(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】HLA G改変された細胞および方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20231107BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231107BHJP
C12N 5/0735 20100101ALI20231107BHJP
C12N 5/074 20100101ALI20231107BHJP
C12N 5/077 20100101ALI20231107BHJP
C12N 5/0775 20100101ALI20231107BHJP
C12N 5/0789 20100101ALI20231107BHJP
C12N 5/079 20100101ALI20231107BHJP
C12N 5/0793 20100101ALI20231107BHJP
C12N 5/0797 20100101ALI20231107BHJP
C12N 15/85 20060101ALI20231107BHJP
C07K 14/74 20060101ALN20231107BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C12N5/10
C12N5/0735
C12N5/074
C12N5/077
C12N5/0775
C12N5/0789
C12N5/079
C12N5/0793
C12N5/0797
C12N15/85 Z
C07K14/74
(21)【出願番号】P 2021068195
(22)【出願日】2021-04-14
(62)【分割の表示】P 2019052699の分割
【原出願日】2013-07-30
【審査請求日】2021-05-13
(32)【優先日】2012-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520020764
【氏名又は名称】エイジエックス・セラピューティクス・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】AgeX Therapeutics, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100165892
【氏名又は名称】坂田 啓司
(72)【発明者】
【氏名】バジル・エム・ハンタッシュ
【審査官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/121894(WO,A2)
【文献】特表2008-518613(JP,A)
【文献】特開2019-088334(JP,A)
【文献】Immunity,2001年08月,Vol.15, No.2,pp.213-224
【文献】Hum. Immunol.,2003年11月,Vol.64, No.11,p.1005-1010
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 1/00- 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子改変を有さない哺乳動物細胞と比較して、低減された免疫原性および/または改善された免疫抑制を有する、前記遺伝子改変がされた哺乳動物細胞であって、
(i)前記遺伝子改変がされた哺乳動物細胞は、
(a)配列番号:2のアミノ酸配列との配列同一性が少なくとも95%であるアミノ酸配列を含むヒト白血球抗原-G(HLA-G)タンパク質をコードする核酸配列;ここで、HLA-Gタンパク質をコードする核酸配列は、
配列番号:2のアミノ酸配列のアミノ酸位置334
に対応する位置においてアラニンを、
アミノ酸位置335
に対応する位置においてアラニンをコードする;および
(b)配列番号:3の核酸配列を含む3’非翻訳領域(UTR)
を含む、外因性核酸を含み、
(ii)コードされたHLA-Gタンパク質は、前記遺伝子改変がされた哺乳動物細胞により発現される、遺伝子改変がされた哺乳動物細胞。
【請求項2】
前記コードされたHLA-Gタンパク質は、配列番号:2のアミノ酸配列との配列同一性が少なくとも97%であるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の遺伝子改変がされた哺乳動物細胞。
【請求項3】
前記HLA-Gタンパク質は、少なくとも7週間発現される、請求項1または2に記載の遺伝子改変がされた哺乳動物細胞。
【請求項4】
前記HLA-Gタンパク質は、少なくとも20週間発現される、請求項3に記載の遺伝子改変がされた哺乳動物細胞。
【請求項5】
前記HLA-Gタンパク質は、少なくとも50週間発現される、請求項4に記載の遺伝子改変がされた哺乳動物細胞。
【請求項6】
前記UTRは、配列番号:4を含まない、請求項1または2に記載の遺伝子改変がされた哺乳動物細胞。
【請求項7】
延長因子-1アルファ(EF-1α)プロモーターをさらに含み、前記HLA-Gタンパク質をコードする前記核酸配列は、作用可能に前記EF-1αプロモーターに結合する、請求項1または2に記載の遺伝子改変がされた哺乳動物細胞。
【請求項8】
前記EF-1αプロモーターは、配列番号:6の配列を含む、請求項7に記載の遺伝子改変がされた哺乳動物細胞。
【請求項9】
前記発現されたHLA-Gが、前記遺伝子改変がされた哺乳動物細胞の細胞表面上に存在する、請求項1または2に記載の遺伝子改変がされた細胞。
【請求項10】
前記改変がされた哺乳動物細胞は、ヒト細胞である、請求項1または2に記載の遺伝子改変がされた哺乳動物細胞。
【請求項11】
前記遺伝子改変がされた細胞は、幹細胞、前駆細胞、前記幹細胞もしくは前記前駆細胞のin vitro分化により得られる細胞、完全に分化した細胞、表皮前駆細胞、膵臓前駆細胞、造血幹細胞、ケラチノサイト、線維芽細胞、肝細胞、間葉系幹細胞、心筋細胞、神経幹細胞、ニューロン、または星状膠細胞である、請求項1または2に記載の遺伝子改変がされた哺乳動物細胞。
【請求項12】
前記遺伝子改変がされた細胞は、ヒト胚性幹細胞、ヒト間葉系幹細胞、ヒト胚性表皮前駆細胞、またはヒト皮膚線維芽細胞である、請求項1または2に記載の遺伝子改変がされた哺乳動物細胞。
【請求項13】
請求項12に記載の遺伝子改変がされた哺乳動物細胞を含む、皮膚移植、修復、または再生組成物。
【請求項14】
前記遺伝子改変を有さない前記哺乳動物細胞と比較して、前記遺伝子改変がされた細胞の前記低減された免疫原性および/または改善された免疫抑制が、(1)前記遺伝子改変を有さない前記哺乳動物細胞と比較した、前記遺伝子改変がされた細胞に対するNK-92細胞毒性の低減、(2)前記遺伝子改変を有さない前記哺乳動物細胞と比較した、前記遺伝子改変がされた細胞によるin vitro末梢血単核細胞増殖の低減、または(3)ヒト化NOD scid gamma(NSG)マウスにおける、前記遺伝子改変を有さない前記哺乳動物細胞と比較した、前記遺伝子改変がされた細胞による腫瘍形成のサイズおよび重量の増加、のいずれかにより決定される、請求項1または2に記載の遺伝子改変がされた細胞。
【請求項15】
請求項1または2に記載の遺伝子改変がされた哺乳動物細胞を含む人工組織。
【請求項16】
前記外因性核酸は、発現ベクターである、請求項1または2に記載の遺伝子改変がされた哺乳動物細胞。
【請求項17】
前記哺乳動物発現ベクターは、トランスポゾンベクターである、請求項16に記載の遺伝子改変がされた哺乳動物細胞。
【請求項18】
前記ベクターは、レポータータンパク質をコードする核酸配列をさらに含む、請求項16に記載の遺伝子改変がされた哺乳動物細胞。
【請求項19】
必要とする対象に投与される、請求項1または2に記載の遺伝子改変がされた細胞の集団を含む細胞または組織組成物であって、前記対象に注入され、埋め込まれ、または移植され、前記対象は、前記遺伝子改変がされた細胞の集団と比較して、少なくとも1つのミスマッチ古典的HLAクラスIまたはHLAクラスII分子を有し、前記遺伝子改変がされた細胞の集団は、前記遺伝子改変を有さない同じ型の細胞と比較して、低減された免疫原性および/または改善された免疫抑制を示す、組成物。
【請求項20】
前記少なくとも1つのミスマッチ古典的HLAクラスIまたはHLAクラスII分子は、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-DP、HLA-DQ、およびHLA-DRからなる群から選択される、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
前記対象は、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-DP、HLA-DQ、およびHLA-DRに関して、前記遺伝子改変がされた細胞とのマッチを有さない、請求項19に記載の組成物。
【請求項22】
前記低減された免疫原性および/または改善された免疫抑制は、NK-92細胞毒性アッセイ、ヒト化NSG腫瘍成長アッセイ、および/または末梢血単核細胞増殖アッセイにより決定される、請求項19に記載の組成物。
【請求項23】
前記遺伝子改変がされた細胞の集団は、ヒト皮膚線維芽細胞の集団、ヒト表皮前駆細胞の集団、ヒト胚性幹細胞の集団、またはヒト間葉系幹細胞の集団を含む、請求項19に記載の組成物。
【請求項24】
前記遺伝子改変がされた細胞の集団は、in vitroで分化した遺伝子改変がされたヒト胚性幹細胞を含む、請求項19に記載の組成物。
【請求項25】
前記遺伝子改変がされた細胞の集団は、少なくとも2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、24、36、48、または52週間、前記対象の免疫系により拒絶されない、請求項19に記載の組成物。
【請求項26】
(i)配列番号:2のアミノ酸配列との配列同一性が少なくとも95%であるアミノ酸配列を含むHLA-Gタンパク質をコードする第1の核酸配列;ここで、HLA-Gタンパク質をコードする核酸配列は、
配列番号:2のアミノ酸配列のアミノ酸位置334
に対応する位置においてアラニンを、
アミノ酸位置335
に対応する位置においてアラニンをコードする;および
(ii)配列番号:3の核酸配列を含む3’UTRを含む第2の核酸配列
を含む、単離された核酸。
【請求項27】
前記コードされたHLA-Gタンパク質は、配列番号:2のアミノ酸配列との配列同一性が少なくとも97%であるアミノ酸配列を含む、請求項26に記載の単離された核酸。
【請求項28】
前記第2の核酸配列は、配列番号:4を含まない、請求項26または27に記載の単離された核酸。
【請求項29】
請求項26または27に記載の単離された核酸および前記第1の核酸配列に作用可能に結合したプロモーターを含む哺乳動物発現ベクターであって、前記プロモーターは、幹細胞内、または前記幹細胞の分化により生成された細胞内でサイレンシングされていない、哺乳動物発現ベクター。
【請求項30】
前記プロモーターは、チャイニーズハムスターEF-1αプロモーターの核酸配列を含む、請求項29に記載の哺乳動物発現ベクター。
【請求項31】
レポータータンパク質をコードする第3の核酸配列をさらに含む、請求項29に記載の哺乳動物発現ベクター。
【請求項32】
前記哺乳動物発現ベクターは、トランスポゾンベクターである、請求項29に記載の哺乳動物発現ベクター。
【請求項33】
(a)チャイニーズハムスターEF-1αプロモーター;
(b)前記プロモーターに作用可能に結合し、配列番号:2のアミノ酸配列との配列同一性が少なくとも95%であるアミノ酸配列を含むHLA-Gタンパク質をコードする核酸配列;ここで、HLA-Gタンパク質をコードする核酸配列は、
配列番号:2のアミノ酸配列のアミノ酸位置334
に対応する位置においてアラニンを、
アミノ酸位置335
に対応する位置においてアラニンをコードする;および
(c)配列番号:3の核酸配列を含む3’UTRを含む核酸配列
を含む、哺乳動物発現ベクター。
【請求項34】
前記コードされたHLA-Gタンパク質は、配列番号:2のアミノ酸配列との配列同一性が少なくとも97%であるアミノ酸配列を含む、請求項33に記載の哺乳動物発現ベクター。
【請求項35】
請求項33または34に記載の哺乳動物発現ベクターを含む、遺伝子改変がされた哺乳動物細胞。
【請求項36】
遺伝子改変を有さない哺乳動物細胞と比較して、低減された免疫原性および/または改善された免疫抑制を有する、前記遺伝子改変がされた哺乳動物細胞を製造する方法であって、
(a)配列番号:2のアミノ酸配列との配列同一性が少なくとも95%であるアミノ酸配列を含むHLA-Gタンパク質をコードする核酸配列;ここで、HLA-Gタンパク質をコードする核酸配列は、
配列番号:2のアミノ酸配列のアミノ酸位置334
に対応する位置においてアラニンを、
アミノ酸位置335
に対応する位置においてアラニンをコードする;および
(b)配列番号:3の核酸配列を含む3’UTR
を含む外因性核酸で哺乳動物細胞を遺伝子改変することを含み、
ここで、前記遺伝子改変がされた細胞の前記低減された免疫原性および/または改善された免疫抑制が、
(1)前記遺伝子改変を有さない前記哺乳動物細胞と比較した、前記遺伝子改変がされた細胞に対するNK-92細胞毒性の低減、
(2)前記遺伝子改変を有さない前記哺乳動物細胞と比較した、前記遺伝子改変がされた細胞によるin vitro末梢血単核細胞増殖の低減、または
(3)ヒト化NSGマウスにおける、前記遺伝子改変を有さない前記哺乳動物細胞と比較した、前記遺伝子改変がされた細胞による腫瘍形成のサイズおよび重量の増加
のいずれかにより決定される、方法。
【請求項37】
前記コードされたHLA-Gタンパク質は、配列番号:2のアミノ酸配列との配列同一性が少なくとも97%であるアミノ酸配列を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記遺伝子改変がされた哺乳動物細胞が、HLA-Gタンパク質を少なくとも7週間発現する、請求項36または37に記載の方法。
【請求項39】
前記遺伝子改変がされた哺乳動物細胞が、HLA-Gタンパク質を少なくとも20週間発現する、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記遺伝子改変がされた哺乳動物細胞が、HLA-Gタンパク質を少なくとも50週間発現する、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記UTRは、配列番号:4を含まない、請求項36または37に記載の方法。
【請求項42】
前記遺伝子改変がされた哺乳動物細胞が、HLA-Gタンパク質を、前記遺伝子改変がされた哺乳動物細胞の細胞表面上に発現する、請求項36または37に記載の方法。
【請求項43】
前記遺伝子改変がされた哺乳動物細胞が、ヒト細胞である、請求項36または37に記載の方法。
【請求項44】
前記遺伝子改変がされた細胞が、幹細胞、前駆細胞、前記幹細胞または前記前駆細胞のin vitro分化により得られる細胞、完全に分化した細胞、表皮前駆細胞、膵臓前駆細胞、造血幹細胞、ケラチノサイト、線維芽細胞、肝細胞、間葉系幹細胞、心筋細胞、神経幹細胞、ニューロン、および星状膠細胞からなる群から選択される、請求項36または37に記載の方法。
【請求項45】
前記遺伝子改変がされた細胞が、ヒト胚性幹細胞、ヒト間葉系幹細胞、ヒト胚性表皮前駆細胞、およびヒト皮膚線維芽細胞からなる群から選択される、請求項36または37に記載の方法。
【請求項46】
前記HLA-Gタンパク質をコードする前記核酸配列を含む核酸が、EF-1αプロモーターをさらに含み、前記HLA-Gタンパク質をコードする前記核酸配列が、作用可能に前記EF-1αプロモーターに結合する、請求項36または37に記載の方法。
【請求項47】
前記EF-1αプロモーターが、配列番号:6の配列を含む、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記外因性核酸が、発現ベクターである、請求項36または37に記載の方法。
【請求項49】
前記発現ベクターが、トランスポゾンベクターである、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記発現ベクターが、レポータータンパク質をコードする核酸配列をさらに含む、請求項48に記載の方法。
【請求項51】
請求項36または37に記載の方法により製造される遺伝子改変がされた哺乳動物細胞を含む、人工組織、皮膚移植、皮膚修復または皮膚再生組成物を製造する方法。
【請求項52】
外因性核酸で哺乳動物細胞を遺伝子改変することが、外因性核酸で哺乳動物細胞を一過性にトランスフェクトすることすることを含む、請求項36または37に記載の方法。
【請求項53】
外因性核酸で哺乳動物細胞を遺伝子改変することが、外因性核酸で哺乳動物細胞を安定にトランスフェクトすることすることを含む、請求項36または37に記載の方法。
【請求項54】
前記遺伝子改変がされた哺乳動物細胞を、抗生物質耐性および/またはフローサイトメトリーを用いて選択する、請求項36または37に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2012年7月31日に出願された米国仮特許出願第61/677,739号に対する優先権を主張するものであり、参照により、その全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
細胞移植の形態での再生医療は、糖尿病、心臓疾患、および神経変性疾患等の難治性の医学的状態の処置のための最も有望な治療アプローチの1つである。しかしながら、臨床における細胞移植の実施に対する大きな障害は、特にドナー細胞が外部ホストから得られる場合の、ドナー細胞の免疫拒絶である。免疫抑制剤を投与することにより、部分的に免疫拒絶に対処することは可能であるが、これらは重篤な副作用を伴う。従って、細胞移植療法のための改善された技術を開発することが、依然として必要である。
【発明の概要】
【0003】
