(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】追加部材接合用部材
(51)【国際特許分類】
E04B 1/58 20060101AFI20231108BHJP
E04B 1/24 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
E04B1/58 507F
E04B1/24 E
(21)【出願番号】P 2023011365
(22)【出願日】2023-01-11
【審査請求日】2023-01-11
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】523030979
【氏名又は名称】有限会社イービー
(72)【発明者】
【氏名】木村 信広
【審査官】沖原 有里奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-031890(JP,A)
【文献】特開2020-094454(JP,A)
【文献】特開2018-048714(JP,A)
【文献】特開2022-178889(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/38-1/61
E04B 1/24
E04G 23/02
F16B 7/00-7/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
H型鋼材またはI型鋼材のウェブの厚さ方向の両側のフランジの内側に、少なくとも一部が前記フランジのウェブ側の表面に接し、残部が前記フランジのウェブとは反対側にはみ出した状態で配される、一対の第一の板状部材と、
前記フランジの外側の表面に接し、両端が前記フランジのウェブとは反対側にはみ出した状態で配される、第二の板状部材と、
前記第一の板状の部材の前記フランジからはみ出した部分と、前記第二の板状部材の前記フランジからはみ出した部分を接合するための、第一の接合手段と、
前記第二の板状部材の、前記フランジが配される側の反対側の表面の、略中央部に垂直な方向に接合されてなる第三の板状部材に、他の部材を接合するための第二の接合手段が設けられてなることを特徴とする、追加部材接合用部材であって、
前記第一の板状部材と前記第二の板状部材の何れかには、前記フランジからはみ出した部分の端部に、前記フランジの厚さより寸法が高い突起部が、前記第一の板状部材と前記第二の板状部材が対向する側の面に垂直に設けられてなり、
前記第一の接合手段が力点となり、前記突起部と、前記第一の板状部材または前記第二の板状部材との接点が支点となり、前記フランジの端部と、前記第一の板状部材または第二の板状部材との接点が作用点となることを特徴とする追加部材接合用部材。
【請求項2】
前記突起部の高さは、前記フランジの厚さよりも約1mm高いことを特徴とする、請求項1に記載の追加部材接合用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、H型鋼材やI型鋼材を、柱や梁に用いた建築物において、既存の梁に、新たに追加する柱や他の補強部材を接合するための部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
H型鋼材やI型鋼材を用いた建築物のリフォームや補強を行うために、既存の梁に新たな柱の追加取付が必要になることがある。その場合の既存の鋼材と追加の鋼材の接合は、溶接作業によることになるが、現場での溶接作業は、高所で上向き姿勢になったり横向き姿勢になったりすることが多く、高度の溶接技量が要求される。また、既存の構造物にアンダーカットやオーバーラップなどの欠陥が生じ易い。
【0003】
溶接作業におけるその他の問題点として、煙や火花が大量に発生するため、作業を行う際には、火災報知器の解除、作業場所付近から、断熱材、可燃物、商品その他の物品を移動、養生したり、場合によっては構造物を解体したりする必要が生じることがある。しかし、前記の対策を施しても、火災や物品の破損などが頻繁に起こっている。
【0004】
