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  • 特許-水酸化リチウムの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】水酸化リチウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01D 15/02 20060101AFI20231107BHJP
   H01M 10/54 20060101ALI20231107BHJP
   C22B 26/12 20060101ALI20231107BHJP
【FI】
C01D15/02
H01M10/54
C22B26/12
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022553052
(86)(22)【出願日】2020-10-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-10
(86)【国際出願番号】 KR2020014255
(87)【国際公開番号】W WO2021177537
(87)【国際公開日】2021-09-10
【審査請求日】2023-02-08
(31)【優先権主張番号】10-2020-0027656
(32)【優先日】2020-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503454506
【氏名又は名称】東友ファインケム株式会社
【氏名又は名称原語表記】DONGWOO FINE-CHEM CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】132, YAKCHON-RO, IKSAN-SI, JEOLLABUK-DO 54631, REPUBLIC OF KOREA
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジ-フン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ミョン-ジン
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ボン-ジン
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110790289(CN,A)
【文献】韓国登録特許第10-0725589(KR,B1)
【文献】特表2019-536888(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104538696(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第102676827(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 26/12
C01D 15/02
H01M 10/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム-含有廃液から硫酸リチウム水溶液を得るステップと、
前記硫酸リチウム水溶液と水酸化カルシウムを反応させて水酸化リチウムを得るステップと、を含み、
水酸化バリウムを添加するステップを含まず、
前記リチウム-含有廃液から得られた硫酸リチウム水溶液はpH6以下である、水酸化リチウムの製造方法。
【請求項2】
前記水酸化リチウムを得るステップで、溶媒を添加しないことを特徴とする、請求項1に記載の水酸化リチウムの製造方法。
【請求項3】
前記水酸化リチウムを得るステップで、グリセリンを添加しないことを特徴とする、請求項に記載の水酸化リチウムの製造方法。
【請求項4】
前記水酸化リチウムを得るステップは、水酸化リチウム水溶液に沈殿剤を添加して沈殿させて水酸化リチウム粉末を得るステップをさらに含む、請求項1に記載の水酸化リチウムの製造方法。
【請求項5】
前記沈殿剤がアルコールであることを特徴とする、請求項4に記載の水酸化リチウムの製造方法。
【請求項6】
前記硫酸リチウム水溶液を得るステップの前に、前記リチウム-含有廃液から、マンガン、ニッケル、およびコバルトから選択される1種以上の金属塩を回収する一つ以上のステップをさらに含む、請求項1に記載の水酸化リチウムの製造方法。
【請求項7】
