(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】走行データに基づくエンジン動作の開発方法及び開発装置
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20231107BHJP
【FI】
F02D45/00 370
F02D45/00 362
F02D45/00 364A
F02D45/00 368S
(21)【出願番号】P 2022126071
(22)【出願日】2022-08-08
【審査請求日】2022-08-08
(31)【優先権主張番号】202210404735.5
(32)【優先日】2022-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522108459
【氏名又は名称】中汽研汽車検験中心(天津)有限公司
(73)【特許権者】
【識別番号】519320446
【氏名又は名称】中国汽車技術研究中心有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】于 ▲ハン▼正男
(72)【発明者】
【氏名】劉 ▲ユ▼
(72)【発明者】
【氏名】李 菁元
(72)【発明者】
【氏名】徐 航
(72)【発明者】
【氏名】馬 ▲クン▼其
(72)【発明者】
【氏名】梁 永凱
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107451379(CN,A)
【文献】欧州特許出願公開第3444563(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0049061(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0003071(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
G01M 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車速とエンジン回転数とエンジントルクを含む走行データに基づくエンジン動作の開発方法であって、
エンジンのトルクと回転数データを前処理し、エンジンのアイドリングセグメントと動きセグメントを得、アイドリングセグメントと動きセグメントをまとめてセグメントメインライブラリを形成し、アイドリング比率を計算するステップ
(S1)と、
ステップ
(S1)における前記セグメントメインライブラリ中の動きセグメントの平均トルクと平均回転数と平均トルクの正の変化率と平均トルクの負の変化率と平均回転数の正の変化率と平均回転数の負の変化率を含む特徴パラメータを一つ一つ計算し、因子分析法に基づいて各動きセグメントの主成分因子を決定し、ファジィクラスタリング方法を用いて各動きセグメントをクラスタリングし、複数の動きセグメントサブライブラリを形成し、各動きセグメントサブライブラリの特徴パラメータ平均値及び比率を計算するステップ
(S2)と、
ステップ
(S2)で得られた比率に基づいて、各動きセグメントサブライブラリのエンジン動作時間を決定するとともに、その中から動きセグメントをランダムに選択して対応するエンジン動作を構築し、各動きセグメントサブライブラリ中の各エンジン動作の特徴パラメータをそれぞれ計算し、各特徴パラメータの相対偏差がいずれも5%以下のエンジン動作を選択して対応するエンジン動作サブライブラリを形成するステップ
(S3)と、
ステップ
(S3)で形成された各エンジン動作サブライブラリからエンジン動作を抽出し、順次接続してから、ステップ
(S1)におけるアイドリング比率に応じてアイドリングセグメントを添加した後、エンジン動作の単一サイクルサンプルを生成し、エンジン特徴動作点を抽出して元の単一サイクルサンプルを簡略化し、簡略化されたエンジン動作の単一サイクルサンプルを得るステップ
(S4)と、
ステップ
(S4)で得られたエンジン特徴動作点及びアイドリング動作点に対してシリンダ圧力測定を行い、完全サイクルにおける各動作点のシリンダライナ-ピストンリングの接触速度、接触圧力及び最小油膜厚さの変化状況を計算し、摩擦摩耗試験を行って摩耗係数を得、測定結果に基づいてシリンダライナ-ピストンリングの接触速度及び接触圧力と、摩耗係数との間の関係式をフィッティングし、シリンダライナ-ピストンリング摩耗モデルを構築するステップ
(S5)と、
ステップ
(S5)で構築されたシリンダライナ-ピストンリング摩耗モデルにより、ステップ
(S4)で生成されたエンジン動作の単一サイクルサンプルに基づいて計算してエンジン動作の単一サイクルにおける摩耗スペクトルを得、そしてエンジンのライフサイクルにわたるマイレージに基づいて外挿してエンジンのライフサイクルにわたる摩耗スペクトルを生成するステップ
(S6)と、
ステップ
(S6)で取得されたエンジンのライフサイクルにわたる摩耗スペクトルに対して積分計算を行い、エンジンのライフサイクルにわたるシリンダライナ-ピストンリングの摩耗量を得、エンジンの信頼性動作を構築するステップ
(S7)と、を含む、
ことを特徴とする走行データに基づくエンジン動作の開発方法。
【請求項2】
ステップ
(S1)において記載されたエンジンのトルクと回転数データの前処理は、
走行データ中の車速に基づいてエンジンのトルクと回転数データに対してセグメント分割を行い、アイドリングセグメントと動きセグメントが一対一に対応する組み合わせ形態に分割するステップ
(S11)と、
アイドリングセグメントの時間、並びに動きセグメントの車速、加速度、減速度及び時間に基づいて、ステップ
(S11)で得られたアイドリングセグメント及び動きセグメントをクリーニングし、条件に合致しないアイドリングセグメントと動きセグメントを除去するステップ
(S12)と、
ステップ
(S12)で選別した後に得られたエンジンのアイドリングセグメント及び動きセグメントをまとめてセグメントメインライブラリを形成し、アイドリングセグメントの時間占有率を計算し、アイドリングセグメントの時間占有率をアイドリング比率とするステップ
(S13)と、を含む
請求項1に記載の走行データに基づくエンジン動作の開発方法。
【請求項3】
ステップ
(S2)において記載された動きセグメントのクラスタリングは、
ステップ
(S1)における前記セグメントメインライブラリ中の各動きセグメントの特徴パラメータを一つ一つ計算するステップ
(S21)と、
因子分析法に基づいて特徴パラメータに対して次元削減処理を行い、各因子を寄与率の高い順にソートし、累積寄与率が90%以上になるまで因子を順次選択し、選択した因子を主成分因子として定義し、セグメントメインライブラリ中の各動きセグメントの主成分因子数値を計算するステップ
(S22)と、
ステップ
(S22)で算出された各動きセグメントの主成分因子数値に基づいて、ファジィクラスタリングアルゴリズムを用いて、動きセグメントを3~5種類にクラスタリングし、対応する動きセグメントサブライブラリを形成するステップ
(S23)と、
各動きセグメントサブライブラリ中の全てのセグメントの特徴パラメータ平均値を計算し、当該セグメントサブライブラリの特徴パラメータとし、各動きセグメントサブライブラリ中の全ての動きセグメントの総時間を計算し、各動きセグメントサブライブラリの比率を得るステップ
(S24)と、を含む
請求項1に記載の走行データに基づくエンジン動作の開発方法。
【請求項4】
ステップ
(S3)において記載されたエンジン動作サブライブラリの構築は、
ステップ
(S2)で得られた動きセグメントサブライブラリの比率に基づいて各動きセグメントサブライブラリ中のエンジン動作の持続時間を決定し、各動きセグメントサブライブラリから動きセグメントをランダムに選択して順次接続し、対応するエンジン動作を構築するステップ
(S31)と、
各動きセグメントサブライブラリ中の各エンジン動作の特徴パラメータをそれぞれ計算し、各エンジン動作の特徴パラメータと動きセグメントサブライブラリの特徴パラメータとの相対偏差を得、各特徴パラメータの相対偏差値がいずれも5%以下のエンジン動作を選択して対応するエンジン動作サブライブラリを形成するステップ
(S32)と、を含む
請求項1に記載の走行データに基づくエンジン動作の開発方法。
【請求項5】
ステップ
(S4)において記載されたエンジン動作の単一サイクルサンプルの生成は、
