(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】モータ制御装置及び電動アシスト車
(51)【国際特許分類】
B62M 6/45 20100101AFI20231107BHJP
【FI】
B62M6/45
(21)【出願番号】P 2020510978
(86)(22)【出願日】2019-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2019013053
(87)【国際公開番号】W WO2019189285
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2018064126
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103528
【氏名又は名称】原田 一男
(72)【発明者】
【氏名】保坂 康夫
(72)【発明者】
【氏名】白川 弘和
(72)【発明者】
【氏名】▲柳▼岡 太一
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-136302(JP,A)
【文献】特開平7-187054(JP,A)
【文献】特開平9-38144(JP,A)
【文献】特開2010-120599(JP,A)
【文献】特開平4-358985(JP,A)
【文献】特開2011-168241(JP,A)
【文献】特開2017-226296(JP,A)
【文献】特開2000-333311(JP,A)
【文献】特開2004-142633(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62M 6/45
B62M 6/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動アシスト車のモータを駆動する駆動部と、
少なくとも前記電動アシスト車のペダルの回転数が一定値以上であるという条件を含む第1の条件を満たすペダルの逆回転を検出すると、前記電動アシスト車を後退させるように前記駆動部を制御する制御部と、
を有
し、
前記制御部は、
逆回転の現在のペダル回転数が、逆回転における現在のタイヤ回転速度又は逆回転における所定のタイヤ回転速度に基づき設定される第1の閾値以下である場合、又は、
逆回転における現在のタイヤ回転速度が、逆回転の現在のペダル回転数に基づき設定される第2の閾値以上である場合、
前記電動アシスト車を後退させる制御を停止する
モータ制御装置。
【請求項2】
前記モータの出力トルクが逆回転におけるタイヤ回転速度が0の場合に比して当該タイヤ回転速度が0を超えた所定の範囲において小さくなるような、前記逆回転におけるタイヤ回転速度と前記出力トルクとの関係が予め設定されており、
前記制御部は、前記関係に基づき、逆回転における現在のタイヤ回転速度に応じて前記モータの出力トルクを設定する
請求項1記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記モータの出力トルクが逆回転におけるタイヤ回転速度が0の場合に比して当該タイヤ回転速度が0を超えた所定の範囲において小さくなるような、前記逆回転におけるタイヤ回転速度と前記出力トルクとの第1の関係が予め設定されており、
逆回転のペダル回転数が大きいほど前記出力トルクの上限値が大きくなるような部分を含む、前記逆回転のペダル回転数と前記出力トルクの上限値との第2の関係が予め設定されており、
前記制御部は、
前記第1の関係に基づき、逆回転における現在のタイヤ回転速度に応じて前記モータの出力トルクを設定し、
前記第2の関係に基づき、逆回転の現在のペダル回転数に応じて前記出力トルクの上限値を設定する
請求項1記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記モータの出力トルクが逆回転におけるタイヤ回転速度が0の場合に比して当該タイヤ回転速度が0を超えた所定の範囲において小さくなり、前記逆回転におけるタイヤ回転速度の上限値で0となるような、前記逆回転におけるタイヤ回転速度と前記出力トルクとの第1の関係が予め設定されており、
逆回転のペダル回転数が大きいほど逆回転におけるタイヤ回転速度の上限値が大きくなるような部分を含む、前記逆回転のペダル回転数と前記逆回転におけるタイヤ回転速度の上限値との第2の関係が予め設定されており、
前記制御部は、
前記第1の関係に基づき、逆回転における現在のタイヤ回転速度に応じて前記モータの出力トルクを設定し、
前記第2の関係に基づき、逆回転の現在のペダル回転数に応じて前記逆回転におけるタイヤ回転速度の上限値を設定する
請求項1記載のモータ制御装置。
【請求項5】
ペダルの回転方向を検知できない電動アシスト車のモータを駆動する駆動部と、
前記電動アシスト車のタイヤ回転速度が第1の閾値以下であり、ペダル入力トルクが駆動許可トルク以下の値である第2の閾値以下であり、且つ前記ペダルの回転数が第3の閾値以上であるという条件を満たすと判断されると、前記電動アシスト車を後退させるように前記駆動部を制御する制御部と、
を有するモータ制御装置。
【請求項6】
ペダルの回転方向を検知できない電動アシスト車のモータを駆動する駆動部と、
一定回転数以上で且つ安定的に前記ペダルを所定角度以上回転させており、前記電動アシスト車が停止状態で、ペダル入力トルクが駆動許可トルク以下の値である第1の閾値以下であり、且つ前記ペダルの回転数が第2の閾値以上であるという条件を満たすと判断されると、前記電動アシスト車を後退させるように前記駆動部を制御する制御部と、
を有するモータ制御装置。
【請求項7】
ペダルの回転方向を検知できない電動アシスト車のモータを駆動する駆動部と、
一定回転数以上で且つ安定的に前記ペダルを所定時間内に所定角度以上回転させており、前記電動アシスト車が停止状態で、ペダル入力トルクが駆動許可トルク以下の値である第1の閾値以下であり、且つ前記ペダルの回転数が第2の閾値以上であるという条件を満たすと判断されると、前記電動アシスト車を後退させるように前記駆動部を制御する制御部と、
を有するモータ制御装置。
【請求項8】
請求項1乃至
7のいずれか1つ記載のモータ制御装置
