(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】ワクチン接種及び抗体作製プラットホーム
(51)【国際特許分類】
C07K 14/44 20060101AFI20231107BHJP
A61P 25/30 20060101ALI20231107BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20231107BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231107BHJP
A61K 39/385 20060101ALI20231107BHJP
A61K 9/16 20060101ALI20231107BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20231107BHJP
A61K 35/68 20060101ALI20231107BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20231107BHJP
C12N 15/30 20060101ALN20231107BHJP
【FI】
C07K14/44 ZNA
A61P25/30
A61P31/00
A61P35/00
A61K39/385
A61K9/16
A61K39/00 H
A61K39/00 G
A61K35/68
C12P21/08
C12N15/30
(21)【出願番号】P 2021522091
(86)(22)【出願日】2019-10-24
(86)【国際出願番号】 EP2019079063
(87)【国際公開番号】W WO2020084072
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-08-13
(32)【優先日】2018-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】502227745
【氏名又は名称】ドイチェス クレブスフォルシュンクスツェントルム スチフトゥング デス エッフェントリヒェン レヒツ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パパヴァシリオウ,ニーナ
(72)【発明者】
【氏名】ハシェミ,ハミドレザ
(72)【発明者】
【氏名】トリラー,ジアンナ
(72)【発明者】
【氏名】ステビンス,エレック
(72)【発明者】
【氏名】ミラー,オブリー
(72)【発明者】
【氏名】バウマン,アンドレアス
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/057934(WO,A1)
【文献】J Immunol Methods. (Author manuscript),2010年,Vol.362, pp.190-194
【文献】NATURE COMMUNICATIONS,2017年,Vol.8, 828
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
C12P 21/00-21/08
A61K 39/00-39/44
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
改変変異表面糖タンパク質(eVSG)でコートされた抗原性粒子であって、
eVSGが、免疫原性化合物に連結したVSGを含み、
免疫原性化合物が低分子化合物であり、リンカーを介してVSGのN末端に共有結合しており、
VSGが、ブルーストリパノソーマ(T. brucei)のゲノム由来のVSG3であ
り、
低分子化合物が50kDa未満の分子量を有し、免疫原性化合物がペプチドではない、
抗原性粒子。
【請求項2】
eVSGが、N末端からC末端に、以下の共有結合構造体:免疫原性化合物、ソルタギングドナー配列、ソルタギングアクセプター配列、及びVSGタンパク質配列を有する、請求項
1に記載の抗原性粒子。
【請求項3】
eVSGが、ソルタギングアクセプター配列とVSGタンパク質配列との間にリンカーをさらに有する、請求項1又は
2に記載の抗原性粒子。
【請求項4】
免疫原性化合物が、低分子薬
物である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の抗原性粒子。
【請求項5】
免疫原性化合物が、(i)デルタ-9-テトラヒドロカンナビノール(THC)又は合成カンナビノイド
、又は(ii)メタンフェタミン及びその誘導体
、又は(iii)合成カチノン様アルファ-ピロリジノペンチオフェノン(アルファ-PVP)、又は(iv)オピオイ
ド又は(v)ステロイド(同化物質)から選択される依存性誘発物質であるか、又はニコチンである、請求項1から
4のいずれか一項に記載の抗原性粒子。
【請求項6】
生体細胞、小胞、ナノ粒子又はビーズである、請求項1から
5のいずれか一項に記載の抗原性粒子。
【請求項7】
生体細胞が、微生
物である、請求項
6に記載の抗原性粒子。
【請求項8】
生体細胞が不活化生体細
胞である、請求項
6又は
7に記載の抗原性粒子。
【請求項9】
医学的状態を予防、管理及び/又は治療するのに使用するための抗原性粒子であって、請求項1から
8のいずれか一項に記載の抗原性粒子である、抗原性粒子。
【請求項10】
医学的状態が依存性誘発物質に対する中毒であり、抗原性粒子の免疫原が依存性誘発物質である、請求項
9に記載の抗原性粒子。
【請求項11】
医学的状態が感染性疾患又はがんであり、抗原性粒子の免疫原が、それぞれ感染性疾患を引き起こす感染性生物又はがんに由来する免疫原性化合
物である、請求項
9に記載の抗原性粒子。
【請求項12】
抗原性粒子が、医学的状態の予防、管理及び/又は治療を必要とする対象
に投与される、請求項
9から
11のいずれか一項に記載の抗原性粒子。
【請求項13】
免疫原性化合物に結合することができる抗体を作製する方法であって、
請求項1から
8のいずれか一項に記載の抗原性粒子を用意するステップであって、抗原性粒子の免疫原性化合物は、作製される抗体が結合することができるか若しくは結合することを意図されている免疫原性化合物又はその免疫原性部分である、ステップ、
抗体を産生する非ヒト動物を抗原性粒子で免疫化するステップ、及び
免疫化した動物から、前記免疫原に対する抗体を産生する免疫細胞を単離するステップ
を含む方法。
【請求項14】
生成された抗体を前記細胞から単離するステップをさらに含む、請求項
13に記載の方法。
【請求項15】
増強された免疫応答を必要とする対象にワクチン接種するのに使用するための請求項1~
8のいずれか1項に記載の抗原性粒子であって、
免疫応答が免疫原性化合物に特異的であり、
抗原性粒子に含まれる免疫原性化合物が、増強された免疫応答が特異的である免疫原性化合物と同一であるか、又はその免疫原性部分である、抗原性粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワクチン接種及び/又は抗体作製のプラットホームに基づいている。本発明は、トリパノソーマ上の変異表面糖タンパク質(VSG)のコート上における低分子免疫原性化合物の提示に基づいており、これは、ワクチンとして又は抗体産生のための免疫化に使用する場合に、高度に効果的な免疫応答をもたらす。本明細書中に開示する抗原性粒子は抗体の産生に適用可能であるか、又は種々の医学的状態の治療のためのワクチンとして直接使用され得る。最も好ましくは、本発明は、中毒の治療又は薬物乱用時の有害事象の回避のための依存性誘発物質に特異的なVSGベースワクチンに関する。他の用途としては、がん、感染性疾患、伝染性神経変性疾患、非伝染性障害(例えば特定の神経変性疾患、アレルギー)の治療又は予防及びワクチン接種又は抗体使用からの免疫応答が所望される任意の状態又は産業的使用のための開示する化合物及び組成物を伴う方法及び使用が挙げられる。
【背景技術】
【0002】
薬物の乱用及び薬物に対する中毒は、個人及びその家族並びに社会全体の両方にとって、医学的、社会的及び経済的健全性に対し重要な問題を起こす。特に米国において、処方オピオイド鎮痛薬、例えばOxyContin(登録商標)及びVicodin(登録商標)の乱用は、流行レベルに達しており、現在の重大な懸念を集めている公衆衛生の危機である。他の地域(例えばアジア、アフリカ及び中東)においては、トラマドール乱用が急増している(UNODC World Drug Report 2017)。社会のあらゆる面が、これらの薬物の相対的な利用可能性、認知されている安全性、及び医学的処方者によるこれらの薬物の過剰処方の影響を受けている。
【0003】
中毒への経路は、疼痛管理のための医学的に認可された投与に由来することがしばしばであるが、集団の相当な割合(推定10から15%)に対して、これは急速に中毒、次いで処方オピオイドの非合法使用を引き起こし得る。特に懸念されているのは、十代によるこれらの薬物の非合法使用の蔓延及び救急外来受診の急増(2009年には120万に達する、DAWN report、2010)並びに乱用による致死性過剰摂取の症例の急増(過剰摂取による死亡数は2017年には推定72,000件であり、初めて乳がんによる死亡数を上回り、終わりが見えない)である。現在、治療選択肢は、(例えばメタドン又はブプレノルフィンを用いる)リハビリ/解毒クリニックにおける管理、媒介、制御された離脱に限定されている。
【0004】
ヘロイン中毒の治療のためにロックフェラー大学で開発されたメタドン維持療法は、任意の中毒性疾患のための最も有効であり、広く使用されている薬物治療法のままである(Doleら、1966;Kreek、2000)。しかし、治療は数年を必要することがしばしばであり、維持率は極めて低く、第一に、さらなる選択肢及び/又は乱用の予防薬に対する関心が高まっている。
【0005】
中毒に対して生じている一つのアプローチは、特定の薬物標的に対する中和抗体を産生させるワクチンであり(Shenら、2012)、これは、コカインについて最も広範に(Foxら、1996;Shen及びKosten、2011)、より近年にはヘロイン誘導体について(Pravetoniら、2012、2017及び2018)探索されている選択肢である。オピオイド使用障害を治療する(又は少なくとも過剰摂取を予防する)ための免疫療法の考えは、担体タンパク質にコンジュゲートした薬物が長期間持続する免疫応答を誘発し得る場合、薬物の化学構造に対する抗体が発生し、次いで循環抗体が使用者による投与時に薬物に結合し、薬物が脳内の作用部位に到達するのを防止し得るという概念に基づいている。
【0006】
このアプローチは、理論上は達成可能であるが、実際には、低分子に対する中和抗体を作製する効率的な方法が一般的に存在しないという重大な問題を抱えている。すなわち、低分子、例えばコカイン、ニコチン又はオキシコドンに対する抗体を作製する、一般的に使用されている方法(例えば、担体タンパク質、例えばKLH及び破傷風トキソイドへの分子のコンジュゲーション)は、特に効果的ではない(Kantakら、2003)。開発の臨床試験段階に持ち込まれたコカインワクチンの開発結果は、この良い例である(Martellら、2009)。臨床試験第2b相において、ハプテンとしてコンジュゲートされたコカインの免疫応答誘発能は、個体間での大きなばらつきがあり、ワクチン接種者の38%のみが有用なIgGレベルを達成し、十分なコカイン阻害を2か月しか有さなかった。さらに、免疫応答を生じた人の間で、生成された抗体のレベルはかなりのばらつきを示した(Martellら、2009)。
【0007】
オピエート(opiate)により関連する、Pravetoniら(2012、2017、2018)による研究は、オキシコドンに対する能動免疫化の有効性を示した。この研究は、オキシコドンのウシ血清アルブミン又はKLHへのコンジュゲーション及びラットへの注入後、抗体結合及び低用量のオキシコドンの中和により、脳への到達が防止されたこと、同時に、鎮痛のラットモデルにおけるオキシコドンの薬物動態及び効力(potency)が変化したことを示した。この研究は、抗体がオキシコドンに結合する場合、血流からオキシコドンを除くことができるという原理証明を提供する。
【0008】
以上のことから、これらの研究は問題点、すなわち、乱用薬物に対する中和抗体を産生することが実行可能であり、達成された場合には、大きな治療結果がある一方で、乱用薬物であるこれらの低分子に対するmAb(モノクローナル抗体)を産生するのに用いられる方法は有効ではないということを強調している。
【0009】
J. Immunol. Methods. 2010 Oct 31、362(1-2):190-4は、抗体作製のための、異種ペプチドエピトープ(その配列はVSGに遺伝学的に挿入される)の提示用のタンパク質プラットホームとしてのVSG221(VSG427-2としても公知である)の使用を記載している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、低分子化合物/標的を標的化するワクチン及び/又は抗体の作製を可能にするワクチン及び抗体作製プラットホームを提供することである。本発明のさらなる目的は、ワクチン接種又は他の免疫療法から利益を得るだろう疾患について治療の選択肢を提供することである。本発明の最終目的は、産業用途用の、抗体又はワクチン接種により生成される他の免疫産物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の要素を以下に記載する。これらの要素は、特定の実施形態とともに記載するが、これらは任意の方法及び任意の数で組み合わせて、さらなる実施形態を作成してよいことは理解されるべきである。種々に記載した例及び好ましい実施形態は、本発明を、明示的に記載した実施形態のみに限定するものと解釈されるべきではない。本明細書は、明示的に記載される実施形態の2つ以上を組み合わせるか、又は明示的に記載される実施形態の1つ以上を任意の数の開示された及び/又は好ましい要素と組み合わせる実施形態をサポートし、包含するものと理解されるべきである。さらに、本願の記載する全ての要素の任意の順列及び組合せは、文脈が別段示さない限り、本願明細書に開示されていると考えられるべきである。
【0012】
第1の態様において、問題は、改変変異表面糖タンパク質(eVSG)でコートされた抗原性粒子であって、eVSGが免疫原性化合物を含む、抗原性粒子により解決される。
【0013】
図面は以下を示す:
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1-1】VSG改変に使用されるプラスミドのマップを示す。pHH-VSG3.G4S-Hyg及びpHH-ILTat1.24-G4S-Hygプラスミドの配列は、それぞれ、配列番号6及び配列番号7に示される。(A)pHH-VSG3.G4S-Hygプラスミドサイズ:7204bp。VSG2-CTR(VSG2共転移領域):429-878、VSG3.G4S(S317A):879-2453、VSG2 3'-UTR(VSG2 3'-非翻訳領域):2454-2533、アクチン5'-UTR(アクチン5'-非翻訳領域):2727-2834、Hygro(ハイグロマイシン耐性遺伝子):2854-3879、アルドラーゼ3'-UTR(アルドラーゼ3'-非翻訳領域):3885-4033、テロメアシード配列:4715-4915、Ori(細菌複製起点):5385-5973、AmpR(アンピシリン耐性遺伝子、ベータ-ラクタマーゼ):6144-7004(逆相補)、AmpRプロモーター(アンピシリン耐性遺伝子プロモーター、ベータラクタマーゼプロモーター):7005-7109(逆相補)、(B)pHH-ILTat1.24-G4S-Hyg、プラスミドサイズ:7219bp。VSG2-CTR(VSG2共転移領域):429-878、ILTat1.24-G4S:879-2468、VSG2 3'-UTR(VSG2 3'-非翻訳領域):2469-2548、アクチン5'-UTR(アクチン5'-非翻訳領域):2742-2849、Hygro(ハイグロマイシン耐性遺伝子):2869-3894、アルドラーゼ3'-UTR(アルドラーゼ3'-非翻訳領域):3900-4048、テロメアシード配列:4730-4930、Ori(細菌複製起点):5400-5988、AmpR(アンピシリン耐性遺伝子、ベータラクタマーゼ):6159-7019(逆相補)、AmpRプロモーター(アンピシリン耐性遺伝子プロモーター、ベータ-ラクタマーゼプロモーター):7020-7124(逆相補)。
