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特許7379336バランシングチャンバシステムの充填時間を測定するためのデバイス、バランシングチャンバシステムにおける異常を検出するためのデバイス、バランシングチャンバモジュール、透析システム、および対応する方法
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  • 特許-バランシングチャンバシステムの充填時間を測定するためのデバイス、バランシングチャンバシステムにおける異常を検出するためのデバイス、バランシングチャンバモジュール、透析システム、および対応する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】バランシングチャンバシステムの充填時間を測定するためのデバイス、バランシングチャンバシステムにおける異常を検出するためのデバイス、バランシングチャンバモジュール、透析システム、および対応する方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/16 20060101AFI20231107BHJP
【FI】
A61M1/16 135
A61M1/16 111
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020534366
(86)(22)【出願日】2017-12-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-03-11
(86)【国際出願番号】 CN2017117987
(87)【国際公開番号】W WO2019119412
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2020-12-21
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】501276371
【氏名又は名称】フレセニウス・メディカル・ケア・ドイチュラント・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】ジョー、ジョセフ
【合議体】
【審判長】佐々木 正章
【審判官】安井 寿儀
【審判官】栗山 卓也
(56)【参考文献】
【文献】独国特許発明第19728800(DE,C)
【文献】米国特許出願公開第2004/0040620(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バランシングチャンバシステムにおける異常を検出するためのデバイスであって、
1つのバランシングチャンバの第1のチャンバの第1の充填時間または前記1つの同じバランシングチャンバの第2のチャンバの第2の充填時間を測定するように構成された流入監視手段と、
前記バランシングチャンバシステムにおける前記異常を検出するために、前記第1の充填時間を記憶メモリに記録される第1の所定の値または範囲と比較するか、もしくは前記第2の充填時間を記憶メモリに記録される第2の所定の値または範囲と比較するように構成された評価手段と
を備え、
前記バランシングチャンバは、可撓性分離壁によって前記第1のチャンバと前記第2のチャンバとに分割され、
前記流入監視手段は、新しい流体が前記第1のチャンバに流入することのみを可能にするように前記第1のチャンバの第1の充填ポートと流体接続された電気的に絶縁された第1の逆止弁をまたぐ一対の電極を備えるか、または
前記流入監視手段は、使用済み流体が前記第2のチャンバに流入することのみを可能にするように前記第2のチャンバの第2の充填ポートと流体接続された電気的に絶縁された第2の逆止弁をまたぐ一対の電極を備える、
デバイス。
【請求項2】
前記第1の所定の値からの前記第1の充填時間の第1の偏差が第1の所定の範囲外にある場合に、前記異常が検出されるか、または
前記第2の所定の値からの前記第2の充填時間の第2の偏差が第2の所定の範囲外にある場合に、前記異常が検出される、
請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記流入監視手段は、前記バランシングチャンバシステムの第1の充填流路に配置されるか、または
前記流入監視手段は、前記バランシングチャンバシステムの第2の充填流路に配置される、
