(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】エレベーターシステムの保守方法およびエレベーターシステム
(51)【国際特許分類】
B66B 5/00 20060101AFI20231107BHJP
B66B 1/14 20060101ALI20231107BHJP
B66B 3/00 20060101ALI20231107BHJP
【FI】
B66B5/00 G
B66B1/14 K
B66B3/00 K
B66B3/00 R
(21)【出願番号】P 2021049576
(22)【出願日】2021-03-24
【審査請求日】2023-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】土屋 隼人
(72)【発明者】
【氏名】井元 涼大郎
【審査官】太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-106520(JP,A)
【文献】特開2019-177988(JP,A)
【文献】特開2009-120291(JP,A)
【文献】特許第6763485(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/00- 5/28
B66B 1/00- 1/52
B66B 3/00- 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベーターシステムの保守方法において、
呼び受付部が利用者の携帯端末からかご呼び要求を受付け、かご呼び要求を受け付けた携帯電話の識別子と要求受付け時刻を記憶部へ記憶し、
エレベーターの故障検知部がエレベーターの故障が検知した場合に、問合せ部が前記利用者の前記携帯端末に前記故障に関して問い合わせ、
回答受付部が前記問い合わせに対する回答を前記携帯端末から受信し、
出動判定部が前記回答の結果を基に保守員の出動の要否を判定するエレベーターシステムの保守方法。
【請求項2】
請求項1に記載エレベーターシステムの保守方法において、
前記回答受付部が前記携帯端末からの前記回答において、異常有りとの回答を予め定められた回数受け取ったとき、前記出動判定部は保守員の出動要と判定するエレベーターシステムの保守方法。
【請求項3】
請求項1に記載のエレベーターシステムの保守方法において、
前記回答受付部が前記問い合わせに対する回答を受信しなかったとき、回答を受信しなかった携帯端末の次に前記故障検知部が故障を検出したかごを呼んだ携帯端末に前記問合せ部が問い合わせを送信することを特徴とするレベーターシステムの保守方法。
【請求項4】
請求項1に記載のエレベーターシステムの保守方法において、
前記問合せ部は前記記憶部に記憶された携帯端末の識別子とかご呼び時刻を参照し、前記故障が起きた時刻に前記故障が起きたエレベーターを利用した利用者の携帯端末へ前記問い合わせを送信するエレベーターシステムの保守方法。
【請求項5】
エレベーターシステムにおいて、
利用者の携帯端末からかご呼び要求を受け付ける呼び受付部と、
かご呼び要求を受け付けた携帯電話の識別子と要求受付け時刻を記憶する記憶部と、
エレベーターの故障を検知する故障検知部と、
前記故障検知部にてエレベーターの故障が検知された場合に、前記利用者の前記携帯端末に前記故障に関する問い合わせを送信する問合せ部と、
前記問い合わせに対する回答を受信する回答受付部と、
前記回答の結果を基に保守員の出動の要否を判定する出動判定部を備えるエレベーターシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーターシステムの保守方法およびエレベーターシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のエレベーターの監視システムによると、例えば、乗客が乗りかごの荷物の積み降ろしをする際に、重量物や手足などによってかごドアや乗り場ドアを押さえ、ドアを長時間開状態にしたような場合にも、ドアが閉まらないことによるエレベーターの起動不能と判断し、監視センターへ故障発報することがあった。そのため、故障発報を受けて保守員が現場に到着したときには、既にエレベーターが復旧しており、保守員の労力が無駄になるということがあった。
【0003】
