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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-06
(45)【発行日】2023-11-14
(54)【発明の名称】波動歯車装置およびアクチュエータ
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20231107BHJP
【FI】
F16H1/32 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022562919
(86)(22)【出願日】2021-08-27
(86)【国際出願番号】 JP2021031593
(87)【国際公開番号】W WO2023026488
(87)【国際公開日】2023-03-02
【審査請求日】2022-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】390040051
【氏名又は名称】株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【弁理士】
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 優
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-42848(JP,A)
【文献】特開2018-132154(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
剛性の内歯歯車と、
前記内歯歯車の内側に同軸に配置された可撓性の外歯歯車と、
前記外歯歯車の内側に同軸に配置され、前記外歯歯車を非円形に撓めて前記内歯歯車に部分的にかみ合わせている波動発生器と、
前記波動発生器と前記外歯歯車との間に発生するスラスト力を検出する検出機構と、
を有しており、
前記検出機構は、
装置軸線の方向における定まった位置に配置した荷重計と、
前記スラスト力を前記荷重計に伝達する伝達機構と、
を備えており、
前記波動発生器は、前記装置軸線の方向に相対移動可能な状態で一体回転するように、外部の回転軸に連結される回転軸部を備えており、
前記伝達機構は、相対回転可能な状態で前記装置軸線の方向には相対移動しないように、前記波動発生器の回転軸部に連結されている波動歯車装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記波動発生器は、
非円形外周面を備えた剛性のウエーブプラグと、
前記ウエーブプラグの前記非円形外周面と前記外歯歯車との間に装着され、前記ウエーブプラグおよび前記外歯歯車を相対回転可能な状態にしているウエーブベアリングと、
前記ウエーブプラグに一体形成され、あるいは固定した前記回転軸部と、
前記回転軸部を、前記装置軸線の方向に相対移動可能で、かつ、一体回転するように、外部の回転軸に連結する連結機構と、
を備えている波動歯車装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記連結機構は、スプライン式のスライドガイド機構、または、前記装置軸線の方向に平行に延びる軸方向軌道溝に転動体が挿入された構成のスライドガイド機構である波動歯車装置。
【請求項4】
請求項1において、
前記外歯歯車は、カップ形状またはシルクハット形状をしており、半径方向に撓み可能な円筒状胴部と、この円筒状胴部の一端から半径方向に延びるダイヤフラムと、このダイヤフラムの内周縁あるいは外周縁に形成した円盤形状あるいは円環形状をした剛性のボスと、前記円筒状胴部の外周面に形成した外歯とを備えており、
前記荷重計は、前記外歯歯車の前記ボス、または、当該ボスに取り付けたボス取付け部材に、取り付けられて、前記装置軸線の方向から前記波動発生器に対峙しており、
前記伝達機構は、前記荷重計と前記回転軸部との間に配置されている波動歯車装置。
【請求項5】
請求項1において、
前記内歯歯車に対して、前記装置軸線の方向に並べて同軸に配置した剛性の駆動側内歯歯車を備えており、
前記波動発生器によって非円形に撓められた前記外歯歯車は前記駆動側内歯歯車に部分的にかみ合っており、
前記外歯歯車は、半径方向に撓み可能な円筒状胴部と、この円筒状胴部の外周面に形成した外歯とを備えており、
