(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】耐性細胞型をトランスフェクトするための組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 15/88 20060101AFI20231108BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20231108BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20231108BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20231108BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20231108BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20231108BHJP
A61K 47/28 20060101ALI20231108BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20231108BHJP
C12N 5/0793 20100101ALI20231108BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231108BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20231108BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
C12N15/88 Z
A61K9/14
A61K31/7088
A61K38/02
A61K47/24
A61K47/26
A61K47/28
A61K48/00
C12N5/0793
C12N5/10
C12N15/11 Z
C12N15/63 Z
(21)【出願番号】P 2020560806
(86)(22)【出願日】2019-04-15
(86)【国際出願番号】 CA2019050456
(87)【国際公開番号】W WO2019210394
(87)【国際公開日】2019-11-07
【審査請求日】2022-04-01
(32)【優先日】2018-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】522218518
【氏名又は名称】プレシジョン ナノシステムズ ユーエルシー
【氏名又は名称原語表記】Precision Nanosystems ULC
【住所又は居所原語表記】655 W Kent Ave N, Suite 50, Vancouver, British Columbia V6P 6T7, Canada
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(74)【代理人】
【識別番号】100105795
【氏名又は名称】名塚 聡
(72)【発明者】
【氏名】トーマス,アニサ
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン,アンドリュー ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】デ ソウザ,レベッカ アン グレース
(72)【発明者】
【氏名】フェルナンデス,タラ エル
【審査官】藤山 純
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/064755(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/016184(WO,A2)
【文献】国際公開第2009/028824(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2002/0169138(US,A1)
【文献】国際公開第2014/172045(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0317647(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/88
A61K 9/14
A61K 31/7088
A61K 38/02
A61K 47/24
A61K 47/26
A61K 47/28
A61K 48/00
C12N 5/0793
C12N 5/10
C12N 15/11
C12N 15/63
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
35~50モル%のイオン化可能な脂質またはその薬学的に許容される塩と、
15~25モル%の構造脂質と、
35~41モル%のステロールと、
0.5~約10モル%の安定剤を含
み、
安定化剤がポリソルベート80、ポリソルベート20、およびトリデシル-D-マルトシドの混合物であり、前記混合物におけるポリソルベート80、ポリソルベート20、およびトリデシル-D-マルトシドの比率が等しい、トランスフェクション試薬組成物。
【請求項2】
前記イオン化可能な脂質が、アミノ脂質またはその薬学的に許容される塩である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
イオン化可能な脂質が組成物の約40モル%を構成する、請求項1
または2に記載の組成物。
【請求項4】
安定化剤が組成物の約0.5~5モル%を構成する、請求項1~
または2に記載の組成物。
【請求項5】
ステロールがコレステロールである、請求項1~
4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
核酸またはペプチドをさらに含む、請求項1~
5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
核酸が、DNA、RNA、またはRNAを発現することができるプラスミドである、請求項
6に記載の組成物。
【請求項8】
前記イオン化可能な脂質が、BOCHD-C3-DMA、KC2、MC3、a-D-トコフェロルスクシノイルおよびDODMA、またはその薬学的に許容される塩から選択される、請求項1~
7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
構造脂質が、1,2ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)またはDSPEまたはDSPCである、請求項1~
8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が、約15nm~約300nmの直径を有する脂質ナノ粒子の形態で存在する、請求項1~
9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
iPSCまたはiPSC様細胞を、核酸の活性および細胞の生存率を維持しながら、核酸治療剤でトランスフェクトするための
インビトロの方法であって、細胞を請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物と接触させるステップを含む、方法。
【請求項12】
核酸の活性および細胞の生存率を維持しながら、ニューロン細胞を核酸治療剤でトランスフェクトするための
インビトロの方法であって、細胞を請求項1~
10のいずれか1項に記載の組成物と接触させるステップを含む、方法。
【請求項13】
細胞が哺乳動物細胞である、請求項
11または
12に記載の方法。
【請求項14】
細胞がヒト由来細胞型である、請求項
11または
12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、細胞への活性核酸の導入である。
【背景技術】
【0002】
ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドの形態の核酸は、その発現を妨害することによって、またはその発現を回復もしくは増大させることによって、または遺伝子を編集することによって、特定の遺伝的標的に処置を集中させるために使用され得る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
核酸を細胞または組織に送達することは、核酸が比較的大きく、負に荷電し、細胞膜を横切って受動的に拡散することができず、ヌクレアーゼに対しても脆弱である親水性化合物であるため、課題を提示する(Akhtar, Basu S Fau-Wickstrom et al. 1991)。
【0004】
これらの核酸を細胞膜を横切って送達するための既存のアプローチには遺伝子回復のためのベクターとしてアデノ随伴ウイルスなどのウイルスが含まれるが、これらは処理された個体において免疫応答を引き起こす可能性がある(MingozziおよびHigh 2013)。イオン化可能な脂質およびポリマーも実験に使用されてきたが、各々はトランスフェクション効率、安定性および毒性の問題を有する(Lv、Zhang et al. 2006)。核酸の治療活性を増大させるために、当分野における重要な努力は細胞への核酸の効率的なカプセル化および送達のために、イオン化可能なカチオン性脂質(「イオン化可能な脂質」または「カチオン性脂質」としても知られる)およびPEG化脂質を含むイオン化可能な脂質を含む脂質ナノ粒子(LNP)に焦点を当ててきた(Tam, Chen et al. 2013,Kauffman,Webber et al. 2015)。
【0005】
脂質粒子は核酸の治療活性に有利に働くように、異なる薬物動態学、組織における異なる生体分布、生分解性、または変化した毒性を得るように操作されている。
【0006】
iPSCまたはiPSC様細胞の生成は、ドナーまたは患者の体細胞への鍵となるリプログラミング因子の導入を含む。安定なiPSCクローンがうまく樹立されれば、研究または臨床応用のためにほとんどの細胞型に分化する可能性がある。iPSCイノベーションの出現は汎用性のある生理学的に関連するインビトロ系として、疾患モデリング、創薬および細胞に基づく治療の分野に、これまでにない可能性を提供する。iPSC技術の利点は神経科学の分野において特に関連性があり、一次組織を使用する実験モデルは実現可能ではなく、小動物モデルは、複雑なヒト神経解剖学を適切に反映しない。
【0007】
