IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ビュー, インコーポレイテッドの特許一覧

特許7379600エレクトロクロミック素子及び陽極着色エレクトロクロミック物質
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】エレクトロクロミック素子及び陽極着色エレクトロクロミック物質
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1524 20190101AFI20231107BHJP
   G02F 1/15 20190101ALI20231107BHJP
【FI】
G02F1/1524
G02F1/15 502
G02F1/15 507
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2022110021
(22)【出願日】2022-07-07
(62)【分割の表示】P 2019176491の分割
【原出願日】2010-03-31
(65)【公開番号】P2022133443
(43)【公開日】2022-09-13
【審査請求日】2022-08-05
(31)【優先権主張番号】61/165,484
(32)【優先日】2009-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】12/645,159
(32)【優先日】2009-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509335373
【氏名又は名称】ビュー, インコーポレイテッド
【住所又は居所原語表記】195 S. Milpitas Blvd., Milpitas, CA 95035 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ワン、チョンチュン
(72)【発明者】
【氏名】カーマン、エリック
(72)【発明者】
【氏名】コズロウスキー、マーク
(72)【発明者】
【氏名】スコビー、マイク
(72)【発明者】
【氏名】ディクソン、ジェレミー
(72)【発明者】
【氏名】プラダン、アンシュ
【審査官】岩村 貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-235632(JP,A)
【文献】特開2007-108750(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0067031(US,A1)
【文献】特開平08-313940(JP,A)
【文献】特開2003-057685(JP,A)
【文献】国際公開第03/014254(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/15-1/163
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の透明伝導層と、
酸化タングステン系のエレクトロクロミック材料を含むエレクトロクロミック層と、
イオン伝導層と、
タングステン及びタンタルがドープされた酸化ニッケル系のカウンター電極材料を含むカウンタ電極層と、
第2の透明伝導層と、
を備える、エレクトロクロミック素子。
【請求項2】
前記酸化タングステン系のエレクトロクロミック材料は、モリブデン、バナジウム及びチタンからなる群から選択されるドーパントをさらに含む、
請求項1に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項3】
前記酸化タングステン系のエレクトロクロミック材料は、リチウム、ナトリウム及び/又はカリウムでドープされている、
請求項1に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項4】
前記第1及び第2の透明伝導層は、それぞれ、シート抵抗が約5オーム/平方と約30オーム/平方との間である、
請求項1に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項5】
前記第1及び第2の透明伝導層は、それぞれ、伝導性酸化物材料、伝導性金属材料、伝導性金属窒化物及び複合型伝導体からなる群から選択される材料を含む、
請求項1に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項6】
前記第1及び第2の透明伝導層の少なくとも一方は、酸化インジウム、酸化インジウムスズ、ドープ酸化インジウム、酸化スズ、ドープ酸化スズ、酸化亜鉛、酸化アルミニウム亜鉛、ドープ酸化亜鉛、酸化ルテニウム及びドープ酸化ルテニウムからなる群から選択される前記伝導性酸化物材料を含む、
請求項5に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項7】
前記第1及び第2の透明伝導層の少なくとも一方は、前記伝導性金属材料を含み、
前記伝導性金属材料は、金、白金、銀、アルミニウム及びニッケル合金からなる群から選択される、
請求項5に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項8】
前記第1及び第2の透明伝導層の少なくとも一方は、前記伝導性金属窒化物を含み、
前記伝導性金属窒化物は、窒化チタン、窒化タンタル、酸窒化チタン及び酸窒化タンタルからなる群から選択される、
請求項5に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項9】
前記第1及び第2の透明伝導層の少なくとも一方は、前記複合型伝導体を含み、
前記複合型伝導体は、(i)1以上の伝導性セラミック及び金属ワイヤと、(ii)前記1以上の伝導性セラミック及び金属ワイヤを被覆する透明伝導材料とを含む、
請求項5に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項10】
前記第1及び第2の透明伝導層のそれぞれは、約100から400nmの間の厚みを有する、
請求項1に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項11】
前記イオン伝導層は、(i)ケイ酸塩、酸化シリコン、酸化タングステン、酸化タンタル、酸化ニオビウム及びホウ酸塩からなる群、又は、(ii)酸化シリコン、酸化シリコンアルミニウム、リチウム酸化シリコン、リチウム酸化シリコンアルミニウム、ケイ酸リチウム、ケイ酸リチウムアルミニウム、ホウ酸リチウムアルミニウム、フッ化リチウムアルミニウム、ホウ酸リチウム、窒化リチウム、ケイ酸リチウムジルコニウム、ニオブ酸リチウム、ホウケイ酸リチウム、リンケイ酸リチウムからなる群から選択される材料を含む、
請求項1に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項12】
前記イオン伝導層は、約5から100nmの間の厚みを有する、
請求項1に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項13】
前記エレクトロクロミック層は、約200から700nmの間の厚みを有する、
請求項1に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項14】
前記カウンタ電極層は、約150から350nmの間の厚みを有する、
請求項1に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項15】
前記エレクトロクロミック層の厚みと前記カウンタ電極層の厚みとの比は、約1.7:1から2.3:1の間である、
請求項1に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項16】
前記酸化タングステン系のエレクトロクロミック材料、及び、前記酸化ニッケル系のカウンター電極材料のそれぞれは、リチウムを含む、
請求項1に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項17】
前記第1及び第2の透明伝導層は、略同一のシート抵抗を有する、
請求項1に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項18】
前記酸化タングステン系のエレクトロクロミック材料は、モリブデン及びチタンでドープされている、
請求項2に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項19】
前記酸化タングステン系のエレクトロクロミック材料は、タングステン及びモリブデンの混合酸化物である、
請求項1に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項20】
タンタルがドープされた酸化ニッケルタングステン系材料を含む、
陽極着色エレクトロクロミック物質。
【請求項21】
ニッケルとタングステンとの質量比は、約4:6及び6:4の間である、
請求項20に記載の陽極着色エレクトロクロミック物質。
【請求項22】
タンタルがドープされた前記酸化ニッケルタングステン系材料は、
(i)原子単位で約15%及び約60%の間のニッケルを含む、
(ii)原子単位で約10%及び約40%の間のニッケルを含む、
(iii)原子単位で約30%および約75%の間の酸素を含む、又は、
(iv)ニッケルの原子濃度が約15%と約60%との間であり、酸素の原子濃度が約30%と約75%との間である、
請求項20に記載の陽極着色エレクトロクロミック物質。
【請求項23】
タンタルがドープされた前記酸化ニッケルタングステン系材料は、約150から350nmの間の厚みを有する層の内部に配される、
請求項20に記載の陽極着色エレクトロクロミック物質。
【請求項24】
酸化タングステン系の材料を含むエレクトロクロミック層と、
陽極着色エレクトロクロミック物質を含むカウンタ電極層と、
を備え、
前記陽極着色エレクトロクロミック物質は、タンタルを含むドーパントを有する酸化ニッケルタングステン系材料を含む、
エレクトロクロミック素子。
【請求項25】
前記エレクトロクロミック層及び前記カウンタ電極層の間に、イオン伝導層をさらに備える、
請求項24に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項26】
前記エレクトロクロミック層は、モリブデン、チタン及びバナジウムからなる群から選択されるドーパントをさらに含む、
請求項24に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項27】
前記エレクトロクロミック層は、タングステン-モリブデン酸化物を含む、
請求項24に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項28】
前記エレクトロクロミック層は、タングステン-バナジウム酸化物を含む、
請求項24に記載のエレクトロクロミック素子。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本願は、米国仮特許出願第61/165,484号(出願日:2009年3月31日)および米国特許出願第12/645,159号(出願日:2009年12月22日)に基づき優先権を主張する。両出願の内容は全て、参照により本願に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
エレクトロクロミズムとは、物質の電子的状態が変化した場合、通常は電圧が変化した場合に、物質の光物性が電気化学的な媒介によって可逆的に変化する現象である。光物性とは通常、色、透過率、吸光率および反射率のうち1以上を指す。公知のエレクトロクロミック物質の一例を挙げると、酸化タングステン(WO)がある。酸化タングステンは、電気化学還元によって透明から青色へと色が変化するカソードエレクトロクロミック物質である。
【0003】
エレクトロクロミック物質は、例えば、窓および鏡に利用され得る。この場合、エレクトクロミック物質を変化させることで、窓および鏡の色、透過率、吸光率および/または反射率は、変化し得る。エレクトロクロミック物質の公知の利用例を挙げると、自動車のバックミラーがある。このようなエレクトロクロミック物質を用いるバックミラーの場合、ミラーの反射率が夜間になると変化して、他の車両のヘッドライトがドライバーを煩わせないようにする。
【0004】
エレクトロクロミズムは1960年代に発見されたが、エレクトロクロミック素子は依然としてさまざまな問題を抱えており、商業的可能性を十分に発揮するに至っていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者達は、先行技術に係るエレクトロクロミック素子は、信頼性および性能が低いという問題を抱えることが多いことに注目した。中には、素子の設計および構造が不適切なことに起因する問題もある。本発明者達は、本明細書に記載した特徴のうち特に、エレクトロクロミック素子を構成する層のうち2つ、カウンタ電極層およびエレクトロクロミック層をそれぞれ、所定量のリチウムを含むように製造することで素子の信頼性が改善され得ることを発見した。また、エレクトロクロミック素子は、多段階熱化学調整処理を施すことによって性能を改善し得る。さらに、エレクトロクロミック素子の構成要素のうち一部の材料および形態を慎重に選択することによって、性能および信頼性が改善される。一部の実施形態によると、エレクトロクロミック素子を構成する層は全て、完全に固体で無機材料である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態によると、エレクトロクロミックウィンドウは、建築用ガラス基板と、当該基板上に設けられている積層体とを備える。積層体は、(i)酸化タングステンのエレクトロクロミック層、(ii)固体の無機材料から成るリチウムイオン伝導層、および、(iii)酸化ニッケルタングステンのカウンタ電極層を有する。イオン伝導層は、エレクトロクロミック層およびカウンタ電極層を分離している。
【0007】
一実施形態によると、エレクトロクロミック素子は、基板上に、(a)エレクトロクロミック層を成膜して、(b)エレクトロクロミック層をリチオ化して、(c)イオン伝導層を成膜して、(d)エレクトロクロミックウィンドウの動作時にエレクトロクロミック層との間で可逆的にリチウムイオンを交換するカウンタ電極層を成膜して、(e)カウンタ電極層をリチオ化することによって製造する。このような一連の処理によって、イオン伝導層がエレクトロクロミック層およびカウンタ電極層を分離する積層体が基板上に製造される。
【0008】
別の実施形態によると、エレクトロクロミックウィンドウは、建築用ガラス基板と、当該基板上に設けられている積層体とを備える。積層体は、(i)酸化タングステンのエレクトロクロミック層、(ii)固体且つ無機材料のリチウムイオン伝導層、および、(iii)略非晶質の酸化ニッケルタングステンのカウンタ電極層を有する。イオン伝導層は、エレクトロクロミック層およびカウンタ電極層を分離する。
【0009】
別の実施形態によると、エレクトロクロミックウィンドウは、基板上に、(i)酸化タングステンのエレクトロクロミック層、(ii)無機且つ固体材料のリチウムイオン伝導層、および、(iii)略非晶質の酸化ニッケルタングステンのカウンタ電極層を順次成膜することによって製造される。これらの層によって、イオン伝導層がエレクトロクロミック層およびカウンタ電極層を分離している積層体が形成される。
【0010】
さらに別の実施形態によると、エレクトロクロミックウィンドウは、基板上に、(i)固体且つ無機材料のエレクトロクロミック層、(ii)固体且つ無機材料のイオン伝導層、および、(iii)固体且つ無機材料のカウンタ電極層を順次成膜することによって製造される。これらの層によって、イオン伝導層がエレクトロクロミック層およびカウンタ電極層を分離している積層体が形成される。この後、積層体が有する1以上の層と反応する成分が略存在しない環境において積層体を加熱すること、および、積層体が有する1以上の層と反応する物質を含む環境において積層体を加熱することを含む多段階熱化学調整処理を実行する。
【0011】
上記およびその他の本発明の特徴および利点は、関連する図面を参照しつつ、以下でより詳細に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
以下に記載する詳細な説明は、図面を参照することによってより深く理解され得る。図面は以下の通りである。
図1】本発明の実施形態に係るエレクトロクロミック素子の断面を示す概略図である。
図2】本発明の特定の実施形態に係る、消色状態のエレクトロクロミック素子の断面を示す概略図である。
図3】本発明の特定の実施形態に係る、着色状態のエレクトロクロミック素子の断面を示す概略図である。
図4】イオン伝導層内の粒子によって局所的欠陥が生じているエレクトロクロミック素子の断面を示す概略図である。
図5A】伝導層の上に、エレクトロクロミック積層体の残りの層を成膜する前の時点において、粒子が残っている状態のエレクトロクロミック素子の断面を示す概略図である。
図5B図5Aのエレクトロクロミック素子の断面を示す概略図であり、エレクトロクロミック積層体の形成時に「ポップオフ」欠陥が形成されている。
図5C図5Bのエレクトロクロミック素子の断面を示す概略図であり、第2の導電体が成膜されるとポップオフ欠陥から電気的短絡が形成されている様子を示す。
図6A図7Aを参照しつつ説明される多段階プロセスで得られるエレクトロクロミックウィンドウ装置を示す断面図である。
図6B】エレクトロクロミック素子を示す上面図であり、当該エレクトロクロミック素子に切り込まれたトレンチの位置を示す図である。
図7A】エレクトロクロミックウィンドウを製造する方法を説明するフローチャートである。
図7B】本発明に係るエレクトロクロミック素子の一部を成すエレクトロクロミック積層体を製造する方法を説明する図である。
図7C】本発明に係るエレクトロクロミック素子の一部を成すエレクトロクロミック積層体を製造する方法を説明する図である。
図7D】本発明に係るエレクトロクロミック素子の一部を成すエレクトロクロミック積層体を製造する方法を説明する図である。
図7E】本発明に係るエレクトロクロミック素子を製造するために用いられる調整プロセスを説明するためのフローチャートである。
図8A】本発明に係る総合成膜システムを示す図である。
図8B】総合成膜システムを示す斜視図である。
図8C】モジュラー式の総合成膜システムを示す図である。
図8D】リチウム成膜ステーションを2つ有する総合成膜システムを示す図である。
図8E】リチウム成膜ステーションを1つ有する総合成膜システムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<エレクトロクロミック素子>
一部の実施形態に係るエレクトロクロミック素子100の断面を概略的に図1に示す。エレクトロクロミック素子は、基板102と、伝導層(CL)104と、エレクトロクロミック層(EC)106と、イオン伝導層(IC)108と、カウンタ電極層(CE)110と、伝導層(CL)114とを備える。構成要素104、106、108、110、および114はまとめて、エレクトロクロミック積層体120と呼ぶ。電圧源116は、エレクトロクロミック積層体120に電位を印加するものであり、例えば、消色状態から着色状態へとエレクトロクロミック素子を変化させる。他の実施形態によると、構成要素である複数の層の順序は、基板を基準にして逆になる。つまり、基板、伝導層、カウンタ電極層、イオン伝導層、エレクトロクロミック物質層、伝導層の順序で積層される。