を有する電動アシスト車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動アシスト車に搭載されるモータの制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電動アシスト車の一例である電動アシスト自転車は、例えばペダル入力トルクに応じてモータを駆動することで前進することができるようになっている。しかしながら、Uターンができないほどの狭い通路で進入方向に戻ろうとすると、これまでは電動アシスト自転車から降車して、後ろに引いて戻ることになる。また、自転車置き場等に複数台の自転車が詰めて停車されている状態で自分の自転車のみを引き出そうとすると、後ろに引くこと自体やりにくいこともある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2012/086458パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、一側面として、電動アシスト車に乗車したまま後退できるようにするための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るモータ制御装置は、(A)電動アシスト車のモータを駆動する駆動部と、(B)第1の条件を満たすペダルの逆回転を検出すると、電動アシスト車を後退させるように駆動部を制御する制御部とを有する。
【発明の効果】
【0006】
一側面によれば、電動アシスト車に乗車したまま後退できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、電動アシスト自転車の外観を示す図である。
【
図2】
図2は、ペダル回転の方向を説明するための図である。
【
図3】
図3は、モータ駆動制御装置の構成例を示す図である。
【
図4】
図4は、後退制御部の機能ブロック構成例を示す図である。
【
図5】
図5は、後退制御のメインの処理フローを示す図である。
【
図6】
図6は、後退判定処理の第1の例を示す図である。
【
図7】
図7は、|タイヤ回転速度|と出力トルクの関係を表す図である。
【
図8】
図8は、出力トルクに乗じられるゲインの時間変化を表す図である。
【
図9】
図9は、出力トルクの設定処理の処理フローを示す図である。
【
図12】
図12は、後退判定処理の第3及び第4の例における一部の処理を示す図である。
【
図14】
図14は、ペダル逆回転数に応じて出力トルク上限値を調整する例を示す図である。
【
図15】
図15は、ペダル逆回転数に応じて|タイヤ回転速度|の上限値を調整する例を示す図である。
【
図16】
図16は、|タイヤ回転速度|と出力トルクの関係を表す図である。
【
図17】
図17は、|タイヤ回転速度|とペダル逆回転数との関係を表す図である。
【
図19】
図19は、|タイヤ回転速度|とペダル逆回転数との他の関係を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[実施の形態1]
図1は、本実施の形態における電動アシスト車の一例である電動アシスト自転車の一例を示す外観図である。本実施の形態では、
図1に示すように、三輪の電動アシスト自転車について説明するが、本実施の形態の適用対象は、三輪の電動アシスト自転車に限定されるものでは無く、四輪以上の電動アシスト自転車や、二輪でも補助輪やリヤカーその他の手段により停車時に自立可能であればよい。なお、停車時に自立可能ということは、主に安全面からの要請であって、何らかの手段により安全が担保できれば、停車時に自立可能でなくてもよい場合がある。
【0009】
この電動アシスト自転車1は、モータ駆動装置を搭載している。モータ駆動装置は、バッテリパック101と、モータ駆動制御装置102と、トルクセンサ103と、ペダル回転センサ104と、モータ105とを有する。なお、モータ105に加えて、タイヤ回転センサを設ける場合もある。さらに、安全性等のために、荷重センサ108を設ける場合もある
【0010】
また、電動アシスト自転車1は、前輪、後輪、前照灯、フリーホイール、変速機等も有している。
【0011】
バッテリパック101は、例えばリチウムイオン二次電池であるが、他種の電池、例えばリチウムイオンポリマー二次電池、ニッケル水素蓄電池などであってもよい。そして、バッテリパック101は、モータ駆動制御装置102を介してモータ105に対して電力を供給し、回生時にはモータ駆動制御装置102を介してモータ105からの回生電力によって充電も行う。
【0012】
トルクセンサ103は、クランク軸周辺に設けられており、運転者によるペダルの踏力を検出し、この検出結果をモータ駆動制御装置102に出力する。また、ペダル回転センサ104は、トルクセンサ103と同様に、クランク軸周辺に設けられており、回転に応じた信号をモータ駆動制御装置102に出力する。
【0013】
モータ105は、例えば周知の三相直流ブラシレスモータであり、例えば電動アシスト自転車1の前輪に装着されている。モータ105は、前輪を回転させるとともに、前輪の回転に応じてローターが回転するように、ローターが前輪に連結されている。さらに、モータ105はホール素子等の回転センサを備えてローターの回転情報(すなわちホール信号)をモータ駆動制御装置102に出力する。
【0014】
ユーザが電動アシスト自転車1に搭乗している場合には、モータ駆動制御装置102は、モータ105の回転センサ、トルクセンサ103及びペダル回転センサ104等からの信号に基づき所定の演算を行って、モータ105の力行駆動を制御し、モータ105の回生制動の制御も行う。また、例えば停車中、ユーザが電動アシスト自転車1に乗車している状態でペダルを逆回転(
図2に示すように、前進させるための回転方向を正回転、その逆の回転方向を逆回転と呼ぶ)させた場合には、モータ105を逆方向力行駆動させて、電動アシスト自転車1を後退させるように制御する。
【0015】
荷重センサ108は、例えばサドル下に設け、ユーザがサドルに着座したか否かを表す信号又は測定された重量を表す信号を、モータ駆動制御装置102に出力する。
【0016】
次に、本実施の形態に係るモータ駆動制御装置102に関連する構成を
図3に示す。
【0017】
モータ駆動制御装置102は、制御器1020と、FET(Field Effect Transistor)ブリッジ1030とを有する。FETブリッジ1030は、モータ105のU相についてのスイッチングを行うハイサイドFET(Suh)及びローサイドFET(Sul)と、モータ105のV相についてのスイッチングを行うハイサイドFET(Svh)及びローサイドFET(Svl)と、モータ105のW相についてのスイッチングを行うハイサイドFET(Swh)及びローサイドFET(Swl)とを含む。このFETブリッジ1030は、モータ105を正方向又は逆方向に力行駆動又は回生制動させるインバータとして機能する。