【
図2】5つの例を用いてVSG N末端のソルターゼ酵素へのアクセス可能性を判定するのを補助する結晶学的研究を示す(VSG13以外は全て公開されている)。「N」は、各タンパク質についての遊離N末端の位置を表す。直線は、表面露出残基の大まかに推定した一般的な位置(ソルターゼ酵素にアクセス可能なVSGコートの「頂部」)を表す。多くのVSGを、ソルターゼ-ベースのコンジュゲーションを介してタグを受容するように改変し得る(本発明者は、後述するように、すでにVSG2、VSG3及びILTat1.24についてこれを行っている)が、全てがそうであるわけではない(例えば、VSG13のN末端は、大きく埋没しており、十分にアクセス可能でない場合がある)。構造生物学により、VSGの非常に有用な事前スクリーニングが示されており、VSGの選択に情報を提供する多くの表面要素及び他の構造的特徴が明らかになっている(例えば、VSG3上のO-結合型糖の発見により、本発明者らは、特定のセリンをアラニンにする変異S317Aを用いて、それを表面から除いた)。
【
図3-1】ソルタギング可能なVSGのブルーストリパノソーマのゲノムへのノックイン戦略を示す。AからCは、(野生型VSG2を置換して)内在性VSGの活性発現部位から改変VSG2、VSG3及びILTat1.24を発現させるための遺伝学的クローニング戦略を示す。
【
図4-1】ソルタギング可能なVSGタンパク質のアミノ酸配列を示す。A.ソルタギング可能なVSG3.G4S(S317A)タンパク質のアミノ酸配列。シグナルペプチドに下線を付している。成熟したソルタギング可能なVSG3は、野生型VSG3のより抗原性の変異体(S317A)由来である。VSG3-G4Sは、ジアラニン(太字かつ斜体)で開始する。このジペプチドは、ソルターゼA反応のアクセプターとなる(そして、ペプチド配列LPSTGGにN末端連結した任意の部分を受容する)。N末端の延長部((G
4S)
3ペプチドリンカーの付加による、太字)は、ソルターゼAのジアラニンへのアクセス能に重要である。B.ソルタギング可能なVSG2タンパク質(VSG2-1DK)のアミノ酸配列。シグナルペプチドは下線を伏している。成熟したソルタギング可能なVSG2-1DKは、ジアラニン(太字かつ斜体)で開始する。このジペプチドは、ソルターゼA反応のアクセプターとなる(そして、ペプチド配列LPSTGGにN末端連結した任意の部分を受容する)。N末端の延長部(ポリグリシンが隣接する、TEVプロテアーゼ切断部位からなるリンカーペプチドの付加による、太字)は、ソルターゼAのジアラニンへのアクセス能に重要である。C.ソルタギング可能なILTat1.24タンパク質(ILTat1.24-G4S)のアミノ酸配列。シグナルペプチドは下線を伏している。成熟したソルタギング可能なILTat1.24-G4Sは、テトラグリシン(太字かつ斜体)で開始する。このテトラグリシンは、ソルターゼA反応のアクセプターとなる(そして、ペプチド配列LPSTGGにN末端連結した任意の部分を受容する)。VSG N末端の延長部((G4S)2ペプチドリンカーの付加による、太字)は、ソルターゼAのテトラグリシンへのアクセス能に重要である。
【
図5】野生型ブルーストリパノソーマは、死亡時にそのVSGコートを脱落することを示す。A. GPI-PLCが細胞死亡後に活性化されることを示すプロセスの模式図。B. GPIアンカー切断部位の位置が示される。GPIアンカーの切断により、VSGがコートから放出(脱落)され、コートのないトリパノソーマは、浸透圧により崩壊する(結果的にその免疫原性特性を失う)。
【
図6】トリパノソーマのVSGコートをソルタギングする方法全体の説明図を示す。A.グリコホスファチジルイノシトール(GPI)アンカーを介して、トリパノソーマの膜に埋め込まれたVSGタンパク質ホモダイマーの視覚化。下:トリパノソーマ全体。上:1つのVSGタンパク質ホモダイマーの拡大図。B.ソルタギング反応の説明図:改変VSGタンパク質(N末端ジアラニンを有する)及びソルターゼドナー配列LPSTGGに連結した低分子(楕円)は、ソルターゼ反応を介して共有結合する。
【
図7-1】ソルタギング効率を検出する方法を示す。A.上画像:直接蛍光(6-FAM)により検出されたVSG2-1DK(左)及びVSG3-G4S(S317A)(右)のソルタギング。ブルーストリパノソーマ細胞の蛍光顕微鏡画像が上に示される(左:ソルタギングしたVSG2-1DK、右:ソルタギングしたVSG3-G4S)。下画像:6-FAMソルタギングしたVSGはまた、FACSCaliburを用いたフローサイトメトリー解析により解析した。B.低分子部分(4-ヒドロキシ-3-ニトロフェニルアセチル、ここではNPと略する)に対するモノクローナル抗体、続いてアロフィコシアニン(APC)-コンジュゲートマウスモノクローナルIgG抗体(B1-8クローン、Abcam)による染色を用いたトリパノソーマのFACS解析により検出されたVGS2-1DK及びVSG3-G4S(S317A)のソルタギング。C.誘導体化フェンタニルハプテンを化学的に合成し、C末端ソルターゼAドナー配列を含むペプチドのN末端にコンジュゲートさせた(フェンタニル-GGGSLPSTGG、ここで、フェンタニルコンジュゲート化合物は、代替的に「Fen-」又は「-Fen」と示す)。フェンタニルハプテンを有するペプチドを、上述のようにソルターゼAを用いて3つの異なる遺伝学的に改変したVSG(VSG2、VSG3及びILTat1.24)にコンジュゲートした。フェンタニルハプテンの化学合成プロセスは、M. D. Raleighら、J. Pharmacol. Exp. Ther. 368:282-291、2019に記載されており、ここでは、ソルターゼ-介在コンジュゲーションに適応させている。D.フェンタニルハプテンのVSGへのソルターゼA介在コンジュゲーション後、フェンタニルに対するマウスモノクローナル抗体(M. Pravetoni、ミネソタ大学により提供)を、キット(Abcam、ab102884)を用いてFITCにコンジュゲートし、ソルタギングしたVSGを染色するのに用い、続いてFACS-Caliburを用いたフローサイトメトリー解析を行った。非タグ付加VSGを、バックグラウンド染色についての対照として用いた。グラフの下部に、データセットの最頻値(mode)及び中央値を示す。フェンタニル及びFAMコンジュゲーションの両方において、ILTat1.24は、VSG2及びVSG3に優れていた。また、VSG3のソルタギング効率は、VSG2よりも中程度に高かった。
【
図8-1】低分子4-ヒドロキシ-3-ニトロフェニルアセチル(NP)に対する抗体応答の比較を示す:NP-標識ブルーストリパノソーマ対「ゴールドスタンダード」であるハプテン-担体コンジュゲート(すなわちAlumアジュバント中のNP-コンジュゲートニワトリガンマ-グロブリン(NP-CGG))による免疫化。1群あたり5匹の6から8週齢の雌C57BL/6JマウスをインタクトなVSG3(S317A)又はVSG3-NPコート(すなわち、NPハプテンでタグ付加したか又は付加していないソルタギング可能なVSG3(S317A)を発現するU.V-照射したインタクトなブルーストリパノソーマ細胞、アジュバントなし)又はAlumアジュバント中のNP-CGGで0日目、3日目及び30日目にプライミングした。70日目に、これらのマウスに可溶性VSG3(S317A)-NP(PBS中、アジュバントなし)ブースターを施与した(又は対照群については、アジュバントを用いずに、PBS中の可溶性NP-CGGでブーストした)。A.インタクトなトリパノソーマ上のVSG-NPによるプライミング免疫化、及びその後の可溶性VSG3(S317A)-NPによるブースティングは、明らかなIgGリコール応答を示し、低分子ハプテンNPに対する実質的なIgG力価の生成をもたらす。力価は、ブーストの前後に測定し、血清希釈1:800で示す。抗-NPハプテンモノクローナルIgG(B1-8クローン、Abcam)を10μg/mlから0.6ng/mlの濃度の範囲をカバーするように段階希釈した(4倍)。コンジュゲートトリパノソーマコートによる免疫化により、NPに対する高いIgG力価がもたらされる(平均約500μg/ml)。さらに、可溶性VSG3-NP(PBS中、アジュバントなし)が強く二次IgG応答を誘発したことは、NP-コンジュゲートVSGコートによる免疫化が、メモリーB細胞応答を誘発し得ることを示す。Alum中のNP-CGGに対して産生された平均力価は、若干高かったが、可溶性NP-CGG(PBS中、アジュバントなし)によるブースティングは、ロバストな二次応答を誘発せず、このことは、Alum中のNP-CGGによるプライミング後のメモリーB細胞応答が見られないことを示す。B.インタクトなトリパノソーマコート上のVSG-NPを用いた免疫化、及びその後の可溶性VSG3(S317A)NPによるブースティングにより、高親和性IgG(NP2/NP30 IgG力価比により定義される)がもたらされる。VSG3-NP群におけるNP2-BSA/NP30-BSA IgG比率の上昇は、メモリーB細胞(リコール)応答の特徴である親和性の成熟を示す。「ゴールドスタンダード」であるAlum中のハプテン-担体コンジュゲート(NP-CGG)による免疫化は、抗NP IgG抗体の親和性の上昇を全くもたらさない。C.インタクトなトリパノソーマコート上のVSG-NPによる免疫化、及びその後の可溶性VSG3(S317A)-NPによるブースティングはまた、抗VSG3(抗担体)抗体を産生するが、これらは、NPハプテンに対して産生される抗血清と同等の規模である(μg/ml)(抗VSG3マウスモノクローナルIgG(11D6クローン)の段階希釈により定量化する)。さらなるデータは、VSG2とVSG3担体との間の免疫学的交差反応性がないことを示す(図示しない)。
【
図9-1】Fen-標識ブルーストリパノソーマにより誘発されるフェンタニルに対する抗体応答は、高い力価及びメモリー(リコール)を達成することを示す。フェンタニルハプテン及びVSG3担体タンパク質に対する血清IgGのELISA測定を示す。A.N末端フェンタニルハプテンを有するテトラグリシンペプチド(Fen-G4)を上述のように合成した。Fen-G4ペプチドを、異種性担体タンパク質としてBSAにコンジュゲートし、96ウェルELISAプレートを10μg/mlでコートするのに用いた。1群あたり6匹の6から8週齢の雌C57BL/6JマウスをインタクトなVSG3(S317A)又はVSG3(S317A)-Fentコート(すなわち、Fen-ハプテンでタグ付加したか又はタグ付加していないソルタギング可能なVSG3(S317A)を発現するU.V-照射したインタクトなブルーストリパノソーマ細胞、アジュバントなし)で皮下注入により、0日目及び30日目にプライミングした。次いで、60日目にこれらのマウスに可溶性VSG3(S317A)-Fent(PBS中、アジュバントなし)ブースターを施与した。試験した血清サンプルは、免疫前(-4日目)、可溶性VSG3(S317A)-フェンタニルタンパク質による1ブーストの2日前(58日目)及び8日後(68日目)を含んでいた。血清中の抗フェンタニルIgGを、抗マウスHRPコンジュゲート(1:3000)を用い、続いてクエン酸リン酸緩衝液pH4.2中で調製したABTS基質及びH
2O
2を添加することで検出した。A405nmにおけるサンプルの吸光度をELISAリーダ(Tecan、Infinite M1000 Pro)を用いて45分後に測定した。B.血清サンプル中のIgG濃度を定量するために、Fen-ハプテンに対するマウスモノクローナル抗体を段階希釈して検量線を作成した。1群あたり6匹のマウスの平均±標準偏差を示す。(C)同様に、96ウェルプレートを5μg/ウェルでFPLC精製VSG3(S317A)タンパク質でコートし、VSG3(S317A)担体タンパク質に対する血清IgGを測定した。45分後の曲線下面積(AUC)を、GraphPad Prismを用いて算出した。円、三角形及び四角形は、それぞれ-4、58及び68日目における血清を示す。コンジュゲートトリパノソーマコートによる免疫化は、フェンタニルに対する高いIgG力価(平均約150μg/ml)をもたらす。さらに、可溶性VSG3(S317A)-Fen(PBS中、アジュバントなし)が二次IgG応答を強く誘導したことは、FenコンジュゲートVSGコートによる免疫化がメモリーB細胞応答を誘導し得ることを示す。
【
図10】フェンタニル-ハプテン化ブルーストリパノソーマにより免疫化したマウスが中毒から保護されることを示す。A.鎮痛活性。鎮痛活性を、Cox及びWeinstock(1964)が記載するように、ホットプレート抗侵害受容アッセイを用いて試験した。ホットプレート抗侵害受容に対するフェンタニル効果を非免疫化マウス、担体のみ(VSG3(S317A)のみ)で免疫化したマウス、又はハプテン化VSG3(S317A)-Fenで免疫化したマウスにおいて試験した。全ての場合において、マウスに、0.1mg/kgの累積フェンタニル濃度を投与した(s.c.)。用量を上昇させながらフェンタニルを15から30分毎に皮下投与し、記載する用量は、投与した累積用量である。ホットプレート抗侵害受容を、最後のフェンタニル投与の15分後に測定した。ナロキソン(0.1mg/kg、s.c.)を最後のフェンタニル投与の15分後に投与した。フェンタニルの効果を応答に対する潜時(latency)として示す。フェンタニルは、非免疫化マウス及びVSG3のみで免疫化したマウスにおいて、0.1mg/kgの累積用量後の応答に対する潜時をベースライン値と比較して増加させた。ナロキソンは、両方の群においてフェンタニル誘導抗侵害受容を完全に逆転させた。VSG3(S317A)-Fenにより免疫化したマウスは、ベースラインと比較して応答に対する潜時の増大を示さず、したがって、これらのマウスが対照と同用量のフェンタニルに対して中毒にならなかったことを示している。1群あたり5(非免疫化)又は6匹のマウスの平均±標準偏差を示している。B.1群あたりのマウス毎に測定したストラウブ挙尾反応(STR)。%は、ストラウブ挙尾反応、多くの場合身体の方向にほぼ垂直であるか又は動物の上に反り上がっている尾部の背屈及び常同歩行行動(stereotyped walking behavior)(Bilbeyら、1960)を示したマウスの数を表す。この現象は、マウスにおけるオピエートに対する応答として最初に記載され(Straub、1911)、オピオイド受容体系の活性化により媒介されると考えられる。なぜならば、オピオイド受容体アンタゴニスト、例えばナロキソンが本現象を遮断するためである(Acetoら、1969;Nathら、1994;Zarrindastら、2001)。