ステップ
(S3)で形成されたエンジン動作サブライブラリから、非復元抽出方法により、エンジン動作サブライブラリの順序に従ってエンジン動作を順次ランダムに抽出し、順次接続し、いずれのエンジンサブライブラリにも抽出可能なエンジン動
作が無くなると停止するステップ
(S41)と、
接続後に形成された新しいエンジン動作の総時間を計算することにより、ステップ
(S1)で得られたアイドリング比率に合わせて、アイドリング動作の総時間を計算し、アイドリングセグメントを新しいエンジン動作の各動きセグメントの間に均一に挿入し、エンジン動作の単一サイクルサンプルを生成するステップ
(S42)と、
エンジンの単一サイクルサンプル中のアイドリング動作点を除去した後、動作点に現れる最小回転数と最大回転数を境界とし、確率均等原理に基づいて、回転数を5つの回転数区間に分け、さらに各回転数区間に現れる最小トルクと最大トルクを境界とし、確率均等原理に基づいて、トルクに応じて各回転数区間をさらに5つのエンジン動作区間に分け、最終的に25個のエンジン動作区間に分割するステップ
(S43)と、
25個のエンジン動作区間内の全ての動作点のトルク平均値及び回転数平均値をそれぞれ計算し、丸めた後に各区間のエンジン特徴動作点とし、これに基づいてエンジン動作の単一サイクルサンプルを簡略化するステップ
(S44)と、を含む
請求項1に記載の走行データに基づくエンジン動作の開発方法。
【請求項6】
ステップ
(S5)において記載されたシリンダライナ-ピストンリング摩耗モデルの構築は、
走行データを取得したエンジンに対するエンジンベンチテストにより、ステップ
(S4)で得られたエンジン特徴動作点及びアイドリング動作点に対してそれぞれシリンダ圧力測定を行い、各特徴動作点及びアイドリング動作点の完全サイクルにおけるシリンダライナ-ピストンリングの接触速度、接触圧力及び最小油膜厚さの変化状況を計算するステップ
(S51)と、
各特徴動作点及びアイドリング動作点の境界潤滑状態での平均接触速度及び接触圧力を計算し、これらを境界条件としてシリンダライナ-ピストンリング摩耗試験を行い、各動作点の摩耗係数を取得し、多変量高次線形回帰方法を用いてシリンダライナ-ピストンリングの接触速度及び接触圧力と、摩耗係数との間の関係式をフィッティングし、Archard理論に基づいてシリンダライナ-ピストンリング摩耗モデルを構築するステップ
(S52)と、を含む
請求項1に記載の走行データに基づくエンジン動作の開発方法。
【請求項7】
ステップ
(S6)において記載されたエンジンのライフサイクルにわたる摩耗スペクトルの生成は、
ステップ
(S5)で構築されたシリンダライナ-ピストンリング摩耗モデルにより、各特徴動作点の完全サイクルの境界潤滑での総摩耗量を計算し、エンジンの回転数に基づいて、各特徴動作点の1秒当たりのサイクル回数を計算し、さらに各特徴動作点の摩耗速度を得るステップ
(S61)と、
各特徴動作点の摩耗速度に基づき、ステップ
(S4)で生成されたエンジン動作の単一サイクルサンプルに基づいて、時間に応じて変化するエンジン摩耗量の変化を算出し、エンジンの単一サイクルの摩耗スペクトルを生成するステップ
(S62)と、
エンジンのライフサイクルにわたるマイレージに基づいて外挿してエンジンのライフサイクルにわたる摩耗スペクトルを取得する
ステップ(S63)と、を含む
請求項1に記載の走行データに基づくエンジン動作の開発方法。
【請求項8】
ステップ
(S7)において記載されたエンジン信頼性動作の生成は、
ステップ
(S6)で取得されたエンジンのライフサイクルにわたる摩耗スペクトルに基づいて、エンジンのライフサイクルにわたる摩耗量を計算するステップ
(S71)と、
エンジンの最大トルク点と最大仕事率点に基づいて交番サイクルを構築し、ステップ
(S5)に基づいてエンジンの最大トルク点と最大仕事率点のシリンダ圧力を測定し、境界潤滑状態での接触速度及び接触圧力を計算し、シリンダライナ-ピストンリング摩耗モデルにより、最大トルクと
最大仕事率点の摩耗速度を計算し、さらに交番サイクルの摩耗量を計算する
ステップ(S72)と、
摩耗等価原理に基づいて、エンジンのライフサイクルにわたる摩耗量及び交番サイクルの摩耗量に基づいて、最終的に交番回数を決定することで、エンジン信頼性動作を構築するステップ
(S73)と、を含む
請求項1に記載の走行データに基づくエンジン動作の開発方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載の走行データに基づくエンジン動作の開発方法を用いる走行データに基づくエンジン動作の開発装置であって、
データ前処理モジュールと、動きセグメントクラスタリングモジュールと、エンジン動作サブライブラリ構築モジュールと、エンジン動作の単一サイクルサンプル生成モジュールと、シリンダライナ-ピストンリング摩耗モデル構築モジュールと、ライフサイクルにわたる摩耗スペクトル生成モジュールと、エンジン信頼性動作構築モジュールと、電子機器とを含み、前述したデータ前処理モジュールと、動きセグメントクラスタリングモジュールと、エンジン動作サブライブラリ構築モジュールと、エンジン動作の単一サイクルサンプル生成モジュールと、シリンダライナ-ピストンリング摩耗モデル構築モジュールと、ライフサイクルにわたる摩耗スペクトル生成モジュールと、エンジン信頼性動作構築モジュールとの間は順次信号接続され、
前記データ前処理モジュールは使用者の走行中のエンジンのトルクと回転数データに対して前処理を行い、セグメントメインライブラリを形成し、アイドリング比率を計算するために用いられ、前記動きセグメントクラスタリングモジュールは因子分析法及びファジィクラスタリング法によってセグメントメインライブラリ中の動きセグメントを分類し、動きセグメントサブライブラリを形成し、各動きセグメントサブライブラリの特徴パラメータ平均値及び比率を計算するために用いられ、前記エンジン動作サブライブラリ構築モジュールは動きセグメントサブライブラリからセグメントを選択してエンジン動作を構築し、条件に合致するエンジン動作を選別してエンジン動作サブライブラリを形成するために用いられ、前記エンジン動作の単一サイクルサンプル生成モジュールはエンジンの単一サイクルサンプルを生成し、特徴動作点を抽出することによってエンジンの単一サイクルサンプルを簡略化するために用いられ、前記シリンダライナ-ピストンリング摩耗モデル構築モジュールは異なる特徴動作点の摩耗係数をフィッティングし、シリンダライナ-ピストンリング摩耗モデルを構築するために用いられ、前記ライフサイクルにわたる摩耗スペクトル生成モジュールはエンジンの単一サイクルの摩耗スペクトルを生成し、エンジンのライフサイクルにわたるマイレージに基づいて外挿してエンジンのライフサイクルにわたる摩耗スペクトルを取得するために用いられ、前記エンジン信頼性動作構築モジュールはエンジンのライフサイクルにわたるシリンダライナ-ピストンリングの摩耗量を計算し、摩耗等価原理に基づいて、エンジン信頼性動作を構築するために用いられ、
前述したデータ前処理モジュール、動きセグメントクラスタリングモジュール、エンジン動作サブライブラリ構築モジュール、エンジン動作の単一サイクルサンプル生成モジュール、シリンダライナ-ピストンリング摩耗モデル構築モジュール、ライフサイクルにわたる摩耗スペクトル生成モジュール、及びエンジン信頼性動作構築モジュールはいずれも電子機器に信号接続される
ことを特徴とする走行データに基づくエンジン動作の開発装置。
【請求項10】
前記電子機器はプロセッサとメモリとを含み、メモリはプロセッサに通信接続され、メモリはプロセッサが実行する命令を記憶するために用いられる
請求項9に記載の走行データに基づくエンジン動作の開発装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は交通運輸分野に属し、特に走行データに基づくエンジン動作状況の開発方法及び開発装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンは原動機付車両のコア部品とし、その信頼性が車両全体の信頼性に直接関係している。我が国の自動車保有車両数が増加し、都市交通インフラストラクチャが絶えずに反復して更新されるにつれて、我が国の自動車使用者の実際の運転方式及び移動特徴にも巨大な変化が発生し、そのうち車両速度、加速度、減速度及びアイドリング比率などの重要なパラメータの変化が含まれる。これらのパラメータの変化は車両用エンジンの動作状況の変化を直接引き起こし、最終的に、従来のエンジン信頼性試験規格による動作状況は実際の使用者との関連付けにおいて食い違い、無効になるという問題があるようになり、車両用エンジンの実際の使用信頼性を効果的に評価することができなくなる。したがって、使用者の移動習慣に合致し、エンジンの実際の耐用年数を効果的に評価するために用いることができる信頼性動作状況を実際の走行データに基づいて開発することは現在、車両全体及び部品に関する企業が早急に解決すべき問題となっている。
