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特許7379712エネルギーフィルタ、およびそれを備えたエネルギーアナライザおよび荷電粒子ビーム装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】エネルギーフィルタ、およびそれを備えたエネルギーアナライザおよび荷電粒子ビーム装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/05 20060101AFI20231107BHJP
   H01J 37/244 20060101ALI20231107BHJP
   H01J 37/12 20060101ALI20231107BHJP
   H01J 37/28 20060101ALN20231107BHJP
【FI】
H01J37/05
H01J37/244
H01J37/12
H01J37/28 B
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2022538493
(86)(22)【出願日】2020-07-20
(86)【国際出願番号】 JP2020027993
(87)【国際公開番号】W WO2022018782
(87)【国際公開日】2022-01-27
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本田 和広
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 博之
(72)【発明者】
【氏名】土肥 隆
(72)【発明者】
【氏名】松永 宗一郎
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-331764(JP,A)
【文献】特開2017-204375(JP,A)
【文献】特開2019-87337(JP,A)
【文献】特開2012-104483(JP,A)
【文献】特表2002-500414(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0187436(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/05
H01J 37/244
H01J 37/12
H01J 37/28
H01J 49/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子源から放出される荷電粒子ビームのエネルギー分散ΔEを抑えるエネルギーフィルタであって、
開口部を有する単孔電極対と、当該開口部の半径よりも大きい半径を有する空洞部であって、前記開口部の中心を光軸として回転対称に設けられた空洞部と、を有する減速電極と、
前記減速電極の前段に設けられた第1電極と、
前記減速電極の後段に設けられた第2電極と、
を備えるエネルギーフィルタ。
【請求項2】
請求項1において、
前記減速電極の光軸方向の幅をD、前記開口部の半径をRとすると、前記減速電極はD/R≧5の関係を有する、エネルギーフィルタ。
【請求項3】
請求項1において、
前記第1電極と前記第2電極にそれぞれ所定の電位が印加されることによって発生する電界が前記空洞部の内部に侵界し、前記荷電粒子ビームのエネルギーと抗する電位の鞍点が形成される、エネルギーフィルタ。
【請求項4】
請求項3において、
前記エネルギーフィルタは、前記鞍点と交わる前記光軸の近傍で、前記荷電粒子ビームのエネルギー選別を行うハイパスフィルタとして作用する、エネルギーフィルタ。
【請求項5】
請求項1において、
さらに、前記荷電粒子源と前記第1電極との間に配置され、前記減速電極の入り口近傍に前記荷電粒子ビームの集束点を形成する集束レンズ系を備える、エネルギーフィルタ。
【請求項6】
請求項5において、
前記集束点を通過した前記荷電粒子ビームは、前記光軸と平行に前記減速電極の前記空洞部に入射する、エネルギーフィルタ。
【請求項7】
請求項5において、
前記集束レンズ系は、前記荷電粒子源を物点とし、前記集束点を像点とした拡大系であるエネルギーフィルタ。
【請求項8】
請求項5において、
前記集束レンズ系は、少なくとも二段の集束レンズを含み、当該二段の集束レンズの間に中間集束点を有し、
前記二段の集束レンズのうち、前記荷電粒子源から近位に位置する上流側の集束レンズは、前記荷電粒子源を物点とし、前記中間集束点を像点とする縮小系を構成し、
前記二段の集束レンズのうち、前記荷電粒子源から遠位に位置する下流側の集束レンズは、前記中間集束点を物点とし、前記減速電極の入り口近傍に形成された前記集束点を像点とする拡大系を構成する、エネルギーフィルタ。
【請求項9】
請求項2において、
前記単孔電極対において前記荷電粒子ビームの入口側に配置される単孔電極の焦点fと前記開口部の半径Rとの関係が、f=λR、λ=0.64±0.05として表されるエネルギーフィルタ。
【請求項10】
請求項5において、さらに、
前記集束レンズ系と、前記減速電極と、前記第1電極と、前記第2電極と、を絶縁体で保持する保持材と、
外部の浮遊磁場を遮蔽するシールド部材と、
を備えるエネルギーフィルタ。
【請求項11】
請求項10において、
前記シールド部材は、透磁率の高い磁性体で構成され、前記集束レンズ系を構成する電極に接続されているエネルギーフィルタ。
【請求項12】
請求項1において、
前記第1電極に印加される電圧は、前記荷電粒子ビームの加速電圧に等しく、
前記第2電極に印加される電圧は、可変である、エネルギーフィルタ。
【請求項13】
請求項1のエネルギーフィルタと、
前記エネルギーフィルタの後段に配置されたファラデーカップと、
前記ファラデーカップに流入する荷電粒子ビームの電流量を計測する電流計と、
前記電流量に基づいて、前記荷電粒子ビームのエネルギー分散ΔEの値を算出するΔE計測制御器と、を備え、
前記ΔE計測制御器は、
前記減速電極に電圧Vrを印加した時の前記電流計で計測した電流量Ip(Vr)からその微分値を計測する処理と、
前記電圧Vrに対する前記電流量Ip(Vr)の微分値で示されるスベクトルの半値幅を前記荷電粒子ビームのエネルギー分散ΔEの値として算出する処理と、
を実行するエネルギーアナライザ。
【請求項14】
請求項13において、
前記ΔE計測制御器は、前記電流量Ip(Vr)の微分値が最大になる電圧Vrまたは電流量Ip(Vr)の変曲点となる電圧Vrを前記減速電極に印加するエネルギーアナライザ。
【請求項15】
試料に荷電粒子ビームを照射して前記試料の情報を取得する荷電粒子ビーム装置であって、
請求項1のエネルギーフィルタと、
前記エネルギーフィルタの前段に配置された荷電粒子源と、
前記エネルギーフィルタを構成する最前段の電極に前記荷電粒子源から荷電粒子を引き出す電圧を印加する電源と、
を備える荷電粒子ビーム装置。
【請求項16】
請求項15において、
さらに、前記エネルギーフィルタの後段に配置され、前記荷電粒子ビームを前記試料に集束させる電子レンズを備える荷電粒子ビーム装置。
【請求項17】
請求項16において、
さらに、前記エネルギーフィルタと前記電子レンズとの間に配置された絞りを有し、
前記絞りが、前記エネルギーフィルタの出口近傍に集束点を有し、当該集束点から放射される荷電粒子の放射角度を制限することによって、前記エネルギーフィルタを通過した前記荷電粒子ビームの高エネルギー側のエネルギーを持つ荷電粒子の一部を制限する荷電粒子ビーム装置。
【請求項18】
請求項17において、
前記エネルギーフィルタの後段に配置された絞りと、
前記絞りの後段に配置されるファラデーカップと、
前記ファラデーカップに流入する荷電粒子ビームの電流量を計測する電流計と、
前記電流量に基づいて、前記荷電粒子ビームのエネルギー分散ΔEの値を算出するΔE計測制御器と、
前記ファラデーカップの位置を動かす駆動部と、
