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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】6-クロロメチルウラシルの合成方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 239/54 20060101AFI20231107BHJP
   C07D 239/22 20060101ALI20231107BHJP
   A61K 31/506 20060101ALN20231107BHJP
   A61P 35/04 20060101ALN20231107BHJP
【FI】
C07D239/54
C07D239/22 CSP
A61K31/506
A61P35/04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020541405
(86)(22)【出願日】2019-02-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-17
(86)【国際出願番号】 IB2019051155
(87)【国際公開番号】W WO2019166901
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2022-01-31
(31)【優先権主張番号】102018000003134
(32)【優先日】2018-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】510207368
【氏名又は名称】プロコス ソシエタ ペル アチオニ
【氏名又は名称原語表記】PROCOS S.P.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】モラナ、 ファビオ
(72)【発明者】
【氏名】ゴバート、 ステファノ
(72)【発明者】
【氏名】ロレット、 ヤコポ
(72)【発明者】
【氏名】パイッソニ、 パオロ
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】Journal fuer Praktische Chemie (Leipzig),1988年,330(4),P.607-616
【文献】Bioorganic & Medicinal Chemistry,1999年,7(9),P.1925-1931
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 239/
A61K 31/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、6-クロロメチルウラシルの調製方法:
a)4-クロロアセト酢酸エチルとS-メチルイソチオ尿素ヘミスルフェートとの反応により、単離された中間体6-(クロロメチル)-6-ヒドロキシ-2-(メチルチオ)-5,6-ジヒドロピリミジン-4(1H)-オンを得る工程
b)該6-(クロロメチル)-6-ヒドロキシ-2-(メチルチオ)-5,6-ジヒドロピリミジン-4(1H)-オンと硫酸水溶液との反応により、6-クロロメチルウラシルを得る工程、
であって、工程a)が、無機塩基の存在下、-10℃~10℃の範囲の温度で実施される、6-クロロメチルウラシルの調製方法
【請求項2】
前記無機塩基が、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸水素カリウムから選択される、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記無機塩基が炭酸ナトリウムである、請求項に記載の方法。
【請求項4】
工程b)が40~120℃の温度で実施される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
工程b)が、6-(クロロメチル)-6-ヒドロキシ-2-(メチルチオ)-5,6-ジヒドロピリミジン-4(1H)-オンから、中間体6-クロロメチル-2-(メチルチオ)ピリミジン-4(1H)-オンまたはその互変異性体の形態である6-(クロロメチル)-2-(メチルチオ)ピリミジン-4-オールへのインサイチュ(in situ)での変換を含み、それらが6-クロロメチルウラシルに変換される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