このような問題に対処するには、溶接以外の接合手段を採用するのが効果的と考えられ、例えば、特許文献1には、金属製のH型材の上下に対向する両フランジの外面に木製の梁外面板を付設した複合梁と木製柱との接合構造であって、木製柱の上端面を覆う金属製の接続板の下面に金属製の接続縦片を一体的に設けて略T型となる接続金具を構成し、木製柱の上端面に開口させて上下方向に溝を形成し、接続縦片を溝に挿入して木製柱に水平横方向から打入される接続具にて木製柱に接続金具を接続し、複合梁の下面側の梁外面板における木製柱の接合部分を切除して接合凹所を形成し、木製柱の上端部を接合凹所に挿入して接続金具の接続板をH型材の下面側のフランジにボルト・ナットのような連結具にて連結して成ることを特徴とする複合梁と木製柱との接続構造が開示されている。
【0005】
しかし、ここに開示されている接合方法は、金属と木材との複合構造で、既存の梁を対象とする場合、現場での作業が煩雑になるという問題点がある。
【0006】
また、特許文献2には、重量物を載せて移動させるため、H型鋼のフランジ面を上下にして横並びに配置した複数の架台用H型鋼のフランジと、前記複数の架台用H型鋼の両端上面に載せた吊上用H型鋼のフランジを固定するための固定金具において、長方形に成形した2枚の平板鋼板の、一方の平板鋼板にタップ用穴を開けると共に、他方の平板鋼板に貫通用ボルト穴を開け、前記2枚の平板鋼板の角部に厚板鋼板を挟みL形状に重ね合わせてL形固定金具を形成し、このように形成した2枚の同一形状のL形固定金具を互いに反対方向に90度回転させ、タップ用穴と貫通用穴が同一中心線上になるように配置し、前記架台用H型鋼の上側のフランジと吊上用H型鋼の下側のフランジの2枚のフランジをサンドイッチ状に挟んでボルトで固定したことを特徴とするH鋼クリップが開示されている。
【0007】
しかし、ここに開示されているH鋼クリップは、H型鋼材のフランジ面の垂直方法に他の部材を接合する構成ではないため、既存の梁に柱を追加接合するには、必ずしも対応していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2002-115325号公報
【文献】特開2022-001786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明の課題は、既存のH型鋼材またはI型鋼材からなる梁に、現場で簡単に追加の柱を接合することを可能とする接合用部材を提供することである。
【0010】
本発明者は、前記の課題に鑑み、ボルト、ナットのような汎用の接合手段を用いて、前記のような接合作業を簡便に行える接合用部材の構造を鋭意検討した結果、本発明をなすに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための、本発明の一態様に係る追加部材接合用部材の一例は、H型鋼材またはI型鋼材のウェブの厚さ方向の両側のフランジの内側に、少なくとも一部が前記フランジのウェブ側の表面に接し、残部が前記フランジのウェブとは反対側にはみ出した状態で配される、一対の第一の板状部材と、前記フランジの外側の表面に接し、両端が前記フランジのウェブとは反対側にはみ出した状態で配される、第二の板状部材と、前記第一の板状の部材の前記フランジからはみ出した部分と、前記第二の板状部材の前記フランジからはみ出した部分を接合するための第一の接合手段と、前記第二の板状部材の、前記フランジが配される側の反対側の表面の、略中央部に垂直な方向に接合されてなる第三の板状部材に、他の部材を接合するための第二の接合手段が設けられてなることを特徴とする。
【0012】
また、上記課題を解決するための、本発明の一態様に係る追加部材接合用部材の一例は、前記第一の板状部材と前記第二の板状部材の何れかには、前記フランジからはみ出した部分の端部に、前記フランジの厚さより寸法が高い突起部が、前記第一の板状部材と前記第二の板状部材が対向する側の面に垂直に設けられてなり、前記第一の接合手段が力点となり、前記突起部と、前記第一の板状部材または前記第二の板状部材との接点が支点となり、前記フランジの端部と、前記第一の板状部材または第二の板状部材との接点が作用点となることを特徴とする。
【0013】