前記金属塩が回収されたリチウム-含有廃液を蒸発濃縮してから冷却結晶化して硫酸ナトリウム(NaSO)を除去するステップをさらに含む、請求項6に記載の水酸化リチウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃リチウム二次電池のリチウム-含有廃液から高純度の水酸化リチウムを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モバイル機器、ノート型パソコン、無線機器、電気自動車、電動二輪車など、超小型から中大型に至る種々のエネルギー貯蔵装置の技術開発と需要が増加するのに伴い、エネルギー源としての二次電池の需要が急激に増加している。かかる二次電池の中でも、高いエネルギー密度と作動電位を示し、サイクル寿命が長く、自己放電率の低いリチウム二次電池が常用化され、広く用いられている。
【0003】
リチウム二次電池の生産と使用量の増加により、その廃棄量も増加するはずであるため、その処理のための廃リチウム二次電池の再処理およびリサイクル技術の必要性が浮上している。また、二次電池および素材関連業界では価格競争が激しく、低価の原材料、低価工程、収率向上などの努力が強く要求されているだけでなく、二次電池の需要が増加している。そのため、使用済みの肺電池や、製造工程で発生する不良品、電極などをリサイクルしようとする試みが増加しており、リチウムの需要も急増しているのに伴い、リチウム二次電池の必須素材である高純度の水酸化リチウムを高収率で回収する方法の技術開発が求められている。
【0004】
リチウム廃液から水酸化リチウムを製造するためには、硫酸イオンの除去が必須である。これに関連して、韓国特許公開第10-2016-0002578号には、水酸化バリウムを用いて硫酸リチウムから水酸化リチウムを製造する方法が開示されている。しかし、リチウム廃液から水酸化リチウムを回収することは開示しておらず、硫酸イオンの除去のために水酸化バリウムを用いる場合、反応時間が長く、溶液中にバリウムが残存するため、得られる水酸化リチウムの純度および収率が低下するという問題がある。一方、従来に硫酸イオンの沈殿に用いられていた水酸化カリウムは、水に対する溶解度が低いため、溶解度を高めるために別の処理をしないと、硫酸イオンとの沈殿物を形成することが困難であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】韓国特許公開第10-2016-0002578号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述の従来技術の問題を改善するためのものであって、別の添加物を用いなくてもリチウム-含有廃液から高純度の水酸化リチウムを高収率で製造する方法を提供することを目的とする。
【0007】
しかし、本願が解決しようとする課題は以上で言及した課題に制限されず、言及されていない他の課題は、下記の記載から通常の技術者に明確に理解される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、リチウム-含有廃液から硫酸リチウムを得るステップと、前記硫酸リチウムと水酸化カルシウムを反応させて水酸化リチウムを得るステップと、を含み、前記リチウム-含有廃液から得られた硫酸リチウムはpH6以下である、水酸化リチウムの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る水酸化リチウムの製造方法は、リン含有物質、pH調節剤、またはグリセリンなどのような別の添加物を用いなくても、リチウム-含有廃液から高純度の水酸化リチウムを高収率で製造することができる。また、添加物を除去するための別の工程がないため、水酸化リチウムの製造工程を単純化することができる。
【0010】
さらに、本発明のリチウム-含有廃液は、マンガン、コバルト、ニッケルなどのような有価金属が分離回収されたリチウム-含有廃液を蒸発濃縮してから冷却結晶化する過程を経ることで、pH調節のための別の添加剤がなくても、pH6以下に調節された硫酸リチウム水溶液を得ることができる。また、前記硫酸リチウム水溶液と水酸化カルシウムを反応させて水酸化リチウム水溶液を得、該水酸化リチウム水溶液から、イソプロパノールなどのようなアルコール沈殿剤を用いて低温工程で水酸化リチウム粉末を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】水酸化カルシウムの温度による溶解度を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、廃リチウム二次電池から高純度の水酸化リチウムを高収率で得る方法であって、廃リチウム二次電池のリチウム-含有廃液から硫酸リチウムを得、該硫酸リチウムを水酸化カルシウムと反応させて水酸化リチウムを得ることを含む、水酸化リチウムの製造方法に関する。