【0018】
また、制御器1020は、演算部1021と、荷重入力部1022と、ペダル回転入力部1023と、タイヤ回転入力部1024と、可変遅延回路1025と、モータ駆動タイミング生成部1026と、トルク入力部1027と、AD(Analog-Digital)入力部1029とを有する。
【0019】
演算部1021は、ペダル回転入力部1023からの入力、タイヤ回転入力部1024からの入力、トルク入力部1027からの入力、AD入力部1029からの入力を用いて所定の演算を行って、モータ駆動タイミング生成部1026及び可変遅延回路1025に対して出力を行う。演算部1021は、荷重入力部1022からの入力をさらに用いる場合もある。なお、演算部1021は、メモリ10211を有しており、メモリ10211は、演算に用いる各種データ及び処理途中のデータ等を格納する。さらに、演算部1021は、プログラムをプロセッサが実行することによって実現される場合もあり、この場合には当該プログラムがメモリ10211に記録されている場合もある。また、メモリ10211は、演算部1021とは別に設けられる場合もある。
【0020】
荷重入力部1022は、荷重センサ108からの、着座の有無を表す信号又はサドルにかけられた荷重の測定結果を表す信号を、ディジタル化して演算部1021に出力する。ペダル回転入力部1023は、ペダル回転センサ104からのペダルの回転(すなわちクランク軸の回転)に関する入力を、ディジタル化して演算部1021に出力する。なお、ペダル回転センサ104は、回転方向を検出できるセンサの場合もあれば、回転方向を検出できないセンサの場合もある。
【0021】
タイヤ回転入力部1024は、モータ105が出力するホール信号からモータ105の回転、すなわち本実施の形態においては前輪の回転に関する信号(例えば回転位相角を表す信号。但し回転方向を含むこともある)を、ディジタル化して演算部1021に出力する。タイヤ回転入力部1024は、例えば、タイヤ回転入力から電動アシスト自転車1の速度(例えば正の速度は前進速度で、負の速度は後退速度)を算出して出力するようにしても良い。トルク入力部1027は、トルクセンサ103からの踏力に相当する信号をディジタル化して演算部1021に出力する。AD入力部1029は、二次電池からの出力電圧をディジタル化して演算部1021に出力する。
【0022】
演算部1021は、演算結果として進角値を可変遅延回路1025に出力する。可変遅延回路1025は、演算部1021から受け取った進角値に基づきホール信号の位相を調整してモータ駆動タイミング生成部1026に出力する。演算部1021は、演算結果として例えばPWM(Pulse Width Modulation)のデューティー比に相当するPWMコードをモータ駆動タイミング生成部1026に出力する。モータ駆動タイミング生成部1026は、可変遅延回路1025からの調整後のホール信号と演算部1021からのPWMコードとに基づいて、FETブリッジ1030に含まれる各FETに対するスイッチング信号を生成して出力する。演算部1021の演算結果によって、モータ105は、力行駆動される場合もあれば、回生制動される場合もある。また、回転方向も、逆方向の場合もあれば正方向の場合もある。なお、モータの駆動等の基本動作については、国際公開第2012/086459号パンフレット等に記載されており、本実施の形態の主要部ではないので、ここでは説明を省略する。
【0023】
次に、
図4に、演算部1021における後退制御部3000に関連する機能ブロック構成例を示す。後退制御部3000は、後退判定部3100と、制御部3200とを有する。
【0024】
後退判定部3100は、ペダル回転入力、ペダル入力トルク、タイヤ回転入力などに基づき、後退を行ってもよいか否かを判断して、後退許可フラグ(ON/OFF)で判定結果を制御部3200に出力する。制御部3200は、後退許可フラグが許可を表している場合には、ペダル回転入力、タイヤ回転入力などに基づき、モータ105が逆方向に回転するように、モータ駆動タイミング生成部1026、可変遅延回路1025及びFETブリッジ1030を介してモータ105の制御を行う。なお、後退許可フラグが禁止を表している場合には、制御部3200は、従来の制御を行う。
【0025】
なお、後退制御部3000では、ペダル回転数([rpm])、ペダル回転角加速度([rad/s2])、ペダル回転角度量([rad]又は[deg])等を用いるので、後退制御部3000は、ペダル回転入力からこれらの値を算出する。同様に、後退制御部3000は、タイヤ回転速度([km/h])を用いるので、後退制御部3000は、タイヤ回転入力からこの値を算出する。なお、本実施の形態では、タイヤ回転速度は車速と実質的に同一である。
【0026】
次に、
図5乃至
図9を用いて、後退制御部3000の処理について説明する。
【0027】
まず、例えば電源スイッチがオンになって処理が開始されると、後退判定部3100は、初期処理として、後退許可フラグをオフにセットする(
図5:ステップS1)。なお、ペダル回転入力に基づきペダル回転の開始が検出されると、ペダル回転角度量の測定が開始され、ペダル回転開始からの経過時間の計測も開始される場合がある。また、
図5の処理フローについては、ステップS3からステップS21の処理が単位時間毎に繰り返される。
【0028】
そして、後退判定部3100は、後退判定処理を実行する(ステップS3)。この後退判定処理については、様々な態様を採用可能であるが、ここでは最も理解しやすい態様(後退判定処理A)を最初に
図6を用いて説明する。
【0029】
図6は、ペダル回転センサ104が、ペダルの回転方向(逆回転又は正回転)を検出することができるセンサである場合の処理を示す。
【0030】
後退判定部3100は、ペダル回転入力から、ペダルが逆回転させられているか否かを判断する(
図6:ステップS31)。ペダルが逆回転させられていない、すなわち停止している又は正回転させられている場合には、後退判定部3100は、後退許可フラグをオフ(OFF)に設定する(ステップS41)。そして処理は、呼び出し元の処理に戻る。
【0031】
一方、ペダルが逆回転させられている場合には、後退判定部3100は、ペダル逆回転数([rpm])が、閾値TH3(例えば30rpm)以上となっているか否かを判断する(ステップS33)。所定レベル以上に高速に逆回転させているか否かを判断するものである。