【
図11-1】それぞれの異なるVSGコートは、特有のサブセットのB細胞の特異性(したがって、特有のB細胞レパートリー)を誘発することを示す。フェンタニルワクチン接種試験で使用するVSG2トリパノソーマコート又はVSG3(S317A)バージョン(セリン317をアラニンに変異させた、より免疫原性のVSG3形態)のいずれかを発現するトリパノソーマは、C57BL/6マウスにおいて、異なるレパートリーを誘発する。A.形質細胞の単離のためのゲーティング戦略。リンパ球を脾臓から単離し、形質細胞についてLSR II機器上で分析した。次いで、ARIA IIセルソーターを用いて形質細胞を単離した(単一細胞ソーティング)。細胞を抗マウスCD19-BV421及び抗マウスCD138-BV510抗体を用いて染色した。7AADは、死細胞を除くために、全ての染色に含まれていた。データは、FlowJo v10ソフトウェアを用いて解析した。Ig遺伝子クローニングを上述のように行った(Tillerら、2008)。端的には、各単一細胞のcDNAを、ランダムヘキサマープライマーを用いて作製した。Ig重鎖及び対応するIgカッパ又はIgラムダ軽鎖遺伝子転写物を、セミネステッドPCR戦略を用いて増幅させた(Tillerら、2008)。アンプリコンをSanger配列決定し、NCBI IgBlastを用いて分析した。B.VSG2又はVSG3(S317A)コートトリパノソーマにより誘発されるV遺伝子レパートリー。ヒストグラムは、VSG2又はVSG3(S317A)コートトリパノソーマに暴露されたC57BL/6マウス由来の形質細胞から単離されたIg遺伝子転写物におけるVH及びVκ遺伝子ファミリー使用度を概略する(それぞれ59及び53の異なるIg転写物)。配列は、それぞれVSG2及びVSG3(S317A)についての4及び8の異なるVH遺伝子ファミリー及び11のVκ遺伝子ファミリーより得た。1つのバーの中で、異なる灰色の陰影は、各ファミリー内の異なるファミリーメンバーの分布を示す。VH10ファミリー、次いでVH1ファミリー(最大のVHファミリー)が、VSG2マウスから単離された形質細胞の大部分により好適に発現されたが、一方、VSG3(S317A)マウスからはVH10ファミリーを発現する形質細胞がごく僅かしか単離されなかった。VSG3マウスについては、殆どの形質細胞がVH1ファミリーを発現していた。VSG2マウスにおいて、形質細胞は主にVK6ファミリーを発現していた一方、VSG3(S317A)マウスにおいて、Vkファミリーの使用はより多様であった(が主にVK1、VK4及びVK5であった)。分析した配列は、2つの異なるVSGが異なるVH及びVkファミリーレパートリーを形質細胞において誘発することを明らかに示している。この特異性により、具体的なエピトープの「必要性」に合わせた、異なるVSGコートプラットホームを用いて、最適なワクチン接種戦略を設計することが可能となる。例えば、この方法を用いて、存在が稀であるがそれにもかかわらず特定の標的に対する最適な応答をもたらすようにクローン増殖させる必要があるB細胞を、増殖させ得る。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の文脈における用語「抗原性」は、ワクチン接種又は免疫化手順において免疫原として使用する場合に特異的な免疫応答を誘導する、本発明の粒子の特徴を指すだろう。
【0016】
用語「変異表面糖タンパク質(variant surface glycoprotein)」は、「VSG」と略され、トリパノソーマ(Trypanosoma)属に属する寄生原虫の細胞表面に密集する約60kDaタンパク質のファミリーを指す。寄生生物は、RNAポリメラーゼI(リボソーム型プロモーターにリクルートされる)によりポリシストロンで他のES関連遺伝子(ESAG)(トランスフェリン受容体(Tfr:ESAG6、ESAG7)はその中の1つである)とともに血流発現部位(bloodstream expression site(BES、ES))から発現される抗原的に異なるVSGの豊富な細胞レパートリー(約1500の完全及び部分的(偽遺伝子))を有する。同時に発現されるのは1つのVSG遺伝子のみであり、これは、約15のESのうち1つのみが細胞内で活性であるためである。VSG発現は、サイレントなベーシックコピー遺伝子がアレイから二重鎖切断され(相同性により誘導される)活性テロメア局在発現部位(telomerically-located expression site)に移ることにより誘発される相同組み換えにより「切り替え」られる。VSGアノテーション、タンパク質配列及び遺伝子配列は、公共のデータベース、例えばwww.ensemble.orgから入手可能である。ブルーストリパノソーマ(Trypanosoma brucei brucei)(リスター(Lister)427系統)のVSGコレクションは、Cross GAら、Mol. Biochem. Parasitol. 2014 Jun; 195(1):59-73. Doi :10.1016/j.molbiopara.2014.06.004に公開されている。本発明の文脈における好ましいVSGは、ブルーストリパノソーマVSG、より好ましくはVSG1、VSG2、VSG3又はILTat1.24である。本発明によるVSGは、VSGが例えばトリパノソーマ細胞上のVSGコート内に存在する場合アクセス可能な外側コート表面に十分近接して位置する位置でVSG内に3次元的に位置するN末端により特徴づけられ、リンカー配列(好ましくは100アミノ酸以下、好ましくは50アミノ酸以下、最も好ましくは20アミノ酸以下の長さ)の付加により、それだけ延長したか又は延長していないVSGタンパク質のN末端の改変が可能になっていることが好ましい。VSG配列にN末端挿入される任意の配列は、開始メチオニン(M)の直前に挿入されるのが好ましい。さらなる実施形態において、挿入は、シグナルペプチド切断部位のすぐ下流である。本発明の文脈で用いられる好ましいVSG配列は、配列番号1から配列番号5に示すいずれか一つのアミノ酸配列を含むVSGである。
【0017】
用語「改変(engineered)VSG」又は「eVSG」は、前記VSGの野生型配列と比較して人工的な改変(修飾)を含む任意のVSGタンパク質を指す。eVSGは非天然配列であるのが好ましい。VSGは、VSGコード配列の翻訳後改変(修飾)、化学改変(修飾)、遺伝子操作及びタンパク質改変(修飾)について当業者に公知の任意の他の方法のいずれかによりeVSGになるように改変し得る。本発明によるVSGは、膜局在タンパク質として、又は可溶性VSGとして可溶性で提供されてもよい。
【0018】
本明細書中で使用する用語「免疫原性化合物」あるいは「免疫原」は、宿主において免疫応答を誘発することができる任意の種類の化合物又は構造を包含する。本発明による免疫原性化合物は、アミノ酸配列を含むか又は低分子化合物であることが好ましいが、必ずしもそうでなくてもよい。本明細書に記載の発明の文脈における低分子は、例えば複雑な巨大分子又はタンパク質よりも有意に低い分子質量を有する任意の化合物であり、従って、低分子は50kDa未満、好ましくは20又は10kDa未満の分子量を有することが好ましい。
【0019】
本発明の文脈において、免疫原性化合物は低分子、核酸又はペプチドである。
【0020】
他の実施形態において、免疫原性化合物は、低分子、核酸、炭水化物、脂質又はペプチド、又はこれら任意の組合せ、又は他の化学物質とみなされる。
【0021】
本発明の抗原性粒子の好ましい実施形態は、免疫原性化合物が、任意選択的にリンカーを介して、VSGのN末端に共有結合しているものを含む。免疫原性化合物は、当業者には公知の任意の方法、例えば任意の化学反応、好ましくはクリックケミストリー、架橋又は生物学的実体、例えば酵素、リガーゼ及びタンパク質-タンパク質相互作用等の使用によって、VSGに結合し得る。本発明の文脈中の用語「クリックケミストリー」は、反応基を含む小ユニットを結合させることにより、共有結合を迅速かつ確実に作製するように調整された化学を指す(H. C. Kolb、M. G. Finn及びK. B. Sharpless、2001を参照のこと)。そのようなアプローチの任意の変形を使用して本発明によるVSGに免疫原性化合物を結合させてもよい。
【0022】
一般的に、VSGの免疫原性化合物への結合は、任意の連結手段又はリンカーの使用を含んでいてよく、これは、本明細書に開示する本発明の文脈において、VSG及び免疫原性化合物が、それを介して連結又は結合し、eVSGを形成する手段を指す。VSG及び免疫原性化合物を連結するための1つ以上のリンカー又は連結手段は、これら2つを結合させるのに構造的に適した任意の手段であり得る。例示的なリンカーとしては、ペプチドを形成するのに使用され得る1つ以上のアミノ酸、いくつかの実施形態においては改変ペプチド骨格を有するアミノ酸、小さい化学的足場(chemical scaffold)、ビオチン-ストレプトアビジン、有機若しくは無機ナノ粒子、ポリヌクレオチド配列、ペプチド-核酸、有機ポリマー又は免疫グロブリンFcドメインの使用が挙げられる。連結用の手段は、共有及び/又は非共有結合を含んでいてもよい。1つ以上のリンカーは、種々の機能又は性質を提供する種々の配列又は他の構造的特徴を含んでいてもよい。例えば、1つ以上のリンカーは、eVSGが誘導体化されることを可能にするような構造的な要素を含んでいてもよい。
【0023】
本発明の抗原性粒子の好ましい一実施形態において、抗原性粒子はリンカーを含み、これは、野生型VSGのN末端配列のN末端延長部であり、好ましくは、5から30アミノ酸、好ましくは10から20、より好ましくは約15アミノ酸を含む。ここで、リンカーは、VSGが集合VSGコートの文脈で提供される場合に、例えば酵素を用いて、VSGのN末端を改変に対してよりアクセス可能にするために用いられる。リンカー配列は、好ましくは、VSGコード遺伝子の遺伝学的操作により、VSGに導入される。好ましくは、リンカーは、存在する場合は、VSGタンパク質の細胞表面標的化を可能にするシグナルペプチド配列のC末端に直接導入される。シグナルペプチドは、通常輸送後に切断される。したがって、本明細書中で使用する用語「シグナルペプチド」は、標的ポリペプチドに付加された場合に、細胞からの標的ポリペプチドの輸送及びシグナルペプチドの切断を可能にするアミノ末端アミノ酸残基を指す。本発明による好ましいリンカーは、G4Sリンカーであるが、VSG折り畳みを本質的に干渉しない任意の他のタンパク質リンカーを本発明の文脈において使用してもよい。本明細書に開示する本発明によるG4Sリンカーは、多重の連続的なG4Sを含んでいてもよく、例えば好ましいリンカーは、GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号8)のアミノ酸配列を有していてよいG4Sリンカーである。
【0024】
本発明のさらなる又は代替の実施形態において、VSGは、任意の種類のソルターゼアクセプター配列を含んでいてもよい。そのような配列は、ソルターゼ酵素によりアクセス可能なコート表面となるように、VSG配列のN末端に結合されるのが好ましい。eVSG配列がN末端リンカーを含む場合、ソルターゼアクセプター配列は、リンカーのN末端に位置する。例示的なソルターゼアクセプター配列は、ジ-アラニン(AA-)若しくはジ-グリシン(GG-)又はソルターゼ介在性ライゲーションに使用され得る他の任意の配列である。
【0025】
従って、本発明のいくつかの実施形態において、免疫原性化合物は、好ましくはソルターゼ酵素を使用することによってVSGに連結される。
【0026】
本明細書中で使用する用語「ソルターゼ」は、ソルターゼ活性を有するタンパク質、すなわち、タンパク質のC末端をタンパク質のN末端にアミド基転移によりコンジュゲートさせるペプチド転移反応を行うことができる酵素を指す。前記用語は、全長のソルターゼタンパク質、例えば全長の天然ソルターゼタンパク質、ソルターゼ活性を有するそのようなソルターゼタンパク質の断片、そのようなソルターゼタンパク質又はその断片の改変(例えば変異)バリアント若しくは誘導体並びに天然ソルターゼタンパク質に由来しないが、ソルターゼ活性を示すタンパク質を含む。当業者は、所与のタンパク質又はタンパク質断片がソルターゼ活性を示すかどうかを、例えばペプチド転移を可能にする条件下で問題のタンパク質又はタンパク質断片を適切なソルターゼ基質と接触させ、各ペプチド転移反応産物が形成されるかどうかを決定することにより、容易に決定することが可能である。
【0027】
適切なソルターゼは、当業者には明らかであり、ソルターゼA、ソルターゼB、ソルターゼC及びソルターゼD型のソルターゼが挙げられるが、これらに限定されるものではない。適切ソルターゼは、例えば、Dramsi S、Trieu-Cuot P、Bierne H、Sorting sortases、a nomenclature proposal for the various sortases of Gram-positive bacteria、Res. Microbiol. 156(3):289-97, 2005;Comfort D、Clubb RT、A comparative genome analysis identifies distinct sorting pathways in gram-positive bacteria.、Infect Immun.、72(5):2710-22, 2004;Chen I、Dorr B M及びLiu D R、A general strategy for the evolution of bond-forming enzymes using yeast display、Proc Natl Acad. Sci. USA. 2011 Jul. 12; 108(28):11399;及びPallen, M.J.; Lam, A. C.; Antonio, M.; Dunbar, K. TRENDS in Microbiology, 2001, 9(3), 97-101に記載されており、それぞれの内容は全体が参照により本明細書中に組み込まれる。任意の公知のソルターゼを、本明細書で示す進化戦略において出発酵素として使用してもよく、本発明はこの点で限定されるものではない。例えば、本発明は、任意の細菌種又は系統由来のソルターゼAに関する実施形態を包含する。任意のソルターゼ及び任意のソルターゼ認識モチーフ、例えば、限定されないが、Ploeghら、国際PCT特許出願PCT/US2010/000274、2010年2月1日出願、2010年8月5日にWO2010/087994として公開;Ploeghら、国際特許出願PCT/US2011/033303、2011年4月20日出願、2011年10月27日にWO2011/133704として公開;Liuら、米国仮特許出願第61/662,606号、2012年6月21日出願;及びLiuら、米国仮特許出願第61/880,515号、2013年9月20日出願(それぞれの内容は全体が参照により本明細書中に組み込まれる)に記載されたソルターゼ及びソルターゼ認識モチーフが本発明のいくつかの実施形態において使用され得ることを当業者は理解するだろう。本発明はこの点で限定されるものではない。
【0028】
