(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】レーダ装置、トランスポンダの反射波の検出方法、及び測位方法
(51)【国際特許分類】
G01S 13/76 20060101AFI20231107BHJP
【FI】
G01S13/76
(21)【出願番号】P 2022012167
(22)【出願日】2022-01-28
(62)【分割の表示】P 2019540866の分割
【原出願日】2018-08-21
【審査請求日】2022-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2017170695
(32)【優先日】2017-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山林 潤
【審査官】安井 英己
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-145111(JP,A)
【文献】特開平04-351987(JP,A)
【文献】特開2007-132702(JP,A)
【文献】特開2013-142661(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0018792(US,A1)
【文献】国際公開第90/015343(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42,
G01S 13/00-13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナから送信した探知信号の反射波を受信した受信信号から、前記探知信号に反応してトランスポンダが送信する応答信号を検出する応答信号検出部と、
前記受信信号において、前記応答信号より早いタイミングで現れ、かつ前記応答信号の先頭タイミングとの時間差が所定以内となるタイミングで現れる反射波を、前記トランスポンダの反射波として検出するトランスポンダ反射波検出部と、
を備え
、
前記トランスポンダ反射波検出部は、前記受信信号において現れる反射波のうち、現れてから消えるまでの時間の長さが所定の範囲内である反射波を、前記トランスポンダの反射波として検出し、
前記所定の範囲に、パルス状である前記探知信号の送信時間が含まれることを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーダ装置であって、
前記トランスポンダの応答信号には疑似雑音符号が含まれ、
前記応答信号検出部は、前記受信信号と前記疑似雑音符号の相関が所定以上になったタイミングに基づいて、前記応答信号の先頭タイミングを取得することを特徴とするレーダ装置。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載のレーダ装置であって、
前記トランスポンダ反射波検出部は、複数のスイープを処理することにより前記トランスポンダの反射波を検出することを特徴とするレーダ装置。
【請求項4】
アンテナから送信した探知信号の反射波を受信した受信信号から、前記探知信号に反応してトランスポンダが送信する応答信号を検出する応答信号検出部と、
前記受信信号において、前記応答信号より早いタイミングで現れ、かつ前記応答信号の先頭タイミングとの時間差が所定以内となるタイミングで現れる反射波を、前記トランスポンダの反射波として検出するトランスポンダ反射波検出部と、
前記応答信号検出部が検出した応答信号から、前記トランスポンダの位置を示す位置情報を取得する位置情報取得部と、
前記応答信号検出部が検出した応答信号から、自機に対する前記トランスポンダの相対方位を取得するトランスポンダ方位取得部と、
前記位置情報
、前記探知信号を送信してから前記トランスポンダの反射波を受信するまでの時間
、前記自機に対する前記トランスポンダの相対方位、及び方位センサから得られる前記自機の絶対方位に基づいて前記自機の位置を取得する測位部と、
を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項5】
探知信号の電波をアンテナから送信し、
前記探知信号がトランスポンダに反射した反射波を前記アンテナで受信し、
前記探知信号に反応して前記トランスポンダが送信した電波である応答信号を前記アンテナで受信し、