【0014】
「消色状態と着色状態との間での変化」という場合、限定的な意図を持つものではなく、実現可能な多くのエレクトロクロミック変化のうち一例を挙げているのみであると理解されたい。本明細書で特に記述がない場合、「消色-着色変化」という場合には、対応する素子またはプロセスは、その他の光学的状態の変化、例えば、無反射-反射、透明-不透明等の変化を含む。また、「消色」という用語は、光学的に無彩色の状態を意味し、例えば、無色、透明、または、半透明を意味する。さらに、本明細書では特に記載していない限り、エレクトロクロミック変化の「色」は、特定の波長または波長範囲に限定されない。当業者であれば理解されるように、エレクトロクロミック物質およびカウンタ電極の材料として適切なものを選択することによって、どのような光学的な変化が発生するか決まる。
【0015】
特定の実施形態によると、エレクトロクロミック素子は、その状態が消色状態と着色状態との間で可逆的に変化する。消色状態では、エレクトロクロミック積層体120に電位を印加して、エレクトロクロミック物質106を着色状態にすることが可能な当該積層体内の有効イオンを主にカウンタ電極110内に存在させる。エレクトロクロミック積層体に印加されている電位を反転させると、イオンはイオン伝導層108を通ってエレクトロクロミック物質106へと輸送され、エレクトロクロミック物質を着色状態にする。消色状態から着色状態、および、着色状態から消色状態への変化については、図2および図3を参照しつつ以下でより詳細に説明するが、まずは積層体120の各層について図1を参照しつつより詳細に説明する。
【0016】
特定の実施形態によると、エレクトロクロミック積層体120を構成する材料は全て、無機材料、固体材料(つまり、固体状態にある)、または、無機且つ固体の材料である。有機材料は時間の経過と共に劣化する傾向があるので、無機材料の方が、長期間にわたって利用可能な信頼性の高いエレクトロクロミック積層体を提供するという利点を持つ。固体状態の材料もまた、液体状態の材料が多くの場合に抱える格納および漏れの問題がないという利点がある。エレクトロクロミック素子を構成する層をそれぞれ、以下で詳細に説明する。積層体を構成している層のうち任意の1以上の層は一部有機材料を含むが、多くの実施例では、これらの層のうち1以上の層は有機材料をほとんどまたは全く含んでいないものと理解されたい。同じことは液体についても言え、1以上の層には少量の液体が含まれていてもよい。また、固体状態の材料は、液体成分を利用するプロセス、例えば、ゾル・ゲルを利用するプロセス、または、化学気相成長法によって、成膜またはその他の方法で形成されると理解されたい。
【0017】
図1を参照しつつ説明すると、電圧源116は通常、低電圧用電源であり、放射センサおよびその他の環境センサと共に動作するとしてよい。電圧源116はさらに、季節、時刻、および、測定された環境状況等に応じてエレクトロクロミック素子を制御するコンピュータシステム等のエネルギー管理システムと接続されるように構成されているとしてよい。このようなエネルギー管理システムは、大面積エレクトロクロミック素子(つまり、エレクトロクロミックウィンドウ)と共に用いられることによって、建物のエネルギー消費量を大幅に減らすことが可能である。
【0018】
基板102として、光学的特性、電気的特性、熱的特性および機械的特性が適切な材料を利用するとしてよい。このような基板の例を挙げると、ガラス材料、プラスチック材料、および、ミラー材料がある。適切なプラスチック基板の例としては、アクリル、ポリスチレン、ポリカーボネート、アリルジグリコールカーボネート、SAN(スチレンアクリロニトリルコポリマー)、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)、ポリエステル、ポリアミド等がある。プラスチック基板が用いられる場合、例えば、プラスチック被膜技術で公知のように、ダイヤモンド状の保護コーティング、シリカ/シリコーンの耐磨耗性コーティング等のハードコートを用いてバリアおよび磨耗から保護することが好ましい。適切なガラスとしては、透明または薄く彩色されたソーダ石灰ガラスが挙げられ、ソーダ石灰フロートガラスが含まれる。ガラスは、焼き戻しが施されていてもいなくてもよい。例えば、ソーダ石灰ガラス等のガラスを基板102として用いるエレクトロクロミック素子100の一部の実施形態では、基板102と伝導層104との間にナトリウム拡散バリア層(不図示)があり、ガラスから伝導層104へとナトリウムイオンが拡散しないようにしている。
【0019】
一部の実施形態によると、基板102の光透過率(つまり、入射する放射量またはスペクトルに対する透過される放射量またはスペクトルの比)は、約40%から95%であり、例えば、約90%から92%である。この基板は、エレクトロクロミック積層体120を支持するのに適切な機械的特性を持つ限りにおいて、厚みは任意の値としてよい。基板102は、寸法は任意としてよいが、一部の実施形態では、厚みは約0.01mmから10mmであり、約3mmから9mmであることが好ましい。
【0020】
本発明の一部の実施形態によると、基板は建築用ガラスである。建築用ガラスは、建築材料として用いられるガラスである。建築用ガラスは通常、商業用建造物に用いられるが、住居用建造物にも用いられるとしてよく、必ずしも必要はないが通常は、室内と室外とを分離する役割を持つ。特定の実施形態によると、建築用ガラスは、少なくとも20インチ×20インチのサイズであり、これよりもはるかに大きいサイズとすることも可能で、例えば、約72インチ×120インチまで大きくするとしてもよい。建築用ガラスは通常、少なくとも厚みが約2mmである。厚みが約3.2mm未満の建築用ガラスは、焼き戻しを施すことができない。建築用ガラスを基板として用いている本発明の一部の実施形態では、基板上にエレクトロクロミック積層体を製造した後でも基板に焼き戻しをさらに実行する場合がある。建築用ガラスを基板として用いる一部の実施形態では、基板は、スズを用いたフロートガラス製造ラインで得られるソーダ石灰ガラスである。建築用ガラス基板の可視スペクトルでの透過率(つまり、可視スペクトルにわたる総合透過率)は一般的に、無彩色の基板の場合には80%を超えるが、彩色された基板の場合にはこれよりも低い場合がある。基板の可視スペクトルでの透過率は少なくとも、約90%(例えば、約90-92%)であることが好ましい。可視スペクトルとは、通常の人間の目が応答するスペクトルであり、一般的には、約380nm(紫色)から約780nm(赤色)である。場合によっては、ガラス表面の粗度は約10nmから30nmであることがある。
【0021】
基板102の上には、伝導層104が設けられている。特定の実施形態では、伝導層104および114のうち片方または両方は、無機材料および/または固体材料である。伝導層104および114は、複数の異なる材料で形成されるとしてよい。例えば、伝導性酸化物、金属製薄膜コーティング、伝導性金属窒化物、および、複合型伝導体で形成されるとしてよい。伝導層104および114は通常、エレクトロクロミック層のエレクトロクロミズムが見られる波長範囲では少なくとも、透明である。透明な伝導性酸化物としては、金属酸化物および1以上の金属がドープされている金属酸化物がある。このような金属酸化物およびドープ金属酸化物の例を挙げると、酸化インジウム、酸化インジウムスズ、ドープ酸化インジウム、酸化スズ、ドープ酸化スズ、酸化亜鉛、酸化アルミニウム亜鉛、ドープ酸化亜鉛、酸化ルテニウム、ドープ酸化ルテニウム等がある。伝導層は、酸化物が用いられることが多いので、「透明伝導性酸化物」(TCO)層と呼ばれる場合もある。略透明である金属製薄膜コーティングもまた、利用され得る。このような金属製薄膜コーティングに用いられる金属の例には、金、白金、銀、アルミニウム、ニッケル合金等の遷移金属がある。被膜産業で公知である、銀から成る金属製薄膜コーティングもまた利用される。伝導性窒化物の例には、窒化チタン、窒化タンタル、酸窒化チタン、および、酸窒化タンタルが含まれる。また、伝導層104および114は、複合型伝導体であってもよい。このような複合型伝導体は、高伝導性セラミックおよび金属ワイヤまたは伝導層パターンを基板の一方の面に載置して、ドープ酸化スズまたは酸化インジウムスズ等の透明な伝導性材料で被覆することによって製造されるとしてよい。このワイヤは、裸眼には見えない程度に薄い(例えば、約100μm以下)ことが理想的である。
【0022】
一部の実施形態によると、ガラス基板等の市販されている基板は、透明且つ伝導性の層がコーティングされている。このような製品は、基板102および伝導層104の両方として利用され得る。このようなガラスの例を挙げると、ピルキントン(Pilkington)社(米国オハイオ州トレド)がTEC Glass(登録商標)の商品名で、そして、ピー・ピー・ジー・インダストリーズ(PPG Industries)社(米国ペンシルバニア州ピッツバーグ)がSUNGATE(登録商標)300およびSUNGATE(登録商標)500の商品名で販売している、伝導層がコーティングされたガラスがある。TEC Glass(登録商標)は、フッ化酸化スズの伝導層がコーティングされているガラスである。
【0023】
本発明の一部の実施形態によると、両方の伝導層(つまり、伝導層104および114)について同一の伝導層を用いる。一部の実施形態によると、伝導層104および114にはそれぞれ、別の伝導材料を用いる。例えば、一部の実施形態によると、TEC Glass(登録商標)は、基板102(フロートガラス)および伝導層104(フッ化酸化スズ)に用いられ、伝導層114には酸化インジウムスズを用いる。上述したように、TEC Glass(登録商標)を用いる一部の実施形態によると、ガラス基板102とTEC伝導層104との間にはナトリウム拡散バリアが設けられている。
【0024】
一部の実施例によると、伝導層の組成は、製造用に準備される場合、当該伝導層に接触する隣接層(例えば、エレクトロクロミック層106またはカウンタ電極層110)の組成に基づいて選択または調整する必要がある。例えば、金属酸化物から成る伝導層の場合、伝導率は、当該伝導層の材料の酸素空孔の数に応じて決まり、金属酸化物の酸素空孔の数は隣接層の組成の影響を受ける。さらに、伝導層の材料を選択する基準には、当該材料の電気化学的安定性、および、酸化を抑制することが出来るか否か、より一般的には、可動イオン種による還元が含まれるとしてよい。
【0025】
伝導層の機能は、電圧源116が供給する電位を、オーミック電位降下を非常に小さく抑えつつ、エレクトロクロミック積層体120の表面全体から当該積層体の内部領域へと拡散させることにある。電位は、伝導層に対する電気接続を介して、伝導層へと伝達される。一部の実施形態によると、複数の母線を設け、1つを伝導層104と接触させ、1つを伝導層114と接触させることによって、電圧源116と伝導層104および114との間を電気接続する。また、伝導層104および114は、その他の従来の手段を用いて電圧源116に接続するとしてもよい。
【0026】
一部の実施形態によると、導電層104および114の厚みは、約5nmと約10,000nmとの間である。一部の実施形態によると、導電層104および114の厚みは、約10nmと約1,000nmとの間である。他の実施形態によると、導電層104および114の厚みは、約10nmと約500nmとの間である。基板102および伝導層104としてTEC Glass(登録商標)が用いられる一部の実施形態によると、導電層の厚みは約400nmである。酸化インジウムスズを導電層114に用いる一部の実施形態によると、導電層の厚みは約100nmから400nm(一実施形態によると280nm)である。より一般的には、必要な電気的特性(例えば、伝導率)および光学的特性(例えば、透過率)が得られる限り、上記の伝導材料からより厚い層を形成するとしてもよい。一般的には、導電層104および114は、透明性を高めると共にコストを低減するために、可能な限り薄くする。一部の実施形態によると、伝導層は実質的に結晶質である。一部の実施形態によると、伝導層は、大きな等軸粒子の割合が高い結晶層である。
【0027】
また、伝導層104および114の厚みはそれぞれ、略均一である。伝導層104は、エレクトロクロミック積層体120の他の層を設けやすいように、平滑な層(つまり、粗度Raの低い層)であることが望ましい。一実施形態によると、略均一な伝導層は、上述した厚みの範囲のいずれにおいても、バラツキが約±10%以下である。別の実施形態によると、略均一な伝導層は、上述した厚みの範囲のいずれにおいても、バラツキが約±5%以下である。別の実施形態によると、略均一な伝導層は、上述した厚みの範囲のいずれにおいても、バラツキが約±2%以下である。
【0028】
伝導層のシート抵抗(Rs)もまた、層が占める面積が比較的大きいので、重要なパラメータである。一部の実施形態によると、導電層104および114のシート抵抗は、約5から30オーム/スクエアである。一部の実施形態によると、導電層104および114のシート抵抗は、約15オーム/スクエアである。一般的に、2つの伝導層のシート抵抗はほぼ同じであることが望ましい。一実施形態によると、これら2つの伝導層のシート抵抗は、約10-15オーム/スクエアである。
【0029】
伝導層104の上に積層されているのはエレクトロクロミック層106である。本発明の実施形態によると、エレクトロクロミック層106は、無機および/または固体であり、通常の実施形態では、無機且つ固体である。エレクトロクロミック層は、金属酸化物を含む多数のさまざまなエレクトロクロミック材料のうち任意の1以上を含むとしてよい。このような金属酸化物には、酸化タングステン(WO)、酸化モリブデン(MoO)、酸化ニオビウム(Nb)、酸化チタン(TiO)、酸化銅(CuO)、酸化イリジウム(Ir)、酸化クロム(Cr)、酸化マンガン(Mn)、酸化バナジウム(V)、酸化ニッケル(Ni)、酸化コバルト(Co)等が含まれる。一部の実施形態によると、金属酸化物は、リチウム、ナトリウム、カリウム、モリブデン、バナジウム、チタン、および/または、その他の適切な金属または金属含有化合物等の1種類以上のドーパントでドープされている。混合酸化物(例えば、W-Mo酸化物、W-V酸化物)もまた所定の実施形態では用いられる。金属酸化物を含むエレクトロクロミック層106は、カウンタ電極層110から伝達されるイオンを受け取ることが可能である。
【0030】
一部の実施形態によると、エレクトロクロミック層106に、酸化タングステンまたはドープ酸化タングステンを用いる。本発明の一実施形態によると、エレクトロクロミック層は実質的にWOから成る。「x」はエレクトロクロミック層における酸素対タングステンの原子濃度を意味し、約2.7と3.5の間である。半化学量論的酸化タングステンのみがエレクトロクロミズムを発生させることが示唆されている。つまり、化学量論的酸化タングステンWOは、エレクトロクロミズムを示さない。より具体的な実施形態では、エレクトロクロミック層には、xが3.0未満で少なくとも約2.7であるWOが用いられる。別の実施形態によると、エレクトロクロミック層は、xが約2.7および約2.9の間であるWOである。ラザフォード後方散乱分析(RBS)等の方法によって、タングステンに結合されている酸素原子の数およびタングステンに結合されていない酸素原子の数を含む、総酸素原子数を特定することができる。xが3以上の酸化タングステン層がエレクトロクロミズムを示す場合もある。これは、半化学量論的酸化タングステンと共にある結合されていない過剰な酸素のためであると考えられる。別の実施形態によると、酸化タングステン層は、化学量論的に決まる酸素またはそれ以上の酸素を含み、xが3.0から約3.5である。
【0031】
所与の実施形態によると、酸化タングステンは、結晶質、ナノ結晶質、または、非晶質である。一部の実施形態によると、酸化タングステンは実質的に、ナノ結晶質であり、粒径は平均して約5nmから50nm(または、約5nmから20nm)である。このような特徴は、透過型電子顕微鏡法(TEM)によって分かる。酸化タングステンの形態は、X線回折(XRD)を用いた場合でも、ナノ結晶質と特徴付けられ得る。例えば、ナノ結晶質でエレクトロクロミックな酸化タングステンは、結晶の大きさが約10nmから100nm(例えば、約55nm)であるという特徴がXRDで特定され得る。さらに、ナノ結晶質の酸化タングステンは、長距離秩序に限界があり、例えば、数(約5から20)個の酸化タングステンユニットセルのオーダである。
【0032】
エレクトロクロミック層106の厚みは、当該エレクトロクロミック層用に選択されるエレクトロクロミック材料に応じて決まる。一部の実施形態によると、エレクトロクロミック層106は、約50nmから2,000nm、または、約200nmから700nmである。一部の実施形態によると、エレクトロクロミック層は、約300nmから約500nmである。また、エレクトロクロミック層106の厚みは、略均一である。一実施形態によると、略均一なエレクトロクロミック層は、上述した厚みの範囲のいずれにおいても、バラツキが約±10%に過ぎない。別の実施形態によると、略均一なエレクトロクロミック層は、上述した厚みの範囲のいずれにおいても、バラツキが約±5%のみである。別の実施形態によると、略均一なエレクトロクロミック層は、上述した厚みの範囲のいずれにおいても、バラツキが約±3%のみである。
【0033】
一般的に、エレクトロクロミック材料では、当該エレクトロクロミック材料の着色(または、任意の光学的特性の変化、例えば、吸光率、反射率、および、透過率)は、当該材料に可逆的にイオンが入り込むこと(例えば、インターカレーション)およびこれに対応して電荷平衡化(charge balancing)電子が注入されることによって実現される。通常は、このような光学的変化の原因となるイオンの一部は、不可逆的にエレクトロクロミック材料内で結合されてしまう。以下で説明するように、不可逆的に結合されたイオンの一部または全ては、エレクトロクロミック材料内での「隠れ電荷」を平衡化するために用いられる。大半のエレクトロクロミック材料で適切なイオンには、リチウムイオン(Li)および水素イオン(H)(つまり、プロトン)が含まれる。しかし、他のイオンが適切な場合もある。このようなイオンには、例えば、デュートリウムイオン(D)、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)、カルシウムイオン(Ca++)、バリウムイオン(Ba++)、ストロンチウムイオン(Sr++)およびマグネシウムイオン(Mg++)が含まれる。本明細書に記載したさまざまな実施形態によると、エレクトロクロミック現象を生じさせるべくリチウムイオンを用いる。酸化タングステン(WO3-y(0<y≦約0.3)にリチウムイオンがインターカレーションされることによって、酸化タングステンは透明(消色状態)から青色(着色状態)に変化する。
【0034】
図1を再度参照すると、エレクトロクロミック積層体120において、イオン伝導層108はエレクトロクロミック層106の上に積層されている。イオン伝導層108の上には、カウンタ電極層110が形成されている。一部の実施形態によると、カウンタ電極層110は、無機および/または固体である。カウンタ電極層は、エレクトロクロミック素子が消色状態にある場合にイオンを貯蔵することが可能な多くのさまざまな材料のうち1以上を含むとしてよい。例えば、適切な電位を印加することによってエレクトロクロミック変化が開始されると、カウンタ電極層は、保有しているイオンのうち一部または全てをエレクトロクロミック層に移転して、エレクトロクロミック層を着色状態に変化させる。同時に、NiWOの場合には、カウンタ電極層は、イオンを失わせることによって着色する。