【0013】
本発明に係る水酸化リチウムの製造方法は、リン含有物質、pH調節剤、またはグリセリンなどのような別の添加物を用いなくても、リチウム-含有廃液から高純度の水酸化リチウムを高収率で製造することができ、添加物を除去するための別の工程がないため、水酸化リチウムの製造工程を単純化することができる。
【0014】
また、本発明のリチウム-含有廃液は、マンガン、コバルト、ニッケルなどのような有価金属が分離回収されたリチウム-含有廃液を蒸発濃縮してから冷却結晶化する過程を経ることで、pH調節のための別の添加剤がなくても、pH6以下に調節された硫酸リチウム水溶液を得ることができる。また、前記硫酸リチウム水溶液と水酸化カルシウムを反応させて水酸化リチウム水溶液を得、該水酸化リチウム水溶液から、イソプロパノールなどのようなアルコール沈殿剤を用いて低温工程で水酸化リチウム粉末を得ることができる。
【0015】
以下、本発明に係る水酸化リチウムの製造方法について詳細に説明する。しかし、本発明がこれにより限定されるものではない。
【0016】
<水酸化リチウムの製造方法>
本発明の水酸化リチウムの製造方法は、リチウム-含有廃液から硫酸リチウムを得るステップと、前記硫酸リチウムと水酸化カルシウムを反応させて水酸化リチウムを得るステップと、を含み、前記リチウム-含有廃液から得られた硫酸リチウムはpH6以下であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の水酸化リチウムの製造方法は、廃リチウム二次電池から前記リチウム-含有廃液を得るステップと、前記リチウム-含有廃液を前処理するステップと、水酸化リチウム粉末を製造するステップと、をさらに含んでもよい。
【0018】
(1)リチウム-含有廃液から硫酸リチウムを得るステップ
本発明の水酸化リチウムの製造方法は、リチウム-含有廃液から硫酸リチウムを得るステップを含む。
【0019】
前記硫酸リチウムを得るステップの前に、前記リチウム-含有廃液から、マンガン、ニッケル、およびコバルトから選択される1種以上の金属塩を回収するステップをさらに含んでもよい。ここで、前記リチウム-含有廃液は、廃リチウム二次電池から、マンガン、コバルト、ニッケルなどのような有価金属が分離回収されたものを意味し得る。
【0020】
一例として、本発明において、前記金属塩は、溶媒抽出または沈殿により回収されることができ、前記溶媒抽出には、ジ-(2-エチルヘキシル)リン酸、ジ-(2-エチルヘキシル)ホスホン酸、ビス-(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスホン酸などのようなリン酸系物質、またはネオデカン酸などのようなカルボキシル系物質が用いられてもよく、前記沈殿には、ジメチルグリオキシム、ジエチルグリオキシム、ジプロピルグリオキシム、またはエチルメチルグリオキシムなどのようなオキシム系物質が用いられてもよいが、これらに制限されるものではない。
【0021】
リチウム-含有廃液から硫酸リチウムを得る過程で、金属塩の回収などのためにアルカリ物質および硫酸が用いられ、これにより、前記過程を経て得られた硫酸リチウムは、特に処理しなくても、pH値が6以下になることができる。pHを人為的に下げると純度および収率の低下が発生し、pHを人為的に上げるとNa含量が増加して不純物および純度/収率低下の問題が発生する。例えば、前記アルカリ物質としては、NaOH、KOH、Ca(OH)、およびNHOHからなる群から選択される少なくとも1種以上が用いられてもよく、NaOHを用いることが最も好ましい。
【0022】
一実施形態において、リチウム-含有廃液から硫酸リチウムを得る過程で、アルカリ物質として水酸化ナトリウムを用いて金属塩を分離回収する場合、硫酸溶液と水酸化ナトリウムが反応し、不純物である硫酸ナトリウムが生成される可能性がある。
【0023】
前記リチウム-含有廃液から硫酸リチウムを得るステップは、前記金属塩が回収されたリチウム-含有廃液を蒸発濃縮してから冷却結晶化して硫酸ナトリウム(NaSO)を除去するステップをさらに含んでもよく、前記濃縮は、70%まで濃縮することが好ましいが、これに制限されるものではない。
【0024】
前記冷却結晶化は、硫酸ナトリウムと硫酸リチウムの溶解度の差を利用したことであって、追加物質を処理することなく行われることができる。前記硫酸ナトリウムの除去のための冷却結晶化は、0~10℃の温度範囲で行われてもよく、2~5℃の温度範囲で行われることが好ましい。10℃を超える場合には、NaSOの溶解度(solubility)が増加してNaSOの分離が困難であるため、10℃以下の温度でNaSOの溶解度(solubility)を下げ、沈殿フィルターによりNaSOを除去することが好ましい。