受信信号において現れる反射波のうち、前記応答信号より早いタイミングで現れ、かつ前記応答信号の先頭タイミングとの時間差が所定以内となるタイミングで現れる反射波
で、現れてから消えるまでの時間の長さが所定の範囲内である反射波を、前記トランスポンダの反射波として検出し、
前記所定の範囲に、パルス状である前記探知信号の送信時間が含まれることを特徴とするトランスポンダの反射波の検出方法。
【請求項6】
探知信号の電波をアンテナから送信し、
前記探知信号がトランスポンダに反射した反射波を前記アンテナで受信し、
前記探知信号に反応して前記トランスポンダが送信した電波である応答信号を前記アンテナで受信し、
前記応答信号より早いタイミングで現れ、かつ前記応答信号の先頭タイミングとの時間差が所定以内となるタイミングで現れる反射波を、前記トランスポンダの反射波として検出し、
前記応答信号から、前記トランスポンダの位置を示す位置情報を取得し、
前記応答信号から、自機に対する前記トランスポンダの相対方位を取得し、
前記位置情報
、前記探知信号を送信してから前記トランスポンダの反射波を受信するまでの時間
、前記自機に対する前記トランスポンダの相対方位、及び方位センサから得られる前記自機の絶対方位に基づいて自機の位置を取得することを特徴とする測位方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、レーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、船舶において、トランスポンダの一種であるレーダビーコンを用いて測位を行うことが提案されている。特許文献1は、この種のレーダ装置を開示する。
【0003】
特許文献1のレーダ測位システムでは、船舶の航路標識の一種であるレーダビーコン(レーコン)が、船舶からのレーダ波に応答してレーコン応答波を船舶に送信する。レーコン応答波には、プリアンブルとしてのレーコン識別情報と、レーコンの緯度及び経度を含むレーコン位置情報と、が含まれる。
【0004】
特許文献1において、レーダ送受信機は、レーコン応答波を受信した場合、レーコン識別情報の受信時点を特定するとともに、その時刻からレーコン応答遅延を減算して、レーコン応答波の到達時点を示す時刻を算定する。ここで、レーコン応答遅延とは、レーコンがレーダ波を受信してからレーコン応答波を送信するまでに要する処理時間である。そして、レーダ送受信機は、レーダ波の送信時点からレーコン応答波の到達時点までの時間差に対してレーダ波の進行速度を乗算するとともに、2で除算して、レーダ送受信機からレーコンまでの距離を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
レーダ送受信機からレーコンまでの距離を精度良く求めるためには、正確なレーコン応答遅延を取得することが重要である。しかしながら、レーコン応答遅延は、レーコンの機種毎に異なり、また個体差も生じている。この点、特許文献1は、レーコン応答遅延をどのように求めるかについて開示しておらず、測位精度の向上という点で改善の余地があった。
【0007】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、機種及び個体差等の原因でトランスポンダの応答遅延が様々に異なる場合でも、船舶や波等をはじめ様々なものから反射したレーダ反射波を含む受信信号からトランスポンダからの反射波を検出することができるレーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0009】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成のレーダ装置が提供される。即ち、このレーダ装置は、応答信号検出部と、トランスポンダ反射波検出部と、を備える。前記応答信号検出部は、アンテナから送信した探知信号の反射波を受信した受信信号から、前記探知信号に反応してトランスポンダが送信する応答信号を検出する。前記トランスポンダ反射波検出部は、前記受信信号において、前記応答信号より早いタイミングで現れ、かつ前記応答信号より早いタイミングで現れる反射波を前記トランスポンダの反射波として検出する。
【0010】
これにより、機種及び個体差等の原因でトランスポンダの応答遅延が様々に異なる場合でも、レーダ装置が、船舶や波等をはじめ様々なものから反射したレーダ反射波を含む受信信号からトランスポンダからの反射波を応答信号に基づいて検出することができる。従って、簡素な構成で、レーダ装置とトランスポンダとの間の距離を正確に取得することができる。
