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特許7379651電解質膜又は膜電極接合体の製造に使用するための剥離フィルム
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  • 特許-電解質膜又は膜電極接合体の製造に使用するための剥離フィルム 図1
  • 特許-電解質膜又は膜電極接合体の製造に使用するための剥離フィルム 図2
  • 特許-電解質膜又は膜電極接合体の製造に使用するための剥離フィルム 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】電解質膜又は膜電極接合体の製造に使用するための剥離フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20231107BHJP
   H01M 8/1039 20160101ALI20231107BHJP
   H01M 8/1081 20160101ALI20231107BHJP
   H01M 8/106 20160101ALI20231107BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20231107BHJP
   H01M 8/1069 20160101ALI20231107BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20231107BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20231107BHJP
   C25B 1/34 20060101ALI20231107BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20231107BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20231107BHJP
【FI】
B32B27/30 B
H01M8/1039
H01M8/1081
H01M8/106
H01M8/10 101
H01M8/1069
H01M4/86 B
C25B1/04
C25B1/34
C25B9/00 A
C25B9/23
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022501250
(86)(22)【出願日】2019-07-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-15
(86)【国際出願番号】 IB2019055931
(87)【国際公開番号】W WO2021005404
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2022-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000107387
【氏名又は名称】日本ゴア合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【弁理士】
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147212
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 直樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健之
(72)【発明者】
【氏名】濱本 汰一
【審査官】原 和秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-096108(JP,A)
【文献】特開2014-175116(JP,A)
【文献】特開2018-113123(JP,A)
【文献】特開2017-081011(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01217680(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/30
H01M 8/10-8/1081
H01M 4/86
C25B 1/04-1/34
C25B 9/00-9/23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換ポリマーを含むイオン交換膜、及び、
前記イオン交換膜の少なくとも片側に取り外し可能に接着された単層剥離フィルム、
を含み、前記単層剥離フィルムは少なくとも95質量%(フィルムの総重量に基づく)のシンジオタクチックポリスチレン(sPS)を含む、積層体であって
前記単層剥離フィルムはおもて面および前記おもて面と反対側のうら面を有し、前記単層剥離フィルムのおもて面はコーティングされておらずかつ化学表面修飾がなくおよび前記イオン交換膜に取り外し可能に接着されておりおよび前記単層剥離フィルムの前記うら面はラミネート化されておらずおよびコーティングされていない、積層体。
【請求項2】
前記単層剥離フィルムは二軸配向シンジオタクチックポリスチレンフィルム、発泡シンジオタクチックポリスチレン、および非置換シンジオタクチックポリスチレンの少なくとも1つを含む、請求項1記載の積層体。
【請求項3】
(a)および/又は(b)、すなわち(a)前記単層剥離フィルムは、機械方向及び横断方向の少なくとも1つにおける引張弾性率が2000~5000MPaの範囲内である、および/又は
(b)前記単層剥離フィルムは、機械方向における引張弾性率が2500~4000MPaであり、横断方向における引張弾性率が2500~4000MPaの範囲にある請求項1~2のいずれか1項記載の積層体。
【請求項4】
(c)および/又は(d)、すなわち(c)前記単層剥離フィルムは、機械方向及び横断方向の少なくとも1つにおける引張強度が少なくとも50MPaである、および/又は
(d)前記単層剥離フィルムは、機械方向における引張強度が少なくとも100MPa及び横断方向における引張強度が少なくとも100MPaである請求項1~3のいずれか1項記載の積層体。
【請求項5】
(e)および/又は(f)、すなわち(e)前記積層体はイオン交換膜及び単層剥離フィルムからなる、および/又は
(f)前記イオン交換ポリマーは、スルホン酸基を有する側鎖を含むフルオロポリマーである請求項1~4のいずれか1項記載の積層体。
【請求項6】
前記単層剥離フィルムは、50μm未満の平均厚さを有する、請求項1~5のいずれか1項記載の積層体。
【請求項7】
前記イオン交換膜は電極膜である、請求項1~6のいずれか1項記載の積層体。
【請求項8】
前記イオン交換膜は、電極膜が電解質膜の各側に接合されている電極接合体である、請求項1~6のいずれか1項記載の積層体。