【発明の概要】
【0003】
これに鑑みて、本発明は走行データに基づくエンジン動作状況の開発方法を提供することを目的とし、使用者が実際に走行する過程におけるエンジンのトルクと回転数データにより、シリンダライナ-ピストンリング摩擦摩耗モデルを構築し、使用者の実際使用に合致するエンジンのライフサイクルにわたる摩耗スペクトルを取得し、摩耗等価原理に従って、最終的にエンジン信頼性動作状況を構築する。
【0004】
上記目的を達成するために、本発明の技術的解決手段は以下のように実現される。
走行データに基づくエンジン動作状況の開発方法であって、
エンジンのトルクと回転数データを前処理し、エンジンのアイドリングセグメントと動きセグメントを得、アイドリングセグメントと動きセグメントをまとめてセグメントメインライブラリを形成し、アイドリング比率を計算するステップS1と、
ステップS1における前記セグメントメインライブラリ中の動きセグメントの特徴パラメータを一つ一つ計算し、因子分析法に基づいて各動きセグメントの主成分因子を決定し、ファジィクラスタリング方法を用いて各動きセグメントをクラスタリングし、複数の動きセグメントサブライブラリを形成し、各動きセグメントサブライブラリの特徴パラメータ平均値及び比率係数を計算するステップS2と、
ステップS2で得られた比率係数に基づいて、各動きセグメントサブライブラリのエンジン動作状況時間を決定するとともに、その中から動きセグメントをランダムに選択して対応するエンジン動作状況を構築し、各動きセグメントサブライブラリ中の各エンジン動作状況の特徴パラメータをそれぞれ計算し、各特徴パラメータの相対偏差がいずれも5%以下のエンジン動作状況を選択して対応するエンジン動作状況サブライブラリを形成するステップS3と、
ステップS3で形成された各エンジン動作状況サブライブラリからエンジン動作状況を抽出し、順次接続してから、ステップS1におけるアイドリング比率に応じてアイドリングセグメントを添加した後、エンジン動作状況の単一循環サンプルを生成し、エンジン特徴動作状況点を抽出して元の単一循環サンプルを簡略化し、簡略化されたエンジン動作状況の単一循環サンプルを得るステップS4と、
ステップS4で得られたエンジン特徴動作点及びアイドリング動作点に対してシリンダ圧力測定を行い、完全な循環における各動作点のシリンダライナ-ピストンリングの接触速度、接触圧力及び最小油膜厚さの変化状況を計算し、摩擦摩耗試験を行って摩耗係数を得、測定結果に基づいてシリンダライナ-ピストンリングの接触速度及び接触圧力と、摩耗係数との間の関係式をフィッティングし、シリンダライナ-ピストンリング摩耗モデルを構築するステップS5と、
ステップS5で構築されたシリンダライナ-ピストンリング摩耗モデルにより、ステップS4で生成されたエンジン動作状況の単一循環サンプルに基づいて計算してエンジン動作状況の単一循環における摩耗スペクトルを得、そしてエンジンのライフサイクルにわたるマイレージに基づいて外挿してエンジンのライフサイクルにわたる摩耗スペクトルを生成するステップS6と、
ステップS6で取得されたエンジンのライフサイクルにわたる摩耗スペクトルに対して積分計算を行い、エンジンのライフサイクルにわたるシリンダライナ-ピストンリングの摩耗量を得、エンジンの信頼性動作状況を構築するステップS7と、を含む。
【0005】
さらに、ステップS1において記載されたエンジンのトルクと回転数データの前処理は、
走行データ中の車速に基づいてエンジンのトルクと回転数データに対してセグメント分割を行い、アイドリングセグメントと動きセグメントが一対一に対応する組み合わせ形態に分割するステップS11と、
アイドリングセグメントの時間、並びに動きセグメントの車速、加速度、減速度及び時間に基づいて、ステップS11で得られたアイドリングセグメント及び動きセグメントをクリーニングし、条件に合致しないアイドリングセグメントと動きセグメントを除去するステップS12と、
ステップS12で選別した後に得られたエンジンのアイドリングセグメント及び動きセグメントをまとめてセグメントメインライブラリを形成し、アイドリングセグメントの時間占有率を計算し、アイドリングセグメントの時間占有率をアイドリング比率とするステップS13と、を含む。
【0006】
さらに、ステップS2において記載された動きセグメントのクラスタリングは、
ステップS1における前記セグメントメインライブラリ中の各動きセグメントの特徴パラメータを一つ一つ計算するステップS21と、
因子分析法に基づいて特徴パラメータに対して次元削減処理を行い、各因子を寄与率の高い順にソートし、累積寄与率が90%以上になるまで因子を順次選択し、選択した因子を主成分因子として定義し、セグメントメインライブラリ中の各動きセグメントの主成分因子数値を計算するステップS22と、
ステップS22で算出された各動きセグメントの主成分因子数値に基づいて、ファジィクラスタリングアルゴリズムを用いて、動きセグメントを3~5種類にクラスタリングし、対応する動きセグメントサブライブラリを形成するステップS23と、
各動きセグメントサブライブラリ中の全てのセグメントの特徴パラメータ平均値を計算し、当該セグメントサブライブラリの特徴パラメータとし、各動きセグメントサブライブラリ中の全ての動きセグメントの総時間を計算し、各動きセグメントサブライブラリの比率係数を得るステップS24と、を含む。
【0007】
さらに、ステップS3において記載されたエンジン動作状況サブライブラリの構築は、
ステップS2で得られた動きセグメントサブライブラリの比率係数に基づいて各動きセグメントサブライブラリ中のエンジン動作状況の持続時間を決定し、各動きセグメントサブライブラリから動きセグメントをランダムに選択して順次接続し、対応するエンジン動作状況を構築するステップS31と、
各動きセグメントサブライブラリ中の各エンジン動作状況の特徴パラメータをそれぞれ計算し、各エンジン動作状況の特徴パラメータと動きセグメントサブライブラリの特徴パラメータとの相対偏差を得、各特徴パラメータの相対偏差値がいずれも5%以下のエンジン動作状況を選択して対応するエンジン動作状況サブライブラリを形成するステップS32と、を含む。
【0008】
さらに、ステップS4において記載されたエンジン動作状況の単一循環サンプルの生成は、
ステップS3で形成されたエンジン動作状況サブライブラリから、非復元抽出方法により、エンジン動作状況サブライブラリの順序に従ってエンジン動作状況を順次ランダムに抽出し、順次接続し、いずれのエンジンサブライブラリにも抽出可能な動作状況が残されないと停止するステップS41と、
接続後に形成された新しいエンジン動作状況の総時間を計算することにより、ステップS1で得られたアイドリング比率に合わせて、アイドリング動作状況の総時間を計算し、アイドリングセグメントを新しいエンジン動作状況の各動きセグメントの間に均一に挿入し、エンジン動作状況の単一循環サンプルを生成するステップS42と、
エンジンの単一循環サンプル中のアイドリング動作点を除去した後、動作点に現れる最小回転数と最大回転数を境界とし、確立均等原理に基づいて、回転数を5つの回転数区間に分け、さらに各回転数区間に現れる最小トルクと最大トルクを境界とし、確立均等原理に基づいて、トルクに応じて各回転数区間をさらに5つのエンジン動作状況区間に分け、最終的に25個のエンジン動作状況区間に分割するステップS43と、
25個のエンジン動作状況区間内の全ての動作点のトルク平均値及び回転数平均値をそれぞれ計算し、丸めた後に各区間のエンジン特徴動作点とし、これに基づいてエンジン動作状況の単一循環サンプルを簡略化するステップS44と、を含む。
【0009】
さらに、ステップS5において記載されたシリンダライナ-ピストンリング摩耗モデルの構築は、
