(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】プロセス監視装置、プロセス監視方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20231107BHJP
【FI】
G05B23/02 Z
(21)【出願番号】P 2022515438
(86)(22)【出願日】2021-04-15
(86)【国際出願番号】 JP2021015627
(87)【国際公開番号】W WO2021210654
(87)【国際公開日】2021-10-21
【審査請求日】2022-09-30
(31)【優先権主張番号】P 2020073109
(32)【優先日】2020-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111121
【氏名又は名称】原 拓実
(74)【代理人】
【識別番号】100200218
【氏名又は名称】沼尾 吉照
(72)【発明者】
【氏名】山中 理
(72)【発明者】
【氏名】平岡 由紀夫
【審査官】牧 初
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-082918(JP,A)
【文献】特開2012-138044(JP,A)
【文献】特開2019-133454(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/00-23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視対象の状態を示す変数を2つ以上取得するデータ収集部と、
前記取得した変数から2つを選ぶ組合せの全てについてそれぞれ
Q統計量
と、前記変数についてそれぞれT^2統計量とを
統計量して出力する統計量算出部と、
前記統計量算出部で出力された統計量に基づいて監視対象の状態を示す総合統計量を出力する総合統計量算出部と、
を備えるプロセス監視装置。
【請求項2】
前記総合統計量算出部は、前記統計量算出部によって出力されたQ統計量とT^2統計量との総和を前記総合統計量とする、
請求項
1記載のプロセス監視装置。
【請求項3】
前記総合統計量算出部は、前記統計量算出部によって出力されたQ統計量及びT^2統計量における最大値を前記総合統計量とする、
請求項
1記載のプロセス監視装置。
【請求項4】
前記統計量算出部は、前記変数毎に前記T^2統計量と前記変数及び他の変数のQ統計量とに基づいた統計量を出力し、
前記総合統計量算出部は、前記統計量算出部により出力された変数毎の統計量に基づき前記総合統計量を出力する、
請求項
1記載のプロセス監視装置。
【請求項5】
前記総合統計量算出部により出力された総合統計量を表示可能な表示部をさらに有する、
請求項1乃至請求項
4のいずれか一項記載のプロセス監視装置。
【請求項6】
前記表示部は、前記総合統計量算出部により出力された総合統計量に対する前記統計量毎の寄与率を表示可能である、
請求項
5記載のプロセス監視装置。
【請求項7】
前記総合統計量算出部により出力された総合統計量に対する前記統計量についての寄与率、及び前記統計量に対する前記T^2統計量と前記変数並びに他の変数のQ統計量とに関する寄与率を表示可能な表示部をさらに有する、
請求項
1乃至請求項
4のいずれか一項記載のプロセス監視装置。
【請求項8】
前記表示部は、前記総合統計量算出部により出力された総合統計量に対する前記統計量の寄与率を、前記統計量についての2つの変数の相関係数及び行列散布図の一方又は双方を用いて表示可能である、
請求項
6又は請求項
7記載のプロセス監視装置。
【請求項9】
前記監視対象に異常が生じていることを示す、前記総合統計量算出部により出力された総合統計量の閾値を設定する統計量閾値算出部をさらに有し、
前記表示部は、前記統計量閾値算出部により設定された総合統計量の閾値で正規化された前記総合統計量を表示可能である、
請求項
5乃至請求項
8のいずれか一項記載のプロセス監視装置。
【請求項10】
前記統計量閾値算出部は、前記総合統計量に対する前記変数の寄与率の閾値をさらに設定可能であり、
前記表示部は、前記寄与率の閾値を所定時間以上超えたことにより除外された後の残りの変数を表示可能である、
請求項
9記載のプロセス監視装置。
【請求項11】
監視対象の状態を示す変数を2つ以上取得するデータ収集ステップと、
前記データ収集ステップにおいて取得された変数から2つ選ぶ全ての組合せについてそれぞれ
Q統計量
と、前記変数についてそれぞれT^2統計量とを
統計量として出力する統計量算出ステップと、
前記統計量算出ステップにおいて出力された統計量に基づいて監視対象の状態を示す総合統計量を出力する総合統計量算出ステップと、
を有するプロセス監視方法。
【請求項12】
コンピュータに、
監視対象の状態を示す変数を2つ以上取得するデータ収集ステップと、
前記データ収集ステップにおいて取得された変数から2つ選ぶ全ての組合せについてそれぞれ
Q統計量
と、前記変数についてそれぞれT^2統計量とを
統計量として出力する統計量算出ステップと、
前記統計量算出ステップにおいて出力された統計量に基づいて監視対象の状態を示す総合統計量を出力する総合統計量算出ステップと、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、プロセス監視装置、プロセス監視方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、監視・診断対象となるプロセスからセンサ等により取得されたデータ変数をMSPC(Multivariate Statistical Process Control:多変量統計的プロセス管理)等の手法を用いて分析することで、監視/診断対象プロセスの状態を識別するとともに、監視・診断対象プロセスの状態に応じた支援情報をユーザに提供する技術が考案されている。
【0003】
図14は、従来のMSPCを用いた分析方法を示す図である。
図14に示すように、従来技術では、特定のセンサにより取得されたデータ変数を監視/診断対象から除外したい場合に、診断モデルの再構築をしなければならなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特開平8-241121号公報
【文献】日本国特開2004-303007号公報
【文献】日本国特開2007-65883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、診断モデルを再構築することなく特定のセンサにより取得されたデータを監視/診断対象から除外・追加することができるプロセス監視装置、プロセス監視方法及びプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するために、実施形態のプロセス監視装置は、データ収集部と、統計量算出部と、総合統計量算出部と、を備える。データ収集部は、監視対象の状態を示す変数を2つ以上取得する。統計量算出部は、取得した変数から2つを選ぶ組合せの全てについて、それぞれQ統計量と、前記変数についてそれぞれT^2統計量とを統計量して出力する。総合統計量算出部は、統計量算出部で出力された統計量に基づいて監視対象の状態を示す総合統計量を出力する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態のプロセス監視装置の構成の具体例を示す図。
【
図2】実施形態のプロセス監視装置における異常診断モデル自動構築部、オンライン異常監視・診断部及びユーザインターフェース部の構成の具体例を示す図。
【
図3】実施形態のプロセス監視装置における総合統計量の算出方法を示す図。
【
図4】実施形態のプロセス監視装置における2変量Q統計量の考え方とローディング、主成分方向の分散の概念を表す図。
【
図5】実施形態に係るプロセス監視装置の表示部に表示される監視画面の一例を示す図。
【
図6】実施形態に係るプロセス監視装置の表示部に表示される監視画面の一例を示す図。
【
図7】実施形態に係るプロセス監視装置の表示部に表示される監視画面の一例を示す図。
【
図8】実施形態に係るプロセス監視装置の表示部に表示される変数Xに関連する正規化した2変量Q統計量と1変量T^2統計量のバーグラフ。
【
図9】実施形態に係るプロセス監視装置の表示部に表示される2変量Q統計量と1変量T^2統計量の値を濃度表示と共に表した図。
【
図10】実施形態に係るプロセス監視装置の表示部に表示される上位推定要因に相関の高い2変数の組合せに対して行列散布図と現在値を示す図。
【
図11】実施形態に係るプロセス監視装置の変形例の構成を示す図。
【
図12】実施形態に係るプロセス監視装置の別の変形例の構成を示す図。
【
図13】実施形態に係るプロセス監視装置のさらに別の変形例の構成を示す図。
【
図14】従来のプロセス監視装置におけるMSPCによる分析方法を示す図。
【実施形態】