【請求項9】
前記イオン交換膜は電解質膜である、請求項1~6のいずれか1項記載の積層体。
【請求項10】
前記イオン交換膜は強化電解質膜である、請求項9記載の積層体。
【請求項11】
前記単層剥離フィルム上に前記イオン交換膜を適用する工程を含む、請求項1~10のいずれか1項記載の積層体を製造するための方法。
【請求項12】
前記イオン交換膜を適用する工程はロールツーロール処理によって行われる、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記イオン交換膜を適用する工程は、
前記単層剥離フィルム上に溶媒中のイオン交換ポリマーの溶液を適用し、それにより、単層剥離フィルム上にイオン交換ポリマーの湿潤コーティングを提供すること、及び、
乾燥により溶媒を除去し、それにより、イオン交換膜を提供すること、
を含むか、または
前記工程は、
前記単層剥離フィルム上に溶媒中のイオン交換ポリマーの溶液を適用し、それにより、単層剥離フィルム上のイオン交換ポリマーの湿潤コーティングを提供すること、
多孔質強化材料を、前記イオン交換ポリマーの湿潤コーティング上に適用すること、
乾燥して溶媒を除去すること、
前記溶媒中のイオン交換ポリマーの追加の溶液を前記多孔質強化材料上に適用すること、及び、
乾燥により溶媒を除去し、それにより、イオン交換膜を提供すること、
を含む、請求項11記載の方法。
【請求項14】
ポリマー電解質燃料電池の膜電極接合体を製造するための方法であって、
請求項8記載の積層体を提供すること、及び、
単層剥離フィルムをイオン交換膜から分離すること、
を含む、方法。
【請求項15】
電解質膜を製造するための方法であって、
請求項9記載の積層体を提供すること、及び、
単層剥離フィルムをイオン交換膜から分離すること、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質膜に取り外し可能に接着された単層剥離フィルムを含むラミネート、前記ラミネートを製造する方法、電解質膜又は膜電極接合体を製造する際の単層剥離フィルムの使用、及び、電解質膜又は膜電極接合体、例えば、ポリマー電解質燃料電池の膜電極接合体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
燃料電池は、水素又はメタノールなどの燃料の化学エネルギーを、燃料と酸素又は別の酸化剤との電気化学反応によって電気エネルギーに変換する。
【0003】
すべての燃料電池は、アノード電極とカソード電極の間に挟まれたイオン交換膜(IEM)を含む、いわゆる膜電極接合体(MEA)を含む。IEMは、燃料電池内で固体電解質膜として使用される。イオン交換膜は、塩素ガス及び水酸化ナトリウムを生成するための塩化ナトリウム溶液の電気分解にも使用される。さらに、IEMは、フロー電池、拡散透析、水電気分解、電気透析の分野、及び、浸透気化法及び蒸気透過分離に有用である。
【0004】
燃料電池は、主に電解質のタイプによって分類される。燃料電池の例は、プロトン交換膜燃料電池(PEMFC、ポリマー電解質膜燃料電池PEFCとも呼ばれる)、アルカリ燃料電池(AFC)、リン酸燃料電池(PAFC)、溶融炭酸燃料電池(MCFC)及び固体酸化物燃料電池(SOFC)である。
【0005】
ポリマー電解質燃料電池は、他の燃料電池よりも低温で動作するので特に有利である。また、ポリマー電解質燃料電池は、リン酸燃料電池に見られる腐食性酸を含まない。
【0006】
PEMFCは、複数の単一セルをラミネートすることによって製造され、各セルは、ポリマー電解質膜(イオン交換膜)及び前記電解質膜の各表面に取り付けられたガス拡散電極のスタックを含む膜電極接合体を含む。各ガス拡散電極は、電極触媒層(通常は白金触媒)とガス拡散層のラミネートを含む。ガス拡散層(GDL)は、それぞれの触媒層への水素又は酸素のアクセスを可能にし、一般に疎水化された多孔質カーボン紙/布から作られているが、他の材料も提案されている。
【0007】
PEMFCの電解質膜はプロトンのみを伝導し、アノードで形成された電子は外部回路を介してアノードからカソードに移動し、それによって電気エネルギーを生成する。PEMFCの電解質膜は、例えば、スルホン酸基を有するテトラフルオロエチレン/フルオロビニルエーテルコポリマー(例えば、DuPontによって供給されるNafion(登録商標))などのペルフルオロスルホン酸(PFSA)ポリマーを含むことができる。
【0008】
PEMコンダクタンス及び全体としてのPEMFCの出力を上げるために、PEMの厚さを減らす要求が存在している。PEMは、通常、10及び200μmなど、非常に薄いものである。しかしながら、PEMの厚さを薄くすると、構造の一体性が低下し、製造プロセス中の取り扱いに問題が生じることがある。したがって、PEMは、一般に、追加の強化材料、例えば、電解質材料(例えば、PFSA)を含浸させた多孔質強化材料(例えば、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)膜)によって強化される。
【0009】
例えば、US2011/020730は、ポリマー電解質燃料電池の電解質膜の強化部材として適した二軸配向フィルムに関する。強化部材は最終的なPEMの一部である。二軸配向フィルムは、シンジオタクチックポリスチレン(sPS)を含み、機械方向及び横断方向の少なくとも1つでヤング率が4,500~8,000MPaの範囲にある。
【0010】
取り扱いを容易にし、製造、移送、貯蔵及び加工中の薄いポリマー電解質膜の変形及び破壊、例えば、しわ又は破損を防止するために、ポリマー電解質膜は、一般に、支持フィルム(バッキング層、剥離フィルム又はバッカーとも呼ばれる)上に提供される。支持フィルムは、ポリマー電解質膜を形成するための支持ベースとして使用される。その後、燃料電池の製造においてポリマー電解質膜を電極とラミネート化する前に、支持フィルムをポリマー電解質膜から脱離させる(剥がす)。したがって、支持フィルムは通常、最終的な燃料電池には存在しない。
【0011】
剥離可能な支持フィルムは、連続的なウェブの取り扱いに耐えるのに十分な機械的強度と、支持フィルムを膜から容易に剥がすことができる適切な剥離特性(剥離性)を有する必要がある。しかしながら、それでも、膜からの支持フィルムの意図しない分離に抵抗するのに十分な接着性がなければならない。支持フィルムは、電解質膜を汚染すべきでなく、耐熱性(例えば、130~190℃の温度で)、耐薬品性(例えば、耐酸性)、防汚性及び寸法安定性を備えているべきである。
【0012】