【0011】
前記のレーダ装置においては、前記トランスポンダ反射波検出部は、前記受信信号において前記応答信号の先頭タイミングとの時間差が所定以内となるタイミングで現れる反射波を、前記トランスポンダの反射波として検出することが好ましい。
【0012】
これにより、トランスポンダの応答遅延は通常は所定の長さ以下であることを利用して、トランスポンダの反射波を正確に検出することができる。
【0013】
前記のレーダ装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記トランスポンダの応答信号には疑似雑音符号が含まれる。前記応答信号検出部は、前記受信信号と前記疑似雑音符号の相関が所定以上になったタイミングに基づいて、前記応答信号の先頭タイミングを取得する。
【0014】
これにより、疑似雑音符号が信号中の一定の位置に現れる構造を応答信号が有している場合に、応答信号の先頭タイミングを正確に取得することができる。
【0015】
前記のレーダ装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記トランスポンダ反射波検出部は、前記受信信号において現れる反射波のうち、現れてから消えるまでの時間の長さが所定の範囲内である反射波を、前記トランスポンダの反射波として検出する。前記所定の範囲に、パルス状である前記探知信号の送信時間が含まれる。
【0016】
これにより、トランスポンダが小型であり、点状の信号反射源とみなせる場合に、トランスポンダの反射波を正確に検出することができる。
【0017】
前記のレーダ装置においては、前記トランスポンダ反射波検出部は、複数のスイープを処理することにより前記トランスポンダの反射波を検出することが好ましい。
【0018】
これにより、受信信号に含まれるノイズの影響を抑制して、トランスポンダの反射波を正確に検出することができる。
【0019】
前記のレーダ装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、このレーダ装置は、位置情報取得部と、測位部と、を備える。前記位置情報取得部は、前記応答信号検出部が検出した応答信号から、前記トランスポンダの位置を示す位置情報を取得する。前記測位部は、前記位置情報、及び前記探知信号を送信してから前記トランスポンダの反射波を受信するまでの時間に基づいて自機の位置を取得する。
【0020】
これにより、応答遅延の影響を受けずに測位を行うことができるので、測位精度を大幅に向上させることができる。
【0021】
本発明の第2の観点によれば、以下のトランスポンダの反射波の検出方法が提供される。即ち、探知信号の電波をアンテナから送信する。前記探知信号がトランスポンダに反射した反射波を前記アンテナで受信する。前記探知信号に反応して前記トランスポンダが送信した電波である応答信号を前記アンテナで受信する。前記応答信号より早いタイミングで現れ、かつ前記応答信号の先頭タイミングとの時間差が所定以内となるタイミングで現れる反射波を、前記トランスポンダの反射波として検出する。
【0022】
これにより、機種及び個体差等の原因でトランスポンダの応答遅延が様々に異なる場合でも、船舶や波等をはじめ様々なものから反射したレーダ反射波を含む受信信号からトランスポンダからの反射波を応答信号に基づいて検出することができる。。従って、簡素な構成で、トランスポンダとの間の距離を正確に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態に係るレーダ装置及びレーコンの構成を示すブロック図。
【
図2】レーコンが送信する応答信号のパケット構成図。
【
図3】レーダ装置とレーコンとの間で電波の送受信が行われるタイミングを示すグラフ。
【
図4】変形例において、反射波が検出される複数スイープ分の受信信号を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るレーダ装置1及びレーコン3の構成を示すブロック図である。
【0025】
図1に示すレーダ装置1は、移動体としての図略の船舶に備えられている。レーダ装置1は、電波である探知信号をレーダアンテナ(アンテナ)12から送信し、レーダアンテナ12で反射波を受信することで周囲の物標を探知する。
【0026】