iPSC由来ニューロンは、一次ニューロンと多くの形態学的、生化学的および機能的類似性を示す。しかしながら、神経細胞を含むが、これらに限定されない末端分化細胞はそれらの感受性および増殖不能性のために、それらの生存性を保持しながら、トランスフェクトする(又は、トランスフェクションする/transfect)ことが通常困難である。エレクトロポレーション、リン酸カルシウム共沈、リポフェクションおよびヌクレオフェクションのような現在の方法はトランスフェクションおよび再プログラミングされた細胞が臨床的に関連性があることが見出されており、神経変性障害、CNS障害および幹細胞移植における適用を有するという事実にもかかわらず、しばしば、高い速度の細胞死を生じ、この理由のために、研究者らおよび細胞への核酸送達に対する適切な代替物を見出すための遺伝子治療に関心を持っている者らである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、35-50モル%のイオン化可能な脂質またはその薬学的に許容される塩と、15~25モル%の構造脂質と、35~41モル%のステロールと、0.5~約10モル%の安定剤を含むトランスフェクション(又は、移入/transfection)試薬組成物が提供される。いくつかの実施形態では、イオン化可能な脂質がアミノ脂質またはその薬学的に許容される塩である。いくつかの実施形態では、安定化剤が2つ以上の界面活性剤を含む。いくつかの実施形態では、安定化剤がポリソルベート(80)などのポリソルベート、またはポリソルベートの混合物である。いくつかの実施形態では、安定化剤はマルトシドである。いくつかの実施形態では、安定化剤がポリソルベートとマルトシドとの混合物である。好ましい実施形態において、安定化剤は、ポリソルベート80、ポリソルベート20、およびトリデシル-D-マルトシドの混合物である。3つの成分の比は、一実施形態では等しい(1:1:1)。実施形態において、イオン化可能な脂質は、組成物の約40モル%を含む。実施形態において、安定化剤は、組成物の約0.5~5モル%である。いくつかの実施形態では、ステロールはコレステロールである。本発明によれば、核酸またはペプチドをさらに含む、上記の組成物が提供される。実施形態において、核酸は、DNA、RNA、またはRNAを発現し得るプラスミドである。いくつかの実施形態において、イオン化可能な脂質はBOCHD-C3-DMA、KC2、MC3、α-D-トコフェロールスクシノイルおよびDODMAから選択され、実施形態において、イオン化可能な脂質はその薬学的に許容される塩の形態である。実施形態では構造脂質が1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)であり、他の実施形態ではDSPEまたはDSPCである。いくつかの実施形態では、組成物が約15nm~約300nmの直径を有する脂質ナノ粒子の形態である。
【0009】
本発明の実施形態によれば、細胞を上記の組成物と接触させることによって、核酸の活性および細胞の生存率を維持しながら、iPSCまたはiPSC様細胞を核酸治療剤でトランスフェクトするための方法が提供される。
【0010】
本発明の別の実施形態によれば、細胞を上記の組成物と接触させることによって、核酸の活性および細胞の生存率を維持しながら、核酸治療薬でニューロン細胞をトランスフェクトするための方法が提供される。実施形態において、細胞は哺乳動物細胞である。いくつかの実施形態では、細胞はヒトであるか、またはヒトから得られる。
【0011】
本発明の他の態様および特徴は添付の図面と併せて本発明の特定の実施形態の以下の説明を検討することにより、当業者には明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A~1Fはヒト神経前駆細胞に由来し、LIPID MIX A(
図1A)、LIPID MIXTBD(
図1B)、LIPID MIXT20(
図1C)、LIPID MIXT80(
図1D)、LIPID MIX K(
図1E)、およびLIPID MIX L(
図1F)を使用して調製されたプラスミドGFP-LNPでトランスフェクトされたDIV14成熟ニューロンの「GFPマスク」位相コントラスト画像の白黒ネガティブ表現である。プラスミド-GFP脂質粒子(脂質(N):核酸(P)、比4)を、トランスフェクションの72時間後に画像化した。長いひも状の突起は神経突起(軸索と樹状突起)で、球状要素は細胞体(細胞体)である。
図2はIncucyte(登録商標)S3装置を用いて撮影された、DIV14における成熟ニューロンの白黒ネガティブ位相差顕微鏡画像であり、研究で使用されたものを代表する。
図3A~3Cは、LIPID MIX A(3B)を用いて調製したプラスミドGFP-LNP、またはLIPID MIX L(3C)を用いて調製したプラスミドGFP-LNPでの処理後、DIV14、未処理(3A)、および48時間でIncucyte(登録商標)機器を用いて撮影したiPSC由来ニューロンの代表的な位相コントラスト黒および白ネガティブ画像である。
図4A~4Dは4日目にIncucyte(登録商標)S3機器を用い、未処理(4A)、およびN/P6(4B)のLIPID MIX A、N/P6(4C)のLIPID MIX L、またはGFPをコードするプラスミドを含むLipofectamine(登録商標)(4D)からなる脂質粒子での処理の48時間後に撮影した、iPSC由来神経前駆細胞の黒色および白色のネガティブ位相コントラスト画像である。
図5は、LIPID MIX A、LIPID MIX T20、LIPID MIX T80、LIPID MIX K、またはLIPID MIX Lを用いて調製したプラスミドGFP-LNP(N/P4)での処置後0~144時間で捕捉した画像からの、DIV14でGFPを発現するiPSC由来ニューロンのパーセンテージのグラフである。
図6は、LIPID MIX A、LIPID MIX T20、LIPID MIX T80、LIPID MIX K、またはLIPID MIX Lを用いて調製したプラスミドGFP-LNP(N/P4)での処理後0~144時間で、DIV14で捕捉されたiPSC由来ニューロンにおける、神経突起を発現するGFPの長さ/mm
2を示すグラフである。
図7は脂質混合物AおよびUpid混合物Lを用いて調製された250ng/mLに相当する濃度での、処理なし、およびmRNA-LNP(N/P4)での処理後のGFP発現iPSCのパーセンテージを示す棒グラフである。
図8Aは、個々の界面活性剤Tween 20およびTween 80、ならびにTween 20およびTween 80の両方の界面活性剤組合せを有するLNP組成物を使用した、神経前駆細胞におけるGFPのプラスミド媒介発現の効果を示す棒グラフである。
図8Bは、個々の界面活性剤Myrj52(Lipid Mix A)、Tween 20、およびTween 80を用いたLNP組成物を用いた、神経前駆細胞におけるGFPのプラスミド媒介発現の効果を示す棒グラフである。
図9Aは2つの類似のLNP組成物を使用するが、2つの異なるイオン化可能な脂質を含む、神経前駆細胞におけるGFPのmRNA媒介発現(平均蛍光強度)を示す棒グラフであり。
図9Bは2つの異なるイオン化可能な脂質を含む、2つの類似のLNP組成物を使用する、神経前駆細胞におけるGFPのmRNA媒介発現(平均蛍光強度)を示す棒グラフである。
図10は未処理対照、Lipid Mix L、Lipid Mix K、およびLipofectamine(登録商標)処理NPCについて、144時間にわたるLNP処理NPC増殖(ディッシュ中のコンフルエンス)を比較する線グラフである。
図11は、フローサイトメトリーによって測定されたNPC中のGFPレベルを示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、脂質ミックス組成物、核酸治療薬およびペプチドなどの他のオリゴマーの脂質ベースの製剤(formulation)を生成する際のそれらの使用、ならびにトランスフェクション耐性細胞型を克服するためにこれらの脂質ミックスおよび得られる製剤を使用するための方法を提供する。
【0014】
別の態様では、本発明の脂質混合組成物が核酸治療薬と混合して、標的細胞または組織への核酸の送達を増強する脂質核酸粒子を作製するために提供され、より伝統的な脂質混合組成物または脂質核酸粒子(例えば、Lipofectamine(登録商標)トランスフェクション剤のような市販の脂質混合物から作製されるもの)よりも毒性が少ない。
【0015】
別の局面において、本発明は、イオン化可能な脂質、1つ以上の構造脂質、コレステロール、および洗剤の特定の安定化混合物を含む脂質混合物組成物を提供する。
【0016】
別の態様では、本発明による脂質混合組成物が中枢神経系の疾患の治療のための、または細胞再プログラミングのための、または患者細胞のエクスビボ形質転換のための、核酸およびペプチド治療薬を製剤化するために提供される。
【0017】
「脂質」は、脂肪酸誘導体またはステロールであるか、または脂質様物質(例C12~200)であり得、水に不溶性であるが多くの有機溶媒に可溶性であることを特徴とする有機化合物の構造的に多様な群を指す。
【0018】
「脂質粒子」。本発明は、上記の脂質混合組成物から製造された脂質粒子を提供する。いくつかの実施形態では、脂質粒子は治療薬を含有する。脂質粒子は、脂質、核酸、コレステロールおよび安定化剤の集合体である。正および負の電荷、比、ならびに親水性および疎水性は、成分のサイズおよび配向に関して脂質粒子の物理的構造を決定する。これらの脂質粒子の構造的組織化は、リポソーム中のように最小の二重層を有する水性内部をもたらし得るか、または固体核酸脂質ナノ粒子中のように固体内部を含有し得る。
【0019】
「イオン化可能な脂質」。脂質粒子は、イオン化可能な脂質を含む。本明細書中で使用される場合、「イオン化可能な脂質」という用語はpHが脂質のイオン化可能基のpK未満に低下することにつれてカチオン性であるか、またはイオン化可能(プロトン化される)になる脂質を指すが、より高いpH値では漸進的に中性である。pK未満のpH値では脂質が次いで、負に荷電した核酸(例えば、オリゴヌクレオチド)と会合することができる。本明細書中で使用される場合、「イオン化可能な脂質」という用語はpH低下で正電荷を呈する双性イオン性脂質、および生理学的pHなどの選択的pHで正味の正電荷を担う多数の脂質種のいずれをも含む。このような脂質にはN,N-ジオレイル-N,N-ジメチルアンモニウムクロリド(DODAC);1,2-ジオレオイル-3-ジメチルアミノプロパン(DODAP)、N-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA);N,N-ジステアリル-N,N-ジメチルアンモニウムブロミド(DDAB);N-(2,3-ジオレオイルオキシ)-N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTAP);3-(N-(N’,N’-ジメチルアミノエタン)-カルバモイル)コレステロール(DC-Chol)、およびN-(1,2-ジミリスチロキシプロップ-3-イル)-N,N-ジメチル-N-ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DMRIE)が含まれるが、これらに限定されない。
【0020】
「バイアビリティ(又は、活力/生存能力/viability」はインビトロの細胞を参照する場合、細胞型または組織培養株について正常であるように、成長し続け、分裂し、成長および分裂を続ける能力を意味する。細胞のバイアビリティ(又は、細胞の生存率)は、過酷な状態または処置によって影響される。細胞生存率は非臨床の場では必ずしも重要ではないが、エクスビボ療法や非経口投与では極めて重要である。
【0021】
好ましい実施形態では、イオン化可能な脂質はアミノ脂質である。本発明において有用な適切なアミノ脂質は、その全体が参照により本明細書に組み込まれているWO/2009/096558に記載されているものを含む。