【0008】
以下、実施形態に係るプロセス監視装置、プロセス監視方法及びプログラムを、
図1乃至
図13を用いて説明する。なお、“a_b”は、“a”という文字の右下に小さい“b”が付されていることを示す。また、“a^b”は、“a”という文字の右上に小さい“b”が付されていることを示す。“a_C_b”は、“C”という文字の左下に小さい“a”が付されており、“C”という文字の右下に小さい“b”が付されていることを示す。
【0009】
図1は、実施形態のプロセス監視装置2の構成の具体例を示す図である。
図1は、プロセス監視装置2の監視・診断対象が下水高度処理プロセス1である具体例を示している。本実施形態では、監視・診断対象を下水高度処理プロセス1としているが、本実施形態に係るプロセス監視装置、プロセス監視方法及びプログラムの監視・診断対象は、下水処理プロセス、排水処理プロセス、汚泥消化プロセス、浄水プロセス、給配水プロセス、化学プロセス、鉄鋼プロセス及び半導体製造プロセス等の任意のプラントでよい。下水高度処理プロセス1は、下水から窒素及びリンを除去することを目的としたプロセスである。下水高度処理プロセス1は、最初沈澱池101、嫌気槽102、無酸素槽103、好気槽104及び最終沈澱池105を有する。処理対象の下水(以下「被処理水」という。)は、最初沈澱池101、嫌気槽102、無酸素槽103、好気槽104、最終沈澱池105の順に送水され処理される。
【0010】
最初沈澱池101は、下水高度処理プロセス1に送られてくる被処理水の貯水池である。最初沈澱池101では、沈澱により比重の重い固形物が被処理水から分離される。
【0011】
嫌気槽102は、有機物を分解する微生物を被処理水に投入するための水槽である。嫌気槽102において、被処理水は空気が供給されない状態で攪拌される。これにより、微生物に体内のリンを吐き出させる。一般にこの処理をリン吐出という。
【0012】
無酸素槽103は、被処理水から窒素を除去するための水槽である。具体的には、無酸素槽103では、後段の好気槽104から戻された被処理水が嫌気槽102から送られてきた被処理水に混ぜられ、空気を供給されない状態で攪拌される。無酸素槽103では、微生物の働きにより被処理水中の硝酸が窒素に分解され、大気に放出される。一般にこの処理を脱窒という。
【0013】
好気槽104は、被処理水中の有機物の分解と、リンの除去及びアンモニアの硝化とを行うための水槽である。具体的には、被処理水に空気を供給して微生物を活性化させ、微生物に有機物を分解させるとともに、微生物に被処理水中のリンを吸収させる。嫌気状態でリンを吐出しその代りに有機物を蓄積した状態の微生物は活性化されることにより吐き出した以上のリンを吸収するため、被処理水中のリンが除去される。また、好気槽104 では、被処理水に空気が供給されることによりアンモニアが硝酸に分解される。一般にこの処理を硝化という。
【0014】
最終沈澱池105は、リンの除去及びアンモニアの硝化が行われた被処理水の貯水池である。最終沈澱池105では沈澱によって被処理水に残存する固形物が分離され、上澄みの清澄水が処理済みの水として放流される。
【0015】
最初沈澱池余剰汚泥引き抜きポンプ111は、最初沈澱池101から沈澱した汚泥を引き抜いて除去するポンプである。最初沈澱池余剰汚泥引き抜きポンプ111は、引き抜いた汚泥の流量を計測する流量センサを有する。
【0016】
ブロワ112は、好気槽104に酸素を供給する送風機である。ブロワ112は、供給した空気の流量を計測する流量センサを有する。
【0017】
循環ポンプ113は、被処理水を好気槽104から無酸素槽103に返送するポンプである。循環ポンプ113は、返送した被処理水の流量を計測する流量センサを有する。
【0018】
返送汚泥ポンプ114は、最終沈澱池105から沈澱した汚泥の一部を引き抜いて嫌気槽102に返送するポンプである。返送汚泥ポンプ114は、返送した汚泥の流量を計測する流量センサを有する。
【0019】
最終沈澱池余剰汚泥引き抜きポンプ115は、最終沈澱池105から沈澱した汚泥を引き抜いて除去するポンプである。最終沈澱池余剰汚泥引き抜きポンプ115は、引き抜いた汚泥の流量を計測する流量センサを有する。
【0020】
雨量センサ121は、下水高度処理プロセス1に流入する付近の雨量を計測するセンサである。下水流入量センサ122は、下水高度処理プロセス1に流入する下水(以下「流入下水」という。)の流量を計測するセンサである。流入TNセンサ123は、流入下水に含まれる全窒素量(TN)を計測するセンサである。流入TPセンサ124は、流入下水に含まれる全リン量(TP)を計測するセンサである。流入有機物センサ125は、流入下水に含まれる有機物量を計測するUV(吸光度)センサ又はCOD(化学的酸素要求量)センサである。
【0021】
ORPセンサ126は、嫌気槽102のORP(酸化-還元電位)を計測するセンサである。嫌気槽pHセンサ127は、嫌気槽102のpHを計測するセンサである。無酸素槽ORPセンサ128は、無酸素槽103のORPを計測するセンサである。無酸素槽pHセンサ129は、無酸素槽103のpHを計測するセンサである。リン酸センサ130は、好気槽104のリン酸濃度を計測するセンサである。DOセンサ131は、好気槽104の溶存酸素濃度(DO)を計測するセンサである。アンモニアセンサ132は、好気槽104のアンモニア濃度を計測するセンサである。MLSSセンサ133は、嫌気槽102、無酸素槽103又は好気槽104の少なくとも一箇所で活性汚泥濃度(MLSS)を計測するセンサである。
【0022】
水温センサ134は、無酸素槽103又は好気槽104の少なくとも一箇所で水温を計測するセンサである。余剰汚泥SSセンサ135は、最終沈澱池105から引き抜かれる汚泥の固形物(SS)濃度を計測するセンサである。放流SSセンサ136は、最終沈澱池105から放流される水のSS濃度を計測するセンサである。汚泥界面センサ137は、最終沈澱池105の汚泥界面レベルを計測するセンサである。下水放流量センサ138は、放流水の流量を計測するセンサである。放流TNセンサ139は、放流水に含まれる全窒素量を計測するセンサである。放流TPセンサ140は、放流水に含まれる全リン量を計測するセンサである。放流有機物センサ141は、放流水に含まれる有機物量を計測するUVセンサ又はCODセンサである。
【0023】
なお、上記の最初沈澱池余剰汚泥引き抜きポンプ111、ブロワ112、循環ポンプ113、返送汚泥ポンプ114及び最終沈澱池余剰汚泥引き抜きポンプ115など機器のそれぞれは所定周期の制御で動作する。また、最初沈澱池余剰汚泥引き抜きポンプ111、ブロワ112、循環ポンプ113、返送汚泥ポンプ114及び最終沈澱池余剰汚泥引き抜きポンプ115の機器それぞれが有する流量センサを含む上記の各センサは、所定周期でセンシング対象を計測する。以下、最初沈澱池余剰汚泥引き抜きポンプ111、ブロワ112、循環ポンプ113、返送汚泥ポンプ114及び最終沈澱池余剰汚泥引き抜きポンプ115のそれぞれが有する流量センサを総称して操作量センサと称し、その他のセンサを総称してプロセスセンサと称する。各操作量センサ及び各プロセスセンサは、所定周期のセンシングによって得られた計測データをプロセスデータとしてプロセス監視装置2に送信する。
【0024】
次に、プロセス監視装置2の実施形態について説明する。
【0025】
プロセス監視装置2は、バスで接続されたCPU(Central Processing Unit)やメモリや補助記憶装置などを備え、プログラムを実行する。プロセス監視装置2は、プログラムの実行によってデータ収集部21、データ抽出部22、異常診断モデル自動構築部23、診断モデル保存部24、アクティブ診断モデル保存部25、オンライン異常監視・診断部26、異常診断結果保存部27、ユーザインターフェース部28及び入力変数選定部29を備える装置として機能する。なお、プロセス監視装置2の各機能の全て又は一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されてもよい。また、データ収集部21は、PLC(Programmable Logic Controller)を用いてプロセス監視装置2とは異なる筐体の装置として実装されてもよい。プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置である。プログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【0026】
データ収集部21は、各操作量センサ及び各プロセスセンサから監視対象の状態を示す変数であるプロセスデータを2つ以上取得し記録する。取得されたプロセスデータをデータ抽出部22に出力する。取得されるプロセスデータは、監視対象プロセスの状態を示す各プロセス変数の時系列データである。データ収集部21は、取得されたプロセスデータを、予め決められたフォーマットにしたがって記録する。データ収集部21は、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置等の記憶装置(図示せず)を有する。データ収集部21は、取得されたプロセスデータを記憶する。本実施形態において、この工程をデータ収集ステップという。