【0035】
一部の実施形態によると、WOを補完するカウンタ電極の材料として適切なものには、酸化ニッケル(NiO)、酸化ニッケルタングステン(NiWO)、酸化ニッケルバナジウム、酸化ニッケルクロム、酸化ニッケルアルミニウム、酸化ニッケルマンガン、酸化ニッケルマグネシウム、酸化クロム(Cr)、酸化マンガン(MnO)、プルシアンブルーが含まれる。光学的に受動型のカウンタ電極は、酸化セリウムチタン(CeO-TiO)、酸化セリウムジルコニウム(CeO-ZrO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化ニッケルタングステン(NiWO)、酸化バナジウム(V)、および、複数の酸化物の混合体(例えば、NiおよびWOの混合体)を含む。これらの酸化物にドーピングを施したものも利用され得る。ドーパントとしては、例えば、タンタルおよびタングステンがある。カウンタ電極層110は、エレクトロクロミック材料が消色状態にある場合にエレクトロクロミック材料内でエレクトロクロミック現象を発生させるために利用されるイオンを含む。このため、カウンタ電極は、このようなイオンを大量に保有する場合には、透過率が高く無彩色であることが好ましい。
【0036】
一部の実施形態によると、酸化ニッケルタングステン(NiWO)をカウンタ電極層で用いる。特定の実施形態によると、酸化ニッケルタングステンに含まれるニッケルの量は最高で、酸化ニッケルタングステンの重量の約90%とできる。具体的な実施形態によると、酸化ニッケルタングステンにおけるニッケルとタングステンとの質量比は、約4:6および6:4の間(例えば、約1:1)である。一実施形態によると、NiWOは、原子単位で、Niが約15%および約60%の間、Wが約10%および約40%の間、および、Oが約30%および約75%の間である。別の実施形態によると、NiWOは、原子単位で、Niが約30%および約45%の間、Wが約10%および約25%の間、および、Oが約35%および約50%の間である。一実施形態によると、NiWOは、原子単位で、Niが約42%、Wが約14%、Oが約44%である。カウンタ電極層が含む略非晶質酸化ニッケルタングステンは、タングステンとニッケルとの間の原子比率が約0.15から0.35の間である。略非晶質の酸化ニッケルタングステンのカウンタ電極層を成膜することは、タングステンとニッケルとの間の原子比率が約0.15と0.35との間である酸化ニッケルタングステンを生成することを含む。
【0037】
酸化ニッケルタングステンから成るカウンタ電極110から電荷が失われると(つまり、カウンタ電極110からエレクトロクロミック層106へとイオンが輸送されると)、カウンタ電極層は透明状態から茶色状態へと変化する。
【0038】
カウンタ電極の形態は、結晶質、ナノ結晶質、または、非晶質であってよい。カウンタ電極層が酸化ニッケルタングステンである一部の実施形態によると、カウンタ電極の材料は非晶質または略非晶質である。略非晶質の酸化ニッケルタングステンから成るカウンタ電極は、結晶質のものに比べると、ある条件下では、性能がより高いことが分かっている。酸化ニッケルタングステンの非晶質状態は、以下に説明する所定の処理条件を適用することで得られるとしてよい。いずれの理論またはメカニズムにも限定されるものではないが、非晶質の酸化ニッケルタングステンはスパッタリングプロセスにおいて原子のエネルギーを比較的高くすることによって得られると考えられている。スパッタリングプロセスにおいて原子のエネルギーを高くするためには、例えば、ターゲットの電力を高く、チャンバ内圧力を低くして(つまり、真空度を高めて)、そして、ソースと基板との間の距離を近くする。上述したプロセス条件下で生成される膜は、密度がより高く、UV/熱に暴露された場合の安定性もより良好である。
【0039】
一部の実施形態によると、カウンタ電極の厚みは、約50nmおよび約650nmの間である。一部の実施形態によると、カウンタ電極の厚みは、約100nmから約400nmの間であり、約200nmから300nmの範囲内であるのが好ましい。また、カウンタ電極層110の厚みは、略均一である。一実施形態によると、略均一なカウンタ電極層は、上述した厚みの範囲のいずれにおいても、バラツキが約±10%に過ぎない。別の実施形態によると、略均一なカウンタ電極層は、上述した厚みの範囲のいずれにおいても、バラツキが約±5%に過ぎない。別の実施形態によると、略均一なカウンタ電極層は、上述した厚みの範囲のいずれにおいても、バラツキが約±3%に過ぎない。
【0040】
消色状態においてカウンタ電極層に保有されており(対応して、着色状態においてはエレクトロクロミック層に保有されており)、エレクトロクロミック変化を生じさせることが可能なイオンの量は、層の組成に応じて変わると共に、層の厚みおよび製造方法に応じても変わる。エレクトロクロミック層およびカウンタ電極層は共に、層表面積の平方センチメートル当たりで約数十ミリクーロンの有効電荷を(リチウムイオンおよび電子として)保持することが可能である。エレクトロクロミック膜の電荷容量とは、外部から電圧または電位を印加することによって、当該膜の単位面積および単位厚み当たりで可逆的に注入および抽出が可能な電荷の量である。一実施形態によると、WO層は、電荷容量が約30から約150mC/cm/ミクロンの間である。別の実施形態によると、WO層は、電荷容量が約50から約100mC/cm/ミクロンの間である。一実施形態によると、NiWO層は、電荷容量が約75から約200mC/cm/ミクロンの間である。別の実施形態によると、NiWO層は、電荷容量が約100から約150mC/cm/ミクロンの間である。
【0041】
エレクトロクロミック層106とカウンタ電極層110との間には、イオン伝導層108が形成されている。イオン伝導層108は、エレクトロクロミック素子が消色状態と着色状態との間で変化する場合に(電解質の要領で)イオンを輸送する媒体として機能する。イオン伝導層108は、エレクトロクロミック層およびカウンタ電極層用のイオンの伝導率は高いが、電子の伝導率は十分に低く通常動作中に発生する電子移動は無視できる程度であることが好ましい。薄くて且つイオン伝導率が高いイオン伝導層は、高速にイオンを伝導できるので、高性能エレクトロクロミック素子においては高速スイッチングが可能となる。特定の実施形態によると、イオン伝導層108は、無機および/または固体である。イオン伝導層は、欠陥が比較的少なくなるような材料および方法で生成する場合、高性能素子を実現するべく非常に薄くすることができる。さまざまな実施例によると、イオン伝導材料は、イオン伝導率が約10ジーメンス/cmまたはオーム-1cm-1と約10ジーメンス/cmまたはオーム-1cm-1との間にあり、電子抵抗は約1011オーム-cmである。
【0042】
適切なイオン伝導層の例には、ケイ酸塩、酸化シリコン、酸化タングステン、酸化タンタル、酸化ニオビウム、および、ホウ酸塩が含まれる。酸化シリコンは、酸化シリコンアルミニウムを含む。これらの材料は、リチウム等さまざまなドーパントでドープされるとしてもよい。リチウムがドープされた酸化シリコンは、リチウム酸化シリコンアルミニウムを含む。一部の実施形態によると、イオン伝導層は、ケイ酸塩系構造を持つ。他の実施形態では、特にリチウムイオンを輸送するように構成される適切なイオン伝導体としては、これらに限定されないが、ケイ酸リチウム、ケイ酸リチウムアルミニウム、ホウ酸リチウムアルミニウム、フッ化リチウムアルミニウム、ホウ酸リチウム、窒化リチウム、ケイ酸リチウムジルコニウム、ニオブ酸リチウム、ホウケイ酸リチウム、リンケイ酸リチウム、および、このようなリチウム系のセラミック材料、シリカ、または、リチウム酸化シリコンを含む酸化シリコンが挙げられる。しかし、イオン伝導層108は、欠陥を少なく抑えつつ製造することが可能で、カウンタ電極層110からエレクトロクロミック層106へと電子の通過を大きく抑制しつつもイオンを通過させることが可能である限り、どのような材料を用いるとしてよい。
【0043】
特定の実施形態によると、イオン伝導層は、結晶質、ナノ結晶質、または、非晶質である。イオン伝導層は通常、非晶質である。別の実施形態では、イオン伝導層は、ナノ結晶質である。さらに別の実施形態では、イオン伝導層は、結晶質である。
【0044】
一部の実施形態によると、イオン伝導層108には酸化シリコンアルミニウム(SiAlO)が用いられる。具体的な実施形態では、スパッタリングでイオン伝導層を製造する場合に用いられるシリコン/アルミニウムターゲットは、アルミニウム含有率が原子濃度で約6パーセントと約20パーセントの間である。これによって、イオン伝導層内のシリコン対アルミニウムの比が定まる。一部の実施形態によると、酸化シリコンアルミニウムから成るイオン伝導層108は、非晶質である。
【0045】
イオン伝導層108の厚みは、材料に応じて変わるとしてよい。一部の実施形態によると、イオン伝導層108は、厚みが約5nmから100nmの間であり、約10nmから60nmの間であることが好ましい。一部の実施形態によると、イオン伝導層は、厚みが約15nmから40nmの間であるか、または、約25nmから30nmの間である。また、イオン伝導層の厚みは、略均一である。一実施形態によると、略均一なイオン伝導層は、上述した厚みの範囲のいずれにおいても、バラツキが約±10%以下である。別の実施形態によると、略均一なイオン伝導層は、上述した厚みの範囲のいずれにおいても、バラツキが約±5%以下である。別の実施形態によると、略均一なイオン伝導層は、上述した厚みの範囲のいずれにおいても、バラツキが約±3%以下である。
【0046】
エレクトロクロミック層とカウンタ電極層との間に設けられているイオン伝導層を通って輸送されるイオンは、エレクトロクロミック層において色を変化させる(つまり、エレクトロクロミック素子を消色状態から着色状態へと変化させる)。エレクトロクロミック素子の積層体の材料として何を選択するかによってイオンは異なるが、リチウムイオン(Li)および水素イオン(H)(つまり、プロトン)が一例である。上述したように、特定の実施形態では他のイオンを採用するとしてもよい。イオンの例としては、デュートリウムイオン(D)、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)、カルシウムイオン(Ca++)、バリウムイオン(Ba++)、ストロンチウムイオン(Sr++)、および、マグネシウムイオン(Mg++)が挙げられる。
【0047】
先述したように、イオン伝導層108に含まれる欠陥は非常に少なく抑える必要がある。イオン伝導層に欠陥が存在すると、特に問題となるのは、エレクトロクロミック層とカウンタ電極層との間で発生し得る短絡回路である(図4を参照しつつより詳細に後述する)。短絡回路は、互いに反対の極性に荷電された伝導層の間が導通すると、例えば、伝導性の粒子が、荷電されている2つの伝導層のそれぞれと接触すると発生する(「ピンホール」はこれとは逆で、互いに反対の極性に荷電している伝導層の間で短絡回路を発生させない欠陥である)。短絡回路が発生すると、エレクトロクロミック素子が着色状態となる場合に、イオンではなく電子がエレクトロクロミック層とカウンタ電極との間で移動し、短絡が発生した箇所がスポット状に明るくなってしまうことが多い(つまり、ウィンドウのうち複数の箇所が切り替わらず、着色状態よりもはるかに明るいことが多い開回路の着色状態を維持してしまう)。イオン伝導層は、エレクトロクロミック層とカウンタ電極層との間で短絡を発生させない限り薄くすることが好ましい。先述したように、イオン伝導層108内に存在する(または、エレクトロクロミック素子内の他の構成要素に存在する)欠陥を少なくすることでイオン伝導層108を薄くすることが可能となる。電気化学的循環を利用したエレクトロクロミック層とカウンタ電極層との間でのイオンの輸送は、イオン伝導層が薄いほど高速に行われる。一般的に、本明細書で言及する欠陥の基準は、積層体を構成する任意の層(イオン伝導層またはその他の層)、または、積層体全体、または、積層体の任意の一部にも当てはまるとしてよい。欠陥の基準については以下でさらに説明する。
【0048】
エレクトロクロミック素子100には、1以上のその他の層(不図示)が追加されるとしてもよい。例えば、1以上のパッシブ層を追加するとしてよい。エレクトロクロミック素子100には、特定の光学的特性を改善するパッシブ層を設けるとしてもよい。エレクトロクロミック素子100には、耐水性または耐摩擦性を与えるパッシブ層を設けるとしてもよい。例えば、反射防止または保護を目的として酸化物または窒化物の層を伝導層に設ける処理を行うとしてもよい。他にも、エレクトロクロミック素子100を気密封止する機能を持つパッシブ層を設けるとしてもよい。
【0049】
図2は、消色状態にある(または、消色状態に遷移中の)エレクトロクロミック素子の断面を示す概略図である。特定の実施形態によると、エレクトロクロミック素子200は、酸化タングステンのエレクトロクロミック層(EC)206および酸化ニッケル-タングステンのカウンタ電極層(CE)210を備える。酸化タングステンのエレクトロクロミック層206は、形態がナノ結晶または略ナノ結晶である場合がある。一部の実施形態によると、酸化ニッケル-タングステンのカウンタ電極層210は、形態が非晶質または略非晶質である。一部の実施形態によると、酸化ニッケル-タングステンにおけるタングステン対ニッケルの重量パーセント比は、約0.40~0.60である。
【0050】
また、エレクトロクロミック素子200は、基板202、伝導層(CL)204、イオン伝導層(IC)208、および、伝導層(CL)214を備える。一部の実施形態によると、基板202および伝導層204は、TEC-Glass(登録商標)を構成している。上述したように、本明細書で説明するエレクトロクロミック素子は、図2に図示するもののように、建築用ガラスとして有用であることが多い。このため、一部の実施形態によると、基板202は、建築用ガラスとして分類される寸法を持つ。一部の実施形態によると、伝導層214は、酸化インジウムスズ(ITO)である。一部の実施形態によると、イオン伝導層208は、酸化シリコンアルミニウムである。
【0051】
電圧源216は、伝導層204および214と適切な手段(例えば、母線)で接続されることによって、エレクトロクロミック積層体220に電位を印加する。一部の実施形態によると、電圧源は、素子をある光学的状態から別の光学的状態へと遷移させるべく、約2ボルトの電位を印加する。図2に示す電位の極性は、イオン(本例ではリチウムイオン)が主に酸化ニッケル-タングステンのカウンタ電極層210に存在するように決定される。
【0052】
エレクトロクロミック層として酸化タングステンを、カウンタ電極層として酸化ニッケル-タングステンを採用する実施形態では、エレクトロクロミック層の厚みとカウンタ電極層の厚みとの比が、約1.7:1から2.3:1(例えば、約2:1)となるとしてよい。一部の実施形態によると、酸化タングステンのエレクトロクロミック層は、厚みが約200nmから700nmである。別の実施形態によると、酸化タングステンのエレクトロクロミック層は、厚みが約400nmから500nmである。一部の実施形態によると、酸化ニッケル-タングステンのカウンタ電極層は、厚みが約100nmから350nmである。別の実施形態によると、酸化ニッケル-タングステンのカウンタ電極層は、厚みが約200nmから250nmである。さらに別の実施形態によると、酸化ニッケル-タングステンのカウンタ電極層は、厚みが約240nmである。また、一部の実施形態によると、酸化シリコンアルミニウムのイオン伝導層208は、厚みが約10nmから100nmである。別の実施形態によると、酸化シリコンアルミニウムのイオン伝導層は、厚みが約20nmから50nmである。
【0053】
上述したように、エレクトロクロミック物質には、ブラインド電荷が含まれ得る。エレクトロクロミック物質に含まれるブラインド電荷は、製造時に当該材料に存在する電荷(例えば、エレクトロクロミック物質が酸化タングステンの場合には負の電荷)で、反対の極性に荷電したイオンまたはその他の電荷キャリアによって補償されることで無くなる電荷である。例えば、酸化タングステンの場合、ブラインド電荷の大きさは、酸化タングステンのスパッタリング時の過剰酸素濃度に応じて決まる。機能的には、エレクトロクロミック物質を変化させるために用いられるイオンがエレクトロクロミック物質の光学的特性を実質的に変化させることができるようになる前に、ブラインド電荷を補償しなければならない。ブラインド電荷を事前に補償しておかないと、エレクトロクロミック物質に供給されるイオンは、当該エレクトロクロミック物質に不可逆的に取り込まれて当該エレクトロクロミック物質の光学的状態に影響を与えることができなくなる。このため、エレクトロクロミック素子には通常、ブラインド電荷を補償するため、そして、エレクトロクロミック物質を2つの光学的状態の間で可逆的に切り替えることができるイオンを供給するために十分な量のイオンを供給する。イオンの例としては、リチウムイオンまたはプロトンが挙げられる。多くの公知のエレクトロクロミック素子において、電荷は、ブラインド電荷を補償する最初の電気化学サイクルにおいて失われる。
【0054】
一部の実施形態によると、エレクトロクロミック積層体220には、エレクトロクロミック層206にあるブラインド電荷を補償するのに十分な量のリチウムが含まれており、その量の(質量で)約1.5倍から2.5倍を追加して、積層体に含まれる(例えば、最初にカウンタ電極層210に含まれる)ブラインド電荷を補償するのに用いる。つまり、エレクトロクロミック積層体220のエレクトロクロミック層206とカウンタ電極層210との間で可逆的な循環を発生させるために供給されて、ブラインド電荷を補償するために必要な量の約1.5倍から2.5倍の量のリチウムが存在する。一部の実施形態によると、エレクトロクロミック積層体220には、エレクトロクロミック層206に含まれるブラインド電荷を補償するのに十分な量のリチウムがあり、この量の(質量で)約2倍の量がカウンタ電極層210または積層体内の別の構成要素に含まれている。
【0055】
図3は、図2に示したエレクトロクロミック素子200の着色状態時(または、着色状態へ移行中)の断面を示す概略図である。図3において、電圧源216の極性は反転しており、エレクトロクロミック層はさらなるリチウムイオンを受け取るべくさらに負方向に大きい電位が印加されるので、着色状態に移行する。図示されているように、リチウムイオンは、イオン伝導層208を通って酸化タングステンのエレクトロクロミック層206へと輸送される。酸化タングステンのエレクトロクロミック層206は、着色状態を図示している。酸化ニッケル-タングステンのカウンタ電極210もまた、着色状態を図示している。説明したように、酸化ニッケル-タングステンは、リチウムイオンを失うにつれて(リチウムイオンのデインターカレーションが進むにしたがって)徐々に不透明になっていく。この例では、層206および210の両者が着色状態に遷移することは、積層体および基板を透過する光の量を低減する効果について加算的な影響を及ぼすという相乗効果がある。
【0056】