を備え、
前記ΔE計測制御器は、
前記減速電極に電圧Vrを印加した時の前記電流計で計測した電流量Ip(Vr)からその微分値を計測する処理と、
前記電圧Vrに対する前記電流量Ip(Vr)の微分値で示されるスベクトルの半値幅を前記荷電粒子ビームのエネルギー分散ΔEの値として算出する処理と、
前記電流量Ip(Vr)の微分値が最大になる電圧Vrまたは電流量Ip(Vr)の変曲点となる電圧Vrを前記減速電極に印加する処理と、を実行し、
前記電圧Vrを前記減速電極に印加した後、前記駆動部は、前記ファラデーカップを前記光軸から外す荷電粒子ビーム装置。
【請求項19】
請求項15において、さらに、
前記試料から放出される荷電粒子を収集するインプットレンズと、
荷電粒子を検出する荷電粒子検出器と、備え、
前記エネルギーフィルタは、前記インプットレンズで収集された荷電粒子のエネルギー選別をし、
前記荷電粒子検出器は、前記エネルギーフィルタで選別された前記荷電粒子を検出する荷電粒子ビーム装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エネルギーフィルタ、およびそれを備えたエネルギーアナライザおよび荷電粒子ビーム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子を試料に照射することにより試料情報を解析あるいは画像化する装置には、例えば、走査型電子顕微鏡(以下SEM)、透過型電子顕微鏡(以下、TEM)等がある。装置の性能を主に左右するのは荷電粒子源から放射された荷電粒子ビームの特性であり、その一例として、荷電粒子ビームが持つエネルギー分散(以下、ΔE;エネルギー分解能ともいう。なお、エネルギー分散とはエネルギーがばらつく現象を言い、エネルギー分解能とは装置の特性を示す)があげられる。ΔEが大きいと、電子レンズで荷電粒子ビームを集束する際に色収差としてビームぼけを発生させるため、ΔEの小さい荷電粒子源、および色収差を小さくする低収差電子レンズの開発が進められてきた。ΔEは熱によって増加することから、荷電粒子源の温度を室温で動作させる冷陰極電子源や、色収差を電子光学的に補正する収差補正レンズが開発されてきた。しかしながら、これらの安定動作条件は厳しく、今日要求されるより小さいΔEを安定して得ることは困難となってきている。
【0003】
その他の技術として、荷電粒子源から放出された荷電粒子ビームをエネルギーフィルタに入射させ、エネルギー分別した荷電粒子ビームを形成する技術がある。その一例として、ウィーンフィルタ、オメガフィルタが挙げられる。これらは、磁場及び電場を組み合わせて荷電粒子のエネルギー分散軌道を光軸上に発生させるものである。光軸は直線或いは曲線をなし、磁場及び電場を組み合わせる。このため、装置構成が複雑であり、簡易に使用できるとは限らない。そこで、簡易性の観点から、従来から減速型のエネルギーフィルタが使用されてきた。
【0004】
図1は、従来の減速型のエネルギーフィルタの構成例を示す図である。エネルギーフィルタは中心部に減速電極があり、減速電極は光軸に対してその両側に同電位の電極に挟まれている構成となっている。光軸の両側に配置された電極には入射する荷電粒子と同電位の電圧が印加される。また、減速電極には荷電粒子のエネルギーに抗する電圧が印加される。これらの電極は、減速電源から設定される設定電圧より大きいエネルギーを持つ荷電粒子のみ通過させるハイパスフィルタとして作用する。従って、減速型エネルギーフィルタは、ウィーンフィルタやオメガフィルタのようにバンドパスフィルタとして動作しない。このため、その用途を異にするが構造が簡便である。また、減速型エネルギーフィルタは、減速電圧を走査しつつ計測した透過電流を減速電圧で微分をとることによって、エネルギースペクトルを容易に得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願公開第2010/0187436号明細書
【文献】米国特許第8,803,102号明細書
【文献】特開2009-289748号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】’Evaluation of electron energy spread in CsBr based photocathodes’, J. Vac. Sci. Technol. B 26(6), Nov/Dec 2008
【文献】’Performance computations for a high-resolution retarding field electron energy analyzer with a simple electrode configuration’, J. Phys. D: Appl. Phys., 14(1981) 769-78
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、減速型エネルギーフィルタのエネルギー分解能の値は、光軸上では極めて小さい(分解能が高い(良い)=分解能の値が小さい)が、電位分布が光軸から外れると勾配を持つことによって、急速にエネルギー分解能が悪くなる(分解能の値が大きくなり)ため、今日要求されるエネルギー分解能(例えば、ΔE=~1mV)を実現するのは極めて困難である。従って、入射荷電粒子をエネルギーフィルタに垂直に入射しなければならず、荷電粒子源をエネルギーフィルタから十分に遠い位置におく必要がある。よって、装置が巨大化するとともに、入射できる電流量が極めて小さくなり、計測時間が長くなるという課題がある。また、エネルギー分散点が光軸上の一点に集束されるため、エネルギーがゼロ近傍で荷電粒子密度が高まり、クーロン効果でエネルギー分散が大きくなるという課題もある。さらに、減速型レンズでは、開口部近傍に集束点が自然に形成されるが、集束点とエネルギー分散点(ゼロポテンシャルの点)が近くにあると、上述したように入射条件が厳しくなってしまう。減速電極の厚くすることによって、集束点とエネルギー分散点との距離を少し離すことができるが、電極の内壁に荷電粒子が衝突しだし、壁面のコンタミの原因となって、エネルギー分解能が劣化するという課題ある。
【0008】
本開示は、このような状況に鑑み、荷電粒子源から放出された荷電粒子ビームのエネルギー分散を小さくする、小型の高分解能エネルギーフィルタ(フィルタ内部では、エネルギー分散を大きくする)を実現する技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための一手段として、本開示は、荷電粒子源から放出される荷電粒子ビームのエネルギー分散ΔEを抑えるエネルギーフィルタであって、
開口部を有する単孔電極対と、当該開口部の半径よりも大きい半径を有する空洞部であって、開口部の中心を光軸として回転対称に設けられた空洞部と、を有する減速電極と、
減速電極の前段に設けられた第1電極と、
減速電極の後段に設けられた第2電極と、
を備えるエネルギーフィルタを提案する。
【0010】
本開示に関連する更なる特徴は、本明細書の記述、添付図面から明らかになるものである。また、本開示の態様は、要素及び多様な要素の組み合わせ及び以降の詳細な記述と添付される請求の範囲の様態により達成され実現される。
本明細書の記述は典型的な例示に過ぎず、本開示の請求の範囲又は適用例を如何なる意味においても限定するものではないことを理解する必要がある。
【発明の効果】
【0011】
本開示に技術によれば、荷電粒子源から放出された荷電粒子ビームのエネルギー分散を小さくする、小型の高分解能エネルギーフィルタ(フィルタ内部では、エネルギー分散を大きくする)、およびそれを備えるエネルギーアナライザや荷電粒子ビーム装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】従来の減速型のエネルギーフィルタの構成例を示す図である。