EP2422975は、シクロオレフィンコポリマー(COC)から作られた剥離フィルムと、前記剥離フィルム上にラミネート化されたイオン交換樹脂を含む層とを含むラミネートを開示している。ラミネートは、イオン交換樹脂を含む層に対して反対側にある剥離フィルムの面にラミネートされた、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)又はポリプロピレン(PP)から作られたフィルムなどのベースフィルムをさらに含む。
【0013】
JP2014175116Aは、150℃で100~1000MPaの弾性率を有する合成樹脂(ポリエステルなど)から形成されたベース層と、前記ベース層の少なくとも片面上にコーティングされたシンジオタクチックポリスチレン(sPS)樹脂の剥離層とを含む支持フィルムに関する。
【0014】
JP2016096108Aは、支持フィルムの裏側と比較して電解質膜構造に面する側に「高い接着力」を有するシンジオタクチックポリスチレン(sPS)の支持基材フィルム上に提供される電解質膜を含む電解質膜構造に関する。sPSシートの増加した接着特性は、sPS上にフルオロ樹脂コートを適用することによって提供されることが開示されている。JP2016096108Aは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びテトラフルオロエチレン-ペルフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー(PFA)よりも安価な代替品として樹脂コーティングされたsPSを参照している。さらに、JP2016096108Aにおいて、電解質膜とPTFE又はPFAのフィルムのラミネートをロールに巻くと、フィルムの裏面と電解質膜との間の接着力のために電解質膜を支持フィルムから脱結合できることが議論されている。
【0015】
JP2017081011Aは、膜電極接合体の製造に使用されるラミネート化フィルムに関する。ラミネート化フィルムは、ベース層(例えば、ポリエステル、PET又はシンジオタクチックポリスチレン(SPS)樹脂)、ベース層の少なくとも1つの表面上に適用された接着剤成分(例えば、塩素含有樹脂)を含む第一の層、及び、前記第一の層にラミネート化された剥離性成分(例えば、環状オレフィン樹脂)を含む第二の層を含む。
【0016】
US2017/077540は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリカーボネート、ポリアリーレート及びポリ塩化ビニルからなる群より選ばれる1つ以上のタイプのポリマーから形成されたベースフィルムの少なくとも1つの表面にフッ素原子を導入することによって提供される支持フィルムを記載している。例えば、フッ素原子は、ベースフィルムをフッ素ガスと接触させることによって導入することができる。
【0017】
接着性樹脂を使用するか、又は他の方法で、電解質膜に面する支持フィルムの側の支持フィルムの表面を変性すると、電解質膜を汚染することがあり、例えば、そのプロトン伝導性の低下をもたらす可能性がある。また、フィルムの剥離特性は、支持フィルムから電解質膜への化学物質の移行のために時間とともに変化することがある。また、接着性樹脂を使用するか、又は他の方法で支持フィルムの表面を変性することは、支持フィルムの製造において追加の費用を生じさせる。さらに、支持フィルムは、不均一な剥離強度及び/又は不均一な厚さの問題に遭遇する可能性がある。
【0018】
ラミネート化された支持フィルムは製造するのに費用がかかる。さらに、ベース層(例えば、PET)の裏側とポリマー電解質膜との間の接着力のために、ラミネート化された支持フィルムが付着されたポリマー電解質膜のロールの巻き出し時に支持フィルムの層間剥離又は支持フィルムからの電解質膜の意図しない剥離(層間剥離)の問題がある可能性がある。また、支持フィルムの層の異なる熱特性から生じる、しわ及びカールが形成される可能性がある。さらに、多層(例えば、二層)ラミネートは、一般に、約50μm以上の厚さを有する。
【0019】
したがって、支持フィルムがラミネート化されているときの電解質膜の劣化を回避しながら、適切な剥離及び接着特性を有するなど、上記の要件を満たす低コストの支持フィルムが必要である。
【発明の概要】
【0020】
開示の簡単な要約
少なくとも95質量%のシンジオタクチックポリスチレン(sPS)を含む単層フィルムは、電解質膜又は膜電極接合体を製造する際に、必要な機械的強度、耐薬品性及び耐熱性、ならびに剥離可能な支持フィルム(以下、剥離フィルムと呼ぶ)としての使用に有利な適切な剥離及び接着特性を有することが見出された。電解質膜又は膜電極接合体は、ポリマー電解質燃料電池、フロー電池及び電気分解用の多層ダイヤフラムなどの電気化学デバイスの製造に使用できる。
【0021】
少なくとも95質量%のシンジオタクチックポリスチレン(sPS)を含む単層剥離フィルムのさらなる利点は、その厚さが50μm未満、例えば25~40μmの範囲内であり、それでも十分な機械的強度を提供しうることである。これは、ポリマー電解質膜と、sPSから作られた単層剥離フィルムのラミネートをロールに巻くと、ロールの重量及び直径が、より厚いラミネート化支持フィルムを含むラミネートのロールよりも小さいことを意味する。したがって、ロールは、ポリマー電解質燃料電池の膜電極接合体の製造における移送、貯蔵及び使用中の取り扱いが容易になる。
【0022】
さらに、シンジオタクチックポリスチレンの単層フィルムは、製造がより複雑でなく、安価であるため、多層支持フィルムを使用する場合と比較して、膜電極接合体の製造コストが削減される。
【0023】
したがって、本発明の第一の態様によれば、イオン交換膜と、前記イオン交換膜の少なくとも片側に取り外し可能に接着された単層剥離フィルムとを含むラミネートが提供され、前記単層剥離フィルムは、少なくとも95質量%のシンジオタクチックポリスチレン(sPS)を含む。イオン交換膜は、ペンダントスルホン酸基を含むフルオロポリマーなどのイオン交換ポリマーを含む。
【0024】
ラミネートの1つの実施形態において、イオン交換膜は、電解質膜、特にポリマー電解質膜である。
【0025】
ラミネートのさらなる実施形態において、イオン交換膜は、強化電解質膜、特に強化ポリマー電解質膜である。
【0026】
「シンジオタクチックポリスチレン(sPS)」とは、炭化水素骨格の交互の側にフェニル基が配置された規則正しいポリスチレンを意味する。シンジオタクチックポリスチレンは、非置換スチレン単位又は環置換スチレン単位を含むことができる。非置換スチレン単位から作られたシンジオタクチックポリスチレンは、日本の出光興産によって商品名XARECで製造されている。
【0027】
本明細書に開示されるラミネートの単層剥離フィルムのシンジオタクチックポリスチレンは、非置換シンジオタクチックポリスチレン又は環置換シンジオタクチックポリスチレンであることができる。
【0028】
