IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ セラムテック ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツングの特許一覧

特許7379379球形の滑動パートナーとの滑動対を形成するためのインプラント
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】球形の滑動パートナーとの滑動対を形成するためのインプラント
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/34 20060101AFI20231107BHJP
   A61L 27/10 20060101ALI20231107BHJP
   A61L 27/56 20060101ALI20231107BHJP
【FI】
A61F2/34
A61L27/10
A61L27/56
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020562601
(86)(22)【出願日】2019-05-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-02
(86)【国際出願番号】 EP2019061518
(87)【国際公開番号】W WO2019215069
(87)【国際公開日】2019-11-14
【審査請求日】2022-04-21
(31)【優先権主張番号】18171105.2
(32)【優先日】2018-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511004645
【氏名又は名称】セラムテック ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】CeramTec GmbH
【住所又は居所原語表記】CeramTec-Platz 1-9, D-73207 Plochingen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マテウシュ マリア ユシュチィク
【審査官】齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】特表平10-504212(JP,A)
【文献】特開平07-171174(JP,A)
【文献】国際公開第2006/030392(WO,A1)
【文献】特表2017-521161(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/30-46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状の滑動パートナー(5,109)との滑動対を形成するためのセラミックの骨用インプラント(1)であって、当該骨用インプラントは、ハーフシェル状またはリング状に形成されておりかつ球状の滑動パートナー(5,109)を受容する滑動領域(2)として形成された内面を有している、骨用インプラント(1)において、
前記滑動領域(2)は、スピンドルトーラスのスピンドル(105)の長手方向延在長さにおいて半部の部分区域(107)に対応しており、前記滑動領域(2)の最大直径D1は、挿入しようとする前記球状の滑動パートナー(5,109)の直径よりも大きくなっており、前記滑動領域(2)の最小直径D2は、挿入しようとする前記球状の滑動パートナー(5,109)の直径よりも小さくなっており、前記スピンドルトーラスを表す円の半径r、間隙Cおよび前記球状の滑動パートナーの半径rは、数式Iによれば、
C=(r-r)*2 数式I
という関係にあり、
前記滑動パートナーを挿入する、端面(10)を備えた第1の領域を有しており、該第1の領域において前記端面(10)は、内側面の、外側面への移行部を成しており、さらに、前記滑動パートナーの受容部を画定する、前記端面(10)とは反対の側に位置する底面(9)を備えた第2の領域を有しており、さらに、骨において当該インプラントを固定するための粗いかつ/または構造化された表面を備えた外面(3)を有する外側面(6)を有しており、
前記滑動領域(2)の高さH は、円の周囲にわたって変化し、前記滑動領域(2)は、部分的に前記底面(9)を越えて長手方向に延長されて形成されている、
ことを特徴とする、骨用インプラント(1)。
【請求項2】
当該インプラントはハーフシェル状に形成されており、前記滑動領域の最小直径D2は0である、または当該インプラントは、ハーフシェル状に成されており、閉じられた前記底面は、挿入しようとする前記球状の滑動パートナーに接触しないようになっている、請求項1載のインプラント。
【請求項3】
当該インプラントは、リング状に形成されている、請求項1載のインプラント。
【請求項4】
前記滑動領域(2)の高さHは、挿入しようとする球の直径の20~80%に相当しておりかつ/または当該インプラントの高さHの50~95%に相当している、請求項1からまでのいずれか1項記載のインプラント。
【請求項5】
10μm<C<500μmとなっている、請求項1からまでのいずれか1項記載のインプラント。
【請求項6】
前記粗い表面は、コーティング(4)である、請求項1からまでのいずれか1項記載のインプラント。
【請求項7】
前記粗い表面は、多孔質の表面である、請求項1からまでのいずれか1項記載のインプラント。
【請求項8】
前記多孔質の表面は、50%~99%、好適には60%~85%の多孔率を有しており、孔は、100~1000μmの孔径を有している、請求項記載のインプラント。
【請求項9】
前記多孔質の表面は、多孔質セラミックである、請求項7または8記載のインプラント。
【請求項10】
前記多孔質セラミックは、多孔質のセラミック発泡体である、請求項9記載のインプラント。
【請求項11】
当該インプラントは、全体がセラミックである、請求項1から10までのいずれか1項記載のインプラント。
【請求項12】
当該インプラントは、多孔質のセラミック発泡体から成る、請求項記載のインプラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部補綴術における滑動対用のインプラントであって、当該インプラントは、外側面および内側面もしくは内面を有しており、内面には、球形の滑動パートナーを受容するために特別に構成された滑動領域が形成されている、インプラントに関する。当該インプラントは、好適にはセラミックインプラントである。
【0002】