化合物6-(クロロメチル)-6-ヒドロキシ-2-(メチルチオ)-5,6-ジヒドロピリミジン-4(1H)-オン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4-クロロアセト酢酸エチルおよびS-メチルイソチオ尿素ヘミスルフェートから、新規中間体6-(クロロメチル)-6-ヒドロキシ-2-(メチルチオ)-5,6-ジヒドロピリミジン-4(1H)-オンの単離、およびそれに続く硫酸水溶液による処理を経て、6-クロロメチルウラシル(6-(クロロメチル)ピリミジン-2,4(1H,3H)-ジオン)を合成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
6-クロロメチルウラシルは、チピラシルを含むチミジンホスホリラーゼ阻害剤の合成における重要な中間体である。チピラシルは、トリフルリジンと組み合わせて、転移性結腸直腸癌の治療のための独自の薬剤において使用される有効成分である。
【0003】
【化1】
【0004】
6-クロロメチルウラシルの種々の調製法が文献に報告されている:
Heterocycl. Commun., 2013, 19(6), 401-404は、ポリリン酸(PPA)存在下における4-クロロアセト酢酸エチルと尿素の熱縮合を報告している。
【0005】
【化2】
【0006】
2つの試薬のうちの1つ、尿素の低い反応性を考慮して、この手法は、極めて劇的な条件(希釈されていない溶媒としての無機酸の使用、長い反応時間、および非常に高い温度)を必要とする。さらに、著者らは、生成物を「褐色粉末」と呼ぶが、これは、純粋な場合には白色結晶性固体であるため、その低純度を暗示する記述である。
【0007】
Synthetic Communications, 2002, 32(6), 851-855は、酸の非存在下において、マイクロ波の使用によって促進される同様の縮合を報告している。この手法は、マイクロ波を使用するために、工業的に実現可能でないという欠点を有する。
【0008】
J. Am. Chem. Soc., 1914, 36(8), 1742-1747は、クロロ酢酸エチルおよびナトリウムエトキシドから出発して、最初にエトキシ酢酸エチルエステルを与え、それを亜鉛アマルガムの存在下でブロモ酢酸エチルと縮合させて、4-エトキシアセト酢酸エチルとし、これを、チオ尿素との反応およびそれに続く塩酸水溶液中での熱加水分解により目的の生成物を得る、4段階での合成を記載している。
【0009】
【化3】
【0010】
合成行程が長く、亜鉛アマルガム(毒性が高い)を使用するため、この方法は、工業的にスケールアップをするにあたり魅力的ではない。
【0011】
Nucleosides, Nucleotides, and Nucleic Acids, 2005, 24(5-7):367-373、およびEur. J. Med. Chem., 2013, 70, 400-410は、二酸化セレンの存在下における6-メチルウラシルのウラシル-6-カルボアルデヒドへの酸化から始まり、それに続く水素化ホウ素ナトリウムによる還元および塩化チオニルによる塩素化という順序を記載している。
【0012】
【化4】
【0013】
この手法もまた、合成の長さおよびセレンのような毒性の高い元素を使用することから、工業的にほとんど興味を引かない。
【0014】
CN106892902Aは、最初のアルデヒドへの酸化を酸化銅(CuO)の存在下で実施する点を除いて、同じ順序を開示している。合成の長さおよび最終生成物を汚染する可能性のある遷移金属の使用は、この手法が、工業的に興味を引かないことを意味する。
【0015】
CN105906573Aは、6-メチルウラシルのウラシル-6-カルボアルデヒドへの同じ酸化から始まり、それに続くヨウ素化、アルコールへの還元、塩素化、およびブチルリチウムによるヨウ素の除去を行う方法を開示している。
【0016】
【化5】
【0017】
この手法は、多数の工程、セレンのような毒性物質の使用、ヨウ素酸カリウムのような酸化剤の使用、および最終工程の劇的な反応条件といった多数の明らかな欠点を有し、これらは、有機金属試薬を安全に取り扱うために必要であるが、工業的方法には適合しない。
【0018】
CN104725324AおよびCN106831607は、オロチン酸のエステル化、それに続く還元および塩素化を開示している。
【0019】
【化6】
【0020】
原料のかなりのコスト、工程の数、および生成物を生じる工程における毒性物質の使用は、この手法を非常に魅力的でないものにしている。
【0021】
Journal fuer Praktische Chemie (Leipzig), 1988, 330(4), 607-16は、メチル 4-クロロブタ-2-イノエートおよびS-メチルイソチオ尿素から出発して、中間体6-(クロロメチル)-2-(メチルチオ)ピリミジン-4(1H)-オンの単離を経由する2段階の合成を報告している。
【0022】
【化7】
【0023】