【0027】
データ抽出部22は、オフライン診断モデル構築用データ抽出部221と、オンライン異常診断データ抽出部222とを有する。オフライン診断モデル構築用データ抽出部221は、データ収集部21から、所定の周期もしくは外部からの要求により、診断モデル構築用のデータとして、各種プロセスセンサから取得した所定の期間のデータを抽出する。オンライン異常診断データ抽出部222は、所定の周期で、オンラインの異常診断に必要となる各種プロセスセンサによるプロセスデータをリアルタイムで抽出する。
【0028】
異常診断モデル自動構築部23は、オフライン診断モデル構築用データ抽出部221により抽出された所定の期間の各種プロセスセンサで収集した全ての変数のデータ(以下、全変数)を用いて、後述する方法で異常診断モデルを構築する。
【0029】
診断モデル保存部24は、異常診断モデル自動構築部23で構築した診断モデルを保存する。
【0030】
アクティブ診断モデル保存部25は、診断モデル保存部24に保存している診断モデルの中から所定の判断で、実際に利用する診断モデル(以下アクティブ診断モデル)を抽出し保存する。
【0031】
オンライン異常監視・診断部26は、所定の監視周期でアクティブ診断モデル保存部25の診断モデルと、オンライン異常診断データ抽出部222で抽出された異常診断用のデータを用いてリアルタイムで異常診断を行う。
【0032】
異常診断結果保存部27は、オンライン異常監視・診断部26で診断した異常診断結果の履歴を時系列データとして保存する。
【0033】
ユーザインターフェース部28は、オンライン異常監視・診断部26で診断した異常診断結果をリアルタイムにユーザインターフェースを通してプラントの管理者や運転員に提示する。
【0034】
入力変数選定部29は、ユーザインターフェース部28を通して監視している異常診断結果に基づいて、ユーザであるプラント管理者や運転員が、各種プロセスセンサで計測している全変数の中から、診断に用いるべき入力変数を選定・変更し、その結果をアクティブ診断モデル保存部25に保存する。
【0035】
診断モデル比較・更新判定部11は、異常診断モデル自動構築部23で定期的に生成され、診断モデル保存部24に定期的に保存された診断モデルに対し、モデルの比較を行い、オンライン診断に用いる診断モデルを採択する。
【0036】
図2は、実施形態のプロセス監視装置2における異常診断モデル自動構築部23、オンライン異常監視・診断部26及びユーザインターフェース部28の構成の詳細を示す図である。異常診断モデル自動構築部23は、正規化部231、相関行列計算部232及び統計量閾値算出部233を備える。オンライン異常監視・診断部26は、統計量算出部261、寄与量算出部262、総合統計量算出部263、正規化総合統計量算出部264、異常判定部265及び上位要因推定部266を備える。ユーザインターフェース部28は、表示部281を備える。
【0037】
異常診断モデル自動構築部23の正規化部231は、データ抽出部22におけるオフライン診断モデル構築用データ抽出部221から抽出した、各種プロセスセンサで計測・収集した全変数について、変数毎にデータの正規化を行う。相関行列計算部232は、正規化部231で正規化されたデータを用いて、全変数の中から抽出した全ての2変数の組合せの相関係数から成るいわゆる相関行列を生成する。統計量閾値算出部233は、相関行列計算部232で算出した相関行列を用いて、異常検出に用いる後述する総合統計量や2変量Q統計量、1変量T^2統計量等の異常検出閾値を決定する。異常診断モデル自動構築部23は、所定の周期TH≦TMで定期的に動作する。
【0038】
オンライン異常監視・診断部26の統計量算出部261は、2変量Q統計量算出部61及び1変量T^2統計量算出部62を備える。2変量Q統計量算出部61は、データ収集部21で取得し、データ抽出部22のオンライン異常診断データ抽出部222で抽出した全変数のリアルタイムデータから2つを選ぶ全ての組合せについて、MSPCで用いられるQ統計量をそれぞれ算出する。1変量T^2統計量算出部62は、オンライン異常診断データ抽出部222で抽出した全変数のリアルタイムデータを用いて全変数の各変数について、MSPCあるいはSPCで用いられるT^2統計量をそれぞれ算出する。統計量算出部261により、Q統計量及びT^2統計量のどちらか一方、又は両方を出力することを、統計量算出ステップという。寄与量算出部262は、2変量Q統計量算出部61で算出された2変量Q統計量と1変量T^2統計量算出部62で算出された1変量T^2統計量とを合成して、後述する総合統計量に対する各変数の寄与率を全変数について定義する。総合統計量算出部263は、統計量算出部261で出力された統計量に基づいて、寄与量算出部262において算出された各変数の寄与量を合成して、監視対象の状態及び総合的な異常度を表す総合統計量を算出する。総合統計量算出部263により総合統計量が算出される工程を、総合統計量算出ステップという。正規化総合統計量算出部264は、統計量閾値算出部233で算出した閾値で、総合統計量算出部263で算出した総合統計量を割ることで総合統計量の異常判定閾値を1に正規化する。異常判定部265は、正規化総合統計量算出部264で算出した正規化総合統計量が、正規化した異常判定閾値である1を基準として異常の判定を行う。上位要因推定部266は、異常判定部265において、異常と判断された場合に、その要因となる上位要因の変数、及び要因となる全変数の中の2つの変数の組合せを推定する。
【0039】
ユーザインターフェース部28の表示部281は、診断データ(オンライン/リアルタイムデータ)及びオンライン異常監視・診断部26により出力された寄与率、正規化総合統計量、上位要因の変数、及び要因となる全変数の中の2つの変数の組合せを表示する。
【0040】
次に、プロセス監視装置2の作用について説明する。
【0041】
図3は、実施形態のプロセス監視装置2における総合統計量の算出方法を示す図である。まず、下水高度処理プロセス1では、操作量センサと各種プロセスセンサとによって、所定の周期でプロセスの情報が計測されている。これらの計測情報は、データ収集部21によって、予め決められたフォーマットに従って、時系列データとして保存されている。
【0042】
データ抽出部22のオフライン診断モデル構築用データ抽出部221は、所定の周期TLで異常診断モデル自動構築部23において利用する操作量センサと各種プロセスセンサとに対応する項目のデータを、別途指定する所定の期間分の時系列データとして取得する。一例として、所定の周期TM=1日と、所定の期間L=7日(1週間)と指定する。このデータを、例えば0:00分に取得するように指定しておくと、毎日0:00に過去1週間分のデータが定期的に抽出されることになる。このようにして抽出されたデータセットをZk、k=1、2、…と記載することにする。ここで、kは周期TMで収集したデータを時系列に並べた場合のインデックスであり、診断モデル構築開始の初日がk=1、2日目がk=2に対応する。このZkは列方向に変数の数、行方向に時間(サンプル=時系列データ)を持つ行列である。本実施形態の場合は、操作量センサで計測する5変数とプロセスセンサで計測する21変数を併せた26変数が列数に対応し、オンラインセンサの計測周期が例えば1分の場合行数は60×24×7が行数に対応する行列である。この行数をn(=60×24×7)、列数をm(=26)とする。また、以下では、診断モデルを構築する日を特に意識する必要が無い場合は、単にZと記載し、添え字のkを省略する。オフライン診断モデル構築用データ抽出部221は、このZを所定の周期で抽出する。
【0043】
なお、本実施形態の対象プロセスでは、m=26としているが、実際の下水処理施設で中規模以上の処理施設は、複数の水処理系列(中規模以上の処理場では、水処理はプールのコース(レーン)の様に並列して行われる場合が多く、各コースに相当するものを「系」と呼び、1系、2系、・・・と名付けることが多い)から成っている事が多いため、例えば、大規模処理場で10系列あるとすると、m=26×10=260変数となる。また、水処理以外の他のプラント(発電プラント、石油化学プラントなど)においても数百~数千変数になることはまれでなく、本実施形態では、そのような「多変量」の場合に特に効果を発揮する。
【0044】
次に、異常診断モデル自動構築部23では、Zを用いて、多変量解析手法である主成分分析(PCA)を用いたMSPC(多変量統計的プロセス管理)によるQ統計量やT^2統計量と呼ばれる異常検出用データの合成の概念を用いて、異常診断のための診断モデルを構築する。従来のMSPCとは異なる点は、m個の全変数に対して適用するのではなく、全ての2変数の組合せに対して適用している点である。
【0045】