従来、内部補綴術には、金属シェルおよびセラミックのハーフシェルインサートから成るインプラントが用いられた。金属シェルも同様にハーフシェルとして形成されており、セラミックのインサートを受容する。滑動パートナー、つまり補綴物ヘッドは球形に形成されており、セラミックのインサートにより受容される。腰内部補綴術における滑動対用のセラミックインサートは半球形に形成されており、補綴物ヘッドの約50%を覆う。滑動面の中心点は、インサートの端面の平面上またはインサートの端面の平面のやや上または下に位置している。インサートの外側面は、複数の領域に分割されている。外側面の、赤道に接する領域は、緊締面を有しており、緊締面は、円錐状または円筒状に形成されていてよい。この緊締面により、シェル(大抵は金属シェル)との作用結合が生ぜしめられる。インサートは、シェル内に挿入される。このことは、製造後に既に予め組み立てることにより行われるか、または移植中に初めて行われる。
【0003】
赤道から極まで延在するインサートの外側面、つまり背面側の別の領域は、金属シェルと接触はしないが、安定性の理由から、最小壁厚さを有している必要がある。
【0004】
滑動面における、大腿骨頭と、インサートもしくは寛骨臼との間での荷重の伝達は、この対では点において、もしくは環状線において行われる。それというのも、補綴物ヘッドの球直径とインサートの球冠直径との間には、正の間隙が存在しているからである。この場合、荷重は大腿骨頭によりインサートへ軸線平行に伝達される。
【0005】
独国特許出願公開第102016222616号明細書に記載のインプラントは、セラミックリングインサートを有しており、セラミックリングインサートは、金属シェル内に挿入されかつ内側に、球形の滑動パートナーを受容する半球形の滑動面を有している。リングインサートを備えた金属シェル用の構成深さが減じられているため、金属シェルとセラミックのハーフシェルインサートとから成る従来のインプラントに比べ、骨盤骨における、より浅いフライス切削加工が必要である。さらに、点状の荷重ではなく、生理的な荷重吸収と類似の、比較的小さな最大値を有する帯状の荷重が存在している。
【0006】
このことを起点として、球形の滑動パートナーとインプラントとの間の摩擦をさらに低下させるべきという課題が生じた。さらに、内部補綴術用の、簡単に骨に移植され得、可能な限り廉価でありかつ簡単に使用されるべきインプラントを開発する、という課題も生じた。
【0007】
この課題は本発明に基づき、請求項1の特徴部に記載のハーフシェル状の、好適にはリング状のインプラントにより解決される。好適な構成は、各下位請求項に記載されている。各構成は、互いに任意に組み合わせられてよい。
【0008】
本発明では、インプラントは、金属シェル無しで骨に直接に固定されるように形成されている。外側面の形状が、セメント無しの直接移植に使用することを可能にする一方で、医療用の接着剤および/またはセメントを用いた移植も可能にする。インプラントは、好適には少なくとも部分的にセラミックであり、好適には全体がセラミックで形成されている。
【0009】
本発明では、インプラントは、補綴物ヘッドの球、つまり球形の滑動パートナーを受容するために用いられる。補綴物ヘッドの球とインプラントとは、1つの滑動対を形成する。インプラントは、骨盤の骨に位置固定されて保持されている。補綴物ヘッドの球は、インプラント内で回転可能であることが望ましい。この場合、補綴物ヘッドの球の飛出しは回避されるべきである。
【0010】
インプラント、好適にはリング状のインプラント(リング)とは、本発明では回転軸線L(図1b参照)を中心として回転する横断面F(図1b参照)から形成されたボデー(物体)を意味する。このボデーは、凹状の内面と外側面とを有している。外側面の形状は、内側の形状とは異なって形成されていてよい。
【0011】
インプラントは、端面ならびにインプラント内への補綴物ヘッドの球、つまり球形の滑動パートナーの挿入を保証する入口ゾーンを含む第1の領域と、球の受容部を画定する第2の領域とを有している。1つの構成では、インプラントは第2の領域が閉じられたハーフシェルに相当する。1つの別の構成では、インプラントは、底面ならびに出口ゾーンを含む第2の領域が開いたリングに相当する。第1の領域、つまり受入れ領域の円形の開口は、第2の領域の開口の直径よりも大きな直径を有している。この場合、球形の滑動パートナー(以下KGと言う)の脱落を回避するために、リング状のインプラントの第2の領域の円形の開口は、挿入されるべき球形の滑動パートナーの直径よりも小さくなっている。
【0012】
内面と外側面との間の結合部は、移行部を形成しており、好適にはアールを用いて形成される。丸み付けられた移行部により鋭利な縁部および角隅部が回避され、これによりインプラントの安定性が改良される。これにより追加的に、取扱いが容易になる。前記アールは、好適には0.5~2mmの数値を有している。インプラントの第1の領域における、外側面に対する内面の第1の移行部には、端面が含まれる。
【0013】
ハーフシェル構成の場合、外側面は閉じられて形成されている。外側面の表面展開図は、閉じられた円に相当し得る。インプラントの、第1の領域とは反対の側に配置された第2の領域は、閉じられて形成されておりかつ閉じられた底面を有している。閉じられて形成されたこの底面の外側は、インプラントの外側面の部分である。端面が配置された第1の領域と底面との間の最大間隔は、ハーフシェルの高さHに相当する。閉じられた底面の内面は、インプラントの内面の一部である。インプラントの内面は滑動領域を有しており、滑動領域には閉じられた底面の内面が続いている。インプラントの1つのハーフシェルの実施形態は、第1の開口、つまり球を挿入するための入口ゾーンを有している。閉じられた底面の内面の幾何学形状は、ドーム、半球または半球に類似した形状に相応し得る。
【0014】
リング状の構成のインプラントは、第1の領域とは反対の側に第2の開口を有している。この第2の開口の直径は、第1の領域の第1の開口の直径よりも小さくなっている。これにより、インプラント内へのKGの挿入を可能にすると共に制限している。リングインサートの外側面の表面展開図は、1つのリングに相当する。インプラントの第1の領域とは反対の側に配置された開口に基づき、インプラントは、内面と外側面との間の第2の移行部を有している。第2の移行部は、第2の領域に位置しており、インプラントの高さを制限している。内面と外側面との間のこの移行部には底面が含まれる。端面と第2の移行部もしくは底面との間の最大間隔は、リング状のインプラントの高さHに相当する。
【0015】
滑動領域の開始部までの、インプラントの内面の丸み付けられた第1の移行部は入口ゾーンと呼ばれ、滑動領域の開始部までの、インプラントの内面の丸み付けられた第2の移行部は出口ゾーンと呼ばれる。
【0016】
内面は、少なくとも部分的に回転対称に形成されている。インプラント、好適にはリング状のインプラントの外側面および/または外面は、部分領域において回転対称とは異なっていてよい。インプラントの高さH(図1b参照)とは、回転軸線Lに沿ったインプラントの延在長さを意味する。リング状の構成において、高さHはハーフシェル構成に比べ大幅に小さくなっている。インプラントの外側面は、インプラントを移植しようとする骨に面した側に相当する。外面は、外側面の1つの領域であり、骨におけるインプラントの固定に用いられる。外面の大きさは、外側面の大きさと一致していてよい。外面の方が小さく形成されていてもよい。外面は様々な形をとることができ、互いにつながったまたは互いに区切られた複数の領域もしくは個別面に分割されていてもよい。個別面の形状は、同じであるかまたは異なっていてもよい。