環置換シンジオタクチックポリスチレンの例は、シンジオタクチックポリ(アルキルスチレン)、シンジオタクチックポリ(ハロゲン化スチレン)、シンジオタクチックポリ(アルコキシスチレン)、シンジオタクチックポリ(フェニルスチレン)、シンジオタクチックポリ(ビニルスチレン)及びシンジオタクチックポリ(ビニルナフタレン)である。ポリ(アルキルスチレン)の例としては、ポリ(メチルスチレン)、ポリ(エチルスチレン)、ポリ(プロピルスチレン)及びポリ(ブチルスチレン)が挙げられ、例えば、ポリ(p-メチルスチレン)、ポリ(m-メチルスチレン)及びポリ(p-tert-ブチルスチレン)である。ポリ(ハロゲン化スチレン)の例としては、ポリ(クロロスチレン)、ポリ(ブロモスチレン)及びポリ(フルオロスチレン)が挙げられる。ポリ(アルコキシスチレン)の例としては、ポリ(メトキシスチレン)及びポリ(エトキシスチレン)が挙げられる。
【0029】
本明細書に開示されるラミネートの単層剥離フィルムのシンジオタクチックポリスチレンは、好ましくは、非置換シンジオタクチックポリスチレンである。
【0030】
実施形態において、単層剥離フィルムは、二軸配向シンジオタクチックポリスチレンフィルムを含む。
【0031】
少なくとも95質量%の二軸配向シンジオタクチックポリスチレン(sPS)を含む単層剥離フィルムは透明でかつ無色である。これにより、膜電極接合体の製造におけるカメラ検査による異物粒子及び汚染物質の制御が容易になる。また、少なくとも95質量%のシンジオタクチックポリスチレン(sPS)を含む二軸配向フィルムは、高い引張強度を有する薄膜を可能にする。
【0032】
シンジオタクチックポリスチレンは、発泡(expanded)シンジオタクチックポリスチレン、特に二軸配向の発泡シンジオタクチックポリスチレンフィルムであることができる。
【0033】
シンジオタクチックポリスチレンは、少なくとも10000g/モルの重量平均分子量を有することができる。好ましくは、シンジオタクチックポリスチレンの重量平均分子量は、50000~2000000g/モルの範囲内であり、より好ましくは、100000~1000000g/モルの範囲内であり、そして最も好ましくは、シンジオタクチックポリスチレンは重量平均分子量が100000~300000g/モルである。1つの実施形態において、シンジオタクチックポリスチレンは、以下に記載されるように測定された、約177000g/モルの重量平均分子量を有する。
【0034】
本発明の第二の態様において、(i)イオン交換ポリマーを含むイオン交換膜、及び(ii)前記イオン交換膜の少なくとも片側に取り外し可能に接着された単層剥離フィルムを含むラミネートであって、前記単層剥離フィルムは、本明細書に記載の測定方法を使用して500mN/cm以下の剥離力、及び、本明細書に記載の測定方法を使用して23~50mJ/mの範囲内の表面エネルギーを有する、ラミネートが提供される。
【0035】
好ましくは、単層剥離フィルムは、本明細書に記載の測定方法を使用して150mN/cm以下の剥離力、及び、本明細書に記載の測定方法を使用して23~45mJ/mの範囲内の表面エネルギーを有する。
【0036】
単層剥離フィルムが、剥離フィルムが除去されたときにイオン交換膜又は剥離フィルムに損傷又は不可逆的な変形が生じることなく、イオン交換膜の少なくとも片側に取り外し可能に接着されるために、単層剥離フィルムは、好ましくは、機械方向及び横断方向の少なくとも1つにおける引張弾性率(ヤング率)が2000~5000MPa、好ましくは2500~4000MPaの範囲内である。より好ましくは、単層剥離フィルムは、機械方向の引張弾性率が2500~4000MPaの範囲内、及び、横断方向の引張弾性率が2500~4000MPaの範囲内である。
【0037】
実施形態において、単層剥離フィルムは、機械方向及び横断方向の少なくとも1つにおいて、少なくとも50MPa、好ましくは少なくとも90MPaの引張強度を有することができる。より好ましくは、単層剥離フィルムは、機械方向の引張強度が少なくとも100MPaであり、横断方向の引張強度が少なくとも100MPaである。
【0038】
単層剥離フィルムは、10~50μmなど、10~100μmの範囲内の平均厚さを有することができる。好ましくは、単層剥離フィルムは、25~45μm又は25~40μmの範囲内など、50μm未満の平均厚さを有する。
【0039】
本発明の第三の態様において、本明細書に開示されるとおりのラミネートを製造するための方法が提供される。この方法は、1つ以上の工程で、単層剥離フィルム上にイオン交換膜を適用する、例えば、コーティング又はラミネートすることを含む。適用の工程は、ロールツーロール処理によって実行されうる。
【0040】
1つの実施形態において、この方法は、
単層剥離フィルム上に溶媒中のイオン交換ポリマーの溶液を適用し、それにより、単層剥離フィルム上にイオン交換ポリマーの湿潤コーティングを提供すること、及び、
乾燥により溶媒を除去し、それにより、単層剥離フィルム上にイオン交換膜を提供すること、
を含む。
【0041】
別の実施形態において、この方法は、
単層剥離フィルム上に溶媒中のイオン交換ポリマーの溶液を適用し、それにより、単層剥離フィルム上にイオン交換ポリマーの湿潤コーティングを提供すること、
前記イオン交換ポリマーの湿潤コーティング上に多孔質強化材料(例えば、延伸ポリテトラフルオロエチレン)を適用すること、
乾燥して溶媒を除去すること、
前記溶媒中のイオン交換ポリマーの追加の溶液を前記多孔質強化材料上に適用すること、及び、
乾燥により溶媒を除去し、それにより、単層剥離フィルム上にイオン交換膜を提供すること、
を含む。
【0042】
本発明の第四の態様において、電解質膜又は膜電極接合体、例えば、ポリマー電解質燃料電池の膜電極接合体を製造する際の剥離フィルムとしての、少なくとも95質量%のシンジオタクチックポリスチレン(sPS)を含む単層フィルムの使用が提供される。
【0043】
本発明の第五の態様において、本明細書に開示されるとおりのラミネートを提供し、イオン交換膜から単層剥離フィルムを分離することを含む、ポリマー電解質燃料電池の電解質膜又は膜電極接合体を製造する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図面の簡単な説明
図1図1は、本明細書に開示されるとおりのラミネートの実施形態を示している。
【0045】
図2図2は、本明細書で記載された方法を使用して測定した、様々なプラスチックフィルムの剥離強度(剥離特性の指標)及び表面エネルギー(接着特性の指標)を示している。
【0046】
図3図3は、強化電解質膜の製造における単層剥離フィルムの使用を示している。
【発明を実施するための形態】
【0047】
詳細な説明
本明細書に開示されるラミネートにおいて、イオン交換膜の少なくとも片側に取り外し可能に接着された単層剥離フィルムは、少なくとも95質量%のシンジオタクチックポリスチレン(sPS)を含む。