これを解消するための技術の1つとして、特許文献1には、エレベーターの監視端末の故障検出手段に故障のランクを判別するための判別テーブルを備えると共に、監視センターには監視端末から送出されたデータに基づいて故障のランクを判別する故障判別手段と故障のランクに応じて各種のメッセージを出力するメッセージ出力手段とを備え、メッセージを通信手段を介して乗かご内のメッセージ伝達手段に送出するようにしたことを特徴とするエレベーターの監視システムが開示されている。
【0004】
上記特許文献1は、乗客による障害などの復旧可能と思われる異常に対しては監視センターに障害発報を行い、監視センターからエレベーター側に設けられた監視端末に状況に応じたメッセージを出力する。所定の待機時間内に正常状態に復帰した場合には、障害が取り除かれたものとして故障発報を行わず、保守員の無駄な出動を防ぐことができる構成となっている。例えば、「ドア閉まらず」等の軽微故障発生時に、かご内の乗客に解消を促す報知を行うことで、軽微故障復旧した場合には保守員の出動を不要として、保守作業の効率向上を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、エレベーター側に設けられた監視端末と監視端末から離れた監視センターとの間の通信にかかる時間、監視端末の処理にかかる時間を考慮すると、実際には軽微故障発生と同時に乗りかご内の利用者にその報知を行うことは困難であり、軽微故障の発報方法に更なる改善が必要であった。
【0007】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、その目的は、エレベーターの利用者に、従来よりも確実にエレベーターの状況を問合せ、問合せ結果に基づいて保守員の出動要否を判定可能とするエレベーターの保守方法およびエレベーターシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、エレベーターシステムの保守方法において、呼び受付部が利用者の携帯端末からかご呼び要求を受付け、かご呼び要求を受け付けた携帯電話の識別子と要求受付け時刻を記憶部へ記憶し、エレベーターの故障検知部がエレベーターの故障が検知した場合に、問合せ部が利用者の携帯端末に故障に関して問い合わせ、回答受付部が問い合わせに対する回答を携帯端末から受信し、出動判定部が回答の結果を基に保守員の出動の要否を判定するエレベーターシステムの保守方法である。
【0009】
また、上記目的を達成するための本発明の他の態様は、エレベーターシステムにおいて、利用者の携帯端末からかご呼び要求を受け付ける呼び受付部と、かご呼び要求を受け付けた携帯電話の識別子と要求受付け時刻を記憶する記憶部と、エレベーターの故障を検知する故障検知部と、故障検知部にてエレベーターの故障が検知された場合に、利用者の携帯端末に故障に関する問い合わせを送信する問合せ部と、問い合わせに対する回答を受信する回答受付部と、回答の結果を基に保守員の出動の要否を判定する出動判定部を備えるエレベーターシステムである。
【0010】
本発明のより具体的な構成は、特許請求の範囲に記載される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エレベーターの利用者に、従来よりも確実にエレベーターの状況を問合せ、問合せ結果に基づいて保守員の出動要否を判定可能とするエレベーターの保守方法およびエレベーターシステムを提供することができる。
【0012】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のエレベーターシステムの1例を示すブロック図
【
図2】
図1の処理部2a2の詳細な構成を示すブロック図
【
図3】本発明のエレベーターシステムの保守方法の一例を示すフロー図
【
図4】利用者の携帯端末に表示する画面の一例を示す図
【
図5】
図1の記憶部に記憶される内容の一例を示す図
【
図6】
図5のテーブル4に格納される情報の詳細を示す表
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は本発明のエレベーターシステムの1例を示すブロック図である。
図1に示すように、本発明のエレベーターシステム100は、エレベーター装置1と、このエレベーター装置1を通信回線を介して遠隔で監視する監視センター2aと、この監視センター2aと、エレベーター装置1との通信回線とは別の通信方式で接続され、乗りかご呼び等を受け付ける外部SMS(Short Message Service)3と、利用者の携帯端末4とを備えている。携帯端末4は、外部SMS3および監視センター2aとの通信部2a1を介してエレベーター装置1の呼び受付部1b3と通信できる構成を有している。すなわち、利用者の携帯端末4から、エレベーターのかご呼びを行う「タッチレスエレ呼び」を行うことができる。