エンジンベンチテストにより、ステップS4で得られたエンジン特徴動作点及びアイドリング動作点に対してそれぞれシリンダ圧力測定を行い、流体力学モデルに合わせて、各特徴動作点及びアイドリング動作点の完全な循環におけるシリンダライナ-ピストンリングの接触速度、接触圧力及び最小油膜厚さの変化状況を計算するステップS51と、
各特徴動作点及びアイドリング動作点の境界潤滑状態での平均接触速度及び接触圧力を計算し、これらを境界条件としてシリンダライナ-ピストンリング摩耗試験を行い、各動作点の摩耗係数を取得し、多変量高次線形回帰方法を用いてシリンダライナ-ピストンリングの接触速度及び接触圧力と、摩耗係数との間の関係式をフィッティングし、Archard理論に基づいてシリンダライナ-ピストンリング摩耗モデルを構築するステップS52と、を含む。
【0010】
さらに、ステップS6において記載されたエンジンのライフサイクルにわたる摩耗スペクトルの生成は、
ステップS5で構築されたシリンダライナ-ピストンリング摩耗モデルにより、各特徴動作点の完全な循環の境界潤滑での総摩耗量を計算し、エンジンの回転数に基づいて、各特徴循環の1秒当たりの循環回数を計算し、さらに各特徴動作点の摩耗速度を得るステップS61と、
各特徴動作点の摩耗速度に基づき、ステップS4で生成されたエンジン動作状況の単一循環サンプルに基づいて、時間に応じて変化するエンジン摩耗量の変化を算出し、エンジンの単一循環の摩耗スペクトルを生成するステップS62と、
エンジンのライフサイクルにわたるマイレージに基づいて外挿してエンジンのライフサイクルにわたる摩耗スペクトルを取得するS63と、を含む。
【0011】
さらに、ステップS7において記載されたエンジン信頼性動作状況の生成は、
ステップS6で取得されたエンジンのライフサイクルにわたる摩耗スペクトルに基づいて、エンジンのライフサイクルにわたる摩耗量を計算するステップS71と、
エンジンの最大トルク点と最大電力点に基づいて交番循環を構築し、ステップS5に基づいてエンジンの最大トルク点と最大電力点のシリンダ圧力を測定し、境界潤滑状態での接触速度及び接触圧力を計算し、シリンダライナ-ピストンリング摩耗モデルにより、最大トルクと最大電力動作点の摩耗速度を計算し、さらに交番循環の摩耗量を計算する前記S72と、
摩耗等価原理に基づいて、エンジンのライフサイクルにわたる摩耗量及び交番循環の摩耗量に基づいて、最終的に交番回数を決定することで、エンジン信頼性動作状況を構築するステップS73と、を含む。
【0012】
従来技術に比べ、本発明に記載の走行データに基づくエンジン動作状況の開発方法は以下の利点を有する。
(1)本発明に記載の走行データに基づくエンジン動作状況の開発方法は、使用者の実際の運転中に収集されたエンジンの回転数とトルクデータを元データとすることで、構築されたエンジン信頼性動作状況は使用者の実際の使用中のエンジン摩耗状況をより好適に反映できる。当該方法は構築されたシリンダライナ-ピストンリング摩耗モデルにより、時間に応じて変化するエンジンのトルクと回転数の動作状況を時間に応じて変化するエンジンの摩耗スペクトルに変換することができ、外挿するとエンジンのライフサイクルにわたる摩耗スペクトルを生成し、エンジンのライフサイクルにわたる摩耗量に対する迅速で正確な計算を実現し、最終的に摩耗等価原理に基づいてエンジン信頼性動作状況を構築する。当該方法は関連企業のエンジン信頼性動作状況の構築のために技術的サポートを提供できる。
【0013】
本発明の他の目的は、エンジン信頼性動作状況の開発問題を解決し、研究開発周期を短縮し、研究開発コストを低減するという目的を達成するように、走行データに基づくエンジン動作状況の開発装置を提供することである。
【0014】
上記目的を達成するために、本発明の技術的解決手段は以下のように実現される。
走行データに基づくエンジン動作状況の開発装置であって、データ前処理モジュールと、動きセグメントクラスタリングモジュールと、エンジン動作状況サブライブラリ構築モジュールと、エンジン動作状況の単一循環サンプル生成モジュールと、シリンダライナ-ピストンリング摩耗モデル構築モジュールと、ライフサイクルにわたる摩耗スペクトル生成モジュールと、エンジン信頼性動作状況構築モジュールと、電子機器とを含み、前述したデータ前処理モジュールと、動きセグメントクラスタリングモジュールと、エンジン動作状況サブライブラリ構築モジュールと、エンジン動作状況の単一循環サンプル生成モジュールと、シリンダライナ-ピストンリング摩耗モデル構築モジュールと、ライフサイクルにわたる摩耗スペクトル生成モジュールと、エンジン信頼性動作状況構築モジュールとの間は順次信号接続され、
前記データ前処理モジュールは使用者の走行中のエンジンのトルクと回転数データに対して前処理を行い、セグメントメインライブラリを形成し、アイドリング比率を計算するために用いられ、前記動きセグメントクラスタリングモジュールは因子分析法及びファジィクラスタリング法によってセグメントメインライブラリ中の動きセグメントを分類し、動きセグメントサブライブラリを形成し、各動きセグメントサブライブラリの特徴パラメータ平均値及び比率係数を計算するために用いられ、前記エンジン動作状況サブライブラリ構築モジュールは動きセグメントサブライブラリからセグメントを選択してエンジン動作状況を構築し、条件に合致するエンジン動作状況を選別してエンジン動作状況サブライブラリを形成するために用いられ、前記エンジン動作状況の単一循環サンプル生成モジュールはエンジンの単一循環サンプルを生成し、特徴動作点を抽出することによってエンジンの単一循環サンプルを簡略化するために用いられ、前記シリンダライナ-ピストンリング摩耗モデル構築モジュールは異なる特徴動作点の摩耗係数をフィッティングし、シリンダライナ-ピストンリング摩耗モデルを構築するために用いられ、前記ライフサイクルにわたる摩耗スペクトル生成モジュールはエンジンの単一循環の摩耗スペクトルを生成し、エンジンのライフサイクルにわたるマイレージに基づいて外挿してエンジンのライフサイクルにわたる摩耗スペクトルを取得するために用いられ、前記エンジン信頼性動作状況構築モジュールはエンジンのライフサイクルにわたるシリンダライナ-ピストンリングの摩耗量を計算し、摩耗等価原理に基づいて、エンジン信頼性動作状況を構築するために用いられ、
前述したデータ前処理モジュール、動きセグメントクラスタリングモジュール、エンジン動作状況サブライブラリ構築モジュール、エンジン動作状況の単一循環サンプル生成モジュール、シリンダライナ-ピストンリング摩耗モデル構築モジュール、ライフサイクルにわたる摩耗スペクトル生成モジュール、及びエンジン信頼性動作状況構築モジュールはいずれも電子機器に信号接続される。
【0015】
さらに、前記電子機器はプロセッサとメモリとを含み、メモリはプロセッサに通信接続され、メモリはプロセッサが実行する命令を記憶するために用いられる。
【0016】
従来技術に比べ、本発明に記載の走行データに基づくエンジン動作状況の開発装置は以下の利点を有する。
(1)本発明に記載の走行データに基づくエンジン動作状況の開発装置は、設計が合理的であり、エンジンのライフサイクルにわたる摩耗量に対する迅速で正確な予測を実現することができ、さらに使用者の運転データに基づくエンジン信頼性動作状況の構築を実現し、関連企業のエンジン信頼性動作状況の開発のために技術的サポートを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施例に記載の主成分因子選択の概略図である。
【
図2】本発明の実施例に記載のエンジン動作状況構築の概略図である。
【
図3】本発明の実施例に記載の新しいエンジン動作状況の生成のフローチャートである。
【
図4】本発明の実施例に記載のエンジン動作状況の単一循環サンプルの概略図である。
【
図5】本発明の実施例に記載の25個のエンジン動作状況区間の分割の概略図である。
【
図6】本発明の実施例に記載の簡略化されたエンジン動作状況の単一循環サンプルの概略図である。
【
図7】本発明の実施例に記載の特徴動作点1のシリンダ圧力の曲線図である。
【
図8】本発明の実施例に記載の完全な循環における接触速度、接触圧力及び最小油膜厚さの変化状況の概略図である。
【
図9】本発明の実施例に記載の境界潤滑状態の概略図である。
【
図10】本発明の実施例に記載のエンジンの単一循環の摩耗スペクトルの概略図である。
【