ドナー細胞を必要とする対象に移植されるそのようなドナー細胞における、少なくとも外因性HLA-Gタンパク質の長期強制発現に基く細胞移植治療のための、細胞ベースの組成物よび方法が、本明細書において開示される。本発明は、本明細書に記載の様式で外因性HLA-Gを発現するように改変された細胞(多能性であるか分化しているかに関わらず)が、低減された免疫原性および/または増加した免疫抑制を有することを示すデータを提供する。HLA-G遺伝子改変により提供される低減された免疫原性および/または増加した抑制能力は安定であり、分化のプロセスの間を含む長期間にわたって持続する。これは、本発明のHLA-G改変された細胞は、様々な損傷、疾患または障害に対する普遍的なドナー細胞または組織として役立ち得る(すなわち、ドナー細胞と受容者との間で古典的ヒト白血球抗原(HLA)クラスIおよびクラスII分子の種類を一致させる必要を低減または排除する)ことを意味する。
【0004】
したがって、一態様において、遺伝子改変を有さない哺乳動物細胞と比較して、低減された免疫原性を有し、および/または同種異系受容者において増加した免疫抑制を提供することができる、当該遺伝子改変された哺乳動物細胞(HLA-G改変された細胞)であって、(i)遺伝子改変された哺乳動物細胞は、(a)ヒトHLA-Gと少なくとも85%同一であるアミノ酸配列を有し、小胞体-ゴルジ再循環経路においてHLA-Gの保持を低減する1つ以上のアミノ酸突然変異を含むHLA-Gタンパク質をコードする核酸配列を含む外因性核酸(例えば、発現ベクター)、および/または、(b)配列番号:3等のmicroRNA結合部位を含有しない3’UTR(非翻訳領域)配列、もしくは配列番号:4を含まない配列を含み、(ii)コードされたHLA-Gタンパク質は、少なくとも7週間(例えば、少なくとも20週または少なくとも50週間)、遺伝子改変された哺乳動物細胞により発現される、遺伝子改変された哺乳動物細胞が、本明細書に記載される。
【0005】
他の実施形態において、本発明は、遺伝子改変を有さない哺乳動物細胞と比較して、低減された免疫原性および/または改善された免疫抑制を有する当該遺伝子改変された哺乳動物細胞であって、(i)遺伝子改変された哺乳動物細胞は、(a)コンセンサス野生型ヒトHLA-G(例えば配列番号:1)と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有し、小胞体-ゴルジ再循環経路においてHLA-Gの保持を低減する1つ以上のアミノ酸突然変異を含むHLA-Gタンパク質をコードする、核酸配列(例えば配列番号:2)と、(b)コンセンサス野生型ヒトHLA-G遺伝子の3’非翻訳領域(UTR)配列と少なくとも85%同一であり、配列番号4を含まない3’非翻訳領域(例えば配列番号:3)とを含む、外因性核酸を含み、(ii)コードされたHLA-Gタンパク質は、少なくとも7週間、遺伝子改変された哺乳動物細胞により発現される、遺伝子改変された哺乳動物細胞を提供する。
【0006】
いくつかの実施形態において、遺伝子改変された細胞は、(1)当該遺伝子改変を有さない哺乳動物細胞と比較した、遺伝子改変された細胞のNK-92細胞毒性の低減、(2)当該遺伝子改変を有さない哺乳動物細胞と比較した、遺伝子改変された細胞のin vitro末梢血単核細胞増殖の低減、ならびに/または(3)ヒト化NSGマウスにおける、当該遺伝子改変を有さない哺乳動物細胞と比較した、遺伝子改変された細胞による腫瘍形成のサイズおよび重量の増加を示す場合、低減された免疫原性および/または改善された免疫抑制を有する。
【0007】
いくつかの実施形態において、遺伝子改変された哺乳動物細胞は、同種異系受容者と比較して、1つ以上のHLA抗原においてマッチ(すなわち、同じ対立遺伝子(複数を含む))を有さず、HLA抗原は、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-DP、HLA-DQ、およびHLA-DRからなる群から選択される。ある特定の実施形態において、遺伝子改変された哺乳動物細胞は、同種異系受容者と比較して、1つ以上のHLA抗原において1、2、3、4、または5つのマッチのみを有し、HLA抗原は、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-DP、HLA-DQ、およびHLA-DRからなる群から選択される。一実施形態において、遺伝子改変された哺乳動物細胞は、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-DP、HLA-DQ、およびHLA-DRに関して、同種異系受容者とのマッチを有さない。
【0008】
いくつかの実施形態において、遺伝子改変された細胞は、小胞体-ゴルジ再循環経路においてHLA-Gの保持を低減する1つ以上のアミノ酸突然変異(すなわち、配列番号:1等のHLA-G野生型コンセンサス配列)を有さないHLA-G導入遺伝子を含むが、配列番号:3等のmicroRNA結合部位を含有しない3’UTR(非翻訳領域)配列、または配列番号:4を含まない配列を含むHLA-G導入遺伝子を有する。
【0009】
いくつかの実施形態において、小胞体-ゴルジ再循環経路においてHLA-Gの保持を低減する1つ以上の突然変異は、ジ-リシン(KK)モチーフ突然変異を含む。いくつかの実施形態において、KKモチーフ突然変異は、K334A突然変異、K335A突然変異、または両方の突然変異を含む。
【0010】
いくつかの実施形態において、遺伝子改変された細胞において発現される外因性核酸は、配列番号4を含有しない3’UTR配列を含む。一実施形態において、外因性核酸の3’UTR配列が配列番号:4を含まない場合、核酸配列は配列番号:3を含有する。
【0011】
いくつかの実施形態において、発現されたHLA-Gは、遺伝子改変された哺乳動物細胞の細胞表面上に存在する。
【0012】
いくつかの実施形態において、遺伝子改変された哺乳動物細胞は、ヒト細胞、マウス細胞、ラット細胞、サル細胞、またはブタ細胞である。
【0013】
いくつかの実施形態において、遺伝子改変された哺乳動物細胞は、幹細胞、前駆細胞、または、幹細胞もしくは前駆細胞の誘導分化により得られる細胞である。いくつかの実施形態において、遺伝子改変された哺乳動物細胞は、外因性HLA-G導入遺伝子の導入前にすでに分化した細胞(自然発生的かまたはin vitroかに関わらず)である。いくつかの実施形態において、遺伝子改変された哺乳動物細胞は、幹細胞(例えば、多能性幹細胞)である。いくつかの実施形態において、遺伝子改変された哺乳動物細胞が幹細胞である場合、幹細胞は、胚性幹細胞、誘導多能性幹細胞、または分化全能性幹細胞である。一実施形態において、遺伝子改変された哺乳動物細胞は、胚性幹細胞である。別の実施形態において、遺伝子改変された哺乳動物細胞は、誘導多能性幹細胞である。さらなる実施形態において、遺伝子改変された哺乳動物細胞は、免疫系細胞型ではない。別の実施形態において、遺伝子改変された哺乳動物細胞は、幹細胞または前駆細胞のin vitro分化により得られる細胞であり、幹細胞または前駆細胞は、遺伝子改変され、次いでin vitroで分化される。
【0014】
他の実施形態において、遺伝子改変された細胞は、完全に分化した細胞、表皮前駆細胞、膵臓前駆細胞、造血幹細胞、多能性幹細胞の分化により得られる細胞、ケラチノサイト、線維芽細胞、間葉系幹細胞、心筋細胞、神経幹細胞、ニューロン、星状膠細胞、または膵臓β細胞前駆細胞である。
【0015】
いくつかの実施形態において、遺伝子改変された哺乳動物細胞における外因性核酸が発現ベクターである場合、発現ベクターは、トランスポゾンベクターまたはレトロウイルスベクターである。いくつかの実施形態において、外因性核酸が発現ベクターである場合、発現ベクターは、標的化ベクターであり、遺伝子改変された哺乳動物細胞は、標的化ベクターの相同的組み換えにより得られた。いくつかの実施形態において、発現ベクターは、緑色蛍光タンパク質(GFP)等のレポータータンパク質をコードする核酸配列をさらに含んでもよい。
【0016】
いくつかの実施形態において、外因性核酸はまた、(i)ヒトHLA-G遺伝子の3’非翻訳領域配列と少なくとも85%同一である、および(ii)その3’非翻訳領域内に突然変異結合部位を含むmRNA内の突然変異部位への同族microRNAの結合を阻害する、少なくとも1つの突然変異を含む、核酸配列を含む。一実施形態において、そのような核酸配列は、配列番号:3を含む。
【0017】
いくつかの実施形態において、遺伝子改変された細胞を含有する人工組織が提供される。
【0018】
別の態様において、単離された核酸であって、(i)ヒトHLA-Gと少なくとも85%同一であるアミノ酸配列をコードする第1の核酸配列と、(ii)ヒトHLA-G遺伝子の3’非翻訳領域配列と少なくとも85%同一であり、第1の核酸配列に作用可能に結合した、第2の核酸配列とを含み、アミノ酸配列は、小胞体-ゴルジ再循環経路においてHLA-Gの保持を低減する突然変異を含み、第2の核酸配列は、その3’非翻訳領域内に突然変異結合部位を含むmRNAへの同族microRNAの結合を阻害する、少なくとも1つの突然変異を含む、単離された核酸が、本明細書において提供される。
【0019】
いくつかの実施形態において、単離された核酸の3’非翻訳領域配列は、配列番号:4を含まない。一実施形態において、3’非翻訳領域配列が配列番号:4を含まない場合、3’非翻訳領域配列は、配列番号:3を含む。
【0020】
いくつかの実施形態において、単離された核酸、および第1の核酸配列に作用可能に結合したプロモーターを含む哺乳動物発現ベクターであって、プロモーターは、幹細胞においてサイレンシングされていない、哺乳動物発現ベクターが提供される。いくつかの実施形態において、プロモーターは、チャイニーズハムスターEF-1α(CHEF-1α)プロモーターまたはヒトEF-1αプロモーターの核酸配列を含有する。一実施形態において、CHEF-1αプロモーターは、配列番号:7を含む。他の実施形態において、HLA-G導入遺伝子の発現を駆動するために使用されるプロモーターは、組織または細胞型選択的プロモーターである。いくつかの実施形態において、哺乳動物発現ベクターは、レポータータンパク質をコードする第3の核酸配列の包含を含む。いくつかの実施形態において、哺乳動物発現ベクターは、トランスポゾンベクターである。いくつかの実施形態において、哺乳動物発現ベクターを含有する遺伝子改変された哺乳動物細胞が提供される。
【0021】
いくつかの実施形態において、単離された核酸であって、(i)ヒトHLA-Gと少なくとも95%同一であるアミノ酸配列をコードする第1の核酸配列であって、アミノ酸配列は、小胞体-ゴルジ再循環経路においてHLA-Gの保持を低減する突然変異を含む、第1の核酸配列と、(ii)ヒトHLA-G遺伝子の3’非翻訳領域配列と少なくとも95%同一であり、当該第1の核酸配列と作用可能に結合した第2の核酸配列であって、その3’非翻訳領域内に突然変異結合部位を含むmRNAへの同族microRNAの結合を阻害する少なくとも1つの突然変異を含む、第2の核酸配列とを含む、単離された核酸が提供される。一実施形態において、第1の核酸配列は、配列番号:2のアミノ酸配列をコードする。別の実施形態において、第2の核酸配列は、配列番号:4を含まない。一実施形態において、第2の核酸配列は、配列番号:3を含む。別の実施形態において、当該第1および第2の核酸配列を含み、第1の核酸配列に作用可能に結合したプロモーターをさらに含む、哺乳動物発現ベクターであって、プロモーターは、幹細胞内、または幹細胞の分化により生成された細胞内でサイレンシングされていない、哺乳動物発現ベクターが提供される。そのようなプロモーターは、チャイニーズハムスターEF-1αプロモーターの核酸配列を含むことができる。別の実施形態において、哺乳動物発現ベクターは、レポータータンパク質をコードする核酸配列をさらに含む。別の実施形態において、哺乳動物発現ベクターは、トランスポゾンベクターである。別の実施形態において、哺乳動物発現ベクターは、
図1に示される要素の全てを含む。
【0022】
一実施形態において、(a)チャイニーズハムスターEF-1αプロモーター、(b)プロモーターに作用可能に結合し、配列番号:2のアミノ酸配列を有するヒトHLA-Gをコードする核酸配列、および(c)配列番号:3を含む3’UTR配列を含む、哺乳動物発現ベクターが提供される。いくつかの実施形態において、そのような発現ベクターを含む遺伝子改変された哺乳動物細胞が提供される。
【0023】
様々な実施形態において、HLA-G改変された哺乳動物細胞(例えば、ヒトHLA-G改変細胞)は、心血管疾患、眼疾患(例えば、黄斑変性症)、聴覚疾患(例えば、難聴)、糖尿病、神経変性疾患、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、骨粗しょう症、肝疾患、腎疾患、自己免疫疾患、関節炎、歯周病、歯の状態、または増殖性疾患(例えば、癌)を含むがこれらに限定されない複数の状態のいずれかに罹患した対象に投与される。他の場合において、対象は、急性の健康状態、例えば、脳卒中、脊髄損傷、火傷、または創傷に罹患している、または罹患するリスクが高い。他の場合において、対象は、皮下脂肪萎縮症または加齢関連のコラーゲンの損失等の組織の損失に罹患している。他の場合において、対象は、非治癒性潰瘍に罹患している、または尿道下裂や尿道上裂などの欠陥の閉鎖を補助するための薬剤を必要としている。他の場合において、対象は、創傷治癒または皮膚代用品のための永久的または一時的皮膚移植片を必要としている。
【0024】
いくつかの実施形態において、本発明は、細胞または組織修復または再生を必要とする対象へのその普遍的方法であって、eHLA-G改質された細胞の集団を含む細胞または組織組成物を対象に注入する、または移植することを含み、対象は、eHLA-G改質された細胞の集団と比較して、少なくとも1つのミスマッチ古典的HLAクラスIまたはHLAクラスII分子を有し、eHLA-G改変された細胞の集団は、eHLA-G改変を有さない同じ型の細胞と比較して、低減された免疫原性および/または改善された免疫抑制を示す、普遍的方法を提供する。低減された免疫原性および/または改善された免疫抑制は、例えば、NK-92細胞毒性アッセイ、ヒト化NSG腫瘍成長アッセイ、および/またはPBMC増殖アッセイにおいて、eHLA-G改質された細胞を、eHLA-G改質を有さない同じ型の対照細胞と比較することにより決定され得る。一実施形態において、遺伝子改変された細胞の集団は、eHLA-G遺伝子改変されたヒト皮膚線維芽細胞の集団を含む。別の実施形態において、遺伝子改変された細胞の集団は、eHLA-G遺伝子改変されたヒト表皮前駆細胞の集団を含む。別の実施形態において、遺伝子改変された細胞の集団は、eHLA-G遺伝子改変されたヒト間葉系幹細胞の集団を含む。別の実施形態において、遺伝子改変された細胞の集団は、eHLA-G遺伝子改変されたヒト胚性幹細胞の集団を含む。別の実施形態において、遺伝子改変された細胞の集団は、eHLA-G遺伝子改変されたヒト胚性幹細胞からin vitroで分化した細胞の集団を含む。他の実施形態において、遺伝子改変された細胞の集団は、少なくとも2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、24、36、48、または52週間、対象の免疫系により拒絶されない。
【0025】
別の実施形態において、本発明は、皮膚再生を必要とする対象へのそのための方法であって、eHLA-G改変された皮膚線維芽細胞および/またはeHLA-G改変された胚性表皮前駆細胞の集団を、対象における皮膚損傷の部位に注入することを含み、対象は、eHLA-G改変された皮膚線維芽細胞および/またはeHLA-G改変された胚性表皮前駆細胞の集団と比較して、少なくとも1つのミスマッチ古典的HLAクラスIまたはHLAクラスII分子を有する方法を提供する。
【0026】
別の実施形態において、本発明の外因性ヒトβ2-ミクログロブリン(β2m)分子およびeHLA-G導入遺伝子を含む遺伝子改変された哺乳動物細胞の集団を、細胞治療方法を必要とする対象に投与することを含む、細胞治療方法が提供される。
本発明の実施形態を、以下にさらに記載する:
[項1]
遺伝子改変を有さない哺乳動物細胞と比較して、低減された免疫原性および/または改善された免疫抑制を有する、前記遺伝子改変された哺乳動物細胞であって、
(i)前記遺伝子改変された哺乳動物細胞は、(a)コンセンサス野生型ヒトHLA-Gと少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有し、小胞体-ゴルジ再循環経路においてHLA-Gの保持を低減する1つ以上のアミノ酸突然変異を含むHLA-Gタンパク質をコードする、核酸配列と、(b)コンセンサス野生型ヒトHLA-G遺伝子の3’非翻訳領域(UTR)配列と少なくとも85%同一であり、配列番号4を含まない3’非翻訳領域とを含む、外因性核酸を含み、
(ii)コードされたHLA-Gタンパク質は、少なくとも7週間、前記遺伝子改変された哺乳動物細胞により発現される、遺伝子改変された哺乳動物細胞。
[項2]
前記HLA-Gタンパク質は、少なくとも20週間発現される、上記項1の遺伝子改変された哺乳動物細胞。
[項3]
前記HLA-Gタンパク質は、少なくとも50週間発現される、上記項2に記載の遺伝子改変された哺乳動物細胞。
[項4]
小胞体-ゴルジ再循環経路においてHLA-Gの保持を低減する前記1つ以上のアミノ酸突然変異は、K334A突然変異、K335A突然変異、または両方の突然変異を含む、上記項1に記載の遺伝子改変された細胞。
[項5]
前記核酸配列は、配列番号:2のアミノ酸配列を有するHLA-Gタンパク質をコードする、上記項1に記載の遺伝子改変された哺乳動物細胞。
[項6]
延長因子-1アルファ(EF-1α)プロモーターをさらに含み、前記HLA-Gタンパク質をコードする前記核酸配列は、作用可能に前記EF-1αプロモーターに結合する、上記項1に記載の遺伝子改変された哺乳動物細胞。
[項7]
前記EF-1αプロモーターは、配列番号:7の配列を含む、上記項6に記載の遺伝子改変された哺乳動物細胞。