まず、Q統計量を求めるための、PCAを適用する前に、各変数の時系列データはZの列ベクトルに対応するので、以下の変換により、Zの列ベクトルを各々正規化する。
【数1】
【0046】
ここで、ziはZの列ベクトル、Z=[z1,z2,・・・・,zm]であり、μiとσiは、ziの位置母数と尺度母数であり、典型的には平均と標準偏差である。ただし、異常データが含まれている場合などを想定して、位置母数として中央値(メジアン)、尺度母数として中央値絶対偏差(MAD)などを使うこともできる。また、ある割合のデータを除去して平均や標準偏差を求める刈り込み平均や刈り込み標準偏差を用いても良い。この(1)式による操作が、正規化部231の操作である。なお、μiとσiは、診断モデル比較・更新判定部11において、モデルの比較を行う際に用いるため、各変数についてベクトル化して保持しておくことが好ましく、以下の様に位置母数(センター値)ベクトルμと尺度母数(スケール値)ベクトルσを定義しておく。
【数2】
【数3】
【0047】
μは位置母数ベクトル、σは尺度母数ベクトルであり、各々変数の数m個の要素を持つベクトルである。これが正規化部231の作用である。
【0048】
次に、式(1)に示した正規化したデータXを用いて2変量のQ統計量を求める。この際、通常のMSPCと同様に、主成分分析(PCA)を用いて、PCAで定義されるローディング行列と呼ばれる行列Pと、ローディング行列を用いて定義される各主成分軸の分散Λを求める。いずれかの方法でm_C_2個の全ての組合せの2変数の相関係数に相当する要素からなる相関行列を生成して、これを診断モデルとしておく。これは、相関行列計算部232の作用である。
【0049】
次に、統計量閾値算出部233では、2変量Q統計量および1変量T^2統計量に対する閾値、並びにこれらの統計量から合成する後述の総合統計量の閾値を算出する。
【0050】
2変量Q統計量と1変量T^2統計量は、各々、m≧1変数のQ統計量とT^2統計量の閾値であるから、通常のMSPCで用いられる各統計量の信頼限界値を典型的な閾値の設定法とすることができる(非特許文献C.Rosen “Monitoring Wastewater Treatment Sy stems", Lic.Thesis, Dept. of Industrial Electrical Engineering and Automation, L und University, Lund, Sweden (1998))。
【0051】
具体的には、これらは、以下の様に書くことができる。
Qlimitの理論計算式(2変数の場合):
【数4】
【0052】
ここで、cαは、信頼区間の限界が1-αである場合の標準正規分布の標準偏差のずれ(例:α=0.01の場合、2.53、α=0.05の場合、1.96)である。また、λ2はΛの対角要素の2番目(第2主成分方向の分散)ある。つまり、Θiは、誤差項の成分(第2主成分)のi乗和である。
T2limitの理論計算式(1変数の場合):
【数5】
【0053】
ここで、nは全データ数である。F(1,n-1,α)は、自由度が(1,n-1)であり、信頼限界をα(=0.01あるいは0.05とすることが多い)とした場合のF分布である。
【0054】
このように、(4)式と(5)式で2変量Q統計量と1変量T^2統計量の閾値を計算することができるが、扱う変数を2変量(以下)にすることで、この閾値計算をより簡単化することができ、2つの閾値を設定する必要が原理的に無くなる。特に、(4)式は残差空間が多次元(2次元以上)である場合に、残差空間を張る各主成分方向の分散の違いを補正することを目的に導出された近似式であるが、2変量Q統計量では残差空間の次元は必ず一次元となるため、補正が不要になる。さらに、(1次元の)分散で正規化処理を行うことで本質的にQ統計量とT^2統計量との相違がなくなる。これを以下に説明する。2変数の場合Q統計量を定義するためには、必ず第2主成分方向をQ統計量の残差空間として設定する必要がある。なぜなら、第1主成分方向を(2変数の)T^2統計量を表す空間に含めない限り残差空間を定義することはできず、第1主成分と第2主成分を併せた空間を(2変数の)T^2統計量を定義する空間とすると、「残差」となる空間が存在しなくなるためQ統計量が定義できなくなるからである。
【0055】
図4は、実施形態のプロセス監視装置2における2変量Q統計量の考え方とローディング、主成分方向の分散の概念を表す図である。
【0056】
このことに注意すると、Q統計量を第2主成分方向の分散で正規化することが可能になり、このようにQ統計量を第2主成分方向の分散で正規化すると、それは第2主成分方向に対するT^2統計量を考えている事と同じになる。従って、2変数Q統計量を第2主成分方向の分散λ2iで正規化したものを新たにQ統計量と定義すれば、この新たなQ統計量の閾値は(5)式で表されるF分布の信頼限界で与えることができる。つまり、2変量Q統計量と1変量T^2統計量の閾値は、共に共通した(5)式で計算することが可能になる。
【0057】
この事実は、単に閾値設定を共通の指標でできるというだけでなく、閾値を設定する際に必要となるパラメータは信頼限界αとそれに用いるデータ点数nの2つのパラメータだけになるという実用面での大きなメリットをもっている。すなわち、一般に、Q統計量の閾値は、(4)式に代表される様に理論的な閾値は、診断モデルのパラメータである、主成分方向の分散に影響されるため、閾値自身が診断モデルを変更すると大きく変化する。これを別の観点で見るとQ統計量という値は、診断モデルによってその典型値自身が大きく変化することを意味している。一方、T^2統計量で用いられる(5)式はモデルのパラメータを含まないため、閾値は、設計者が設定する信頼限界αと用いたデータ点数nにしか依存しない。これは、T^2統計量は診断モデルによって大きく変化する量ではない事を意味しており、プラント監視の観点からはQ統計量より扱いやすい。この様な相違が生じる理由は、T^2統計量は「データが分布する空間の分散によって正規化された量」であるのに対し、Q統計量は「データが分布する空間からの乖離を表す指標」であることである。データが分布する空間の残りの残差空間に対してもT^2統計量を定義する事は原理的には可能であるが、Q統計量のもつ「相関関係の崩れ」あるいは「データ分布空間からの乖離」の意味が若干変化してしまうため、従来のMSPCでは残差空間に対してはQ統計量を定義して用いている。しかし、2変量のQ統計量の場合は、残差空間は第2主成分方向の1次元空間にしかなりえず、かつ第2主成分方向は用いるデータによらず唯一の方向(正相関の場合はXa=-Xbの軸方向、負相関の場合はXa=Xbの軸方向)に決まっているため、先述した第2主成分方向の分散で正規化したQ統計量(=残差空間でのT^2統計量)は、単にスケーリングの違いだけであり、本来のQ統計量と全く同じ意味を持つ。このような理由により、第2主成分方向の分散で正規化したQ統計量を用いるとQ統計量とT^2統計量を区別する必要が無くなり、診断モデルに依存しないパラメータαとnのみで決定できる(5)式で閾値を決めることができる。さらに(5)式において、データ点数nが十分大きい場合は、自由度(1,n-1)のF分布と自由度1のカイ乗分布はほぼ同じになることが統計学の分野で知られているため、十分な数のデータを用いて診断モデルを構築する場合は、(5)式は(6)式で考えても良い。
【数6】
【0058】
この事実は重要であり、充分なデータ数を用いて診断モデルの構築を行えば、結局、1変量T^2統計量と(修正した)2変量Q統計量に対する異常判定閾値は、設計者が設定する信頼限界値αだけで決められることを意味しており、診断モデルの扱いという観点では閾値設定の煩雑さを大幅に低減できる極めて有用な性質を持つ。
【0059】
なお、この事実を、別の観点から見ると、閾値設定をさらに簡素化することができる。統計学の分野では、(5)式の自由度(1,n-1)のF分布のα信頼限界値は、自由度(n-1)のt分布のα信頼限界値の2乗となることが知られている。これは、F分布の第一自由度が1である場合にのみ成立する特殊な関係であり、自由度が1である場合、F分布に従う統計量はt分布に従う統計量の2乗の統計量となっている事を意味している。一方、自由度n-1のt分布において、nを充分大きくとると(すなわちデータ量が十分であると)、t分布は正規分布によって近似できる事が知られている。さらに、正規分布に従う統計量(確率変数)の2乗統計量は自由度1のカイ2乗分布に従うことが知られている。すなわち、F分布において、第1自由度が1であり第2自由度が十分に大きい事は、本質的な変数の数が1つであり十分な量のデータがある事を意味しており、このような分布に従う統計量は、正規分布の2乗統計量として扱えば良いことを意味している(すなわち、自由度n-1のt分布に従う統計量の2乗統計量=自由度(1,n-1)のF分布に従う統計量→正規分布に従う統計量の2乗統計量=自由度1のカイ2乗統計量 asn-1→∞)。この視点に立つと、2変量Q統計量と1変量T^2統計量の閾値は、SPCの考え方で用いられるσ値による閾値設定をそのまま応用する事ができる。つまり、SPCでは正規分布を仮定して標準偏差のK倍という値を閾値の基準とし、K=2~3程度で設定することが多いが、(6)式で表される閾値は、具体的に信頼限界値αを設定しなくても、4~9程度で設定する事ができる。つまり、SPCにおいて、K=2の2σは1-α=約95%相当、K=3の3σは1-α=約99.7%相当であることは広く知られているので、例えば、α=1-0.997に設定して(6)式を計算することとT2lim=9と強制的に設定する事は同じ事である。従って、陽に信頼限界αを設定しなくても、3σ程度に相当するしきい値であれば3^2=9程度と直ちに計算する事が可能である。これは、計算を不要とする意味の利点だけでなく、1変量T^2統計量や2変量Q統計量がおおよそどの程度の値を持つ統計量であるかということを、直感的に把握する意味でも重要である。
