有するアミノ酸が、Ala、Val、Ile、及びLeuからなる群から選択される、請求項8~11の何れか一項に記載のイミュノファイバー組成物。
【請求項13】
正電荷の側鎖を有するアミノ酸が、Arg、His、及びLysからなる群から選択される、請求項8~11の何れか一項に記載のイミュノファイバー組成物。
【請求項14】
小さい中性側鎖を有するアミノ酸が、Gly及びProからなる群から選択される、請求項8~11の何れか一項に記載のイミュノファイバー組成物。
【請求項15】
スペーサー分子(スペーサー分子は、XXBBという一般式のアミノ酸配列を含むペプチド配列に、そのN末端側のみで、結合した炭化水素鎖を有する)を含むイミュノファイバー組成物、ここで、XXは小さい疎水性側鎖を有する2つのアミノ酸であり、且つ同じアミノ酸又は異なるアミノ酸であることがある、並びに、BBは負電荷の側鎖を有する2つのアミノ酸であり、且つ同じアミノ酸又は異なるアミノ酸であることがある。
【請求項16】
小さい疎水性側鎖を有するアミノ酸が、Ala、Val、Ile、及びLeuからなる群から選択される、請求項15に記載のイミュノファイバー組成物。
【請求項17】
負電荷の側鎖を有するアミノ酸が、Glu及びAspからなる群から選択される、請求項15に記載のイミュノファイバー組成物。
【請求項18】
以下のステップを含む、抗体又はFc含有ペプチド若しくはタンパク質を精製する方法:
a)請求項1~17の何れか一項に記載のサンプルを水溶液及び生理的なpHの溶液に溶解し、並びに一晩熟成させてIFに自己集合化させるステップ;
b)抗体を含むサンプルを前記IF溶液と混合し、前記IFを免疫グロブリン分子のFc部分又はFc含有ペプチド若しくはタンパク質に結合させ、溶液中でイミュノファイバー‐Fc免疫グロブリン又はイミュノファイバー‐Fc含有ペプチド若しくはタンパク質の複合体を形成させるステップ;
c)塩を添加すること及び遠心分離により、前記イミュノファイバー‐Fc免疫グロブリン又はイミュノファイバー‐Fc含有ペプチド若しくはタンパク質の複合体を前記溶液から分離するステップ;
d)前記免疫グロブリン又はFc含有ペプチド若しくはタンパク質から前記IFを解離させ、結合していない免疫グロブリン又はFc含有ペプチド若しくはタンパク質を回収するステップ。
【請求項19】
前記pHを溶離条件まで低下させること及び濾過、精密濾過、又は限外濾過によって、前記IFを免疫グロブリン又はFc含有ペプチド若しくはタンパク質から分離する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記免疫グロブリン又はFc含有ペプチド若しくはタンパク質を、研磨(polishing)ステップを用いて更に精製する、請求項18又は19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は2017年8月18日に出願された米国仮特許出願第62/547,256号の利益を主張し、これは、あたかも本明細書に完全に記載されているかのように、全ての目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
電子的に提出された物件に関する参照による組み込み
本出願には、EFS-Webを介してASCIIフォーマットで提出された配列リストが含まれており、本明細書では、その全体が参照により組み込まれている。前記ASCIIコピーは、2018年8月17日に作成され、P14755-02_ST25.txtと命名され、2,433バイトのサイズである。
【背景技術】
【0003】
一次元(1D)ナノ構造に自己集合化することができる両親媒性ペプチド又はペプチド複合体は、それらの重要な生物医学的用途のために、過去20年にわたって広範囲に研究されてきた。その得られた自己集合化したナノ構造体を、生物学へのインターフェースを有するものとするために、種々の生物活性ペプチドがその分子設計に組み込まれてきた。しかしながら、超分子表面上に提示される生物活性ペプチドの二次構造を、それらが適切に機能するのに必要なように、正確に制御することは、依然として難しい問題のままである。一般に、最終的に自己集合化した形態は、疎水性相互作用、水素結合、静電相互作用、及びπ-πスタッキングを含む、いくつかの相互作用因子によって決まる。ペプチドをベースとした1Dナノ構造体の場合、β‐シート・モチーフが、分子間水素結合を提供し、得られる集合体を異方性に成長させるためにしばしば使用される。α‐ヘリックス・ペプチド(タンパク質の別の重要な成分であり、及び多くの重要な生体分子相互作用のキー・メディエーターでもある)もまた、超分子ナノ構造を作り出すために、あまり頻繁ではないが、使用されてきた。例えば、Tirrellらは、有意なα‐ヘリックスを有する円筒状ミセル及びタンパク質アナログのミセルを設計した。更に、溶媒特性、疎水性テール、又は熱履歴を調整することによって、ランダムコイル、α‐ヘリックス、及びβ‐シートのような多様な構造の間での自己集合化したペプチド・ナノ構造における転移が、時折報告されている。これらの進歩は重要ではあるが、固有の熱力学的な不安定性及びそれらの超分子集合体内のα‐ヘリックス・ペプチドの構造的な不確実性に関する懸念は依然として残っている。
【0004】
α‐ヘリックス二次構造は、アルキル鎖が結合することによって安定化され得ることが示されている。しかしながら、アルキル鎖の数を調整することにより、1つのペプチドの中で、α‐ヘリックスからβ‐シートへ転移することは、ほとんど見られなかった。
【0005】
自己集合化したペプチド・モチーフのC末端又はN末端のいずれかに生物活性ペプチドをこのように直接配置することは、生物医学へ具体的に適用するのための生物活性物質を作製する一般的な戦略となっている。ペプチド集合体の免疫原性を調節する努力として、Collier及び共同研究者らは、自己集合化したペプチドQ11を抗原OVAペプチドに共有結合させ、得られた超分子OVA-Q11ナノファイバーが増強された免疫原性を有することを見出した。これまで、生物学的に活性なペプチドを、それらの生物活性を維持しながら、超分子ペプチド・ナノ構造体にうまく組み込ませることができることを十分に実証した多くの研究が、文献において存在してきた。しかしながら、エピトープが生物活性を有するために、α‐ヘリックス構造を保持しなければならない場合には、β‐シート形成配列の使用とα‐ヘリックス・モチーフの提示との間に間隔が合わないことが問題になるようであった。
【0006】
高親和性抗体結合粒子及び物質は、生物学的治療薬であるモノクローナル抗体に関する需要が増加してきていることに推されて、製薬産業で急速に関心を集めてきている。プロテインA(周知の抗体に結合するリガンド)は、ヒトを含むほとんどの哺乳動物種由来のIgGのFc部分に特異的に結合する能力を有する。しかしながら、プロテインAはサイズが大きいので、その工業的利用が制限され、そのため、プロテインAに関して多くの合成及び最小化したドメインが設計され、研究されてきた。プロテインAのZ-ドメインは、最初の最も有名な59アミノ酸残基の合成ドメインであり、IgG1に結合する場合、約10 nMのKdを有する。プロテインAのZドメインを更に最小化するために、結合親和性を有意に変化させずに(Kd= 43 nM)、2ヘリックス誘導体Z33が設計された。高親和性リガンドが同定された一方で、所望の基質上にリガンドを提示する方法は、抗体精製プロセスにおいて、同じ位重要である。製薬産業では、抗体精製は主に、高い選択性を有する抗体結合リガンド(例えば、プロテインA)の固定化に基づくアフィニティー・クロマトグラフィーに依存しているが、クロマトグラフィー媒体コストが高いことと捕捉生産性に限界があることに悩まされている。比較的簡単な方法を用いて、効率的に精製でき、及びバッチ処理量のボトルネックを解消する可能性があることによって、アフィニティ析出が、伝統的なクロマトグラフィー方法の魅力的な代替方法となったのは、ごく最近である。
【0007】
アフィニティ析出に関する典型的な例では、エラスチン様タンパク質(ELP)を融合させたZドメインを使用し、温度と塩でELPの溶解性転移を引き起こしてIgGを析出させた。しかし、バクテリアで発現させたELPは大きく、ELPを融合させたそれぞれのリガンド上の結合部位は限られるので、及び高温では抗体は変性する可能性があるので、抗体に結合するリガンドを提示するための新しい基質を見出すことに関心が向けられた。
【0008】
自己集合化したペプチド両親媒性物質に関する洗練された分子設計に刺激されて、本発明者らは、プロテインA模倣ペプチドZ33を自己集合化している免疫‐両親媒性物質(immune-amphiphiles:IA)に組み込ませる方法を以前に報告し、自己集合化した状態における標的抗体へのその結合能を調べた。自己集合化したイミュノファイバー(IF)と治療用IgGとの間の結合親和性を等温滴定示差法(ITC)を用いて調べたところ、Z33を含むIFは、その高いIgGへの結合親和性を保持していることが示唆された。
【0009】
本発明者らは、ペプチドをフラグメント化し、アルキル鎖に結合させることで、フラグメント化したペプチドの立体構造が変化するか、そして、前記ペプチドが、タンパク質を効果的に精製するために組み合わせ得る自己集合化している免疫‐両親媒性の特性を依然として保持しているか、を検討した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
集合体を方向性、異方性を持って成長させる分子間水素結合に必須のコア・ビルディング・モチーフとして短いβ‐シート配列を含有するペプチド又はペプチド結合体を自己集合化させることによって、沢山の一次元(1D)ナノ構造を、構築する。この分子設計戦略によって、細胞とのインターフェースになる、大量の生物活性フィラメント状β‐シート集合体をうまく産生することができるようになったが、アミロイド原線維を彷彿させる毒性の可能性に関連した懸念があることから、α‐ヘリックス・ペプチドを用いた他の超分子作製戦略を進めた。
【0011】
本発明者らは以前に、アミノ酸配列FNMQQQRRFYEALHDPNLNEEQRNAKIKSIRDD (配列番号(SEQ ID NO): 1)(2つのα‐ヘリックスを含むモチーフ)を有するプロテインA模倣ペプチドZ33を直鎖状炭化水素へ直接に結合させることによって、自己集合化している免疫‐両親媒性物質を生成することを示した(米国仮特許出願第62/478,795号、2017年3月30日出願、その全体が記載されているように、引用により本明細書に組み込まれる)。その結果は、得られた両親媒性ペプチドは、必須のβ‐シート・セグメントを欠いているにもかかわらず、生理学的条件下で、それらの天然α‐ヘリックス構造を保存しながら、超分子イミュノファイバー(IF)に効果的に会合し得ることを示す。等温滴定熱量測定により、これらの自己集合化しているイミュノファイバーが、pH 7.4で免疫グロブリンG(IgG)抗体に高い特異性を持って結合できることが確認されたが、pH 2.8の溶離バッファー中では、結合を検出することはできなかった。
【0012】
本発明は、一本鎖又は二本鎖アルキル化によって、α‐ヘリックスとβ‐シートとの間でα‐ヘリックス・ペプチドの二次構造をスイッチングさせる分子的な戦略を提供する。プロテインAに由来する、α‐ヘリックス・ペプチドZ33から単離した、2つのペプチド配列フラグメントを、免疫‐両親媒性物質(IAs)中の親水性部分として働くように設計した。これらの自己集合化しているイミュノファイバーは、溶解状態で組み合わせると、pH 7.4で高い特異性を持って免疫グロブリンG(IgG)抗体に結合することができると予想される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
従って、いくつかの実施形態では、タンパク質結合ペプチドを自己集合化しているイミュノファイバーへとする超分子工学は、タンパク質精製に効果的に役立つ。
【0014】
一実施形態によれば、本発明は、直鎖状炭化水素鎖に結合した抗体結合ペプチドを含む免疫‐両親媒性物質を提供する。
【0015】
一実施形態によれば、本発明は、直鎖状炭化水素鎖に結合した抗体結合ペプチドを含む免疫‐両親媒性物質を含む自己集合化しているイミュノファイバーを提供する、ここで、前記免疫‐両親媒性物質は、生理的なpHの水溶液中にある場合に、α‐ヘリックス構造を有する。
【0016】
一実施形態によれば、本発明は、直鎖状炭化水素鎖に結合した抗体結合ペプチドを含む免疫‐両親媒性物質を含む自己集合化しているイミュノファイバーを提供する、ここで、前記抗体結合ペプチドが、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のプロテインAのZ33ペプチドの親水性アミノ酸配列、又はその機能的な部分若しくはフラグメント若しくは誘導体を有する。