[項8]
前記3’UTRは、配列番号:3を含む、上記項1に記載の遺伝子改変された哺乳動物細胞。
[項9]
前記核酸配列は、配列番号:2のアミノ酸配列を有するHLA-Gタンパク質をコードし、前記3’UTRが、配列番号:3を含み、前記HLA-Gタンパク質をコードする前記核酸に作用可能に結合した配列番号:7を含むEF-1αプロモーターをさらに含む、上記項1に記載の遺伝子改変された哺乳動物細胞。
[項10]
前記発現されたHLA-Gが、前記遺伝子改変された哺乳動物細胞の細胞表面上に存在する、上記項1に記載の遺伝子改変された細胞。
[項11]
前記改変された哺乳動物細胞は、ヒト細胞である、上記項1に記載の遺伝子改変された哺乳動物細胞。
[項12]
前記遺伝子改変された細胞は、幹細胞、前駆細胞、前記幹細胞もしくは前記前駆細胞のin vitro分化により得られる細胞、完全に分化した細胞、表皮前駆細胞、膵臓前駆細胞、造血幹細胞、ケラチノサイト、線維芽細胞、幹細胞、間葉系幹細胞、心筋細胞、神経幹細胞、ニューロン、または星状膠細胞である、上記項1に記載の遺伝子改変された哺乳動物細胞。
[項13]
前記遺伝子改変された細胞は、ヒト胚性幹細胞、ヒト間葉系幹細胞、またはヒト胚性表皮前駆細胞である、上記項1に記載の遺伝子改変された哺乳動物細胞。
[項14]
前記遺伝子改変された細胞は、ヒト皮膚線維芽細胞である、上記項1に記載の遺伝子改変された哺乳動物細胞。
[項15]
前記遺伝子改変を有さない前記哺乳動物細胞と比較して、前記遺伝子改変された細胞の前記低減された免疫原性および/または改善された免疫抑制が、(1)前記遺伝子改変を有さない前記哺乳動物細胞と比較した、前記遺伝子改変された細胞のNK-92細胞毒性の低減、(2)前記遺伝子改変を有さない前記哺乳動物細胞と比較した、前記遺伝子改変された細胞のin vitro末梢血単核細胞増殖の低減、ならびに(3)ヒト化NSGマウスにおける、前記遺伝子改変を有さない前記哺乳動物細胞と比較した、前記遺伝子改変された細胞による腫瘍形成のサイズおよび重量の増加により決定される、上記項1に記載の遺伝子改変された細胞。
[項16]
上記項1に記載の遺伝子改変された哺乳動物細胞を含む人工組織。
[項17]
上記項13または上記項14に記載の遺伝子改変された哺乳動物細胞を含む皮膚移植、修復、または再生組成物。
[項18]
前記外因性核酸は、発現ベクターである、上記項1に記載の遺伝子改変された哺乳動物細胞。
[項19]
前記哺乳動物発現ベクターは、トランスポゾンベクターである、上記項18に記載の遺伝子改変された哺乳動物細胞。
[項20]
前記ベクターは、レポータータンパク質をコードする核酸配列をさらに含む、上記項18に記載の遺伝子改変された哺乳動物細胞。
[項21]
単離された核酸であって、
(i)ヒトHLA-Gと少なくとも95%同一であるアミノ酸配列をコードする第1の核酸配列であって、前記アミノ酸配列は、小胞体-ゴルジ再循環経路においてHLA-Gの保持を低減する突然変異を含む、第1の核酸配列と、
(ii)前記ヒトHLA-G遺伝子の3’非翻訳領域配列と少なくとも95%同一であり、前記第1の核酸配列に作用可能に結合した第2の核酸配列であって、その3’非翻訳領域内に突然変異結合部位を含むmRNAへの同族microRNAの結合を阻害する少なくとも1つの突然変異を含む、第2の核酸配列とを含む、単離された核酸。
[項22]
前記第1の核酸配列は、配列番号:2のアミノ酸配列をコードする、上記項21に記載の単離された核酸。
[項23]
前記第2の核酸配列は、配列番号:4を含まない、上記項21に記載の単離された核酸。
[項24]
前記第2の核酸配列は、配列番号:3を含む、上記項21に記載の単離された核酸。
[項25]
上記項21に記載の単離された核酸および前記第1の核酸配列に作用可能に結合したプロモーターを含む哺乳動物発現ベクターであって、前記プロモーターは、幹細胞内、または前記幹細胞の分化により生成された細胞内でサイレンシングされていない、哺乳動物発現ベクター。
[項26]
前記プロモーターは、チャイニーズハムスターEF-1αプロモーターの核酸配列を含む、上記項25に記載の哺乳動物発現ベクター。
[項27]
レポータータンパク質をコードする第3の核酸配列をさらに含む、上記項25に記載の哺乳動物発現ベクター。
[項28]
前記哺乳動物発現ベクターは、トランスポゾンベクターである、上記項25に記載の哺乳動物発現ベクター。
[項29]
(a)チャイニーズハムスターEF-1αプロモーター、(b)前記プロモーターに作用可能に結合し、配列番号:2のアミノ酸配列を有するヒトHLA-Gをコードする核酸配列、および(c)配列番号:3を含む3’UTR配列を含む、哺乳動物発現ベクター。
[項30]
上記項29に記載の哺乳動物発現ベクターを含む、遺伝子改変された哺乳動物細胞。
[項31]
細胞または組織修復または再生を必要とする対象へのその普遍的方法であって、上記項1に記載の遺伝子改変された細胞の集団を含む細胞または組織組成物を前記対象に注入する、埋め込む、または移植することを含み、前記対象は、前記遺伝子改変された細胞の集団と比較して、少なくとも1つのミスマッチ古典的HLAクラスIまたはHLAクラスII分子を有し、前記遺伝子改変された細胞の集団は、前記遺伝子改変を有さない同じ型の細胞と比較して、低減された免疫原性および/または改善された免疫抑制を示す、普遍的方法。
[項32]
前記少なくとも1つのミスマッチ古典的HLAクラスIまたはHLAクラスII分子は、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-DP、HLA-DQ、およびHLA-DRからなる群から選択される、上記項31に記載の方法。
[項33]
前記対象は、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-DP、HLA-DQ、およびHLA-DRに関して、前記遺伝子改変された細胞とのマッチを有さない、上記項31に記載の方法。
[項34]
前記低減された免疫原性および/または改善された免疫抑制は、NK-92細胞毒性アッセイ、ヒト化NSG腫瘍成長アッセイ、および/または末梢血単核細胞増殖アッセイにより決定される、上記項31に記載の方法。
[項35]
前記遺伝子改変された細胞の集団は、ヒト皮膚線維芽細胞の集団を含む、上記項31に記載の方法。
[項36]
前記遺伝子改変された細胞の集団は、ヒト表皮前駆細胞の集団を含む、上記項31に記載の方法。
[項37]
前記遺伝子改変された細胞の集団は、ヒト胚性幹細胞の集団を含む、上記項31に記載の方法。
[項38]
前記遺伝子改変された細胞の集団は、ヒト間葉系幹細胞の集団を含む、上記項31に記載の方法。
[項39]
前記遺伝子改変された細胞の集団は、in vitroで分化した遺伝子改変されたヒト胚性幹細胞を含む、上記項31に記載の方法。
[項40]
前記遺伝子改変された細胞の集団は、少なくとも2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、24、36、48、または52週間、前記対象の免疫系により拒絶されない、上記項31に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーターにより駆動される選択マーカー(ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ);「INS」隣接インシュレータ要素;eHLA-GのチャイニーズハムスターEF-1αプロモーター駆動発現;EGFPのPGKプロモーター駆動発現;および5’末端反復(TR)転位要素を含有する、強化されたHLA-G(eHLA-G)導入遺伝子発現トランスポゾンベクターの限定されない実施形態の概略図を示す。eHLA-G導入遺伝子は、HLA-Gタンパク質の発現、特に細胞表面発現を強化する、突然変異および/または非コード化要素(例えば、プロモーターまたは改変された3’UTR)の組み合わせを含有する。本明細書に記載の実験において、eHLA-G導入遺伝子は、上記要素、より具体的にはHLA-GのER回収モチーフ(K334A/K335A)の突然変異を有する、配列番号:2に列挙されるようなヒトHLA-Gコード配列;ならびに、2)HLA-Gの3’UTR microRNA結合部位の突然変異を含んでいたが、この改変された3’UTRは、配列番号:3に列挙されるような配列を有していた。さらなる説明については、実施例3を参照されたい。
【
図2】同時トランスフェクトされたトランスポゾン発現ベクターのゲノム組み込みを駆動するために使用された、トランスポザーセ発現ヘルパーベクターの限定されない実施形態の概略図である。
【
図3】eHLA-GおよびEGFPのトランスポゾン発現ベクター駆動発現による安定なトランスフェクション後の様々な時点での、ヒトES細胞コロニーの蛍光顕微鏡写真である。
【
図4】(上のパネル)EGFP含有発現ベクターでトランスフェクトされたhES細胞の開始時の数と、トランスフェクションから10日後に細胞集団内で検出されたEGFP
+細胞の割合との間の関係を示す棒グラフである。x軸上の数字は、5×10
5細胞当たりのGFP
+コロニーの数である。y軸上の数字は、細胞数である。(下のパネル)様々なトランスポゾンベクター(異なるプロモーターを使用)と、細胞集団内で検出されたEGFP
+細胞の割合との間の関係を示す棒グラフである。x軸上の数字は、5×10
5細胞当たりのGFP
+コロニーの数である。下のパネルにおいて、左から右に、対照(con)、GFP-puro(トランスフェクトされたベクターのサイズは7.3kbである);eHLA-G(MSCV)-GFP-puro(トランスフェクトされたベクターのサイズは8.6kbである);およびeHLA-G(EF-1α)-GFP-puro(トランスフェクトされたベクターのサイズは9.2kbである)である。追加のeHLA-G(EF-1α)-GFP-puroトランスフェクション効率実験(図示せず)を行ったが、これは、トランスフェクションから10日後に、ピューロマイシンで10日間の選択後の溶液VおよびプログラムB16において最も高い効率(5×10
5細胞当たり約500のGFP
+コロニー)が得られることを示した。
【
図5】HLA-G発現およびDAPI染色(上の画像)、Oct 3/4およびDAPI(中央の画像)、ならびにSSEA-4およびDAPI(下の画像)の、HLA-G改変されたヒトES細胞における発現を示す一連の免疫蛍光顕微鏡写真である。
【
図6】(上のパネル)eHLA-G改変hES細胞の集団におけるSSEA-4
+/GFP
+二重陽性細胞の分布を示すフローサイトメトリー散布図である。(下のパネル)eHLA-G改変されたhES細胞の集団におけるOct 3/4
+細胞の分布を示す図である。SSEA-4およびOct 3/4は、多能性マーカーである。
図5と共に、このデータは、eHLA-G改変されたhES細胞がその特徴的な自己再生多能性マーカーを維持したことを示している。さらに、eHLA-G(EF-1α)-GFP-hESCは、in vivoでその多能性および通常の核型を維持した。ヒト化NSGマウスに、eHLA-G(EF-1α)-GFP-hESCが皮下注射され、奇形腫形成が観察されたが、これは、hESCが低減された免疫原性および/または増加した免疫抑制を示したために、注射/移植された細胞が拒絶されなかったことを示している。奇形腫細胞の核型は正常であった。
【
図7】(上のパネル)15日目における、野生型(左の写真)およびeHLA-G改変されたhESCで生成された(右の写真)胚様体(EB)の位相差顕微鏡写真である。(下のパネル)上のパネルで示されたEBの蛍光顕微鏡写真である。野生型hESC EBにおいては、GFPシグナルは検出されず、一方、eHLA-G改変されたhESC EBの両方において強いGFP発現が検出された。このデータは、eHLA-G
+hESCがEB形成を維持することを示している。
【
図8】eHLA-G
+hESCがサイレンシング抵抗性であることを示す図である。(上のパネル)eHLA-G改変されたhESC株におけるGFPの発現のフローサイトメトリー分布ヒストグラムであり、これは、6および16継代後に同様のGFPの強い発現を示した。(下のパネル)同じhESC株におけるHLA-Gの発現のフローサイトメトリー分布ヒストグラムであり、これもまた、6および16継代の両方において、eHLA-G導入遺伝子の持続的発現を示す。
【
図9A】(上のパネル)野生型(左のヒストグラム)、GFP改変(中央のヒストグラム)、およびeHLA-G(EF-1α)-GFP改変されたhESC(右のヒストグラム)における、全(細胞内)発現HLA-Gのフローサイトメトリー分布ヒストグラムである。(下のパネル)野生型(左のヒストグラム)、GFP改変(中央のヒストグラム)、およびeHLA-G(EF-1α)-GFP改変hESC(右のヒストグラム)における、表面発現HLA-Gのフローサイトメトリー分布ヒストグラムである。
【
図9B】(上のパネル)eHLA-G(MSCV)-GFP改変hESCにおける全発現HLA-Gのフローサイトメトリー分布ヒストグラムである。(下のパネル)表面HLA-G発現eHLA-G(MSCV)-GFP改変hESCを示す図である。これらのデータは、導入遺伝子がMSCVプロモーターの制御下にある場合の最小限の発現とは対照的に、導入遺伝子がEF-1αプロモーターに作用可能に結合した場合、HLA-Gが高度に発現されることを示している。HLA-G導入遺伝子発現がプロモーター活性により大きく影響されることを示す追加のデータに関しては、
図15もまた参照されたい。
【
図10】HLAクラスIおよびクラスIIの発現が、野生型およびeHLA-G+ hESCにおいて類似していることを示す表である。この表は、野生型対HLA-G改変されたhESCにおける様々なHLA変異およびβ2ミクログロブリンの発現レベルを比較している。
【
図11】NK92細胞毒性効果がeHLA-G
+hESCにより大きく抑制されることを示すグラフである。(さらなる説明については、実施例6を参照されたい。)図は、NK92細胞の細胞毒性アッセイの結果を示す棒グラフを示す。1:10および1:30の値は、標的細胞(GFP導入遺伝子単独対照野生型細胞またはeHLA-G-GFP導入遺伝子改変細胞)に対するエフェクター(NK92)の比を示す。これは、野生型hESC(灰色のバー;GFP)と比較したeHLA-G改変されたhESC(黒いバー;eHLA-G-GFP)の免疫原性を決定するための、in vitroアッセイである。eHLA-G改変されたhESCは、野生型hESCの場合と比較して、NK92細胞の存在下で実質的に低減された細胞毒性を示す。NK92細胞の存在下での低減された細胞毒性は、そのような遺伝子改変された細胞が、低減された免疫原性および/または改善された免疫抑制を有することを示すため、このデータは、外因性HLA-G発現が、そのような遺伝子改変された細胞の改善されたドナー能力を提供し得ることを示している。結果は、4回の実験の平均である。さらなる説明については、実施例6を参照されたい。
【
図12】hESCのin vitroでの胚性表皮前駆細胞(EEP)への誘導分化の間の、いくつかの多能性マーカーおよび表皮前駆細胞マーカーの遺伝子発現レベルの経時変化を示す一連の棒グラフである。y軸の値は、半定量的RT-PCRにより決定されるような相対的mRNA発現レベルである。x軸の値は、発現が評価された日である。さらなる説明については、実施例2を参照されたい。
図12のデータは、表皮分化マーカーK14、Tap63、およびΔNp63が、分化の間に徐々に強化されたことを示す。ここには示されていないデータにおいて、K14ならびに追加の表皮マーカーp63、CD29、およびCD49fの免疫蛍光試験が行われた。分化したeHLA-G(EF-1a)-GFP hEEPは、免疫蛍光により示されるように、K14、p63、CD29、およびCD49fタンパク質発現に関して陽性であった。
【
図13】(上のパネル)eHLA-GのEF-1αプロモーター駆動発現により安定にトランスフェクトされたhESC株における、eHLA-G導入遺伝子発現の経時変化を示す図である。(下のパネル)GFP改変されたhESC株(陰性対照)、MSCV-プロモーター駆動eHLA-G hESC株、およびEF-1α駆動eHLA-G hESC株におけるHLA-G(mRNA)発現の経時変化(黒いバーは0日目を示し、水平のストライプのバーは7日目を示し、灰色のバーは14日目を示す)を示すグラフである。EF-1αプロモーターにより駆動されるeHLA-G発現のより高い、およびより持続的なレベルに留意されたい。
【
図14】(NK細胞の細胞毒性活性に対するK562-HLA-G1 14塩基対(bp)挿入/欠失多型の効果。)図は、野生型K562細胞(灰色のバー)、3’UTRに14bp挿入を有するHLA-G変異を発現するK562細胞(Ins14bp)(黒いバー)、および3’UTRに14bp欠失を有するHLA-G変異を発現するK562細胞(Del14bp)(灰色のバー)に対する、NK細胞媒介細胞毒性(特異的溶解%)を比較する棒グラフを示す。異なるエフェクター(NK細胞)対標的細胞(K562細胞)比での4つのデータセットがある。
【
図15】HLA-G導入遺伝子発現がプロモーター活性により大きく影響されることを示すデータである。RT-PCRは、GFPおよびHLA-G転写産物の両方が、eHLA-G(EF-1α)-GFP-hESC細胞株において高度に発現されたことを示している。免疫蛍光もまた、GFPおよびHLA-Gタンパク質の両方が、HLA-G(EF-1α)-GFP-hESC細胞株において高度に発現されたことを示している(ここでは示されていない)。しかしながら、RT-PCRまたは免疫蛍光によるかに関わらず、HLA-G転写産物またはタンパク質は、これらの細胞においてGFP発現が高かったにもかかわらず、HLA-G(pMSCV)-GFP-hESC細胞株においてはほとんど検出されなかった。(ここにはデータは示されていない。)したがって、EF-1αプロモーターは、HLA-G導入遺伝子発現のある特定の実施形態において好ましい。
【