請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記デバイスは、
前記異常が検出された場合に異常信号を生成するように構成された指示モジュールをさらに備える、請求項1~のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載のデバイスを備える、バランシングチャンバモジュール。
【請求項6】
請求項に記載のバランシングチャンバモジュールを備える、透析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バランシングチャンバシステムの充填時間を測定するためのデバイス、バランシングチャンバシステムにおける異常を検出するためのデバイス、バランシングチャンバモジュール、透析システム、およびバランシングチャンバシステムにおける異常を検出するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透析治療は、尿毒症または腎不全などのいくつかの腎疾患に広く使用されている。血液透析治療のために使用される一般的な装置は、血液透析装置と呼ばれる。
【0003】
血液透析治療では、新しい透析液が十分に血液透析装置の透析器に流入することを確実にすることが不可欠である。少なくとも1つ、好ましくは2つのバランシングチャンバを備える従来の血液透析装置は、予め設定されたチャンバ容積で所望の流量を達成するようにバランシングチャンバサイクル速度を制御する。
【0004】
バランシングチャンバのための負荷圧力が低下すると、または流入路および/または流出路における閉塞などの異常があると、流量も低下するが検出されない場合がある。既知の方法の1つは、負荷圧力およびバランシングチャンバ内に充填される流体が十分に生成されているかどうかを示すために、電流上昇パルス振幅およびタイミングを検出することである。
【0005】
しかしながら、そのような方法は、水圧回路内におけるより高い圧力を必要とし、負荷圧力が制限されるときには使用できない場合がある。また、水圧チューブシステムに対してより高い圧力もかける。
【発明の概要】
【0006】
先行技術に存在する課題に鑑みて、本発明の目的は、バランシングチャンバシステムの充填時間を測定するためのデバイス、バランシングチャンバシステムにおける異常を検出するためのデバイス、対応するバランシングチャンバモジュール、対応する透析システム、および対応する方法を提供することである。
【0007】
この目的を達成するために、本発明の第1の態様によれば、バランシングチャンバシステムの充填時間を測定するためのデバイスが提供され、本デバイスは、バランシングチャンバの第1のチャンバの第1の充填時間またはバランシングチャンバの第2のチャンバの第2の充填時間を測定するように構成された流入監視手段と、第1の充填時間または第2の充填時間を受信するように構成されたメモリモジュールとを備える。
【0008】
本発明の第2の態様によれば、バランシングチャンバシステムの充填時間を測定するためのデバイスが提供され、本デバイスは、バランシングチャンバの第1のチャンバの第1の充填プロセスまたはバランシングチャンバの第2のチャンバの第2の充填プロセスを監視し、監視データを生成するように構成された監視手段と、第1の充填プロセスの第1の充填時間または第2の充填プロセスの第2の充填時間を計算するために、監視手段から監視データを受信するように構成された処理モジュールと、第1の充填時間または第2の充填時間を受信するように構成されたメモリモジュールとを備える。
【0009】
本発明の第3の態様によれば、バランシングチャンバシステムにおける異常を検出するためのデバイスが提供され、本デバイスは、バランシングチャンバの第1のチャンバの第1の充填時間またはバランシングチャンバの第2のチャンバの第2の充填時間を測定するように構成された流入監視手段と、バランシングチャンバシステムにおける異常を検出するために、第1の充填時間を第1の所定の値または範囲と比較するか、もしくは第2の充填時間を第2の所定の値または範囲と比較するように構成された評価手段とを備える。
【0010】
本発明の任意選択の実施形態によれば、バランシングチャンバシステムは、可撓性分離壁によって第1のチャンバと第2のチャンバとに分割された少なくとも1つのバランシングチャンバを備える。
【0011】