【0025】
(2)前記硫酸リチウムと水酸化カルシウムを反応させて水酸化リチウムを得るステップ
本発明の水酸化リチウムの製造方法は、前記硫酸リチウムと水酸化カルシウムを反応させて水酸化リチウムを得るステップを含む。
【0026】
本発明において、前記硫酸リチウムと前記水酸化カルシウムは等モル数で添加し、常温で反応させることが好ましい。反応性の向上のために温度を上昇させる場合、水酸化カルシウムの溶解度が減少し、溶解されていない水酸化カルシウムによる未反応物が多量存在することになり、最終収率が減少することになる。
【0027】
本発明において、前記水酸化カルシウムは水酸化バリウムよりもリチウムとの反応性が良いため、反応時間が短く、反応後に残存するカルシウム未反応物がなく、生成された水酸化リチウムも高い収率を示す。
【0028】
前記リチウム-含有廃液から得られた硫酸リチウムは、pH6以下であってよく、pH4.5~pH6であることが好ましく、pH5~pH6であることが最も好ましい。本ステップで、pHを調節するための追加ステップが不要であるため、本発明の水酸化リチウムの製造方法の工程が単純化するという利点がある。水酸化カルシウムは水に対する溶解度が低いが、前記硫酸リチウム水溶液がpH6以下を満たすと、グリセリンなどのような追加溶媒を添加しなくても、優れた溶解度および反応性を示すことができる。前記硫酸リチウムのpHが6を超える場合、硫酸リチウムとの反応のために添加される水酸化カルシウムが溶解されないため、硫酸イオンとの反応性が急激に減少し、水酸化リチウムの収率および純度が低下する。また、pHを人為的に下げると純度および収率の低下が発生し、pHを人為的に上げると、Na含量が増加して不純物および純度/収率低下の問題が発生する。
【0029】
本発明は、水酸化カルシウムを水に溶解させるための別の添加物質がないため、添加物質を除去するための追加工程が不要であり、これにより、工程を単純化することができる。例えば、水酸化カルシウムを水に溶解させるためにグリセリンを添加する場合、グリセリンを除去するために290℃以上の高温で噴霧乾燥する必要があり、噴霧乾燥するとしても、グリセリンを完全に除去しにくいため、水酸化リチウムの純度が低下する恐れがある。
【0030】
図1に示したように、水酸化カルシウムは、温度が上昇するにつれて水に対する溶解度が低くなり、硫酸リチウムとの反応性は上昇するため、前記硫酸リチウムと水酸化カルシウムの反応は常温で行うことが好ましく、約20℃で行うことが最も好ましい。
【0031】
前記水酸化リチウムを得るステップは、前記硫酸リチウムと水酸化カルシウムの反応により水酸化リチウム水溶液と硫酸カルシウムが生成されると、濾過工程により前記硫酸カルシウムを除去するステップをさらに含んでもよい。
【0032】
前記水酸化リチウムを沈殿剤により沈殿させて水酸化リチウム粉末を得るステップをさらに含んでもよく、具体的に、水酸化リチウム水溶液に沈殿剤を添加して沈殿させた後、乾燥して水酸化リチウム粉末を得ることができる。
【0033】
また、前記沈殿および乾燥は、10~30℃の温度範囲で行われてもよく、15~25℃の温度範囲で行われることが好ましく、約20℃の常温で行われることが最も好ましい。30℃を超える場合には、硫酸カルシウムの溶解度(solubility)が増加して硫酸カルシウムの分離が困難となるため好ましくなく、10℃未満である場合には、硫酸カルシウム以外の他の物質、例えば、金属塩がともに沈殿され得るため好ましくない。
【0034】
前記沈殿剤としては、例えば、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノールなどのようなアルコールが用いられてもよい。
【0035】
(3)リチウム-含有廃液の製造のための前処理ステップ
本発明の水酸化リチウムの製造方法において、リチウム-含有廃液は、廃リチウム二次電池から得たものを含んでもよく、前記リチウム-含有廃液を得るために、廃リチウム二次電池を直ちに破砕した後、熱処理する工程をさらに含んでもよい。
【0036】
前処理工程において、廃リチウム二次電池を破砕する前に放電させるステップをさらに含んでもよい。放電が完了すると、以後の有価金属回収工程は、不活性雰囲気ではない大気中でも安全に行われることができる。放電は放電溶液内で行われることができる。放電溶液としては蒸溜水が用いられてもよい。放電の完了の程度は、時間による電圧減少から確認することができる。廃リチウム二次電池中の電解質は、放電過程で殆ど除去される。