この手法は、出発アルキンの商業的入手性が低く、該アルキンの合成に追加の工程が必要となること、すなわちアルキンの品質および収率が未知であることから、不利であると思われる。
【0024】
さらに、第1工程は、2つの原料を70℃の強塩基性媒体中で反応させることによって行われる。しかしながら、S-メチルイソチオ尿素(およびその塩)は、水酸化ナトリウムの存在下、室温で既に分解し、ガス状のメタンチオールを放出することが知られている。この手法は、有毒で、悪臭があり、極めて揮発性のガスであることから、その使用を必要とするプロセスにおいて、試薬としてのメタンチオールを間接的に生成するために使用される。例えば、論文、Angew. Chem. Int. Ed., 2018, 57(42) 13887-13891の「Ex Situ Formation of Methanethiol: Application in Gold(I)-Promoted Anti-Markovnikov Hydrothiolation of Olefins」を参照のこと。
【0025】
メタンチオールの制御されない放出による操作者の安全性および環境安全性の問題は、この場合、化学的問題を伴うが、それは、ガスが塩素原子上で求核置換を行い、以下に論じ、スキーム2に示すように、副生成物である6-((メチルチオ)メチル)ピリミジン-2,4(1H,3H)-ジオンを生じさせるためである。
【0026】
該副生成物の生成は、主に、第2工程において促進される。なぜなら、塩酸水溶液は、環上のチオメチル基を加水分解するために使用され、該酸水溶液中のメタンチオールの溶解度は非常に高く、溶液中に保持されるガスは分子中に完全に組み込まれ、6-((メチルチオ)メチル)ピリミジン-2,4(1H,3H)-ジオンのさらなる形成をもたらすためである。そして、最終生成物である6-クロロメチルウラシルの収率の低下を伴い、結晶化のような容易に工業化可能な方法を使用して精製することは、ほとんど不可能である。
【0027】
6-(クロロメチル)-2-(メチルチオ)ピリミジン-4(1H)-オンの合成もまた、WO2007080382A1、WO2008023180A1、WO2009007749A2、WO2004063156、CN103980253A、Bioorg. Med. Chem. Lett., 2012, 22, 4163-4168、およびBioorg. Med. Chem., 1999, 7, 1925-1931に記載されており、4-クロロアセト酢酸エチルおよびS-メチルイソチオ尿素ヘミスルフェートからの、該化合物の単離を報告している。これらにおいて、生成物は、以下のスキームに示すように、その互変異性体の形態6-(クロロメチル)-2-(メチルチオ)ピリミジン-4-オールとして、報告されることがある。
【0028】
【化8】
【0029】
この手法では、反応が25℃で行われた後、濾過によって分子が単離される。濾過母液を酸性化して、別の沈殿物を得ることにより、目的の生成物の収率を増加させるべきであることもまた、明確に推奨される。Bioorg. Med. Chem., 1999, 7, 1925-1931では、反応混合物を塩酸で中和し、続いて抽出およびカラムクロマトグラフィーを行うことにより、生成物を単離している。
【0030】
実際には、これらの操作には、明らかな欠点がある。
【0031】
25℃で反応を行うと、2つの試薬のうちの一方、4-クロロアセト酢酸エチルの部分分解が促進される。これは、4-クロロアセト酢酸エチルが、Bioorg. Med. Chem., 1999, 7, 1925-19で使用される炭酸塩や水酸化カルシウムのような無機塩基の存在による塩基性pH値において不安定であるためである。前記分解は、分子の反応性と競合して、目的の生成物を与え、したがって、その収率および純度に悪影響を及ぼす。
【0032】
室温では、ヘミスルフェートの形で存在する2つの試薬のうちの1つによって、および使用される無機塩基によって放出される多数の無機塩種の存在は、目的の生成物からのガス状メチルメルカプタンの制御できない放出を促進し、部分的に6-クロロメチルウラシルに進化する。
【0033】
この制御できないガスの発生は、濾過母液にHClを添加することによって促進される。得られる沈殿は、通常、3つの生成物の混合物である:目的の生成物、6-クロロメチルウラシル、および6-((メチルチオ)メチル)ピリミジン-2,4(1H,3H)-ジオン。塩酸は、メチルメルカプタンの放出を促進するだけでなく、その溶液中の滞留も促進し、以下のスキーム2に示すように、末端の塩素原子を求核置換によって置換するためである。
【0034】