【0060】
以上の様な考え方を用いると、容易に2変量Q統計量と1変量T^2統計量の閾値を決めることができる。
【0061】
次に、これらの統計量から合成する後述する総合統計量の閾値を決める必要がある。総合統計量は、後述するように、複数の決め方があるが、総合統計量を各2変数Q統計量と1変数T^2統計量の総和とした場合は、以下の様な考え方で閾値を決めることができる(その他の定義方法を用いた場合は、(5)式もしくは(6)式の閾値設定法を直接用いることができる)。
【0062】
総合統計量を、2変数Q統計量と1変数T^2統計量の総和とした場合、これらの各要素は、上述した様に自由度(1,n-1)のF分布に従い、近似的には自由度1のカイ2乗分布に従うので、m_C_2個の2変数Q統計量とm個の1変数T^2統計量の合計m+m_C_2個の統計量の和は、近似的に自由度m+m_C_2のカイ2乗分布に従うと考えることができる。従って、総合統計量の閾値は、次の(7)式で求めることができる。
【数7】
【0063】
ここで、Slimitは総合統計量の閾値である。ただし、(7)式が近似的に成立するのは、m+m_C_2の2変量Q統計量と1変量T^2統計量が各々独立な場合についてであり、互いに相関を持つ場合には、(7)式が近似的にも成立しない場合がある。このような場合には、m+m_C_2の2変量Q統計量と1変量T^2統計量に対して、例えば主成分分析PCAを適用して、その累積寄与率が90%~99%程度で設定する閾値を超過するまでの変数の数(独立な変数の数)を自由度として設定する方がより正確に診断を行える。
【0064】
いずれにしろ、自由度と信頼限界を与えれば(7)式で総合統計量の閾値を計算することができる。ここで注意すべき点は、入力変数の組合せを、mからp(≦m)に変化させた場合は、(7)式の自由度をm+m_C_2からp+p_C_2に変化させる、あるいは、主成分分析を用いて自由度の再計算を行うなどして、自由度を再設定して計算するだけでしきい値を修正できることである。さらに、mが十分に大きく多少の変数を増減させる場合は、m+m_C_2の値は十分に大きい(例えばm=100の場合5050)ので、また、PCAで算出する独立な変数の成分数は大きく変動するとは考えづらいため、多少の入力変数の組合せの変更の場合は、(7)式を更新する必要もほとんどないという事である。
【0065】
以上の様な処理により2変量Q統計量、1変量T^2統計量、および、総合統計量の閾値を設定することができる。これは、統計量閾値算出部233の作用である。
【0066】
以上の様に、データの正規化、相関行列の生成、および、閾値の生成、を行う事で異常診断モデル自動構築部23の作用が完了する。なお、この機能は、例えば、TM=1日などの所定の周期で実行されている。
【0067】
所定の周期で実行された異常診断モデル自動構築部23により生成された診断モデルは、診断モデル保存部24に保存される。例えば、TM=1日で設定されている場合は、毎日診断モデルが構築され、これがアクティブ診断モデル保存部25に所定のフォーマットで保存される。
【0068】
次に、診断モデル比較・更新判定部11では、異常診断モデル自動構築部23で定期的に生成され、診断モデル保存部24に定期的に保存された診断モデルに対し、モデルの比較を行い、オンライン診断に用いる診断モデルを採択する。モデルの比較は、(2)式と(3)式の位置母数ベクトル、尺度母数ベクトルと、相関行列の要素である相関係数に対して比較を行う。
【0069】
診断モデル比較・更新判定部11では、診断モデル保存部24に保存された診断モデルを比較しながら、最終的にアクティブ診断モデル保存部25に適用する診断モデルを保存する。これは、通常TL>TMなる周期で実施し、例えば、TL=2週間で設定すると、2週間毎にモデルの更新(非更新判断も含む)が行われることになる。これは、診断モデル比較・更新判定部11の作用である。
【0070】
次に、アクティブ診断モデル保存部25に保存された診断モデルを用いてオンライン異常監視・診断部26によりオンライン異常診断が行われる。この作用を以下に説明する。
【0071】
まず、オンライン異常診断データ抽出部222から、所定の周期THで全変数のリアルタイムデータを抽出する。例えば、TH=5分と設定して、5分周期で全変数のリアルタイムデータを取り込む。
【0072】
取り込んだデータは、(1)式と(2)式を用いて予め正規化しておく。これをx(t)とする。
【0073】
次に、2変量Q統計量算出部61で、m_C_2個の2変量Q統計量を計算する。Q統計量の算出式は、一般には(8)式で与えられる。
Q統計量:
【数8】
【0074】
次に、同様に、1変量T^2統計量算出部62は、m個の1変量T^2統計量を求める。T^2統計量の計算式は、一般には、次式で与えられる。
HotellingのT^2統計量:
【数9】
【0075】
1変量のT^2統計量は、単純に1つの変数に対して、(9)式を適用するが、1変数の場合はローディング行列P=1となり、主成分方向の分散は第1主成分しかないため、当該変数の分散そのものとなり、(1)式で表される正規化した変数そのものとなる。従って、1変量T^2統計量算出部62は、(1)式の正規化処理をオンラインデータに対して実施することと同義である。これらは、統計量算出部261の作用である。
【0076】
次に、2変量Q統計量と1変量T^2統計量を合成して変数毎の寄与量を定義する。
【0077】
最も単純であるが最も素直な定義は、「ある変数kに関するm-1個の2変量Q統計量と変数kの1変量T^2統計量の合計m個の総和」を変数kの寄与量として定義する方法である。このように定義することによって、「ある変数k自身に何等かの異常兆候が見られた時、もしくは、変数kと関連する(相関を持つ)変数との関係性が大きくくずれた時」に「変数kの寄与量が大きくなる」という特徴を変数kの寄与量に持たせることができる。
【0078】
別の定義方法としては、「ある変数kに関するm-1個の2変量Q統計量と変数kの1変量T^2統計量の合計m個の統計量の値の最大値」を変数kの寄与量として定義することもできる。このように定義すると、「ある変数k自身に何等かの異常兆候が表れた時か、あるいは、変数kと関連する変数との関係性がいずれか一つ以上崩れた時」に「変数kの寄与量が大きくなる」という特徴を、変数kの寄与量に持たせることができる。
【0079】
通常は、上記のいずれか一方の方法で変数kの寄与量を定義しておくことが好ましいが、目的に応じて、変数kに関する2変量Q統計量と1変量T^2統計量を利用してその他の定義を行っても良い。例えば、1変量T^2統計量は、先述の様に、本質的に通常のSPCによるプロセス監視と同じ事であるので、SPCで既に監視できている事象の監視・検出を本考案の監視システムに組み込みたくない場合には、2変量Q統計量のみを用いて定義することもできる。SPCでは検出できないような異常兆候を検出するという目的に特化する場合には、1変量T^2統計量を除外して変数kの寄与量を定義する方が好ましい。一方、本実施形態の異常兆候監視・診断システムにおいてSPCで検出する様な異常も含めて検出したい場合には、1変量T^2統計量も含めておく方が良い。
【0080】
このように、寄与量算出部262における寄与量の定義には自由度があるが、この自由度を用いることにより、どのような異常を検出したいかということを予め決めた上で、寄与量を柔軟に定義することができる。これは、本実施形態の重要な特徴の一つであり、ドリルダウン的なアプローチである従来のMSPCでは決して実現できない機能であり、本実施形態の様にビルドアップ的に定義していくことにより、より目的を明確にした診断システムの構築が可能になる。
【0081】
また、もう一つの重要な点は、入力変数の組合せを全変数mから、いくつか選択した変数p<mに変更する場合、寄与量の定義を変更することなく、選択した変数についてのみ上記の操作を行うことで寄与量を定義することができる。この点が本考案の尤も重要な点の一つであり、部分(部品)を積み上げるというアプローチをとることにより、入力変数の組合せの変更に伴う診断モデルの再構築という作業をほぼ不要にし、単に統計量や寄与量を計算する際に考慮したい変数のみを計算対象にするということで診断システムを実現することが可能になる。以上は、寄与量算出部262の作用である。
