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特許7379795チェックポイント阻害薬に再発/耐性を示す腫瘍を治療するための抗Trop-2-SN-38抗体薬物複合体の効果
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】チェックポイント阻害薬に再発/耐性を示す腫瘍を治療するための抗Trop-2-SN-38抗体薬物複合体の効果
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20231108BHJP
   A61K 31/4745 20060101ALI20231108BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20231108BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20231108BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20231108BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20231108BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20231108BHJP
   A61P 13/08 20060101ALI20231108BHJP
   A61P 13/10 20060101ALI20231108BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20231108BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20231108BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231108BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20231108BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231108BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
A61K39/395 L ZNA
A61K39/395 N
A61K39/395 T
A61K31/4745
A61K47/68
A61P1/00
A61P1/04
A61P1/18
A61P11/00
A61P13/08
A61P13/10
A61P13/12
A61P15/00
A61P35/00
A61P35/04
A61P43/00 121
C07K16/28
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2018556311
(86)(22)【出願日】2017-04-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-07-11
(86)【国際出願番号】 US2017028137
(87)【国際公開番号】W WO2017189279
(87)【国際公開日】2017-11-02
【審査請求日】2020-03-09
【審判番号】
【審判請求日】2021-12-27
(31)【優先権主張番号】62/328,289
(32)【優先日】2016-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504149971
【氏名又は名称】イミューノメディクス、インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】IMMUNOMEDICS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(74)【代理人】
【識別番号】100126653
【弁理士】
【氏名又は名称】木元 克輔
(74)【代理人】
【識別番号】100165526
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 寛
(72)【発明者】
【氏名】ゴーヴィンダン, セレングラム ブイ.
(72)【発明者】
【氏名】ゴールデンバーグ, デイヴィッド エム.
【合議体】
【審判長】光本 美奈子
【審判官】齋藤 恵
【審判官】星 功介
(56)【参考文献】
【文献】Starodub, A. N. et al.,First-in-Human Trial of a Novel Anti-Trop-2 Antibody-SN-38 Conjugate, Sacituzumab Govitecan, for the Treatment of Diverse Metastatic Solid Tumors,Clinical Cancer Research,2015年,Vol.21, No.17,p.3870-3878,doi:10.1158/1078-0432.CCR-14-3321
【文献】Bardia, A. et al.,IMMU-132, a new antibody-drug conjugate (ADC) against Trop-2, as a novel therapeutic for patients with relapsed/refractory, metastatic, triple-negative breast cancer (TNBC): Results from Phase I/II clinical trial (NCT01631552),Cancer Research,2015年 5月,Vol.75, No.9 Supplement,Abstract P5-19-27,[online], [retrieved on 2021.04.28], Retrieved from the Internet: <URL: https://cancerres.aacrjournals.org/content/75/9_Supplement/P5-19-27><DOI: 10.1158/1538-7445.SABCS14-P5-19-27>
【文献】Bardia, A. et al.,Therapy of refractory/relapsed metastatic triple-negative breast cancer (TNBC) with an anti-Trop-2-SN-38 antibody-drug conjugate (ADC), sacituzumab govitecan (IMMU-132): Phase I/II clinical experience,Journal of Clinical Oncology,2015年 5月20日,Vol.33, No.15_suppl,Abstract 1016,[online], [retrieved on 2021.04.28], Retrieved from the Internet: <URL: https://ascopubs.org/doi/10.1200/jco.2015.33.15_suppl.1016>< DOI: 10.1200/jco.2015.33.15_suppl.1016>
【文献】Homet Moreno, B., Ribas, A. ,Anti-programmed cell death protein-1/ligand-1 therapy in different cancers,British Journal of Cancer,2015年,Vol.112, No.9,p.1421-1427,doi:10.1038/bjc.2015.124
【文献】Chawla, A. et al.,Immune checkpoints: A therapeutic target in triple negative breast cancer,OncoImmunology,2014年,Vol.3, No.3,e28325,doi:10.4161/onci.28325
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-80
A61K45/00-08
A61K 9/00-72
A61K47/00-69
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Trop-2陽性がんを有するヒト患者において、Trop-2陽性がんを治療するための組成物であって、
前記組成物が、抗Trop-2抗体またはその抗原結合フラグメントに結合したリンカー部分にコンジュゲートしたSN-38を含むADCを含み、
前記患者は、チェックポイント阻害薬を用いた治療から再発した、または前記チェックポイント阻害薬を用いた前記治療に耐性を示す者であり、
前記チェックポイント阻害薬は、PD-1、PD-L1またはCTLA-4の阻害薬である、組成物。
【請求項2】
前記チェックポイント阻害薬は、MPDL3280A、ペンブロリズマブ、ニボルマブ、イピリムマブ、ピディリズマブ、MDX-1105、デュルバルマブ、BMS-936559及びトレメリムマブからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記チェックポイント阻害薬はMPDL3280Aである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記抗Trop-2抗体は、軽鎖CDR配列CDR1(KASQDVSIAVA、配列番号:1)、CDR2(SASYRYT、配列番号:2)及びCDR3(QQHYITPLT、配列番号:3)、ならびに、重鎖CDR配列CDR1(NYGMN、配列番号:4)、CDR2(WINTYTGEPTYTDDFKG、配列番号:5)及びCDR3(GGFGSSYWYFDV、配列番号:6)を含むヒト化RS7抗体である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記抗Trop-2抗体は、軽鎖CDR配列CDR1(KASQDVSIAVA、配列番号:1)、CDR2(SASYRYT、配列番号:2)及びCDR3(QQHYITPLT、配列番号:3)、ならびに、重鎖CDR配列CDR1(NYGMN、配列番号:4)、CDR2(WINTYTGEPTYTDDFKG、配列番号:5)及びCDR3(GGFGSSYWYFDV、配列番号:6)を含む抗体と、Trop-2への結合性で競合する、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記リンカーはCL2Aであり、前記ADCの構造は、MAb-CL2A-SN-38
である、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記がんは、結腸直腸癌、肺癌、胃癌、膀胱癌、腎臓癌、膵臓癌、乳癌、卵巣癌、子宮癌、食道癌及び前立腺癌からなる群から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記がんはトリプルネガティブ乳癌である、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記がんは、トリプルネガティブ乳癌、HER+、ER+、プロゲステロン+乳癌、転移性非小細胞肺癌、転移性小細胞肺癌、転移性子宮内膜癌、転移性尿路上皮癌及び転移性膵臓癌からなる群から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記ADCを、3mg/kg~18mg/kgの用量で投与するためのものである、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記用量は、3mg/kg、4mg/kg、6mg/kg、7mg/kg、8mg/kg、9mg/kg、10mg/kg、11mg/kg、12mg/kg、16mg/kg及び18mg/kgからなる群から選択される、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記ADCを、8mg/kg~12mg/kgの用量で投与するためのものである、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記ADCを、8mg/kg~10mg/kgの用量で投与するためのものである、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記ADCを、10mg/kgの用量で投与するためのものである、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
前記治療は、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも30%、または少なくとも40%の腫瘍サイズの縮小をもたらすものである、請求項1~14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
前記ADCは、前記抗体またはその抗原結合フラグメントにコンジュゲートした4分子またはそれ以上の分子のSN-38を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記ADCは、前記抗体またはその抗原結合フラグメントにコンジュゲートした6~8分子のSN-38を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
前記がんは転移性である、請求項1~17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
サイズを縮小させること、または転移部を除去することとともに用いられるための、請求項1~18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
外科手術、外部放射線、放射免疫治療、免疫療法、化学療法、アンチセンス療法、干渉RNA療法、治療薬を用いた治療、及び遺伝子治療からなる群から選択される少なくとも1つのその他抗がん療法とともに用いられるためのものである、請求項1~19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
前記治療薬は、薬物、毒素、免疫調節薬、第二抗体、第二抗体の抗原結合フラグメント、プロアポトーシス薬、RNase、ホルモン、放射性核種、抗血管新生薬、siRNA、RNAi、化学療法剤、サイトカイン、ケモカイン、プロドラッグまたは酵素である、請求項2に記載の組成物。
【請求項22】
前記薬物は、5-フルオロウラシル、アファチニブ、アプリジン、アザリビン、アナストロゾール、アントラサイクリン、アキシチニブ、AVL-101、AVL-291、ベンダムスチン、ブレオマイシン、ボルテゾミブ、ボスチニブ、ブリオスタチン-1、ブスルファン、カリケアマイシン、カンプトテシン、カルボプラチン、10-ヒドロキシカンプトテシン、カルムスチン、セレブレックス、クロラムブシル、シスプラチン、Cox-2阻害剤、イリノテカン(CPT-11)、SN-38、カルボプラチン、クラドリビン、カンプトテカン、クリゾチニブ、シクロホスファミド、シタラビン、ダカルバジン、ダサチニブ、ジナシクリブ、ドセタキセル、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、2-ピロリノドキソルビシン(2P-DOX)、シアノ-モルホリノドキソルビシン、ドキソルビシングルクロニド、エピルビシングルクロニド、エルロチニブ、エストラムスチン、エピドフィロトキシン、エルロチニブ、エンチノスタット、エストロゲン受容体結合剤、エトポシド(VP16)、エトポシドグルクロニド、リン酸エトポシド、エキセメスタン、フィンゴリモド、フロクスウリジン(FUdR)、3’,5’-O-ジオレオイル-FudR(FUdR-dO)、フルダラビン、フルタミド、ファルネシル-タンパク質トランスフェラーゼ阻害剤、フラボピリドール、フォスタマチニブ、ガネテスピブ、GDC-0834、GS-1101、ゲフィチニブ、ゲムシタビン、ヒドロキシウレア、イブルチニブ、イダルビシン、イデラリシブ、イホスファミド、イマチニブ、L-アスパラギナーゼ、ラパチニブ、レノリダミド、ロイコボリン、LFM-A13、ロムスチン、メクロレタミン、メルファラン、メルカプトプリン、6-メルカプトプリン、メトトレキサート、ミトキサントロン、ミトラマイシン、マイトマイシン、ミトタン、ナベルビン、ネラチニブ、ニロチニブ、ニトロソウレア、オラパリブ、プリコマイシン、プロカルバジン、パクリタキセル、PCI-32765、ペントスタチン、PSI-341、ラロキシフェン、セムスチン、ソラフェニブ、ストレプトゾシン、SU11248、スニチニブ、タモキシフェン、テマゾロミド(DTICの水溶性形態)、トランスプラチン、サリドマイド、チオグアニン、チオテパ、テニポシド、トポテカン、ウラシルマスタード、バタラニブ、ビノレルビン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンカアルカロイド、及びZD1839からなる群から選択される、請求項2に記載の組成物。
【請求項23】
前記免疫調節薬は、サイトカイン、リンフォカイン、モノカイン、幹細胞増殖因子、リンフォトキシン、造血因子、コロニー刺激因子(CSF)、インターフェロン(IFN)、副甲状腺ホルモン、サイロキシン、インスリン、プロインスリン、リラキシン、プロリラキシン、卵胞刺激ホルモン(FSH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、黄体形成ホルモン(LH)、肝増殖因子、プロスタグランジン、線維芽細胞増殖因子、プロラクチン、胎盤性ラクトゲン、OBタンパク質、トランスホーミング増殖因子(TGF)、TGF-α、TGF-β、インスリン様成長因子(IGF)、エリスロポエチン、トロンボポエチン、腫瘍壊死因子(TNF)、TNF-α、TNF-β、ミュラー阻害物質、マウスゴナドトロピン関連ペプチド、インヒビン、アクチビン、血管内皮増殖因子、インテグリン、インターロイキン(IL)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、インターフェロン-α、インターフェロン-β、インターフェロン-γ、S1因子、IL-1、IL-1 cc、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、IL-16、IL-17、IL-18、IL-21、IL-23、IL-25、LIF、kit-リガンド、FLT-3、アンジオスタチン、トロンボスポンジン及びエンドスタチンからなる群から選択される、請求項2に記載の組成物。
【請求項24】
前記放射性核種は、11C、13N、15O、32P、33P、47Sc、51Cr、57Co、58Co、59Fe、62Cu、67Cu、67Ga、67Ga、75Br、75Se、75Se、76Br、77As、77Br、80mBr、89Sr、90Y、95Ru、97Ru、99Mo、99mTc、103mRh、103Ru、105Rh、105Ru、107Hg、109Pd、109Pt、111Ag、111In、113mIn、119Sb、121mTe、122mTe、125I、125mTe、126I、131I、133I、142Pr、143Pr、149Pm、152Dy、153Sm、161Ho、161Tb、165Tm、166Dy、166Ho、167Tm、168Tm、169Er、169Yb、177Lu、186Re、188Re、189mOs、189Re、192Ir、194Ir、197Pt、198Au、199Au、199Au、201Tl、203Hg、211At、211Bi、211Pb、212Bi、212Pb、213Bi、215Po、217At、219Rn、221Fr、223Ra、225Ac、227Th及び255Fmからなる群から選択される、請求項2に記載の組成物。
【請求項25】
前記毒素は、リシン、アブリン、リボヌクレアーゼ(RNase)、DNase I、Staphylococcalエンテロトキシン-A、アメリカヤマゴボウ抗ウイルスタンパク質、ゲロニン、ジフテリア毒素、Pseudomonasエキソトキシン、及びPseudomonasエンドトキシンからなる群から選択される、請求項2に記載の組成物。
【請求項26】
チェックポイント阻害抗体と組み合わせて投与するためのものであり、前記チェックポイント阻害抗体が、CTLA-4、PD-1又はPD-L1に対する抗体である、請求項1~19のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2016年4月27日出願の米国仮特許出願62/328,289に対する米国特許法119(e)条の利益を主張するものであり、その全文は参照として本明細書に組み込まれる。
【0002】
配列表
本出願は、EFS-Webを経由してASCII形式で提出された配列表を含み、その全体は参照として本明細書に組み込まれる。上記ASCIIのコピー(2017年4月5日に作成)の名称は、IMM366WO2_SL.txt.であり、そのサイズは13,002バイトである。
【0003】
本発明は、ヒト対象内における様々ながん細胞に対する向上した標的能を有し、抗Trop-2抗体またはその抗原結合フラグメント、及びSN-38などのカンプトテシンを含む抗体薬物複合体(ADC)の治療的使用に関する。好ましい実施形態では、抗体と治療薬部分は、治療効果を高める細胞内で開裂可能な結合部を介して結合する。より好ましい実施形態では、ADCは、治療効果を最適化する特定の用量及び/または特定の投与スケジュールで投与される。驚くべきことに、SN-38コンジュゲート抗体(例えば、サシツズマブゴビテカンなど)における最適化された用量及び投与スケジュールは、動物モデル研究からは予測され得なかった予想外に優れた効果を示し、アテゾリズマブ、ペンブロリズマブ、ニボルマブ、ピディリズマブ、デュルバルマブ、アテゾリズマブ、イピリムマブまたはトレメリムマブなどのチェックポイント阻害抗体に耐性を示すがんを効果的に治療することを可能としている。特定の実施形態では、ADCを、Trop-2陽性がんを有するヒト対象に、3~18mg/kg、より好ましくは4~12mg/kg、最も好ましくは8~10mg/kgの用量で投与してもよい。驚くべきことに、抗Trop-2-SN38抗体薬物複合体(ADC)は、チェックポイント阻害薬治療から再発した、またはチェックポイント阻害薬に耐性を示す患者内のTrop-2陽性がん(例えば、膵臓癌、トリプルネガティブ乳癌、小細胞肺癌、子宮内膜癌、尿路上皮癌及び非小細胞肺癌など)を治療するのに有効である。
【背景技術】
【0004】
特に標的薬物治療分野の科学者にとって、ヒトのがんに毒性薬物を特異的に送達するためにモノクローナル抗体(MAb)を使用することは、長年にわたる目標となっている。腫瘍関連MAbと好適な毒性薬物の複合体が開発されてはいるが、それらはヒトのがん治療における部分的な成功であり、事実上、その他の疾患、例えば、感染症及び自己免疫疾患などには使用されていない。毒性薬物は、最も一般的には、特にがんを治療するための化学療法剤(粒子放射性の放射性核種、または細菌毒素もしくは植物毒素もまたMAbにコンジュゲートしているが)であり(Sharkey and Goldenberg,CA Cancer J Clin.2006 Jul-Aug;56(4):226-243)、ごく最近では、特定の感染症を前臨床的に治療するための放射免疫複合体とコンジュゲートしている(Dadachova and Casadevall,Q J Nucl Med Mol Imaging 2006;50(3):193-204)。
【0005】
MAb-化学療法剤複合体を用いる利点は、(a)化学療法剤そのものが構造的に明確であること、(b)化学療法剤が、極めて明確なコンジュゲーション化学反応を用いて、MAbタンパク質と結合していること(多くの場合、MAbの抗原結合領域から離れた特定の部位において)、(c)MAb-化学療法剤複合体が、MAb及び細菌毒素または植物毒素を含有する化学コンジュゲートと比較して、より再現性高く調製可能であり、一般的に免疫原性がより低いということから、商業開発及び規制認可の対象となっていること、及び、(d)MAb-化学療法剤複合体の全身毒性が、特に、放射線の影響を受けやすい骨髄において、放射性核種MAb複合体と比較して数桁低いということである。
【0006】
カンプトテシン(CPT)及びその誘導体は、強力な抗腫瘍薬の部類である。イリノテカン(CPT-11とも呼ばれる)及びトポテカンは、承認済みがん治療薬であるCPT類似体である(Iyer and Ratain,Cancer Chemother.Phamacol.42:S31-S43(1998))。CPTは、トポイソメラーゼI酵素を阻害してトポイソメラーゼI-DNA複合体を安定化させることにより作用する(Liu,et al.in The Camptothecins: Unfolding Their Anticancer Potential, Liehr J.G.,Giovanella,B.C.and Verschraegen(eds),NY Acad Sci.,NY 922:1-10(2000))。CPTにおいては、複合体の調製における特定の問題が提起されている。第1の問題は、ほとんどのCPT誘導体が水性緩衝液中に溶けないことである。第2には、CPTが、巨大分子にコンジュゲートするための構造的修飾に特定の課題を有していることである。例えば、CPTそのものは、E環内にただ1つ三級ヒドロキシル基を含有している。CPTのヒドロキシル官能基は、続くタンパク質結合に好適なリンカーに結合する必要があり、強力なCPT誘導体、例えば、SN-38(化学療法剤CPT-11の活性代謝物)などにおいて、またC10ヒドロキシルを含有するその他の誘導体、例えば、トポテカン及び10ヒドロキシCPTにおいて、C10位におけるフェノール性ヒドロキシルの存在は、必要なC20ヒドロキシル誘導体化を複雑化している。第3に、カンプトテシンのE環のδ-ラクトン部分の生理学的条件下における不安定性により、抗腫瘍力価の著しい低下がもたらされる。それゆえ、コンジュゲーションプロトコルは、ラクトン開環を回避するために、7以下のpHで実施されるように行われる。しかしながら、アミン反応性基(例えば、活性エステルなど)を有する二官能性CPTのコンジュゲートには通常、8以上のpHが求められる。第4に、細胞内で開裂可能な部分は、CPTと抗体またはその他結合部分をつなぐリンカー/スペーサー内に組み込まれることが好ましい。
【0007】
抗体-CPT複合体、例えば、抗Trop-2-SN-38複合体(例えば、サシツズマブゴビテカン)などを調製及び投与するためのより効果的な方法が必要とされている。好ましくは、方法は、チェックポイント阻害抗体から再発した、またはチェックポイント阻害抗体に耐性を示すTrop-2陽性がんを有する患者に対して用いられ、効果を最大化し毒性を最小化させる、最適化された用量及び投与スケジュールを含む。
【発明の概要】
【0008】
[課題を解決するための手段]
本明細書で使用する場合、略語「CPT」とは、特に明記しない限り、カンプトテシン、またはその誘導体のいずれか、例えば、SN-38などのことを意味し得る。本発明は、CPT-抗体ADCを調製及び投与するための向上した方法及び組成物を提供することにより、当該技術分野において未だ実現されていない要望を解決する。好ましくは、カンプトテシンはSN-38であり、抗体は抗Trop-2抗体(例えば、サシツズマブゴビテカン)である。開示する方法及び組成物は、その他の治療形態に耐性を示す、またはその他の治療形態にほとんど反応を示さない疾患、例えば、チェックポイント阻害抗体を用いた治療に耐性を示す、またはチェックポイント阻害抗体を用いた治療から再発したTrop-2+がんなどを治療するために用いられる。
【0009】
ADCの抗体部分は、モノクローナル抗体、抗体フラグメント、二重特異性抗体もしくはその他の多価抗体、またはその他の抗体ベース分子もしくは抗体ベース化合物であることが好ましい。抗体は、様々なアイソタイプであってもよく、好ましくは、ヒトIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4であり、より好ましくは、ヒトIgG1ヒンジ配列及び定常領域配列を含む。抗体またはそのフラグメントは、ヒトとマウスのキメラ、ヒトと霊長類のキメラ、ヒト化(ヒトフレームワーク領域とマウス超可変(CDR)領域)、または完全ヒト抗体に加えて、それらの変形形態、例えば、van der Neut Kolfschoten et al.が記載している(Science 2007;317:1554-1557)ような半IgG4抗体(「ユニボディ」と呼ばれる)などであってもよい。より好ましくは、抗体またはそのフラグメントは、ヒト対象にADCを投与する際に免疫原性を低減させ得るヒト定常領域配列(特定のアロタイプに属する)を含むように設計または選択されてもよい。投与に好ましいアロタイプとしては、非G1m1アロタイプ(nG1m1)、例えば、G1m3、G1m3,1、G1m3,2またはG1m3,1,2などが挙げられる。より好ましくは、アロタイプは、nG1m1、G1m3、nG1m1,2及びKm3アロタイプからなる群から選択される。
【0010】
例示的な抗Trop-2抗体は、軽鎖CDR配列CDR1(KASQDVSIAVA、配列番号:1)、CDR2(SASYRYT、配列番号:2)及びCDR3(QQHYITPLT、配列番号:3)、ならびに、重鎖CDR配列CDR1(NYGMN、配列番号:4)、CDR2(WINTYTGEPTYTDDFKG、配列番号:5)及びCDR3(GGFGSSYWYFDV、配列番号:6)を含む、ヒト化RS7(hRS7)抗体である。
【0011】
好ましい実施形態では、化学療法剤部分は、カンプトテシン(CPT)ならびにその類似体及び誘導体から選択され、より好ましくは、SN-38である。しかしながら、利用可能なその他の化学療法剤部分としては、タキサン(例えば、バッカチンIII、タキソール)、エポチロン、アントラサイクリン(例えば、ドキソルビシン(DOX)、エピルビシン、モルホリノドキソルビシン(モルホリノ-DOX)、シアノモルホリノ-ドキソルビシン(シアノモルホリノ-DOX)、2-ピロリノドキソルビシン(2-PDOX)、または2-PDOXのプロドラッグ形態(プロ-2-PDOX)(例えば、Priebe W(ed.),ACS symposium series 574,published by American Chemical Society,Washington D.C.,1995(332pp)、及び、Nagy et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:2464-2469,1996を参照のこと))、ゲルダナマイシンに例示されるベンゾキノイドアンサマイシン(DeBoer et al.,Journal of Antibiotics 23:442-447,1970;Neckers et al.,Invest.New Drugs 17:361-373,1999)などが挙げられる。好ましくは、抗体またはそのフラグメントは、少なくとも1つの化学療法剤部分に結合し、好ましくは、1~約5つの化学療法剤部分に結合し、より好ましくは、6またはそれ以上の化学療法剤部分に結合し、最も好ましくは、約6~約12の化学療法剤部分に結合する。
【0012】
様々な実施形態は、食道癌、膵臓癌、肺癌、胃癌、結腸直腸癌、膀胱癌、乳癌、卵巣癌、子宮癌、腎臓癌、尿路上皮癌及び前立腺癌などのがんを含むがこれらに限定されない、ヒトTrop-2を発現するがんを治療するための本方法及び組成物の使用に関係していてもよい。
【0013】
がんの治療を含む特定の実施形態では、外科手術、放射線治療、化学療法、naked抗体を用いた免疫療法、放射免疫治療、免疫調節薬、ワクチンなどと組み合わせて、薬物複合体を用いてもよい。これらの併用療法では、このような組み合わせで投与されるそれぞれの治療薬の用量を下げることができ、それにより、特定の重篤な副作用を抑えること、及び、場合によっては必要とされる治療期間を短縮することが可能となる。重複毒性がないまたは最低限である場合、それぞれの総量もまた投与してもよい。代替実施形態では、以下に記載するインターフェロン、チェックポイント阻害抗体、ブルトン型チロシンキナーゼ阻害剤、PI3K阻害剤、PARP阻害剤または微小管阻害剤と組み合わせて、ADCを投与してもよい。
【0014】
好ましい最適用量のADCとしては、3mg/kg~18mg/kgのi.v.用量を挙げてもよく、週に1回、週に2回、または1週おきのいずれかで投与することが好ましい。最適な投与スケジュールとしては、2週間連続の治療の後に1、2、3または4週間の休薬という治療サイクル、1週おきの治療及び休薬という治療サイクル、1週間の治療の後に2、3または4週間の休薬という治療サイクル、3週間の治療の後に1、2、3または4週間の休薬という治療サイクル、4週間の治療の後に1、2、3または4週間の休薬という治療サイクル、もしくは、5週間の治療の後に1、2、3、4または5週間の休薬という治療サイクル、または、2週間に1回、3週間に1回もしくは1ヶ月間に1回の投与を挙げてもよい。任意のサイクル数、好ましくは少なくとも2サイクル、少なくとも4サイクル、少なくとも6サイクル、少なくとも8サイクル、少なくとも10サイクル、少なくとも12サイクル、少なくとも14サイクル、または少なくとも16サイクル、治療を延長してもよい。用いる例示的な用量としては、4mg/kg、5mg/kg、6mg/kg、7mg/kg、8mg/kg、9mg/kg、10mg/kg、11mg/kg、12mg/kg、13mg/kg、14mg/kg、15mg/kg、16mg/kg、17mg/kg、及び、18mg/kgを挙げてもよい。好ましい用量は、4、6、8、9、10または12mg/kgである。
【0015】
ADCを皮下投与する特定の代替実施形態では、サシツズマブゴビテカン(IMMU-132)などのADCの用量は、沈殿または凝集を生じることなくADCを濃縮する能力に加えて、皮下投与可能な投与容積(好ましくは、1、2もしくは3mlまたはそれ以下)に制限され得る。したがって、皮下投与では、ADCの投与は、1.5~4mg/kgで、1週間にわたり毎日(その後に休薬)、2週間にわたり週に3回(その後に休薬)、または、2週間にわたり週に2回(その後に休薬)であってもよい。s.c.注射に複数の部位を用いる場合、最大8mg/kgの用量を用いてもよい。誘導後、維持量のADCを、2週間~3週間おきに、または毎月、i.v.またはs.c.で投与してもよい。あるいは、2~4サイクルのi.v.投与(8~10mg/kg)(それぞれのサイクルでは、1日目及び8日目にADCを投与(2回の21日間サイクルの間に1週間の休薬期間を設ける))で誘導を起こしてから、週に1回または複数回の活性用量として、または維持療法として、s.c.投与を行ってもよい。中間腫瘍スキャン及び/またはTrop-2陽性循環腫瘍細胞解析に基づいて、投与を調節してもよい。
【0016】
ADCの最適用量を選択する上で、年齢、全身健康、特定器官の機能または重量などの様々な因子に加えて、特定の器官系(例えば、骨髄)に対する前治療の影響を検討してもよいということ、及び、治療期間中の用量及び/または投与頻度を増加または減少させてもよいということについて、当業者は理解するであろう。わずか4~8回の投与後に認められた腫瘍縮小のエビデンスを元に、必要に応じて、投与を繰り返してもよい。本明細書で開示する最適化された用量及び投与スケジュールは、ヒト対象において、動物モデル研究からは予測され得なかった予想外に優れた効果及び毒性低下を示している。驚くべきことに、その優れた効果により、以前にチェックポイント阻害薬治療を含む1つまたは複数の標準的な抗がん療法に耐性を示すことが判明していた腫瘍の治療が可能となっている。
【0017】
本方法は、CT及び/またはPET/CTまたはMRIを用いて、規則的な間隔で腫瘍の応答を測定することを含んでいてもよい。腫瘍マーカー、例えば、CEA(がん胎児性抗原)、CA19-9、AFP、CA 15.3、または、PSAなどの血中濃度をまたモニターしてもよい。イメージング及び/またはマーカー血中濃度の結果に従って、必要に応じ、用量及び/または投与スケジュールを調節してもよい。
【0018】
本願請求項に記載の組成物及び方法による驚くべき結果は、高用量の抗体薬物複合体における予想外な忍容性である(反復注射したとしても、比較的低毒性の悪心及び嘔吐が認められるのみであるか、または、管理可能な好中球減少症を伴うのみ)。更なる驚くべき結果は、アルブミン、PEGまたはその他の担体にSN-38をコンジュゲートさせたその他の製品とは異なり、抗体薬物複合体が滞留性に欠けるという点である。滞留性に欠けるということは、反復投与または用量増加を行った後であっても、忍容性が向上すること、及び重篤な毒性が欠如することと関連している。これらの驚くべき結果により、予想外に高い効果及び低い毒性を伴う、用量及び送達スケジュールの最適化が可能となる。本願請求項に記載の方法は、以前より耐性を示すがんを有する個体の固形腫瘍サイズ(最大直径で測定)において、15%またはそれ以上、好ましくは20%またはそれ以上、好ましくは30%またはそれ以上、より好ましくは40%またはそれ以上の縮小をもたらす。当業者は、様々な異なる手法(例えば、総腫瘍容積、任意の寸法の最大腫瘍サイズ、またはいくつかの寸法のサイズ測定値の組み合わせなど)を用いて、腫瘍サイズを測定してもよいということを理解するであろう。これは、コンピュータ断層撮影法、超音波検査法及び/または陽電子放出断層撮影法などの標準的な放射線手法を用いて行ってもよい。サイズの測定手法は、ADC治療による腫瘍サイズの縮小傾向(好ましくは、腫瘍の除去をもたらす)を観察することと比較して、あまり重要ではない。
【0019】
定期的なボーラス注入でADCを投与してもよい一方で、代替実施形態では、抗体薬物複合体の持続注入でADCを投与してもよい。Cmaxを上昇させるために、また血中におけるADCのPKを延長させるために、例えば、留置カテーテルを用いて、持続注入を行ってもよい。このような器具は当技術分野において周知であり、例えば、Hickman(登録商標)、Broviac(登録商標)またはPort-A-Cath(登録商標)カテーテル(例えば、Skolnik et al.,Ther Drug Monit 32:741-48,2010を参照のこと)、及び任意のこのような周知の留置カテーテルを使用してもよい。様々な持続注入用ポンプもまた当該技術分野において周知であり、任意のこのような周知の注入用ポンプを使用してもよい。持続注入の用量範囲は、1日あたり0.1~3.0mg/kgであってもよい。より好ましくは、これらのADCを、2~5時間、より好ましくは、2~3時間の比較的短期間にわたり、静注で投与してもよい。
【0020】
特に好ましい実施形態では、ADC及び投与スケジュールは、標準療法に耐性を示す患者において有効であってもよい。例えば、イリノテカン(SN-38の親物質)を用いた前治療に反応していない患者に、抗Trop-2サシツズマブゴビテカンを投与してもよい。驚くべきことに、イリノテカンに耐性を示す患者は、サシツズマブゴビテカンにおいて、部分寛解または更に完全寛解を示し得る。腫瘍組織を特異的に標的とするADCの能力は、治療薬の向上した標的化及び高い送達性により、腫瘍の耐性を克服し得る。ADCは、チェックポイント阻害抗体などの代替的な標準治療薬と比較する際、同様に、効果の向上及び/または毒性低下を示し得る。
【0021】
特に好ましい対象は、転移性結腸直腸癌患者、転移性膵臓癌患者、トリプルネガティブ乳癌患者、HER+、ER+、プロゲステロン+乳癌患者、転移性非小細胞肺癌(NSCLC)患者、転移性小細胞肺癌患者、転移性胃癌患者、転移性腎臓癌患者、転移性尿路上皮癌患者、転移性膀胱癌患者、転移性卵巣癌患者、または、転移性子宮癌患者であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】10mg/kgのサシツズマブゴビテカンで治療した、チェックポイント阻害薬に耐性を示す転移性TNBCを有する患者のCTスキャン結果の要約を示す図である。
図2】チェックポイント阻害薬に耐性を示す転移性TNBCを有する患者のベースライン時のCT画像(アキシャル像(上段)及びサジタル像(下段)を表示)を示す図である。腫瘍は矢印で示されている。
図3】10mg/kgのサシツズマブゴビテカン(IMMU-132)を用いた治療前後における、標的病変1及び2のCTスキャンの比較を示す図である。ベースライン時の画像を上部に、またサシツズマブゴビテカン治療後の2回目の効果判定評価を下部に示す。IMMU-132による腫瘍の縮小が明白に認められた。
図4】10mg/kgのサシツズマブゴビテカン(IMMU-132)を用いた治療前後における、標的病変3のCTスキャンの比較を示す図である。ベースライン時の画像を上部に、またサシツズマブゴビテカン治療後の2回目の効果判定評価を下部に示す。IMMU-132による腫瘍の縮小が明白に認められた。
図5】IMMU-132で治療した、チェックポイント阻害薬に耐性を示す腫瘍を有する患者の結果の要約を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
定義
以下に続く記載において、多数の用語を用い、本願請求項に記載の主題への理解を促進するため、以下の定義を提供する。本明細書で特に定義しない用語は、その明白かつ一般的な意味に従い用いられる。
【0024】
特に明記しない限り、「a」または「an」とは、「1つまたは複数」のことを意味する。
【0025】
本明細書で使用する場合、用語「約」とは、値の±10%のことを意味する。例えば、「約100」とは、90~110の間の任意の数字のことを意味する。
【0026】
本明細書で使用する場合、「抗体」とは、全長(すなわち、天然、または標準的な免疫グロブリン遺伝子フラグメント組換えプロセスにより形成)免疫グロブリン分子(例えば、IgG抗体)、または抗体フラグメントなどの免疫グロブリン分子の抗原結合部位のことを意味する。本願請求項に記載の主題の範囲内において、抗体または抗体フラグメントをコンジュゲートしてもよく、または別の方法で誘導体化してもよい。このような抗体としては、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4(及びIgG4の派生型)に加え、IgAアイソタイプが挙げられるがこれらに限定されない。以下で使用する場合、略語「MAb」は同じ意味で用いられてもよく、抗体、抗体フラグメント、モノクローナル抗体または多重特異性抗体のことを意味してもよい。
【0027】
「抗体フラグメント」は、上記IgG4の半分子を含む、F(ab’)、F(ab)、Fab’、Fab、Fv、scFv(単鎖Fv)、単一ドメイン抗体(DABまたはVHH)などの抗体の一部である(van der Neut Kolfschoten et al.(Science 2007;317(14 Sept):1554-1557)。構造にかかわらず、使用する抗体フラグメントは、インタクト抗体が認識する同一抗原に結合する。用語「抗体フラグメント」としてはまた、特定の抗原に結合して複合体を形成することで抗体のように機能する、合成タンパク質または遺伝子組換えタンパク質が挙げられる。例えば、抗体フラグメントとしては、可変領域、例えば、重鎖及び軽鎖ならびに組換え単鎖ポリペプチド分子の可変領域(軽鎖可変領域と重鎖可変領域は、ペプチドリンカー(「scFvタンパク質」)により連結されている)からなる「Fv」フラグメントなどからなる独立したフラグメントが挙げられる。フラグメントを様々な方法で構築して、多価及び/または多重特異性の結合形態を得てもよい。
【0028】
「naked抗体」は通常、治療薬にコンジュゲートしていない完全な抗体である。naked抗体は、例えば、Fc依存性作用(補体結合(CDC)及びADCC(抗体依存性細胞傷害)など)による、治療効果及び/または細胞傷害効果を示してもよい。しかしながら、その他の機構、例えば、アポトーシス、抗血管新生、抗転移活性、抗接着活性、ヘテロ接合またはホモ接合の阻害、及びシグナル伝達経路における干渉などもまた、治療効果をもたらし得る。naked抗体としては、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体、天然抗体または組換え抗体、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体及びそのフラグメントなどが挙げられる。一部の例においては、「naked抗体」はまた、「naked」抗体フラグメントのことを意味してもよい。本明細書で定義するとおり、「naked」は、「非コンジュゲート」と同義であり、治療薬に結合またはコンジュゲートしていないことを意味する。
【0029】
「キメラ抗体」とは、抗体分子の定常ドメインはヒト抗体の定常ドメインに由来するが、1つの種に由来する抗体(好ましくはげっ歯類抗体、より好ましくはマウス抗体)の相補性決定領域(CDR)を含む、抗体の重鎖と軽鎖の両方の可変ドメインを含有する組換えタンパク質のことである。獣医学的用途において、キメラ抗体の定常ドメインは、他種、例えば、霊長類、ネコまたはイヌに由来していてもよい。
【0030】
「ヒト化抗体」とは、1種に由来する抗体(例えば、マウス抗体)のCDRが、マウス抗体の可変重鎖及び可変軽鎖からヒトの重鎖及び軽鎖可変ドメイン(フレームワーク領域)へと移入された組換えタンパク質のことである。抗体分子の定常ドメインは、ヒト抗体の定常ドメインに由来する。一部の例においては、ヒト化抗体のフレームワーク領域における特定の残基、特に、CDR配列に接したまたは接近した特定の残基は、修飾されてもよく、例えば、元のマウス抗体、げっ歯類抗体、類人猿抗体、またはその他の抗体における対応する残基で置換されてもよい。
【0031】
「ヒト抗体」とは、例えば、抗原誘発でヒト抗体を産生するように「遺伝子操作」されたトランスジェニックマウスから得た抗体のことである。この技術においては、ヒト重鎖及び軽鎖遺伝子座のエレメントを、内因性の特定重鎖及び軽鎖遺伝子座を破壊した胚性幹細胞株から誘導したマウスの株内に導入する。トランスジェニックマウスは、様々な抗原に特異的なヒト抗体を合成することができ、そのマウスを用いて、ヒト抗体を分泌するハイブリドーマを産生することができる。トランスジェニックマウスからヒト抗体を得るための方法については、Green et al.,がNature Genet.7:13 (1994),Lonberg et al.,Nature 368:856(1994)に、またTaylor et al.,がInt.Immun.6:579(1994)に記載している。完全ヒト抗体もまた、遺伝子または染色体のトランスフェクション法に加えて、ファージディスプレイ技術を用いて構築することができる(これらの全ては、当技術分野において周知である)。ヒト抗体及びそのフラグメントをインビトロで、免疫されていないドナー由来の免疫グロブリン可変ドメイン遺伝子レパートリーから作製することについては、例えば、McCafferty et al.,Nature 348:552-553(1990)を参照されたい。この技術においては、ヒト抗体可変ドメイン遺伝子を、繊維状バクテリオファージのメジャーコートタンパク質遺伝子またはマイナーコートタンパク質遺伝子のいずれかにインフレームでクローニングしてから、機能的抗体フラグメントとしてファージ粒子の表面上にディスプレイさせる。繊維状粒子がファージゲノムの一本鎖DNAコピーを含んでいるため、抗体の機能特性に基づいた選択はまた、それらの特性を示す抗体をコードする遺伝子の選択にもつながる。この方法において、ファージは、B細胞の特性の一部を模倣する。ファージディスプレイは様々な方式で実施可能であり、それらの確認には、例えば、Johnson and Chiswell,Current Opinion in Structural Biology 3:5564-571(1993)を参照されたい。ヒト抗体もまた、インビトロで活性化させたB細胞を用いて作製可能である。米国特許番号5,567,610及び5,229,275を参照されたい(それぞれの特許の実施例セクションは参照として本明細書に組み込まれる)。
【0032】
「治療薬」とは、疾患の治療に有用な原子、分子または化合物のことである。治療薬の例としては、抗体、抗体フラグメント、イムノコンジュゲート、薬物、細胞傷害薬、プロアポトーシス薬、毒素、ヌクレアーゼ(DNAse及びRNAseを含む)、ホルモン、免疫調節薬、キレート化剤、ホウ素化合物、光活性剤または染料、放射性核種、オリゴヌクレオチド、干渉RNA、siRNA、RNAi、抗血管新生薬、化学療法剤、サイトカイン、ケモカイン、プロドラッグ、酵素、結合タンパク質または結合ペプチド、またはこれらの組み合わせが挙げられるがこれらに限定されない。
【0033】
「イムノコンジュゲート」とは、治療薬にコンジュゲートした抗体、抗原結合抗体フラグメント、抗体複合体または抗体融合タンパク質のことである。コンジュゲートは、共有または非共有であってもよい。コンジュゲートは共有であることが好ましい。治療薬が薬物である場合、得られるイムノコンジュゲートは、抗体薬物複合体、すなわちADCである。
【0034】
本明細書で使用する場合、用語「抗体融合タンパク質」とは、天然抗体、一本鎖抗体または抗体フラグメントのうちの1つまたは複数を別の部分、例えば、タンパク質またはペプチド、毒素、サイトカイン、ホルモンなどに結合させて組換え調製した抗原結合分子のことである。特定の好ましい実施形態では、融合タンパク質は、互いに融合した同一のまたは異なる抗体、抗体フラグメントまたは一本鎖抗体のうち2つまたはそれ以上を含んでいてもよく、それら抗体は、同一の抗原または別々の抗原上における同一のエピトープ、別々のエピトープに結合してもよい。
【0035】
「免疫調節薬」とは、存在する場合に、体の免疫機構を変化、抑制または刺激する治療薬のことである。通常、免疫調節薬を使用すると、マクロファージ、樹状細胞、B細胞及び/またはT細胞などの免疫細胞が刺激されて、増殖するか、または、免疫応答カスケード内で活性化する。しかしながら、場合によっては、免疫調節薬が免疫細胞の増殖または活性化を抑制する場合がある。本明細書に記載の免疫調節薬の一例はサイトカインである。サイトカインは、特定抗原と接触した際に1つの細胞集団(例えば、初回抗原刺激を受けたTリンパ球)が放出する、約5~20kDaの小さな可溶性タンパク質であり、細胞間において細胞間伝達物質として機能する。当事者は理解するであろうが、サイトカインの例としては、リンフォカイン、モノカイン、インターロイキン、ならびに、腫瘍壊死因子(TNF)及びインターフェロンなどのいくつかの関連シグナル伝達分子が挙げられる。ケモカインは、サイトカインの一部である。特定のインターロイキン及びインターフェロンは、T細胞またはその他免疫細胞の増殖を刺激するサイトカインの例である。例示的なインターフェロンとしては、インターフェロン-α、インターフェロン-β、インターフェロン-γ及びインターフェロン-λが挙げられる。
【0036】
CPTとはカンプトテシンの略語であり、本願で使用する場合、CPTとは、カンプトテシンそのもの、またはカンプトテシンの類似体または誘導体(例えば、SN-38など)のことを意味する。カンプトテシン及びその類似体の一部の構造を、以下のチャート1の式1に示す(ナンバリングを施し、環にA~Eの文字を付した)。
【0037】
【化1】
【0038】
抗Trop-2抗体
様々な実施形態は、Trop-2に結合する抗体またはそのフラグメントの使用に関する。特定の好ましい実施形態では、抗Trop-2抗体は、軽鎖CDR配列CDR1(KASQDVSIAVA、配列番号:1)、CDR2(SASYRYT、配列番号:2)及びCDR3(QQHYITPLT、配列番号:3)、ならびに、重鎖CDR配列CDR1(NYGMN、配列番号:4)、CDR2(WINTYTGEPTYTDDFKG、配列番号:5)及びCDR3(GGFGSSYWYFDV、配列番号:6)を含む、ヒト化RS7抗体であってもよい(例えば、米国特許番号7,238,785を参照のこと(その全体は本明細書に参照として組み込まれる))。
【0039】