【0032】
ペダル逆回転数が閾値TH3以上であれば、後退判定部3100は、後退許可フラグをオン(ON)に設定する(ステップS35)。そして処理は呼び出し元の処理に戻る。一方、ペダル逆回転数が閾値TH3未満であれば、後退判定部3100は、ペダル逆回転数が、閾値TH4(<TH3。例えば20rpm)より小さいか否かを判断する(ステップS37)。後退制御を行う条件を一旦満たした後、ペダル逆回転数が減少してしまった場合、直ぐに後退許可フラグをオフにセットするのではなく、閾値TH4を下回るほどペダル逆回転数が減少していなければ、チャタリングを防止するために、現状維持(後退許可フラグをオンのまま)にするものである。よって、ペダル逆回転数が閾値TH4を下回る場合には、後退判定部3100は、後退許可フラグをオフにセットする(ステップS39)。そして処理は呼び出し元の処理に戻る。一方、ペダル逆回転数が閾値TH4以上であれば、何もせずに、呼び出し元の処理に戻る。
【0033】
このような処理を行うことで、逆回転のペダル回転が一定レベル以上の速度で行われていれば、後退制御を行わせるようにする。
【0034】
図5の処理の説明に戻って、次に、後退判定部3100は、後退判定処理に加えて、後退制御の確認処理を実行する場合がある(ステップS5)。この処理については、オプションである。ここでは、何も行わないとして次の処理に移行するものとするが、実行する場合の処理例については、後に述べる。
【0035】
そして、制御部3200は、後退許可フラグがオンに設定されているか否かを判断する(ステップS7)。後退許可フラグがオフに設定されている場合には、本実施の形態に係る後退制御を行わないので、制御部3200は、従来の方法に従って出力トルクの設定を行う(ステップS11)。ここでは詳細については説明を省略する。そして処理はステップS13に移行する。
【0036】
一方、後退許可フラグがオンに設定されている場合には、制御部3200は、出力トルクの設定処理を実行する(ステップS9)。例えば、固定の出力トルクを設定してもよい。また、例えばタイヤ回転速度に応じた出力トルクを設定してもよい。
【0037】
本実施の形態では、例えば
図7に示すような出力トルクを設定する。
図7の横軸は、逆回転におけるタイヤ回転速度の絶対値(|タイヤ回転速度|)[km/h]を表し、縦軸は、出力トルク[Nm]を表す。なお、正回転のタイヤ回転速度は正の値で表され、逆回転のタイヤ回転速度は負の値で表されるものとする。
【0038】
第1の例を表すカーブaの場合、|タイヤ回転速度|=0の時に出力トルクτ12となり、|タイヤ回転速度|=Sth12(例えば2km/h)になるまで出力トルクτ12が維持される。|タイヤ回転速度|がSth12を超えると|タイヤ回転速度|の増加に応じて出力トルクが減少し、|タイヤ回転速度|=Sth13(例えば2.5km/h)になると、出力トルクはゼロになる。Sth13を、|タイヤ回転速度|の上限値と呼ぶものとする。
【0039】
また、第2の例を示すカーブb(点線)の場合、|タイヤ回転速度|=0の時に出力トルクτ11となり、|タイヤ回転速度|が0を超えると|タイヤ回転速度|の増加に応じて出力トルクが減少し、|タイヤ回転速度|がSth11(例えば1km/h)に達すると、出力トルクはτ12なる。これより|タイヤ回転速度|が増加する場合には、ここではカーブaと同じである。
【0040】
カーブa及びbは例に過ぎず、他のカーブを採用してもよい。また、
図7の例では、|タイヤ回転速度|について3つの範囲を設定しているが、3つに限定されるものではない。
【0041】
なお、オプションではあるが、タイヤ回転速度に応じた出力トルクを時間変化させるようにしてもよい。例えば、後退許可フラグがオンになった時刻からの経過時間に応じて、出力トルクに乗じられるゲインを変化させるようにする。この例を
図8に示す。
図8の横軸は時間[s]を表し、縦軸はゲインを表す。
【0042】
図8の例では、後退許可フラグがオンになった時刻から時間TH21(例えば1秒)経過するまで、ゲインは線形に1まで増加し、その後1が維持される。このようにすれば、徐々に後退するようになるため、後退による搭乗者への衝撃を和らげることができる。
【0043】
なお、線形では無く何らかのカーブに沿って増加するようにしてもよい。
【0044】
図7及び
図8に示すような事項を実現するための出力トルクの設定処理を
図9に示す。
【0045】
制御部3200は、タイヤ回転速度(逆回転の場合は負の値)が、
図8の例では3つの所定範囲(第1の範囲(0以下-Sth11以上)、第2の範囲(-Sth11未満-Sth12以上)、第3の範囲(-Sth12未満-Sth13以上))のうち、いずれの所定範囲に入るかを特定する(
図9:ステップS51)。
【0046】
そして、制御部3200は、タイヤ回転速度がいずれかの所定範囲に入ったか否かを判断する(ステップS53)。タイヤ回転速度がいずれの所定範囲にも入らなかった場合には、制御部3200は、出力トルクを0に設定する(ステップS57)。そして処理はステップS59に移行する。
【0047】
一方、タイヤ回転速度がいずれかの所定範囲に入った場合には、制御部3200は、該当所定範囲においてタイヤ回転速度に応じた出力トルクを設定する(ステップS55)。例えば、カーブbの場合、第1の範囲に入る場合には、|タイヤ回転速度|の増加に応じて出力トルクが減少する所定関数に従って、第2の範囲に入る場合には、|タイヤ回転速度|に関わらず一定の出力トルクを出力する所定関数に従って、第3の範囲に入る場合には、|タイヤ回転速度|の増加に応じて出力トルクが減少する所定関数に従って、出力トルクを設定する。そして処理はステップS59に移行する。
【0048】
さらに、制御部3200は、後退許可フラグをオンに設定してからの経過時間が閾値TH21未満であるか否かを判断する(ステップS59)。上記経過時間が閾値TH21以上である場合には、処理は呼び出し元の処理に戻る。一方、上記経過時間が閾値TH21未満であれば、制御部3200は、出力トルクに、経過時間に応じて変化するゲインG(<1)を乗じることで、出力トルクを修正する(ステップS61)。
図9の例では、経過時間が長いほど1に近づくように増加するゲインGが乗じられる。
【0049】
このようにすれば、適切な出力トルクが設定されるようになる。なお、
図7で示したようにタイヤ回転速度に応じた出力トルクを設定することで、後退時における搭乗者の心理や安全性を考慮しつつ電動アシスト自転車1を後退させることができる。