図2】本実施形態による荷電粒子ビームシステム30の構成例を示す図である。
図3】本実施形態によるエネルギーフィルタ1の構成例を示す断面図である。
図4A】減速電極1-2の両側の電界が同じ場合を示す図である。
図4B】減速電極1-2の両側の電界が異なる場合を示す図である。
図4C】減速電極1-2の両側の電界が同じ場合の電位分布と電子軌道を示す図である。
図4D】減速電極1-2の両側の電界が異なる場合の電位分布と電子軌道を示す図である。
図5A】従来(図1)のエネルギーフィルタにおけるエネルギー分散点21の近傍を通る荷電粒子a2-1の軌道を示す概略図である。
図5B】本実施形態のエネルギーフィルタ1におけるエネルギー分散点21の近傍を通る荷電粒子b2-2の軌道を示す概略図である。
図6A】電極空洞1-2aを有する減速電極1-2に平行に入射する荷電粒子2の軌道を示す図である。
図6B】電極空洞1-2aを有さない減速電極1-2に平行に入射する荷電粒子2の軌道を示す図である。
図6C】電極空洞1-2aを有さず、かつ肉薄の減速電極1-2に平行に入射する荷電粒子2の軌道を示す図である。
図6D】電極空洞1-2aを有する減速電極1-2の近傍に形成される集束点a20-1集束するように入射する荷電粒子2の軌道を示す図である。
図6E】電極空洞1-2aを有さない減速電極1-2の近傍に形成される集束点a20-1集束するように入射する荷電粒子2の軌道を示す図である。
図6F】電極空洞1-2aを有さず、かつ肉薄の減速電極1-2の近傍に形成される集束点a20-1集束するように入射する荷電粒子2の軌道を示す図である。
図7】荷電粒子2が電子ビームの場合に減速電極1-2に0[V]を印加した時の軸上電位の例を示す図である。
図8】本実施形態(減速電極1-2に電極空洞1-2aを形成する場合)において、荷電粒子源9からエネルギーフィルタ1の出口までの荷電粒子ビーム10の軌道を示す図である。
図9A図9Aは、減速電極1-2の前段に配置されている第2電極1-5に3000V、減速電極1-2の後段に配置されている加速電極1-3に1500Vを印加した場合の荷電粒子2の軌道の計算例を示す図である。
図9B】第2電極1-5に3000V、加速電極1-3に3000Vを印加した場合の荷電粒子2の軌道の計算例を示す図である。
図10A】光軸18からの入射オフセット量を1.5um~2.0umとして荷電粒子2を平行入射させる場合の荷電粒子2の軌道を示す図である。
図10B】光軸18からの入射オフセット量を0.15um~0.20umとして荷電粒子2を平行入射させる場合の荷電粒子ビーム10の軌道を示す図である。
図11】減速電極1-2の入り口側の単孔電極の焦点距離fとし、焦点fだけ減速電極1-2の上流側の位置に集束点a20-1を設定し、集束点a20-1に集束する角度で電子を入射する場合を示す図である。
図12】第2電極1-5、単孔レンズ、および加速電極1-3の位置関係および印加電圧を示す図である。
図13】D/Rに対するG=Φz(z=0)/Φ1の値の変化を示すグラフである。
図14A】荷電粒子源として冷陰極電子源を想定した場合のバンドパスフィルタとしての作用を示す図である。
図14B】荷電粒子源としてショットキー電子源を想定した場合のバンドパスフィルタとしての作用を示す図である。
図15A】電流Ip(Vr)とIp(Vr)のVrでの微分dIp(Vr)/dVrとの関係を示す図である。
図15B】透過関数f(Vr|E)の形(一例)を示す図である。
図16】本実施形態による減速電極1-2の周辺部の構成例を示す図である。
図17】本実施形態によるエネルギーフィルタ1の構成例を示す図である。
図18】本実施形態によるエネルギーフィルタ1を備える荷電粒子ビーム装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態は、荷電粒子源から放射された荷電粒子ビームを、電子レンズを用いて試料面上に照射することにより試料情報を解析或いは画像化する技術に関する。
荷電粒子ビーム装置においては、荷電粒子ビームのエネルギー分散を小さくする(エネルギー分解能を高くする(エネルギー分解能の値を小さくする))が所望されるが、そのためにはエネルギーフィルタ内のエネルギー分散を大きくすることが必要である。エネルギーフィルタ内のエネルギー分散を大きくするには、エネルギーフィルタのサイズを大きくしなければならない。しかし、本実施形態では、上述のように、エネルギーフィルタのサイズを小さくすることを1つの課題としている。そこで、本実施形態では、エネルギーフィルタのサイズを小さくしつつ、エネルギーフィルタ内のエネルギー分散を大きくするために、エネルギーフィルタの減速電極に空洞を設けるようにしている。
【0014】
以下、添付図面を参照して本開示の実施形態について説明する。添付図面では、機能的に同じ要素は同じ番号で表示される場合もある。また、以下の実施形態で用いる図面においては、平面図であっても図面を見易くするためにハッチングを付す場合もある。なお、添付図面は本開示の原理に則った具体的な実施形態と実装例を示しているが、これらは本開示の理解のためのものであり、決して本開示を限定的に解釈するために用いられるものではない。本明細書の記述は典型的な例示に過ぎず、本開示の特許請求の範囲又は適用例を如何なる意味においても限定するものではない。
【0015】
本実施形態では、当業者が本開示を実施するのに十分詳細にその説明がなされているが、他の実装・形態も可能で、本開示の技術的思想の範囲と精神を逸脱することなく構成・構造の変更や多様な要素の置き換えが可能であることを理解する必要がある。従って、以降の記述をこれに限定して解釈してはならない。
【0016】
さらに、以下の実施形態の説明では、荷電粒子ビームを使用した走査型荷電粒子顕微鏡とコンピュータシステムとで構成される荷電粒子ビームシステムに本開示の技術を適用した例を示す。走査型荷電粒子顕微鏡とは、例えば、電子ビームを使用した走査電子顕微鏡(SEM)やイオンビームを使用した走査イオン顕微鏡等が挙げられる。また、走査型電子顕微鏡の例としては、走査型電子顕微鏡を用いた検査装置、レビュー装置、汎用の走査型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡を備えた試料加工装置や試料解析装置等が挙げられ、本開示はこれらの装置にも適用が可能である。しかし、この実施の形態は限定的に解釈されるべきではなく、例えば、電子ビームやイオンビーム等の荷電粒子ビームを使用する荷電粒子ビーム装置、また一般的な観察装置に対しても、本開示は適用され得る。
【0017】
また、以下に説明する実施形態の機能、動作、処理、フローにおいては、主に「コンピュータシステム」「制御装置」「ΔE計測制御器」を主語(動作主体)として各要素や各処理についての説明を行うが、「荷電粒子ビームシステム」を主語(動作主体)とした説明としてもよい。
【0018】
<荷電粒子ビームシステムの構成例>
図2は、本実施形態による荷電粒子ビームシステム30の構成例を示す図である。荷電粒子ビームシステム30は、電子レンズを用いて荷電粒子ビームを試料14面上に集束させ、試料14から得られた二次荷電粒子を検出することによって、試料14の情報を解析或いは画像化する装置である。
【0019】
荷電粒子ビームシステム30は、荷電粒子源9と、荷電粒子源9から放出される荷電粒子ビーム10のビーム径を制限する絞り11と、荷電粒子ビーム10の電流量を計測するファラデーカップ15および電流計16と、荷電粒子ビーム10を試料14上に集束させる、それぞれ少なくとも1つの電子レンズ12および対物レンズ13と、荷電粒子源9と絞り11との間の光軸18上に荷電粒子源9から放出される荷電粒子ビーム10のエネルギーを分離するエネルギーフィルタ1と、ファラデーカップ15および電流計16から計測した電流値に基づいてΔEを計算するΔE計測制御器17と、荷電粒子ビーム10の照射によって試料14から得られる二次電子を検出する二次電子検出器34と、荷電粒子ビーム10の照射によって試料14から得られる後方散乱電子を検出する後方散乱電子検出器33と、上述した各構成要素を制御する制御装置32と、記憶装置(メモリ)36と、入出力装置37と、を備えている。なお、制御装置32およびΔE計測制御器17によってコンピュータシステムが構成されている。