本明細書中で使用する用語「ソルターゼ基質」は、ソルターゼ介在性ペプチド転移反応において使用することができる分子又は実体を指す。典型的には、ソルターゼは、2つの基質-C末端ソルターゼ認識モチーフを含む基質及びN末端ソルターゼ認識モチーフを含む第2基質を使用し、ペプチド転移反応により、共有結合を介する両方の基質のコンジュゲーションがもたらされる。本発明の文脈において、「C末端ソルターゼ認識モチーフ」はまた、「ソルタギング(sortagging)ドナー配列」とも称され、一方、用語「N末端ソルターゼ認識モチーフ」は、「ソルタギングアクセプター配列」とも称される。好ましい実施形態において、C末端及びN末端認識モチーフは、異なるアミノ酸配列に含まれ、例えば一方がVSGのN末端であり、他方がソルタギングドナー部位の末端に遊離カルボキシル基が存在するよう免疫原に連結している。いくつかのソルターゼ認識モチーフは本明細書中に記載されており、さらなる適切なソルターゼ認識モチーフは、当業者に周知である。例えば、黄色ブドウ球菌(S. aureus)のソルターゼAは、ペプチド転移反応において、C末端LPXT(G/A)モチーフ、好ましくはLPXTG(配列番号12及び13)(ここで、Xは任意のアミノ酸であり、グリシンは遊離カルボキシレートにはなり得ない)及びN末端ポリグリシンオリゴグリシン(G1-5)-インデックスはグリシン化合物の数を示す-好ましくはG3又はG5のモチーフを認識し、使用する。さらなるソルターゼ認識モチーフは当業者には明らかであり、本発明はこの点で限定されない。ソルターゼ基質はペプチド性ソルターゼ認識モチーフから離れたさらなる部分又は実体を含んでいてもよい。例えば、ソルターゼ基質は、LPXTG/Aモチーフを含んでいてもよく、そのN末端は、任意の薬剤(例えば、ペプチド若しくはタンパク質、低分子、結合剤、脂質、炭水化物又は検出可能な標識)にコンジュゲートしている。同様に、ソルターゼ基質は、オリゴグリシン(G1-5)モチーフ、好ましくはG3又はG5を含んでいてもよく、そのC末端は任意の薬剤、例えばペプチド若しくはタンパク質、低分子、結合剤、脂質、炭水化物又は検出可能な標識にコンジュゲートしている。したがって、ソルターゼ基質は、タンパク質又はペプチドに限定されず、ソルターゼ認識モチーフにコンジュゲートした任意の部分又は実体を含む。
【0029】
ドナー又はアクセプター配列に言及する文脈における用語「ソルタギング」はまた、「ソルターゼドナー配列」又は「ソルターゼアクセプター配列」とも称される場合がある。
【0030】
いくつかの実施形態において、本発明による免疫原性化合物は、ソルターゼペプチド転移反応により介される共有結合による、ソルタギングドナー配列、例えば-(G)3SLPSTGG(配列番号14)及びソルタギングアクセプター配列(例えばAA-又はGG-)を介したVSGへの連結を形成する。好ましくは、ソルタギングドナー配列及びソルタギングアクセプター配列から構成される連結は、本明細書中の上記で詳述されるように、配列-(G)3SLPSTAA-(配列番号15)又はそのソルタギング-機能性バリアントを含む。ソルターゼ改変VSGの例は、Pinger J.ら、Nat. Commun. 2017 Oct 10;8(1):828. doi: 10.1038/s41467-017-00959-wから入手し得る。
【0031】
本発明の好ましいeVSGは、N末端からC末端に、以下の(共有結合)構造体:免疫原性化合物、ソルタギングドナー配列、ソルタギングアクセプター配列、リンカー、VSGタンパク質配列を有する。
【0032】
本発明の他の好ましいeVSGはN末端からC末端に、以下の(共有結合)構造体:免疫原性化合物、次いでペプチドリンカー配列(又は存在しない)、次いでソルターゼドナー配列、次いでソルターゼアクセプター配列、次いでペプチドリンカー配列(又は存在しない)を有し、VSGタンパク質配列で終わる。他の改変VSGは、これらの要素の順序及び/又は組成を変更するか、又は他の方法で(例えば表面露出アミノ酸への化学的若しくは酵素的な架橋又は多様な形態のタンパク質ライゲーションを介して)VSGタンパク質にそれらを共有結合させることができる。
【0033】
本発明の抗原性粒子は、主に医学的性質の多種多様な目的に使用することができる。さらに、本発明は、産業的な性質の目的、例えば他の用途の中で、特定の化学反応の副産物の除去剤としての抗体作製のために適合させてもよい。本明細書に記載する発明の一つの利点は、本発明のeVSGが、特にN末端における抗原提示を可能にするという驚くべき発見により、広範囲の用途が可能になっていることである。本発明のさらなる驚くべき一実施形態において、本発明の抗原性粒子の作製に用いられる免疫原性化合物は、低分子薬物、例えば治療用化合物及び/又は依存性誘発物質である。したがって、本発明はトリパノソーマVSGコートを使用して、抗体作製のために低分子を提示するという本発明の考えに基づいている。本発明者らは、抗原性粒子によって強い免疫応答を誘発することができるような低分子の高密度提示を可能にするシステムを初めて開発した。用語「依存性誘発物質」は、対象が消費した場合に、前記依存性誘発物質の消費を継続する又は繰り返す身体的又は精神的中毒を誘発する任意の化合物又は物質を指す。ヒトにおいて中毒性であることが公知である古典的物質としては、アンフェタミン、モルヒネ、コカイン及びその関連する誘導体、アルコール及びニコチンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
したがって、この特定の実施形態において、免疫原性化合物は、好ましくは(i)デルタ-9-テトラヒドロカンナビノール(THC)又は合成カンナビノイド、例えば古典的カンナビノイド、非古典的カンナビノイド、ハイブリッドカンナビノイド、アミノアルキルインドール及びエイコサノイド、例えば9-THC HU-210、(C8)CP47,497、JWH-018、AM-2201(フッ素化JWH-018)、UR-144、XLR-11(フッ素化UR-144)、APICA、STS-135(フッ素化APICA)、AB-PINACA、PB-22、5F-PB-22(フッ素化PB-22)、又は(ii)メタンフェタミン及びその誘導体、例えば3,4-メチレンジオキシ-メタンフェタミン(MDMA)エクスタシー/モリー、又は(iii)合成カチノン様アルファ-ピロリジノペンチオフェノン(アルファ-PVP)、又は(iv)オピオイド、例えばヘロイン、合成オピオイド、例えばフェンタニル、カルフェンタニル及び他のオピオイド鎮痛薬、例えばオキシコドン(Oxy-Contin(登録商標))、ヒドロコドン(Vicodin(登録商標))、コデイン、モルヒネ、デソモルヒネ(クロコダイル)、又は(v)ステロイド(同化物質)から選択される(ただし、特定の実施形態において限定されるに過ぎない)依存性誘発物質であるか、又はニコチンである。
【0035】
本発明によるアヘンアルカロイド及び誘導体は、アヘンアルカロイド、コデインのようなフェナントレン、モルヒネ、テバイン、オリパビン又は混合アヘンアルカロイド、例えばパパベレタム、ジアセチルモルヒネのようなモルヒネのエステル(モルヒネジアセテート、ヘロイン)、ニコモルヒネ(モルヒネジニコチネート)、ジプロパノイルモルヒネ(モルヒネジプロピオネート)、ジアセチルジヒドロモルヒネ、アセチルプロピオニルモルヒネ、dmaデソモルヒネ(dmaDesomorphine)、メチルデソルフィン、ジベンゾイルモルヒネ、ジヒドロコデインの様なモルヒネのエーテル、エチルモルヒネ、ヘテロコデインから選択される。
【0036】
半合成アルカロイド誘導体、例えばブプレノルフィン、エトルフィン、ヒドロコドン、ヒドロモルホン、オキシコドン、オキシモルホンもまた含まれる。
【0037】
いくつかの具体的な実施形態において、本発明の免疫原性化合物は、ペプチド、タンパク質又はそのタンパク質性断片ではないことが好ましい。好ましくはこの実施形態は、本発明が低分子化合物に関する場合に実現される。
【0038】
本発明のさらなる実施形態において、免疫原としての低分子化合物は、ペプチドソルタギング配列に化合物を化学的に連結することにより本発明のVSGに連結してもよい。このために、本発明の免疫原性化合物として使用される低分子化合物は、ペプチドソルタギング配列に共有結合するように改変されている。低分子をペプチドに連結させる方法は、例えばフェンタニルについてはM. D. Raleighら、J. Pharmacol. Exp. Ther. 368:282-291、2019に示されている。
【0039】
合成オピオイド、例えばフェンタニルのようなアニリドピペリジン、アルファメチルフェンタニル、アルフェンタニル、スフェンタニル、レミフェンタニル、カルフェンタニル、オーメフェンタニル、またペチジンのようなフェニルピペリジン(メペリジン)、ケトベミドン、MPPP、アリルプロジン、プロジン、PEPAP、プロメドールもまた含まれる。
【0040】
含まれるジフェニルプロピルアミン誘導体としては、プロポキシフェン、デキストロプロポキシフェン、デキストロモラミド、ベジトラミド、ピリトラミド、メタドン、ジピパノン、酢酸レボメタジル(LAAM);ジフェノキシン;ジフェノキシレート、ロペラミドを含む。
【0041】
さらに含まれるのは、ベンゾモルファン誘導体、例えばデゾシン、ペンタゾシン、フェナゾシン、オリパビン誘導体、例えばブプレノルフィン、ジヒドロエトルフィン、エトルフィン、モルフィナン誘導体、例えばブトルファノール、ナルブフィン、レボルファノール、レボメトルファン、ラセメトルファン、他のもの、例えばレフェタミン、メントール(カッパ-オピオイドアゴニスト)、メプタジノール、ミトラギニン、チリジン、トラマドール、タペンタドール、エルクサドリン、AP-237、7-ヒドロキシミトラギニンである。
【0042】
いくつかの実施形態において、本発明の抗原性粒子は、その表面上に2つ以上の異なるeVSGを含んでいてもよい。それにより抗原性粒子は、その表面コート上に2つ以上(又は3、4、5、6等)の異なる免疫原性化合物を提示するのに使用し得る。例えば、異なる免疫原性化合物は、1つの抗原の異なる免疫原性エピトープを含んでいてもよく、又は異なる抗原の異なるエピトープを含んでいてもよい。
【0043】
いくつかのさらなる又は代替的な本発明の実施形態において、抗原性粒子は、生体細胞、小胞、ナノ粒子又はビーズである粒子を含む。粒子は、VSGタンパク質でコートされることが可能であるように選択されることが好ましい。最も好ましくは、粒子は、例えば微生物、好ましくは原生動物、より好ましくはトリパノソーマ、さらに好ましくはブルーストリパノソーマの生体細胞である。いくつかの実施形態において、トリパノソーマは、酵素グリコホスファチジルイノシトールホスホリパーゼC(GPI-PLC)陰性トリパノソーマである。GPI-PLC陰性ブルーストリパノソーマ系統を用いることは、細胞の不活化後、VSGコートが分解せずに、インタクトなままであるという利点を有する。したがって、他のさらなる又は代替的な実施形態において、生体細胞は、非生存、好ましくは非感染性生体細胞、例えば不活化生体細胞、好ましくはUV架橋細胞である。
【0044】
本発明のいくつかの他の実施形態において、eVSGは、VSG配列に(好ましくは遺伝学的に)挿入された1つ以上の免疫原性アミノ酸配列(複数可)として免疫原を含む。好ましくは挿入された免疫原性配列は異種配列であり、最も好ましくは野生型VSG配列に欠損を引き起こさずに、VSG配列に挿入される。いくつかの実施形態において、挿入はVSGの表面ループ、例えばVSG中の2つの二次構造モチーフ間の領域に位置し、好ましくは前記表面ループは、VSGがVSGコート中で含まれる又は集合する場合に表面提示される、好ましくは表面アクセス可能であり、免疫系に提示され得るVSG内の3次元位置に位置する。
【0045】
本発明のいくつかの実施形態において、抗原性粒子に含まれる免疫原性化合物は、疾患関連抗原、例えばペプチド抗原であり、疾患は、好ましくは、増殖性障害、感染性疾患、炎症性障害、免疫不全障害若しくは自己免疫障害から選択されるか、又は疾患は、非伝染性疾患である。免疫原性化合物は感染性疾患又は増殖性障害に関連する抗原であるのが最も好ましく、抗原は、疾患に関連しているのが好ましい。
【0046】
いくつかの他の実施形態において、粒子は生体細胞であり、eVSGは、前記生体細胞内で完全又は部分的に発現している。したがって、生体細胞は、本発明によるVSGの発現用の遺伝学的構築物を含む。好ましくは、本文脈において、部分的な発現は、内部ペプチド免疫原を含むVSGの発現であるか、又はリンカー配列を含み、任意選択的にソルタギングアクセプター部位を、細胞表面発現用のN末端シグナルペプチドと共に含むVSGの内部発現であって、ソルタギングアクセプター部位が、シグナルペプチド配列とリンカー配列との間にある、VSGの内部発現である。
【0047】
本発明の文脈における好ましい抗原性粒子は、インタクトなVSGコートを有する生存又は不活化トリパノソーマ細胞であり、ここで、VSGコートは、1つ以上の免疫原性改変VSG(ieVSG)、好ましくは高パーセント比率のieVSG(20%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、高いほど好ましい)を含み、ここで、ieVSGは、免疫原性化合物にN末端で連結したeVSGタンパク質を含む。好ましくは、連結はソルターゼ介在反応によってもたらされる。
【0048】
トリパノソーマのVSG発現座位への導入に適した、本発明のeVSGを含む核酸構築物がさらに提供される。トリパノソーマへの導入用の核酸構築物は、
図3Aから3Cのいずれか一つに示すような構造を有するのが好ましい。概して、本発明の核酸は以下の要素: VSGの共転移領域(co-transposed region)(CTR)、例えばブルーストリパノソーマ(リスター427系統)ゲノムの血流発現部位-1(Bloodstream Expression Site-1、BES1)中のVSG2オープンリーディングフレームの前方の約1156bp、直後の本発明によるeVSGのコード領域、及びテロメアシード配列、例えば約150から250bp、好ましくは200bpのテロメアシード配列を、をこの順序で含む。前記構築物は、耐性遺伝子、例えばブラスチシジン、ピューロマイシン又はハイグロマイシンを、好ましくはeVSGコード領域の後ろにさらに含んでもよい。トリパノソーマゲノムにそのような構築物を組み込む方法は、Pingerら、2017(Nature Communications)に記載されており、当該文献の第7頁及び第8頁の材料及び方法は、参照により本明細書中に組み込まれる。
【0049】
他の態様において、本発明は、本明細書中で上述する抗原性粒子を産生する方法に関する。
【0050】
さらに、他の態様は、N末端からC末端の方向に、
(a)免疫原性化合物、
(aa)任意選択的に、リンカー配列(例えばG3S)、
(b)ソルタギングドナー配列(例えばLPXTG/A)、
(c)ソルタギングアクセプター配列(例えばAA又はGG)、
(d)リンカー配列(例えば(G4S)3)、
(e)全長又は本質的に全長のVSGタンパク質、例えば本明細書中に記載するブルーストリパノソーマのVSGタンパク質
を含む免疫原性改変VSG(ieVSG)タンパク質に関する。
【0051】
本発明によるieVSGは、(a)から(e)の任意の1つ、任意の組合せ又は全てが、上記の説明による抗原性粒子の対応する(a)から(e)から選択されるのが好ましい。
【0052】
本発明のさらに他の態様は、システムの構成成分として、プレieVSGタンパク質と、ソルタギングドナー配列を含む化合物とを含むシステムであって、プレieVSGタンパク質が、NからC末端の方向に、
(a')任意選択的に、シグナルペプチド、