本発明の任意選択の実施形態によれば、第1の所定の値からの第1の充填時間の第1の偏差(deviation)が第1の所定の範囲外にある場合に、異常が検出されるか、または第2の所定の値からの第2の充填時間の第2の偏差が第2の所定の範囲外にある場合に、異常が検出される。
【0012】
本発明の任意選択の実施形態によれば、流入監視手段は、バランシングチャンバシステムの第1の充填流路に配置されるか、または流入監視手段は、バランシングチャンバシステムの第2の充填流路に配置される。
【0013】
本発明の任意選択の実施形態によれば、流入監視手段は、バランシングチャンバシステムの第1の排出流路に配置されるか、または流入監視手段は、バランシングチャンバシステムの第2の排出流路に配置される。
【0014】
本発明の任意選択の実施形態によれば、流入監視手段は、新しい流体が第1のチャンバに流入することのみを可能にするように第1のチャンバの第1の充填ポートと流体接続された電気的に絶縁された第1の逆止弁をまたぐ一対の電極を備えるか、または流入監視手段は、使用済み流体が第2のチャンバに流入することのみを可能にするように第2のチャンバの第2の充填ポートと流体接続された電気的に絶縁された第2の逆止弁をまたぐ一対の電極を備える。
【0015】
本発明の任意選択の実施形態によれば、本デバイスは、異常が検出された場合に異常信号を生成するように構成された指示モジュールをさらに備える。
【0016】
本発明の第4の態様によれば、バランシングチャンバモジュールが提供され、バランシングチャンバモジュールは、バランシングチャンバシステムの充填時間を測定するためのデバイス、またはバランシングチャンバシステムにおける異常を検出するためのデバイスを備える。
【0017】
本発明の第5の態様によれば、透析システムが提供され、本透析システムは、バランシングチャンバモジュールを備える。
【0018】
本発明の第6の態様によれば、バランシングチャンバシステムにおける異常を検出するための方法が提供され、本方法は、バランシングチャンバの第1のチャンバの第1の充填時間またはバランシングチャンバの第2のチャンバの第2の充填時間を測定することと、バランシングチャンバシステムにおける異常を検出するために、第1の充填時間を第1の所定の値または範囲と比較すること、もしくは第2の充填時間を第2の所定の値または範囲と比較することとを行うステップを備える。
【0019】
本発明の任意選択の実施形態によれば、第1のチャンバの第1の充填時間が第1の所定の範囲を下回る場合、第2の排出流路に異常が存在するか、または第1のチャンバの第1の充填時間が第1の所定の範囲を上回る場合、第1の排出流路または第1の充填流路に異常が存在する。
【0020】
本発明の任意選択の実施形態によれば、第2のチャンバの第2の充填時間が第2の所定の範囲を下回る場合、第1の排出流路に異常が存在するか、または第2のチャンバの第2の充填時間が第2の所定の範囲を上回る場合、第2の充填流路または第2の排出流路に異常が存在する。
【0021】
本発明の任意選択の実施形態によれば、本方法は、異常が検出された場合に、チャンバの不十分な排出を示す異常信号を生成することをさらに備える。
【0022】
本発明の任意選択の実施形態によれば、異常信号は、所定の基準にしたがう所定の回数、異常が検出されるまで生成される。
【0023】
本発明によれば、バランシングチャンバシステムにおける異常を確実かつ簡単に検出および特定することができる。
【0024】
本発明およびその利点は、以下の図面を参照していくつかの好ましい例示的な実施形態の下記の詳細な説明を読むことによってさらに理解される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】一例としてシングルバランシングチャンバシステムを採用することによって、血液透析装置のバランシングチャンバシステムにおける異常を検出するための方法およびデバイスを概略的に例示する。
図2】本発明の例示的な実施形態による、第1のチャンバの充填時間と負荷圧力との関係を示す。
図3】新しい透析液または使用済み透析液の流路の問題を示すために、第1のチャンバ内に充填される流体の正規化された充填時間と正規化された流量との関係を示す。
【好ましい実施形態の詳細な説明】
【0026】
本発明のいくつかの例示的な実施形態が、本発明の基本概念をよりよく理解するために、図面を参照してより詳細に以下に説明される。