また、上記課題を解決するための、本発明の一態様に係る追加部材接合用部材の一例は、前記突起部の高さが、前記フランジの厚さよりも約1mm高いことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る追加部材接合用部材は、工事現場以外で、予め溶接などで鋼板を接合し、その他の必要な加工を施してあるので、H型鋼材またはI型鋼材からなる既存の梁に、柱を追加設置する際に、工事現場における溶接による接合作業が不要となる。このため、多量の火花や煙の発生に備えるための、前記の処置が不要となる。
【0015】
また、接合作業において、それぞれの部材をボルト、ナットで接合するので、位置決めを行った後、ボルト、ナットを本締めすることにより、正確な作業が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】 本発明に係る追加部材接合用部材を用いてH型鋼材の梁に、H型鋼材の柱を接合する前の状態の一例を示す図
【
図2】 本発明に係る追加部材接合用部材を用いてH型鋼材の梁に、H型鋼材の柱を接合した状態の一例を示す図、
図2(a)は平面図、
図2(b)はAA断面図
【
図3】 本発明に係る追加部材接合用部材の構成を変更した一例を例を示す図
【
図4】 本発明に係る追加部材接合用部材に補強板を取り付けた第一の例を示す図
【
図5】 本発明に係る追加部材接合用部材に補強板を取り付けた第二の例を示す図
【
図6】 本発明に係る追加部材接合用部材を方杖の取り付けに応用した一例を示す図
【
図7】 本発明に係る追加部材接合用部材の第一の板状部材と第二の板状部材をヒンジで結合した一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に本発明の実施の形態について、図を参照しながら捏明する。
図1は、本発明に係る追加部材接合用部材を用いてH型鋼材の梁に、H型鋼材の柱を接合する前の状態の一例を示す図である。また、
図2は、本発明に係る追加部材接合用部材を用いてH型鋼材の梁に、H型鋼材の柱を接合した状態の一例を示す図で、
図2(a)は正面図、
図2(b)はAA断面図である。
【0018】
図1に示したように、本発明に係る追加部材接合用部材2は、一対の第一の板状部材2aと第二の板状部材2cが、第一の板状部材2aの突起部2bを介して配され、第一の接合手段5aによって、接合、固定されている。ここに示した第一の接合手段5aは、第一の板状部材2aと第二の板状部材2cの、既存の梁を構成するH型鋼材1のフランジ部と接していない部分に予め設けられている、図示していない貫通孔と、該貫通孔に挿通したボルトと、該ボルトに螺合するナットである。
【0019】
突起部2bによって形成される第一の板状部材2aと第二の板状部材2cとの間の空隙には、既存の梁を構成するH型鋼材1のフランジ部が挟まれ、第一の接合手段5aを構成するボルトとナット締め付けにより、固定される。
【0020】
第二の板状部材2cの図における上側には、第三の板状部材2dが、溶接などの手段で接合され、第二の接合手段を構成する貫通孔4aが設けられている。この場合の溶接は、工事現場ではなく、別の場所で行えるので、工事現場における煙や火花の発生をなくすことができるのは、前述のとおりである。
【0021】
貫通孔4bが設けられた、追加柱を構成するH型鋼材3を、第三の状部材2dに対し、貫通孔4aと貫通孔4bが重なるように配し、連通した貫通孔に、第二の接合手段5bを構成するボルトを挿通し、該ボルトにナットを螺合して、板状部材2dと追加柱を構成するH型鋼材3を接合する。なお、図は、記載の都合上、上下を逆に表示していて、実際は追加柱を構成するH型鋼材3が、既存の梁を構成するH型鋼材1の下側に配される。
【0022】
なお、
図2(b)で、aは既存の梁を構成するH型鋼材1のフランンジの厚みを、bは第一の板状部材に設けられている突起部2bの高さを示している。突起部2bがなくとも、ボルト、ナットの締め付けのみで、梁と柱の接合は可能であるが、突起部2bを設けることで、突起部2bを支点とする力のモーメントの作用により、第一の板状部材2aの突起が設けてある側の反対側の端部と、既存の梁を構成するH型鋼材1のフランンジの表面との間に加わる力が増加し、接合の信頼性が高くなる。
【0023】
したがって、突起部2bを設けることが望ましく、bをaよりも少々大きくすることにより、追加部材接合用部材2の組付けの作業性が向上し、前記の接合の信頼性向上にも寄与する。また、bはaよりも1mm程度大きいこと望ましく、あまりに大きいと作業性が低下するので、上限は3mm程度である。