【0020】
荷電粒子源9には第1加速電源(図示せず)から電圧7が印加されており、第1加速電源の出力電圧上に引出電源(図示せず)が設置され、引出電源の出力電圧8上にエネルギーフィルタ1が設置されている。エネルギーフィルタ1は、入射する荷電粒子ビーム10のハイパスフィルタとして作用し、エネルギー分離された荷電粒子ビーム10を出力する。エネルギー分離された荷電粒子ビーム10は、絞り11でビーム径が制限された後、ファラデーカップ15に入射する。そして、ファラデーカップ15に接続された電流計16が、エネルギー分離された荷電粒子ビーム10の電流量を計測する。また、ΔE計測制御器17は、計測した電流量を基に、減速電源4を介して、エネルギーフィルタ1を構成する減速電極1-2(第2図に示す)に印加する電圧を制御して、エネルギーフィルタ1を通過する荷電粒子ビームのΔEが最小になるように調整する。
【0021】
エネルギーフィルタ1の調整が終了すると、駆動部(図示せず)がファラデーカップ15を光軸18から外す。そして、エネルギーフィルタ1によってエネルギー分離された荷電粒子ビーム10は、下流にある電子レンズ12と対物レンズ13を介して試料14上に集束する。エネルギー分離された荷電粒子ビームのエネルギー分解能の値ΔEは、エネルギーフィルタ1に入射される前より小さくなっており、試料14上に集束された荷電粒子ビーム10のビーム径がより小さくなっている。
【0022】
なお、荷電粒子ビームシステム30には、偏向器(図示せず)が光軸18上に配置されている(例えば、電子レンズおよび対物レンズ13の周辺部に配置)。制御装置32は、当該偏向器を用いて、荷電粒子ビーム10を試料14上で走査する。二次電子検出器34や後方散乱電子検出器33は、荷電粒子ビーム10の試料14上での走査と同期して、試料14から得られる二次電子や後方散乱電子を検出する。制御装置32は、これらの検出信号を信号処理することによって空間分解能の高い画像を生成する。また、制御装置32は、例えば、生成した画像を入出力装置37に出力し、前述の信号処理に伴う一連のデータや情報を記憶装置36に記録する。
【0023】
<エネルギーフィルタ1の構成例>
図3は、エネルギーフィルタ1の構成例を示す断面図である。エネルギーフィルタ1は、光軸18を中心として回転対称(断面図のため、図3では光軸線対称)に配置された、減速電極1-2と、加速電極1-3と、第1電極1-1と、第1集束電極1-4と、第2電極1-5と、第2集束電極1-6と、第3電極1-7と、電極保持材1-8と、を備える。電極保持材1-8は、絶縁体で構成され、減速電極1-2と、加速電極1-3と、第1電極1-1と、第1集束電極1-4と、第2電極1-5と、第2集束電極1-6と、第3電極1-7と、を保持する。
【0024】
第1電極1-1と第2電極1-5と第3電極1-7とは、シールド1-9と接続し同電位となる。シールド1-9は、透磁率の高い部材(例えば、パーマロイ)で作製されており、外部の浮遊磁場を遮蔽している。同様にして、第1電極1-1と第2電極1-5と第3電極1-7も透磁率の高い部材(例えば、パーマロイ)で作製されている場合もある。第1集束電極1-4は、他の電極から絶縁されており、第1電極1-1と第2電極1-5とともに一つの静電レンズを形成している。同様にして、第2集束電極1-6も他の電極から絶縁されており、第2電極1-5と第3電極1-7とともに一つの静電レンズを形成している。なお、各電極は円盤形状をなし、中心部に孔が形成されている。また、電極保持材1-8は、円筒状に構成され、その内部に各電極を保持している。
【0025】
減速電極1-2には、光軸18を中心として回転対称に空洞が設けられている(電極空洞1-2a)。また、電極空洞1-2aの両側には単孔電極1-2-1および1-2-2が形成されるが、単孔電極の径は両側で同じでもよいし、異なっていてもよい。減速場と加速場とが電極空洞1-2aの内部で接することでエネルギー分散点(分散面)21となる鞍点が形成される。エネルギー分散点21となる鞍点の位置は、電極空洞1-2aを形成する両側にある2つの単孔電極1-2-1および1-2-2の径と減速電極1-2の両側に形成される電界強度の強さによって変化する。減速電極1-2の両側に形成される電界強度の強さは同じ場合もあるし、異なる場合もある。
【0026】
<減速電極1-2の電極空洞1-2a内の電位分布と電子軌道>
図4Aは、減速電極1-2の両側の電界が同じ場合を示す図である。図4Bは、減速電極1-2の両側の電界が異なる場合を示す図である。図4Cは、減速電極1-2の両側の電界が同じ場合の電位分布と電子軌道を示す図である。図4Dは、減速電極1-2の両側の電界が異なる場合の電位分布と電子軌道を示す図である。また、非対称の単孔電極径或いは非対称の電界強度としても、エネルギーフィルタとしての機能は変わらない。以下、2つの単孔電極の径は同じものとし、両側の電界強度も同じとして説明する。
【0027】
エネルギー分散点21は、エネルギーフィルタ1の入り口より遠い位置(電極空洞1-2aの内部)にあるため、同電位以上の荷電粒子を通過させる断面積が大きく、エネルギー分解能を高めることができる。
【0028】
図5Aは、従来(図1)のエネルギーフィルタにおけるエネルギー分散点21の近傍を通る荷電粒子a2-1の軌道を示す概略図である。図5Bは、本実施形態のエネルギーフィルタ1におけるエネルギー分散点21の近傍を通る荷電粒子b2-2の軌道を示す概略図である。図5Aにおける等電位線a19-1は、減速電極1-2の肉厚が薄く、かつ、電極空洞1-2aを形成していない場合(従来例)の等電位分布である。この等電位分布は、減速電極1-2の入り口開口部に近い部分に形成される。一方、図5Bにおける等電位線b19-2は、減速電極1-2に電極空洞1-2aが形成されている場合(本実施形態)の等電位分布である。この等電位分布は、減速電極1-2の入り口開口部から遠い部分(減速電極1-2のほぼ中心部)に形成される。
【0029】
従来例および本実施形態のいずれの場合も、減速電極1-2に印加された減速電位によって荷電粒子2(荷電粒子a2-1および荷電粒子b2-2)は、減速電極1-2の入り口開口部近傍に集束点a20-1を持つことになる。電極空洞1-2aがない場合(図5A)、エネルギー分散点21は、集束点a20-1の近くに形成され、かつ、等電位線a19-1もエネルギー分散点21で密になる。このため、荷電粒子線a2-1が光軸18から離れて入射する場合には、等電位線a19-1で反射されて下流に通過できず、かろうじて光軸18から離れずに入射する荷電粒子のみ下流(エネルギーフィルタ1の出口)側に通過できる。一方、電極空洞1-2aを持つ場合(図5B)は、エネルギー分散点21が集束点a20-2の距離を置いて遠くに形成され、かつ、等電位線b19-2もエネルギー分散点21で粗密となる、このため、荷電粒子線b2-2は、光軸18から離れて入射する場合でも、等電位線b19-2に反射されずに下流側に通過することができる。
【0030】
<減速電極1-2に入射する荷電粒子2の軌道の計算結果例>