【0027】
図1は、バランシングチャンバシステムにおける異常を検出するための方法およびデバイスを概略的に例示し、本明細書では、血液透析装置のシングルバランシングチャンバシステムが一例として採用される。さらに、バランシングチャンバシステムの充填時間を測定するためのデバイスが、図1を参照して説明される。
【0028】
図1に示されるように、バランシングチャンバシステム1は、変位可能な隔壁3によって第1のチャンバ4と第2のチャンバ5とに分割された単一のバランシングチャンバ(BC)2を備える。変位可能な隔壁3は、好ましくは可撓性膜として構成される。
【0029】
バランシングチャンバ2は、第1の入口弁37と、第1の出口弁34と、第2の入口弁38と、第2の出口弁33とが装備されている。第1の入口弁37および第2の出口弁33は、第1のチャンバ4の第1の入口6および第1の出口7にそれぞれ配置される。第2の入口弁38および第1の出口弁34は、第2のチャンバ5の第2の入口12および第2の出口13にそれぞれ配置される。
【0030】
新しい透析液供給ユニット8(概略的にのみ図示)は、第1の充填流路9を通して第1の入口弁37と流体接続され得る。第1の排出流路17の一端が、第1の出口弁34と流体接続されている。実際のバランシングチャンバシステムでは、第1の排出流路17の他端は、排水部(図示せず)と接続される。しかしながら、第1の排出流路17の他端は、本明細書では、ドレイン流動抵抗シミュレーションユニット18に接続され、最終的に、第2のチャンバ5から移動された流体の実際の量を測定するために使用され得る重量計19に通じるものとして概略的に示されている。ドレイン流動抵抗シミュレーションユニット18は、第1の排出流路17における起こり得る異常をシミュレートするために使用され得る。
【0031】
第2の充填流路15の一端が、第2の入口弁38と流体接続され、第2の排出流路10の一端が、第2の出口弁33と流体接続されている。実際のバランシングチャンバシステムでは、第2の排出流路10の他端は、透析器28の透析液チャンバと流体接続されることになり、第2の充填流路15の他端は、ギアポンプなどの使用済み透析液伝達ユニット14(概略的にのみ図示)を介して透析器28の透析液チャンバと流体接続されることになり、これらの接続は、図1に破線によって概略的に示されている。
【0032】
実際の動作の第1のプロセス中、第1の出口弁34が開かれて第2の入口弁38および第2の出口弁33の両方が閉じられている間に、新しい透析液が、新しい透析液供給ユニット8から第1の充填流路9、第1の入口弁37、および第1の入口6を介して第1のチャンバ4内に供給され得る。第1のプロセスでは、新しい透析液は第1のチャンバ4内に充填され、新しい透析液によって変位可能な隔壁3に加えられる圧力によって、使用済み透析液が第2のチャンバ5から移動される。これは、第1のプロセスでは、第1の入口6および第1の出口13が、変位可能な隔壁3を介して間接的に流体連通されることを意味する。
【0033】
次の第2のプロセスでは、第2の出口弁33が開かれて第1の入口弁37および第1の出口弁34の両方が閉じられている間に、使用済み透析液が、使用済み透析液伝達ユニット14によって透析器28から第2のチャンバ5内に充填され得る。第2のプロセスでは、使用済み透析液は第2のチャンバ5内に充填され、使用済み透析液によって変位可能な隔壁3に加えられる圧力によって、新しい透析液が第1のチャンバ4から移動される。これは、第2のプロセスでは、第2の入口12および第2の出口7が、変位可能な隔壁3を介して間接的に流体連通されることを意味する。
【0034】
しかしながら、試験のために、第2の排出流路10の他端は、本明細書では、第2の排出流路10における起こり得る異常をシミュレートするために使用され得る透析液流動抵抗シミュレーションユニット11に接続されるものとして概略的に示されている。
【0035】
変位可能な隔壁3にわたる差圧を調整するように第2のチャンバ5内の圧力、すなわち流圧を制御するために、弁などの流圧調整手段16が、使用済み透析液伝達ユニット14をまたいで配置される。
【0036】
試験のためだけに、透析液流動抵抗シミュレーションユニット11は、図1に示されるように、使用済み透析液伝達ユニット14と接続され得る。この場合、使用済み透析液は、実際には新しい透析液であり、これは試験の場合に可能である。当然ながら、他の種類の流体も試験のために使用され得る。