【0017】
一実施形態によれば、本発明は、直鎖状炭化水素鎖に結合した抗体結合ペプチドのフラグメントを含む免疫‐両親媒性物質を含む自己集合化しているイミュノファイバーを提供する。
【0018】
一実施形態によれば、本発明は、直鎖状炭化水素鎖に結合した抗体結合ペプチドのフラグメントを含む免疫‐両親媒性物質を含む自己集合化しているイミュノファイバーを提供する、ここで、前記免疫‐両親媒性物質は、生理的なpHの水溶液中にある場合に、α‐ヘリックス構造を有する。
【0019】
一実施形態によれば、本発明は、直鎖状炭化水素鎖に結合した抗体結合ペプチドのフラグメントを含む免疫‐両親媒性物質を含む自己集合化しているイミュノファイバーを提供する、ここで、前記免疫‐両親媒性物質は、生理的なpHの水溶液中にある場合に、β‐シート構造を有する。
【0020】
一実施形態によれば、本発明は、直鎖状炭化水素鎖に結合した抗体結合ペプチドのフラグメントを含む免疫‐両親媒性物質を含む自己集合化しているイミュノファイバーを提供する、ここで、前記抗体結合ペプチドは、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のプロテインAのZ33ペプチドの親水性アミノ酸配列の部分を有する。
【0021】
別の実施形態によれば、本発明は、直鎖状炭化水素鎖に結合した抗体結合ペプチドを含む1種以上の免疫‐両親媒性物質を含むイミュノファイバー組成物を提供する、ここで、前記抗体結合ペプチドは、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のプロテインAのZ33ペプチドの親水性アミノ酸配列、又はその機能的な部分若しくはフラグメント若しくは誘導体を有する。
【0022】
一実施形態によれば、本発明は、タンパク質精製のための方法を提供し、これは、1種以上の目的のタンパク質を含む第1のpHレベルの溶液を、直鎖状炭化水素鎖に結合した抗体結合ペプチドを含む1種以上の免疫‐両親媒性物質を含むイミュノファイバー組成物と接触させること、ここで、前記抗体結合ペプチドは、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のプロテインAのZ33ペプチドの親水性アミノ酸配列、又はその機能的な部分若しくはフラグメント若しくは誘導体を有する;1種以上の目的のタンパク質を、前記Fc結合ペプチド、又はその機能的な部分若しくはフラグメント若しくは誘導体と結合させること;前記溶液のpHレベルを、前記抗体結合ペプチド及び1種以上の目的のタンパク質の荷電特性及び構造を変化させるpHに変化させること;並びに、解離した1種以上の目的のタンパク質を前記溶液から抽出すること、を含む。
【0023】
更なる実施形態によれば、本発明は、
抗体結合ペプチド(抗体結合ペプチドは、そのN末端で直鎖状炭化水素鎖に結合している、及び第1スペーサー・ペプチド(第1スペーサー・ペプチドは、そのC末端で黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のプロテインAのZ33ペプチドの親水性アミノ酸配列、又はその機能的な部分若しくはフラグメント若しくは誘導体を有する抗体結合ペプチドに結合している)に結合している)を含むイミュノファイバー結合分子(ここで、前記第1スペーサー・ペプチドはXXYYZZという一般式の配列を含む、ここで、XXは、小さい疎水性側鎖を有する2つのアミノ酸であり、且つ同じアミノ酸又は異なるアミノ酸であることがある、YYは、正電荷の側鎖を有する2つのアミノ酸であり、且つ同じアミノ酸又は異なるアミノ酸であることがある、並びにZZは、小さい中性側鎖を有する2つのアミノ酸であり、且つ同じアミノ酸又は異なるアミノ酸であることがある)、
を含み、並びに、
イミュノファイバー・スペーサー分子(イミュノファイバー・スペーサー分子は、そのN末端に、XXBBという一般式の配列を含むペプチド配列に結合した直鎖状炭化水素鎖を有する、ここで、XXは小さい疎水性側鎖を有する2つのアミノ酸であり、且つ同じアミノ酸又は異なるアミノ酸であることがある、ここで、BBは、負電荷の側鎖を有する2つのアミノ酸であり、且つ同じアミノ酸又は異なるアミノ酸であることがある)、
を更に含む、
イミュノファイバー組成物を提供する。
【0024】
別の実施形態によれば、本発明は、直鎖状炭化水素鎖に結合した抗体結合ペプチドを含む1種以上の免疫‐両親媒性物質を含むイミュノファイバー組成物を作製するための方法を提供する、ここで前記抗体結合ペプチドは、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のプロテインAのZ33ペプチドの親水性アミノ酸配列、又はその機能的な部分若しくはフラグメント若しくは誘導体を有する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1A~1C。(1A)IgGのFc-部分に結合するZ33ペプチドの模式図。(1B)C12-Z33及び2C8-Z33の配列。アルキル基及びZ33を、それぞれ黄色及び青色の陰影領域で示す。Z33ペプチド中の2つのα‐ヘリックスには下線を引いた。(1C)R-Z33 IFの自己集合化及びIFとIgGとの間の結合の模式図。
【
図2】
図2A~2F。(2A)C12-Z33の自己集合化の模式図。(2B)pH 7.4及び2.8における、Z33ペプチド及びZ33-C12に関する標準化したCDスペクトル。pH 7.4(2C、D)及び2.8(2E、F)における、C12-Z33に関するTEMによる特性評価。TEMサンプルは、PBS(pH 7.4)及びIgG溶離バッファー(pH 2.8)中、100 μMの濃度で別々に調製した。前記TEMサンプルを2重量%酢酸ウラニルでネガティブ染色した。
【
図3】
図3A~3D。15℃、(3A)PBSバッファー(pH 7.4)及び(3B)IgG溶離バッファー(pH 2.8)の2 μM IgG1の溶液へ、100 μM C12-Z33を滴下したときのITCプロファイル。15℃、pH 7.4、PBS中の2μM IgG1へ、100 μM(3C)Z33及び(3D)C12-SZ33を滴下したときのITCプロファイル。
【
図4】
図4A~4E。(4A)pH 7.4のPBS中の16.8±1.5nmの直径を有する2C8-Z33、及び(4B)pH 2.8のIgG溶離バッファー中の17.3±1.9nmの直径を有する2C8-Z33に関するTEMによる特性評価。そのTEMサンプルの調製は、C12-Z33に関するTEMサンプルの調製と同様に行った。(4C)pH 7.4のPBS中の100 μM 2C8-Z33に関する標準化CDスペクトルは、α‐ヘリックス二次構造を示した。(4D)PBSバッファー(pH 7.4)及び(4E)IgG溶離バッファー(pH 2.8)の2 μM IgG1の溶液中へ、100 μM 2C8-Z33を滴下したときのITCプロファイル。
【
図5】
図5A~5D。(5A)0.6MのNa
2SO
4溶液によって、IF-IgG複合体が析出するようになることの模式図。(5B) 0.6M Na
2SO
4を添加する前(i)及び後(ii)の5mM C12-Z33のPBS溶液、並びに(iii)5mM C12-Z33、(iv)0.6M Na
2SO
4、並びに(v)5mM C12-Z33及び0.6M Na
2SO
4を含むIgG1の20μM PBS溶液に関する写真。(ii)及び(v)において沈殿が観察された。(5C)0.6M Na
2SO
4を加える前後のC12-Z33及びIgG1+C12-Z33複合体に関する吸光度スペクトル。上清の正味IgG1は、IgG1+C12-Z33の上清からC12-Z33の上清を差し引いたものに由来する。(5D)0.6M Na
2SO
4を加える前後の2 mM C12-SZ33及びIgG1+C12-SZ33複合体に関する吸光度スペクトル。
【
図6】
図6A~6B。(6A)それぞれC16及び2C8での直接アルキル化による、Helix1及びHelix2ベースのペプチド両親媒性物質に関する例示的な実施形態の設計に関する模式図。(6B)IA分子が一次元ナノ構造へ自己集合化することの模式図。
【
図7】
図7A~7B。種々のIAのTEMイメージ。(7A)Helix1-C16及び(7C)C16-Helix2のTEMイメージは、それぞれ9.5±1.2 nm及び12.4±1.7 nmの直径を有するナノファイバー形態を示す。(7B)Helix1-2C8及び(7D)2C8-Helix2のTEMイメージは、それぞれ直径10~70nm及び22.9±1.5nmのナノベルト形態を示す。全てのサンプルを1 mM、pH 7.4の水中で調製し、一晩熟成させた後、イメージングをした。前記TEMサンプルを2重量%酢酸ウラニルでネガティブ染色をした。スケールバー: 200nm。
【
図8】
図8A~8D。(8A)Helix1-C16、(8B)C16-Helix2、(8C)Helix1-2C8、及び(8D)2C8-Helix2とインキュベートして臨界ミセル濃度(CMC)値を測定した場合のレポーター色素ナイルレッドの放出スペクトル。ここに示される全てのスペクトルは、放出極大によって標準化し、結合体の濃度がCMCを超える場合にブルー・シフトを示す。各IAのCMC範囲を、凡例においてボックスで囲む。単位: μM。
【
図9】
図9A~9B。pH 7.4の水中における、100 μM(9A)Helix1、Helix1-C16、Helix1-2C8、及び(9B)Helix2、C16-Helix2、2C8-Helix2に関する標準化CDスペクトル。
【
図10】
図10A~10B。pH 7.4の水中における、種々の濃度の(10A)Helix1-2C8及び(10B)Helix1-C16に関する標準化CDスペクトル。濃度の単位はμMである。
【
図11】
図11A~11F。種々のIAのTEMイメージ。(11A)Helix1-C12及び(11B)C12-Helix2のTEMイメージは、それぞれ12.9±0.9 nm及び13.9±1.5 nmの直径を有するナノファイバー形態を示す。スケールバー: 200nm。臨界ミセル濃度(CMC)値を決定するために、(11C)Helix1-C12及び(11D)C12-Helix2と共にインキュベートした場合のレポーター色素ナイルレッドに関する放出スペクトル。濃度の単位はμMである。pH 7.4の水中における、100 μM(11E)Helix1、Helix1-C8、Helix1-C12及び(11F)Helix2、C8-Helix2、C16-Helix2に関する標準化CDスペクトル。
【
図12】
図12。Helix1、Helix2、及びZ33の抗体結合ペプチド配列のフラグメントのいくつかの例示的な実施形態の化学構造。
【
図13】
図13。Helix1-C8、Helix1-C12、Helix1-C16及びHelix1-2C8の抗体結合ペプチド配列のいくつかの例示的なフラグメントの化学構造。
【
図14】
図14。C8-Helix2、C12-Helix2、C16-Helix2、及び2C8-Helix2のいくつかの例示的な抗体結合ペプチド配列のフラグメントの化学構造。
【
図15】
図15A~15B。臨界ミセル濃度(CMC)値を決定するために、(15A)Helix1-C8、(15B)C8-Helix2と共にインキュベートした場合のレポーター色素ナイルレッドに関する放出スペクトル。ここに示す全てのスペクトルは、放出極大によって標準化している。濃度の単位はμMである。結合体の濃度が100 μMに達したとしても、検出可能なピークシフトは観察されなかった。
【
図16】
図16。pH 7.4の水中100 μMでのHelix1、Helix2、及びZ33の標準化CDスペクトル。
【
図17】
図17。Helix1及びHelix2ベースのIAのCDスペクトルの解析。(A)Helix1ベース及び(B)Helix2ベースの分子における3つの主な二次構造の含有量。大凡のα‐ヘリックス、β‐シート、及びランダムコイル・ペプチドの二次構造を決定するために、ポリリジンに基づくスペクトルの線形結合を使用して、200~240nmの範囲で前記CDデータにフィットさせた。
【
図18】
図18。脱イオン水中における、100 μMのHelix1及びHelix1ベースのペプチド両親媒性物質によるThT色素の蛍光。
【
図19】