所定の実施形態によると、上述した種類のエレクトロクロミック素子は、信頼性が非常に高く、先行技術に係る対応する素子に比べてはるかに信頼性が高いことが多い。信頼性は、さまざまなメトリックで特徴付けられ得る。幾つかは、ASTM E2141-06(封止複層ガラスに設けられている吸光性エレクトロクロミックコーティングの耐久性を評価するための標準試験方法)に記載されている。具体例を幾つか挙げると、上述した種類の素子は、消色状態のTvisと着色状態のTvisとの比(明所視透過比(PTR)とも呼ぶ)として4よりも大きい値を維持しつつ、識別可能な2つの光学的状態(例えば、消色状態および着色状態)の間で5万回にわたって切り替わることが可能である。このように寿命が長いので、上述した種類のエレクトロクロミック素子は、エレクトロクロミック素子が何十年にもわたって設置されると思われる用途において適切に使用でいる。さらに、本発明の実施形態に係るエレクトロクロミック素子は、消色状態での透過性を失うことなく、そして、非消色状態での色またはその他の特性を劣化させることなく、消色状態および非消色状態の間で切り替えることが可能である。場合によっては、本明細書に記載する実施形態に係るエレクトロクロミック素子の高い信頼性は、積層体のエレクトロクロミック層の厚みおよび/またはカウンタ電極層の厚みが、エレクトロクロミック素子の電気化学的サイクル時に、成膜時のリチオ化後の厚みに比べて、大きく変化しない(例えば、約4%以下)という設計に一部負うところがある。
【0057】
上述したように、本明細書で説明している多くのエレクトロクロミック素子は、欠陥の数が少なくなっている。つまり、対応する先行技術に係る素子に比べて非常に少ない。「欠陥」という用語は、本明細書で用いる場合、エレクトロクロミック素子のうち欠陥のある箇所または領域を意味する。欠陥は、電気的短絡またはピンホールによって発生するとしてよい。また、欠陥は、目に見えるか見えないかで特徴付けられるとしてよい。一般的に、エレクトロクロミック素子で見られる欠陥は、エレクトロクロミック素子のうち欠陥の無い領域を着色するため、または、当該領域の光学的状態を変化させるために十分な電位が印加されても、光学的状態(例えば、色)を変化させない。欠陥は、エレクトロクロミックウィンドウ等の素子において視覚的に認識可能な不具合として明らかになることが多い。このような欠陥を、本明細書では、「可視」欠陥と呼ぶ。他の種類の欠陥は、非常に小さいので、通常使用中に利用者に視覚的に認められることはない(例えば、エレクトロクロミック素子が日中に着色状態になっても、目立つような明るい点にはならない欠陥である)。短絡は、イオン伝導層に形成される局所的な導電経路(例えば、2つのTCO層の間を結ぶ導電経路)である。ピンホールは、エレクトロクロミック素子の1以上の層が欠損しているかまたは損傷しており、エレクトロクロミズムが示されない領域である。ピンホールは、電気的短絡ではない。主に問題となるのは、(1)可視ピンホール、(2)可視短絡、および(3)不可視短絡という3種類の欠陥である。可視短絡は、必ずしもそうではないが、欠陥寸法が少なくとも約3マイクロメートルで、例えば直径が約1cmの領域となるのが通常である。可視短絡では、エレクトロクロミック効果は目に見えて小さくなる。このような領域は、裸眼には可視短絡が可視ピンホールと同様に見えるように、可視短絡を発生させる欠陥を分離することによって、大幅に減らすことができる。可視ピンホールは、欠陥寸法が少なくとも約100マイクロメートルである。
【0058】
電気的短絡は、イオン伝導層に含まれる伝導性の粒子によって形成されるので、カウンタ電極層とエレクトロクロミック層またはいずれか一方と対応付けられているTCOとの間に電子経路が形成される場合がある。また、欠陥は、(エレクトロクロミック積層体が製造される)基板上の粒子によって発生し、このような粒子は層間剥離を引き起こし(「ポップオフ」と呼ばれることもある)、または、層が基板に付着させるのを妨げたりする場合もある。どちらの種類の欠陥についても、図4および図5Aから図5Cを参照しつつ後述する。層間剥離またはポップオフといった欠陥は、TCOまたは対応付けられているECまたはCEが成膜される前に発生すると、短絡を引き起こす可能性がある。このような場合、後から成膜されるTCOまたはEC/CE層は、その下方にあるTCOまたはCE/EC層と直接接触して、直接的な導電経路を形成する。欠陥の原因の例を幾つか以下の表1に記載する。以下の表1は、さまざまな種類の可視欠陥および不可視欠陥を発生させるメカニズムの例を挙げるべく示す。積層体内の欠陥がECウィンドウにどのような影響を与えるかは、その他の要因によっても変化し得る。
【表1】
【0059】
電気的短絡は、不可視のものであっても、イオン伝導層に漏れ電流を発生させる可能性があり、短絡の近傍において電位降下が発生し得る。電位降下は、十分な大きさである場合、エレクトロクロミック素子の短絡の近傍においてエレクトロクロミック変化を抑制してしまう。可視短絡の場合、この欠陥は、(素子が着色状態にある際に)短絡の中心から離れるにしたがって素子が徐々に暗くなっていくように境界部分があいまいな明るい中央領域となってしまう。エレクトロクロミック素子のある領域に多数の電気的短絡(可視または不可視のもの)が集中する場合、当該素子のより大きな領域に影響が及び、切替が出来なくなってしまう。これは、影響が及ぶ領域ではEC層とCE層との間の電位差が、イオン伝導層を通ってイオンを輸送するために必要なしきい値に到達しないためである。本明細書に記載する特定の実施例では、短絡(可視のものも不可視のものも含む)は、十分に制御されており、漏れ電流による上記のような影響は素子のいずれの箇所でも見られない。また、漏れ電流は短絡タイプの欠陥以外の原因によっても発生し得ると理解されたい。このようなほかの原因としては、イオン伝導層における広範囲にわたる漏れ、本明細書に記載するようなロールオフ欠陥等のエッジ欠陥、および、線状欠陥が挙げられる。ここで強調しておきたいのは、エレクトロクロミック素子の内部領域におけるイオン伝導層における点状の電気的短絡によってのみ発生する漏れである。
【0060】
図4は、エレクトロクロミック素子400の断面を示す概略図であり、イオン伝導層内の粒子が当該エレクトロクロミック素子内で局所的欠陥を発生させている様子を示す図である。エレクトロクロミック素子400は、図2に図示したエレクトロクロミック素子200と同一構成要素を備える。しかし、エレクトロクロミック素子400のイオン伝導層208では、伝導性の粒子402またはその他のアーチファクトによって欠陥が発生している。伝導性の粒子402は、エレクトロクロミック層206とカウンタ電極層210との間で短絡を発生させる。この短絡によって、エレクトロクロミック層206とカウンタ電極層210との間ではイオンが流れず、両層の間では局所的に電子が通過し、エレクトロクロミック層206内には透明領域404が、カウンタ電極層210内には透明領域406が形成され、層210および206の残りの部分が着色状態となる。つまり、エレクトロクロミック素子400が着色状態になると、伝導性の粒子402によって、エレクトロクロミック素子のうち領域404および406は着色状態になることができない。欠陥の領域は、一連のスポット状に明るい箇所(星)が、暗い背景(素子の残りの部分は着色状態となる)に対して現れるので、「星座」と呼ばれることもある。人間は、自然と星座に注意が向かうものであり、邪魔または目障りと感じることが多い。
【0061】
図5Aは、エレクトロクロミック素子500の断面を示す概略図であり、エレクトロクロミック積層体の残りを成膜する前の時点において、伝導層204上に粒子502またはその他の破片がある様子を示している。エレクトロクロミック素子500は、エレクトロクロミック素子200と同一構成要素を備える。粒子502によって、エレクトロクロミック積層体220を構成する複数の層が粒子502がある領域において隆起している。これは、図示しているように、粒子502の上方に順に、コンフォーマル性の層206から210が成膜されているためである(本例では層214はまだ成膜されていない)。特定の理論に限定されることを望むものではないが、このような粒子の上方に積層することは、層が本質的に比較的薄いことを考え合わせると、隆起している領域において応力が発生し得ると考えられている。より具体的には、各層の隆起領域の周囲の周りに、欠陥が見られる可能性がある。例えば、格子配列中、または、肉眼で見えるレベルでも、亀裂または空孔が見られる。このような欠陥の影響の一例として、エレクトロクロミック層206とカウンタ電極層210との間で電気的短絡が発生したり、または、層208がイオン伝導性を失ってしまう。このような欠陥は、図5Aでは図示していない。
【0062】
図5Bを参照すると、粒子502によって発生し得る欠陥の別の影響として、「ポップオフ」と呼ばれるものを図示している。この例では、伝導層214を成膜する前に、伝導層204の上方にある粒子502の領域に対応する部分が離れてしまい、エレクトロクロミック層206、イオン伝導層208、および、カウンタ電極層210のそれぞれの一部分も共に離れてしまう。「ポップオフ」は、部分504であり、粒子502と、エレクトロクロミック層206、イオン伝導層208およびカウンタ電極層210の一部分とを含む。この結果、伝導層204の一部の領域が露出する。図5Cを参照すると、ポップオフ後に伝導層214が成膜されると、伝導層214が伝導層204と接触する箇所において電気的短絡が発生する。このような電気的短絡は、エレクトロクロミック素子500が着色状態になっても当該素子内に透明領域が残る原因となる。これは、図4を参照して上述した短絡が発生させる欠陥と同様に見える。
【0063】
基板202または204(上記参照)上、イオン伝導層208上、および、カウンタ電極層210上の粒子または破片によってポップオフという欠陥が発生すると、エレクトロクロミック素子が着色状態となる場合にピンホール欠陥が発生する。また、粒子502は、十分に大きくてポップオフを発生させない場合、エレクトロクロミック素子500が消色状態になる場合に目に見える可能性がある。
【0064】
本発明の実施形態に係るエレクトロクロミック素子はさらに、建築用ガラスよりも小さい、または、大きい基板に合わせて大きさを調整可能である。エレクトロクロミック積層体は、多岐にわたるサイズの基板上に成膜することが可能で、最大で約12インチ×12インチ、または、80インチ×120インチの大きさにも対応可能である。20インチ×20インチのエレクトロクロミック素子を製造可能であるため、多くの用途を持つエレクトロクロミックな建築用ガラスを製造することが可能となる。
【0065】
目立つ明るい点または星座とならないような非常に小さい欠陥であっても、性能に深刻な問題を引き起こし得る。例えば、小さい短絡は、特に比較的小さい領域内で複数存在する場合、比較的大きな漏れ電流を発生させる可能性がある。この結果、局所的に大きな電位降下が発生し、エレクトロクロミック素子は漏れ電流の近傍において切替が出来なくなる場合がある。このため、小さい欠陥が存在する場合、エレクトロクロミック素子の寸法の可変性が制限され、建築用ガラスへの設置が出来なくなってしまう場合がある。
【0066】
一実施形態によると、可視ピンホール欠陥の数は、1平方センチメートル当たり約0.04以下である。別の実施形態によると、可視ピンホール欠陥の数は、1平方センチメートル当たり約0.02以下であり、より具体的な実施形態によると、可視ピンホール欠陥の数は、1平方センチメートル当たり約0.01以下である。可視短絡タイプの欠陥は通常、製造後に個別に処理して、短絡に関連したピンホールのみを可視欠陥として残す。一実施形態によると、可視の短絡に関連したピンホールの欠陥の数は、1平方センチメートル当たり約0.005以下である。別の実施形態によると、可視の短絡に関連したピンホールの欠陥の数は、1平方センチメートル当たり約0.003以下であり、より具体的な実施形態によると、可視の短絡に関連したピンホールの欠陥の数は、1平方センチメートル当たり約0.001以下である。一実施形態によると、可視の短絡に関連した欠陥を分離することによって形成された短絡に関連したピンホール、ピンホールおよび可視欠陥の合計数は、1平方センチメートル当たり約0.1個未満である。別の実施形態では、1平方センチメートル当たり約0.08個未満である。さらに別の実施形態では、1平方センチメートル当たり約0.045個未満である(1平方メートルの窓につき約450個未満の欠陥となる)。
【0067】
一部の実施形態によると、複数の不可視の電気的短絡の欠陥は、±2Vのバイアスの場合に約5μA/cm未満の漏れ電流を発生させる。これらの値は、エレクトロクロミック素子の全面について当てはまる(つまり、素子には(素子上を含め)、記載した値よりも大きい欠陥密度の領域はない)。
【0068】
一部の実施形態によると、エレクトロクロミック素子には、直径(欠陥の寸法のうち最大の横寸法)が約1.6mmを超える可視欠陥はない。別の実施形態によると、エレクトロクロミック素子には、直径が約0.5mmを超える可視欠陥はない。別の実施形態によると、エレクトロクロミック素子には、直径が約100μmを超える可視欠陥はない。
【0069】
一部の実施形態によると、エレクトロクロミックガラスは、複層ガラス(Insulating Glass Unit(IGU))に組み込まれる。複層ガラス(IGU)は、複数のガラスを組み合わせて1つのユニットを構成しており、当該ユニットを介して明瞭な視認性を提供しつつも、当該ユニットで形成されている空間内に保持されている気体の断熱性を最大限に高めることを目的としたものである。エレクトロクロミックガラスを取り入れた複層ガラスは、エレクトロクロミックガラスを電圧源に接続する導線があることを除き、現在公知の複層ガラスと同様である。エレクトロクロミック型の複層ガラスでは温度がより高くなるので(エレクトロクロミックガラスが放射エネルギーを吸収するため)、従来の複層ガラスで利用されている封止材よりもロバストな封止材が必要となるとしてよい。例えば、ステンレス鋼製のスペーサ棒、高温ポリイソブチレン(PIB)、新たな二次封止材、スペーサ棒シーム用の箔がコーティングされたPIBテープ等がある。
【0070】
<エレクトロクロミックウィンドウの製造方法>
エレクトロクロミック積層体の成膜
上記概要の部分で説明したように、本発明の一側面は、エレクトロクロミックウィンドウの製造方法である。広義では、当該製造方法は、基板上に、(i)エレクトロクロミック層、(ii)イオン伝導層、(iii)カウンタ電極層を順次成膜して、イオン伝導層によってエレクトロクロミック層およびカウンタ電極層が互いに分離している積層体を形成することを含む。このように順次成膜していく処理では、制御された周囲環境を備えた単一の総合成膜システムを利用する。制御された周囲環境内では、総合成膜システムの外部の外部環境とは独立して、圧力、温度、および/または、気体組成が制御されている。基板は、エレクトロクロミック層、イオン伝導層、および、カウンタ電極層が順次成膜されている間はいずれの時点においても総合成膜システムから取り出されることはない。(制御された周囲環境を保持する総合成膜システムの例については、図8Aから図8Eを参照しつつより詳細に後述する。)気体組成は、制御された周囲環境におけるさまざまな成分の分圧によって特徴付けられるとしてよい。制御された周囲環境は、粒子数または粒子密度によって特徴付けられるとしてもよい。特定の実施形態によると、制御された周囲環境は、m当たりに含まれている(サイズが0.1マイクロメートル以上の)粒子が350個未満である。特定の実施形態によると、制御された周囲環境は、クラス100のクリーンルーム(米国連邦規格、1992年(US FED STD 209E))の要件を満たしている。特定の実施形態によると、制御された周囲環境は、クラス10のクリーンルーム(米国連邦規格、1992年(US FED STD 209E))の要件を満たしている。基板は、クラス100またはクラス10の要件を満たすクリーンルーム内の制御された周囲環境に出し入れされるとしてよい。
【0071】
この製造方法は通常、必ずしもそうではないが、基板として建築用ガラスを利用したエレクトロクロミックウィンドウを製造する多段階プロセスに組み込まれる。便宜上、以下に記載する説明は、エレクトロクロミックウィンドウを製造する多段階プロセスを念頭において当該製造方法およびそのさまざまな実施形態を説明するが、本発明に係る製造方法はこれに限定されない。エレクトロクロミックミラーおよびその他の素子は、本明細書に記載する処理および方法のうち一部または全てを用いて製造され得る。
【0072】
図6Aは、図7Aを参照しつつ説明するような多段階プロセスに応じた、エレクトロクロミックウィンドウ装置600を示す断面図である。図7Aは、エレクトロクロミック素子600を組み込んだエレクトロクロミックウィンドウを製造する方法700を説明するフローチャートである。図6Bは、素子600を示す上面図であり、素子に切り込まれたトレンチの位置を示している。このため、図6Aから図6Bおよび図7Aはまとめて説明する。以下の説明では、一側面として素子600を備えるエレクトロクロミックウィンドウを説明し、別の側面として素子600を備えるエレクトロクロミックウィンドウを製造する方法700を説明する。以下での説明では、図7Bから図7Eも参照する。図7Bから図7Dは、素子600の一部を成すエレクトロクロミック積層体を製造する具体的な方法を説明している。図7Eは、例えば、素子600を製造するために用いられる調整プロセスを説明するフローチャートである。
【0073】
図6Aは、任意で拡散バリア610がコーティングされ、拡散バリア上には第1の透明伝導性酸化物(TCO)615がコーティングされているガラス605から成る基板を用いて製造されるエレクトロクロミック素子600の具体例を示す。ガラス605は、任意で拡散バリア610がコーティングされ、拡散バリア上には第1の透明伝導性酸化物(TCO)615がコーティングされている。方法700で利用される基板は、例えば、ナトリウム拡散バリア層および反射防止層が設けられ、その後に、例えば、透明な伝導性の酸化物615である透明伝導層が設けられているフロートガラスである。上述したように、本発明に係る素子に適切な基板は、ピルキントン(Pilkington)社(米国オハイオ州トレド)がTEC Glass(登録商標)の商品名で、そして、ピー・ピー・ジー・インダストリーズ(PPG Industries)社(米国ペンシルバニア州ピッツバーグ)がSUNGATE(登録商標)300およびSUNGATE(登録商標)500の商品名で販売しているガラスが挙げられる。第1のTCO層615は、基板上に製造されるエレクトロクロミック素子600の電極を形成するために用いられる2つの伝導層のうち1つである。
【0074】
方法700は、基板を洗浄して後続の処理のために準備する洗浄プロセス705から開始される。上述したように、基板から汚染物質を除去することは、汚染物質に起因して基板上に製造される素子内に欠陥が生じる可能性があるために、重要である。重大な欠陥を1つ挙げると、IC層を通る伝導経路を形成して、素子を短絡させて、エレクトロクロミックウィンドウで視覚的に認識可能な不具合を局所的に発生させる粒子またはその他の汚染物質がある。本発明に係る製造方法に適切な洗浄プロセスおよび装置の一例として、Lisec(登録商標)がある(オーストリア、ザイテンシュテッテン(Seitenstetten)のLISEC Maschinenbau Gmbh社のガラス洗浄装置およびプロセスの商標名)。
【0075】
基板の洗浄には、望ましくない粒子を除去するための機械的摩擦洗浄および超音波洗浄が含まれるとしてよい。上述したように、粒子によって、外観を乱すような傷および局所的な短絡が素子内に発生し得る。
【0076】