【0037】
コントローラ(図示せず)の制御下の、第1の入口弁37、第1の出口弁34、第2の入口弁38、第2の出口弁33、新しい透析液供給ユニット8、使用済み透析液伝達ユニット14などについての動作は、先行技術において周知であり、したがって、より詳細な動作は本明細書では省略される。
【0038】
バランシングチャンバシステム1の、第1の排出流路17および/または第2の排出流路10など、いくつかの水圧部分に異常がある場合、十分な透析液が血液透析装置の透析器28に流入しない可能性があることは明らかであり、これは治療結果に悪影響を及ぼす。
【0039】
第1のチャンバ4の充填時間は、バランシングチャンバシステム1の流動特性を反映し得る。例えば、充填時間は、第1のチャンバ4および第2のチャンバ5の総容積、変位可能な隔壁3にわたる差圧、第1の排出流路17の透析液流動抵抗、第2の排出流路10のドレイン流動抵抗、第1の充填流路9の充填流動抵抗、および他の要因に依存し得る。ある特定のバランシングチャンバシステムの場合、これらの要因は一定であるかまたは決定されたものとすることができ、例えば、第1のチャンバ4および第2のチャンバ5の総容積は既知であり、一定である。
【0040】
したがって、充填時間に基づいてそのような異常を検出することが可能である。より具体的には、そのような異常は、基準充填時間に対する実際の充填時間の変化に基づいて検出され得る。
【0041】
上述のように、基準充填時間はまた、変位可能な隔壁3にわたる差圧により変化し得、よって差圧を決定することが必要である。
【0042】
変位可能な隔壁3にわたる差圧を決定するために、差圧測定デバイスが設けられる。本発明の例示的な実施形態によれば、差圧測定デバイスは、圧力、すなわち第1のチャンバ4内に充填される新しい透析液の負荷圧力を測定するための第1の圧力測定手段20と、圧力、すなわち第2のチャンバ5内の使用済み透析液の流圧を測定するための第2の圧力測定手段24とを備える。
【0043】
本発明の例示的な実施形態によれば、図1に示されるように、第1の圧力測定手段20は、新しい透析液供給ユニット8内に組み込まれ得る。より具体的には、新しい透析液供給ユニット8は、負荷圧力も設定し得る。代替の実施形態として、第1の圧力測定手段20は、第1の充填流路9に配置されてもよい。
【0044】
本発明の例示的な実施形態によれば、図1に示されるように、第2の圧力測定手段24は、第2の充填流路15に配置され得る。本発明の別の例示的な実施形態によれば、流圧は、流圧調整手段16によって設定され得る。
【0045】
変位可能な隔壁3にわたる差圧は、第1の圧力測定手段20によって測定される負荷圧力から、第1の排出流路17に配置された第3の圧力測定手段21によって測定される背圧(counter pressure)を引くことによって決定されることができる。
【0046】
変位可能な隔壁3にわたる差圧はまた、透析液流動抵抗シミュレーションユニット11に対して流圧調整手段16によって生成され、次いで第2の充填流路15に配置された第2の圧力測定手段24および第2の排出流路10に配置された第4の圧力測定手段25によって個別に測定される流圧によっても決定されることができる。
【0047】
第1のチャンバ4の充填時間を測定するように構成された流入監視手段と、充填時間を受信するように構成されたメモリモジュールとを備える充填時間測定デバイスが設けられる。パラメータとしての充填時間は、そのパラメータを必要とする対応する手段に提供されることができる。
【0048】
本発明の例示的な実施形態によれば、充填時間測定デバイスはさらに、第1の充填流路9に配置された導電率測定手段を備える。
【0049】
本発明の例示的な実施形態によれば、導電率測定手段は、新しい透析液が第1のチャンバ4に流入することのみを可能にするように第1の充填流路9に配置された電気的に絶縁された第1の逆止弁23をまたぐ一対の電極22を備える。導電率測定手段に関して、新しい透析液が第1のチャンバ4に流入しているとき、一対の電極22間の導電率は高く、バランシングチャンバ2が満杯で、それ以上の新しい透析液が第1のチャンバ4に流入しないとき、逆止弁23は閉じられ、一対の電極22間の導電率は低下することになる。すなわち、第1のチャンバ4の充填時間は、一対の電極22間の導電率を測定することによって得られることができる。
【0050】