レーコン(トランスポンダ)3は、レーダ装置1の探知信号に反応して、電波である応答信号をレーコンアンテナ32からレーダ装置1へ送信する。この応答信号には、レーコン3の位置を例えば緯度及び経度で表した位置情報が含まれている。レーダ装置1は、レーコン3の応答信号等に基づいて、自機の位置を求めることができる。
【0027】
レーコン3を説明する。
図1に示すように、レーコン3は、送信部31と、レーコンアンテナ32と、サーキュレータ33と、受信部34と、位置情報記憶部35と、送信波形生成部36と、待機時間記憶部37と、を備える。
【0028】
具体的に説明すると、レーコン3は図略のコンピュータを備えており、このコンピュータはCPU、ROM、RAM等を備える。前記ROMには、レーコン3に、探知信号に反応して応答信号を送信させる適宜のプログラムが記憶されている。このソフトウェアとハードウェアの協働により、レーコン3を、送信部31、受信部34、位置情報記憶部35、送信波形生成部36、及び待機時間記憶部37等として機能させることが可能となっている。
【0029】
送信部31は、レーダ装置1からの探知信号を後述の受信部34が受信した場合に、当該探知信号に応答する応答信号を、サーキュレータ33を介してレーコンアンテナ32に出力する。
【0030】
レーコンアンテナ32は、送信部31から入力された応答信号を電波として外部に放射する。また、レーコンアンテナ32は、レーダ装置1の探知信号を受信する。
【0031】
サーキュレータ33は、送信部31から入力された応答信号をレーコンアンテナ32へ出力する。また、サーキュレータ33は、レーコンアンテナ32が受信した探知信号を受信部34へ出力する。
【0032】
受信部34は、サーキュレータ33を介してレーコンアンテナ32から探知信号を受信する。受信部34は、探知信号を検出すると、当該探知信号の受信終了タイミングを取得する。探知信号の受信終了タイミングは、例えば探知信号がパルス状である場合は、パルスの立下がりのエッジを検出することにより得ることができる。受信部34は、取得した探知信号の受信終了タイミングを送信部31に出力する。
【0033】
位置情報記憶部35は、予め設定されたレーコン3の位置情報、具体的には、レーコン3の位置を示す緯度及び経度を記憶する記憶部として構成されている。位置情報記憶部35は、レーコン3の位置情報を送信波形生成部36に出力する。
【0034】
送信波形生成部36は、位置情報記憶部35から入力した位置情報を含むようにパケットを生成し、当該パケットに対して適宜の変調処理を行うことにより、送信部31が送信する応答信号の波形を生成する。送信波形生成部36は、生成した応答信号の波形を送信部31に出力する。
【0035】
待機時間記憶部37は、応答信号を送信するタイミング、具体的には、レーコン3が探知信号の受信を終了してから応答信号を送信するまでの待機時間を記憶する記憶部として構成されている。待機時間記憶部37には、レーコン3を稼動させる前に、前記待機時間として適宜の値が予め設定される。待機時間記憶部37は、記憶している待機時間を送信部31に出力する。
【0036】
以上の構成で、レーコン3の受信部34が探知信号を受信すると、送信部31は、受信部34から入力した探知信号の受信終了タイミングから、待機時間記憶部37が記憶する待機時間だけ待機する。この待機が完了するのと同時に、送信部31は、送信波形生成部36から入力される送信波形を、応答信号として、サーキュレータ33を介してレーコンアンテナ32から外部へ送信する。
【0037】
次に、
図2を参照して、レーコン3が送信する応答信号について詳細に説明する。
図2は、応答信号のパケット構成図である。
【0038】
図2には、レーコン3が送信する応答信号を表すパケットのフォーマットが例示されている。
図2(a)は緯度について応答する場合、
図2(b)は経度について応答する場合のパケットをそれぞれ示している。何れの場合も、応答信号は合計80ビットの長さを有するデジタル信号であり、そのうちの先頭の32ビットがプリアンブル部、それに続く32ビットが情報部、最後の16ビットが誤り検出部となっている。
【0039】
プリアンブル部は、32ビットのうち前半の16ビットがトレーニングシーケンス、後半の16ビットがスタートシーケンスとなっている。トレーニングシーケンスは、0と1が交互に現れるビット列で構成される。スタートシーケンスは、疑似雑音符号の一種であるM系列符号のビット列で構成される。
【0040】