【0048】
「取り外し可能に接着」とは、イオン交換膜に接着された単層剥離フィルムを含むラミネートにおいて、イオン交換膜又は剥離フィルムに損傷又は不可逆的な変形を生じさせることなく、単層剥離フィルムをイオン交換膜から取り外すことができることを意味する。
【0049】
図1は、イオン交換膜2と、前記イオン交換膜2の片側に取り外し可能に接着された単層剥離フィルム3とを含むラミネート1の実施形態を示している。イオン交換膜は、イオン交換ポリマーを含む。
【0050】
本明細書に開示されるとおりのラミネートの単層剥離フィルムは、少なくとも95質量%(フィルムの総質量に基づく)のシンジオタクチックポリスチレン(sPS)、及び、0~5質量%の範囲内にある、酸化防止剤、帯電防止剤、フィルムの取り扱い性を高める薬剤、接着性を変化させる薬剤、押出特性を改善する薬剤、及び/又は導電性を改善する薬剤などの添加剤を含む。
【0051】
単層剥離フィルムは、好ましくは、化学的に均一な(均質な)ポリマー組成物からなり、これは、剥離フィルムがコーティングされておらず、化学的表面修飾がないことを意味する。
【0052】
単層剥離フィルムは、フィルムの厚さ方向に沿って密度勾配及び/又は結晶化度勾配を有することができる。そのような勾配は、フィルムの様々な密度及び/又は結晶化度を提供する。
【0053】
実施形態において、単層剥離フィルムは、10~100μm、例えば10~50μmの範囲内、例えば12μm、25μm、35μm又は50μmの平均厚さを有することができる。好ましくは、単層剥離フィルムは、25~45μm又は25~40μmの範囲内など、50μm未満の平均厚さを有することができる。
【0054】
実施形態において、本明細書に開示されるラミネートの単層剥離フィルムは、150mN/cm以下の剥離力を有することができる(本明細書に記載の測定方法を使用する)。
【0055】
実施形態において、本明細書に開示されるラミネートの単層剥離フィルムは、23~50mJ/mの範囲内(本明細書に記載の測定方法を使用)、好ましくは25~45mJ/m又は30~40mJ/mの範囲内(本明細書に記載の測定方法を使用)の表面エネルギーを有することができる。
【0056】
実施形態において、本明細書に開示されるラミネートの単層剥離フィルムは、機械方向及び横断方向の少なくとも1つの引張弾性率が2000~5000MPaの範囲内(好ましくは2500~4000MPaの範囲内)であり、機械方向及び横断方向の少なくとも1つの引張強度が少なくとも50MPaであり、剥離力が150mN/cm以下(本明細書に記載される測定方法を使用)であり、表面エネルギーが23~50mJ/mの範囲内(本明細書に記載される測定方法を使用)であることができる。
【0057】
実施形態において、本明細書に開示されるラミネートの単層剥離フィルムは、機械方向及び横断方向の少なくとも1つの引張弾性率が2500~4000MPaの範囲内であり、機械方向及び横断方向の少なくとも1つの引張強度が少なくとも100MPaであり、剥離力が150mN/cm以下であり(本明細書に記載される測定方法を使用)、そして表面エネルギーが25~45mJ/mの範囲内(本明細書に記載される測定方法を使用)であることができる。
【0058】
実施形態において、ラミネートは、イオン交換膜及び単層剥離フィルムからなる。したがって、本発明によるラミネートは、好ましくは二層ラミネートである。
【0059】
単層剥離フィルムは、おもて面(第一の平面フィルム表面)及び前記おもて面の反対側のうら面(第二の平面フィルム表面)を有する。ラミネートにおいて、単層剥離フィルムのおもて面は、イオン交換膜に取り外し可能に接着され、単層剥離フィルムのうら面は、好ましくは、覆われていない(すなわち、ラミネート化されておらず、コーティングされていない)。
【0060】
おもて面は第一の表面粗さを有することができ、うら面は第二の表面粗さを有することができ、ここで、第一の表面粗さ及び第二の表面粗さは異なる。好ましくは、第一の表面粗さは滑らかな表面を提供し、第二の表面粗さはより粗い表面を提供する。剥離フィルムのうら面のより高い表面粗さは、イオン交換膜への低い接着性を提供し、したがって、剥離フィルムのうら面と電解質膜との間の接着力のために電解質膜が支持フィルムから脱離するリスクを低減する。
【0061】
例えば、単層剥離フィルムのおもて面は、0.10μm未満の第一の表面粗さ(算術平均粗さ、Ra)を有することができ、単層剥離フィルムのうら面は、0.05μmより多い第二の表面粗さ(Ra)を有することができる。特に、単層剥離フィルムのおもて面は、0.10μm未満の第一の表面粗さ(Ra)を有することができ、単層剥離フィルムのうら面は、0.10μm以上の第二の表面粗さ(Ra)を有することができる。算術平均粗さRaは、標準方法ISO 4287:1997により測定できる。
【0062】
単層剥離フィルムは、例えば、溶融押出によって形成することができる。本発明による幾つかの剥離フィルムは市販されており、例えば、日本の倉敷紡績社がOidys(登録商標)HNL及びOidys(登録商標)HNなどのOidys(登録商標)の商標で販売しているsPSフィルムである。
【0063】
単層剥離フィルムは、好ましくは、イオン交換膜に隣接している(すなわち、直接接触している)。
【0064】
剥離フィルム上にラミネート化されたイオン交換膜は、電解質膜、電極膜又は電極膜が電解質膜の各側に接合されている膜電極接合体であることができる。
【0065】
特定の実施形態において、イオン交換膜は、ポリマー電解質膜などの電解質膜である。
【0066】
剥離フィルム上にラミネート化されたイオン交換膜は、電解質を含浸させた多孔質強化膜を含む強化電解質膜などの強化電解質膜であることができる。したがって、特定の実施形態において、イオン交換膜は、強化ポリマー電解質膜である。
【0067】
本開示のラミネートは、単層剥離フィルム上に溶媒中のイオン交換ポリマーの溶液をコーティングし、それによって、単層剥離フィルム上にイオン交換ポリマーの湿潤コーティングを提供し、その後、乾燥により溶媒を除去することによって得ることができる。
【0068】
図3は、強化ポリマー電解質膜の製造方法を示す。この方法は、単層剥離フィルム4上に溶媒中のイオン交換ポリマーの溶液を適用することを含み、それにより、単層剥離フィルム4上にイオン交換ポリマーの湿潤コーティング5を提供する。次に、湿潤コーティング5の上にePTFE膜などの強化材料6を適用し、続いて溶媒を乾燥により除去する。溶媒中のイオン交換ポリマーの追加の溶液を、第二のコーティング工程で適用することができる。溶媒は第二の乾燥工程で除去され、それにより強化ポリマー電解質膜(強化イオン交換膜)8及び単層剥離フィルム4のラミネート7を提供する。次に単層剥離フィルム4を除去し、強化ポリマー電解質膜8を、膜電極接合体の製造に使用することができる。