RS7抗体は、ヒト原発性扁平上皮細胞肺癌の粗膜標品を用いて産生したマウスIgGであった(Stein et al.,Cancer Res.50:1330,1990)。RS7抗体は、クラスター13として同定されている46~48kDaの糖タンパク質を認識する(Stein et al.,Int.J.Cancer Supp.8:98-102,1994)。その抗原はEGP-1(上皮糖タンパク質-1)と命名されたが、Trop-2とも呼ばれる。
【0040】
Trop-2はI型膜貫通タンパク質であり、ヒト細胞(Fornaro et al.,Int J Cancer 1995;62:610-8)とマウス細胞(Sewedy et al.,Int J Cancer 1998;75:324-30)の両方からクローニングされている。ヒトTrop-2のアミノ酸配列は、世間一般に知られている(例えば、NCBI受入番号P09758.3を参照のこと)。腫瘍関連カルシウムシグナル伝達物質としてのその機能(Ripani et al.,Int J Cancer 1998;76:671-6)に加えて、ヒトTrop-2の発現が、結腸癌細胞の腫瘍形成及び浸潤に必須であり、Trop-2の細胞外ドメインに対するポリクローナル抗体により効果的に抑制可能であることが判明している(Wang et al.,Mol Cancer Ther 2008;7:280-5)。
【0041】
固形がんの治療標的としてのTrop-2に関心が高まっているが(Cubas et al.,Biochim Biophys Acta 2009;1796:309-14)、乳癌(Huang et al.,Clin Cancer Res 2005;11:4357-64)、結腸直腸癌(Ohmachi et al.,Clin Cancer Res 2006;12:3057-63;Fang et al.,Int J Colorectal Dis 2009;24:875-84)、及び口腔扁平上皮細胞癌(Fong et al.,Modern Pathol 2008;21:186-91)における過剰発現Trop-2の臨床的有意性について記載された更なる報告により、そのことが裏付けられている。高レベルのTrop-2を発現する前立腺基底細胞がインビトロ及びインビボで幹細胞様活性を増強させるという最新のエビデンスは特に注目に値する(Goldstein et al.,Proc Natl Acad Sci USA 2008;105:20882-7)。
【0042】
フローサイトメトリー及び免疫組織化学染色試験により、RS7 MAbが、正常ヒト組織への結合性を制限することにより、様々な腫瘍タイプ上の抗原を検出することが示されている(Stein et al.,1990)。Trop-2は主に、肺癌、胃癌、膀胱癌、乳癌、卵巣癌、子宮癌及び前立腺癌などのがんにより発現されている。放射能標識マウスRS7 MAbを用いた動物モデルの局在化及び治療研究は、腫瘍標的化及び治療効果を示している(Stein et al.,1990;Stein et al.,1991)。
【0043】
肺、乳房、膀胱、卵巣、子宮、胃及び前立腺の腫瘍に強いRS7染色が認められた(Stein et al.,Int.J.Cancer 55:938,1993)。肺癌症例には、扁平上皮癌と腺癌の両方が含まれていた(Stein et al.,Int.J.Cancer 55:938,1993)。両方の細胞型が強く染色されているということは、RS7抗体が、肺の非小細胞癌の組織学的分類を区別していないことを示している。
【0044】
RS7 MAbは、標的細胞へと速やかに内部移行する(Stein et al.,1993)。RS7 MAbの内在化速度定数は、速やかに内部移行するその他2つのMAbの内在化速度定数間の中間であり、ADC産生に有用であることが示されている(Id.)。ADCの内部移行が抗腫瘍活性に必要であることが十分に記載されている(Pastan et al.,Cell 47:641,1986)。薬物ADCの内部移行が抗腫瘍効果をもたらす主要因子として記載されている(Yang et al.,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 85:1189,1988)。それゆえ、RS7抗体は、治療適用において、いくつかの重要な特性を示す。
【0045】
hRS7抗体が好ましいが、その他の抗Trop-2抗体は周知及び/または一般に利用可能であり、代替実施形態では、本ADCに利用可能である。低い免疫原性という点においてはヒト化抗体またはヒト抗体が好ましいが、代替実施形態では、キメラ抗体を用いてもよい。以下に記載するが、抗体をヒト化するための方法は当該技術分野において周知であり、それらの方法を利用して、市販のマウス抗体またはキメラ抗体をヒト化形態へと変換してもよい。
【0046】
抗Trop-2抗体は多数の供給業者から市販されており、LS-C126418、LS-C178765、LS-C126416、LS-C126417(LifeSpan BioSciences,Inc.,Seattle,WA)、10428-MM01、10428-MM02、10428-R001、10428-R030(Sino Biological Inc.,Beijing,China)、MR54(eBioscience,San Diego,CA)、sc-376181、sc-376746(Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz,CA)、MM0588-49D6(Novus Biologicals,Littleton,CO)、ab79976及びab89928(ABCAM(登録商標),Cambridge,MA)が挙げられる。
【0047】
その他の抗Trop-2抗体については、特許文献において開示されている。例えば、米国公開番号2013/0089872は、抗Trop-2抗体K5-70(受入番号FERM BP-11251)、K5-107(受入番号FERM BP-11252)、K5-116-2-1(受入番号FERM BP-11253)、T6-16(受入番号FERM BP-11346)、及びT5-86(受入番号FERM BP-11254)(International Patent Organism Depositary,Tsukuba,Japanに寄託)について開示している。米国特許番号5,840,854は、抗Trop-2モノクローナル抗体BR110(ATCC番号HB11698)について開示している。米国特許番号7,420,040は、ハイブリドーマ細胞株AR47A6.4.2(受入番号141205-05で、IDAC(International Depository Authority of Canada,Winnipeg,Canada)に寄託)により産生された抗Trop-2抗体について開示している。米国特許番号7,420,041は、ハイブリドーマ細胞株AR52A301.5(受入番号141205-03で、IDACに寄託)により産生された抗Trop-2抗体について開示している。米国公開番号2013/0122020は、抗Trop-2抗体3E9、6G11、7E6、15E2、18B1について開示している。代表的な抗体をコードするハイブリドーマ(受入番号PTA-12871及びPTA-12872)は、American Type Culture Collection(ATCC)に寄託されていた。チューブリン阻害剤モノメチルアウリスタチンF(MMAF)に結合させた抗5T4(抗Trop-2)抗体を含むADC PF 06263507は、Pfizer,Inc.(Groton,CT)から市販されている(例えば、Sapra et al.,2013, Mol Cancer Ther 12:38-47を参照のこと)。米国特許番号8,715,662は、寄託番号PD 08019、PD 08020、及びPD 08021でAID-ICLC(Genoa,Italy)に寄託したハイブリドーマにより産生された抗Trop-2抗体について開示している。米国特許出願公開番号20120237518は、抗Trop-2抗体77220、KM4097及びKM4590について開示している。米国特許番号8,309,094(Wyeth)は、配列表により識別される抗体A1及びA3について開示している。本パラグラフ中で上記したそれぞれの特許または特許出願の実施例セクションは、参照として本明細書に組み込まれる。特許公報ではないが、Lipinski et al.(1981,Proc Natl.Acad Sci USA,78:5147-50)は、抗Trop-2抗体162-25.3及び162-46.2について開示している。
【0048】
非常に多くの抗Trop-2抗体が、当技術分野において周知及び/または一般に利用可能である。以下に記載するが、周知の抗原に対する抗体を作製するための方法は、当該技術分野において定型化された手順である。ヒト化抗体、ヒト抗体またはキメラ抗体の作製方法もまた周知である。当該技術分野における一般的な知識に鑑みて本開示を読解すれば、当業者は、本ADCにおける抗Trop-2抗体種を調製及び使用することが可能になるであろう。
【0049】
Trop-2に関連する標的に対する抗体の使用は、ADC以外の免疫療法用にも開示されている。マウス抗Trop-1 IgG2a抗体エドレコロマブ(PANOREX(登録商標))が結腸直腸癌の治療に使用されてきたが、マウス抗体は、ヒトへの臨床使用には適していない(Baeuerle & Gires,2007,Br.J Cancer 96:417-423)。エドレコロマブの低用量皮下投与がワクチン抗原に対する体液性免疫反応を誘導することが報告されている(Baeuerle & Gires,2007)。アデカツムマブ(MT201)(完全ヒト抗Trop-1抗体)は転移性乳癌及び初期前立腺癌に使用されており、ADCC活性及びCDC活性を介して作用すると報告されている(Baeuerle & Gires,2007)。MT110(一本鎖抗Trop-1/抗CD3二重特異性抗体構築物)は、卵巣癌に対する効果を有することが報告されている(Baeuerle & Gires,2007)。Proxinium(Pseudomonasエキソトキシンに結合した抗Trop-1一本鎖抗体を含む免疫毒素)は、頭頸部癌及び膀胱癌において試験されている(Baeuerle & Gires,2007)。これら研究のいずれも、特に、チェックポイント阻害抗体を用いた治療に耐性を示す患者における抗Trop-2 ADCの使用に関する任意の開示を含んでいなかった。
【0050】
カンプトテシン複合体
抗体または抗原結合抗体フラグメントに結合したカンプトテシン治療薬を含むADCを調製するための限定されない方法及び組成物について、以下で説明する。好ましい実施形態では、所定のポリエチレングリコール(PEG)部分(すなわち、所定数のモノマー単位を含有するPEG)(所定のPEGは低分子量PEGであり、好ましくは1~30モノマー単位を含有し、より好ましくは1~12モノマー単位含有する)を、薬物と抗体の間に配置することにより、薬物の溶解性が向上する。
【0051】
好ましくは、第1のリンカーは一方の端で薬物と結合し、もう一方の端においてアセチレン基またはアジド基を末端としていてもよい。この第1のリンカーは、一方の端にアジド基またはアセチレン基を有する所定のPEG部分を、もう一方の端に別の反応性基(例えば、カルボン酸基またはヒドロキシル基など)を含んでいてもよい。上記二官能性の所定のPEGは、アミノアルコールのアミン基に結合していてもよく、また後者のヒドロキシル基は、カーボネート形態で薬物上のヒドロキシル基に結合していてもよい。あるいは、上記所定の二官能性PEGの非アジド(またはアセチレン)部分は任意選択的に、L-アミノ酸またはポリペプチドのN末端に結合し、C末端はアミノアルコールのアミノ基に結合し、後者のヒドロキシ基は、それぞれカーボネートまたはカルバメートの形態で薬物のヒドロキシル基に結合する。
【0052】
抗体結合基、及び第1のリンカーのアジド(またはアセチレン)基に対して相補的な反応性基(すなわち、アセチレン(またはアジド))を含む第2のリンカーは、アセチレン-アジド付加環化反応を介して薬物-(第1のリンカー)複合体と反応し、疾患標的化抗体にコンジュゲートするのに有用な最終の二官能性薬物生成物を得てもよい。抗体結合基は、チオールまたはチオール反応性基のいずれかであることが好ましい。
【0053】
CPT類似体(SN-38など)を含む薬物-リンカー前駆体の調製において、C-20カーボネートの存在下、10-ヒドロキシル基を選択的に再生するための方法について以下で説明する。薬物中の反応性ヒドロキシル基(SN-38中のフェノール性ヒドロキシルなど)用のその他の保護基、例えば、t-ブチルジメチルシリルまたはt-ブチルジフェニルシリルもまた使用してもよく、これらの保護基は、誘導体化薬物を抗体結合部分に結合させる前にフッ化テトラブチルアンモニウムで脱保護される。この保護基をあらかじめ脱保護することなく、二官能性CPTが抗体にコンジュゲートするように、CPT類似体の10-ヒドロキシル基を「BOC」以外のエステルまたはカーボネートで代わりに保護する。バイオコンジュゲートの投与後、保護基は生理学的pH条件下で容易に脱保護される。
【0054】
アセチレン-アジド結合(「クリックケミストリー」と呼ばれる)において、アジド部分はL2上で、アセチレン部分はL3上であってもよい。あるいは、L2はアセチレンを含んでいてもよく、L3はアジドを含んでいてもよい。「クリックケミストリー」とは、銅(+1)が触媒する、アセチレン部分とアジド部分の間における付加環化反応(Kolb HC and Sharpless KB,Drug Discov Today 2003;8:1128-37)のことを指す(別の形態のクリックケミストリーが周知であり使用可能であるが)。クリックケミストリーは中性pH条件付近の水溶液中で生じるため、薬物コンジュゲートに適している。クリックケミストリーの利点は、それが化学選択的なものであり、その他の周知のコンジュゲーション化学反応、例えば、チオール-マレイミド反応を補完することである。
【0055】
本出願は、標的化部分としての抗体または抗体フラグメントの使用に焦点を置いているが、当業者は、複合体が抗体または抗体フラグメントを含む場合、別のタイプの標的化部分、例えば、アプタマー、アビマー、アフィボディまたはペプチドリガンドなどで置換してもよいということを理解するであろう。
【0056】
例示的な好ましい実施形態は、一般式2
MAb-[L2]-[L1]-[AA]-[A’]-薬物(2)
の、薬物誘導体と抗体の複合体に関し、
式中、MAbは疾患標的化抗体であり、L2は、抗体結合部分及び1個または複数個のアセチレン(またはアジド)基を含むクロスリンカーの構成要素であり、L1は、一方の端にアジド(またはアセチレン)を有する所定のPEG(L2のアセチレン(またはアジド)部分に対して相補的)、及びもう一方の端にカルボン酸基またはヒドロキシル基などの反応性基を含み、AAはL-アミノ酸であり、mは0、1、2、3または4の値の整数であり、A’は、エタノールアミン、4-ヒドロキシベンジルアルコール、4-アミノベンジルアルコール、または置換または非置換エチレンジアミンの群から選択される追加のスペーサーである。「AA」のL-アミノ酸は、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン及びバリンから選択される。A’基がヒドロキシルを含む場合、A’基は、それぞれカーボネートまたはカルバメートの形態で薬物のヒドロキシル基またはアミノ基に結合する。
【0057】
式2の好ましい実施形態では、A’はL-アミノ酸から誘導した置換エタノールアミンであり、アミノ酸のカルボン酸基はヒドロキシメチル部分で置換されている。A’は、以下のL-アミノ酸、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン及びバリンのいずれか1つから誘導してもよい。
【0058】
式2の好ましい実施形態における複合体の一例では、mは0であり、A’はL-バリノールであり、薬物はSN-38で例示される。得られた構造を式3に示す。
【化2】
【0059】
式2の好ましい実施形態における複合体の別の例では、mは1であり誘導体化L-リジンで表され、A’はL-バリノールであり、薬物はSN-38で例示される。構造を式4に示す。
【化3】
【0060】
この実施形態では、リジンアミノ基の直交保護基を使用して、リジンなどのアミノ酸のカルボン酸とバリノールのアミノ基の間にアミド結合が最初に形成される。リジン側鎖上の保護基はインタクトに維持しつつ、リジンN末端の保護基を除去してから、N末端を、もう一方の端にアジド(またはアセチレン)を有する所定PEG上のカルボキシル基に結合させる。その後、バリノールのヒドロキシル基を、10-ヒドロキシ保護SN-38の20-クロロホルメート誘導体に結合させてから、付加環化クリックケミストリーにより、この中間体を、抗体結合部分に加え相補的なアセチレン(またはアジド)基を有するL2構成要素に結合させる。最後に、リジン側鎖とSN-38の両方の保護基を除去して、式3に示すこの例の生成物を得る。
【0061】
理論に束縛されるものではないが、細胞内におけるタンパク質加水分解後に生成された低分子量のSN-38生成物(すなわち、バリノール-SN-38カーボネート)は、バリノールのアミノ基及びカーボネートのカルボニルが関与する分子内環化を介した、インタクトSN-38の別の遊離経路を有する。
【0062】
別の好ましい実施形態では、一般式2のA’はA-OHであり、それにより、A-OHは、4-アミノベンジルアルコールなどの崩壊性部分、またはベンジル位においてC-C10アルキル基で置換された置換4-アミノベンジルアルコールであり、後者は、アミノ基を介して、L-アミノ酸、または最大4つのL-アミノ酸部分を含むポリペプチドに結合し、式中、N末端は、抗体結合基で末端処理されたクロスリンカーに結合する。
【0063】
好ましい実施形態の一例を以下に示すが、一般式(2)のA’のA-OH実施形態は、置換4-アミノベンジルアルコールから誘導され、「AA」は、単一のL-アミノ酸(一般式(2)においてm=1)を含み、薬物はSN-38で例示される。その構造を以下に示す(式5、MAb-CLX-SN-38と呼ぶ)。AAの単一アミノ酸は、以下のL-アミノ酸、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン及びバリンのいずれか1つから選択される。4-アミノベンジルアルコール部分(A’のA-OH実施形態)の置換基Rは、水素、またはC-C10アルキル基から選択されるアルキル基である。
【化4】
【0064】
式5のMAb-CLX-SN-38における特に好ましい実施形態において、式中、単一アミノ酸AAはL-リジンであり、R=Hであり、薬物はSN-38で例示される(式6、MAb-CL2A-SN-38と呼ぶ)。その構造は、MAb-CL2-SN-38のリンカーとは、CL2リンカーにみられるPhe-Lysジペプチドの単一リジン残基の置換の点で異なる。Phe-Lysジペプチドは、リソソーム酵素用のカテプシンB開裂部位として設計され、結合薬物の細胞内放出において重要であると考えられてきた。驚くべきことに、カテプシン開裂部位がないにもかかわらず、CL2Aリンカーを含むADCは、少なくとも有効であり、CL2リンカーを含むADCと比較して、インビボでより有効であり得る。
【化5】
【0065】
その他の実施形態は、10-ヒドロキシ含有カンプトテシン(例えば、SN-38など)の観点から可能である。薬物としてのSN-38の例において、薬物におけるより反応性の高い10-ヒドロキシ基は、20-ヒドロキシル基を変化させないまま誘導体化される。一般式2において、A’は置換エチレンジアミンである。この実施形態の一例は、以下の式「7」で表され、式中、SN-38のフェノール性ヒドロキシル基は置換エチレンジアミンでカルバメートとして誘導体化され、ジアミンのもう一方のアミンは4-アミノベンジルアルコールでカルバメートとして誘導体化され、後者のアミノ基はPhe-Lysジペプチドに結合する。この構造(式7)において、R及びR’は独立して、水素またはメチルである。R=R’=メチルである場合、MAb-CL17-SN-38またはMAb-CL2E-SN-38と呼ばれる。
【化6】
【0066】
特定の実施形態では、AAは、細胞内ペプチダーゼによって開裂可能なポリペプチド部分、好ましくは、ジ、トリまたはテトラペプチドを含む。例としては、Ala-Leu、Leu-Ala-Leu及びAla-Leu-Ala-Leu(配列番号:20)が挙げられる(Trouet et al.,1982)。別の例は、リソソームカテプシンによって開裂可能なPhe-Lys部分である。
【0067】
好ましい実施形態では、複合体のL1構成要素は、1~30の繰り返しモノマー単位を有する所定のポリエチレングリコール(PEG)スペーサーを含む。更に好ましい実施形態では、PEGは、1~12の繰り返しモノマー単位を有する所定のPEGである。PEGの導入は、市販のヘテロ二官能性化PEG誘導体の使用を伴っていてもよい。ヘテロ二官能性PEGは、アジド基またはアセチレン基を含んでいてもよい。「NHS」がスクシンイミジルであり、8つの繰り返しモノマー単位を含むヘテロ二官能性の所定のPEGの例を、以下の式8に示す。
【化7】
【0068】
好ましい実施形態では、L2は、2~40、しかし好ましくは2~20、より好ましくは2~5個の複数のアセチレン(またはアジド)基、及び単一の抗体結合部分を有する。
【0069】
複数の薬物分子及び単一の抗体結合部分を含む代表的な抗体SN-38複合体を以下に示す。この構造の「L2」構成要素は2個のアセチレン基に結合し、2個のアジド結合SN-38分子の結合をもたらす。MAbへの結合は、スクシンイミドで表される。
【化8】
【0070】
好ましい実施形態では、二官能性薬物が抗体結合基としてチオール反応性部分を含む場合、抗体上のチオールは、チオール化試薬を用いて、抗体のリジン基上に生成される。MAbのリジン基を修飾することでチオール基を抗体上に導入するための方法は、当該技術分野において周知である(Wong in Chemistry of protein conjugation and cross-linking,CRC Press,Inc.,Boca Raton,FL(1991),pp 20-22)。あるいは、ジチオスレイトール(DTT)などの還元剤を用いて、抗体上の鎖間ジスルフィド結合を緩やかに還元することにより(Willner et al.,Bioconjugate Chem.4:521-527(1993))、抗体上に7~10のチオールを生成することができる。そしてそのことは、複数の薬物部分を抗原結合領域から離れたMAbの鎖間領域に導入するという利点を有している。より好ましい実施形態では、還元ジスルフィドスルフヒドリル基にSN-38を結合させることにより、抗体分子毎に6つのSN-38部分が共有結合した抗体-SN-38 ADCが形成される。薬物またはその他の治療薬を結合させるためにシステイン残基を提供するその他の方法は周知であり、例えば、システイン改変抗体の使用などである(米国特許番号7,521,541を参照のこと(その特許の実施例セクションは参照として本明細書に組み込まれる))。
【0071】
別の好ましい実施形態では、化学療法剤部分は、ドキソルビシン(DOX)、エピルビシン、モルホリノドキソルビシン(モルホリノ-DOX)、シアノモルホリノ-ドキソルビシン(シアノモルホリノ-DOX)、2-ピロリノドキソルビシン(2-PDOX)、Pro-2PDOX、CPT、10-ヒドロキシカンプトテシン、SN-38、トポテカン、ラルトテカン、9-アミノカンプトテシン、9-ニトロカンプトテシン、タキサン、ゲルダナマイシン、アンサマイシン、及びエポチロンからなる群から選択される。より好ましい実施形態では、化学療法剤部分はSN-38である。好ましい実施形態の複合体では、好ましくは、抗体は少なくとも1つの化学療法剤部分に結合し、好ましくは1~約12の化学療法剤部分に結合し、最も好ましくは約6~約12の化学療法剤部分に結合する。
【0072】
更に、好ましい実施形態では、リンカー構成要素「L2」は、上記抗体の1個または複数個のリジン側鎖アミノ基に導入されたチオール反応性残基と反応するチオール基を含む。このようなケースでは、当該技術分野において十分説明されている手順を用いて、マレイミド、ビニルスルホン、ブロモアセトアミドまたはヨードアセトアミドなどのチオール反応性基で抗体をあらかじめ誘導体化する。
【0073】
この作業に関連し、驚くべきことに、CPT薬物-リンカー(CPTは更に、10-ヒドロキシル基を有する)を調製可能なプロセスが発見された。このプロセスは、限定するわけではないが、t-ブチルオキシカルボニル(BOC)誘導体として10-ヒドロキシル基を保護してから、薬物-リンカー複合体の最後から二番目の中間体を調製することを含む。一般的に、BOC基を除去するためには、トリフルオロ酢酸(TFA)などの強酸による処理が必要とされる。これらの条件下では、除去する保護基を含むCPT 20-O-リンカーカーボネートもまた開裂しやすく、その結果、未修飾CPTが増加することになる。事実、リンカー分子のリジン側鎖用の、緩やかに除去可能なメトキシトリチル(MMT)保護基を用いる論理的根拠は、当該技術分野において明言されているが、この可能性を的確に回避することであった(Walker et al.,2002)。短期間、最適には3~5分間の反応を行うことにより、フェノール性BOC保護基を選択的に除去することが可能であることが発見された。これらの条件下では、主な生成物は、10-ヒドロキシル位の「BOC」が除去される一方で「20」位のカーボネートがインタクトである生成物であった。
【0074】
別のアプローチは、10-OH保護基を脱保護する必要なしに、最終生成物を抗体にコンジュゲートする準備が整うように、CPT類似体の10-ヒドロキシ位を「BOC」以外の基で保護することを含む。10-ヒドロキシ保護基(10-OHをフェノール性カーボネートまたはフェノール性エステルに変換する)は、複合体のインビボ投与後、生理学的pH条件またはエステラーゼにより速やかに脱保護される。生理学的条件下における、10-ヒドロキシカンプトテシンの、10位のフェノール性カーボネート対20位の三級カーボネートのより速やかな除去については、He et al.が記載している(He et al.,Bioorganic & Medicinal Chemistry 12:4003-4008(2004))。SN-38上の10-ヒドロキシ保護基は、「COR」(式中、Rは「N(CH-(CH-」などの置換アルキルであってもよく、式中、nは1~10であり、式中、末端アミノ基は任意選択的に、水溶解性の高い四級塩形態である)、または単純なアルキル残基、例えば、「CH-(CH-」(式中、nは0~10)であってもよく、アルコキシ部分、例えば、「CH-(CH)n-O-」(式中、nは0~10)、「N(CH-(CH-O-」(式中、nは2~10)、または「RO-(CH-CH-O)-CH-CH-O-」(式中、Rはエチルまたはメチルであり、nは0~10の値の整数)であってもよい。最終的な誘導体がカーボネートである場合、これらの10-ヒドロキシ誘導体は、選択試薬のクロロホルメートで処理することで容易に調製される。通常、10-ヒドロキシ含有カンプトテシン(例えば、SN-38など)は、トリエチルアミンを塩基として用いて、ジメチルホルムアミド中のモル当量のクロロホルメートで処理される。これらの条件下では、20-OH位は変化しない。10-O-エステルを形成するために、選択試薬の酸塩化物を用いる。
【0075】
一般式2(式中、記述子L2、L1、AA及びA-Xは前のセクションに記載のとおり)の薬物誘導体と抗体の複合体を調製する好ましいプロセスでは、二官能性薬物部分、[L2]-[L1]-[AA]-[A-X]-薬物を最初に調製してから、その二官能性薬物部分を抗体(本明細書では「MAb」を指し示す)にコンジュゲートする。
【0076】
一般式2(式中、記述子L2、L1、AA及びA-OHは前のセクションに記載のとおり)の薬物誘導体と抗体の複合体を調製する好ましいプロセスでは、二官能性薬物部分は、最初にA-OHをアミド結合でAAのC末端に結合させてから、AAのアミン末端をL1のカルボン酸基に結合させることにより調製される。AAが存在しない場合(すなわち、m=0)、A-OHをアミド結合で直接L1に結合させる。クリックケミストリーによるL1及びL2のアジド(またはアセチレン)基とアセチレン(またはアジド)基の間の反応を用いることにより、L1部分に結合させてから、クロスリンカー、[L1]-[AA]-[A-OH]を薬物のヒドロキシル基またはアミノ基に結合させる。
【0077】
一実施形態では、抗体は、モノクローナル抗体(MAb)である。その他の実施形態では、抗体は、多価MAb及び/または多重特異性MAbであってもよい。抗体は、マウス抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体またはヒトモノクローナル抗体であってもよく、上記抗体は、インタクト、フラグメント(Fab、Fab’、F(ab)、F(ab’))またはサブフラグメント(一本鎖構造)形態、IgG1、IgG2a、IgG3、IgG4、IgAアイソタイプ、または、それらのサブ分子であってもよい。
【0078】
好ましい実施形態では、抗体は、がんまたは悪性細胞上に発現する抗原または抗原のエピトープ、最も好ましくはTrop-2に結合する。がん細胞は、造血腫瘍、がん、肉腫、黒色腫または神経膠腫瘍由来の細胞であることが好ましい。本発明に従い治療する好ましい悪性新生物は、悪性固形がんまたは造血腫瘍である。
【0079】
好ましい実施形態では、細胞内で開裂可能な部分は、MAb-薬物複合体がその受容体に結合してから、細胞に内部移行した後に開裂してもよい。
【0080】
チェックポイント阻害抗体
がん治療にチェックポイント阻害抗体を用いた試験が、以前からがん治療に耐性を示すと考えられてきたがんにおいて、前例のない奏効率を示している(例えば、Ott & Bhardwaj,2013,Frontiers in Immunology 4:346;Menzies & Long,2013,Ther Adv Med Oncol 5:278-85;Pardoll,2012,Nature Reviews 12:252-264;Mavilio & Lugliを参照のこと)。CTLA-4、PD-1及びPD-L1に対する拮抗的なチェックポイント阻害抗体を用いた治療は、がん及びその他の疾患に対する免疫療法における最も有望な新規方法の1つである。大部分の抗がん剤とは対照的に、チェックポイント阻害薬は、腫瘍細胞を直接の標的とはせずに、逆に、免疫機構の内因性抗腫瘍活性を高めるために、リンパ球受容体またはそのリガンドを標的としている(Pardoll,2012,Nature Reviews 12:252-264)。このような抗体が主に、疾患細胞、組織または病原体に対する免疫応答を調節する働きを有していることから、これらの抗体を抗体薬物複合体(ADC)などその他治療様式と組み合わせて使用して、ADCの抗腫瘍効果を高めてもよい。
【0081】
プログラム細胞死タンパク質1(PD-1、CD279としても周知)は免疫グロブリンスーパーファミリーの細胞表面膜タンパク質をコードし、B細胞及びNK細胞において発現している(Shinohara et al.,1995,Genomics 23:704-6;Blank et al.,2007,Cancer Immunol Immunother 56:739-45;Finger et al.,1997,Gene 197:177-87;Pardoll,2012,Nature Reviews 12:252-264)。抗PD1抗体は、黒色腫、非小細胞肺癌、膀胱癌、前立腺癌、結腸直腸癌、頭頸部癌、トリプルネガティブ乳癌、白血病、リンパ腫及び腎細胞癌の治療に使用されている(Topalian et al.,2012,N Engl J Med 366:2443-54;Lipson et al.,2013,Clin Cancer Res 19:462-8;Berger et al.,2008,Clin Cancer Res 14:3044-51;Gildener-Leapman et al.,2013,Oral Oncol 49:1089-96;Menzies & Long,2013,Ther Adv Med Oncol 5:278-85)。
【0082】
例示的な抗PD1抗体としては、ペンブロリズマブ(MK-3475,MERCK)、ニボルマブ(BMS-936558,BRISTOL-MYERS SQUIBB)及びピディリズマブ(CT-011,CURETECH LTD.)が挙げられる。抗PD1抗体は、例えば、ABCAM(登録商標)(AB137132)、BIOLEGEND(登録商標)(EH12.2H7、RMP1-14)、及びAFFYMETRIX EBIOSCIENCE(J105、J116、MIH4)から市販されている。
【0083】
プログラム細胞死1リガンド1(PD-L1、CD274としても周知)は、活性化したT細胞、B細胞、骨髄細胞及びマクロファージにおいてみられるPD-1のリガンドである。PD-1とPD-L1の複合体は、CD8+T細胞の増殖を抑制し、免疫応答を抑制する(Topalian et al.,2012,N Engl J Med 366:2443-54;Brahmer et al.,2012,N Eng J Med 366:2455-65)。抗PDL1抗体は、非小細胞肺癌、黒色腫、結腸直腸癌、腎細胞癌、膵臓癌、胃癌、卵巣癌、乳癌及び血液悪性腫瘍の治療に使用されている(Brahmer et al.,N Eng J Med 366:2455-65;Ott et al.,2013,Clin Cancer Res 19:5300-9;Radvanyi et al.,2013,Clin Cancer Res 19:5541;Menzies & Long,2013,Ther Adv Med Oncol 5:278-85;Berger et al.,2008,Clin Cancer Res 14:13044-51)。
【0084】
抗PDL1抗体の例としては、MDX-1105(MEDAREX)、デュルバルマブ(MEDI4736、MEDIMMUNE)、アテゾリズマブ(TECENTRIQ(登録商標)、MPDL3280A、GENENTECH)、及びBMS-936559(Bristol-Myers Squibb)が挙げられる。抗PDL1抗体はまた、例えば、AFFYMETRIX EBIOSCIENCE(MIH1)から市販されている。
【0085】
細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA-4、CD152としても周知)はまた、T細胞上で排他的に発現する免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーである。CTLA-4はT細胞活性化を阻害するように作用するが、ヘルパーT細胞活性を阻害し制御性T細胞の免疫抑制活性を高めると報告されている(Pardoll,2012,Nature Reviews 12:252-264)。抗CTL4A抗体は、黒色腫、前立腺癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌を治療するための臨床試験に使用されてきた(Robert & Ghiringhelli,2009,Oncologist 14:848-61;Ott et al.,2013,Clin Cancer Res 19:5300;Weber,2007,Oncologist 12:864-72;Wada et al.,2013,J Transl Med 11:89)。
【0086】
例示的な抗CTLA4抗体としては、イピリムマブ(Bristol-Myers Squibb)及びトレメリムマブ(PFIZER)が挙げられる。抗PD1抗体は、例えば、ABCAM(登録商標)(AB134090)、SINO BIOLOGICAL INC.(11159-H03H、11159-H08H)、及びTHERMO SCIENTIFIC PIERCE(PA5-29572、PA5-23967、PA5-26465、MA1-12205、MA1-35914)から市販されている。イピリムマブは最近、転移性黒色腫の治療用にFDAの承認を受けた(Wada et al.,2013,J Transl Med 11:89)。
【0087】
これら及びその他周知のチェックポイント阻害抗体を、IMMU-132と組み合わせて使用してもよい。好ましい実施形態では、IMMU-132(単剤でまたは組み合わせて)は、チェックポイント阻害抗体単剤に耐性を示すがんを有する患者を治療するのに有効である。
【0088】
一般的な抗体技術
事実上のあらゆる標的抗原に対するモノクローナル抗体を作製するための技術は、当該技術分野において周知である。例えば、Kohler and Milstein,Nature 256:495(1975)、及びColigan et al.(eds.),CURRENT PROTOCOLS IN IMMUNOLOGY,VOL.1,pages 2.5.1-2.6.7(John Wiley & Sons 1991)を参照されたい。簡潔に説明すると、モノクローナル抗体は、抗原を含む組成物をマウスに注入し、脾臓を取り出しBリンパ球を採取して、Bリンパ球を骨髄腫細胞と融合させてハイブリドーマを作製し、そのハイブリドーマをクローニングし、抗原に対する抗体を産生する陽性クローンを選抜し、抗原に対する抗体を産生するクローンを培養してから、ハイブリドーマ培養液から抗体を単離することによって得ることができる。当業者は、ヒト対象のどこに抗体を投与するか、抗体がヒト抗原のどこに結合するかを理解するであろう。
【0089】
様々な確立技術を用いて、ハイブリドーマ培養液からMAbを単離及び精製してもよい。このような単離技術としては、プロテインAセファロースまたはプロテインGセファロースを用いたアフィニティークロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー及びイオン交換クロマトグラフィーが挙げられる。例えば、Coligan at pages 2.7.1-2.7.12、及びpages 2.9.1-2.9.3を参照されたい。また、Baines et al.,「Purification of Immunoglobulin G(IgG)」 in METHODS IN MOLECULAR BIOLOGY,VOL.10,pages 79-104(The Humana Press,Inc.1992)を参照されたい。
【0090】
免疫原で抗体の初期産生を行った後、その抗体をシークエンスしてから、組換え技術により作成してもよい。マウス抗体及び抗体フラグメントのヒト化及びキメラ化については当業者に周知であり、以下で説明する。
【0091】
当業者は、本願請求項に記載の方法及び組成物が、当該技術分野において周知の多種多様なあらゆる抗体に利用可能であることを理解するであろう。使用する抗体は、多種多様な周知の供給業者から商業的に入手可能である。例えば、様々な抗体を分泌するハイブリドーマ株は、American Type Culture Collection(ATCC,Manassas,VA)から入手可能である。腫瘍関連抗原を含むがこれらに限定されない様々な疾患標的に対する多数の抗体がATCCに寄託されている、及び/または、可変領域配列が公開されており、本願請求項に記載の方法及び組成物に用いることが可能である。例えば、米国特許番号7,312,318;7,282,567;7,151,164;7,074,403;7,060,802;7,056,509;7,049,060;7,045,132;7,041,803;7,041,802;7,041,293;7,038,018;7,037,498;7,012,133;7,001,598;6,998,468;6,994,976;6,994,852;6,989,241;6,974,863;6,965,018;6,964,854;6,962,981;6,962,813;6,956,107;6,951,924;6,949,244;6,946,129;6,943,020;6,939,547;6,921,645;6,921,645;6,921,533;6,919,433;6,919,078;6,916,475;6,905,681;6,899,879;6,893,625;6,887,468;6,887,466;6,884,594;6,881,405;6,878,812;6,875,580;6,872,568;6,867,006;6,864,062;6,861,511;6,861,227;6,861,226;6,838,282;6,835,549;6,835,370;6,824,780;6,824,778;6,812,206;6,793,924;6,783,758;6,770,450;6,767,711;6,764,688;6,764,681;6,764,679;6,743,898;6,733,981;6,730,307;6,720,155;6,716,966;6,709,653;6,693,176;6,692,908;6,689,607;6,689,362;6,689,355;6,682,737;6,682,736;6,682,734;6,673,344;6,653,104;6,652,852;6,635,482;6,630,144;6,610,833;6,610,294;6,605,441;6,605,279;6,596,852;6,592,868;6,576,745;6,572,856;6,566,076;6,562,618;6,545,130;6,544,749;6,534,058;6,528,625;6,528,269;6,521,227;6,518,404;6,511,665;6,491,915;6,488,930;6,482,598;6,482,408;6,479,247;6,468,531;6,468,529;6,465,173;6,461,823;6,458,356;6,455,044;6,455,040;6,451,310;6,444,206;6,441,143;6,432,404;6,432,402;6,419,928;6,413,726;6,406,694;6,403,770;6,403,091;6,395,276;6,395,274;6,387,350;6,383,759;6,383,484;6,376,654;6,372,215;6,359,126;6,355,481;6,355,444;6,355,245;6,355,244;6,346,246;6,344,198;6,340,571;6,340,459;6,331,175;6,306,393;6,254,868;6,187,287;6,183,744;6,129,914;6,120,767;6,096,289;6,077,499;5,922,302;5,874,540;5,814,440;5,798,229;5,789,554;5,776,456;5,736,119;5,716,595;5,677,136;5,587,459;5,443,953;5,525,338を参照されたい(それぞれの特許の実施例セクションは参照として本明細書に組み込まれる)。これらは例示に過ぎず、多種多様なその他の抗体及びそのハイブリドーマは当技術分野において周知である。当業者は、ATCC、NCBI及び/またはUSPTOのデータベースにおいて、選択した疾患関連目的標的に対する抗体を単に検索することにより、ほぼあらゆる疾患関連抗原に対する抗体配列または抗体分泌ハイブリドーマを入手可能であることを理解するであろう。当該技術分野において周知の標準的な技術を使用して、クローン抗体の抗原結合ドメインを増幅、切断し、発現ベクターにライゲートし、適合宿主細胞にトランスフェクションしてから、タンパク質産生に用いてもよい。本明細書で開示する技術を使用して、単離した抗体を、カンプトテシンなどの治療薬にコンジュゲートしてもよい。
【0092】
キメラ抗体及びヒト化抗体
キメラ抗体とは、ヒト抗体の可変領域が、例えば、マウス抗体の可変領域(マウス抗体の相補性決定領域(CDR)を含む)で置換された組換えタンパク質のことである。キメラ抗体は、対象に投与する際、低い免疫原性及び高い安定性を示す。キメラ抗体の構築方法は当該技術分野において周知である(例えば、Leung et al.,1994,Hybridoma 13:469)。
【0093】
マウス免疫グロブリンの可変重鎖及び可変軽鎖由来のマウスCDRを、ヒト抗体の対応する可変ドメインにトランスフェクションすることにより、キメラモノクローナル抗体をヒト化してもよい。キメラモノクローナル抗体のマウスフレームワーク領域(FR)もまた、ヒトFR配列で置換する。ヒト化モノクローナルの安定性及び抗原特異性を保つために、1つまたは複数のヒトFR残基を対応するマウス残基で置換してもよい。ヒト化モノクローナル抗体を対象の治療処置に使用してもよい。ヒト化モノクローナル抗体を作製するための技術は当該技術分野において周知である(例えば、Jones et al.,1986,Nature,321:522;Riechmann et al.,Nature,1988,332:323;Verhoeyen et al.,1988,Science,239:1534;Carter et al.,1992,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA,89:4285;Sandhu,Crit.Rev.Biotech.,1992,12:437;Tempest et al.,1991,Biotechnology 9:266;Singer et al.,J.Immun.,1993,150:2844を参照のこと)。
【0094】
その他の実施形態は、非ヒト霊長類抗体に関係していてもよい。治療上有効な抗体をヒヒで産生するための一般的な技術については、例えば、Goldenberg et al.,WO91/11465(1991)、及びin Losman et al.,Int.J.Cancer 46:310(1990)に見つけることができる。別の実施形態では、抗体は、ヒトモノクローナル抗体であってもよい。このような抗体は、以下に記載する抗原誘発で特定のヒト抗体を産生するように遺伝子操作されたトランスジェニックマウスから得ることができる。
【0095】
ヒト抗体
組み合わせアプローチ、またはヒト免疫グロブリン遺伝子座で形質転換したトランスジェニック動物のいずれかを用いて完全ヒト抗体を作製するための方法は、当技術分野において周知である(例えば、Mancini et al.,2004,New Microbiol.27:315-28;Conrad and Scheller,2005,Comb.Chem.High Throughput Screen.8:117-26;Brekke and Loset,2003,Curr.Opin.Phamacol.3:544-50)。このような完全ヒト抗体は、キメラ抗体またはヒト化抗体と比較して更に副作用が少なく、事実上の内因性ヒト抗体としてインビボで機能すると予想されている。特定の実施形態では、本願請求項に記載の方法及び手順を、このような技術により作製されたヒト抗体に利用してもよい。
【0096】
1つの代替実施形態では、ファージディスプレイ技術を用いてヒト抗体を作製してもよい(例えば、Dantas-Barbosa et al.,2005,Genet.Mol.Res.4:126-40(参照として本明細書に組み込まれる))。正常なヒトから、または特定の疾患状態(例えば、がんなど)を示すヒトから、ヒト抗体を作製してもよい(Dantas-Barbosa et al.,2005)。疾患個体からヒト抗体を構築する利点は、循環抗体レパートリーが、疾患関連抗原に対する抗体に偏り得ることである。
【0097】
この方法における1つの非限定例において、Dantas-Barbosa et al.(2005)は、骨肉腫患者由来のヒトFab抗体フラグメントのファージディスプレイライブラリを構築した。一般的に、トータルRNAは、循環血液中のリンパ球から得た(Id.)。μ鎖、λ鎖及びκ鎖の抗体レパートリーから組換えFabをクローニングして、ファージディスプレイライブラリに挿入した(Id.)。RNAをcDNAに変換してから、重鎖及び軽鎖免疫グロブリン配列に特異的なプライマーを用いたFab cDNAライブラリの作製に使用した(Marks et al.,1991,J. Mol.Biol.222:581-97(参照として本明細書に組み込まれる))。ライブラリ構築は、Andris-Widhopf et al.(2000,In:Phage Display Laboratory Manual,Barbas et al.(eds),1st edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY pp.9.1 to 9.22(参照として本明細書に組み込まれる))に従って実施した。最終Fabフラグメントを制限エンドヌクレアーゼで消化してから、バクテリオファージゲノムに挿入して、ファージディスプレイライブラリを作製した。標準的なファージディスプレイ法を用いて、このようなライブラリをスクリーニングしてもよい。当業者は、この技術は例示に過ぎず、ヒト抗体または抗体フラグメントをファージディスプレイで作製及びスクリーニングするための任意の周知の方法が利用可能であることを理解するであろう。
【0098】
別の代替実施形態では、ヒト抗体を産生するように遺伝子組換えされたトランスジェニック動物を用い、上記の標準的な免疫化プロトコルを使用して、事実上あらゆる免疫原性標的に対応する抗体を作製してもよい。トランスジェニックマウスからヒト抗体を得るための方法については、Green et al.,がNature Genet.7:13 (1994)に、Lonberg et al.,がNature 368:856(1994)に、またTaylor et al.,がInt.Immun.6:579(1994)に記載している。このような方法の非限定例は、Abgenix(Fremont,CA)製のXENOMOUSE(登録商標)(例えば、Green et al.,1999,J.Immunol.Methods 231:11-23(参照として本明細書に組み込まれる))であり、マウス抗体遺伝子を不活化して機能的ヒト抗体遺伝子で置換したもの(残りのマウス免疫機構はそのまま維持しつつ)である。
【0099】
トランスジェニックマウスを、ヒトIgH及びIgのκ遺伝子座の一部(大部分の可変領域配列に加え、アクセサリー遺伝子及び調節配列を含む)を含む、生殖細胞系を設計したYAC(酵母人工染色体)で形質転換した。ヒト可変領域レパートリーを用いて、B細胞を産生する抗体を作製してもよく、周知の技術を用いて、その抗体をハイブリドーマに導入してもよい。標的抗原で免疫したXENOMOUSE(登録商標)は正常な免疫応答でヒト抗体を産生するが、上述した標準的な技術を用いて、そのヒト抗体を回収及び/または調製してもよい。遺伝子組換えマウスの様々な株が市販されており、そのそれぞれは、異なる種類の抗体を産生することができる。遺伝子組換えで作製されたヒト抗体は、正常ヒト抗体の薬物動態特性を維持しつつも、治療ポテンシャルを有することが示された(Green et al.,1999)。当業者は、本願請求項に記載の組成物及び方法がXENOMOUSE(登録商標)系の使用に限定されず、ヒト抗体を産生するように遺伝子組換えされたあらゆるトランスジェニック動物が利用可能であることを理解するであろう。
【0100】
抗体フラグメントの作製
本願請求項に記載の方法及び/または組成物の一部の実施形態は、抗体フラグメントに関係していてもよい。このような抗体フラグメントは、例えば、通常の方法で完全抗体をペプシン消化またはパパイン消化することにより得ることができる。例えば、抗体をペプシンで酵素開裂させて抗体フラグメントを作製し、5Sフラグメント(F(ab’)と表記する)を得てもよい。チオール還元剤、及び任意選択的に、ジスルフィド結合の開裂により生じたスルフヒドリル基用のブロック基を用いて、このフラグメントを更に開裂させて、3.5S Fab’一価フラグメントを作製してもよい。あるいは、ペプシンを用いた酵素開裂により、2つの一価Fabフラグメント、及び1つのFcフラグメントを作製する。抗体フラグメントの例示的な作製方法は、米国特許番号4,036,945、米国特許番号4,331,647、Nisonoff et al.,1960,Arch.Biochem.Biophys.,89:230;Porter,1959,Biochem.J.,73:119;Edelman et al.,1967,METHODS IN ENZYMOLOGY,page 422(Academic Press)、及びColigan et al.(eds.),1991,CURRENT PROTOCOLS IN IMMUNOLOGY,(John Wiley & Sons)に開示されている。