図6は、減速電極1-2に入射する荷電粒子2の軌道の計算結果例を示す図である。図6Aは、電極空洞1-2aを有する減速電極1-2に平行に入射する荷電粒子2の軌道を示す図である。図6Bは、電極空洞1-2aを有さない減速電極1-2に平行に入射する荷電粒子2の軌道を示す図である。図6Cは、電極空洞1-2aを有さず、かつ肉薄の減速電極1-2に平行に入射する荷電粒子2の軌道を示す図である。図6Dは、電極空洞1-2aを有する減速電極1-2の近傍に形成される集束点a20-1集束するように入射する荷電粒子2の軌道を示す図である。図6Eは、電極空洞1-2aを有さない減速電極1-2の近傍に形成される集束点a20-1集束するように入射する荷電粒子2の軌道を示す図である。図6Fは、電極空洞1-2aを有さず、かつ肉薄の減速電極1-2の近傍に形成される集束点a20-1集束するように入射する荷電粒子2の軌道を示す図である。いずれの場合も減速電極1-2の開口径は同じである。
【0031】
平行入射の場合は、荷電粒子2は、光軸18から、0.1μm~5μmのオフセットを持たせ、荷電粒子2の入射エネルギーを3000.001Vとしている。集束入射の場合は、減速電極1-2の上流側(減速電極1-2の入口側)から32μmに集束点a20-1を形成し、集束点a20-1に向かう角度を、0.5mrad~7.8mradまで持たせ、荷電粒子2の入射エネルギーを3000.001V及び3000.01Vとした。
【0032】
それぞれの入射条件(平行入射の場合は光軸18から、0.1μm~5μmのオフセット、集束入射の場合は集束点a20-1に0.5mrad~7.8mradの角度)に対して、光軸18上を平行に入射する3000.000Vの荷電粒子2は反射されるように減速電極1-2に電圧が印加されている。即ち、減速電極1-2には、荷電粒子源9に印加されている電圧と概略同電位の電圧を印加して、加速されたエネルギーをキャンセルする。通常、減速電極に印加されている電位と光軸上の電位とはオフセットがあるため、荷電粒子ビームが電子ビームや負イオンビーム(例えば、B イオンビーム、Hイオンビーム等)である場合は、負極性(マイナス極性)の電圧を印加し、荷電粒子ビームが正イオンビーム(例えば、Gaイオンビーム、Neイオンビーム、Heイオンビーム等)である場合は正極性(プラス極性)の電圧を印加する。
【0033】
図6の計算結果からも分かるように、減速電極1-2内に電極空洞1-2aを設けた場合には、エネルギーフィルタ1内におけるエネルギー分散を大きくすることができ、その結果、出力の荷電粒子ビームのエネルギー分散を小さくすることが可能となる。
<光軸上の電位および荷電粒子2の減速電極通過条件について>
【0034】
図7は、荷電粒子2が電子ビームの場合に減速電極1-2に0[V]を印加した時の軸上電位の例を示す図である。減速電極1-2に0[V]を印加していても減速電極1-2の両側に存在する電界が界侵して、軸上電位にオフセットを生じさせる。図7において、Φ(0,0)Vがオフセットとなっている。
【0035】
【表1】
【0036】
表1は、エネルギー差1mVの荷電粒子2が減速電極1-2を通過できる入射条件の計算結果例を示す表である。平行入射の場合、表1(a)に示すように、電極空洞1-2がある場合、電極空洞1-2がない場合に比べて6倍~8倍光軸18からオフセットがある入射条件(2.4umのオフセット)でもエネルギー分解能ΔE=1mVで荷電粒子ビーム10のエネルギー選別できる。
【0037】
図6Cおよび表1(c)に示すように、従来の薄肉減速電極を用いた場合は、入射条件が光軸18からオフセット0.3um以下で平行にしないとエネルギー分解能ΔE=~1mVを計測できないことが分かる。また、図6E及び表1(b)に示すように、入射条件を集束入射条件にすることで最大許容入射角を肉厚ではあるが電極空洞1-2がない場合には2.2mrad以下にすることが可能である。さらに、図6D及び表1(b)に示すように、電極空洞1-2がある場合には最大許容入射角を7.8mradとすることができる。しかしながら、図6Cおよび表1(c)に示すように、薄肉電極の場合にはほとんど改善することはできない。これは、図5に示したように、集束点a20-1とエネルギー分散点21との距離が近いためである。
【0038】
図6Bおよび表1(b)、図6Eおよび表1(b)に示すように、電極空洞1-2aがない場合は、平行入射或いは集束入射としても、荷電粒子2が減速電極1-2の内壁に衝突してしまい、減速電極1-2を通過することができない。特に、集束入射の場合は、荷電粒子2のエネルギーを3000.001V及び3000.01Vとした。図6Dに示すように、電極空洞1-2がある場合は、どちらのエネルギーを持つ電子も通過できるが、図6Eに示すように、電極空洞1-2がない場合は、3000.1Vのエネルギーを持つ電子は壁に衝突してしまっている。従って、一様なエネルギーを持つ電子を検出するためには入射角度を制限しなければならず、最大入射角が2.2mradとなる。
【0039】
<第1集束電極1-4の配置条件>
図8は、本実施形態(減速電極1-2に電極空洞1-2aを形成する場合)において、荷電粒子源9からエネルギーフィルタ1の出口までの荷電粒子ビーム10の軌道を示す図である。
【0040】
図8において、第3電極1-7には、荷電粒子源9から荷電粒子ビーム10を引き出すための電圧(例えば、数kV)が印加され、引き出し電極として作用する。荷電粒子源9から放出された荷電粒子ビーム10は、第3電極1-7に装着された制限絞り(図示していない)によって制限され、荷電粒子ビーム10の一部の荷電粒子ビームのみが下流側に透過する。透過した荷電粒子ビーム10は、第2集束電極1-6に印加された電圧(例えば、数100V)によって、第2電極1-5と第1集束電極1-4との間に集束点が持つことになる。その後、第1集束電極1-4に印加された電圧(例えば、数100V)によって荷電粒子ビーム10は減速電極1-2の入り口開口部近傍に集束点a20-1を持つことになる。集束作用は、第1集束電極1-4に印加された電圧による集束作用だけでなく、第1電極1-1と減速電極1-2との間に形成される減速電界のレンズ作用も効いている。集束点a20-1を通過後、荷電粒子ビーム10を形成している荷電粒子は、その各々が持つエネルギーと入射条件に応じてエネルギー分散点21で分散される。
【0041】
図6および表1に示すように、減速電極1-2に入射する条件によって、エネルギーフィルタ1のエネレギー分解能が容易に変動してしまう。図3および図8に示す第1電極1-1と第1集束電極1-4と第2電極1-5とで構成される集束レンズは、減速電極1-2への荷電粒子ビーム10の入射条件を安定化する手段であり、要求されるエネルギー分解能に応じて入射角を制御するものである。また、図5および図6に示すように、入射角度が小さい方がエネルギー分解能は高くなる。従って、第1電極1-1と第1集束電極1-4と第2電極1-5とで構成される集束レンズの角度倍率が小さくなるように、第2電極1-5と第1集束電極1-4との間にある集束点と第1集束電極1-4の中心との距離L1aと、第1集束電極1-4の中心と減速電極1-2の入り口開口部に形成される集束点a20-1との距離L1bとの間に、L1a<L1bとなるように、第1集束電極1-4が配置される。
【0042】
<第2電極1-5への印加電圧の差異による荷電粒子2の軌道の差異>
図9は、第2電極1-5への印加電圧の差異による荷電粒子2の軌道の差異を示す図である。図9Aは、減速電極1-2の前段に配置されている第2電極1-5に3000V、減速電極1-2の後段に配置されている加速電極1-3に1500Vを印加した場合の荷電粒子2の軌道の計算例を示す図である。図9Bは、第2電極1-5に3000V、加速電極1-3に3000Vを印加した場合の荷電粒子2の軌道の計算例を示す図である。荷電粒子2の入射条件は、両者とも、光軸18からのオフセット量を1.5um~2.0umとして平行入射するものとし、荷電粒子2のエネルギーを3000.000V、3000.001V、3000.010V、3000.100Vとしている。また、減速電極1-2には3000.000Vのエネルギーを有する荷電粒子2が反射するように設定している。
【0043】