【0017】
本発明によるインプラントは、ハーフシェルまたはリングとして、従来技術による球と協働するように形成されており、この場合、機能性が保証されている。インプラントは安定性を保証するために、少なくとも3mmの壁厚さを有している。インプラントの最大壁厚さは、使用される材料の焼結特性に左右され、15mmの範囲内にあり、好適には最大15mmである。リング状のインプラントの高さHは、好適には5~20mmである。使用時の状況に応じて、適当な幾何学形状の寸法を有するインプラントが使用される。
【0018】
インプラントの内面は滑動領域を有しており、滑動領域においてKGが回転することが望ましい。インプラントの滑動領域は凹状に形成されており、回転体の面の部分区域に対応する。
【0019】
回転体は、所定の回転軸線Lを中心として回転する円108により形成されるスピンドルトーラスである。円108の中心点M’/M’と回転軸線Lとの距離Aは、トーラスを形成する円の半径rよりも小さくなっている。回転軸線Lに対して平行に、中心点直線L’およびL’’が位置している。トーラスの内側にはスピンドル105が示されており、スピンドル105は、スピンドル105の長手方向最大延在長さを表しかつ回転軸線上に位置している直線の中心位置に中心点Mを有している。スピンドル105の外面と軸線Lとの交点は、EおよびE’として示されている。つまりこの場合の面とは、前記スピンドル105の外面106である。
【0020】
インプラントの滑動領域を表す部分区域107は、スピンドルトーラスの回転軸線に相当する長手方向軸線Lと点S1および点S2において交わる2つの垂直平面SおよびS’の間の領域に相当する。両交点は、E’とMとの間、つまりスピンドル105の長手方向延在長さの1/2内に位置している。S1は、スピンドル105の中心点Mに相当し得る。S2は、S1とE’との間に位置しているか、またはE’に相当する。
【0021】
つまりインプラントは、その最も簡単な構成において、スピンドルトーラスのスピンドルの部分区域に相当する内側幾何学形状を有しており、この場合、端面と底面との間に位置する内面の領域は凹状に形成されておりかつ外側面の幾何学形状は回転対称とは異なっていてよい。つまり、内面の滑動領域は半球状には形成されていない、すなわち、球形状とは一致しない。滑動領域は、スピンドル105の外面106の部分区域107に相当する。部分区域107は、スピンドル105の長手方向軸線に沿ってスピンドル105の半部に位置しており、スピンドル105の長手方向軸線L上においてスピンドルの中心点Mを越えてはいない。インプラントの滑動領域は、インプラントの端面の方の第1の開口において最大直径D1を有している。滑動領域は、第2の開口において最小直径D2を有している。インプラントの直径D1は、直径D2よりも大きくなっている。D1とD2との間でスピンドル105の直径は、D2に向かって小さくなる。
【0022】
本発明による内側幾何学形状は、KG、つまり補綴物ヘッドの球もしくは球部分の可動性を保証する。インプラントの第1の開口の直径D1は、インプラントに挿入されるKGの外径よりも大きくなっている。直径D2は、KGの外径よりも小さくなっている。入口ゾーンの最小直径は、好適にはD1よりも大きくなっている。
【0023】
1つの構成では、S2は点E’に相当する。S2がE’に相当する場合、インプラントはハーフシェルである。ハーフシェルインプラントのこの構成では、直径D2=0である、すなわち第2の開口は存在しない。
【0024】
1つの別の構成では、インプラントはハーフシェルであり、S2は軸線L上でE’の上側に位置している。この構成では、内面が領域E’において平らに形成されている。これにより、インプラントの高さHは小さくなる。ハーフシェルインプラントのこの構成では、閉じられた底面の内面の幾何学形状が、スピンドルの幾何学形状と相違している。この場合、好適には、閉じられた底面の平らな内面は、点摩擦を発生させないようにするために、接触線の幾何学形状に影響を及ぼさないようにかつKG用のスペースが十分に設けられているように形成されていることに注意する。この場合は、閉じられた底面の半球状の内面または好適にはより一層平らにされた内面が得られる。
【0025】
1つの好適な構成では、S2は軸線L上でE’の上側に位置しており、D2における滑動領域に出口ゾーンが続いている。この場合のインプラントはリングである。リング状の構成では、脱落を回避するために、D2は、挿入されるべきKGの半径よりも小さくなっている。
【0026】
つまりKGは、内面の非半球状の滑動領域内で回転し、この場合、滑動領域は、スピンドルトーラスのスピンドルの長手方向延在長さの半分の部分区域107に相当する。
【0027】
滑動領域の高さHは、挿入しようとするKGの直径の少なくとも20%および最大80%、好適にはインプラントの高さHの50~95%に相当する。
【0028】
滑動領域の高さは、長手方向の長さ、すなわち回転軸線Lに沿った長さに相当する。高さHは、挿入しようとするKGの直径の、好適には少なくとも25%、特に好適には少なくとも30%、好適には最大70%、特に好適には最大60%に相当する。リング状に形成されたインプラントに関して、高さHは特に、KGの直径の最大50%である。
【0029】
1つの構成では、挿入しようとするKGは、5~70mm、好適には6~64mmの直径を有している。人間の関節補綴物用のKGは、20~70mm、好適には22~64mmの直径を有しており、動物の関節補綴物用には、5~20mm、好適には6~19mmの直径を有するKGが使用される。よってこの構成では、5mmの直径を有するKGを挿入しようとするインプラントは、少なくとも1mmかつ最大4mmの高さを備えた滑動領域を有している。
【0030】
さらに1つの構成では、滑動領域(2)の高さHは、ハーフシェル状またはリング状に形成されたインプラントの高さHの少なくとも20%、好適には少なくとも35%、特に好適には少なくとも50%、かつ最大95%に相当する。リング状のインプラントの出口ゾーンおよび入口ゾーンは、滑動領域の部分ではない。ハーフシェルインプラントの入口ゾーンならびに平坦部が存在し得る、閉じられた底面の内面は、滑動領域の部分ではない。KGは、取付け状態においてハーフシェルインプラントの入口面および閉じられた底面の内面に、好適には接触していない。
【0031】
スピンドルの幾何学形状に関して、好適には以下の条件が当てはまる。すなわち:
・Aは、LとL’’との間の距離もしくは中心点から回転軸線までの水平距離である。
・rは、スピンドルトーラスを形成する円の半径である。
・rは、球形の滑動パートナーの半径、つまり補綴物ヘッドの半径である。
・Cは、間隙でありかつ数式Iによれば
C=(r-r)*2 (数式I)
である。