【0101】
インタクト抗体が認識する抗原にフラグメントが結合する限りにおいて、抗体を開裂させるためのその他の方法(例えば、重鎖を分離して一価の軽鎖-重鎖フラグメントを形成すること、フラグメントを更に開裂させること)、またはその他の酵素技術、化学技術または遺伝技術もまた使用してもよい。例えば、Fvフラグメントは、V鎖とV鎖の連結部を含む。この連結部は、Inbar et al.,1972,Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA,69:2659に記載のとおり、非共有結合であってもよい。あるいは、可変鎖同士は、分子間ジスルフィド結合で連結していてもよく、またはグルタルアルデヒドなどの化学物質で架橋していてもよい。Sandhu,1992,Crit.Rev.Biotech.,12:437を参照のこと。
【0102】
Fvフラグメントは、ペプチドリンカーで結合したV鎖及びV鎖を含んでいることが好ましい。これらの一本鎖抗原結合タンパク質(scFv)は、オリゴヌクレオチドリンカー配列で連結したVドメイン及びVドメインをコードするDNA配列を含む構造遺伝子を構築することで作製される。構造遺伝子を発現ベクターに挿入してから、その発現ベクターをE.coliなどの宿主細胞に導入する。組換え宿主細胞は、2つのVドメインを架橋するリンカーペプチドを有する1本のポリペプチド鎖を合成する。scFvの作製方法は、当該技術分野において周知である。Whitlow et al.,1991,Methods:A Companion to Methods in Enzymology 2:97;Bird et al.,1988,Science,242:423;米国特許番号4,946,778;Pack et al.,1993,Bio/Technology,11:1271、及びSandhu,1992,Crit.Rev.Biotech.,12:437を参照されたい。
【0103】
抗体フラグメントの別の形態は、一本鎖抗体と呼ばれることもある単一ドメイン抗体(dAb)である。単一ドメイン抗体を作製するための技術は、当該技術分野において周知である(例えば、Cossins et al.,Protein Expression and Purification,2007,51:253-59;Shuntao et al.,Molec Immunol 2006,43:1912-19;Tanha et al.,J.Biol.Chem.2001,276:24774-780を参照のこと)。他の種類の抗体フラグメントは、1つまたは複数の相補性決定領域(CDR)を含んでいてもよい。目的抗体のCDRをコードする遺伝子を構築することにより、CDRペプチド(「最小認識ユニット」)を得ることができる。このような遺伝子は、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応を用いて抗体産生細胞のRNAから可変領域を合成することにより作製する。Larrick et al.,1991,Methods:A Companion to Methods in Enzymology 2:106;Ritter et al.(eds.),1995,MONOCLONAL ANTIBODIES:PRODUCTION,ENGINEERING AND CLINICAL APPLICATION,pages 166-179(Cambridge University Press);Birch et al.,(eds.),1995,MONOCLONAL ANTIBODIES:PRINCIPLES AND APPLICATIONS,pages 137-185(Wiley-Liss,Inc.)を参照されたい。
【0104】
抗体バリエーション
特定の実施形態では、抗体の配列、例えば、抗体のFc部分は、複合体の生理学的特性、例えば、血清中半減期などを最適化するために、変化させることができる。タンパク質のアミノ酸配列を置換するための方法、例えば、部位特異的突然変異誘発などは、当該技術分野において広く知られている(例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning,A laboratory manual,2nd Ed,1989)。好ましい実施形態では、バリエーションは、Fc配列内における1つまたは複数のグリコシル化部位の付加または除去を伴っていてもよい(例えば、米国特許番号6,254,868(その実施例セクションは参照として本明細書に組み込まれる))。その他の好ましい実施形態では、Fc配列内における特定のアミノ酸を置換してもよい(例えば、Hornick et al.,2000,J Nucl Med 41:355-62;Hinton et al.,2006,J Immunol 176:346-56;Petkova et al.2006,Int Immunol 18:1759-69、米国特許番号7,217,797(それぞれは参照として本明細書に組み込まれる))。
【0105】
標的抗原及び例示的な抗体
好ましい実施形態では、標的細胞上に高レベルで発現する抗原、及び、正常組織と比較して疾患細胞上で圧倒的にまたは排他的に発現する抗原を認識する及び/またはそれら抗原に結合する抗体を使用する。より好ましくは、抗体は、結合後速やかに内部移行する。速やかに内部移行する例示的な抗体は、LL1(抗CD74)抗体であり、その内在化速度は、約8 x 10個の抗体分子/細胞/日である(例えば、Hansen et al.,1996,Biochem J.320:293-300)。それゆえ、「速やかに内部移行する」抗体は、約1 x 10~約1 x 10個の抗体分子/細胞/日の内在化速度を有する抗体であってもよい。本願請求項に記載の組成物及び方法に使用する抗体としては、上で列挙した特性を有するMAbを挙げてもよい。例えば、がんの治療に使用する例示的な抗体としては、LL1(抗CD74)、LL2またはRFB4(抗CD22)、ベルツズマブ(hA20、抗CD20)、リツキシマブ(抗CD20)、オビヌツズマブ(GA101、抗CD20)、ランブロリズマブ(抗PD-1受容体)、ニボルマブ(抗PD-1受容体)、イピリムマブ(抗CTLA-4)、RS7(抗上皮糖タンパク質-1(EGP-1、Trop-2としても周知))、PAM4またはKC4(両方とも抗ムチン)、MN-14(抗がん胎児性抗原(CEA、CD66eまたはCEACAM5としても周知))、MN-15またはMN-3(抗CEACAM6)、Mu-9(抗結腸特異的抗原p)、Immu 31(抗α-フェトプロテイン)、R1(抗IGF-1R)、A19(抗CD19)、TAG-72(例えば、CC49)、Tn、J591またはHuJ591(抗PSMA(前立腺特異的膜抗原))、AB-PG1-XG1-026(抗PSMA二量体)、D2/B(抗PSMA)、G250(抗炭酸脱水酵素IX MAb)、L243(抗HLA-DR)、アレムツズマブ(抗CD52)、ベバシズマブ(抗VEGF)、セツキシマブ(抗EGFR)、ゲムツズマブ(抗CD33)、イブリツモマブチウキセタン(抗CD20)、パニツムマブ(抗EGFR)、トシツモマブ(抗CD20)、PAM4(別名クリバツズマブ、抗ムチン)、及びトラスツズマブ(抗ErbB2)が挙げられるがこれらに限定されない。このような抗体は当技術分野において周知である(例えば、米国特許番号5,686,072、5,874,540、6,107,090、6,183,744、6,306,393、6,653,104、6,730.300、6,899,864、6,926,893、6,962,702、7,074,403、7,230,084、7,238,785、7,238,786、7,256,004、7,282,567、7,300,655、7,312,318、7,585,491、7,612,180、7,642,239、及び、米国特許出願公開番号20050271671、20060193865、20060210475、20070087001(それぞれの実施例セクションは参照として本明細書に組み込まれる))。使用される特に周知の抗体としては、hPAM4(米国特許番号7,282,567)、hA20(米国特許番号7,251,164)、hA19(米国特許番号7,109,304)、hIMMU-31(米国特許番号7,300,655)、hLL1(米国特許番号7,312,318)、hLL2(米国特許番号7,074,403)、hMu-9(米国特許番号7,387,773)、hL243(米国特許番号7,612,180)、hMN-14(米国特許番号6,676,924)、hMN-15(米国特許番号7,541,440)、hR1(米国特許出願12/772,645)、hRS7(米国特許番号7,238,785)、hMN-3(米国特許番号7,541,440)、AB-PG1-XG1-026(米国特許出願11/983,372、ATCC PTA-4405及びPTA-4406として寄託)、及びD2/B(WO2009/130575)が挙げられる(列挙した特許または特許出願におけるそれぞれの本文(図面セクション及び実施例セクションに対応)は、参照として本明細書に組み込まれる)。特に好ましい実施形態では、抗体はhRS7である。当業者であれば、特定の実施形態において、その他TAAに対する抗体(Trop-2を除く)を抗Trop-2抗体と組み合わせて使用してもよいということを理解するであろう。
【0106】
標的となり得るその他の有用な抗原としては、炭酸脱水酵素IX、B7、CCL19、CCL21、CSAp、HER-2/neu、BrE3、CD1、CD1a、CD2、CD3、CD4、CD5、CD8、CD11A、CD14、CD15、CD16、CD18、CD19、CD20(例えば、C2B8、hA20、1F5 MAb)、CD21、CD22、CD23、CD25、CD29、CD30、CD32b、CD33、CD37、CD38、CD40、CD40L、CD44、CD45、CD46、CD52、CD54、CD55、CD59、CD64、CD67、CD70、CD74、CD79a、CD80、CD83、CD95、CD126、CD133、CD138、CD147、CD154、CEACAM5、CEACAM6、CTLA-4、α-フェトプロテイン(AFP)、VEGF(例えば、ベバシズマブ、フィブロネクチンスプライスバリアント)、ED-Bフィブロネクチン(例えば、L19)、EGP-1(Trop-2)、EGP-2(例えば、17-1A)、EGF受容体(ErbB1)(例えば、セツキシマブ)、ErbB2、ErbB3、H因子、FHL-1、Flt-3、葉酸受容体、Ga 733、GRO-β、HMGB-1、低酸素誘導因子(HIF)、HM1.24、HER-2/neu、インスリン様成長因子(ILGF)、IFN-γ、IFN-α、IFN-β、IFN-λ、IL-2R、IL-4R、IL-6R、IL-13R、IL-15R、IL-17R、IL-18R、IL-2、IL-6、IL-8、IL-12、IL-15、IL-17、IL-18、IL-25、IP-10、IGF-1R、Ia、HM1.24、ガングリオシド、HCG、L243が結合するHLA-DR抗原、CD66抗原、すなわち、CD66a~dまたはこれらの組み合わせ、MAGE、mCRP、MCP-1、MIP-1A、MIP-1B、マクロファージ遊走阻止因子(MIF)、MUC1、MUC2、MUC3、MUC4、MUC5ac、胎盤成長因子(PlGF)、PSA(前立腺特異抗原)、PSMA、PAM4抗原、PD-1受容体、NCA-95、NCA-90、A3、A33、Ep-CAM、KS-1、Le(y)、メソテリン、S100、テネイシン、TAC、Tn抗原、Thomas-Friedenreich抗原、腫瘍壊死抗原、腫瘍血管新生抗原、TNF-α、TRAIL受容体(R1及びR2)、TROP-2、VEGFR、RANTES、T101、及びがん幹細胞抗原、補体因子C3、C3a、C3b、C5a、C5、ならびにがん遺伝子産物が挙げられる。
【0107】
悪性造血細胞上の好適な抗原(Cluster Designation、すなわち、CD)標的の包括的解析(フローサイトメトリーにみられ、薬物複合体による免疫療法用の好適な抗体を選択する際のガイドとなり得る)については、Craig and FoonのBlood(2008年1月15日にオンラインで先に公開)、DOL 10.1182/blood-2007-11-120535に記載されている。
【0108】
CD66抗原は、類似構造を有する5つの異なる糖タンパク質、CD66a~e(がん胎児性抗原(CEA)遺伝子ファミリーメンバーのBCG、CGM6、NCA、CGM1及びCEAがそれぞれコードする)からなる。これらのCD66抗原(例えば、CEACAM6)は主に、顆粒球、消化管の正常上皮細胞、及び様々な組織の腫瘍細胞において発現している。好適ながんの標的としてはまた、がん精巣抗原、例えば、NY-ESO-1(Theurillat et al.,Int.J.Cancer 2007;120(11):2411-7)などに加え、骨髄性白血病におけるCD79a(Kozlov et al.,Cancer Genet.Cytogenet.2005;163(1):62-7)、また、B細胞疾患、及び非ホジキンリンパ腫におけるCD79b(Poison et al.,Blood 110(2):616-623)が挙げられる。上記抗原の多くは、2002年11月15日出願、「Use of Multi-specific,Non-covalent Complexes for Targeted Delivery of Therapeutics」と題された米国仮出願シリアル番号60/426,379に開示されている。より治療に耐性を示す前駆体悪性細胞集団と考えられているがん幹細胞(Hill and Perris,J.Natl.Cancer Inst.2007;99:1435-40)は、特定のがんタイプ、例えば、前立腺癌のCD133(Maitland et al.,Ernst Schering Found.Sympos.Proc.2006;5:155-79)、非小細胞肺癌(Donnenberg et al.,J.Control Release 2007;122(3):385-91)、膠芽腫(Beier et al.,Cancer Res.2007;67(9):4010-5)、結腸直腸癌のCD44(Dalerba er al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 2007;104(24)10158-63)、膵臓癌(Li et al.,Cancer Res.2007;67(3):1030-7)、及び頭頸部扁平上皮細胞癌(Prince et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 2007;104(3)973-8)などにおいて、標的となり得る抗原を有している。乳癌治療のための別の有用な標的は、Taylor et al.(Biochem.J.2003;375:51-9)が記載するLIV-1抗原である。CD47抗原は、がん幹細胞における更に有用な標的である(例えば、Naujokat et al.,2014,Immunotherapy 6:290-308;Goto et al.,2014,Eur J Cancer 50:1836-46;Unanue,2013,Proc Natl Acad Sci USA 110:10886-7を参照のこと)。
【0109】
多発性骨髄腫治療用の、それぞれの抗原に対する好適な標的化抗体は、例えば、CD38及びCD138(Stevenson,Mol Med 2006;12(11-12):345-346;Tassone et al.,Blood 2004;104(12):3688-96)、CD74(Stein et al.,ibid.)、CS1(Tai et al.,Blood 2008;112(4):1329-37)、及びCD40(Tai et al.,2005;Cancer Res.65(13):5898-5906)に記載されている。
【0110】
マクロファージ遊走阻止因子(MIF)は、自然免疫及び適応免疫ならびにアポトーシスの重要な調節因子である。CD74がMIFの内因性受容体であるという報告がある(Leng et al.,2003,J Exp Med 197:1467-76)。MIFが介在する細胞内経路における拮抗的な抗CD74抗体の治療効果は、広範囲の疾患状態、例えば、膀胱癌、前立腺癌、乳癌、肺癌、結腸癌及び慢性リンパ性白血病(例えば、Meyer-Siegler et al.,2004,BMC Cancer 12:34;Shachar & Haran,2011,Leuk Lymphoma 52:1446-54)、関節リウマチ及び全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患(Morand & Leech,2005,Front Biosci 10:12-22;Shachar & Haran,2011,Leuk Lymphoma 52:1446-54)、腎臓同種移植片拒絶反応などの腎疾患(Lan,2008,Nephron Exp Nephrol.109:e79-83)、及び数多くの炎症性疾患(Meyer-Siegler et al.,2009,Mediators Inflamm epub March 22,2009;Takahashi et al.,2009,Respir Res 10:33)などの治療に利用されてもよい。ミラツズマブ(hLL1)は、MIF介在性疾患を治療するために使用する例示的な治療用抗CD74抗体である。
【0111】
抗TNF-α抗体は当技術分野において周知であり、免疫疾患、例えば、自己免疫疾患、免疫機能障害(例えば、移植片対宿主拒絶反応、臓器移植拒絶反応)など、または糖尿病を治療するために使用されてもよい。TNF-αに対する周知の抗体としては、ヒト抗体CDP571(Ofei et al.,2011,Diabetes 45:881-85)、マウス抗体MTNFAI、M2TNFAI、M3TNFAI、M3TNFABI、M302B及びM303(Thermo Scientific,Rockford,IL)、インフリキシマブ(Centocor,Malvern,PA)、セルトリズマブペゴル(UCB,Brussels,Belgium)、及びアダリムマブ(Abbott,Abbott Park,IL)が挙げられる。これら及び多くのその他周知の抗TNF-α抗体を、本願請求項に記載の方法及び組成物に使用してもよい。免疫調節不全疾患または自己免疫疾患の治療に使用するその他の抗体としては、抗B細胞抗体、例えば、ベルツズマブ、エプラツズマブ、ミラツズマブまたはhL243、トシリズマブ(抗IL-6受容体)、バシリキシマブ(抗CD25)、ダクリズマブ(抗CD25)、エファリズマブ(抗CD11a)、ムロモナブ-CD3(抗CD3受容体)、抗CD40L(UCB,Brussels,Belgium)、ナタリズマブ(抗α4インテグリン)、及びオマリズマブ(抗IgE)などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0112】
別の好ましい実施形態では、速やかに内部移行してから再発現し、処理され、細胞表面に提示され、細胞による循環複合体の連続的な吸着及び付着を可能とする抗体を使用する。最も好ましい抗体/抗原ペアの一例は、LL1、抗CD74 MAb(不変鎖、クラスII特異的シャペロン、Ii)である(例えば、米国特許番号6,653,104、7,312,318を参照のこと(それぞれの実施例セクションは参照として本明細書に組み込まれる))。CD74抗原は、B細胞リンパ腫(多発性骨髄腫を含む)及び白血病、特定のT細胞リンパ腫、黒色腫、結腸癌、肺癌及び腎臓癌、膠芽腫、ならびに特定のその他のがんにおいて高発現している(Ong et al.,Immunology 98:296-302(1999))。がんにおけるCD74抗体使用のレビューは、Stein et al.,Clin Cancer Res.2007 Sep 15;13(18 Pt 2):5556s-5563s(参照として本明細書に組み込まれる)に含まれている。
【0113】
抗CD74抗体を用いて治療することが好ましい疾患としては、非ホジキンリンパ腫、ホジキン病、黒色腫、肺癌、腎臓癌、結腸癌、多形膠芽腫、組織球腫、骨髄性白血病及び多発性骨髄腫が挙げられるがこれらに限定されない。標的細胞表面上におけるCD74抗原の短期間継続発現に続いて、抗原の内在化、抗原の再発現により、標的化LL1抗体が、自身が運ぶ任意の化学療法剤部分と共に内部移行することが可能となる。これにより、高濃度かつ治療濃度のLL1-化学療法剤複合体がこのような細胞の内部に蓄積することが可能となる。内部移行したLL1-化学療法剤複合体はリソソーム及びエンドソームを介して循環し、化学療法剤部分は標的細胞内部に活性状態で放出される。
【0114】
二重特異性抗体及び多重特異性抗体
二重特異性抗体は、多数の生物医学用途において有用である。例えば、腫瘍細胞表面抗原及びT細胞表面受容体に対する結合部位を有する二重特異性抗体は、T細胞による特定腫瘍細胞の溶解を誘導することができる。神経膠腫及びT細胞上のCD3エピトープを認識する二重特異性抗体は、ヒト患者における脳腫瘍の治療に成功裏に用いられている(Nitta,et al.Lancet.1990;355:368-371)。好ましい二重特異性抗体は、抗CD3 X 抗CD19抗体である。代替実施形態では、抗CD3抗体またはそのフラグメントを、別のB細胞関連抗原に対する抗体またはフラグメント、例えば、抗CD3 X 抗Trop-2、抗CD3 X 抗CD20、抗CD3 X 抗CD22、抗CD3 X 抗HLA-DR、または抗CD3 X 抗CD74などに結合してもよい。特定の実施形態では、本明細書で開示するADC治療のための技術及び組成物を、二重特異性抗体または多重特異性抗体と組み合わせて使用してもよい。例えば、抗Trop-2 x 抗CD3 bsAbを、抗Trop-2 ADCの投与前に、それと同時に、またはその投与後に投与してもよい。
【0115】
二重特異性抗体または多重特異性抗体を作製するための数多くの方法が周知であり、例えば、米国特許番号7,405,320に開示されている(その実施例セクションは参照として本明細書に組み込まれる)。二重特異性抗体は、別々の抗原部位を認識するモノクローナル抗体をそれぞれが産生する2種類の異なるハイブリドーマを融合することを含む、クアドローマ法を用いて作製可能である(Milstein and Cuello,Nature,1983;305:537-540)。
【0116】
二重特異性抗体を作製するための別の方法においては、2種類の異なるモノクローナル抗体を化学的につなぐためのヘテロ二官能性のクロスリンカーを使用する(Staerz,et al.Nature,1985;314:628-631;Perez,et al.Nature,1985;316:354-356)。二重特異性抗体はまた、2種類の親モノクローナル抗体のぞれぞれを対応する半分子へと還元してから、混合、再酸化してハイブリッド構造を得ることにより作製可能である(Staerz and Bevan.Proc Natl Acad Sci U S A.1986;83:1453-1457)。別の代替方法は、個々に精製した2種類または3種類のFab’フラグメントを、適切なリンカーを用いて化学的に架橋することを含む(例えば、欧州特許出願0453082を参照のこと)。
【0117】
その他の方法としては、レトロウイルス由来のシャトルベクターを対応する親ハイブリドーマに導入してから融合させることで異なる選択マーカーを遺伝子導入することにより、ハイブリッドハイブリドーマの作製効率を向上させること(DeMonte,et al.Proc Natl Acad Sci U S A.1990,87:2941-2945)、または、ハイブリドーマ細胞株に、別の抗体の重鎖遺伝子及び軽鎖遺伝子を含む発現プラスミドをトランスフェクションすることが挙げられる。
【0118】
同じ性質のVドメインとVドメインを、適切な組成及び長さ(通常は、12超のアミノ酸残基からなる)のペプチドリンカーで結合させて、結合活性を有する一本鎖Fv(scFv)を形成することができる。scFvの製造方法については、米国特許番号4,946,778及び米国特許番号5,132,405に開示されている(それぞれの特許の実施例セクションは参照として本明細書に組み込まれる)。ペプチドリンカー長を12アミノ酸残基未満にまで短くすることで、同一鎖上におけるVドメインとVドメインのペアリングを防止して、別の鎖上に相補的なドメインを有するVドメインとVドメインのペアリングを強制することにより、機能的多量体を形成させる。3~12アミノ酸残基のリンカーで結合したVドメインとVドメインのポリペプチド鎖は、主に二量体(ディアボディと呼ばれる)を形成する。0~2アミノ酸残基のリンカーを有する三量体(トリアボディと呼ばれる)及び四量体(テトラボディと呼ばれる)が好都合であるが、厳密なオリゴマー形成パターンは、組成、Vドメインの配向(V-リンカーV、またはV-リンカー-V)に加え、リンカー長によって決まるようである。
【0119】
多重特異性抗体または二重特異性抗体を作製するためのこれらの技術は、これら技術における低収率性、精製の必要性、低安定性、または労働集約性に関する様々な問題を呈している。ごく最近では、抗体と、抗体フラグメントとその他エフェクター分子の事実上のあらゆる所望の組み合わせを作製するために、「dock and lock」(DNL)として周知の技術が利用されている(例えば、米国特許番号7,521,056、7,527,787、7,534,866、7,550,143、7,666,400、7,858,070、7,871,622、7,906,121、7,906,118、8,163,291、7,901,680、7,981,398、8,003,111及び8,034,352を参照のこと(それぞれの特許の実施例セクションは参照として本明細書に組み込まれる))。この技術は、アンカードメイン(AD)、及び二量化及びドッキングドメイン(DDD)と呼ばれる相補的なタンパク質結合ドメインを利用しており、それらは、互いに結合して、二量体、三量体、四量体、五量体及び六量体の範囲の複合体構造がアセンブリされる。これらは、大規模な精製を必要とせずに高収率で安定した複合体を形成する。DNL技術により、単特異性抗体、二重特異性抗体または多重特異性抗体のアセンブリが可能となる。本願請求項に記載の方法を実施するにあたり、二重特異性抗体または多重特異性抗体を作製するための当該技術分野において周知の技術のいずれかを利用してもよい。
【0120】
様々な実施形態において、本明細書で開示する複合体は、複合の多重特異性抗体の一部であってもよい。このような抗体は、異なる特異性を有する2つまたはそれ以上の異なる抗原結合部位を含んでいてもよい。多重特異性複合体は、同一抗原上の別々のエピトープに結合してもよく、あるいは、2つの異なる抗原に結合してもよい。
【0121】
DOCK-AND-LOCK(商標)(DNL(登録商標))
好ましい実施形態では、二価抗体または多価抗体は、DOCK-AND-LOCK(登録商標)(DNL(登録商標))複合体として形成される(例えば、米国特許番号7,521,056、7,527,787、7,534,866、7,550,143、7,666,400、7,858,070、7,871,622、7,906,121、7,906,118、8,163,291、7,901,680、7,981,398、8,003,111及び8,034,352を参照のこと(それぞれの特許の実施例セクションは参照として本明細書に組み込まれる))。一般的に、この技術は、cAMP依存性プロテインキナーゼ(PKA)の調節(R)サブユニットの二量化及びドッキングドメイン(DDD)配列と、様々なAKAPタンパク質のいずれかに由来するアンカードメイン(AD)配列の間に生じる特異的かつ高親和性の結合相互作用を利用している(Baillie et al.,FEBS Letters.2005;579:3264.Wong and Scott,Nat.Rev.Mol.Cell Biol.2004;5:959)。DDDペプチド及びADペプチドを、任意のタンパク質、ペプチドまたはその他の分子に結合させてもよい。DDD配列が自発的に二量化してAD配列に結合するため、この技術は、DDD配列またはAD配列に結合し得る任意の選択分子間の複合体形成を可能とする。
【0122】
標準的なDNL(登録商標)複合体は、2つのDDD結合分子が1つのAD結合分子に結合した三量体を含んでいるが、複合体構造のバリエーションとしては、二量体、三量体、四量体、五量体、六量体及びその他多量体の形成が可能である。一部の実施形態では、DNL(登録商標)複合体は、同一抗原決定基、または2つまたはそれ以上の異なる抗原に結合する、2つまたはそれ以上の抗体、抗体フラグメントまたは融合タンパク質を含んでいてもよい。DNL(登録商標)複合体はまた、1つまたは複数のその他エフェクター、例えば、タンパク質、ペプチド、免疫調節薬、サイトカイン、インターロイキン、インターフェロン、結合タンパク質、ペプチドリガンド、キャリアタンパク質、毒素、リボヌクレアーゼ(オンコナーゼなど)、阻害性オリゴヌクレオチド(siRNAなど)、抗原または異種抗原、ポリマー(PEGなど)、酵素、治療薬、ホルモン、細胞傷害薬、抗血管新生薬、プロアポトーシス薬、または任意のその他の分子または凝集体などを含んでいてもよい。
【0123】
PKA(RサブユニットへのセカンドメッセンジャーcAMPの結合が誘発する、最も研究されたシグナル伝達経路の1つにおいて中心的な役割を果たす)は、1968年(Walsh et al.,J.Biol.Chem.1968;243:3763)、ウサギ骨格筋から初めて単離された。ホロ酵素の構造は、Rサブユニットにより不活性化状態に維持された2つの触媒サブユニットから構成されている(Taylor,J.Biol.Chem.1989;264:8443)。PKAのアイソザイムは2タイプのRサブユニット(RI及びRII)を有していることが発見されており、それぞれのタイプは、αアイソフォーム及びβアイソフォームを有している(Scott,Pharmacol.Ther.1991;50:123)。それゆえ、PKA調節サブユニットの4つのアイソフォームは、RIα、RIβ、RIIα及びRIIβである。Rサブユニットは安定二量体としてのみ単離されており、二量体化ドメインは、RIIαの最初の44アミノ末端残基から構成されていることが示されている(Newlon et al.,Nat.Struct.Biol.1999;6:222)。以下で説明するが、その他の調節サブユニットにおけるアミノ酸配列の類似部分は、二量化及びドッキングに関与しており、類似部分のそれぞれは、調節サブユニットのN末端付近に位置している。cAMPがRサブユニットに結合することにより、広域スペクトルのセリン/スレオニンキナーゼ活性を有する活性触媒サブユニットが遊離するが、その活性触媒サブユニットは、PKAがAKAPとドッキングしてPKAが区画化されることにより、選択基質側に向く(Scott et al.,J.Biol.Chem.1990;265;21561)。
【0124】
最初のAKAP、微小管結合タンパク質2が1984年に特性決定されてから(Lohmann et al.,Proc.Natl.Acad.Sci USA.1984;81:6723)、様々な細胞内部位(原形質膜、アクチン細胞骨格、核、ミトコンドリア及び小胞体を含む)に局在する50超のAKAPが、酵母菌からヒトにわたる範囲の種における多種多様な構造において同定されている(Wong and Scott,Nat.Rev.Mol.Cell Biol.2004;5:959)。AKAPのPKA用ADは、14~18残基の両親媒性ヘリックスである(Carr et al.,J.Biol.Chem.1991;266:14188)。ADのアミノ酸配列は個々のAKAPで実に多様であり、RII二量体の結合親和性は2~90nMの範囲と報告されている(Alto et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.2003;100:4445)。AKAPは、二量体Rサブユニットにのみ結合する。ヒトRIIαにおいて、ADは、23アミノ末端残基で形成された疎水性表面に結合する(Colledge and Scott,Trends Cell Biol.1999;6:216)。それゆえ、ヒトRIIαの二量体化ドメイン及びAKAP結合ドメインは両方とも、同一のN末端44アミノ酸配列の内部に位置しており(Newlon et al.,Nat.Struct.Biol.1999;6:222;Newlon et al.,EMBO J.2001;20:1651)、本明細書では、それをDDDと呼ぶ。
【0125】
本発明者らは、ヒトPKA調節サブユニットのDDD及びAKAPのADを、任意の2つの要素(以後、A及びBと呼ぶ)をドッキングさせて非共有結合複合体(その非共有結合複合体は、DDDとADの両方における戦略的部位にシステイン残基を導入してジスルフィド結合の形成を促進させることにより、更にDNL(商標)複合体へとロック可能)とするための、優れた一対のリンカーモジュールとして利用したプラットフォーム技術を開発した。このアプローチの一般的な方法は以下のとおりである。DDD配列をAの前駆体に結合させることにより要素Aを構築するが、要素Aは第1の構成要素(以後、aと呼ぶ)となる。DDD配列が自発的な二量体形成に影響を与えるため、Aはaで構成されることになる。AD配列をBの前駆体に結合させることにより要素Bを構築するが、要素Bは第2の構成要素(以後、bと呼ぶ)となる。aに含まれるDDDの二量体モチーフは、bに含まれるAD配列に結合するためのドッキング部位を生成するため、aとbの速やかな会合を促進し、abで構成される2成分の三量体複合体を形成する。この結合イベントは、2つの要素をジスルフィド架橋を介して共有結合で固定する後続反応を伴い不可逆的に起こる。この結合イベントは、有効局所濃度の原理に基づいて極めて効率的に生じる。なぜなら、初期の結合相互作用により、DDDとADの両方に配置された反応性チオール基が近接して(Chmura et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.2001;98:8480)部位特異的にライゲートするはずであるからである。リンカー、アダプターモジュール及び前駆体の様々な組み合わせを使用して、化学量論的に異なる多種多様なDNL(商標)構造物を調製及び使用してもよい(例えば、米国番号7,550,143、7,521,056、7,534,866、7,527,787及び7,666,400を参照のこと)。
【0126】
2つの前駆体の官能基から離れたDDDとADを結合させることにより、このような部位特異的ライゲーションにおいてもまた、2つの前駆体の元の活性を保持することが予想される。このアプローチは本質的にモジュール式であり、幅広い物質(ペプチド、タンパク質、抗体、抗体フラグメント、及びその他のエフェクター部分を含む)を、部位特異的及び共有結合で幅広い活性物質と結合させるのに適用可能である。AD及びDDDがコンジュゲートしたエフェクターを構築する融合タンパク質法(以下の実施例に記載)を利用することにより、事実上のあらゆるタンパク質またはペプチドをDNL(登録商標)構築物に導入することができる。しかしながら、この技術に限定せず、その他のコンジュゲート方法を利用してもよい。
【0127】
目的の融合タンパク質をコードする合成二本鎖核酸を調製するための核酸合成、ハイブリダイゼーション及び/または増幅を含む、融合タンパク質を調製するための様々な方法が知られている。このような二本鎖核酸を、標準的な分子生物学的手法を用いて、融合タンパク質産生用の発現ベクターに挿入してもよい(例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning,A laboratory manual,2nd Ed,1989を参照のこと)。このような好ましい実施形態では、AD部分及び/またはDDD部分を、エフェクタータンパク質またはエフェクターペプチドのN末端またはC末端のいずれかに結合させてもよい。しかしながら、AD部分またはDDD部分のエフェクター部分への結合部位が、その生理学的活性に関与するエフェクター部分及びエフェクター部分の部位(複数可)の化学的性質に応じて変化し得るということを、当業者は理解するであろう。二価架橋試薬及び/またはその他の化学的コンジュゲート技術などの当該技術分野において周知の技術を使用して、様々なエフェクター部分の部位特異的結合を実施してもよい。
【0128】
様々な実施形態では、以下で詳細に記載するように、例えば、DDD部分またはAD部分を抗体重鎖のC末端に結合させることにより、抗体または抗体フラグメントをDNL(商標)複合体に導入してもよい。より好ましい実施形態では、DDD部分またはAD部分、より好ましくはAD部分を、抗体軽鎖のC末端に結合してもよい(例えば、2013年5月24日出願の米国特許出願シリアル番号13/901,737を参照のこと(その実施例セクションは参照として本明細書に組み込まれる))。
【0129】
AD部分及びDDD部分における構造と機能の関係
異なるタイプのDNL(商標)構築物には、異なるAD配列またはDDD配列を利用してもよい。例示的なDDD配列及びAD配列を以下に示す。
DDD1
SHIQIPPGLTELLQGYTVEVLRQQPPDLVEFAVEYFTRLREARA(配列番号:7)
DDD2
CGHIQIPPGLTELLQGYTVEVLRQQPPDLVEFAVEYFTRLREARA(配列番号:8)
AD1
QIEYLAKQIVDNAIQQA(配列番号:9)
AD2
CGQIEYLAKQIVDNAIQQAGC(配列番号:10)
【0130】
DDD1及びDDD2がプロテインキナーゼAのヒトRIIαアイソフォームにおけるDDD配列をベースとしていることを、当業者は理解するであろう。しかしながら、代替実施形態では、DDD部分及びAD部分は、プロテインキナーゼAのヒトRIαフォームにおけるDDD配列、及び以下でDDD3、DDD3C及びAD3と例示する対応するAKAP配列をベースとしていてもよい。
DDD3
SLRECELYVQKHNIQALLKDSIVQLCTARPERPMAFLREYFERLEKEEAK(配列番号:11)
DDD3C
MSCGGSLRECELYVQKHNIQALLKDSIVQLCTARPERPMAFLREYFERLEKEEAK(配列番号:12)
AD3
CGFEELAWKIAKMIWSDVFQQGC(配列番号:13)
【0131】
その他の代替実施形態では、AD部分及び/またはDDD部分のその他の配列変異体をDNL(登録商標)複合体の構築に利用してもよい。例えば、ヒトPKA DDD配列の4つの変異体のみが存在し、PKA RIα、RIIα、RIβ及びRIIβのDDD部分に対応している。RIIα DDD配列は、上で開示したDDD1及びDDD2をベースとしている。4つのヒトPKA DDD配列を以下に示す。DDD配列は、RIIαの残基1~44、RIIβの残基1~44、RIαの12~61残基、及びRIβの13~66残基を表している(DDD1の配列が、ヒトPKA RIIα DDD部分からわずかに修飾されていることに留意されたい)。
PKA RIα
SLRECELYVQKHNIQALLKDVSIVQLCTARPERPMAFLREYFEKLEKEEAK(配列番号:14)
PKA RIβ
SLKGCELYVQLHGIQQVLKDCIVHLCISKPERPMKFLREHFEKLEKEENRQILA(配列番号:15)
PKA RIIα
SHIQIPPGLTELLQGYTVEVGQQPPDLVDFAVEYFTRLREARRQ(配列番号:16)
PKA RIIβ
SIEIPAGLTELLQGFTVEVLRHQPADLLEFALQHFTRLQQENER(配列番号:17)
【0132】
ADドメイン及びDDDドメインにおける構造と機能の関係が調査の対象である(例えば、Burns-Hamuro et al.,2005,Protein Sci 14:2982-92;Carr et al.,2001,J Biol Chem 276:17332-38;Alto et al.,2003,Proc Natl Acad Sci USA 100:4445-50;Hundsrucker et al.,2006,Biochem J 396:297-306;Stokka et al.,2006,Biochem J 400:493-99;Gold et al.,2006,Mol Cell 24:383-95;Kinderman et al.,2006,Mol Cell 24:397-408を参照のこと(それぞれの文献の全文は参照として本明細書に組み込まれる))。
【0133】
抗体アロタイプ
治療抗体の免疫原性は、インフュージョンリアクションリスクの増加、及び治療効果期間の短縮に関係している(Baert et al.,2003,N Engl J Med 348:602-08)。治療抗体が宿主内の免疫応答を誘導する程度は、抗体のアロタイプにより部分的に測定することができる(Stickler et al.,2011,Genes and Immunity 12:213-21)。抗体アロタイプは、抗体の定常領域配列の特定位置におけるアミノ酸配列バリエーションに関係している。重鎖γ型定常領域を含むIgG抗体のアロタイプは、Gmアロタイプとして設計された(1976,J Immunol 117:1056-59)。
【0134】
一般的なIgG1ヒト抗体において、最も一般的なアロタイプはG1m1である(Stickler et al.,2011,Genes and Immunity 12:213-21)。しかしながら、G1m3アロタイプはまた、白人において頻繁に発生している(Id.)。非G1m1(nG1m1)レシピエント、例えば、G1m3患者などに投与する際、G1m1抗体が免疫応答を誘導する傾向のあるアロタイプ配列を含んでいることが報告されている(Id.)。非G1m1アロタイプ抗体は、G1m1患者に投与する際、免疫原性とはならない(Id.)。
【0135】
ヒトG1m1アロタイプは、重鎖IgG1のCH3配列の356カバット位にアミノ酸のアスパラギン酸を、また358カバット位にロイシン含む。nG1m1アロタイプは、356カバット位にアミノ酸のグルタミン酸を、また358カバット位にメチオニンを含む。G1m1アロタイプとnG1m1アロタイプの両方は357カバット位にグルタミン酸残基を含み、それらアロタイプはDELアロタイプ及びEEMアロタイプと呼ばれることもある。G1m1アロタイプ抗体及びnG1m1アロタイプ抗体における重鎖定常領域配列の非限定例を、例示的な抗体リツキシマブ(配列番号:18)及びベルツズマブ(配列番号:19)で示す。
リツキシマブ重鎖可変領域配列(配列番号:18)
ASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKAEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK
ベルツズマブ重鎖可変領域(配列番号:19)
ASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKRVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSREEMTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK
【0136】
Jefferis and Lefranc(2009,mAbs 1:1-7)は、IgGアロタイプの配列バリエーション特性、及び免疫原性に与える配列バリエーションの影響についてレビューしている。彼らは、G1m17アロタイプにおける214カバット位のリジン残基と比較して、G1m3アロタイプが、214カバット位のアルギニン残基を特徴としていることを報告している。nG1m1,2アロタイプは、356カバット位のグルタミン酸、358カバット位のメチオニン、及び431カバット位のアラニンを特徴としていた。G1m1,2アロタイプは、356カバット位のアスパラギン酸、358カバット位のロイシン、及び431カバット位のグリシンを特徴としていた。重鎖定常領域配列変異体に加えて、Jefferis and Lefranc(2009)は、153カバット位のバリン及び191カバット位のロイシンを特徴とするKm1アロタイプ、153カバット位のアラニン及び191カバット位のロイシンを特徴とするKm1,2アロタイプ、及び、153カバット位のアラニン及び191カバット位のバリンを特徴とするKm3アロタイプ、を有するκ軽鎖定常領域のアロタイプ変異体について報告している。
【0137】
治療抗体に関して、ベルツズマブ及びリツキシマブはそれぞれ、多種多様な血液悪性腫瘍の治療に用いる、CD20に対するヒト化IgG1抗体及びキメラIgG1抗体である。表1では、リツキシマブ対ベルツズマブのアロタイプ配列を比較している。表1に示すように、リツキシマブ(G1m17,1)は、ベルツズマブのアルギニンに対してリツキシマブのリジンの214カバット位(重鎖CH1)に追加の配列バリエーションを有するDELアロタイプIgG1である。対象におけるベルツズマブの免疫原性がリツキシマブと比較して低いことが報告されている(効果は、ヒト化抗体とキメラ抗体の間の違いに起因している)(例えば、Morchhauser et al.,2009,J Clin Oncol 27:3346-53;Goldenberg et al.,2009,Blood 113:1062-70;Robak & Robak,2011,BioDrugs 25:13-25を参照のこと)。しかしながら、EEMアロタイプとDELアロタイプの間におけるアロタイプの違いはまた、ベルツズマブのより低い免疫原性にも起因するようである。
【表1】
【0138】
nG1m1遺伝子型の個体における治療抗体の免疫原性を低減させるためには、214カバット位のアルギニンを特徴とするG1m3アロタイプ、及び、356カバット位のグルタミン酸、358カバット位のメチオニン及び431カバット位のアラニンを特徴とするnG1m1,2無アロタイプ、に相当する抗体のアロタイプを選択することが望ましい。驚くべきことに、長期間にわたるG1m3抗体の反復皮下投与が著しい免疫応答とはならないことが見出された。代替実施形態では、G1m3アロタイプと同様、ヒトIgG4重鎖は、214カバット位にアルギニン、356カバット位にグルタミン酸、359カバット位にメチオニン、及び431カバット位にアラニンを有している。免疫原性が少なくとも部分的に上記位置における残基に関係していると思われるため、ヒトIgG4重鎖定常領域配列を治療抗体に使用することはまた好ましい実施形態である。G1m3 IgG1抗体とIgG4抗体の組み合わせをまた、治療薬投与に使用してもよい。
【0139】
アビマー
特定の実施形態では、本明細書に記載の結合部分は、1つまたは複数のアビマー配列を含んでいてもよい。アビマーとは、様々な標的分子に対するその親和性及び特異性がある程度抗体と類似している結合タンパク質の部類のことである。アビマーは、インビトロエキソンシャッフリング及びファージディスプレイを用いてヒト細胞外受容体ドメインから開発された(Silverman et al.,2005,Nat. Biotechnol.23:1493-94;Silverman et al.,2006,Nat.Biotechnol.24:220)。得られたマルチドメインタンパク質は複数の独立した結合ドメインを含んでいてもよく、それら結合ドメインは、単一エピトープ結合タンパク質と比較して、優れた親和性(場合によってはサブナノモル)及び特異性を示していてもよい(Id.)。様々な実施形態では、本願請求項に記載の方法及び組成物に使用するために、アビマーを、例えば、DDD配列及び/またはAD配列に結合させてもよい。アビマーの構築方法及び使用方法に関係する更なる詳細については、例えば、米国特許出願公開番号20040175756、20050048512、20050053973、20050089932及び20050221384に開示されている(それぞれの特許の実施例セクションは参照として本明細書に組み込まれる)。
【0140】
ファージディスプレイ
本願請求項に記載の組成物及び/または方法の特定の実施形態は、様々な標的分子、細胞または組織の結合ペプチド及び/またはペプチド模倣薬に関係していてもよい。ファージディスプレイ技術を含むがこれらに限定されない当該技術分野において周知の任意の方法を用いて、結合ペプチドを同定してもよい。ファージディスプレイの様々な方法、及び多種多様なペプチド群を作製するための技術は、当技術分野において周知である。例えば、米国特許番号5,223,409、5,622,699及び6,068,829は、ファージライブラリを作製するための方法について開示している。ファージディスプレイ技術は、その表面上に低分子ペプチドを発現できるように遺伝子操作したバクテリオファージを含む(Smith and Scott,1985,Science 228:1315-1317;Smith and Scott,1993,Meth.Enzymol.21:228-257)。ペプチドに加えて、より大きなタンパク質ドメイン、例えば、一本鎖抗体などもまた、ファージ粒子の表面上に提示することができる(Arap et al.,1998,Science 279:377-380)。
【0141】
任意の器官、組織、細胞型または標的分子に選択的な標的アミノ酸配列を、パニングで単離してもよい(Pasqualini and Ruoslahti,1996,Nature 380:364-366;Pasqualini,1999,The Quart.J.Nucl.Med.43:159-162)。端的に言えば、推定上の標的ペプチドを含有するファージのライブラリを、インタクトな微生物、または、単離した器官、組織、細胞型もしくは標的分子に投与して、結合ファージを含有する試料を回収する。標的に結合したファージを標的器官、組織、細胞型または標的分子から溶出させてから、それらファージを宿主細菌内で成長させることで増殖させてもよい。
【0142】
特定の実施形態では、パニングラウンド中の宿主細菌内でファージを増殖させてもよい。ファージを溶出させる代わりに、特定のインサートを提示する複数のファージ複製を細菌に分泌させてもよい。必要であれば、増殖させたファージを再度、標的器官、組織、細胞型または標的分子に曝してから、更なるパニングラウンド用に回収する。選択的バインダーまたは特異的バインダーの集団が得られるまで、複数のパニングラウンドを実施してもよい。ファージゲノム内の標的ペプチドインサートに対応するDNAをシークエンシングして、ペプチドのアミノ酸配列を同定してもよい。その後、標準的なタンパク質化学技術を用いて、同定した標的ペプチドを合成ペプチドとして作製してもよい(Arap et al.,1998,Smith et al.,1985)。
【0143】
一部の実施形態では、サブトラクションプロトコルを用いてバックグラウンドファージ結合を更に低減させてもよい。サブトラクションの目的は、目的の標的以外の標的に結合したファージをライブラリから除去することである。代替実施形態では、対照の細胞、組織または細胞に対して、ファージライブラリをプレスクリーニングしてもよい。例えば、対照の正常細胞株に対してライブラリをプレスクリーニングした後に、腫瘍結合ペプチドを同定してもよい。サブトラクション後、目的の分子、細胞、組織または器官に対してライブラリをスクリーニングしてもよい。サブトラクションプロトコルのその他の方法は周知であり、本願請求項に記載の方法を実施するために使用してもよく、例えば、米国特許番号5,840,841、5,705,610、5,670,312及び5,492,807に開示されている。
【0144】
アプタマー