【0050】
また、停車時に比較的大きな出力トルクが設定されると、坂や段差で発進できない事態を回避できる。また、タイヤ回転速度が高速になれば出力トルクがゼロになるので、後退しすぎも防止できるようになる。
【0051】
図5の処理の説明に戻って、制御部3200は、後退許可フラグがオンになっているか否かを判断する(ステップS13)。後退許可フラグがオフになっている場合には、制御部3200は、モータ回転方向を正回転に設定する(ステップS17)。これは従来と同じである。そして処理はステップS19に移行する。
【0052】
一方、後退許可フラグがオンになっている場合には、制御部3200は、モータ回転方向を逆回転に設定する(ステップS15)。そして処理はステップS19に移行する。
【0053】
そして、制御部3200は、設定に従ったモータ105の制御を行う(ステップS19)。後退許可フラグがオンになっていれば、設定された出力トルクを逆回転で生じさせるように、モータ駆動タイミング生成部1026、可変遅延回路1025及びFETブリッジ1030を制御する。
【0054】
以上述べたようなステップS3からステップS19の処理を、例えば電源スイッチがオフにされて処理終了となるまで、単位時間毎に繰り返す(ステップS21)。
【0055】
以上述べたような処理を行うことで、電動アシスト車に乗車したまま後退できるようになる。
【0056】
[実施の形態2]
本実施の形態では、ペダル回転センサ104が回転方向を検出できないセンサである場合に行われる後退判定処理の例を示す。
【0057】
図10に本実施の形態に係る後退判定処理Bを示す。回転方向が検出できないので、ペダル回転数は常に正の値となる。また、トルクセンサ103は、ペダルを逆回転させている間はトルクを検出しないものとする。
【0058】
後退判定部3100は、タイヤ回転速度が閾値TH1(例えば1km/h)以下であるか否かを判断する(
図10:ステップS71)。タイヤ回転速度は、正回転では正の値となり、逆回転では負の値となるものとする。本ステップは、おおよそ電動アシスト自転車1が停車中であるか否かを判定するものであり、0を含む所定範囲内にタイヤ回転速度が含まれるのか否かを判断するようにしてもよい。
【0059】
タイヤ回転速度が閾値TH1以下ではない場合には、後退判定部3100は、後退許可フラグをオフにセットする(ステップS83)。そして処理は呼び出し元の処理に戻る。一方、タイヤ回転速度が閾値TH1以下である場合、後退判定部3100は、ペダル入力トルクが閾値TH2(例えば10Nm)以下であるか否かを判断する(ステップS73)。本ステップは、トルクがほとんど入力されていない状態、すなわちペダルが正回転させられていないことを確認するものでもある。閾値TH2は、例えば、誤検知防止のためのトルク(例えば5Nm)以上であって、正回転での駆動許可トルク(例えば15Nm)以下の値が採用される。トルクが閾値TH2を超えている場合には、処理はステップS83に移行する。
【0060】
一方、ペダル入力トルクが閾値TH2以下である場合には、後退判定部3100は、ペダル回転数が閾値TH3(例えば30rpm)以上であるか否かを判断する(ステップS75)。ステップS71及びS73の条件を満たしている場合には、停車中であるとみなすことができ、その上で、ペダル回転数が、閾値TH3以上となっている場合には、ペダルを逆回転させることで搭乗者の意図として後退することを示しているものと判断するものである。
【0061】
ペダル回転数が閾値TH3以上である場合には、後退判定部3100は、後退許可フラグをオンにセットする(ステップS77)。そして処理は呼び出し元の処理に戻る。一方、ペダル回転数が閾値TH3未満である場合には、後退判定部3100は、ペダル回転数が閾値TH4未満であるか否かを判断する(ステップS79)。ペダル回転数が閾値TH4未満であれば、後退判定部3100は、後退許可フラグをオフにセットする(ステップS81)。十分なペダル回転がなされていない場合には、後退許可フラグをオフにする。そして処理は呼び出し元の処理に戻る。一方、ペダル回転数が閾値TH4以上であれば、何もせずに処理は呼び出し元の処理に戻る。現状維持するためである。
【0062】
以上のような処理を行うことで、ペダル回転センサ104が回転方向を検出できない場合でも、停車中にペダルが逆回転させられている状態を検出することができるようになる。
【0063】
[実施の形態3]
より確実に搭乗者の後退意図を検出するためには、例えば
図11及び
図12に示すような後退判定処理Cを実行する場合もある。なお、本実施の形態では、ペダル回転センサ104が回転方向を検出できない場合を想定している。
【0064】
後退判定部3100は、ペダル回転数が閾値TH34(例えば20rpm)未満であるか否かを判断する(
図11:ステップS91)。ペダル回転数が閾値TH34未満である場合には、後退判定部3100は、ペダル回転角度量をクリアする(ステップS93)。ペダル回転角度量は、初期的にはペダル回転を検出してからの累積の回転角度量であり、その後はクリアされた後に検出されたペダル回転の累積の回転角度量である。また、後退判定部3100は、後退許可フラグをオフにセットする(ステップS95)。そして処理は呼び出し元の処理に戻る。
【0065】
一方、ペダル回転数が閾値TH34未満ではない場合、後退判定部3100は、ペダル回転角加速度が閾値TH36(例えば、3.14rad/s2=180°/s 2)以上であるか否かを判断する(ステップS97)。ペダル回転角加速度が閾値TH36以上であれば、処理はステップS93に移行する。一定の速度で安定的にペダルを漕いでいる場合には、ペダル回転角加速度は閾値TH36未満になる。一方、何らかの理由でペダルが回転してしまっている状態であれば、一定の速度ではなく速くなったり遅くなったりしてペダル回転角加速度は閾値TH36以上となる。すなわち、ステップS91及びS97で、一定速度以上で且つ安定的にペダルを回転させているか否かを最初に判断するようにしている。
【0066】
ペダル回転角加速度が閾値TH36未満である場合、後退判定部3100は、現在のペダル回転角度量が閾値TH35(例えば360°)未満であるか否かを判断する(ステップS99)。本実施の形態では、一定速度以上で且つ安定的にペダルを所定角度(例えば1回転(=360°))以上回転させていれば、搭乗者の後退意図が確実であると判断するものである。現在のペダル回転角度量が閾値TH35未満であれば、処理はステップS95に移行する。一方、ペダル回転角度量が閾値TH35以上であれば、処理は端子Aを介して