前記内歯歯車は前記外歯歯車とは歯数が相違し、
前記駆動側内歯歯車は、前記外歯歯車と一体回転するように、前記外歯歯車とは歯数が同一であり、
前記荷重計は、前記駆動側内歯歯車、または、当該駆動側内歯歯車に取り付けた取付け部材に、取り付けられて、前記装置軸線の方向から前記波動発生器に対峙しており、
前記伝達機構は、前記荷重計と前記回転軸部との間に配置されている波動歯車装置。
【請求項6】
請求項1において、更に、
前記検出機構による検出結果に基づき、前記スラスト力の発生の有無、前記スラスト力の方向、前記スラスト力の大きさ、および、前記スラスト力の時間的変化のうちの少なくとも一つに基づき、前記波動歯車装置の運転状態を判別する運転状態判別部を備えている波動歯車装置。
【請求項7】
請求項6において、更に、
前記検出機構による検出結果、または、前記運転状態判別部による判別結果に基づき、前記波動歯車装置の運転制御を行う運転制御部を備えている波動歯車装置。
【請求項8】
請求項7に記載の波動歯車装置と、
前記波動発生器の前記回転軸部にモータ軸が連結されたモータと、
を備えており、
前記運転制御部は、前記モータから前記波動歯車装置への入力回転を制御することで、前記波動歯車装置の前記運転制御を行うアクチュエータ。
【請求項9】
請求項8において、更に、
前記波動歯車装置への入力回転を制御するブレーキ機構を備えており、
前記運転制御部は、前記ブレーキ機構を制御することで、前記波動歯車装置の前記運転制御を行うアクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラスト力の検出機構を備えた波動歯車装置およびアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
波動歯車装置では、減速時に、波動発生器に減速回転出力側に向かう方向のスラスト力が作用し、増速時には、波動発生器に反対方向のスラスト力が作用する。
【0003】
この点に着目して、本発明者は、特許文献1において、カップ型あるいはシルクハット型の波動歯車装置における入力側回転部材である波動発生器が負荷側トルクによって回転することの無いように保持するために必要な入力側保持トルクを大幅に低減可能な方法を提案している。この方法では、カップ形状あるいはシルクハット形状をした可撓性の外歯歯車を備えた波動歯車装置において、減速時および増速時において波動発生器に作用するスラスト力の方向の違いを利用して、入力側保持トルクを低減している。
【0004】
一方、波動歯車装置として、パンケーキ型あるいはフラット型と呼ばれる波動歯車装置が知られている。この形式の波動歯車装置は、2枚の内歯歯車と、これらの内側に同軸に配置した円筒形状をした可撓性の外歯歯車と、この内側に同軸に装着した波動発生器とを備えている。一方の内歯歯車は、外歯歯車と歯数が異なる固定側(静止側)歯車であり、他方の内歯歯車は、外歯歯車と歯数が同一で一体回転する出力側(駆動側)歯車である。減速運転においては、モータ等から波動発生器に高速回転が入力されると、波動発生器の回転が固定側の内歯歯車と外歯歯車の歯数差に応じて大幅に減速されて、外歯歯車が減速回転する。減速回転は、外歯歯車と一体回転する出力側の内歯歯車から負荷側に出力される。逆に、増速運転においては、出力側の内歯歯車からの入力回転が、外歯歯車と固定側の内歯歯車との間で大幅に増速されて、波動発生器から高速回転が出力される。
【0005】
パンケーキ型あるいはフラット型の波動歯車装置の外歯歯車は、減速運転、増速運転において発生するスラスト力によって、外歯歯車が軸線の方向(スラスト方向)に移動するウォーキングと呼ばれる現象が起きる。外歯歯車の軸線の方向の移動を、許容される可動範囲に制限するために、外歯歯車の移動を規制する規制部材が配置される。例えば、特許文献2に記載の撓みかみ合い式歯車装置(波動歯車装置)では、外歯歯車の両側に規制部材が配置され、外歯歯車の軸線の方向の移動を制限している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-231996号公報
【文献】特開2019-105314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、波動歯車装置においては、減速運転時と増速運転時に発生するスラスト力が発生するが、スラスト力を検出する小型で内蔵可能な検出器が無い。小型で内蔵可能な検知器があれば、運転中のスラスト力に関する情報を利用して、検出したスラスト力に応じた運転制御が可能となる。