この手法によって生じる副生物の多様性を実証する、Bioorg. Med. Chem., 1999, 7, 1925-1931は、得られた生成物の純度を明示することなく、生成物がカラムクロマトグラフィーにより「精製された」ことを明確に述べている(1930ページ)。さらに、クロマトグラフィー精製の必要性は、この手法が工業的にスケーラブルであることを妨げる。
【0035】
CN103980253Aは、6M塩酸または2M硫酸溶液を用いた、5-クロロ-6-(クロロメチル)-2-(メチルチオ)ピリミジン-4(1H)-オンから、5-クロロ-6-クロロメチルピリミジン-2,4(1H,3H)-ジオンへの加水分解を開示している。
【0036】
【化9】
【0037】
Yakugaku Zasshi, 1950, 70, 134-137には、硫酸を用いた、6-メチル-2-メチルチオピリミジン-4(1H)-オンから、6-メチルピリミジン-2,4(1H,3H)-ジオンへの熱加水分解が記載されている。
【0038】
【化10】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0039】
【文献】中国特許出願公開第106892902号明細書
【文献】中国特許出願公開第105906573号明細書
【文献】中国特許出願公開第104725324号明細書
【文献】中国特許出願公開第106831607号明細書
【文献】国際公開第2007/080382号
【文献】国際公開第2008/023180号
【文献】国際公開第2009/007749号
【文献】国際公開第2004/063156号
【文献】中国特許出願公開第103980253号明細書
【非特許文献】
【0040】
【文献】Heterocycl. Commun.,2013,19(6),p.401-404
【文献】Synthetic Communications,2002,32(6),p.851-855
【文献】J. Am. Chem. Soc.,1914,36(8),p.1742-1747
【文献】Nucleosides, Nucleotides, and Nucleic Acids,2005,24(5-7),p.367-373
【文献】Eur. J. Med. Chem.,2013,70,p.400-410
【文献】Journal fuer Praktische Chemie (Leipzig),1988,330(4),p.607-16
【文献】Bioorg. Med. Chem. Lett.,2012,22,p.4163-4168
【文献】Bioorg. Med. Chem.,1999,7,p.1925-1931
【文献】Yakugaku Zasshi,1950,70,p.134-137
【発明の概要】
【0041】
発明の説明
本発明の目的は、以下の工程を含む、6-クロロメチルウラシルの調製方法である:
a)4-クロロアセト酢酸エチルとS-メチルイソチオ尿素ヘミスルフェートを反応させて、単離された中間体6-(クロロメチル)-6-ヒドロキシ-2-(メチルチオ)-5,6-ジヒドロピリミジン-4(1H)-オンを得る;
b)該6-(クロロメチル)-6-ヒドロキシ-2-(メチルチオ)-5,6-ジヒドロピリミジン-4(1H)-オンと硫酸水溶液との反応により、6-クロロメチルウラシルを得る。
【0042】
該中間体6-(クロロメチル)-6-ヒドロキシ-2-(メチルチオ)-5,6-ジヒドロピリミジン-4(1H)-オンは新規であり、本発明のさらなる目的である。
【0043】
すなわち、本発明に係る方法は、以下を含む2つの工程からなる(スキーム1):
a)4-クロロアセト酢酸エチルとS-メチルイソチオ尿素ヘミスルフェートから、好ましくは低温で、新規中間体6-(クロロメチル)-6-ヒドロキシ-2-(メチルチオ)-5,6-ジヒドロピリミジン-4(1H)-オンを得て単離する。中間体の単離は、続くウラシル骨格を形成するための加水分解工程において、メチルメルカプタン(毒性ガス)の放出を伴い、加水分解速度の変動を特に起こしやすくする結果、ガス発生の制御を不十分なものとする多くの無機塩種の除去を可能にする。この問題は、本発明の背景およびスキーム2で説明するように、同じ原料である4-クロロアセト酢酸エチルとS-メチルイソチオ尿素ヘミスルフェートからから出発して6-(クロロメチル)-2-(メチルチオ)ピリミジン-4(1H)-オンを室温で単離する際に通常遭遇する問題である。
【0044】