【0015】
ここで、エレベーター装置1は、エレベーター全体の制御を行う制御装置1aと、エレベーター装置1の運行状態を監視する監視端末1bとから構成されている。監視端末1bは、制御装置1aとの間と監視センター2aとの間で通信を行う通信部1b1と、エレベーター装置1に異常が発生していないかを検知する故障検知部1b2と、監視センター2aからかご呼びを受信して制御装置1aにかご呼びを作る指令を出す呼び受付部1b3とで構成されている。
【0016】
監視センター2aは、通信部1b1との間および外部SMS3との間で通信を行う通信部2a1と、携帯端末4へのアンケート送信の有無の判断や保守員出動の有無の判断を行う処理部2a2と、外部SMS3からかご呼びを受け付ける呼び受付部2a3と、かご呼びの利用者やアンケート回答を記録する記憶部2a4とで構成されている。
【0017】
図2は
図1の処理部2a2の詳細な構成を示すブロック図である。
図2に示すように、処理部2a2には、携帯端末4を通してかご呼びを行った利用者の情報を記録する呼び利用者読み書き部、エレベーター装置1の故障検知部1b2で検知された故障を受信する故障検知結果受信部、利用者にアンケート(問合せ)を送信するアンケート送信部(問合せ部)および利用者からのアンケート結果を受信するアンケート結果受信部(回答受付部)、利用者へのアンケートの送受信の有無を判断するアンケート送信有無判断部、アンケート結果に基づいて保守員の出動の有無を判定する保守員出動有無判定部を有する。利用者読み書き部は、利用者の携帯電話の識別子(携帯電話端末が有する固有の番号)を認識する。呼び受付部2a3にてかご呼びが利用者に要求されて受け付けた時刻と、この識別子とから、故障の発生した時刻にエレベーターを利用した利用者を特定することができる。利用者の携帯電話の識別子およびかご呼びの要求受付時刻は、記憶部2a4に記憶される。
【0018】
上述した本発明のエレベーターシステム100では、故障検知部1b2でエレベーターの軽微な故障(例えば、乗りかごと乗り場の床面のずれ(レベルずれ)やセリ(ボタンの反応異常))が検知された場合に、監視センター2aの通信部2a1および外部SMS3を介して利用者の携帯端末4に、エレベーターの異常の有無を問い合わせるアンケートを送信する構成としている。例えば、利用者の携帯端末4からのかご呼びの記録からエレベーターを利用した時刻がわかるため、その時刻に発生した故障について、その時刻にエレベーターを利用した利用者にアンケートを送信して故障の程度を問い合わせる。そして、このアンケートの回答結果に基づいて保守員の出動要否を判定する。
【0019】
利用者の携帯端末4を故障の判定に利用する効果は、以下の通りである。すなわち、利用者に携帯端末4からの情報に基づき、エレベーターの建屋が設けられているビルに勤務していることが分かれば、エレベーターの利用頻度が高いこの利用者のアンケート結果を優先的に保守員の出動要否の判定に用いることで、より精度の高い判定を行うことができる。さらに、利用者が勤務するビルの階が分かれば、その階で起きたエレベーターの故障に関し、エレベーターの利用者の中から故障が起きた階に勤務する利用者を割り出し、その利用者のアンケート結果を優先的に保守員の出動要否の判定に用いることで、より精度の高い判定を行うことができる。
【0020】
アンケートを受信・送信する携帯端末4としては、上述したように利用者を特定できる端末が好ましく、利用者のスマートフォンやPC(Personal Computer)が好ましい。
【0021】
図3は本発明のエレベーターシステムの保守方法の一例を示すフロー図である。
図3に示すように、まず始めに、利用者の携帯端末4からかご呼び(タッチレスエレ呼び)が行われた場合、記憶部2a4は利用者を記録する(ステップ1)。
【0022】
次に、故障検知部1b2は、エレベーター装置1に軽微故障や故障の予兆が無いかを確認して処理部2a2に検知結果を送信する(ステップ2)。
【0023】
処理部2a2は異常(軽微故障や故障の予兆)の有無を判定し(ステップ3)、「No」(無し)と判断した場合は、フローを終了する。一方、「Yes」(有り)と判断した場合は、処理部2a2は、記憶部2a4に記録されている利用者に対して、外部SMS3を介して携帯端末4に検知された異常が気になったかに関するアンケートを送信する(ステップ4)。
【0024】