図16】位相差顕微鏡法により示されるように、精製されたhEEPは、同種ケラチノサイトの形態を示した。eHLA-G-GFP-hEEPクローン18および21は、実施例2において説明されるように、改変されたeHLA-G(EF-1α)-GFP-hESCから分化した。
【
図17】分化したhEEPにおけるHLA-G導入遺伝子の安定性は、フローサイトメトリーにより確認された。HLA-G全発現(上のパネル)および表面発現(下のパネル)は両方とも、外因性HLA-Gを有さない対照細胞(GFPのみのhEEP)および野生型hEEPと比較して、分化したeHLA-G(EF-1a)-GFP-hEEPに対して堅牢であった(細胞の90%超)。
【
図18】
図11の結果が繰り返され、追加のNK細胞毒性実験で確認された。示されるように、eHLA-G(EF-1α)-GFP-hESCの死滅は、GFP導入遺伝子のみを含有する(HLA-G導入遺伝子を含有しない)対照hESCと比較して、100%超低減された。(注:本明細書において使用される場合、「mHLA-G(EF-1α)-GFP」導入遺伝子は、「eHLA-G(EF-1α)-GFP」と同義である。)このデータは、HLA-G導入遺伝子発現が、hESCにおける免疫抑制および/または低減された免疫原性の特性を付与することを示している。さらなる説明については、実施例6を参照されたい。
【
図19】NK細胞毒性実験は、hESCから分化したhEEPに対して行った。示されるように、eHLA(EF-1α)-GFP-hEEPの死滅は、対照hEEPと比較して、100%超(約3倍)十分に低減された。このデータは、HLA-G導入遺伝子発現が、分化した細胞における免疫抑制および/または低減された免疫原性の特性を付与することを示し、これはまた、eHLA-G導入遺伝子を介したHLA-G発現のこれらの強化された機能的免疫回避特性が、誘導分化プロセスに耐えたことを示している。さらなる説明については、実施例6を参照されたい。
【
図20】ヒト化マウスにおけるhESC同種移植の結果を示す図である。「G0」hESCは、eHLA-G導入遺伝子を含有せず、GFPのみを含有する対照野生型hESCであった。「mG1(#1)」および「mG1(#2)」は、2つの異なるeHLA-G(EF-1α)-GFPヌクレオフェクトされたhESCクローンを指す。示されるようなG0、mG1(#1)、およびmG1(#2)腫瘍が、測定および秤量された。G0 hESCは、126.9立方ミリメートルの体積および32ミリグラムの重量を有する腫瘍を形成した。mG1(#1)hESCは、748.4立方ミリメートルの体積および318ミリグラムの重量を有する腫瘍を形成した。mG1(#2)hESCは、1116.7立方ミリメートルの体積および675ミリグラムの重量を有する腫瘍を形成した。さらなる説明については、実施例7を参照されたい。
【
図21】5匹のヒト化NSGマウスへのhESC同種移植からの腫瘍の平均した結果を示すグラフである。上のパネルは、腫瘍重量(mg)の結果を示す。下のパネルは、腫瘍体積(立方ミリメートル)の結果を示す。データは、HLA-GヌクレオフェクトされたhESC(「mG1」)が、ヒト化NSGマウスに移植された野生型hESC(「G0」)よりもはるかに大きく(体積で3倍を超える)重い(重量で2倍を超える)腫瘍を形成したことを示している。これは、HLA-G導入遺伝子発現が、同種移植ヒト環境(すなわち、NSGヒト化マウス)において、低減された免疫原性および/または増加した免疫抑制を提供し得ることを示している。このデータは、NK92細胞毒性試験と共に、任意の所望の細胞型を、治療、移植、組織修復、細胞および組織の置換等のために普遍的または優れた同種ドナーに改変するための、本明細書に記載のeHLA-G導入遺伝子コンストラクトの一般的応用を支持している。さらなる説明については、実施例7を参照されたい。
【
図22】eHLA-G(EF-1α)-GFP導入遺伝子で安定にトランスフェクトされたヒト皮膚線維芽細胞(「HFD-m1-GFP」細胞)またはGFP単独対照コンストラクト(「HFD-G0-GFP」細胞)を、PBMC増殖を阻害するそれらの能力について評価した。示されるように、HFD-mG1-GFPクローン「mG1-R1」は、対照および他のクローンよりも大きくPBMC増殖を抑制したが、これは、外因性HLA-G発現が、線維芽細胞等の分化細胞に対する免疫抑制を提供し得ることを示している。さらなる説明については、HFD-m1-GFPおよび対照によるNK-92細胞毒性試験の概要を含む実施例9を参照されたいが、これは、ヒト皮膚線維芽細胞へのeHLA-G改変が、それらの免疫原性を低減したことを示している。したがって、これらのデータはさらに、任意の所望の細胞型を、多能性、多分化能、または完全分化であるかに関わらず、治療、移植、組織修復、細胞および組織の置換等のために普遍的または優れた同種ドナーに改変するための、本明細書に記載のeHLA-G導入遺伝子コンストラクトの使用を支持している。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本開示は、外因性HLA-Gを持続的に発現する遺伝子改変された哺乳動物細胞(HLA-G改変された細胞)、およびそのような改変された哺乳動物細胞を生成するための核酸組成物を特徴とする。本明細書に記載のeHLA-G遺伝子改変は、細胞が、移植、細胞および組織再生または再構成、ならびに他の治療のための普遍的または改善されたドナー細胞である有望性を有するように、低減された免疫原性および/または改善された免疫抑制の特性を有するそれらの細胞を提供する。
【0029】
I.組成物:
A.外因性HLA-Gを発現する遺伝子改変された哺乳動物細胞
本明細書において説明されるように、外因性HLA-Gを発現する広範な哺乳動物細胞型(HLA-G改変された細胞)が生成され得る。そのような細胞型は、分化全能性細胞、胚性幹細胞(例えば、ヒト胚性幹細胞)、誘導多能性幹細胞(例えば、ヒト誘導多能性幹細胞)、多分化能幹細胞、表皮前駆細胞、間葉系幹細胞、膵臓β細胞前駆細胞、膵臓β細胞、心臓前駆細胞、心筋細胞、肝前駆細胞、肝細胞、筋細胞前駆細胞、筋細胞、腎細胞、骨芽細胞、造血前駆細胞、歯小嚢細胞、毛包細胞、網膜色素上皮細胞、神経幹細胞、ニューロン、星状膠細胞、乏突起膠細胞、内耳細胞、および線維芽細胞(ヒト皮膚線維芽細胞(HFD)を含む)を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、HLA-G改変された細胞は、免疫系細胞型を有する細胞ではない。そのような哺乳動物細胞は、例えばヒト、マウス、ラット、サル、またはブタを含むいくつかの種の1つから得ることができる。本質的に、任意の細胞型が、本明細書に記載のコンストラクトでトランスフェクトされ、次いでHLA-G発現について、およびそのような発現が低減された免疫原性および/または改善された免疫抑制をどのように改変された細胞に付与し得るかについて試験されてもよい。
【0030】
いくつかの実施形態において、所望の細胞型のHLA-G改変された細胞の実質的に濃縮された集団を得るために、HLA-Gを発現する、遺伝子改変された多能性幹細胞株、例えばヒト胚性幹細胞株、またはヒト誘導多能性幹細胞株、または間葉系幹細胞および免疫系前駆細胞を含む多分化能形質を有する任意の細胞株が生成され、次いで、HLA-Gを発現する、所望の細胞型について実質的に濃縮された細胞集団を得るために、誘導分化に供される。いくつかの実施形態において、実質的に濃縮された細胞集団は、少なくとも約2%から約100%の所望の細胞型、例えば、少なくとも約3%、4%、5%、7%、8%、10%、20%、22%、25%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、または少なくとも約2%から約100%の別のパーセンテージの所望の細胞型を含む。所望の細胞型の細胞を濃縮するための方法は、当該技術分野において知られている。例えば、米国特許出願第12/532,512号を参照されたい。
【0031】
ヒト胚性幹細胞または誘導多能性幹細胞を得るための方法は、米国特許第6,200,806号および米国特許第7,217,569号(ヒト胚性幹細胞誘導に関する)、ならびに米国特許第8,048,999号、米国特許第8,058,065号、および米国特許第8,048,675号(ヒト誘導多能性幹細胞の生成に関する)に記載されるように、当該技術分野において知られている。
【0032】
本明細書に記載の核酸の1つによりコードされたHLA-Gタンパク質を安定に発現する、遺伝子改変された哺乳動物多能性または多分化能幹細胞株、例えば、ヒト胚性幹細胞またはヒト誘導多能性幹細胞等、および完全に分化した遺伝子改変された哺乳動物は、当該技術分野において知られている複数の方法のいずれかにより生成される。いくつかの実施形態において、細胞株は、本明細書に記載のようなHLA-Gタンパク質、選択マーカー、および任意選択でレポータータンパク質の発現のための発現カセットを含む、1つ以上の核酸発現ベクター(例えば、プラスミドベクターまたはミニサークルベクター)による安定なトランスフェクションにより遺伝子改変される。そのようなベクターによりコードされる好適な選択マーカーの例は、選択薬剤に抵抗性を付与するタンパク質を含む。そのようなタンパク質およびその対応する選択薬剤は、限定されることなく、ピューロマイシンN-アセチルトランスフェラーゼ(ピューロマイシン)、ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ(ハイグロマイシン)、ブラストサイジン-S-デアミナーゼ(ブラストサイジン)、およびネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(ネオマイシン)を含む。適切な選択薬剤による選択は、耐性コロニーが出現するまでの少なくとも約3日から約14日、例えば、約4、5、6、7、8、9、10、12、13日、または約3日から約14日の別の期間続いてもよい。
【0033】
好適な蛍光レポータータンパク質の例は、EGFPおよびその変異体、例えばYFP、Cyan、およびdEGFP;DS-Red、モノマーOrange、遠赤色蛍光タンパク質「Katushka」(Shcherbo et al (2007),Nat Methods,4:741-746)、または前述のもののいずれかの変異体を含むが、これらに限定されない。他の実施形態において、レポーターは、プロセスにおいて、蛍光性または発光性基質の存在下でそれぞれ検出可能なシグナル、例えば蛍光または発光シグナルを生成する基質を変換する酵素である。例えば、いくつかの実施形態において、選択マーカー酵素は、ルシフェラーゼ、例えば蛍ルシフェラーゼ、コメツキムシルシフェラーゼ、またはウミシイタケルシフェラーゼのアミノ酸配列を含む。ルシフェラーゼ活性は、適切な発光基質、例えば、蛍ルシフェラーゼの場合蛍ルシフェリン、またはウミシイタケルシフェラーゼの場合セレンテラジンを提供することにより、検出され得る。適切な基質の存在下でのルシフェラーゼ活性は、培養皿のウェル中の全細胞集団の総ルシフェラーゼ活性をアッセイするための発光測定によって定量化することができ、または、代替として、個々の細胞もしくはコロニーのルシフェラーゼ活性は、光子計数カメラと組み合わせて顕微鏡を使用することにより検出され得る。ハイスループット法を含むルシフェラーゼアッセイの詳細は、例えば、米国特許第5,650,135号、米国特許第5,744,320号、および米国特許第6,982,431号に開示されている。他の実施形態において、レポーター酵素は、改変されたベータ-ラクタマーゼのアミノ酸配列を含み、その発現は、例えば米国特許第5,741,657号、米国特許第6,031,094号、および米国特許公開第20070184513号に記載のように、蛍光ベータ-ラクタム基質の破壊についてのレシオメトリック蛍光アッセイにより、生細胞において検出および定量化され得る。概説については、Qureshi(2007),Biotechniques,42(1):91-96も参照されたい。他の適切なレポーター酵素は、Halo-Tag(登録商標)加水分解酵素(Promega、Madison、Wis、例えば米国特許第7,238,842号ならびに米国特許公開第20080026407号および米国特許公開第20080145882号に記載されるように)およびβ-ガラクトシダーゼを含むが、これらに限定されない。
【0034】
いくつかの実施形態において、遺伝子改変された哺乳動物細胞はまた、ヒトβ2ミクログロブリン(GenBank受託番号AY187687.1)を発現するように遺伝子改変されている。理論に束縛されることを望まないが、ヒトβ2ミクログロブリンの発現は、遺伝子改変された哺乳動物細胞において、トランスジェニックHLA-Gの表面発現を強化すると考えられる。
【0035】
いくつかの実施形態において、核酸発現ベクターは、例えば、米国特許出願第12/728,943号に記載のように、同族トランスポザーセ(例えば、piggyBACトランスポザーセ)の存在下で宿主細胞内に導入された際の宿主ゲノム内へのトランスポゾンベクターの転位の統合を促進する転位要素を含むトランスポゾンベクターである。トランスポゾン発現ベクター(例えば、PiggyBacベクター)、およびトランスポザーセ発現ベクターは、例えば、System Biosciences(Mountain View、CA)から市販されている。いくつかの実施形態において、トランスポゾンベクターが使用される場合、安定にトランスフェクトされた、HLA-G改変された細胞株を生成するために、選択マーカーまたはレポータータンパク質発現カセットは必要ではないが、これは、そのようなベクターによるトランスフェクションの効率が、選択マーカーの必要性を取り除くのに十分であるためである。代替として、発現ベクターは、宿主細胞ゲノムにおけるeHLA-G導入遺伝子の部位特異的統合を可能にする標的化ベクターであってもよい。標的化ベクターの設計および使用は、米国特許第5,464,764号により例示されるように、当該技術分野において慣例的である。
【0036】
トランスフェクショングレードの核酸発現ベクターの調製のための方法、およびトランスフェクション方法は、十分に確立されている。例えば、Sambrook and Russell(2001),「Molecular Cloning:A Laboratory Manual,」3rd ed,(CSHL Press);およびCurrent Protocols in Molecular Biology,John Wiley&Sons,N.Y.(2005),9.1-9.14を参照されたい。高効率トランスフェクション効率の方法の例は、例えば、Trompeter(2003),J Immunol.Methods,274(1-2):245-256、ならびに米国特許第7,332,332号、米国特許第8,003,389号、米国特許第8,039,259号、および米国特許第8,192,990 9号に記載のような「ヌクレオフェクション」、すなわち、Fugene(登録商標)(Roche)、DOTAP、およびLipofectamine(商標)(Invitrogen)等の脂質系トランスフェクション試薬を使用したトランスフェクションを含む。
【0037】
他の実施形態において、遺伝子改変された細胞、例えば、分化した、多分化能、多能性、または分化全能性幹細胞株は、組み換えウイルスでの形質導入により生成される。好適な組み換えウイルスの例は、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)、アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルスを含むが、これらに限定されない。多くの場合、組み換えレトロウイルスは、マウスモロニー白血病ウイルス(MMLV)であるが、トリ白血病ウイルス、ウシ白血病ウイルス、マウス白血病ウイルス(MLV)、ミンク細胞フォーカス誘発ウイルス、マウス肉腫ウイルス、細網内皮症ウイルス、テナガザル白血病ウイルス、メイソンファイザー猿ウイルス、またはラウス肉腫ウイルス等の他の組み換えレトロウイルスが使用されてもよく、例えば、米国特許第6,333,195号を参照されたい。
【0038】
他の場合において、組み換えレトロウイルスは、レンチウイルス(例えば、ヒト免疫不全ウイルス-1(HIV-1)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、またはネコ免疫不全ウイルス(FIV))であり、例えば、Johnston et al.,(1999),Journal of Virology,73(6):4991-5000(FIV)、Negre et al.,(2002),Current Topics in Microbiology and Immunology,261:53-74(SIV)、Naldini et al.,(1996),Science,272:263-267(HIV)を参照されたい。
【0039】
組み換えレトロウイルスは、標的細胞への侵入を助けるために、ウイルス性ポリペプチド(例えば、レトロウイルスenv)を含んでもよい。そのようなウイルス性ポリペプチドは、当該技術分野において十分に確立されており、例えば、米国特許第5,449,614号を参照されたい。ウイルス性ポリペプチドは、本来の宿主種以外の細胞を含む複数の種に由来する細胞への侵入を助ける、両種ウイルス性ポリペプチド、例えば、両種envであってもよい。例えば、同文献を参照されたい。ウイルス性ポリペプチドは、元の宿主種以外の細胞への侵入を助ける異種指向性ウイルス性ポリペプチドであってもよい。例えば、同文献を参照されたい。いくつかの実施形態において、ウイルス性ポリペプチドは、元の宿主種の細胞への侵入を助ける、エコトロピックウイルス性ポリペプチド、例えば、エコトロピックenvである。例えば、同文献を参照されたい。
【0040】
細胞のウイルス形質導入は、当該技術分野において知られている任意の方法、例えば、Palsson,B.,et al.,(1995)、国際公開第95/10619号、Morling,F.J.et al.,(1995),Gene Therapy,2:504-508、Gopp et al.,(2006),Methods Enzymol,420:64-81により達成することができる。例えば、感染は、細胞へのウイルスの添加直後の期間の間に細胞を遠心分離に供することを含む、スピン感染または「スピノキュレーション」の方法により達成することができる。いくつかの場合において、ウイルスは、感染前に、例えば超遠心分離により濃縮されてもよい。