代表的なアミノ脂質としては、1,2-ジリノレオキシ-3-(ジメチルアミノ)アセトキシプロパン(DLin-DAC)、1,2-ジリノレオキシ-3-モルホリノプロパン(DLin-DAP)、1,2-ジリノレオイル-3-ジメチルアミノプロパン(DLin-S-DMA)、1,2-ジリノレオイル-3-トリメチルアミノプロパンクロリド(DLin-TAPOOACI)、1,2-ジリノレオイルオキシ-3-(N-メチルピペラジノ)プロパン(DLin-MPZ)3-(N,N-ジリノールアミノ)-l,2-プロパンジオール(DLinAP)、3-(N,N-ジオレイルアミノ)-l,2-プロパンジオ(DOAP)、1,2-ジリノレイル-3-(2-N,N-ジメチルアミノ)エトキシプロパン(DLin-EG-DMA)、2,2-ジリノレイル-4-ジメチルアミノメチル-[l,3]-ジオキソラン(DLin-K-DMA)1,2-ジリノレイルオキシ-N,N-ジメチル-3-アミノプロパン(DLin-DMA)、ヘプタトリアコンタ-6,9,28,31-テトラエン-19-イル4-(ジメチルアミノ)ブタノエート(DLin-MC3-DMA)、2,2-ジリノレイル-4-(2-ジメチルアミノエチル)-[1,3]-ジオキソラン(DLin-KC2-DMA)、および1,2-ジオレイルオキシ-3-ジメチルアミノプロパンが挙げられる。
【0022】
他の実施形態では、Almarsson Orn及び Lawlor, Ciarian PatricによってUS20180000953で参照されるより新しいイオン化可能な脂質、例えば、3-(ジドデシルアミノ)-N1,4-トリドデシル-1-ピペラジンエタンアミン(KL10)、14,25-ジトリデシル-15,18,21,24-テトラアザ-オクタトリアンタン(KL25)、2-({8-[(3β)-コレスト-5-イルオキシ}オキシ)-N,N-ジメチル-3-[(9Z,2Z)-オクタデカ-9,12-ジエン-l-イルオキシ]プロパン-1-アミン(Octyl-CLin DMA)、(2R)-2-({8-[(3β)-コレスト-5-エン-イルオキシ]オクチル}オキシ)-N,N-ジメチル-3-[(9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン-l-イルオキシ]プロパン-l-アミン(Octyl-CLin DMA(2R))、および(2S)-2-{[β] 5‐エン‐3‐イルオキシ]オクチル}オキシ)‐N,N‐ジメチル‐3‐[(9Z,l2Z)‐オクタデカ‐9,12‐ジエン‐l‐イルオキシ]プロパン‐1‐アミン(Octyl‐CLinDMA(2S))を用いた。
【0023】
さらに他の実施形態において、イオン化可能な脂質様材料はKaufmannおよびその同僚(Kaufmann k 2015)によって記載されるように、C12-200である:
【0024】
本発明の好ましい実施形態において、イオン化可能な脂質は、1,17-ビス(2オクチルシクロプロピル)ヘプタデカン-9-イル4-(ジメチルアミノ)ブタノエート塩酸塩(BOCHDC3-DMA)である。この化合物は、米国特許出願公開第2013323269号に開示されている。他の好ましい実施形態において、イオン化可能な脂質は、COATSOME SS-EP4C2.Cat NoSS-EC、または「α-D-トコフェロールスクシノイル」である。
【0025】
イオン化可能な脂質は好ましくは約35~約45モル%、最も好ましくは40モル%(「モル%」は特定の成分の全モルの百分率を意味する)の量を含む。
【0026】
構造脂質。本発明の組成物および脂質粒子は、組成物の約20モル%で1つ以上の構造脂質を含む。適切な構造脂質は、製造中の粒子の形成を支持する。構造脂質は、生理学的pHでアニオン性、非荷電または中性双性イオン形態のいずれかで存在する多数の脂質種のいずれか1つを指す。代表的な構造脂質としては、ジアシルホスファチジルコリン、ジアシルホスファチジルエタノールアミン、ジアシルホスファチジルグリセロール、セラミド、スフィンゴミエリン、ジヒドロスフィンゴミエリン、セファリン、およびセレブロシドが挙げられる。
【0027】
例示的な構造脂質には、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジアルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、パルミトイルホスファチジルコリン(POPC)、パルミトイルホスファチジルエタノールアミン(POPE)およびジオレオイルホスファチジルエタノールアミン4-(N-マレイミドメチル)-シクロヘキサン-1-カルボキシレート(DOPE-mal)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)、16-O-ジメチルPE、18-1-trans P1-ステアリオイル-2-オレオイル-ホスファチジエタノールアミン(SOPE)および1,2-ジエライドイル-sn-グリセロ-3-ホスファタノールアミン(transDOPE)Eが含まれる。好ましい一実施形態では、構造脂質が1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)である。
【0028】
別の実施形態では、構造脂質が生理学的pHで負に帯電している任意の脂質である。これらの脂質には、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、パルミトイルオレオイルホスファチジルグリセロール(POPG)、カルジオリピン、ホスファチジルイノシトール、ジアシルホスファチジルセリン、ジアシルホスファチジル酸、および中性脂質に結合した他のアニオン性修飾基などのホスファチジルグリセロールが含まれる。
【0029】
他の適切な構造脂質としては、糖脂質(例えば、モノシアロガングリオシドGMi)が挙げられる。
【0030】
安定化剤はとりわけ、混合物の完全性を確実にするために、脂質混合物組成物および脂質核酸実施形態に含まれる。本発明の好ましい態様において、安定化剤は洗剤(又は、デタージェント/detergent)である。界面活性剤は、分子間の疎水性-親水性相互作用を破壊するかまたは形成するのを助ける分子のクラスである。適切な洗浄剤は、ポリソルベート20(Tween 20としても知られる)、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、またはIUPAC名2-[2-[3,4-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)オキソラン-2-イル]-2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]ドデカノエート、ポリソルベート80(Tween 80としても知られる)、IUPAC名2-[2-[3,4-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)オキソラン-2-イル]-2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]エチルオクタデク-9-エノエート、およびn-デシル-β-Dマルトピラノシド、n-ドデシル-β-D-マルトピラノシド、および6-シクロヘキシル-1-ヘキシル-β-D-マルトピラノシドなどのマルトシドを含む。
【0031】
好ましい態様において、安定化剤は、ポリソルベート20、ポリソルベート80、およびトリデシルβ-D-マルトシドを組み合わせたものである。いくつかの実施形態では、これらの3つの成分が重量比で1:1:1の割合で組み合わされる。いくつかの実施形態において、3つの界面活性剤の組み合わせは、あわせて全体の脂質混合物の0.5~10モル%を構成する。
【0032】
ある態様において、3つの洗剤の組み合わせは、あわせて全体の脂質混合物の1~3Mol%を構成する。いくつかの実施形態では、3つの界面活性剤の組み合わせはあわせて脂質混合物全体の0.5~2.5モル%を構成する。
【0033】
ステロールは好ましい脂質混合組成物に含まれ、それから作製される脂質粒子はコレステロールおよびフィトステロールなどのステロールを含む。本発明の脂質混合物において、コレステロールは、いくつかの実施形態において、最終脂質混合物の30~50Mol%で存在する。あるいは、コレステロールが最終脂質混合物の35~41モル%で存在する。コレステロールは、様々な好ましい実施形態において、35.9、37.5、38、39、および39.4モル%として存在する。
【0034】
ペプチド。本発明の脂質混合物組成物および脂質粒子は、ペプチドの全身送達または局所送達に有用である。本明細書中で使用される場合、用語「治療ペプチド」は、その細胞への送達が所望の効果を引き起こす任意のアミノ酸鎖を含むことを意味する。ペプチドは長鎖(50アミノ酸以上)を有するタンパク質とは対照的に、長さ2~50アミノ酸のアミノ酸の短鎖であり、しばしば三次および/または四次構造を有する。ペプチド中のアミノ酸は、ペプチド結合と呼ばれる結合によって配列中で互いに連結されている。
【0035】
核酸。本発明の脂質混合物組成物および脂質粒子は、核酸の全身送達または局所送達に有用である。本明細書中で使用される場合、用語「核酸治療剤」(NAT)は、細胞への送達が所望の効果を引き起こす任意のオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドを含むことを意味する。50ヌクレオチドまでを含む断片は、一般にオリゴヌクレオチドと呼ばれ、より長い断片はポリヌクレオチドと呼ばれる。特定の実施形態では、本発明のオリゴヌクレオチドが20~50ヌクレオチドの長さである。本発明の実施形態では、オリゴヌクレオチドがメッセンジャーRNAの場合のように、長さが996~4500ヌクレオチドである。
【0036】
現在、NATは、増加しつつある前臨床試験および臨床試験で積極的に追求されている。これらのNATには、デオキシリボ核酸、相補的デオキシリボ核酸、完全遺伝子、リボ核酸、オリゴヌクレオチド、および癌、感染症、遺伝障害および神経変性疾患などの様々な疾患を標的とする遺伝子治療のためのリボザイムが含まれる。本明細書中に記載されるように、核酸治療剤(NAT)は、その形成の間に脂質粒子に組み込まれる。
【0037】
本発明による脂質粒子中に存在する核酸は、公知の任意の形態の核酸を含む。本明細書中で使用される核酸は、一本鎖DNAもしくはRNA、または二本鎖DNAもしくはRNA、またはDNA-RNAハイブリッドであり得る。二本鎖DNAの例には、構造遺伝子、制御領域および終結領域を含む遺伝子、およびウイルスまたはプラスミドDNAのような自己複製系が含まれる。二本鎖RNAの例には、siRNAおよび他のRNA干渉試薬が含まれる。一本鎖核酸には、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、マイクロRNA、mRNA、および三重鎖形成オリゴヌクレオチドが含まれる。
【0038】
プラスミドDNAは、本発明の実施形態において処方される好ましい核酸である。プラスミドとは、細胞内の染色体DNAとは別個のDNA分子であり、独立に複製することができる。プラスミドは、1000ヌクレオチド未満~数万ヌクレオチドのサイズの範囲である。最も一般的な形態は、小さな環状の二本鎖DNAである。プラスミドを合成し、治療目的で哺乳動物細胞に送達することができる。合成プラスミドは、宿主生物内で組換えDNA配列の複製を駆動するのに役立つ、分子クローニングにおけるベクターとして使用される。
【0039】
プラスミドは、エレクトロポレーションのような物理的な方法、または脂質粒子増強トランスフェクションによる化学的手段を用いた形質転換によって細胞に導入することができる。これらの脂質ベースのベクター系は物理的技術を超えるいくつかの利点を有し、これには、i)細胞系および組織系における高い生体適合性および低い毒性、ii)製造の比較的容易さ、iii)親油性マトリックスがポリマー系において観察される浸食現象に対してあまり感受性でないこと、iv)免疫系からのそれらの不可視性のために、インビボでの循環半減期の増加が挙げられる。