一般に、第1のチャンバ4の充填時間は、第1のチャンバ4の充填プロセスを監視することによっても得られ得る。この場合、第1のチャンバ4の充填プロセスを監視して監視データを生成するように構成された監視手段と、充填プロセスの充填時間を計算するために監視手段から監視データを受信するように構成された処理モジュールと、充填時間を受信するように構成されたメモリモジュールとを備える、別の充填時間測定デバイスが設けられる。
【0051】
第2のチャンバ5から移動された流体の実際の量および対応する充填時間から計算され得る、バランシングチャンバ2内に充填される新しい透析液の実際の流量と充填時間との関係を評価するために、バランシングチャンバシステムの物理的な流動特性を変更することなく、典型的な負荷圧力(および一定の流圧)下でいくつかの試験が行われた。変位可能な隔壁3にわたる差圧の所定の条件において、充填時間は、各BCサイクルにおいてかなり一定であることが分かる。一般に、較正またはPOST(パワーオンセルフテスト)が実施されるとき、正規化された充填時間が生成され、所定の値または範囲として記憶メモリに記録される。
【0052】
図2は、本発明の例示的な実施形態による、充填時間と負荷圧力との関係を示す。図2に示されるように、充填時間は、負荷圧力、より正確には変位可能な隔壁3にわたる差圧により変化する。具体的には、充填時間は、変位可能な隔壁3にわたる差圧の増加とともに減少する。しかしながら、充填時間転換点26に達すると、変位可能な隔壁3にわたる差圧がさらに増加しても充填時間にあまり影響しない。
【0053】
上述のように、充填時間と変位可能な隔壁3にわたる差圧との間には密接な相関関係がある。変位可能な隔壁3にわたる差圧の変化、特に低下を引き起こす何らかの異常が、関連する水圧流路にある場合、充填時間が変化する。
【0054】
試験中、第2の排出流路10における異常は、透析液流動抵抗シミュレーションユニット11によってシミュレートされることができ、第1の排出流路17における異常は、ドレイン流動抵抗シミュレーションユニット18によってシミュレートされことができる。第2の排出流路10の流動抵抗および/または第1の排出流路17の流動抵抗が、変位可能な隔壁3にわたる所定の差圧において変化すると、充填時間も変化することが分かる。
【0055】
本発明の例示的な実施形態によれば、所定の差圧における所定の値からの充填時間の偏差が所定の範囲外にある場合に、異常が検出される。
【0056】
所定の値または範囲からの充填時間の偏差に応じて、図3によって例示される以下の2つのシナリオがあり、ここで異常な充填時間が、100%の正規化された充填時間から外れている。当業者は、100%の正規化された充填時間が、通常のバランシングチャンバ負荷圧力および通常の流量下での較正またはPOSTにおいて得られる所定の値または範囲であることを理解する。
【0057】
1)シナリオ1:新しい透析液流路における異常(図3の正規化された充填時間の左側に例示)。
変位可能な隔壁3にわたる差圧がある特定のレベルまで低下すると、第2のチャンバ5内の使用済み透析液は、所定のBCサイクル時間内に完全に排水されることができない。この場合、使用済み透析液の一部が第2のチャンバ5に残る。したがって、第1のチャンバ4の後続の充填において残っている充填容積がより少なくなる。その結果、充填時間が短縮されることになる。充填時間の減少量は、バランシングチャンバ2内に充填される新しい透析液の減少量に関連付けられ得る。
【0058】
2)シナリオ2:使用済み透析液流路における異常(図3の正規化された充填時間の右側に例示)。
使用済み透析液流路における異常は、変位可能な隔壁3にわたる差圧に直接影響を及ぼす。ドレイン流動抵抗が増加すると、充填時間が延長される。ドレイン流動抵抗が高すぎる場合、第1のチャンバ4の充填は中断されることになる。
【0059】
図3は、使用済み透析液を第2のチャンバから移動させるように新しい透析液が第1のチャンバ内に充填されるときの第1のチャンバの充填時間に基づいて検出される、起こり得る異常のみを示す。しかしながら、新しい透析液を第1のチャンバから移動させるように使用済み透析液が第2のチャンバ内に充填されるときの第2のチャンバの充填時間に基づいて、いくつかの起こり得る異常が検出されることができることも、当業者によって理解されるべきである。
【0060】