【0041】
遺伝子改変される細胞を形質導入するために使用される感染多重度(m.o.i.)は、約1m.o.i.から約50m.o.i.、例えば約1m.o.i.、約5m.o.i.、約7.5m.o.i.、約10m.o.i.、約15m.o.i.、約20m.o.i.、約30m.o.i.、約40m.o.i.、または約50m.o.i.の範囲であってもよい。
【0042】
多能性幹細胞(例えば、ヒト胚性幹細胞またはヒト誘導多能性幹細胞)から誘導分化により様々な細胞型を生成するための方法は、例えば、米国特許第7,955,849号、米国特許第7,763,466号、米国特許第7,264,968号、米国特許出願第12/179,462号および米国特許出願第12/187,543号に記載のように、当該技術分野において知られている。
【0043】
1つの例示的実施形態において、ヒト胚性表皮前駆細胞(hEEP)は、ヒト多能性幹細胞株、例えばヒト胚性幹細胞またはヒト誘導多能性幹細胞から、以下のようにして得られる。
【0044】
多能性幹細胞を、20%ノックアウト血清代替物、0.1mM MEM非必須アミノ酸、1mM GlutaMax、0.1mM β-メルカプトエタノール(Sigma)を添加したDMEM/F12(1:1)を含有する胚性幹細胞(ESC)成長培地中に維持する。有糸分裂不活性化されたマウス胚性線維芽細胞(MEF)(CF-1、ATCC)を、5×104細胞/cm2の密度で播種し、18~24時間インキュベートすることにより、ESC成長培地を調整する。調整後、4ng/ml bFGFを添加し、完全調整培地を滅菌濾過する。hESCを、5~6日毎に(1:3または1:4分割で)、Matrigel(登録商標)(BD Biosciences)被覆プレート上で、細胞コロニーを除去するために1mg/mlディスパーゼを使用して継代培養する。まず多能性幹細胞を6ウェルプレートで4日間、ESC成長培地中で培養し、次いで、1μMオールトランス型レチノイン酸(Sigma)および25ng/ml BMP4を含有する非調整hESC成長培地を含む2ml/ウェルの分化培地に変更することによる、多能性幹細胞のK14+/p63+hEEPへのhEEP分化。7日間の毎日の培地交換後、細胞をディスパーゼで処理し、遠心分離し、ケラチノサイト合成無血清培地(DSFM)中に再懸濁させ、ゼラチン被覆プレート上に1:3の分割比で播種する。DSFMは、3~4週間、1日おきに交換する。次いで、トリプシン処理を使用して細胞を継代培養し、遠心分離し、洗浄し、cm2当たり10,000細胞で、DSFM中のゼラチン被覆組織培養プレート上に播種する。上皮単層が90%以上の純度であり、K14を発現することを検証するために、Metallo et al(2010),Methods Mol Biol 585:83-92の方法に従い、細胞をフローサイトメトリーに供する。単離されたhEEPの純度を高めるために、細胞を、CD29抗体で磁気活性化細胞ソーティング(MASC)を用いて選別した。eHLA-G(EF-1α)-GFP改変されたhESCから分化した、CD29 MASC選別されたhEEP細胞培地細胞の約92パーセントが、K14、すなわち特異的ケラチノサイトマーカーに対して陽性であった。
【0045】
本明細書に記載のようなトランスジェニックeHLA-Gを発現する遺伝子改変された哺乳動物細胞は、HLA-Gを発現しない対応する哺乳動物細胞と比べて低減された免疫原性を有する。例えば、免疫原性は、外因性HLA-Gを発現しない対応する細胞型と比べて、少なくとも約5%から約95%低減され得、例えば、外因性HLA-Gを発現しない同じ細胞型の細胞と比べて、約6%、7%、10%、12%、15%、20%、30%、40%、50%、65%、70%、80%、85%、90%、または別のパーセントだけ低減された免疫原性である。
【0046】
細胞の免疫原性を決定するための方法は、当該技術分野において知られている。例えば、いくつかの実施形態において、HLA-G改変された哺乳動物細胞(例えば、ヒト胚性幹細胞、もしくはHLA-G改変された胚性幹細胞から分化した細胞、もしくは改変前にすでに完全に分化した細胞等)または非改変哺乳動物細胞が、同種異系ナチュラルキラー細胞株(例えば、NK-92)の存在下で培養され、次いで、NK-92細胞により誘導されたHLA-G改変された細胞対非改変細胞に対する毒性が、複数の標準的細胞生存率アッセイのいずれかにより決定される。
【0047】
強化されたHLA-G(eHLA-G)導入遺伝子を含有する核酸
本明細書に記載のようなHLA改変された哺乳動物細胞を生成するために使用される単離された核酸(例えば、哺乳動物プラスミド発現ベクター)は、野生型HLA-G導入遺伝子により駆動される細胞表面発現と比べて増加した細胞表面発現および/またはHLA-Gの分泌を駆動する、強化されたHLA-G「eHLA-G」導入遺伝子を含有する。そのような導入遺伝子は、典型的には、少なくとも3つの別個の成分、すなわちプロモーターおよび5’非翻訳領域(5’UTR)配列、コード配列、ならびに3’非翻訳領域(3’UTR)配列を含む。
【0048】
いくつかの実施形態において、eHLA-G導入遺伝子発現を駆動するために使用されるプロモーターは、少なくとも約7週間から約50週間、例えば8週間、9週間、10週間、12週間、15週間、20週間、25週間、30週間、35週間、40週間、42週間、45週間、47週間、48週間、または少なくとも約7週間から約50週間の別の期間、目的の細胞型におけるeHLA-G導入遺伝子の発現を駆動することができるものである。そのような長期間発現を駆動することができるプロモーターは、例えば、胚性幹細胞、誘導多能性幹細胞、または間葉系幹細胞等の幹細胞を含む複数の細胞型において生じるサイレンシングを回避する上で効果的である。
【0049】
好適なサイレンシング耐性プロモーターは、チャイニーズハムスター延長因子-1アルファ(CHEF-1α)プロモーター(Running Deer et al(2004),Biotechnol.Prog.,20:880-889、およびGenBank受託番号AY188393.1を参照されたい)、マウス幹細胞ウイルス(MSCV)プロモーターのM-U3/R-変異体プロモーター(Swindle et al(2004),J Biol Chem,279:34-41に記載のようなもの)、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター、ヒトβ-アクチンプロモーター、ならびにユビキチンCプロモーターを含むが、これらに限定されない。
【0050】
いくつかの実施形態において、eHLA-G導入遺伝子の発現を駆動するために使用されるプロモーターは、他の細胞型の場合よりも高いレベルで、1つ以上の所望の細胞型において発現される。当業者には、例えば、HLA-G改変された幹細胞が特定の細胞型に分化する場合、その特定の細胞型内において活性である、またはさらにはそれに対して選択的であるプロモーターを選択することが有利となり得ることが理解されるであろう。例えば、所与の組織または細胞型選択的プロモーターに関して、発現レベルは、所望の細胞型において、別の細胞型と比較して約2倍から100倍高くてもよく、例えば、所望の細胞型において、別の細胞型と比較して約3倍、4倍、5倍、10倍、20倍、25倍、30倍、40倍、50倍、70倍、80倍、90倍、または別の倍数だけ高いレベルの発現であってもよい。組織および/または細胞型選択的プロモーターの例は、ニューロン特異的エノラーゼ(ニューロン)、シナプシン(ニューロン)、CaMKII(前脳ニューロン)、HB9(運動ニューロン)、およびドーパミントランスポーター(ドーパミン作動性ニューロン);グリア線維性酸性タンパク質(星状膠細胞);アルブミン(肝臓);α-ミオシン重鎖(αMHC-心筋細胞);ニューロゲニン3および膵臓十二指腸ホメオボックス1(膵臓);ケラチン14(皮膚);ならびにベストロフィン1(網膜色素上皮)のプロモーターを含むが、これらに限定されない。
【0051】
典型的には、eHLA-G導入遺伝子配列は、ヒト(GenBank番号NP_002118.1)またはチンパンジーコンセンサス配列と比べて少なくとも1個から約10個の点突然変異、例えば、上述のHLA-Gタンパク質コンセンサス配列と比べて2、3、4、5、6、7、8、9、または10個の点突然変異を含有するHLA-Gタンパク質をコードする。
【0052】
ヒトコンセンサス野生型配列(配列番号:1)を、以下に示す。
MVVMAPRTLFLLLSGALTLTETWAGSHSMRYFSAAVSRPGRGEPRFIAMGYVDDTQFVRFDSDSACPRMEPRAPWVEQEGPEYWEEETRNTKAHAQTDRMNLQTLRGYYNQSEASSHTLQWMIGCDLGSDGRLLRGYEQYAYDGKDYLALNEDLRSWTAADTAAQISKRKCEAANVAEQRRAYLEGTCVEWLHRYLENGKEMLQRADPPKTHVTHHPVFDYEATLRCWALGFYPAEIILTWQRDGEDQTQDVELVETRPAGDGTFQKWAAVVVPSGEEQRYTCHVQHEGLPEPLMLRWKQSSLPTIPIMGIVAGLVVLAAVVTGAAVAAVLWRKKSSD
【0053】
いくつかの実施形態において、少なくとも1個から約10個の点突然変異は、タンパク質の処理および成熟化の間、小胞体におけるHLA-Gの保持を低減することにより、発現宿主細胞の細胞表面上のHLA-Gタンパク質の発現のレベルを増加させる。そのような突然変異は、例えば、HLA-G「KK」モチーフ突然変異を含む。例えば、Park et al(2001),Immunity,15:213-224を参照されたい。いくつかの場合において、KKモチーフ突然変異は、K334A突然変異、K335A突然変異、または両方の突然変異を含む。他の場合において、置換は、異なる脂肪族アミノ(例えばロイシン)酸、または非塩基性である別の種類の種類のアミノ酸でなされてもよい。
【0054】
一例において、コードされたHLA-Gタンパク質は、(配列番号:2)のアミノ酸配列を有し、野生型配列と比べて、K334AおよびK335A置換が導入されている(下線)。
MVVMAPRTLFLLLSGALTLTETWAGSHSMRYFSAAVSRPGRGEPRFIAMGYVDDTQFVRFDSDSACPRMEPRAPWVEQEGPEYWEEETRNTKAHAQTDRMNLQTLRGYYNQSEASSHTLQWMIGCDLGSDGRLLRGYEQYAYDGKDYLALNEDLRSWTAADTAAQISKRKCEAANVAEQRRAYLEGTCVEWLHRYLENGKEMLQRADPPKTHVTHHPVFDYEATLRCWALGFYPAEIILTWQRDGEDQTQDVELVETRPAGDGTFQKWAAVVVPSGEEQRYTCHVQHEGLPEPLMLRWKQSSLPTIPIMGIVAGLVVLAAVVTGAAVAAVLWRAASSD
【0055】
いくつかの実施形態において、eHLA-G導入遺伝子は、HLA-Gタンパク質をコードし、そのアミノ酸配列は、配列番号:2のアミノ酸配列と少なくとも75%から100%同一であり、例えば、配列番号:2のアミノ酸配列と77%、80%、82%、85%、87%、88%、90%、92%、95%、96%、97%、98%、99%、または別のパーセントだけ同一である。
【0056】
本明細書において開示されるeHLA-G導入遺伝子はまた、HLA-G転写産物の発現/翻訳効率に影響する複数の調節要素を含有する、3’非翻訳(3’UTR)領域を含む。いくつかの実施形態において、eHLA-G導入遺伝子3’UTR配列は、(配列番号:3)の配列と少なくとも75%同一である、例えば、HLA-G 3’UTR(配列番号:3)の配列と少なくとも77%、80%、82%、85%、87%、88%、90%、92%、94%、95%、96%、97%、または別のパーセントだけ同一である核酸配列を含む核酸配列である。
TGTGAAACAGCTGCCCTGTGTGGGACTGAGTGGCAAGTCCCTTTGTGACTTCAAGAACCCTGACTTCTCTTTGTGCAGAGACCAGCCCAACCCTGTGCCCACCATGACCCTCTTCCTCATGCTGAACTGCATTCCTTCCCCAATCACCTTTCCTGTTCCAGAAAAGGGGCTGGGATGTCTCCGTCTCTGTCTCAAATTTGTGGTCCACTGAGCTATAACTTACTTCTGTATTAAAATTAGAATCTGAGTG
【0057】
そのような配列は、導入遺伝子コード化HLA-Gの増加した発現をもたらす2つのmicroRNA結合部位の結合を減少させる突然変異(下線)を含有する。これらの配列は、いくつかのHLA-G対立遺伝子のエクソン8に存在する14塩基対配列の欠失を含む。この14塩基対配列を、配列番号:4として以下に示す。
配列番号:4 HLA 3’UTRにおける14-bp挿入配列
ATTTGTTCATGCCT
【0058】
以下に示される配列番号:5は、この14塩基対配列(小文字)の挿入を有する配列番号:3に対応する。
配列番号:5(+14 BP HLA-G 3’UTR変異体)
TGTGAAACAGCTGCCCTGTGTGGGACTGAGTGGCAAGatttgttcatgcctTCCCTTTGTGACTTCAAGAACCCTGACTTCTCTTTGTGCAGAGACCAGCCCAACCCTGTGCCCACCATGACCCTCTTCCTCATGCTGAACTGCATTCCTTCCCCAATCACCTTTCCTGTTCCAGAAAAGGGGCTGGGATGTCTCCGTCTCTGTCTCAAATTTGTGGTCCACTGAGCTATAACTTACTTCTGTATTAAAATTAGAATCTGAGTG
【0059】
3’UTRを有するHLA-G対立遺伝子は、上述の14塩基挿入(配列番号:4を参照されたい)を含み、より安定なHLA-G mRNA転写産物を生成することが報告されている。Rouseau et al(2003),Human Immunology,64:1005-1010を参照されたい。驚くべきことに、本開示のいくつかの実施形態の1つの基礎として、14塩基対欠失(配列番号:3に示される)を有する対立遺伝子の発現が、14対挿入を含む対立遺伝子よりも免疫防御性であると思われることが、予想外にも判明した。
図13を参照されたい。理論に束縛されることを望まないが、HLA-Gの発現レベルに対する14bp欠失の効果は、細胞型特異的となり得ると考えられ、例えば、14bp欠失は、少なくともhESC、hEEP、およびヒト皮膚線維芽細胞を含むヒト細胞におけるeHLA-Gの発現を明らかに強化する。
【0060】
いくつかの実施形態において、eHLA-G導入遺伝子を含有する核酸配列はまた、eHLA-G発現カセットに隣接するインシュレータ配列を含む。インシュレータ配列は、統合外因性発現カセットの発現に誤って影響し得るゲノム位置の影響を軽減する。いくつかの実施形態において、使用されるインシュレータ配列は、ニワトリβ-グロビンHS4コアインシュレータ配列を含有する。
【0061】
いくつかの実施形態において、eHLA-G導入遺伝子を含有する核酸はまた、本明細書に記載のような選択マーカーを含む。任意選択で、eHLA-G導入遺伝子を含有する単離された核酸は、本明細書に記載のようなレポータータンパク質をさらに含有してもよい。
【0062】
いくつかの実施形態において、eHLA-G改変された細胞株の生成は、eHLA-G発現カセットを含むが、選択マーカーまたはレポータータンパク質に対する発現カセットを含有しないトランスポゾンベクターの使用により生成される。ベクターは、トランスポザーセ発現ベクターと共に、改変される細胞に導入され、続いて限界希釈クローニングが行われる。トランスフェクトされる細胞の集団が非常に効率的に改変されるため、選択マーカーまたはレポータータンパク質を使用する必要性が回避され得る。これは、特にヒト患者における細胞療法に関して使用される細胞について、重要な考慮事項である。トランスポゾンに基く安定なトランスフェクション方法により成功裏に改変される細胞のパーセンテージは、約0.5%から約50%の範囲、例えば、1%、2%、3%、5%、7%、8%、15%、20%、22%、30%、40%、または約0.5%から約50%の別のパーセンテージのトランスフェクトされた細胞であってもよい。
【0063】
いくつかの実施形態において、2つ以上のタンパク質をコードする核酸によりコードされるタンパク質の発現は、別個のプロモーターにより駆動される。他の実施形態において、ポリシストロニック発現カセットは、ポリシストロニック発現カセット内に組み込まれたオープンリーディングフレームの間に1つ以上の内部リボソーム侵入部位(IRES)配列を組み込んでもよい。IRES配列およびその使用は、例えば、Martinez-Salas(1999),Curr Opin Biotechnol,10(5):458-464に例示されるように、当該技術分野において知られている。代替として、複数のオープンリーディングフレームが、口蹄疫ウイルス(F2A)または他のウイルスからの2A様配列の介在2Aペプチド配列によって互いに連結されていてもよい。例えば、Hasegawa et al(2007),Stem Cells,25:1707-1712およびSymczak et al(2004),Nat Biotechnol,589-594を参照されたい。2Aペプチド配列の含有は、eHLA-Gおよび他の配列(例えば、レポータータンパク質配列または選択マーカータンパク質配列)を含有する連続ポリペプチドの、別個のタンパク質への翻訳後切断を可能にする。
【0064】