【0069】
イオン交換ポリマーを含むイオン交換膜の厚さは、イオン交換ポリマーの溶液の濃度を調整するか、又はイオン交換ポリマー溶液のコーティング工程及び乾燥工程を繰り返すことによって、予想される厚さに調整することができる。
【0070】
イオン交換ポリマーを含むイオン交換膜がポリマー電解質燃料電池用の電解質膜であるときに、市販のナフィオン(Nafion)(登録商標)溶液などの電解質溶液を単層剥離フィルム上にコーティングし、続いて乾燥させることができる。あるいは、剥離フィルムとは別に作製された固体ポリマー電解質膜をホットプレスする方法を使用することができる。
【0071】
イオン交換ポリマーを含むイオン交換膜がポリマー電解質燃料電池用の電極膜であるときに、電極膜の成分を含む溶液又は分散液(触媒インク)を剥離フィルム上にコーティングし、続いて乾燥させることができる。
【0072】
上記のように、イオン交換ポリマーを含むイオン交換膜がポリマー電解質燃料電池の膜電極接合体であるときに、剥離膜上にアノード又はカソード電極膜を形成し、次にポリマー電解質膜をホットプレスにより電極膜に接合し、また、カソード又はアノード電極膜をポリマー電解質膜と組み合わせることができる。電極膜とポリマー電解質膜を組み合わせる場合には、スクリーン印刷法、スプレイコーティング法、デカール法などの従来から知られている方法を採用することができる。
【0073】
イオン交換膜は、好ましくは、ポリマー電解質燃料電池用のポリマー電解質膜である。このような電解質膜は、プロトン(H)伝導性が高く、電気絶縁性があり、空気不透過性もある限り、特に限定されない。
【0074】
ポリマー電解質膜は、5μm~200μmの範囲の厚さを有することができる。しかしながら、ポリマー電解質膜の厚さは抵抗に大きな影響を与えるため、ポリマー電解質膜の厚さは、一般に、5μm~50μmの範囲、好ましくは10μm~30μmの範囲に設定される。
【0075】
本明細書に開示されるとおりのイオン交換膜及び単層剥離フィルムを含むラミネートは、厚さが15μm~200μm、好ましくは15μm~100μm(例えば、17μm)、より好ましくは20μm~50μmの範囲内(例えば、22μm)であり、例えば30μm~50μm、又は、35μm~50μm(例えば、45μm)であることができる。
【0076】
イオン交換膜の適切なイオン交換ポリマーとしては、限定するわけではないが、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基又はホスホン基も含むフッ素含有ポリマーが挙げられる。イオン交換ポリマーの典型的な例は、過フッ素化スルホン酸樹脂及び過フッ素化カルボン酸樹脂である。
【0077】
本発明におけるポリマー電解質膜のイオン交換ポリマーは、完全フッ素系ポリマー化合物に限定されない。それはまた、炭化水素系ポリマー化合物と無機ポリマー化合物の混合物、又はポリマー鎖にC-H結合及びC-F結合の両方を含む部分フッ素系ポリマー化合物であることができる。
【0078】
炭化水素系ポリマー電解質の具体例としては、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ポリエステル、ポリスルホン又はポリエーテルであって、それぞれにスルホン酸基などの電解質基が導入されたもの、及びその誘導体、ポリスチレンであって、スルホン酸基などの電解質基が導入されたもの、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン又はポリカーボネートであって、それぞれに芳香環を有するもの及びその誘導体、ポリエーテルエーテルケトンであって、スルホン酸基などの電解質基が導入されたもの、及び、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエステル又はポリフェニレンスルフィド及びその誘導体が挙げられる。
【0079】
部分フッ素系ポリマー電解質の具体例としては、それぞれがスルホン酸基などの電解質基が導入されたポリスチレングラフトエチレンテトラフルオロエチレンコポリマー又はポリスチレングラフトポリテトラフルオロエチレン、及び、その誘導体が挙げられる。
【0080】
完全フッ素系ポリマー電解質フィルムの具体例としては、ナフィオン(登録商標)フィルム(デュポン製)、アシプレックス(登録商標)フィルム(旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標)フィルム(旭硝子株式会社製)が挙げられ、それぞれ側鎖にスルホン酸基を有するペルフルオロポリマーから製造されている。
【0081】
無機ポリマー化合物は、シロキサン系又はシラン系有機シリコーンポリマー化合物、特にアルキルシロキサン系有機シリコーンポリマー化合物であることができ、その具体例としては、ポリジメチルシロキサン及びγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランが挙げられる。
【0082】
イオン交換膜は、1つのタイプのイオン交換ポリマー又は2つ以上のイオン交換ポリマーを含むことができる。2つ以上のイオン交換ポリマーの実施形態において、ポリマーは、混合物であることができ、又は、別個の層として存在することができる。
【0083】
イオン交換ポリマーと共に使用するのに適した溶媒としては、例えば、アルコール、カーボネート、THF(テトラヒドロフラン)、水及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0084】
本開示のラミネートは、
a)単層剥離フィルム上に溶媒中のイオン交換ポリマーの溶液を適用し、それにより、単層剥離フィルム上にイオン交換ポリマーの湿潤コーティングを提供すること、
b)乾燥により溶媒を除去し、それにより、単層剥離フィルム上にイオン交換膜を提供すること、
によって得ることができる。
【0085】
イオン交換膜は、多孔質材料(例えば、ePTFE膜)、繊維状材料又は強化粒子などの強化材料をさらに含むことができる。1つの実施形態において、強化材料は多孔質膜であることができる。別の実施形態において、強化材料は繊維又は粒子を含むことができる。
【0086】
多孔質膜は、ボイド又は細孔の構造ネットワークを形成するフィブリルによって相互接続された長尺ノードの微細構造を含む形態学的構造によって画定されうる。多孔質膜(例えば、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE))は、多孔質膜の内部体積が実質的に閉塞性になり、それによって膜を本質的に空気不透過性にするように、前記イオン交換ポリマーで実質的に含浸されうる。イオン交換ポリマーはまた、多孔質膜の片面又は両面に存在することができる。
【0087】