(b')ソルタギングアクセプター配列(例えばAA又はGG)、
(c')リンカー配列(例えば(G4S)3)、
(d')全長又は本質的に全長のVSGタンパク質、例えばブルーストリパノソーマのVSGタンパク質
を含む、システムを提供する。
【0053】
いくつかの実施形態において、本発明のシステムは、さらなる構成成分として、ソルターゼ酵素又はソルターゼ酵素の作製用の手段をさらに含む。
【0054】
本発明による「プレieVSG」は、免疫原性化合物の付加用の遊離N末端アクセプター部位を有するeVSGである。例えばプレieVSGは、トリパノソーマ細胞のコート上に発現され、VSGコートの外側に(例えばコートの表面上にアクセス可能に)遊離ソルターゼアクセプター配列を含む。ソルターゼ反応においてソルターゼ酵素を使用して、ソルターゼドナー配列に連結した免疫原性化合物にプレieVSGを融合することができる。
【0055】
いくつかの実施形態において、プレieVSGタンパク質は、プレieVSGタンパク質の発現、例えば生体細胞内のプレieVSGの発現用の核酸配列として提供される。トリパノソーマにおいてVSG遺伝子を発現させるのに適した発現システムは、当技術分野では周知であり、実施例セクションで例示する。本発明における他の発現システムは、多様な原核及び真核生物(例えば酵母、昆虫細胞及び哺乳動物細胞)並びにインビトロ発現システムを含んでいてもよい。
【0056】
本発明のシステムは、さらなる構成成分として、ソルタギングドナー配列を、免疫原として使用する化合物に共有結合させるための手段をさらに含んでいてもよい。
【0057】
本発明によるシステムのさらなる構成成分は、生体細胞、好ましくはトリパノソーマ細胞、例えばブルーストリパノソーマ細胞であり、より好ましくは、GPI-PLC陰性ブルーストリパノソーマ細胞である。
【0058】
本発明による抗原性粒子、ieVSG又はシステムは、好ましい実施形態においてブルーストリパノソーマのゲノム由来のVSG、好ましくはVSG1、VSG2、VSG3又はILTat1.24を含む。
【0059】
本発明のさらなる態様は、さらに、本発明による抗原性粒子を、薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤と共に含む医薬組成物に関する。医薬組成物は、疾患又は障害の治療、予防又は管理のために対象に投与するために製造される。
【0060】
医薬組成物は、ワクチン組成物、したがって、ワクチン接種を必要とする対象におけるワクチン接種に適した組成物として製剤されるのが好ましい。
【0061】
例として、本発明の医薬組成物は、0.1%から100%(w/w)の有効成分を、例えば約0.5%、1%、2%、3%、4%、5%、6%、8%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%、好ましくは約1%から約20%、約10%から50%又は約40%から90%含んでいてよい。本発明の組成物の有効成分は、好ましくは本発明の抗原性粒子である。
【0062】
本明細書で使用する語「薬学的に許容される」賦形剤、安定剤又は担体は、医薬投与と適合性の任意の及び全ての溶媒、可溶化剤、充填剤、安定剤、結合剤、吸収剤、基剤、緩衝剤、滑沢剤、制御放出ビヒクル、希釈剤、乳化剤、湿潤剤、分散媒、コーティング、抗菌剤若しくは抗真菌剤、等張及び吸収遅延剤等を含むように意図される。薬学的な有効物質についてのそのような媒体及び薬剤の使用は当技術分野において周知である。任意の慣用的な媒体又は薬剤は有効化合物と不適合性でない限り、組成物におけるその使用が企図される。補助剤もまた、前記組成物に組み込んでよい。
【0063】
本発明の(又は共に使用するための)医薬組成物は、典型的には、意図する投与経路と適合性であるように製剤される。投与経路の例としては、経口、非経口、例えば髄腔内、動脈内、静脈内、皮内、皮下、経口、腹腔内、経皮(局所)及び経粘膜投与が挙げられる。
【0064】
非経口、皮内又は皮下適用のための液剤又は懸濁剤は、本発明の(又は共に使用するための)化合物(例えば本発明の抗原性粒子)を含むと同時に、次の構成成分:無菌希釈剤、例えば注入用の水、食塩水溶液、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール又は他の合成溶媒、抗菌剤、例えばベンジルアルコール又はメチルパラベン、抗酸化剤、例えばアスコルビン酸又は硫酸水素ナトリウム、キレート剤、例えばエチレンジアミン四酢酸、緩衝剤、例えば酢酸塩、クエン酸塩又はリン酸塩又は張度調節のための薬剤、例えば塩化ナトリウム又はデキストロースを含み得る。pHは、酸又は塩基、例えば塩酸又は水酸化ナトリウムで調節してもよい。非経口製剤は、アンプル、使い捨てシリンジ又はガラス若しくはプラスチック製の多回投与バイアルに封入されてもよい。
【0065】
注入使用に適した医薬組成物は、無菌水性液剤(水溶性の場合)又は分散剤及び無菌注入用液剤又は分散剤の即時調製のための無菌粉末を含む。静脈内投与については、適切な担体としては、生理食塩水、静菌水、Kolliphor(登録商標)EL(以前はCremophor EL(商標)、BASF、Parsippany、N.J.)又はリン酸緩衝食塩水(PBS)が挙げられる。全ての場合において、注入用組成物は、典型的には無菌であり、容易なシリンジ通過性(syringability)が存在する程度に流体でなければならない。これは、典型的には製造及び保存の条件下で安定であり、微生物、例えば細菌及び真菌の混入作用に対して保護されなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール及び液体ポリエチレングリコール等)を含む溶媒又は分散媒及びその適切な混合物であってもよい。適切な流動性は、例えばコーティング、例えばレシチンの使用、分散剤の場合は必要な粒子サイズの維持、及び界面活性剤の使用により維持し得る。微生物作用の防止は、種々の抗菌剤及び抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸及びチメロサール等により達成し得る。多くの場合、等張剤、例えば糖、ポリアルコール、例えばマンニトール、ソルビトール及び塩化ナトリウムを組成物中に含むことが好ましい。注入可能組成物の吸収延長は、吸収を遅延化させる薬剤、例えばモノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンを組成物中に含むことによりもたらされ得る。
【0066】
経口組成物は、本発明の(又は共に使用するための)化合物(例えば本発明の抗原性粒子)を含むと同時に、概して、不活性希釈剤又は可食担体を含む。それらは、ゼラチンカプセル剤に封入されていても、又は錠剤に圧縮されていてもよい。経口治療用投与の目的のために、有効化合物は、賦形剤と共に取り込まれ、錠剤、トローチ剤又はカプセル剤の形態で使用され得る。経口組成物はまた、口腔洗浄薬として使用するための流体担体を用いて調製することができ、流体担体中の化合物は、経口適用されてすすがれ、吐き出されるか又は嚥下される。薬学的に適合性の結合剤及び/又はアジュバント材料は、組成物の一部として含まれ得る。錠剤、丸剤、カプセル剤及びトローチ剤等は、次の成分:結合剤、例えば微結晶セルロース、トラガカントガム又はゼラチン、賦形剤、例えばデンプン又はラクトース、崩壊剤、例えばアルギン酸、プリモゲル(Primogel)又はコーンスターチ、滑沢剤、例えばステアリン酸マグネシウム又はステルテス(Stertes)、滑剤、例えばコロイド状二酸化ケイ素、甘味剤、例えばスクロース又はサッカリン、又は香味剤、例えばペパーミント、サリチル酸メチル又はオレンジ香味料のいずれか又は類似の性質の化合物を含み得る。
【0067】
さらに、本発明の(又は共に使用するための)化合物(例えば本発明の抗原性粒子)は、直腸投与されてもよい。直腸用組成物は、直腸で許容される任意の剤形であってよく、クリーム剤、ゲル剤、エマルジョン、浣腸剤、懸濁剤、坐剤及び錠剤が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい一剤形は、ヒト身体の直腸開口部に導入するために設計された形状及びサイズを有する坐剤である。坐剤は通常、体温で軟化するか、融解するか、又は溶解する。坐剤賦形剤としては、カカオ油(ココアバター)、グリセリン化ゼラチン、水素化植物油、種々の分子量のポリエチレングリコールの混合物及びポリエチレングリコールの脂肪酸エステルが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0068】
吸入投与については、本発明の(又は共に使用するための)化合物(例えば本発明の抗原性粒子)は、典型的には適切な噴霧剤、例えばガス、例えば二酸化炭素などのガスを含む加圧容器若しくはディスペンサー、又はネブライザーからエアロゾルスプレーの形態で送達される。
【0069】
全身投与はまた、経粘膜又は経皮手段によるものであってもよい。経粘膜又は経皮投与については、浸透に対する障壁に適した浸透剤を製剤中で使用する。そのような浸透剤は一般的に当技術分野において公知であり、例えば、経粘膜投与については、界面活性剤、胆汁酸塩及びフシジン酸誘導体が挙げられる。経粘膜投与は、鼻腔用スプレー又は坐剤の使用によって達成し得る。経皮投与については、医薬組成物は、当技術分野で一般的に公知であるように、軟膏剤、膏薬、ゲル剤又はクリーム剤として製剤化し得る。
【0070】
特定の実施形態において、医薬組成物は、本発明の(又は共に使用するための)化合物(例えば本発明の抗原性粒子)の持続放出又は制御放出用に製剤化される。生体分解性、生体適合性ポリマー、例えばエチレンビニルアセテート、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル及びポリ乳酸を使用してもよい。そのような製剤の調製方法は、当業者には明らかであろう。材料はまた、市販で入手してもよく(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体で感染細胞に標的化したリポソームを含む)、薬学的に許容される担体として使用してもよい。これらは、当業者には公知の方法により調製し得る。
【0071】
本発明の抗原性粒子を含む医薬組成物の例示的な単位剤形は、錠剤、カプセル剤(例えば散剤、顆粒剤、マイクロ錠剤又はマイクロペレット剤として)、懸濁剤又は使い捨てのプレロードシリンジである。特定の実施形態において、単回用量投与ユニットの製造用キットが提供される。キットは、乾燥有効成分を有する第1の容器と水性製剤を有する第2の容器とを共に含んでいてよい。あるいは、キットは、単一及び複数チャンバーのプレロードシリンジを含んでいてもよい。
【0072】
上述のように、好ましい医薬組成物はワクチン組成物である。本明細書中で使用する用語「ワクチン組成物」は、対象に投与した場合に、抗原、この場合は免疫原性化合物に提示される抗原に対して防御免疫を誘発する免疫原性組成物を指す。本発明により産生される抗体はまた、治療剤又は受動免疫化として使用され得る。
【0073】
さらに、ワクチン組成物は、1つ以上のアジュバントを含んでいてよい。本明細書中で使用する用語「アジュバント」は、製剤中で特定の抗原性粒子と組み合わせて使用した場合に、結果として生じる免疫応答を増強するか、又は他の方法で変更若しくは改変する化合物を指す。免疫応答の改変としては、抗体及び細胞免疫応答のいずれか又は両方の特異性の強化及び拡大が挙げられる。免疫応答の改変はまた、特定の抗原特異的免疫応答の低下又は抑制を意味し得る。
【0074】
公知のアジュバントの例としては、完全フロイントアジュバント(免疫応答の非特異的刺激物質、死滅結核菌(Mycobacterium tuberculosis)を含む)、不完全フロイントアジュバント及び水酸化アルミニウムアジュバントが挙げられる。他の公知のアジュバントとしては、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、カルメット・ゲラン桿菌(Bacillus Calmette-Guerin)(BCG)、水酸化アルミニウム、ムラミルジペプチド(MDP)化合物、例えばthur-MDP及びnor-MDP、ムラミルトリペプチドホスファチジルエタノールアミン(MTP-PE)、細菌から抽出した3つの構成成分を含むRIBIアジュバント(Ribi ImmunoChem Research、Inc.,Hamilton Mont.)、トレハロースジミコラート(TDM)及び2%スクアレン/Tween 80エマルジョン中の細胞壁骨格(CWS)が挙げられる。MF-59、Novasomes(登録商標)、主要組織適合複合体(MHC)抗原は他の公知のアジュバントである。
【0075】
いくつかの実施形態において、ワクチン組成物は、2、3、4、5、6、7、8又は9以上の抗原性粒子を含み、これらはそれぞれ1つ以上の抗原に由来する異なる免疫原性化合物を含む。
【0076】
本明細書中で提供する、本発明の物質、組成物及びシステムは、医学的状態の予防、管理及び/又は治療に使用するためのものであることが好ましい。したがって、本発明は、本明細書中に開示する物質、組成物又はシステムの、医学的状態を予防、管理及び/又は治療する医薬の製造のための使用に関する。さらに、本発明は、医学的状態の予防、管理及び/又は治療の方法であって、有効量の本発明の物質、組成物又はシステムをそのような治療を必要としている対象に投与するステップを含む方法に関する。
【0077】
本発明により予防、管理又は治療され得る医学的状態は、好ましい実施形態においては、依存性誘発物質に対する中毒である。本実施形態において、抗原性粒子の免疫原性化合物は、依存性誘発物質である。理論に縛られるものではないが、本発明の抗原性粒子は、改善されたワクチン接種戦略を提供し、これは対象における強い免疫応答をもたらし、それにより抗原性粒子に応答して対象において産生された抗体が、常習行為への逆戻りの間に対象がそのような物質を消費する場合に、依存性誘発物質を中和する「スポンジ」として作用する。それにより、本発明のワクチン接種戦略は、依存性誘発物質の陽性感覚(positive sensation)を低下させ、対象が中毒を克服する手助けをする。
【0078】
本発明により、予防、管理又は治療され得る医学的状態は、他の好ましい実施形態においては、薬物混入物により引き起こされる有害又は致死的事象である。薬物混入物は、乱用薬物の調製物と共に消費される物質であるが、しばしば過剰摂取を引き起こし、重症の有害作用及び、さらには対象の死亡を引き起こすことも珍しくない。本実施形態において、本発明の抗原性粒子は、過剰摂取から乱用者を守るために、一般的な混入物に対する免疫応用を誘発する免疫原性化合物を含む。そのような治療において、対象はまた、対象が中毒になっている乱用薬物に特異的な本発明の抗原性粒子を投与されるのが好ましい。
【0079】
本発明の医学的使用は、薬物過剰摂取、例えば純粋化合物又は混入物の過剰摂取の制御、管理又は改善を含んでいてもよい。本態様において、医学的使用はまた、好ましい実施形態において、純粋化合物又は混入物によるそのような過剰摂取に暴露される危険があると疑われる対象における過剰摂取の予防を含む。これは、薬物中毒及び使用の再発の可能性を患っていると疑われる対象における、依存性誘発薬物に対する本発明によるワクチン接種を含んでいてもよい。
【0080】