特定の実施形態では、使用する標的化部分はアプタマーであってもよい。アプタマーの合成方法、及びアプタマーの結合特性を測定するための方法については、当該技術分野において周知である。例えば、このような技術については、米国特許番号5,582,981、5,595,877及び5,637,459に記載されている(それぞれの実施例セクションは参照として本明細書に組み込まれる)。特定の目的標的に結合するアプタマーを作製及びスクリーニングするための方法は周知であり、例えば、米国特許番号5,475,096及び米国特許番号5,270,163に記載されている(それぞれの実施例セクションは参照として本明細書に組み込まれる)。
【0145】
合成法、組換え法及び精製法を含む任意の周知の方法を用いてアプタマーを作製してもよく、アプタマーを単独で、または同一標的に特異的なその他のリガンドと組み合わせて使用してもよい。一般的に、特異的結合を達成するためには、最低約3ヌクレオチド、好ましくは少なくとも5ヌクレオチドが必要となる。10、20、30または40ヌクレオチドのアプタマーが好ましい場合があるが、10塩基よりも短い配列のアプタマーでも実行可能である。
【0146】
通常のDNA分子またはRNA分子として、アプタマーを単離、シークエンス、及び/または増幅または合成してもよい。あるいは、目的のアプタマーは、修飾オリゴマーを含んでいてもよい。通常はアプタマー中に存在するヒドロキシル基のいずれかを、ホスホネート基、ホスフェート基で置換してもよく、標準的な保護基で保護してもよく、活性化させてその他のヌクレオチドへの別の結合部を作製してもよく、または、固体支持体にコンジュゲートさせてもよい。1つまたは複数のホスホジエステル結合を別の連結基、例えば、P(O)O、P(O)S、P(O)NR、P(O)R、P(O)OR’、COまたはCNRなど(式中、RはHまたはアルキル(1~20C)であり、R’はアルキル(1~20C))で置換してもよく、更に、OまたはSを介して、この基を隣接ヌクレオチドに結合させてもよい。オリゴマー中の全ての結合部が同一である必要はない。
【0147】
アフィボディ及びフィノマー
特定の代替実施形態では、抗体の代わりにアフィボディを利用してもよい。アフィボディは、Affibody AB(Solna,Sweden)から市販されている。アフィボディは、抗体模倣薬として機能し、標的分子への結合に使用される低分子タンパク質である。アフィボディは、αヘリックスタンパク質スキャフォールドのコンビナトリアルエンジニアリングによって開発された(Nord et al.,1995,Protein Eng 8:601-8;Nord et al.,1997,Nat Biotechnol 15:772-77)。アフィボディの設計は、タンパク質AのIgG結合ドメインを含む3ヘリックスバンドル構造をベースとしている(Nord et al.,1995;1997)。細菌タンパク質AのFc結合活性に関与する13種類のアミノ酸を無作為化することにより、幅広い結合親和性を有するアフィボディを作製してもよい(Nord et al.,1995;1997)。無作為化後、変異体タンパク質のファージディスプレイによるスクリーニング用に、PCR増幅ライブラリをファージミドベクターにクローニングした。標的抗原に対する1つまたは複数のアフィボディを同定するために、標準的なファージディスプレイスクリーニング技術(例えば、Pasqualini and Ruoslahti,1996,Nature 380:364-366;Pasqualini,1999,Quart.J.Nucl.Med.43:159-162)を使用し、任意の周知の抗原に対してファージディスプレイライブラリをスクリーニングしてもよい。
【0148】
HER2/neuに特異的な177Lu標識アフィボディが、インビボでHER2発現異種移植片を標的とすることが実証されている(Tolmachev et al.,2007,Cancer Res 67:2773-82)。当初、低分子量の放射能標識化合物の蓄積による腎毒性が問題となっていたが、アルブミンに対する可逆結合により腎蓄積が抑制され、標識アフィボディを用いた放射性核種ベースの治療が可能となった(Id.)。
【0149】
インビボ腫瘍イメージングへの放射能標識アフィボディの使用可能性が最近実証されている(Tolmachev et al.,2011,Bioconjugate Chem 22:894-902)。マレイミド誘導体化NOTAを抗HER2アフィボディにコンジュゲートして、111Inで放射能標識した(Id.)。HER2発現DU-145異種移植片を有するマウスに投与してから、ガンマカメライメージングを行い、異種移植片を可視化した(Id.)。
【0150】
フィノマーもまた、抗体に対してほぼ同等の親和性及び特異性を有する標的抗原に結合可能である。フィノマーは、結合分子アセンブリ用スキャフォールドとしてのヒトFyn SH3ドメインをベースとしている。Fyn SH3ドメインは、細菌内において高収率で産生可能な完全ヒト63アミノ酸タンパク質である。フィノマー同士を互いに結合させて、2つまたはそれ以上の異なる抗原標的に親和性を有する多重特異性結合タンパク質を得てもよい。フィノマーは、COVAGEN AG(Zurich,Switzerland)から市販されている。
【0151】
本願請求項に記載の方法及び組成物を実施する上で、アフィボディまたはフィノマーを標的化分子として使用可能であることを当業者は理解するであろう。
【0152】
イムノコンジュゲート
特定の実施形態では、細胞傷害性薬物、またはその他の治療薬もしくは診断薬を、抗体または抗体フラグメントに共有結合で結合させて、イムノコンジュゲートを形成してもよい。一部の実施形態では、薬物またはその他の薬剤を、担体部分を介して抗体またはそのフラグメントに結合させてもよい。担体部分を、例えば、還元SH基及び/または炭水化物側鎖に結合させてもよい。還元抗体構成要素のヒンジ領域において、ジスルフィド結合形成を介し担体部分を結合させることができる。あるいは、ヘテロ二官能性クロスリンカー、例えば、N-サクシニル 3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)などを使用して、このような薬剤を結合させることができる(Yu et al.,Int.J.Cancer 56:244(1994))。このような結合を実施するための一般的な技術は、当該技術分野において周知である。例えば、Wong,CHEMISTRY OF PROTEIN CONJUGATION AND CROSS-LINKING(CRC Press 1991);Upeslacis et al.,「Modification of Antibodies by Chemical Methods」in MONOCLONAL ANTIBODIES:PRINCIPLES AND APPLICATIONS,Birch et al.(eds.),pages 187-230(Wiley-Liss,Inc.1995);Price,「Production and Characterization of Synthetic Peptide-Derived Antibodies」in MONOCLONAL ANTIBODIES:PRODUCTION,ENGINEERING AND CLINICAL APPLICATION,Ritter et al.(eds.),pages 60-84(Cambridge University Press 1995)を参照されたい。あるいは、抗体のFc領域中の炭水化物部分を介して、担体部分を結合することができる。
【0153】
抗体炭水化物部分を介して官能基を抗体にコンジュゲートするための方法は、当業者に周知である。例えば、Shih et al.,Int.J.Cancer 41:832(1988);Shih et al.,Int.J.Cancer 46:1101(1990);及び、Shih et al.,米国特許番号5,057,313を参照されたい(その実施例セクションは参照として本明細書に組み込まれる)。一般的な方法は、酸化した炭水化物部分を有する抗体を、少なくとも1個の遊離アミン基を有する担体ポリマーと反応させることを含む。この反応により最初にシッフ塩基(イミン)結合が生じ、二級アミンへと還元することにより安定化し、最終複合体を形成することができる。
【0154】
ADCの抗体構成要素が抗体フラグメントである場合、Fc領域は存在しなくてもよい。しかしながら、炭水化物部分を、全長抗体または抗体フラグメントの軽鎖可変領域に導入することは可能である。例えば、Leung et al.,J.Immunol.154:5919(1995)、米国特許番号5,443,953及び6,254,868を参照されたい(それらの実施例セクションは参照として本明細書に組み込まれる)。設計した炭水化物部分を用いて、治療薬または診断薬を結合させる。
【0155】
担体部分を標的化分子に結合させるための別の方法は、クリックケミストリー反応の使用を含む。クリックケミストリー法は元々、小さなサブユニットをモジュール式で互いに結合させることにより、複合体物質を急速に生成するための方法として構想された(例えば、Kolb et al.,2004,Angew Chem Int Ed 40:3004-31;Evans,2007,Aust J Chem 60:384-95を参照のこと)。様々な形態のクリックケミストリー反応が当技術分野において周知であり、例えば、ヒュスゲン1,3-双極子付加環化銅触媒反応(Tornoe et al.,2002,J Organic Chem 67:3057-64)などが挙げられ、多くの場合、「クリック反応」と呼ばれる。その他の代替実施形態では、付加環化反応、例えば、ディールスアルダー、求核置換反応(特に、エポキシ化合物及びアジリジン化合物のような小さな張力環に対する)、尿素化合物のカルボニル化学形成、及び、炭素-炭素二重結合を含む反応(例えば、チオール-エン反応におけるアルキンなど)などを含む。
【0156】
アジドアルキンヒュスゲン付加環化反応では、第1の分子に結合した末端アルキン基の反応を触媒するために、還元剤の存在下で銅触媒を用いる。アジド部分を含む第2の分子の存在下で、アジドは活性化アルキンと反応して、1,4-ジ置換1,2,3-トリアゾールを形成する。銅触媒反応は、室温で進行し、また反応生成物の精製を多くの場合必要としないほど十分に特異的である(Rostovstev et al.,2002,Angew Chem Int Ed 41:2596;Tornoe et al.,2002,J Org Chem 67:3057)。アジド官能基及びアルキン官能基は、水性媒体中の生体分子に対してほぼ不活性であるため、複合体溶液中において反応が進行する。形成されたトリアゾールは化学的に安定であり酵素開裂を受けないため、クリックケミストリー生成物は、生物学的機構において非常に安定なものになる。銅触媒は生細胞にとって有毒ではあるが、銅をベースとしたクリックケミストリー反応は、ADC形成にインビトロで使用することができる。
【0157】
生体分子の共有結合修飾に銅フリークリック反応が提案されている(例えば、Agard et al.,2004,J Am Chem Soc 126:15046-47を参照のこと)。銅フリー反応では、[3+2]アジド-アルキン付加環化反応を促進するために、銅触媒の代わりに環ひずみを利用する(Id.)。例えば、シクロオクチンは、内部アルキン結合を含む8炭素環構造である。閉環構造によりアセチレンの結合角にかなりの変形が引き起こされるが、それによりアジド基との反応性が高くなり、トリアゾールを形成することになる。それゆえ、シクロオクチン誘導体を銅フリークリック反応に使用することができる(Id.)。
【0158】
別のタイプの銅フリークリック反応(ひずみ促進アルキン-ニトロン付加環化を伴う)は、Ning et al.(2010,Angew Chem Int Ed 49:3065-68)により報告された。元のシクロオクチンにおける反応速度の低さに対処するために、電子吸引基を三重結合の隣に結合させる(Id.)。このような置換シクロオクチンの例としては、ジフッ素化シクロオクチン、4-ジベンゾシクロオクチノール、及びアザシクロオクチンが挙げられる(Id.)。別の銅フリー反応は、N-アルキル化イソオキサゾリンを得るためのひずみ促進アルキン-ニトロン付加環化を伴っていた(Id.)。その反応が並外れて速い反応動態を有していると報告され、ペプチド及びタンパク質の部位特異的修飾用のワンポット3ステッププロトコルに使用された(Id.)。N-メチルヒドロキシルアミンで適切なアルデヒドを縮合させてニトロンを調製してから、アセトニトリルと水の混合液中で付加環化反応を行った(Id.)。これら及びその他の周知のクリックケミストリー反応を用いて、インビトロで担体部分を抗体に結合させてもよい。
【0159】
Agard et al.(2004,J Am Chem Soc 126:15046-47)は、ペルアセチル化N-アジドアセチルマンノサミンの存在下、CHO細胞中で発現する組換え糖タンパク質が、糖タンパク質の炭水化物中における対応するN-アジドアセチルシアル酸の生体内取り込みをもたらすことを実証した。アジド誘導体化糖タンパク質は、特異的にビオチン化シクロオクチンと反応してビオチン化糖タンパク質を形成した(一方、アジド部分のない対照の糖タンパク質は、非標識のまま)(Id.)。Laughlin et al.(2008,Science 320:664-667)は、同様の技術を使用して、ペルアセチル化N-アジドアセチルガラクトサミンでインキュベートしたゼブラフィッシュ胚内の細胞表面グリカンを代謝標識した。アジド誘導体化グリカンをジフッ素化シクロオクチン(DIFO)試薬と反応させて、インビボでグリカンを可視化させた。
【0160】
ディールスアルダー反応もまた、分子のインビボ標識に使用されてきた。Rossin et al.(2010,Angew Chem Int Ed 49:3375-78)は、トランス-シクロオクテン(TCO)反応性部分を担持する腫瘍局在化抗TAG72(CC49)抗体と111In標識テトラジンDOTA誘導体の間において、インビボで52%の収率があることを報告している。結腸癌異種移植片を有するマウスにTCO標識CC49抗体を投与し、その1日後、111In標識テトラジンプローブを注入した(Id.)。放射能標識プローブと腫瘍局在化抗体が反応することにより、放射能標識プローブの注入後3時間時点における生マウスのSPECTイメージングを実施したところ、腫瘍内に放射能の著しい局在化が認められた(腫瘍:筋肉の比率は13:1)(Id.)。その結果は、TCOとテトラジン標識分子のインビボ化学反応を裏付けるものであった。
【0161】
標識部分の生体内取り込みを利用した抗体標識技術については、米国特許番号6,953,675に更に開示されている(その実施例セクションは参照として本明細書に組み込まれる)。このような「ランドスケープ」抗体は、グリコシル化部位に反応性ケトン基を有するように作製された。その方法は、糖または糖前駆体のケトン誘導体を含む培地内で、CH1ドメインまたはVκドメイン内に1つまたは複数のN-グリコシル化部位を有する抗体をコードする発現ベクターをトランスフェクションした細胞を発現させることを含んでいた。ケトン誘導体化糖またはケトン誘導体化糖前駆体は、N-レブリノイルマンノサミン及びN-レブリノイルフコースに含まれていた。その後、ランドスケープ抗体を、ケトン反応性部分、例えば、ヒドラジド基、ヒドラジン基、ヒドロキシルアミノ基またはチオセミカルバジド基などを含む薬剤と反応させて、標識標的化分子を形成させた。ランドスケープ抗体に結合させた例示的な薬剤としては、キレート化剤様DTPA、ドキソルビシン-デキストランなどの大型薬物分子、及びアシル-ヒドラジド含有ペプチドが挙げられた。ランドスケープ技術はケトン部分を含む抗体を作製することに限定されず、代わりに、クリックケミストリー反応性基、例えば、ニトロン、アジドまたはシクロオクチンなどを、抗体またはその他の生体分子に導入するために使用されてもよい。
【0162】
クリックケミストリー反応による修飾は、インビトロまたはインビボでの使用に適している。反応性標的化分子は、化学的コンジュゲートまたは生体内取り込みのいずれかにより形成されてもよい。標的化分子、例えば、抗体または抗体フラグメントなどを、アジド部分、置換シクロオクチン基もしくはアルキン基、またはニトロン部分で活性化させてもよい。標的化分子がアジド基またはニトロン基を含む場合、対応する標的となり得る構築物は置換シクロオクチン基またはアルキン基を含み、逆の場合もまた同様である。このような活性化分子は、上述したとおり、生細胞内における代謝取り込みにより生成してもよい。
【0163】
あるいは、このような部分を生体分子に化学的にコンジュゲートするための方法は当該技術分野において周知であり、任意のこのような周知の方法を利用してもよい。一般的なADC形成方法については、例えば、米国特許番号4,699,784、4,824,659、5,525,338、5,677,427、5,697,902、5,716,595、6,071,490、6,187,284、6,306,393、6,548,275、6,653,104、6,962,702、7,033,572、7,147,856、及び7,259,240に開示されている(それぞれの実施例セクションは参照として本明細書に組み込まれる)。
【0164】
好ましいコンジュゲーションプロトコルは、中性pHまたは酸性pHで容易に生じるチオール-マレイミド反応、チオール-ビニルスルホン反応、チオール-ブロモアセトアミド反応、またはチオール-ヨードアセトアミド反応をベースとしている。このことは、例えば、活性エステルを使用する際に必要となるような、コンジュゲートにおける高いpH条件の必要性を除去する。例示的なコンジュゲーションプロトコルの更なる詳細については、以下の実施例セクションで説明する。
【0165】
治療薬
別の態様では、本発明は、対象に、治療有効量の本明細書に記載の抗体薬物複合体(ADC)、例えば、IMMU-132などを投与することを含む、対象を治療するための方法に関する。対象は、チェックポイント阻害抗体を用いた治療に耐性を示すTrop-2陽性がんを有していることが好ましい。疾患状態及び複合体の忍容性に応じて、ADCを一度または繰り返し投与してもよく、また任意選択的に、その他の治療様式、例えば、外科手術、外部放射線、放射免疫治療、免疫療法、化学療法、アンチセンス療法、干渉RNA療法、遺伝子治療などと組み合わせてADCを使用してもよい。それぞれの組み合わせは、腫瘍タイプ、ステージ、患者の状態、及び前治療、ならびに、管理医師が検討するその他の因子に合わせられる。
【0166】
本明細書で使用する場合、用語「対象」とは、ヒトを含む哺乳動物を含むがこれらに限定されない任意の動物(すなわち、脊椎動物及び無脊椎動物)のことを意味する。この用語が特定の年齢または性別に限定されるということを意図するものではない。それゆえ、成人及び新生児の対象に加えて胎児(男性または女性にかかわらず)は、この用語に包含される。本明細書において示す用量はヒト用であるが、体重または平方メートルサイズに従い、その他の哺乳動物に加えて小児のサイズに調節することは可能である。
【0167】
好ましい実施形態では、米国特許番号7,238,785、7,517,964及び8,084,583に開示されるような抗Trop-2抗体、例えば、hRS7 MAbなどを含む治療用複合体を用いて、がん、例えば、食道癌、膵臓癌、肺癌、胃癌、結腸癌及び直腸癌、膀胱癌、乳癌、卵巣癌、子宮癌、腎臓癌、ならびに前立腺癌を治療することができる(その実施例セクションは参照として本明細書に組み込まれる)。hRS7抗体は、軽鎖相補性決定領域(CDR)配列CDR1(KASQDVSIAVA、配列番号:1)、CDR2(SASYRYT、配列番号:2)及びCDR3(QQHYITPLT、配列番号:3)、ならびに、重鎖CDR配列CDR1(NYGMN、配列番号:4)、CDR2(WINTYTGEPTYTDDFKG、配列番号:5)及びCDR3(GGFGSSYWYFDV、配列番号:6)を含むヒト化抗体である。
【0168】
マウス型及びキメラ型の抗体も使用可能ではあるが、好ましい実施形態では、ヒト疾患の治療に使用される抗体はヒト型またはヒト化(CDR移植)型の抗体である。免疫応答を最小限とするには同一種のIgG分子(送達物質)が最も好ましい。反復治療を考慮する上で、このことは特に重要である。ヒトにおいて、ヒトIgG抗体またはヒト化IgG抗体は、患者の抗IgG免疫応答をより少なく生じさせるようである。hLL1及びhLL2などの抗体は、標的細胞上の内在化抗原に結合後、速やかに内部移行する。そのことは、担持されている化学療法剤も同様に、細胞内へと速やかに内部移行することを意味する。しかしながら、より遅い内在化速度を有する抗体もまた、選択的治療を達成するのに使用され得る。
【0169】
好ましい実施形態では、多価抗体、多重特異性抗体または多価抗体、単特異性抗体を使用することにより、細胞へのより効果的な取り込みを達成することができる。このような二価抗体及び二重特異性抗体の例は、米国特許番号7,387,772、7,300,655、7,238,785及び7,282,567に記載されている(それぞれの特許の実施例セクションは参照として本明細書に組み込まれる)。これらの多価抗体または多重特異性抗体は、複数の抗原標的及び更に同一抗原標的の複数のエピトープを発現するが、細胞または病原体上における単一抗原標的の発現または有用性が不十分であるため、多くの場合、免疫療法において抗体の標的化及び十分な結合を免れる、がん及び感染性微生物(病原体)を標的とするのに特に好ましい。複数の抗原またはエピトープを標的とすることにより、上記抗体は、標的に対する高い結合性及び滞留時間を示すことになる。その結果、本発明において標的化する薬物を長時間飽和させることができる。
【0170】
別の好ましい実施形態では、本発明のカンプトテシン複合体と組み合わせて使用する治療薬は、1種または複数種の同位体を含んでいてもよい。患部組織を治療するのに有用な放射性同位体としては、111In、177Lu、212Bi、213Bi、211At、62Cu、67Cu、90Y、125I、131I、32P、33P、47Sc、111Ag、67Ga、142Pr、153Sm、161Tb、166Dy、166Ho、186Re、188Re、189Re、212Pb、223Ra、225Ac、59Fe、75Se、77As、89Sr、99Mo、105Rh、109Pd、143Pr、149Pm、169Er、194Ir、198Au、199Au、227Th及び211Pbが挙げられるがこれらに限定されない。治療用放射性核種は、20~6,000keVの範囲の崩壊エネルギー、好ましくは、オージェ放出体において60~200keVの範囲、β放出体において100~2,500keVの範囲、及び、α放出体において4,000~6,000keVの範囲の崩壊エネルギーを有していることが好ましい。有用なβ粒子放射性核種の最大崩壊エネルギーは、好ましくは20~5,000keV、より好ましくは100~4,000keV、最も好ましくは500~2,500keVである。実質的にオージェ放射性粒子を伴って崩壊する放射性核種もまた好ましい。例えば、Co-58、Ga-67、Br-80m、Tc-99m、Rh-103m、Pt-109、In-111、Sb-119、I-125、Ho-161、Os-189m及びIr-192である。有用なβ粒子放射性核種の崩壊エネルギーは、好ましくは<1,000keV、より好ましくは<100keV、最も好ましくは<70keVである。実質的にα粒子を発生して崩壊する放射性核種もまた好ましい。このような放射性核種としては、Dy-152、At-211、Bi-212、Ra-223、Rn-219、Po-215、Bi-211、Ac-225、Fr-221、At-217、Bi-213、Th-227及びFm-255が挙げられるがこれらに限定されない。有用なα粒子放射性の放射性核種における崩壊エネルギーは、好ましくは2,000~10,000keV、より好ましくは3,000~8,000keV、最も好ましくは4,000~7,000keVである。別の使用可能な放射性同位体としては、11C、13N、15O、75Br、198Au、224Ac、126I、133I、77Br、113mIn、95Ru、97Ru、103Ru、105Ru、107Hg、203Hg、121mTe、122mTe、125mTe、165Tm、167Tm、168Tm、197Pt、109Pd、105Rh、142Pr、143Pr、161Tb、166Ho、199Au、57Co、58Co、51Cr、59Fe、75Se、201Tl、225Ac、76Br、169Ybなどが挙げられる。
【0171】
放射性核種及びその他の金属を、例えば、抗体または複合体に結合させたキレート基を使用して送達してもよい。NOTA、DOTA及びTETAなどの大環状キレートを、様々な金属及び放射性金属と共に、最も特に、それぞれガリウム、イットリウム及び銅の放射性核種と共に使用する。このような金属-キレート複合体は、環サイズを目的の金属に合わせて調節することにより、極めて安定した状態で調製することができる。その他の環状キレート、例えば、223Raを錯化させるための大環状ポリエーテルなどを使用してもよい。
【0172】
本明細書に記載のカンプトテシン複合体と組み合わせて使用する治療薬としてはまた、例えば、化学療法剤、例えば、ビンカアルカロイド、アントラサイクリン、エピドフィロトキシン、タキサン、代謝拮抗薬、チロシンキナーゼ阻害剤、アルキル化剤、抗生物質、Cox-2阻害剤、抗有糸分裂薬、抗血管新生薬及びプロアポトーシス薬、特に、ドキソルビシン、メトトレキサート、タキソール、その他のカンプトテシン、ならびに、これら及びその他の部類の抗がん剤に由来するその他の治療薬などが挙げられる。その他のがん化学療法剤としては、ナイトロジェンマスタード、アルキルスルホネート、ニトロソウレア、トリアゼン、葉酸類似体、ピリミジン類似体、プリン類似体、白金配位錯体、ホルモンなどが挙げられる。好適な化学療法剤については、REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES,19th Ed.(Mack Publishing Co.1995)、及びGOODMAN AND GILMAN’S THE PHARMACOLOGICAL BASIS OF THERAPEUTICS,7th Ed.(MacMillan Publishing Co.1985)、ならびに、これら刊行物の改訂版に記載されている。その他の適切な化学療法剤、例えば、実験用薬物などは、当業者に周知である。
【0173】
使用する例示的な薬物としては、5-フルオロウラシル、アファチニブ、アプリジン、アザリビン、アナストロゾール、アントラサイクリン、アキシチニブ、AVL-101、AVL-291、ベンダムスチン、ブレオマイシン、ボルテゾミブ、ボスチニブ、ブリオスタチン-1、ブスルファン、カリケアマイシン、カンプトテシン、カルボプラチン、10-ヒドロキシカンプトテシン、カルムスチン、セレコキシブ、クロラムブシル、シスプラチン(CDDP)、Cox-2阻害剤、イリノテカン(CPT-11)、SN-38、カルボプラチン、クラドリビン、カンプトテカン、クリゾチニブ、シクロホスファミド、シタラビン、ダカルバジン、ダサチニブ、ジナシクリブ、ドセタキセル、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、2-ピロリノドキソルビシン(2P-DOX)、シアノ-モルホリノドキソルビシン、ドキソルビシングルクロニド、エピルビシングルクロニド、エルロチニブ、エストラムスチン、エピポドフィロトキシン、エルロチニブ、エンチノスタット、エストロゲン受容体結合剤、エトポシド(VP16)、エトポシドグルクロニド、リン酸エトポシド、エキセメスタン、フィンゴリモド、フロクスウリジン(FUdR)、3’,5’-O-ジオレオイル-FudR(FUdR-dO)、フルダラビン、フルタミド、ファルネシル-タンパク質トランスフェラーゼ阻害剤、フラボピリドール、フォスタマチニブ、ガネテスピブ、GDC-0834、GS-1101、ゲフィチニブ、ゲムシタビン、ヒドロキシウレア、イブルチニブ、イダルビシン、イデラリシブ、イホスファミド、イマチニブ、L-アスパラギナーゼ、ラパチニブ、レノリダミド、ロイコボリン、LFM-A13、ロムスチン、メクロレタミン、メルファラン、メルカプトプリン、6-メルカプトプリン、メトトレキサート、ミトキサントロン、ミトラマイシン、マイトマイシン、ミトタン、ナベルビン、ネラチニブ、ニロチニブニトロソウレア、オラパリブ、プリコマイシン、プロカルバジン、パクリタキセル、PCI-32765、ペントスタチン、PSI-341、ラロキシフェン、セムスチン、ソラフェニブ、ストレプトゾシン、SU11248、スニチニブ、タモキシフェン、テマゾロミド、トランスプラチン、サリドマイド、チオグアニン、チオテパ、テニポシド、トポテカン、ウラシルマスタード、バタラニブ、ビノレルビン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンカアルカロイド、及びZD1839が挙げられるがこれらに限定されない。このような薬剤は本明細書に記載の複合体の一部であってもよく、あるいは、本明細書に記載の複合体と組み合わせて、複合体の投与前に、それと同時に、またはその投与後のいずれかで投与されてもよい。
【0174】
カンプトテシン複合体と共に使用可能な治療薬はまた、標的化部分にコンジュゲートした毒素を含んでいてもよい。これに関連して使用可能な毒素としては、リシン、アブリン、リボヌクレアーゼ(RNase)、DNase I、Staphylococcalエンテロトキシン-A、アメリカヤマゴボウ抗ウイルスタンパク質、ゲロニン、ジフテリア毒素、Pseudomonasエキソトキシン、及びPseudomonasエンドトキシンが挙げられる(例えば、Pastan.et al.,Cell(1986),47:641、及びSharkey and Goldenberg,CA Cancer J Clin.2006 Jul-Aug;56(4):226-43を参照のこと)。本明細書で用いるのに好適な別の毒素は当業者に周知であり、米国6,077,499に開示されている。
【0175】
更に別の部類の治療薬は、1種または複数種の免疫調節薬を含んでいてもよい。使用する免疫調節薬は、サイトカイン、幹細胞増殖因子、リンフォトキシン、造血因子、コロニー刺激因子(CSF)、インターフェロン(IFN)、エリスロポエチン、トロンボポエチン、及びこれらの組み合わせから選択してもよい。特に有用な免疫調節薬は、腫瘍壊死因子(TNF)などのリンフォトキシン、インターロイキン(IL)などの造血因子、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)または顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)などのコロニー刺激因子、インターフェロン-α、インターフェロン-β、インターフェロン-γまたはインターフェロン-λなどのインターフェロン、及び「S1因子」と呼ばれる幹細胞増殖因子などである。サイトカインに含まれるものは、ヒト成長ホルモン、N-メチオニルヒト成長ホルモン及びウシ成長ホルモンなどの成長ホルモン;副甲状腺ホルモン;サイロキシン;インスリン;プロインスリン;リラキシン;プロリラキシン;卵胞刺激ホルモン(FSH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)及び黄体形成ホルモン(LH)などの糖タンパク質;肝増殖因子;プロスタグランジン、線維芽細胞増殖因子;プロラクチン;胎盤性ラクトゲン、OBタンパク質;腫瘍壊死因子α及び腫瘍壊死因子β;ミュラー阻害物質;マウスゴナドトロピン関連ペプチド;インヒビン;アクチビン;血管内皮増殖因子;インテグリン;トロンボポエチン(TPO);NGF-βなどの神経成長因子;血小板増殖因子;TGF-α及びTGF-βなどのトランスホーミング増殖因子(TGF);インスリン様成長因子-I及びインスリン様成長因子-II;エリスロポエチン(EPO);骨誘導因子;インターフェロン-α、インターフェロン-β及びインターフェロン-γなどのインターフェロン;マクロファージ-CSF(M-CSF)などのコロニー刺激因子(CSF);IL-1、IL-1α、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、IL-16、IL-17、IL-18、IL-21、IL-25などのインターロイキン(IL)、LIF、kit-リガンドまたはFLT-3、アンジオスタチン、トロンボスポンジン、エンドスタチン、腫瘍壊死因子及びリンフォトキシン(LT)である。本明細書で使用する場合、用語「サイトカイン」は、天然資源由来のタンパク質、または組換え細胞培養物由来のタンパク質、及び天然配列サイトカインの生物学的に活性な等価物を含む。
【0176】
使用するケモカインとしては、RANTES、MCAF、MIP1-α、MIP1-β及びIP-10が挙げられる。
【0177】
特定の実施形態では、抗Trop-2 ADCと組み合わせて使用される治療薬は、微小管阻害剤、例えば、ビンカアルカロイド、タキサン、メイタンシノイドまたはアウリスタチンなどである。例示的な周知の微小管阻害剤としては、パクリタキセル、ビンクリスチン、ビンブラスチン、メルタンシン、エポチロン、ドセタキセル、ディスコデルモライド、コンブレスタチン、ポドフィロトキシン、CI-980、フェニラヒスチン、ステガナシン、クラシン、2-メトキシエストラジオール、E7010、メトキシベンゼンスルホンアミド、ビノレルビン、ビンフルニン、ビンデシン、ドラスタチン、スポンジスタチン、リゾキシン、タシドチン、ハリコンドリン、ヘミアステリン、クリプトフィシン52、MMAE、及びエリブリンメシラートが挙げられる。
【0178】
代替実施形態では、ADCと組み合わせて使用される治療薬は、PARP阻害剤、例えば、オラパリブ、タラゾパリブ(BMN-673)、ルカパリブ、ベリパリブ、CEP9722、MK4827、BGB-290、ABT-888、AG014699、BSI-201、CEP-8983、または3-アミノベンズアミドである。
【0179】
別の代替実施形態では、ADCと組み合わせて使用する治療薬は、ブルトン型チロシンキナーゼ阻害剤、例えば、イブルチニブ(PCI-32765)、PCI-45292、CC-292(AVL-292)、ONO-4059、GDC-0834、LFM-A13またはRN486などである。
【0180】
更に別の代替実施形態では、ADCと組み合わせて使用する治療薬は、PI3K阻害剤、例えば、イデラリシブ、ウォルトマンニン、デメトキシビリジン、ペリフォシン、PX-866、IPI-145(デュベリシブ)、BAY80-6946、BEZ235、RP6530、TGR1202、SF1126、INK1117、GDC-0941、BKM120、XL147、XL765、パロミド529、GSK1059615、ZSTK474、PWT33597、IC87114、TG100-115、CAL263、PI-103、GNE477、CUDC-907、AEZS-136、またはLY294002である。
【0181】
本ADC(抗体または抗体フラグメントにコンジュゲートしたカンプトテシン複合体を含む)を単独で、または1種または複数種のその他治療薬、例えば、第二抗体、第二抗体フラグメント、第二イムノコンジュゲート、放射性核種、毒素、薬物、化学療法剤、放射線治療、ケモカイン、サイトカイン、免疫調節薬、酵素、ホルモン、オリゴヌクレオチド、RNAiまたはsiRNAなどと組み合わせて使用してもよいということを、当業者は理解するであろう。このような別の治療薬を、本抗体薬物ADCとは別々に、それらと組み合わせて、またはそれらに結合させた状態で、投与してもよい。
【0182】
製剤及び投与
複合体の好適な投与経路としては、経口投与、非経口投与、皮下投与、直腸投与、経粘膜投与、腸内投与、筋肉内注射、髄内注射、硬膜内注射、直接心室内注射、静脈内注射、硝子体内注射、腹腔内注射、鼻腔内注射、または眼内注射が挙げられるがこれらに限定されない。好ましい投与経路は非経口である。あるいは、例えば、固形腫瘍に直接化合物を注入することにより、全身ではなく局所に化合物を投与してもよい。
【0183】
薬学的に有用な組成物を調製するための周知の方法に従いADCを製剤化してもよい(ADCを薬学的に好適な賦形剤と混合物中で混合する)。滅菌リン酸緩衝生理食塩水は、薬学的に好適な賦形剤の一例である。その他の好適な賦形剤は当業者に周知である。例えば、Ansel et al.,PHARMACEUTICAL DOSAGE FORMS AND DRUG DELIVERY SYSTEMS,5th Edition(Lea & Febiger 1990)、及びGennaro(ed.),REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES,18th Edition(Mack Publishing Company 1990)、ならびにそれらの改訂版を参照されたい。
【0184】
好ましい実施形態では、ADCは、N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸(ACES)、N-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸(ADA)、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸(BES)、4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-エタンスルホン酸(HEPES)、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、3-(N-モルホリニル)-2-ヒドロキシプロパンプロパンスルホン酸(MOPSO)、及びピペラジン-N,N’-ビス(2-エタンスルホン酸)[Pipes]からなる群から選択される緩衝液を使用して、グッド生化学用緩衝液(pH6~7)中で製剤化される。より好ましい緩衝液はMESまたはMOPSであり、好ましくは20~100mMの濃度範囲、より好ましくは約25mMである。25mM MES、pH6.5が最も好ましい。製剤は更に、添加剤として25mMのトレハロース及び0.01%(体積/体積)のポリソルベート80を含んでいてもよい(添加剤を加えた状態で、最終緩衝液濃度を22.25mMに調節)。好ましい保管方法は、複合体の凍結乾燥製剤で、-20℃~2℃の温度範囲で保管することであり、最も好ましくは、2℃~8℃で保管することである。
【0185】
例えば、ボーラス注入、低速注入または持続注入による静脈内投与用に、ADCを製剤化してもよい。本発明の抗体は、約4時間未満にわたって注入されることが好ましく、また、約3時間未満にわたって注入されることがより好ましい。例えば、最初の25~50mgを30分間以内、更に好ましくは15分間以内に注入してから、残りをその先2~3時間にわたって注入してもよい。皮下投与が所望される場合、例えば、米国特許番号9,180,205に開示されているように、抗体を濃縮してもよい(その実施例セクションは参照として本明細書に組み込まれる)。皮下注射では、1、2または3mlの注入量で投与してもよく、単一部位、または2ヶ所またはそれ以上の部位に注射してもよい。それぞれの注射は通常、1.5~4mg/kgの濃縮ADCを含有している。
【0186】
防腐剤を添加した単位投与剤形(例えば、アンプル)または複数回用量の容器で、注射用製剤を提供してもよい。組成物を懸濁剤、液剤、または油性溶媒または水性溶媒中のエマルション剤などの剤形としてもよく、また懸濁化剤、安定化剤及び/または分散剤などの配合剤を含有していてもよい。あるいは、活性成分を、使用前に好適な溶媒、例えば、滅菌した発熱物質を含まない水で戻す粉末形態としてもよい。
【0187】
別の薬学的な方法を採用して、治療用複合体の作用持続時間をコントロールしてもよい。ADCと複合体となるまたはADCを吸着するポリマーを使用して、放出制御製剤を調製してもよい。例えば、生体適合性ポリマーとしては、ポリ(エチレン-co-酢酸ビニル)のマトリックス、及びステアリン酸二量体とセバシン酸のポリ無水物コポリマーのマトリックスが挙げられる(Sherwood et al.,Bio/Technology 10:1446(1992))。このようなマトリックスからのADCの放出速度は、ADCの分子量、マトリックス内におけるADCの量、及び分散粒子のサイズに依存する(Saltzman et al.,Biophys.J.55:163(1989);Sherwood et al.,supra)。その他の固体剤形については、Ansel et al.,PHARMACEUTICAL DOSAGE FORMS AND DRUG DELIVERY SYSTEMS,5th Edition(Lea & Febiger 1990)、及びGennaro(ed.),REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES,18th Edition(Mack Publishing Company 1990)、ならびにそれらの改訂版に記載されている。
【0188】
一般的に、ヒトへのADCの投与量は、患者の年齢、体重、身長、性別、全身状態、及び以前の病歴などの因子に応じて変化する。約1mg/kg~24mg/kgの範囲の単回静注用量でADCをレシピエントに投与することが望ましい場合がある(状況に応じて、より少ないまたはより多い用量もまた投与可能ではあるが)。70kgの患者に対する1~20mg/kgの用量は、例えば、1.7mの患者に対する70~1,400mg、または41~824mg/mの用量である。必要に応じ、例えば、4~10週間にわたり週に1回、8週間にわたり週に1回、または4週間にわたり週に1回などで、投薬を繰り返してもよい。また維持療法の必要に応じ、より少ない頻度で、例えば、数ヶ月間にわたり1週おき、または、何ヶ月にもわたり毎月または3ヶ月に1回などで投与してもよい。好ましい用量としては、1mg/kg、2mg/kg、3mg/kg、4mg/kg、5mg/kg、6mg/kg、7mg/kg、8mg/kg、9mg/kg、10mg/kg、11mg/kg、12mg/kg、13mg/kg、14mg/kg、15mg/kg、16mg/kg、17mg/kg、18mg/kg、19mg/kg、20mg/kg、22mg/kg及び24mg/kgを挙げることができるがこれらに限定されない。1~24mg/kgの範囲の任意の量を用いてもよい。この用量を、週に1回または週に2回、複数回投与することが好ましい。4週間の最短投与スケジュール、より好ましくは8週間、より好ましくは16週間またはより長い投与スケジュールを用いてもよい。投与スケジュールは、(i)週に1回、(ii)1週おき、(iii)1週間の治療に続いて2、3または4週間の休薬、(iv)2週間の治療に続いて1、2、3または4週間の休薬、(v)3週間の治療に続いて1、2、3、4または5週間の休薬、(vi)4週間の治療に続いて1、2、3、4または5週間の休薬、(vii)5週間の治療に続いて1、2、3、4または5週間の休薬、及び(viii)毎月からなる群から選択されるサイクルで、週に1回または週に2回の投与を含んでいてもよい。このサイクルを、4、6、8、10、12、16もしくは20回、またはそれ以上の回数繰り返してもよい。
【0189】
あるいは、1週間おきまたは2週間おきに1回の投薬で、合計少なくとも3回の投薬となるように、繰り返しADCを投与してもよい。または、4~6週間にわたり週に2回投与してもよい。約200~300mg/m(1.7mの患者に対して1回の投薬あたり340mg、または70kgの患者に対して4.9mg/kg)にまで投与量を下げる場合、4~10週間にわたり週に1回または更に週に2回投与してもよい。あるいは、投与スケジュール頻度を少なく、すなわち、2~3ヶ月間にわたり1週間おきまたは2週間おきとしてもよい。しかしながら、更に高用量、例えば、週に1回または1~2週間おきに1回、12mg/kgを、反復投与サイクル、低速i.v.注入で投与可能であることも明らかとなっている。投与スケジュールをその他の間隔で任意選択的に繰り返してもよく、また、適切に調節した用量及びスケジュールで、様々な非経口経路を介して投与してもよい。
【0190】
好ましい実施形態では、ADCは、がんの治療に使用する。がんの例としては、がん、リンパ腫、膠芽腫、黒色腫、肉腫、白血病、骨髄腫またはリンパ性悪性腫瘍が挙げられるがこれらに限定されない。このようながんのより詳細な例としては、以下に記載するもの、例えば、扁平上皮細胞癌(例えば、上皮扁平細胞癌)、ユーイング肉腫、ウィルムス腫瘍、星状細胞腫、肺癌(小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺の腺癌、及び肺の扁平上皮癌を含む)、腹膜の癌、胃(gastric)癌または胃(stomach)癌(胃腸癌を含む)、膵臓癌、多形膠芽腫、頸部癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、肝細胞癌(hepatoma)、肝細胞癌(hepatocellular carcinoma)、神経内分泌腫瘍、髄様甲状腺癌、分化甲状腺癌、乳癌、卵巣癌、結腸癌、直腸癌、子宮内膜癌または子宮癌、唾液腺癌、腎臓(kidney)癌または腎臓(renal)癌、前立腺癌、外陰癌、肛門癌、陰茎癌に加えて、頭頸部癌が挙げられる。用語「がん」は、原発性の悪性細胞または悪性腫瘍(例えば、元の悪性新生物部位または腫瘍部位以外の対象の体内部位に細胞が遊走していない悪性細胞または悪性腫瘍)及び二次性の悪性細胞または悪性腫瘍(例えば、転移により生じた悪性細胞または悪性腫瘍、原始腫瘍部位とは異なる二次的な部位への悪性細胞または腫瘍細胞の遊走)を含む。
【0191】
がんまたは悪性腫瘍のその他の例としては、急性小児期リンパ芽球性白血病、急性リンパ芽球性白血病、急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病、副腎皮質癌、成人(原発性)肝細胞癌、成人(原発性)肝臓癌、成人急性リンパ性白血病、成人急性骨髄性白血病、成人ホジキンリンパ腫、成人リンパ性白血病、成人非ホジキンリンパ腫、成人原発性肝臓癌、成人軟部組織肉腫、AIDS関連リンパ腫、AIDS関連悪性腫瘍、肛門癌、星状細胞腫、胆管癌、膀胱癌、骨癌、脳幹神経膠腫、脳腫瘍、乳癌、腎盂及び尿管の癌、中枢神経系(原発性)リンパ腫、中枢神経系リンパ腫、小脳星状細胞腫、大脳星状細胞腫、頸部癌、小児期(原発性)肝細胞癌、小児期(原発性)肝臓癌、小児期急性リンパ芽球性白血病、小児期急性骨髄性白血病、小児期脳幹神経膠腫、小児期小脳星状細胞腫、小児期大脳星状細胞腫、小児期頭蓋外胚細胞腫瘍、小児期ホジキン病、小児期ホジキンリンパ腫、小児期視床下部及び視覚路神経膠腫、小児期リンパ芽球性白血病、小児期髄芽腫、小児期非ホジキンリンパ腫、小児期松果体及びテント上未分化神経外胚葉性腫瘍、小児期原発性肝臓癌、小児期横紋筋肉腫、小児期軟部組織肉腫、小児期視覚路及び視床下部神経膠腫、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、結腸癌、皮膚T細胞リンパ腫、内分泌腺膵島細胞癌、子宮内膜癌、上衣腫、上皮癌、食道癌、ユーイング肉腫及び関連腫瘍、外分泌膵臓癌、頭蓋外胚細胞腫瘍、性腺外胚細胞腫瘍、肝外胆管癌、眼球癌、女性乳癌、ゴーシェ病、胆嚢癌、胃癌、胃腸カルチノイド腫瘍、胃腸腫瘍、胚細胞腫瘍、妊娠栄養膜腫瘍、毛様細胞性白血病、頭頸部癌、肝細胞癌、ホジキンリンパ腫、高ガンマグロブリン血症、下咽頭癌、腸癌、眼内黒色腫、島細胞癌、島細胞膵臓癌、カポジ肉腫、腎臓癌、喉頭癌、唇及び口腔癌、肝臓癌、肺癌、リンパ増殖性疾患、マクログロブリン血症、男性乳癌、悪性中皮腫、悪性胸腺腫、髄芽腫、黒色腫、中皮腫、転移性潜在性原発性扁平頸部癌、転移性原発性扁平頸部癌、転移性扁平頸部癌、多発性骨髄腫、多発性骨髄腫/形質細胞新生物、骨髄異形成症候群、骨髄性白血病(Myelogenous Leukemia)、骨髄性白血病(Myeloid Leukemia)、骨髄増殖性疾患、鼻腔及び副鼻腔癌、鼻咽頭癌、神経芽細胞腫、非ホジキンリンパ腫、非黒色腫皮膚癌、非小細胞肺癌、潜在性原発性転移性扁平頸部癌、口咽頭癌、骨/悪性線維性肉腫、骨肉腫/悪性線維性組織球腫、骨肉腫/骨の悪性線維性組織球腫、卵巣上皮癌、卵巣胚細胞腫瘍、卵巣低悪性度腫瘍、膵臓癌、パラプロテイン血症、真性多血症、上皮小体癌、陰茎癌、褐色細胞腫、下垂体腫瘍、原発性中枢神経系リンパ腫、原発性肝臓癌、前立腺癌、直腸癌、腎細胞癌、腎盂及び尿管癌、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、唾液腺癌、サルコイドーシス肉腫、セザリー症候群、皮膚癌、小細胞肺癌、小腸癌、軟部組織肉腫、扁平頸部癌、胃癌、テント上原始神経外胚葉性及び松果体腫瘍、T細胞リンパ腫、精巣癌、胸腺腫、甲状腺癌、腎盂及び尿管の移行細胞癌、移行性腎盂及び尿管癌、栄養膜腫瘍、尿管及び腎盂細胞癌、尿道癌、子宮癌、子宮肉腫、腟癌、視覚路及び視床下部神経膠腫、外陰癌、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、ウィルムス腫瘍、及び任意のその他過剰増殖性疾患(上記器官系に位置する腫瘍形成を除く)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0192】
本明細書及び本願請求項に記載の方法及び組成物を用いて、上記の疾患を含むがこれらに限定されない悪性状態または前悪性状態を治療してもよく、新生物状態または悪性状態への進行を防止してもよい。このような使用は、腫瘍形成またはがんへの上記進行が分かっているまたは疑われる状態(特に、過形成、化生からなる非新生物細胞増殖、最も特に、異形成が生じている状態)であることを意味している(このような異常増殖状態について確認する場合、Robbins and Angell,Basic Pathology,2d Ed.,W.B.Saunders Co.,Philadelphia,pp.68-79(1976)を参照のこと)。
【0193】
異形成は多くの場合、がんの前兆であり、主に上皮で見つかっている。異形成は非新生物細胞増殖における最も無秩序な形態であり、個々の細胞の均一性低下及び細胞の構築配向性低下を伴う。異形成は特質上、慢性的な刺激または炎症が存在する場所に生じる。治療可能な異形成疾患としては、無汗症性外胚葉性異形成、前後異形成、窒息性胸郭異形成、心房指異形成、気管支肺異形成、大脳異形成、子宮頸部異形成、軟骨外胚葉性異形成、鎖骨頭蓋異形成、先天性外胚葉性異形成、頭蓋骨幹異形成、頭蓋骨手根骨足根骨異形成、頭蓋骨幹端異形成、象牙質異形成、骨幹異形成、外胚葉性異形成、エナメル質異形成、脳眼異形成、骨端半肢異形成、多発性骨端異形成(dysplasia epiphysialis multiplex)、点状骨端異形成、上皮異形成、顔面指趾生殖器異形成、家族性線維性顎異形成、家族性白色襞性異形成、線維筋性異形成、骨の線維性異形成、開花性骨異形成、遺伝性腎網膜異形成、発汗性外胚葉性異形成、無汗性外胚葉性異形成、リンパ球減少性胸腺異形成、乳房異形成、下顎顔面異形成、骨幹端異形成、モンディーニ異形成、単発性線維性異形成、粘膜上皮異形成、多発性骨端異形成(multiple epiphysial dysplasia)、眼耳脊椎異形成、眼歯指異形成、眼脊椎異形成、歯牙異形成症、眼下顎異形成(opthalmomandibulomelic dysplasia)、根尖性セメント質異形成症、多骨性線維性骨異形成、偽軟骨発育不全脊椎骨端異形成、網膜異形成、中隔視神経異形成症、脊椎骨端異形成、及び心室橈骨異形成が挙げられるがこれらに限定されない。
【0194】
治療可能な別の新生物発生前疾患としては、良性増殖異常疾患(例えば、良性腫瘍、線維嚢胞症、組織肥大、腸ポリープまたは腺腫、及び食道異形成)、白斑症、角化症、ボーエン病、農夫皮膚、日光口唇炎、及び日光角化症が挙げられるがこれらに限定されない。
【0195】
好ましい実施形態では、本発明の方法を、がん(特に上で列挙したがん)の増殖、進行及び/または転移を阻害するために使用する。
【0196】