【0082】
次に、総合統計量算出部263では、寄与量算出部262で算出した各変数に対する寄与量からプラント全体を監視する総合統計量Sを算出する。この総合統計量Sの定義にも大きな自由度がある。
【0083】
最も素直で自然な総合統計量Sの定義方法は、寄与量算出部262で算出した各変数の寄与量の総和を総合統計量Sとする方法である。これは最も自然であり、従来のMSPCの考え方とも整合する。従来のMSPCでは、Q統計量やT^2統計量が先に算出され、その統計量を分解する形で寄与量が定義されているが、本実施形態では、この逆に寄与量を先に定義した上で、それの総和をとる形で総合統計量Sを定義する。プラントを監視するオペレータから見れば、総合統計量を分解したものが寄与量になっている、という点ではMSPCでも本考案の監視方法でも変わらない。従って、見かけ上はMSPCと全く同じようにシステムを構築することができるが、実際には、寄与量を積み上げることにより統計量が定義されているので、先述したとおり、診断の目的を明確にしやすい。
【0084】
もし、寄与量算出部262で各変数の統計量を2変量Q統計量と1変量T^2統計量の総和で定義している場合は、ここで定義した総合統計量Sは、結果的に全ての2変量Q統計量と1変量T^2統計量の総和を計算していることと同じである。従って、本質的には、寄与量算出部262は不要であるが、後述する様に異常兆候検出時の要因を逆に辿る(推定する)際に、変数毎の寄与量を算出しておいた方が分かりやすい事や、寄与量算出部262で定義し算出する寄与量を総和で定義しない場合にも総合統計量SをMSPCと整合する様にうまく定義できるなどのメリットがあるため、寄与量算出部262で寄与量を算出する。
【0085】
また、総合統計量Sの定義方法にも自由度があり、寄与量算出部262の場合と同じ様に、「各変数の寄与量の中の最大値を総合統計量とする」という定義を用いることもできる。この定義を用いると従来のMSPCで保証されている「統計量=寄与量の総和」という関係は崩れるものの、例えば、寄与量算出部262の寄与量にも同様の定義を用いた場合は、結果的に2変量Q統計量もしくは1変量T^2統計量のいずれか一つ以上に異常兆候が認められる場合に総合統計量で異常兆候を検出することになる。つまり、2変量Q統計量もしくは1変量T^2統計量で検出可能な異常兆候であれば、その兆候をもれなく検出する事ができる非常に高感度の異常兆候監視・診断を実現することができる。通常は、このような異常兆候監視・診断は、検出感度が高くなりすぎて、アラーム発報が多発する傾向を持つ可能性が高いので、一般的には、このように総合統計量を定義してシステムを構築することは好ましくない可能性が高い。しかし、例えば、総合統計量Sを寄与量の総和で定義した場合に異常兆候の検出感度が十分に高くならない場合には、総合統計量Sの定義をこのように変更するだけで、より検出感度の高い異常兆候監視・診断システムを、ユーザから見た監視のあり方は不変のままで、実現することが可能になる点には注意しておく必要がある。
【0086】
以上の様に寄与量の総和や最大値によりm変数の寄与量から1つの総合統計量を算出する機能は、総合統計量算出部263の作用である。
【0087】
以上の様に算出した総合統計量Sをそのままプラント監視に用いても良いが、異常検出と要因推定を行う異常兆候診断システムとして実現する場合には、以下に示す正規化処理を行っておくことが好ましい。すなわち、総合統計量算出部263で算出した総合統計量Sを統計量閾値算出部233で算出した総合統計量Sの閾値で割ることにより正規化した正規化総合統計量Snを算出する。総合統計量を寄与量の和で定義する場合には、前述の(7)式で定義した総合統計量Sの閾値で割ることにより正規化する。もし、総合統計量を寄与量の最大値で定義し、寄与量を2変量Q統計量と1変量T^2統計量の最大値で定義する場合には、(5)式もしくは(6)式の閾値を用いて総合統計量Sを正規化する方が好ましい。
【0088】
また、各変数の寄与量を2変量Q統計量と1変量T^2統計量の総和で定義し、その各変数の寄与量の最大値を総合統計量Sとして定義するという様な組合せを用いる場合には、総和で定義される寄与量に対して(7)式に相当する閾値を計算して、正規化処理を行った上で、その最大値を正規化総合統計量と定義すれば良い。
【0089】
(6)式と(7)式の本質的な相違は、自由度の相違だけであるため、定義した総合統計量Sがどのような自由度の統計量としてとらえるべきかを考えて、閾値を調整した上で、その閾値で割る事により、最終的に閾値=1の正規化統計量を算出する。
【0090】
また、入力変数の組合せを大幅に変更する場合には、総合統計量Sの自由度も変化しうるので、統計量閾値算出部233で算出する総合統計量の閾値を予め算出しておくのではなく、正規化総合統計量算出部264において自由度を決定した上でリアルタイムに算出する様にしておいても良い。ただし、予め決めた入力変数の組合せに対して多少の入力変数の追加や削除では、大幅な自由度の変化は無いと考えられるので、予め統計量閾値算出部233で算出しておいた総合統計量の閾値をそのまま適用しても実用的には、多くの場合は問題にならないと考えられる。
【0091】
このように総合統計量の閾値で割ることにより閾値1で異常兆候の判断を行う正規化統計量Snを算出する。なお、正規化統計量Snを求める場合には、それに対する寄与量や、その寄与量を生成するための2変量Q統計量や1変量T^2統計量も総合統計量に用いた閾値と同じ値で正規化しておく必要がある。
【0092】
なお、物理的な意味を持たない統計量によるプラント監視においては、このような正規化は重要であるが、必ずしも1を閾値とする指標が好ましいとは限らない。なぜなら、正規化総合統計量SnではSnが1を超過すると異常と見なされるが、超過量はどれだけでも上昇しうるので、例えば、伝送エラーや欠測値の置換などで過大な値がプラント監視データに混入している場合に、このような定義した正規化統計量Snが例えば100以上となる様な過大な値になってしまうこともある。このような過大な値をとる場合は、伝送エラーなどの外れ値の影響による場合が多いと考えられ、通常は閾値1に対して5程度以上の値となる様な状態は、確実な異常状態であり、それ以上の値を識別して監視することは必ずしも好ましい事ではない。特に、統計量の時系列データをトレンドグラフなどと呼ばれる方法で監視する場合には、総合統計量の上下限が明確に決まっている方がプラント監視に用いるトレンドグラフ等への表示が容易であり、ユーザであるプラント管理者にとってもわかりやすい。そこで、閾値を1で正規化した統計量を、例えば、0~1(0%~100%)の値を取る正規化指標に替えてしまうこともできる。この場合、閾値を1で正規化した総合統計量に対して、さらに、例えば(10)式で定義する様な非線形変換を加える。
【数10】
【0093】
ここで、SNは、正規化総合統計量Snを(10)式で非線形変換した新たな正規化総合統計量であり、0~1の値を取り、Sn=0の時にSN=0、Sn=∞の時にSN=1となる様に範囲に制約を与えた統計量である。また、Sn=1の時にSN=0.5となるので、SNを正規化総合統計量とする場合には、完全正常=0、完全異常=1で閾値が0.5となる様な異常指標となる。なお、SNを定義する(10)式は、非線形変換となっているので、Snに対する寄与量も(10)式と同じ変換を行うと「総合統計量=寄与量の総和」という関係式を維持できない。そのため、正規化総合統計量SNに対する寄与量は、次式で再定義する。
【数11】
【0094】
正規規化総合統計量SNを変換前の正規化総合統計量Snの寄与率で按分したものを変数kのSNへの寄与量として再定義することで、「総合統計量=寄与量の総和」という関係式を維持することができる。以上は、正規化総合統計量算出部264の作用である。
【0095】
次に、異常判定部265では、正規化統計量SnもしくはSNを用いて異常判定を行う。この処理は単純であり、既に総合統計量の正規化を行っているので、Snを用いる場合にはSnが1を超過するか否かで異常の有無を判断する。SNを用いる場合には、SNが閾値0.5を超過するか否かで異常の有無を判断する。もちろん、時系列データにはノイズが混入することもありうるので、例えば「閾値1(あるいは0.5)超過が一定時間以上継続する場合」を異常判定の基準とすることもできるし、ある所定期間中に閾値1を超過する割合が多い場合を異常判定の基準とすることもできる。
【0096】
いずれにしろ、このように正規化した総合統計量Sn、あるいは、SNの値により異常発報を行うか否かの判断基準を与えておき、異常判定部265では、この基準により異常の有無の判定を行う。これは、異常判定部265の作用である。
【0097】