【0040】
したがって、一実施形態では、核酸治療薬(NAT)がプラスミドまたは環状核酸構築物である。別の実施形態では、NATはレプリコンである。一実施形態では、NATはmRNAである。
【0041】
用語「核酸」はまた、リボヌクレオチド、デオキシヌクレオチド、修飾リボヌクレオチド、修飾デオキシリボヌクレオチド、修飾リン酸-糖-骨格オリゴヌクレオチド、他のヌクレオチド、ヌクレオチド類似体、およびそれらの組み合わせを指し、一本鎖、二本鎖、または適宜二本鎖および一本鎖配列の両方の部分を含むことができる。
【0042】
本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」および「オリゴヌクレオチド」は互換的に使用され、ヌクレオチド間ホスホジエステル結合結合(例えば、3’-5’および2’-5’)、逆結合(例えば、3’-3’および5’-5’)、分岐構造、またはヌクレオチド間アナログによって連結された2’-デオキシリボヌクレオチド(DNA)およびリボヌクレオチド(RNA)を含む、ヌクレオチドモノマーの一本鎖および二本鎖ポリマーを意味する。ポリヌクレオチドは、H+、NH4+、トリアルキルアンモニウム、Mg2+、Na+などの関連する対イオンを有する。ポリヌクレオチドは、完全にデオキシリボヌクレオチド、完全にリボヌクレオチド、またはそれらのキメラ混合物から構成され得る。ポリヌクレオチドは、ヌクレオチド間、核酸塩基および/または糖アナログから構成され得る。
【0043】
本明細書中で使用される場合、「核酸」は、ヌクレオチドまたはそのアナログから形成される骨格を有する、核酸塩基配列含有ポリマーまたはポリマーセグメントである。
【0044】
本明細書中で使用される場合、「N/P」は、mRNA/DNAのリン酸基のモルに対するイオン化可能な脂質のアミン基のモル比である。本発明の実施形態では、N/P比はN/P3~N/P7であり、最も好ましい比はN/P4~N/P6である。
【0045】
本発明のいくつかの実施形態による脂質粒子は、電子顕微鏡法によって特徴付けることができる。実質的に固体のコアを有する本発明の粒子は電子顕微鏡で見られるように、電子密度の高いコアを有する。そのような構造の1つがCullisらによる米国特許No.9,758,795に開示されている。電子密度は、(2-D極低温EM画像で見られるように)固体コア粒子の投影面積の50%の内部の面積平均電子密度が粒子の周辺部における最大電子密度のx%(x=20%、40%、60%)以上であるように定義される。電子密度は、ナノ粒子を含まない領域における背景強度から関心領域の画像強度の差の絶対値として計算される。
【0046】
本発明の脂質粒子は、Malvern(登録商標)Zetasizer(登録商標)のような、溶液中の粒子の大きさを決定するデバイスを使用して、大きさについて評価され得る。粒子は、約15nm~約300nmの平均粒径を有する。脂質粒子についての別の用語は「LNP」であり、これは、「脂質ナノ粒子」を表す。いくつかの実施形態では、平均粒子直径は300nmより大きい。なお、一部の実施例では、脂肪粒子の径が約300nm以下、250nm以下、200nm以下、150nm以下、lOnm以下、50nm以下のものがある。一実施形態では、脂質粒子が約50~約150nmの直径を有する。より小さい粒子は一般に、より大きい粒子と比較して、インビボで増加した循環寿命を示す。一実施形態では、脂質粒子が約15~約50nmの直径を有する。
【0047】
混合。本発明の実施形態による脂質粒子は、標準的なTチューブ混合技術、乱流混合、粉砕混合、攪拌促進秩序自己集合、または全ての要素とナノ粒子への要素の自己集合との受動混合によって調製することができる。遺伝薬物を含有する脂質ナノ粒子(LNP)を製剤化するために、様々な方法が開発されてきた。適切な方法は、例として、Ansell, Mui and Hopeによる米国特許第5,753,613号、およびSaravolacらによる米国特許第6,734,171号に開示されている。これらの方法はエタノールの存在下で予備形成された脂質粒子を核酸治療剤(NAT)と混合すること、またはエタノールに溶解された脂質をNATを含有する水性媒体と混合することを含み、65~95%のNATカプセル化効率を有する脂質粒子を生じる。これらの方法の両方は、NATのカプセル化を達成するためのイオン化可能な脂質の存在、および凝集および大きな構造の形成を阻害するための安定化剤に依存する。製造される脂質粒子系の特性(サイズおよびNATカプセル化効率を含む)は、イオン強度、脂質およびエタノール濃度、pH、NAT濃度および混合速度などの種々の製剤パラメーターに感受性である。J Drug Target. 2016年11月24(9):821-835。
【0048】
マイクロ流体二相液滴技術は薬物送達のための単分散ポリマー微粒子を生成するために、または細胞、タンパク質、もしくは他の生体分子のカプセル化のための大きな小胞を生成するために適用されてきた。制御されたサイズの単分散リポソームを作製するために、試薬の迅速な混合を提供するための一般的なマイクロ流体技術である流体力学的フローフォーカシングの使用が実証されている。
【0049】
一般に、混合時の相対脂質およびNAT濃度、ならびに混合速度などのパラメータは現在の製剤化手順を使用して制御することが困難であり、調製物内および調製物間の両方で、生成されるNATの特性の変動をもたらす。NanoAssemblr(登録商標)機器(カナダ国バンク-場のPrecision NanoSystems Inc)などの自動マイクロ混合機器は、ナノ医薬(リポソーム、脂質ナノ粒子、およびポリマーナノ粒子)の迅速かつ制御された製造を可能にする。NanoAssemblr(登録商標)機器は、ナノリットル、マイクロリットル、またはより大きなスケールでのナノ粒子成分のミリ秒混合をカスタマイズまたは並列化で可能にするマイクロ流体混合カートリッジを介してナノ粒子の制御された分子自己集合を達成する。小規模での迅速な混合は、より大きな機器では不可能である粒子合成および品質の再現可能な制御を可能にする。
【0050】
好ましい方法は形成プロセスで使用される核酸のほぼ100%を達成するために、NanoAssemblr(登録商標)、Spark(登録商標)、Ingnite(登録商標)、Benchtop(登録商標)およびBlaze(登録商標)のようなマイクロ流体混合デバイスのような器具を組み込んで、一工程で粒子中にカプセル化する。1つの実施形態において、脂質粒子は、形成プロセスにおいて使用される核酸の約90~約95%が粒子中にカプセル化されるプロセスによって調製される。
【0051】
Cullisらによる米国特許番号第9,758,795、第9,943,846は、少量混合技術およびそれにより導出された新規製剤を使用する方法を記載している。Ramsayらの米国出願公開第20160022580は異なる材料を定式化するために、少量混合技術および製品を使用する、より進んだ方法を記載している。Walshらによる米国出願公開第2016235688は、混合される要素に対して異なる経路およびウェルを有するマイクロ流体ミキサーを開示する。Wild、Leaver and Taylorによる国際公開番号WO2017117647は、使い捨て無菌経路を有するマイクロ流体ミキサーを開示している。Wild、Leaver and Taylorによる国際公開番号第WO201711764号は、分岐トロイダルマイクロミキシング幾何学形状およびマイクロミキシングへのそれらの適用を開示している。Chang、Klaassen、Leaver et al.による国際公開番号W02018006166は、プログラム可能な自動化マイクロミキサーおよびそのための混合チップを開示している。Changらによる米国デザイン番号第D771834、D771833、D772427、およびWild and WeaverによるD803416、D800335、D800336、およびD812242は、Precision NanoSystems Inc.によって販売されているミキサー機器用のマイクロチャネルおよび混合形状を有する混合カートリッジを開示している。
【0052】
本発明の態様において、生物学的マイクロ流体混合のためのデバイスは、本発明の脂質粒子および治療製剤を調製するために使用される。デバイスはマイクロ流体ミキサーに供給される試薬の第1および第2の流れを含み、脂質粒子は出口から収集されるか、または他の実施形態では無菌環境に現れる。
【0053】
第1の流れは、第1の溶媒中に治療薬を含む。適切な第1の溶媒には、治療薬が可溶性であり、第2の溶媒と混和性である溶媒が含まれる。適切な第1の溶媒には、水性緩衝液が含まれる。代表的な第1の溶媒には、クエン酸緩衝液および酢酸緩衝液が含まれる。
【0054】
第2の流れは、第2の溶媒中に脂質混合材料を含む。適切な第2の溶媒には、イオン化可能な脂質が可溶性であり、第1の溶媒と混和性である溶媒が含まれる。適切な第2の溶媒には、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、酸、およびアルコールが含まれる。
【0055】
代表的な第2の溶媒には、水性エタノール90%または無水エタノールが含まれる。
【0056】
本発明の一実施形態では、適切なデバイスが1つ以上のマイクロチャネル(すなわち、最大寸法が1ミリメートル未満のチャネル)を含む。一例では、マイクロチャネルが約20~約300pmの直径を有する。実施例では、マイクロチャネルの少なくとも1つの領域が主流方向と、その中に画定された少なくとも1つの溝または突起を有する1つまたは複数の表面とを有し、溝または突起は米国特許公開第20040262223号に記載されているように、主方向と角度(例えば、互い違いのヘリングボーンミキサ)、または米国特許公開2018093232号に記載されているように分岐するトロイダル流(bifurcating toroidal flow)を形成する配向を有する。最大の混合速度を達成するために、混合領域の前に過度の流体抵抗を回避することが有利である。したがって、デバイスの一例は単一の混合チャネルに流体を送達するために、1000ミクロンを超える寸法を有する非マイクロ流体チャネルを有する。
【0057】
Zhang、S.、et al; ChemEng. J.; 144; 2008; 324-328およびStrook A.ら; Science-295; 2002; 647-651に開示されているような、あまり自動化されていないマイクロミキシング方法および装置。もまた、本発明の処方物を作製する際に有用である。Tチューブ混合を含むより原始的な系はJeffs LBらの「A scalable、extrusion-free method for efficient liposomal encapsulation of plasmid DNA(プラスミドDNAの効率的なリポソームカプセル化のためのスケーラブルで押し出しのない方法)」、Pharm Res. 2005; 22(3):362-72に開示されている。
【0058】
本発明の脂質粒子は、インビトロまたはインビボで、細胞に治療剤を送達するために使用され得る。特定の実施形態では治療剤は核酸であり、核酸は本発明の核酸-脂質粒子を使用して細胞に送達される。核酸は、siRNA、miRNA、LNA、プラスミドまたはレプリコン、mRNA、単一遺伝子であり得る。他の実施形態では、治療薬が本発明のペプチド-脂質粒子を使用して細胞に送達されるペプチドである。この方法および脂質混合組成物は、このような処置から利益を得る任意の疾患または障害の処置のための任意の適切な治療剤の送達に容易に適合され得る。