図9Aに示すように、加速電極1-3に1500Vが印加されている場合には、3000.100Vの荷電粒子のみ通過することが分かる。これは、荷電粒子2は、あるエネルギー以上でないものはエネルギーに相当する電位を超えることはできないからである。一方、図9Bに示すように、加速電極1-3に3000Vを印加すると、3000.001V以上の荷電粒子2を全て通すようになる。従って、エネルギーフィルタ1は1mVのエネルギー分解能(元々3kVのエネルギーを有する電子を1mV単位で分離する)を持つことが分かる。
【0044】
また、図9Bに示すように、減速電極1-2の内部の電極空洞1-2a内に減速電極1-2の中心に対称に減速電場と加速電場の等電位分布ができる。このため、減速電極1-2に入射した荷電粒子2は、電極空洞1-2a内でエネルギー分散を受けた後も集束作用を受ける。エネルギー分散点21を通過した荷電粒子2は、減速電極1-2の出口開口部の近傍に集束点b20-2を形成する。集束点b20-2に形成される荷電粒子ビーム径は収差によりわずかにぼけるが光源として使用するに十分に小さい。また、図9Bに示すように、大きなエネルギーを持つ荷電粒子ほど電極空洞1-2a内で光軸18から離軸した後、集束点b20-2に集束する。このため、集束点b20-2を通過した荷電粒子2はエネルギーの高いものほど発散することになる。
【0045】
<光軸からの入射オフセット量の差異による荷電粒子2の軌道の差異>
図10は、光軸からの入射オフセット量の差異による荷電粒子2の軌道の差異を示す図である。図10Aは、光軸18からの入射オフセット量を1.5um~2.0umとして荷電粒子2を平行入射させる場合の荷電粒子2の軌道を示す図である。荷電粒子2のエネルギーを3000.000V、3000.001V、3000.010V、3000.100Vとして、減速電極1-2を通過後の荷電粒子ビーム10の軌道を計算している。また、荷電粒子ビーム10は、集束点b20-2を輝点として、加速電極1-3に印加された電圧によって放射軌道を取るが、エネルギーの高い荷電粒子2ほど放射角度が大きくなっていることが分かる。
【0046】
図10Bは、光軸18からの入射オフセット量を0.15um~0.20umとして荷電粒子2を平行入射させる場合の荷電粒子ビーム10の軌道を示す図である。図10Aと同様に、エネルギーの高い荷電粒子2ほど放射角度が大きくなるが、その程度は小さくなっている。従って、荷電粒子2入射角度によってエネルギーによる放射角度が変化する。つまり、エネルギーフィルタ1において、エネルギー分解能の高いハイパスフィルタとして作用するが、絞り11はビーム径を制限してエネルギーに関して若干エネルギー分解能の低いローバスフィルタとして作用する。そして、ハイパスフィルタとローパスフィルタを組み合わせることによって、バンドパスフィルタを形成することができる。
【0047】
<単孔電極の焦点fと単孔電極の半径Rとの関係>
図9および図10において、減速電極1-2に入射する荷電粒子2の入射条件を平行としたが、入射条件は平行に限定されることはなく、減速電極1-2入り口近傍に集束点a20-1を形成し、集束点a20-1に集束する角度で集束入射としても同様である。図11は、減速電極1-2の入り口側の単孔電極の焦点距離fとし、焦点fだけ減速電極1-2の上流側の位置に集束点a20-1を設定し、集束点a20-1に集束する角度で電子を入射する場合を示す図である。この場合、電子は、減速電極1-2の電極空洞1-2a内をz軸(光軸)に平行に進む。但し、エネルギーの小さい電子は電極空洞1-2a内でエネルギー分散を受け、電極空洞1-2a内に形成される鞍点でエネルギー分離される。
【0048】
ここで、単孔レンズの焦点距離fは、Davisson Calbickの式として、以下の式(1)のように表すことができる。なお、図12は、第2電極1-5、単孔レンズ、および加速電極1-3の位置関係および印加電圧を示す図である。
【0049】
【数1】
【0050】
ここで、Φzは軸上電位を、z=0は単孔レンズの中心位置を表している。第2電極1-5の電位をΦ1kV、加速電極1-3の電位を0kVとすると、第2電極1-5と単孔レンズ(前段の単孔電極)の間に生じる電界E1はΦ1/L、単孔レンズ(後段の単孔電極)と加速電極1-3の間に生じる電界E2は0である。すると式(1)は、以下の式(2)のようになる。
【0051】
【数2】
【0052】
一方、システムの次元が決まれば、Φ(z=0)=G*Φ1となり(G=Φz(z=0)/Φ1)、f=4G*Lと表される(Gは係数)。4G*Lを数値解析的に算出すると、4G*L≒0.64Rとなる。そして、減速電極1-2の入口側と出口側との距離(減速電極1-2の幅:電極幅)をDとすると、減速電極1-2の次元がD/R≧5のとき、焦点距離fは、システムの次元に依らず、単孔電極の半径Rのみに依存し、f=λR、λ=0.64±0.05(λ:無次元の係数)で表わすことができる。ここで、0.05は、装置間における経験上の機差(誤差)を示す数値である。
【0053】
図13は、D/Rに対するG=Φz(z=0)/Φ1の値の変化を示すグラフである。図13からは、D/R≧5のときには、減速電極1-2の電極幅D、減速電極1-2の開口半径R、減速電極1-2と第2電極1-5との距離Lのそれぞれの値に依らずにGの値が0.64に収束することが分かる。よって、G=0.64のとき、単孔レンズの焦点距離fは、変動せずに安定する。
【0054】
<バンドパスフィルタの作用>
図14は、エネルギーフィルタ1のバンドパスフィルタとして作用を示す図である。図14において、横軸Eはエネルギーを示し、縦軸は’1’に規格した荷電粒子ビーム10の荷電粒子数を示す。図14Aは、荷電粒子源として冷陰極電子源を想定した場合のバンドパスフィルタとしての作用を示す図である。この場合、冷陰極電子源のエネルギースペクトルは高エネルギー側で急峻に小さくなり、低エネルギー側で緩やかに減衰する形(Da(E))をしている。これは冷陰極電子源が室温で動作することと、エネルギー障壁をトンネル効果で透過するためフェルミレベルの電子が散乱されずに放出され、それより下のエネルギーの電子は散乱を受けて放出されるためである。
【0055】
また、図14Aに示すように、エネルギーフィルタ1によるハイパスフィルタ22は高いエネルギー分解を持つため、急峻に低エネルギー側の電子を遮蔽することができる。一方、絞り11によるローバスフィルタ23は、前述したように若干エネルギー分解能が低い。ただし、図14Aに示すように、冷陰極電子源の高エネルギー側のエネルギースペクトルは急峻なため、急峻に変化するエネルギーにハイパスフィルタ22を合わせれば、ローパスフィルタ23が作用しない領域(絞り11でローパスフィルタ23が構成されるため、ローパスフィルタ23の傾斜部分に作用しない領域が存在)であっても、ローパスフィルタの有無に関係なく、エネルギースペクトルDa(E)をΔEの小さい(Δεa)エネルギースペクトルDa*(E)に変換できる。
【0056】
図14Bは、荷電粒子源としてショットキー電子源を想定した場合のバンドパスフィルタとしての作用を示す図である。ショットキー電子源は約1800Kの熱を加えられているため、冷陰極電子源に比べそのエネルギースペクトルDb(E)は幅が広い。幅広のエネルギースペクトル有する場合には、図14Bに示すように、高エネルギー側でもローパスフィルタ23が作用して、エネルギースペクトルDb(E)をΔEの小さい(Δεb)エネルギースペクトルDb*(E)に変換できる。
【0057】
<エネルギーアナライザを動作させる場合>
上述のエネルギーフィルタ1を備えるエネルギーアナライザ31(図2参照)を用いて、荷電粒子源9から放出された荷電粒子ビーム10のエネルギー分散ΔEを計測する場合は、絞り11を光軸18から(図示しない駆動部を用いて)外し、ファラデーカップ15を光軸18上に(図示しない駆動部を用いて)配置する。そして、ΔE計測制御器17は、荷電粒子ビーム10が上述したエネルギーフィルタ1への入射条件(表1参照)を満足するように、第2集束電極1-6に印加される第2集束電源からの電圧6と、第1集束電極1-4に印加される第1集束電源からの電圧3と、減速電極1-2に印加される減速電源からの電圧4と、加速電極1-3に印加される加速電源からの電圧5と、をそれぞれ適切な値に制御する。