基板の洗浄が完了すると、基板上に設けられている第1のTCO層に1本のラインを切り込むべく第1のレーザ切込プロセス710を実行する。一実施形態によると、この結果形成されるトレンチは、TCOおよび拡散バリアの両層を貫通する(しかし、拡散バリア層は実質的に貫通しない場合もある)。図6Aは、この第1のレーザ切込プロセスで形成されるトレンチ620を示している。トレンチは、基板の端縁のうち1つの近傍で、最終的には第1の母線640と接触することになるTCOの一部の領域を分離するべく基板の一辺の全長にわたって基板に切り込まれる。第1の母線640は、エレクトロクロミック(EC)積層体625(上述したように、エレクトロクロミック層、イオン伝導層、および、カウンタ電極層を含む)の上部に成膜される第2のTCO層630に電流を供給するべく用いられる。図6Bは、トレンチ620の位置を概略的に示している(実寸には即していない)。図示した実施形態では、拡散バリアの上の第1のTCO層のうち分離されていない(主要)部分は、最終的には第2の母線645と接触することになる。分離用トレンチ620は、特定の実施形態において、第1の母線を素子に取着する方法が素子の積層体を構成する層を(第1のTCO層のうち分離部分および第1のTCO層のうち主要部分の両方に)載置した後に、素子の積層体を構成する層を貫通するように第1の母線を押圧するために必要になるとしてよい。当業者であれば、エレクトロクロミック素子において本例ではTCO層である電極に電流を供給するためにその他の構成を採用することも可能であると認めるであろう。第1のレーザ切込プロセスによって分離されたTCO領域は通常、基板の端縁のうちの1つに沿った領域であり、母線と共に、複層ガラス(IGU)および/または窓枠、フレーム、または、カーテンウォールに組み込まれると最終的には隠れる領域である。第1のレーザ切込プロセスで利用されるレーザは通常、必ずしもそうではないが、パルス状レーザであり、例えば、ダイオード励起固体レーザである。例えば、レーザ切込プロセスは、IPGフォトニクス社(IPG Photonics)(米国、マサチューセッツ州、オックスフォード)またはエクスプラ(Ekspla)社(リトアニア、ヴィリニュス)製の適切なレーザを用いて実行することができる。
【0077】
レーザによるトレンチの形成は、基板の一辺に沿って、一端から他端までを彫り、第1のTCO層のうち一部を分離することで行なわれる。第1のレーザ切込プロセス710で得られるトレンチ620の深さおよび幅の寸法としては、素子がその後成膜されると第1のTCO層がバルクTCOから分離されるのに十分な寸法とすべきである。トレンチの深さおよび幅は、残存している粒子がトレンチを通って短絡しないようにするために十分な寸法とすべきである。一実施形態によると、トレンチは、深さが約300nmから500nmであり、幅が約20μmから50μmである。別の実施形態によると、トレンチは、深さが約350nmから450nmであり、幅が約30μmから45μmである。別の実施形態によると、トレンチは、深さが約400nmであり、幅が約40μmである。
【0078】
第1のレーザ切込プロセス710の後、基板を再度洗浄する(処理715)。この際の基板の洗浄は通常、上述した洗浄方法を用いて行われるが、必ずしもそうではない。この2回目の洗浄プロセスは、第1のレーザ切込処理で発生した破片を除去するために行われる。洗浄処理715が完了すると、基板にEC積層体625を成膜する準備が整う。この処理は、フローチャート700において、プロセス720として示している。上述したように、当該製造方法は、制御された周囲環境を備える単一の総合成膜システムを用いて、基板上に、(i)EC層、(ii)IC層、および、(iii)CE層を順次成膜して、IC層がEC層とCE層とを互いから分離している積層体を形成することを含む。制御された周囲環境では、総合成膜システムの外部にある外部環境とは独立して、圧力および/または気体組成が制御されており、基板は、EC層、IC層、および、CE層を順次成膜している間はいずれの時点において総合成膜システムから取り出されることはない。一実施形態によると、順次成膜される各層は物理気相成長法で成膜される。一般的に、エレクトロクロミック素子を構成する層は、数例を挙げると物理気相成長法、化学気相成長法、プラズマ強化化学気相成長法、および、原子層堆積法等のさまざまな方法を用いて成膜するとしてよい。「物理気相成長法」という用語は、本明細書で用いられる場合、スパッタリング、蒸着、アブレーション等を含む、関連技術分野でPVDと理解されている技術を全て含むものとする。図7Bは、プロセス720の一実施形態を示す。最初に、基板上にプロセス722でEC層を成膜して、プロセス724でIC層を成膜して、プロセス726でCE層を成膜する。本発明の別の一実施形態では、成膜順序逆にする。つまり、CE層を最初に成膜して、続いてIC層を成膜して、最後にEC層を成膜する。一実施形態によると、エレクトロクロミック層、イオン伝導層、および、カウンタ電極層のそれぞれは、固体相の層である。別の実施形態によると、エレクトロクロミック層、イオン伝導層、および、カウンタ電極層のそれぞれは、無機材料のみを含む。
【0079】
一のカウンタ電極層、一のイオン伝導層、および、一のエレクトロクロミック層に関連付けて特定の実施形態を説明しているが、これらの層のうち任意の1以上の層は、1以上の副層から構成されているとしてよく、これらの副層はそれぞれ組成、寸法、形態、電荷密度、光学的特性等が異なるとしてもよいものと理解されたい。また、素子を構成する層のうち任意の一以上の層は、組成または形態が徐々に変化したグレーデッド構成になっているとしてもよい。つまり、組成または形態が層の厚みの少なくとも一部分にわたって変化しているとしてもよい。一例を挙げると、ドーパントまたは電荷キャリアの濃度は、所与の層の内部で、少なくとも当該層の製造時に、変化する。別の例では、層の形態が、結晶質から非晶質へと変化する。このようなグレーデッド構成の組成または形態は、素子の機能的特性に影響を与えるために選択されるとしてよい。積層体にはさらに別の層を追加する場合もあるとしてよい。一例によると、熱拡散層をTCO層のうち一方または両方と、EC積層体との間に設ける。
【0080】
また、上述したように、本発明に係るエレクトロクロミック素子は、エレクトロクロミック層とカウンタ電極層との間でのイオン伝導層を通るイオンの移動を利用している。一部の実施形態によると、これらのイオン(または、中性であるその前躯体)は、1以上の層として積層体に導入され(図7Cおよび図7Dを参照しつつより詳細に後述する)、最終的に積層体内にインターカレーションする。一部の実施形態によると、これらのイオンは、エレクトロクロミック層、イオン伝導層、および、カウンタ電極層のうち1以上と同時に積層体内に導入される。一実施形態によると、リチウムイオンが利用される場合、例えば、積層体を構成する層のうち1以上の層を形成するべく利用される材料と共にリチウムをスパッタリングするか、または、リチウムを含む材料の一部としてリチウムをスパッタリングする(例えば、酸化リチウムニッケルタングステンを利用する方法を用いる)。一実施形態によると、IC層は、酸化リチウムシリコンアルミニウムのターゲットをスパッタリングすることで成膜される。別の実施形態によると、所望の膜を形成するべく、シリコンアルミニウムと共にリチウムをスパッタリングする。
【0081】
図7Bに示すプロセス722を再度参照すると、一実施形態において、エレクトロクロミック層を成膜することは、WOを成膜することを含む。尚、xは、例えば、3.0未満で少なくとも約2.7である。本実施形態によると、WOは、形態が略ナノ結晶質である。一部の実施形態によると、エレクトロクロミック層は、厚みが約200nmから700nmの間になるように成膜される。一実施形態によると、エレクトロクロミック層を成膜することは、タングステン含有ターゲットを用いてタングステンをスパッタリングすることを含む。このような一実施形態によると、金属タングステンターゲット(または、金属タングステン合金ターゲット)を用いる。(金属タングステンターゲットを利用する)別の実施形態によると、スパッタリングガスは、酸素含有ガス(例えば、酸素分子または酸素原子)を所定量含む不活性ガス(例えば、アルゴンまたはキセノン)である。これは、大型チャンバ内に設けられている成膜チャンバまたは成膜ステーション内に設置されている、制御された周囲環境の一部である。一実施形態によると、気体組成は、酸素含有率が約30%から約100%の間であり、別の実施形態では酸素含有率が約50%から約80%の間であり、さらに別の実施形態によると酸素含有率が約65%から約75%の間である。一実施形態によると、タングステン含有ターゲットは、タングステン含有率が(重量比で)約80%と100%との間であり、別の実施形態ではタングステン含有率が約95%と100%の間であり、さらに別の実施形態ではタングステン含有率が約99%と100%との間である。
一実施形態によると、気体組成は、酸素/アルゴン比が約70%/30%であり、ターゲットは、純度が約99%から100%の間の金属タングステンである。別の実施形態によると、酸化タングステンW(O)セラミックターゲットを、例えば、アルゴンでスパッタリングする。成膜ステーションまたは成膜チャンバ内の圧力は、一実施形態によると、約1mTorrと約75mTorrの間であり、別の実施形態によると約5mTorrと約50mTorrとの間であり、別の実施形態によると約10mTorrと約20mTorrとの間である。一実施形態によると、プロセス722の際の基板温度は、約100℃と約500℃との間であり、別の実施形態によると約100℃と約300℃との間であり、別の実施形態によると約150℃と約250℃との間である。基板温度は、例えば、赤外線熱電対(サーモカップル)(IR t/c))等の熱電対によってインサイチュで測定されるとしてよい。一実施形態によると、ECターゲットをスパッタリングするための電力密度は、約2ワット/cm(印加される電力をターゲットの表面積で除算して得られる)と約50ワット/cmとの間であり、別の実施形態によると約10ワット/cmと約20ワット/cmとの間であり、さらに別の実施形態によると約15ワット/cmと約20ワット/cmとの間である。一部の実施形態によると、スパッタリングを実現するために供給される電力は、直流(DC)電力である。別の実施形態によると、パルス状のDC/AC反応性スパッタリングを利用する。一実施形態によると、パルス状のDC/AC反応性スパッタリングを利用する場合、周波数は約20kHzと約400kHzとの間であり、別の実施形態によると約20kHzと約50kHzとの間であり、さらに別の実施形態によると約40kHzと約50kHzとの間であり、別の実施形態では約40kHzである。上述した条件は、高品質の酸化タングステンエレクトロクロミック層を成膜するべく任意に組み合わせるとしてよい。
【0082】
一実施形態によると、タングステンの成膜速度を正常化することを目的として、複数のターゲットを利用して、不適切なほど高い電力(または、所望の処理条件を得るためのその他の不適切な調整)が成膜速度を高めるべくために必要となる事態を避ける。ターゲットと基板との間の距離もまた重要となり得る。一実施形態によると、ターゲット(カソードまたはソース)と基板表面との間の距離は、約35mmと約150mmとの間であり、別の実施形態では約45mmと約130mmとの間であり、別の実施形態によると約70mmと約100mmとの間である。
【0083】
ターゲットを用いるスパッタリングと関連付けてEC層の成膜を説明しているが、一部の実施形態では他の成膜方法を利用するものと理解されたい。例えば、化学気相成長法、原子層堆積法等を利用するとしてもよい。これらの方法ではそれぞれ、PVDと同様に、当業者には公知であるように、特有の原料を利用する。
【0084】
図7Bを再度参照すると、EC層が成膜されると、処理724においてIC層を成膜する。一実施形態によると、イオン伝導層を成膜することは、酸化タングステン、酸化タンタル、酸化ニオビウム、および、酸化シリコンアルミニウムから成る群から選択される材料を成膜することを含む。別の実施形態によると、イオン伝導層を成膜することは、重量比でアルミニウム含有率が約2%と20%との間であるターゲット(残りはシリコン)を、酸素含有環境でスパッタリングして、酸化シリコンアルミニウム層を生成することを含む。より具体的な実施形態では、ターゲットは、シリコンに対するアルミニウム含有率が約5%と約10%との間であり、別の実施形態ではシリコンに対するアルミニウム含有率が約7%と約9%との間である。一実施形態によると、気体組成は、酸素含有率が約15%と約70%との間であり、別の実施形態では酸素含有率が約20%と約50%との間であり、さらに別の実施形態によると酸素含有率が約25%と約45%との間であり、別の実施形態によると酸素含有率は約35%である。別の実施形態によると、イオン伝導層を成膜することは、厚みが約10nmと100nmの間になるようにイオン伝導層を成膜することを含む。
さらに別の実施形態によると、イオン伝導層を成膜することは、厚みが約20nmと50nmとの間に成るようにイオン伝導層を成膜することを含む。一実施形態によると、ICターゲットをスパッタリングするための電力密度は、約1ワット/cm(印加される電力をターゲットの表面積で除算して得られる)と約20ワット/cmとの間であり、別の実施形態によると約5ワット/cmと約7ワット/cmとの間であり、さらに別の実施形態によると約6ワット/cmと約6.5ワット/cmとの間である。一部の実施形態によると、スパッタリングを実現するために供給される電力は、直流(DC)電力である。別の実施形態によると、パルス状のDC/AC反応性スパッタリングを利用する。一実施形態によると、パルス状のDC/AC反応性スパッタリングを利用する場合、周波数は約20kHzと約400kHzとの間であり、別の実施形態によると約20kHzと約50kHzとの間であり、さらに別の実施形態によると約40kHzと約50kHzとの間であり、別の実施形態では約40kHzである。成膜ステーションまたは成膜チャンバ内の圧力は、一実施形態によると、約5mTorrと約40mTorrの間であり、別の実施形態によると約10mTorrと約30mTorrとの間であり、別の実施形態によると約20mTorrである。一実施形態によると、処理724の際の基板温度は、約20℃と約200℃との間であり、一部の実施形態によると約20℃と約150℃との間であり、さらに別の実施形態によると約25℃と約100℃との間である。上述した条件は、高品質のイオン伝導層を成膜するべく任意に組み合わせるとしてよい。
【0085】
図7Bを再度参照すると、IC層が成膜されると、処理726においてCE層を成膜する。一実施形態によると、カウンタ電極層を成膜することは、酸化ニッケルタングステン(NiWO)、好ましくは非晶質のNiWOの層を成膜することを含む。具体的な実施形態によると、カウンタ電極層を成膜することは、ニッケルに(重量比で)約30%から約70%のタングステンを含むターゲットを、酸素含有環境でスパッタリングして、酸化ニッケルタングステン層を生成することを含む。別の実施形態によると、当該ターゲットは、ニッケル内のタングステンの割合が約40%と約60%との間であり、別の実施形態によると、ニッケル内のタングステンの割合が約45%と約55%との間であり、さらに別の実施形態によるとニッケル内のタングステンの割合が約51%である。一実施形態によると、気体組成は、酸素含有率が約30%と約100%との間であり、別の実施形態によると、酸素含有率が約80%と約100%との間であり、さらに別の実施形態によると酸素含有率が約95%と約100%との間であり、別の実施形態によると酸素含有率が約100%である。一実施形態によると、CEターゲットをスパッタリングするための電力密度は、約2ワット/cm(印加される電力をターゲットの表面積で除算して得られる)と約50ワット/cmとの間であり、別の実施形態によると約5ワット/cmと約20ワット/cmとの間であり、さらに別の実施形態によると約8ワット/cmと約10ワット/cmとの間であり、別の実施形態によると約8ワット/cmである。一部の実施形態によると、スパッタリングを実現するために供給される電力は、直流(DC)電力である。
別の実施形態によると、パルス状のDC/AC反応性スパッタリングを利用する。一実施形態によると、パルス状のDC/AC反応性スパッタリングを利用する場合、周波数は約20kHzと約400kHzとの間であり、別の実施形態によると約20kHzと約50kHzとの間であり、さらに別の実施形態によると約40kHzと約50kHzとの間であり、別の実施形態では約40kHzである。成膜ステーションまたは成膜チャンバ内の圧力は、一実施形態によると、約1mTorrと約50mTorrとの間であり、別の実施形態によると約20mTorrと約40mTorrとの間であり、別の実施形態によると約25mTorrと約35mTorrとの間であり、別の実施形態によると約30mTorrである。酸化ニッケルタングステン(NiWO)セラミックのターゲットは、例えば、アルゴンおよび酸素でスパッタリングされる場合がある。一実施形態によると、NiWOは、Ni含有率(原子濃度)が約15%と約60%との間であり、W含有率が約10%と約40%との間であり、O含有率が約30%と約75%との間である。別の実施形態によると、NiWOは、Ni含有率(原子濃度)が約30%と約45%との間であり、W含有率が約10%と約25%との間であり、O含有率が約35%と約50%との間である。一実施形態によると、NiWOは、Ni含有率(原子濃度)が約42%であり、W含有率が約14%であり、O含有率が約44%である。別の実施形態によると、カウンタ電極層を成膜することは、厚みが約150nmと350nmの間になるようにカウンタ電極層を成膜することを含む。さらに別の実施形態では、厚みが約200nmと約250nmとの間になるように成膜する。上述した条件は、高品質のNiWO層を成膜するべく任意に組み合わせるとしてよい。
【0086】
一実施形態によると、CE層の成膜速度を正常化することを目的として、複数のターゲットを利用して、不適切なほど高い電力(または、所望の処理条件を得るためのその他の不適切な調整)が成膜速度を高めるべくために必要となる事態を避ける。一実施形態によると、CEターゲット(カソードまたはソース)と基板表面との間の距離は、約35mmと約150mmとの間であり、別の実施形態では約45mmと約130mmとの間であり、別の実施形態によると約70mmと約100mmとの間である。
【0087】
図7B図6Aでも示されている)に図示されている成膜処理の順序は最初にEC層、次にIC層、最後にCE層の順であるが、さまざまな実施形態においてこの順序は逆にすることもできると理解されたい。言い換えると、本明細書で積層体を構成する層を「順次」成膜すると言及しているが、上述した「正」の順序と共に、最初にCE層、2番目にIC層、3番目にEC層を成膜する「逆」の順序も含むものとする。正の順序および逆の順序は共に、信頼性および品質の高いエレクトロクロミック素子を製造することができる。また、本明細書に記載したEC層、IC層およびCE層のさまざまな原料を成膜する際の条件を記載したが、これらの条件は記載した原料を成膜する際に限定されないと理解されたい。他の原料を、同一または同様の条件で成膜する場合もあるとしてよい。また、一部の実施形態では、図6Aおよび図6Bならびに図7Aから図7Eを参照しつつ説明したものと同一または同様の成膜材料を製造するべく、スパッタリング以外の成膜条件を採用するとしてもよい。
【0088】
EC層およびCE層がそれぞれ安全に保持可能な電荷量は利用する材料に応じて変わるので、各層の相対的厚みは適宜容量に合うように制御されるとしてよい。一実施形態によると、エレクトロクロミック層は酸化タングステンを含み、カウンタ電極は酸化ニッケルタングステンを含み、エレクトロクロミック層の厚みとカウンタ電極層の厚みとの比は、約1.7:1と2.3:1との間、または、約1.9:1と2.1:1との間である(具体例としては約2:1が挙げられる)。