間隙は、1つの構成では、(半径rの)補綴物ヘッドの長さの製造技術的に予め設定された最大誤差と、補綴物ヘッドに適した、半球形の滑動領域を備えたインプラントの長さの製造技術的に予め設定された最大誤差の和に相当する。1つの特別な構成では、C>10μm、好適には>25μm、特に好適には≧50μmかつ<500μm、好適には<350μm、特に好適には≦280μmである。
・スピンドルトーラスを形成する円108の半径rは、KGの半径rよりも大きくなっている。
【0032】
KGは、滑動領域に接触して滑動領域上で滑動し、好適にはKGはインプラントの滑動領域と線接触する。
【0033】
接触線は、滑動領域内、すなわちスピンドルトーラスのスピンドル105の外面106における部分区域107内の環状線に相当する。この線は、SとS’との間の領域におけるスピンドル105の断面111の断面線に相当する。予め固定的に設定された補綴物ヘッドの半径rおよび予め固定的に設定された間隙の場合、距離Aの変更により、環状接触部の直径もしくは環状接触線に影響を及ぼすことができる。これにより、スピンドルの長手方向軸線Lと、球形の滑動パートナーの中心点と接触線上の点110を結ぶ直線との間の角度αに影響を及ぼすことができる。角度αが大きくなると、接触線はインプラントの入口ゾーンの方に向かって移動する。角度αが小さくなると、接触線は底面または出口ゾーンの方に向かって移動する。α=0の場合には、半球状のインプラントにおいて点接触が生じる恐れがある。本発明による、ハーフシェルの形態のインプラントは、スピンドル形状を有しているため、球が交点E’に接触する恐れはない。
【0034】
リング状のインプラントの1つの構成では、接触線は、インプラントの高さHの下半分、すなわちインプラントの、第2の領域に面した半部に位置している。つまり底面または出口ゾーンから見て、接触線は高さの0~50%の範囲内に位置している。これにより、インプラントからの補綴物ヘッドの脱臼つまり飛出しに抗して作用するようになっている。好適には、接触線は、底面から見てインプラントの幅の10~40%、特に好適には20~30%に位置している。底面に対して間隔をあけて配置されたこの接触線は、インプラント内での球の滑動を支援する、例えば関節液から成る潤滑膜の形成も可能にする。
【0035】
本発明によるインプラントは、そのリング状の構成において、従来のハーフシェルインプラントに比べて大幅に小さな高さひいては大幅に小さな組込み深さを有している。したがって、移植用の骨におけるフライス切削加工が、より少なくて済む。このことは、未成年または子供または動物の場合に存在することが多い、極めて小さなもしくは薄い骨、特に腰骨における人工的なインプラントの使用を可能にする。高さが減じられた本発明によるインプラントは、インプラントの挿入に必要とされる深さを最小限に減らすことができる、ということを可能にする。
【0036】
好適には、凹状の滑動領域は、インプラントの内面の80%以上、特に好適には95%以上、特に好適には全体にわたり延在しており、これにより、内面の大部分もしくは全体が、滑動対に供与されている。
【0037】
滑動領域の中心点は、好適には端面の平面上に配置されているか、または端面の平面のやや上または下の、0~2mmの範囲内に配置されている。
【0038】
本発明によるインプラントの1つの別の構成では、インプラントは、好適にはインプラントの部分区域における滑動領域も、長手方向軸線に沿って延長されて形成されている。つまり、インプラントの高さHおよび好適には滑動領域の高さHも、円の周囲にわたって変化する。この場合、インプラントは、好適には滑動領域も、補綴物ヘッドの方向においてインプラントの端面を越えて形成されており、かつ/または、リングインサートの場合にはインサートの底面を越えて突出させられて/延長されて形成されている。
【0039】
インプラントの、好適には滑動領域のこの拡大部は、頭蓋状の拡張部と呼ばれ、インプラントの周面の一部、つまり一区分のみが含まれる。これにより、脱臼する傾向が減らされる。この場合、回転中心点は、好適には端面上または端面の下側に位置している。
【0040】
入口ゾーンの領域に配置されたインプラントの一部または部分区域は、頭蓋状の高さ増大部と呼ばれる。これにより、インプラントの高さHが増大されている。1つの構成では、この高さ増大部により、滑動領域も延長される。
【0041】
出口ゾーンの領域に配置されたインプラントの一部または部分区域は、頭蓋状の延長部と呼ばれる。1つの構成では、この延長部により、滑動領域も拡大される。
【0042】
1つの構成では、インプラントの頭蓋状の拡張部は、バルコニー形の張出し部または成形された突出部により形成され、その内側面は、環状線により表されるインサートの受容空間もしくは内面の続きである。この場合、張出し部は、前記環状線により表される、頭蓋状の高さ増大部および/または延長部が位置する面の、好適には1/4を構成している。
【0043】
本発明によるインプラントの1つの別の構成では、端面は、1つの平面内に配置されてはいない。インプラントの端面および/または底面(リングインプラントの場合)の連続的な勾配により、頭蓋状の拡張部が実現されている。端面(もしくは底面)の所定の位置から出発して、この端面(もしくは底面)は、180度後にその最高箇所に到達するまで連続的に上昇する。次いでこの最高点から、端面(もしくは底面)はその出発点まで、再び連続的に下降する。これにより、端面もしくは底面は、回転軸線Rに対してなだらかな角度で配置されている。このように配置され傾斜した端面のなだらかな角度は、95~105度、好適には97~101度、特に好適には99.5度である。この場合、滑動領域の中心点は、端面上または端面の下側に位置する。端面もしくは底面の連続的な上昇は、180度未満の範囲内で行われてもよい。同じことが、下降にも当てはまる。上昇部および下降部は、好適には同じ長さに形成されているが、異なる長さを有していてもよい。
【0044】
頭蓋状の拡張部に基づき、頭蓋状の拡張部の領域におけるインプラントの最大高さH’は、頭蓋状の拡張部無しのインプラントの高さHとは相違している。インプラントの高さには、H’=H+x+yが成り立つ。1つの構成では、頭蓋状の拡張部は滑動領域の拡大も生ぜしめており、この場合、滑動領域の高さにも同様に、H’=H+x+yが成り立つ。
【0045】
頭蓋状の延長部の最大延在長さは、xで表されている。これは、断面S’と点Y’との間の距離である。つまり距離xは、点X’とY’との、回転軸線Lに沿った高さの差を表している。
【0046】
頭蓋状の延長部の滑動領域の最大延在長さは、xで表されている。
【0047】
頭蓋状の高さ増大部の最大延在長さは、yで表されている。これは、断面Sと点Yとの間の距離である。つまり距離yは、点XとYとの、回転軸線Lに沿った高さの差を表している。
【0048】
頭蓋状の高さ増大部の滑動領域の最大延在長さは、yで表されており、点XとYとの高さの差を表している。
【0049】