【0058】
<ΔE計測制御器17の作用>
ここでは、ΔE計測制御器17の動作および作用について詳述する。図2に示されるように、第3電極1-7(図3参照)には引出電源の出力電圧8(数kV)が印加されている。例えば、荷電粒子源9には第1加速電源からの電圧7(-3000.000V)が印加されている。引出電源の出力電圧8として+3000.000Vが第3電極1-7に印加されている。この場合、GND電位は荷電粒子源9からみて+3000.000Vのポテンシャルとなる。また、引出電源の出力電圧8(+3000.000V)で引き出された荷電粒子ビーム10のエネルギーも荷電粒子源9からみて+3000.000Vである。従って、減速電極1-2に適切な電圧Vrが印加され、電極空洞1-2aの中心近傍の光軸18上に-3000.000Vのポテンシャル障壁が形成されれば、+3000.000Vより小さいエネルギーを持つ荷電粒子2は、ポテンシャル障壁によってすべて反射される。
【0059】
エネルギーフィルタ1を通過した荷電粒子ビーム10はエネルギーフィルタ1と同電位であるファラデーカップ15まで直進するため、荷電粒子ビーム10はすべてファラデーカップ15で検出される。従って、ファラデーカップ15で検出される電流Ip(Vr)は減速電極1-2に印加される電圧Vrの関数となり、式(3)で表される。
【0060】
【数3】
【0061】
式(3)において、D(E)は荷電粒子源9から放射された荷電粒子ビーム10のエネルギースペクトルを示し、f(Vr|E)は荷電粒子2のエネルギーがEの場合に減速電極1-2に電圧Vrが印加された時のエネルギーフィルタ1を透過する荷電粒子ビーム10の透過率を示す。式(1)に示すように、電流Ip(Vr)はD(E)とf(Vr|E)とのコンボリューションで表される。
【0062】
図15Aは、電流Ip(Vr)とIp(Vr)のVrでの微分dIp(Vr)/dVrとの関係を示す図である。図15Aからは、エネルギーEを持つ荷電粒子ビーム10に対して減速電圧Vrが小さいと荷電粒子ビーム10はすべてエネルギーフィルタ1を透過するが、減速電圧Vrがある値近傍になると荷電粒子ビーム10の一部は透過できなくなり、ある値以上ですべて反射することが分かる。以下の式(4)は、Ip(Vr)の微分を示す式である。
【0063】
【数4】
【0064】
Ip(Vr)の微分は、荷電粒子のエネルギー分布Dε(E)を示すが、エネルギー分布Dε(E)の形は、透過関数f(Vr|E)の形による。
【0065】
図15Bは、透過関数f(Vr|E)の形(一例)を示す図である。図15Bによれば、透過関数f(Vr|E)は、エネルギーEがVrより十分小さければf(Vr|E)=1となるが、Vr近傍で減衰し、十分Vrより大きいとf(Vr|E)=0となることが分かる。また、Vrの近傍での減衰幅εの大きさによって、観測されるエネルギースベクトルDε(E)となる。式(4)に示すように、減衰幅εが十分小さければDε(E)は荷電粒子ビーム10のエネルギースベクトルD(E)に等しくなる。従って、荷電粒子ビーム10のエネルギースベクトルD(E)を精度よく計測するためには、減衰幅εが小さいエネルギーフィルタ1が必要であることがわかる。
【0066】
本実施形態によるエネルギーフィルタ1の減衰幅εは、|ε|<1mVと極めて小さく、計測されるエネルギースベクトルDε(E)は、Dε(E)≒D(E)とみなすことができる。
【0067】
荷電粒子ビーム10のエネルギー分散ΔEは、エネルギースベクトルDε(E)あるいはD(E)の半値幅で表すことができる。Dε(E)の半値幅をエネルギー分散ΔEとすると、ΔE計測制御器17は、減速電極1-2に印加する電圧Vrを走査して式(3)および式(4)からDε(E)を算出することにより、エネルルギー分散ΔEを求めることができる。
【0068】
絞り11が光軸18上に挿入されていない場合、計算されたエネルギー分散ΔEは、荷電粒子源9から放出された荷電粒子ビーム10のエネルギー分散ΔEとみなすことができる。一方、絞り11が光軸18上に挿入された場合、絞り11を通過した荷電粒子ビームはその高エネルギー側の一部を絞り11によって制限を受けるため、より小さなエネルギーΔEの値となる。
【0069】
以上のように、ΔE計測制御器17は、エネルギー分散ΔEを上述した手順によって計測し、エネルギー分散ΔEの値が最小となるように減速電極1-2に印加する電圧Vrを調節する。エネルギー分散ΔEの値が最小になるVrは数式(4)に示すIpの微分値が最大となるVr或いは変曲点となるVrの近傍にある。従って、VrをIpの微分値が最大となる値或いは変曲点となる値に設定することもできる。
【0070】
<減速電極1-2の周辺部の構成例>
図16は、本実施形態による減速電極1-2の周辺部の構成例を示す図である。減速電極1-2については図2等にも示されているが、エネルギーアナライザ31から減速電極1-2の周辺部の構成のみを抽出してここで改めて説明する。
【0071】
減速電極周辺部は、光軸18を中心として回転対称に配置された、減速電極1-2と、加速電極1-3と、第1電極1-1と、を含む。減速電極1-2、加速電極1-3、および第1電極1-1は、それぞれ所定の幅を有する円盤状の部材で構成される。
【0072】
減速電極1-2、加速電極1-3、および第1電極1-1は、絶縁体である電極保持材1-8で保持されている。第1電極1-1は、シールド1-9と接続し、同電位となる。シールド1-9は、透磁率の高い部材(例えば、パーマロイ)で作製されており、外部の浮遊磁場を遮蔽している。同様に、第1電極1-1も透磁率の高い部材(例えば、パーマロイ)で作製することができる。
【0073】
減速電極1-2は、光軸18を中心として回転対称に設けられた空洞を有している(電極空洞1-2a)。荷電粒子源9と減速電極1-2との間には、複数の電子レンズがあり(図2参照)、エネルギーフィルタ1には、荷電粒子源9から放出された荷電粒子ビーム10を入射される。
【0074】
<エネルギーフィルタ1の構成例>
図17は、本実施形態によるエネルギーフィルタ1の構成例を示す図である。エネルギーフィルタ1については図2等にも示されているが、エネルギーアナライザ31からエネルギーフィルタ1の構成のみを抽出してここで改めて説明する。
【0075】
エネルギーフィルタ1は、光軸18を中心として回転対称に設けられた、減速電極1-2と、加速電極1-3と、第1電極1-1と、第1集束電極1-4と、第2電極1-5とを含む。減速電極1-2、加速電極1-3、第1電極1-1、第1集束電極1-4、および第2電極1-5は、絶縁体である電極保持材1-8で保持されている。第1電極1-1と第2電極1-5とは、シールド1-9と接続し同電位となる。シールド1-9は、透磁率の高い部材(例えば、パーマロイ)で作製されており、外部の浮遊磁場を遮蔽している。同様に、第1電極1-1と第2電極1-5も透磁率の高い部材(例えば、パーマロイ)で作製することができる。
【0076】
減速電極1-2は、光軸18を中心として回転対称に設けられた空洞を有している(電極空洞1-2a)。荷電粒子源9とエネルギーフィルタ1との間には図、複数の電子レンズがあり(図2参照)、エネルギーフィルタ1には、荷電粒子源9から放出された荷電粒子ビーム10を入射される。
【0077】
<エネルギーフィルタ1を備える荷電粒子ビーム装置の構成例>
図18は、本実施形態によるエネルギーフィルタ1を備える荷電粒子ビーム装置の構成例を示す図である。