図11】本発明の実施例に記載のエンジンの交番動作状況の概略図である。
【
図12】本発明の実施例に記載の開発方法及び装置のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一部を構成する図面は本発明へのさらなる理解を提供するために用いられ、本発明の例示的な実施例及びその説明は本発明を解釈するために用いられ、本発明を不適切に限定するものではない。
なお、矛盾しない場合、本発明における実施例及び実施例における特徴は互いに組み合わせることができる。
【0019】
本発明の説明において、用語の「中心」、「縦方向」、「横方向」、「上」、「下」、「前」、「後」、「左」、「右」、「鉛直」、「水平」、「頂部」、「底部」、「内部」、「外部」などに指示される方位又は位置関係は図面に基づいて示される方位又は位置関係であり、本発明を容易に説明し説明を簡略化するためのものにすぎず、示された装置又は素子が特定の方向を有し、特定の方位で構成及び操作されるものではなければならないことを指示又は暗示するものではなく、したがって、本発明を限定するものとして理解され得ないことを理解されたい。また、用語の「第1」、「第2」は説明のみに目的があり、相対的な重要性を指示又は暗示したり、指示される技術的特徴の数を暗黙的に示したりするものではないことを理解されたい。これにより、「第1」、「第2」などに限定される特徴は、1つ又は複数の当該特徴を明示的又は暗黙的に含むことができる。本発明の説明において、特に断りのない限り、「複数」は、2つ又は2つ以上を意味するものとする。
【0020】
本発明の説明において、特に断りのない限り、用語の「取り付け」、「つながる」、「接続」は広義に理解されるべきであり、例えば、固定的に接続してもよいし、取り外し可能に接続するか、又は一体的に接続してもよく、機械的に接続してもよいし、電気的に接続してもよく、直接つながってもよいし、中間媒体を介して間接的につながってもよく、2つの素子の内部が連通してもよい。当業者であれば、上記用語の本発明における具体的な意味を具体的な場合に応じて理解することができる。
【0021】
以下、図面を参照し実施例に合わせて本発明を詳細に説明する。
【0022】
用語の説明:
因子分析法:因子分析法とは、指標相関行列内部の依存関係の研究から、情報が重なり、複雑に入り組んだ関係を有するいくつかの変数を相関しない少数の総合因子に総括する多変量統計分析の方法である。その基本的な考え方は、同一グループ内の変数間には相関性が高く、異なるグループ内の変数間には相関性がなく、又は相関性が低いように、変数を相関性に応じてグループ化することである。
【0023】
ファジィクラスタリングアルゴリズム:ファジィクラスタリングアルゴリズム(Fuzzy Cluster Algorithm)とは、ファジィ数学言語を用いて物事を一定の要求に応じて記述及び分類する数学的方法であり、一般的には研究対象自体の属性に基づいてファジィ行列を構築し、それに加えて一定のメンバーシップに基づいてクラスタリング関係を決定し、すなわちファジィ数学の方法によりサンプル間のファジィ関係を定量的に決定し、それにより客観的かつ正確にクラスタリングするものである。
【0024】
確率均等原理:すなわち等確率原理であり、系が平衡状態にある場合に、エネルギー一定、体積一定、粒子数一定に加えて、いかなる他の制限がない限り、系が各微視的な状態にある確率は同じであることが見つけられるというものは等確率原理と呼ばれる。
【0025】
多変量高次線形回帰方法:回帰分析において、2つ以上の独立変数がある場合は、多変量線形回帰と呼ばれ、高次とは線形回帰式の最高次が二次以上であることを意味する。線形回帰式を構築する過程において、一般的には最小二乗法を用いて回帰式における各パラメータに対して推定及び統計的検定を行う。
【0026】
Archard理論:Archard理論とは、米国人F.Archardから提案された摩耗計算式であり、この計算式において摩耗量は主に接触応力、摩耗係数及び摺動距離から影響を受ける。当該理論は各種の摩擦対の間の巨視的及び微視的摩耗量の計算に広く用いられている。
【0027】
摩耗等価原理:同一の接触圧力及び接触速度では、一対の摩擦対は同一の摩耗量を有することで、同一の摩耗寿命を有するが、異なる接触圧力又は接触速度では、同一の摩耗量が保証される限り、同一の摩耗寿命が達成される。
【0028】
図1から
図12に示すように、走行データに基づくエンジン動作状況の開発方法は、
エンジンのトルクと回転数データを前処理し、エンジンのアイドリングセグメントと動きセグメントを得、アイドリングセグメントと動きセグメントをまとめてセグメントメインライブラリを形成し、アイドリング比率を計算するステップS1と、
ステップS1における前記セグメントメインライブラリ中の動きセグメントの特徴パラメータを一つ一つ計算し、因子分析法に基づいて各動きセグメントの主成分因子を決定し、ファジィクラスタリング方法を用いて各動きセグメントをクラスタリングし、3~5種類に分け、3~5個の動きセグメントサブライブラリを形成し、各動きセグメントサブライブラリの特徴パラメータ平均値及び比率係数を計算するステップS2と、
ステップS2で得られた比率係数に基づいて、各動きセグメントサブライブラリのエンジン動作状況時間を決定するとともに、その中から動きセグメントをランダムに選択して動作状況を構築し、各動きセグメントサブライブラリ中の各動作状況の特徴パラメータをそれぞれ計算し、各特徴パラメータの相対偏差がいずれも5%以下のエンジン動作状況を選択して対応するエンジン動作状況サブライブラリを形成するステップS3と、
ステップS3で形成された各エンジン動作状況サブライブラリからエンジン動作状況を抽出し、順次接続してから、ステップS1におけるアイドリング比率に応じてアイドリングセグメントを添加した後、エンジン動作状況の単一循環サンプルを生成し、確立均等原理に基づいて、エンジン特徴動作状況点を抽出して元の単一循環サンプルを簡略化し、簡略化されたエンジン動作状況の単一循環サンプルを得るステップS4と、
ステップS4で得られたエンジン特徴動作点及びアイドリング動作点に対してシリンダ圧力測定を行い、流体力学モデルに合わせて、完全な循環における各動作点のシリンダライナ-ピストンリングの接触速度、接触圧力及び最小油膜厚さの変化状況を計算し、各動作状況の境界潤滑状態での平均接触速度及び接触圧力を境界条件として抽出し、これらにより摩擦摩耗試験を行って摩耗係数を得、測定結果に基づいてシリンダライナ-ピストンリングの接触速度及び接触圧力と、摩耗係数との間の関係式をフィッティングし、Archard理論に基づいてシリンダライナ-ピストンリング摩耗モデルを構築するステップS5と、
ステップS5で構築されたシリンダライナ-ピストンリング摩耗モデルにより、ステップS4で生成されたエンジン動作状況の単一循環サンプルに基づいて計算してエンジン動作状況の単一循環における摩耗スペクトルを得、そしてエンジンのライフサイクルにわたるマイレージに基づいて外挿してエンジンのライフサイクルにわたる摩耗スペクトルを生成するステップS6と、
ステップS6で取得されたエンジンのライフサイクルにわたる摩耗スペクトルに対して積分計算を行い、エンジンのライフサイクルにわたるシリンダライナ-ピストンリングの摩耗量を得、摩耗等価原理に基づいて、エンジンの信頼性動作状況を構築するステップS7と、を含む。
【0029】
本開発方法は、使用者の運転中に収集されたエンジンの回転数とトルクデータを元データとすることで、構築されたエンジン信頼性動作状況は使用者の実際の使用中のエンジン摩耗状況をより好適に反映できる。当該方法は構築されたシリンダライナ-ピストンリング摩耗モデルにより、時間に応じて変化するエンジンのトルクと回転数の動作状況を時間に応じて変化するエンジンの摩耗スペクトルに変換することができ、外挿するとエンジンのライフサイクルにわたる摩耗スペクトルを生成し、エンジンのライフサイクルにわたる摩耗量に対する迅速で正確な計算を実現し、最終的に摩耗等価原理に基づいてエンジン信頼性動作状況を構築する。当該方法は関連企業のエンジン信頼性動作状況の構築のために技術的サポートを提供できる。
【0030】
ステップS1において記載されたエンジンのトルクと回転数データの前処理は、
走行データ中の車速に基づいてエンジンのトルクと回転数データに対してセグメント分割を行い、アイドリングセグメントと動きセグメントが一対一に対応する組み合わせ形態に分割するステップS11と、