【0037】
前記破砕はミリング(milling)により行われてもよく、前記ミリングは機械的ミリングであり、具体的に、ロールミル(roll-mill)、ボールミル(ball-mill)、ジェットミル(jet-mill)、遊星ミル(planetary-mill)、およびアトリションミル(attrition-mill)からなる群から選択される1種以上により行われてもよい。
【0038】
前記破砕物は、1~15μmの粒径を有し、好ましくは1~7μmの粒径を有し、より好ましくは2~5μmの粒径を有してもよい。
【0039】
前処理工程において、前記破砕後、分級ステップをさらに含んでもよく、破砕物は、分級過程、好ましくは、ふるい(sieve)による分級により、微細電極複合体粉末とその他の成分(正極、負極、セパレータ)の大きい分画に分離され、破砕物から電極複合体粉末が回収される。
【0040】
前処理工程において、前記分級後、比重分離ステップをさらに含んでもよく、破砕物を、好ましくは水位段差(water level)が設けられた水洗槽(rinse tank)を用いて比重分離することで破砕物中のセパレータが除去され、電極複合体、セパレータ、集電体などが分離されることができる。
【0041】
前処理工程において、前記比重分離後、磁力選別ステップをさらに含んでもよく、廃リチウム二次電池にステンレス鋼(SUS)をさらに含む場合、破砕物から磁力選別(magnetic separation)によりステンレス鋼(SUS)が選別除去される。
【0042】
前処理工程において、前記磁力選別後、熱処理を行ってもよい。前記熱処理は、廃リチウム二次電池に含まれる正極バインダー、正極導電剤、負極活物質、負極バインダー、負極導電剤、パウチなどの前記正極活物質以外の不純物を除去するためのことであり、600℃~1000℃未満の温度範囲で行われてもよく、好ましくは、700℃~900℃の温度範囲で行われ、より好ましくは、800℃~900℃の温度範囲で熱処理が行われることが好ましい。前記熱処理温度が1000℃以上である場合、前記正極活物質のリチウムも除去される恐れがある。
【0043】
また、前記熱処理後に、前記前処理物質に硫酸を混合し、残存する炭素材(負極活物質)、銅などの不純物をさらに除去する工程を含んでもよい。
【0044】
前記廃リチウム二次電池は、正極、負極、セパレータ、および電解質を含み、パウチをさらに含み得る。具体的に、廃リチウム二次電池は、負極と正極との間にセパレータ(seperator)を介在し、これに電解質を含む電解液が供給されたものを含む。より具体的に、上述の廃リチウム二次電池は、例えば、前記負極、前記セパレータ、および前記正極を順に積層した後、これらをワインディング(winding)するか折り畳んで円筒形または角形電池ケースまたはパウチに入れた後、前記電池ケースまたはパウチに有機電解液を注入することで製造されたものであってもよい。
【0045】
前記廃リチウム二次電池の正極は、リチウム金属またはリチウム遷移金属酸化物を含むものであり、当分野において公知された通常の方法により製造されたものであってもよい。例えば、正極活物質に、溶媒、必要に応じてバインダー、導電剤、分散剤を混合および撹拌してスラリーを製造した後、それを正極集電体に塗布(コーティング)し、圧縮してから乾燥することで製造されたものであってもよい。
【0046】
前記正極活物質としては、例えば、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMn、Li(NiCoMn)O(ここで、0<x<1、0<y<1、0<z<1であって、x+y+z=1)、LiNi1-aCo(ここで、0≦a<1)、LiCo1-bMn(ここで、0≦b<1)、LiNi1-cMn(ここで、0≦c<1)、LiMn2-dNi(ここで、0<d<2)、LiMn2-eCo(ここで、0<e<2)、LiCoPO、LiFePO、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される1種以上のものが挙げられるが、これらに制限されるものではない。
【0047】
前記正極の溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、アセトン、水、またはこれらの混合物が用いられてもよく、前記正極の導電剤としては、ポリアクリル酸、アセチレンブラック、ファーネスブラック、黒鉛、炭素繊維、またはフラーレンなどの伝導性助材料などが用いられてもよい。
【0048】