図18における荷電粒子ビーム装置は、エネルギーフィルタ1を用いて、荷電粒子ビーム10を試料14に照射して試料14から放出される二次電子25を検出する。図示していない荷電粒子源から放出された荷電粒子ビーム10は、図示していない電子レンズによって試料14上に集束される。試料14から放出された二次電子25は、インプットレンズ26を介してエネルギーフィルタ1に入射する。そして、エネルギーフィルタ1によってエネルギー選別された荷電粒子が二次電子検出器24で検出される。インプットレンズ26とエネルギーフィルタ1との間にはアライナ27が配置され、エネルギーフィルタ1の入射条件(表1参照)を満たすように、二次電子25が偏向される。試料14に入射する荷電粒子ビーム10は、図示していない偏向器によって試料14上で走査され、最終的に二次電子検出器24で同期して検出される。これにより、エネルギー選別された二次電子像を得ることが可能となる。
【0078】
<実施形態のまとめ>
(i)本実施形態のエネルギーフィルタによれば、エネルギー分散ΔEの値が大きい荷電粒子源から放出される荷電粒子ビームのΔEを小さくでき、ΔEの小さくなった荷電粒子ビームを電子レンズによってより小さく試料上に集束できるようになる。また、装置を大型化することなく、ΔEの小さな荷電粒子ビームを形成することができる。さらに、荷電粒子ビームのΔEを高いエネルギー分解能(例えば、ΔE=~数mV)で計測でき、荷電粒子源の性能評価を行うことができる。また、減速電極に空洞が設けられていることによってエネルギー分散した荷電粒子が減速電極の内壁に衝突しないため内壁がコンタミで汚れることがなく、減速電極空洞中の電場を安定に維持することができ、エネルギー分解能の経年変化がない。
【0079】
(ii)より具体的には、本実施形態によるエネルギーフィルタには、開口部を有する単孔電極対を有する減速電極に開口部の半径Rよりも大きい半径を有する空洞部を設けている。このような空洞部を減速電極内に設けることにより、エネルギーフィルタ内の荷電粒子ビームのエネルギー分散を大きくすることができ、その結果、エネルギーフィルタから出力される荷電粒子ビームのエネルギー分散を小さく(エネルギー分解能を高く(エネルギー分解の値を小さく))することが可能となる。また、このような空洞部を設けることにより、減速電極のサイズを大きくすることなく減速電極内の空間を大きくすることができるので、エネルギーフィルタ自体のサイズ、延いてはエネルギーアナライザおよび荷電粒子線装置の装置サイズも小さくすることが可能となる。
【0080】
減速電極の光軸方向の幅をDとすると、減速電極はD/R≧5の関係を有するように構成される。このようにすると、減速電極の単孔電極対において荷電粒子ビームの入口側に配置される単孔電極の焦点fと開口部の半径Rとの関係は、以下の式(5)で表される。
[数5]
f=λR、λ=0.64±0.05(λ:無次元の係数) (5)
即ち、単孔電極の焦点fは、減速電極の幅Dの値に依らずに、開口部の半径Rのみで決定される値となる。この場合、減速電極の前段と後段に配置される第1電極(上流側)と第2電極(下流側)にそれぞれ所定の電位を印加することによって発生する電界は、減速電極の空洞部の内部に侵界し、荷電粒子ビームのエネルギーと抗する電位の鞍点(エネルギー分散点)が形成される。また、当該エネルギーフィルタは、鞍点と交わる光軸の近傍で、荷電粒子ビームのエネルギー選別を行う、エネルギー分解能が高いハイパスフィルタとして作用する。
【0081】
エネルギーフィルタは、複数の集束レンズで構成される集束レンズ系を有するが、この集束レンズ系は、少なくとも二段の集束レンズを含み、当該二段の集束レンズの間に中間集束点を有する。そして、二段の集束レンズのうち、荷電粒子源から近位に位置する上流側の集束レンズ(第2集束電極1-6)は、荷電粒子源を物点とし、中間集束点を像点とする縮小系を構成する。一方、二段の集束レンズのうち、荷電粒子源から遠位に位置する下流側の集束レンズ(第1集束電極1-4)は、中間集束点を物点とし、減速電極の入り口近傍に形成された集束点を像点とする拡大系を構成する。このとき、当該中間集束点と下流側の集束レンズとの距離L1aと、下流側の集束レンズと集束レンズ系の集束点との距離L1bとの関係がL1a<L1bとなるように、下流側の集束レンズ(第1集束電極1-4)が配置される。これにより、集束レンズ系の角度倍率を小さくすることが可能となり、よって荷電粒子ビームの減速電極への入射角を小さくすることができるため、荷電粒子ビームのエネルギー分解能を高くすることが可能となる。
【0082】
なお、第1電極(第1電極1-1)に印加される電圧は荷電粒子ビームの加速電圧に等しく設定されるが、第2電極(加速電極1-3)に印加される電圧は可変とすることができる。第2電極への印加電圧を制御することにより、荷電粒子ビームを1mVの分解能で分離するエネルギーフィルタを実現することができる。
【0083】
(iii)上記エネルギーフィルタをエネルギーアナライザに組み込ことができる。このとき、エネルギーアナライザは、エネルギーフィルタに加え、当該エネルギーフィルタの後段に配置されたファラデーカップと、ファラデーカップに流入する荷電粒子ビームの電流量を計測する電流計と、電流量に基づいて、荷電粒子ビームのエネルギー分散ΔEの値を算出するΔE計測制御器と、を備える。そして、ΔE計測制御器は、減速電極に電圧Vrを印加した時の電流計で計測した電流量Ip(Vr)からその微分値を計測する処理と、電圧Vrに対する電流量Ip(Vr)の微分値で示されるスベクトルの半値幅を荷電粒子ビームのエネルギー分散ΔEの値として算出する処理と、を実行し、電流量Ip(Vr)の微分値が最大になる電圧Vrまたは電流量Ip(Vr)の変曲点となる電圧Vrを減速電極に印加する。
【0084】
(iv)本実施形態によるエネルギーフィルタあるいはエネルギーアナライザは、例えば、SEM、TEM、STEM、AUGER、FIB、PEEM、およびLEEMなどの荷電粒子ビーム装置に適用することができる。
【0085】
(iv)以上、本実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、以下に示す請求の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、本開示の技術の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、本開示の技術の範囲や要旨に含まれるとともに、請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0086】
1 エネルギーフィルタ
1-1 第1電極
1-2 減速電極
1-3 加速電極
1-4 第1集束電極
1-5 第2電極
1-6 第2集束電極
1-7 第3電極
1-8 電極保持材
2 荷電粒子
2-1 荷電粒子a
2-2 荷電粒子b
3 第1集束電源からの電圧
4 減速電源からの電圧
5 第2加速電源からの電圧
6 第2集束電源からの電圧
7 第1加速電源からの電圧
8 引出電源の出力電圧
9 荷電粒子源
10 荷電粒子ビーム
11 絞り
12 電子レンズ
13 対物レンズ
14 試料
15 ファラデーカップ
16 電流計
17 ΔE計測制御器
18 光軸
19 等電位線
19-1 等電位線a
19-2 等電位線b
20 集束点
20-1 集束点a
20-2 集束点b
21 エネルギー分散点
22 ハイパスフィルタ
23 ローパスフィルタ
24、34 二次電子検出器
25 二次電子
26 インプットレンズ
27 アライナ
30 荷電粒子ビームシステム
31 エネルギーアナライザ
32 制御装置
33 後方散乱電子検出器
35 コンピュータシステム
36 記憶装置
37 入出力装置
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図7
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14A
図14B
図15A
図15B
図16
図17
図18