本発明の基本概念が、一例として第1のチャンバの充填を採用することによって説明されたが、基本概念が、第2のチャンバの充填時間に基づいて使用できることも当業者によって理解されるべきである。
【0061】
さらに、第1のチャンバの充填時間が第2のチャンバの流出時間に対応し、その逆も同様であることが、当業者によって理解されるべきである。したがって、流出時間に基づいて異常を検出することもでき、これも本発明の範囲内に入る。
【0062】
操作上の観点から、当業者であれば、新しい透析液の導電率が検出および測定のためにより正確に生成されるので、使用済み液体が流入するバランシングチャンバの充填時間よりも新しい液体が流入するバランシングチャンバの充填時間を測定するほうが推奨されることを理解することができる。
【0063】
したがって、測定手段は、バランシングチャンバシステムの新しい流路上に配置されるか、またはバランシングチャンバシステムの使用済み流路上に配置される。
【0064】
加えて、基本概念が、シングルバランシングチャンバシステムにおいて使用できるだけでなく、ダブルバランシングチャンバシステムにおいても使用できることが当業者によって理解されるべきである。
【0065】
異常を検出するために、少なくとも充填時間を所定の値または範囲と比較することができる評価手段27が設けられる。図1に示されるように、評価手段27は、簡略化のために非常に概略的にしか示されていない。
【0066】
本発明の例示的な実施形態によれば、評価手段27の機能は、バランシングチャンバシステムのコントローラによっても達成され得る。
【0067】
本発明の例示的な実施形態によれば、異常が検出された場合に異常信号を生成することができる指示モジュール(図示せず)が設けられ、これは例えばチャンバの不十分な排出を示す。
【0068】
誤警報を回避するために、異常信号は、異常が所定の基準にしたがう所定の回数検出されるまで生成される。
【0069】
血液透析装置の製造中、負荷圧力および流圧は、規定された工場較正手順にしたがって調整される。したがって、充填時間は、通常、透析治療においてバランシングチャンバ内に充填される新しい透析液の実際の流量を監視するためのパラメータとして使用されることができる。すなわち、チャンバの充填時間に基づいて異常が次いで検出されることができる。バランシングチャンバシステムにおける異常を検出するためのデバイスを血液透析装置に組み込めることが、当業者によって理解されるべきである。
【0070】
本発明は、充填時間測定デバイスまたはバランシングチャンバシステムにおける異常を検出するためのデバイスを備えるバランシングチャンバモジュールと、バランシングチャンバモジュールを備える透析システムとをさらに提供する。
【0071】
本発明によれば、確実かつ簡単に異常を検出および特定することができる。
【0072】
ある特定の実施形態が説明されてきたが、これらの実施形態は例として提示されているだけであり、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。添付の特許請求の範囲およびそれらの同等物は、本発明の趣旨および範囲内に入る修正、置換、および変更をすべて網羅することを意図している。
以下に、本願出願当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[C1]
バランシングチャンバシステムの充填時間を測定するためのデバイスであって、
バランシングチャンバの第1のチャンバの第1の充填時間または前記バランシングチャンバの第2のチャンバの第2の充填時間を測定するように構成された流入監視手段と、
前記第1の充填時間または前記第2の充填時間を受信するように構成されたメモリモジュールと
を備える、デバイス。
[C2]
バランシングチャンバシステムの充填時間を測定するためのデバイスであって、
バランシングチャンバの第1のチャンバの第1の充填プロセスまたは前記バランシングチャンバの第2のチャンバの第2の充填プロセスを監視し、監視データを生成するように構成された監視手段と、
前記第1の充填プロセスの第1の充填時間または前記第2の充填プロセスの第2の充填時間を計算するために、前記監視手段から前記監視データを受信するように構成された処理モジュールと、
前記第1の充填時間または前記第2の充填時間を受信するように構成されたメモリモジュールと
を備える、デバイス。
[C3]
バランシングチャンバシステムにおける異常を検出するためのデバイスであって、