前記正極のバインダーは、正極活物質粒子を互いによく付着させ、且つ正極活物質を正極集電体によく付着させる役割をし、例えば、前記バインダーとしては、ポリアクリル酸、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンテルポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブチレンゴム、フッ素ゴム、または種々の共重合体などが用いられてもよい。
【0049】
前記正極集電体は、約3μm~約500μmの厚さを有し、該電池に化学的変化を引き起こすことなく、且つ高い導電性を有するものであれば特に制限されず、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、熱処理炭素、アルミニウムまたはステンレス鋼の表面に、カーボン、ニッケル、チタン、銀、およびこれらの組み合わせからなる群から選択されるもので表面処理を施したものが用いられてもよい。前記集電体は、その表面に微細な凹凸を形成することで正極活物質の接着力を高めてもよく、フィルム、シート、箔、網、多孔質体、発泡体、または不織布体などの様々な形態が可能である。
【0050】
前記廃リチウム二次電池の負極は、当分野において公知された通常の方法により製造されたものであってもよい。例えば、負極活物質に、溶媒、必要に応じてバインダー、導電剤、分散剤を混合および撹拌してスラリーを製造した後、それを負極集電体に塗布(コーティング)し、圧縮してから乾燥することで製造されたものであってもよい。
【0051】
前記負極活物質は、通常、リチウムイオンの吸蔵および放出が可能な炭素材、リチウム金属、ケイ素、またはスズなどであってもよい。好ましくは炭素材であり、炭素材としては、低結晶性炭素および高結晶性炭素などが挙げられる。低結晶性炭素としては、ソフトカーボン(soft carbon)およびハードカーボン(hard carbon)が代表的であり、高結晶性炭素としては、天然黒鉛、キッシュ黒鉛(kish graphite)、熱分解炭素(pyrolytic carbon)、メソフェーズピッチ系炭素繊維(mesophase pitch based carbon fiber)、メソカーボンマイクロビーズ(meso-carbon microbeads)、メソフェーズピッチ(mesophase pitches)、および石油と石炭系コークス(petroleum or coal tar pitch derived cokes)などの高温焼成炭素が代表的である。
【0052】
前記負極の溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、アセトン、水、またはこれらの混合物が用いられてもよく、前記負極の導電材としては、ポリアクリル酸、アセチレンブラック、ファーネスブラック、黒鉛、炭素繊維、またはフラーレンなどの伝導性助材料などが用いられてもよい。
【0053】
前記負極のバインダーは、負極活物質粒子を互いによく付着させ、且つ負極活物質を電流集電体によく付着させる役割をし、例えば、前記バインダーとしては、ポリアクリル酸、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンテルポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブチレンゴム、フッ素ゴム、または種々の共重合体などが用いられてもよい。
【0054】
前記負極集電体は、一般に、約3μm~約500μmの厚さからなる。かかる前記負極集電体としては、該電池に化学的変化を引き起こすことなく、且つ導電性を有するものであれば特に制限されず、例えば、銅、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、熱処理炭素、銅またはステンレス鋼の表面に、炭素、ニッケル、チタン、または銀で表面処理を施したもの、またはアルミニウム-カドミウム合金などを含んでもよい。また、正極集電体と同様に、表面に微細な凹凸を形成することで負極活物質の結合力を強化させてもよく、フィルム、シート、箔、網、多孔質体、発泡体、または不織布体の多様な形態で用いられてもよい。
【0055】