図19。(19A)結合分子C12-VVKKGGZ33及びスペーサー分子C12-VVEEの別の実施形態に関する化学構造。アルキル・テール(橙色)をペプチド配列のN末端に結合させた。2つのバリン(VV、赤色)は、一次元構造の形成を促進する。2つのグルタミン酸(EE、青色)をスペーサー分子中の親水性セグメントとして設計し、2つのリジン(KK、青色)をKKとEEとの間の静電的な相互作用のために設計し、このようにして、結合分子とスペーサー分子を交互にパッキングさせた。2つのグリシン(GG、緑色)を、アルキル鎖からZ33を更に分離するために設計した。(B)C12-VVKKGGZ33とC12-VVEEが共集合化することの模式図。結合分子とスペーサ分子のモル比を調整することによって、共集合化したイミュノファイバーの表面上にある結合分子の密度を容易に制御することができる。
【
図20】
図20。(20A)自己集合化したC12-VVEE、(20B)自己集合化したC12-VVKKGGZ33の代表的なTEMイメージ。
【
図21】
図21。IgG結合及び析出の収率。(21A)C12-VVEEとC12-VVKKGGZ33とを5:1、10:1、25:1、50:1、及び100:1のモル比でインキュベートし、続いて1 M硫酸アンモニウムを加えた後の、20 μM IgGの上清中のIgG割合。C12-VVKKGGZ33及びIgGのモル比:10:2(21B) 25:1及び50:1のモル比のC12-VVEE及びC12-VVKKGGZ33とインキュベートし、続いて1 M硫酸アンモニウムを加えた、20、10、及び5 μM IgGの上清中のIgG割合。C12-VVKKGGZ33及びIgGのモル比は、10:4、10:2、及び10:1である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
発明の詳細な説明
ブドウ球菌のプロテインA(SPA)は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の細胞壁で最初に発見されたタンパク質である。これは、3つのヘリックス束に折り畳まれた5つの相同ドメインから構成される。プロテインAは、ヒトを含むほとんどの哺乳動物種由来の免疫グロブリンG(別名IgG)のFc部分に特異的に結合するため、免疫学において重要な役割を果たしている。プロテインAに関する構造的及び生化学的な研究が精力的に行われてきている。1984年にSPAをコードする最初の遺伝子がクローニングされ、配列決定され、そして発現され、続いて、プロテインAに基づいて、IgG結合ドメインが多数、合成及び最小化された。中でも、Z-58ドメインはアフィニティ・クロマトグラフィー及びアフィニティ析出において広く使用される、最初で最も有名な合成ドメインである。もう1つ別の最小化した結合ドメイン、Z-33は、1996年に開発されたが、前記分子の機能は大きく変化していない。
【0027】
いくつかの実施形態によれば、本発明は、抗体結合ドメインのアミノ酸配列を、IFのビルディング単位として働く免疫‐両親媒性物質へ、修飾及び/又は誘導体化するための方法を提供する。本明細書に記載されるのは、IgG抗体又はその部分若しくはフラグメントに結合する際に有用なIFを設計し、作製する例である。生理学的なpH領域の水溶液中でIFが形成されると、表面に提示された露出した生物活性エピトープ(結合部位)は、IgGに特異的に結合することができる。
【0028】
一実施形態によれば、本発明は、直鎖状炭化水素鎖に結合した抗体結合ペプチドを含む免疫‐両親媒性物質を含む自己集合化しているイミュノファイバーを提供する。
【0029】
一実施形態によれば、本発明は、直鎖状炭化水素鎖に結合した抗体結合ペプチドを含む1種以上の免疫‐両親媒性物質を含む自己集合化しているイミュノファイバーを提供する、及びここで、前記免疫‐両親媒性物質は、生理的なpHの水溶液中にある場合に、α‐ヘリックス構造を有する。
【0030】
一実施形態によれば、本発明は、直鎖状炭化水素鎖に結合した抗体結合ペプチドを含む1種以上の免疫‐両親媒性物質を含む自己集合化しているイミュノファイバーを提供する、ここで、前記抗体結合ペプチドは、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のプロテインAのZ33ペプチド由来の親水性アミノ酸配列、又はその機能的な部分若しくはフラグメント若しくは誘導体を含む。
【0031】
一実施形態によれば、本発明は、直鎖状炭化水素鎖に結合した抗体結合ペプチドを含む1種以上の免疫‐両親媒性物質を含む自己集合化しているイミュノファイバーを提供する、ここで、前記抗体結合ペプチドは、アミノ酸配列FNMQQQRRFYEALHDPNLNEEQRNAKIKSIRDD (配列番号(SEQ ID NO): 1)、又はその機能的な部分若しくはフラグメント若しくは誘導体を含む。
【0032】
一実施形態によれば、本発明は、直鎖状炭化水素鎖に結合した抗体結合ペプチドのフラグメントを含む1種以上の免疫‐両親媒性物質を含む自己集合化しているイミュノファイバーを提供する。
【0033】
一実施形態によれば、本発明は、直鎖状炭化水素鎖に結合した抗体結合ペプチドのフラグメントを含む1種以上の免疫‐両親媒性物質を含む自己集合化しているイミュノファイバーを提供する、及びここで、前記免疫‐両親媒性物質は、生理的なpHの水溶液中にある場合に、α‐ヘリックス構造を有する。
【0034】
一実施形態によれば、本発明は、直鎖状炭化水素鎖に結合した抗体結合ペプチドのフラグメントを含む1種以上の免疫‐両親媒性物質を含む自己集合化しているイミュノファイバーを提供する、及びここで、前記免疫‐両親媒性物質は、生理的なpHの水溶液中にある場合に、β‐シート構造を有する。
【0035】
一実施形態によれば、本発明は、直鎖状炭化水素鎖に結合した抗体結合ペプチドのフラグメントを含む1種以上の免疫‐両親媒性物質を含む自己集合化しているイミュノファイバーを提供する、ここで、前記抗体結合ペプチドは、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のプロテインAのZ33ペプチドの親水性アミノ酸配列の部分を有する。
【0036】
本明細書中で使用する場合、用語「抗体結合ペプチドのフラグメント」は、配列番号(SEQ ID NO):1の33アミノ酸より少ない黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のプロテインAのZ33ペプチドの部分又はフラグメントを意味する。いくつかの実施形態では、用語「抗体結合ペプチドのフラグメント」は、前記ペプチド内に少なくとも1つのα‐ヘリックス領域を有するペプチドを含むZ33ペプチドの部分を意味する。抗体結合ペプチドのフラグメントはまた、追加のアミノ酸を含むことがあり、これはα‐ヘリックス領域を含んでいても又は含んでいなくても良い。
【0037】
一実施形態によれば、本発明は、直鎖状炭化水素鎖に結合した抗体結合ペプチドのフラグメントを含む免疫‐両親媒性物質を提供する、ここで、前記抗体結合ペプチドのフラグメントは、FNMQQQRRFYEALHD(配列番号(SEQ ID NO): 2)のアミノ酸配列を含み、Helix 1と呼ぶ。いくつかの実施形態では、Helix 1は、FNMQQQRRFYEALHDK(配列番号(SEQ ID NO): 3)のアミノ酸配列を含む。別の実施形態では、Helix 1は、FNMQQQRRFYEALHDKK(配列番号(SEQ ID NO): 4)のアミノ酸配列を含む。
【0038】
一実施形態によれば、本発明は、直鎖状炭化水素鎖に結合した抗体結合ペプチドのフラグメントを含む免疫‐両親媒性物質を提供する、ここで、前記抗体結合ペプチドのフラグメントは、PNLNEEQRNAKIKSIRDD(配列番号(SEQ ID NO): 5)のアミノ酸配列を含み、Helix 2と呼ぶ。いくつかの実施形態では、Helix 2は、FPNLNEEQRNAKIKSIRDD(配列番号(SEQ ID NO): 6)のアミノ酸配列を含む。
【0039】
本明細書中で使用する場合、用語「免疫‐両親媒性物質」は、「イミュノファイバー」(IF)と呼ぶ別個の安定な超分子ナノ構造体に自発的に会合することができる分子を意味する。一般に、本発明のIFは、約2.8~約7.5のpH領域で、集合化することがある。しかしながら、その結合特性はpHにも依存する。より正に帯電したIFは、より高いpH溶液においてより容易に会合し、逆に、負に帯電したIFは、より低いpH溶液においてより容易に会合する。
【0040】
いくつかの実施形態では、本発明の免疫‐両親媒性物質は、8~22個の炭素を有する炭化水素鎖に結合している親水性ペプチドを含む、及び前記鎖は直鎖又は分枝鎖であることがある。水溶液への溶解性の観点から、炭素数には上限がある。親水性ペプチドは、ナノ構造体の水溶性を増大させ、限定されるものではないが、好ましい二次構造形成(例えば、ベータ・シート、アルファ・ヘリックス、ポリ・プロリンII型ヘリックス、ベータ・ターン)によって、円筒状又は球状ミセル、中空ナノチューブ、トロイド、ディスク及び小胞等の、明確なナノ構造体構造の形成を促進することがある。
【0041】
本明細書中で使用する場合、用語「炭化水素鎖」は「脂肪族鎖」という用語と同義であることを意味する、これは、技術分野で認識されている用語であり、直鎖、分枝鎖、及び環状アルカン、アルケン、又はアルキンを含む。ある特定の実施形態では、本発明における脂肪族基は、直鎖又は分枝鎖であり、8~22個の炭素原子を有する。
【0042】
用語「アルキル」は当技術分野で認識されており、本明細書におけるその使用には、直鎖アルキル基及び分岐鎖アルキル基等を含む、飽和脂肪族基が含まれる。
【0043】
本明細書中で使用する場合、用語「抗体結合ペプチド」は、約10-6 M~約10-10 Mの間のKdを有するなど、高い特異性で抗体又は抗体分子の特定部分、例えばFc部分、に結合することができるペプチドを意味する。
【0044】
いくつかの実施形態では、前記抗体結合ペプチドは、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のプロテインAのZ-ドメインのZ33 2ヘリックス誘導体ペプチドの親水性アミノ酸配列、又はその機能的な部分若しくはフラグメント若しくは誘導体、である。
【0045】
本明細書中で使用される場合、プロテインAのZ33ペプチドは、FNMQQQRRFYEALHDPNLNEEQRNAKIKSIRDD (配列番号(SEQ ID NO): 1)のアミノ酸配列を有する。
【0046】
いくつかの実施形態では、前記抗体結合ペプチドは、直鎖状炭化水素鎖に結合したプロテインAのZ33ペプチドのフラグメントである、ここで、抗体結合ペプチドの前記フラグメントは、FNMQQQRRFYEALHD(配列番号(SEQ ID NO): 2)のアミノ酸配列を含み、Helix 1と呼ぶ。いくつかの実施形態では、Helix 1は、FNMQQQRRFYEALHDK(配列番号(SEQ ID NO): 3)のアミノ酸配列を含む。別の実施形態では、Helix 1は、FNMQQQRRFYEALHDKK(配列番号(SEQ ID NO): 4)のアミノ酸配列を含む。
【0047】
いくつかの実施形態では、前記抗体結合ペプチドは、直鎖状炭化水素鎖に結合したプロテインAのZ33ペプチドのフラグメントである、ここで、前記抗体結合ペプチドは、PNLNEEQRNAKIKSIRDD(配列番号(SEQ ID NO): 5)のアミノ酸配列を含み、Helix 2と呼ぶ。いくつかの実施形態では、Helix 2は、FPNLNEEQRNAKIKSIRDD(配列番号(SEQ ID NO): 6)のアミノ酸配列を含む。
【0048】
別の実施形態によれば、本発明は、直鎖状炭化水素鎖に結合した抗体結合ペプチドを含む1種以上の免疫‐両親媒性物質を含むイミュノファイバー組成物を提供する、ここで、前記抗体結合ペプチドは、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のプロテインAのZ33ペプチドの親水性アミノ酸配列、又はその機能的な部分若しくはフラグメント若しくは誘導体を有する。いくつかの実施形態では、前記機能的な部分又はフラグメント又は誘導体は、配列番号(SEQ ID NOS):1~6からなる群から選択される。
【0049】
他のタンパク質に結合させるために、他の結合ペプチドをZ33ペプチドの代わりに用いることができることは、当業者には理解されるのであろう。例えば、ストレプトアビジン又はその機能的な部分若しくはフラグメントを前記免疫‐両親媒性物質に組み込ませることができ、得られるIFを、ビオチン化化合物を結合させるのに使用することがある。
【0050】