別の過剰増殖性疾患、障害及び/または症状としては、悪性腫瘍の進行及び/または転移、ならびに、関連疾患、例えば、白血病(急性白血病、例えば、急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病[骨髄芽球性白血病、前骨髄性白血病、骨髄単球性白血病、単球性白血病、及び赤白血病を含む]を含む)及び慢性白血病(例えば、慢性骨髄性[顆粒球性]白血病、及び慢性リンパ性白血病)、真性多血症、リンパ腫(例えば、ホジキン病及び非ホジキン病)、多発性骨髄腫、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、重鎖病、ならびに固形腫瘍(例えば、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨原性肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌、膵臓癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、扁平上皮細胞癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、脂腺癌、乳頭癌、乳頭腺癌、嚢胞腺癌、髄様癌、気管支原性癌、腎細胞癌、肝細胞癌、胆管癌、絨毛癌、精上皮腫、胎児性癌、ウィルムス腫瘍、頸部癌、精巣腫瘍、肺癌、小細胞肺癌、膀胱癌、上皮癌、神経膠腫、星状細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、希突起膠腫、髄膜腫、黒色腫、神経芽細胞腫、及び網膜芽細胞腫などの肉腫及びがんを含むがこれらに限定されない)などの進行及び/または転移が挙げられるがこれらに限定されない。
【0197】
ADCを用いて治療可能な自己免疫疾患としては、急性及び慢性の免疫血小板減少症、皮膚筋炎、シデナム舞踏病、重症筋無力症、全身性エリテマトーデス、ループス腎炎、リウマチ熱、多腺性症候群、水疱性類天疱瘡、真性糖尿病、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病、連鎖球菌感染後腎炎、結節性紅斑、高安動脈炎、ANCA関連血管炎、アジソン病、関節リウマチ、多発性硬化症、サルコイドーシス、潰瘍性大腸炎、多形性紅斑、IgA腎症、結節性多発動脈炎、強直性脊椎炎、グッドパスチャー症候群、バージャー病、シェーグレン症候群、原発性胆汁性肝硬変、橋本甲状腺炎、甲状腺中毒症、強皮症、慢性活動性肝炎、多発筋炎/皮膚筋炎、多発軟骨炎、水疱性類天疱瘡、尋常性天疱瘡、ヴェゲナー肉芽腫症、膜性腎症、筋萎縮性側索硬化症、脊髄癆、巨細胞性動脈炎/多発性筋痛、悪性貧血、急速進行性糸球体腎炎、乾癬、または線維性肺胞炎を挙げてもよい。
【0198】
キット
様々な実施形態は、患者の疾患組織を治療するのに好適な構成要素を含有するキットに関係していてもよい。例示的なキットは、本明細書に記載の少なくとも1種のADCまたはその他標的化部分を含有していてもよい。投与用の構成要素を含有する組成物が、経口送達などによる消化管を介した送達用に製剤化されていない場合、一部の別の経路でキット構成要素を送達可能なデバイスが含まれていてもよい。非経口送達などの用途に用いる1種のデバイスは、対象の体内に組成物を注射するのに用いる注射器である。吸入用デバイスを使用してもよい。
【0199】
キット構成要素は、共にパッケージ化されてもよく、または2つまたはそれ以上の容器に分けてパッケージ化されてもよい。一部の実施形態では、容器は、復元に好適な組成物の滅菌凍結乾燥製剤を含有するバイアル瓶であってもよい。キットはまた、その他の試薬の復元及び/または希釈に好適な1種または複数種の緩衝液を含有していてもよい。使用可能なその他の容器としては、ポーチ、トレー、ボックス、チューブなどが挙げられるがこれらに限定されない。キット構成要素は、パッケージ化されてもよく、また容器内において滅菌状態に維持されてもよい。含まれ得る別の構成要素は、キットを使用する個人に向けた、その使用に関する取扱説明書である。
【実施例
【0200】
本発明の様々な実施形態について以下の実施例を用いて説明するが、その範囲を制限するものではない。
【0201】
実施例1.抗Trop-2-SN-38抗体薬物複合体の調製及び使用
米国特許番号7,238,785に記載のとおり、ヒト化RS7(hRS7)抗Trop-2抗体を作製した(その図面セクション及び実施例セクションは参照として本明細書に組み込まれる)。米国特許7,999,083に従い、CL2Aリンカーに結合したSN-38を調製してから、hRS7(抗Trop-2)抗体、hPAM4(MUC5ac)抗体、hA20(抗CD20)抗体またはhMN-14(抗CEACAM5)抗体にコンジュゲートした(その実施例10及び実施例12は参照として本明細書に組み込まれる)。コンジュゲーションプロトコルにより、抗体分子1つあたり結合したSN-38分子が約6つという比率となった。
【0202】
皮下ヒト膵臓または結腸腫瘍異種移植片を有する免疫不全無胸腺ヌードマウス(雌)を、特異的なCL2A-SN-38複合体または対照複合体のいずれかで治療するか、または、治療せずに放置した。特異的な複合体に治療効果が認められた。Capan 1膵臓腫瘍モデルにおいて、特異的な、hRS7(抗Trop-2)抗体、hPAM4(抗MUC-5ac)抗体及びhMN-14(抗CEACAM5)抗体のCL2A-SN-38複合体は、対照hA20-CL2A-SN-38複合体(抗CD20)及び未治療対照(データは省略)と比較して、より優れた効果を示した。ヒト膵臓癌のBXPC3モデルと同様に、特異的なhRS7-CL2A-SN-38は、対照治療(データは省略)と比較して、より優れた治療効果を示した。
【0203】
実施例2.チェックポイント阻害薬治療に耐性を示す患者における抗Trop-2 ADC(サシツズマブゴビテカン)の治療的使用
要約
IMMU-132(サシツズマブゴビテカン、別名、hRS7-CL2A-SN-38)は、転移性トリプルネガティブ乳癌及びその他のがんを有する患者(多数の前治療暦があり(ClinicalTrials.gov,NCT01631552)、高レベルのTrop-2を発現)の第II相試験において、有望な治療結果を示した。この新規のTrop-2標的化ヒト化抗体は、上述したCL2Aリンカーで7.6モルのSN-38(イリノテカンの活性化形態)とコンジュゲートされており、イリノテカンと比較して、インビボでより少なくグルクロン酸抱合され、この薬剤で治療した患者における極めて低い下痢発症率に対する説明となる。
【0204】
驚くべきことに、IMMU-132は、以前より、多くの標準的な抗がん治療薬(親化合物イリノテカンを含む)から再発した、または多くの標準的な抗がん治療薬(親化合物イリノテカンを含む)に耐性を示す患者において非常に有効である。チェックポイント阻害薬として周知の新しい部類の抗がん剤としては、細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA-4)、プログラム細胞死タンパク質(PD-1)及びプログラム細胞死リガンド1(PD-L1)に対する抗体またはその他阻害薬が挙げられる。本明細書に記載するとおり、IMMU-132は、チェックポイント阻害薬に加えその他抗がん剤に再発/耐性を示す腫瘍に対する驚くべき予想外な効果を示している。
【0205】
以下のデータは、PD-L1阻害薬に耐性を示した後にIMMU-132による治療に反応した患者(255-029)における、例示的なケーススタディーの結果についてまとめている。
がん:TNBC(PD-L1治療後の患者において進行)
最良効果:部分寛解が確認された(54%縮小)
IMMU-132開始用量:10mg/kg
IMMU-132による治療回数:40+
無増悪期間:12.4+ヶ月間(到達せず)
試験の終了:治療継続
【0206】
病歴-患者は、2007年10月、右乳房に1.8cmの腫瘤があると初めて診断された47歳女性である。彼女はセンチネルリンパ節生検において右乳房切除を受けた(リンパ節に悪性新生物は認められなかった)。腫瘍は、ER、PR及びHer-2に対して陰性である(すなわち、TNBC)と同定された。彼女は、4サイクルのAC(ドキソルビシン及びシクロホスファミド)治療に進み、その後、週に1回低用量のパクリタキセル(x12)を投与された。2008年10月、CT検査により、以前には見つかっていない肺リンパ節及び肥大した乳房リンパ節が認められ、そのリンパ節はがんであった。彼女は、リンパ節を除去するための局所手術を受け、その後、2009年3月までXRT(放射線治療)を受けた。2010年6月、CTにより、再発性の肺浸潤及び骨浸潤が記録された。アバスチン(登録商標)(ベバシズマブ)、METMAB(登録商標)(オナルツズマブ、抗肝細胞増殖因子)、及びタキソール(登録商標)(パクリタキセル)を用いる臨床試験(彼女は2013年3月まで継続)に組み入れられた患者は、完全寛解となったが、最終的には、末梢肺リンパ節及びAP(大動脈肺動脈)窓リンパ節に増悪がみられた。彼女は2014年9月に6サイクルのPD-L1抗体(MPDL3280A)を開始したが、2015年1月に増悪した。その後、彼女はIMMU-132試験に組み込まれた。
【0207】
IMMU-132治療-患者は、2015年2月6日に10mg/kgの用量で治療を開始し、計画スケジュールから減量または延期することなくこの投与量を継続しており、現在の投与回数は40+となっている。
【0208】
結果
患者には当初、直径の合計が60mmに及ぶ3つの標的病変(肺に1つ、胸部リンパ節が2つ)、及び別の非標的病変(胸部の別のリンパ節)が認められた(図2)。最初の評価時(2015年4月7日)において、患者の標的病変直径の合計は33%減少しており、RECIST 1.1における部分寛解と評価された。約5週間後(2015年5月18日)に実施した確認用の追跡CTでは、48%の全体縮小を伴う効果改善が認められた(図3図4)。2015年7月19日時点におけるCTでは、患者の継続的な部分寛解(50%の縮小を伴う)が認められた。2015年9月13日時点におけるCTでは、52%の縮小を伴う継続的なPRが認められ、また2015年11月15日時点におけるCTでは、54%の縮小が認められた。2016年2月25日に実施した最新のCTでは、46%の縮小を伴う継続的なPRが認められた。
【0209】
CT結果の要約を図1に示す。ベースライン時のCTスキャンを図2に示す(上段にアキシャル像、下段にサジタル像、腫瘍は矢印で示されている)。標的病変の直接比較を図3及び図4に示す。図3は、同一平面で撮影した両方の標的病変1及び2を示している。ベースライン(2015年1月29日)を上部に示す。下部に示す2回目の効果判定評価(2015年5月19日)では、L1とL2の両方において著しい縮小が明白となった。図4は、標的病変3を撮影した同等の画像を示している(上部にベースライン、下部に2回目の効果判定評価)。以前チェックポイント阻害薬治療に失敗した後、患者は、IMMU-132による治療を続け部分寛解状態を継続している。
【0210】
患者の腫瘍におけるTrop-2発現の免疫組織化学解析では、染色レベル2+の陽性発現が認められた(データは省略)。
【0211】
毒性-この報告の日時における、最も重篤な副作用はG3低リン血症(関連性なし)であり、関連毒性と考えられる副作用は、G2好中球減少症(2015年4月2日、投与6回目)、疲労(G1)、悪心(G1)、斑状丘疹状発疹(G1)、脱毛症(G2)及び鼻漏(G1)であった。
【0212】
これらの結果は、以前よりチェックポイント阻害薬治療から再発した、またはチェックポイント阻害薬に耐性を示している患者において、IMMU-132が極めて有効であることを示している。治療量のIMMU-132では、患者は管理可能な毒性のみを示した。これらの結果は、Trop-2陽性がん、例えば、トリプルネガティブ乳癌(TNBC)などに対するIMMU-132の有効性を示している。
【0213】
実施例3.抗Trop-2 ADCのADCC活性
hRS7 IgGとの比較で、様々なhRS7-ADC複合体のADCC活性を測定した(データは省略)。Blood Center of New Jerseyから購入した血液からPBMCを精製した。Trop-2陽性ヒト膵腺癌細胞株(BxPC-3)を標的細胞株として使用した(エフェクター:標的の比率、100:1)。hRS7 IgGが関与するADCCを、hRS7-Pro-2-PDox、hRS7-CL2A-SN-38、及び還元して末端保護したhRS7-NEMと比較した。全て33.3nMで用いた。
【0214】
全体活性は低いが有意であった(データは省略)。hRS7-Pro-2-PDoxと比較して有意差のなかったhRS7 IgGに、8.5%特異的溶解が認められた。それら両方は、hLL2対照及びhRS7-NEMならびにサシツズマブゴビテカンと比較して有意に優れていた(P<0.02、両側t検定)。hRS7-NEMとサシツズマブゴビテカンの間に差異は認められなかった。
【0215】
実施例4.多種多様な上皮癌に対する抗Trop-2-SN-38 ADCの効果(インビボ)
抄録
この試験の目的は、いくつかのヒト固形腫瘍タイプに対するSN-38抗Trop-2(hRS7)ADCの効果を評価すること、及び、マウス及びサルにおけるSN-38抗Trop-2(hRS7)ADCの忍容性(後者においては、ヒトに類似のhRS7に対する組織交差反応性が認められた)を評価することであった。2種のSN-38誘導体、CL2-SN-38及びCL2A-SN-38を、抗Trop-2ヒト化抗体、hRS7にコンジュゲートさせた。それらADCを、安定性、結合性及び細胞傷害性について、インビトロでキャラクタライズした。Trop-2抗原を発現した5種の異なるヒト固形腫瘍異種移植モデルを用いて、効果を試験した。マウス及びカニクイザルを用いて毒性を評価した。
【0216】
2種のSN-38誘導体のhRS7複合体は、薬物置換(約6)、細胞結合性(K、約1.2nmol/L)、細胞傷害性(IC50、約2.2nmol/L)及びインビトロ血清中安定性(t/1/2、約20時間)において同等であった。細胞をADCに曝すとPARP切断をもたらすシグナル伝達経路が認められたが、遊離SN-38と比較して、p53及びp21の上方制御に差異が認められた。非標的化対照ADCと比較した際、Calu-3腫瘍(P≦0.05)、Capan-1腫瘍(P<0.018)、BxPC-3腫瘍(P<0.005)、及びCOLO 205腫瘍(P<0.033)を有するマウスにおいて、非毒性用量のサシツズマブゴビテカンが有意な抗腫瘍効果をもたらした。マウスは、ALT及びASTの肝酵素レベルを短期間上昇させただけで、2 x 12mg/kg(SN-38当量)の用量に耐性を示した。2 x 0.96mg/kgを注入したカニクイザルは、単に一時的な血球数減少を示したが、重要なことに、その値は正常範囲未満には低下しなかった。
【0217】
要約すると、抗Trop-2 hRS7-CL2A-SN-38 ADCは、ある種のヒト固形腫瘍タイプに対する有意かつ特異的な抗腫瘍効果をもたらした。ヒトと類似した組織Trop-2発現を有するサルは、臨床的に意義のある用量において、十分に耐性を示した。
【0218】
緒言
固形腫瘍を有する患者において奏効するイリノテカン治療は、大部分において、活性なSN-38代謝物へのCPT-11プロドラッグの低変換率により、限定的なものであった。この変換の必要性をバイパスしてSN-38を受動的に腫瘍へと送達するための方法として、非標的化形態のSN-38が試験されている。本発明者らは、SN-38を、ヒト化抗Trop-2抗体、hRS7に共有結合でコンジュゲートさせた。この抗体薬物複合体は、ある種のs.c.ヒトがん異種移植モデル(非小細胞肺癌、膵臓癌、結腸癌及び扁平上皮細胞肺癌を含む)に特異的な抗腫瘍効果(全て非毒性用量(例えば、≦3.2mg/kgの累積SN-38等用量)で)を有している。Trop-2は多くの上皮癌において広く発現しているが、一部の正常組織においても発現しているため、カニクイザルにおける用量漸増試験を実施してこの複合体の臨床的安全性を評価した。サルは、軽微で可逆的な毒性を示すだけで、24mg SN-38当量/kgに耐性を示した。その腫瘍標的化プロファイル及び安全性プロファイルにより、サシツズマブゴビテカンは、イリノテカンに反応を示す固形腫瘍の管理において著しい改善をもたらしている。
【0219】
原料及び方法
細胞株、抗体及び化学療法剤-この試験に使用した全てのヒトがん細胞株は、American Type Culture Collectionから購入した。これらには、Calu-3(非小細胞肺癌)、SK-MES-1(扁平上皮細胞肺癌)、COLO 205(結腸腺癌)、Capan-1及びBxPC-3(膵腺癌)、ならびにPC-3(前立腺癌)が含まれる。Immunomedics,Inc.において、ヒト化RS7 IgG抗体、ならびに、対照のヒト化抗CD20(hA20 IgG、ベルツズマブ)抗体及び抗CD22(hLL2 IgG、エプラツズマブ)抗体を作製した。イリノテカン(20mg/mL)は、Hospira,Inc.から入手した。
【0220】
SN-38 ADC及びインビトロ態様-CL2-SN-38の合成については上で記載している(Moon et al.,2008,J Med Chem 51:6916-26)。hRS7 IgGへのそのコンジュゲート及び血清中安定性については、上記のとおり実施した(Moon et al.,2008,J Med Chem 51:6916-26;Govindan et al.,2009,Clin Chem Res 15:6052-61)。上記実施例に記載のとおり、CL2A-SN-38(M.W.1480)及びそのhRS7複合体の調製、安定性試験、結合性試験及び細胞傷害性試験を実施した。
【0221】
インビボ治療試験-全ての動物実験において、SN-38 ADC及びイリノテカンの用量は、SN-38当量で示される。6の平均置換比率(SN-38/IgG)を基準とすると、20gマウスへの500μg ADCの用量(25mg/kg)は、0.4mg/kgのSN-38を含有している。イリノテカンの用量も同様に、SN-38当量として示される(すなわち、40mgイリノテカン/kgは、24mg/kgのSN-38と同等である)。
【0222】
NCr雌無胸腺ヌード(nu/nu)マウス(4~8週齢)及び雄Swiss-Websterマウス(10週齢)をTaconic Farms.から購入した。SNBL USA,Ltd.において、カニクイザル(Macaca fascicularis、2.5~4kgの雄及び雌)の忍容性試験を実施した。
異なるヒトがん細胞株を動物に皮下移植した。キャリパーを使用した2寸法測定法により、腫瘍容積(TV)を測定した(容積はL x w/2と定義され、式中、Lは腫瘍の最長寸法であり、wは腫瘍の最短寸法である)。治療開始時の腫瘍サイズは、0.10~0.47cmであった。それぞれの実験における治療レジメン、用量、及び、動物の数については、結果に記載している。凍結乾燥させたサシツズマブゴビテカン及び対照ADCを、必要に応じ、滅菌生理食塩水で戻して希釈した。イリノテカンを除く全ての試薬を腹腔内投与(0.1mL)した(イリノテカンは静脈内投与した)。投与レジメンは、本発明者らの先行研究(様々な期間長にわたり、3日おきまたは週に2回、ADCを投与)(Moon et al.,2008,J Med Chem 51:6916-26;Govindan et al.,2009,Clin Chem Res 15:6052-61)の影響を受けた。この投与頻度は複合体のインビトロ血清中半減期への配慮を反映しており、ADCへのより持続的な曝露を可能とした。
【0223】
統計-増殖曲線を、初期TVからの経時的なパーセント変化として示す。腫瘍増殖の統計解析は、曲線下面積(AUC)を基準とした。線形曲線モデリングにより、個々の腫瘍増殖プロファイルを得た。増殖曲線の統計解析前に群間の等分散性を検定するために、F検定を採用した。生理食塩水対照を除く様々な治療群及び対照群間の統計的有意性を評価するために両側t検定を使用した一方で、片側t検定を使用した(有意性、P≦0.05)。増悪により群内の最初の動物を安楽死させる時点となるまで、AUCの統計比較を実施した。
【0224】
薬物動態及び体内分布-111In放射能標識したサシツズマブゴビテカン及びhRS7 IgGを、s.c.SK-MES-1腫瘍(約0.3cm)を有するヌードマウスに注入した。1つの群に20μCi(250μgのタンパク質)の111Inサシツズマブゴビテカンを静注し、その一方で、別の群に20μCi(250μgのタンパク質)の111In hRS7 IgGを投与した。様々な時点において、マウス(時点毎に5匹)に麻酔を行い、心臓内穿刺で採血してから、安楽死させた。腫瘍及び様々な組織を取り出してから、重さを量り、γシンチレーションでカウントして、組織1グラムあたりのパーセント注入量(%ID/g)を求めた。第3の群に250μgの非標識サシツズマブゴビテカンを注入した3日後に、111Inサシツズマブゴビテカンを投与し、同様に剖検した。両側t検定を使用して、F検定を用いた等分散性の検定後におけるサシツズマブゴビテカンとhRS7 IgGの取り込みを比較した。WinNonLinソフトウェア(Parsight Corp.)を使用して、血液クリアランスに関する薬物動態解析を実施した。
【0225】
Swiss-Websterマウス及びカニクイザルにおける忍容性-簡潔に説明すると、結果に記載するとおりに、マウスを4群に分類して、0日目及び3日目に、それぞれの群に、酢酸ナトリウム緩衝液対照または3つの異なる用量(4、8または12mg/kgのSN-38)のサシツズマブゴビテカンのいずれかで2mLのi.p.注入を行ってから、血液及び血清を採取した。カニクイザル(雄3匹及び雌3匹、2.5~4.0kg)に、2つの異なる用量のサシツズマブゴビテカンを投与した。用量、回数、及び、発生し得る血液毒性を評価するために採血したサルの数、ならびに、血清化学検査については、結果に記載している。
【0226】
結果
hRS7-SN-38の安定性及び力価-2種類の異なる結合部を用いて、SN-38をhRS7 IgGにコンジュゲートさせた(図示せず)。第1の結合部はCL2-SN-38と呼ばれ、上に記載している(Moon et al.,2008,J Med Chem 51:6916-26;Govindan et al.,2009,Clin Chem Res 15:6052-61)。リンカー内部のフェニルアラニン部分を除去するCL2合成の変化を利用して、CL2Aリンカーを調製した。この変化により合成が簡略化されるが、コンジュゲート結果には影響を与えなかった(例えば、CL2-SN-38とCL2A-SN-38の両方には、IgG分子毎に約6つのSN-38が導入された)。並列比較において、血清中安定性、抗原結合性またはインビトロ細胞傷害性に有意差は認められなかった。CL2内のフェニルアラニン残基が、リソソームプロテアーゼ用のカテプシンBの設計開裂部位の一部であるため、この結果は驚くべきものであった。
【0227】
SN-38リンカーがCL2からCL2Aへと変化したことが、インビボ力価に影響を与えなかったことを確認するために、COLO 205腫瘍(図示せず)またはCapan-1腫瘍(図示せず)を有するマウス(両方の試験開始時の腫瘍サイズは0.25cm)において、0.4mg/kgまたは0.2mg/kgのSN-38をそれぞれ週に2回 x 4週間使用して、サシツズマブゴビテカンとhRS7-CL2-SN-38を比較した。サシツズマブゴビテカンとCL2-SN-38複合体の両方は、未治療(AUC14日間 COLO 205モデルにおいて生理食塩水と比較してP<0.002;AUC21日間 Capan-1モデルにおいて生理食塩水と比較してP<0.001)、及び非標的化抗CD20対照ADC、hA20-CL2A-SN-38(AUC14日間 COLO-205モデルにおいてP<0.003;AUC35日間 Capan-1モデルにおいてP<0.002)と比較して、腫瘍増殖を有意に阻害した。Capan-1モデルの試験最終日(140日目)において、サシツズマブゴビテカンで治療したマウスの50%及びhRS7-CL2-SN-38マウスの40%が腫瘍フリーとなった一方で、hA20-ADCで治療した動物のわずか20%が疾患の可視徴候を有さなかった。CL2Aリンカーは、CL2(図示せず)と比較して、より高い効果をもたらした。
【0228】
作用機序-インビトロ細胞傷害性試験は、サシツズマブゴビテカンがいくつかの異なる固形腫瘍株に対するnmol/L範囲のIC50値を有することを示した(表2)。遊離SN-38のIC50は、全ての細胞株において複合体よりも低かった。Trop-2発現とサシツズマブゴビテカンへの感受性の間に明らかな相関はなかったが、ADC対遊離SN-38のIC50比はTrop-2高発現細胞においてより低く、より多くの抗原が存在する場合に薬物を内部移行させる機能が高いということを最も反映していると考えられた。
【0229】
SN-38が細胞内におけるいくつかのシグナル伝達経路を活性化させてアポトーシスを誘導することが知られている(例えば、Cusack et al.,2001,Cancer Res 61:3535-40;Liu et al.2009,Cancer Lett 274:47-53;Lagadec et al.,2008, Br J Cancer 98:335-44)。本発明者らの初期の研究では、インビトロでの初期情報伝達現象(p21Waf1/Cip1及びp53)及び1つの後期アポトーシス現象[ポリADPリボースポリメラーゼ(PARP)の切断]に関与する2種類のタンパク質の発現について試験を行った(データは省略)。BxPC-3において、SN-38がp21Waf1/Cip1発現を20倍増加させる(データは省略)一方で、サシツズマブゴビテカンではわずか10倍の増加(データは省略)となっており、この発見は、この細胞株における遊離SN-38の高い活性と一致する(表2)。しかしながら、サシツズマブゴビテカンは、Calu-3において、遊離SN-38と比較して2倍超、p21Waf1/Cip1発現を増加させた(データは省略)。
【0230】
p53発現において、サシツズマブゴビテカン媒介性シグナル伝達現象と遊離SN-38媒介性シグナル伝達現象の間に大きな相違が認められた(データは省略)。BxPC-3とCalu-3の両方において、遊離SN-38によるp53の上方制御が48時間時点まで明らかとはならなかった一方で、サシツズマブゴビテカンは24時間以内にp53を上方制御させた(データは省略)。加えて、ADCに曝された細胞内のp53発現は、両方の細胞株において、SN-38の場合と比較してより増加していた(データは省略)。興味深いことに、hRS7 IgGはp21Waf1/Cip1発現に対して顕著な影響力を有していなかったにもかかわらず、hRS7 IgGは、BxPC-3とCalu-3の両方においてp53の上方制御を誘導した(48時間の曝露後に限られてはいるが)(データは省略)。後期アポトーシス現象に関して言及すると、SN-38または複合体のいずれかでインキュベートした場合、PARPの切断は両方の細胞株において明らかであった(データは省略)。切断PARPの存在は、BxPC-3の24時間時点においてより多く(データは省略)、そのことは、p21の高発現及びその低いIC50と一致していた。ADCと比較した場合の遊離SN-38によるより高い開裂度合いは、細胞傷害性所見と一致していた。
【0231】
hRS7-SN-38の効果-いくつかのヒトがんにおいてTrop-2が広く発現していることから、いくつかの異なるヒトがんモデルにおける試験(hRS7-CL2-SN-38結合部を使用して開始したが、後ほどCL2A結合部を有する複合体を使用した)を実施した。hRS7-CL2-SN-38を、3日おきに4回、0.04mg SN-38/kgで投与したCalu-3を有するヌードマウスには、当量の非標的化hLL2-CL2-SN-38を投与された動物と比較して、有意に優れた効果があった(それぞれ、TV = 0.14 ± 0.22cm対0.80 ± 0.91cm;AUC42日間 P<0.026(データは省略))。0.4mg/kg SN-38にまで用量を増加させた際に、用量反応が認められた(データは省略)。この高い投与濃度で特異的なhRS7複合体を投与した全てのマウスは、28日以内に「治癒」されて、147日目の試験終了日まで腫瘍フリーを維持した一方で、関連性のないADCで治療した動物の腫瘍は再増殖した(特異的対関連性なしのAUC98日間:P=0.05)。hRS7 IgGとSN-38の混合物を投与されたマウスでは、腫瘍は、56日目までに>4.5倍進行した(TV = 1.10 ± 0.88cm;AUC56日間 hRS7-CL2-SN-38と比較してP<0.006)(データは省略)。
【0232】
ヒト結腸(COLO 205)腫瘍異種移植片及び膵臓(Capan-1)腫瘍異種移植片に対する効果についても試験した。COLO 205腫瘍を有する動物では(データは省略、http://clincancerres.aacrjournals.org/content/17/10/3157.long-F3)、hRS7-CL2-SN-38(0.4mg/kg、q4dx8)は、対照抗CD20 ADC(hA20-CL2-SN-38)またはhRS7 IgGと比較して有意に小さな腫瘍容積(それぞれ、TV = 0.16 ± 0.09cm、1.19 ± 0.59cm、及び1.77 ± 0.93cm;AUC28日間 P<0.016)で、28日間の治療期間にわたり腫瘍の増殖を妨げた。
【表2】
【0233】
マウス血清が、ヒト血清と比較して、より効率的にイリノテカンをSN-38に変換できるため(Morton et al.,2000,Cancer Res 60:4206-10)、イリノテカンのMTD(24mg SN-38/kg、q2dx5)はCOLO 205細胞において、hRS7-CL2-SN-38と同程度有効であったが、イリノテカン中のSN-38用量(2,400μg累積)は、複合体(64μg総量)の37.5倍超であった。
【0234】
Capan-1を有する動物(データは省略)は、hRS7-CL2-SN-38複合体に相当する用量のSN-38を投与した際、イリノテカン単剤に対する有意な効果を示さなかった(例えば、35日目時点の平均腫瘍サイズは、0.4mg SN-38/kgのhRS7-SN-38を投与された動物で0.04 ± 0.05cm対0.4mg/kg SN-38を投与されてイリノテカン治療を受けた動物で1.78 ± 0.62cm;AUC35日間 P<0.001;データは省略)。イリノテカン用量を10倍の4mg/kg SN-38に増加させた際、効果は改善されたが、依然として、0.4mg/kg SN-38投与濃度の複合体と同程度には有意とならなかった(TV = 0.17 ± 0.18cm対1.69 ± 0.47cm、AUC49日間 P<0.001)(データは省略)。等用量の非標的化hA20-CL2-SN-38もまた、イリノテカン治療動物と比較して有意な抗腫瘍効果をもたらしたが、特異的なhRS7複合体は、関連性のないADCと比較して有意に優れていた(TV = 0.17 ± 0.18cm対0.80 ± 0.68cm、AUC49日間 P<0.018)(データは省略)。
【0235】
その後、サシツズマブゴビテカンADCを用いた試験を、2つの別のモデルのヒト上皮癌へと適用した。BxPC-3ヒト膵臓腫瘍を有するマウス(データは省略)では、サシツズマブゴビテカンは更に、生理食塩水もしくは当量の非標的化hA20-CL2A-SN-38(それぞれ、TV = 0.24 ± 0.11cm対1.17 ± 0.45cm、及び1.05 ± 0.73cm;AUC21日間 P<0.001)、または、10倍多いSN-38等用量でイリノテカン(それぞれ、TV = 0.27 ± 0.18cm対0.90 ± 0.62cm;AUC25日間 P<0.004)を用いて治療した対照マウスと比較して、腫瘍増殖を有意に阻害した(データは省略)。興味深いことに、0.4mg/kgのADCで治療したSK-MES-1ヒト扁平細胞肺腫瘍を有するマウス(データは省略)では、腫瘍増殖抑制は、生理食塩水または非コンジュゲートhRS7 IgGよりも優れていたが(それぞれ、TV = 0.36 ± 0.25cm対1.02 ± 0.70cm、及び1.30 ± 1.08cm;AUC28日間 P<0.043)、非標的化hA20-CL2A-SN-38、またはイリノテカンのMTDは、特異的なhRS7-SN-38複合体(データは省略)と同等の抗腫瘍効果をもたらした。全てのマウス試験において、体重減少を基準とすると、hRS7-SN-38 ADCに対して十分に耐性を示した(データは省略)。
【0236】
サシツズマブゴビテカンの体内分布-対応する111In標識基質を使用して、SK-MES-1ヒト扁平上皮細胞肺癌異種移植片を有するマウス(データは省略)におけるサシツズマブゴビテカンまたは非コンジュゲートhRS7 IgGの体内分布を比較した。薬物動態解析を実施して、非コンジュゲートhRS7と比較した、サシツズマブゴビテカンのクリアランスを測定した(データは省略)。ADCは、当量の非コンジュゲートhRS7よりも約40%短い半減期及び平均滞留時間を示して、より早く消失した。それにもかかわらず、このことが腫瘍への取り込み率に与える影響は最小限であった(データは省略)。24時間時点及び48時間時点においては有意差があったが、72時間(取り込みのピーク)付近では、腫瘍内における両方の薬剤量はほぼ同等であった。正常組織の中では、肝臓と脾臓の差異が最も顕著であった(データは省略)。注入後24時間時点において、肝臓内には、hRS7 IgGと比較して>2倍のサシツズマブゴビテカンが存在していた(データは省略)。逆に、脾臓内には、サシツズマブゴビテカンと比較して3倍超の親hRS7 IgG(取り込みピークの48時間時点に存在)が存在していた(データは省略)。その他の組織内における取り込み及びクリアランスは一般的に、血中濃度の差異を反映していた(データは省略)。
【0237】
治療では週に2回の投薬を行うため、最初に0.2mg/kg(250μgのタンパク質)のhRS7 ADCの予備投薬を受けた3日後に111In標識抗体を注入された動物群における腫瘍への取り込み率について試験した。予備投薬マウスにおける111Inサシツズマブゴビテカンの腫瘍への取り込み率は、予備投薬を受けなかった動物と比較して、全ての時点において実質的に低下した(例えば、72時間時点において、予備投薬を受けた腫瘍への取り込み率は12.5% ± 3.8% ID/g、それに対し、予備投薬を受けなかった動物では25.4% ±8.1% ID/g;P=0.0123;データは省略、http://clincancerres.aacrjournals.org/content/17/10/3157.long-F4)。予備投薬は、血液クリアランスまたは組織への取り込み率に対して顕著な影響を与えなかった(データは省略)。これらの試験は、一部の腫瘍モデルにおいて、予備投薬(複数可)を行うことにより、特異的抗体の腫瘍への付着を抑制可能であることを示唆しており、このことが、治療効果の特異性がADC用量の増加に伴って低下し得る理由、及び更なる用量漸増を必要としない理由の説明になると考えられる。
【0238】
Swiss-Websterマウス及びカニクイザルにおけるサシツズマブゴビテカンの忍容性-Swiss-Websterマウスは、最小限で一時的な体重減少を伴い、3日間にわたる2回の投薬(それぞれ4、8及び12mg SN-38/kgのサシツズマブゴビテカン)に耐性を示した(データは省略)。造血毒性は生じず、血清化学検査は、アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST、データは省略)及びアラニントランスアミナーゼ(ALT、データは省略)の上昇を明らかとしただけであった。治療後7日時点において、全3治療群(データは省略)におけるASTが通常濃度(>298U/L)超に上昇した(最大比率のマウスは2 x 8mg/kg群に含まれていた)。しかしながら、治療後15日目までには、ほとんどの動物が正常範囲内に収まった。治療後7日以内におけるALT濃度もまた正常範囲(>77U/L)超であり(データは省略)、15日目までには正常値となることが明らかとなった。全てのこれらのマウスの肝臓は、組織損傷の組織学的エビデンスを示さなかった(データは省略)。腎機能に関して言及すると、治療群におけるグルコース濃度及び塩素濃度だけがやや上昇していた。2 x 8mg/kgで、7匹のマウスのうち5匹のグルコース濃度がわずかに上昇し(273~320mg/dLの範囲、正常値の上限は263mg/dL)、注入後15日目までに正常値に戻った。同様に、2つの最高用量群(2 x 8mg/kg群のうち57%のマウス、及び2 x 12mg/kg群のうち100%のマウス)の塩素濃度もわずかに上昇し(116~127mmol/Lの範囲、正常値の上限は115mmol/L)、注入後15日目まで上昇を維持していた。ほとんどの塩素が消化管による吸収で得られていることから、塩素濃度上昇はまた胃腸毒性の徴候である場合があったが、終了時において、検査した任意の器官系における組織損傷の組織学的エビデンスは認められなかった(データは省略)。
【0239】
マウスが正常組織内においてhRS7のTrop-2標的抗原を発現していないことから、臨床使用におけるhRS7複合体のポテンシャルを明らかにするためのより適切なモデルが必要となった。免疫組織学検査により、ヒトとカニクイザルの両方の複数の組織(乳房、眼、胃腸管、腎臓、肺、卵巣、卵管、膵臓、副甲状腺、前立腺、唾液腺、皮膚、胸腺、甲状腺、扁桃、尿管、膀胱及び子宮(データは省略))における結合性が明らかとなった。この交差反応性を基準として、サルにおける忍容性試験を実施した。
【0240】
2 x 0.96mg SN-38/kgのサシツズマブゴビテカンを投与された群は、注入後から試験終了時にかけて重大な臨床イベントを有していなかった。体重減少は7.3%を超えず、15日目までに馴化体重に戻った。ほとんどの血球数データに一時的な低下が認められたが(データは省略)、その数値は正常範囲を下回らなかった。血清化学検査において異常値は認められなかった。11日目(最後の注入後8日目)に剖検した動物の組織病理学では、造血器官(胸腺、下顎リンパ節及び腸間膜リンパ節、脾臓、ならびに骨髄)、胃腸器官(胃、十二指腸、空腸、回腸、盲腸、結腸及び直腸)、女性生殖器官(卵巣、子宮及び膣)、及び注入部位において微細変化が認められた。これらの変化は微小から中程度までの範囲であり、胸腺及び胃腸管を除く全組織において、回復期の最終日(32日目)までに完全に回復した。胸腺及び胃腸管における変化が完全回復に向かったのは、この時点以降であった(データは省略)。
【0241】
2 x 1.92mg SN-38/kg投与濃度の複合体では、胃腸合併症及び骨髄抑制に起因して1匹が死亡し、この群のその他の動物には、類似してはいるが、2 x 0.96mg/kg群よりも重篤な有害事象が認められた(データは省略)。これらのデータは、複合体の用量制限毒性(すなわち、腸管毒性及び血液毒性)がイリノテカンの用量制限毒性と同一であることを示している。それゆえ、サシツズマブゴビテカンのMTDは、2 x 0.96~1.92mg SN-38/kgであり、これは、ヒト等用量の2 x 0.3~0.6mg/kg SN-38に相当する。
【0242】
考察
Trop-2とは、肺癌、乳癌、結腸直腸癌、膵臓癌、前立腺癌及び卵巣癌を含むほとんどの上皮性腫瘍上で発現するタンパク質のことであり、それゆえ、細胞傷害薬を送達するための潜在的に重要な標的とされている(Ohmachi et al.,2006,Clin Cancer Res 12:3057-63;Fong et al.,2008,Br J Cancer 99:1290-95;Cubas et al.,2009,Biochim Biophys Acta 1796:309-14)。RS7抗体はTrop-2に結合すると内部移行する(Shih et al.,1995,Cancer Res 55:5857s-63s)ため、細胞傷害性物質の直接細胞内送達が可能となる。
【0243】
SN-38は、いくつかの細胞株においてナノモル範囲のIC50値を示す強力なトポイソメラーゼI阻害剤である。SN-38は、プロドラッグであるイリノテカンの活性化形態であり、イリノテカンは結腸直腸癌の治療に用いられ、また肺癌、乳癌及び脳癌に活性を示す。本発明者らは、ADC形態の直接標的化SN-38が、活性化SN-38へのCPT-11の生物学的変換率の低さ及び患者によるばらつきを克服することにより、CPT-11と比較して有意に優れた治療効果を有し得ると推理した(Mathijssen et al.,2001,Clin Cancer Res 7:2182-94)。
【0244】
元のCL2誘導体に挿入されたPhe-Lysペプチドにより、カテプシンBにより起こり得る開裂が可能となった。合成プロセスを簡単に説明するが、CL2A中のフェニルアラニンを除去することによりカテプシンB開裂部位を除去した。興味深いことに、この生成物は、CL2により得られたブロードなプロファイルと比較して、より明確なクロマトグラフィープロファイルを有していた(データは省略)。しかしより重要なことに、この変化は複合体の結合性または安定性に影響を与えなかった。また驚くべきことに、この変化は、並列試験においてわずかな力価上昇をもたらした。
【0245】
ある種の固形腫瘍細胞株に対するhRS7 ADCのインビトロ細胞傷害性は一貫して、nmol/L範囲のIC50値を示していた。しかしながら、遊離SN-38に曝された細胞は、ADCと比較して低いIC50値を示した。遊離SN-38とコンジュゲートSN-38の間のこの相違はまた、ENZ-2208(Sapra et al.,2008,Clin Cancer Res 14:1888-96,Zhao et al.,2008,Bioconjug Chem 19:849-59)及びNK012(Koizumi et al.,2006,Cancer Res 66:10048-56)について報告されている。ENZ-2208では、PEGあたり約3.5~4分子のSN-38を結合させるための分枝鎖PEGを利用しており、一方、NK012は、20重量%のSN-38を含有するミセルナノ粒子である。本発明者らのADCを用いると、腫瘍細胞内におけるTrop-2発現レベルが上昇するにつれて、この相違(すなわち、遊離SN-38対コンジュゲートSN-38の力価比)が減少する。このことは、薬物の標的化送達における利点であることを示唆している。インビトロ血清中安定性に関して言及すると、CL2-SN-38形態のhRS7-SN-38とCL2A-SN-38形態のhRS7-SN-38の両方は、約20時間のt/1/2をもたらした。このことは、ENZ-2208について報告された12.3分間の短いt/1/2(Zhao et al.,2008,Bioconjug Chem 19:849-59)とは対照的ではあるが、24時間後における生理学的条件下でのNK012からのSN-38の57%放出(Koizumi et al.,2006,Cancer Res 66:10048-56)とは類似している。
hRS7-SN-38(CL2-SN-38またはCL2A-SN-38のいずれか)を用いて腫瘍を有するマウスを治療することにより、5つの異なる腫瘍モデルにおいて腫瘍増殖が有意に阻害された。それら腫瘍モデルのうちの4つにおいては腫瘍退縮が認められ、Calu-3について言えば、最高用量のhRS7-SN-38を投与された全てのマウスは、試験の判定時において腫瘍フリーとなった。ヒトの場合とは異なり、マウスにおけるイリノテカンは、血漿エステラーゼによって極めて効率的にSN-38へと変換された(50%超の変換率、ヒトよりもマウスにおいてより効果的に生成)(Morton et al.,2000,Cancer Res 60:4206-10;Furman et al.,1999,J Clin Oncol 17:1815-24)。イリノテカンを10倍超のSN-38濃度または10倍当量のSN-38濃度で投与する場合、hRS7-SN-38は腫瘍増殖を制御する上で有意に優れていた。イリノテカンをそのMTDの24mg/kg q2dx5(37.5倍超のSN-38)で投与する場合のみ、hRS7-SN-38の効果と同等となった。患者において、イリノテカンの生物学的変換が実質的に低いことから、本発明者らは、この利点がサシツズマブゴビテカンに更により有利であると期待した。
【0246】
本発明者らはまた、一部の抗原発現細胞株、例えば、SK-MES-1に対して抗原結合ADCを使用することは、非結合性で関連性のない複合体と比較して、より優れた治療効果を保証しないことを示した。これは異例または予想外な発見ではない。事実、イリノテカンと比較した場合、上で述べた非結合性SN-38複合体は治療効果を高めるため、関連性のないIgG-SN-38複合体は、一定の活性を有すると予想される。このことは、腫瘍が未熟で漏れやすい血管(正常組織と比較して巨大分子をより通す)を有するという事実に関係している(Jain,1994,Sci Am 271:58-61)。本発明者らの複合体を用いると、pHがリソソーム濃度を模倣するレベル(例えば、37℃でpH5.3;データは省略)にまで低下する場合、SN-38の50%が約13時間以内に放出される。その一方、血清の中性pHでは、放出速度はほぼ2倍低下する。関連性のない複合体が酸性の腫瘍微小環境に入る場合、一部のSN-38を局所的に放出することが予想される。その他の因子、例えば、腫瘍の生理機能、及び薬剤に対する腫瘍の固有感受性はまた、この「ベースライン」活性を決定する役割を果たしている。しかしながら、長い滞留時間を有する特異的な複合体は、特異的抗体を捕捉するための抗原が十分存在する限り、このベースライン応答にわたり高力価を有するはずである。SK-MES-1モデルにおける体内分布試験はまた、連続的な投薬の結果として腫瘍抗原が飽和状態となった場合、特異的複合体の腫瘍への取り込み率が低下することを示した。それにより、関連性のない複合体にみられる治療結果と同様の治療結果がもたらされる。
【0247】
本発明者らのADCと公開報告のその他SN-38送達物質を直接比較することは困難ではあるが、ある程度全般的な観測は行うことができる。本発明者らの治療研究における個々の最高用量は0.4mg/kgのSN-38であった。Calu-3モデルでは、20gのマウスに、1.6mg/kg SN-38または32μg SN-38の総累積用量を、わずか4回の注入で投与した。ENZ-2208による複数の試験を、10mg/kg x 5のそのMTDを使用して行った(Sapra et al.,2008,Clin Cancer Res 14:1888-96;Pastorini et al.,2010,Clin Cancer Res 16:4809-21)。またNK012による前臨床試験は、30mg/kg x 3のそのMTDを含んでいた(Koizumi et al.,2006,Cancer Res 66:10048-56)。その結果、ENZ-2208及びNK012のそれぞれの報告用量と比較して30倍及び55倍少ないSN-38当量のhRS7-SN-38を使用して、有意な抗腫瘍効果が得られた。10倍少ないhRS7 ADC(0.04mg/kg)であっても有意な抗腫瘍効果が観察された一方、低用量のENZ-2208では示されなかった。またNK012の用量を4倍少ない7.5mg/kgにまで減少させると効果は失われた(Koizumi et al.,2006,Cancer Res 66:10048-56)。標準的なマウスは、1週間にわたる24mg/kg SN-38(1,500mg/kgの複合体)の累積用量では急性毒性を示しておらず、そのことは、MTDがより高いことを意味していた。その結果、腫瘍を有する動物は、7.5~15倍少ない量のSN-38当量で効果的に治療された。
【0248】
体内分布試験により、サシツズマブゴビテカンは親hRS7 IgGとほぼ同等の腫瘍への取り込み率を有しているが、2倍高い肝臓への取り込み率で実質的により早く消失する(SN-38の疎水性に起因し得る)ことが明らかとなった。ADCが肝臓を通過して消失することから、肝毒性及び胃腸毒性は用量制限であると予想された。マウスは肝臓トランスアミナーゼ上昇のエビデンスを有していたが、胃腸毒性はせいぜい軽度であり、体重減少は単に一時的なものであり、また組織病理学的検査で異常は認められなかった。興味深いことに、血液毒性は認められなかった。しかしながら、サルは、イリノテカンで予想されたものと同一の毒性プロファイルを示した(胃腸毒性及び血液毒性は用量制限)。
【0249】
hRS7が認識するTrop-2はマウスにおいて発現していないため、ヒトとほぼ同等のTrop-2組織発現を有するサルで毒性試験を実施することが重要であった。サルは、軽度な毒性及び可逆的な毒性を有しつつ0.96mg/kg/用量(約12mg/m)に耐性を示したが、その用量は、ヒト用量の約0.3mg/kg/用量(約11mg/m)と推定される。NK012の第I相臨床試験において、固形腫瘍を有する患者は、グレード4の好中球減少症を発症しつつ、用量制限毒性(DLT;Hamaguchi et al.,2010,Clin Cancer Res 16:5058-66)となる2週間おきの28mg/mのSN-38に耐性を示した。同様に、ENZ-2208を用いた第I相臨床試験では、用量制限の発熱性好中球減少症が明らかとなった(患者がG-CSFの投与を受ける場合、10mg/mを2週間おき、または16mg/mの投与を推奨)(Kurzrock et al.,AACR-NCI-EORTC International Conference on Molecular Targets and Cancer Therapeutics;2009 Nov 15-19;Boston,MA;Poster No C216;Patnaik et al.,AACR-NCI-EORTC International Conference on Molecular Targets and Cancer Therapeutics;2009 Nov 15-19;Boston,MA;Poster No C221)。サルが累積ヒト等用量の22mg/mに耐性を示したため、hRS7が多数の正常組織に結合するものの、hRS7 ADC単剤治療のMTDは、非標的化SN-38薬剤のMTDとほぼ同等であり得ると思われる。実際、抗Trop-2抗体の毒性プロファイルがイリノテカンの毒性プロファイルとほぼ同等であったため、抗Trop-2抗体の特異性はDLTの決定に役割を果たさないと思われた。より重要なことだが、ヒト等用量のちょうど0.03mg SN-38当量/kg/用量に効果を示したマウスと同様の抗腫瘍活性がヒトにおいて達成可能であるならば、有意な抗腫瘍効果が臨床的に認識され得るだろう。
【0250】
結論として、マウスのインビボヒトがん異種移植モデルと組み合わせたサルの毒性試験は、Trop-2を標的とするこのADCが異なる上皮由来のいくつかの腫瘍に対する有効な治療薬であることを示している。
【0251】
実施例5.抗Trop-2抗体の細胞結合アッセイ
ヒトTrop-2に対する2種類の異なるマウスモノクローナル抗体を、ADCコンジュゲート用に得た。第1の162-46.2を、ローラーボトル内で増殖させたハイブリドーマ(ATCC、HB-187)から精製した。第2の抗体であるMAB650は、R&D Systems(Minneapolis,MN)から購入した。結合性を比較するために、Trop-2陽性ヒト胃癌であるNCI-N87を標的として使用した。結合アッセイの前日に、細胞(1.5 x 10/ウェル)を96ウェルプレートに播種した。翌朝、162-46.2、MAB650及びマウスRS7(0.03~66nM)を用いて、用量/反応曲線を作成した。これらの一次抗体を細胞と、4℃で1.5時間インキュベートした。ウェルを洗浄してから、抗マウスHRP二次抗体を全てのウェルに加え、4℃で1時間放置した。再度ウェルを洗浄してから、蛍光基質を加えた。Envisionプレートリーダを用いてプレートを読み、相対蛍光単位の数値を記録した。
【0252】
全3種の抗体は、ほぼ同等のK値(RS7で0.57nM、162-46.2で0.52nM、またMAB650で0.49nM)を有していた。しかしながら、162-46.2及びMAB650の最大結合量(Bmax)をRS7の最大結合量(Bmax)と比較すると、それらはそれぞれ25%、50%減少しており(RS7でBMax 11,250、162-46.2でBMax 8,471、またMAB650でBMax 6,018)、RS7と比較して異なる結合特性を示していた。