多孔質膜は、多孔質微細構造(例えば、約0.05~約0.4μmの平均サイズを有する細孔)を有する延伸ポリテトラフルオロエチレンであることができる。延伸ポリテトラフルオロエチレンは、70~95%の範囲内など、35%を超える多孔度(空隙率)を有することができる。
【0088】
溶媒中にイオン交換ポリマーを含む溶液は、液体溶液が強化材料の隙間及び内部体積に浸透できる限り、順方向ロールコーティング、逆方向ロールコーティング、グラビアコーティング又はドクターロールコーティング、ならびに浸漬、ブラッシング、塗装及び噴霧を含む従来のコーティング技術によって強化材料に適用されうる。強化材料の表面から余分な溶液を取り除くことができる。次に、処理された強化材料をオーブン内で乾燥する。オーブン温度は60℃~200℃の範囲であることができるが、好ましくは160℃~180℃である。追加の適用工程及び続いて行う乾燥は、強化材料が完全に透明になるまで繰り返すことができ、これは、10,000秒を超えるガーレー数を有するイオン交換膜に対応する。典型的に、2~60回の処理が要求されるが、実際の処理回数は濃度及び強化材料の厚さに依存する。
【0089】
実施形態において、イオン交換膜は、ペルフルオロスルホン酸樹脂などのイオン交換ポリマーを含浸させた延伸ポリテトラフルオロエチレンを含む。
【0090】
あるいは、本開示のラミネートは図3に示されるような方法によって得ることができ、前記方法は、
a)剥離フィルム上に溶媒中のイオン交換ポリマーの溶液を適用し、それにより、剥離フィルム上にイオン交換ポリマーの湿潤コーティングを提供すること、
b)多孔質強化材料(例えば、延伸ポリテトラフルオロエチレン)をイオン交換ポリマーの湿潤コーティング上に適用すること、
c)乾燥して溶媒を除去すること、
d)前記溶媒中のイオン交換ポリマーの追加の溶液を多孔質強化材料上に適用すること、及び、その後、
e)乾燥により溶媒を除去し、それにより、単層剥離フィルム上にイオン交換膜を提供すること、
の工程を含む。
【0091】
ポリマー電解質燃料電池用の電極膜は、触媒粒子及びイオン交換ポリマーを含む限り、特に限定されない。イオン交換ポリマーとして、上記の電解質膜について記載したポリマーを使用することが可能である。触媒は、通常、上に担持された触媒粒子を含む導電性材料から作られる。触媒粒子は、水素の酸化反応又は酸素の還元反応に対して触媒作用を有することができ、白金(Pt)及び他の貴金属に加えて、コバルト、鉄、クロム、ニッケル又はそれらの合金を使用することが可能である。導電性材料は、適切には、カーボンブラック、活性炭、グラファイトなどの炭素系粒子であり、微粉末粒子は特に適切に使用される。その典型的な例としては、例えば、表面積が20m/g以上であるカーボンブラック粒子上のPt粒子、Ptと他の金属とから作られた合金粒子など、貴金属粒子を担持して得られるものが挙げられる。アノード用触媒としては、Ptが一酸化炭素(CO)の被毒耐性が低いため、メタノールなどのCO含有燃料を使用するときに、Ptとルテニウム(Ru)から作られた合金粒子を好ましくは使用する。電極膜中のイオン交換ポリマーは、触媒を支持して電極膜を形成するバインダとして機能し、触媒によって生成されたイオンが移動する通路を形成する材料である。イオン交換ポリマーとして、固体ポリマー電解質膜に関して上述した材料を使用することが可能である。電極膜は、好ましくは、水素又はメタノールなどの燃料がアノードにおいて可能な限り触媒と接触することができ、一方、酸素又は空気などの酸化剤ガスは、カソードで可能な限り触媒と接触することができるように多孔質である。電極膜に含まれる触媒の量は、0.01~4mg/cm、好ましくは0.1~0.6mg/cmの範囲内であることが適切である。
【実施例
【0092】
例1
単層剥離層上のイオン交換膜で作られたラミネートの製造
イオン交換膜を、バーコーター(K202コントロールコーター、RK Print Coat Instrument Ltd.)による2回のコーティングプロセス及びオーブン内でのアニーリングプロセスによって製造した。
【0093】
面密度が約3~6g/mである二軸配向延伸PTFE膜(ePTFE)に、メイヤーrバー#5を使用した様々な単層ポリマーフィルム(表1を参照されたい)の剥離可能な支持フィルム上に提供されたナフィオン(Nafion)(登録商標)アイオノマー溶液(米国デュポン社から市販)などのアイオノマー溶液を最初に含浸させた。湿潤化したePTFE及びポリマーフィルムをすぐに160℃でオーブン内で3分間乾燥させ(1回目の通過)、溶媒(エタノール及び水)を除去した。
【0094】
次に、メイヤーバー#4を使用して室温で膜にアイオノマー溶液を再度含浸させ、同じ温度でオーブン内で3分間乾燥させた(2回目の通過)。
【0095】
最後に、同じ温度でオーブン内で3分間(3回目の通過)、さらにコーティングすることなく、膜をアニーリングした。最終的なイオン交換膜の厚さは約10μmであった。
【0096】
剥離強度の測定
剥離強度は、引張試験機(AG-I、島津製作所)を用いた90度剥離試験(サンプルサイズ及び剥離速度の変更を除いてASTM D6862)で測定した。まず、様々なポリマーフィルムの単層剥離フィルム(表1を参照されたい)上のイオン交換膜を、カットスタンプによって幅20mm、長さ150mmにカットした。剥離フィルム面を、両面粘着テープでベークライトボードに貼り付けた。剥離中にボードを自動的にスライドさせるロールを備えた引張試験治具にボードをセットした。引張試験機のベースに治具を取り付けた。膜の片側を引張試験機のチャックでつかんだ。チャックを15mm/分の速度で引き上げることにより、膜を剥離フィルムから剥離し、剥離力を記録した。剥離強度は、10mm~50mmの距離の3つの測定点の平均値として計算した。
【0097】
表面エネルギーの測定
剥離フィルムとしての様々なポリマーフィルムの表面エネルギーを、それぞれ水及びジヨードメタンとの接触角の測定を含む二成分モデルによって決定した。
【0098】
各ポリマーフィルムをガラス板上に提供し、接触角測定デバイス(DM-501、協和インターフェースサイエンス株式会社)に入れた。デバイスの針(tefloncoat22G)から2.0μLの溶媒(水又はジヨードメタン)を滴下した。落下してから1500ms後にθ/2法で接触角を検出した(Yangら、「θ/2法からの接触角を補正する方法」、Colloids and Surfaces A:Physiochemical and Engineering Aspects, volume 220, issues 1-3, 2003年6月20日、pages 199-210, DOI:10.1016/S0927-7757(03)00064-5を参照されたい)。プラスチックフィルムの表面エネルギーを、Kaelble-Uy理論を使用して決定した(D.H. Kaelble(1970)Dispersion-Polar Surface Tension Properties of Organic Solids, The Journal of Adhesion、2:2, 66-81, DOI:10.1080/0021846708544582)。