さらなる実施形態において、本発明は、感染性疾患である医学的状態に関し、抗原性粒子の免疫原性化合物は、感染性疾患を引き起こす感染性生物に由来する免疫原性化合物又は配列である。好ましい態様において、疾患はマラリアである。公知の好ましいマラリア抗原は、当業者には周知である。例えば、免疫原はプラスモジウム表面由来の化合物である。
【0081】
本発明の他の実施形態は、がんに関し、抗原性粒子の免疫原性化合物は、がんのがん細胞に関連するか又はそれに特異的な化合物である。
【0082】
本発明の他の実施形態は、化学療法剤の適用のための「遅延放出デポー」(SRD)の作成に関する。SRDは、特定の化学療法化合物に結合し、有用な目的(例えば毒性の低下、半減期の延長、代替組織指向性等)のために薬物動態又は治療の他の性質を変更する、抗体又はワクチン接種の任意の産物である。例は、抗癌化学療法剤(白金、アドリアマイシン等)、及び治療又は他の有用な目的のために化学療法剤の捕捉及び「遅延放出」を可能にするワクチン接種からの抗体又は免疫反応の生成である。他の例としては、免疫学的SRDが有用なアプローチを提供する感染性疾患又はアレルギーに対する化学療法薬が挙げられる。産業的用途において使用される化合物についてのSRDもまた、本発明の一実施形態であろう。
【0083】
本発明のさらなる実施形態は、神経変性疾患及び特定のタンパク質に対する抗体又はワクチン接種の任意の産物の態様に関する。例としては、アルツハイマー病(アミロイドベータ(Ab)ペプチド、Tau)、パーキンソン病(α-シヌクレイン)、多発性タウオパチー(Tauタンパク質、微小管関連)、ハンチントン病(タンデムグルタミンリピートを有するか又は有さないハンチンチン)、筋萎縮性側索硬化症(スーパーオキシドジスムターゼ1)、海綿状脳症(プリオンタンパク質)、家族性アミロイドポリニューロパチー(トランスサイレチン、野生型及び変異体形態)、片頭痛に関連するペプチドのような小ペプチド)並びに、限定されないが例えば産業的、農業的、研究又は診断に有用とみなされる任意の考えられるペプチド又は低分子標的が挙げられる。
【0084】
概して、抗体又は全身免疫応答が医学的、診断又は産業的条件において有用性を示しているか又は潜在的に示すことが合理的に期待され得るあらゆるものが、本発明の一実施形態として資格を得る。
【0085】
本発明の抗原性粒子の医学的使用は、通常、医学的状態の予防、管理及び/又は治療を必要とする対象への、例えば本明細書中で上述するようなワクチン組成物の形態での抗原性粒子の投与を伴う。
【0086】
さらに、本発明のさらなる他の態様は、
免疫原性化合物に結合することができる抗体を作製する方法であって、
本発明による抗原性粒子を用意するステップであって、抗原性粒子の免疫原性化合物は、作製される抗体が結合できる免疫原性化合物又はその免疫原性部分である、ステップ、
抗体を産生するヒト又は非ヒト動物を抗原性粒子で免疫化するステップ、
免疫化したヒト若しくは動物から、前記免疫原に対する抗体を産生する免疫細胞を単離するステップ、及び
任意選択的に、前記細胞から前記の通り作製された抗体を単離するステップ
を含む方法に関する。
【0087】
本明細書に開示される発明の文脈において、非ヒト動物は、マウス、ウサギ、ラクダ、ヤギ、ラット、イヌ、ネコ、サル、ハムスター又は他の哺乳動物から選択されるのが好ましい。
【0088】
さらなる態様は、免疫原性化合物に特異的な増強された免疫応答を必要とする対象にワクチン接種する方法であって、前記方法が、対象において免疫原性化合物に対する免疫応答を誘導するのに十分な量の本発明による抗原性粒子を対象に投与するステップを含み、抗原性粒子に含まれる免疫原性化合物が、増強された免疫応答が特異的である免疫原性化合物と同一であるか又はその免疫原性部分である、方法に関する。医学的状態を予防、管理又は治療する方法であって、免疫原性化合物が医学的状態に関連している、方法が好ましい。
【0089】
本明細書中で使用する用語「[本]発明の」、「本発明によれば」及び「本発明による」等は、本明細書中に記載する及び/又は特許請求する発明の全ての態様及び実施形態を指すことを意図している。
【0090】
本明細書中で使用する用語「含む(comprising)」は、「含む(including)」及び「からなる」の両方を包含すると解釈されるものであり、これらの意味は共に、具体的に意図され、それにより個々に開示されている本発明による実施形態である。本明細書中で使用する場合、「及び/又は」は、二つの特定の特徴又は構成要素の各々の、他のものを伴う又は伴わない具体的な記載と解釈されるべきである。例えば、「A及び/又はB」は、(i)A、(ii)B及び(iii)A及びBのそれぞれを、それぞれが本明細書中で個々に示されているのと同様に、具体的に記載していると解釈されるべきである。本発明の文脈において、用語「約」及び「およそ」は、当業者が問題の特徴の技術的効果がなお確実であると理解する正確性の区間を表す。用語は、典型的には、示された数値からの±20%、±15%、±10%、例えば±5%の偏差(deviation)を示す。当業者は理解するであろうが、所与の技術的効果に関する数値についてのそのような具体的な偏差は、技術的効果の性質に依存する。例えば、天然の又は生物学的な技術的効果は、一般的に、人工又は工学的な技術的効果よりも、そのような偏差が大きい場合がある。当業者によって理解されるように、所与の技術的効果に関する数値に対する具体的なそのような偏差は、技術的効果の性質に依存するであろう。例えば、天然の又は生物学的な技術的効果は、一般に、人工的又は工学的な技術的効果よりもそのような偏差が大きい場合がある。単数形の名詞に言及する場合に不定冠詞又は定冠詞、例えば「a」、「an」又は「the」が用いられている場合、これは別段明記されない限り、当名詞の複数形を含む。
【0091】
本発明の教示を特定の問題又は環境に適用すること、及び本発明の変形若しくはさらなる特徴(例えばさらなる態様及び実施形態)が包含されることは、本明細書に含まれる教示に照らせば、当業者の能力の範囲内にあることは理解されるべきである。
【0092】
別段文脈が示さない限り、上述の特徴の記載及び定義は、本発明の任意の具体的な態様又は実施形態に限られるものではなく、記載されている全ての態様及び実施形態に等しく当てはまる。
【0093】
本明細書中に引用する全ての参考文献、特許及び出版物は、参照によりその全体が本明細書中に組み込まれる。
本発明は以下の態様も提供する。
[1] 改変変異表面糖タンパク質(eVSG)でコートされた抗原性粒子であって、eVSGが、免疫原性化合物に連結したVSGを含み、免疫原性化合物が低分子化合物であり、リンカーを介してVSGのN末端に共有結合している、抗原性粒子。
[2] eVSGが、N末端からC末端に、以下の共有結合構造体:免疫原性化合物、ソルタギングドナー配列、ソルタギングアクセプター配列、任意選択的にリンカー及びVSGタンパク質配列を有する、[1]に記載の抗原性粒子。
[3] 免疫原性化合物が、低分子薬物、例えば及び/又は治療用化合物、依存性誘発物質である、[1]又は[2]に記載の抗原性粒子。
[4] 免疫原性化合物が、(i)デルタ-9-テトラヒドロカンナビノール(THC)又は合成カンナビノイド、例えば古典的カンナビノイド、非古典的カンナビノイド、ハイブリッドカンナビノイド、アミノアルキルインドール及びエイコサノイド、例えばΔ9-THC HU-210、(C8)CP47,497、JWH-018、AM-2201(フッ素化JWH-018)、UR-144、XLR-11(フッ素化UR-144)、APICA、STS-135(フッ素化APICA)、AB-PINACA、PB-22、5F-PB-22(フッ素化PB-22)、又は(ii)メタンフェタミン及びその誘導体、例えば3,4-メチレンジオキシ-メタンフェタミン(MDMA)エクスタシー/モリー、又は(iii)合成カチノン様アルファ-ピロリジノペンチオフェノン(アルファ-PVP)、又は(iv)オピオイド、例えばヘロイン、合成オピオイド、例えばフェンタニル及び他のオピオイド鎮痛薬、例えばオキシコドン(OxyContin(登録商標))、ヒドロコドン(Vicodin(登録商標))、コデイン、モルヒネ、デソモルヒネ(クロコダイル)、又は(v)ステロイド(同化物質)から選択される依存性誘発物質であるか、又はニコチンである、[1]から[3]のいずれかに記載の抗原性粒子。
[5] 生体細胞、小胞、ナノ粒子又はビーズである、[1]から[4]のいずれかに記載の抗原性粒子。
[6] 生体細胞が、微生物、好ましくは原生生物、より好ましくはトリパノソーマである、[5]に記載の抗原性粒子。
[7] 生体細胞が不活化生体細胞、好ましくはUV架橋生体細胞である、[5]又は[6]に記載の抗原性粒子。
[8] VSGが、ブルーストリパノソーマ(T. brucei)のゲノム由来のVSG、例えばVSG1、VSG2、VSG3又はILTat1.24である、[1]から[7]のいずれかに記載の抗原性粒子。
[9] N末端からC末端の方向に、
(a)免疫原性化合物、
(b)ソルタギングドナー配列、
(c)ソルタギングアクセプター配列、
(d)リンカー配列、
(e)全長又は本質的に全長のVSGタンパク質
を含む免疫原性改変VSG(ieVSG)タンパク質。
[10] 構成成分として(i)プレieVSGタンパク質と、(ii)ソルタギングドナー配列を含む化合物とを含むシステム又はキットであって、プレieVSGタンパク質が、N末端からC末端の方向に、
(a')任意選択的にシグナルペプチド、
(b')ソルタギングアクセプター配列、
(c')リンカー配列、
(d')全長又は本質的に全長のVSGタンパク質
を含む、システム又はキット。
[11] ソルターゼ酵素又はソルターゼ酵素の作製用の手段をさらに含む、[9]に記載のシステム又はキット。
[12] プレieVSGタンパク質が、プレieVSGタンパク質の発現、例えば生体細胞におけるプレieVSGの発現用の核酸配列として提供される、[10]又は[11]に記載のシステム又はキット。
[13] ソルタギングドナー配列を、免疫原として使用される化合物に共有結合するための手段をさらに含む、[10]から[12]のいずれかに記載のシステム又はキット。
[14] 医学的状態を予防、管理及び/又は治療するのに使用するための抗原性粒子であって、[1]から[8]のいずれかに記載の抗原性粒子である、抗原性粒子。
[15] 医学的状態が依存性誘発物質に対する中毒であり、抗原性粒子の免疫原が依存性誘発物質である、[14]に記載の抗原性粒子。
[16] 医学的状態が感染性疾患又はがんであり、抗原性粒子の免疫原が、それぞれ感染性疾患を引き起こす感染性生物又はがんに由来する免疫原性化合物又は配列(エピトープ)である、[14]に記載の抗原性粒子。
[17] 抗原性粒子が、医学的状態の予防、管理及び/又は治療を必要とする対象に、例えばワクチン組成物の形態で投与される、[14]から[16]のいずれかに記載の抗原性粒子。
[18] 免疫原性化合物に結合することができる抗体を作製する方法であって、
[1]から[8]のいずれかに記載の抗原性粒子を用意するステップであって、抗原性粒子の免疫原性化合物は、作製される抗体が結合することができるか若しくは結合することを意図されている免疫原性化合物又はその免疫原性部分である、ステップ、
抗体を産生する非ヒト動物を抗原性粒子で免疫化するステップ、
免疫化した動物から、前記免疫原に対する抗体を産生する免疫細胞を単離するステップ、及び
任意選択的に、前記細胞から前記の通り生成された抗体を単離するステップ
を含む方法。
[19] 増強された免疫応答を必要とする対象にワクチン接種する方法であって、
免疫応答が免疫原性化合物に特異的であり、
前記方法が、対象において免疫原性化合物に対する免疫応答を誘発するのに十分な量の[1]から[8]のいずれかに記載の抗原性粒子を対象に投与するステップを含み、
抗原性粒子に含まれる免疫原性化合物が、増強された免疫応答が特異的である免疫原性化合物と同一であるか、又はその免疫原性部分である、方法。
[20] 医学的状態を予防、管理又は治療するためのものであり、免疫原性化合物が医学的状態に関連している、[19]に記載の方法。
【0094】
上記を鑑みると、本発明はまた、以下の項目の実施形態にも関することは理解されるであろう:
項目1: 改変変異表面糖タンパク質(eVSG)でコートされた抗原性粒子であって、eVSGが免疫原性化合物を含む抗原性粒子。
項目2: 免疫原性化合物が低分子、核酸又はペプチドである、項目1に記載の抗原性粒子。
項目3: 免疫原性化合物が、任意選択的にリンカーを介して、VSGのN末端に共有結合している、項目1に記載の抗原性粒子。
項目4: リンカーが野生型VSGのN末端のN末端延長部であり、好ましくは5から30のアミノ酸、好ましくは10から20、より好ましくは約15のアミノ酸を含む、項目3に記載の抗原性粒子。
項目5: リンカーがG4Sリンカー、例えばリンカー配列GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号8)を有するリンカーである、項目4に記載の抗原性粒子。
項目6: リンカーが、リンカー配列のN末端にソルタギングアクセプター配列、例えばAA-をさらに含む、項目1から5のいずれか1つに記載の抗原性粒子。
項目7: 免疫原性化合物が、ソルタギングドナー配列、例えば(G)3SLPSTGG及びソルタギングアクセプター配列を介して、ソルターゼが介在する共有結合によりVSGへの連結を形成する、項目1から6のいずれか1つに記載の抗原性粒子。
項目8: ソルタギングドナー配列及びソルタギングアクセプター配列により構成される連結が、配列-(G)3SLPSTGAA-又はそのソルタギング-機能性バリアントを含む、項目7に記載の抗原性粒子。
項目9: eVSGが、N末端からC末端に、以下の(共有結合)構造体:免疫原性化合物、ソルタギングドナー配列、ソルタギングアクセプター配列、リンカー、VSGタンパク質配列を有する、項目1から8のいずれか1つに記載の抗原性粒子。
項目10: 免疫原性化合物が、低分子薬物、例えば治療用化合物及び/又は依存性誘発物質である、項目1から9のいずれか1つに記載の抗原性粒子。
項目11: 免疫原性化合物が、(i)デルタ-9-テトラヒドロカンナビノール(THC)又は合成カンナビノイド、例えば古典的カンナビノイド、非古典的カンナビノイド、ハイブリッドカンナビノイド、アミノアルキルインドール及びエイコサノイド、例えばΔ9-THC HU-210、(C8)CP47,497、JWH-018、AM-2201(フッ素化JWH-018)、UR-144、XLR-11(フッ素化UR-144)、APICA、STS-135(フッ素化APICA)、AB-PINACA、PB-22、5F-PB-22(フッ素化PB-22)、又は(ii)メタンフェタミン及びその誘導体、例えば3,4-メチレンジオキシ-メタンフェタミン(MDMA)エクスタシー/モリー、又は(iii)合成カチノン様アルファ-ピロリジノペンチオフェノン(アルファ-PVP)、又は(iv)オピオイド、例えばヘロイン、合成オピオイド、例えばフェンタニル及び他のオピオイド鎮痛薬、例えばオキシコドン(OxyContin(登録商標))、ヒドロコドン(Vicodin(登録商標))、コデイン、モルヒネ、デソモルヒネ(クロコダイル)、又は(v)ステロイド(同化物質)から選択される依存性誘発物質であるか、又はニコチンである、項目10に記載の抗原性粒子[明細書中でより詳細に記載する]。
項目12: 生体細胞、小胞、ナノ粒子又はビーズである、項目1から11のいずれか1つに記載の抗原性粒子。
項目13: 生体細胞が、微生物、好ましくは原生生物、より好ましくはトリパノソーマである、項目12に記載の抗原性粒子。