前記廃リチウム二次電池のセパレータとしては、その種類が限定されないが、例えば、エチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-ヘキセン共重合体、およびエチレン-メタクリレート共重合体からなる群から選択されるポリオレフィン系高分子で製造した多孔性基材;ポリエステル、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンサルファイト、およびポリエチレンナフタレンからなる群から選択される高分子で製造した多孔性基材;または無機物粒子およびバインダー高分子の混合物で形成された多孔性基材などが用いられてもよい。特に、リチウムイオン供給コア部のリチウムイオンが外部電極にも容易に伝達されるためには、前記ポリエステル、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンサルファイト、ポリエチレンナフタレン、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される高分子で製造した多孔性基材に該当する不織布材質のセパレータを用いることが好ましい。
【0056】
前記セパレータは、気孔サイズが約0.01μm~約10μmであり、厚さが一般に約5μm~約300μmであるものが用いられる。
【0057】
前記廃リチウム二次電池の電解質としては、例えば、PEO、PVdF、PVdF-HFP、PMMA、PAN、またはPVACを用いたゲル状高分子電解質;またはPEO、PPO(polypropylene oxide)、PEI(polyethylene imine)、PES(polyethylene sulphide)、またはPVAc(polyvinyl acetate)を用いた固体電解質などが用いられてもよい。また、電解質としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、メチルホルメート(MF)、ガンマ-ブチロラクトン(γ-BL;γ-butyrolactone)、スルホラン(sulfolane)、メチルアセテート(MA;methylacetate)、またはメチルプロピオネート(MP;methylpropionate)を用いた非水電解液が用いられてもよい。また、電解質はリチウム塩をさらに含み得るが、かかるリチウム塩としては、例えば、LiCl、LiBr、LiI、LiClO、LiBF、LiB10Cl10、LiPF、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、LiAlCl、CHSOLi、CFSOLi、(CFSONLi、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、またはテトラフェニルホウ酸リチウムなどが用いられてもよい。
【0058】
本願の一実現例において、前記廃リチウム二次電池には、前記セパレータの他に、有機固体電解質および/または無機固体電解質がともに用いられてもよいが、これに制限されるものではない。この際、前記有機固体電解質および/または無機固体電解質が用いられる場合、場合によっては、固体電解質がセパレータを兼ねることもでき、上述のセパレータを用いなくてもよい。
【0059】
前記有機固体電解質は、例えば、ポリエチレン誘導体、ポリエチレンオキシド誘導体、ポリプロピレンオキシド誘導体、リン酸エステルポリマー、ポリビニルアルコール、またはポリフッ化ビニリデンを含んでもよいが、これらに制限されるものではない。前記無機固体電解質は、例えば、LiN、LiI、LiNI、LiN-LiI-LiOH、LiSiS、LiSiO、LiSiO-LiI-LiOH、LiPO-LiS-SiS、およびこれらの組み合わせからなる群から選択されるものを含んでもよいが、これらに制限されるものではない。
【実施例
【0060】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。しかし、下記の実施例は本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の範囲が下記の実施例によって限定されるものではない。
【0061】
<実施例1~3>
廃リチウム二次電池から分離した正極材を破砕し、粉砕処理した。上記で得られた粉末を硫酸溶液で6時間以上反応させた後、Liが含まれた浸出液を得た。前記Liが含まれた浸出液から、溶媒抽出および沈殿法によりマンガン、コバルト、ニッケルを分離して回収した後、リチウム-含有廃液を得た。
【0062】
溶媒抽出により必要金属を回収する場合、Mnは≒pH4で最適の抽出条件を示し、Coは≒pH5で最適の抽出条件を示すことを確認し、Niは<pH6で最適の抽出条件を有する。そのため、溶媒抽出時に、前記pH条件に応じてマンガン、コバルト、またはニッケルを抽出し、この時に得られたリチウム-含有廃液は、金属塩の抽出時に用いられる硫酸溶液により、それぞれpH5.5、pH4.5、およびpH4に調節された。