x=y=0が当てはまる場合には、頭蓋状の拡張部は存在しない。x>0でありかつy=0の場合には、頭蓋状の延長部が存在する。この場合、1つの好適な構成では追加的にx>0が当てはまる。x=0でありかつy>0の場合には、頭蓋状の高さ増大部が存在する。この場合、1つの好適な構成では追加的にy>0が当てはまる。1つの別の構成では、x>0およびy>0が当てはまり、この場合、x=y/x≠yでありかつx=y/x≠y≧0である。
【0050】
xとyとの距離は、使用されるべき補綴物ヘッドの球の直径に関連して正比例しており、x+yの和は、好適には2~20mm、特に好適には3~15mmである。
【0051】
頭蓋状の高さ増大部は、スピンドルの幾何学形状の構成に従う。すなわち、インプラントの延長された領域、場合により頭蓋状の高さ増大部の延長された滑動領域を形成するトーラスの部分区域は、スピンドルの幾何学形状を延長するものである。
【0052】
1つの別の構成では、頭蓋状の拡張部を備えたインプラントは、頭蓋状の拡張部の領域では最早、回転軸線Lに沿った回転対称性を有してはいない。1つの構成では、頭蓋状の拡張部のインプラントの、場合により滑動領域の半径は、スピンドルの幾何学形状に基づいて定められているわけではない。この場合、滑動領域を規定する半径の値は、高さ増大部を規定する半径の値とは異なっていてよい。好適には、(高さ増大部の)この半径の値は、D1/2以下であってよい。
【0053】
この場合、頭蓋状の高さ増大部は常に、球形の滑動パートナーがさらに挿入され得る、すなわち、開口は、KGの直径よりも大きな直径を有している、という条件を満たしていなければならない。平面Sおよびスピンドルの外面上に位置する点Xと、Xとは反対の側に位置しかつ頭蓋状の高さ増大部の最大部を表す別の点Yとの間のスピンドルの断面は、球形の滑動パートナーの挿入されるべき領域の直径に少なくとも相当する直径を有していなければならない。この場合、XはYとは反対の側に位置している、すなわち、XからYまでの直線Kは、Lと交わっている。インプラントの好適な最大の頭蓋状の高さ増大部は、XとYとの間の直線Kがスピンドルの中心点とも交わる場合には、直線Kから得られる。好適には、このことは、滑動領域の頭蓋状の高さ増大部にも当てはまる。
【0054】
特に好適には、Yは、スピンドルの外面に位置している。この場合、内面は引き続き、スピンドルの所定の部分区域に対応しており、この場合、滑動パートナーを完全に環状に包囲するインプラントの部分は、長手方向軸線に沿ったスピンドルの半部の部分区域に対応し、この部分は、スピンドルの長手方向軸線Lの中心点を越えていない。
【0055】
頭蓋状の延長部の1つの構成では、頭蓋状の拡張部のインプラントの、場合により滑動領域の半径は、スピンドルの幾何学形状に基づいて定められているわけではない。この場合、滑動領域を規定する半径の値は、延長部を規定する半径の値とは異なっていてよい。好適には、(高さ増大部の)この半径の値は、D2/2以下であってよい。
【0056】
1つの別の構成では、延長された滑動領域を形成するトーラスの部分区域は、スピンドルの幾何学形状を延長するものである。
【0057】
この場合、頭蓋状の延長部は常に、球形の滑動パートナーがさらに脱落不能である、すなわち、開口は、KGの直径よりも小さな直径を有している、という条件を満たしていなければならない。平面S’およびスピンドルの外面上に位置する点X’と、X’とは反対の側に位置しかつ頭蓋状の延長部の最大部を表す別の点Y’との間のスピンドルの断面は、球形の滑動パートナーの直径よりも小さな直径を有していなければならない。この場合、X’はY’とは反対の側に位置している、すなわち、X’からY’までの直線K’は、Lと交わっている。この場合、特に好適には、Y’は、スピンドルの外面上にも位置している。
【0058】
1つの構成では、回転軸線Lは、好適には頭蓋状の延長部を備えたリング状のインサートにおいて円錐状または円筒状に形成されたインサートの外側面の回転軸線Rには一致しない。好適には、回転軸線Rは回転軸線Lと、特に好適には滑動領域の範囲内で交わっている。好適には、回転軸線Rは、頭蓋状の延長部を備えた・備えないリング状のインサートの底面の最大延在長さを点X’とY’とにおいて互いに結び付ける直線K’に対して垂直に交わるように配置されている。このようなインサートが従来のシェルに挿入された場合、頭蓋状の延長部は頭蓋状の高さ増大部として現れ、内側幾何学形状は、傾けられたスピンドルに対応している(図7に図示)。
【0059】
1つの好適な構成では、インプラントは、移植中および人体または動物の体内に残留している間は、機械的、生物学的かつ化学的な要求を満たすことが望ましい。したがってインプラントは、好適にはセラミック材料から製造されている。このためにインプラントはさらに、人間または動物の骨細胞(例えば骨芽細胞)もしくは人間または動物の骨組織の形成(骨化)時に必要な細胞が有利な条件を見いだすように形成された外面を、外側面に有している。インプラントは、好適には外面を介して骨に直接に固定され得るように形成されている。このために外面は、インプラントを固定するための手段を有している。これにより、骨におけるインプラントの直接移植が可能である。このような構成の目的は、人間または動物の骨の中への完全な骨組込みにある。
【0060】
1つの好適な構成では、インプラントの外面には、骨における直接移植および固定を可能にする、粗い表面が設けられている。この場合、粗い表面は、インプラントの骨への根付きを支援しひいては骨における固定という課題を引き受ける。粗い表面とは、本発明では、三次元構造または凹凸の形態の粗さを有する外面を意味する。これらの凹凸は、本発明によるインプラントの元の形状を変化させない寸法を有している。つまり例えば、粗い外面を有する円形の外側面を備えたインプラントは、依然として円形の形状を有することになる。その他の点として、このことは他のあらゆる形状にも当てはまる。
【0061】
1つの構成では、外面の粗い表面は、インプラントの金属コーティングおよび/または骨統合を促進する1つまたは複数の化合物の被着により得られる。1つまたは複数の化合物は、好適には水酸燐灰石、リン酸三カルシウムまたは別のリン酸カルシウムおよび/またはこれらの混合物のうちから選択される。金属コーティングは、主に従来補綴物用の金属シェルとしても使用される材料から成っている。好適には金属コーティングは、チタン含有コーティング、特に好適にはチタン粒子である。金属および/または化学コーティングの層厚さは、100~400μm、好適には175~300μmであり、15~50μmの粗さR(平均粗さ)を有している。このようにコーティングされたインプラントを製造するために、1つの構成ではまず、未コーティングのセラミックインプラントが製造されかつ焼結される。次いで、セラミックインプラントの外側面において少なくとも部分的にコーティングが施され、これにより粗い表面を備えた外面を形成する。好適には、金属および/または化学コーティングは、溶射、特に好適にはプラズマ溶射により施される。
【0062】
1つの別の構成では、外面の粗い表面は、外側面の多孔質の表面により実現される。外面の多孔質の表面は、一次固定の他に、長期安定性を向上させるための、骨の根付きをも可能にする。多孔質の表面の以下の特性、すなわち:
・50%~99%、好適には60%~85%の多孔率
・相互連結性、すなわち個々の孔は少なくとも部分的に互いにつながっている
・100~1000μmの孔径
が、骨化にポジティブな影響を及ぼす、ということが判った。
【0063】
1つの構成では、多孔質の表面は金属の多孔質層から成っている。この金属の多孔質層は、好適にはチタン粒子を含有しており、特に好適にはチタン粒子から成っている。金属の多孔質層は、好適には100~500μmの厚さである。
【0064】
1つの好適な構成では、多孔質の表面は、インプラントの外側面に少なくとも部分的に被着された多孔質セラミックにより生ぜしめられている。1つの特に好適な構成では、本発明によるインプラントの多孔質セラミックの化学組成は、残りのインプラントの化学組成と同じである。多孔質セラミックは、多孔質の表面として、R=10~100μm、好適にはR=20~80μmの算術平均粗さを有している。多孔質層の多孔率は、50%~99%、好適には60%~85%、特に好適には60~80%であり、孔は、100~1000μmの孔径を有している。
【0065】
好適には、インプラントの外面の累積面積の10%~90%は、100~600μmの径を備えた孔を有している。1つの特定の実施例では、インプラントは、孔面積の少なくとも80%が骨と接触している外面を有しており、外面は、100~600μmの径の孔を有している。
【0066】
一般に、多孔質セラミックを製造する多数の手法および方法が知られている。これらには、構造決定する有機の多孔化剤または化学成分を含むセラミックスラリーにより、部品におけるセラミックの多孔質層または全体が多孔質の部品を製造する、スラリーを基礎とした方法が含まれる。セラミックスラリーは、液状媒体、セラミックの原料粉末および任意の追加的な添加剤が含まれる懸濁液を意味する。
【0067】
1つの好適な構成では、多孔質セラミックは、セラミックの固体材料から成るセラミック発泡体から生ぜしめられる。1つの構成では、インプラントの100%以下がセラミック発泡体から成っている。1つの好適な構成では、セラミック発泡体は、混合酸化物系Al-ZrO、特にZTA(ジルコニア強化アルミナ)セラミックから成っているか、または酸化ジルコニウムが体積支配相を成すセラミックの複合材料であり、この場合、これらの系には支配相に応じてさらに、別の金属酸化物または混合酸化物の形態の化学安定剤または分散質が添加される。
【0068】
セラミック発泡体の使用により、インプラントの特性が大幅に変化させられる。つまり、とりわけ圧力下で局所的に高い荷重が加えられると、インプラント全体に破滅的な故障が生じる代わりに、局所的に限定された欠陥が生じ得る。局所的な欠陥、つまり局所的な損傷は、孔ウェブの破断の形態で現れ、多孔質発泡体を含む領域に限定されている。
【0069】
その上、セラミックインプラントの多孔質層は接着可能かつセメントで固定可能である。この場合、インプラントには接着剤/骨セメントが浸透し(0.5mm超の深さ)、その後、化学的な結合だけでなく機械的にもインプラントと結合される、例えば咬合されるため、多孔質層の多孔性は有利である。これにより、別の材料、例えばプラスチックや金属等の非セラミック材料に対する結合も可能である。つまり、インプラント用にフライス切削加工された箇所の骨構造が、医学的な理由からセメント無しの移植に適さない場合には、骨セメントによる固定を回避してよい。骨セメントの追加的な使用に関する決定は、使用中に下すことができる。つまりユーザはインプラントの使用中に、骨構造がセメント無しの使用を可能にするのかまたはセメントで固定して使用することが必要とされるのかを決定する可能性を有している。
【0070】
多孔質のセラミック発泡体から成る外面を備えたインプラントは、様々な方法により製造され、好適にはこの製造は、セラミックインプラントの製造過程中に直接に行われる。直接的な製造過程には、2段階の射出成形過程が含まれ、2段階の射出成形過程では、好適には最初に第1の部品が工具に注型され、次いで特に工具の適当な変更に基づき、第1の部品を包囲すると共に少なくとも部分的に外側面の構造化されたかつ/または粗い外面を形成する別の部品が注型される。その後、両部品の共焼結ならびに最終加工が行われ、最終加工により、例えば表面にセラミック材料が提供されることで外面に孔が開けられる。
【0071】
本発明の1つの構成は、外面に凹部および/または突出部を備えた、構造化された表面を有している。この構造化された表面は、骨におけるインプラントの回動または移動に抗して作用するために役立つ、外面の巨視的な三次元構造に相応する。つまり、巨視的な凹部および/または突出部により、外側面の形状が決められる。巨視的な三次元構造は、突出部、ギザ歯または波の形態で形成されていてよい。これにより、骨における残留固定が保証され得る。構造化された表面はまず、骨におけるスリップに強い、位置固定的な結合をもたらす。それというのも、インプラントは人体内での第1の残留段階では、その機械的な特性のみによって正しい位置に保持されるからである。凹部および/または突出部でもって、インプラントは骨に咬合するもしくはインプラントはインプラントが挿入された位置に位置固定される。この場合、波状に形成された表面とは、周期的に繰り返す局所的な最低部と最高部とにより表面上に三次元構造が形成されており、この三次元構造の最低部および/または最高部間の距離は等しいかまたは異なっておりかつ隣り合う最低部と最高部との間の高さの差は等しいかまたは異なっていることを意味する。
【0072】
1つの構成では、インプラントは、追加的に構造化された粗い表面を備えた外側面および/または外面を有している、すなわち、粗い、1つの好適な構成では多孔質の表面は、追加的に巨視的な三次元構造を有している。
【0073】
1つの好適な構成では、外側面、好適には粗い、特に好適には多孔質の、外側面の表面は、追加的に活性化されており、外面および/または外側面に被着された、アミノ酸、例えばRGDペプチド(Arg-Gly-Asp)等のペプチドおよび/またはプロテインおよび/またはコラーゲンを含む層の生物学的な活性化により、細胞の成長を支援する。
【0074】
1つの特に好適な構成では、セラミックインプラントは、巨視的に三次元に構造化された、粗いかつ/または多孔質の、活性化された外面を有するように形成されている。1つの構成では、外側面は、異なって構造化されかつ/または粗いかつ/または多孔質の、生物学的な活性化有りまたは無しの表面を有している。
【0075】
好適には、インプラントは全体がセラミックで形成されている。本発明によるインプラントは、好適には酸化物セラミックから成っている。酸化物セラミックは特に、高い耐久性および身体媒体との良好な適合性という点において優れている。酸化物セラミックは、良好な生体適合性を有しており、アレルギー反応を引き起こすことがほぼない。
【0076】
本発明の1つの好適な構成では、インプラントは、