用語「アミノ酸」には、D又はL体の天然α-アミノ酸(例えば、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Glu、Gln、Gly、His、Lys、Ile、Leu、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、Tyr、及びVal)、並びにβ-アミノ酸、合成アミノ酸及び非天然アミノ酸が含まれる。多くの種類のアミノ酸残基が前記ポリペプチドに有用であり、本発明は天然の遺伝的にコードされたアミノ酸に限定されない。本明細書中に記載されるペプチドにおいて利用されることがあるアミノ酸の例を、例えば、Fasman,1989、CRC Practical Handbook of Biochemistry and Molecular Biology、CRC Press、Inc、及びそこに引用される参考文献の中で、見つけることができる。RSP Amino Acids LLCのウェブサイトは、広範なアミノ酸残基の別の供給源である。
【0051】
「誘導体」への本明細書における言及には、本発明の抗体結合ペプチドの一部、フラグメント及び部分が含まれる。誘導体にはまた、単一又は複数のアミノ酸の置換、欠失及び/又は付加が含まれる。相同体には、同じ種のヘビ、若しくは同じ属のヘビ又はヘビファミリーの毒に由来する、機能的、構造的又は立体化学的に類似したペプチドが含まれる。このような全ての相同体は、本発明によって意図される。
【0052】
類似体及び模倣体には、天然に存在しないアミノ酸を含有するか、又はアミノ酸を含有しないにもかかわらず前記ペプチドと機能的に同じように挙動する分子を含む分子が含まれる。天然物をスクリーニングすることは、類似体及び模倣体を同定するための1つの有用な戦略である。
【0053】
ペプチド合成中に非天然アミノ酸及び誘導体を組み込ませる例としては、限定されるものではないが、ノルロイシン、4-アミノ酪酸、4-アミノ-3-ヒドロキシ-5-フェニルペンタン酸、6-アミノヘキサン酸、t-ブチルグリシン、ノルバリン、フェニルグリシン、オミチン、サルコシン、4-アミノ-3-ヒドロキシ-6-メチルヘプタン酸、2-チエニルアラニン及び/又はアミノ酸のD-異性体を使用することが挙げられる。本明細書で意図される既知の非天然アミノ酸に関する部分的なリストを表1に示す。
【0054】
【0055】
本明細書で意図される対象となるペプチドの類似体には、側鎖への修飾、ペプチド合成中に非天然アミノ酸及び/又はそれらの誘導体の組み込ませること、並びにペプチド分子又はそれらの類似体に構造上の制約を課す架橋剤及び他の方法を使用することが含まれる。
【0056】
本発明によって意図される側鎖修飾の例としては、アルデヒドと反応させてからNaBH4で還元する還元アルキル化;メチルアセトイミデートによるアミド化;無水酢酸によるアシル化;シアン酸塩によるアミノ基のカルバモイル化;2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)によるアミノ基のトリニトロベンジル化;無水コハク酸及び無水テトラヒドロフタル酸によるアミノ基のアシル化;並びにピリドキサール-5-リン酸塩と反応させてからNaBH4で還元することによるリジンのピリドキシル化、等によるアミノ基の修飾が挙げられる。
【0057】
アルギニン残基のグアニジン基を、2,3-ブタンジオン、フェニルグリオキサール及びグリオキサールのような試薬による複素環縮合生成物の形成によって修飾することがある。
【0058】
カルボキシル基を、O-アシルイソ尿素形成によるカルボジイミド活性化をさせた後、誘導体化(例えば対応するアミドへの誘導体化)によって修飾することがある。
【0059】
スルフヒドリル基を、ヨード酢酸又はヨードアセトアミドによるカルボキシメチル化;システイン酸への過ギ酸酸化;他のチオール化合物との混合ジスルフィドの形成;マレイミド、無水マレイン酸又は他の置換マレイミドとの反応;4-塩化第二水銀安息香酸、4-塩化第二水銀フェニルスルホン酸、塩化フェニル水銀、2-塩化第二水銀-4-ニトロフェノール、およびその他の水銀剤を用いる水銀誘導体の形成;アルカリpHでのシアン酸塩によるカルバモイル化などの方法によって修飾することがある。
【0060】
トリプトファン残基を、例えば、N-ブロモスクシンイミドによる酸化、又は2-ヒドロキシ-5-ニトロベンジルブロマイド若しくはハロゲン化スルフェニルによるインドール環のアルキル化によって修飾することがある。他方、チロシン残基をテトラニトロメタンによるニトロ化によって変化させ、3-ニトロチロシン誘導体を形成してもよい。
【0061】
ヒスチジン残基のイミダゾール環の修飾をヨード酢酸誘導体によるアルキル化又はジエチルピロカーボネートによるN-カルベトキシル化(carbethoxylation)によって行ってもよい。
【0062】
架橋剤を、例えば、n=1~n=6の(CH2)nスペーサー基を有する二官能性イミドエステル、グルタルアルデヒド、N-ヒドロキシスクシンイミド・エステル等のホモ二官能性架橋剤、並びにN-ヒドロキシスクシンイミドのようなアミノ反応性部分及びマレイミド又はジチオ部分(SH)又はカルボジイミド(COOH)のような別の基特異的反応性部分を通常含有するヘテロ二官能性試薬を使用して、3D構造を安定化するために使用することがある。更に、ペプチドを、例えば、Cα及びNα-メチルアミノ酸を取り込ませる、アミノ酸のCα原子とCβ原子との間に二重結合を導入する、並びにNとC末端との間、2つの側鎖の間、又は側鎖とN若しくはC末端との間にアミド結合を形成させるなどの共有結合の導入により環状ペプチド又は類似体を形成させる、ことによって、構造的に拘束することがある。
【0063】
本明細書で使用する場合、用語「ペプチド」は。長さが4~100アミノ酸残基、好ましくは長さが約10~80残基、より好ましくは長さが15~65残基の配列を含み、このペプチドの中では、1つのアミノ酸のα-カルボキシル基は、アミド結合によって隣接アミノ酸の主鎖(α-又はβ-)アミノ基に連結している。
【0064】
いくつかの実施形態によれば、一般に、本発明は目的のタンパク質又はペプチドの精製のための方法を提供する、ここで、本発明のイミュノファイバーによる免疫沈降法を使用して、イミュノファイバーの抗体結合ペプチド部分は、前記タンパク質又はペプチドに、結合することができる。
【0065】
一実施形態によれば、本発明は免疫グロブリン分子のFc部分又はその機能的な部分若しくはフラグメントを有するペプチド又はタンパク質の精製方法を提供し、これは1種以上の目的のペプチド又はタンパク質を含む第1のpHレベルの溶液を、1種以上の免疫‐両親媒性物質を含むイミュノファイバー組成物と接触させるステップ、ここで、1種以上の免疫‐両親媒性物質は炭化水素鎖に結合したFc結合ペプチドを含む、ここで、Fc結合ペプチドは黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のプロテインAのZ33ペプチドの親水性アミノ酸配列、又はその機能的な部分若しくはフラグメント若しくは誘導体を有する;1種以上の目的のタンパク質を、前記Fc結合ペプチド、又はその機能的な部分若しくはフラグメント若しくは誘導体と結合させるステップ;溶液のpHレベルを、Fc結合ペプチドの構造を、目的の1種以上のタンパク質と結合しなくなる構造に変化させるpHに変化させるステップ;及び解離した1種以上の目的のタンパク質を溶液から抽出するステップ、を含む。
【0066】
一般に、Fc含有タンパク質は、免疫グロブリン若しくは抗体(例えば、IgG型)、又はFc部分を含む融合ペプチド若しくはタンパク質であることがあり、Fc含有タンパク質を、サンプル中のタンパク質を水溶液及び生理学的pH中で本発明のイミュノファイバーと混合させることによって、及び前記イミュノファイバーを目的のタンパク質分子のFc部分に結合させることによって、精製する。ある実施形態では、前記イミュノファイバーは、プロテインAのZ33部分を含み、IgG分子のFc部分、又はそれらを含む融合ペプチド若しくはタンパク質に特異的である。
【0067】
いくつかの他の実施形態によれば、次いで、前記イミュノファイバーを、種々の濾過方法(例えば、透析濾過、精密濾過又は限外濾過)を使用して、結合したタンパク質から分離する。
【0068】
ある実施形態では、本発明のイミュノファイバー組成物は、直鎖状炭化水素に結合したプロテインAのZ33ペプチドの2つ以上のフラグメントを含む。ある実施形態では、抗体の精製又は結合の方法において使用するイミュノファイバーは、Helix 1及びHelix 2ペプチドの混合物を含むことがある。例えば、前記方法は、配列番号(SEQ ID NOS):2~4のペプチド配列を有する1種以上のHelix 1ペプチド、及びそれらの組み合わせを添加すること、並びに配列番号(SEQ ID NO): 5又は6のペプチド配列を有する1種以上のHelix 2ペプチド、及びそれらの組み合わせを添加すること、を含むことがある。
【0069】
イミュノファイバーを結合させる時間が経過すると、前記イミュノファイバーは、溶液中でイミュノファイバー-タンパク質複合体を形成する。次いで、形成した複合体を、例えば、塩で沈殿化を誘導すること及び遠心分離等を含む多くの公知の分離法によって、サンプル中の結合していないファイバー及びタンパク質並びに他の成分から分離することができる。次いで、分離した複合体を、酸性pHの別の溶液中に添加することがあり、前記イミュノファイバーは、タンパク質に対するそれらの結合親和性を失う。次いで、前記タンパク質を、透析濾過又は他の手段のような濾過によって、解離したイミュノファイバーから分離することがあり、解離したモノマーも同様に除去することがある。
【0070】
多孔質樹脂(ビーズアガロースなど)若しくは磁気ビーズ、又は固定化基質を組み合わせたものに共有結合的に固定化する、及び免疫沈降法等の他のタンパク質精製方法と共に、本発明のイミュノファイバーを使用することができると考えられる。
【0071】
本明細書中で使用する場合、前記用語「サンプル」は、本発明のイミュノファイバーを使用して結合され得る、目的の抗体を含む任意のサンプル又は溶液又は液体を意味する。いくつかの実施形態では、前記サンプルは生物学的サンプルであることがある。
【0072】
本発明の1種以上の実施形態によれば、用語「生物学的サンプル」又は「生物学的液体」は、限定されるものではないが、生きている又は以前に生きていた患者又は哺乳動物由来の任意の量の物質を含むことが理解される。このような物質には、血液、血清、血漿、尿、細胞、器官、組織、骨、骨髄、リンパ、リンパ節、滑膜組織、軟骨細胞、滑膜マクロファージ、内皮細胞、及び皮膚が含まれるが、これらに限定されない。
【0073】
この研究におけるIAの全ての配列、CMC、及び二次構造を表1にまとめる。長い一本鎖及び二本鎖アルキル化の両方とも、一次元フィラメントの形成をもたらすことがあるが、形態、CMC、及び二次構造は異なる。アルキル鎖の長さ及び数は、ペプチド結合体の自己集合化の挙動に影響を及ぼすことが証明されている。例えば、Jan van Hestらは、C12又はより短いアルキル鎖と結合したGANPNAAG(配列番号(SEQ ID NO): 8)ペプチドが凝集体を示さないことを見出した。しかしながら、ファイバー状凝集体及び管状構造が、それぞれ、C14結合体及びC16又はそれより長い結合体において見出された。同様に、以前に他の研究者によって報告されたように、一本鎖アルキル化両親媒性物質のCMCは、IAの凝集が促進される疎水性が高くなっているために、アルキル鎖の長さが増加するにつれて、減少する。アルキル鎖結合体は、α-ヘリックス二次構造の安定性を増強し、前記結合体における含量を増加させることが以前に実証された。ペプチド形成のためのいくつかのα‐ヘリックスにおいて、生物活性が高くなることが報告された。例えば、SC4ペプチド-両親媒性物質の殺菌活性の増加が、Mayo及びTirellによって見出された。我々の結果は、Fornsらが検討したシステムと矛盾するように見え、16残基ペプチドのらせん構造度は、アルキル鎖が長くなるにつれて増加する。しかし、この不一致は、結合していない16残基ペプチド中に予め存在するα-ヘリックス構造によって引き起こされている可能性がある。Miharaらは、より長いN末端アルキル化2α-ヘリックスペプチドが、より速くαからβへと転移し、長いアルキル鎖によるβ‐シートの形成の促進を示すこと、を見出した。
【0074】