情報部は、レーコン3の位置を示す情報を記述する部分である。緯度について応答する場合、情報部は
図2(a)に示すように、"00000"という5ビットのビット列の後に、緯度の数値を表す27ビットのビット列が付加されたものとなる。経度について応答する場合、情報部は
図2(b)に示すように、"1000"という4ビットのビット列の後に、経度の数値を表す28ビットのビット列が付加されたものとなる。
【0041】
誤り検出部は、情報部の内容に対して公知の巡回冗長検査(CRC)の方法で計算した16ビットのチェックサム値となっている。
【0042】
レーダ装置1を説明する。
図1に示すように、レーダ装置1は、送信部11と、レーダアンテナ12と、サーキュレータ13と、受信部14と、映像生成部15と、応答信号検出部16と、位置情報取得部17と、レーコン方位取得部18と、応答時間取得部19と、レーコン反射波検出部(トランスポンダ反射波検出部)20と、応答遅延取得部21と、測位部22と、を備える。
【0043】
具体的に説明すると、レーダ装置1は図略のコンピュータを備えており、このコンピュータはCPU、ROM、RAM等を備える。前記ROMには、後述するレーコン応答遅延の取得方法及び測位方法を実現するためのプログラムが記憶されている。このソフトウェアとハードウェアの協働により、レーダ装置1を、送信部11、受信部14、映像生成部15、応答信号検出部16、位置情報取得部17、レーコン方位取得部18、応答時間取得部19、レーコン反射波検出部20、応答遅延取得部21及び測位部22等として機能させることが可能となっている。
【0044】
レーダ装置1には、表示部91と、方位センサ92と、が電気的に接続されている。
【0045】
表示部91は、例えば液晶ディスプレイとして構成されており、画面に各種の情報を表示することができる。
【0046】
方位センサ92は、例えば磁気方位センサ又はジャイロコンパス等により構成されている。方位センサ92は船舶の適宜の位置に取り付けられており、船首方位(船首が向いている方向)を、地球基準の絶対的な方位で検出することができる。
【0047】
送信部11は、探知信号を生成する。本実施形態において送信部11には半導体素子が用いられているが、これに代えてマグネトロンが用いられても良い。送信部11は、生成した探知信号を増幅して、サーキュレータ13を介してレーダアンテナ12に出力する。
【0048】
レーダアンテナ12は、所定の周期で水平面内を回転しながら、送信部11から入力された探知信号を電波として外部に放射する。また、レーダアンテナ12は、送信した探知信号が反射した反射波を受信する。以下の説明では、レーダアンテナ12によってパルス状の探知信号を1回送信して反射波を受信する動作を、スイープと呼ぶことがある。レーダ装置1は、レーダアンテナ12を回転させながらスイープを短い時間間隔で反復することにより、360°にわたって周囲の物標を探知する。
【0049】
サーキュレータ13は、送信部11から入力された探知信号をレーダアンテナ12へ出力する。また、サーキュレータ13は、レーダアンテナ12が受信した反射波を、受信信号として受信部14へ出力する。この受信信号には、レーコン3が送信した応答信号が含まれる場合がある。
【0050】
受信部14は、サーキュレータ13を介してレーダアンテナ12から受信信号を受信する。受信部14は、入力された受信信号に対して各種の信号処理を行う。この信号処理には、増幅処理等を挙げることができるが、これに限られない。受信部14は、処理した受信信号を、映像生成部15、応答信号検出部16、及びレーコン反射波検出部20に出力する。
【0051】
映像生成部15は、受信部14から入力された受信信号に対して、各種の信号処理を行う。この信号処理としては、公知のクラッタ抑圧処理及び感度調整処理等を挙げることができるが、これに限られない。映像生成部15は、上記の信号処理が行われた後の信号に基づいてレーダ映像を生成する。映像生成部15は、生成したレーダ映像を、レーダ装置1に電気的に接続された表示部91に表示する。表示部91は、例えば液晶等からなるディスプレイとして構成することができる。
【0052】
応答信号検出部16は、受信部14から入力された受信信号から、レーコン3からの応答信号を検出する。受信信号から応答信号を検出できた場合は、応答信号検出部16は、当該応答信号の先頭タイミングを計算により取得する。
【0053】