【0008】
本発明の目的は、この点に鑑みて、小型で内蔵可能なスラスト力の検出機構を備えた波動歯車装置、および当該波動歯車装置を備えたアクチュエータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の波動歯車装置は、
剛性の内歯歯車と、
前記内歯歯車の内側に同軸に配置された可撓性の外歯歯車と、
前記外歯歯車の内側に同軸に配置され、前記外歯歯車を非円形に撓めて前記内歯歯車に部分的にかみ合わせている波動発生器と、
前記波動発生器と前記外歯歯車との間に発生するスラスト力を検出する検出機構と、
を有しており、
前記検出機構は、
軸線の方向における定まった位置に配置した荷重計と、
前記スラスト力を前記荷重計に伝達する伝達機構と、
を備えており、
前記波動発生器は、前記軸線の方向に相対移動可能な状態で一体回転するように、モータ軸等の外部の回転軸に連結される回転軸部を備えており、
前記伝達機構は、相対回転可能な状態で前記軸線の方向には相対移動しないように、前記波動発生器の前記回転軸部に連結されている。
【0010】
本発明の波動歯車装置において、その波動発生器の回転軸部には、外部から回転力のみが伝達され、軸方向力は伝達されない。波動発生器の回転軸部には、軸方向力として、外歯歯車との間に発生するスラスト力が作用する。回転軸部に連結された伝達機構を介して荷重計にスラスト力が加わり、荷重計によってスラスト力が検出される。荷重計としては、歪ゲージ式、圧電式のものを用いることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、荷重計および伝達機構によって、外歯歯車の内側に組み込み可能な小型でコンパクトな検出機構が得られる。この検出機構が組み込まれた波動歯車装置、および、当該波動歯車とモータを備えたアクチュエータにおいては、運転中のスラスト力情報を利用して、検知したスラスト力に応じた運転制御が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A】本発明を適用したカップ型の波動歯車装置の一例を示す概略構成図である。
図1B】波動歯車装置の内歯歯車に対する外歯歯車のかみ合い状態を示す説明図である。
図2A】連結機構の一例を示す説明図である。
図2B】連結機構の別の例を示す説明図である。
図2C】スプライン式の連結機構の一例を示す説明図である。
図2D】スプライン式の連結機構の一例を示す説明図である。
図2E】スプライン式の連結機構の一例を示す説明図である。
図3図1Aの波動歯車装置の検出機構の改変例を示す半縦断面図である。
図4】アクチュエータの一例を示す説明図である。
図5】本発明を適用したシルクハット型の波動歯車装置の例を示す説明図である。
図6】本発明を適用したパンケーキ型の波動歯車装置の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、図面を参照して本発明を適用した波動歯車装置の実施の形態を説明する。以下に述べる実施の形態は本発明の一例であり、本発明を実施の形態に限定することを意図したものではない。
【0014】
(全体構成)
図1Aおよび図1Bを参照して説明すると、本発明を適用したカップ型の波動歯車装置1は、剛性の内歯歯車2と、この内側に同軸に配置したカップ形状をした可撓性の外歯歯車3と、この内側に同軸に装着した波動発生器4と、外歯歯車3の内側に組み込まれた検出機構5とを備えている。検出機構5は、外歯歯車3と波動発生器4との間に発生するスラスト力を検出するための機構である。検出機構5の検出結果は、有線あるいは無線により、駆動制御装置20に供給される。駆動制御装置20は、コンピュータを中心に構成され、検出結果に基づき波動歯車装置1の運転状態を判別する運転状態判別部20a、波動歯車装置1の運転状態を制御する運転制御部20b等が備わっている。
【0015】
本例では、内歯歯車2は固定側部材であり、波動発生器4はモータ軸6に同軸に連結され、高速回転が入力される入力側の部材である。外歯歯車3は円盤状の出力軸7が同軸に連結され、減速回転が出力される出力側の部材である。
【0016】