【0099】
結果
本明細書に記載の方法を使用して測定された、様々なポリマーフィルムの剥離強度及び表面エネルギーを表1に示す。剥離強度vs表面エネルギーはまた、図2に示されている(PBT及びPPを除く)。表1の膜厚値は、厚さゲージで測定されているか、又は、供給者による製品データシートに提供されている厚さである。
【表1-1】
【表1-2】
【0100】
試験した2つのsPSフィルム(Kuraboが供給するOidys(登録商標)HNL及びOidys(登録商標)HN)は、単層剥離可能な支持フィルム(単層剥離フィルム)として使用するのに有利な必要な剥離及び接着特性を備えていることが判った。
【0101】
また、sPSフィルムは必要に応じて耐薬品性及び耐熱性を示す。
【0102】
さらに、sPSフィルムは、剥離可能な支持フィルムとしての使用に有利であるために必要な機械的強度を有する。表2は、供給者から提供されたデータを含む(JIS K7127法を使用して測定)。
【表2】
【0103】
Oidys(登録商標)HNLのシンジオタクチックポリスチレンの重量平均分子量は、測定デバイスHLC-8321GPC/HT(東ソー株式会社)を用いた高温GPC(ゲル浸透クロマトグラフィ)法により測定した。20mlのo-ジクロロベンゼン(0.025%BHTを含む)を20mgのサンプル(sPSフィルム)に添加した。サンプルを振とうし、145℃で溶解させた。その後、溶解物を焼結フィルタ(孔径1.0μm)を使用して熱ろ過し、次にろ液を分析した。Oidys(登録商標)HNLのシンジオタクチックポリスチレンは、重量平均分子量が約177000g/モルであることが判った。
(態様)
(態様1)
イオン交換ポリマーを含むイオン交換膜、及び、
前記イオン交換膜の少なくとも片側に取り外し可能に接着された単層剥離フィルム、
を含み、前記単層剥離フィルムは少なくとも95質量%のシンジオタクチックポリスチレン(sPS)を含む、積層体
(態様2)
イオン交換ポリマーを含むイオン交換膜、及び、
前記イオン交換膜の少なくとも片側に取り外し可能に接着された単層剥離フィルム、
を含み、前記単層剥離フィルムは、本明細書に記載の測定方法を使用して500mN/cm以下の剥離力、及び、本明細書に記載の測定方法を使用して23~50mJ/mの範囲内の表面エネルギーを有する、積層体
(態様3)
前記単層剥離フィルムは二軸配向シンジオタクチックポリスチレンフィルムを含む、先行の態様のいずれか1項記載の積層体
(態様4)
前記単層剥離フィルムは発泡シンジオタクチックポリスチレンを含む、先行の態様のいずれか1項記載の積層体
(態様5)
前記単層剥離フィルムは、100000~300000g/モルの範囲内の重量平均分子量を有するシンジオタクチックポリスチレンを含む、先行の態様のいずれか1項記載の積層体
(態様6)
前記単層剥離フィルムは非置換シンジオタクチックポリスチレンを含む、先行の態様のいずれか1項記載の積層体
(態様7)
前記単層剥離フィルムは、機械方向及び横断方向の少なくとも1つにおける引張弾性率が2000~5000MPaの範囲内である、先行の態様のいずれか1項記載の積層体
(態様8)
前記単層剥離フィルムは、機械方向における引張弾性率が2500~4000MPaであり、横断方向における引張弾性率が2500~4000MPaの範囲にある、先行の態様のいずれか1項記載の積層体
(態様9)
前記単層剥離フィルムは、機械方向及び横断方向の少なくとも1つにおける引張強度が少なくとも50MPaである、先行の態様のいずれか1項記載の積層体
(態様10)
前記単層剥離フィルムは、機械方向における引張強度が少なくとも100MPa及び横断方向における引張強度が少なくとも100MPaである、先行の態様のいずれか1項記載の積層体
(態様11)
前記積層体はイオン交換膜及び単層剥離フィルムからなる、先行の態様のいずれか1項記載の積層体
(態様12)
前記イオン交換ポリマーは、スルホン酸基を有する側鎖を含むフルオロポリマーである、先行の態様のいずれか1項記載の積層体
(態様13)
前記単層剥離フィルムは25~45μmの範囲内など、50μm未満の平均厚さを有する、先行の態様のいずれか1項記載の積層体
(態様14)
前記イオン交換膜は電極膜である、態様1~13のいずれか1項記載の積層体
(態様15)
前記イオン交換膜は、電極膜が電解質膜の各側に接合されている電極接合体である、態様1~13のいずれか1項記載の積層体
(態様16)
前記イオン交換膜は電解質膜である、態様1~13のいずれか1項記載の積層体
(態様17)
前記イオン交換膜は強化電解質膜である、態様16記載の積層体
(態様18)
前記単層剥離フィルム上に前記イオン交換膜を適用する工程を含む、態様1~17のいずれか1項記載の積層体を製造するための方法。
(態様19)
前記イオン交換膜を適用する工程はロールツーロール処理によって行われる、態様18記載の方法。
(態様20)
前記イオン交換膜を適用する工程は、
前記単層剥離フィルム上に溶媒中のイオン交換ポリマーの溶液を適用し、それにより、単層剥離フィルム上にイオン交換ポリマーの湿潤コーティングを提供すること、及び、
乾燥により溶媒を除去し、それにより、イオン交換膜を提供すること、
を含む、態様18記載の方法。
(態様21)
前記単層剥離フィルム上に溶媒中のイオン交換ポリマーの溶液を適用し、それにより、単層剥離フィルム上のイオン交換ポリマーの湿潤コーティングを提供すること、
延伸ポリテトラフルオロエチレンなどの多孔質強化材料を、前記イオン交換ポリマーの湿潤コーティング上に適用すること、
乾燥して溶媒を除去すること、
前記溶媒中のイオン交換ポリマーの追加の溶液を前記多孔質強化材料上に適用すること、及び、
乾燥により溶媒を除去し、それにより、イオン交換膜を提供すること、
を含む、態様18記載の方法。
(態様22)
膜電極接合体を製造する際の剥離フィルムとして、少なくとも95質量%のシンジオタクチックポリスチレン(sPS)を含む単層フィルムの使用。
(態様23)
電解質膜を製造する際の剥離フィルムとして、少なくとも95質量%のシンジオタクチックポリスチレン(sPS)を含む単層フィルムの使用。
(態様24)
ポリマー電解質燃料電池の膜電極接合体を製造するための方法であって、
態様15記載の積層体を提供すること、及び、
単層剥離フィルムをイオン交換膜から分離すること、
を含む、方法。
(態様25)
電解質膜を製造するための方法であって、
態様16記載の積層体を提供すること、及び、
単層剥離フィルムをイオン交換膜から分離すること、
を含む、方法。
図1
図2
図3