応答信号検出部16は、検出した応答信号を位置情報取得部17に出力する。また、応答信号検出部16は、1スイープ分の受信信号を処理する毎に、レーコン3からの応答信号が当該受信信号に含まれていたか否かを示す情報を、レーコン方位取得部18に出力する。更に、応答信号検出部16は、処理した受信信号に応答信号が含まれていた場合に、取得した応答信号の先頭タイミングを、応答時間取得部19、レーコン反射波検出部20、及び、応答遅延取得部21に出力する。
【0054】
位置情報取得部17は、応答信号検出部16から入力された応答信号を復調し、
図2に示す情報部の内容を取り出すことにより、当該応答信号に含まれる位置情報、具体的には、当該レーコン3の緯度及び経度を取得する。このとき、位置情報取得部17は、応答信号の末尾の誤り検出部に基づいてCRCチェックを行い、取得した情報部の内容に誤りがないことを確認する。位置情報取得部17は、得られた位置情報を測位部22に出力する。
【0055】
レーコン方位取得部18は、応答信号検出部16から入力された情報に基づいて、レーコン3の自機に対する相対方位を取得する。この相対方位は、応答信号が含まれるスイープに相当する方位として求めることができる。また、複数のスイープから応答信号が検出された場合は、当該複数のスイープに相当する方位の範囲を2等分する方位とすることができる。
【0056】
応答時間取得部19は、応答信号検出部16から入力される応答信号の先頭タイミングに基づいて、レーダアンテナ12が探知信号を送信してからレーコン3の応答信号を受信するまでの時間(以下、応答時間と呼ぶことがある。)を取得する。応答時間取得部19は、取得した応答時間を測位部22に出力する。
【0057】
レーコン反射波検出部20は、受信部14から入力された受信信号から、応答信号検出部16から入力された応答信号の先頭タイミングより早いタイミングで現れる反射波を、レーコン3の反射波として検出する。レーコン反射波検出部20は、検出されたレーコン3の反射波の受信タイミングを、応答遅延取得部21に出力する。
【0058】
応答遅延取得部21は、レーコン反射波検出部20から入力されるレーコン3の反射波の受信タイミングと、応答信号検出部16から入力される応答信号の先頭タイミングと、の時間差を計算することにより、レーコン3の応答遅延を取得する。ここで、レーコン3の応答遅延とは、レーコン3が探知信号を受信してから応答信号を送信するまでに要する時間である。応答遅延取得部21は、取得した応答遅延を測位部22に出力する。
【0059】
測位部22は、応答時間取得部19で得られた応答時間と、応答遅延取得部21で得られた応答遅延と、レーコン方位取得部18で得られたレーコン3の相対方位と、方位センサ92で得られた船首の絶対方位と、位置情報取得部17で得られたレーコン3の位置情報と、に基づいて、自機の位置(具体的には、緯度及び経度)を求める。
【0060】
測位の方法は公知であるので簡単に説明すると、測位部22は、応答時間取得部19で得られた応答時間から、応答遅延取得部21で得られた応答遅延を減算することで、レーダ装置1とレーコン3との間で信号が往復するのに掛かった時間(以下、往復時間と呼ぶことがある。)を求める。この往復時間を2で除算し、電波の速度を乗算することで、レーダ装置1とレーコン3との間の距離を求めることができる。また、レーダ装置1から見たレーコン3の絶対方位は、レーコン方位取得部18で得られたレーコン3のレーダ装置1に対する相対方位と、方位センサ92で得られた船首の絶対方位と、に基づいて求めることができる。
【0061】
測位部22は、レーダ装置1とレーコン3との間の距離と、レーダ装置1から見たレーコン3の絶対方位と、位置情報取得部17で得られたレーコン3の緯度及び経度と、により、レーダ装置1の緯度及び経度を計算により求める。以上により、レーコン3を用いた自機の測位を実現することができる。
【0062】
測位部22は、得られた自機の緯度及び経度を映像生成部15に出力する。映像生成部15は、生成するレーダ映像と併せて、測位部22の測位結果を表示部91に表示する。測位結果の表示方法としては、緯度及び経度の数値が直接表示されても良いし、その他の方法で表示されても良い。これにより、レーダ装置1のユーザは、表示部91の画面を見ることで自船の位置を把握することができる。
【0063】
次に、レーダ装置1が送信する探知信号とレーコン3が送信する応答信号との関係について詳細に説明する。
図3は、レーダ装置1とレーコン3との間で電波の送受信が行われるタイミングを示すグラフである。