内歯歯車2は、円筒状の装置ハウジング8に一体形成されている。装置ハウジング8における軸線1aの方向の一方の側(入力側)の端面には、円盤状のエンドプレート9が同軸に取り付けられている。エンドプレート9の中心開口部を通ってモータ軸6が延びている。モータ軸6は軸受を介してエンドプレート9によって回転自在に支持され、波動発生器4に同軸に連結されている。装置ハウジング8の軸線1aの方向の反対側(出力側)の端面には、クロスローラベアリング10を介して、外歯歯車3に連結した出力軸7が回転自在の状態で支持されている。
【0017】
外歯歯車3は、半径方向に撓み可能な円筒状胴部31と、この円筒状胴部31の開口端の側の外周面部分に形成した外歯32と、円筒状胴部31の開口端とは反対側の端から半径方向の内方に延びているダイヤフラム33と、ダイヤフラム33の内周縁に繋がっている円環形状をした剛性のボス34とを備えている。外歯歯車3は内歯歯車2の内側に同軸に装着されて、外歯32が内歯歯車2の内歯21に半径方向の内側から対峙している。ボス34は、円環形状の押さえ部材11と出力軸7の間に挟まれており、これら三部材が複数本の締結ボルトによって締結固定されている。
【0018】
波動発生器4は、軸孔41を備えた中空の回転軸部42と、この回転軸部42の円形外周面に一体形成した楕円状外周面を備えた一定幅の剛性のウエーブプラグ43と、楕円状外周面に装着したウエーブベアリング44とを備えている。ウエーブベアリング44は、ウエーブプラグ43の楕円状外周面と外歯歯車3の円筒状胴部31の内周面との間に装着され、ウエーブプラグ43および外歯歯車3を相対回転可能な状態に保持している。また、ウエーブプラグ43に装着されて楕円状に撓められたウエーブベアリング44によって、外歯歯車3における外歯32が形成されている円筒状胴部31の部分が楕円形状に撓められている。楕円形状の長軸Lmaxの両端部分に位置する外歯32が内歯歯車2の内歯21にかみ合っている。
【0019】
(スラスト力検出のための機構)
ここで、波動発生器4の回転軸部42の軸孔41には、軸線1aの方向に沿って入力側からモータ軸6の先端軸部6aが同軸に挿入されている。回転軸部42の軸孔内周面と、モータ軸6の先端軸部6aの外周面との間には連結機構12が組み込まれている。波動発生器4の回転軸部42は、連結機構12を介して、モータ軸6の先端軸部6aに対して、軸線1aの方向には相対的にスライド可能で、かつ、一体回転するように、取り付けられている。
【0020】
図2Aは連結機構12を示す説明図である。連結機構12は、軸線1aの方向に平行に延びる転動体軌道溝12cにボール12d(転動体)が挿入された構成のスライドガイド機構である。連結機構12は、モータ軸6の外周面に装着した内側円筒12a、波動発生器4の回転軸部42の軸孔41の内周面に装着した外側円筒12bを備えている。内側円筒12aおよび外側円筒12bには、それぞれ、軸線1aに平行に延びるスプライン溝(V溝)が円周方向に等角度間隔で形成されている。内側のスプライン溝と、これに対峙する外側のスプライン溝との間に、軸線1aに平行に延びる矩形断面の転動体軌道溝12cが形成されている。本例では6列の転動体軌道溝12cが形成されている。転動体軌道溝12cのそれぞれに、1個あるいは複数個のボール12d(転動体)が挿入されている。転動体軌道溝12cは、円周方向に3列以上とすることが望ましい。
【0021】
転動体としてボール12dの代わりにローラを用いることもできる。図2Bには、転動体としてローラ12eを用いた場合の連結機構の例を示してある。また、連結機構12は、スプライン式のスライドガイド機構であってもよい。図2C、2D、2Eには、スプライン式の連結機構の例を示してある。
【0022】
なお、連結機構12は、波動発生器4の回転軸部42が、モータ軸6に対して軸線1aの方向に相対的にスライド可能であり、かつ、モータ軸6と一体回転するように、モータ軸6に連結される機構であればよく、上記の各例に限定されるものではない。
【0023】
次に、検出機構5は、図1Aに示すように、外歯歯車3の円筒状胴部31の内側空間において、ダイヤフラム33およびボス34と、波動発生器4との間に組み込まれている。検出機構5は、軸線1aの方向における定まった位置、本例では、外歯歯車3のボス34に取り付けた扁平な円盤状の荷重計50(ロードセル)と、外歯歯車3と波動発生器4との間に発生するスラスト力を荷重計50に伝達する伝達機構60とを備えている。
【0024】