アイドリングセグメントの時間、並びに動きセグメントの車速、加速度、減速度及び時間に基づいて、ステップS11で得られたアイドリングセグメント及び動きセグメントをクリーニングし、条件に合致しないアイドリングセグメント、動きセグメントを除去するステップであって、動きセグメントやアイドリングセグメントを除去する時に、それに対応するアイドリングセグメントや動きセグメントを除去する必要があるステップS12と、
ステップS12で選別した後に得られたエンジンのアイドリングセグメント及び動きセグメントをまとめてセグメントメインライブラリを形成し、アイドリングセグメントの時間占有率を計算し、アイドリングセグメントの時間占有率をアイドリング比率とするステップS13と、を含む。
【0031】
ステップS2において記載された動きセグメントのクラスタリングは、
ステップS1における前記セグメントメインライブラリ中の各動きセグメントの特徴パラメータを一つ一つ計算するステップであって、特徴パラメータは平均トルク、平均回転数、平均トルクの正の変化率、平均トルクの負の変化率、平均回転数の正の変化率及び平均回転数の負の変化率を含むステップS21と、
因子分析法に基づいて特徴パラメータに対して次元削減処理を行い、各因子を寄与率の高い順にソートし、累積寄与率が90%以上になるまで順次選択し、選択した因子を主成分因子として定義し、セグメントメインライブラリ中の各動きセグメントの主成分因子数値を計算するステップS22と、
ステップS22で算出された各動きセグメントの主成分因子数値に基づいて、ファジィクラスタリングアルゴリズムを用いて、動きセグメントを3~5種類にクラスタリングし、対応する動きセグメントサブライブラリを形成するステップS23と、
各動きセグメントサブライブラリ中の全てのセグメントの特徴パラメータ平均値を計算し、当該セグメントサブライブラリの特徴パラメータとし、各動きセグメントサブライブラリ中の全ての動きセグメントの総時間を計算し、各動きセグメントサブライブラリの比率係数を得るステップS24と、を含む。
【0032】
さらに、ステップS3において記載されたエンジン動作状況の構築は、
ステップS2で得られた動きセグメントサブライブラリの比率係数に基づいて各動きセグメントサブライブラリ中のエンジン動作状況の持続時間を決定し、各動きセグメントサブライブラリから動きセグメントをランダムに選択して順次接続し、対応するエンジン動作状況を構築するステップS31と、
各動きセグメントサブライブラリ中の各エンジン動作状況の特徴パラメータをそれぞれ計算し、各エンジン動作状況の特徴パラメータと動きセグメントサブライブラリの特徴パラメータとの相対偏差を得、各特徴パラメータの相対偏差値がいずれも5%以下のエンジン動作状況を選択して対応するエンジン動作状況サブライブラリを形成するステップS32と、を含む。
【0033】
ステップS4において記載されたエンジン動作状況の単一循環サンプルの生成は、
ステップS3で形成されたエンジン動作状況サブライブラリから、非復元抽出方法により、エンジン動作状況サブライブラリの順序に従ってエンジン動作状況を順次ランダムに抽出し、順次接続し、いずれのエンジンサブライブラリにも抽出可能な動作状況が残されないと停止するステップS41と、
接続後に形成された新しいエンジン動作状況の総時間を計算することにより、ステップS1で得られたアイドリング比率に合わせて、アイドリング動作状況の総時間を計算し、アイドリングセグメントを新しいエンジン動作状況の各動きセグメントの間に均一に挿入し、エンジン動作状況の単一循環サンプルを生成するステップS42と、
エンジンの単一循環サンプル中のアイドリング動作点を除去した後、動作点に現れる最小回転数と最大回転数を境界とし、確立均等原理に基づいて、回転数を5つの回転数区間に分け、さらに各回転数区間に現れる最小トルクと最大トルクを境界とし、確立均等原理に基づいて、トルクに応じて各回転数区間をさらに5つのエンジン動作状況区間に分け、最終的に25個のエンジン動作状況区間に分割するステップS43と、
25個のエンジン動作状況区間内の全ての動作点のトルク平均値及び回転数平均値をそれぞれ計算し、丸めた後に各区間のエンジン特徴動作点とし、すなわち当該区間内の全ての動作点をいずれも当該特徴動作点と見なし、これに基づいてエンジン動作状況の単一循環サンプルを簡略化するステップS44と、を含む。
【0034】
ステップS5において記載されたシリンダライナ-ピストンリング摩耗モデルの構築は、
エンジンベンチテストにより、ステップS4で得られたエンジン特徴動作点及びアイドリング動作点に対してそれぞれシリンダ圧力測定を行い、流体力学モデルに合わせて、各特徴動作点及びアイドリング動作点の完全な循環におけるシリンダライナ-ピストンリングの接触速度、接触圧力及び最小油膜厚さの変化状況を計算するステップS51と、
各特徴動作点及びアイドリング動作点の境界潤滑状態での平均接触速度及び接触圧力を計算し、これらを境界条件としてシリンダライナ-ピストンリング摩耗試験を行い、各動作点の摩耗係数を取得し、多変量高次線形回帰方法を用いてシリンダライナ-ピストンリングの接触速度及び接触圧力と、摩耗係数との間の関係式をフィッティングし、Archard理論に基づいてシリンダライナ-ピストンリング摩耗モデルを構築するステップS52と、を含む。
【0035】
ステップS6において記載されたエンジンのライフサイクルにわたる摩耗スペクトルの生成は、
ステップS5で構築されたシリンダライナ-ピストンリング摩耗モデルにより、各特徴動作点の完全な循環の境界潤滑での総摩耗量を計算し、エンジンの回転数に基づいて、各特徴循環の1秒当たりの循環回数を計算し、さらに各特徴動作点の摩耗速度を得るステップS61と、
各特徴動作点の摩耗速度に基づき、ステップS4で生成されたエンジン動作状況の単一循環サンプルに基づいて、時間に応じて変化するエンジン摩耗量の変化を算出し、エンジンの単一循環の摩耗スペクトルを生成するステップS62と、
エンジンのライフサイクルのマイレージに基づいて外挿してエンジンのライフサイクルにわたる摩耗スペクトルを取得するS63と、を含む。
【0036】
ステップS7において記載されたエンジン信頼性動作状況の生成は、
ステップS6で取得されたエンジンのライフサイクルにわたる摩耗スペクトルに基づいて、エンジンのライフサイクルにわたる摩耗量を計算するステップS71と、
エンジンの最大トルク点と最大電力点に基づいて交番循環を構築し、ステップS5に基づいてエンジンの最大トルク点と最大電力点のシリンダ圧力を測定し、境界潤滑状態での接触速度及び接触圧力を計算し、シリンダライナ-ピストンリング摩耗モデルにより、最大トルクと最大電力動作点の摩耗速度を計算し、さらに交番循環の摩耗量を計算する前記S72と、
摩耗等価原理に基づいて、エンジンのライフサイクルにわたる摩耗量及び交番循環の摩耗量に基づいて、最終的に交番回数を決定することで、エンジン信頼性動作状況を構築するステップS73と、を含む。
【0037】
走行データに基づくエンジン動作状況の開発装置であって、データ前処理モジュールと、動きセグメントクラスタリングモジュールと、エンジン動作状況サブライブラリ構築モジュールと、エンジン動作状況の単一循環サンプル生成モジュールと、シリンダライナ-ピストンリング摩耗モデル構築モジュールと、ライフサイクルにわたる摩耗スペクトル生成モジュールと、エンジン信頼性動作状況構築モジュールと、電子機器とを含み、前述したデータ前処理モジュールと、動きセグメントクラスタリングモジュールと、エンジン動作状況サブライブラリ構築モジュールと、エンジン動作状況の単一循環サンプル生成モジュールと、シリンダライナ-ピストンリング摩耗モデル構築モジュールと、ライフサイクルにわたる摩耗スペクトル生成モジュールと、エンジン信頼性動作状況構築モジュールとの間は順次信号接続され、