アンケートを受信した利用者は、携帯端末4を用いてアンケートに回答する(ステップ5)。ここで、利用者が上記異常に対して「わからなかった(異常を感じなかった)」と回答した場合、回答は無効として、記憶部2a4の記録から次にかご呼びをした利用者にアンケートを送信するため、ステップ1に戻る。
【0025】
利用者が上記異常に対して「気になった」と回答した場合、回答結果を憶部2a4に記録し(ステップ6)、処理部2a2は「気になった」という回答をした人の数が各軽微故障や故障の予兆毎に設定されている既定回数を越えているかを判定する(ステップ7)。
【0026】
ステップ7において、規定回数を超えている場合、保守員を出動する必要があると判定し、出動要請を出す(ステップ8)。一方、規定回数を超えていない場合は、フローを終了する。
【0027】
利用者が上記異常に対して「気にならなかった」と回答した場合、回答結果を記憶部2a4に記録し(ステップ9)、処理部2a2は「気にならなかった」という回答をした人の数が各軽微故障や故障の予兆毎に設定されている既定回数を越えているかを判定する(ステップ10)。
【0028】
ステップ10において、規定回数を超えている場合、保守員を出動する必要がないと判定し、該当異常は復旧状態とする(ステップ11)。規定回数を超えていない場合は、フローを終了する。
【0029】
図4は利用者の携帯端末に表示する画面の一例を示す図であり、軽微故障や故障の予兆検知時に送信されるアンケートを受信した場合の表示の一例を示したものである。
図4に示すように、エレベーターに異常はなかったかを問い合わせる旨のメッセージ4-1と、回答の選択肢4-2とが表示される。利用者が回答すると、回答したことを感謝する旨のメッセージ4-3が表示される。
【0030】
図5は
図1の記憶部に記憶される内容の一例を示す図である。記憶部には、例えば、以下のテーブル1~4が格納されている。
テーブル1:かご呼びをした利用者の来歴(日時、乗りかごの号車、乗降階等)
テーブル2:軽微故障の種別と利用者のアンケート回答結果
テーブル3:利用者を特定する情報(氏名、メールアドレス等)
テーブル4:軽微故障の種別、頻度、故障レベルとアンケート回数
上記テーブル1~4の内容から、故障が起きた時刻、乗りかごを利用した利用者にアンケートの送信を行うことができる。
【0031】
図6は
図5のテーブル4に格納される情報の詳細を示す表である。
図6に示すように、テーブル4には、故障種別(レベルずれ、ボタンのセリ等)とその故障レベル(レベルずれであれば乗りかごと乗り場の床面の位置の差)、その故障の検出頻度、利用者のアンケート回数などが記憶される。故障レベル、検出頻度およびアンケート回数を考慮し、
図3のステップ10での保守員出動要否の判断材料とする。
【0032】
上記利用者のアンケート回数は、保守員の出動を必要と判断するまでの回答数で、故障の種別、レベルおよび検出頻度によって定めることができる。例えば、深刻な故障(11mm以上のレベルずれ)で、故障検知器による1b2検出頻度が毎回である場合には、回答者から「気になる」との回答が1回あれば、保守員を出動する。また、10mm以下のレベルずれで、故障検知器による1b2検出頻度が2回に1回である場合には、回答者から「気になる」との回答が3回あった後、保守員を出動する。保守員を出動するための条件は、適宜決めることができる。
【0033】
以上、説明したように、エレベーター利用者を特定してエレベーターの故障を問い合わせる上記本発明のエレベーターシステムの構成および保守方法によれば、特許文献1のようにエレベーターにて故障発報をする場合と異なり、利用者により確実にエレベーターの状況を問い合わせることができる。利用者を特定してアンケートを送信するため、より正確な状況を把握できることが期待される。そして、より正確な問い合わせ結果に基づいて保守員の出動要否を判定することができるため、出動要否の判定の精度を高めることができる。この結果、エレベーターシステムの運用効率を高めることができる。
【0034】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0035】
1…エレベーター装置、1a…エレベーター制御装置、1b…監視端末、1b1…監視端末通信部、1b2…監視端末故障検知部、1b3…監視端末呼び受付部、2a…監視センター、2a1…監視センター通信部、2a2…監視センター処理部、2a3…監視センター呼び受付部、2a4…監視センター記憶部、3…外部SMS、4…携帯端末、100…エレベーターシステム。