b)単離された中間体6-(クロロメチル)-6-ヒドロキシ-2-(メチルチオ)-5,6-ジヒドロピリミジン-4(1H)-オンを硫酸水溶液で処理し、インサイチュ(in situ)での中間体6-(クロロメチル)-2-(メチルチオ)ピリミジン-4(1H)-オンの生成を経て、6-クロロメチルウラシルを得る。この処理は、単離された6-(クロロメチル)-2-(メチルチオ)ピリミジン-4(1H)-オンを6-クロロメチルウラシルに変換するための、既に知られている塩酸の使用に勝る多数の驚くべき利点をもたらす。硫酸の使用は、副生成物である6-((メチルチオ)メチル)ピリミジン-2,4(1H,3H)-ジオンの量を0.5%未満に減少させ、最終生成物の収率および品質に非常に好ましい影響を与える。したがって、得られた6-クロロメチルウラシルを、さらに精製工程にかける必要はない。また、硫酸を使用すると、反応時間を大幅に短縮できる。
【0045】
これらの議論はいずれも、工業的設備の占有を最適化するにあたり、明らかな利点を提供するものである。
【0046】
【化11】
【0047】
【化12】
【0048】
発明の詳細な説明
溶媒、原料、酸または塩基の添加順序は、以下に報告するものと異なっていてもよい。
【0049】
本発明の一実施形態において、方法は以下のように実施される:
工程a):1モル当量の4-クロロアセト酢酸エチルを、1~2モル当量、好ましくは1.1~1.5モル当量の、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムから選択される無機塩基、好ましくは炭酸ナトリウムの存在下、3~30容量、好ましくは5~10容量の水、メタノール、アセトニトリル、エタノール、アセトン、N,N-ジメチルホルムアミドおよびN,N-ジメチルアセトアミドから選択される水または有機溶媒中、好ましくは水中、-10~+10℃、好ましくは-5~+5℃の範囲の温度で、1~2モル当量、好ましくは1.1~1.5モル当量のS-メチルイソチオ尿素ヘミスルフェートと反応させる。反応の進行を、ACQUITY UPLC(登録商標) BEHカラム、C18、17μm、2.1×50mm、および溶離相として水/アセトニトリル/0.1%ギ酸を用いたUPLC/MS分析によってモニターする。反応が完了したら、得られた懸濁液を濾過し、固体を真空下、30~90℃、好ましくは40~60℃の温度で乾燥させることにより、99%を超える純度を示す。
【0050】
工程b):1モル当量の、工程a)で得られた6-(クロロメチル)-6-ヒドロキシ-2-(メチルチオ)-5,6-ジヒドロピリミジン-4(1H)-オンを、40~120℃、好ましくは70~100℃の温度で、2~30容量、好ましくは4~8容量の、0.1~20質量%、好ましくは1~10質量%の硫酸水溶液に懸濁する。反応の進行を、ACQUITY UPLC(登録商標) BEHカラム、C18、17μm、2.1×50mm、および溶離相として水/アセトニトリル/0.1%ギ酸を用いたUPLC/MS分析によってモニターする。反応が完了したら、混合物を-3~30℃、好ましくは0~10℃に冷却し、得られた懸濁液を濾過する。固体を真空下、30~90℃、好ましくは40~60℃の温度で乾燥させることにより、99%を超える純度を示す。
【0051】
特定の実施形態において、工程b)は、最初、0~40℃、好ましくは25℃の温度で行われる。該条件下では、6-(クロロメチル)-6-ヒドロキシ-2-(メチルチオ)-5,6-ジヒドロピリミジン-4(1H)-オンが、インサイチュ(in situ)で、中間体6-クロロメチル-2-(メチルチオ)ピリミジン-4(1H)-オン、またはその互変異性体の形態である6-(クロロメチル)-2-(メチルチオ)ピリミジン-4-オールに変換され(スキーム1)、これらは、40~120℃で加熱することにより、6-クロロメチルウラシルに変換される。
【0052】
本発明を、以下の実施例において詳細に説明する。
【実施例
【0053】
[例1]
S-メチルイソチオ尿素ヘミスルフェート(1.20当量、20.3g、145.8mmol)を120mLの水に溶解し、該溶液を窒素雰囲気下、20℃で10分間撹拌する。次いで、炭酸ナトリウム(1.15当量、14.8g、139.7mmol)を該溶液に添加し、混合物を20℃で30分間撹拌する。この後、混合物を-5℃に冷却し、4-クロロアセト酢酸エチル(1.0当量、20g、121.5mmol)を反応混合物に1時間かけて添加する。添加が完了したら、混合物を-5℃で1時間撹拌した後、濾過する。得られた白色固体を、真空下、50℃で20時間乾燥させる。中間体6-(クロロメチル)-6-ヒドロキシ-2-(メチルチオ)-5,6-ジヒドロピリミジン-4(1H)-オンが、60%(15.2g)の収率および>99%の純度で得られる。
【0054】
[M+H] 209m/z
[M-H] 207m/z
H-NMR(d-DMSO、ppmで表される化学シフトは、TMSシグナルに関連する):
2.33(3H,s)、2.47(1H ジアステレオトピックCH,d,J=16.8Hz)、2.67(1H ジアステレオトピックCH,d,J=16.8Hz)、3.61(2H,s)、6.05(1H,OH)、10.89(1H,NH).