【0024】
図3は、本発明に係る追加部材接合用部材の構成を変更した一例を例を示す図で、突起部2gが第二の板状部材2h側に設けられた例である。このような突起部の配置でも、前記と同様の作用により、接合の信頼性を向上できる。
【0025】
図4は、本発明に係る追加部材接合用部材に、補強板を取り付けた第一の例を示す図で、
図4(a)は正面図、
図4(b)は、側面図である。この例では、既存の梁を構成するH型鋼材の1の、図のおける上下両方のフランジのそれぞれに、補強板7aを溶接などの手段で接合した、本発明に係る追加部材接合用部材を6a、6bを取り付け、補強板7aに設けた、図示していない貫通孔にボルト、ナットを挿通して締め付けている。このような構成とすることにより、H型鋼材と追加部材接合用部材との接合の信頼性を極めて高いものにすることができる。
【0026】
図5は、本発明に係る追加部材接合用部材に補強板を取り付けた第二の例を示す図で、
図5(a)は正面図、
図5(b)は、側面図である。この例では、第の板状部材のそれぞれに、補強板7bを溶接などの手段で接合し、補強板7bと既存の梁を構成するH型鋼材1のウェブの所要の位置に、図示しない貫通孔を設け、それらを重ねることで形成される連通孔に、ボルト、ナットを挿通して締め付けている。このような構成とすることでも、H型鋼材と追加部材接合用部材との接合の信頼性を極めて高いものにすることができる。なお、この場合、現場での作業は、H型鋼材のウェブに貫通孔を穿孔し、他の部材をボルト、ナットを組み付けるだけなので、現場での溶接作業が不要である。
【0027】
図6は、本発明に係る追加部材接合用部材を、方杖の取り付けに応用した一例を示す図である。この例に示したように、既存の柱9と既存の梁10のそれぞれに、本発明に係る追加部材接合用部材11a、11bを接合し、その間に方杖12を取り付けることにより、既存の建築物の補強が可能となる。
【0028】
図7は、本発明に係る追加部材接合用部材の第一の板状部材13と第二の板状部材14をヒンジ15で結合した一例を示す図である。本発明に係る追加部材接合用部材をこのような構成とすることにより、現場での組付けの作業性が向上する。
【0029】
以上に説明したように、本発明によれば、H型鋼材またI型鋼材からなる既存の梁に、簡単な工程で、同じくH型鋼材またはI型鋼材からなる柱を新規に接合可能な追加部材接合用部材を提供できる。なお、本発明は、前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の分野における通常の知識を有する者であれば想到し得る、各種変形、修正を含む、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても、本発明に含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0030】
1・・・既存の梁を構成するH型鋼材
2,6a,6b,8,11a,11b・・・追加部材接合用部材
2a,2f,13・・・第一の板状部材 2b,2g,14・・・突起部
2c,2h・・・第二の板状部材 2d・・・第三の板状部材
3・・・追加柱を構成するH型鋼材 4a,4b・・・貫通孔
5a・・・第一の接合手段 5b・・・第二の接合手段
7a,7b・・・補強板 9・・・既存の柱
10・・・既存の梁 12・・・方杖 15・・・方杖
【要約】
【課題】 H型鋼材やI型鋼材を構成要素とする建物の、既存の梁に、現場で簡単に追加の柱を接合することを可能とする接合用部材を提供する。
【解決手段】 既存の梁を構成するH型鋼材やI型鋼材に、鋼材からなる接合用部材を、一方のフランジ部における、ウェブ部との接合部を除く表面を囲むように、該接合部材を構成する個片をボルト、ナットなどの接合手段を用いて、組み付ける。該接合部材のフランジが配される側と反対側には、フランジと垂直な方向に板状部材が接合され、該板状部材に追加の柱を接合する。接合は、板状部材に設けられた貫通孔と、追加の柱に設けられた貫通孔を重ねて形成される連通孔にボルトを挿通し、ナットを螺合させることにより行う。本接合部材の使用により、工事現場における溶接作業が不要になるため、溶接の際に生じる煙や火花への対策も不要になる。
【選択図】
図1