【0059】
特定の実施形態において、本発明は核酸を細胞に導入するための方法(すなわち、トランスフェクション)を提供する。トランスフェクションは、送達された遺伝子の転写、翻訳および発現の目的で、細胞外から細胞内空間への核酸治療剤(またはNAT)の導入のために分子生物学において一般に使用される技術である。トランスフェクション効率は一般に、i)(蛍光タンパク質の検出のための)生細胞イメージング、フローサイトメトリーまたはELISAなどのタンパク質定量法によって測定される、送達された遺伝子の陽性発現を示す、処理された集団全体における細胞のパーセンテージ、またはii)処理された細胞によって発現されるタンパク質の強度または量のいずれかとして定義される。これらの方法は、本発明の粒子または脂質混合物組成物を、細胞内送達が起こるのに十分な期間、細胞と接触させることによって実施され得る。
【0060】
典型的な適用は、特異的な細胞標的をノックダウンまたはサイレンスするためのsiRNAの細胞内送達を提供するための周知の手順の使用を含む。あるいは、適用が治療的に有用なポリペプチドをコードするDNAまたはmRNA配列の送達を含む。このようにして、欠損または欠損した遺伝子産物を供給することにより、遺伝病の治療が提供される。本発明の方法は、インビトロ、エクスビボ、またはインビボで実施することができる。例えば、本発明の脂質混合物組成物はまた、当業者に公知の方法を使用して、インビボでの細胞への核酸の送達のために使用され得る。別の例において、本発明の脂質混合組成物は、エクスビボである患者細胞の試料への核酸の送達のために使用され得、次いで、患者に戻される。
【0061】
本発明の脂質粒子による核酸治療剤の送達を以下に記載する。
【0062】
インビボ投与のために、医薬組成物は好ましくは非経口的に(例えば、関節内、静脈内、腹腔内、皮下、くも膜下、皮内、気管内、骨内または筋肉内)に投与される。特定の実施形態では、医薬組成物がボーラス注射によって静脈内、くも膜下腔内、または腹腔内に投与される。その他の投与経路としては、局所(皮膚、眼、粘膜)、口腔、肺、鼻腔内、舌下、直腸、膣などがある。
【0063】
エクスビボ適用のために、医薬組成物は、好ましくは生物から除去された生物学的試料に投与され、次いで、細胞は洗浄され、生物に回復される。生物は哺乳動物であってもよく、特にヒトであってもよい。このプロセスは例えば、細胞再プログラミング、遺伝的修復、免疫療法に使用される。
【0064】
1つの実施形態において、本発明は、標的ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの発現を調節する方法を提供する。これらの方法は一般に、細胞を、標的ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの発現を調節することができる核酸と結合した本発明の脂質粒子と接触させることを含む。本明細書中で使用される場合、用語「調節する」は、標的ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの発現を変化させることをいう。調節は増加または増強を意味することができ、または減少または減少を意味することができる。
【0065】
関連する実施形態において、本発明は、対象におけるポリペプチドの過剰発現によって特徴付けられる疾患または障害を処置する方法であって、治療剤がsiRNA、マイクロRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、およびsiRNA、マイクロRNA、またはアンチセンスオリゴヌクレオチドを発現することができるプラスミドから選択され、siRNA、マイクロRNA、またはアンチセンスRNAがポリペプチドをコードするポリヌクレオチドまたはその相補体に特異的に結合するポリヌクレオチドを含む、本発明の医薬組成物を対象に提供することを含む方法を提供する。
【0066】
関連する実施形態において、本発明は被験体におけるポリペプチドの過小発現によって特徴付けられる疾患または障害を処置する方法であって、本発明の医薬組成物を被験体に提供する工程を包含し、ここで、治療剤は、mRNA、自己増幅RNA(SAM)、自己複製DNA、またはプラスミドから選択され、過小発現ポリペプチドを特異的にコードするかまたは発現する核酸治療剤、またはその相補体を含む、方法を提供する。
【0067】
実施形態において、本明細書に記載される医薬組成物の製剤は、薬理学の分野で公知のまたは今後開発される任意の方法によって調製され得る。一般に、このような調製方法は、活性成分を賦形剤および/または1つ以上の他の補助成分と会合させる工程を包含する。
【0068】
本開示による医薬組成物は、バルクで、単一単位用量として、および/または複数の単一単位用量として調製、包装、および/または販売することができる。本明細書中で使用される場合、「単位用量」は、所定量の活性成分を含む別個の量の医薬組成物を指す。活性成分の量は一般に、対象に投与される活性成分の用量および/またはそのような用量の便利な分画(そのような用量の半分または3分の1を含むが、これらに限定されない)に等しくてもよい。
【0069】
本開示による医薬組成物中の活性成分、薬学的に許容される賦形剤、および/または任意の追加の成分の相対量は、治療される対象の同一性、サイズ、および/または状態に応じて、さらに組成物が投与される経路に応じて変化し得る。例えば、組成物は、活性成分の0.1パーセント~99パーセント(w/w)を含み得る。
【0070】
医薬製剤は本明細書中で使用される場合、所望の特定の剤形に適した、任意のおよびすべての溶媒、分散媒、希釈剤、または他の液体ビヒクル、分散または懸濁助剤、界面活性剤、等張剤、増粘剤または乳化剤、防腐剤などを含むが、これらに限定されない、薬学的に許容される賦形剤をさらに含み得る。医薬組成物を処方するための種々の賦形剤および組成物を調製するための技術は、当該分野で公知である(Remington: The Science and Practice of Pharmacy、21st Edition、ARGennaro、Lippincott、Williams and Wilkins、Baltimore、MD、2006を参照のこと;その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。従来の賦形剤媒体の使用は、任意の従来の賦形剤媒体が任意の望ましくない生物学的効果を生成することによって、またはさもなければ医薬組成物の任意の他の成分(単数または複数)と有害な様式で相互作用することなどによって、物質またはその誘導体と不適合であり得る限りを除いて、本明細書で企図される。
【0071】
いくつかの実施形態では、脂質粒子の粒子サイズが増加および/または減少されてもよい。粒径の変化は炎症などの生物学的反応(これに限定されない)に対抗するのを助けることができ、または生体分布を変化させることによって哺乳動物に送達されるNATの生物学的効果を増大させることができる。
【0072】
医薬組成物の製造に使用される薬学的に許容される賦形剤には不活性希釈剤、界面活性剤および/または乳化剤、防腐剤、緩衝剤、潤滑剤、および/または油が含まれるが、これらに限定されない。このような賦形剤は任意に、本発明の医薬製剤に含まれてもよい。
【0073】
いくつかの実施形態において、例示的なプラスミドまたは他のNATは、ヒト成長ホルモン、エリスロポエチン、酸性αグルコシダーゼA、アリルスルファターゼA、カルボキシペプチダーゼA、アルファ-イズロニダーゼ、イズロネート-2スルファターゼ、N-アセチルグルコサミニダーゼ、アルファ-グルコサミニダーゼ、N-アセチルグルコサミン6-スルファターゼ、N-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ、ガラクトース-6-スルファターゼ、ベータ-ガラクトシダーゼ、ベータ-グルクロニダーゼ、グルコセレブロシダーゼ、ヘパラン-N-スルファターゼ、リソソーム酸リパーゼ、ヒアルロニダーゼ、オルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)、カルバモイルリン酸シンテターゼ(ASS 1)、アルギニノコハク酸リアーゼ(ASL)、アルギナーゼ1(ARGI)、のう胞性線維症膜コンダクタンス調節因子(CFTR)、生存運動ニューロン(SMN)、第VIII因子、TALENSのようなメガヌクレアーゼ、Cas9および低密度リポ蛋白質受容体(LDLR)から選択されるタンパク質または酵素をコードする。
【0074】
他のプラスミドまたは核酸は、研究またはスクリーニングプラットフォームの文脈において、本発明を使用して、細胞ベースの系に適用され得る。これらには、誘導された多能性幹細胞の生成のための再プログラミングのプロセスにおけるような、細胞における特異的な生理学的または機能的変化を誘導する目的のための遺伝物質の導入が含まれる。この場合、特定の遺伝子(山中因子として知られる)が患者由来の体細胞に導入され、それが細胞の幹細胞様状態への逆転を誘発する。これらは細胞を無限に分裂させ、多能性(他の多くの下流の細胞型に分化可能)にすることを可能にし、これは研究および臨床応用の両方に使用することができる。これらおよび類似の遺伝子操作工程は、本発明の脂質粒子によって増強され得、誘導幹細胞を用いて作業する場合に一般的に使用されるプロセスの効率を改善する。
【0075】
以下は、核酸(LNP)を用いて調製された代表的な脂質粒子、それらがどのように作製されるか、それらの利点の証拠、およびそれらを使用して治療的利益を送達するための方法の説明である。
【0076】
脂質粒子の処方はカオス移流を誘導し、中間レイノルズ数(24< Re <1000)で制御された混合環境を提供するように設計されたマイクロ流体ミキサー内で脂質-エタノール溶液を水性緩衝液と急速に混合することによって行った。マイクロ流体チャネルは、ヘリングボーン特徴を有するか、またはPCT公開番号WO2017117647に示されるような様式で構成される。他の実施形態では、マイクロ流体チャネルが米国特許第10,076,730号のように構成される。
【0077】
脂質粒子の粒子サイズおよび「多分散指数」(PDI)を動的光散乱(DLS)によって測定した。PDIは、粒子分布の幅を示す。これは単一粒子径モードと自己相関関数への単一指数関数適合を仮定した(DLS)測定強度自己相関関数の累積解析から計算したパラメータである。生物物理学的観点から、0.1未満のPDIは、サンプルが単分散であることを示す。NanoAssemblr(登録商標)SparkやBenchtopなどのメカニカルマイクロミキサーで生成されるパーティクルは、他のすべての変数がニュートラルであると仮定すると、サイズがほぼ均一である。より低いPDIは、脂質粒子のより均一な集団を示す。
【0078】
特定の実施形態において、安定化剤は、約0.5~約10モル%の量で粒子中に存在する。ある態様において、安定化剤は、ポリソルベートおよびマルトシドなどの洗剤の混合物である。
【0079】
実施形態において、安定化剤は、約2.5モル%で脂質ベースの製剤中に存在する。
【0080】
好ましい実施形態において、安定化剤は、ポリソルベート20(ポリソルベート20またはポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート)、ポリソルベート80(ポリソルベート80またはポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート)、およびトリデシルβ-D-マルトシドの混合物である。好ましい実施形態において、これらの3つの成分は実質的に1:1:1の重量/重量比で、または透明性のために、各成分約33.33%で存在する。