【0064】
図3の4つのグラフは、1スイープ分の電波の送受信に関して、上から順に、レーダ装置1が送信する探知信号、レーコン3が受信する探知信号、レーコン3が送信する応答信号、レーダ装置1が受信する応答信号のそれぞれについて、送信/受信のタイミングを示すものである。4つのグラフの全てで、縦軸は信号レベル、横軸は時間である。横軸である時間は、4つのグラフの間で対応している。
【0065】
図3(a)に示す時刻t0において、レーダ装置1から、パルス幅がtPWである探知信号が送信された場合を考える。この探知信号は、
図3(b)に示す時刻t1にレーコン3に到達し、レーコン3によって受信される。
【0066】
図3(c)に示すように、レーコン3は、探知信号を受信すると、パルス状の探知信号の立下がりタイミングである時刻t2を検出する。レーコン3は、検出された時刻t2から、上述の待機時間twだけ待機した時刻t3において、応答信号の送信を開始する。この応答信号は、
図3(d)に示す時刻t4にレーダ装置1に到達し、レーダ装置1によって受信される。
【0067】
このように電波の送受信が行われた場合、レーダ装置1が備える応答時間取得部19は、レーダ装置1が探知信号を送信した時刻t0と、レーダ装置1が応答信号を受信した時刻t4と、の時間差である応答時間tRを測位のために求める。しかしながら、この応答時間tRには、レーコン3に探知信号が到達する時刻t1からレーコン3が応答信号の送信を開始する時刻t3までのタイムラグであるレーコン応答遅延tRDが含まれている。船舶用のレーコン3において、レーコン応答遅延tRDは規格上の上限はあるものの統一されておらず、未知である応答遅延が測位精度を低下させる原因となっている。
【0068】
この点、本実施形態のレーダ装置1が備えるレーコン反射波検出部20は、
図3(d)に示すように、受信信号において応答信号より早いタイミングで現れる反射波を、レーコン3で探知信号が反射した反射波として検出する。そして、応答遅延取得部21は、レーコン3の反射波を受信した時刻t5と、応答信号を受信した時刻t4と、の時間差を、レーコン応答遅延tRDEとして取得する。
【0069】
反射波のタイムラグはゼロであるので、レーコン反射波検出部20がレーコン3の反射波を正しく検出できれば、応答遅延取得部21が取得したレーコン応答遅延tRDEは、実際のレーコン応答遅延tRDと一致するはずである。本実施形態のレーダ装置1は、測位部22がレーコン応答遅延tRDEを用いて計算を行うことで、精度の良い測位結果を得ることができる。
【0070】
ただし、応答信号の先頭のタイミングとの時間差が大き過ぎるタイミングで現れる反射波は、レーコン3で探知信号が反射したものではないと考えられる。従って、レーコン反射波検出部20は、応答信号検出部16から入力された応答信号の先頭タイミング(時刻t4)との時間差が所定以内である反射波だけを、レーコン3の反射波として検出する。この時間差の上限は、上述したレーコン応答遅延の規格による上限に適宜のマージンを加算した値とすることが考えられる。これにより、レーコン3の反射波を良好に検出することができる。
【0071】
また、レーコン3は通常小型に構成されており、殆ど点状の信号反射源であるとみなすことができるので、レーコン3の反射波の幅は、探知信号のパルス幅tPWとほぼ等しくなるはずである。そこで、レーコン反射波検出部20は、現れてから消えるまでの時間tRWと、パルス状の探知信号の送信時間であるパルス幅tPWと、の差が所定以内である反射波だけを、レーコン3の反射波として検出する。言い換えれば、レーコン3の反射波として検出されるために当該反射波の幅が満たすべき条件が、探知信号のパルス幅tPWを範囲内に含む所定の範囲となっている。これにより、レーコン3の反射波をより正確に検出することができる。
【0072】
次に、応答信号検出部16による応答信号の先頭タイミングの検出について説明する。
【0073】
図2に示すように、応答信号のプリアンブル部のうちスタートシーケンスは、16ビットのM系列符号である。このスタートシーケンスは既知であるので、応答信号検出部16は、スタートシーケンスの符号のレプリカである16ビットの信号と、受信信号と、の相関を求める。
【0074】