【0063】
次いで、上記で得られたリチウム-含有廃液を70w/v%に蒸発濃縮した後、5℃で冷却結晶化してNaSOを沈殿させてから濾過して除去することにより、硫酸リチウム(LiSO・HO)水溶液を得た。この際、上記で得られた硫酸リチウム水溶液が、pH5.5の場合を実施例1とし、pH4.5の場合を実施例2とし、pH4の場合を実施例3とした。
【0064】
上記で得られた硫酸リチウム水溶液を出発物質とし、硫酸リチウム水溶液1000mLに添加剤として水酸化カルシウム(Ca(OH))粉末4.0gを添加して常温で反応させ、前記反応により硫酸カルシウム(CaSO・HO)沈殿物と水酸化リチウム(LiOH)溶液を得た。前記沈殿された硫酸カルシウムは濾過して除去し、常温でイソプロパノールを添加して水酸化リチウムを沈殿させた後、乾燥して水酸化リチウム粉末を得た。
【0065】
<比較例1>
硫酸リチウム一水和物と脱イオン水(脱塩水)を撹拌して硫酸リチウム水溶液を得た。前記硫酸リチウム水溶液1000mLに添加剤として水酸化バリウム13.8gを添加した後、撹拌して反応させ、これを濾過した。この際、水酸化バリウムは硫酸リチウムと等モル数で投入した。濾過後、濾液を150~200℃で噴霧乾燥して水酸化リチウム粉末を得た。
【0066】
<比較例2>
硫酸リチウム一水和物と脱イオン水(脱塩水)を撹拌して硫酸リチウム水溶液を得た。前記硫酸リチウム水溶液1000mLに、水酸化カルシウムの溶解性を向上させるためにグリセリンを添加した後、添加剤として水酸化カルシウム粉末4.0gを添加して撹拌し、生成された沈殿物を分離した。沈殿物が除去された濾液からグリセリンを除去するために、290℃以上の温度で噴霧乾燥して水酸化リチウム粉末を得た。
【0067】
比較例1および2の場合、pHを人為的に下げると純度および収率の低下が発生し、pHを上げるとNa含量が増加して不純物および純度/収率低下の問題が発生する。
【0068】
<比較例3>
前記実施例において、pH6.5の硫酸リチウム水溶液を使用したことを除き、何れも実施例と同一の条件で水酸化リチウム粉末を製造した。
【0069】
実験例1:添加剤による比較
本実験例では、硫酸リチウムとの反応のために添加される添加剤の種類による、水酸化リチウムの純度および収率、並びに硫酸リチウムと添加剤の反応性を評価した後、その結果を下記表1に示した。
【0070】
【表1】
【0071】
実験例2:硫酸リチウムのpHによる比較
本実験例では、硫酸リチウムのpH条件による、水酸化リチウムの純度および収率、並びに硫酸リチウムと添加剤の反応性を評価した後、その結果を下記表2に示した。
【0072】
【表2】
【0073】
前記表1および表2の純度、収率、および反応性の評価基準は、下記のとおりである。ここで、純度は、全含量において、不純物であるCaの含量を除いたものを意味する。
【0074】
<純度評価基準>
◎:水酸化リチウムの純度が99.9%以上である場合
○:水酸化リチウムの純度が98.0~99.8%である場合
△:水酸化リチウムの純度が98.0%未満である場合
<収率評価基準>
◎:水酸化リチウムの収率が95.0%を超える場合
○:水酸化リチウムの収率が75.0~95.0%である場合
△:水酸化リチウムの収率が75%未満である場合
<反応性評価基準>
◎:反応時間4時間で95%を超える収率
○:反応時間4時間で75~95%の収率
△:反応時間4時間で75%未満の収率
前記表1および2を参照すると、添加剤として水酸化バリウムを使用した比較例1は、反応時間が長くて溶液中にBaが残存する問題が発生し、グリセリンを添加した比較例2は、反応後に生成されたCaSOが、添加されたグリセロールに一部溶解されてCaが残存する問題が発生して、比較例1および2は、何れも水酸化リチウムの純度および収率が低下する問題が発生することが確認できた。一方、比較例3のようにpH6.5以上である場合には、Ca(OH)が溶けにくいため、硫酸リチウムと水酸化カルシウムの反応性が急激に減少して水酸化リチウムの収率が減少し、未反応物により水酸化リチウムの純度も低下したことが確認できた。
【0075】
これに対し、本発明の実施例1~3のように、硫酸リチウム水溶液のpHが6以下であり、且つ添加剤として水酸化カルシウムを用いる場合、グリセリンのような添加物質がなくても硫酸リチウムと水酸化カルシウムが優れた反応性を示し、これにより、残存金属や残存添加剤による純度の低下が発生せず、副反応がなくて高い収率を示した。特に、pH5.5の硫酸リチウム水溶液を使用した際に、最も優れた純度および収率を示した。
図1