荷重計50は、公知のように、力や荷重の物理量を電気信号に変換する。検出素子として、歪ゲージあるいは圧電素子が使用される。荷重計としては、圧縮型、引張型、引張・圧縮両用型が知られている。本例では、荷重に対しての変形が小さく、波動発生器4の軸方向位置を保持できるという観点から、荷重計50として、ひずみゲージ式または圧電式の引張り圧縮型を用いている。荷重計50における波動発生器4の側の端面51の中心からは、連結用のねじ軸52が軸線1aの方向に突出している。
【0025】
スラスト力を荷重計50に伝達するための伝達機構60は、波動発生器4の回転軸部42の軸孔41に同軸に組み込まれている。伝達機構60は、回転軸部42に対して、相対回転自在の状態で、かつ、軸線1aの方向には相対移動しないように、取り付けられている。本例の伝達機構60は、伝達用円盤61と、この伝達用円盤61の外周面に装着した軸受62と、伝達用円盤61の中心を軸線1aの方向に貫通している連結用のねじ孔63とを備えている。軸受62は、伝達用円盤61の外周面と、回転軸部42の軸孔41の内周面との間に装着されている。伝達用円盤61の連結用のねじ孔63には、荷重計50の連結用のねじ軸52がねじ込み固定されて、伝達用円盤61と荷重計50とが連結されている。簡易な構造で、伝達機構60の伝達用円盤61と荷重計50との軸線1aの方向の位置決め、組付けを容易に行うことができる。
【0026】
図3は波動歯車装置1の半縦断面図であり、検出機構5の別の例を示してある。波動歯車装置1の外歯歯車3の内側に組み込まれている検出機構5Aの基本構成は上記の検出機構5と同一であるので、対応する部位には同一の符号を付し、それらの説明は省略する。検出機構5Aでは、荷重計50の側に連結用のねじ孔52Aが形成されており、伝達機構60の伝達用円盤61の側に連結用のねじ軸63Aが形成されている。
【0027】
(動作の説明)
この構成の波動歯車装置1において、モータ軸6によって波動発生器4が高速回転すると、外歯歯車3の内歯歯車2に対するかみ合い位置が、内歯歯車2の円周方向に移動する。外歯歯車3は内歯歯車2よりも歯数が2n枚少ない(n:正の整数)。本例では内歯歯車2が固定されているので、波動発生器4の回転に伴って外歯歯車3が減速回転する。外歯歯車3の減速回転が、そのボス34に連結されている出力軸7から不図示の負荷側に出力される。
【0028】
モータ軸6と波動発生器4の回転軸部42との間は、連結機構12を介して連結されており、軸線1aの方向に相対移動可能な状態で一体回転する。換言すると、外部のモータ軸6から波動発生器4には、回転力のみが伝達され、軸方向力は伝達されない。よって、波動発生器4のプラグ一体型の回転軸部42には、外歯歯車3と波動発生器4との間に発生するスラスト力が作用する。波動発生器4の回転軸部42と荷重計50との間は、伝達機構60を介して連結されており、相対回転は可能であるが、軸線1aの方向には相対移動しない。換言すると、軸方向力であるスラスト力のみが伝達され、回転力は伝達されない。よって、伝達機構60を介して、波動発生器4に作用するスラスト力が荷重計50に伝達され、荷重計50によってスラスト力が検出される。
【0029】
検出機構5の検出結果は、有線あるいは無線により、駆動制御装置20に供給される。駆動制御装置20の運転状態判別部20aは、検出機構5の検出結果に基づき、スラスト力の発生の有無、スラスト力の方向、スラスト力の大きさ、スラスト力の時間的変化等を判別あるいは算出する。運転制御部20bは、検出機構5による検出結果、または、運転状態判別部20aによる判別結果に基づき、波動歯車装置1の運転制御を行う。
【0030】
(アクチュエータ)
図4は、本例の波動歯車装置1を用いたアクチュエータ(回転アクチュエータ)の一例を示す説明図である。この図に示すように、アクチュエータ100は、モータ110と、モータ出力回転を減速して出力する波動歯車装置1と、モータ110に組み込まれた回転検出機構120およびブレーキ機構130と、制御装置140とから構成される。制御装置140は、先に述べた運転状態判別部20aおよび運転制御部20bの機能を備えている。
【0031】
制御装置140は、検出されるスラスト力に基づき、モータ110およびブレーキ機構130の駆動を制御して、波動歯車装置1(波動発生器4)への入力回転を制御することで、波動歯車装置1の運転制御を行うことができる。
【0032】
例えば、次のように運転状態が判別されて波動歯車装置1の運転制御が行われる。