・ジルコニア強化アルミナ(ZTA)およびこれに基づきさらに開発された全てのZTA系
・ジルコニアセラミック、特にイットリウム安定化ジルコニア(3Y-TZP)
・酸化セリウムによりジルコニアの正方晶相の安定化が行われるセリア安定化ジルコニア(Ce-TZP)
・ジルコニアを基礎とした別のあらゆる複合材料(この場合、分散質複合成分はアルミン酸塩を基礎としていてよく、希土類の群から例えばGdおよびSm等の、別の安定剤も使用され得る)
を含む、酸化物セラミック材料系を基礎としたものである。
【0077】
インプラントは、好適には構造化されたかつ/または粗いかつ/または多孔質の外面でもってセメント無しで骨に挿入される。
【0078】
インプラントは、好適には人間または動物における腰、肩、肘、足指関節または手指の内部補綴術に使用される。
【0079】
利点として以下の点が生じる。すなわち:
・リング状の構成におけるインプラントのより小さな高さ、したがって骨における極少量のフライス切削加工が必要とされている。
・点状の荷重ではなく、生理的な荷重吸収と類似の、比較的小さな最大値を有する面状の荷重。
・半球形のインサートに比べ、本発明による幾何学形状では、接点に対してより小さな押圧力が生ぜしめられる。
・本発明による幾何学形状を備えたインプラントは、従来の球形の滑動パートナーと無制限に組み合わせることができる。
・変更された幾何学形状は、周知の製造法が適用可能であるため、製造コストに不都合な影響を及ぼすことはない。
・骨における固定および安定化用の金属シェルを省くことができるため、製造時に材料が節減され、これによりコスト面での利点が得られる。
・使用中、本発明によるインプラントは状況に応じて直接に、つまりセメント無しで、または必要な場合にはセメントで固定されて挿入され得る。
【0080】
本発明は、内部補綴術における滑動対用のインプラントであって、インプラントは、外面を備えた外側面および内面を備えた内側面を有しており、内面に、球形の滑動パートナーを受容する非半球形の滑動領域が形成されたインプラントを説明する。インプラントの構成深さ(高さ)を最小限にすると共に、例えば骨盤骨において必要なフライス切削加工をより浅くするために、本発明では、インプラントが、好適にはリングとしてまたはリング状に形成されており、外面が、体内への直接移植を可能にする、ということを提案する。球形の滑動パートナーとインプラントとの間の摩擦を最小限にするために、インプラントの、特別に構成された内側幾何学形状を提案する。
【0081】
まとめると、球形の滑動パートナー(5)との滑動対を形成するためのインプラント(1)が、ハーフシェル状またはリング状に形成されておりかつ球形の滑動パートナー(5)を受容する滑動領域(2)として形成された内面を有している。滑動領域(2)は、スピンドルトーラスのスピンドルの長手方向延在長さにおいて半部の部分区域に対応する。滑動領域(2)の高さHは、挿入しようとする球の直径の20~80%に相当し、好適にはインプラントの高さの50~95%に相当する。
【0082】
インプラント(1)は、好適には滑動パートナーを挿入する第1の領域と、滑動パートナーの受容部を画定する第2の領域とを有している。さらにインプラントは、球形の滑動パートナー(5)を受容する滑動領域(2)として形成された内面、骨にインプラントを固定する手段を備えた外面(3)を備えた外側面(6)ならびに第1の領域において内側の、外側面への移行部を成す端面(10)、および端面(10)とは反対の側で第2の領域に位置する底面(9)を有している。インプラントの滑動領域(2)は、スピンドルトーラスのスピンドルの長手方向延在長さにおいて半部の部分区域に対応する。
【0083】
本発明によるリング状のインプラントの選択された構成を図面において説明する。
【図面の簡単な説明】
【0084】
図1a】インプラントの側面図である。
図1b図1aに示したリング状の構成のインプラントの横断面図である。
図2】球形のKGが挿入された、本発明によるインプラントの1つの実施例を示す図である。
図3図3a~図3cは、従来のインサート(図3a)、従来のリングインサート(図3b)およびリング状に形成された本発明によるインプラント(図3c)における、球形の滑動パートナーの接点を示す図である。
図4図4a~図4cは、スピンドルの幾何学形状を示す図である。
図5】本発明によるインプラントの1つの好適な構成を示す図である。
図6】1つの好適な構成における頭蓋状の高さ増大部の幾何学形状を示す図である。
図7】1つの好適な構成における頭蓋状の延長部の幾何学形状を示す図である。
【0085】
図1aおよび図1bには、本発明によるリング状のインプラント1が示されている。図1aは、このインプラント1の外見を示す図であり、図1bは、図1aに示した回転軸線Lに沿った断面を示す図である。インプラント1は、(非半球状の、共有の)滑動領域2または内面とも言う、スピンドルの内側面の環状部分を有している。股関節補綴物の場合はこの内面に補綴物ヘッド5が摺接する(図2参照)。1つの好適な構成では、インプラント1の外側面6には、粗いかつ/または構造化された表面を有する外面3が配置されており、外面3でもってインプラントを骨に固定することができる。インプラントの高さHは破線で示されており、端面10を含む第1の領域から第2の領域を経て底面9まで延在している。Lは、回転軸線を表す。Fは、リング状のインプラントの横断面を表す。
【0086】
図2には、本発明によるインプラント1の横断面が示されている。インプラント1内には補綴物ヘッド5が挿入されている。外側6面もしくは外面3には追加的に、生体コーティング4が被着されていてよい。
【0087】
図3a)には従来のインサートの摩擦が生じる可能性の最も高い位置、図3b)には従来のリングインサートの摩擦が生じる可能性の最も高い位置、および図3c)にはリング状に構成された本発明によるインプラントの摩擦が生じる可能性の最も高い位置が略示されている。周知の半円形のインサートの場合、インサートとKGとの間の接点100は、インサートの底部に位置している。周知のリング状のインサートの場合(図3b)、インサートとKGとの間の接触部は、接触線101上に位置している。この場合は線形接触、つまり線接触摩擦である。前記線101は、底面9付近の領域に配置されている。本発明によるインプラントでは、相応に形成された幾何学形状に基づき、接触線は、底面9から端面10の方に離間された平面上111に配置されている(図3c)。
【0088】
図4には、本発明によるインプラントの滑動領域2を算出法が示されている。図4a)においてスピンドルトーラス105は、中心点M’/M’’を有しかつスピンドルの長手方向軸線Lに相当する回転軸線を中心として回転する、半径rを有する円108により形成される。軸線L’およびL’’は、回転軸線Lに対して平行でありかつ円108の中心点M’,M’’を通って延びている。L’/L’’とLとの間の距離は、半径rよりも小さい。スピンドルは、点EおよびE’において長手方向軸線Lと交わる。
【0089】