バランシングチャンバの第1のチャンバの第1の充填時間または前記バランシングチャンバの第2のチャンバの第2の充填時間を測定するように構成された流入監視手段と、
前記バランシングチャンバシステムにおける前記異常を検出するために、前記第1の充填時間を第1の所定の値または範囲と比較するか、もしくは前記第2の充填時間を第2の所定の値または範囲と比較するように構成された評価手段と
を備える、デバイス。
[C4]
前記バランシングチャンバシステムは、可撓性分離壁によって前記第1のチャンバと前記第2のチャンバとに分割された少なくとも1つのバランシングチャンバを備える、C1~3のいずれか一項に記載のデバイス。
[C5]
前記第1の所定の値からの前記第1の充填時間の第1の偏差が第1の所定の範囲外にある場合に、前記異常が検出されるか、または
前記第2の所定の値からの前記第2の充填時間の第2の偏差が第2の所定の範囲外にある場合に、前記異常が検出される、
C3に記載のデバイス。
[C6]
前記流入監視手段は、前記バランシングチャンバシステムの第1の充填流路に配置されるか、または
前記流入監視手段は、前記バランシングチャンバシステムの第2の充填流路に配置される、
C1または3に記載のデバイス。
[C7]
前記流入監視手段は、前記バランシングチャンバシステムの第1の排出流路に配置されるか、または
前記流入監視手段は、前記バランシングチャンバシステムの第2の排出流路に配置される、
C1または3に記載のデバイス。
[C8]
前記流入監視手段は、新しい流体が前記第1のチャンバに流入することのみを可能にするように前記第1のチャンバの第1の充填ポートと流体接続された電気的に絶縁された第1の逆止弁をまたぐ一対の電極を備えるか、または
前記流入監視手段は、使用済み流体が前記第2のチャンバに流入することのみを可能にするように前記第2のチャンバの第2の充填ポートと流体接続された電気的に絶縁された第2の逆止弁をまたぐ一対の電極を備える、
C6に記載のデバイス。
[C9]
前記デバイスは、
前記異常が検出された場合に異常信号を生成するように構成された指示モジュールをさらに備える、C1~8のいずれか一項に記載のデバイス。
[C10]
C1~9のいずれか一項に記載のデバイスを備える、バランシングチャンバモジュール。
[C11]
C10に記載のバランシングチャンバモジュールを備える、透析システム。
[C12]
バランシングチャンバシステムにおける異常を検出するための方法であって、
バランシングチャンバの第1のチャンバの第1の充填時間または前記バランシングチャンバの第2のチャンバの第2の充填時間を測定することと、
前記バランシングチャンバシステムにおける前記異常を検出するために、前記第1の充填時間を第1の所定の値または範囲と比較すること、もしくは前記第2の充填時間を第2の所定の値または範囲と比較することと
を行うステップを備える、方法。
[C13]
前記第1の所定の値からの前記第1の充填時間の第1の偏差が第1の所定の範囲外にある場合、または前記第2の所定の値からの前記第2の充填時間の第2の偏差が第2の所定の範囲外にある場合に、前記異常が検出される、
C12に記載の方法。
[C14]
前記第1のチャンバの前記第1の充填時間が前記第1の所定の範囲を下回る場合、第2の排出流路に前記異常が存在するか、または
前記第1のチャンバの前記第1の充填時間が前記第1の所定の範囲を上回る場合、第1の排出流路または第1の充填流路に前記異常が存在する、
C12または13に記載の方法。
[C15]
前記第2のチャンバの前記第2の充填時間が前記第2の所定の範囲を下回る場合、第1の排出流路に前記異常が存在するか、または
前記第2のチャンバの前記第2の充填時間が前記第2の所定の範囲を上回る場合、第2の充填流路または第2の排出流路に前記異常が存在する、
C12または13に記載の方法。
[C16]
前記方法は、
前記異常が検出された場合に、チャンバの不十分な排出を示す異常信号を生成することをさらに備える、C12または13に記載の方法。
[C17]
異常信号は、前記異常が所定の基準にしたがう所定の回数検出されるまで生成される、
C12または13に記載の方法。
[C18]
前記バランシングチャンバシステムは、可撓性分離壁によって第1のチャンバと第2のチャンバとに分割された少なくとも1つのバランシングチャンバを備える、
C12または13に記載の方法。
図1
図2
図3