13C-NMR(d-DMSO):13.3、39.7、52.7、84.8、156.2、169.2.
【0055】
[例2]
6-(クロロメチル)-6-ヒドロキシ-2-(メチルチオ)-5,6-ジヒドロピリミジン-4(1H)-オン(15g、71.9mmol)を5質量%硫酸水溶液75mLに懸濁し、窒素雰囲気下、80℃で30分間加熱する。反応が完了したら、混合物を5℃に冷却し、その温度で1時間撹拌した後、濾過する。得られた白色固体を、真空下、50℃で20時間乾燥させる。最終生成物である6-クロロメチルウラシルが、90%(10.4g)の収率および>99%の純度で得られる。目的の生成物の結晶中に存在する副生成物、6-((メチルチオ)メチル)ピリミジン-2,4(1H,3H)-ジオン(反応により放出されるメチルメルカプタンの塩素原子上での求核置換に由来する生成物)の量は、0.42%である。
【0056】
[M-H] 159m/z
H-NMR(d-DMSO、ppmで表される化学シフトは、TMSシグナルに関連する):
4.38(2H,s)、5.67(1H,s)、11.11(2H,NH).
13C-NMR(d-DMSO):41.5、101.1、151.8、152.3、164.8.
【0057】
[例3]
6-(クロロメチル)-6-ヒドロキシ-2-(メチルチオ)-5,6-ジヒドロピリミジン-4(1H)-オン(20g、95.9mmol)を、5質量%硫酸水溶液100mLに懸濁し、混合物を窒素雰囲気下、25℃で1時間撹拌して、6-(クロロメチル)-2-(メチルチオ)ピリミジン-4(1H)-オンへ完全に変換する(UPLC-MSおよびHPLC分析より)。次に、混合物を80℃で30分間加熱する。反応が終了したら、混合物を5℃に冷却し、その温度で1時間撹拌した後、濾過する。得られた白色固体を、真空下、50℃で20時間乾燥させる。最終生成物である6-クロロメチルウラシルが、88%(13.6g)の収率および>99%の純度で得られる。目的の生成物の結晶中に存在する副生成物、6-((メチルチオ)メチル)ピリミジン-2,4(1H,3H)-ジオン(反応により放出されるメチルメルカプタンの塩素原子上での求核置換に由来する生成物)の量は、0.45%である。
生成物の分析データは、例2において記載したものと同一である。
【0058】
[比較例1]
6-(クロロメチル)-6-ヒドロキシ-2-(メチルチオ)-5,6-ジヒドロピリミジン-4(1H)-オン(15g、71.9mmol)を6N塩酸水溶液75mLに懸濁し、窒素雰囲気下、100℃で16時間加熱する。反応が終了したら、混合物を5℃に冷却し、その温度で1時間撹拌した後、濾過する。得られた白色/淡黄色固体を、真空下、50℃で20時間乾燥させる。最終生成物である6-クロロメチルウラシルが、60%(10.4g)の収率および85%の純度で得られる。目的の生成物の結晶中に存在する副生成物、6-((メチルチオ)メチル)ピリミジン-2,4(1H,3H)-ジオン(反応により放出されるメチルメルカプタンの塩素原子上での求核置換に由来する生成物)の量は8.5%である。