図4b)に、部分区域107の確定法を明示する。部分区域107は、スピンドル105の半部に位置しておりかつ回転軸線Lに対して垂直な平面(SおよびS’)により形成される。これらの平面は、点S1およびS2においてLと交わり、この場合、S1=Mであるか、またはS1はMとS2との間に位置しており、かつS2=E’であるか、またはS2はS1とE’との間に位置している、と言える。つまり両交点S1,S2は、スピンドルの一方の半部に位置しており、スピンドルの中心を越えてはいない。第1の領域における直径D1は、第2の領域における直径D2よりも大きく、この場合、D1は、挿入するべきKGの直径よりも大きくなっている。D2は、挿入するべきKGの直径よりも小さくなっており、これにより、(リング状のインプラントの場合には)KGの脱落が防止される。
【0090】
図4c)には、KG109と、スピンドル105の外面106に対応するインプラント1の滑動領域2との間の接触線112の断面111が略示されている。接触線112は、球形の滑動パートナー109における断面111に相当する。スピンドル形状に基づき、端面10の領域は、球形の滑動パートナー109に向かってもしくは長手方向軸線Lに向かって傾斜している。その結果、直径D1は、同一の半球形の滑動領域の同じ箇所で測定した直径に比べ、より小さな値を有することになる。これにより、その上で球形の滑動パートナー109が接触して動く接触線112は、底面9から離反してインプラントの端面10の方に移動している。
【0091】
図5は、中心点Mおよび半径rを有するKGが挿入された、リング状に形成されたインプラント1において図示された非半球状の滑動領域2の高さHを示している。滑動領域2は、スピンドルトーラスのスピンドルの長手方向延在部において半部の部分区域107に対応する。環状線212,212’は、位置確認のためだけに用いられるに過ぎない。部分区域107は、端面10の領域では入口ゾーン214により画定されておりかつ底面9の領域では出口ゾーン216により画定されている。入口ゾーン214および出口ゾーン216は、滑動領域2には属さず、したがって必ずしもスピンドル幾何学形状に一致するわけではない。間隙Cは、数式C=(r-r)*2に相応する。KGは、平面111により表された環状線上の滑動面2において滑動する。
【0092】
図6には、滑動領域の頭蓋状の拡張部の領域201が示されている。頭蓋状の拡張部の高さyは、基準平面Sと入口ゾーン214の方の滑動領域2の端部との交点と、点Yとの間に延在している。この場合、点Yは、回転軸線Lと交わる直線K上に位置している。直線Kは、基準平面Sとスピンドルの外面106における滑動領域2の端部との交点Xと、点Yとの間に延びている。この場合、点XとYとは、滑動領域2の各終端点を通って延在する1つの平面上に配置されている。2つの点XとYとは、互いに間隔をあけて配置されている。頭蓋状の高さ増大部が対称に形成されている場合、すなわち上り勾配と下り勾配とが等長でありかつそれぞれ180°にわたり延在している場合には、点Xは点Yに対向して配置されている。この場合、点Xは点Yから180°離れて位置している。このような実施例では、頭蓋状の高さ増大部のなだらかな上り勾配が実現され得る。頭蓋状の高さ増大部の上り勾配もしくは下り勾配がより急峻に形成されている場合には、2つの点Xが設けられていてよい。これらの点において、頭蓋状の高さ増大部の傾斜が始まるもしくは終わる。頭蓋状の高さ増大部が形成されていない、これら2つの点Xの間では、インプラントは高さ増大部もしくは凹部無しで扁平、平らに形成されていてよい。図示の好適な構成では、直線Kはスピンドルの中心点とも交わっており、Yは、スピンドルの外面に位置している。頭蓋状の高さ増大部を備えたインプラントの滑動領域の高さHには、H’=H+yが成り立つ。インプラントの高さを起点として、インプラントの頭蓋状の拡張部にも同じ関係式を立てることができる。
【0093】
図7には、インプラントの頭蓋状の延長部の領域202が示されている。この領域は、直線K’上の点Y’と断面S’との間に生じている。直線K’は、平面S’上およびスピンドルの外面106上に位置する点X’から、X’とは反対の側に位置しておりかつ頭蓋状の高さ増大部の最大部を表す別の点Y’に向かって延びている。この場合、X’はY’とは反対の側に位置している、すなわち、X’からY’まで延びる直線は、回転軸線Lと交わっている。インプラントの高さには、H’=H+xが成り立つ。領域205は、使用状態における、インプラントの外側面の骨接触面に相当する。この領域は、好適には図示のように、底面の領域におけるインプラントの最大範囲を示す直線K’に対して平行である。つまりこの骨接触面の回転軸線Rは、直線K’に対して垂直である。この場合、このようなインプラントは、頭蓋状の高さ増大部を備えたインプラントと見なされ、その内側幾何学形状は、スピンドルの部分区域の形態で頭蓋状の高さ増大部から傾けられている。
【符号の説明】
【0094】
1 インプラント
2 滑動領域
3 外面、粗いかつ/または構造化された表面
4 生体コーティング
5,109 補綴物のヘッド、球
6 外側面
9 底面
10 端面
100 接点
101,112 環状接触部、接触線
105 スピンドル
106 スピンドルの外面
107 スピンドルの部分区域
108 スピンドルトーラスを表す円
110 正接点
111 接触線の断面
112 接触線
201 滑動領域の頭蓋状の高さ増大部の領域
202 インプラントの頭蓋状の延長部の領域
205 骨接触領域
212,212’ 環状線(方向付け補助)
214 入口ゾーン
216 出口ゾーン
A スピンドルトーラスを表す円の中心点Mからの回転軸線の距離
C 間隙
D1 第1の領域に配置された、滑動領域の最大直径
D2 第2の領域に配置された、滑動領域の最小直径
E,E’ スピンドル外面とLとの交点
F 横断面
H インプラントの高さ
滑動領域の高さ
K 頭蓋状の高さ増大部を表す直線
滑動領域の頭蓋状の高さ増大部を表す直線
K’ 頭蓋状の延長部を表す直線
KG 球形の滑動パートナー
L スピンドルの長手方向軸線、回転軸線
L’,L’’ スピンドルトーラスを表す円の中心点を通る、Lに対して平行な軸線
M スピンドルの中心点
M’,M’’ スピンドルトーラスを表す円の中心点
球形の滑動パートナーの中心点
r スピンドルトーラスを表す円の半径
球形の滑動パートナー(KG、補綴物ヘッド)の半径
R 外面の回転軸線
S,S’ Lに対する垂直面
S1,S2 垂直面S,S’の、長手方向軸線L上の交点
X 頭蓋状の高さ増大部無しのインプラントの、端面の方の最大部
頭蓋状の高さ増大部無しの滑動領域の、端面の方の最大部
X’ 頭蓋状の延長部無しのインプラントの、底面の方の最大部
x 頭蓋状の高さ増大部の高さの差
Y 頭蓋状の高さ増大部のインプラントの最大部
頭蓋状の高さ増大部の滑動領域の最大部
Y’ 頭蓋状の延長部のインプラントの最大部
y 頭蓋状の延長部の高さの差
図1a)】
図1b)】
図2
図3a)】
図3b)】
図3c)】
図4a)】
図4b)】
図4c)】
図5
図6
図7