【0089】
図7Bを再度参照すると、CE層を成膜した後、処理720においてEC積層体が完成する。処理720は、図7Aにおいて「積層体を成膜」と記載しているが、EC積層体と第2のTCO層(第2のTCOを形成するために酸化インジウムスズが用いられる場合には「ITO」とも呼ばれる)とを意味するものと理解されたい。一般的に、本明細書では「積層体」とは、EC-IC-CE層、つまり、「EC積層体」を意味する。図7Bを再度参照すると、一実施形態において、プロセス728ではTCO層を積層体に成膜する。図6Aを参照すると、これは、EC積層体625上に設けられている第2のTCO層630に対応する。プロセス720は、プロセス728が完了すると、終了する。EC積層体上には通常、必要ではないが、キャップ層を成膜する。一部の実施形態によると、キャップ層はIC層と同様に、SiAlOである。一部の実施形態によると、キャップ層は、IC層の成膜条件と同様の条件でスパッタリングにより成膜される。キャップ層の厚みは通常、約30nmから100nmである。一実施形態によると、透明な伝導性酸化物の層は、シート抵抗が約10オーム/平方および30オーム/平方の間となるような条件で成膜される。一実施形態によると、上述したように、第1および第2のTCO層は、エレクトロクロミック素子の効率を最適化するべくシート抵抗が同一である。第1のTCO層の形態は、成膜する積層体を構成する層がよりコンフォーマルな層となるように、平滑であることが理想的である。一実施形態によると、略均一なTCO層は、上述した厚みの範囲のそれぞれにおいて、バラツキが約±10%に過ぎない。別の実施形態によると、略均一なTCO層は、上述した厚みの範囲のそれぞれにおいて、バラツキが約±5%に過ぎない。別の実施形態によると、略均一なTCO層は、上述した厚みの範囲のそれぞれにおいて、バラツキが約±2%に過ぎない。
【0090】
特定の実施形態によると、第2のTCO層630は、以下に列挙する条件のうち一部または全てを採用して成膜される。記載する条件は、酸化スズに酸化インジウムを含むターゲットを、例えば、酸素を含む、または、含まないアルゴンスパッタリングガスでスパッタリングすることによって、薄く欠陥の少ない酸化インジウムスズ層を形成するべく採用されるとしてよい。一実施形態によると、TCO層の厚みは、約5nmと約10,000nmとの間であり、別の実施形態によると約10nmと約1,000nmとの間であり、さらに別の実施形態によると、約10nmと約500nmとの間である。一実施形態によると、処理728の際の基板温度は、約20℃と約300℃との間であり、別の実施形態によると約20℃と約250℃との間であり、別の実施形態によると約80℃と約225℃との間である。一実施形態によると、TCO層の成膜は、不活性ガス、任意で酸素を用いて、Inの含有率が(重量比で)約80%から約99%でSnOの含有率が約1%から約20%であるターゲットをスパッタリングして行なう。より具体的な実施形態では、ターゲットは、Inの含有率が(重量比で)約85%から約97%でSnOの含有率が約3%から約15%である。別の実施形態によると、ターゲットは、Inの含有率が約90%でSnOの含有率が約10%である。
一実施形態によると、気体組成は、酸素含有率が約0.1%と約3%との間であり、別の実施形態によると酸素含有率が約0.5%と約2%との間であり、さらに別の実施形態によると酸素含有率が約1%と約1.5%との間であり、別の実施形態によると酸素含有率は約1.2%である。一実施形態によると、TCOターゲットをスパッタリングするための電力密度は、約0.5ワット/cm(印加される電力をターゲットの表面積で除算して得られる)と約10ワット/cmとの間であり、別の実施形態によると約0.5ワット/cmと約2ワット/cmとの間であり、さらに別の実施形態によると約0.5ワット/cmと約1ワット/cmとの間であり、別の実施形態によると約0.7ワット/cmである。一部の実施形態によると、スパッタリングを実現するために供給される電力は、直流(DC)電力である。別の実施形態によると、パルス状のDC/AC反応性スパッタリングを利用する。一実施形態によると、パルス状のDC/AC反応性スパッタリングを利用する場合、周波数は約20kHzと約400kHzとの間であり、別の実施形態によると約50kHzと約100kHzとの間であり、さらに別の実施形態によると約60kHzと約90kHzとの間であり、別の実施形態では約80kHzである。成膜ステーションまたは成膜チャンバ内の圧力は、一実施形態によると、約1mTorrと約10mTorrとの間であり、別の実施形態によると約2mTorrと約5mTorrとの間であり、別の実施形態によると約3mTorrと約4mTorrとの間であり、別の実施形態によると約3.5mTorrである。一実施形態によると、酸化インジウムスズ層は、In含有率(原子濃度)が約20%と約40%との間であり、Sn含有率が約2.5%と約12.5%との間であり、O含有率が約50%と約70%との間である。別の実施形態によると、In含有率が約25%と約35%との間であり、Sn含有率が約5.5%と約8.5%との間であり、O含有率が約55%と約65%との間である。別の実施形態によると、In含有率が約30%であり、Sn含有率が約8%との間であり、O含有率が約62%との間である。上述した条件は、高品質の酸化インジウムスズ層を成膜するべく任意に組み合わせるとしてよい。
【0091】
上述したように、EC積層体は総合成膜システムで製造され、基板は積層体の製造中はいずれの時点においても総合成膜システムから取り出されることはない。一実施形態によると、第2のTCO層もまた当該総合成膜システムを用いて形成され、基板はEC積層体およびTCO層の成膜中は総合成膜システムから取り出されることはない。一実施形態によると、いずれの層も総合成膜システムで成膜され、成膜中は総合成膜システムから基板を取り出すことはない。つまり、一実施形態によると、基板はガラスシートであって、EC層、IC層およびCE層を有する積層体は、第1のTCO層と第2のTCO層との間に挟持されており、当該ガラス上に製造される。このとき、当該ガラスは、成膜中に総合成膜システムから取り出されることはない。当該実施形態の別の実施例によると、基板は、総合成膜システムに導入される前に拡散バリアが成膜されているガラスである。別の実施例によると、基板はガラスおよび拡散バリアから構成され、EC層、IC層およびCE層を有する積層体が第1のTCO層と第2のTCO層との間に挟持されており、これらの層は全て、ガラス上に成膜されており、成膜中は総合成膜システムからガラスを取り出すことはない。
【0092】
理論に限定されることを望むものではないが、先行技術に係るエレクトロクロミック素子はさまざまな理由から欠陥が多いという問題があったと考えられている。理由の1つとして、許容範囲を超える多数の粒子がIC層に製造時に導入されることが挙げられる。EC層、IC層およびCE層の各層を制御された周囲環境で単一の総合成膜装置を用いて成膜するような配慮はされていなかった。1つのプロセスを挙げると、IC層は、その他の真空集積化プロセスとは別に実行する必要があるゾルゲルプロセスで成膜される。このようなプロセスでは、EC層および/またはCE層が制御された周囲環境で成膜されることによって高品質の層が製造されるとしても、IC層を成膜するためには、制御された周囲環境から基板を取り出す必要がある。この場合は通常、IC層を形成する前に基板がロードロックを通過する(真空等の制御された周囲環境から外部環境へと移動する)。ロードロックを通過すると通常、多数の粒子が基板上に導入されてしまう。このようにIC層の成膜直前に粒子が導入されてしまうと、重要なIC層内で欠陥が形成される可能性が大幅に高まってしまう。このような欠陥が形成されれば、上述したように、スポット状に明るくなったり、または、「星座」が発生してしまう。
【0093】
上述したように、EC層、CE層および/またはIC層を基板上に形成する際にリチウムを供給するとしてよい。このためには、例えば、所与の層のほかの材料(例えば、タングステンおよび酸素)と共にリチウムを同時スパッタリングするとしてよい。以下に説明する特定の実施形態では、別のプロセスでリチウムを供給して、EC層、CE層および/またはIC層に拡散または導入させる。
【0094】
<エレクトロクロミック積層体の直接リチオ化>
一部の実施形態によると、上述したように、リチウムイオンのインターカレーションは、エレクトロクロミック素子の積層体の光学的状態の切替性能を実現する。必要なリチウムはさまざまな手段を用いて積層体内に導入されるものと理解されたい。例えば、リチウムは、上記の層のうち1以上の層に、当該層の原料を成膜するのと同時に供給されるとしてよい(例えば、EC層の形成時に、リチウムおよび酸化タングステンを同時に成膜する)。しかし、図7Bに示すプロセスは、EC層、IC層および/またはCE層にリチウムを供給する1以上の処理によって、中断される場合があるとしてもよい。例えば、リチウムは、他の材料の成膜が実質的にない状態でリチウム元素を供給するリチオ化ステップを1以上別個に行なうことによって導入されるとしてもよい。このようなリチオ化ステップは、EC層、IC層および/またはCE層の成膜後に実行されるとしてよい。これに代えて(または、これに加えて)、1以上のリチオ化ステップは、1つの層を成膜するために実行される複数のステップの間に実行されるとしてもよい。例えば、カウンタ電極層は、最初に限られた量の酸化ニッケルタングステンを成膜した後に、リチウムを直接成膜して、最後に所定量の酸化ニッケルタングステンを追加で成膜することによって形成されるとしてもよい。このような方法は、リチウムとITO(または、伝導層を構成するその他の材料)との間の分離性が良好になるといった利点があり、この結果、接着性が改善されて、望ましくない副反応が抑制されるとしてよい。別個にリチオ化処理を実行する積層体形成プロセスの一例を図7Cに示す。ある場合には、リチオ化処理は、所与の層の成膜が完了する前にリチウムを導入するべく当該層の成膜を一時的に停止している間に実行される。
【0095】
図7Cは、図7Aに示すプロセス720と同様の方法で、基板上に積層体を成膜する処理720aを説明するためのフローチャートである。処理720aは、図7Bを参照しつつ説明するように、EC層を成膜する処理722、IC層を成膜する処理724、および、CE層を成膜する処理726を含む。しかし、処理720aは、リチオ化処理723および727が追加されている点において、720とは異なる。一実施形態によると、リチウムは、総合成膜システムを用いて物理気相成長法で成膜される。尚、基板は、エレクトロクロミック層、イオン伝導層、カウンタ電極層、および、リチウムを順次成膜している間はいずれの時点においても、総合成膜システムから取り出されることはない。
【0096】
特定の実施形態によると、リチウムは、リチウムスパッタリング中の二次電子放出はあまり多くないので、高圧リチウムカソードを用いて成膜する。一部の実施形態によると、スパッタリングを実行するために供給される電力は、直流(DC)電力である。別の実施形態によると、パルス状のDC/AC反応性スパッタリングを利用する。一実施形態によると、パルス状のDC/AC反応性スパッタリングを利用する場合、周波数は約20kHzと約400kHzとの間であり、別の実施形態によると約100kHzと約300kHzとの間であり、さらに別の実施形態によると約200kHzと約250kHzとの間であり、別の実施形態では約220kHzである。リチウムターゲットを用いる。一実施形態によると、ターゲットは、Li含有率が(重量比で)約80%と100%との間であり、別の実施形態によると、Li含有率は約90%と約99%との間であり、別の実施形態によるとLi含有率は約99%である。リチオ化は通常、リチウム元素の反応性が非常に高いので、不活性環境(例えば、アルゴンのみ)で実行される。リチウムターゲットをスパッタリングするための電力密度は、約1ワット/cm(基板の成膜表面積に基づいて決まる)と約10ワット/cmとの間であり、別の実施形態によると約2ワット/cmと約4ワット/cmとの間であり、さらに別の実施形態によると約2.5ワット/cmと約3ワット/cmとの間であり、別の実施形態では約2.7ワット/cmである。一実施形態によると、リチウムスパッタリングを実行する際の圧力は、約1mTorrと約20mTorrとの間であり、別の実施形態によると約5mTorrと約15mTorrとの間であり、別の実施形態によると約10mTorrである。上述した条件は、高品質のリチオ化プロセスによる成膜を実行するべく任意に組み合わせるとしてよい。
【0097】
一実施形態によると、リチウムは、二重リチオ化プロセス720aで示しているように、EC層およびCE層の両層に成膜する。上述したように処理722でEC層を成膜した後、処理723においてEC層上にリチウムをスパッタリングする。この後、処理724においてIC層を成膜した後、処理726においてCE層を成膜する。この後、処理727においてCE層上にリチウムを成膜する。例えば、EC層が、酸化タングステンで形成され、酸化ニッケルタングステンのCE層の厚みの約2倍の厚みを持つ一実施形態によると、積層体に追加されるリチウムの総量は、EC層とCE層との間で約1:3から2:3の比となるように調整される。つまり、積層体に追加されるリチウムの総量のうちEC層には1/3、CE層には約2/3がスパッタリングされる。具体的な実施形態によると、積層体に追加されるリチウムは、EC層とCE層との間の比が約1:2になるように調整される。
【0098】
図示している二重リチオ化方法によると、EC層およびCE層の両層をリチオ化する。理論に限定されることを望むものではないが、EC層およびCE層の両層にリチウムを供給することによって性能および収率が改善すると考えられている。(IC層の一方の側にのみリチオ化を行なう場合に比べて)初期平衡において(製造時の)空乏層にリチウムイオンを注入することによって比較的大きな体積の変化が見られる可能性があるが、これは避けられる。このような体積の変化は、初期状態でリチウムを含まないエレクトロクロミックな酸化タングステンにおいて6%にも上ると報告されているが、積層体を構成する層のひび割れおよび剥離の原因となり得る。このため、本明細書に記載する二重リチオ化プロセスで積層体を製造することによって、エレクトロクロミック層の体積の変化を6%未満とすることによって、改善し得る。特定の実施形態によると、体積の変化は多くとも約4%である。
【0099】
二重リチオ化プロセスの一実施形態によると、上述したように、(例えば、「ブラインド電荷」を補償するべく)EC材料が不可逆的にリチウムと結合するという要件を満たすのに十分な量のリチウムでEC層を処理する。CE層(当該層もまたブラインド電荷を持つ可能性がある)には、可逆的な循環に必要なリチウムが追加される。特定の実施形態によると、ブラインド電荷を補償するのに必要なリチウムは、リチウムを追加しつつEC層の光学密度を監視することによって滴定することができる。これは、EC層は、ブラインド電荷を完全に補償するのに十分な量のリチウムが追加されるまでは色が略変化しないためである。
【0100】
当業者であれば、金属リチウムは自然発火性材料であるので、つまり、水分および酸素に対する反応性が高いので、リチウムが酸素または水分に暴露される可能性がある本明細書に記載するリチオ化方法は、真空雰囲気、不活性雰囲気、またはその両方で実行されるものと認めるであろう。本発明に係る装置および方法で利用する制御された周囲環境は、リチウム成膜に関して柔軟に対応でき、特にリチオ化ステップが複数回行なわれる場合にも対応する。例えば、リチオ化が滴定プロセスで実行される場合、および/または、リチオ化が積層体の積層時の複数のステップ間で実行される場合、リチウムは酸素または水分に暴露されないように保護され得る。
【0101】
特定の実施形態によると、リチオ化は、EC層表面に自由リチウムが相当な厚みで形成されないように抑制するのに十分な速度で実行される。一実施形態によると、EC層のリチオ化において、複数のリチウムターゲットは、リチウムがEC層内に拡散するための時間を与えるのに十分な距離を空けて配置する。任意で、基板(および、EC層)は、リチウムがEC層内により良く拡散するように、約100℃と約150℃との間の温度まで加熱する。加熱処理は、ターゲットを離間配置する処理およびターゲットに対して基板を並進させる処理とは別個に、または、組み合わせて実行するとしてもよい。また、基板はスパッタリング用のリチウムターゲットの前を往復運動させて、基板に対するリチウムの供給速度を遅くして、積層体表面に自由金属リチウムが蓄積させないようにする場合もある。
【0102】
また、リチオ化プロセスは分離プロトコルを実施しつつ実行される場合がある。一例を挙げると、分離プロトコルは、総合成膜システム内の分離バルブを用いて実行される。例えば、基板がリチオ化ステーション内に入ると、分離バルブが閉じられて基板を他のステーションからは切り離し、リチオ化の準備をするべく、例えば、アルゴンを導入するか、または、真空化する。別の実施形態によると、制御された周囲環境を操作することによって分離する。例えば、総合成膜システムのリチオ化ステーション内で圧力を異ならせることによって、制御された周囲環境において流体動態を形成して、リチウム成膜が総合成膜システム内の他のプロセスから十分に分離されるようにする。他の実施形態によると、上記の条件を組み合わせる。例えば、バルブを部分的に閉じて(または、基板の導入口および/または導出口を最小限にするようにリチオ化ステーションを構成するとしてよい)、1以上の流体動態を用いて、隣接するプロセスからリチオ化プロセスをさらに分離する。図7Cを再度参照すると、処理722から727で説明した二重リチオ化プロセスの後、上述したように(処理728において)(第2の)TCO層を成膜する。
【0103】
図7Dは、基板上に積層体を成膜する別の処理720bを説明するためのフローチャートである。当該処理は、図7Aの処理700と同様である。処理720bは、図7Bを参照しつつ説明するように、EC層の成膜(処理722)、IC層の成膜(処理724)、および、CE層の成膜(処理726)を含む。しかし、処理720bは、リチオ化処理727が含まれている点において、処理720とは異なる。本実施形態に係る積層体成膜処理は、必要なリチウムは全て、CE層にリチウムを供給することによって追加され、積層体の製造中および/または製造後にIC層を通って拡散させることでEC層にリチウムをインターカレーションさせる。上述したように、二重リチオ化処理720aと違って、この方法ではIC層の一方の側に素子が必要とするリチウムを全て供給することに起因して体積変化が大きくなることは避けられないが、リチウム供給ステップを1つ減らせるという利点がある。
【0104】
<多段階熱化学調整>
図7Aを再度参照すると、積層体が成膜されると、素子には多段階熱化学調整(MTC)処理(ブロック730を参照のこと)が実行される。MTC処理は通常、エレクトロクロミック積層体の層が全て形成された後でのみ実行される。MTC処理730の一部の実施形態を、図7Eにより詳細に図示する。尚、MTC処理は、例えば、真空を中断することなく、または、積層体を製造するのに用いられた制御された周囲環境の外部に基板を移動させることなく、全工程にわたってエクスサイチュ、つまり、積層体を成膜するために用いられる総合成膜システムの外部で行なうことができるか、または、少なくとも一部をインサイチュ、つまり、成膜システムの内部で実行することができる。特定の実施形態によると、MTC処理の前半部分はインサイチュで実行し、後半部分はエクスサイチュで実行する。特定の実施形態によると、MTC処理の一部は、特定の層を成膜する前、例えば、第2のTCO層を成膜する前に実行する。