図12の処理に移行する。
【0067】
図12の処理の説明に移行して、後退判定部3100は、タイヤ回転速度が閾値TH31(例えば1km/h)を超えているか否かを判断する(
図12:ステップS101)。タイヤ回転速度が閾値TH31を超えている場合には、処理は端子Bを介して
図11のステップS95に移行する。一方、タイヤ回転速度が閾値TH31以下である場合には、後退判定部3100は、タイヤ回転速度が閾値TH32(例えば-2.5km/h)未満であるか否かを判断する(ステップS103)。タイヤ回転速度が閾値TH32未満であれば、処理は端子Bを介して
図11のステップS95に移行する。
【0068】
タイヤ回転速度が閾値TH32以上であれば、ほぼ停車状態であり、後退判定部3100は、ペダル入力トルクが閾値TH33(例えば10Nm)以上であるか否かを判断する(ステップS105)。ペダル入力トルクが閾値TH33以上である場合には、処理は端子Bを介して
図11のステップS95に移行する。ペダル入力トルクが閾値TH33未満である場合には、ペダル入力トルクがほぼない状態であり、後退判定部3100は、ペダル回転数が閾値TH38(例えば30rpm)未満であるか否かを判断する(ステップS107)。ペダル回転数が閾値TH38未満である場合には、処理は端子Cを介して呼び出し元の処理に戻る。
【0069】
一方、ペダル回転数が閾値TH38以上であれば、後退判定部3100は、後退許可フラグをオンにセットする(ステップS109)。そして、処理は端子Cを介して呼び出し元の処理に戻る。
【0070】
ステップS107は、ステップS91と組み合わせれば、
図10のステップS75及びS79の組み合わせと同様である。ステップS101及びS103は、
図10のステップS71に対応する。ステップS105は、ステップS73と同様である。すなわち、
図11に示した部分で、確実に搭乗者の後退意図を特定している。なお、回転方向を検出可能なペダル回転センサ104を採用する場合であっても、
図11に示した、一定速度以上で且つ安定的にペダルを所定角度以上回転させたか否かの判定を実施するようにしてもよい。
【0071】
[実施の形態4]
第3の実施の形態と同様に、より確実に搭乗者の後退意図を検出するためには、例えば
図13(及び
図12)に示すような後退判定処理Dを実行する場合もある。なお、本実施の形態でも、ペダル回転センサ104が回転方向を検出できない場合を想定している。
【0072】
後退判定部3100は、ペダル回転角度量が閾値TH35未満であるか否かを判断する(ステップS111)。ペダル回転角度量が閾値TH35未満であれば、後退判定部3100は、さらに、ペダル回転角度量測定についての経過時間が閾値TH37(例えば3秒)以上となったか否かを判断する(ステップS113)。経過時間が閾値TH37未満であれば、処理はステップS117に移行する。
【0073】
一方、経過時間が閾値TH37以上であれば、後退判定部3100は、ペダル回転角度量をクリアする(ステップS115)。このように、所定時間以内に、ペダルが所定角度以上回転していない場合には、他の判断を行わないようにしている。そして、後退判定部3100は、後退許可フラグをオフにセットする(ステップS117)。その後、処理は呼び出し元の処理に戻る。
【0074】
一方、ペダル回転角度量が閾値TH35以上である場合、すなわち所定時間以内にペダルが所定角度以上回転している場合、後退判定部3100は、ペダル回転数が閾値TH34未満であるか否かを判断する(ステップS119)。ペダル回転数が閾値TH34未満である場合には、回転数が遅すぎるので、後退判定部3100は、ペダル回転角度量及び当該ペダル回転角度量測定についての経過時間をクリアする(ステップS121)。そして処理はステップS117に移行する。
【0075】
一方、ペダル回転数が閾値TH34以上であれば、後退判定部3100は、ペダル回転角加速度が閾値TH36以上であるか否かを判断する(ステップS123)。ペダル回転角加速度が閾値TH36以上である場合には、処理はステップS121に移行する。すなわち、安定的なペダル回転がなされていない場合にはステップS121に移行する。ペダル回転角加速度が閾値TH36未満であれば、処理は端子Aを介して
図12の処理に移行する。
【0076】
図12の処理は上で述べたとおりであるが、端子Bを介して
図13の処理に戻ってきた場合には、ステップS121に移行する。また、端子Cを介して
図13の処理に戻ってきた場合には、そのまま呼び出し元の処理に戻る。
【0077】
このように、搭乗者の後退意図が、所定時間以内のペダル回転角度で表されるものとする場合には、このように最初にペダル回転角度量で判定することに合理性がある。
【0078】
なお、
図13では、ペダル回転角度量だけではなく、一定速度以上で且つ安定的にペダルが回転されていることも要件として規定されている。
【0079】
[実施の形態5]
図7で示したようにタイヤ回転速度に応じて出力トルクを設定する場合、出力トルクの上限値や、出力トルクを設定する際に影響を与え得るタイヤ回転速度の上限値を規定することになる。このような上限値を固定にしてもよいが、例えば逆回転のペダル回転数に応じて設定してもよい。
【0080】
図14に逆回転のペダル回転数に応じて出力トルクの上限値を設定する例を示す。
図14の縦軸は、出力トルクの上限値[Nm]を表し、横軸はペダル逆回転数[rpm]を表す。ペダル回転の方向が検出できる場合だけでは無く、ペダル回転の方向が検出できなくても、後退許可フラグがオンにセットできる状態であれば、そのときのペダル回転数をペダル逆回転数として取り扱えば良い。
【0081】
図14の例では、ペダル逆回転数がPth1になるまでは出力トルクの上限値は0であり、ペダル逆回転数がPth1を超えると、ペダル逆回転数に応じて上限出力トルクτmaxまで線形に増加する。ペダル逆回転数がPth2を超えると、上限出力トルクτmaxで維持される。
【0082】
図14のようなカーブの形に限定されるわけでは無く他のカーブの形で変化するようにしてもよい。
【0083】
また、
図15に逆回転のペダル回転数に応じて逆回転の|タイヤ回転速度|の上限値[km/h]を設定する例を示す。
図15の縦軸は、逆回転の|タイヤ回転速度|の上限値を表し、横軸は、ペダル逆回転数[rpm]を表す。
【0084】