【0253】
実施例6.抗Trop-2 ADC(MAB650-SN-38)の細胞傷害性
SN-38及びMAB650を使用して、6.89の平均置換比率(薬物/抗体)を有する新規抗Trop-2 ADCを調製した。2種類の異なるヒト膵腺癌細胞株(BxPC-3及びCapan-1)及びヒトトリプルネガティブ乳癌細胞株(MDA-MB-468)を標的として用いて細胞傷害性アッセイを実施し、MAB650-SN-38とサシツズマブゴビテカンADCを比較した。
【0254】
ADCを加える1日前に、組織培養液から細胞を回収して96ウェルプレートに播種した。翌日、3.84 x 10-12~2.5 x 10-7Mの薬物範囲で、細胞を、サシツズマブゴビテカン、MAB650-SN-38及び遊離SN-38に曝した。MAB650-SN-38とタンパク質等用量の非コンジュゲートMAB650を対照として使用した。プレートを37℃で96時間インキュベートした。このインキュベート期間後、MTS基質を全プレートに加え、未処理細胞が約1.0のOD492nmに達するまで、30分間隔で色の発現を読んだ。Microsoft Excel及びPrismソフトウェア(非線形回帰を用いて、IC50値を算出するシグモイド用量反応曲線を作成)を使用し、増殖抑制を、未処理細胞と比較した増殖パーセントとして測定した。
【0255】
サシツズマブゴビテカン及びMAB650-SN-38は、これら細胞株におけるSN-38-ADCでは標準的な低nM範囲のIC50値を有し、ほぼ同等の増殖抑制効果を有していた(データは省略)。ヒトCapan-1膵腺癌細胞株(データは省略)において、サシツズマブゴビテカンADCは、MAB650-SN-38 ADCの4.1nM、及び遊離SN-38の1.0nMと比較して、3.5nMのIC50を示した。ヒトBxPC-3膵腺癌細胞株(データは省略)において、サシツズマブゴビテカンADCは、MAB650-SN-38 ADCの3.0nM、及び遊離SN-38の1.0nMと比較して、2.6nMのIC50を示した。ヒトNCI-N87胃腺癌細胞株(データは省略)において、サシツズマブゴビテカンADCは、MAB650-SN-38 ADCの4.1nM、及び遊離SN-38の4.3nMと比較して、3.6nMのIC50を示した。
【0256】
要約すると、これらインビトロアッセイにおいて、2種類の抗Trop-2抗体(hRS7及びMAB650)のSN-38複合体は、いくつかの腫瘍細胞株に対して同等の効果(遊離SN-38の効果とほぼ同等)を示した。抗Trop-2抗体の標的化能が、インビトロと比較してインビボではるかに影響を及ぼす因子となることから、サシツズマブゴビテカンに関する上記実施例に示すとおり、データは、抗Trop-2-SN-38 ADCの部類がインビボで極めて有効となることを裏付けている。
【0257】
実施例7.抗Trop-2 ADC(162-46.2-SN-38)の細胞傷害性
SN-38及び162-46.2を使用して、6.14の置換比率(薬物/抗体)を有する新規抗Trop-2 ADCを調製した。2種類の異なるTrop-2陽性細胞株(BxPC-3ヒト膵腺癌及びMDA-MB-468ヒトトリプルネガティブ乳癌)を標的として用いて細胞傷害性アッセイを実施し、162-46.2-SN-38とhRS7-SN-38 ADCを比較した。
【0258】
ADCを加える1日前に、組織培養液から細胞を回収して、ウェルあたり2000細胞で96ウェルプレートに播種した。翌日、3.84 x 10-12~2.5 x 10-7Mの薬物範囲で、細胞を、サシツズマブゴビテカン、162-46.2-SN-38または遊離SN-38に曝した。それぞれ162-46.2-SN-38及びサシツズマブゴビテカンと同一タンパク質等用量の非コンジュゲート162-46.2及び非コンジュゲートhRS7を対照として用いた。プレートを37℃で96時間インキュベートした。このインキュベート期間後、MTS基質を全プレートに加え、未処理対照ウェルが約1.0のOD492nm測定値を示すまで、30分間隔で色の発現を読んだ。Microsoft Excel及びPrismソフトウェア(非線形回帰を用いて、IC50値を算出するシグモイド用量反応曲線を作成)を使用し、増殖抑制を、未処理細胞と比較した増殖パーセントとして測定した。
【0259】
162-46.2-SN-38 ADCは、サシツズマブゴビテカンと比較してほぼ同等のIC50値を示した(データは省略)。BxPC-3ヒト膵腺癌細胞株(データは省略)に対して試験を行ったとき、サシツズマブゴビテカンは、162-46.2-SN-38の10.6nM、及び遊離SN-38の1.6nMと比較して、5.8nMのIC50を示した。MDA-MB-468ヒト乳腺癌細胞株(データは省略)に対して試験を行ったとき、サシツズマブゴビテカンは、162-46.2-SN-38の6.1nM、及び遊離SN-38の0.8nMと比較して、3.9nMのIC50を示した。遊離抗体単独では、Trop-2陽性癌細胞株のいずれかに対してほとんど細胞傷害性を示さなかった。
【0260】
要約すると、同一の細胞傷害性薬物にコンジュゲートした3種類の異なる抗Trop-2抗体のインビトロでの効果を比較した際、全3種のADCは、様々なTrop-2陽性がん細胞株に対して同等の細胞傷害効果を示した。これらのデータは、抗Trop-2抗体(薬物コンジュゲートADC中に組み込まれる)の部類が、Trop-2発現固形腫瘍に有効な抗がん治療薬であることを裏付けている。
【0261】
実施例8.SN-38にコンジュゲートしたhRS7抗体を含むIMMU-132(サシツズマブゴビテカン)抗Trop-2 ADCを用いた臨床試験
要約
本実施例では、第I相臨床試験、及び、IMMU-132(pH感受性リンカーでSN-38にコンジュゲートした内部移行、ヒト化、hRS7抗Trop-2抗体のADC)(平均薬物-抗体比 = 7.6)を用いた進行中の第II相継続試験の結果について報告する。Trop-2とは、多くのヒトがんが高密度(約1 x 10)で頻繁に特異的に発現する、カルシウムを変換するI型膜貫通タンパク質(正常組織における発現は限定的)のことである。Capan-1ヒト膵臓腫瘍異種移植片を有するヌードマウスでの前臨床試験では、IMMU-132が最大耐量のイリノテカン治療薬に由来する量と比較して120倍超ものSN-38を腫瘍に送達可能であること、が明らかとなった。
【0262】
本実施例では、複数の前治療(一部トポイソメラーゼI/II阻害剤を含む)に失敗した25名の患者に関する最初の第I相試験、及び、69名の患者(結腸癌(CRC)、小細胞肺癌及び非小細胞肺癌(それぞれSCLC、NSCLC)、トリプルネガティブ乳癌(TNBC)、膵臓癌(PDC)、食道癌、及びその他のがんを含む)について現在報告中の、進行中の第II相継続試験について報告する。
【0263】
以下で詳細に説明するとおり、Trop-2は、血清中には検出されなかったが、ほとんどの保管腫瘍で強く発現していた(≧2 免疫組織化学染色法)。3+3試験デザインでは、反復21日サイクルの1日目及び8日目にIMMU-132を投与した(8mg/kg/用量で開始して、その後、用量制限の好中球減少症となる前に12mg/kg及び18mg/kg)。延期を最小化させつつ累積治療を最適化するために、第II相では、8mg/kg及び10mg/kg(それぞれ、n=30及び14)に焦点を絞った。この時点で関連AEと報告された49名の患者のうち、28%が≧グレード3の好中球減少症を発症した(グレード4は4%)。これらの患者に最初に現れた最も一般的な非血液毒性は、疲労(55%;≧G3=9%)、悪心(53%;≧G3=0%)、下痢(47%;≧G3=9%)、脱毛症(40%)及び嘔吐(32%;≧G3=2%)であり、脱毛症はまた頻繁に発症した。ホモ接合性UGT1A1 28/28が6名の患者に見つかり、うち2名がより重篤な血液毒性及びGI毒性を有していた。
【0264】
第I相及び拡大相では、現在、RECIST/CTで最良効果と評価される48名の患者(PDCを除く)が存在している。患者のうち7名(15%)は部分寛解(PR)を示し、患者の内訳は、CRC(N=1)、TNBC(N=2)、SCLC(N=2)、NSCLC(N=1)及び食道癌(N=1)であった。また別の27名の患者(56%)は安定(SD)を示した。38名の患者全員(79%)には疾患応答が認められた。13名のCTで評価可能なPDC患者のうち8名の患者(62%)はSDを示し、患者らの前回の前治療における8.0週間と比較して、12.7週間の平均無増悪期間(TTP)を示した。残る48名の患者におけるTTPは、12.6+週間(6.0~51.4週間の範囲)である。血漿中のCEA及びCA19-9は、血中におけるこれら抗原の力価が上昇した患者の反応と相関していた。何ヶ月にもわたって投薬を行ったにもかかわらず、抗hRS7抗体または抗SN-38抗体は検出されなかった。
【0265】
複合体は3日間以内に血清中から消失したが、このことは、インビボ動物試験と一致していた。インビボ動物試験において、SN-38の50%は毎日放出され、血清中のSN-38の>95%は非グルクロン酸抱合形態でIgGに結合し、また、イリノテカンを投与された患者において報告されたSN-38と比較して、100倍を超えるほどの濃度であった。これらの結果は、管理可能な下痢及び好中球減少症を有しつつも、サシツズマブゴビテカンが転移性固形がんにおいて治療的に有効であることを示している。
【0266】
薬物動態
2つのELISA法を用いて、IgGのクリアランス(抗hRS7イディオタイプ抗体による補足)及びインタクト複合体のクリアランス(抗hRS7イディオタイプ抗体を有する抗SN-38 IgG/プローブによる補足)を測定した。HPLCを用いてSN-38を測定した。全IMMU-132部分(インタクト複合体)はIgGよりも急速に消失した(データは省略)。このことは、周知である、複合体からのSN-38の徐放を反映している。SN-38のHPLC測定(非結合性及び全体)により、血清中における>95%のSN-38がIgGに結合していることが示された。低濃度のSN-38Gは、IgGに結合したSN-38がグルクロン酸抱合から保護されていることを示唆している。複合体のELISAとSN-38のHPLCを比較することにより、双方のオーバーラップが明らかとなった。このことは、ELISAが、SN-38のクリアランスをモニターするための代用法であることを示唆している。
【0267】
【表3】
【0268】
臨床試験ステータス
平均3種類の前治療暦があり多種多様な転移性がんを有する合計69名の患者(第I相の25名の患者を含む)について記録した。8名の患者に臨床増悪が認められ、CT評価前に中止した。13名のCTで評価可能な膵臓癌患者については、個々に記録した。PDC患者の平均TTP(無増悪期間)は、最後の前治療による平均8週間のTTPと比較して、11.9週間(2~21.4週間の範囲)であった。
【0269】
多種多様ながんを有する合計48名の患者は、そこから最良効果(データは省略)及び無増悪期間(TTP、データは省略)を判定する、少なくとも1回のCT評価を受けた。TNBC(トリプルネガティブ乳癌)を有する8名の評価可能な患者における最良効果データを集計すると、2名がPR(部分寛解)、4名がSD(安定)、2名がPD(進行)であり、効果判定[PR+SD]の合計は6/8(75%)であった。SCLC(小細胞肺癌)を有する4名の評価可能な患者においては、2名がPR、SDは該当せず、2名がPDであり、効果判定の合計は2/4(50%)であった。CRC(結腸直腸癌)を有する18名の評価可能な患者においては、1名がPR、11名がSD、6名がPDであり、効果判定の合計は12/18(67%)であった。食道癌を有する4名の評価可能な患者においては、1名がPR、2名がSD、1名がPDであり、効果判定の合計は3/4(75%)であった。NSCLC(非小細胞肺癌)を有する5名の評価可能な患者においては、1名がPR、3名がSD、1名がPDであり、効果判定の合計は4/5(80%)であった。治療した患者全体のうち48名の評価可能な患者においては、7名がPR、27名がSD、14名がPDであり、効果判定の合計は34/48(71%)であった。これらの結果は、抗Trop-2 ADC(hRS7-SN-38)が、ヒト患者における広範囲の固形腫瘍に対して有意な臨床効果を示したことを実証している。
【0270】
記録した治療副作用(有害事象)を表4にまとめる。表4のデータから明白ではあるが、サシツズマブゴビテカンの治療効果は、許容できる低レベルの副作用を示すADC用量により得られた。
【表4】
【0271】
表4に記録した試験は、登録患者261名で今日まで継続している。結果(データは省略)は通常、表4が示す基準に従っており、好中球減少症のみが、試験患者の10%におけるグレード3またはそれ以上の有害事象の発症を示している。全てのその他有害事象について、グレード3またはそれ以上の反応の発症率は、10%未満であった。このことが本ADCを大多数のADCから区別するものであり、特定の実施形態では、本願請求項に記載の方法及び組成物は、多種多様な固形腫瘍に効果を示す抗Trop-2 ADC(好中球減少症以外の全ての有害事象において、グレード3またはそれ以上の有害事象の発症は患者の10%未満)に関する。追跡調査では、ベースライン時の121名の患者由来の合計421の試料、及び入手可能な少なくとも1つの追跡試料について、治療サイクルを繰り返しているにもかかわらず、抗hRS7抗体または抗SN-38抗体による効果は検出されていない。
【0272】
抗Trop-2 ADCによる例示的な部分寛解は、CTデータ(データは省略)により確認された。CRCにおける例示的なPRでは、CRCと初めて診断された62歳の女性が原発性結腸癌の半切除術を受けた。4ヶ月後、彼女は肝転移による肝切除を受け、FOLFOXによる治療を7ヶ月間、また5FUによる治療を1ヵ月間受けた。彼女には、主に肝臓に複数の病変(免疫組織学検査により、3+のTrop-2)が認められ、最初の診断から約1年後、8mg/kgの開始用量でサシツズマブゴビテカン試験を始めた。彼女の最初のCT評価ではPRが得られ、標的病変に37%の縮小が認められた(データは省略)。当該患者は治療を継続し、10ヶ月間の治療後に65%縮小の最大縮小を達成し(781ng/mLから26.5ng/mLにCEAが減少)(データは省略)、その3ヶ月後に増悪した。
【0273】
NSCLCにおける例示的なPRでは、65歳の男性がステージIIIBのNSCLC(扁平上皮細胞)と診断された。7000cGyのXRTと併用したカルボプラチン/エトポシドによる初期治療(3ヶ月間)により、10ヶ月間継続する効果が得られた。その後、彼をタルセバによる維持療法を開始し、IMMU-132試験に加えて腰椎椎弓切除術を受けることを検討することになるまでその維持療法を継続した。彼は、タルセバの5ヶ月後に、初期用量のIMMU-132を投与されたが、その時点において、右肺に大量の胸水を伴う5.6cmの病変が認められた。彼は、最初のCTにおいて原発性標的病変が3.2cmまで縮小したことが認められた(データは省略)2ヶ月後に、6回目の投薬を完了させたばかりであった。
【0274】
SCLCにおける例示的なPRでは、65歳の女性が低分化SCLCと診断された。効果がなく2ヶ月後に終了したカルボプラチン/エトポシド(トポイソメラーゼII阻害剤)の投与後、これもまた効果がなく2ヶ月後に終了したトポテカン(トポイソメラーゼI阻害剤)に続き、彼女は1ヶ月後に終了した局所XRT(3000cGy)を受けた。しかしながら、増悪は翌月まで継続した。患者は翌月IMMU-132(12mg/kg;6.8mg/kgに減量;Trop-2発現 3+)を開始し、IMMU-132の2ヶ月後、標的病変が38%縮小(主要肺病変のかなりの縮小を含む)した(データは省略)。患者は、12回の投薬を受けた3ヶ月後に増悪した。
【0275】
これらの結果は、抗Trop-2 ADCが、複数の前治療に失敗したまたはそれらの後に増悪した患者においてでさえ有効であったことを示すという点で意義深い。結論として、用いた用量における主な毒性は、グレード3程度の毒性を有する管理可能な好中球減少症であった。IMMU-132は、トリプルネガティブ乳癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、結腸直腸癌及び食道癌を有する再発/耐性を示す患者(以前のトポイソメラーゼI阻害剤治療からの再発暦を有する患者を含む)における活性のエビデンス(PR及び長続きするSD)を示した。これらの結果は、現行療法に耐性を示す広範囲のがんにおける抗Trop-2 ADCの有効性を示している。
【0276】
実施例9.異なる抗Trop-2 ADCの効果比較
ヒト胃癌異種移植片(NCI-N87)を有するマウスを用いて、SN-38をコンジュゲートさせたマウス抗Trop-2モノクローナル抗体(162-46.2)の治療効果を、サシツズマブゴビテカン抗体薬物複合体(ADC)と比較した。組織培養液中でNCI-N87細胞を増殖させてから、トリプシン/EDTAで回収した。1 x 10個の細胞がそれぞれのマウスに投与されるように、マトリゲルと1:1で混合した200μLのNCI-N87細胞懸濁液を雌無胸腺ヌードマウスにs.c.注射した。腫瘍サイズが約0.25cmに達した時点(6日後)で、動物を7つの異なる治療群(それぞれ9匹のマウス)へと分割した。2週間にわたり週に1回、500μgのSN-38 ADCをi.v.注射でマウスに投与した。対照マウスには、同一の用量/スケジュールで、非腫瘍標的化hA20-SN-38 ADCを投与した。最後の群のマウスには生理食塩水だけを投与して未治療対照とした。週に2回、腫瘍を測定してマウスの体重を測った。マウスの腫瘍容積が1.0cmのサイズを超えた場合、増悪によりマウスを安楽死させた。
【0277】
SN-38-ADC治療マウスの平均腫瘍容積を測定した(データは省略)。曲線下面積(AUC)を用いて確認したところ、サシツズマブゴビテカンと162-46.2-SN-38の両方は、生理食塩水対照マウス及びhA20-SN-38対照マウスと比較して、腫瘍増殖を有意に阻害した(P<0.001)。サシツズマブゴビテカンを用いた治療では、9匹のマウス中7匹で安定を達成した(18.4 ± 3.3日間の平均無増悪期間(TTP))。162-46.2-SN-38を用いて治療したマウスでは、9匹のマウス中6匹で陽性反応を達成し、残りの3匹は安定を達成した。平均TTPは24.2 ± 6.0日間であり、サシツズマブゴビテカン治療動物と比較して有意に長かった(P=0.0382)。これらの結果は、ヒト胃癌の治療における、異なる抗Trop-2 ADCのインビボ効果を裏付けるものであった。
【0278】
実施例10.抗Trop-2 ADCを用いた、進行した転移性膵臓癌を有する患者の治療
要約
IMMU-132(サシツズマブゴビテカン)は、pH感受性リンカーでSN-38(イリノテカンの活性代謝物)にコンジュゲートした、がん細胞に内部移行する、ヒト化抗Trop-2 hRS7抗体を含む、抗Trop-2 ADC(平均薬物-抗体比 7.6)である。Trop-2とは、膵管腺癌を含む多くの上皮癌が高密度で頻繁に特異的に発現する、カルシウムを変換するI型膜貫通タンパク質(正常組織における発現は限定的)のことである。試験した全29の膵臓腫瘍マイクロアレイ標本は、免疫組織化学試験によればTrop-2陽性であり、またヒト膵臓癌細胞株が115k~891kのTrop-2複製を細胞膜上に発現することが見出された。
【0279】
本発明者らは、13種類の異なる腫瘍タイプを有する患者を登録し3+3デザインを使用したIMMU-132第I相試験の結果について上記で報告した。第I相における用量制限毒性は好中球減少症であった。本試験における24名の評価可能な患者のうち80%超が長期の安定であり、また、結腸直腸癌(CRC)、トリプルネガティブ乳癌(TNBC)、小細胞肺癌及び非小細胞肺癌(SCLC、NSCLC)、ならびに食道癌(EAC)を有する患者に部分寛解(RECIST)が認められた。本実施例では、転移性PDCを有する患者のIMMU-132第I/II相試験コホートの結果について報告する。平均2つの前治療(1~5つの範囲)に失敗したPDCを有する患者に、反復21日サイクルの1日目及び8日目にIMMU-132を投与した。
【0280】
PDC患者のサブグループ(N=15)のうち14名が、以前にゲムシタビンを含むレジメンを受けていた。9名の患者における初期の毒性データでは、好中球減少症[9名のうち3名が≧G3、33%;G4の発熱性好中球減少症症例が1件]が認められ、投与延期または用量減少となった。2名の患者がグレード3の下痢を発症したが、グレード3~4の悪心または嘔吐を発症した患者はいなかった。9名の患者のうち5名が脱毛症(グレード1~2)を発症した。最良効果は14名の患者のうち13名で評価可能であり、8名が8~21.4週間(平均12.7週間;全14名の患者では平均11.9週間)の安定であった。治療継続中の1名の患者は、依然として患者における最初のCT評価を受けていなかった。5名はRECISTにおける進行とされ、1名はただ1回の投与後に、臨床増悪によって、また評価不能とされて中止となった。血清中におけるCA19-9の力価は、安定患者のうち3名で23%減少して72%となった。複数回投与にもかかわらず、IMMU-132またはSN-38に対する抗体反応を起こした患者はいなかった。ピーク血清試料及びトラフ血清試料は、IMMU-132がIgGよりも急速に消失したことを示した。そのことは、腫瘍細胞内におけるSN-38の周知の局所放出に基づいて予想されていた。12mg/kgのIMMU-132を投与された1名の患者由来のピーク試料中におけるIgGに結合したSN-38の濃度は、約4000ng/mLの濃度を示しており、それは、イリノテカン治療を受けた患者で報告されたSN-38力価と比較して40倍高かった。
【0281】
本発明者らは、IMMU-132は、管理可能な好中球減少症及びわずかなGI毒性を有しつつも、複数の前治療に失敗したPDC患者の62%(8/13)において活性(長期安定)であると結論付けた。8~10mg/kgのIMMU-132を21日サイクルの1日目及び8日目に投与する反復治療サイクル(>6)を進行PDC患者に実施してもよく、後の治療サイクルにおいて、若干の用量調節を行ってもよく、または好中球減少症の増殖因子支持薬を用いてもよい。これらの結果は、IMMU-132投与に対する部分寛解及び長期安定を示し、進行したCRC、TNBC、SCLC、NSCLC、EACを有する患者における所見と一致している。要約すると、IMMU-132による単剤治療は、PDCを有する患者(以前よりPDC用のその他治療レジメンに耐性を示す腫瘍を有する患者を含む)における、新規の有効な治療レジメンである。
【0282】
方法及び結果
Trop-2発現-QUANTBRITE(登録商標)PEビーズを用いたフローサイトメトリーで、様々ながん細胞株表面上におけるTrop-2発現を測定した。異なる細胞株中に検出されたTrop-2分子の数の結果は、BxPC-3膵臓癌(891,000)、NCI-N87胃癌(383,000)、MDA-MB-468乳癌(341,000)、SK-MES-1扁平細胞肺癌(27,000)、Capan-1膵臓癌(115,000)、AGS胃癌(78,000)、COLO 205結腸癌(52,000)であった。Trop-2発現はまた、29の膵腺癌組織マイクロアレイのうち29(100%)で認められた(データは省略)。
【0283】
SN-38の滞留性-Capan-1ヒト膵臓癌異種移植片(約0.06~0.27g)を有するヌードマウスにおけるSN-38の滞留性を測定した。イリノテカン40mg/kg(773μg;総SN-38当量 = 448μg)をマウスにIV注射した。この用量はマウスのMTDである。ヒト等用量 = 3.25mg/kgまたは約126mg/mである。または、IMMU-132 1.0mg(SN-38:抗体比 = 7.6;SN-38当量 = 20μg)をマウスにIV注射した。この用量は十分にマウスのMTD未満である。ヒト等用量は、約4mg/kgのIMMU-132(約80μg/kgのSN-38当量)である。間隔毎(イリノテカン注射マウスでは、5分、1、2、6及び24時間時点、またはIMMU-132注射マウスでは、1、6、24、48及び72時間時点)に、3匹の動物の剖検を実施した。組織を抽出してから、SN-38、SN-38G及びイリノテカン用に逆相HPLC分析による解析を行った。またIMMU-132治療動物由来の抽出物を酸加水分解させて、複合体(すなわち、SN-38[全体])からSN-38を遊離させた。結果は、IMMU-132 ADCでは22倍少ないSN-38当量を投与したにもかかわらず、IMMU-132 ADCが、イリノテカンと比較して120倍超のSN-38を腫瘍へと送達するポテンシャルを有していることを示している(データは省略)。
【0284】
【表5】

【0285】
上で要約したプロトコルに従い、患者にIMMU-132を投与した。例示的なケーススタディーは、以下のとおりである。転移性膵臓癌(肝臓)と初めて診断された34歳白人男性は、IMMU-132(21日サイクルの1日目及び8日目に8mg/kg用量を投与)を開始する前に、ゲムシタビン/エルロチニブ/FG-3019、FOLFIRINOX及びGTXを含む複数の化学療法レジメンにおいて増悪していた。良好な症状耐性を有しつつ4ヶ月間にわたり薬物を投与された患者には、疼痛の改善、CA19-9の72%の最大低下(15885U/mLから4418U/mLへ)、及びCT RECIST基準による安定に加え、腫瘍壊死のエビデンスが認められた。肝膿瘍により治療を中止する必要があった。患者は、治療開始後6ヶ月となる約6週間後に死亡した。
【0286】
結論
前臨床試験は、イリノテカン投与時と比較して、IMMU-132が、120倍の量のSN-38をヒト膵臓腫瘍異種移植片へと送達することを示した。多種多様な転移性固形がんを有する患者を登録する大規模試験の一部では、第II相のIMMU-132用量を、主な副作用である管理可能な好中球減少症及び下痢を基準として、8~10mg/kgと決定した。治療サイクルを繰り返しているにもかかわらず、抗抗体または抗SN-38抗体は今日まで検出されていない。
【0287】
平均2つの前治療の後に再発した14名の進行PDC患者の試験では、CTで確認済みの抗腫瘍活性(安定患者の8/13(62%)からなる)が認められた。13名のCT評価可能な患者におけるTTPの平均持続期間は、最後の前治療から概算された8.0週間と比較して、12.7週間であった。このADC、多くの上皮癌に広く認められるTrop-2を標的とする抗体に、腫瘍部位で開裂をもたらすリンカーでコンジュゲートしたナノモル毒性の周知の薬物は、ADCを用いた膵臓癌治療における新しく効果的な戦略を意味している。膵臓癌患者用の現行の標準治療と比較した、膵臓癌患者、特に複数の前治療に耐性を示す患者における無増悪期間の延長は、驚くべきものであり、予測することはできていなかった。
【0288】
実施例11.抗体標的化放射線(放射免疫治療)と抗Trop-2-SN-38 ADCを組み合わせることにより、膵臓癌治療を改善する
本発明者らは以前、ゲムシタビン(GEM)と組み合わせると効果が高まる90Y-ヒト化PAM4 IgG(hPAM4;90Y-クリバツズマブテトラキセタン)を投与したヒト膵臓腫瘍を有するヌードマウスにおける有効な抗腫瘍活性について報告した(Gold et al.,Int J.Cancer 109:618-26,2004;Clin Cancer Res 9:3929S-37S,2003)。これらの試験は、有望な客観的効果を示す、GEMと組み合わせた分割用量90Y-hPAM4 IgGの臨床試験につながった。GEMはその放射線増感能で知られているが、単剤ではあまり有効な膵臓癌治療薬ではなく、その用量は血液毒性により制限される。90Y-hPAM4 IgGもまた血液毒性により制限される。
【0289】
上記実施例で説明したが、SN-38に結合したhRS7 IgGからなる抗Trop-2 ADCは、様々な固形腫瘍において抗腫瘍活性を示す。マウスはこのADCに十分耐性を示し(例えば、≧60mg)、更にわずか4.0mg(0.5mg、週に2回 x 4)だけで有意な治療効果がもたらされる。Trop-2はまた、ほとんどの膵臓癌で発現している。
【0290】
本試験では、0.35cmの皮下異種移植片(ヒト膵臓癌細胞株、Capan-1)を有するヌードマウスを用いて、90Y-hPAM4 IgGとサシツズマブゴビテカンの組み合わせについて試験した。90Y-hPAM4 IgG単剤(130μCi、すなわち、最大耐量(MTD)、または75μCi)による単回投与で、サシツズマブゴビテカン単剤(上記のとおり)による単回投与で、または2剤の組み合わせ(2つの90Y-hPAM4投与濃度、最初のADC注射は90Y-hPAM4と同日に行う)で、マウス(n=10)の治療を行った。≦15%の体重減少を伴いつつも、全ての治療に耐性を示した。ほとんどの動物に客観的な効果が現れたが、それら効果は、それぞれの薬剤を単独で投与した群と比較して、併用群の両方においてより強力に現れた。0.13mCi 90Y-hPAM4 IgG + サシツズマブゴビテカン群内の全ての動物は4週間にわたり腫瘍フリー状態を達成した。その一方で、その他の動物は持続性病変のエビデンスを示し続けた。これらの試験は、放射免疫治療をADCと組み合わせることにより、安全用量での効果が高まることを示す最初のエビデンスを提供する。
【0291】
進行中のPAM4臨床試験では、4週間の臨床治療サイクルを実施する。1週目には、ゲムシタビン投与の少なくとも2日後に、対象に111In-hPAM4を1回投与する。2、3及び4週目には、ゲムシタビン(200mg/m)投与の少なくとも2日後に、対象に90Y-hPAM4を1回投与する。3 x 6.5mCi/mで漸増を開始した。フロントラインの膵臓癌患者における最大耐量は、3 x 15mCi/m(血液毒性は用量制限)であった。22名のCT評価可能な患者のうち、病変制御率(CR+PR+SD)は68%であり、RECIST基準による最良効果は、5名(23%)が部分寛解、10名(45%)が安定となった。
【0292】
抗体薬物複合体(ADC)の調製
SN-38をコンジュゲートさせたhRS7抗体を、上記のとおりに、また上記のプロトコル(Moon et al.J Med Chem 2008,51:6916-6926;Govindan et al.,Clin Cancer Res 2009.15:6052-6061)に従って調製した。SN-38の反応性二官能性誘導体(CL2A-SN-38)を調製した。CL2A-SN-38の式は、マレイミド-[x]-Lys-PABOCO-20-O-SN-38(式中、PABはp-アミノベンジルであり、「x」は短いPEGを含む)である。TCEPで抗体中のジスルフィド結合を還元した後、CL2A-SN-38を還元抗体と反応させて、SN-38をコンジュゲートさせたRS7を調製した。
【0293】
上記(Gold et al.,Clin Cancer Res 2003,9:3929S-37S;Gold et al.,Int J Cancer 2004,109:618-26)のとおり、90Y-hPAM4を調製する。
【0294】
RAIT + ADCの組み合わせ
Trop-2抗原は、ほとんどの上皮癌(肺、乳房、前立腺、卵巣、結腸直腸、膵臓)で発現しており、サシツズマブゴビテカン複合体は、様々なヒトがんマウス異種移植モデルで試験されている。90Y-hPAM4 IgGに加えて放射線を増感する量のGEMを用いた初期の臨床試験は有望であり、腫瘍縮小または安定のエビデンスがある。しかしながら、膵臓癌の治療は非常に難易度が高い。それゆえ、併用療法が優れた効果を誘導するかどうかを明らかにするために、併用療法に関する試験を行った。具体的には、有効でその上非毒性用量のサシツズマブゴビテカンの投与を、90Y-hPAM4 IgGを用いたRAITと組み合わせた。
【0295】
結果は、サシツズマブゴビテカンと90Y-hPAM4の組み合わせが、単剤治療または個別治療の総和のいずれかと比較して、より効果的であることを示した。75μCi用量の90Y-hPAM4では、10匹のマウスのうち1匹だけが20週間の治療後に腫瘍フリーとなり(データは省略)、同一の結果がサシツズマブゴビテカン単剤においても観察された(データは省略)。しかしながら、サシツズマブゴビテカンを90Y-hPAM4と組み合わせると、10匹のマウスのうち4匹が20週間の治療後に腫瘍フリーとなり(データは省略)、残りの対象では、一方の治療単独の場合と比較して、腫瘍容積にかなりの減少が認められた(データは省略)。130μCiの90Y-hPAM4では、違いは更により顕著であり、併用治療群では、RAIT単独群の10匹中5匹と比較して、10匹の動物のうち9匹が腫瘍フリーとなった(データは省略)。これらのデータは、サシツズマブゴビテカンと90Y-hPAM4の組み合わせによる相乗効果を示している。RAIT + ADCは無増悪期間を有意に改善させ、腫瘍フリー治療の頻度を上昇させた。90Y-hPAM4を用いたRAITのMTDにADCとサシツズマブゴビテカンの組み合わせを加えても、治療に応じた動物の体重減少率が示す追加毒性は最小限であった(データは省略)。
【0296】
腫瘍生存に対する個別連続治療の効果は、RAITを最初に実施してからADCを投与すると最適効果が得られるということを示した(データは省略)。対照的に、ADCを最初に投与してからRAITを実施すると、腫瘍フリー動物の出現率は減少する(データは省略)。単剤で投与した場合、非コンジュゲートhPAM4もhRS7抗体も抗腫瘍活性を有していなかった(データは省略)。
【0297】
実施例12.治療に耐性を示す転移性乳癌を治療するためのサシツズマブゴビテカン(IMMU-132)の使用
患者は、2005年に初めて診断され、ステージIVのトリプルネガティブ乳癌(ER/PR陰性、HER-neu陰性)を有する57歳の女性であった。彼女は、2005年に自身の左乳房の乳腺腫瘍摘出術を受けた後、2005年9月に、アジュバント設定Dose-Dense ACTを受けた。その後、彼女は放射線治療を受け始め、11月に終了した。2012年の初期に患者が対側(右)乳房のしこりを触診した際、病変の局所再発が確認され、その後、CMF(シクロホスファミド、メトトレキサート、5-フルオロウラシル)化学療法による治療を受けた。同年、彼女の疾患は、胸壁皮膚における転移性病変を伴って再発した。その後彼女は、カルボプラチン + TAXOL(登録商標)の化学療法レジメンを受け、その間、血小板減少症を発症した。彼女の病変は増悪し、彼女は週に1回のドキソルビシンを開始して、6回の投薬まで継続した。皮膚の病変もまた増悪していた。2012年9月26日のFDG-PETスキャンでは、胸壁及び肥大した固形の腋窩リンパ節における病変の増悪が認められた。患者は、疼痛コントロールのためオキシコドンを投与された。
【0298】
胸壁病変を切開摘出してから、彼女は、2012年10月から2013年2月まで(4ヶ月間にわたって1週間おきに)、Ixempra(登録商標)の投与を受けた。その後、彼女はゼローダ(登録商標)を投与されたが、彼女の手足の神経障害に加え便秘に起因して十分には耐性を示さなかった。皮膚病変が進行性であったため、インフォームドコンセントの実施後、彼女はIMMU-132試験に組み入れられた。患者はまた、高リスクのCNS疾患を伴う(しかしながら、脳MRIではCNS疾患に対して陰性)、甲状腺機能亢進症及び視覚障害の病歴を有していた。この試験への登録時において、彼女の右乳房における皮膚病変(標的)の最大直径は、4.4cm及び2.0cmであった。彼女は、右乳房に別の非標的病変、右腋窩及び左腋窩にそれぞれ1つの肥大リンパ節を有していた。
【0299】
最初のIMMU-132注入(12mg/kg)を2013年3月12日に開始したが、十分に耐性を示した。彼女の2回目の注入は、注入計画日のグレード3絶対好中球数(ANC)減少(0.9)により1週間後に延期された。1週間の延期及びニューラスタ(登録商標)の投与後、彼女の2回目のIMMU-132投与を、用量を25%減少させた9mg/kgで実施した。その後、彼女は、プロトコルに従ったスケジュール(2週間にわたり週に1回、その後1週間の休薬)でIMMU-132の投与を受けた。3回の治療サイクル後における2013年5月17日の彼女の最初の効果判定評価では、標的病変の長径和に、RECIST基準による部分寛解となる43%の減少が認められた。彼女は9mg/kg投与濃度で治療を継続している。彼女の総合的な健康状態及び臨床症状は、IMMU-132による治療を開始してから大幅に改善した。
【0300】
実施例13.耐性を示す転移性小細胞肺癌を治療するためのサシツズマブゴビテカン(IMMU-132)の使用
この実施例は、左肺の縦隔リンパ節、及び、MRIによる左頭頂部脳葉への転移の形跡が認められる、小細胞肺癌と診断された65歳女性に関する。前化学療法にはカルボプラチン、エトポシド及びトポテカンが含まれていたが、効果は認められなかった。放射線治療もまた、彼女の病変の制御に失敗している。その後、彼女は、18mg/kgのIMMU-132を2週間おきに1回、合計5回の注入で投与された。2回目の投薬後、彼女は低血圧症及びグレード2の好中球減少症を起こしたが、次回の注入前に改善した。5回目の注入後のCT検査では、彼女の標的左肺腫瘤に13%の縮小が認められた。脳のMRIでもまた、この転移部に10%の縮小が認められた。彼女は、2週間おきのIMMU-132投薬を更に3ヶ月間継続し、彼女の病状に客観的かつ主観的な改善(左肺腫瘤の25%の縮小、及び脳転移部の21%の縮小)が認められるまで継続した。
【0301】
実施例14.ステージIV転移性病変を有する胃癌患者のサシツズマブゴビテカン(IMMU-132)による治療
この患者は、喫煙履歴、及び40年間にわたる過度のアルコール摂取期間を有する60歳男性であった。彼は、体重減少、制酸薬では軽減しない摂食不快感及び疼痛、頻繁な腹痛、腰部痛、ならびに、直近では、両腋窩の触知可能なリンパ節を発症した。彼は医学的助言を求め、精密検査後、胃内視鏡による生検に基づいて、胃-食道接合部に若干の扁平部を含む腺癌の存在が認められた。放射線学的検査(CT及びFDG-PET)により、右腋窩及び左腋窩、縦隔領域、腰椎、ならびに肝臓(右葉に2つの腫瘍、左葉に1つの腫瘍、全て直径2~4cmの大きさ)における転移性病変もまた明らかとなった。彼は、胃腫瘍の切除後、エピルビシン、シスプラチン及び5-フルオロウラシルによる化学療法のクールに入った。4ヶ月間、及び6週間の休薬期間の後、彼は、ドセタキセル化学療法に切り替えたが、転移性腫瘍のCT測定で確認された増悪、及び一部の全身的な悪化に基づくと、この療法もまた彼の病変の制御に失敗した。
【0302】
それから、患者は、10mg/kg用量のIMMU-132(hRS7-SN-38)を、1週おきに合計6回の用量で注入する治療を受けた後、彼の病変状態を評価するためのCT検査を受けた。これらの注入では、若干の軽度の悪心及び下痢(対症薬物療法で制御)を有しつつも、十分に耐性を示した。CT検査において、彼の指標転移性病変の合計が28%縮小していることが明らかとなったため、彼はこの療法を更に5クール継続した。追跡CT検査により、彼の病変に、IMMU-132治療を行う前のベースライン測定値からRECIST基準で35%の縮小が維持されていることが示され、彼の全身状態も改善していると考えられる。患者は制御中の自身の病変に対する楽観的な態度を取り戻している。
【0303】
実施例15.多種多様なTrop-2陽性がんにおけるIMMU-132の臨床試験
抄録
サシツズマブゴビテカン(IMMU-132、hRS7-CL2A-SN-38としても周知)とは、SN-38(イリノテカンの活性代謝物)を送達するための、Trop-2(ほとんどの上皮性腫瘍上で発現している表面糖タンパク質)を標的とする抗体薬物複合体(ADC)のことである。超毒性薬物及び安定したリンカーを使用するほとんどのADCとは異なり、IMMU-132は、SN-38とリンカーの間の適度に安定したカーボネート結合を有する適度な毒性薬物を使用する。フローサイトメトリー及び免疫組織化学試験により、胃、膵臓、トリプルネガティブ乳癌(TNBC)、結腸、前立腺及び肺を含む広範囲の腫瘍タイプでTrop-2が発現していることが明らかとなった。細胞結合試験では、IMMU-132と親hRS7抗体の間に有意差は認められなかったが、Trop-2 CM5チップを使用した表面プラズモン共鳴解析では、hRS7と比較して、IMMU-132に有意な結合優位性が認められた。複合体は新生児受容体への結合を維持したが、hRS7と比較して、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害活性の60%超を失った。
【0304】
腫瘍細胞を遊離SN-38またはIMMU-132のいずれかに曝すと、同一シグナル伝達経路におけるpJNK1/2及びp21WAF1/Cip1に上方制御が認められ、その後、カスパーゼ9、7及び3による切断が起こり、最終的には、ポリADPリボースポリメラーゼ切断及び二本鎖DNAの切断がもたらされる。マウスにおけるインタクトADCの薬物動態試験では、15.4時間の平均滞留時間(MRT)となる一方で、担体hRS7抗体は非コンジュゲート抗体とほぼ同等の速度で消失する(MRT = 約300時間)ことが明らかとなった。ヒト胃癌異種移植片を有するマウスのIMMU-132治療(17.5mg/kg;週に2回 x 4週間)では、非特異的対照で治療したマウスと比較して、有意な抗腫瘍効果が得られた。臨床的に意義のあるIMMU-132の投薬スキームで、ヒト膵臓癌またはヒト胃癌を有するマウスに、1週おき、週に1回、または週に2回のいずれかで投与した。
【0305】
本第I相試験では、このADCを、様々な転移性固形がんを有する前治療済み患者のための潜在的な治療薬と評価した。特定の実施形態では、使用する治療薬は、イリノテカン(SN-38の親化合物)による治療を含むがこれらに限定されない標準的な抗がん治療に耐性を示すまたは再発することが以前に判明した患者を治療するためものである。これらの結果は驚くべきかつ予想外なものであり、予測することはできていなかった。
【0306】
21日サイクルの1日目及び8日目にサシツズマブゴビテカンを投与し、用量制限毒性または増悪となるまでサイクルを繰り返した。用量漸増は4種類の計画投与濃度の標準的な3+3スキームに従い、投与延期または用量減少は可能とした。25名の患者(52~60歳、平均3つの前化学療法レジメン)を、8(N=7)、10(N=6)、12(N=9)及び18(N=3)mg/kgの投与濃度で治療した。好中球減少症は用量制限であった(1サイクルの最大耐量は12mg/kgであるが、サイクルを繰り返すと毒性が強すぎる)。疲労(N=3)、好中球減少症(N=2)、下痢(N=1)及び白血球減少症(N=1)に限定される治療に関連するグレード4毒性及びグレード3毒性がない場合、延長治療に低用量を許容した。CTによるRECIST 1.1基準を用いると、3名の患者は最良効果として部分寛解(トリプルネガティブ乳癌、小細胞肺癌、結腸癌)を達成し、その他15名は最良効果として安定を示した。これらの患者のうち12名は、16~36週間の継続治療により病変制御を維持した。腫瘍Trop-2発現を基準とした患者の事前選択は実施しなかった。
【0307】
サシツズマブゴビテカンが、治療困難ながんを有する患者に許容可能な毒性及び有望な治療効果をもたらす、有望なADC複合体であることが結論付けられた。8及び10mg/kg用量を第II相試験用に選択した。
【0308】
緒言
異なる超毒性(ピコモル力価)薬物を導入した2種類の新規抗体薬物複合体(ADC)が承認されており、超毒性薬物の使用を含む同様の原理に基づいたその他ADCの更なる開発につながっている(Younes et al.,2011,Nat Rev Drug Discov 11:19-20;Sievers & Senter,2013,Ann Rev Med 64:15-29;Krop & Winer,2014,Clin Cancer Res 20:15-20)。あるいは、Moon et al.(2008,J Med Chem 51:6916-26)及びGovindan et al.(2009,Clin Cancer Res 15:6052-61)は、SN-38(イリノテカンの活性代謝物であるトポイソメラーゼI阻害剤、周知だが複雑な薬物動態を有する承認薬)を選択した(Mathijssen et al.,2001,Clin Cancer Res 7:2182-94)。SN-38をコンジュゲートするためのいくつかのリンカーについて、様々な速度(数時間から数日間)の、IgGからの遊離を評価した(Moon et al.,2008,J Med Chem 51:6916-26;Govindan et al.,2009,Clin Cancer Res 15:6052-61;Cardillo et al.,2011,Clin Cancer Res 17:3157-69)。血清中において中間的なコンジュゲート安定性を示す選択された最適なリンカー(CL2Aと呼ばれる)を、SN-38のラクトン環上のヒドロキシル基に結合させることにより、この環をリンカーに結合させつつも、この環が毒性の少ないカルボキシレート形態へと開環することから保護し、溶解性を高めるための短いポリエチレングリコール部分を導入した(Cardillo et al.,2011,Clin Cancer Res 17:3157-69)。リンカーとSN-38の間のカーボネート結合が開裂する際に活性化形態のSN-38が遊離するが、このことは、リソソームに加え腫瘍微小環境でみられるように、あるいは、酵素分解を介してみられるように、低pHで起こる。
【0309】
このADC用に選択した抗体は、上記で内部移行することを示したヒト化RS7モノクローナル抗体(Stein et al.,1993,Int J Cancer 55:938-46)を利用して、腫瘍関連抗原、Trop-2(栄養膜細胞表面抗原)(Cardillo et al.,2011,Clin Cancer Res 17:3157-69)を標的とした。Trop-2はADCにとって重要な腫瘍標的である。なぜなら、Trop-2は、ほとんどの上皮性腫瘍(特により活動的なタイプ)上で過剰発現しているからである(Ambrogi et al.,2014,PLoS One 9:e96993;Cubas et al.,2009,Biochim Biophys Act 1796:309-14;Trerotola et al.,2013,Oncogene 32:222-33)。Trop-2は多数の正常組織上にも存在しているが、その抗原を発現するサルの前臨床試験において、この新規ADCでは用量制限の好中球減少症及び下痢のみが観察され、Trop-2発現正常組織への顕著な毒性のエビデンスは認められなかった(Cardillo et al.,2011,Clin Cancer Res 17:3157-69)。それゆえ、いくつかのヒト腫瘍異種移植片モデルにおいて活性を示し、広い治療窓を示す前臨床データ(Cardillo et al.,2011,Clin Cancer Res 17:3157-69)を用いて、再発/耐性を示す多種多様な転移性上皮性腫瘍を有し、多数の前治療暦を有する患者におけるこの新規ADCの最大耐量及び最適用量を決定するために、第I相臨床試験を開始した。この試験をClinicalTrials.govに登録した(NCT01631552)。
【0310】
原料及び方法
登録基準-主な目的は、単一薬剤としてのサシツズマブゴビテカン(IMMU-132)の安全性及び忍容性を確認することであった。試験を標準的な3+3第I相デザインとして設計し、注射あたり8mg/kg用量で開始して、3週間の治療サイクルで2週間にわたり週に1回投与した。
【0311】
13種類の異なるタイプの上皮性腫瘍のうちの1つと診断された場合、年齢≧18歳の男性及び妊娠しておらず授乳中ではない女性を適格とした。Trop-2発現を基準とした事前選択は必須ではなかったが、これらの腫瘍は、保管標本の免疫組織学検査に基づいて、>75%の症例でTrop-2発現を示すと予想された。患者は測定可能な転移性病変を有している必要があり(≧5cmの単一病変はない)、その指標における少なくとも1つの承認済み標準化学療法レジメンから再発したまたはそれらに耐性を示した。その他の主要な基準には、相応(グレード≦1)の血液毒性、肝機能毒性及び腎機能毒性、及び、イリノテカンに対するアナフィラキシー反応の履歴がないこと、または、イリノテカン前治療またはトポイソメラーゼI前治療に対するグレード≧3の胃腸毒性の履歴がないこと、が含まれていた。患者がこのような多種多様な病態を有し得たため、前イリノテカン治療は必要条件ではなかった。ジルベール病を有する患者、以前に投与されたイリノテカンに耐性を示さなかった患者、または周知のCNS転移性疾患を有する患者は、除外された。
【0312】
試験デザイン-治療開始前の4週間以内に、血球数、血清化学、バイタルサイン、及び任意の有害事象の定期モニタリングを行い、ベースライン評価を実施した。ベースライン時及びその後の全偶数治療サイクルの開始前時点に採取した試料を用いて、抗抗体反応及び抗SN-38抗体反応をELISAで測定した。治療開始後6~8週間時点で最初のCT検査を実施し、その後、増悪するまで8~12週間の間隔でCT検査を継続した。任意の進行中の治療関連毒性をモニターするためだけに、追加の経過観察を実施した。NCI CTCAE version 4.0を使用して毒性をグレーディングし、RECIST 1.1により効果を評価した。
【0313】
血清中のTrop-2を検出するために、2ng/mLの感度を有するELISAを開発したが、12名の患者に対する試験後にも循環Trop-2のエビデンスが発見されなかったため、更なるスクリーニングについては実施しなかった。適格性基準というわけではないが、ADCの抗体、hRS7が認識するエピトープが、ホルマリン固定パラフィン包埋切片内に保持されていないため、以前に保管した腫瘍の標本については、ヤギポリクローナル抗体抗ヒトTrop-2(R&D Systems,Minneapolis,MN)を使用した免疫組織学検査によるTrop-2測定が必要となった(Stein et al.,1993,Int J Cancer 55:938-46)。以下に記載するとおり染色を実施した。
【0314】
治療レジメン-凍結乾燥サシツズマブゴビテカンを生理食塩水で戻し、2~3時間にわたり注入した(約1.6mgのSN-38を含有する100mgの抗体、7.6:1の平均薬物:抗体比[DAR])。ほとんどの患者は、それぞれの注入を開始する前に、アセトアミノフェン、抗ヒスタミン剤(H1遮断薬及びH2遮断薬)、及びデキサメタゾンの投与を受けた。制吐薬または下痢止め薬の予防的使用は禁止された。連続2回の投与からなる治療を、許容できない毒性または増悪が生じない限りにおいて、最大8サイクル(すなわち、16回の治療)にわたって患者に治療を継続させるつもりで、3週間治療サイクルの1日目及び8日目に行った。8サイクル後に病変の安定化または病変に対する効果を示す患者は、治療継続可能とした。
【0315】
用量制限毒性(DLT)は、任意の持続期間のグレード≧3 発熱性好中球減少症、かなりの出血を伴うグレード3 血小板減少症または≧5日間のグレード4 血小板減少症、最適な内科治療にもかかわらず>48時間持続する任意のグレード3 悪心、嘔吐または下痢、もしくは、任意の持続期間のグレード4(命にかかわる) 悪心、嘔吐または下痢、または、少なくとも試験薬に起因する可能性がある任意のその他グレード≧3 非血液毒性、それに加え、任意のグレード3 注入関連反応の発症とみなされた。
【0316】
最大耐量(MTD)は、最初の治療サイクルに対する患者の耐性に基づいて判定した。計画治療の日にグレード≧2 治療関連毒性(脱毛症を除く)を有する任意の患者の治療は、最大2週間(1週間単位で増やす)にわたり延期した。毒性がグレード≦1に回復したところで、治療を再開した。プロトコルではまた、当初、全ての続く治療用量を減量させる(1週間以内に回復した場合は25%、2週間以内に回復した場合は50%)必要があったが、最初のサイクル後の支持療法を可能とするためにプロトコルを修正した際、試験の後期でこの条件を緩和した。しかしながら、毒性が3週間以内に回復しなかったまたは悪化した場合については、治療を終了した。重要なことに、減量を伴う投与延期ではDLTとならなかったため、治療の継続が可能となった(低用量ではあるが)。それゆえ、治療の継続が可能となった投与延期/用量減少を必要とする患者は、DLTと評価可能であるとはみなされず、その後交代した。