【0105】
図7Eを参照すると、特定の実施形態において、素子は最初に、非反応性条件(例えば、不活性ガス)下で熱処理される。ブロック732を参照されたい。具体的な実施形態によると、素子は、約200℃と約350度との間の温度で、約5分と約30分との間の期間にわたって加熱される。特定の実施形態によると、処理732は、低圧または低真空で実行される。理論に限定されることを望むものではないが、不活性ガス下での加熱によって過剰なリチウムがEC層からCE層へと移動するので、CE層にリチウムが供給される(場合によっては、この処理においてCE層の透明性が高まることによって分かる)と考えられている。続いて、素子に、反応性条件下で熱処理を行なう。ブロック734を参照されたい。一部の実施形態によると、この処理では、酸化雰囲気(例えば、約10-50mTorrの圧力で酸素および不活性ガスの雰囲気)内で素子をアニーリングすることを含む。特定の実施形態によると、アニーリングは、非反応性の熱処理(732)よりも高い圧力で実行される。特定の実施形態によると、素子は、約200℃と約350度との間の温度で、約3分と約20分との間の期間にわたって加熱される。理論に限定されることを望むものではないが、酸化アニーリング処理によって、個々のNiWO粒子を封止する(リチウムイオン伝導性が非常に高い)Li2WO4のマトリクスが形成されて、NiWOの伝導率が改善されると考えられている。イオン伝導率が非常に高いマトリクス内に埋め込まれているNiWOによって、光学的変化が高速化される。
【0106】
任意で、酸化アニーリングの後、素子を大気内(エクスサイチュ)で加熱する。一実施形態によると、当該素子を、プロセス736において、約150℃と約500℃との間の温度で約1分と約60分との間の期間にわたって加熱する。別の実施形態によると、約200℃と約400℃との間の温度で約5分と約30分との間の期間にわたって加熱する。MTC処理は、2、3、またはそれ以上の別個且つ相異する処理を含むと理解されたい。本明細書で3つの処理を説明したが、当該処理の例示のみを目的としたものである。また、本明細書に記載した処理条件は建築用ガラスに適切なものであるが、他の用途に合わせて変更する必要がある場合がある。素子を加熱する時間は当該素子のサイズに応じて変わるものである。MTC処理が完了すると、素子はさらなる処理を実施する準備が整ったことになる。
【0107】
上述したように、光学的性能(例えば、反射防止性)、耐久性(物理的な取り扱いに対するもの)、気密性等を改善するためには、さらに層を追加する必要があるとしてよい。このように1以上の層を追加することは、上述した実施形態以外の実施形態に含まれるものとする。
【0108】
<素子を完成させるための製造プロセス>
図7Aを再度参照すると、第2のレーザ切込処理(ブロック740)を実行する。レーザ切込処理740は、積層体の外側端縁の近傍において、基板の長さに沿って、第1のレーザ切込処理に対して垂直な基板の二辺で実行される。図6Bに、レーザ切込処理740によって形成されるトレンチ626の位置を示す。この切込処理は、第1のTCO層のうち分離部分(第1の母線が接続される部分)をさらに分離するべく、そして積層体を構成する層の成膜ロールオフに起因する短絡回路を最小限に抑えることを目的として端縁において(例えば、マスクの近傍で)積層体コーティングを分離するべく、第1のTCO(および、設けられている場合には、拡散バリアも)を貫通して基板まで実行される。一実施形態によると、トレンチは、深さが約25μmと75μmとの間であり、幅が約100μmと300μmとの間である。別の実施形態によると、トレンチは、深さが約35μmと55μmとの間であり、幅が約150μmと250μmとの間である。別の実施形態によると、トレンチは、深さが約50μmであり、幅が約150μmである。
【0109】
続いて、積層体の周囲に沿って、基板の端縁の近傍において、第1のレーザ切込処理とは反対側で且つ第1のレーザ切込処理と平行に、第3のレーザ切込処理745を実行する。この第3のレーザ切込処理は、第2のTCO層およびEC積層体を分離するのに十分な深さであればよく、第1のTCO層を貫通するように実行されない。図6Aを参照すると、レーザ切込処理745によってトレンチ635が形成される。トレンチ635によって、EC積層体および第2のTCOのうち均一且つコンフォーマルな部分を、最外側のエッジ部分から分離する。最外側のエッジ部分では、ロールオフの問題が見られる(例えば、図6Aに示すように、トレンチ635を切り込むことによって、層625および630のうち領域650の近傍の部分が分離されている)ので、第1のTCO層と第2のTCO層との間が、第2の母線が取着される箇所の近傍である領域650において短絡する。トレンチ635は、第2のTCOのうちロールオフ領域を第2の母線から分離させるようにも構成されている。トレンチ635は、図6Bにも図示している。当業者であれば、第2および第3のレーザ切込処理は、深さが異なるものの、1回の処理で実行し得るので、上述したような基板の三辺にわたって連続して行いつつレーザ切り込み深さを変更し得るものと認めるであろう。最初に第1のレーザ切込処理に対して垂直な第1の辺に沿って第1のTCO(および、任意で拡散バリア)を貫通するのに十分な深さで行い、第1のレーザ切込処理とは反対側で且つ平行な辺に沿ってEC積層体の底部まで貫通するのに十分な深さで行い、第1のレーザ切込処理に垂直な第3の辺に沿って最初の深さで行なう。
【0110】
図7Aに図示している処理700を再度参照すると、第3のレーザ切込処理の後、処理750において母線を取着する。図6Aを参照しつつ説明すると、第1の母線640および第2の母線645を取着する。第1の母線は、例えば、超音波ハンダ付けによって、第2のTCO層と接触するように、第2のTCOおよびEC積層体を貫通するように押圧されることが多い。この接続方法では、第1のTCOのうち第1の母線が接触する領域を分離するためのレーザ切込プロセスが必要となる。当業者であれば、他の手段(例えば、スクリーン印刷およびリソグラフィーなどのパターニング方法)でも第1の母線(または、より旧型の母線に代わるもの)と第2のTCO層とを接続することが可能であることを認めるであろう。一実施形態によると、シルクスクリーン印刷法(または、別のパターニング方法)を用いて伝導性インクを印刷した後に熱硬化または当該インクの焼結を行なうことによって、素子の透明伝導層同士の間を導通させる。このような方法を利用する場合には、第1のTCO層の一部分の分離は実行されない。処理700を利用することによって、第1の母線が第2のTCO層630と導通し、第2の母線が第1のTCO層615と電気的に接触しているエレクトロクロミック素子がガラス基板上に形成される。このようにすることで、第1および第2のTCO層は、EC積層体の電極として機能する。
【0111】
図7Aを再度参照すると、母線が接続された後、処理755において当該エレクトロクロミック素子を複層ガラス(IGU)に組み込む。IGUは、ガスケットまたは封止材(例えば、ポリビニルブチラール(PVB)、PIBまたはその他の適切なエラストマーから成るもの)を基板の周縁に沿って載置することによって形成される。通常は、必要ではないが、吸水性のために、組み立て時にIGUフレームまたはスペーサバーに乾燥剤を含める。一実施形態によると、封止材は母線の周囲を取り囲むように設けられ、母線に対する電線は封止材を貫通して延伸する。封止材が載置された後、第2のガラスシートを封止材上に載置して、基板、第2のガラスシートおよび封止材によって画定された空間に不活性ガス、通常はアルゴンを充填する。IGUが完成すると、処理700は終了する。完成したIGUは、例えば、窓枠、フレームまたはカーテンウォールに設置され、エレクトロクロミックウィンドウを操作するためのコントローラおよび電源に接続される。
【0112】
上述した方法に関連付けて説明した処理に加え、1以上の端縁除去処理を追加するとしてもよい。端縁除去は、エレクトロクロミック素子を、例えば、窓に組み込むための製造プロセスの一部である。当該処理により、素子を窓に組み込む前に(図6Aを参照して説明したような)ロールオフを除去する。マスクが設けられていないガラスを利用する場合、IGUフレームの下方に延在することになるコーティングは、IGUへ組み込む前に除去される(長期的な信頼性の確保のために望ましくない)。この端縁除去処理は、上述した実施形態の代替例として、上記の方法に含められるものとする。
【0113】
<総合成膜システム>
上述したように、総合成膜システムを利用して、例えば、建築用ガラス上にエレクトロクロミック素子を製造するとしてよい。上述したように、エレクトロクロミック素子は、IGUを製造するために利用される。IGUは、エレクトロクロミックウィンドウを製造するために利用される。「総合成膜システム」という用語は、光学的に透明および半透明の基板上にエレクトロクロミック素子を製造する装置を意味する。当該装置は、複数のステーションを備え、各ステーションは、エレクトロクロミック素子の特定の構成要素(または、構成要素の一部)を成膜する処理等の特定の単位処理、および、エレクトロクロミック素子またはその一部の洗浄、エッチング、および、温度制御等のうち1つを専門に行なうステーションである。複数のステーションは、エレクトロクロミック素子を製造中の基板がステーション間を移動する際に外部環境に暴露されないよう、完全に統合されている。本発明に係る総合成膜システムは、当該システム内に設けられている制御された周囲環境で処理を行なう。この制御された周囲環境に、複数の処理ステーションが設置されている。完全に統合された総合成膜システムでは、成膜する各層について界面品質をより良く制御することができる。界面品質とは、数ある要因の中でも、層間の接着性、界面領域に汚染物質が無いことを意味する。「制御された周囲環境」という表現は、オープンな大気環境等の外部環境と分離した封止環境またはクリーンルームを意味する。制御された周囲環境では、圧力および気体組成のうち少なくとも一方を、外部環境の条件から独立して制御する。一般的に、必ずしもそうではないが、制御された周囲環境は、圧力が大気圧よりも低く、例えば、少なくとも不完全真空である。制御された周囲環境での条件は、処理中は一定であるとしてもよいし、時間の経過と共に変化するとしてもよい。例えば、エレクトロクロミック素子のある層は、制御された周囲環境において真空状態で成膜されるとしてよく、当該成膜処理の終了時には、この制御された周囲環境はパージガスまたは試薬ガスでお充填し直して、圧力を例えば大気圧まで高めて、他のステーションでの処理に備えた後、次の処理等のために再度真空にするとしてよい。
【0114】
一実施形態によると、当該システムは、複数の成膜ステーションを備える。成膜ステーションは、直列に並べられて、相互に接続され、外部環境に基板を暴露することなく基板をあるステーションから次のステーションに輸送できる。複数の成膜ステーションには、(i)エレクトロクロミック層を成膜するためのターゲットを有している第1の成膜ステーションと、(ii)イオン伝導層を成膜するためのターゲットを有している第2の成膜ステーションと、(iii)カウンタ電極層を成膜するためのターゲットを有している第3の成膜ステーションとが含まれる。当該システムはさらに、基板を複数のステーション間で輸送するためのプログラム命令を有するコントローラを備える。基板の輸送は、基板上に(i)エレクトロクロミック層、(ii)イオン伝導層、および、(iii)カウンタ電極層を順次成膜して、イオン伝導層がエレクトロクロミック層とカウンタ電極層とを互いから分離している積層体を形成するように行なわれる。一実施形態によると、複数の成膜ステーションは、真空状態を中断することなく、ステーション間で基板を輸送することができる。別の実施形態によると、複数の成膜ステーションは、エレクトロクロミック層、イオン伝導層およびカウンタ電極層を建築用ガラス基板上に成膜するように構成されている。別の実施形態によると、総合成膜システムは、複数の成膜ステーションにおいて垂直配向に建築用ガラス基板を保持することが可能な基板保持輸送機構を備える。さらに別の実施形態によると、総合成膜システムは、外部環境と総合成膜システムとの間で基板を輸送するべく1以上のロードロックを備えている。別の実施形態によると、複数の成膜ステーションには、エレクトロクロミック層、イオン伝導層およびカウンタ電極層から成る群から選択される1つの層を成膜する少なくとも2つのステーションが含まれる。
【0115】
一部の実施形態によると、総合成膜システムは、リチウム含有ターゲットを有するリチウム成膜ステーションを1以上備える。一実施形態によると、総合成膜システムは、リチウム成膜ステーションを2以上備える。一実施形態によると、総合成膜システムは、各処理ステーションを互いに処理中は分離するための分離バルブを1以上備える。一実施形態によると、1以上のリチウム成膜ステーションは分離バルブを有する。本明細書では、「分離バルブ」という用語は、あるステーションで実行されている成膜またはその他の処理を、総合成膜システムの他のステーションでの処理から分離するためのデバイスを意味する。一例によると、分離バルブは、総合成膜システムに設けられており、リチウム成膜時に稼動する物理(固体)分離バルブである。実際の物理固体バルブは、リチウム成膜処理を、総合成膜システム内のほかの処理またはステーションから、完全または部分的に分離(または遮断)するように動作するとしてよい。別の実施形態によると、分離バルブは、気体ナイフまたは気体シールドであってよい。例えば、アルゴンまたはその他の不活性ガスの分圧が、リチウム成膜ステーションと他のステーションとの間の領域にわたっており、他のステーションへイオンが流れ込まないように遮断している。別の例によると、分離バルブは、リチウム成膜ステーションと他の処理ステーションとの間にある真空領域であり、リチウムイオンまたは他のステーションからのイオンが真空領域に入ると、隣接した処理を汚染するのではなく、例えば、廃棄物流へと除去されるとしてよい。この構成は、例えば、総合成膜システムのリチオ化ステーション内での圧力を異ならせることによって制御された周囲環境において流体動態を形成することによって実現し、リチウム成膜が総合成膜システムでのほかの処理から十分に分離されるようにする。繰り返しになるが、分離バルブは、リチウム成膜ステーションに限定されるものではない。
【0116】
図8Aは、特定の実施形態に係る総合成膜システム800を示す概略図である。本例では、システム800は、基板を当該システムに導入する導入ロードロック802と、基板を当該システムから導出する導出ロードロック804とを備える。ロードロックは、当該システムの制御された周囲環境を乱すことなく当該システムに対する基板の導入および導出を可能にする。総合成膜システム800は、EC層成膜ステーション、IC層成膜ステーションおよびCE層成膜ステーションを含む複数の成膜ステーションを有するモジュール806を備える。広義では、本発明に係る総合成膜システムは、ロードロックを備える必要はない。例えば、モジュール806だけで総合成膜システムとして機能し得る。例えば、基板をモジュール806に導入して、制御された周囲環境を形成して、システム内のさまざまなステーションで基板を処理するとしてもよい。総合成膜システム内の個々のステーションは、加熱部、冷却部、さまざまなスパッタリングターゲットおよびターゲット移動手段、RF電源および/またはDC電源および電力供給メカニズム、プラズマエッチング等を行うエッチング部、ガス源、真空源、グロー放電源、処理パラメータのモニタおよびセンサ、ロボット、電源等を有するとしてよい。
【0117】
図8Bは、総合成膜システム800の一部(または簡略版)を示す斜視図であり、より詳細に一部切欠図で内部の構成を示す。本例では、システム800は、導入ロードロック802および導出ロードロック804が成膜モジュール806に接続されているモジュラー形式のシステムである。例えば、建築用ガラス基板825を導入するための導入口810が設けられている(ロードロック804には対応する導出口がある)。基板825は、パレット820によって支持されている。パレット820は、トラック815に沿って移動する。本例では、パレット820は、懸架されてトラック815に支持されているが、パレット820は、装置800の底部の近傍に配設されたトラック上に支持されるとしてもよいし、または、装置800の、例えば、上部と底部との中間に配設されたトラック上に支持されるとしてもよい。パレット820は、システム800内を(両向きの矢印で示しているように)前後に並進することができる。例えば、リチウム成膜時に、基板はリチウムターゲット830の前を前後に移動して、所望のリチオ化を実現するべく複数回通過するとしてよい。パレット820および基板825は、略垂直に配向されている。略垂直な配向は、これに限定されるものではないが、例えば、スパッタリングで生じる原子の凝集によって形成され得る粒子状物質が重力に負けてしまう傾向にあり基板825に堆積しないので、欠陥の発生を抑制するのに役立つ場合がある。また、建築用ガラス基板は大きい傾向があるので、総合成膜システムのステーション間を輸送する際に基板を垂直方向に配向すると、厚みの大きい高温のガラスでは垂れが発生するが、その懸念が少ないので薄いガラス基板のコーティングが可能となる。
【0118】
ターゲット830は、本例では円筒状のターゲットであるが、成膜を行う基板表面に対して略平行に、そして、基板表面の前に配向されている(図示の便宜上、その他のスパッタリング手段は図示していない)。成膜時には、基板825がターゲット830を通過するように並進するか、および/または、ターゲット830が基板825の前を移動する。ターゲット830の移動経路は、基板825の経路に沿った並進には限定されない。ターゲット830は、長さ方向の軸に沿って回転するとしてもよいし、基板の経路に沿って(前後に)並進するとしてもよいし、基板の経路に垂直な経路に沿って並進するとしてもよいし、基板825に平行な面内で円状の経路を描いて動くとしてもよい。ターゲット830は、円筒状である必要はなく、平面状ともでき、所望の特性を持つ所望の層を成膜するために必要な任意の形状とすることができる。また、各成膜ステーションには複数のターゲットが配されているとしてもよく、および/または、所望の処理に応じてターゲットはステーション間で移動させるとしてもよい。
【0119】
総合成膜システム800はさらに、当該システム内で制御された周囲環境を形成および維持するためのさまざまな真空ポンプ、気体流入口、圧力センサ等を備える。これらの構成要素は図示されていないが、当業者であれば当然存在するものと認めるであろう。システム800は、例えば、コンピュータシステム等のコントローラで制御されている。図8Bでは、LCDおよびキーボード835として示している。当業者であれば、本発明の実施形態は、1以上のコンピュータシステムに格納されているデータまたは1以上のコンピュータシステムを介して転送されるデータを利用するさまざまな処理を利用するものと認めるであろう。本発明の実施形態は、このような処理を実行するコンピュータおよびマイクロコントローラ等の装置にも関する。このような装置および処理は、本発明に係る方法および当該方法を実行するように設計されている装置に係るエレクトロクロミック材料を成膜するべく利用されるとしてよい。本発明に係る制御装置は、必要な目的を達成するために特別に構築されているとしてよく、または、汎用コンピュータであって、当該コンピュータに格納されているコンピュータプログラムおよび/またはデータ構造によって選択的にアクティブ化または再構成するとしてもよい。本明細書に記載した処理は、任意の特定のコンピュータまたはその他の装置に本質的に関連しているものではない。特に、さまざまな汎用機械は、本明細書の教示内容に応じて書かれたプログラムと共に利用されるとしてよく、または、必要な方法および処理を実行および/または制御するより専門性の高い装置を構築する方が利便性が高い場合もある。