項目14: トリパノソーマが酵素ホスホリパーゼC(又はPLC)陰性トリパノソーマである、項目13に記載の抗原性粒子。
項目15: 生体細胞が非生存、好ましくは非感染性生体細胞、例えば不活化生体細胞、好ましくはUV架橋細胞である、項目12から14のいずれか1つに記載の抗原性粒子。
項目16: eVSGが、VSG配列に挿入された免疫原性アミノ酸配列として免疫原を含む、前記項目のいずれか1つに記載の抗原性粒子。
項目17: 挿入がVSGの表面ループ、例えばVSGの2つの二次構造モチーフ間の領域に位置しており、好ましくは、前記表面ループが、VSGがVSGコート内に含まれる場合にコート表面提示されるVSG内の3次元位置に位置する、項目16に記載の抗原性粒子。
項目18: 免疫原が疾患関連抗原、例えばペプチド抗原であり、疾患が増殖性障害、感染性疾患及び炎症性障害及び免疫不全障害又は自己免疫障害から選択される、前記項目のいずれか1つに記載の抗原性粒子。
項目19: 粒子が生体細胞であり、eVSGが生体細胞中で完全又は部分的に発現している、前記項目のいずれか1つに記載の抗原性粒子。
項目20: 部分的な発現が、内部ペプチド免疫原を含むVSGの発現であるか、又はリンカー配列を含み、任意選択的にソルタギングアクセプター部位を、細胞表面発現用のN末端シグナルペプチドと共に含むVSGの内部発現であって、ソルタギングアクセプター部位が、シグナルペプチド配列とリンカー配列との間にあるVSGの内部発現である、項目19に記載の抗原性粒子。
項目21: N末端からC末端の方向に、
(a)免疫原性化合物、
(b)ソルタギングドナー配列、
(c)ソルタギングアクセプター配列、
(d)リンカー配列、
(e)全長又は本質的に全長のVSGタンパク質、例えばブルーストリパノソーマのVSGタンパク質
を含み、
任意選択的に、可溶性タンパク質である、免疫原性改変VSG(ieVSG)タンパク質。
項目22: (a)から(e)のいずれか一つ、任意の組合せ又は全てが、項目1から20のいずれか1つに記載の抗原性粒子の対応する(a)から(e)から選択される、項目21に記載のieVSG。
項目23: 構成成分としてプレieVSGタンパク質と、ソルタギングドナー配列を含む化合物とを含むシステムであって、プレ-ieVSGタンパク質が、N末端からC末端の方向に、
(a')任意選択的に、シグナルペプチド、
(b')ソルタギングアクセプター配列、
(c')リンカー配列、
(d')全長又は本質的に全長のVSGタンパク質、例えばブルーストリパノソーマのVSGタンパク質
を含む、システム。
項目24: ソルターゼ酵素又はソルターゼ酵素の作製用の手段をさらに含む、項目23に記載のシステム。
項目25: プレieVSGタンパク質が、プレieVSGタンパク質の発現、例えば生体細胞におけるプレieVSGの発現用の核酸配列として提供される、項目23又は24に記載のシステム。
項目26: ソルタギングドナー配列を、免疫原として使用される化合物に共有結合するための手段をさらに含む、項目23から25のいずれか1つに記載されるシステム。
項目27: 生体細胞、好ましくはトリパノソーマ細胞、例えばブルーストリパノソーマ細胞、より好ましくはPLC陰性ブルーストリパノソーマ細胞をさらに含む、項目23から26のいずれか1つに記載のシステム。
項目28: VSGがブルーストリパノソーマのゲノム由来のVSG、好ましくはVSG1、VSG2、VSG3又はILTat1.24である、前記項目のいずれか1つに記載の抗原性粒子、ieVSG又はシステム。
項目29: 医学的状態を予防、管理及び/又は治療するのに使用するための項目1から20のいずれか1つに記載の抗原性粒子。
項目30: 医学的状態が依存性誘発物質への中毒であり、抗原性粒子の免疫原が依存性誘発物質である、項目29に記載の使用するための抗原性粒子。
項目31: 医学的状態が感染性疾患であり、抗原性粒子の免疫原が、感染性疾患を引き起こす感染性生物に由来する免疫原性化合物又は配列である、項目29に記載の使用するための抗原性粒子。
項目32: 感染性疾患がマラリアであり、免疫原がプラスモジウム由来の化合物である、項目31に記載の使用するための抗原性粒子。
項目33: 医学的状態ががんであり、抗原性粒子の免疫原が、がんのがん細胞に関連するか又はそれに特異的な化合物である、項目29に記載の使用するための抗原性粒子。
項目34: 抗原性粒子が医学的状態の予防、管理及び/又は治療を必要とする対象に、例えばワクチン組成物の形態で投与される、項目29から34のいずれか1つに記載の使用するための抗原性粒子。
項目35: 免疫原性化合物に結合することができる抗体を作製する方法であって、
項目1から20のいずれか1つに記載の抗原性粒子をするステップであって、抗原性粒子の免疫原性化合物は、作製される抗体が結合することができる免疫原性化合物又はその免疫原性部分である、ステップ、
抗体を産生する非ヒト動物を抗原性粒子で免疫化するステップ、
免疫化した動物から、前記免疫原に対する抗体を産生する免疫細胞を単離するステップ、及び
任意選択的に、前記細胞から前記の通り作製された抗体を単離するステップ
を含む、方法。
項目36: 抗体を産生する非ヒト動物が、マウス、ウサギ、ラクダ、ヤギ、ラット、イヌ、ネコ、サル、ハムスター又は他の哺乳動物から選択される、項目35に記載の方法。
項目37: 好ましくは項目35又は26に記載の方法による抗体の作製における、項目23から27のいずれか1つに記載のシステムの使用。
項目38: 免疫原性化合物に特異的な増強された免疫応答を必要とする対象にワクチン接種する方法であって、対象において免疫原性化合物に対する免疫応答を誘導するのに十分な量の項目1から20のいずれか1つに記載の抗原性粒子を対象に投与するステップを含み、抗原性粒子に含まれる免疫原性化合物が、増強された免疫応答が特異的である免疫原性化合物と同一であるか、又はその免疫原性部分である、方法。
項目39: 医学的状態を予防、管理又は治療する方法であり、免疫原性化合物が医学的状態に関連している、項目38に記載の方法。
【0095】
上記を鑑みると、本発明はまた、次の項目Bの実施形態にも関することは理解されるであろう:
項目B1: 改変変異表面糖タンパク質(eVSG)でコートされた抗原性粒子であって、eVSGが、免疫原性化合物に連結されたVSGを含み、免疫原性化合物が低分子化合物であり、VSGのN末端にリンカーを介して共有結合している、抗原性粒子。
項目B2: eVSGがN末端からC末端に、以下の共有結合構造体:免疫原性化合物、ソルタギングドナー配列、ソルタギングアクセプター配列、任意選択的にリンカー、及びVSGタンパク質配列を有する、項目B1に記載の抗原性粒子。
項目B3: 免疫原性化合物が、低分子薬物及び/又は治療用化合物、依存性誘発物質である、項目B1又は2に記載の抗原性粒子。
項目B4: 免疫原性化合物が、(i)デルタ-9-テトラヒドロカンナビノール(THC)又は合成カンナビノイド、例えば古典的カンナビノイド、非古典的カンナビノイド、ハイブリッドカンナビノイド、アミノアルキルインドール及びエイコサノイド、例えばΔ9-THC HU-210、(C8)CP47,497、JWH-018、AM-2201(フッ素化JWH-018)、UR-144、XLR-11(フッ素化UR-144)、APICA、STS-135(フッ素化APICA)、AB-PINACA、PB-22、5F-PB-22(フッ素化PB-22)、又は(ii)メタンフェタミン及びその誘導体、例えば3,4-メチレンジオキシ-メタンフェタミン(MDMA)エクスタシー/モリー、又は(iii)合成カチノン様アルファ-ピロリジノペンチオフェノン(アルファ-PVP)、又は(iv)オピオイド、例えばヘロイン、合成オピオイド、例えばフェンタニル、及び他のオピオイド鎮痛薬、例えばオキシコドン(OxyContin(登録商標))、ヒドロコドン(Vicodin(登録商標))、コデイン、モルヒネ、デソモルヒネ(クロコダイル)、又は(v)ステロイド(同化物質)から選択される依存性誘発物質であるか又はニコチンである、項目B1から3のいずれか1つに記載の抗原性粒子。
項目B5: 生体細胞、小胞、ナノ粒子又はビーズである、項目B1から4のいずれか1つに記載の抗原性粒子。
項目B6: 生体細胞が微生物、好ましくは原生生物、より好ましくはトリパノソーマである、項目B5に記載の抗原性粒子。
項目B7: 生体細胞が不活化生体細胞、好ましくはUV架橋生体細胞である、B5から6のいずれか1つに記載の抗原性粒子。
項目B8: VSGがブルーストリパノソーマのゲノム由来のVSG、例えばVSG1、VSG2、VSG3又はILTat1.24である、先行項目Bのいずれか1つに記載の抗原性粒子。
項目B9: N末端からC末端の方向に、
(a)免疫原性化合物、
(b)ソルタギングドナー配列、
(c)ソルタギングアクセプター配列、
(d)リンカー配列、
(e)全長又は本質的に全長のVSGタンパク質
を含む免疫原性改変VSG(ieVSG)タンパク質。
項目B10: 構成成分として(i)プレieVSGタンパク質と、(ii)ソルタギングドナー配列を含む化合物とを含むシステム又はキットであって、プレieVSGタンパク質が、N末端からC末端の方向に、
(a')任意選択的に、シグナルペプチド、
(b')ソルタギングアクセプター配列、
(c')リンカー配列、
(d')全長、又は本質的に全長のVSGタンパク質
を含む、システム又はキット。
項目B11: ソルターゼ酵素又はソルターゼ酵素の作製用の手段をさらに含む、項目B9に記載のシステム又はキット。
項目B12: プレieVSGタンパク質が、プレieVSGタンパク質の発現、例えば生体細胞におけるプレieVSGの発現用の核酸配列として提供される、項目B10又は11に記載のシステム又はキット。
項目B13: 免疫原として使用する化合物にソルタギングドナー配列を共有結合するための手段をさらに含む、項目B10から12のいずれか1つに記載のシステム又はキット。
項目B14: 医学的状態の予防、管理及び/又は治療に使用するための抗原性粒子であって、項目B1から8のいずれか1つに記載の抗原性粒子である抗原性粒子。
項目B15: 医学的状態が依存性誘発物質への中毒であり、抗原性粒子の免疫原が依存性誘発物質である、項目B14に記載の使用するための抗原性粒子。
項目B16: 医学的状態が感染性疾患又はがんであり、抗原性粒子の免疫原が、それぞれ感染性疾患を引き起こす感染性生物又はがんに由来する免疫原性化合物又は配列(エピトープ)である、項目B14に記載の使用するための抗原性粒子。
項目B17: 抗原性粒子が、医学的状態の予防、管理及び/又は治療を必要とする対象に、例えばワクチン組成物の形態で投与される、項目B14から16のいずれか1つに記載の使用するための抗原性粒子。
項目B18: 免疫原性化合物に結合することができる抗体を作製する方法であって、
項目B1から8のいずれか1つに記載の抗原性粒子を用意するステップであって、抗原性粒子の免疫原性化合物は、作製される抗体が結合することができるか若しくは結合することを意図されている免疫原性化合物又はその免疫原性部分である、ステップ、
抗体を産生する非ヒト動物を抗原性粒子で免疫化するステップ、
免疫化した動物から、前記免疫原に対する抗体を産生する免疫細胞を単離するステップ、及び
任意選択的に、前記細胞から前記の通り作製された抗体を単離するステップ
を含む、方法。
項目B19: 増強された免疫応答を必要とする対象にワクチン接種する方法であって、免疫応答が免疫原性化合物に特異的であり、前記方法が、対象において免疫原性化合物に対する免疫応答を誘導するのに十分な量の項目B1から8のいずれか1つに記載の抗原性粒子を対象に投与するステップを含み、抗原性粒子に含まれる免疫原性化合物が、増強された免疫応答が特異的である免疫原性化合物と同一であるか、又はその免疫原性部分である、方法。
項目B20: 医学的状態を予防、管理又は治療するためのものであり、免疫原性化合物が医学的状態に関連している、項目B19に記載の方法。
【0096】
配列は以下を示す:
配列番号1>Tb427VSG-1: GBアクセションX56761.2|ブルーストリパノソーマ|リスター427|変異表面糖タンパク質MITat1.1(リスター427-1|本発明者らが完全に構築したものではない)|ソース=GenBankダウンロード170507|タンパク質長=492
【0097】
配列番号2>Tb427VSG-2: GBアクセションX56762.1|ブルーストリパノソーマ|リスター427|変異表面糖タンパク質MITat1.2(リスター427-2|本発明者らの構築と同一)|ソース=GenBankダウンロード170507|タンパク質長=476
【0098】
配列番号3>Tb427VSG-3:GBアクセションAY935575.1|ブルーストリパノソーマ|リスター427|変異表面糖タンパク質MITat1.3(リスター427-3|本発明者らの構築と同一)|ソース=GenBankダウンロード170507|タンパク質長=509
【0099】
配列番号4>Tb427VSG-13:GBアクセションAY935576.1|ブルーストリパノソーマ|リスター427|変異表面糖タンパク質 MITat1.13(リスター427-13|本発明者が完全に構築したものではない)|ソース=GenBankダウンロード170507|タンパク質長=499
【0100】
配列番号5>X56767.1|ブルーストリパノソーマ|ILTat1|mRNA変異表面タンパク質ILTat1.24|ソース=GenBankダウンロード170421|タンパク質長=514
【実施例】
【0101】
本発明の特定の態様及び実施形態は、例示として、本明細書中の記載、図面及び表を参照してここで説明する。そのような本発明の方法、使用及び他の態様の例は、単に代表するものであって、本発明の範囲をそのような代表的な例にのみ限定するものと解釈されるべきではない。
【0102】
実施例は以下を示す:
【0103】
[実施例1]
薬物修飾VSGコート
本発明者らは、抗体を産生する必要がある(任意の)抗原用の提示プラットホームとして使用するためのアフリカトリパノソーマ(ブルーストリパノソーマ)の高密度かつ均質な表面コートを誘導体化するためのツールを作製した。これらのツールは以下からなる:
(a)発現しているVSG(VSG2)を目的の任意の他のVSGと効率的に置換するための特定のベクター(下記参照)、
図1は、2つのそのようなプラスミドベクターマップを含む。
(b)目的のVSGの特定のセット:これらは、酵素ソルターゼ(ここでは化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)由来)にアクセス可能である延長N末端を含む。N末端アクセス可能性は、(i)VSG上の相対配置(構造的に決定される-
図2は、N末端がアクセス可能であるVSG2及びVSG3、及びまた、比較としてN末端が立体障害によりアクセス可能でないVSG13を含む)によって決定される。これはまた、(ii)開始アミノ酸によって決定され、これは、使用する特定のソルターゼについてはAla-Alaでなくてはならない(又は他の生物由来のソルターゼについてはGly-Glyである)。
(c)これらの基準を満たすVSGを、活性VSGを置換することにより、ブルーストリパノソーマの改変リスター427系統に改変する(上記(a)参照-
図4は、3つのそのようなVSG: VSG3(A)、VSG2(B)及びILTat1.24(C)のアミノ酸配列を含む。ソルタギング目的のために改変されているVSG3が本発明者らが近年免疫抑制性であることを示している天然グリコシル化事象を除く変異(S317A)を含むことは言及に値する-Pingerら、Nat. Microbiology、2018)。