次に上位要因推定部266では、正規化総合統計量SNに異常兆候が認められた場合、SNに対する寄与量を大きい順に(降順に)ソートし、寄与量の大きい上位L個の変数の寄与量を、異常兆候時の要因候補となる変数として抽出する。ここで、Lは設計者が決めるパラメータで、通常3~10程度で設定する。あるいは、寄与量に対して閾値ThCを設定し、ThCを超過する変数を要因候補変数として抽出しても良い。
【0098】
このようにSNに対する寄与量に基づいて上位要因を推定する機能は、上位要因推定部266の作用であり、この作用は、従来のMSPCで実施している事と同じである。
【0099】
以上がオンライン異常監視・診断部26の作用である。
【0100】
次にユーザインターフェース部28は、プロセス監視装置2が監視制御システム(SCADA)上に構築されている場合には、SCADAの監視画面を通して、またクラウド上に実装している場合には、WEBブラウザなどで監視できる監視画面を通して、オンライン異常監視・診断部26で算出した各種の情報と、オンライン異常診断データ抽出部222で抽出したオンラインのプロセスデータを適切な監視情報として表示部281へ表示する。ユーザは表示部281に表示される監視情報を監視することが可能である。この監視形態としては、様々な方法が考えられる。
【0101】
図5は、実施形態に係るプロセス監視装置2の表示部281に表示される監視画面の一例を示す図である。
図5に示すトレンドグラフ301は、正規化総合統計量SNのトレンドグラフである。
図5に示すように、正規化総合統計量SNは0~1の範囲の値となっており、表示範囲の中で閾値0.5を超過すると異常兆候が現れていると判断できるトレンドグラフである。
図5では、正常な状態から異常な状態に状況が変化していっていることが読み取れる。
図5に示すバーグラフ302は正規化総合統計量に対する寄与量の上位8要因についてプロットした寄与量プロットと呼ばれるバーグラフである。このバーグラフから、特に上位2個の変数(MLSS)が異常兆候の要因として疑わしいと目視で判断することができる。
図5に示す8つのトレンドグラフ311~318は、寄与量プロットで表示されている上位の異常兆候の要因と推定された変数に対するトレンドグラフを、各トレンドグラフの通常の変動範囲と共にプロットしたものである。
図5に示すトレンドグラフ311~318より、上位2つの要因変数(MLSS)に大きな低下傾向があることがわかる。
【0102】
図5に示す監視情報の表示方法は、異常を検知するための閾値を設定した監視方法であり、単なる監視だけでなく診断を行う場合には、「診断のロジック」を付加すれば良い。例えば、
図5において、正規化総合統計量が0.5を超過する期間が所定時間以上継続した場合に、異常であるというアラームを表示画面、文字、音声、メールなどで発報する。
図5では、警告表示303が設けられているが、このような警告表示303をしたり、加えて「異常兆候が認められます」などのメッセージを画面上に表示したり、遠隔にいる運転員にメールで配信したりすることもできる。また、音声でアラーム音を同時に鳴らすこともできる。そして、上位の異常要因が明確にわかる様に、例えば、
図5に示しているように、寄与量が所定の閾値(例えば、0.3=30%)を超過すると黄色表示にするなど、どこに異常が現れているかを明確に示し、また、この情報を文字、音声、メールなどで表示・配信することにより、異常値兆候の「診断」も可能になる。所定の閾値は、統計量閾値算出部233によって設定されてもよい。
【0103】
図5に示す監視方法は、プラント監視という観点からは、従来のMSPCによる監視方法と全く同一である。つまり、本実施形態では、見かけ上は従来のMSPCと全く変わらない監視方法とすることができる。
【0104】
本実施形態では、見かけ上はMSPCと全く変わらない監視方法でプラント監視をすることができる。本実施形態が大きな効果を発揮するのは、以下に示す様な場合である。
【0105】
図6は、実施形態に係るプロセス監視装置2の表示部281に表示される監視画面の一例を示す図である。
図6に示す監視画像は、
図5と同様な監視方法であるプラントの監視を行ったものである。
図6に示すように、トレンドグラフ401の正規化総合統計量SNは、ほぼ上限値の1に張り付いており完全な異常状態である。この原因は、異常兆候の第一要因として推定されているpHの値が異常状態であったためであり、これはpH計が故障している事が真の原因であった。このような場合、pH計が故障異常であるため、正規化統計量SNがほぼ1となることは正しい判断であるが、一旦pH計故障が原因であると分かってしまえば、それを常に監視・診断し続ける必要は無い。むしろ、pH計故障以外の他の異常兆候の監視が困難になる。もちろん、他の異常が生じた場合には、寄与量プロットの上位要因に当該異常の要因変数が上がってくることが期待されるが、正規化総合統計量SNは常時1付近にあるため、新たな異常兆候が表れた場合にプラント運転員がその変化に気づきにくい。このような場合は、従来のMSPCでは、故障が復帰するまで故障しているセンサの情報を入力変数から除外して、再度異常診断モデルを構築する必要がある。もしくは、故障したセンサに対するデフォルト値(標準値)などを予め決めておいてその値で置換することにより暫定的に故障センサの情報の影響を抑えた監視を行う必要がある(マスキング処理)。しかし、これはあくまでも応急措置である。本実施形態はこのような場合に特に効果を発揮し、pH計の情報を入力変数から除外したい場合には、異常診断モデル自動構築部23には全く修正を入れる必要はなく、オンライン異常監視・診断部26において、2変量Q統計量と1変量T^2統計量の算出時に、単にpH計に関する情報を単に除外すれば良いだけである。厳密には総合統計量SNの閾値も変化する可能性があるが、通常、数個程度の入力変数の変更では閾値再計算も不要である。本実施形態では、このように入力変数の組合せ変更の場合に、従来のMSPCと比較して各段に容易に対応できるという特有効果がある。
【0106】
さらに、従来のMSPCと比較して、細かいビルディングブロックを部分情報として持っているので、監視形態自身をもアレンジして、よりわかりやすい監視形態にすることもできる。
【0107】
2変量Q統計量や1変量T^2統計量の情報自身を、総合統計量異常時の要因とする監視方法を取ることもできる。この場合、
図5や
図6の監視形態に替えて、要因推定として、「ある特定の変数kが要因である(1変量T^2統計量異常)」と推定するか、「ある変数Xと別の変数Yの相関の崩れが要因である(2変量Q統計量異常)」と推定する。この場合、
図5に示す寄与量プロットのバーグラフ302及び
図6に示す寄与量プロットのバーグラフ402の表示を、(正規化した)2変量Q統計量、あるいは、1変量T^2統計量の値として監視することになる。
【0108】
図7は、実施形態に係るプロセス監視装置2の表示部281に表示される監視画面の一例を示す図である。
図5に示す上位要因のトレンドグラフ311~318及び
図6に示す上位要因のトレンドグラフ411~418は、2変量間の関係性の崩れを見る場合には、
図7に示す様に2変量の散布
図511~518で表し、監視時点の時刻のデータの位置がわかる様にしておく。
【0109】
要因が1変量T^2統計量に現れる場合は、当該変数のトレンドグラフを表示しても良いが、2変量Q統計量が要因である場合との表現をそろえるために、該当する変数kを横軸と縦軸の両方にとり45度の直線上の位置として表示しても良い。
【0110】
さらに、総合統計量算出部263により出力された総合統計量に対する統計量についての寄与率、及び統計量に対するT^2統計量と変数並びに他の変数のQ統計量とに関する寄与率を表示部281に表示させる監視形態をとることもできる。この場合、まず、
図5や
図6の様な監視画面で異常要因を変数k毎に推定する。ここまでは、従来のMSPCの監視と同様である。そして、
図5に示す寄与量プロットのバーグラフ302及び
図6に示す寄与量プロットのバーグラフ402において、要因である可能性の高い変数(Xとする)のバーをクリックすると、
図8もしくは
図9の様なグラフを表示する。
【0111】
図8は、実施形態に係るプロセス監視装置2の表示部281に表示される変数Xに関連する正規化した2変量Q統計量と1変量T^2統計量のバーグラフである。
図8に示すバーグラフは、寄与量の高い上位要因である変数kに対する寄与量であり、要因をドリルダウンしていくものである。つまり、何等かの異常が生じた場合に、それに関連がある変数はXであると推定した上で、Xが要因となっているのは、X自身が異常になっているか、Xと関連するYとの関係が異常になっているのか、をさらに推定するという構造になっている。
図8において、各棒は一変量T^2統計量または二変量Q統計量を示しており,変数Xに関する一変量T^2統計量および二変量Q統計量の各棒が配置されている。
【0112】
図9は、実施形態に係るプロセス監視装置2の表示部281に表示される2変量Q統計量と1変量T^2統計量の値を濃度表示と共に表した図である。