図15の例では、ペダル逆回転数がPth1になるまで|タイヤ回転速度|の上限値は所定値Syで維持されるが、ペダル逆回転数がPth1を超えると、ペダル逆回転数に応じて所定値Sxまで線形に増加する。ペダル逆回転数がPth2を超えると、所定値Sxで維持される。
【0085】
図15のようなカーブの形に限定されるわけでは無く他のカーブの形で変化するようにしてもよい。
【0086】
例えば、
図7のカーブaの場合、
図16に示すように、ペダル逆回転数に応じて、|タイヤ回転速度|の上限値(点線)は、X方向に変動し、出力トルクの上限値(二点鎖線)は、Y方向に変動する。
【0087】
[実施の形態6]
上で述べた実施の形態では、荷重センサ108からの入力を用いていなかったが、例えば、荷重センサ108により測定された重量に応じて出力トルクの上限値を調整するようにしてもよい。
【0088】
例えば、制御部3200は、荷重入力により表される重量に応じて、出力トルクの上限値を設定する。例えば、重量が50kgであれば15Nm程度を上限値に設定したり、100kgであれば30Nm程度を設定するようにしてもよい。
【0089】
これにより、搭乗者によらず後退をスムーズに行わせることができるようになる。
【0090】
[実施の形態7]
乗車していない場合には、後退制御を行うことは好ましくない。本実施の形態では、荷重センサ108により乗車の有無が確認できれば、後退制御を行うようにして、確認できなければ後退制御を行わないようにする。すなわち、制御部3200は、サドルに着座したことを表す信号を受信していない場合、又は測定された重量が所定値未満(例えば30kg未満)であると判断した場合、後退許可フラグをオフにするか、後退許可フラグのオン/オフに拘わらず例えば出力トルクをゼロに設定する。これによってより安全になる。
【0091】
[実施の形態8]
一般的な自転車や電動アシスト自転車1であれば、乗車せずに電動アシスト自転車1を手で引いて後退させる場合、漕いでいなくても、ペダルは逆回転してしまう。
【0092】
このペダルの逆回転を検出して後退制御を行ってしまうと、意図しない形で電動アシスト自転車1が後退してしまう。
【0093】
このことを防止するためには、乗車せずに電動アシスト自転車1を手で引いて後退させることにより生ずる、逆回転のペダル回転数よりも速い逆回転を検出した場合に、本実施の形態の後退制御を行うようにする。
【0094】
すなわち、|タイヤ回転速度|とペダル逆回転数との関係から、後退制御を許可してよい場合と、禁止すべき場合とを切り分ける。
【0095】
図17に一例を示す。
図17において横軸は|タイヤ回転速度|[km/h]を表し、縦軸はペダル逆回転数[rpm]を表す。
【0096】
図17において点線cは、以下の式が成り立つラインを表している。
|タイヤ回転速度|=ペダル逆回転数×60×ギア比×タイヤ周長
ペダル逆回転数=|タイヤ回転速度|/60/ギア比/タイヤ周長
【0097】
なお、ギア比は、内装変速の場合には、変速を変えても1速のギア比と同じである。一方、外装変速の場合には、変速を変えると、その変速におけるギア比になる。従って、ギア比を最大ギア比として計算してもよい。
【0098】
図17において、上で述べた式において|タイヤ回転速度|に対応するペダル逆回転数を超えるペダル逆回転数を検出すれば、ペダルを逆回転で漕いでいることを特定できる。
【0099】
本実施の形態では、マージンを設定して、点線cをマージンだけ上回るような実線の直線dより上の許可領域においてペダル逆回転数が検出されれば、逆回転でペダルを漕いでいると確認する。一方、直線d以下の禁止領域内のペダル逆回転数が検出されれば、乗車していないと判定される。
【0100】
同様に、上で述べた式においてペダル逆回転数から算出される|タイヤ回転速度|を下回る|タイヤ回転速度|が検出されれば、ペダルを逆回転で漕いでいることを特定できる。この場合にもマージンが設定されてもよい。
【0101】
従って、本実施の形態では、確認処理(ステップS5)として、
図18に示す処理を実行する。
【0102】
すなわち、後退判定部3100は、後退許可フラグがオンにセットされているか否かを判断する(
図18:ステップS131)。後退許可フラグがオフの場合には、呼び出し元の処理に戻る。
【0103】
一方、後退許可フラグをオンである場合には、後退判定部3100は、ペダル逆回転数が、|タイヤ回転速度|から算出されたペダル逆回転数+マージン以下であるか否かを判断する(ステップS133)。この条件を満たさない場合には、許可領域に入っていることになるので、処理は呼び出し元の処理に戻る。なお、ステップS133の条件については、ペダル逆回転数ベースでは無くタイヤ回転速度ベースであってもよい。また、上記式を変形することによって得られる指標値をベースに判断してもよい。
【0104】
一方、この条件を満たす場合には禁止領域に入っているので、後退判定部3100は、後退許可フラグをオフにセットする(ステップS135)。そして呼び出し元の処理に戻る。
【0105】
このようにすることで、荷重センサ108を用いずとも、搭乗者がペダルを逆回転で漕いでいることを確認できるようになる。
【0106】
なお、本実施の形態では、電動アシスト自転車1にディファレンシャルギアを設けないことを前提に説明したが、ディファレンシャルギアを設けていても、上記の処理は有効に作用する。
【0107】
[実施の形態9]
実施の形態8のように厳密でなくても、簡易的に同様の判断を行うようにしてもよい。例えば、逆回転において|タイヤ回転速度|の上限値(例えば[5km/h])を基準にして、ペダル逆回転数を上記の式で算出してマージンを加えることで閾値を算出できる。
【0108】
例えば、|タイヤ回転速度|の上限値=5km/hであって、ギア比1.6でタイヤ周長2mであれば、ペダル逆回転数は26[rpm]と算出される。この値にマージンを加えれば閾値Pth11を設定できる。
【0109】
すなわち、
図19に示すように、|タイヤ回転速度|の上限値Tth11をベースに、ペダル逆回転数の閾値Pth11が算出されるので、|タイヤ回転速度|が0から上限値Tth11までの範囲において、Pth11以上の領域が許可領域で、それ以外が禁止領域となる。
【0110】
【0111】
すなわち、後退判定部3100は、後退許可フラグがオンにセットされているか否かを判断する(
図20:ステップS141)。後退許可フラグがオフの場合には、呼び出し元の処理に戻る。
【0112】