【0081】
好ましい実施形態において、核酸は、二本鎖デオキシリボ核酸から構成されるプラスミドである。プラスミドは(従来の細胞遺伝学が存在する核とは対照的に)細胞の細胞質に存在する遺伝的構造であり、染色体、典型的には小さな環状DNA鎖とは無関係に複製することができる。これは正常な哺乳類の遺伝子構築物ではなく、細胞内の遺伝的機能を操作するための治療選択肢として用いられる。プラスミドはまた、医学研究のための新規の細胞モデルまたは動物モデルを作成するために使用することができる。プラスミドはi)操作および単離の容易さ、ii)スケールアップされた製造のために自己複製する能力、iii)長期安定性、iv)一連の生物および用途における機能性のために、分子生物学における重要なツールであり、また、新興の治療薬として重要である。改変されたプラスミドは、複製起点に加えて(意図された使用に依存して、ではない)、新しい遺伝物質を導入するために環を切断することを可能にする制限酵素認識部位、および抗生物質耐性遺伝子のような選択的マーカーを有するであろう。プラスミドは、約1000塩基対~約20キロ塩基対であり得る。
【0082】
用語
本明細書中で使用される場合、用語「約」は、列挙された数の10%±を意味すると定義される。これは所望の目標濃度が例えば、40モル%であってもよいが、混合の不一致によって、実際のパーセンテージが+/5モル%だけ異なってもよいことを示すために使用される。
【0083】
本明細書で使用される場合、用語「実質的に」は、列挙された数の5%±であると定義される。これは所望の目標濃度が例えば、40モル%であってもよいが、混合の不一致によって、実際のパーセンテージが+/5モル%だけ異なってもよいことを示すために使用される。
【0084】
本明細書中で使用される場合、用語「核酸」は、疾患の診断、治癒、軽減、処置または予防において直接的な効果を有すること、または生理学的機能の回復、矯正または改変において直接的な効果を有すること、または研究試薬として作用することが意図される物質として定義される。好ましい態様において、核酸はオリゴヌクレオチドである。好ましい実施形態では、治療剤がRNAポリヌクレオチドなどの核酸治療剤である。好ましい態様において、治療剤は二本鎖環状DNA(プラスミド)である。
【0085】
本明細書中で使用される場合、用語「試薬」は、それが細胞、組織または器官の生物学的効果に対して直接的な影響を有するという事実によって定義される。試薬としてはポリヌクレオチド、タンパク質、ペプチド、多糖類、無機イオンおよび放射性核種が挙げられるが、これらに限定されない。核酸試薬の例としてはアンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、マイクロRNA、mRNA、リボザイム、tRNA、tracrRNA、sgRNA、snRNA、siRNA、shRNA、ncRNA、miRNA、mRNA、プレコンデンスDNA、pDNAまたはアプタマーが挙げられるが、これらに限定されない。核酸試薬は遺伝子をサイレンシングし(例えば、siRNAを用いて)、遺伝子を発現し(例えば、mRNAを用いて)、ゲノムを編集し(例えば、CRISPR/Cas9を用いて)、そして起源生物に戻すために細胞を再プログラムする(例えば、癌治療のために免疫細胞を再プログラムするためのエクスビボ細胞治療)ために使用される。「試薬」は、細胞治療適用における補助剤、および医薬を含む。
【0086】
本開示では単語「有する」が単語に続く項目が含まれることを意味する非限定的な意味で使用されるが、特に言及されていない項目は除外されない。特定の特徴または変数またはパラメータを含むか、または含むことができる実施形態では代替の実施形態がそのような特徴、変数またはパラメータからなるか、または本質的になることができることが理解されるのであろう。不定冠詞「a」による要素への言及は文脈が要素のうちの1つのみが存在することを明確に要求しない限り、要素のうちの2つ以上が存在する可能性を除外しない。
【0087】
本開示において、「トランスフェクション試薬」は目的の特異的遺伝子の発現を誘導するために、細胞への核酸の移入を増強する組成物を意味する。それは、典型的には核酸と会合するためのイオン化可能な脂質、および構造脂質を含む。LIPOFECTIN(登録商標)およびLIPOFECTAMINE(登録商標)は、ThermoFisher Scientificが販売する確立された市販のトランスフェクション試薬である。
【0088】
本開示では終点による数値範囲の列挙がすべての整数、すべての整数、およびすべての分数中間体を含むその範囲内に包含されるすべての数を含む(例えば、1~5は1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、および5などを含む)。本開示では、単数形が内容が明確に指示しない限り、複数の指示対象を含み、したがって、例えば、「化合物」を含む組成物への言及は2つ以上の化合物の混合物を含む。本開示では用語「または」が内容が明確に指示しない限り、「および/または」を含む意味で一般に使用される。
【0089】
以下の実施例は本発明を説明する目的で提供されるが、本発明を限定するものではない。
【0090】
実施例
材料及び方法
脂質混合物のいくつかは、Avanti Polar Lipids(Alabaster、AL、米国)によって合成された1,17-ビス(2-オクチルシクロプロピル)ヘプタデカン-9-イル4-(ジメチルアミノ)ブタノエート(BOCHD-C3-DMA)で形成された。他の脂質混合物を、DODMA(Avanti Polar Lipids)またはCOATSOME(登録商標)SS-E-P4C2、カタログ番号SS-33/4PE-15(NOF America Corporation、アービン、カナダ)を用いて形成した。
【0091】
構造脂質1,2‐ジオレオイル‐sn‐グリセロ‐3‐ホスホエタノールアミン(DOPE)もAvanti Lipidsから入手した。Kc2とDlin‐MC3‐DMAを自家合成した。供給源に関して特に記載されていない塩および試薬は、Fisher Scientific(フェア ローン、ニュージャージー)から入手した。対照およびLipofectamine(登録商標)対照は例外であった。Wikipediaによれば、Lipofectamine(登録商標)剤はYongliang、Chuらによる米国特許第7,479,573号に記載されており、3:1w/wのDOSPA:DOPEの組成を有する。
【0092】
RNase Aは、Applied Biosystems/Ambion(テキサス州オースチン)から入手した。
【0093】
安定化剤(TW20:TW80:TBD)とは、1:1:1 wt/wt比のポリソルベート20(ポリエチレン(20)ソルビタンモノラウレートまたはTween(登録商標)20としても知られる)、ポリソルベート(80)(ポリエチレン(80)ソルビタンモノオレートまたはTween(登録商標)80としても知られる)、およびトリデシルβ-D-マルトシド(すべてMillipore Sigma、Burlington、MA)の混合物を意味する。他の実施形態において、ポリソルベート80、またはポリソルベート20、またはマルトシドは、それぞれ、安定化剤単独として存在する。他の実施形態ではそれらは異なる比率であるが、依然として一緒に存在する。他の実施形態では、ポリソルベート80およびマルトシドのみが安定化剤を含む。
【0094】
DiDは’DiD’; DilC18(5)オイル(1,1’-ジオクタデシル-3,3’,3’,3’’テトラメチルインドジカルボシアニンペルクロレート)(Invitrogen D-307)を意味し、リサーチ用の脂質標識(脂質と共に残る)である。他のこのような脂質染料は、ダンシルDOPEおよびフルオレセインDHPEである。
【0095】
オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド(プラスミドまたはメッセンジャーRNA、以下「核酸」または「核酸治療薬」と呼ぶ)溶液を、pH 4.0の25mM~100mM酢酸緩衝液中で調製した。所望のオリゴヌクレオチド対脂質比および製剤濃度に応じて、2.3mg/ml~4mg/ml全脂質の標的濃度で溶液を調製した。1,17‐ビス(2‐オクチルシクロプロピル)ヘプタデカン‐9‐イル4‐(ジメチルアミノ)ブタノエート塩酸塩、DOPE、コレステロール、2.5Mol%安定化剤、および0‐10%DiD標識を含む脂質溶液をエタノール中で調製し、核酸と混合して25%(v/v)のエタノール濃度を達成した。特定の例では、ヘプタトリアコンタ-6,9,28,31-テトラエン-19-イル4-(ジメチルアミノ)ブタノエート(DLin-MC3-DMA)、DODMA、または2,2-ジリノレイル-4-(2-ジメチルアミノエチル)-[1,3]-ジオキソラン(DLin-KC2-DMA)を、l,17-ビス(2-オクチルシクロプロピル)ヘプタデカン-9-イル4-(ジメチルアミノ)ブタノエート塩酸塩(BOCHD-C3-DMA)の代わりに使用した。
【0096】
組成に対する核酸比はN/P4対N/P6であり、ここで、「N」は脂質アミンのモル数であり、「P」はヌクレオチドリン酸のモル数であり(各ヌクレオチドリン酸単位は1モル単位と考えられる)、「4」および「6」はその比である。
【0097】
脂肪粒子は、ナノアセンブラー(登録商標)ベンチトップまたはナノアセンブラー(登録商標)スパークを用いて、”Mixing”の下で述べた標準マイクロフルイディクスプロセスにより調製した。このようにして、混合はカオス的移流によって生じ、積層ストリームの分離をますます小さくし、それによって迅速な拡散を促進した。この混合はミリ秒の時間スケールで起こり、その結果、脂質は漸進的により水性の環境に移動し、それらの溶解度を低下させ、脂質ナノ粒子(LNP)の自発的な形成をもたらす。プラスミドの捕捉は、正に荷電した脂質頭部基と負に荷電したオリゴヌクレオチドとの会合によって得られる。
【0098】
誘導多能性幹細胞またはiPSC
非組み込みoriP/EBNAlプラスミドを用いて、再プログラムドナー由来線維芽細胞から人工多能性幹細胞(iPSC)を作製した。細胞をCorning(登録商標)増殖因子減少(GFR)基本膜マトリックス(#354230)上で維持し、完全mTeSR培地(補充物を含む基本培地)(StemCell Technologies、#05850)中で維持した。3人の個々のドナーからの3つのiPSCクローンを、250ng/mLのGFP mRNA脂質粒子および100ng/mLのApoEで48時間処理した。
【0099】
ヒト神経前駆細胞(NPC)と培養
NPCは誘導された多能性幹細胞に由来する未熟なニューロン細胞型であり、特定の培養条件、試薬および分化を促進する細胞培養培地を用いて成熟皮質ニューロンに分化させることができる。iPSCクローンから機能的および生理学的に定義された成熟皮質ニューロンへの分化過程は、時間がかかり技術的に困難な過程である。市販のNPCは、これらの細胞型が分化経路にさらに沿っているので、ニューロン培養のプロセスを加速する。これらの研究において、十分に特徴付けられたNPCを、StemCell Technologies(Vancouver、Canada、Female cell line Cat #70902、Male line: StemCell Technologies Cat #70901)から購入し、培養して成熟皮質ニューロンを誘導した。本発明の脂質粒子製剤は、この分化経路に沿って、前駆段階からニューロン成熟の時点までの様々な時点に適用することができる。これはまた、脂質粒子ベースの核酸ベクターの、iPSC自体、またはNPC段階の上流のニューロン細胞型の遺伝子操作への可能な適用を示唆する。