比較的短いアミノ酸または核酸配列間の同一性は、目視検査によって容易に決定することができるが、より長い配列間の同一性を決定するには、一般に、典型的にはコンピュータソフトウェアにより促進される適切なアルゴリズムを用いた分析が使用される。配列比較アルゴリズムを用いる場合、典型的には、試験配列および参照配列がコンピュータに入力され、必要に応じてサブ配列座標が指定され、配列アルゴリズムプログラムパラメータが指定される。次いで、配列比較アルゴリズムは、指定されたプログラムパラメータに基づいて、参照配列に対する試験配列(複数を含む)のパーセント配列同一性を計算する。迅速に最適なアラインメントを取得し、2つ以上の配列間の同一性を計算するためのいくつかの数学的アルゴリズムが知られており、いくつかの利用可能なソフトウェアプログラムに組み込まれている。そのようなプログラムの例は、アミノ酸配列分析のためのMATCH-BOX、MULTAIN、GCG、FASTA、およびROBUSTプログラム、ならびにヌクレオチド配列のためのSIM、GAP、NAP、LAP2、GAP2、およびPIPMAKERプログラムを含む。アミノ酸およびポリヌクレオチド配列分析の両方の好ましいソフトウェア分析プログラムは、ALIGN、CLUSTALW(例えば、バージョン1.6およびそれ以降のバージョン)、ならびにBLASTプログラム(例えば、BLAST 2.1、BL2SEQおよびそれ以降のバージョン)を含む。
【0065】
アミノ酸またはヌクレオチド配列に関する「同一性」(本明細書においてさらに説明される「局所的同一性」と対比させて「全体的同一性」と呼ばれることもある)は、それぞれ、2つのアミノ酸配列または2つのヌクレオチド配列が互いに最適にアラインされる場合に、2つのそのようなアミノ酸またはヌクレオチド配列において同一であるアミノ酸残基またはヌクレオチド塩基のパーセンテージを指す。最適なアラインメントにおいて、第1の配列における位置が、第2の対応するアミノ酸またはヌクレオチド配列における対応する位置と同じアミノ酸残基またはヌクレオチド残基により占有される場合、配列は、その残基位置に対して同一性を示す。2つの配列の間の同一性(または「パーセント配列同一性」)のレベルは、分析される配列のサイズに関して、配列により共有される同一の位置の数の比として測定される(すなわち、パーセント配列同一性=(同一の位置の数/位置の総数)×100)。
【0066】
また、低、中、または高ストリンジェンシー条件下で、配列番号:2のアミノ酸配列をコードする核酸からの少なくとも100ヌクレオチドのプローブに、または、配列番号:3もしくは5の核酸配列に特異的にハイブリダイズする核酸が、本開示に包含される。
【0067】
低ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件は、本明細書において使用される場合、例えば、2X SSCおよび0.1%SDS中で、42℃で約40%から約70%のGC含量の100ヌクレオチドプローブでのハイブリダイゼーションを含む。中ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件は、例えば、0.5X SSCおよび0.1%SDS中で50℃を含む。高ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件は、例えば、0.2X SSCおよび0.1%SDS中で65℃での上述のプローブでのハイブリダイゼーションを含む。これらの条件下において、ハイブリダイゼーション温度が上昇すると、より高い配列相同性を有する核酸が得られる。
【0068】
eHLA-G遺伝子改変された細胞を含む組成物
本明細書において、1種以上のHLA-G改変された哺乳動物細胞型を含む、またはそれを使用して生成された薬学的組成物、局所用組成物、細胞移植片、および人工組織が包含される。本明細書において示されるように、eHLA-G改変されたhESCは、hEEPへの誘導分化にもかかわらず、安定で持続的なHLA-G発現を示した。さらに、安定で持続的なHLA-G発現は、低減された免疫原性および/または改善された免疫抑制を有する遺伝子改変された細胞を提供した。さらに、本明細書において、完全に分化した細胞であるeHLA-G改変されたヒト皮膚線維芽細胞もまた、低減された免疫原性および/または改善された免疫抑制を提供する安定で持続的なHLA-G発現を有することが示される。したがって、本明細書に記載のeHLA-Gコンストラクトは、遺伝子改変された多能性もしくは多分化能細胞の誘導分化によるか、または完全に分化した細胞の遺伝子改変によるかに関わらず、任意の型の普遍的なドナー細胞を生成するために使用され得る。
【0069】
一態様において、本明細書に記載のようなeHLA-G導入遺伝子を含む遺伝子改変された皮膚線維芽細胞を含む、皮膚再生または修復のための局所用組成物が提供される。別の態様において、本明細書に記載のようなeHLA-G導入遺伝子を含む遺伝子改変された皮膚線維芽細胞を含む、注射用の薬学的組成物が提供される。別の態様において、本明細書に記載のようなeHLA-G導入遺伝子を含む遺伝子改変された皮膚線維芽細胞を含む、皮膚移植組成物が提供される。別の態様において、本明細書に記載のようなeHLA-G導入遺伝子を含む遺伝子改変された胚性上皮前駆細胞を含む、永久皮膚移植組成物が提供される。
【0070】
別の態様において、人工組織用の生体適合性合成骨格、およびその生成のための方法が、当該技術分野において説明され、本明細書に記載のHLA-G改変された細胞と共に使用して、外因性HLA-Gを発現しない細胞を含有する組織と比較して低減された免疫原性および/または改善された免疫抑制を有する人工組織を生成することができる。例えば、米国特許第7,960,166号、名称「Microfabricated compositions and processes for engineering tissues containing multiple cell types」を参照されたい。
【0071】
II.方法
細胞治療処置
本明細書に記載の様式で外因性HLA-Gを安定に発現するように改変された細胞は、低減された免疫原性および/または増加した免疫抑制を有するため、これらの形質により、改質された細胞は、普遍的または改善されたドナー細胞または組織として機能することができる。これは、細胞に提供される、HLA-Gが媒介した免疫原性の低減および/または免疫抑制の改善が、多くの損傷、疾患、または障害において、ドナー細胞と受容者との間の古典的ヒト白血球抗原(HLA)クラスIおよびクラスII分子の種類を一致させる必要性を低減または排除し得るためである。
【0072】
したがって、eHLA-G(および任意選択で追加的に、外因性ヒトβ2ミクログロブリン)を安定して発現するHLA-G改変された細胞は、本明細書に記載のように、治療のために使用され得る。治療は、疾患の原因を処置することを目的としてもよく、または、代替として、治療は、疾患もしくは状態の作用を処置するためのものであってもよい。遺伝子改変された細胞は、対象における損傷部位に、もしくはその近くに移されてもよく、または、細胞は、細胞が損傷部位に移動もしくは戻ることができる様式で、対象に導入されてもよい。移された細胞は、有利には、ダメージを受けたまたは損傷した細胞を置換し、対象の全体的な状態の改善を可能にすることができる。いくつかの例において、移された細胞は、皮膚再生または皮膚修復を含む、組織の再生または修復を刺激することができる。
【0073】
様々な実施形態において、HLA-G改変された哺乳動物細胞(例えば、ヒトHLA-G改変細胞)は、心血管疾患、眼疾患(例えば、黄斑変性症)、聴覚疾患(例えば、難聴)、糖尿病、神経変性疾患、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、骨粗しょう症、肝疾患、腎疾患、自己免疫疾患、関節炎、歯周病、歯の状態、または増殖性疾患(例えば、癌)を含むがこれらに限定されない複数の状態のいずれかに罹患した対象に投与される。他の場合において、対象は、急性の健康状態、例えば、脳卒中、脊髄損傷、火傷、または創傷に罹患している、または罹患するリスクが高い。他の場合において、対象は、皮下脂肪萎縮症または加齢関連のコラーゲンの損失等の組織の損失に罹患している。他の場合において、対象は、非治癒性潰瘍に罹患している、または尿道下裂や尿道上裂などの欠陥の閉鎖を補助するための薬剤を必要としている。他の場合において、対象は、創傷治癒または皮膚代用品のための永久的または一時的皮膚移植片を必要としている。
【0074】
一態様において、本発明は、細胞または組織移植を必要とする対象へのその普遍的方法であって、eHLA-G改質された細胞の集団を含む細胞または組織組成物を対象に注入する、または移植することを含み、対象は、eHLA-G改質された細胞の集団と比較して、少なくとも1つのミスマッチ古典的HLAクラスIまたはHLAクラスII分子を有し、eHLA-G改変された細胞の集団は、eHLA-G改変を有さない同じ型の細胞と比較して、低減された免疫原性および/または改善された免疫抑制を示す、普遍的方法を提供する。低減された免疫原性および/または改善された免疫抑制は、例えば、NK-92細胞毒性アッセイ、ヒト化NSG腫瘍成長アッセイ、および/またはPBMC増殖アッセイにおいて、eHLA-G改質された細胞を、eHLA-G改質を有さない同じ型の対照細胞と比較することにより決定され得る。
【0075】
別の態様において、本発明は、皮膚再生を必要とする対象へのそのための方法であって、eHLA-G改変された皮膚線維芽細胞および/またはeHLA-G改変された胚性表皮前駆細胞の集団を、対象における皮膚損傷の部位に注入することを含み、対象は、eHLA-G改変された皮膚線維芽細胞および/またはeHLA-G改変された胚性表皮前駆細胞の集団と比較して、少なくとも1つのミスマッチ古典的HLAクラスIまたはHLAクラスII分子を有する方法を提供する。
【0076】
HLA-G改変された細胞型を必要とする対象に投与されるHLA-G改変された細胞型は、表皮前駆細胞、間葉系幹細胞、膵臓β細胞前駆細胞、膵臓β細胞、心臓前駆細胞、心筋細胞、肝前駆細胞、肝細胞、筋細胞前駆細胞、筋細胞、腎細胞、骨芽細胞、造血前駆細胞、歯小嚢細胞、毛包細胞、網膜色素上皮細胞、神経幹細胞、ニューロン、星状膠細胞、乏突起膠細胞、またはそれらの任意の組み合わせを含むが、これらに限定されない。そのような哺乳動物細胞は、例えばヒト、マウス、ラット、サル、またはブタを含むいくつかの種の1つから得ることができる。
【0077】
治療は、疾患の原因を処置することを目的としてもよく、または、代替として、治療は、疾患もしくは状態の効果を処置するためのものであってもよい。HLA-G改変された細胞は、対象における損傷部位に、もしくはその近くに移されてもよく、または、細胞は、細胞が損傷部位に移動もしくは戻ることができる様式で、対象に導入されてもよい。移された細胞は、有利には、ダメージを受けたまたは損傷した細胞を置換し、対象の全体的な状態の改善を可能にすることができる。いくつかの例において、移された細胞は、組織再生または修復を刺激することができる。
【0078】
移された細胞は、HLA-G改変された多能性(または分化全能性)幹細胞から分化した細胞であってもよい。移された細胞はまた、多能性のHLA-G改変された細胞から分化した多分化能幹細胞であってもよい。
【0079】
対象への治療剤の投与回数は変動し得る。対象へのHLA-G改変された、および/または分化した細胞の導入は、1回限りの事であってもよいが、ある特定の状況下において、そのような処置は、限られた期間の改善を誘発し、継続的な一連の反復処置を必要とし得る。他の状況において、効果が観察される前に、細胞の複数回投与が必要とされ得る。当業者により理解されるように、正確な処置プロトコルは、疾患または状態、および疾患の段階、ならびに処置される個々の対象のパラメータに依存する。
【0080】
HLA-G改変された細胞は、非経口、静脈内、動脈内、筋肉内、皮下、皮内、気管内、腹腔内、または髄液内の経路のいずれかにより、対象に導入され得る。
【0081】
HLA-G改変された細胞は、細胞に分化され、次いで様々な疾患または障害に罹患している対象に移されてもよい。
【0082】
膵島細胞(またはランゲルハンス島の一次細胞)は、糖尿病(例えば、糖尿病1型)に罹患している対象に移植することができ、例えば、Burns et al.,(2006)Curr.Stem Cell Res.Ther.,2:255-266を参照されたい。したがって、いくつかの実施形態において、HLA-G改変された細胞から得られた膵臓ベータ細胞が、糖尿病(例えば、糖尿病1型)に罹患している対象に移植される。
【0083】
他の例において、HLA-G改変された細胞から得られた肝細胞または肝幹細胞が、肝臓疾患、例えば肝炎、肝硬変または肝不全に罹患している対象に移植される。
【0084】
虚血性心筋症、伝導疾患、および先天性欠陥等の退行性心疾患は、幹細胞治療から恩恵を受けることができる。例えば、Janssens et al.,(2006),Lancet,367:113-121を参照されたい。
【0085】
HLA-G改変された細胞から得られた造血細胞または造血幹細胞(HSC)は、血液の癌、または他の血液もしくは免疫性障害に罹患している対象に移植され得る。造血細胞又はHSCにより処置され得る血液の癌の例は、急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄芽球性白血病、慢性骨髄性白血病(CML)、ホジキン病、多発性骨髄腫、および非ホジキンリンパ腫を含む。多くの場合、そのような疾患に罹患している対象は、急速に分裂する血液細胞を死滅させるために、放射線および/または化学治療処置を受けなければならない。HLA-G改変された細胞から得られたHSCのこれらの対象への導入は、枯渇した蓄積細胞の再生成を助けることができる。
【0086】
神経学的疾患または障害に罹患している対象は、血液脳関門が侵害された可能性がある場合は特に、HLA-G改変された細胞による治療から特に恩恵を受けることができる。いくつかのアプローチにおいて、HLA-G改変された細胞は、神経学的状態、例えばアルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、脳梗塞、脊髄損傷、または他の中枢神経系障害を処置するために、神経幹細胞またはニューロンに分化され、次いで損傷部位に移植されてもよく、例えば、Morizane et al.,(2008),Cell Tissue Res.,331(1):323-326、Coutts and Keirstead(2008),Exp.Neurol.,209(2):368-377、Goswami and Rao(2007),Drugs,10(10):713-719を参照されたい。
【0087】
パーキンソン病の処置のためには、HLA-G改変された細胞は、ドーパミン作動性ニューロンに分化され、次いでパーキンソン病に罹患した対象の線条体に移植され得る。多発性硬化症の処置のためには、神経幹細胞は、乏突起膠細胞または乏突起膠細胞の前駆細胞に分化され、次いでこれがMSに罹患している対象に移される。
【0088】
任意の神経学的疾患または障害の処置のためには、成功するアプローチは、対象に神経幹細胞を導入することであり得る。例えば、アルツハイマー病、脳梗塞または脊髄損傷を処置するために、HLA-G改変された細胞は、神経幹細胞に分化され、続いて損傷部位に移植されてもよい。HLA-G改変された細胞はまた、脳および脊髄修復のためのその移動を病変へ標的化し得る合図に反応するように操作されてもよく、例えば、Chen et al.,(2007),Stem Cell Rev.,3(4):280-288を参照されたい。
【0089】
任意選択で、細胞治療方法にあるべきHLA-G改変された細胞はまた、本明細書に記載のようなレポータータンパク質を発現する。いくつかの実施形態において、使用されるレポータータンパク質は、導入された細胞のin vivo検出(例えば、画像化)を促進するものである。例えば、細胞は、遠赤色発光蛍光タンパク質、例えば、長い励起および発光波長が組織内の画像化に十分適しているKatushkaを発現してもよい。Katushkaは、「TurboFP635」(Evrogen、Moscow、Russia)の商品名で市販されている。
【実施例】
【0090】
以下の具体的な実施例は、単に例示であり、いかなる様式においても本開示の残りの部分を限定するものではないと解釈されるべきである。さらなる詳細を伴わずに、当業者は、本明細書における説明に基いて、本発明を最大限に利用することができると考えられる。本明細書において引用される全ての出版物は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。URLまたは他のそのような識別子もしくはアドレスに対して言及がなされる場合、そのような識別子は変更される可能性があり、インターネット上の具体的な情報は移り変わる可能性があるが、同等の情報は、インターネットを検索することにより発見することができると理解される。それに対する参照は、そのような情報の利用可能性および公開普及を証明する。
【0091】
実施例1 癌細胞の免疫寛容に関連する遺伝子発現パターンの同定
ヒト軟組織癌アレイを、まず、おそらくは免疫監視機構の回避により、転移状態への癌の進行と共に増加する発現を示す候補免疫寛容遺伝子を求めてスクリーニングした。データは、正常な転移と、以前に免疫寛容に関与したいくつかの遺伝子の発現レベルとの間の強い正の相関を明らかにした。MSCが免疫寛容および同種移植片受容を誘導し得るかどうかを評価するために、MSCをRT-PCRによりクロススクリーニングし、これらの候補遺伝子およびいくつかの抗原HLAの発現レベルを検査した。表1は、継代1のMSCが、CD200、CD47、およびインドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)の他に、HLAクラスIa、HLA-GおよびIIマーカーを発現したことを示している。MSCの集団は、攻撃的転移能を有する癌株であるJEG-3に見られるものよりも少ないものの、中程度のレベルでHLA-Gを発現することが見出された。
【表1】
【0092】