結論として、2系統の免疫‐両親媒性物質をうまく設計し、合成した。IAに関する種々の分子設計を通して、種々のアルキル化の方法によって、IA分子は、CMC値、形態及び二次構造の成分等のいくつかの自己集合化の特性において、変化することが見出された。本発明者らの結果は、一本鎖及び二本鎖アルキル化の両方とも、一次元フィラメントの形成をもたらし得ることを明確に示す。より長い一本鎖アルキル鎖は、IA分子の凝集を促進し、β‐シートの形成を増加させることができた。二本鎖アルキル化であれば、自己集合化したフィラメントにおけるα‐ヘリックスの形成が促進されることがある。しかしながら、種々のペプチド分子間で、アルキル化の影響にはバラツキがある。アルキル鎖の長さ及び数を調整するこの戦略を、更に発展させることができ、そして所望の生物活性を発揮するために特定の二次構造を必要とする他の自己集合化した機能性ペプチド系において、利用することができる。
【0075】
いくつかの実施形態によれば、前記ペプチド及びそのフラグメントをアルキル化するために使用するアルキル鎖は、3、4、5、6、7、8、10、12、14、16、18、20、22及び24炭素長である中間長等を含む、長さが2~24炭素の炭素長を有することがある。更に、ペプチド又はそのフラグメントは、前記ペプチド又はそのフラグメントをアルキル化する、1~4個のアルキル鎖を有することがある。
【0076】
本発明のイミュノファイバー組成物の別の実施形態。
本発明者の以前の研究によって、自己集合化しているC12-Z33イミュノファイバーの高いIgG結合親和性及びIgG析出能が示された。イミュノファイバー中でC12-Z33が緊密に充填されていることを考慮すると、上記の第1のイミュノファイバーの設計には、10ナノメートルの直径を有するIgG分子に対する、Z33リガンドのリガンド・アクセシビリティーが限られているかもしれない、という欠点がある。高密度のZ33リガンドがイミュノファイバーの表面に存在するが、立体障害によって、IgG結合能及びイミュノファイバーの架橋を妨げられ、析出する大きな集合体が形成されることがある、と考えられた。そのようなことから、本発明のイミュノファイバー組成物の別の実施形態を提供する。
【0077】
1種以上の実施形態によれば、改良したイミュノファイバー結合系が、結合分子(アルキル-XXYYZZ-抗体結合ペプチド)及びスペーサー分子(アルキル-XXBB)を共集合化したイミュノファイバー系中で組み合わせることによって提供される、ここで、第1スペーサー・ペプチドはXXYYZZという一般式の配列を含む、ここで、XXは、小さい疎水性側鎖を有する2つのアミノ酸であり、且つ同じアミノ酸又は異なるアミノ酸であることがある、YYは、正電荷の側鎖を有する2つのアミノ酸であり、且つ同じアミノ酸又は異なるアミノ酸であることがある、並びにZZは、小さい中性側鎖を有する2つのアミノ酸であり、且つ同じアミノ酸又は異なるアミノ酸であることがある、並びに更に、N末端に直鎖状炭化水素鎖を有する、XXBBという一般式の配列を含むペプチド配列に結合したイミュノファイバー・スペーサー分子を更に含む、ここで、XXは小さい疎水性側鎖を有する2つのアミノ酸であり、且つ同じアミノ酸又は異なるアミノ酸であることがある、並びにここで、BBは、負電荷の側鎖を有する2つのアミノ酸であり、且つ同じアミノ酸又は異なるアミノ酸であることがある。
【0078】
例示的な実施形態において、前記イミュノファイバー結合分子は4~8個のアミノ酸を含み、いくつかの実施形態では、上記で提供されるC12-Z33イミュノファイバーと比較して、炭素鎖と抗体結合ペプチドZ33との間にVVKKGG(配列番号(SEQ ID NO): 9)を含む6個のアミノ酸残基を含む。バリン(VV、赤色)のような2つの疎水性アミノ酸は、一次元構造の形成を促進する。グルタミン酸(EE、青色)のような2つの正電荷のアミノ酸をスペーサー分子中の親水性部分として設計し、リジン(KK、青色)のような2つの負電荷のアミノ酸を、正電荷のアミノ酸と負電荷のアミノ酸との間の静電的な相互作用のために設計し、結合及びスペーサー・イミュノファイバー分子C12-VVKKGGZ33が交互にパッキングされるようにした。グリシン(GG、緑色)のような2つの中性アミノ酸を、アルキル鎖からZ33のような抗体結合ペプチドを更に分離するために設計した。結合分子及びスペーサ分子を水溶液中に溶解すると、これらの2つの分子は、結合リガンドZ33が表面上に突き出た状態で、一次元イミュノファイバーへと均一に共集合化することが予測された(
図19)。
【0079】
更なる実施形態によれば、本発明は、
抗体結合ペプチド(抗体結合ペプチドは、そのN末端で直鎖状炭化水素鎖に結合している、及び第1スペーサー・ペプチド(第1スペーサー・ペプチドは、そのC末端で黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のプロテインAのZ33ペプチドの親水性アミノ酸配列、又はその機能的な部分若しくはフラグメント若しくは誘導体を有する抗体結合ペプチドに結合している)に結合している)を含むイミュノファイバー結合分子(ここで、前記第1スペーサー・ペプチドはXXYYZZという一般式の配列を含む、ここで、XXは、小さい疎水性側鎖を有する2つのアミノ酸であり、且つ同じアミノ酸又は異なるアミノ酸であることがある、YYは、正電荷の側鎖を有する2つのアミノ酸であり、且つ同じアミノ酸又は異なるアミノ酸であることがある、並びにZZは、小さい中性側鎖を有する2つのアミノ酸であり、且つ同じアミノ酸又は異なるアミノ酸であることがある)、
を含み、並びに、
イミュノファイバー・スペーサー分子(イミュノファイバー・スペーサー分子は、そのN末端に、XXBBという一般式の配列を含むペプチド配列に結合した直鎖状炭化水素鎖を有する、ここで、XXは小さい疎水性側鎖を有する2つのアミノ酸であり、且つ同じアミノ酸又は異なるアミノ酸であることがある、並びにここで、BBは、負電荷の側鎖を有する2つのアミノ酸であり、且つ同じアミノ酸又は異なるアミノ酸であることがある)、
を更に含む、
イミュノファイバー組成物を提供する。例えば、アミノ酸配列VVEE(配列番号(SEQ ID NO): 10)を使用して、イミュノファイバー・スペーサー・ペプチドとしてC12-VVEEを調製することがある。
【0080】
「疎水性側鎖を有するアミノ酸」という用語はAla、Val、Ile、Leu等のアミノ酸を意味することは、当業者は理解するであろう。「正電荷の側鎖を有するアミノ酸」という用語はArg、His、及びLysを意味する。「小さい中性側鎖を有するアミノ酸」という用語はGly又はPro等のアミノ酸を意味する。「負電荷の側鎖を有するアミノ酸」という用語は、Asp又はGlu等のアミノ酸を意味する。
【0081】
本発明のイミュノファイバー結合分子(アルキル-XXYYZZ-抗体結合ペプチド)及びスペーサー分子(アルキル-XXBB)を含むイミュノファイバー組成物及び別のイミュノファイバー結合システムは、抗体及び抗体のFc部分を含む他の分子、又はその部分若しくはフラグメントを精製するのに有用である。いくつかの実施形態では、本発明のイミュノファイバー組成物を、抗体分子のFcの少なくとも一部を含む任意のペプチド又は融合タンパク質を分離又は精製するために使用することがある。
【0082】
精製されたタンパク質から最後に残った微量不純物を取り除くことは、一般に研磨(polishing)と呼ばれる。これは、その調製物が研究、診断、更には治療用途へと意図される場合、タンパク質不純物は、望ましくない副作用を生じさせることがあるので、後続の処理における重要なステップである。研磨(polishing)は一般に、先のステップと別の分離方法を使用することによって行われ、最も一般的なのはゲル浸透クロマトグラフィーである。研磨(polishing)効果があるにもかかわらず、この技術は、不十分な分離容量及び低い生産性、結果として低速であること、が課題である。例えば、陰イオン交換又は疎水性クロマトグラフィに基づく、他のアプローチは、所与のプロセスに対して最適化することがあり、一般的な方法として使用することができない。いくつかの実施形態では、更なる研磨(polishing)ステップが、目的のタンパク質を精製するために使用される。
【0083】
従って、上記に鑑みて、本発明は、以下のステップを含む、抗体又はFc含有ペプチド若しくはタンパク質を精製するための方法を提供する:a)何れの上記イミュノファイバー組成物を含有するサンプルを水溶液及び生理的なpHの溶液に溶解し、並びに一晩熟成させてIFに自己集合化させるステップ;b)抗体を含むサンプルを前記IF溶液と混合し、前記IFを免疫グロブリン分子のFc部分又はFc含有ペプチド若しくはタンパク質に結合させ、溶液中でイミュノファイバー‐Fc免疫グロブリン又はイミュノファイバー‐Fc含有ペプチド若しくはタンパク質の複合体を形成させるステップ;c)塩を添加すること及び遠心分離により、前記イミュノファイバー‐Fc免疫グロブリン又はイミュノファイバー‐Fc含有ペプチド若しくはタンパク質の複合体を前記溶液から分離するステップ;d)前記免疫グロブリン又はFc含有ペプチド若しくはタンパク質から前記IFを解離させ、結合していない免疫グロブリン又はFc含有ペプチド若しくはタンパク質を回収するステップ。
【0084】
以下の実施例は、本明細書に開示された主題の代表的な実施形態を実施するためのガイダンスを当業者に提供するために含まれている。本開示及び当業者の一般的なレベルに照らして、当業者は以下の実施例が単に例示的であることを意図し、本開示の主題の範囲から逸脱することなく、多数の変更、修正、及び改変をすることができることを理解することができる。以下の合成の説明及び具体的な実施例は例示の目的のためにのみ意図され、他の方法によって本発明の化合物を作製することをいかなる様式においても制限するものとして、解釈されるべきではない。
【実施例】
【0085】
実施例1
材料。
全てのFmocアミノ酸及び樹脂はAdvanced Automated Peptide Protein Technologies (AAPPTEC、Louisville、KY、UXSA)から購入し、Fmoc-Lys(Fmoc)は、Novabiochem(San Diego、CA、USA)から入手した。治療用ヒトIgG1(IgG1)はBristol-Myers Squibb(Boston、MA、USA)から入手し、IgG溶離バッファーは、Thermo Fisher Scientific(Rockford、IL、USA)から入手した。全ての他の試薬はVWR(Radnor、PA、USA)から入手し、更に精製することなく、受け取ったまま使用した。
【0086】
分子合成。
C12-Z33及び2C8-Z33免疫‐両親媒性物質を、同様の方法を用いて合成した。簡単に述べると、Z33ペプチドを、最初に、標準的な9-フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)固相合成プロトコルを使用して、Focus XC自動ペプチド合成機(AAPPTEC、Louisville、KY)で合成した。次いで、C12(又は2C8)アルキル鎖を、室温で一晩振盪させながら、Z33ペプチドに対して4(又は8):4:6の比のラウリン酸(又はオクタン酸)/HBTU/DIEAと、Z33ペプチドのN末端(Fmoc除去後)で、マニュアルでカップリングさせた。他のアルキル鎖を、前記ペプチドのN末端又はリジン(K)の側鎖でマニュアルでカップリングさせて、種々のIAを生成し、室温で一晩振盪した。Fmoc脱保護を、DMF溶液中で、20% 4-メチルピペリジンを用いて10分間行い、1回繰り返した。全ての場合において、遊離アミンについてのニンヒドリン試験(Anaspec Inc、Fremont、CA)により反応をモニターした。92.5:5:2.5の比のTFA/TIS/H2Oの混合物を用いて、2.5時間、反応が終わったペプチドを固体担体から切り離した。余剰のTFAをロータリーエヴァポレーション(回転蒸発)によって除去し、冷ジエチルエーテルを加えて粗ペプチドを沈殿させた。遠心分離法により、沈殿したペプチドとジエチルエーテルを6000 rpmで3分間分離した。ペプチドをジエチルエーテルで更に2回洗浄し、溶液を遠心分離によって除去した。
【0087】
抗体結合ペプチドのフラグメントを用いたIAの分子合成。