図9に示すように、上位の要因のある特定の変数だけを見るのではなく、その変数と相関が高い変数群を抽出した上で、それらの変数に関連する2変量Q統計量と1変量T^2統計量の値を濃度(色)表示と共に表す。この場合、Xと相関の強い変数が2つあり(Y、Zとする)、X、Y、Z に関連する(正規化した)2変量Q統計量と1変量T^2統計量の値を表している。
図9に示すように、表示部281にXの1変量T^2統計量701と、X及びYの2変量Q統計量702、704と、X及びZの2変量Q統計量703、707と、Yの1変量T^2統計量705と、Y及びZの2変量Q統計量706、708と、Zの1変量T^2統計量709と、を表示する。この例の場合、YとZの関係性が大きく崩れている事が要因であり、恐らくそれは、Yによって引き起こされているであろうことが推定できる。このような2次元表示をすることで、異常の要因をより推定しやすくすることができる。
【0113】
図10は、実施形態に係るプロセス監視装置2の表示部281に表示される上位推定要因に相関の高い2変数の組合せに対して行列散布図と現在値を示す図である。
図10に示すように、行列散布図と相関係数の同時表示という表示形式をとることもできる。
図10に示すように、上位推定要因と相関の高い2変数の組合せに対して行列散布図を描き、その中で現在値811~819を示す。さらに、相関係数821~829を表示することで、本来どの程度の相関を持っているかを視覚的に把握することができる。
図10に示す表示は、
図9に示す表示の代用として用いても良いし、
図9と
図10を切り替えられる様な表示形態としても良い。
【0114】
入力変数選定部29では、先に述べた様に表示部281に表示される監視画面が
図7に示す様な状態になってしまった場合や、ユーザであるプラント運転員の判断で変数の追加・削除を行いたい場合に、変数を選択する画面を表示部281に表示させ、適宜入力変数の組合せを切り替えることが可能である。
【0115】
また、表示部281は、寄与率の閾値を所定時間以上超えたことにより除外された後の残りの変数を表示可能である。本来、多変量のプラント監視においては、外れ値などの影響である変数が全体の監視に影響を与えない限りは、できるだけ多くの変数をまとめて監視する方が良いと考えられるため、デフォルト(最大数)の入力変数の組合せを決めておき、ある特定の変数の寄与量(寄与率)が常時高くなる期間が所定時間以上継続する場合には、自動的に当該変数を削除していき、
図7に示す様な状態に陥らない範囲で最大数の入力変数の組合せで監視する様な、入力変数の自動選定を付加した監視形態としても良い。所定時間は、任意の方法で決定された一定の時間であればよい。所定時間は、設定者によって任意の時間に設定されてもよい。
【0116】
以上のように、本実施形態の構成により、ビルディングブロックを積み上げるビルドアップ型の監視形態をとることが可能となる。それにより、目的に応じて柔軟な監視システムを構築できるだけでなく、要因推定の方法をアレンジすることができ、真の要因をより容易に推定する事が可能になる。
【0117】
図11は、実施形態に係るプロセス監視装置2の変形例の構成を示す図である。実施形態に係るプロセス監視装置2は、
図11に示すように、統計量閾値算出部233、正規化総合統計量算出部264、異常判定部265及び上位要因推定部266を除いた構成であってもよい。
【0118】
図12は、実施形態に係るプロセス監視装置2の別の変形例の構成を示す図である。実施形態に係るプロセス監視装置2は、
図12に示すように、さらに寄与量算出部262を除いた構成であってもよい。
【0119】
図13は、実施形態に係るプロセス監視装置2のさらに別の変形例の構成を示す図である。実施形態に係るプロセス監視装置2は、
図13に示すように、さらに1変量T^2統計量算出部62を除いた構成であってもよい。
【0120】
なお、
図11~
図13に示す本実施形態の変形例では、診断を行わずに単にプラント監視情報を提供するシステムとして実現する事ができる。つまり2変量Q統計量と1変量T^2統計量とを用いる場合、それら全ての組合せについて計算しておけば、それを統合するだけで監視システムを構築することも可能である。また、必ずしも閾値による正規化処理を行わなくても良いため閾値の算出処理を省略した構成とすることもできる。
【0121】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0122】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載され得るが、以下には限られない。
【0123】
(付記1)
対象プロセスの状態量や操作量を所定の周期で計測することのできる少なくとも2つ以上のm(≧2)個の複数のプロセスセンサを有する任意のプロセスにおいて、前記プロセスセンサによって計測される複数(m)個のプロセス変数の時系列データを所定の周期で収集し保存するデータ収集・保存機能と、前記データ収集・保存機能から所定の期間のデータを抽出するデータ抽出機能を有し、前記データ抽出機能によって抽出された、複数(m)個のプロセス変数の時系列データに対して、m個中から2個のプロセス変数の全ての組合せm_C_2の2変数データについて多変量統計的プロセス管理手法(MSPC)によりQ統計量を計算する2変量Q統計量算出機能と、m個の変数の中から指定したp(≦m)個の変数に関係するp_C_2個の2変量Q統計量の総和によってp変数の異常検出用データである総合統計量を算出する総合統計量算出機能とを有し、所定の周期でオンラインで計測したm変数中のp変数のオンライン計測データから、2変量Q統計量とそれに基づく総合統計量を計算し監視する総合統計量監視機能と、総合統計量監視機能に対する2変量Q統計量の寄与の割合を算出し、p_C_2個の2変数の組合せの寄与率を算出し監視する総合統計量寄与率監視機能と、を有するモジュラー型異常兆候監視装置。
【0124】
(付記2)
(付記1)に記載の発明において、前記2変量Q統計量算出機能に加え、m個の変数の1変量のT2統計量を算出する機能を有し、前記総合統計量算出機能において、p(≦m)変数に関するp_C_2個の2変量Q統計量に加えp個の1変量T^2統計量も加えた(p+p_C_2)の総和によってp変数の異常検出用データである総合統計量を算出する様に修正を加えた総合統計量算出機能と、所定の周期でオンラインで計測したm変数中のp変数のオンライン計測データから、2変量Q統計量および1変量T^2統計量とそれに基づく総合統計量を計算し監視する総合統計量監視機能と、総合統計量監視機能に対する2変量Q統計量および1変量T^2統計量の寄与の割合を算出し、p_C_2個の2変数の組合せおよびp個の変数の寄与率を算出し監視する総合統計量寄与率監視機能とを有するモジュラー型異常兆候監視装置。
【0125】
(付記3)
(付記1)もしくは(付記2)に記載の発明において、前記総合統計量を、2変量Q統計量と(1変量T^2統計量が定義されている場合は)1個の1変量T^2統計量の総和で定義するのではなく、これらの統計量の最大値で定義することを特徴とするモジュラー型異常兆候監視装置。
【0126】
(付記4)
(付記1)~(付記3)に記載の発明において、前期総合統計量寄与率監視機能の各変数k,k=1,2,3,…,pに関連するp-1個の2変量Q統計量と1変量T^2統計量が定義されている場合は1個の1変量T^2統計量の合計p個のkに関連する寄与率から、変数kに関する寄与率を新たに合成して定義する機能を有し、前期総合統計量算出機能として、新たに定義した変数kに関する寄与率の総和で総合統計量を定義することを特徴とし、総合統計量とkに関する寄与率を監視することを特徴とするモジュラー型異常兆候監視装置。
【0127】
(付記5)
(付記4)に記載の発明に加えて、総合統計量とkに関する寄与率とそれを構成する2変量Q統計量およびT^2統計量の寄与率を2段階で監視することを特徴とするモジュラー型異常兆候監視装置。
【0128】
(付記6)
(付記1)~(付記3)および(付記5)に記載の発明において、2変量Q統計量の寄与率表示を行う際に、2変数間の相関係数and/or2変数間の行列散布図と同時に寄与率を表示することを特徴とするモジュラー型異常兆候監視装置。
【0129】
(付記7)
(付記1)~(付記6)に記載の発明に加えて、前記総合統計量に関する異常検出しきい値を設定する機能を有し、設定した異常検出しきい値で総合統計量を正規化して正規化した総合統計量および寄与量を監視することを特徴とするモジュラー型異常兆候監視装置。
【0130】
(付記8)
(付記7)に記載の発明において、入力変数として選択する初期の入力変数をm個の全ての変数として、正規化した総合統計量および寄与量を監視し、ある変数kに関する寄与量が所定のしきい値を継続して超過し、その経過時間が予め指定した所定の時間を超える場合に、当該変数を自動的に除外し、好ましくは、除外した変数kを監視画面上に提示することを特徴とするモジュラー型異常兆候監視装置。