【0100】
NPCは、Neural Progenitor Medium 2(StemCell Technologies Cat#08560)を用いてMatrigel(登録商標)でコーティングした細胞培養フラスコに播種することによって維持した。細胞がコンフルエントになるまで1日おきに、およそ4日おきに、完全な培地交換を行い、その時点でそれらを継代した。NPCを、Matrigel(登録商標)被覆24ウェルプレート上に播種してから24時間後に、1 ug/mLのApoEおよび100ng/mLのプラスミド脂質粒子製剤で処理した。
【0101】
NPCの分化は、BrainPhys(登録商標)Neuronal Medium N2-AおよびSMI Kit cat#05793において達成された。分化を、StemCell BrainPhystmプロトコールの改変バージョンを使用して実施した:要するに、分化の0日目に、NPCを、神経前駆細胞培地2中のPoly-L-OrnithineおよびラミニンコーティングT25組織培養フラスコに播種した。24時間後、培地をニューロン分化培地(STEMdiff(登録商標)Neuron Differentiation Kit Cat# 08500、StemCell)に交換し、次の1日おきに完全培地交換を行った。
【0102】
分化の6日目に、細胞を、ポリ-L-オルニチンおよびラミニンコーティングされた24ウェル培養皿に、正常量のSTEMdifftm培地の半分で継代した。これはニューロン成熟の0日目となる。24時間後、ニューロン成熟の1日目に、正常量のBrainPhys(登録商標)Neuronal培地の半分を添加し、そして1/2の培地交換を、実験の間、1日おきにBrainPhys(登録商標)Neuronal培地で行った。
【0103】
ニューロンの処置およびIncucyte(登録商標)S3生細胞スコープを使用した評価
ニューロンが必要な日(1日目、7日目、10日目、14日目など)まで成熟したとき、1 ug/mLのApoEを各ウェルに添加し、続いて600ng/mLの核酸治療薬/LのLipid Mix製剤を添加した。次に、処理したプレートを、細胞培養インキュベーター内に置いたIncucyte(登録商標)S3 Live-Cell Analysis System(Essen Biosciences、Ann Arbor、Michigan、USA)を用いてリアルタイムで分析した。Incucyte(登録商標)S3は実験の間、6時間毎に、各ウェル内の6つの視野位置で10倍の倍率で画像を撮影するようにプログラムされた。データ取得に続いて、Incucyte(登録商標)S3ソフトウェアを用いてアルゴリズムを作成し、位相差画像および緑色蛍光タンパク質(「GFP」)画像の両方について細胞体および%コンフルエンスを同定した。
【0104】
以下の実施例は本発明を説明する目的で提供されるが、本発明を限定するものではない。
【0105】
実施例1
核酸治療薬(NAT)の脂質ナノ粒子(LNP)へのマイクロ流体混合
脂質混合物溶液は、エタノール中の個々の脂質ストックからの規定量の脂質(表1を参照のこと)を合わせることによって、エタノール中で調製した。NanoAssemblr(登録商標)SPARK法では50mMの脂質混合溶液濃度を使用し、NanoAssemblr(登録商標)ベンチトップでは典型的には12.5mMの脂質混合溶液を使用した。
【0106】
メッセンジャーRNA(mRNA)またはプラスミドNATを、酢酸ナトリウム緩衝液を使用して、必要な濃度に希釈した。次いで、NanoAssemblr(登録商標)Spark機器を使用して両方の流体を流すことによって、脂質粒子サンプルを調製した。簡単に述べると、全容積36mL中の100mM酢酸ナトリウム緩衝液中の10~20mgの核酸を、N/P比率(4または6)によって必要とされるように、12mLの50mM脂質混合液と混合した。マイクロ流体的に混合したナノ粒子を、水溶性アウトプットウェル中、pH 7.4の48mLのカルシウムおよびマグネシウムを含まないIX PBSで即座に希釈した。これらの核酸脂質粒子を、96mLのCaおよびMgを含まない1×PBS(pH 7.4)を含む微量遠心管に直ちに回収した。封入効率は、改変Ribogreen/Picogreen(登録商標)アッセイによって測定した。観察された粒子属性は一般に、脂質組成に依存して、プラスミドについて140~300nmの範囲であった。
【0107】
脂質ベースの製剤はまた、試験のためにNanoAssemblr(登録商標)ベンチトップによって製造された。手短に言えば、350mLのmRNA/プラスミドを、6または4のN/P比に依存して、0.2~0.3mg/mLの必要濃度まで100mM酢酸ナトリウム緩衝液を使用して希釈した。次いで、両方の流体、すなわち、水性溶媒中の核酸およびエタノール中の脂質混合物を、3:1の流量比および12ml/分の総流量で流すことによって、脂質粒子サンプルを調製した。マイクロ流体デバイス中で混合した後、カートリッジ後の脂質粒子試料を、3~40容量のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)緩衝液(pH 7.4)を含有するRNAseを含まないチューブ中に希釈した。最後に、エタノールを、PBS(pH 7)中での透析を通して、またはAmicon(登録商標)遠心フィルター(Millipore、米国)を3000 RPMで使用して、またはTFFシステムを使用して除去した。必要な濃度に達したら、無菌条件下で200pmフィルターを用いて粒子を濾過滅菌した。最終的なNATカプセル化効率を、Ribogreenアッセイによって測定した。
【0108】
脂質混合物の成分
リピドミックスAの成分は1,17-ビス(2-オクチルシクロプロピル)ヘプタデカン-9-イル-4-(ジメチルアミノ)ブタノエート塩酸塩、中性脂質DOPE、安定剤Myrj52(ポリオキシエチレン(40)ステアレート)であり、リピドミックスA DODMAには、1,17-ビス(2オクチルシクロプロピル)ヘプタデカン-9-イル-4-(ジメチルアミノ)ブタノエート塩酸塩の代わりにDODMAを用い、リピドミックスA-COATSOMEにはCOATSOME(登録商標)を用いた。安定化剤Myrjを、最初に単一の界面活性剤、次に2つの界面活性剤、次に3つの界面活性剤で置き換えた。
【0109】
(Lipid Mix T20、すなわち、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート)、Lipid Mix T80(ポリオキシエチレン(80)ソルビタンモノラウレート)、およびLipid Mix TDM(単にTridecyl β-Dmaltosideまたは「TBD」)。脂質混合物KおよびLにおいて、安定化剤は、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート:ポリオキシエチレン(80)ソルビタンモノラウレート:トリデシルβ-Dマルトシドの1:1:1重量/重量比の組み合わせであった。全ての製剤において、0~0.1モル%のDiD標識が存在した。脂質混合物の成分比のリストを表1に示す。
*ILはイオン化可能な脂質。BOCHD-C3-DMA、DODMA、およびCoatsornet(登録商標)は種々の実施例のILであった。
LipidMixAまたはLipidMixKの後の接尾辞DODMAまたはCOATSOMEは、これらの脂質が使用された場所を示すために使用される。他のすべての状況では、ILはBOCHD-C3-DMAである。
**はポリソルベート20またはトゥイーン20としても知られる。
***はポリソルベート80またはトゥイーン80としても知られる。
【0110】
実施例2
脂質粒子または「LNP」キャラクタリゼーションおよびカプセル化
粒子径(粒子の流体力学的直径)は、ZetaSizer Nano ZS(登録商標)、英国Malvern Instruments社を用いてDynamic Light Scattering(DLS)によって決定した。光源には波長633nmのHe/Neレーザを用いた。後方散乱検出モード(測定角度173)で行った散乱強度データからデータを測定した。測定は、各サンプルあたり2サイクルの平均10回の実験であった。Z-平均サイズは、脂質粒子サイズとして報告され、高調波強度平均粒子直径として定義される。
【0111】
本出願に記載の種々の脂質混合物についてのプラスミドおよびmRNAカプセル化の結果を表2に示す。全ての製剤において良好なカプセル化があり、多分散性は0.3未満であった。
【0112】
実施例3
プラスミドLNPによるニューロンの処置およびIncucyte(登録商標)S3-GFP発現を使用する評価
ddH2O中のアンピシリン耐性、制限酵素HINDIIIを含む、GenScript USA Inc., Piscataway、NJによってカスタムメードされたプラスミド調製物pCX-EGFPプラスミドサイズ5514 nt、配列番号1を、この評価のために使用した。プラスミドは、プラスミドが細胞内で発現される場合にのみ標的タンパク質を産生するGFP発現成分を含んでいた。
【0113】
次に、脂質粒子を使用する細胞処理に移る:純粋なニューロン集団が準備できたとき、通常は神経分化の8日目前後に、ApoEのlug/mLおよびプラスミド脂質粒子600ng/mLを、Neural Maintenance-XF(登録商標)培養培地(Axol Bioscience)と共に添加した。次に、処理したプレートを、細胞培養インキュベーター内に配置したIncucyte(登録商標)S3機器に入れた。Incucyte(登録商標)S3は、実験期間中、各ウェル内の6箇所で6時間毎に10X画像を撮影した。
【0114】
データ取得に続いて、Incucyte(登録商標)S3ソフトウェアを用いてアルゴリズムを作成し、相画像およびGFP画像の両方についてニューロン細胞体および神経突起を同定した。
【0115】
図1A~1Fを作成するために、本発明者らはGFP蛍光シグナルについて陽性である細胞内の領域をマーキングするための画像分析ツールであるGFPマスクを使用し、次いで、より良好な白黒再現のためにネガティブ画像を使用した。画像は、処置後72時間、DIV14で撮影した。GFP陽性の細胞体と神経炎がはっきりと見られる。
【0116】
試験した製剤は、以下の通りであった:
図1A LIPID MIX A、
図1B LIPID MIX D、
図1C LIPID MIX T20、
図1D LIPID MIX T80、
図1E LIPID MIX K、
図1F LIPID MIX L.アミノ脂質対ヌクレオチドリン酸モル比はN/P4である。個々の界面活性剤であるポリソルベート20、ポリソルベート80、およびマルトシドはトランスフェクションまたは細胞生存率に大きなプラスの影響を与えなかったが、3つすべての組み合わせが与えたことは明らかである。
【0117】
実施例4
細胞の健康に及ぼす製剤の影響
参考のポイントとして、
図2はニューロン成熟14日目(DIV14)の未処理成熟ニューロンの位相差画像である。