in vivoでのMSCの免疫抑制効果は一過性であると思われるため、MSCを連続的に継代し、選択された遺伝子の発現レベルの変化を監視した。継代3までには、天然HLA-G発現はMSCにおいて見られなかったが、他の候補マーカーは不変のままであった。Jeg-3細胞においては、HLA-G発現は変化しなかった。次いで、FACSを使用した細胞表面HLA-Gの発現に基いてMSCを単離すると、0.5~3%の間のMSCが細胞表面でHLA-Gを発現することが判明した。HLA-G
+MSCのin vivoでドナー拒絶を免れる能力を評価するために、1~3×10
5細胞を、免疫応答性マウスの尾静脈内に注射した。血液サンプル(200μl)を眼窩叢から回収し、抗ヒトHLAクラスI特異的mAbを用いてFACS選別した。表2は、移植から1週間後、HLA-G+MSC(およびJeg-3細胞)が、HSCおよびJurkat細胞(両方ともHLA-G
-)に勝る、それぞれ24倍および270倍の延命効果を示したことを示している。2週間までに、HLA-G
+MSCの効果は、27倍および311倍に増加した。HLA-G
-MSCは、HSCと同じ割合で生存したが、これは、MSCのHLA-G
+亜集団が、in vivo設定において、非選別MSCに比べて強化された寛容化の効果を示し得ることを示唆している。実際に、事後分析では、Jeg-3細胞を用いた移植から12週間後の免疫応答性マウスの肺において明らかな腫瘍が認められたが、G
+MSCでは認められなかった(データは示さず)。
【表2】
【0093】
次に、改変されたHLA-Gコンストラクトを、HF(ヒト線維芽細胞)およびK562細胞において過剰発現させ、ヒトNK細胞による溶解に対する保護について試験した(表3)。NK媒介性の細胞毒性は、HLA-G
+HFにおいて75%減少し、HLA-G+K562細胞で事実上排除された。これは、アイソタイプ対象ではなく中和抗HLA-G(87G)抗体でのインキュベーションにより逆転した、HLA-G
+Jeg-3の観察された保護と一致している。これらのデータは、NK殺傷からの保護が、HLA-G-依存的であったことを示唆している。
【表3】
【0094】
以前の研究では、突然変異MSCVプロモーター、M-U3/Rが、10週間の培養を通してサイレンシングの圧力を回避することが示された。我々の研究は、M-U3/Rが、1年の連続培養後にサイレンシングに耐え、4~6週間の培養によりサイレンシングされた野生型プロモーターよりも優れることを示した。さらに、3’UTRの突然変異または欠失は、ER回収モチーフの突然変異が行ったように、HLA-G表面発現を強化した。より高いHLA-G表面発現は、細胞毒性溶解と不の相関を有し、最適な遺伝子送達コンストラクトを使用することの重要性を高めた。
【0095】
実施例2 ヒト胚性幹細胞のヒト表皮前駆細胞(hEEP)への培養および分化
別段の指定がない限り、全ての組織培養試薬は、Life Technologiesからのものであった。ESC成長培地は、20%ノックアウト血清代替物、0.1mM MEM非必須アミノ酸、1mM GlutaMax、0.1mM β-メルカプトエタノール(Sigma)を添加したDMEM/F12(1:1)を含有する。有糸分裂不活性化されたマウス胚性線維芽細胞(MEF)(CF-1、ATCC)を、5×104細胞/cm2の密度で播種し、18~24時間インキュベートすることにより、ESC成長培地を調整した。調整後、4ng/ml bFGFを添加し、完全調整培地を滅菌濾過した。hESCを、5~6日毎に(1:3または1:4分割で)、Matrigel被覆プレート上で、細胞コロニーを除去するために1mg/mlディスパーゼを使用して継代培養した。K14+/p63+hEEPを、Metallo et al(上記参照)の方法に従って生成した。簡単に述べると、hESCを6ウェルプレートで4日間培養し、次いで、1μMのオールトランス型レチノイン酸(Sigma)および25ng/mlのBMP4を含有する無条件のhESC成長培地を含む、2ml/ウェルの分化培地で処理した。7日間の毎日の培地交換後、細胞をディスパーゼで処理し、遠心分離し、ケラチノサイト合成無血清培地(DSFM)中に再懸濁させ、ゼラチン被覆プレート上に1:3の分割比で播種した。DSFMは、3~4週間、一日おきに交換する。次いで、トリプシン処理により細胞を継代培養し、遠心分離し、洗浄し、cm2当たり10,000細胞で、DSFM中のゼラチン被覆組織培養プレート上に播種した。ケラチノサイト合成無血清培地中で14日後、表皮シート構造の形成を特徴とするような表皮分化の初期の兆候が、顕微鏡法により観察された。4週間の培養後、表皮シート内の細胞は、立方体形態を有する典型的な表皮分化表現型を示した。
【0096】
細胞からの全RNAの単離および逆転写酵素反応は、Zhao et al(2010),Tissue Eng Part A,16(2):725-733において以前に説明されている。
図12に示すように、目的の遺伝子の特異的プライマーを使用して、Hybaid Omnigeneサーマルサイクラー(Bio-rad、Hercules、CA)において特異的PCR増幅を行った。PCR条件は、94℃で30秒間、65℃で1分間、および72℃で1分間の35サイクルからなり、72℃で10分間の最終伸長を行った。10μlの各PCR産物が、エチジウムブロマイドゲル電気泳動により検出された。
図12のデータは、表皮分化マーカーK14、Tap63、およびΔNp63が、分化中に徐々に強化されたことを示している。ここには示されていないデータにおいて、K14ならびに追加の表皮マーカーp63、CD29、およびCD49fの免疫蛍光試験が行われた。分化したeHLA-G(EF-1a)-GFP hEEPは、免疫蛍光により示されるように、K14、p63、CD29、およびCD49fタンパク質発現に関して陽性であった。
【0097】
上皮単層が90%以上の純度であり、K14を発現することを検証するために、Metallo et al(上記参照)の方法に従って細胞をフローサイトメトリーに供し、BD FACS Canto IIで分析した。EP(表皮前駆細胞)へのhESC分化に対するeHLA-G導入遺伝子発現(eHLA-G(EF1-α)-GFP-hESC)の影響を、野生型、G
-、およびG
+-hEEPのK14陽性の程度を比較することにより評価した。単離されたhEEPの純度を高めるために、細胞を、CD29抗体で磁気活性化細胞ソーティング(MASC)を用いて選別した。eHLA-G(EF-1α)-GFP改変されたhESCから分化した、CD29 MASC選別されたhEEP細胞培地細胞の約92パーセントが、K14、すなわち特異的ケラチノサイトマーカーに対して陽性であった。精製されたhEEPは、位相差顕微鏡法により示されるように、相同的なケラチノサイト形態を示した(
図16を参照されたい)。
【0098】
分化したhEEPにおけるHLA-G導入遺伝子の安定性は、フローサイトメトリーにより確認された。HLA-G全発現および表面発現は両方とも、外因性HLA-Gを有さない対照細胞(GFPのみのhEEP)および野生型hEEPと比較して、分化したeHLA-G(EF-1a)-GFP-hEEPに対して堅牢であった(細胞の90%超)(
図17を参照されたい)。野生型細胞と同様の分化能を生成するクローンのみを、さらなる試験に選択した。
【0099】
実施例3 eHLA-Gコンストラクト設計およびhESCにおける安定な発現
1)HLA-GのER回収モチーフの突然変異(K334A/K335A)、および2)HLA-Gの3’UTR microRNA結合部位の突然変異の複数の改変を組み合わせることにより、新規HLA-Gコンストラクトを設計した。ウイルス遺伝子送達系は、依然として深刻な規制の課題であるため、最近H1 hESCにおいて90%のトランスフェクション効率を達成することが示された(Lacoste et al(2009),Cell Stem Cell,5:332-342.)トランスポゾンベースの非ウイルスアプローチである、PiggyBacシステムを使用した。このシステムは、トランスポゾンを含有するドナープラスミド(
図1A)およびトランスポザーセを発現するヘルパープラスミド(
図2)を必要とする。ヘルパープラスミドを生成するために、ePiggyBacコドンヒト化トランスポザーセcDNAをカスタム合成し(GeneArt)、次いでPGKプロモーターの下流側およびSV40ポリアデニル化シグナル配列(pA)の上流側をpBluescript(Stratagene)でクローニングした。eHLA-G発現カセットのために、M-U3/Rプロモーター、MSCVプロモーター、およびチャイニーズハムスターEF1α(CHEF-1α)プロモーターを含む複数のプロモーターを比較したが、その配列を配列番号:6として以下に示す。
(配列番号:6)-CHEF-1αプロモーターの一実施形態
GGATGGCGGGGCTGACGTCGGGAGGTGGCCTCCACGGGAAGGGACACCCGGATCTCGACACAGCCTTGGCAGTGGAGTCAGGAAGGGTAGGACAGATTCTGGACGCCCTCTTGGCCAGTCCTCACCGCCCCACCCCCGATGGAGCCGAGAGTAATTCATACAAAAGGAGGGATCGCCTTCGCCCCTGGGAATCCCAGGGACCGTCGCTAAATTCTGGCCGGCCTCCCAGCCCGGAACCGCTGTGCCCGCCCAGCGCGGCGGGAGGAGCCTGCGCCTAGGGCGGATCGCGGGTCGGCGGGAGAGCACAAGCCCACAGTCCCCGGCGGTGGGGGAGGGGCGCGCTGAGCGGGGGCCCGGGAGCCAGCGCGGGGCAAACTGGGAAAGTGGTGTCGTGTGCTGGCTCCGCCCTCTTCCCGAGGGTGGGGGAGAACGGTATAAAAGTGCGGTAGTCGCGTTGGACGTTCTTTTTCGCAACGGGTTTGCCGTCAGAACGCAGGTGAGTGGCGGGTGTGGCCTCCGCGGGCCCGGGCTCCCTCCTTTGAGCGGGGTCGGACCGCCGTGCGGGTGTCGTCGGCCGGGCTTCTCTGCGAGCGTTCCCGCCCTGGATGGCGGGCTGTGCGGGAGGGCGAGGGGGGGAGGCCTGGCGGCGGCCCCGGAGCCTCGCCTCGTGTCGGGCGTGAGGCCTAGCGTGGCTTCCGCCCCGCCGCGTGCCACCGCGGCCGCGCTTTGCTGTCTGCCCGGCTGCCCTCGATTGCCTGCCCGCGGCCCGGGCCAACAAAGGGAGGGCGTGGAGCTGGCTGGTAGGGAGCCCCGTAGTCCGCATGTCGGGCAGGGAGAGCGGCAGCAGTCGGGGGGGGGACCGGGCCCGCCCGTCCCGCAGCACATGTCCGACGCCGCCTGGACGGGTAGCGGCCTGTGTCCTGATAAGGCGGCCGGGCGGTGGGTTTTAGATGCCGGGTTCAGGTGGCCCCGGGTCCCGGCCCGGTCTGGCCAGTACCCCGTAGTGGCTTAGCTCCGAGGAGGGCGAGCCCGCCCGCCCGGCACCAGTTGCGTGCGCGGAAAGATGGCCGCTCCCGGGCCCTGTAGCAAGGAGCTCAAAATGGAGGACGCGGCAGCCCGGCGGAGCGGGGCGGGTGAGTCACCCACACAAAGGAAGAGGGCCTTGCCCCTCGCCGGCCGCTGCTTCCTGTGACCCCGTGGTGTACCGGCCGCACTTCAGTCACCCCGGGCGCTCTTTCGGAGCACCGCTGGCCTCCGCTGGGGGAGGGGATCTGTCTAATGGCGTTGGAGTTTGCTCACATTTGGTGGGTGGAGACTGTAGCCAGGCCAGCCTGGCCATGGAAGTAATTCTTGGAATTTGCCCATTTTGAGTTTGGAGCGAAGCTGATTGACAAAGCTGCTTAGCCGTTCAAAGGTATTCTTCGAACTTTTTTTTTAAGGTGTTGTGAAAACCACCG
【0100】
ドナープラスミドを生成するために、313bpのT53C/C136T突然変異5’末端反復(TR)および235bpの3’TR(Lacoste(上記参照)に記載のように)をカスタム合成し、以下の発現カセットのそれぞれ上流側および下流側をクローニングした:eHLA-G、250bpニワトリβ-グロビンHS4コアインシュレータ(Recillas-Targa et al(2002),PNAS USA,99:6883-6888)、EGFP、およびpA。抑圧的クロマチンの統合コンストラクトへの広がりを防止するために、HS4を使用した。EGFP発現は、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター(
図1Aを参照されたい)により駆動された。HS4要素の配列を、配列番号:7として以下に示す。
(配列番号:7)HSF要素の一実施形態
GAGCTCACGGGGACAGCCCCCCCCCAAAGCCCCCAGGGATGTAATTACGTCCCTCCCCCGCTAGGGGGCAGCAGCGAGCCGCCCGGGGCTCCGCTCCGGTCCGGCGCTCCCCCCGCATCCCCGAGCCGGCAGCGTGCGGGGACAGCCCGGGCACGGGGAAGGTGGCACGGGATCGCTTTCCTCTGAACGCTTCTCGCTGCTCTTTGAGCCTGCAGACACCTGGGGGATACGGGGAAAAAGCTT
【0101】
空のベクタードナープラスミド(HLA-G
-)は、eHLA-Gコンストラクトが除外されることを除いてeHLA-Gドナープラスミドと同一であった(
図1B)。遺伝子導入の前に、hESCを、実質的に解離誘導性アポトーシスを低減し、クローニング効率を増加させることが示されている(Watanabe et al(2007),Nat Biotechnol,25:681-686)ROCK阻害剤である、10μMのY-27632で1時間処理した。hESCを、0.25%トリプシン-EDTA中、37℃で5分間解離させ、調整されたmTeSR培地およびY-27632中で洗浄し、ヌクレオフェクション溶液L(Amaxa)中に再懸濁させた。1.5×10
5細胞当たり3μgのヘルパープラスミドおよび6μgのトランスポゾンドナープラスミドを添加し、プログラム設定B-016でヌクレオフェクションを行った。次いで、クローン選択のために、hESCを、CMおよびY-27632中、6cmの皿当たり2×10
5細胞で播種した。24時間後、培養培地をCMのみに変更し、次いでその後毎日変更した。導入遺伝子サイレンシングは、hESCにおいて頻繁であり、単一トランスジェニック細胞の一部のみがマークされた細胞株を生成するため(Braam et al(2008),Nat Methods,5:389-392)、最も高いtdT/eHLA-Gの二重発現を有するクローンを、抗生物質耐性またはフローサイトメトリーではなく蛍光顕微鏡を使用して選択した。
【0102】
実施例4 ePiggyBac遺伝子送達系の評価
トランスフェクトされた細胞を、CMおよびY-27632中、6cm皿当たり2×10
3細胞で24時間播種し、次いでCMのみに変更することにより、eHLA-Gトランスフェクション効率を決定した。次いで、培地を7日間毎日交換し、実施例5で説明されるように、コロニーを生細胞染色および免疫蛍光顕微鏡法により評価した。各クローンに対して、3つの高倍率視野を計数し、レポータータンパク質
+/eHLA-G
+hESCのパーセンテージを計算した。この実験の結果を、
図3~4に示す。Lacoste et al(上記参照)に記載のように、プラスミドレスキュー戦略を使用してeHLA-G挿入部位を決定した。簡単に説明すると、ゲノムDNAを、トランスジェニックhESCクローンから単離し、BamHI/BglII/NotIで消化し、T4 DNAリガーゼで、16℃で一晩、低濃度で自己連結させ、100%イソプロパノールで沈殿させ、70%エタノールで洗浄してから、DH10B大腸菌中で転換し、アンピシリン上で選択した。SplinkTA PCRを使用して、eHLA-Gコピー数を決定した。核型安定性を評価するために、標準的なGバンド法を20継代毎に行った。eHLA-Gおよびレポータータンパク質遺伝子サイレンシングを、フローサイトメトリーを使用して10継代毎に評価した。解離および分析の前に、hESCを10μM Y-27632で1時間処理した。次いで、細胞を、0.25%トリプシン-EDTAで、37℃で5分間解離させ、CMおよびY-27632中で洗浄し、0.1%BSAおよび0.5mM EDTAを含有する氷冷PBS中に再懸濁させ、次いでBD FACS Canto IIフローサイトメーター(Becton Dickinson)を使用して分析した。
図8および9に示されるように、継代16において、本質的にEGFPまたはeHLA-G発現のサイレンシングは観察されなかった。以下の免疫細胞化学的検出により、20継代毎に多能性を評価した:1)多能性マーカーOct3/4、SSEA-4、Sox2およびNanog(
図5および6)、2)レポータータンパク質
+/eHLA-G
+胚様体形成(
図7)、ならびに3)分化したトランスジェニックhESCの内胚葉マーカーGata 6、中胚葉マーカー筋アクチン、および外胚葉マーカーニューロフィラメント重鎖(データは示さず)(全てLeica CTR6500蛍光顕微鏡を使用)。特に指定がない限り、すべての抗体は、Abcamからのものであった。
【0103】
実施例5 eHLA-Gおよび他のHLAタンパク質の細胞表面局在化
生細胞染色を使用して、トランスジェニックウイルス野生型hESCおよびhEEPにおける細胞表面HLAクラスIa、HLA-E、eHLA-G、およびHLAクラスII発現を検出した。簡単に述べると、細胞を回収して冷PBS中で洗浄し、10%ヤギ血清および3%BSAを含有するPBS中で、4℃で60分間、対応する1度のmAbで染色し、洗浄し、1%パラホルムアルデヒドで10分間固定し、続いて4℃で30分間、FITCと複合体化したヤギ抗マウスIgGで染色した。対照アリコートをアイソタイプ適合IgGで染色し、標的細胞への非特異的結合を評価した。特異的結合のみを達成するための最適条件を決定するために、各抗体(HLA-Gの場合MEMG/9、HLA-Eの場合MEM-E/08、HLAクラスIaの場合Bu8、およびHLAクラスIIの場合HKB1(Abbiotec、San Diego、CA))を、まずいくつかの希釈で試験した。染色後、細胞をスライドガラス上に塗抹し、空気乾燥させ、次いでDAPI(Vector Laboratories)を含有する抗退色媒体を載せた。Leica CTR6500蛍光顕微鏡下で速やかにスライドを観察した。