ペプチド両親媒性物質を、同様の方法を用いて合成した。以下では、合成プロセスを示すために、Helix1-C16、Helix1-2C8、C16-Helix2、及び2C8-Helix2を例に取る。簡単に述べると、FNMQQQRRFYEALHDK (Helix1+Kmtt)(配列番号(SEQ ID NO): 3)及びFNMQQQRRFYEALHDKK (Helix1+Kmtt+Kmtt)(配列番号(SEQ ID NO): 4)のペプチド配列を、最初に、標準的な9-フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)固相合成プロトコルを用いて、Focus XC自動ペプチド合成機(AAPPTEC、Louisville、KY)で合成した。K-メチルチオテトラゾール(Kmtt)を、更なる反応のために、Helix1配列のC末端に付加した。次いで、パルミチン酸(C16)又はオクタン酸(2C8)のアルキル・テールを、それぞれHelix1+Kmtt及びHelix1+Kmtt+Kmtt中のKmttの側鎖で、マニュアルでカップリングさせて、Helix1-C16及びHelix1-2C8を生成し、室温で一晩振盪した。同様に、C16-Helix2及び2C8-Helix2については、PNLNEEQRNAKIKSIRDD (Helix2)(配列番号(SEQ ID NO): 5)及びFPNLNEEQRNAKIKSIRDD (K-Fmoc-Helix2)(配列番号(SEQ ID NO): 6)ペプチド配列を最初にFocus XC自動ペプチド合成機で合成した。K-Fmocを、更なる反応のために、Helix2配列のN末端に付加した。次いで、パルミチン酸(C16)又はオクタン酸(2C8)のアルキル・テールを、Helix2中のN末端又はK-Fmoc-Helix2中のK-FmocのN末端及び側鎖の両方で、それぞれマニュアルでカップリングさせて、室温で一晩振盪させながら、Helix1-C16及びHelix1-2C8を生成した。Fmoc脱保護を、DMF溶液中の20% 4-メチルピペリジンを用いて10分間行い、1回繰り返した。すべての場合において、遊離アミンについてのニンヒドリン試験(Anaspec Inc、Fremont、CA)を用いて反応を試験した。92.5:5:2.5の比のTFA/TIS/H2Oの混合物を用いて、2.5時間、反応が終わったペプチドを固体担体から切り離した。余剰のTFAをロータリーエヴァポレーション(回転蒸発)によって除去し、冷ジエチルエーテルを加えて粗ペプチドを沈殿させた。遠心分離法により、沈殿したペプチドとジエチルエーテルを6000 rpmで3分間分離した。ペプチドをジエチルエーテルで更に2回洗浄し、溶液を遠心分離によって除去した。
【0088】
フラクションコレクターを備えたVarian ProStar Model 325分取HPLC(Agilent Technologies、Santa Clara、CA)で、25℃で、Varian Polymeric Column(PLRP-S、100Å、10 μm、150 × 25 mm)を使用する、分取RP-HPLCによってIAを精製した。0.1% v/v TFAを含有する水/アセトニトリル勾配を、20mL/分の流速で溶離液として使用した。吸光度ピークを、Z33ペプチドセグメントについて220 nmでモニターした。粗物質を20 mlの0.1%TFA水溶液に溶解し、10 ml をインジェクションして、それぞれの精製操作を行った。収集した画分をMALDI-ToF(BrukerAutoflex III MALDI-ToF装置、Billerica、MA)で分析し、所望の生成物を含有する画分を凍結乾燥し(FreeZone-105℃、4.5L凍結乾燥機、Labconco、Kansas City、MO)、-30℃で保存した。
【0089】
免疫‐両親媒性物質の自己集合とTEMイメージング。
1mM濃度の免疫‐両親媒性物質をHFIPで前処理し、次いで1×PBS又は脱イオン水に溶解し、室温で一晩熟成させた;10 μLの10倍希釈サンプルを400正方形メッシュの炭素膜銅グリッド(EMS:Electron Microscopy Sciences社製)上にスポットし、余分なものを濾紙で除去して、前記グリッド上にサンプルの薄膜とした。前記サンプルを5分間乾燥させた後、10 μLの2%酢酸ウラニルをサンプル格子に添加し、30秒後に余分なものを除去した。すべてのサンプルを少なくとも3時間乾燥させた後、TEMイメージングを行った。
【0090】
円二色性分光法(CD)。
自己集合化IAサンプルのCD実験は、Jasco J-710分光偏光計(JASCO、Easton、MD、USA)を用いて、1 mm光路長の水晶UV-Vis吸光セル(ThermoFisher Scientific、Pittsburgh、PA、USA)を用いて25℃で行った。前記サンプルを、実験前に、1 mMストック液から1×PBS中で100 μMに即座に希釈した。スペクトルは、190~280nmの波長範囲で、3回のスキャンの平均として収集した。溶媒のバックグランド・スペクトルを取得し、サンプル・スペクトルから差し引いた。収集したデータをサンプル濃度に関して標準化した。
【0091】
ITC実験。
等温滴定熱量測定実験を、高精度VP-ITC滴定熱量測定システム(Microcal Inc.)を使用して、C12及び2C8 IAに関して行った。IgG1液を、15℃で、1×PBS(pH 7.4又は2.8)中の免疫‐両親媒性物質を使用して滴定した。IgG1濃度は、0.1%(1 mg/ml)IgG溶液について280 nmで1.4の質量吸光係数を用いて計算した。免疫‐両親媒性物質の濃度は、全窒素アッセイ(Anal.Biochem、61.2(1974): 623-627)によって測定した。各インジェクション後に発生した熱は、比色シグナルの積分から求めた。IgG1への免疫‐両親媒性物質の結合に関連する熱は、希釈熱を差し引くことによって得た。データの解析は、MicroCal Origin(商標)パッケージを用いて行った。
【0092】
CMC測定。
フラグメント化した抗体結合ペプチドを有するZ33フラグメントIAのCMCを、種々の濃度のこれらの分子をある特定量のナイルレッドと共にインキュベートすることによって測定した。ナイルレッドのストック液は、まずアセトンに50μMで溶解して調製した。10 μLのストック液を幾つかの遠心管に入れ、室温で溶媒を蒸発させ、乾燥ナイルレッドを得た。様々な濃度のペプチド溶液を脱イオン水で調製し、次いで、乾燥ナイルレッドを含有する遠心管に同じ体積を添加し、一晩熟成させた。次に、ナイルレッドの蛍光スペクトルをFluorolog蛍光光度計(Jobin Yvon、Edison、NJ)により560nmの固定励起波長でモニターし、放出スペクトルを580~720nmでモニターした。IAのCMCは、放出極大がブルー・シフトすることによって測定されるが、この転移はインキュベートしたペプチドがそれらのCMC値を超えるときに生じる。
【0093】
チオフラビンT(ThT)分光アッセイ。
ThTストック溶液を脱イオン水で50 μMに調製した。フラグメント化した抗体結合ペプチドを有する100μMのZ33 IAをボルテックスし、同量のThTストック溶液と共に、1時間、インキュベートした。次いで、蛍光強度を、Fluorolog蛍光光度計(Jobin Yvon、Edison、NJ)によって、440nm(スリット幅5nm)での励起及び482nm(スリット幅10nm)での放出で、測定した。
【0094】
Z33免疫‐両親媒性物質全長の分子設計。
ペプチド両親媒性物質、ペプチド-ポリマー結合体、ペプチド-薬物結合体等のようなこの両親媒性ペプチド結合体の構築は、種々の超分子ナノ構造を作製するために広く使用されてきている。親水性Z33ペプチド配列(FNMQQQRRFYEALHDPNLNEEQRNAKIKSIRDD)(配列番号(SEQ ID NO): 1)及び疎水性アルキル鎖からなるIgG結合免疫‐両親媒性物質を、イミュノファイバー(IF)のビルディング・モチーフとして働くように設計した。Z33ペプチドは、高い結合親和性(Kd=43 nM)で、IgGのFc部分に特異的に結合するプロテインA(
図1A)由来の2-ヘリックス誘導体である。
【0095】
2種のIA(C12-Z33及び2C8-Z33(
図1B))を、ラウリン酸部分(C12)又は2つのオクタン酸部分(2C8)をZ33ペプチドのN末端に直接結合させることによって合成した。
図1Cに示すように、IAはIFへと自己集合化し、抗体混合液に由来するIgGに特異的に結合すると予想された。純粋なZ33ペプチドも合成し、Z33分子とZ33含有IFとの間の生物活性を比較した。別のコントロール分子C12-SZ33を、Z33のスクランブル配列のN末端にC12を結合させることによって、設計した。全ての分子を、自動固相ペプチド合成(SPPS)方法及びRP-HPLCを用いて、合成し、精製した。合成した化合物の純度及び予想される分子量を、分析HPLC及び質量分析を用いて確認した。
【0096】
実施例2
全長Z33免疫‐両親媒性物質の分子自己集合化及び特性評価。
2種のIAの自己集合化は、2ステップの操作によって容易に行うことができる。まず第1に、前記IAをヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)中で別々に前処理して、その溶解性及び自己集合化形態の均一性に影響を及ぼし得るあらゆる既存のナノ構造を除去した。第2に、HFIPを蒸発によって除去し、続いて脱イオン水又はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を添加して、1 mMの最終濃度とした。IFは、疎水性相互作用によってアルキル・セグメントをIFのコアに捕捉しながら、形成され、生物活性があるZ33配列は、そのシェルにおいて溶媒の方に向いて配置される(
図2A)。室温で一晩熟成させた後、透過型電子顕微鏡(TEM)及び円二色性(CD)を利用して、集合化したナノ構造体の形態を特性評価した。
【0097】
現行のIgG精製方法におけるpH条件の重要な役割を考慮して、C12-Z33の自己集合化の挙動をpHの変動に応じて評価した。中性pHを通常、結合条件として使用し、一方、酸性pHを、プロテインAアフィニティーカラムから抗体を溶出するために使用する。中性及び低pHでの自己集合化の挙動を検討するために、PBS(pH 7.4)及びIgG溶離バッファー(pH 2.8)を、C12-Z33の自己集合化のための水環境として利用した。異なるpHでのC12-Z33 IFの形態を、TEM(
図2C~2F)及びCD(
図2B)によって研究した。C12-Z33分子は上記の両方のpH条件において、十分に溶解し、ナノファイバーに自己集合化し得ることが見出された。100 μMのC12-Z33の溶液から得られた代表的なTEMイメージにより、生理的条件及び酸性条件の両方の下で、C12-Z33が16.0±1.7nmの直径(この値は、完全に伸長したペプチド分子の長さ(β‐シート構造で約22.5nm)未満である)を有するナノファイバー構造に自己集合化することが明らかになった。ナノファイバーの長さは、マイクロメートルのスケールであり、十分に制御することができなかった。
【0098】
自己集合化した構造内の分子パッキングを更に理解するために、円偏光二色性(CD)を用いてペプチド二次構造を検討した。約222nm(n-π*)及び208nm(π-π*)で強い負のシグナルがC12-Z33で観察され、自己集合化した状態で、純粋なZ33ペプチドで示されたように、Z33セグメントのα‐ヘリックス二次構造が形成されていることが示唆された。CDスペクトル及びIFの測定された直径に基づくと、IFにパッキングされるときに、前記ペプチドはそのα‐ヘリックス二次構造を保持した、と推測することは合理的である。PBS溶液又はIgG溶出バッファー中のC12-Z33のCDスペクトルは、α‐ヘリックス信号を部分的にのみ保持していたが、222 nmと208 nm付近の二つの負のピークの扁平率は同じバッファー中のZ33ペプチドと比較して変化した。CDスペクトルのシフトは、Z33セグメントの分子パッキングを、その遊離状態から変化させることがあり、続いて、結合部位に必要とされる特異的な構造に起因してIgGに対するその結合親和性に影響を及ぼすことがある、IFの形成から生じることがある。
【0099】
実施例3
IFの結合親和性を測定するためのITC実験。
IFに取り込まれた後のZ33ペプチドの二次構造における構造変化を考えると、C12-Z33 IFの形成が、元のZ33ペプチドに存在するIgG結合能力に影響を及ぼすかどうかを知ることは非常に興味深い。自己集合化したC12-Z33 IFの結合親和性を調べるために、IgG1への結合の熱力学的性質を等温滴定熱量測定(ITC)によって調べた。ITCは多数のタンパク質とリガンドとの間の結合事象をモニターするために広く使用されており、これは、C12-Z33 IFとIgG1との間で結合が生じ得るかどうかを調べるための優れた方法である。段階的にインジェクションしながら、結合反応に関連する熱を記録し、熱力学的解離定数(Kd)、モル・エンタルピー変化(ΔH°)、及び化学量論(N)等を含む熱力学的パラメータを直接的に得ることができる。
【0100】
【0101】
【0102】