(d)ブルーストリパノソーマのリスター427系統の改変は、死に瀕した細胞の表面からVSGを「脱落」させる酵素である内在性グリコホスファチジルイノシトールホスホリパーゼC(GPI-PLC)の遺伝的欠損からなる(これは、ワクチン提示プラットホームとして使用され得るブルーストリパノソーマを作製するのに重要である。なぜなら、GPI-PLCをゲノムから除かない限り、 (i)改変VSGの切り替え及び喪失を不可能にし、(ii)感染性を除去するのに重要である任意の形態の寄生生物の不活化(例えばUV照射)はまた、VSGコート及び細胞そのものの崩壊をも引き起こすためである(一度VSGが、GPI-PLCの作用により脱落すると、VSGコートは崩壊し、細胞は溶解する-
図5はその概念を説明している))。
【0104】
本明細書に開示する方法は、ブルーストリパノソーマがそのVSGコートに対する中和(及び長時間持続)抗体応答を誘発し、随意に抗体を産生する天然の能力を「ハイジャック」することに依存する。本発明者らは、VSGコートを、任意のペプチドエピトープ/抗原のみならず、糖、脂質又は低分子で修飾し、次いでワクチン担体として修飾VSGコートを使用することによりこれを行う。具体的には、本発明者らは、酵素ソルターゼAを使用して、任意の部分を、N末端ソルターゼアクセプター配列を有するように遺伝子操作したVSGコートに共有結合によりライゲーションする(
図4及び6)。
【0105】
したがって、本発明者らは、化膿性連鎖球菌由来ソルターゼA発現構築物を含むプラスミド(pSpSortA-pET28a)を用いて、大腸菌(E. coli)において化膿性連鎖球菌由来のHis-タグ付加ソルターゼAを産生する。このプラスミドは、BL21 DE3細胞に形質転換される(Life Technologies C6000-03)。この形質転換由来のコロニーを用いて、LB培地(Sigma-Aldrich、L3022-1KG)の大規模培養物に植菌し、次いでこれを37℃で振盪しながら0.4から0.8の光学密度(OD600)まで増殖させる。培養物を1mM IPTGを用いて誘導し、さらに3から4時間増殖させ、遠心分離により回収する。細胞ペレットをTBS/イミダゾール(20mM Tris、150mM NaCl、20mMイミダゾール)に再懸濁し、EmulsiFlex-C5ホモジナイザー(Avestin)を用いて溶解する。DNase-A粉末(Sigma D5025)及び5mM 2-メルカプトエタノール(2-ME)を溶解物に添加し、次いでこれを遠心分離により清澄化し、粒子を除く。上清を洗浄緩衝液(20mM Tris、300mM NaCl、20mMイミダゾール、5mM 2-ME)で平衡化した、Ni-NTAアガロースビーズ(QIAGEN、30230)を充填したカラムを通過させる。次いでカラムを洗浄緩衝液 100mlで洗浄し、溶出緩衝液(20mM Tris、300mM NaCl、200mMイミダゾール、5mM 2-ME)30から35mlで溶出する。次いでタンパク質を含有するサンプルをプールし、透析緩衝液(20mM Tris、150mM NaCl、1mM DTT)中で透析する。得られたサンプルを、遠心分離フィルタユニット(Amicon Ultra-15、10,000NMWL、Merck Millipore)を用いて濃縮し、分割して将来の使用のために-80℃で貯蔵する。
【0106】
ソルタギング反応は以下のように行う、100μMの精製ソルターゼAを含むソルタギング溶液とHMI-9培地中の300~600μMのソルタギング可能なペプチドとの混合物を30から60分間氷上でインキュベーションする(ソルタギング可能なペプチドは、C末端ソルターゼドナー配列であるLPSTGGを有する任意のペプチドを含み、それはN末端において他の部分に結合し得る;該部分は、6-FAMのようなフルオロフォア、4-ヒドロキシ-3-ニトロフェニルアセチル(NP)ハプテンのような低分子、又は乱用薬物(例えばフェンタニル等)である他の低分子であってもよい)。次いで改変VSGを発現するGPI-PLC-陰性ブルーストリパノソーマ細胞をペレット化し、ソルタギング混合物に再懸濁し、反転ローテータ上で60分間4℃でインキュベーションする。次いで細胞をペレット化し、HMI-9培地で1回洗浄し、再度ペレット化した後、HMI-9培地中に最終再懸濁する(Hirumi and Hirumi、J. Parasitology、1989)。ソルタギングの効率は、(例えば6-FAMのようなフルオロフォアについての)直接的FACS解析若しくは蛍光顕微鏡観察により、又はVSGを修飾する部分に結合する特異的なモノクローナル抗体を用いることにより決定することができる(
図7は、6-FAM、NPハプテン及びフェンタニルハプテンについての例を含む)。
【0107】
原理証明試験において、このアプローチを用いて、低分子ハプテン(4-ヒドロキシ-3-ニトロフェニルアセチル又はNP)に対する(a)ロバスト(Alumアジュバント中のNP-CGGと比較して)、かつ(b)一貫した品質の抗体を作製した(
図8)。
【0108】
このアプローチは、広範囲の他の低分子(例えば、コカイン、ニコチン、フェンタニル、カルフェンタニル、トラマドール、ケタミン等のような乱用薬物だけでなく、白金、アドリアマイシン等のような化学療法薬、及びまた、化学反応の産業副産物である低分子)、アレルギー反応を介在する毒素(例えばアフラトキシン等)、感染性疾患の重要なエピトープとして機能する特定のペプチド(例えばプラスモジウム由来ペプチド)、グリコシル化又は脂質付加されたペプチド(例えば抗がんワクチンの標的と考えられている異常グリコシル化ムチンペプチド等)について使用することができる。
【0109】
抗フェンタニル(抗過剰摂取)ワクチンの観点からは、主要な焦点は、このシステムを使用して、「リスクのある」個体(定期的な使用者又は物質乱用者であるが、まだ中毒になっていない/化学的に依存していない個体、又は常習性の場合に、典型的にはリハビリを離れてから最初の2か月以内に起こる過剰摂取に対する積極的な保護として、リハビリテーションセンターから離れる中毒個体として定義される)にワクチン接種することである。このことが本明細書のアプローチを使用して達成されたことの原理証明は、
図9及び10に示す。さらに、このアプローチをレパートリー分析と組み合わせた場合(
図11)、多様な親和性の多様な抗フェンタニルモノクローナル抗体(直接アクセス可能であり、レパートリー配列決定の結果として作製した、対の免疫グロブリン重鎖及び軽鎖配列から再構築する用意ができている-
図11)が産生される。そのようなモノクローナル抗体「スポンジ」は、治療用途に直接使用することができる(例えばメタドン維持療法と共に抗フェンタニル抗体を点滴し、生物学的利用能並びに渇望を抑制し、治療結果を加速するか、又はERに注入し、ナロキソン(フェンタニルのオピオイド受容体への結合に拮抗することにより迅速に作用するが、フェンタニルよりも速く代謝され、中毒の遅延を可能にする)と共に、過剰摂取の効果を鈍らせる)。
【0110】
方法論:感染した個体におけるロバストな免疫応答(長期間持続性かつ中和的である応答)を刺激するトリパノソーマの能力は、よく実証されている。本発明は、少なくとも部分的に、トリパノソーマのVSGタンパク質が、細菌トランスペプチダーゼソルターゼベースシステム(以降「ソルタギング」)を使用した、その表面上での高い効率での外因性部分の提示に対して寛容であるという知見によってこれを可能にしている。
【0111】
具体的には、ソルターゼに特異的なソルターゼアクセプター配列(化膿性連鎖球菌由来のソルターゼAについてはAla-Alaであり、黄色ブドウ球菌由来のソルターゼAについてはGly-Glyである)を、VSGタンパク質の露出N末端部分に付加してよく、これは、トリパノソーマの表面に輸送された際に、ソルターゼにアクセス可能なままである(
図2及び6を参照のこと)。VSGはシグナルペプチドのメチオニンで開始するが、前記ペプチドは成熟時に切断されること、したがって、成熟VSG配列はメチオニンで開始しないことに留意されたい。例えば、VSG2及びVSG3(好ましいVSGバリアント)は共に、Ala-Alaで開始するが、厳密な開始アミノ酸は、(本発明者らが両方のVSGに対して行ったエドマン分解を用いて)経験的に決定しなければならない。最終的に、内在性Ala-Alaは存在するが、これは、ソルターゼにアクセス可能ではない(そして、
図4に示すように短いN末端延長部を必要とする)。次いで、相補的ソルターゼドナー配列を目的のペプチド/低分子にC末端付加する(実際の配列はまた、使用するソルターゼに依存し、化膿性連鎖球菌由来のソルターゼAについては、LPXTGGである)。LPXTGGは、低分子又は反応基を有する他の部分に付加してよい(ここで、本発明者らは、NP又はFen-と略される6-FAM又はハプテン4-ヒドロキシ-3-ニトロフェニルアセチルを使用する、
図7)。
【0112】
フェンタニルについては、
図7Dに位置する位置において、アミド結合を介して、ソルターゼ配列のN末端をフェンタニルハプテンに連結する。殆どの部分は誘導体化してよく、低分子-ペプチドコンジュゲート(例えばNP-GGGSLPSTGG)の抗原性を維持する誘導体化を経験的に決定しなければならない(例えば、これは、ニコチン及び他の低分子について試行錯誤を介してなされた、例えばNicVax)。次いで、ソルターゼはNP-保有ペプチドをトリパノソーマの表面上のVSGの露出N末端にライゲーションする(本発明者らは、抗低分子抗体を用いてこれを実証する、
図7)。ソルターゼシグナル配列をVSGのループ内に挿入することも可能である(Stavropoulos and Papavasiliou、2010において、FLAGペプチドについてなされている)。しかしながら、そのような状況において、VSGループ内のソルターゼドナー配列(例えばLPXTGG)及び修飾低分子上のソルターゼアクセプター配列(例えばAla-Ala)を使用して、特異性を上昇させることは賢明である。トリパノソーマの表面上の高密度のVSGのコートにより、低分子は次いで表面上に高密度に提示される。トリパノソーマを哺乳動物宿主に注入すると、低分子コンジュゲートVSGコートが宿主免疫系に露出され、それにより、露出したハプテン(例えばNP)に対して、天然感染におけるVSGに対するものと同様の強く特異的なプライミング免疫応答が開始される(
図8)。次いで、ブースティングを全コート上のハプテン-VSGコンジュゲート(
図8)又はその製剤(例えば可溶性ハプテン化VSG並びに他の製剤)のいずれかにより達成することができ、このワクチンプラットホームに特有のスケーラビリティを達成している。
【0113】
興味深いことに、異なるVSGにより誘発される一次応答は交差反応性ではない(すなわち、VSG2に対する抗体がVSG3等に交差反応しない、Pingerら、Nat. Communications、2017)。このことは、それぞれの特定のVSGは、特定のセットの低分子ハプテンに対して強度がより強くても又は弱くてもよい特有のサブセットのB細胞特異性(すなわち、特有のレパートリー)を誘発することを示唆する。本発明の文脈において、最適な抗ハプテン応答の誘発のために
特定のVSGを特定のハプテンについて選択する(特定のハプテンについてはいくつかのVSGがよりよいプラットホームである-
図7)。例えば、優れた抗HA(パンインフルエンザ(pan-influenza))抗体は、レパートリー全体内での「希少な」IGHであるIGHV1-69の関与(engagement)を必要とする。したがって、この方法を用いて多特異性抗インフルエンザ抗血清を誘発することを所望する場合(例えば「新型インフル(pan-flu)」ワクチンにおいて)、IGHV1-69を誘発するVSGが関与することが望ましい場合がある。VSGが異なるB細胞レパートリーを誘発すること(及びこのシステムが、誘発されるB細胞の嗜好性に依存して広範囲の異なるプラットホームを提供し得ること)の直接的な証明は
図11に示されている。
【0114】
生体安全性の懸念(例えば疾患因果関係)のみならず、ハプテン化VSGからの天然の切り替えを阻害する必要性により、誘導体化トリパノソーマコートが不活化される(したがって感染を引き起こすことができない)ことが指示される。本発明者らは、酵素グリコホスファチジルイノシトールホスホリパーゼC(GPI-PLC)を欠損し、したがって死滅しているが、インタクトなVSGコートを有するトリパノソーマのUV架橋を介してこれを達成した(GPI-PLCについて野生型のトリパノソーマは、GPI-PLCが各VSGのGPI連結を膜から切断し、コートを脱落するために、UV不活化後に崩壊する)(
図5に図示する)。(GPI-PLC-陰性トリパノソーマの)UV架橋は培養物から細胞をペレット化し、照射緩衝液(55mMグルコースを補充したPBS)で洗浄し、同緩衝液中で10
7細胞/mlの密度まで再懸濁することにより達成される。1mlのこの懸濁液を次いで6ウェル組織培養プレート(Thermoscientific、150239)の各ウェルに分注する。プレートを8サイクルUV照射し、各サイクルは、UVPクロスリンカー(Analytik Jena)を使用して30秒(30S)行う。照射サイクル間にプレートを回転させ、トリパノソーマが確実に均等に照射されるようにする。照射した細胞を次いで15×10
6細胞/mlの濃度で再懸濁する。この溶液200μl(3×10
6のトリパノソーマ)をマウスに腹腔内又は皮下注入してもよい。
【0115】
全体として、この不活化プロトコール及びソルタギング可能なVSGを用いて、本発明者らは、低分子ハプテン及びペプチドに対する抗体作製へと向かう抗原性決定因子の免疫原性提示のための最適かつ柔軟なプラットホームを作製した。これは、広範囲の抗原性実体に拡張することができる(例えば脂質、核酸等)。低分子(例えばNP)に対する抗体作製に関する
原理証明を
図9に示す。そのような抗体がフェンタニルに対して産生され得ることの
原理証明、並びに作製された場合の中毒に対する保護が
図9及び10に示されている。低分子6-FAMについての方法全体の模式図バージョンが
図6に図示されている。
【0116】
本発明の改変VSGをブルーストリパノソーマゲノムに組み込む方法の例を
図3に示す。
【0117】
アプローチの一般化可能性:本願の目的のために、本発明者らは、合成ヘロインの混入物であり、米国における薬物過剰摂取の大部分の原因であるフェンタニルに対する能動免疫療法に着目している。これは、本発明者らが、すでに利用可能であるツールを有しているためである(ソルタギングされ得るようにLPXTGGにハプテン化されたフェンタニル、ソルタギング可能性(sortaggability)を実証するための抗フェンタニル抗体)。しかし、このアプローチは、他の薬物及び薬物代謝物(例えば肝毒性を引き起こすアセトアミノフェン代謝物、特定の食糧アレルギー等におけるアナフィラキーショックの原因となる毒素である低分子)に対する有効な抗体の産生に容易に適用し得ることは明らかであるはずである。本アプローチはまた、病原体由来のペプチド(例えば熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)のスポロゾイト周囲タンパク質の主要抗原性決定因子であるNANPタンデムリピート)又は抗がんワクチンとして使用し得るがん細胞に特有の異常グリコシル化ペプチド(例えばムチン)によるハプテン化にも使用し得る(PMID: 20403708)。
【配列表】