一方、後退許可フラグをオンである場合には、後退判定部3100は、ペダル逆回転数が、上で述べたように設定された閾値Pth11より小さいか否かを判断する(ステップS143)。この条件を満たさない場合には、許可領域に入っていることになるので、処理は呼び出し元の処理に戻る。閾値は、ギア比によって変化する場合もあるので、ギア比には最大ギア比を用いる場合もある。
【0113】
一方、この条件を満たす場合には禁止領域に入っているので、後退判定部3100は、後退許可フラグをオフにセットする(ステップS145)。そして呼び出し元の処理に戻る。
【0114】
このようにすることで、荷重センサ108を用いずとも、搭乗者がペダルを逆回転で漕いでいることを簡易に確認できるようになる。
【0115】
なお、例えば
図11における閾値TH34にPth11と同じ値を採用することによって、確認処理Bを省略するようにしてもよい。
【0116】
以上本発明の実施の形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、目的に応じて、上で述べた実施の形態の任意の技術的特徴を組み合わせたり、上で述べた実施の形態における任意の技術的特徴を削除するようにしても良い。
【0117】
例えば、確認処理と後退判定処理を分離せずに統合する場合もある。また、確認処理の一部を後退判定処理に入れたり、逆に後退判定処理の一部を確認処理に入れたりすることも可能である。
【0118】
さらに、上で述べた機能ブロック図は一例であって、1の機能ブロックを複数の機能ブロックに分けても良いし、複数の機能ブロックを1つの機能ブロックに統合しても良い。処理フローについても、処理内容が変わらない限り、ステップの順番を入れ替えたり、複数のステップを並列に実行するようにしても良い。
【0119】
演算部1021は、一部又は全部を専用の回路にて実装しても良いし、予め用意したプログラムを実行することで、上で述べたような機能を実現させるようにしても良い。
【0120】
センサの種類も上で述べた例は一例であり、上で述べたパラメータを得られるような他のセンサを用いるようにしても良い。なお、設置箇所についても、センサで測定するパラメータの主旨に沿った形で変更しても良い。
【0121】
以上述べた実施の形態をまとめると以下のようになる。
【0122】
本実施の形態に係るモータ制御装置は、(A)電動アシスト車のモータを駆動する駆動部と、(B)第1の条件を満たすペダルの逆回転を検出すると、電動アシスト車を後退させるように駆動部を制御する制御部とを有する。このようにすれば、電動アシスト車に乗車したまま後退できるようになる。
【0123】
なお、上で述べた制御部が、ペダルの回転方向及びペダル回転数、又は、ペダル回転数、タイヤ回転速度、及びペダル入力トルクに基づき、上記第1の条件を満たすペダルの逆回転を検出するようにしてもよい。ペダルの回転方向を検出できる場合でもできない場合でも、適切に第1の条件を満たしたペダルの逆回転を検出できるようになる。
【0124】
また、上で述べた制御部が、逆回転のペダル回転数と、ペダル回転角度量と、ペダル回転角加速度と、タイヤ回転速度と、ペダル入力トルクとに基づき、第1の条件を満たすペダルの逆回転を検出するようにしてもよい。このようなパラメータ群を用いることにより確実に第1の条件を満たすペダルの逆回転を検出できるようになる。
【0125】
さらに、上で述べた制御部が、逆回転のペダル回転数についての第2の条件(例えば閾値未満のペダル逆回転数)と、ペダル回転角度量についての第3の条件(例えば閾値未満のペダル回転角度量)と、ペダル回転角加速度についての第4の条件(例えば閾値以上のペダル回転角速度)と、タイヤ回転速度についての第5の条件(例えば閾値以上の|タイヤ回転速度|)と、ペダル入力トルクについての第6の条件(例えば閾値以上のペダル入力トルク)との少なくともいずれかを満たした場合に、第1の条件を満たしていないと判定するようにしてもよい。
【0126】
また、第3の条件、又は、第2の条件及び第4の条件を優先的に判定するようにしてもよい。判定の効率性のためである。
【0127】
さらに、上で述べた制御部が、一定時間におけるペダル回転角度量が第2の条件を満たした場合に、逆回転のペダル回転数についての第3の条件を含む他の条件を満たすか否かを判定することで、第1の条件を満たすか否かを判定するようにしてもよい。搭乗者の後退意図が、ペダル回転角度量で表される場合に効果的である。
【0128】
また、上で述べた制御部が、ペダルの逆回転が所定回転数以上で且つ第2の条件を満たす安定度で行われている間に、ペダル回転角度量についての第3の条件を含む他の条件を満たすか否かを判定することで、第1の条件を満たすか否かを判定するようにしてもよい。一定速度以上で且つ安定的にペダルを逆回転で漕いでいることを重視する場合には、このような判定を行うようにしてもよい。
【0129】
さらに、上で述べた制御部が、タイヤ回転速度に基づきモータの出力トルクを決定するようにしてもよい。例えば、逆回転において|タイヤ回転速度|が遅いほど出力トルクを大きくすることで後退発進がスムーズになり、|タイヤ回転速度|が速いほど出力トルクを小さくすることで安全に後退できるようになる。
【0130】
なお、上で述べた制御部が、出力トルクを時間に応じて変化させるようにしてもよい。これによって、例えば後退発進時における衝撃を和らげることができる。
【0131】
さらに、上で述べた制御部が、電動アシスト車への乗車が検出されない場合には、電動アシスト車を後退させる制御を禁止するようにしてもよい。より安全にするためである。
【0132】
また、上で述べた制御部が、逆回転のペダル回転数に基づき算出されるタイヤ回転速度と現在のタイヤ回転速度との関係、又は、現在のタイヤ回転速度に基づき算出される逆回転のペダル回転数と逆回転の現在のペダル回転数との関係に基づき、電動アシスト車を後退させる制御の是非を判定するようにしてもよい。これにより、搭乗者が意図的にペダルを逆回転させているのか否かを判定できるようになる。
【0133】
さらに、上で述べた制御部が、逆回転のペダル回転数に基づき、モータの出力トルクの上限値とタイヤ回転速度の上限値との少なくともいずれかを調整するようにしてもよい。搭乗者の意図に従って後退させるためである。
【0134】
また、上で述べた制御部が、電動アシスト車の搭乗者の重量に基づき、モータの出力トルクの上限値を調整するようにしてもよい。例えば搭乗者によらずスムーズな後退発進を可能にするためである。
【符号の説明】
【0135】
3000 後退制御部
3100 後退判定部
3200 制御部