疑似雑音符号の性質から、レプリカと受信信号とが一致するタイミングが、スタートシーケンスの後に続く情報部の先頭を示している。そこで、応答信号検出部16は、レプリカと受信信号との相関が所定の閾値を上回るタイミングから、プリアンブル部の長さである32ビット分の時間だけ遡ったタイミングを、応答信号の先頭タイミング(上述の時刻t4)として検出する。これにより、応答信号の先頭タイミングを正確に求めることができる。
【0075】
以上に説明したように、本実施形態のレーダ装置1は、応答信号検出部16と、レーコン反射波検出部20と、応答遅延取得部21と、を備える。応答信号検出部16は、レーダアンテナ12から送信した探知信号の反射波を受信した受信信号から、前記探知信号に反応してレーコン3が送信する応答信号を検出する。レーコン反射波検出部20は、前記受信信号において前記応答信号より早いタイミングで現れる反射波を、レーコン3の反射波として検出する。応答遅延取得部21は、前記反射波の受信タイミングと前記応答信号の受信タイミングとの時間差に基づいて、レーコン3の応答遅延を取得する。
【0076】
また、本実施形態のレーダ装置1は、レーコン3の応答遅延を以下の方法により取得している。即ち、探知信号の電波をレーダアンテナ12から送信する。前記探知信号がレーコン3に反射した反射波をレーダアンテナ12で受信する。前記探知信号に反応してレーコン3が送信した電波である応答信号をレーダアンテナ12で受信する。前記反射波の受信タイミングと、前記応答信号の受信タイミングと、の時間差に基づいてレーコン3の応答遅延を取得する。
【0077】
これにより、機種及び個体差等の原因でレーコン3の応答遅延が様々に異なる場合でも、レーダ装置1が、反射波及び応答信号に基づいて応答遅延をその場で取得することができる。従って、簡素な構成で、レーダ装置1とレーコン3との間の距離を正確に取得することができる。
【0078】
次に、上記の実施形態の変形例について説明する。
図4は、変形例において、複数スイープ分の受信信号から平均が計算され、この平均からレーコンの反射波を検出する様子を示すグラフである。なお、以下の説明において、上記実施形態と同一又は類似の構成については、要素名に同一の符号を付して説明を省略する場合がある。
【0079】
上記の実施形態では、レーコン反射波検出部20は、1スイープ分の受信信号からレーコン3の反射波を検出している。一方、探知信号はレーダアンテナ12の向きを少しずつ変化させながら反復して送信されるため、
図4に示すように、複数のスイープのそれぞれについてレーコン3が応答信号を送信する場合も少なくない。そこで、本変形例では、レーコン反射波検出部20が、応答信号が含まれる複数スイープの受信信号の信号レベルについて、統計処理の一種である平均処理を行い、得られた平均値に基づいて、レーコン3の反射波を検出している。
【0080】
図4には、3つのスイープの受信信号から平均波形を計算した例が示され、この平均波形においては、平均計算前では目立っていたノイズによる反射波が小さくなっていることがわかる。これにより、レーコン3の反射波をより正確に検出することができる。
【0081】
以上に本発明の好適な実施の形態及び変形例を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0082】
応答信号の先頭タイミングの検出は、疑似雑音符号のレプリカと受信信号との相関をとることに代えて、例えば、プリアンブル部の電力を検出し、検出した電力が所定の閾値を上回ったタイミングに基づいて行うこともできる。
【0083】
レーコン3が送信する応答信号のフォーマットは、
図2に示すものに代えて、任意のものを採用することができる。
【0084】
図4の変形例においては、反射波を検出するために、複数スイープの受信信号の平均を計算する処理が行われている。しかしながら、平均以外の処理、例えば、複数スイープの受信信号の間で相関を計算する処理が行われても良い。
【0085】
レーダ装置1からの探知信号がレーコン3によって良好に反射するように、レーコン3にリフレクタ等が取り付けられても良い。
【0086】
レーダ装置1とレーコン3による測位は、単独で用いられても良いし、他の測位装置(例えば、GNSS測位装置)による測位が何らかの理由でできなくなった場合の代替的な手段として用いられても良い。
【符号の説明】
【0087】
1 レーダ装置
3 レーコン(トランスポンダ)
12 レーダアンテナ(アンテナ)
16 応答信号検出部
17 位置情報取得部
19 応答時間取得部
20 レーコン反射波検出部(トランスポンダ反射波検出部)
21 応答遅延取得部