【0317】
DLT事象が全ての更なる治療を終了させるため、第2の目的は、投与遅延または用量減少が最小限である複数サイクルの治療にわたり耐性を示し得る投与濃度を評価することであった。この投与濃度は最大許容量と呼ばれ、第1サイクル中及び第2サイクルの開始に至るまでに延期または減少を伴うことなく、第1サイクルにおける任意の投与濃度に患者が耐性を示すことを必要とする。
【0318】
薬物動態及び免疫原性-注入の終盤(例えば、ピーク)から約30分以内に血液試料を採取してから、それぞれの続く注入(例えば、トラフ)を行った。ELISAを用いて総IgG濃度及び総サシツズマブゴビテカン濃度を測定するために、試料を分離して血清を凍結させた。7名の患者由来の血清試料についても、全体(IgGに結合したSN-38を意味する)と遊離SN-38(すなわち、非結合SN-38)の両方で、SN-38含有量の定量を行った。
【0319】
結果
患者背景-25名の患者を登録した(表6)。平均年齢は52~60歳の範囲であり、76%がECOG 1パフォーマンスステータスであり、残りがECOG 0であった。ほとんどの患者は、転移性膵臓癌(PDC)(N=7)、続いて、トリプルネガティブ乳癌(TNBC)(N=4)、結腸直腸癌(CRC)(N=3)、小細胞肺癌(SCLC)(N=2)、及び胃癌(GC)(N=2)を有しており、食道腺癌(EAC)、ホルモン不応性前立腺癌(HRPC)、非小細胞肺癌(NSCLC)、上皮性卵巣癌(EOC)、腎臓癌、扁桃癌、及び膀胱癌(UBC)の症例がそれぞれ1件であった。
【0320】
17名の患者に由来する保管組織の免疫組織学検査を実施したところ、13点(76.4%)が標本内の>10%の腫瘍細胞上に2+~3+の膜染色及び細胞質染色を示し、3点(17.6%)が陰性であった。いくつかの代表的な症例について以下で開示する。
【0321】
全ての患者は、それぞれの原発性がんに典型的な部位に転移性病変を有する状態で試験に入った。ベースライン時の検査において、CTにより、全患者における最大腫瘍径合計の平均が9.7cm(2.9~29.8cmの範囲)であることが求められ、14名の患者が3つまたはそれ以上の標的病変(全患者にわたる平均 = 4つ、1~10の範囲の病変)を有し、平均2つの非標的病変(範囲 = 0~7つの病変)が確認された。前全身療法数の平均は3であり、7名の患者(PDC及びGCがそれぞれ2名、CRC、TNBC、扁桃がそれぞれ1名)が1つの前治療を有し、7名の患者が5つまたはそれ以上の前治療を有し、11名の患者が前放射線治療を有していた。9名の患者(CRC患者2/3名、PDC患者4/7名、イリノテカンを投与されているEAC患者1名、及びトポテカンを投与されているSCLC患者2/2名)に前トポイソメラーゼI治療を行ったが、それら患者のうちの3名(SCLC患者2名、及びCRC患者1名)は、抗トポイソメラーゼI治療に反応しなかった。更に、23名の患者のうち7名(2名は未確定)は、3ヶ月間の平均持続期間(1~11ヶ月間の範囲)、それら患者の最後の前治療に反応した。
【0322】
CTでRECIST 1.1による決定的な増悪のエビデンスが現れるまでに、ほぼ全員の患者が複数回のサシツズマブゴビテカン治療(平均10回の投与)を受けた。1名の患者は全身悪化により中止となり、1名の患者は、新規病変が認められた最初の経過観察時に標的病変が測定されなかった。
【表6】


【0323】
用量評価-8.0mg/kgの開始用量で登録された3名の患者(CRC 1名、PDC 2名)においては、投与延期または用量減少もDLT事象も認められなかった。第2の用量の投与にプロトコル規定の延期が生じたため、次の投与濃度の12mg/kgには9名の患者を登録した。5名の患者が第1サイクル中に延期された(4名は1週間延期され、2名は骨髄増殖因子支持薬を投与され、1名は第2の用量を投与される前に2週間延期された)。これら患者のうち1名を除く全員は、第2の用量として12mg/kgの投与を受けた。12mg/kg投与濃度における9名の患者のうち4名では、第2サイクルで開始した第3の用量を9mg/kgに減少し、3名の患者では、第2サイクルを更に1週間延期した。これらプロトコル規定の延期/減少にもかかわらず、9名の患者のだれも第1サイクル中に用量制限事象を示さなかった(例えば、1名の患者は第1の用量後に疾患関連グレード3ヘモグロビン症を示し、第1の用量後のグレード3好中球減少症を有する2名の患者は骨髄増殖因子を投与され、支持薬なしで回復した1名は第1の用量後にグレード3好中球減少症を示し、2名は第2の用量後にグレード3好中球減少症を示し、2名の患者は第1の用量または第2の用量の後にグレード2好中球減少症を示し、また1名の患者は有害事象を示さなかった)。その結果、18mg/kgの投与濃度に増加することが可能となった。ここで、全3名の患者は第1の治療後に投与延期を示し、1名の患者だけが18mg/kgで第2の治療を受けた。2名の患者は用量制限のグレード4好中球減少症を示し(1名の患者は第1の用量後に、もう一方の患者は第2の18mg/kg用量後に)、この後者の患者はまた、この用量後にグレード2下痢を示した。その結果、12mg/kgの第1サイクルでDLTを示す患者は0/9であり、この濃度がMTDであることが明言された。
【0324】
治療/サイクル間の最小限の延期で複数サイクルを実施可能な投与濃度を割りだすために、更なる用量探索試験を継続した。そのため、更に4名の患者を8mg/kgの投与濃度で登録し、新しい中間濃度の10mg/kgを開設した。8mg/kgで登録された最初の3名の患者のうち、2名のCRC患者が8mg/kgで治療を継続した(合計31回及び11回の治療)一方で、PDC患者は、8mg/kg用量を3回受けた後、4回目の用量でグレード2好中球減少症を示したことから6mg/kgに用量を減少し、それから、この濃度で更に3回の治療を完了した後、増悪により中止となった。別の4名の患者は、8mg/kgの用量を3~9回受けた後、増悪により中止となった。これら患者のうち2名は、投与を1回だけ受けた後、グレード2発疹及びグレード2好中球減少症により、プロトコル規定で6mg/kgへと減量した。
【0325】
10mg/kgで登録された6名の患者のうち5名は、減量なしで6~30回の投与を受けた後、増悪により中止となった。1名のGC患者(#9)は、1回の投与を受けた後に、グレード3発熱性好中球減少症に加えグレード4ヘモグロビン症を発症した。第1の用量直後に発熱性好中球減少症が発症したことから、発熱性好中球減少症は治療に関連している可能性があると考えられたが、胃内膜における穿孔がグレード4ヘモグロビン症に起因する可能性があることが判明し、グレード4ヘモグロビン症は無関係であると考えられた。最終的に、患者は急速に悪化し、第1の用量から4週間で死亡した。
【0326】
このように、総合的な結果としては12mg/kgをMTDとして支持したが、8~10mg/kgが第1サイクルにおいてより耐性を示し、最小限の毒性で反復サイクルを可能としたことから、第II相臨床試験は、これら2つの投与濃度を評価するために進行している。
【0327】
有害事象-2~3時間にわたるサシツズマブゴビテカンの注入を297回実施した(ほとんどの研究者はそれぞれの注入に先立ち前投薬を選択する)。注入関連有害事象は認められなかった。患者の半数超が、少なくともサシツズマブゴビテカン治療に関連している可能性があると考えられた、疲労、悪心、脱毛症、下痢及び好中球減少症を発症したが、これらの症状はほとんどの場合、グレード1及びグレード2であった(データは省略)。最も報告されたグレード3またはグレード4の毒性は好中球減少症(N=8)であったが、これら患者のうち6名は、最初に12mg/kg及び18mg/kgで治療された。発熱性好中球減少症は2名の患者で発症した(一方は、10mg/kg用量を1回だけ投与された、既に述べたGC患者#9であり、2番目は12mg/kg用量を4回投与されたPDC患者(#19))。下痢はほとんどの患者において軽度であり、3名(12%)だけがグレード3を発症した。2名は12mg/kgの投与濃度で発症し、1名は4回目の投与後に発症し、その他の患者は第1の用量後に発症した(この患者は12mg/kgで更に6回の投与を受けたが、せいぜいグレード2の下痢と報告された)。その後、両方の患者は、一般の下痢止め薬を処方されて治療を継続した。サシツズマブゴビテカンに関連したその他の有意な毒性は認められなかったが、2名の患者がグレード2発疹を有し、3名の患者がグレード1掻痒症を有することが報告された。
【0328】
効果-標的病変の変化、及び治療後に標的病変のCT測定を少なくとも1回受けた患者の無増悪期間のデータを用いて、最良効果を判定した(データは省略)。増悪を示した4名の患者については、追跡CT評価を実施しなかった(N=1)ことから、または新規病変を有さず、それにより標的病変状態に関係なく増悪した(N=3)ことから、グラフに記載していない。総合的には、3名の患者の標的病変に30%超の縮小が認められた(部分寛解、PR)。これら患者のうち2名(#3及び#15)に対して確認用の追跡CTを実施した一方で、3番目の患者(#22)は、12週間後に実施した次回のCTで増悪した。RECIST 1.1による最良効果として、15名の患者は安定(SD)を、また7名の患者は進行(PD)を示した。24名の患者における治療開始時からの平均無増悪期間(治療を1回だけ受けて中止となった1名の患者を除く)は、3.6ヶ月間[範囲、1~12.8ヶ月間]であり、SDまたはPRの全患者(N=18)では、4.1ヶ月間[範囲、2.6~12.8ヶ月間]であった。トポイソメラーゼI阻害剤を含む前治療を受けた9名の患者のうち、2名が標的病変の有意な縮小(28%及び38%)を示し、5名が安定(持続期間の2名(それぞれ、4.1ヶ月間及び6.9ヶ月間)を含む)を示した一方で、2名は最初の評価で増悪した。
【0329】
これらの患者におけるTTPと生存率の比較は、16名の患者(PR(15名の患者(TNBC)、3名の患者(CRC)、及びその他4名のSD患者(2名がCRC、1名がHRPC、1名がTNBC))の2名を含む)が、治療開始から15~20ヶ月間生存したことを示した(データは省略)。放射線効果には、標的病変が>30%縮小した(PR)2名の患者が含まれていた(データは省略)。
【0330】
最良効果がPRである3名の患者に加え、長期的に安定したいくつかの注目に値する症例が認められた。TNBCを有する50歳の患者(患者18;免疫組織学的Trop-2発現=3+)は、わずか3回目の投薬後に13%の縮小を示し、4つの標的病変に19%の縮小(SLDが7.5から6.1cmに減少)が認められた16回目の投薬後に最高点に達し、その後、治療開始から26回目の投薬を受けた45週間後に増悪した。7つの前治療暦(別クールの3つのイリノテカン含有レジメンを含む)があり、CRCを有する63歳の女性(患者10;免疫組織学検査2+)は、10mg/kgのサシツズマブゴビテカンを5回投与された後、5つの標的病変全体に23%の縮小が認められ、最大28%の縮小が認められた18回目の投薬後に最高点に達した。彼女の血漿中CEAは、ベースライン濃度の38.5ng/mLから1.6ng/mLに減少した。25回目の投薬を受けた後(27週間後)、彼女は、SLDのnadirから20%増加しPDを示した。興味深いことに、治療終了時の血漿中CEAはわずか4.5ng/mLであった。HRPCを有する68歳の患者(患者20;免疫組織染色 なし)には、5つの標的病変(13.3cm)及び5つの非標的病変(3つの骨転移部)が認められた。彼は増悪となるまで12.7ヶ月間にわたり34の治療を受けたが、この期間中、PSA濃度は徐々に上昇した。別の注目に値する症例は、6つの前治療(3番目の治療クールである6ヶ月間のFOLFIRIを含む)を受けた食道癌を有する52歳の男性(患者25;免疫組織学検査3+)であった。18mg/kgのサシツズマブゴビテカンで治療を開始したが、好中球減少症により13.5mg/kgに減量した。彼は30週間にわたりSDを示し、増悪するまでに15回の投薬を受けた。肝転移を伴うPDCを有する60歳の女性(#11)を10mg/kgで治療した。彼女のベースライン時の血清中におけるCA19-9力価は、8回の投薬後に、5880ユニット/mLから2840ユニット/mLに減少し、新規病変が発見される前において、15週間(11回の投薬)の間、病変の安定化(最良効果、12%縮小)が認められた。それにもかかわらず、CA19-9が減少したまま(2814ユニット/mL)であったため、患者は、標的病変の増悪によって試験から外れる前に、10mg/kgで更なる8回の治療(3ヶ月間)を受けることになった。
【0331】
多種多様ながんを有する16名の患者におけるこの小規模サンプリングの保管試料で試験するTrop-2発現の、この時点における潜在的な有用性は、主にほとんどが高発現を示すために、決定的な評価を可能とするには不十分である。
【0332】
PK及び免疫原性-30分血清試料中におけるサシツズマブゴビテカン及びIgGの濃度を表7に記載する(用量が増加するにつれて数値が上昇する一般的な傾向を示している)。代表的な症例において、TNBCを有する患者(#15)は、12mg/kgで開始して、治療クールにわたりその後の用量を減少させつつ複数回の投薬を受けた。ELISAによる、複数回の投薬にわたる30分血清中におけるIgG及びサシツズマブゴビテカンの濃度は、用量を減少させた際は低く調節して、経時的にほぼ同等であった(データは省略)。次回の投薬直前に排出される残留IgGが血清中で検出可能(トラフ試料)であった一方で、サシツズマブゴビテカンは検出できなかった(データは省略)。
【0333】
患者15の30分血清試料中における総SN-38濃度は、サイクル1の第1の用量(C1D1)後において3,930ng/mLであったが、第1サイクルの第2の用量(C1D2)でサシツズマブゴビテカン治療を9.0mg/kgに減量すると、濃度は2,947ng/mLに低下した(データは省略)。第6サイクルで用量を6.0mg/kgに減量すると、2,381ng/mLへの更なる低下が認められた。これら試料中における遊離SN-38の量は、88~102ng/mLの範囲(2.4%~3.6%の総SN-38)であり、これらピーク試料中における血清中SN-38の>96%がIgGに結合していることが実証された。7名の患者に由来する28点の30分血清試料をHPLCで解析したところ、これら試料中における総SN-38のうち平均2.91 ± 0.91%が遊離SN-38であった。4名の患者で測定した遊離SN-38G濃度はSN-38濃度を超えることはなく、通常、数倍低い濃度であった。例えば、患者#25は、8サイクルの治療にわたる12回の注入で30分試料を評価することにより測定された。18mg/kgの開始用量において、彼は、酸加水分解試料中5,089ng/mLのSN-38(総SN-38)、及び非加水分解試料中わずか155.2ng/mLのSN-38(遊離SN-38、3.0%)を示した。この試料中における遊離SN-38G(グルクロン酸抱合形態)は26.2ng/mLであり、すなわち、試料中において、総非結合SN-38+SN-38Gの14.4%に過ぎなかった。患者は13.5mg/kgで治療を継続したが、11点の残留ピーク酸加水分解試料中における平均3309.8 ± 601.8 ng/mLのSN-38を示す一方で、遊離SN-38は平均105.4 ± 47.7 ng/mL(すなわち、96.8%がIgGに結合)であり、遊離SN-38Gの平均は13.9 ± 4.1ng/mL(総SN-38 + SN-38Gの11.6%)であった。重要なことに、ほぼ全ての患者において、酸加水分解試料中のSN-38G濃度と非加水分解試料中のSN-38G濃度はほぼ同等であり、複合体に結合したSN-38が全くグルクロン酸抱合されていないことが実証された。
【表7】
【0334】
これらの患者は誰も、治療クールにわたり、正のベースライン濃度(すなわち、>50ng/mL)を示さず、または、IgGまたはSN-38のいずれかに対する陽性抗体反応を示さなかった。
【0335】
考察
Trop-2はほとんどの上皮性腫瘍において大量に発現しており、特に、予後マーカー及びいくつかのがんタイプにおけるがん遺伝子であると考えられている(Cardillo et al.,2011,Clin Cancer Res 17:3157-69;Ambrogi et al.,2014,PLoS One 9:e96993;Cubas et al.,2009,Biochim Biophys Acta 1796:309-14;Trerotola et al.,2013,Oncogene 32:222-33)ため、標的化療法において関心のある抗原となっている(Cubas et al.,2009,Biochim Biophys Acta 1796:309-14)。正常組織におけるTrop-2の発現、及び研究が進んだ別の腫瘍関連抗原であるEpCamとの関係が、Trop-2に対する免疫療法の開発安全性に関する冒頭の一部の注意文言(Trerotola et al.,2009,Biochim Biophys Acta 1805:119-20)をもたらしたが、ヒトとほぼ同等の組織でTrop-2を発現するカニクイザルにおける本発明者らの研究は、ヒト等用量の約40mg/kgのサシツズマブゴビテカンに極めて十分な耐性を示すこと(Cardillo et al.,2011,Clin Cancer Res 17:3157-69)を示した。高用量において、動物は好中球減少症及び下痢(イリノテカン治療に由来するSN-38関連の周知の副作用)を発症したが、Trop-2発現正常組織における有意な組織病理学的変化のエビデンスは未だ欠如していた(Cardillo et al.,2011,Clin Cancer Res 17:3157-69)。その他の前臨床試験所見において、サシツズマブゴビテカンは、低ナノモル濃度で効果があり、また非毒性用量で様々なヒト上皮性腫瘍異種移植片に有効であったため、1つまたは複数の転移性上皮性腫瘍用の標準療法に失敗した患者で第I相試験を実施した。
【0336】
この試験における主な発見は、超毒性(ピコモル範囲で活性な薬物、その一方、SN-38は低ナノモル範囲で力価を有する)とみなされない従来の薬物をより多く使用しているにもかかわらず、サシツズマブゴビテカン抗Trop-2-SN-38複合体が、中程度で管理可能な毒性を示す用量で広範囲の固形がんにおいて治療的に有効であり、その結果として、高い治療指数を示すことを臨床的に証明したことであった。合計297回のサシツズマブゴビテカンをインシデントを伴わずに25名の患者に投与した(4名の患者は>25回の注射を受けた)。重要なことに、複数サイクルの治療を最大12ヶ月間にわたって受けた患者においてでさえ、hRS7 IgGまたはSN-38に対する抗体反応は検出されなかった。Trop-2は様々な正常組織において低量で発現しているが(Cardillo et al.,2011,Clin Cancer Res 17:3157-69)、好中球減少症はせいぜい用量制限毒性であるため、≧12mg/kgのサシツズマブゴビテカンを投与された2名の患者に回復を促進するための骨髄増殖因子支持薬を使用し、別の療法の選択肢を使い果たした患者における治療継続を可能とした。MTDを12mg/kgと明言したが、更なる拡大には8.0mg/kg及び10.0mg/kgの投与濃度を選択した。なぜなら、患者が、これら濃度の追加サイクル(最小限の支持療法を伴う)に耐性を示す傾向があり、これら濃度で効果が認められたからである。13名の患者のうち2名(15.4%)だけが、これら投与濃度でグレード3好中球減少症を発症した。フロントラインセッティングまたはセカンドラインセッティングで週に1回または2週間おきに1回で行ったイリノテカン単剤治療におけるグレード3及びグレード4の好中球減少症の発症率は14~26%であった(カンプトサル-塩酸イリノテカン注射用液剤(処方情報、添付文書)Pfizer,2012)。サシツズマブゴビテカンに関しては、10mg/kg投与濃度の1名の患者のみがグレード3下痢を発症した。この発症率は、イリノテカンを週に1回 x 4回で投与された患者におけるグレード3及びグレード4の遅発性下痢の発症率31%よりも低い(カンプトサル-塩酸イリノテカン注射用液剤(処方情報、添付文書)Pfizer,2012)。サシツズマブゴビテカンに起因するその他の一般的な毒性としては、疲労、悪心及び嘔吐(ほとんどはグレード1及びグレード2)に加え、脱毛症が挙げられる。発熱性好中球減少症の2件のインシデント、及びグレード3深部静脈血栓症の1件のインシデントもまた、10mg/kg及び12mg/kgの投与濃度で発生した。投薬後の診査が完了するまでUGT1A1モニタリングは開始されなかったため、毒性へのUGT1A1の寄与の評価についてはこの時点では報告できなかった。
【0337】
多種多様ながん(例えば、前立腺癌、乳癌、膵臓癌、結腸直腸癌及び肺癌など)の組織マイクロアレイに関する免疫組織学的評価が、標本の>90%に抗原が存在していることを示していたことを主な理由として、この試験に登録した患者については、Trop-2発現による事前選択を実施しなかった(データは省略)。加えて、多種多様な転移性がんを有する12名の患者の血清中にはTrop-2は見つかっておらず、血清アッセイが患者の選択に有用ではないことが更に示唆された。本発明者らは試験に登録した患者由来の腫瘍における保管標本の収集を試みているが、免疫組織学的染色法に基づいた患者選択が抗腫瘍活性と相関していることを示唆するこの時点におけるエビデンスは不十分であり、Trop-2発現に基づいた患者の絞り込みは実施されていない。
【0338】
単剤治療の場合、サシツズマブゴビテカンは、多種多様な転移性で再発/耐性を示す上皮性腫瘍を有する患者において、良好な抗腫瘍活性を示し、CTによる標的病変の顕著な縮小(RECIST 1.1基準を用い、持続的な病変の安定化を含む)が認められた。25名の患者のうち3名(12%)(SCLC[トポテカンで増悪後]、TNBC及び結腸癌がそれぞれ1名)は、治療開始からそれぞれ増悪する前の2.9ヶ月間、4.3ヶ月間及び7.1ヶ月間、標的病変に>30%の縮小が認められた。15名の患者(60%)はSDを示し、これら患者のうち9名は治療開始から4ヶ月後に増悪した。トポイソメラーゼI阻害剤を含有する薬物またはレジメンによる前治療を受けた9名の患者のうち7名に、効果または病変の安定化が認められた。これら患者のうち3名は、前トポイソメラーゼI阻害剤治療(イリノテカンまたはトポテカン)に反応しなかったが、3名のうち2名(結腸癌を有する患者の13%、及びSCLCを有する患者の38%)については、サシツズマブゴビテカンが腫瘍縮小を誘導可能とすることになっていた。それゆえ、サシツズマブゴビテカンが、前トポイソメラーゼI含有レジメンに失敗したまたは再発した患者において治療的に有効であり得、第II相拡大試験で更に試験する必要があった。
【0339】
この試験に登録した患者の大多数は進行した膵管癌(N=7、平均無増悪期間 2.9ヶ月間、範囲、1.0~4.0ヶ月間)を有していたが、この治療困難な疾患においてでさえ、活性を示唆する、標的病変の有望な縮小、及びCA19-9の血清中濃度の有望な低下が認められている(Picozzi et al.,2014,presented at the AACR Special Conference 「Pancreatic Cancer」:Innovations in Research and Treatment,New Orleans,LA USA,p.B99)。しかしながら、TNBC及びSCLCを有する患者における効果には特に利点があり、これらの適応症における標的化療法には一定の必要性がある。実際に、この試験の進行中の拡大相で認められたTNBC(Goldenberg et al.,2014,presented at the AACR San Antonio Breast cancer Symposium,San Antonio,TX)及びSCLC(Goldenberg et al.,2014,Sci Transl Med)を有する患者における更なる部分寛解は、これらのがんに対する更なる重要視を示唆しているが、NSCLC、EAC、UBC及びCRCにおける有望な効果もまたこれに続く。実際に、今日まで17名のTNBC患者について試験している進行中のサシツズマブゴビテカン試験に関する最近の最新情報では、29%の全体奏効率(PR)、46%の臨床奏効率(PR+SD ≧6ヶ月間)が認められている。試験患者のほぼ25%(6/25)に長期生存(15~20ヶ月間)が認められ、PRの2名及びSDの4名を含み、TNBC(N=2)、CRC(N=3)及びHRPC(N=1)を有する患者を含んでいた。
【0340】
注入終盤後30分の血清試料の解析では、>96%のSN-38がIgGに結合したことが示された。より詳細な薬物動態については、試験の第II相部分完了後に利用可能となるであろう。またHPLC分析では、わずか微量の遊離SN-38Gを血清中に検出した一方、イリノテカン治療では、より活性の少ないSN-38GのAUCは、SN-38と比較して>4.5倍増加していた(Xie et al.,2002,J Clin Oncol 20:3293-301)。サシツズマブゴビテカン及びイリノテカンを投与した腫瘍を有する動物におけるSN-38送達の比較は、IgGに結合したSN-38がグルクロン酸抱合されていない一方で、イリノテカンを投与された動物において、血清中総SN-38の>50%がグルクロン酸抱合されていることを示している(Goldenberg et al.,2014,J Clin Oncol 32:Abstract 3107)。より重要なことに、SN-38濃度の解析では、サシツズマブゴビテカンを投与したCapan-1ヒト膵臓癌異種移植片において、イリノテカンの場合と比較して約135倍高い濃度が認められた(Goldenberg et al.,2014,Sci Transl Med)。それゆえ、サシツズマブゴビテカンは、トポイソメラーゼI阻害剤の非標的化形態と比較していくつかの異なる利点を有しており、それらは、(i)複合体を選択的に腫瘍内に維持する機構(抗Trop-2結合)、及び(ii)複合体が直接内部移行する、または、腫瘍に結合した複合体が腫瘍微小環境内にSN-38を遊離してSN-38を最も効力のある形態にする、のいずれかによって任意のSN-38が腫瘍細胞に融合するように、標的化SN-38はまた完全に保護されると思われること(すなわち、グルクロン酸抱合されず、ラクトン形態ともならない)である。これらの結果は、適度に有毒性であるがよく知られた細胞傷害薬であるSN-38が、サシツズマブゴビテカンなどの腫瘍標的化ADCの一部として有効となり得ることを示唆している。しかし、適度に有毒な薬物を高薬物:抗体比(7.6:1)でコンジュゲートさせたADCを投与することによって、イリノテカンから遊離する場合と比較してサシツズマブゴビテカンにより向上した濃度のSN-38が達成されると示唆されているように、高濃度のSN-38を標的とするがんへと送達することが可能となる。
【0341】
結論として、この第I相の知見は、Trop-2を含有することが知られている正常組織に対する損傷のエビデンスなく、全てSN-38の活性に関係する適度で管理可能な毒性で、サシツズマブゴビテカンに耐性を示したことを示している。重要なことに、サシツズマブゴビテカンは、トポイソメラーゼI阻害剤による前治療に失敗した後であっても、多種多様な転移性固形腫瘍を有する患者に対して有効であった。それゆえ、サシツズマブゴビテカンが、SCLC及びTNBCなどトポイソメラーゼI阻害剤に反応することが知られていない腫瘍を有する患者においてでさえ高い治療指数を有することが、この最初の知見から明らかとなっている。この臨床試験は、TNBC、SCLC及びその他Trop-2がんを有する患者に対する8mg/kg及び10mg/kgの開始用量に焦点を置いて継続中である。
【0342】
実施例16.トリプルネガティブ乳癌(TNBC)におけるIMMU-132の使用
Trop-2/TACSTD2遺伝子をクローニングすると(Fornaro et al.,1995,Int J Cancer 62:610-18)、細胞遊走及び足場非依存性増殖に機能的に関与し、正常組織と比較して乳癌、肺癌、胃癌、結腸直腸癌、膵臓癌、前立腺癌、頸部癌、頭頸部癌及び卵巣癌を含む様々なヒト上皮癌で高発現する膜貫通Ca++シグナル伝達因子(Basu et al.,1995,Int J Cancer 62:472-72;Ripani et al.,1998,Int J Cancer 76:671-76)をコードすることが明らかとなった(Cardillo et al.,2011,Clin Cancer Res 17:3157-69;Stein et al.,1994;Int J Cancer Suppl 8:98-102;Cubas et al.,2009,Biochim Biophys Acta 196:309-14;Trerotola et al.,2013,Oncogene 32:222-33)。バイシストロニックサイクリンD1-Trop-2 mRNAキメラががん遺伝子である一方で(Guerra et al.,2008,Cancer Res 68:8113-21)、Trop-2の高発現が、がん増殖を促進するために必要かつ十分であると報告されている(Trerotola et al.,2013,Oncogene 32:222-33)。重要なことに、高発現は、乳癌(Ambrogi et al.,2014,PLoS One 9:e96993;Lin et al.,2013,Exp Mol Pathol 94:73-8)を含むいくつかのがんタイプにおいてより活動的な病変及び予後不良と関連付けられている(Cubas et al.,2009,Biochim Biophys Acta 196:309-14;Guerra et al.,2008,Cancer Res 68:8113-21;Bignotti et al.,2010, Eur J Cancer 46:944-53;Fang et al.,2009,Int J Colorectal Dis 24:875-84;Muhlmann et al.,2009,J Clin Pathol 62:152-58)。Trop-2 mRNAの上昇は、浸潤性乳管癌を有する患者における低生存率及びリンパ節転移の有力な予測因子であり、またカプランマイヤー生存曲線は、Trop-2発現が高い乳癌患者の生存率が著しく低いことを示した(Lin et al.,2013,Exp Mol Pathol 94:73-8)。
【0343】
方法
HICによるDARの算出-ブチル-NPR HPLCカラム(Tosoh Bioscience,King of Prussia,PA)を用いた疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)により、IMMU-132の臨床ロットを分析した。15分間直線グラジエント(25mM リン酸ナトリウム中2.25~1.5M NaCl、pH7.4、流速1mL/分、室温)で、IMMU-132導入液(100μg)を分離した。
【0344】
LC-MSによるDARの算出-鎖間ジスルフィドを還元して得られたスルフヒドリル基を薬物のコンジュゲート用(またはブロック用)に利用するため、LC-MS分析中に還元剤を加えることなく重鎖及び軽鎖を分離してから、個別に分析した。IMMU-132の別々のロットを、Aeris Widepore C4逆相HPLCカラム(3.6μM、50 x 2.1mm)を使用してAgilent 1200 series HPLCに導入し、14分間直線グラジエント(0.1%ギ酸中30~80%アセトニトリル)の逆相HPLCで分離した。Vcap、フラグメンター及びスキマーをそれぞれ、5000V、300V及び80Vに設定したインラインAgilent 6210 ESI-TOF質量分析計を用いて、エレクトロスプレーイオン化飛行時間(ESI-TOF)型質量分析を実施した。全てのκ種または重鎖種を表す全RP-HPLCピークを用いて、デコンボリューションマススペクトルを作成した。
【0345】
細胞株-この試験に使用した全てのヒトがん細胞株は、特に記載する場合を除き、American Type Culture Collection(Manassas,VA)から購入した(全て、ATCCによる短鎖縦列反復配列(STR)アッセイを用いて確認した)。
【0346】
様々なヒト乳癌細胞株上におけるTrop-2表面発現-細胞表面上におけるTrop-2の発現はフローサイトメトリーに基づいている。簡潔に説明すると、Accutase Cell Detachment Solution(Becton Dickinson(BD);Franklin Lakes,NJ;Cat.No.561527)を用いて細胞を採取してから、製造業者の取扱説明書に従いQuantiBRITE PEビーズ(BD Cat.No.340495)及びPEコンジュゲート抗Trop-2抗体(eBiosciences,Cat.No.12-6024)を使用して、Trop-2発現のアッセイを行った。CellQuest Proソフトウェアを搭載したFACSCalibur Flow Cytometer(BD)上でデータを取得してから、Flowjoソフトウェア(Tree Star;Ashland OR)を使用して解析を行った。
【0347】
インビトロ細胞傷害性試験-3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-5-(3-カルボキシメトキシフェニル)-2-(4-スルホフェニル)-2H-テトラゾリウム色素還元アッセイ(MTS色素還元アッセイ;Promega,Madison,WI)を使用して、SN-38への感受性を測定した。簡潔に説明すると、上記のとおり、96ウェル透明平底プレートに細胞を播種した。DMSO中に溶解させたSN-38を、0.004~250nMの終濃度となるように培養液で希釈した。プレートを加湿チャンバ内、37℃/5% CO下、96時間インキュベートしてから、MTS色素を加え、インキュベータ内に戻し、未処理対照細胞の吸光度が1.0超となるまで定置した。増殖抑制を、未処理細胞と比較した増殖パーセントとして測定した。3回の測定の平均から用量反応曲線を作成し、Prism GraphPad Softwareを使用してIC50値を算出した。
【0348】
γH2AX染色細胞を用いたフローサイトメトリーによるインビトロ特異性試験-薬物活性試験のために、HCC1806及びHCC1395のTNBC細胞株細胞を、5 x 10個の細胞/ウェルで6ウェルプレートに播種してから、37℃で一晩保持した。細胞を氷上で10分間冷却した後、細胞を、約20μg/mlのIMMU-132またはhA20 抗CD20-SN38のいずれかと共に(両方の薬剤において等しいSN38/ウェル)、氷上で30分間インキュベートしてから、新鮮な培地で3回洗浄し、その後、37℃に戻して一晩静置した。細胞を短い間トリプシン処理してから、遠心分離でペレット状とし、4%ホルマリン中で15分間固定した。その後、洗浄してから、PBS中0.15% Triton-X100で更に15分間透過処理を行った。1%ウシ血清アルブミン-PBSで2回洗浄後、マウス抗γH2AX-AF488(EMD Millipore Corporation,Temecula,CA)と共に細胞を4℃で45分間インキュベートした。BD FACSCalibur(BD Biosciences,San Jose,CA)を使用して、フローサイトメトリーでγH2AXのシグナル強度を測定した。
【0349】
腫瘍マイクロアレイ及び患者標本を用いたTrop-2のIHC-組織及びマイクロアレイ切片の標準的なIHC法を含む。スコアリングは、標本内の>10%の腫瘍細胞における染色の強度を基準とし、陰性、1+(弱)、2+(中)、及び3+(強)を含んでいた。
【0350】
異種移植片モデルによるインビボ治療試験-20グラムマウスに対する250μgのADC用量中のSN-38当量(12.5mg/kg)は、0.2mg SN-38/kgに相当する。イリノテカン(イリノテカン-HCl注射液;AREVA Pharmaceuticals,Inc.,Elizabethtown,KY)では、10mg イリノテカン/kgは、重量に基づいて5.8mg SN-38/kgに変換される。
【0351】
免疫ブロット法-細胞(2 x 10)を6ウェルプレートに播種してから、一晩静置した。翌日、SN-38またはIMMU-132(0.4μg/mL(1μM)のSN-38濃度当量)のいずれかを用いて、細胞を24時間及び48時間処理した。親hRS7をADCの対照として用いた。
【0352】
ヒト腫瘍異種移植片を有するマウスにおけるSN-38の定量-2つの群(それぞれの群にはヒト膵臓癌細胞株の皮下移植片を有する動物が15匹)に、イリノテカンまたはIMMU-132のいずれかを投与した。5つの異なる間隔で、群あたり3匹の動物を安楽死させた。Capan-1腫瘍(0.131 ± 0.054g;N=30)を取り出し、脱イオン水(DI)中でホモジナイズ(1部の組織+10部のDI水)してから、血清を等しい量のDI水で希釈した。血清と組織のホモジネートを抽出してから、逆相HPLC(RP-HPLC)による解析を行った。イリノテカン治療動物から生成物を検出するには抽出試料は十分であったが、IMMU-132を投与された動物由来の試料は2つの部分に分割された。そのうちの一方は、IgGに結合したSN-38の全てを遊離させるための酸加水分解工程に供された(そうしなければ、抽出試料中において検出されない)。
【0353】
統計-Windows(登録商標)のGraphPad Prism version 5.00(GraphPad Software,La Jolla California USA)を使用して、統計解析を実施した。実施した特定の試験は、それぞれの試験と関連付いている。
【0354】
結果
SN-38の構造及び特性-IMMU-132は、結腸直腸癌、肺癌、頸部癌及び卵巣癌の治療的に有効な、トポイソメラーゼI阻害剤であるSN-38、抗がん剤カンプトテシンの水溶性代謝物であるイリノテカン(7-エチル-10-[4-(1-ピペリジノ)-1-ピペリジノ]カルボニルオキシカンプトテシン)を利用している(Garcia-Carbonero et al.,2002,Clin Cancer Res 8:641061)。SN-38を選択する重要な利点は、薬物のインビボ薬物動態が周知であることである。イリノテカンをエステラーゼで開裂させてSN-38を生成する必要があり、SN-38は、イリノテカンと比較して2~3桁より強力であり、低ナノモル範囲で活性を有する(Kawato et al.,1991,Cancer Res 51:4187-91)。生理学的pHにおいて、カンプトテシンは、より効果のあるラクトン形態、及びより効果の少ない(10%力価)開環カルボン酸形態を含む平衡状態で存在する(Burke & Mi,1994,J Med Chem 37:40-46)。
【0355】
IMMU-132、CL2A-SN-38に使用するSN-38誘導体の設計に関しては、この薬物をADC方式で使用する上で複数の課題に取り組んでおり、以下の特徴、(i)短いポリエチレングリコール(PEG)部分をクロスリンカー内に配置してこの極めて不溶性の薬物に水溶解性を付与すること、(ii)カーボネート結合部を結合させる環境において、高収率のマレイミド導入を可能とする特別に設計した合成方法を用いて、迅速なチオール-マレイミド結合でマレイミド基を穏やかに還元した抗体に導入すること、(iii)ベンジルカーボネート部位がpH介在性開裂部位をもたらしてリンカーから薬物を遊離させること、及び(iv)重要なことに、クロスリンカーをSN-38の20-ヒドロキシ位に結合させること(それにより薬物のラクトン環が、生理学的条件下で開環してより活性の少ないカルボン酸形態となることを防ぐ)を含んでいる(Giovanella et al.,2000,Ann NY Acad Sci 922:27-35)。SN-38誘導体の合成、及びCL2A-SN-38を穏やかに還元したhRS7 IgGにコンジュゲートすることについては、上に記載している。限定的な還元方法では、ドメイン内ジスルフィド架橋ではなく、重鎖-重鎖間及び重鎖-軽鎖間の鎖間ジスルフィド架橋のみを切断し、抗体分子あたり8つの部位特異的チオールを生成する。それからCL2A-SN-38にコンジュゲートし、ダイアフィルトレーションで精製し、保存用に凍結乾燥した。製造中の条件は、IMMU-132からのSN-38のあらゆるロスを最小とするように調節され、最終の凍結乾燥製品は、戻す際に常に<1%の遊離SN-38となるように製造される。しかしながら、血清中に入り37℃に保たれると、SN-38は複合体から放出され、その半減期は約1日となる(データは省略)。
【0356】
SN-38の遊離はIMMU-132の重要な特性であると思われ、このタイプのリンカーは、SN-38放出速度が異なる様々なリンカーにコンジュゲートしたSN-38について試験する有効性試験に基づいて選択されるが、約10時間の放出半減期は極めて安定とみなされる(Moon et al.,2008)(30,31)。血清中における約2日間の中間放出速度を有する複合体に最適治療効果が認められた。本発明者らは、その後、フェニルアラニン残基を除去してから(Cardillo et al.,2011,Clin Cancer Res 17:3157-64)、再度その効果を、リソソーム条件下(すなわち、カテプシンBの存在下及びpH5.0)でのみSN-38を放出するように設計された別の安定結合抗Trop-2複合体(CL2)の効果と比較することで、CL2Aと呼ばれるこのタイプのリンカーの製造プロセスを改善した。動物モデルにおいて、CL2Aリンカーを含むように調製した抗Trop-2複合体は、SN-38を安定結合した場合と比較してより優れた治療効果を生んだ。そのことは、SN-38が約1日間の半減期で血清中に放出された際、速やかに内部移行した抗体に更に利点があることを示している(Govidan et al.2013,Mol Cancer Ther 12:968-78)。放射能標識抗体を用いた臨床試験により、抗体が数時間以内に腫瘍内へと局在化して1日以内にピーク濃度に達することが判明したため(Sharkey et al.,1995,Cancer Res 55:5935s-45s)、選択的に高めた濃度のSN-38は、インタクト複合体の内部移行を介して、遊離薬物の細胞外放出を介して、またはそれら両方の機構の連携を介して、腫瘍内へと局所的に送達される。
【0357】
薬物-抗体比(DAR)の算出。疎水性相互作用HPLC(HIC-HPLC)を使用して5点のIMMU-132臨床ロットを評価したところ、6、7及び8のDARを有する化学種を表す3つのピークに分かれ、最も多い画分はDAR=8を含んでいた(データは省略)。常にこの製造工程を用いてIMMU-132を製造したところ、5点の臨床ロットにわたる全体DAR(DAR平均)は7.60 ± 0.03となった(データは省略)。液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS)を用いて、HIC-HPLC結果を確認した(データは省略)。分析により、8個の利用可能なスルフヒドリル基の>99%がCL2Aリンカーに結合している(SN-38を含有または非含有のいずれかで)ことが示された。非置換(またはN-エチルマレイミド末端保護)の重鎖または軽鎖は検出されなかった。したがって、化学種にわたるDARの差異は、製造中におけるリンカーからのSN-38遊離によるものであり、最初の低置換比によるものではなかった。一旦調製して凍結乾燥すると、IMMU-132は数年間安定していた。
【0358】
マウスにおける薬物動態及び抗腫瘍効果に対するDARの影響。Trop-2ヒト胃癌異種移植片(NCI-N87)を有するマウスに、それぞれが等しいタンパク質(0.5mg)用量のIMMU-132を有し、DARが6.89、3.28または1.64である2回の治療を、7日の間隔をあけて実施した(データは省略)。6.89のDARを有するADCで治療した動物は、3.38または1.64のDARのいずれかを有するADCを投与されたマウスと比較して、有意に改善した平均生存期間(MST)を示した(MST=39日間対、それぞれ25日間及び21日間;P<0.0014)。DARが3.28または1.64の複合体で治療した群と生理食塩水対照で治療した群における群間差異は認められなかった。
【0359】
高DARの重要性を更に明らかにするために、NCI-N87胃腫瘍を有するマウスに、DARが6.89である0.5mgのIMMU-132を2週間にわたり週に2回投与した(データは省略)。別の群には、DARが3.28であるタンパク質(1mg)用量のIMMU-132複合体を2回投与した。両群はそれぞれの投薬スキームで同一総量のSN-38(36μg)を投与されたが、6.89 DARの複合体で治療を受けた群は、3.28 DARの複合体で治療を受けた腫瘍を有する動物と比較して、腫瘍増殖を有意に阻害した(P=0.0227;AUC)。加えて、低DARで治療した群は、未治療対照と比較して有意差がなかった。まとめると、これらの試験は、低DARが効果を低下させることを示している。
【0360】
これら異なる比率で調製した複合体の薬物動態学的挙動試験を、0.2mgのそれぞれの複合体、非コンジュゲートhRS7 IgGまたはhRS7 IgG(還元後、N-エチルマレイミドで末端保護)を投与した腫瘍を有さないマウスで実施した。0.5~168時間の間隔で5回血清を採取して、hRS7 IgGをELISAでアッセイした。非コンジュゲートIgGと比較して、これら複合体のクリアランスに有意差は認められなかった(データは省略)。それゆえ、置換レベルは複合体の薬物動態に影響を与えなかった。また同じく重要なことに、鎖間ジスルフィド結合の減少は抗体を不安定化させないと考えられた。
【0361】
TNBCにおけるTrop-2発現及びSN-38への感受性。免疫組織化学試験(IHC)により、ヒト腫瘍標本のいくつかの組織マイクロアレイにおけるTrop-2発現を測定した。31点のTNBC標本に加え、15点のホルモン受容体陽性またはHER-2陽性乳癌標本を含有する1つのマイクロアレイでは、95%超の腫瘍に陽性染色が認められ、症例の65%に3+染色が認められた。
【0362】
表8に、4種類のTNBCを含む6種類のヒト乳癌細胞株を列挙し、それらのTrop-2表面発現及びSN-38への感受性を記載している。6種類の細胞株のうち5種類におけるTrop-2表面発現は、細胞あたり90,000複製を超えた。SN-38の力価は、6種類の細胞株のうち5種類において2~6nMの範囲であり、MCF-7は最も低い感受性、33nMを有していた。IMMU-132のインビトロ力価については記載していない。その理由としては、IMMU-132に結合したSN-38のほぼ全てが、4日間のインキュベート期間中に培養液中へと遊離し、その結果、IMMU-132の力価がSN-38の力価と同様となったからである。そのため、SN-38を送達する機構としての抗体標的化の重要性を示すためには、異なる戦略が求められた。
【表8】
【0363】
抗原陽性(HCC1806)または抗原陰性(HCC1395)のTNBC細胞株を、IMMU-132または非結合抗CD20 SN-38複合体のいずれかと共に、4℃で30分間インキュベートした。その後、細胞を洗浄して非結合複合体を除去してから、37℃で一晩インキュベートした。細胞を固定して透過処理を行ってから、蛍光性の抗リン酸ヒストンH2A.X抗体で染色し、フローサイトメトリーでdsDNAの切断を検出した(Bonner et al.,2008,Nat Rev Cancer 8:957-67)(表9)。IMMU-132と共にインキュベートした際、Trop-2乳癌細胞株であるHCC1806の平均蛍光強度(MFI)が168(未処理ベースライン)から546に上昇して、dsDNA切断率の上昇を示した一方で、非結合複合体と共にインキュベートした細胞のMFIはベースラインレベルを維持していた。対照的に、Trop-2抗原陰性細胞株であるHCC1395のMFIは、IMMU-132または非結合対照複合体のいずれかと共に処理した後、ベースラインレベルを維持していた。その結果、抗Trop-2結合複合体と共にインキュベートしたTrop-2発現細胞でのみdsDNA切断のエビデンスが認められたことにより、最終的に、関連性のないADCと比較したIMMU-132の特異性が明らかとなった。
【表9】
【0364】
TNBC異種移植片におけるサシツズマブゴビテカンのインビボ効果。MDA-MB-468 TNBC腫瘍を有するヌードマウスを用いて、IMMU-132の効果を評価した(データは省略)。0.12または0.20mg/kg SN-38当量の用量のIMMU-132(0.15及び0.25mg IMMU-132/用量)は、同一の2つの投与濃度で投与された生理食塩水、イリノテカン(10mg/kg;約5.8mg/kg SN-38重量当量)、または対照の抗CD20 ADC、hA20-CL2A-SN-38と比較して、有意な腫瘍退縮を誘導した(P<0.0017、曲線下面積、AUC)。マウスが、ヒトと比較して、より効率的にイリノテカンをSN-38に変換するため(38)(本発明者らの試験では約25%、以下を参照のこと)、このイリノテカン用量で、約145~174μgのSN-38が生成される一方で、投与用量のIMMU-132に含まれる量はわずか9.6μgである。それでもなお、IMMU-132がSN-38を選択的に腫瘍へと向けるため、より効果的であった。これらの結果は、IMMU-132が少量のSN-38を特異的に腫瘍へと向けることが、はるかに多い用量のイリノテカン、またはより詳しく言えば、hRS7 IgGと当量の遊離SN-38の混合物と比較して、はるかにより効果的であることを示す、その他の固形腫瘍モデルにおける所見(Cardillo et al.,2011,Clin Cancer Res 17:3157-69)を裏付けるものである(Cardillo et al.,2011,Clin Cancer Res 17:3157-69)。非コンジュゲートRS7抗体では、動物あたり反復用量の1mgでさえ、何ら抗腫瘍効果を示さなかった(Cardillo et al.,2011,Clin Cancer Res 17:3157-69)。しかしながら、Trop-2を発現する婦人科がんに関するインビトロ試験は、RS7 mAbの抗体依存性細胞傷害による細胞死滅を示している(Bignotti et al.,2010,Eur J Cancer 46:944-53;Raji et al.,2011,J Exp Clin Cancer Res 30:106;Varughese et al.,2011,Gynecol Oncol 122:171-7;Varughese et al.,2011,Am J Obstet Gyneol 205:567)。同様に、別の抗Trop-2抗体の一価Fabは、インビトロ試験及び動物試験において治療的に有効であると報告されている。
【0365】
治療56日目時点で、0.12mg/kgのhA20-CL2A-SN-38対照ADCを投与したマウスにおける7つの腫瘍のうち4つが、既にエンドポイントの1.0cmまで増悪していた(データは省略)。この時点で、これらの非常に大きな腫瘍の増悪に影響を及ぼすために高用量の0.2mg/kgの使用を選択して、これらの動物をIMMU-132で治療した。数匹の動物におけるかなりのサイズの腫瘍にもかかわらず、全てのマウスに治療効果が認められ、5週間後の腫瘍サイズは有意に縮小していた(それぞれ、総容積[TV]=0.14 ± 0.14cm対0.74 ± 0.41cm;P=0.0031、両側t検定)。同様に、本発明者らは、イリノテカン治療群から、約0.7cmまで増悪した腫瘍を有する2匹の動物を選択して、一方をイリノテカンで、またもう一方をIMMU-132で再治療した(データは省略)。治療終了までの2週間以内に、イリノテカン治療動物の腫瘍は23%縮小してから増悪し始めた一方で、IMMU-132で治療した腫瘍は、腫瘍サイズが60%縮小した状態で安定化した。これらの結果は、非特異的ADCを介したSN-38に曝された後に増殖し続けた腫瘍であったとしても、Trop-2特異的IMMU-132で治療したとき、有意に高い治療効果が達成され得ることを示している。しかしながら、IMMU-132による特異的な治療効果はMDA-MB-231においては達成されなかった(データは省略)。この細胞株は、最も低いTrop-2レベルを有しており、更にSN-38の影響を最も受けにくかった。