前記データ前処理モジュールは使用者の走行中のエンジンのトルクと回転数データに対して前処理を行い、セグメントメインライブラリを形成し、アイドリング比率を計算するために用いられ、前記動きセグメントクラスタリングモジュールは因子分析法及びファジィクラスタリング法によってセグメントメインライブラリ中の動きセグメントを分類し、動きセグメントサブライブラリを形成し、各動きセグメントサブライブラリの特徴パラメータ平均値及び比率係数を計算するために用いられ、前記エンジン動作状況サブライブラリ構築モジュールは動きセグメントサブライブラリからセグメントを選択してエンジン動作状況を構築し、条件に合致するエンジン動作状況を選別してエンジン動作状況サブライブラリを形成するために用いられ、前記エンジン動作状況の単一循環サンプル生成モジュールはエンジンの単一循環サンプルを生成し、特徴動作点を抽出することによってエンジンの単一循環サンプルを簡略化するために用いられ、前記シリンダライナ-ピストンリング摩耗モデル構築モジュールは異なる特徴動作点の摩耗係数をフィッティングし、シリンダライナ-ピストンリング摩耗モデルを構築するために用いられ、前記ライフサイクルにわたる摩耗スペクトル生成モジュールはエンジンの単一循環の摩耗スペクトルを生成し、エンジンのライフサイクルにわたるマイレージに基づいて外挿してエンジンのライフサイクルにわたる摩耗スペクトルを取得するために用いられ、前記エンジン信頼性動作状況構築モジュールはエンジンのライフサイクルにわたるシリンダライナ-ピストンリングの摩耗量を計算し、摩耗等価原理に基づいて、エンジン信頼性動作状況を構築するために用いられ、
前述したデータ前処理モジュール、動きセグメントクラスタリングモジュール、エンジン動作状況サブライブラリ構築モジュール、エンジン動作状況の単一循環サンプル生成モジュール、シリンダライナ-ピストンリング摩耗モデル構築モジュール、ライフサイクルにわたる摩耗スペクトル生成モジュール、及びエンジン信頼性動作状況構築モジュールはいずれも電子機器に信号接続される。
【0038】
本開発装置は、設計が合理的であり、エンジンのライフサイクルにわたる摩耗量に対する迅速で正確な予測を実現することができ、さらに使用者の運転データに基づくエンジン信頼性動作状況の構築を実現し、関連企業のエンジン信頼性動作状況の開発のために技術的サポートを提供する。
【0039】
前記電子機器はプロセッサとメモリとを含み、メモリはプロセッサに通信接続され、メモリはプロセッサが実行する命令を記憶するために用いられる。
【0040】
(実施例1)
以下、図面に合わせて、発明方法をさらに詳細に説明し、具体的なステップは以下のとおりである。
【0041】
データ前処理:
走行データ中の車速データに基づいてエンジンのトルクと回転数データに対してセグメント分割を行い、アイドリングセグメントと動きセグメントが一対一に対応する組み合わせ形態に分割し、ここで、車速が0km/hでない最初の1sを動きセグメントの開始とし、車速が再び0km/hとなることを動きセグメントの終了とする。分割された動きセグメントとその前のアイドリングセグメントとを一組とし、一対一に対応させる。
【0042】
以下のルールに基づいてアイドリングセグメント及び動きセグメントを選別する。
アイドリングセグメントの時間の最小値は5s以上であり、最大値は300s以下であり、動きセグメントの時間の最小値は10s以上であり、動きセグメントの最大車速は120km/h以下であり、動きセグメントの最大加速度は6.0m/s2以下であり、動きセグメントの最大減速度は-6、0m/s2以上であり、ここで、加減速度の計算式は以下のとおりであり、
【0043】
【0044】
ここで、aiの単位はm/s2であり、vi+1及びvi-1の単位はkm/hであり、動きセグメントの開始と終了時刻の加減速度値はいずれも0m/s2とする。
【0045】
条件に合致しないアイドリングセグメントと動きセグメントを除去する。動きセグメントを除去する場合は、それに対応するアイドリングセグメントをともに除去する必要があり、アイドリングセグメントを除去する場合は、それに対応する動きセグメントをともに除去する必要がある。選別した後に得られたエンジントルクとアイドリングセグメント及び動きセグメントをまとめてセグメントメインライブラリを形成し、アイドリングセグメントの総時間及び動きセグメントの総時間を計算し、アイドリング時間の占有比21.64%を得て、アイドリング比率とする。
【0046】
動きセグメントクラスタリング:
ステップS1における前記セグメントメインライブラリ中の各動きセグメントの特徴パラメータを一つ一つ計算し、特徴パラメータは平均トルク、平均回転数、平均トルクの正の変化率、平均トルクの負の変化率、平均回転数の正の変化率及び平均回転数の負の変化率を含み、
ここで、各特徴パラメータの計算式を以下に示す。
【0047】
【0048】
そのうち、トルクの正・負の変化率及び回転数の正・負の変化率の計算式は以下のとおりである:
【0049】
【0050】
ここで、Ti
’の単位はN・m/sであり、ni
’の単位はr/s2であり、Ti+1とTi-1の単位はN・mであり、ni+1とni-1の単位はr/sであり、動きセグメントの開始と終了時刻におけるトルクの正・負の変化率と回転数の正・負の変化率はいずれもそれぞれ0N・m/sと0r/s2と記す。
【0051】
因子分析法に基づいて特徴パラメータに対して次元削減処理を行い、まず各特徴パラメータに対して無次元正規化処理を行い、続いて各特徴パラメータの相関係数行列及びその特徴値と特徴ベクトルを計算し、最終的に各因子特徴値λiを得、各因子の寄与度Diを計算する。
【0052】
各特徴パラメータに対して無次元正規化処理を行い、他の特徴パラメータは同様であり、
【0053】
【0054】
相関係数行列Cは以下のとおりであり、
【0055】
【0056】
ここで、cov計算式は以下のとおりであり、
【0057】
【0058】
行列の知識により、共分散行列Cの特徴値λ及び対応する特徴ベクトルu(特徴値毎に1つの特徴ベクトルが対応する)を求め、
【0059】
【0060】
特徴値により寄与度を計算し、
【0061】
【0062】
各因子を寄与率の高い順に従ってソートし、累積寄与率が90%以上になるまで順次選択し、それは
図1に示すとおりである。因子1、2、3の累積寄与率が91.23%であるので、因子1、2、3を主成分因子として選択する。
【0063】
セグメントメインライブラリ中の各動きセグメントの主成分因子特徴値を計算し、表1に示す。
【表1】
【0064】
【0065】
ラグランジュ乗数法及び他の数学的演算方法を用い、次式を参照してuil及びclの値を求め、
【0066】
【0067】
複数回の反復後、Iが最小値になると、メンバーシップu
ilを得る。各動きセグメントの異なるクラスタに対するメンバーシップ係数に基づいてセグメントの属するカテゴリを決定し、クラスタリングを完了する。最終的に3つの動きセグメントサブライブラリを形成し、各動きセグメントサブライブラリの特徴パラメータの平均値及び比率係数を計算し、表2に示す。
【表2】
【0068】
エンジン動作状況の構築:
まず動きセグメントサブライブラリ1の動作状況の時間を与え、3600sに設定すると、各動きセグメントサブライブラリ間の比率係数に基づいて、動きセグメントサブライブラリ2及び動きセグメントサブライブラリ3の動作状況の時間はそれぞれ12118s及び3922sとする。各動きセグメントサブライブラリから動きセグメントをランダムに選択し、順次接続してエンジン動作状況を構築し、各セグメントサブライブラリに50本のエンジン動作状況を構築する。動きセグメントサブライブラリ1のエンジン動作状況の構築過程を
図2に示し、図中に、1は回転数を示し、2はトルクを示す。
【0069】
各動きセグメントサブライブラリ中の各エンジン動作状況の特徴パラメータ(平均トルク、平均回転数、平均トルクの正の変化率、平均トルクの負の変化率、平均回転数の正の変化率及び平均回転数の負の変化率を含む)をそれぞれ計算し、各動作状況の特徴パラメータと動きセグメントサブライブラリの特徴パラメータとの相対偏差を得、表3に示す。
【表3】
【0070】
相対偏差値に基づいて、各動きセグメントサブライブラリから以上の6つの特徴値の相対偏差がいずれも5%以下のエンジン動作状況を選択して、条件に合致するエンジン動作状況とし、例えば表3における動きセグメントサブライブラリ1中の番号1の動作状況及び動きセグメントサブライブラリ3中の番号2の動作状況はいずれも条件に合致するエンジン動作状況であり、条件に合致する複数のエンジン動作状況は対応するエンジン動作状況サブライブラリを形成し、すなわちエンジン動作状況サブライブラリ1、エンジン動作状況サブライブラリ2及びエンジン動作状況サブライブラリ3である。
【0071】
エンジン動作状況の単一循環サンプルの生成:
形成されたエンジン動作状況サブライブラリから、非復元抽出方法により、エンジン動作状況サブライブラリの順序に従ってエンジン動作状況を順次ランダムに抽出し、順次接続し、いずれのエンジンサブライブラリにも抽出可能な動作状況が残されないと停止する。
【0072】
ここで、エンジン動作状況サブライブラリ1、エンジン動作状況サブライブラリ2及びエンジン動作状況サブライブラリ3(すなわち
図3におけるA、B、C)において条件に合致するエンジン動作状況の個数はそれぞれ3、4、6である。それぞれエンジン動作状況サブライブラリ1、エンジン動作状況サブライブラリ2及びエンジン動作状況サブライブラリ3から1つの動作状況を非復元抽出し、順序に従って端から端まで接続し、合計で3回抽出し、3つの動作状況を順序に従って再び端から端まで接続し、新しいエンジン動作状況を形成し、それは
図3に示すとおりであり、図中に、1は回転数を示し、2はトルクを示す。
【0073】
接続後に形成された新しいエンジン動作状況の総時間を58920sと算出し、上記計算して得られたアイドリング比率21.64%に合わせて、アイドリング動作状況の総時間を16271sと算出し、新しいエンジン動作状況において合計で603個の動きセグメントがあり、アイドリングセグメントを新しいエンジン動作状況の各動きセグメントの間に平均に挿入し、合計で604個挿入し、平均時間を27sとし、最終的にエンジン動作状況の単一循環サンプルを生成し、それは
図4に示すとおりであり、図中に、1は回転数を示し、2はトルクを示す。
【0074】
エンジンの単一循環サンプル中のアイドリング動作点を除去した後、動作点に現れる最小回転数と最大回転数を境界とし、それぞれ758rpmと5425rpmとし、丸めると750rpmと5450rpmとし、確率均等原理に基づいて、回転数により5つの区間に分け、それぞれ[750,1250)、[1250,1750)、[1750,2050)、[2050,2400)及び[2400,5450)とし、さらに各回転数区間に現れる最小トルクと最大トルクを境界とし、例えば回転数区間[750,1250)の最小トルクと最大トルクはそれぞれ-11.8N・mと122.8N・mであり、丸めた後に-12N・mと123N・mとなり、確率均等原理に基づいて、トルクにより各回転数区間をさらに5つの区間に分け、それぞれ[-12,4)、[-4,13)、[13,39)、[39,47)及び[47,123)N・mとし、同様に残りの4つの回転数区間を分割し、最終的に25個のエンジン動作状況区間に分割し、それは
図5に示すとおりである。
【0075】
25個のエンジン動作状況区間内の全ての動作点のトルク平均値及び回転数平均値をそれぞれ計算し、丸めた後に各区間のエンジン特徴動作点とし、表4に示す。当該区間内の全ての動作点はいずれも当該特徴動作点とみなされ、この原則に基づいてエンジン動作状況の単一循環サンプルを簡略化し、それは
図6に示すとおりであり、図中に、1は回転数を示し、2はトルクを示す。
【表4】
【0076】
シリンダライナ-ピストンリング摩耗モデルの構築:
エンジンベンチテストにより、25個のエンジン特徴動作点及びアイドリング動作点に対してそれぞれシリンダ圧力測定を行い、そのうち特徴動作点1(-10N・m~1100rpm)のシリンダ圧力曲線を
図7に示す。
【0077】
流体力学モデルに合わせて、各特徴動作点及びアイドリング動作点の完全な循環における接触速度、接触圧力及び最小油膜厚さの変化状況を計算し、それは
図8に示すとおりである。
【0078】
各特徴動作点及びアイドリング動作点の境界潤滑状態での平均接触速度及び接触圧力を計算し、ここで境界潤滑状態は最小油膜厚さが総合粗さ以下(総合粗さはシリンダライナとピストンリングとの表面粗さの二乗和の平方根である)の状態であり、
図9における網掛け部分は特徴動作点1の境界潤滑状態であり、その平均接触速度及び接触圧力はそれぞれ1.47m/s及び23.22Nである。25個の特徴動作点及びアイドリング動作点の接触速度及び接触圧力をそれぞれ計算し、境界条件としてシリンダライナ-ピストンリング摩耗試験を行い、各動作点の摩耗係数を取得する。
【0079】
任意の接触速度及び圧力での摩耗係数を計算するために、多変量高次線形回帰方法を用いてシリンダライナ-ピストンリングの接触速度及び接触圧力と、摩耗係数との間の関係式をフィッティングし、次式に示し、K=aU3+bF3+cU2F+dUF2+eU2+fF2+gUF+hU+iF+j、ここで、Uは接触速度であり、Fは接触圧力であり、a、b、c、d、e、f、j、h、i及びjはいずれもフィッティングパラメータであり、それぞれ-3.9641×10-15、-1.4111×10-9、-1.5498×10-13、2.3353×10-11、4.1303×10-12、1.8275×10-8、-1.8748×10-10、-3.6073×10-10、-7.1145×10-8及び1.3143×10-7である。
【0080】
Archard理論に基づいてシリンダライナ-ピストンリング摩耗モデルを構築し、次式に示し、
【0081】
【0082】
ここで、Kは摩耗係数であり、ρはシリンダライナに用いられる材料密度であり、kg/m3とし、Pは接触圧力であり、Nとし、Hはシリンダライナ材料の硬度であり、Paとし、Lは摺動距離であり、mとする。
【0083】
エンジンのライフサイクルにわたる摩耗スペクトルの生成:
構築されたシリンダライナ-ピストンリング摩耗モデルにより、各特徴動作点の完全な循環の境界潤滑での総摩耗量を計算し、下式に示し、
【0084】
【0085】
ここで、C1は境界潤滑状態に入るクランク角であり、C2は境界潤滑状態から離れるクランク角であり、Kiはクランク角iでの摩耗係数であり、Piはクランク角iでの接触圧力であり、Liはクランク角iとクランク角1+1との間のピストンリングの摺動距離である。特徴動作点1を例とし、その完全な循環の境界潤滑での総摩耗量は1.04×10-6mgである。
【0086】
エンジンの回転数に基づいて、各特徴循環の1秒当たりの循環回数を計算し、さらに各特徴動作点の摩耗速度を得る。特徴動作状況点1を例とし、1s内に、9.17個の完全な循環を完了できると、特徴動作点1での摩耗速度は9.54×10-6mg/sである。
【0087】
各特徴動作点の摩耗速度に基づき、エンジン動作状況の単一循環サンプルにおける秒ごとのトルク及び回転数に対応する摩耗速度に基づいて、時間に応じて変化するエンジン摩耗量の変化を算出し、すなわちエンジンの単一循環の摩耗スペクトルであり、それは
図10に示すとおりである。
【0088】
エンジンのライフサイクルにわたるマイレージに基づいて外挿してエンジンのライフサイクルにわたる摩耗スペクトルを取得し、エンジンのライフサイクルにわたるマイレージが300000キロメートルであり、単一循環サンプルの総マイレージが437.85キロメートルであると仮定すると、外挿係数は300000/437.85=685.17であり、丸めた後に685となる。エンジンの単一循環の摩耗スペクトルを685回繰り返し、最終的にエンジンのライフサイクルにわたる摩耗スペクトルを得る。
【0089】
エンジン信頼性動作状況の生成:
取得したエンジンのライフサイクルにわたる摩耗スペクトルに対して積分計算を行い、最終的にエンジンのライフサイクルにわたる摩耗量4021.53mgを得る。エンジンの最大トルク点と最大電力点に基づいてエンジンの交番動作状況を構築し、それは
図11に示すとおりであり、以上の2つのエンジン動作点のシリンダ圧力をそれぞれ測定し、境界潤滑状態での接触速度及び接触圧力を算出し、シリンダライナ-ピストンリング摩耗モデルにより、最大トルクと最大電力の動作点の摩耗速度を計算し、2つの動作状況の交番過程における摩耗速度を線形補間の方法により取得し、最終的に完全な交番循環の摩耗量を1.24mgと算出し、摩耗等価原理に基づいて、エンジンのライフサイクルにわたる摩耗量及び交番循環の摩耗量に基づいて、最終的に交番回数を3243回と決定し、それにより
図12におけるエンジンの交番動作状況を3243回循環すると、エンジンの信頼性動作状況を得、総時間は540.5時間である。
【0090】
以上は本発明の好適な実施例に過ぎず、本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨及び原則内で行われる任意の修正、同等の置換、及び改善などは、いずれも本発明の保護範囲内に含まれる。