【0120】
上述したように、本発明に係る総合成膜システムが備えるさまざまなステーションは、モジュラー形式であってよいが、接続されれば、当該システム内のさまざまなステーションにおいて基板を処理するための一の制御された周囲環境が形成および維持される一続きのシステムを形成する。図8Cは、総合成膜システム800aを示す図である。システム800aは、システム800と同様であるが、本例では各ステーション、具体的には、EC層ステーション806a、IC層ステーション806b、および、CE層ステーション806cがモジュラー形式である。モジュラー形式とすることは必要ではないが、必要に応じて総合成膜システムを顧客の要望および新規に開発された処理技術に合わせて組立てることができるので、利便性が高い。例えば、図8Dは、2つのリチウム成膜ステーション807aおよび807bを備える総合成膜システム800bを示す図である。システム800bは、例えば、上述したような本発明に係る方法、例えば、図7Cを参照しつつ説明した二重リチオ化方法を実行するための設備を備えている。システム800bはまた、例えば、基板処理時にリチウムステーション807bのみを利用することによって、図7Dを参照して説明した一重リチオ化方法を実行するために利用されるとしてもよい。しかしモジュラー形式であれば、例えば、一重リチオ化が所望されている処理の場合、リチオ化ステーションのうち1つは不要となり、図8Eに図示するシステム800cが利用される。システム800cが備えるのは、リチウム成膜ステーション807の1つのみである。
【0121】
システム800bおよび800cはさらに、EC積層体上にTCO層を成膜するためのTCO層ステーション808を備えている。どんな処理が求められるかに応じて総合成膜システムには別のステーションを追加することができ、例えば、洗浄プロセス、レーザ切込処理、キャッピング層処理、MTC処理等のためのステーションを追加するとしてよい。
【0122】
理解していただけるように詳細に本発明を上述したが、記載した実施形態は一例に過ぎず本発明を限定するものではないと考えられたい。請求項に記載した範囲内で変更および変形し得ることは当業者には明らかである。
[項目1]
エレクトロクロミックウィンドウであって、
(a)建築用ガラス基板と、
(b)前記建築用ガラス基板上に設けられている積層体とを備え、
前記積層体は、(i)酸化タングステンのエレクトロクロミック層、(ii)固体且つ無機材料のリチウムイオン伝導層、(iii)酸化ニッケルタングステンのカウンタ電極層を有し、
前記イオン伝導層は、前記エレクトロクロミック層および前記カウンタ電極層を分離しており、
前記エレクトロクロミックウィンドウは、エレクトロクロミック活性領域のいずれの部分においても、1平方センチメートルにつき可視欠陥の総数が約0.045個未満であるエレクトロクロミックウィンドウ。
[項目2]
前記エレクトロクロミック層は、WOxを含み、xは3.0未満で少なくとも2.7である項目1に記載のエレクトロクロミックウィンドウ。
[項目3]
前記酸化タングステンは、形態が略ナノ結晶性である項目1に記載のエレクトロクロミックウィンドウ。
[項目4]
前記エレクトロクロミック層は、厚みが約200nmと約700nmとの間である項目1に記載のエレクトロクロミックウィンドウ。
[項目5]
前記エレクトロクロミック層および前記カウンタ電極層はそれぞれ、リチウムイオンを含む項目1に記載のエレクトロクロミックウィンドウ。
[項目6]
前記イオン伝導層は、酸化シリコンアルミニウムを含む項目1に記載のエレクトロクロミックウィンドウ。
[項目7]
前記イオン伝導層は、厚みが約10nmと約100nmとの間である項目1に記載のエレクトロクロミックウィンドウ。
[項目8]
前記カウンタ電極層は、厚みが約150nmと約350nmとの間である項目1に記載のエレクトロクロミックウィンドウ。
[項目9]
前記エレクトロクロミック層の厚みと前記カウンタ電極層の厚みとの比は、約1.7:1と2.3:1との間である項目1に記載のエレクトロクロミックウィンドウ。
[項目10]
前記エレクトロクロミック層と電気的に接触している第1の透明伝導性酸化物層と、前記カウンタ電極層と電気的に接触している第2の透明伝導性酸化物層とをさらに備える項目1に記載のエレクトロクロミックウィンドウ。
[項目11]
前記第1の透明伝導性酸化物層および前記第2の透明伝導性酸化物層はそれぞれ、シート抵抗が約5オーム/平方と約30オーム/平方との間である項目10に記載のエレクトロクロミックウィンドウ。
[項目12]
前記積層体は、2つの透明伝導性酸化物層を有しており、一方の透明伝導性酸化物層は前記エレクトロクロミック層と電子的に接触しており、他方の透明伝導性酸化物層は前記カウンタ電極層と電子的に接触しており、前記2つの透明伝導性酸化物層は、シート抵抗が略同一である項目10に記載のエレクトロクロミックウィンドウ。
[項目13]
前記建築用ガラス基板は、幅が少なくとも約20インチである項目1に記載のエレクトロクロミックウィンドウ。
[項目14]
1平方センチメートルにつき可視ピンホール欠陥の数が約0.04個未満である項目1に記載のエレクトロクロミックウィンドウ。
[項目15]
1平方センチメートルにつき可視の短絡タイプの欠陥の数が約0.005個未満である項目1に記載のエレクトロクロミックウィンドウ。
[項目16]
前記エレクトロクロミックウィンドウにおいて±2Vのバイアスで漏れ電流が約5μA/cm2未満となるような数の不可視の短絡タイプの欠陥が発生する項目1に記載のエレクトロクロミックウィンドウ。
[項目17]
(a)建築用ガラス基板と、
(b)前記建築用ガラス基板上に設けられている積層体とを備え、
前記積層体は、(i)酸化タングステンのエレクトロクロミック層、(ii)固体且つ無機材料のリチウムイオン伝導層、および、(iii)略非晶質の酸化ニッケルタングステンのカウンタ電極層を有し、
前記イオン伝導層は、前記エレクトロクロミック層および前記カウンタ電極層を分離しているエレクトロクロミックウィンドウ。
[項目18]
前記固体および無機材料のリチウムイオン伝導層は、酸化シリコンアルミニウムを含む項目17に記載のエレクトロクロミックウィンドウ。
[項目19]
エレクトロクロミック活性領域の1平方センチメートルにつき可視欠陥の総数は約0.2個未満である項目17に記載のエレクトロクロミックウィンドウ。
[項目20]
前記カウンタ電極層が含む略非晶質酸化ニッケルタングステンは、タングステンとニッケルとの間の原子比率が約0.15から0.35の間である項目17に記載のエレクトロクロミックウィンドウ。
[項目21]
前記カウンタ電極層は、厚みが約150nmと約350nmとの間である項目17に記載のエレクトロクロミックウィンドウ。
[項目22]
前記エレクトロクロミック層の厚みと前記カウンタ電極層の厚みとの比は、約1.7:1と2.3:1との間である項目17に記載のエレクトロクロミックウィンドウ。
[項目23]
前記エレクトロクロミック層は、WOxを含み、xは3.0未満で少なくとも2.7である項目17に記載のエレクトロクロミックウィンドウ。
[項目24]
前記WOxは、形態が略ナノ結晶性である項目23に記載のエレクトロクロミックウィンドウ。
[項目25]
前記エレクトロクロミック層は、厚みが約200nmと約700nmとの間である項目17に記載のエレクトロクロミックウィンドウ。
[項目26]
前記イオン伝導層は、シリコンとアルミニウムとの間の原子比率が約5:1から20:1の間である項目17に記載のエレクトロクロミックウィンドウ。
[項目27]
前記イオン伝導層は、厚みが約10nmと約100nmとの間である項目17に記載のエレクトロクロミックウィンドウ。
[項目28]
前記エレクトロクロミック層と導通している第1の透明伝導性酸化物層と、前記カウンタ電極層と導通している第2の透明伝導性酸化物層とをさらに備える項目17に記載のエレクトロクロミックウィンドウ。
[項目29]
前記第1の透明伝導性酸化物層および前記第2の透明伝導性酸化物層はそれぞれ、シート抵抗が約5オーム/平方と約30オーム/平方との間である項目28に記載のエレクトロクロミックウィンドウ。
[項目30]
前記積層体は、2つの透明伝導性酸化物層を有しており、一方の透明伝導性酸化物層は前記エレクトロクロミック層と電子的に接触しており、他方の透明伝導性酸化物層は前記カウンタ電極層と電子的に接触しており、前記2つの透明伝導性酸化物層は、シート抵抗が略同一である項目28に記載のエレクトロクロミックウィンドウ。
[項目31]
前記建築用ガラス基板は、幅が少なくとも約20インチである項目17に記載のエレクトロクロミックウィンドウ。
[項目32]
エレクトロクロミックウィンドウの製造方法であって、
(a)基板上に、(i)固体且つ無機材料のエレクトロクロミック層、(ii)固体且つ無機材料のイオン伝導層、および、(iii)固体且つ無機材料のカウンタ電極層を順次成膜して、前記イオン伝導層が前記エレクトロクロミック層および前記カウンタ電極層を分離している積層体を形成する段階と、
(b)前記積層体が有する1以上の層と反応する成分が略存在しない環境において前記積層体を加熱する処理、および、前記積層体が有する1以上の層と反応する物質を含む環境において前記積層体を加熱する処理を含む多段階熱化学調整処理を実行する段階とを備える製造方法。
[項目33]
多段階熱化学調整処理を実行する段階は、
(i)不活性環境において前記積層体を加熱する段階と、
(ii)制御された酸素含有環境において前記積層体を加熱する段階と、
(iii)大気内で加熱する段階とを有する項目32に記載の製造方法。
[項目34]
順次成膜される前記エレクトロクロミック層、前記イオン伝導層、および、前記カウンタ電極層はそれぞれ、単一の総合成膜システムを用いて成膜され、前記基板は、前記エレクトロクロミック層、前記イオン伝導層、および、前記カウンタ電極層を順次成膜している間はいずれの時点においても前記総合成膜システムから取り出されることはない項目32に記載の製造方法。
[項目35]
前記多段階熱化学調整に含まれる前記処理のうち少なくとも1つは、前記総合成膜システムの外部で実行される項目34に記載の製造方法。
[項目36]
前記基板は、少なくとも約80℃の温度で前記総合成膜システムから取り出された後、大気中で加熱される項目35に記載の製造方法。
[項目37]
基板上にエレクトロクロミック素子を製造する方法であって、
エレクトロクロミック層を成膜する段階(a)と、
前記エレクトロクロミック層をリチオ化する段階(b)と、
イオン伝導層を成膜する段階(c)と、
前記エレクトロクロミックウィンドウの動作時に前記エレクトロクロミック層との間でリチウムイオンを可逆的に交換するカウンタ電極層を成膜する段階(d)と、
前記カウンタ電極層をリチオ化する段階(e)とを備え、
前記段階(a)から前記段階(e)までを実行することによって、前記イオン伝導層が前記エレクトロクロミック層および前記カウンタ電極層を分離する積層体が前記基板上に製造される方法。
[項目38]
前記エレクトロクロミック層をリチオ化する段階は、前記エレクトロクロミック層上に直接リチウムを成膜する段階を有する項目37に記載の方法。
[項目39]
前記カウンタ電極層をリチオ化する段階は、前記カウンタ電極層上に直接リチウムを成膜する段階を有する項目37に記載の方法。
[項目40]
前記段階(d)および前記段階(e)は、前記段階(c)の前に実行され、前記段階(a)および前記段階(b)は前記段階(c)の後に実行される項目37に記載の方法。
[項目41]
前記エレクトロクロミック層は、WOxを含み、xは3.0未満で少なくとも2.7である項目37に記載の方法。
[項目42]
前記WOxは、形態が略ナノ結晶性である項目41に記載の方法。
[項目43]
前記カウンタ電極層は、酸化ニッケルタングステンを含む項目37に記載の方法。
[項目44]
前記段階(d)において前記カウンタ電極層上に成膜されるリチウムの質量換算の量は、前記段階(b)において前記エレクトロクロミック層上に成膜されるリチウムの質量換算の量の約1.5倍と2.5倍との間である項目43に記載の方法。
[項目45]
前記エレクトロクロミック層上に直接リチウムを成膜する場合には、前記エレクトロクロミック層に含まれるブラインド電荷を略全て補償するのに十分な量のリチウムを少なくとも成膜する項目37に記載の方法。
[項目46]
前記段階(b)および前記段階(d)の一方または両方で成膜される前記リチウムは、物理気相成長法で成膜される項目37に記載の方法。
[項目47]
前記(b)段階および前記(d)段階のうち少なくとも一方で物理気相成長法を用いて成膜された前記リチウムは、総合成膜システムにおいて、前記基板の移動経路に沿って、直列的に互いにオフセットされて並べられている2個以上のリチウムターゲットを用いて成膜される項目46に記載の方法。
[項目48]
前記段階(b)および前記段階(d)のうち少なくとも一方で物理気相成長法を用いて成膜された前記リチウムは、前記基板がリチウム成膜ステーション内を前後に移動する間に成膜される項目46に記載の方法。
[項目49]
前記段階(b)および前記段階(d)のうち一方または両方で成膜される前記リチウムは、前記リチウムの成膜が完了する前に、成膜された前記リチウムが前記エレクトロクロミック層または前記カウンタ電極層の内部へ略全てが取り込まれるような十分に遅い速度で成膜される項目37に記載の方法。
[項目50]
前記エレクトロクロミック層および前記カウンタ電極層の厚みは、前記エレクトロクロミック素子の電気化学的サイクルにおいて成膜時のリチオ化後の厚みから約4%を超えて変化することはない項目37に記載の方法。
[項目51]
前記エレクトロクロミック層、前記イオン伝導層、および、前記カウンタ電極層はそれぞれ、固体層である項目37に記載の方法。
[項目52]
前記エレクトロクロミック層、前記イオン伝導層、および、前記カウンタ電極層はそれぞれ、無機材料のみから構成される項目37に記載の方法。
[項目53]
前記エレクトロクロミック層を成膜する段階は、約200nmと約700nmとの間の厚みまで前記エレクトロクロミック層を成膜する段階を有する項目37に記載の方法。
[項目54]
前記イオン伝導層を成膜する段階は、酸化タングステン、酸化タンタル、酸化ニオビウム、および、酸化シリコンアルミニウムから成る群から選択された材料を成膜する段階を有する項目37に記載の方法。
[項目55]
前記イオン伝導層を成膜する段階は、約10nmと約100nmとの間の厚みまで前記イオン伝導層を成膜する段階を有する項目37に記載の方法。
[項目56]
前記カウンタ電極層を成膜する段階は、酸化ニッケルタングステンの層を成膜する段階を有する項目37に記載の方法。
[項目57]
前記酸化ニッケルタングステンの層は、略非晶質である項目56に記載の方法。
[項目58]
前記カウンタ電極層を成膜する段階は、ニッケル中に約10原子濃度と約40原子濃度との間の含有率でタングステンを含有するターゲットを酸素含有環境でスパッタリングして、前記酸化ニッケルタングステンの層を生成する段階を有する項目56に記載の方法。
[項目59]
前記カウンタ電極層を成膜する段階は、厚みが約150nmと約350nmとの間である前記カウンタ電極層を成膜する段階を有する項目37に記載の方法。
[項目60]
前記エレクトロクロミック層は酸化タングステンを含み、前記カウンタ電極層は酸化ニッケルタングステンを含み、前記エレクトロクロミック層の厚みと前記カウンタ電極層の厚みとの比は約1.7:1と2.3:1との間である項目37に記載の方法。
[項目61]
前記積層体上に透明伝導性酸化物層を成膜する段階をさらに備える項目37に記載の方法。
[項目62]
前記基板は、建築用ガラスを含む項目37に記載の方法。
[項目63]
前記基板は、幅が少なくとも約20インチである項目37に記載の方法。
[項目64]
前記エレクトロクロミックウィンドウの1平方センチメートルにつき可視ピンホール欠陥が約0.04個未満となるような条件で実行される項目37に記載の方法。
[項目65]
前記エレクトロクロミックウィンドウの1平方センチメートルにつき可視の短絡タイプの欠陥が約0.005個未満となるような条件で実行される項目37に記載の方法。
[項目66]
前記エレクトロクロミックウィンドウにおいて±2Vのバイアスで漏れ電流が約5μA/cm2未満となるような数の不可視の短絡タイプの欠陥が発生するような条件で実行される項目37に記載の方法。
[項目67]
エレクトロクロミックウィンドウの製造方法であって、
基板上に、(i)酸化タングステンのエレクトロクロミック層、(ii)固体且つ無機材料のリチウムイオン伝導層、および、(iii)略非晶質の酸化ニッケルタングステンのカウンタ電極層を順次成膜して、前記イオン伝導層が前記エレクトロクロミック層および前記カウンタ電極層を分離する積層体を形成する段階を備える製造方法。
[項目68]
順次成膜される前記エレクトロクロミック層、前記イオン伝導層、および、前記カウンタ電極層はそれぞれ、単一の総合成膜システムを用いて成膜され、前記基板は、前記エレクトロクロミック層、前記イオン伝導層、および、前記カウンタ電極層を順次成膜する間のいずれの時点においても、前記総合成膜システムから取り出されることはない項目67に記載の製造方法。
[項目69]
前記略非晶質の酸化ニッケルタングステンのカウンタ電極層を成膜することは、タングステンとニッケルとの間の原子比率が約0.15と0.35との間である酸化ニッケルタングステンを生成することを含む項目67に記載の製造方法。
[項目70]
前記イオン伝導層を成膜することは、シリコンとアルミニウムとの間の原子比率が約5:1と20:1との間である酸化シリコンアルミニウムを生成することを含む項目67に記載の製造方法。
[項目71]
前記エレクトロクロミック層は、WOxを含み、xは3.0未満であり少なくとも2.7である項目67に記載の製造方法。
[項目72]
前記WOxは、形態が略ナノ結晶性である項目71に記載の製造方法。
[項目73]
(i)前記酸化タングステンのエレクトロクロミック層、(ii)前記固体且つ無機材料のリチウムイオン伝導層、および、(iii)前記略非晶質の酸化ニッケルタングステンのカウンタ電極層はそれぞれ、物理気相成長法で成膜される項目67に記載の製造方法。
[項目74]
前記カウンタ電極層を成膜することは、ニッケル中に約10原子濃度と約40原子濃度との間の含有率でタングステンを含有するターゲットを酸素含有環境でスパッタリングして、前記酸化ニッケルタングステンの層を生成することを含む項目72に記載の製造方法。
[項目75]
前記カウンタ電極層を成膜することは、約150nmと約350nmとの間の厚みまで前記カウンタ電極層を成膜することを含む項目67に記載の製造方法。
[項目76]
前記エレクトロクロミック層の厚みと前記カウンタ電極層の厚みとの間の比は、約1.7:1と2.3:1との間である項目67に記載の製造方法。
[項目77]
前記カウンタ電極層を成膜することは、約1mTorrと約50mTorrとの間の圧力で酸化ニッケルタングステンを成膜することを含む項目67に記載の製造方法。
[項目78]
前記積層体上に透明伝導性酸化物層を成膜する段階をさらに備える項目67に記載の製造方法。
[項目79]
前記基板は、建築用ガラスを含む項目67に記載の製造方法。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E