図5および10に示されるように、HLA-A、B、C;HLA-E、HLA-DP、DQ、DR、およびβ-ミクログロブリンの発現は、野生型およびeHLA-G改変されたヒトES細胞において同様であり、一方、約7倍高いレベルのHLA-G発現が、eHLA-G改変されたヒトES細胞において観察された。
【0104】
実施例6 NK-92細胞誘導細胞毒性に対するeHLA-G発現の評価
eHLA-Gを発現するhESCを培養し、実施例2に記載のようにhEEPに分化させた。NK-92細胞(CRL-2407、American Type Culture Collection、Manassas、VA)を、12.5%FBS、12.5%ウマ血清、0.2mMイノシトール、0.1mM β-メルカプトエタノール、0.02mM葉酸および100IU/ml組み換えIL-2(Sigma)を添加した最小必須培地アルファ培地(α-MEM、Invitrogen)中で、37℃で、5%CO2加湿インキュベータ内で培養した。
【0105】
細胞毒性は、プロトコルの指示に従い、CytoTox96 Non-Radioactive Cytotoxicity Assay Kit(Promega、Madison、WI)を使用して行った。簡単に述べると、U底96ウェルプレート(Costar、Cambridge、MA)内で、エフェクター細胞を、5×103標的細胞と、様々なNK-92(エフェクターもしくは「E」)対hESCまたはhEEP(標的もしくは「T」)のE:T細胞比で混合した。加湿5%CO2インキュベータ内で、37℃で4時間後、50μlの上清を回収し、LDH放出を測定した。LDHの標的細胞自然放出および最大放出、ならびにLDHのエフェクター細胞自然放出を、これらの細胞を培地のみでインキュベートすることにより測定した。各アッセイは、3回行い、結果を溶解%のパーセンテージとして表した。特定の溶解のパーセンテージは、以下のように決定した:(実験放出-エフェクター自然放出-標的自然放出/標的最大放出-標的自然放出)×100。全ての実験において、自然放出は最大放出の10%未満であった。
【0106】
図11に示されるように、1:10のE:T比において、eHLA-Gを発現するhESCの死滅は、GFPのみを発現する野生型細胞と比べて50%超低減された。1:30のE:Tにおいて、hESCを発現するeHLA-Gの死滅は、約75%低減された。野生型hESCは、両方のE:T比(GFP単独)において示されるように、妥当な割合で死滅する。さらに、K562細胞における3’UTR(Del 14 bp)HLA-G対立遺伝子の発現は、(Ins 14bp)HLA-G対立遺伝子を発現するK562細胞、および改変されていないK562細胞において観察されるものに比べて、減少したNK細胞誘導細胞毒性をもたらすことが示された。
図13を参照されたい。
【0107】
図11の結果が繰り返され、追加のNK細胞毒性実験で確認された。
図18に示されるように、eHLA-G(EF-1a)-GFP-hESCの死滅は、GFP導入遺伝子のみを含有する対照hESC(HLA-G導入遺伝子を有さない)と比較して、100%超低減された。このデータは、HLA-G導入遺伝子発現が、hESCにおける免疫抑制および/または低減された免疫原性の特性を付与することを示す。
【0108】
また、NK細胞毒性実験を、hESCから分化したhEEPに対して行った。
図19に示されるように、eHLA(EF-1α)-GFP-hESCから分化したeHLA(EF-1α)-GFP-hEEPの死滅は、対照hEEPと比較して、100%超(約3倍)十分に低減された。このデータは、eHLA(EF-1α)-GFP導入遺伝子が分化のプロセスを通して安定で持続的であり、HLA-G発現が、分化した細胞において免疫抑制および/または低減された免疫原性の特性を付与することができることを示している。
【0109】
実施例7 ヒト化マウスにおける同種移植による、e-HLA-G
+
細胞のIn Vivoでの免疫原性の決定
最近、ヒト末梢血リンパ球(Hu-PBL-NSG)を有するが、野生型免疫不全NSGマウスではないヒト化マウスモデルが、移植後1~2週間以内にミスマッチヒト膵島を拒絶することが示された(King et al(2008),Clin Immunol,126:303-314)。移植片対宿主病(GVHD)は4~5週で開始するが、安楽死の基準が満たされるまで移植片の生存を監視する。より低レベルのGVHDのみが存在する場合、我々は観察枠を拡張することができる。NSGマウス(6週齢の雌)を、Jackson Laboratoryから購入し、Institutional Animal Care and Use CommitteeのガイドラインおよびGuide for the Care and Use of Laboratory Animals(Institute of Laboratory Animal Resources、National Research Council、National Academy of Sciences)における推奨に従って取り扱う。機能性ヒト化NSGマウスを、約20×106ヒトPBMCのNSGマウスへの静脈内注射により生成した(Pearson et al(2008),Curr Protoc Immunol,Ch.15:Unit15.21、およびKing et al(上記参照)に従う)。約4週目で、EDTA被覆毛細管(Drummond Scientific)およびEDTA処理された1.5ml管(Eppendorf)を使用して、麻酔されたマウスの後眼窩静脈叢から血液を採取することにより、生着を検証した。次いで、ヒトCD45陽性のために、King et al(上記参照)に従い、FACS分析により細胞を処理した。4週目に血液中0.1%に達するヒトCD45+細胞のレベルは、生着の成功とみなされ、同種移植拒絶試験を可能とする。
【0110】
典型的に使用されるhESCおよびhEEP培養系は、細胞を、シアル酸Neu5Gc等の免疫原性動物誘導体に暴露する(Martin et al(2005),Nat Med,11:228-232)。したがって、最近Neu5Gcレベルを大幅に低減することが示された(Heiskanen et al(2007),Stem Cells,25:197-202)汚染除去ステップが追加されてもよい。hESCは、1)Ludwig et al(2006),Nat Biotechnol,24:185-187の方法に従う、ヒトマトリックス被覆プレート上での、bFGF、LiCl、GABA、およびピペコリン酸を添加したTeSR1培地中での培養、ならびに2)熱不活性化血液型AB Rh-ヒト血清(Heiskanen et al(2007),Stem Cells,25:197-202)によるKSR置換の、2つのアプローチを使用してNeu5Gcを除染することができる。両方の方法で培養されたhESCは、抗Neu5Gc mAbによるインキュベーションにより評価することができ、またフローサイトメトリーにより分析することができる。Ludwig et alの方法は、hESCの適応を必要とし得るため、第2のアプローチが採用され得る。hEEPは、その製造者に従い動物誘導体を含まないDFSM中で培養される。
【0111】
HLA-G改変された細胞による同種移植を行う目的は、HLA-G発現が、腫瘍サイズの増加により示されるように免疫原性を低減するかどうかを評価することである。移植前に、意図される注射部位を、臨床観察を容易にするために剃毛した。常に、麻酔の適切な使用を含む動物ガイドラインに従った。5×10
6のトランスジェニックeHLA-G
+およびHLA-G
-hESCを、注射部位をマークするために墨汁を含有する100μlの適切な培地中に再懸濁させた。これは、観察される蛍光が不十分である場合に、組織学的評価を容易化する。細胞を、5匹の3カ月齢Hu-PBL-NSGマウスの胸部乳房脂肪パッドに皮下注射した。これらの同種移植片の結果を、
図20および21に示す。「G0」hESCは、eHLA-G導入遺伝子を含有せず、GFPのみを含有する対照ESCである。「mG1(#1)」および「mG1(#2)」は、2つの異なるeHLA-G(EF-1α)-GFPヌクレオフェクトされたhESCクローンを指す。
図20に示されるように、G0、mG1(#1)、およびmG1(#2)腫瘍を測定および秤量した。G0 hESCは、126.9立方ミリメートルの体積および32ミリグラムの重量を有する腫瘍を形成した。mG1(#1)hESCは、748.4立方ミリメートルの体積および318ミリグラムの重量を有する腫瘍を形成した。mG1(#2)hESCは、1116.7立方ミリメートルの体積および675ミリグラムの重量を有する腫瘍を形成した。
【0112】
図21は、5匹のヒト化NSGマウスへのhESC同種移植からの腫瘍の平均した結果を示す。データは、HLA-GヌクレオフェクトされたhESC(「mG1」)が、ヒト化NSGマウスに移植された野生型hESC(「G0」)よりもはるかに大きく(体積で3倍を超える)重い(重量で2倍を超える)腫瘍を形成したことを示している。したがって、データは、eHLA-G導入遺伝子発現が、低減された免疫原性および/または増加した免疫抑制を提供することができることを示している。これは、任意の所望の細胞型を、治療、移植、組織修復、細胞および組織の置換等のために普遍的または優れた同種ドナーに改変するための、本明細書に記載のeHLA-G導入遺伝子コンストラクトの一般的応用を支持している。
【0113】
ヒト化NSGマウスによる上述の同種移植実験は、能動的に増殖する、または増殖するように誘導され得る任意のeHLA-G改変された細胞型を用いて行うことができる。
【0114】
さらに、ヒト化マウスにおける同種移植は、620nm発光フィルタおよび2.5秒の露光時間を用いたSpectrum In Vivo Imaging System(Caliper、Mountain View、CA)を使用して監視され得る。620nmナノメートル以上の波長では、GFPでおこる自己蛍光が除去され、シグナルは、皮膚の表面下2.5cmまで深く検出され得る(Shaner et al(2004),Nat Biotechnol,22:1567-1572)。マウスは、縦方向に画像化され、週単位で秤量された。4週間の期間中にシグナルが観察されない場合、マウスを致死させ、使用された蛍光レポータータンパク質を検出するために蛍光顕微鏡を使用して、注射された胸部乳房脂肪パッドを組織学的に評価する。全ての場合において、マウスを致死させた後、テラトーマ形成および免疫拒絶を評価するためにヘマトキシリンおよびエオシンで組織を染色する。免疫組織化学はまた、同種移植の免疫細胞浸潤の補足的尺度として役立つ、ヒトβ2ミクログロブリン(PBMC、hESC、hEEP)およびCD45(PBMC)を検出するために実行される。スライドは、実験条件を知らされていない専門病理学者によって読み取られる。
【0115】
実施例8 eHLA-G+-およびHLA-G
-
-hEEPの腫瘍形成の評価
細胞が非ヒト化NSGマウスに移植されることを除いて実施例8で説明されたのと同様のプロトコルを使用して、hEEP腫瘍形成に対するeHLA-G効果の影響を、トランスジェニックG+および非トランスジェニックG--hEEPを注射することにより評価する。9ヶ月または安楽死基準の適合のいずれか早い方までの、月単位での生きた動物の縦方向の蛍光画像化および体重評価を使用して、全部で14匹のマウスを監視する。次いで、マウスを致死させ、注射された胸部乳腺を、4%中性緩衝ホルムアルデヒド中に回収する。固定組織を70%エタノールに移し、パラフィン中に包埋する。切片をヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、蛍光レポータータンパク質顕微鏡観察用に処理する。組織切片は、レポータータンパク質陰性であることが判明した場合は、注射部位における非PBMCの存在を確認するために役立つ、ヒトβ2ミクログロブリンおよびCD45に特異的なmAbを用いて染色される。
【0116】
独立した平均の統計的有意性は、0.05未満のp値に対して想定される。2つの試料の平均の比較は、スチューデントのt検定を用いて決定される。3つ以上の平均の比較は、一元または二元分散分析、およびボンフェローニの事後検定を用いて行われる。全ての分散度は、平均の標準誤差として示される。線形回帰は、in vitroデータとin vivoデータとの間の関係を比較して、in vitroのデータが、本試験において使用されるPBL-NSGマウスモデルにおいてヒト同種移植拒絶に対する予測値を有するかどうかを決定するために行われる。例えば、in vitroでの同種増殖のパーセント増加は、in vivo相において使用されたPBMCマッチ対に対して回帰される(出力は、移植から4週間後のレポータータンパク質蛍光のレベルである)。ここで、成功した結果は、eHLA-G発現が生着の増加をもたらすことを示唆する高いR2値および負の傾き係数である。そのような解釈は、in vitroおよびin vivo試験における使用に選択されたクローンにおける、eHLA-G発現とレポータータンパク質陽性との間の高い関連性に依存する。
【0117】
実施例9 完全に分化した線維芽細胞に安定にトランスフェクトされたeHLA-Gの、免疫抑制および免疫原性評価
ヌクレオフェクションを使用して、eHLA-G(EF-1α)-GFP導入遺伝子および対照コンストラクトを、ヒト新生児皮膚線維芽細胞(すでに完全に分化している細胞型)にトランスフェクトした。ヒト新生児皮膚線維芽細胞(HFD)は、ATCCから購入し、10%FBSおよび1%PS(Invitrogen)を添加したイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)(ATCC)中で培養した。細胞が80%のコンフルエンスに達した時に、0.25%トリプシン-EDTA(Invitrogen)で、37℃で3分間インキュベートすることにより細胞を回収した。細胞を計数し、0.5×106を遠心分離して、ヒト皮膚線維芽細胞ヌクレオフェクション溶液(カタログ番号VPD-1001、Lonza、Walkersville、MD)中に再懸濁させた。ヘルパーおよびトランスポゾンプラスミドを細胞懸濁液に添加し、製造者のプロトコル(Lonza)に従い、プログラム設定U-020でヌクレオフェクションを行った。次いで、細胞を6ウェルプレート内に播種し、加湿37℃/5%CO2中で24時間インキュベートした。24時間後、安定にトランスフェクトされた細胞を、1μg/mlピューロマイシン(Sigma)で7日間選択した。安定なGFP陽性細胞を、500ng/mlピューロマイシン中に維持し、HLA-GおよびGFP発現をフローサイトメトリーで検出した。安定なトランスフェクタントを、後述のような末梢血単核細胞(PBMC)増殖アッセイおよびNK-92細胞毒性アッセイにおける使用のために、培養物中に維持した。
【0118】
PBMC増殖アッセイ。eHLA-G(EF-1α)-GFP導入遺伝子で安定にトランスフェクトされたヒト皮膚線維芽細胞(「HFD-m1-GFP」細胞)またはGFP単独対照コンストラクト(「HFD-G0-GFP」細胞)を、PBMC増殖を阻害するそれらの能力について評価した。HFD-G0-GFPおよび-mG1-GFP細胞をマイトマイシンC(10μg/mlで2.5時間)で不活性化し、96ウェルプレート内に3.0×10
3/ウェルで播種し、24時間接着させた。6μg/ml PHAの存在下で1×10
5のPBMCを、対応するHFD細胞に3回添加した。HFD-G0-GFPおよび-mG1-GFP細胞単独を、MTT-OD補正のために含めた。(「MTT」は、生細胞により切断されて暗青色のホルマザン産物を生成する、淡黄色の基質試薬である。このプロセスは、活性ミトコンドリアを必要とし、死滅した直後の細胞でも、大量のMTTを切断しない。したがって、MTTは、増殖または細胞毒性アッセイのために使用され得る比色アッセイを提供する。)PHAを有さないPBMCおよび6μg/mlのPHAを有するPBMCを、対照として含めた。共培養物を3日間インキュベートし、PBMC増殖を、以下の式を使用し、MTT試薬を用いて推定した:%PBMC増殖=[(HFD/PBMC/PHAのOD570-HFDのOD570)/(PBMC/PHAのOD570)]×10。
図22に示されるように、HFD-mG1-GFPクローン「mG1-R1」は、対照および他のクローンよりも大きくPBMCを抑制したが、これは、外因性HLA-G発現が、線維芽細胞等の分化細胞に対して、免疫抑制および/または低減された免疫原性を提供し得ることを示している。
【0119】
NK-92細胞毒性アッセイ。実質的に前述したようにアッセイを行った。簡単に説明すると、2.5×103標的細胞(すなわち、HFD-m1-GFP細胞またはHFD-G0-GFP細胞)を、NK-92細胞と共に、3:1、10:1、30:1のE:T比で、CTL培地中で7時間インキュベートした。K562-WT細胞を、NK-92細胞毒性の陽性対照として含めた。CytoTox96細胞毒性アッセイキットを用いて、細胞毒性を決定した。特異的溶解のパーセンテージを、以下のように決定した:%特異的溶解=[(実験LDH放出-エフェクター自然放出-標的自然放出)/(標的最大放出-標的自然放出)]×100。以下の表4に示されるように、HFD-mG1-GFPクローン「mG1-R1」および「mG1-#1」は、対照および他のクローンよりも大きくNK-92細胞毒性を抑制したが、これは、外因性HLA-G発現が、線維芽細胞等の分化細胞に対して、免疫抑制および/または減少した免疫原性を提供し得ることを示している。
【0120】
【配列表】