(1)スラスト力の方向検出によって、波動歯車装置1が減速運転か増速運転状態にあるのかを判別する。増速運転時には、ブレーキ機構130などによる摩擦トルクで、効率を低下させ、モータ110の保持トルクを低減させることができる。
(2)スラスト力の発生の有無に基づき次の状態を判別できる。波動発生器4及びこれに連結されるモータ軸6が完全にロック状態であればスラスト力は発生しない。よって、動作停止時の対象軸のロック力の過不足を判別できる。
多軸ロボットなど他の軸が動作中の場合、対象軸の波動歯車装置1によるロックが不足の場合では、増速運転となり、スラスト力が発生する。よって、ブレーキ機構130等を利用して、動作停止時の対象軸のロック力を大きくすることで、ロック力の不足に対応できる。
(3)スラスト力の大きさ、変動には、負荷トルクと、外歯歯車3の内周面と波動発生器4の外輪外周面の間の潤滑状態が大きく影響する。スラスト力の大きさ、変動に基づき、外歯歯車3の内周面とウエーブベアリング44の外輪外周面の間の潤滑状態の状態を知ることができる。
潤滑状態は、波動歯車装置1の運転姿勢、運転状態(一方向一定連続運転、高負荷低速運転、正逆時の短サイクルと大きな加速レ-ト、長期停止時間、潤滑剤の種類・状態)によって変動する。潤滑状態に基づき、寿命予知、診断を行うことができる。
潤滑状態が悪化していることが分かれば、潤滑状態を良好な状態に復帰させることができる。例えば、負荷トルクの低下、加速レ-トの低減、適正な回転数と運転時間の設定等を行うことができる。
【0033】
(その他の実施の形態)
上記の例は、本発明をカップ型の波動歯車装置に適用した場合のものである。本発明は、シルクハット型の波動歯車装置、パンケーキ型の波動歯車装置に対しても適用可能である。
【0034】
図5は、検出機構5が組み込まれたシルクハット型の波動歯車装置1Aを示す説明図である。シルクハット型の波動歯車装置1Aは、剛性の内歯歯車2Aと、シルクハット形状の外歯歯車3Aと、波動発生器4Aとを備えている。シルクハット形状の外歯歯車3Aは、円筒状胴部31Aと、この外周面に形成した外歯32Aと、円筒状胴部31Aの一端から半径方向の外方に広がるダイヤフラム33Aと、ダイヤフラム33Aの外周縁に形成した円環形状をした剛性のボス34Aとを備えている。
【0035】
ボス34Aには、同軸状態で、円盤状の出力軸7Aが固定されている。外歯歯車3Aの円筒状胴部31Aの内側には、軸線1bの方向において、出力軸7Aと波動発生器4Aとの間に、検出機構5が組み込まれている。検出機構5は、出力軸7Aの端面における中心部分に取り付けた荷重計50と、荷重計50と波動発生器4Aの回転軸部42Aとの間に組み込まれた伝達機構60とを備えている。回転軸部42Aは、連結機構12を介して、モータ軸6に連結されている。
【0036】
図6は、検出機構5が組み込まれたパンケーキ型の波動歯車装置1Bを示す説明図である。パンケーキ型の波動歯車装置1Bは、剛性の内歯歯車2Bと、内歯歯車2Bの内側に同軸に配置された可撓性の外歯歯車3Bと、外歯歯車3Bの内側に同軸に配置され、外歯歯車3Bを非円形に撓めて内歯歯車2Bに部分的にかみ合わせている波動発生器4Bと、波動発生器4Bと外歯歯車3Bとの間に発生するスラスト力を検出する検出機構5とを有している。
【0037】
また、波動歯車装置1Bは、内歯歯車2Bに対して、軸線1cの方向に並べて同軸に配置した剛性の駆動側内歯歯車2Cを備えている。駆動側内歯歯車2Cには、同軸に、円盤状の出力軸7Bが固定されている。波動発生器4Bによって非円形に撓められた外歯歯車3Bは駆動側内歯歯車2Cにも部分的にかみ合っている。外歯歯車3Bは、半径方向に撓み可能な円筒状胴部を備え、その外周面に外歯が形成されている。内歯歯車2Bは外歯歯車3Bとは歯数が相違し、駆動側内歯歯車2Cは、外歯歯車3Bと一体回転するように、外歯歯車3Bとは歯数が同一である。
【0038】
円筒形状の外歯歯車3Bの内側において、出力軸7Bと波動発生器4Bとの間に、検出機構5が組み込まれている。検出機構5は、出力軸7Bの端面における中心部分に取り付けた荷重計50と、荷重計50と波動発生器4Bの回転軸部42Bとの間に組み込まれた伝達機構60とを備えている。回転軸部42Bは、連結機構12を介して、モータ軸6に連結されている。
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3
図4
図5
図6