図3A、3B、および3Cは、アミノ脂質対ヌクレオチドリン酸モル比N/P6でGFPをコードするプラスミドを含有するLIPID MIX AまたはLIPID MIX Lからなる脂質粒子で処理した後、未処理および48時間後の、DIV14におけるiPSC由来ニューロンの位相差画像である。示されているデータは、Incucyte(登録商標)のライブイメージング機器からのものである。観察:位相コントラスト画像中の白色丸細胞は死細胞/死細胞を示し;脂質混合物Aの画像が製剤がヒトiPSC由来ニューロンに対して毒性であることを示し;および脂質混合物Lが未処理細胞に非常に類似している(すなわち、毒性がない)。
【0118】
図4A~Dは、未処理のDIV 3、および処理なし(
図4A)、LIPID MIX A GFPプラスミド(
図4B)、LIPID MIX L GFPプラスミド(
図4C)、またはLipofectamine(登録商標)プラスミド(
図4D)からなる脂質粒子での処理後48時間における、Incucyte(登録商標)装置で採取したDNA:脂質比N/P6でのiPSC由来神経前駆細胞の位相差画像である。位相コントラスト画像中の白い丸い細胞は、死んだ細胞または死んでいる細胞である。脂質混合物A試験の画像は、製剤がヒトiPSC由来神経前駆細胞(NPC)に対して毒性であることを示す。Lipid Mix Lは細胞に対する毒性が低く、Lipofectamine(登録商標)は毒性である。毒性は生存細胞の数によって示され、より少ない細胞はより高い毒性を意味する。
【0119】
実施例5
フローサイトメトリーでそのようにして確認されたiPSC由来の成熟ニューロン
ニューロンの処理およびインキュベーション後、各ウェルから培地を回収し、PBS中の3% FBSで不活性化した0.25%トリプシンを用いて細胞を回収し、それらの対応する培地中でペレット化した。遠心分離後、細胞をPBSで1回洗浄し、再びペレット化した。次いで、細胞をBinding Buffer(登録商標)(BD Biosciences)に再懸濁し、ヨウ化プロピジウムを添加して、完全に破裂した膜(死細胞)を有する細胞について染色した。次いで、BD Biosciences Canto(登録商標)IIフローサイトメーターを用いて細胞を評価した。
【0120】
マーカーパネルは、分化(成熟)ニューロンに存在するニューロン系列マーカーであるbIIIチューブリン(bIII tubulin)(TUJ1)、ニューロン分化初期に発現するダブルコルチン(doublecortin)(DCX)、神経前駆細胞(未分化ニューロン)に発現するSox 1から構成された。
【0121】
フローサイトメトリーデータは分化したニューロン集団の大部分(74%)が治療前に成熟ニューロンに特異的なマーカーを発現することを示し、試験したニューロンが実質的に成熟していることを確認した。
【0122】
実施例6
ニューロンの治療とニューロン生存能の評価
細胞生存率および神経突起伸長は、神経細胞の健康および機能の最も一般的に測定される指標である。細胞傷害性処理を受けた神経細胞は、しばしばその神経突起を短縮することによって反応する。また、神経突起伸長は、生存可能なニューロン培養のためのゴールドスタンダードマーカーである。神経突起長の測定単位はmm/mm2である。「平均神経突起長」は、mm2当たりの神経突起の長さを見て、ウェルの全ての画像からのデータから導出される。
【0123】
「細胞体クラスター」は、細胞体の数の尺度である。処理細胞は毒性作用の欠如を示すために、未処理と同様の細胞体数を有するべきである。測定単位は1/mm2である。ウェルの全ての画像にわたる細胞体の平均数は、mm2当たりの同定された細胞体の数を見ることによって計算される。
【0124】
異なる脂質混合物によるトランスフェクションおよびNATによる発現を示すために使用される測定は、「%GFP陽性細胞体クラスター」である。この測定はGFP細胞クラスター値を画像中の全細胞体の数に正規化し、画像中のGFP陽性ニューロンの数の全体的な推定値を与える。
【0125】
成熟ニューロン細胞を成熟期のDIV14で処理した。LIPID MIX A、LIPID MIX TBD、LIPID MIX T20、LIPID MIX T80、LIPID MIX K、およびLIPID MIX Lを、核酸対脂質の重量比4倍でGFPプラスミドと混合した。
【0126】
GFP陽性細胞体の数およびGFP陽性神経突起の全長を測定した。これらの2つのグラフからのデータを
図5および
図6に示す。LIPID MIX KおよびLIPID MIX L製剤はLIPID MIX A/未処理と比較して、GFP陽性細胞体および神経突起の最高数を示し、成熟iPSC由来ニューロンにおいて最高%のGFP陽性をもたらす。細胞体数および相神経突起長(
図5)からの結果は、GFP%結果(
図6)の結果を確認した。
【0127】
実施例7
mRNAトランスフェクション
非組み込みoriP/EBNAl{Yu、2009、Human induced pluripotent stem cells free vector and transgene sequences}プラスミドを用いて、再プログラムドナー由来線維芽細胞から人工多能性幹細胞(iPSC)を作製した。細胞をCorning(登録商標)増殖因子減少(GFR)基本膜マトリックス(#354230)上で維持し、完全mTeSR培地(補充物を含む基本培地)(StemCell Technologies、#05850)中で維持した。3人の個々のドナーからの3つのiPSCクローンを、250ng/mLのGFP mRNA(CleanCap(登録商標)EGFP mRNA CleanCap(登録商標)Enhanced Green Fluorescent Protein mRNA(Trilink Biotechnologies、San Diego、CA))脂質粒子および100ng/mLのApoEで48時間処理した。996bpのmRNAは、配列番号2として表される。DAPI核標識を用いて細胞の総数を決定し、次いで、ウェル当たりの細胞の総数に対するGFP発現細胞のパーセンテージを計算した。
図7に示されるように、Lipid Mix Lから作製された脂質粒子は、未処理およびLipid Mix A群と比較して、GFP発現iPSCの最も高い比率を示した(40.4%対8.36%)。グラフは、処置群あたりのGFP陽性細胞の平均パーセンテージを表す。この実験は、mRNAならびにプラスミドトランスフェクションが本発明の脂質混合物によって好都合に達成され、そしてiPSCが首尾よくトランスフェクトされ得ることを示す。
【0128】
実施例8
インビトロでのプラスミドトランスフェクション、GFP発現
プラスミドおよび脂質粒子の調製は、上記で特定した通りであった。この実験では、イオン化可能な脂質、中性脂質、コレステロールおよび界面活性剤の異なる比率を、プラスミドカプセル化と共に使用した。記載された製剤の詳細については表1を参照されたい。LNP Tween 20およびLNP Tween 80は、mRNA Lipid Mix T20およびT80に使用したものとはわずかに異なる比率のコレステロールおよび安定化剤を有していた。実験の目的は個々の界面活性剤と組み合わせた脂質粒子組成物を使用して、インビトロで神経前駆細胞(NPC)におけるGFPのプラスミド媒介発現の効果を研究することであり、第2の部分では、標準的な界面活性剤Myrj52に対して、単一の薬剤として異なる界面活性剤を使用した。脂質粒子中に1モル%のtween 20、1モル%のTween80、および1モル%のtween 20およびTween80の1対1の組み合わせを含む製剤によって媒介されるトランスフェクション活性を
図8Aに示す。2つのTweensの組み合わせは、細胞中にGFPタンパク質発現を点滴注入するために、各Tweensよりも個々に良好に機能した。
【0129】
実験の第2の部分について、脂質粒子中に2.5mol% Myrj52(Lipid Mix A)、2.5mol%ポリソルベート20(Tween 20 in Lipid Mix T20)および2.5mol%ポリソルベート80(Tween 80 in Lipid Mix T80)を含む製剤によって媒介されるトランスフェクション活性を
図8Bに示す。ポリソルベート20およびポリソルベート80の両方は細胞中にGFPタンパク質発現を点滴注入するために、Myrj52よりも良好に機能した。
【0130】
実施例9
ロニザブル脂質同一性に関わらず存在する界面活性剤併用の効果
NPCを、交互のイオン化可能な脂質含有形態のLipid Mix AおよびLipid Mix Kカプセル化mRNAに曝露して、任意のイオン化可能な脂質特異的効果を同定した。
図9Aは、Lipid Mix KおよびLipid Mix K DODMAと比較した、Lipid Mix AおよびLipid Mix A DODMAについてのGFPのパーセントとしてのmRNA発現を示す。同様の結果がDODMAとは対照的に、1,17-ビス(2-オクチルシクロプロピル)ヘプタデカン-9-イル4-(ジメチルアミノ)ブタノエートHClを用いて作製された脂質混合物について見られる。
【0131】
図9Bは、イオン化可能な脂質としてCOATSOME(登録商標)を用いた、同様のパターンの試験を用いた、神経前駆細胞におけるGFPのmRNA媒介性発現(平均蛍光強度)を示す。再び、Lipid Mix Kをl,17-ビス(2-オクチルシクロプロピル)ヘプタデカン-9-イル4-(ジメチルアミノ)ブタノエートHCIまたはCoatsome(登録商標)と混合すると、Lipid Mix AまたはLipid Mix A Coatsome(登録商標)よりも良好であった。
【0132】
Lipid Mix K中の組み合わせ界面活性剤の利点は、イオン化可能な脂質がl,17-ビス(2-オクチルシクロプロピル)ヘプタデカン-9-イル4-(ジメチルアミノ)ブタノエートHCI、DODMAまたはCoatsome(登録商標)であっても維持された。
【0133】
実施例10
トランスフェクタミン(登録商標)トランスフェクション剤(Life Technologies Inc.)を、NPC中のLipid Mix KおよびLipid Mix L(1,17-ビス(2-オクチルシクロプロピル)ヘプタデカン-9-イル4-(ジメチルアミノ)ブタノエートHCI)と比較して、細胞の健康に対するその効果を調べた。結果を
図10に示す。継代培養を含む正常細胞培養144時間後、Lipofectamine(登録商標)で処理した細胞は生存不能であったが、Lipid Mix KおよびLで処理した細胞はほぼ100%コンフルエントであった。
【0134】
実施例11
一般的に使用される2つのイオン化可能な脂質、KC2およびDLin-MC3-DMAを、脂質混合物AおよびKのイオン化可能な脂質成分の代わりに用いた。NPCを、上記のようにトランスフェクトし、フローサイトメトリーによるGFP中央値蛍光強度についての48Hでの結果を
図11に示す。参考のために、脂質粒子サイズ、PDI、およびカプセル化効率を表4に列挙する。KC2およびDLin-MC3-DMA(グラフ中のMC3)はともに、Lipid Mix Aに対するGFP表現を強化するためにLipid Mix Kで有効であり、PNI-IL-1はl,17-bis(2-オクタイシクロピロピル)ヘプタデカン-9-yl 4-(ジエチルアミノブタノベートHCI)である。
【0135】
本発明の特定の実施形態を説明し、例示したが、そのような実施形態は本発明の例示にすぎず、添付の特許請求の範囲に従って解釈されるように本発明を限定するものと見なされるべきではない。
【0136】
参考文献
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