一般的なITC実験では、PBSバッファー中の100 μM C12-Z33の溶液を一晩熟成させ、次いで、15℃、pH 7.4の同じバッファー中の2 μM IgG1の溶液に注入した。典型的なサーモグラム及び結合等温線を
図3Aに示し、リガンド当たりの記録された熱力学的パラメータを表2にまとめる。IgG1にC12-Z33 IFが結合することに関するITCの結果により、650のK
dによって特徴付けられるエンタルピー駆動の結合事象が明らかになった。C12-Z33 IFの結合効率を更に比較するために、表面プラズモン共鳴により測定したK
dが43 nMである、IgG1に強く結合することが証明されたZ33ペプチドを合成した。IgG1に対するZ33ペプチドの結合特性を、PBS、pH 7.4中、15℃でITCによって測定し、典型的なサーモグラム及び結合等温線を
図3Cに示した。100倍良好な親和性に加えて、Z33についての化学量論は2.3であったが、C12-Z33についての見掛の化学量論は3.1であり、IF中のC12-Z33の全てがIgG1分子への結合に利用可能であったわけではないことを示した。IgG1に結合することができるC12-Z33分子の効率は、Z33の化学量論をC12-Z33の化学量論で割ることによって、74.2%であると推定することができる。
【0103】
リガンド当たりで標準化を行うと、結合の見掛の化学量論の測定が可能になるが、熱力学的パラメータの比較は、表2に示すように、IgG1モル当たりで標準化した後で行われるべきである。IgGへのZ33の結合は、正(unfavorable)に大きいエントロピー変化とは反対に、負(favorable)に大きいエンタルピーを特徴とした。C12-Z33の結合についての熱力学的特徴は類似していたが、エンタルピー及びエントロピー変化の大きさはより小さかった。C12-Z33はZ33よりも小さい正(unfavorable)のエントロピーで結合するが、負(favorable)のエンタルピーの損失ははるかに大きく、その結果、全体的に結合親和性が低下する。負(favorable)の結合エンタルピーの全体的な損失は、おそらく、IFの破壊に関連する正(unfavorable)のエンタルピーによって引き起こされ得る。IgG1との良好な相互作用は、IF中での制約のために制限される可能性もある。結合親和性は、IFからの溶出に適したこの低pHでは有意により低いことを示すために、15℃のIgG溶出バッファー(pH 2.8)中で、C12-Z33によるIgG1の滴定も行った(
図3B)。
【0104】
IFとIgG1との間の非特異的結合を排除するために、Z33ペプチドのスクランブル配列を有するC12-SZ33をネガティブ・コントロールとして使用した。このC12-SZ33 IAは、同様の、自己集合化特性及びTEM及びCD使用して同定される二次構造を示す(データは示さず)。ITC実験を、100 μMのC12-SZ33 IAを、pH 7.4のPBS中、15℃で2 μMのIgG1溶液に注入することによって行い、それらの結合能を測定した。
図3Dのサーモグラム及び結合等温線は、IgG1とZ33ペプチドとの間の特異的な相互作用を示唆する。
【0105】
実施例4
IFの機能の普遍性を更に証明するために、二本鎖アルキル化IA 2C8-Z33についても、自己集合化の特性からIgG1への結合親和性までを研究した(
図4A~E)。均一な直径を有するナノスケールIFがTEMイメージで観察され、α‐ヘリックス二次構造がCDによって確認された。ITCの結果から、2C8-Z33とIgG1の間の結合はPBS(pH 7.4)中15℃で起こったが、溶離バッファー(pH 2.8)中では結合を検出できなかった。2C8-Z33の結合についての見掛の化学量論は9.1であり、より低い結合効率を示した。2C8-Z33はC12-Z33よりも小さな負(favorable)の結合エンタルピーで結合するが、エントロピーからの寄与はより小さな正(unfavorable)であり、このことは、わずかに良好な結合親和性をもたらす(表2)。上記の結果から、本発明者らは、高密度の結合部位を表面上に提示させることで、自己集合化したIFが、元のZ33ペプチドにおいて示されるように、IgG1に対する良好な結合能力を保持することができることを実証した。それにもかかわらず、IFについて観察される全体的な結合親和性(これは、エンタルピー起源である)には、損失がある。負(favorable)のエンタルピーにおける損失を、IF中の制約による相互作用の損失、及び粒子の破壊に関連する正(unfavorable)のエンタルピーの寄与によって、説明することができる。IF内の分子レベルのパッキングにより、生物活性におけるそれらの性能に大きく影響し得るそれらの形態学的及び機能的な特性が決まる。
【0106】
実施例5
免疫グロブリン及びFc部分を有する他の分子を精製するための適用可能性。
構成アミノ酸の多様性により、水素結合、π-πスタッキング、疎水性崩壊、及び自己集合化したペプチド・ナノファイバー間の静電相互作用等を含む非共有結合的な相互作用のための基盤は、広範なものになる。例えば、酸性及び塩基性アミノ酸の溶解度は、イオン化の程度、pH及びイオン強度に依存する特性によって決まる。従って、帯電ペプチドの自己集合化のプロセスは、pHを調整するか、又は塩を添加することによって促進され、静電反発力は低減し、凝集化、更には沈殿化が助長される。Z33ペプチド中に示される多数の荷電アミノ酸残基を考慮すると、本発明者らのイミュノファイバー系の魅力的な長所は、溶解性を容易に調整できることに依存する。IgGがIFに結合すると、IgG-IF複合体は、高いイオン強度を有する塩を添加することによって沈殿化する可能性が高い(
図5A)。
【0107】
C12-Z33 IFはIgG1に対して比較的高い結合親和性を有するので、C12-Z33 IFを、IgG1を沈殿させる可能性を検討するために、選択した。
図5B(i-ii)に示すように、5 mMのC12-Z33は、PBS溶液に十分に溶解するが、0.6MのNa
2SO
4のPBS溶液中では沈殿することがある。PBS溶液中のC12-Z33のゼータ電位は-7.61 mVであり、Na
2SO
4を添加するとIF表面の電荷は遮蔽され、沈殿化を引き起こす。IgG1については、5 mM C12-Z33並びに0.6M Na
2SO
4に十分に溶解する。しかし、20 μM IgG1及び5 mM C12-Z33を5分間混合し、続いて0.6 M Na
2SO
4を加えた後では、沈殿化が観察された。沈殿物の組成を決定するために、2つの平行した実験を行った。0.6 M Na
2SO
4中の5 mM C12-Z33を遠心分離し、紫外可視(UV-Vis)分光法を使用して、Na
2SO
4を加える前後の280 nmでの上清の吸光度変化をモニターした。0.6 M Na
2SO
4中の5 mM C12-Z33と20 μM IgG1の混合液に対して同じ手順を行った。
図5Cに示すように、大部分のC12-Z33IFは、0.6 MのNa
2SO
4によって沈殿化した。IgG1-IF複合体システムについては、280 nmでのその吸光度が、IgG1の初期吸光度未満のレベルまで低下し、溶液からIgG1が除去されていることを示した。より明確には、青色の線から緑色の線の値を差し引くことによって、正味IgG1に関する上清の吸光度をプロットした。これにより、60%を超えるIgG1が前記上清から除去されたことが示唆された。ここまでで、我々のIFが新しい親和性沈殿剤として役立つ可能性が予備的に証明された。
【0108】
実施例6
フラグメント化した抗体結合ペプチドを有するIAの分子設計。
2つのα‐ヘリックスを含むZ33(FNMQQQRRFYEALHDPNLNEEQRNAKIKSIRDD)(配列番号(SEQ ID NO): 1)のペプチド配列を、DとPとの間で分離し、アルキル化して2系列の免疫‐両親媒性物質とした:1)Helix1(FNMQQRRFYEALHD)(配列番号(SEQ ID NO): 2)ベースの免疫‐両親媒性物質;2)Helix2(PNLNEEQRNAKIKSIRDD)(配列番号(SEQ ID NO): 5)ベースの免疫‐両親媒性物質。本発明者らは、分離、アルキル化及び自己集合化後のペプチド構造における構造変化の可能性に興味を持っていた。C16及び2C8アルキル鎖を、Helix1のC末端及びHelix2のN末端に結合させた(
図6A)。我々がHelix1及びHelix2ペプチドの異なる末端にアルキル・テールを結合させた理由は、ヘリックスと他のセグメントとの間の相対位置を、Z33ペプチドに示されるように保持するためであった。IAはある条件下で、アルキル・セグメントが疎水性コアに捕捉され、及びペプチド配列が水性環境の方に向いた状態で、相互作用すると考えられた(
図6B)。自動固相ペプチド合成(SPPS)方法及びRP-HPLCを用いて、全ての分子を合成し、精製した。合成した化合物の純度及び予想される分子量を、分析HPLC及び質量分析を用いて確認した。
【0109】
実施例7
フラグメント化した抗体結合ペプチドを有するIAの分子集合化。
IAを自己集合化させることを、2ステップの操作によって行った。IAを最初にHFIPで前処理して、合成及び精製プロセス中に形成されたあらゆる既存のナノ構造を除去した。次いで、HFIPを蒸発により除去し、続いて脱イオン水を添加して、pH 7.4で1 mMの最終濃度にし、一晩熟成させた。アルキル化が自己集合化したIAの形態にどのように影響を与えるのかを調べる為に、全てのIAに対してTEMを利用して集合化した形態を可視化し、100 μMのIA溶液の典型的なTEMイメージを
図7に示す。
図7A及び7Cは、Helix1-C16及びC16-Helix2の両方が、それぞれ9.6±1.3 nm及び12.4±1.7 nmの直径を有する長いナノファイバー構造に自己集合化したことを示す。電荷が遮蔽されることにより、2つ以上のナノファイバーが一緒になってナノベルトになることも観察された。ナノファイバーの長さは、マイクロメートルのスケールであり、十分に制御することができなかった。オクトン酸(octonoic acid)(C8)による二本鎖アルキル化についても、同じ条件下のHelix1-2C8及び2C8-Helix2の両方についてフィラメント状集合体が見出された(
図7B及び7D)。しかしながら、これらのフィラメントは比較的短く、長さはより多分散のようである。更に、直径のバラツキが観察され、最小のフィラメントは、Helix1-2C8フィラメントについては11.0±1.4 nmの直径であり、Helix2-2C8フィラメントについては9.3±1.3 nmの直径であった。大きな二本鎖の立体効果が集合体の形態に重要な役割を果たすと考えられる。しかしながら、種々のペプチド両親媒性システムに対する立体効果の影響は様々である。Stuppらは、アルキル鎖の末端基における立体効果を増加させると、超らせんピッチが減少する傾向があることを見出した。Tatペプチド・ベースのナノファイバー・システムでは、クオート(quart)‐C8結合体のみがフィラメント状ナノ構造に自己集合化し、ジ‐C8又はモノ‐C8結合体のいずれについてもナノ構造は観察されなかった。
【0110】
実施例8
フラグメント化した抗体結合ペプチドを有する一本鎖及び二本鎖アルキル化IA間の差異を深く理解するために、CMC及び二次構造に関する更なる検討を行った。種々のIAについての臨界ミセル濃度(CMC)値を、溶媒の極性に依存して蛍光を発する親油性の色素であるナイルレッドを用いて測定した。疎水性環境に暴露された時の強力な蛍光は、水性媒体中では強くクエンチされ、レッド・シフトすることがある。水溶液中で種々の濃度のIAとインキュベートした場合、ナイルレッドは、自己集合化ナノ構造によって形成される疎水性コアに分配される傾向があり、IAのCMCは、放出極大のブルー・シフトにより測定された。
図8Aは、ナイルレッドの蛍光強度に対するHelix 1-C16の濃度のプロットを示す。放出極大の波長は0.5 μMまでは660 nmであり、次いで、1 μMの濃度で、660 nmから635 nmへのブルー・シフトが最初に生じ、このことはその間にCMC値があることを示唆する。同様に、C16-Helix2、Helix1-2C8、及び2C8-Helix2のCMC値は、
図8B-8Dから得ることができる。二本鎖アルキル化は、一本鎖アルキル化と比較してより高いCMC値を示す。2C8-Helix2は、Helix1-2C8よりも凝集傾向が強い。なぜなら、前者はより低いCMC値の範囲であるからである。
【0111】
実施例9
フラグメント化した抗体結合ペプチドを用いたアルキル化IAの二次構造の研究。
自己集合化した構造内での分子パッキングを理解するために、円偏光二色性(CD)を用いてペプチド二次構造を検討した。
図9に示すように、Helix1とHelix2は共に、Z33から取り出した後には、α‐ヘリックス構造を失い、ランダムコイルのCDスペクトルを示した(
図16)。Helix1-C16及びC16-Helix2集合体は218nm付近で強い負のシグナルを示し(n-π*遷移)、両IAにおけるβ‐シート二次構造の形成が示唆された。β‐シート構造は、明確な一次元ナノ構造の形成を促進するのに重要な役割を果たすことが以前に証明されている。興味深いことに、225 nm(n-π*遷移)及び208 nm(π-π*遷移)付近の負のシグナルがHelix1-2C8及び2C8-Helix2で観察され、α‐ヘリックス二次構造の存在を示した。得られたCDスペクトルを、ポリリジン・ベースのスペクトルを線形結合して適合(fit)させ、それぞれの二次構造の含有量を評価した(
図17)。β‐シートはHelix1-C16及びC16-Helix2 IAの主要成分であるが、二本鎖アルキル化IAではα‐ヘリックスが主要な二次構造である。
【0112】
実施例10
自己集合化したIA中の二次構造の成分を更に確認するために、β‐シート表面に結合したときにその蛍光放出が大きくなる蛍光色素チオフラビン-T(ThT)を用いて、Helix1ベースのIA中でのβ‐シート二次構造の存在を調べた。
図18に示すように、プレインキュベートしたHelix1及びHelix1-2C8の482 nmでのThTの蛍光放出は、純粋なThT液の蛍光放出と比較して同程度か又はわずかに増加した。これは、これらのIAには顕著なβ‐シートが存在しないことを意味する。反対に、プレインキュベートしたHelix1-C16の両方においては、劇的に増加した蛍光が観察され、これは、β‐シート二次構造がCDによって強く見られることに対応する。
【0113】
CDのシグナルは、自己集合フィラメントではなく、遊離モノマーに由来しているのかもしれないという議論がある可能性もある。この可能性を排除するために、α‐ヘリックスIA(Helix1-2C8で表される)及びβ‐シートIA(Helix1-C16で表される)に関する希釈溶液のCDスペクトルを取った。
図10A及び10Bは、IA濃度が対応するCMC値を超えた場合にのみ、CDのシグナルが顕著で且つ安定になることを示し、フィラメント状の構造中におけるIAのパッキングが、CDのシグナルの主要な寄与因子であることが明らかとなった。
【0114】
α‐ヘリックスとβ‐シートの形状からわかるように、らせん間の軸距離は約12Åであるが、β-ストランドは5Å離れており、β‐シートの形成には、α‐ヘリックスよりも密なパッキングが必要であることを示している。自己集合化したナノ構造体において、より長いアルキル鎖は、より緊密にパッキングし、更には結晶化する傾向があることが証明されている。これによって、ペプチド・セグメントはより近接することがある。2C8の結合については、2つのC8鎖が非対称的にHelix1及びHelix2上に結合することに注目すべきである。2つのC8は、Helix1のC末端の2つの隣接するリジンに結合し、Helix2については、1つはN末端アミンに結合し、他方はリジンの側鎖に結合した。不斉構造を有するアルキル鎖の数が増加すると、立体障害は大きく増加し、凝集化は弱まり、比較的大きなCMC、緩いパッキング、及びより広い直径のフィラメントとなる。
【0115】
実施例11
一本鎖アルキル鎖の長さの効果。
二本鎖アルキル化IAの緩いパッキングはα‐ヘリックス集合体の形成及び安定化を促進するので、本発明者らは、一本鎖アルキル化鎖の長さを短くすることが同じ効果を有し得ると仮定した。この仮定を確認するために、2つのより短いアルキル鎖(ラウリン酸、C12;オクタン酸、C8)をHelix1及びHelix2に別々に結合させ、その集合体をTEM及びCDによって特性評価をした。100 μMの最高試験濃度では、Helix1-C8又はC8-Helix2のいずれについても、明確なナノ構造体及び放出極大の転移は観察されず、これらの2種のIAはこの濃度未満では自己集合化できないことを示している。Helix1-C12及びC12-Helix2(
図11A及び11B)は、それぞれ、12.2±1.4 nm及び9.1±1.6 nmの直径を有する長いナノファイバーへと会合した。なお、ナノファイバーの直径は、化学構造の長さだけでなく、パッキング状態とも関係することに留意されたい。従って、本発明者らが、より低いCMC値を有するC16結合IAでは、直径がより小さくなることが観察され(
図11C及び11D)、より強い疎水性相互作用に起因してC12結合体よりも密なパッキングが観察されたことは驚くべきことではない。CDのスペクトル(
図11E及び11F)において、Helix1-C8及びC8-Helix2の両方は、それらの低い凝集能のために、結合していないペプチドと同様のCD結果を示す。興味深いことに、β‐シートのシグナルはHelix1-C12のCDスペクトルに現れるが、α‐ヘリックス二次構造がC12-Helix2で観察され、これによって、我々の先の仮定が確認された。一本鎖アルキル化の場合、より長いアルキル鎖を有する自己集合化したIAは、隣接するIA分子間の緊密なパッキングを誘導し、β‐シートの形成を促進することができる。一方で、より短鎖のアルキル化IAにおけるより緩いパッキングは、α‐ヘリックス構造のためのより多くの空間を提供することができる。
【0116】
【0117】
実施例12
イミュノファイバー結合組成物及びイミュノファイバー・スペーサー組成物を含む別のイミュノファイバー組成物の調製。
上記のように、改良したイミュノファイバーをベースとした結合系を、結合イミュノファイバー分子(C12-VVKKGGZ33)及びスペーサ分子(C12-VVEE)を共集合化イミュノファイバー系中で組み合わせることによって、設計した(
図19A)。この結合分子は炭素鎖と結合ペプチドZ33との間に、最初に設計したC12-Z33よりも6個多いアミノ酸残基VVKKGGを含有する。2つのバリン(VV、赤色)は、一次元構造の形成を促進する。2つのグルタミン酸(EE、青色)をスペーサー分子中の親水性セグメントとして設計し、2つのリジン(KK、青色)をKKとEEとの間の静電的な相互作用のために設計することによって、前記結合分子とスペーサー分子が交互にパッキングされるようにした。アルキル鎖から抗体結合ペプチド(Z33)を更に分離するために、2つのグリシン(GG、緑色)を設計した。結合分子及びスペーサ分子を水溶液に溶解すると、これらの2つの分子は、一次元イミュノファイバーに均一に共集合化し、その表面上に結合リガンドZ33が突き出た状態になることがある(
図19B)。2つのZ33リガンドの距離は、共集合化させる結合分子とスペーサ分子のモル比を調整することによって制御することができる。自己集合化したC12-VVEE(
図20A)及びC12-VVEE(
図20B)の代表的なTEMイメージは、PBS、pH 7.4中において、円筒状ナノファイバー構造を示す。
図20Cは、C12-VVEE及びC12-VVKKGGZ33が10:1のモル比で共集合化したナノファイバーを示す。
【0118】
実施例13
新しいイミュノファイバー結合系でのIgG結合能及び析出能を調べるために、100 μLの所望のイミュノファイバー溶液を、IgGと共に(C12-VVKKGGZ33及びIgGを10:1のモル比とする)、30分間インキュベートし、続いて硫酸アンモニウムを最終濃度1Mまで添加して、イミュノファイバー及びIgGを析出させた。自己集合化したC12-VVKKGGZ33とIgGとを混合した場合には、硫酸アンモニウムの添加後に沈殿は観察されなかった。興味深いことに、IgG並びに10:1のモル比で共集合化したC12-VVEE及びC12-VVKKGGZ33を含有する溶液は、塩を添加した後に濁った。沈殿物を遠心分離し、上清中のIgG濃度を分析した後、溶液から約30%のIgGが沈殿していた。ProAカラム(TSKgel(登録商標)プロテインA-5PW、20μm、35×4.6mm)を使用し、280 nmでモニターして、IgG濃度を定量した。この予備的な結果により、溶液中の結合分子及びIgGの量が同量であるとき、スペーサー分子の添加がIgGの捕捉及び析出において重要な役割を果たすことが示された。前記結合分子を離間させ、及び結合リガンドZ33をイミュノファイバー表面で突き出させることにより、リガンドの柔軟性及びIgGへのアクセシビリティーがより増す。
【0119】
実施例14
共集合化したイミュノファイバー結合系におけるIgG結合能及び最適な沈殿条件を増大させるために、結合分子対スペーサ分子の比率、結合分子対IgGの比率、塩濃度、結合及び塩析時間等を含むいくつかの因子を最適化し続ける。C12-VVEEとC12-VVKKGGZ33のモル比及びC12-VVKKGGZ33のモル比を最初に研究し、予備結果を
図21に示した。10:2のモル比のC12VVKKGGZ33対IgG及び1M硫酸アンモニウムで、5種のモル比のC12-VVEE対C12-VVKKGGZ33(5:1、10:1、25:1、50:1、100:1)を試験した。
図21Aは、塩析及び遠心分離後の上清中のIgG割合を示す。C12-VVEEの含有量が増加することにつれて、より多くのIgGが溶液から沈殿し、50:1で約75%の最高収率に達した。なお、100:1での沈殿収率の低下は、高濃度のためにイミュノファイバーの溶解度が低いことに起因し得ることに留意されたい。次いで、
図3Bにおいてより良好な性能を示した25:1及び50:1のイミュノファイバー系を用いながら、C12-VVKKGGZ33対IgGのモル比を、10:4、10:2から10:1に調整した。
図3Bに示すように、これらの2つのイミュノファイバー系は、C12-VVKKGGZ33対IgGの比率が増大することにつれてIgG析出の収率が増大する、という同じ傾向に従った。最良の条件では、C12-VVKKGGZ33対IgGの比率が10:1である50:1のイミュノファイバー系で、IgG沈殿収率を99%にすることができた。この素晴らしい結果により、共集合化したイミュノファイバーが高いIgG結合能及び析出能を有することが確認される。IgGを析出させる及び回収するための条件の最適化について、より系統的に研究を行う予定である。
【0120】
本明細書中で引用する刊行物、特許出願及び特許を含むすべての文献は、参照により組み込まれるために各文献が個々に及び具体的に記載されている、並びに、その内容の全てがここで記載されている、のと同じ程度に、本明細書に参照により組み込まれる
【0121】
用語「a」及び「an」並びに「the」及び本発明を説明する文脈(特に、以下の特許請求の範囲の文脈)における同様の指示語を使用することは、本明細書中で別段の指示がない限り、又は文脈によって明らかに矛盾しない限り、単数形及び複数形の両方を包含すると解釈されるべきである。用語「含む(comprising)」、「有する」、「含む(including)」、及び「含む(containing)」は、別段の指示がない限り、限定されない用語(即ち、「限定されるものではないが、含む(including, but not limited to)」)として解釈されるべきである。本明細書中の値の範囲に関する記載は、本明細書中で特に指示がない限り、単に、範囲内に入る各別個の値を個々に言及する簡潔な方法としての役割を果たすことを意図するものであり、各別個の値はあたかもそれが本明細書中に個々に記載されたかのように、本明細書中に組み込まれる。本明細書に記載される全ての方法は、本明細書に別段の指示がない限り、又は文脈によって明らかに矛盾しない限り、任意の好適な順序で実施することがある。本明細書中で使用する何れの及び全ての例、又は例示的な言い回し(例えば「など(such as)」)は、請求項に特に記載しない限り、単に本発明をよりよく説明することだけを意図し、本発明の範囲に対して限定を設けるものではない。本明細書中の如何なる言い回しも、請求項に記載されていない要素を、本発明の実施に不可欠であることを示すものとは、解釈されないものとする。
【0122】
本発明の好ましい実施態様を、発明者らが知っている本発明を実施するための最良の形態を含めて本明細書で記載している。これらの好ましい実施態様の変形は、上述の記載を読めば当業者には明らかとなり得る。本発明者らは、当業者が適宜このような変形を適用することを予想しており、並びに本発明者らは、本明細書中で具体的に説明される以外の方法で、本発明が実施されることを考えている。従って、本発明は、準拠法で許されているように、本明細書に添付された請求項に記載の内容に関して、変形及び均等物を全て含む。更に、上述の要素のあらゆる可能な変形でのあらゆる組み合わせが、本明細書に別段の指示がない限り、又は明らかに文脈に矛盾しない限り、本発明に包含される。
【配列表】