【0366】
TNBCにおけるIMMU-132の作用機序-ADCがその内部に組み込んだSN-38に基づいて機能していることを確認するために、IMMU-132が利用するアポトーシス経路について、TNBC細胞株であるMDA-MB-468、及びHER2SK-BR-3細胞株で試験した(データは省略)。SN-38単独及びIMMU-132は、MDA-MB-468において、p21WAF1/Cip1の>2倍の上方制御を24時間以内に媒介し、また48時間時点付近において、これら細胞内におけるp21WAF1/Cip1の量は減少し始めた(SN-38またはIMMU-132において、それぞれ31%及び43%)。興味深いことに、HER2SK-BR-3腫瘍株において、SN-38もIMMU-132も、最初の24時間に、構成レベルを超えるp21WAF1/Cip1の上方制御を媒介しなかったが、SN-38またはIMMU-132に48時間曝露した後のMDA-MB-468細胞においては、p21WAF1/Cip1の量に>57%の減少が認められた。SN-38とIMMU-132の両方は、24時間以内にプロカスパーゼ3を切断してその活性フラグメントをもたらしたが、より多くの活性フラグメントが観察されたのは48時間の曝露後であった。留意されたいが、IMMU-132は両方の細胞株において、SN-38に曝露した細胞と比較して、48時間後に観察された最高レベルで、より多くのプロカスパーゼ3切断を媒介した。最終的に、SN-38とIMMU-132の両方はポリADPリボースポリメラーゼ(PARP)切断を媒介した(24時間時点に始まり48時間後にほぼ切断を完了)。まとめると、これらの結果は、インビトロで投与した場合、IMMU-132が、遊離SN-38の作用機序とほぼ同等の作用機序を有することを裏付けるものである。
【0367】
ヒト腫瘍異種移植片モデルにおけるIMMU-132対イリノテカンによるSN-38の送達-イリノテカン(773μg;SN-38当量=448μg)及びIMMU-132(1.0mg;SN-38当量=16μg)を投与した、ヒト膵臓癌異種移植片(Capan-1)s.c.移植マウスの血清及び腫瘍内における、イリノテカンまたはIMMU-132から誘導された構成生成物を測定した。
【0368】
イリノテカンは血清中から極めて速やかに消失し、SN-38及びSN-38Gへの変換は5分以内に観察された。24時間時点においては、どの生成物も検出されなかった。6時間超のAUCは、イリノテカン、SN-38及びSN-38Gでそれぞれ、21.0、2.5及び2.8μg/mL・hであった(マウスにおけるSN-38変換 = [(2.5+2.8)/21 = 25.2%])。IMMU-132を投与した動物の血清中遊離SN-38濃度は非常に低かったが、48時間にわたって検出された(データは省略)。遊離SN-38Gは1時間時点及び6時間時点でのみ検出され、遊離SN-38と比較して3~7倍低かった。
【0369】
イリノテカン治療動物から切除したCapan-1腫瘍内におけるイリノテカン濃度は6時間にわたり高かったが、24時間時点では検出不能であった(AUC5分間~6時間 = 48.4μg/g・h)。SN-38は非常に低くわずか2時間にわたり検出され(すなわち、AUC5分間~2時間 = 0.4μg/g・h)、SN-38Gの値はほぼ3倍の高さであった(AUC = 1.1μg/g・h)(データは省略)。IMMU-132投与動物から採取した腫瘍は検出可能な遊離SN-38またはSN-38Gを何ら有していなかったが、その代わりに、腫瘍内の全てのSN-38はIMMU-132に結合していた。重要なことに、腫瘍内にSN-38Gが検出されなかったことは、IMMU-132に結合したSN-38がグルクロン酸抱合されていないことを示唆している。イリノテカンを投与したマウスが、IMMU-132を投与した場合と比較して28倍超のSN-38当量を受けている(すなわち、それぞれ448μg対16μgのSN-38当量)にもかかわらず、これら腫瘍内におけるIMMU-132に結合したSN-38のAUCは54.3μg/g・hであった。この量は、SN-38が検出可能となる期間の2時間にわたりイリノテカンで治療した動物の腫瘍内におけるSN-38の量と比較して135倍高い。
【0370】
考察
本発明者らは、Trop-2を標的とする新規のADC、及び、当該ADCがTNBCに加えその他Trop-2がんを有する患者に耐性を示し有効であることを示唆する初期の臨床結果について説明する(Bardia et al.,2014,San Antonio Breast Cancer Symposium,P5-19-27)。IMMU-132はその独特な性質により、第2世代ADCの代表例となっている。通常、ADCには、最適な効果を持たせるための4つの広範な特性、(i)選択的な標的化/活性化、(ii)ADCに用いる抗体の結合性、親和性、内部移行性及び免疫原性、(iii)薬物、その力価、代謝及び薬理学的性質、及び(iv)薬物の抗体への結合方式、が求められる。標的選択性は、治療指数(腫瘍対正常細胞の毒性比率)を定義する上で重要な役割を果たすことから、全てのADCにおける最も一般的な必要条件である。Trop-2は、多数の上皮癌において非常に広く存在しているが、いくつかの正常組織においても発現しているため(Cubas et al.,2009,Biochim Biophys Acta 1796:309-14;Trerotola et al.,2013,Oncogene 32:222-33;Stepan et al.,2011,59:701-10)、特異性に影響を及ぼし得ると考えられている。しかしながら、正常組織における発現はがんにおける発現よりも低いと考えられており(Bignotti et al.,2010,Eur J Cancer 46:944-53)、抗体への接近を制限する正常組織構造によりTrop-2が遮蔽される一方で、がんにおいては、浸潤腫瘍がこれらの組織障壁を損傷していると考えられている。上記の証拠はサルにおける初期の毒性学的試験から明白であった。その試験においては、イリノテカン様の好中球減少症及び下痢をまねく濃度にまでIMMU-132の用量を上げたにもかかわらず、Trop-2発現正常組織に対する組織病理学的損傷は生じなかった(Cardillo et al.,2011,Clin Cancer Res 17:3157-69)。これらの結果は臨床的に確認されていると思われ、患者における特異的な器官毒性は、親化合物のイリノテカンによる周知の毒性(IMMU-132を用いれば、より管理可能)を除いて、これまでのところ認められていない(Bardia et al.,2014,San Antonio Breast Cancer Symposium,P5-19-27)。
【0371】
ADC治療薬において一般に認められている重要な基準は、抗体を内部移行させてその化学療法剤を細胞内部に送達することである(化学療法剤は通常、リソソーム内で代謝される)。IMMU-132の内部移行にもかかわらず、本発明者らは、がん細胞に対するバイスタンダー効果を誘導し得ると考えられるSN-38の局所放出を可能とするこのADCのリンカーが、このプラットフォームを超毒性薬物の使用と区別する、別の特徴であると信じている。事実、超毒性薬物をIgGに安定結合させることは、それらのタイプの化合物に有用な治療窓を維持させ得る唯一の形態である。しかしながら、より適度に有毒な薬物を使用することは、一旦循環すると薬物を早く放出し過ぎることになるリンカーの使用に幅を与えない。本発明者らのグループは、約10時間から極めて安定したリンカーの範囲の異なる半減期で、複合体からSN-38を血清中に放出するリンカーを探索したが、それは、ヒト腫瘍異種移植片マウスモデルにおいて最良の治療効果をもたらした、中間的な安定性を有するリンカーであった(Moon et al.,2008,J Med Chem 51:6916-26;Govindan et al.,2009,Clin Chem Res 15:6052-61)。そのため、この初期の研究において、本発明者らは、SN-38の極めて安定な連結部の効果が、血清中でより中間的な安定性を有するCL2Aリンカーと比較して極端に弱いことを示した(Govindan et al.,2013,Mol Cancer Ther 12:968-78)。
【0372】
ADC設計に関して現在通用している別の主義は、抗体の腫瘍への低付着度合い(通常、グラムあたりの注入量の0.003~0.08%)を相殺するために超細胞傷害性薬物を使用することである(Sharkey et al.,1995,Cancer Res 55:5935s-45s)。現行世代の超毒性薬物複合体においては、高比率であることが複合体の薬物動態に悪影響を与え、二次的な毒性が治療指数を低下させるため、≦4:1の薬物:抗体置換が最適であることが判明している(Hamblett et al.,2004,Clin Cancer Res 10:7063-70)。この第2世代ADCプラットフォームにおいて、本発明者らは、IgGを緩やかに還元することによって薬物を部位特異的に鎖間ジスルフィドに結合させるIgG結合法(8つの結合部位を曝露する)を使用することを選択した。本発明者らは、CL2A-SN-38リンカーを使用することで7.6:1のDARを達成した。LC-MSデータは、8つの結合部位のそれぞれがCL2Aリンカーを有していることを示していたが、製造工程中に一部のSN-38が明らかに失われていた。それでもなお、95%のCL2Aリンカーは7~8個のSN-38分子を有している。本発明者らは引き続き、(a)これらの部位への結合が抗体を不安定化させないこと、及び(b)これらの部位を高レベルで置換することで調製した複合体が抗体結合を損なわず薬物動態特性に影響を及ぼさないこと、を見出した。実際に、本発明者らは、最高置換レベルで調製した複合体が、ヒト腫瘍異種移植片マウスモデルにおいて最良の治療効果を示したことを実証した。
【0373】
忍容性の観点からより注目に値するIMMU-132の特徴の1つは、IgGに結合したSN-38がグルクロン酸抱合(イリノテカンの無毒化において重要な工程)されていないことである。イリノテカン治療において、生成されたSN-38のほとんどは、肝臓内で速やかに不活性なSN-38G形態に変換される。SN-38Gの概算AUCは、多くの場合、SN-38と比較して4.5~32倍の増加を示している(Gupta et al.,1994,Cancer Res 54:3723-25;Xie et al.,2002,J Clin Oncol 20:3293-301)。SN-38Gが胆汁へと分泌され、その後、SN-38の腸肝再循環に強く関与する腸内細菌叢が産生するβ-グルクロニダーゼにより分解されて、イリノテカンによる遅発性の重篤な下痢が認められた(Stein et al.,2010,Ther Adv Med Oncol 2:51-63)。IMMU-132の投与後におけるSN-38Gの濃度は、本発明者らの動物試験及び臨床試験において極めて低く(例えば、IMMU-132を投与された患者の血清中においては、遊離SN-38濃度のわずか20~40%がSN-38Gの形態)、SN-38の10-ヒドロキシ位が利用可能であるにもかかわらず、IgGに結合したSN-38の大部分がグルクロン酸抱合から保護されているという強力なエビデンスを提供している。本発明者らは、IMMU-132によって生成された低濃度のSN-38Gが、イリノテカン治療薬と比較して、このADCを投与された患者における下痢の発症率及び強さの低下に寄与していることを推測している。
【0374】
抗体に結合したSN-38のグルクロン酸抱合を防止することはまた、腫瘍に送達されたSN-38による治療効果の向上に寄与し得る。イリノテカンを投与された動物由来の抽出物には、高濃度のイリノテカン、10倍低い濃度のSN-38及びSN-38Gが認められた。対照的に、IMMU-132(IgGに結合したSN-38)を投与された動物の腫瘍には、SN-38のみが認められた。本発明者らは、腫瘍内に維持された複合体が最終的に内部移行することによってそのSN-38ペイロードを放出するか、または腫瘍細胞の外側にSN-38が放出され得る、という仮説を立てた。しかしながら、SN-38Gへと変換される(主に肝臓内で生じる)可能性は低く、その完全な活性化形態で放出され得る。リンカーをSN-38の20-ヒドロキシ位に結合することにより、SN-38を効果のあるラクトン形態に維持することを強調することもまた重要である(Zhao et al.,2000,J Org Chem 65:4601-6)。まとめると、これらの結果は、IMMU-132が、非標的化イリノテカンに由来するSN-38と比較して、選択的な様式でSN-38をTrop-2腫瘍に送達及び集中可能であることを示唆しており、IMMU-132により送達されたSN-38は、腫瘍内に完全に活性化した、非グルクロン酸抱合のラクトン形態で放出されると考えられる。
【0375】
イリノテカンは、通常は乳癌患者を治療するためには使用されない。しかしながら、TNBC細胞株を用いて本明細書で示した試験は、より多量のSN-38を腫瘍内に集中させると、SN-38の効果が高まることを示している。MDA-MB-468 TNBCとHER2SK-BR-3の両方の腫瘍株において、IMMU-132は、プロカスパーゼのその活性フラグメントへの切断及びPARP切断を伴い、内因性アポトーシス経路の活性化を媒介した。関連性のないSN-38 ADCと比較して、IMMU-132で治療したがん細胞の二本鎖DNA切断を実施することにより(Bardia et al.,2014,San Antonio Breast Cancer Symposium,P5-19-27)、SN-38の標的細胞への選択的な送達が確認された。最も重要なことに、これらの検査所見は、多数の前治療暦を有する転移性TNBC患者の治療により確認され、その治療では長続きする客観的な効果が認められた(Bardia et al.,2014,San Antonio Breast Cancer Symposium,P5-19-27)。IMMU-132はまた、その他のがんを有する患者、及びトポイソメラーゼI阻害剤を含む前治療レジメンに失敗した患者に効果を有すると考えられる(Starodub et al.,2015,Clin Cancer Res 21:3870-78)。
【0376】
結論として、適度に安定したリンカーを用い極めて高い薬物-抗体比でコンジュゲートしたSN-38の使用は第2世代ADCプラットフォームの一部をなし、動物モデル及び更に臨床においても有効である。本発明者らの研究結果は、Trop-2が、Trop-2固形腫瘍、特にTNBCにおける臨床的に意義のある新規標的であることを示している。
【0377】
実施例17.IMMU-132の作用機序に関する試験
サシツズマブゴビテカン(IMMU-132、hRS7-CL2A-SN-38としても周知)とは、SN-38(イリノテカンの活性代謝物)を送達するための、Trop-2(ほとんどの上皮性腫瘍上で発現している表面糖タンパク質)を標的とする抗体薬物複合体(ADC)のことである。超毒性薬物及び安定したリンカーを使用するほとんどのADCとは異なり、IMMU-132は、SN-38とリンカーの間の適度に安定したカーボネート結合を有する適度な毒性薬物を使用する。フローサイトメトリー及び免疫組織化学試験により、胃、膵臓、トリプルネガティブ乳癌(TNBC)、結腸、前立腺及び肺を含む広範囲の腫瘍タイプでTrop-2が発現していることが明らかとなった。細胞結合試験では、IMMU-132と親hRS7抗体の間に有意差は認められなかったが、Trop-2 CM5チップを使用した表面プラズモン共鳴解析では、hRS7と比較して、IMMU-132に有意な結合優位性が認められた。複合体は新生児受容体への結合を維持したが、hRS7と比較して、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害活性の60%超を失った。
【0378】
腫瘍細胞を遊離SN-38またはIMMU-132のいずれかに曝すと、同一シグナル伝達経路におけるpJNK1/2及びp21WAF1/Cip1に上方制御が認められ、その後、カスパーゼ9、7及び3による切断が起こり、最終的には、ポリADPリボースポリメラーゼ切断及び二本鎖DNAの切断がもたらされる。
【0379】
マウスにおけるインタクトADCの薬物動態試験では、15.4時間の平均滞留時間(MRT)となる一方で、担体hRS7抗体は非コンジュゲート抗体とほぼ同等の速度で消失する(MRT = 約300時間)ことが明らかとなった。ヒト胃癌異種移植片を有するマウスのIMMU-132治療(17.5mg/kg;週に2回 x 4週間)では、非特異的対照で治療したマウスと比較して、有意な抗腫瘍効果が得られた。ヒト膵臓癌異種移植片またはヒト胃癌異種移植片を有するマウスに、1週おき、週に1回、または週に2回のいずれかで実施した臨床的に意義のあるIMMU-132の投薬スキームは、両方のモデルにおいてほぼ同等の有意な抗腫瘍効果を示した。目下の第I/II相臨床試験(ClinicalTrials.gov,NCT01631552)は、Trop-2を発現するがん(胃癌患者及び膵臓癌患者を含む)におけるIMMU-132の抗がん活性を裏付けている。
【0380】
緒言
米国において今年胃癌と診断された新たな症例は22,220件に上ると推定されており、更に、10,990件の死亡がこの疾患に起因した(Siegel et al.,2014,CA Cancer J Clin 64:9-29)。5年生存率は上昇傾向ではあるが(現時点で29%)、結腸癌、乳癌及び前立腺癌(それぞれ65%、90%及び100%)を含むその他大多数と比較すると、依然としてかなり低いままである。事実、ヒトがん全体でみると、食道癌、肝臓癌、肺癌及び膵臓癌だけが胃癌の5年生存率を下回っている。膵臓癌は依然として米国における全がん死亡原因の第4位であり、その5年生存率はわずか6%である(Siegel et al.,2014,CA Cancer J Clin 64:9-29)。胃癌及び膵臓癌のこのような厳しい統計値から、新しい治療手法が必要とされているのは明らかである。
【0381】
Trop-2は、TACSTD遺伝子ファミリー、特にTACSTD22に属する45kDaの糖タンパク質である。多くの異なる上皮癌におけるこの膜貫通型タンパク質の過剰発現は、全般的な予後不良と関連している。Trop-2は、足場非依存性細胞増殖及び腫瘍形成に不可欠である(Wang et al.,2008,Mol Cancer Ther 7:280-85;Trerotola et al.,2013,Oncogene 32:222-33)。Trop-2は、プロテインキナーゼC12~14によりリン酸化されたインタクトな細胞質尾部を必要とするカルシウムシグナル伝達物質として機能する。Trop-2に結合する増殖前シグナル伝達物質(Pro-growth signaling)としては、NF-κB、サイクリンD1及びERKが挙げられる(Guerra et al.,2013,Oncogene 32:1594-1600;Cubas et al.,2010,Mol Cancer 9:253)。
【0382】
膵臓癌では、試験した患者の55%にTrop-2過剰発現が認められ、治療目的で外科手術を受けた患者の転移、腫瘍グレード、及び短い無増悪生存期間と正の相関があった(Fong et al.,2008,Br J Cancer 99:1290-95)。同様に、胃癌では、56%の患者が自身の腫瘍にTrop-2過剰発現を示し、この場合もまた、Trop-2陽性腫瘍細胞のリンパ節浸潤を有する患者における短い無病生存期間及び予後不良と相関していた(Muhlmann et al.,2009,J Clin Pathol 63:152-58)。これらの特徴、及びTrop-2が非常に多くの難治性がんに関係するという事実を考慮すると、Trop-2は、抗体薬物複合体(ADC)を用いて治療介入するための魅力的な標的である。
【0383】
薬物を腫瘍へと向ける抗体を使用するための一般的なパラダイムとしては、(a)正常組織と比較して腫瘍で優先的に発現する抗原標的、(b)良好な親和性を有し腫瘍細胞に内部移行する抗体、及び(c)抗体と安定的に結合した超毒性薬物を含む、いくつかの重要な特徴が挙げられる(Panowski et al.,2014,mAbs 6:34-45)。これらの体系に沿って、本発明者らは、RS7-3G11(RS7)と呼ばれる抗体を開発した。この抗体は、ナノモルの親和性(Cardillo et al.,2011k,Clin Cancer Res 17:3157-69)で、多数の固形腫瘍のTrop-2(Stein et al.,1993,Int J Cancer 55:938-46;Basu et al.,1995,Int J Cancer 62:472-79)に結合し、一旦Trop-2に結合すると、細胞に内部移行する(Shih et al.,1995,Cancer Res 55:5857s-63s)。
【0384】
免疫組織化学試験では、新生物組織と比較して一般的にはるかに低い強度ではあるが、一部の正常組織においてTrop-2の発現がみられ、またTrop-2は多くの場合、血管の進入が制限された組織領域に存在している(Trerotola et al.,2013,Oncogene 32:222-33)。これらの特徴を基準として、RS7をヒト化してから、イリノテカンの活性代謝物である7-エチル-10-ヒドロキシカンプトテシン(SN-38)にコンジュゲートした。多数の細胞株におけるインビトロ細胞傷害性試験では、現在ADCに使用されている多くの超毒性薬物がピコモル範囲のIC50値を示すことと比較して、SN-38が一桁ナノモル範囲のIC50値を示すことが判明している(Cardillo et al.,2011,Clin Cancer Res 17:3157-69)。アウリスタチンまたはマイタンシンなどの超毒性薬物の使用が優勢な意見ではあるが、抗体あたりわずか2~4つの薬物を抗体に安定結合させたADCを調製すると、このような薬剤の治療窓は狭くなり、結果として、ADCを再設計してその治療指数を向上させるという新たな手間がかかることになる(Junutula et al.,2010,Clin Cancer Res 16:4769-78)。
【0385】
この慣習から離れる1つのアプローチとして、本発明者らは、ヒト血清中において約1日間の半減期でSN-38を放出するリンカーを使用して抗体あたり7~8個のSN-38分子をコンジュゲートした。安定性に欠けるリンカーを使用することにより、ADCが細胞に向かった後に腫瘍部位でSN-38が放出されて、ADCが直接標的とする細胞だけではなく周囲の腫瘍細胞にも薬物が接触可能となるという仮説を立てる。得られたADC、hRS7-CL2A-SN-38(サシツズマブゴビテカン、すなわち、IMMU-132)は、広範囲の腫瘍タイプに対して抗腫瘍活性を示した(Cardillo et al.,2011,Clin Cancer Res 17:3157-69)。ごく最近では、IMMU-132は、トリプルネガティブ乳癌(TNBC)の前臨床モデルに対して顕著な抗腫瘍活性を示した(Goldenberg et al.,2014,Poster presented at San Antonia Breast Cancer Symposium,December 9-13,Abstr.P5-19-08)。最も重要なことに、目下の第I/II相臨床試験において、IMMU-132は、TNBC患者に効果を示した(Bardia et al.,2014,Poster presented at San Antonia Breast Cancer Symposium,December 9-13,Abstr.P5-19-2)。その結果、効果を得るのにADCの内部移行に完全依存する代わりに、毒性の低い薬物及びSN-38を徐放するリンカーを使用することにより、ADC化学におけるこのパラダイムシフトが検証された。
【0386】
SN-38は、細胞のDNAに著しい損傷を引き起こす周知のトポイソメラーゼI阻害剤である。SN-38は、初期プロアポトーシスタンパク質、p53及びp21WAF1/Cip1の上方制御を媒介して、カスパーゼの活性化及びポリADPリボースポリメラーゼ(PARP)の切断をもたらす。p21WAF1/Cip1の発現は、細胞周期のG1停止と関連していることから、内因性アポトーシス経路の特徴となっている。本発明者らは以前、IMMU-132が同様に、初期プロアポトーシスシグナル伝達現象(p53及びp21WAF1/Cip1)の上方制御を媒介することにより、内因性プロアポトーシスシグナル伝達経路に沿った、NSCLC(Calu-3)細胞株及び膵臓(BxPC-3)細胞株におけるPARP切断をもたらし得ることを実証した(Cardillo et al.,2011,Clin Cancer Res 17:3157-69)。
【0387】
本発明者らは本明細書において更に、固形がん、特に、ヒト胃腫瘍及びヒト膵臓腫瘍の治療に特に注意を向けて、IMMU-132を特徴付けた。ある種の固形腫瘍タイプ全体にわたるTrop-2表面発現について試験を行ったところ、腫瘍異種移植片におけるインビボ発現に相関が認められた。機構検査を行うことにより、IMMU-132が媒介する内因性プロアポトーシスシグナル伝達現象(二本鎖DNA(dsDNA)の切断率上昇及びその後のカスパーゼ活性化上昇のエビデンスを含む)を更に明らかにした。最後に、臨床的に意義があり非毒性の投薬スキームを胃癌及び膵臓癌の疾患モデルで比較して、週に2回、週に1回及び1週おきのスケジュールで試験を行って、どの治療サイクルが効果を失わずに臨床現場に最もうまく適合し得るかを確認した。
【0388】
実験方法
細胞株及び化学療法剤-使用した全てのヒトがん細胞株は、American Type Culture Collection(ATCC)(Manassas,VA)から購入した。それぞれをATCCの推奨に従い維持し、定期的にマイコプラズマ試験を行い、ATCCによる短鎖縦列反復配列(STR)アッセイを用いて全ての鑑定を行った。IMMU-132(hRS7-SN-38)及び対照ADC(抗CD20 hA20-SN-38及び抗CD22 hLL2-SN-38)を上記のとおりに調製し、-20℃で保管した(Cardillo et al.,2011,Clin Cancer Res 17:3157-69)。SN-38を購入し(Biddle Sawyer Pharma,LLC,New York,NY)、DMSO中1mMのアリコートを-20℃で保管した。
【0389】
Trop-2 ELISA-Hisタグ付き組換えヒトTrop-2(Sino Biological,Inc.,Bejing,China;Cat#10428-H09H)及びHisタグ付き組換えマウスTrop-2(Sino Biological,Inc.,Cat#50922-M08H)を、Ni-NTA Hissorb strips(Qiagen GmbH Cat#35023)上に1μg播種し、室温で1時間静置した。PBS-Tween(0.05%)洗浄緩衝液でプレートを4回洗浄した。1%BSA-PBS希釈緩衝液中で試験範囲の0.1ng/mL~10μg/mLとなるように、hRS7の系列希釈を行った。その後、プレートを室温で2時間インキュベートしてから4回洗浄し、続いてペルオキシダーゼをコンジュゲートした二次抗体(ヤギ抗ヒトFcフラグメント特異的;Jackson Immunoresearch Cat#109-036-098)を加えた。45分間のインキュベーション後、プレートを洗浄してから、基質溶液(o-フェニレンジアミンジヒドロクロリド(OPD);Sigma,Cat#P828)を全てのウェルに加えた。プレートを暗黒下で15分間インキュベートしてから、4N硫酸で反応を停止させた。Biotek ELX808プレートリーダを用いて、450nmでプレートを読んだ。データを解析し、Prism GraphPad Software(v4.03)(Advanced Graphics Software,Inc.;Encinitas,CA)を使用してグラフを作成した。
【0390】
インビトロ細胞結合-LumiGLO Chemiluminescent Substrate System(KPL,Gaithersberg,MD)を使用して、細胞に結合した抗体を検出した。簡潔に説明すると、96黒色ウェル平底透明プレートに細胞を播種してから一晩静置した。抗体を1:2に系列希釈して3回加え、0.03~66.7nMの濃度範囲を得た。4℃で1時間インキュベートした後、培養液を除去してから、新鮮な冷培養液で細胞を洗浄し、続いて、1:20,000希釈のヤギ抗ヒト西洋わさびペルオキシダーゼをコンジュゲートした二次抗体(Jackson Immunoresearch,West Grove,PA)を加え、4℃で1時間静置した。プレートを再度洗浄してから、LumiGLO試薬を加えた。Envisionプレートリーダ(Perkin Elmer,Boston MA)を使用して、プレートの蛍光を読んだ。非線形回帰でデータを解析し、平衡解離定数(KD)を算出した。データのベストフィットカーブに関するF検定を使用したPrism GraphPad Software(v4.03)(Advanced Graphics Software,Inc.;Encinitas,CA)で、KD値の統計比較を実施した。有意性をP<0.05に設定した。
【0391】
抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)-4時間LDH放出アッセイを実施して、IMMU-132、hRS7 IgG、hLL2-SN-38及びhLL2 IgG(hLL2は、固形腫瘍細胞株用の非結合抗CD22複合体)が誘導したADCC活性を評価した。簡潔に説明すると、標的細胞(MDA-MB-468、NIH:OVCAR-3、またはBxPC-3)を、1x10個の細胞/ウェルで96ウェル黒色平底プレートに播種し、一晩インキュベートした。翌日、末梢血単核エフェクター細胞(PBMC)を新たにドナーから分離して、反応用プレート上の割り当てたウェルに、50:1のE:T比で加えた。ヒトPBMCの収集は、New England Institutional Review Board(Newton,MA)の承認の下で行った。試験用試薬を、割り当てたウェルに、33.3nMの終濃度で加えた。バックグラウンド対照として1セットのウェルにADCCアッセイ培養液単独を加え、最大細胞溶解物対照として別のセットのウェルに細胞単独に加えTritonX100を加えた。プレートを37℃で4時間インキュベートした。4時間後、均一蛍光定量LDH放出アッセイ(Cyto Tox-One Homogenous Membrane Integrity Assay;Promega,Cat.G7891)を用いて、標的細胞溶解物を評価した。
【0392】
Envisionプレートリーダ(PerkinElmer LAS,Inc.;Shelton,CT)を用いてプレートを読んだ(544nm~590nm)。Microsoft Excelでデータを解析した。パーセント特異的溶解については、以下のとおり計算した。
【化9】

式中、
試験:エフェクター+標的細胞+抗体
エフェクター+標的対照:エフェクター+標的細胞
最大溶解物:標的細胞+Triton-X100
標的対照:標的細胞のみ
【0393】
表面プラズモン共鳴結合(BIACORE)-簡潔に説明すると、(Wang et al.,2011,Drug Metab Dispos 39:1469-77)に記載されているように調製されたrhTrop-2/TACSTD2(Sino Biological,Inc.)または組換えヒト新生児受容体(FcRn)を、低密度チップ用の製造業者の取扱説明書に従い、アミンカップリングキット(GE Healthcare;Cat.No.BR-1000-50)で、CM5センサーチップ(GE Healthcare;Cat.#BR-1000-12)上に固定化した。泳動緩衝液を使用して、hRS7 IgG及びIMMU-132の独立した3セットの希釈溶液を調製した(400nM、200nM、100nM、50nM及び25nM)。それぞれのセットは、BIACORE(BIACORE-X;Biacore Inc.,Piscataway,NJ)内に流す独立した泳動液を構成し、BIAevaluationソフトウェア(Biacore Inc.,v4.1)を使用してデータを解析した。それぞれの試料における全5濃度の泳動液を使用して、1:1(Langmuir)Binding Model and Fitによる解析を実施し、ベストフィット(最小X値)を算出した。式 KD = kd1/ka1(式中、kd1は解離速度定数であり、ka1は会合速度定数)を使用して、KD値を算出した。
【0394】
ホルマリン固定パラフィン包埋組織内Trop-2分布の免疫組織学的評価-マウスから腫瘍異種移植片を取り出して、10%緩衝ホルマリンに固定後パラフィン包埋した。脱パラフィン後、トリス/EDTA緩衝液(DaKo Target Retrieval Solution,pH9.0;Dako,Denmark)を用いて、5μg切片を、NxGen Decloaking Chamber(Biocare Medical,Concord,CA)内、95℃で30分間インキュベートした。10μg/mLのヤギポリクローナル抗ヒトTrop-2抗体(R&D Systems,Minneapolis,MN)でTrop-2を検出し、Vector VECTASTAIN ABCキット(Vector Laboratories,Inc.,Burlingame,CA)で染色した。標準的なヤギ抗体を陰性対照として使用した(R&D Systems,Minneapolis,MN)。組織をヘマトキシリンで6秒間対比染色した。
【0395】
ヒトがん細胞株上におけるTrop-2表面発現-細胞表面上におけるTrop-2の発現はフローサイトメトリーに基づいている。簡潔に説明すると、Accutase Cell Detachment Solution(Becton Dickinson(BD);Franklin Lakes,NJ;Cat.No.561527)を用いて細胞を採取してから、製造業者の取扱説明書に従いQuantiBRITE PEビーズ(BD Cat.No.340495)及びPEコンジュゲート抗Trop-2抗体(eBiosciences,Cat.No.12-6024)を使用して、Trop-2発現のアッセイを行った。CellQuest Proソフトウェアを搭載したFACSCalibur Flow Cytometer(BD)上でデータを取得した。Flowjoソフトウェア(Tree Star,Ashland OR)を使用して染色を解析を行った。
【0396】
薬物動態-8~10週齢の未処理雌NCrヌード(nu/nu)マウスをTaconic Farms(Germantown,NY)から購入した。マウス(N=5)に200μgのIMMU-132、親hRS7、または修飾hRS7-NEM(TCEPで処理してN-エチルマレイミドをコンジュゲートしたhRS7)をi.v.注射した。注射後30分、4時間、24時間、72時間及び168時間の時点で、動物の後眼窩叢から採血した。ELISAを利用し、抗hRS7 IgGイディオタイプ抗体に対する結合性において、hRS7の西洋わさびペルオキシダーゼ複合体と競合させることにより、総hRS7 IgGの血清中濃度を測定した。補足用の抗SN-38抗体、及び検出用の西洋わさびペルオキシダーゼをコンジュゲートした抗hRS7 IgG抗体を使用して、インタクトIMMU-132の血清中濃度を測定した。Phoenix WinNonlinソフトウェア(version 6.3;Pharsight Corp.,Mountainview,CA)を使用した非コンパートメント解析により、薬物動態(PK)パラメータを算出した。
【0397】
二本鎖DNA切断のインビトロ評価-薬物活性試験用に、BxPC-3細胞を、5 x 10個の細胞/ウェルで6ウェルプレートに播種してから、37℃で一晩保持した。氷上で10分間冷却した後、細胞を、終濃度20μg/mlのIMMU-132、hA20-SN-38またはhRS7-IgGと共に、氷上で30分間インキュベートしてから、新鮮な培地で3回洗浄し、その後、37℃に戻して一晩培養を続けた。翌朝、細胞を短い間トリプシン処理してから遠心沈殿し、Fixable Viability Stain 450(BD Biosciences,San Jose,CA)で染色した。その後、1%BSA-PBSで洗浄してから、4%ホルマリン中で15分間固定した。再度洗浄を行ってから、PBS中0.15% Triton-X100で更に15分間透過処理を行った。1%BSA-PBSで2回洗浄後、マウス抗γH2AX-AF488(EMD Millipore Corporation,Temecula,CA)と共に細胞を4℃で45分間インキュベートした。BD FACSCanto(BD Biosciences,San Jose,CA)を使用して、フローサイトメトリーでγH2AXのシグナル強度を測定した。
【0398】
インビボ治療試験-4~8週齢のNCr雌無胸腺ヌード(nu/nu)マウスをTaconic Farms(Germantown,NY)から購入した。組織培養液から細胞を回収してマトリゲル(BD Bioscience;San Jose,CA)と1:1にした最終細胞懸濁液を調製することにより、NCI-N87胃腫瘍異種移植片を樹立して、それぞれのマウスの右脇腹に合計1 x 10個の細胞をs.c.注射した。BxPC-3用に1gの異種移植片を回収し、HBSSを用いて40%腫瘍(重量/体積)の濃度となるように腫瘍懸濁液を調製した。この懸濁液を、20%(重量/体積)の腫瘍懸濁液となるようにマトリゲルと1:1で混合した。それから、マウスに300μLでs.c.注射した。キャリパーを使用した2寸法測定法により、腫瘍容積(TV)を測定した(容積はL x w/2と定義され、式中、Lは腫瘍の最長寸法であり、wは腫瘍の最短寸法である)。IHC用に、約0.5cmまで腫瘍を増殖させてからマウスを安楽死させ、腫瘍を取り出して、ホルマリン固定及びパラフィン包埋を行った。治療試験のためにマウスを治療群に無作為化し、腫瘍容積が約0.25cmとなったところで治療を開始した。それぞれの実験における治療レジメン、用量、及び、動物の数については、結果及び凡例に記載している。凍結乾燥させたIMMU-132及び対照ADC(hA20-SN-38)を、必要に応じ、滅菌生理食塩水で戻して希釈した。
【0399】
腫瘍サイズが1.0cmより大きく成長したら、マウスを安楽死させて病死とみなした。治療に対する最良効果を、部分寛解、開始時のサイズから>30%の縮小;安定、最大29%の腫瘍容積縮小、または初期サイズからの20%以下の拡大;増悪、開始時のサイズまたはnadirのいずれかからの≧20%の腫瘍拡大と定義した。無増悪期間(TTP)を、腫瘍サイズがnadirから20%超拡大する治療後開始までの期間と定義した。
【0400】
腫瘍増殖の統計解析は、曲線下面積(AUC)を基準とした。線形曲線モデリングにより、個々の腫瘍増殖プロファイルを得た。増殖曲線の統計解析前に群間の等分散性を検定するために、F検定を採用した。生理食塩水対照を除く様々な治療群及び対照群間の統計的有意性を評価するために両側t検定を使用した一方で、片側t検定を使用した(有意性、P≦0.05)。Prism GraphPad Software(v4.03)ソフトウェアパッケージ(Advanced Graphics Software,Inc.,Encinitas,CA)を使用し、カプランマイヤープロット(ログランク解析)を用いて生存率試験について解析した。
【0401】
免疫ブロット法-細胞(2 x 10)を6ウェルプレートに播種してから、一晩静置した。翌日、遊離SN-38(DMSO中に溶解)またはIMMU-132(0.4μg/mL(1μM)のSN-38濃度当量)のいずれかを用いて、細胞を処理した。親hRS7をADCの対照として用いた。10mM トリス、pH7.4、150mM NaCl、プロテアーゼ阻害薬及びホスファターゼ阻害剤(2mM NaPO、10mM NaF)を含有する緩衝液中に、細胞を溶解した。合計20μgのタンパク質を4~20% SDSポリアクリルアミドゲル中に分散させてからニトロセルロース膜上に転写し、1 x TBS-T(トリス緩衝生理食塩水、0.1% Tween-20)中の5%脱脂乳を用いて、室温で1時間ブロッキングした。一次抗体を用いて4℃で一晩膜をプローブした後、抗ウサギ二次抗体(1:2500)を用いて室温で1時間インキュベートした。化学発光キット(Supersignal West Dura,Thermo Scientific;Rockford,IL)を使用してシグナルを検出し、Kodak Image Station 40000Rを用いて膜を可視化した。一次抗体p21Waf1/Cip1(Cat.No.2947)、カスパーゼ3(Cat.No.9665)、カスパーゼ7(Cat.No.9492)、カスパーゼ9(Cat.No.9502)、PARP(Cat.No.9542)、β-アクチン(Cat.No.4967)、pJNK1/2(Cat.No.4668)、JNK(Cat.No.9258)、及びヤギ抗ウサギHRP二次抗体(Cat.No.7074)は、Cell Signal Technology(Danvers,MA)から入手した。
【0402】
結果
複数の固形腫瘍細胞株におけるTrop-2発現レベル-Trop-2の表面発現は、胃癌、膵臓癌、乳癌、結腸癌及び肺癌を含む様々なヒト固形腫瘍株(表10)において明白である。任意のその他の腫瘍タイプを上回って高発現した腫瘍タイプは1つではなく、任意の腫瘍細胞タイプ内においてばらつきが認められた。例えば、胃腺癌全体のTrop-2レベルは、細胞あたりの表面分子で、非常に少ない494 ± 19(Hs 746T)から多い246,857 ± 64,651(NCI-N87)の範囲であった。
【0403】
Trop-2発現用に染色した胃腸腫瘍異種移植片は、細胞質染色及び膜染色の両方を示した(データは省略)。染色強度は、FACS解析で測定した表面Trop-2発現の結果とかなり一致した。膵腺癌においては、3種全てが均一な染色を示し、BxPC-3は2+~3+の染色を示した。NCI-N87胃腺癌は、より均一な染色パターンを示し、腺の先端内膜に3+染色がみられ、周囲の腫瘍細胞に著しい染色はあまりみられなかった。COLO 205が極めて局所的な1+~2+の染色を示した一方で、HT-29は、ほんの少しの細胞における極めて希少な1+の染色を示した。
【0404】
表10.FACS解析による様々な固形腫瘍株におけるTrop-2表面発現レベル。a
細胞あたりの表面Trop-2分子数
細胞株 平均±SD

NCI-N87 246,857 ± 64,651
AGS 53,756 ± 23,527
Hs 746T 494 ± 19
膵臓
BxPC-3 493,773 ± 97,779
CFPAC-1 162,871 ± 28,161
Capan-1 157,376 ± 36,976
HPAF-II 115,533 ± 28,627
乳房(TN)
MDA-MB-468 301,603 ± 29,470
HCC38 181,488 ± 69,351
HCC1806 91,403 ± 20,817
MDA-MB-231 32,380 ± 5,460
乳房
SK-BR-3(HER2) 328,281 ± 47,996
MCF-7(ER2) 110,646 ± 17,233
結腸
COLO 205 58,179 ± 6,909
HT-29 68 ± 17
NSCLC
Calu-3 128,201 ± 50,708
扁平上皮細胞肺
SK-MES-1 29,488 ± 5,824
急性T細胞性白血病
ジャーカット 0
a3つの独立したアッセイを実施し、平均及び標準偏差で示した。
【0405】
IMMU-132の結合特性-hRS7がマウスTrop-2と交差反応しないことを更に示すために、組換えマウスTrop-2またはヒトTrop-2のいずれかでコーティングしたプレートに対してELISAを実施した(データは省略)。ヒト化RS7はヒトTrop-2だけに特異的に結合し(KD=0.3nM)、マウスTrop-2との交差反応は認められなかった。対照のポリクローナルウサギ抗マウスTrop-2抗体及び抗ヒトTrop-2抗体は、両形態のTrop-2と交差反応してそれらと結合した(データは省略)。
【0406】
親hRS7に加え、修飾hRS7、修飾hRS7-NEM(TCEPで処理してN-エチルマレイミドをコンジュゲートしたhRS7)と比較して、複数の細胞株に結合したIMMU-132について試験を行った(データは省略)。全てのケースにおいて、算出したKD値はサブナノモル範囲であり、任意の細胞株内におけるhRS7と、IMMU-132と、hRS7-NEMの間に有意差は認められなかった。
【0407】
IMMU-132とhRS7における結合性の比較について、表面プラズモン共鳴(BIACORE)解析を使用して、更に調査を行った(データは省略)。低密度Trop-2バイオセンサーチップ(密度=1110RU)を、組換えヒトTrop-2に利用した。3回の独立した結合泳動は、IMMU-132が、SN-38のコンジュゲーションプロセスによって悪影響を受けないことを示しただけではなく、hRS7と比較してTrop-2に対する結合親和性がより高いことを示した(それぞれ、0.26 ± 0.14nM対0.51 ± 0.04nM;P=0.0398)。
【0408】
作用機序:ADCC及び内因性アポトーシスシグナル伝達経路-3種類の異なる細胞株、TNBC(MDAMB-468)、卵巣(NIH:OVCAR-3)及び膵臓(BxPC-3)におけるIMMU-132のADCC活性をhRS7と比較した(データは省略)。3種類全てにおいて、hRS7は、IMMU-132を含む全てのその他治療薬と比較して、細胞溶解を有意に媒介した(P<0.0054)。IMMU-132を使用して細胞を標的とすると、hRS7の場合と比較して、ADCCが60%超低下した。例えば、MDA-MB-468においてhRS7が媒介する特異的溶解は、IMMU-132の場合の8.6 ± 2.6%と比較して、29.8 ± 2.6%であった(データは省略;P<0.0001)。ほぼ同等のADCC活性低下が、NIH:OVCAR-3及びBxPC-3で同様に認められた(データは省略;それぞれ、P<0.0001及びP<0.0054)。この低下したADCC活性は、コンジュゲーションプロセス中の抗体に生じた変化の結果であると考えられる。なぜなら、特異的細胞溶解におけるこの同一の低下は、CL2A-SN-38リンカーを欠き、N-エチルマレイミドの代わりにシステインをブロックしているhRS7-NEMにおいて明白であるからである(データは省略)。hRS7またはIMMU-132と関連したCDC活性は認められなかった(データは省略)。
【0409】
以前より、IMMU-132が、初期プロアポトーシスシグナル伝達現象(p53及びp21WAF1/Cip1)の上方制御を媒介し、最終的にPARP20の切断をもたらしていることが判明している。IMMU-132が利用するアポトーシス経路をより適切に同定するために、NCI-N87ヒト胃癌細胞株及びBxPC-3膵腺癌細胞株を、1μMの遊離SN-38または当量のIMMU-132に曝した(データは省略)。遊離SN-38とIMMU-132の両方は、p21WAF1/Cip1の上方制御を媒介する。遊離SN-38に曝したNCI-N87細胞とIMMU-132に曝したNCI-N87細胞の間の上方制御が、48時間経過して初めて同一となった(データは省略)一方で、BxPC-3における最大の上方制御は24時間以内に明白となった(データは省略)。遊離SN-38とIMMU-132の両方は、曝露後48時間以内に、プロカスパーゼ9及びプロカスパーゼ7の切断を示す。両方の細胞株でプロカスパーゼ3は切断され、その最高切断率は48時間後に認められた。遊離SN-38とIMMU-132の両方は最終的に、PARPの切断を媒介した。このことは24時間時点で初めて明白となり、48時間時点で切断の増加が認められた。まとめると、これらのデータは、IMMU-132内に含まれるSN-38が遊離SN-38と同一の活性を有していることを裏付けている。
【0410】
これらの後期アポトーシスシグナル伝達現象に加え、この経路に関わる初期の現象、すなわち、JNKのリン酸化(pJNK)はまた、遊離SN-38またはIMMU-132のいずれかに短時間曝露されたBxPC-3細胞において明白であるが、naked hRS7では明白ではない(データは省略)。pJNKの増量は4時間時点付近で明白であり、6時間時点において顕著な変化は認められなかった。IMMU-132の場合と比較して、遊離SN-38に曝した細胞内では、より高強度のリン酸化が認められたが、対照と比較すると両方ともかなり高かった。IMMU-132の作用機序のエンドポイントとして、BxPC-3細胞内におけるdsDNA切断の測定を実施した。BxPC-3をIMMU-132に30分間だけ曝すと、非標的化対照ADCの場合と比較して、2倍超のγH2AX誘導がもたらされた(表11)。約70%の細胞がγH2AX染色に対して陽性であるのに対し、naked hRS7、関連性のないhA20-SN-38 ADC、及び未処理対照は、<20%であった(P<0.0002)。
【0411】
表11.BxPC-3においてIMMU-132が媒介するdsDNAの切断:γH2AX誘導。
処理 平均蛍光強度 パーセント陽性
未処理 2516 ± 191 18.8 ± 6.3
hRS7 2297 ± 18 13.0 ± 0.6
hA20-SN-38 2246 ± 58 12.7 ± 2.4
IMMU-132 5349 ± 234 69.0 ± 4.1
aIMMU-132対全3対照治療、P<0.0002(片側t検定;N=3)。
【0412】
IMMU-132の薬物動態-ヒト新生児受容体(FcRn)への結合性をBIACORE解析により測定した(データは省略)。低密度FcRnバイオセンサーチップ(密度=1302RU)を使用して、5つの異なる濃度(400~25nM)で3回の独立した結合泳動をそれぞれの薬剤で実施した。総合的に言えば、hRS7とIMMU-132の両方はナノモル範囲のKD値(それぞれ、92.4 ± 5.7nM及び191.9 ± 47.6nM)を示し、2つの間に有意差は認められなかった。マウスにIMMU-132を注射してから、2つのELISAを使用して、親hRS7と比較したIMMU-132対hRS7 IgGのクリアランスを測定した(データは省略)。hRS7を注射したマウスは、IMMU-132のhRS7標的化部分に認められたパターン(データは省略)に類似した二相性のクリアランスパターン(それぞれ、約3時間及び200時間のα半減期及びβ半減期)(データは省略)を示した。対照的に、インタクトIMMU-132では、11時間の半減期及び15.4時間の平均滞留時間(MRT)の急速なクリアランスが認められた(データは省略)。
【0413】
鎖間ジスルフィド結合の分断が標的化抗体のPKを変化させないということを更に確認するために、親hRS7のPKを修飾hRS7(hRS7-NEM)の場合と比較した。半減期、Cmax、AUC、クリアランスまたはMRTに関して、2薬剤間に有意差は認められなかった(データは省略)。
【0414】
ヒト胃癌異種移植片におけるIMMU-132の効果-以前より、非小細胞肺癌、結腸癌、TNBC及び膵臓癌の異種移植片モデルにおけるIMMU-132の効果が実証されている(Cardillo et al.,2011,Clin Cancer Res 17:3157-69;Goldenberg et al.,Poster presented at San Antonio Breast Cancer Symposium,December 9-13,Abstr P5-19-08)。これらの研究結果を、その他の胃腸癌へと更に広げるために、ヒト胃癌異種移植片のNCI-N87を有するマウスを用いて、IMMU-132の試験を行った(データは省略)。IMMU-132による治療は、生理食塩水及び非標的化hA20(抗CD20)-SN-38 ADC対照と比較して、著しい腫瘍退縮を実現した(データは省略;P<0.001)。動物に最後の治療投与を行った後に18日間超継続した部分的な効果を示したのは、IMMU-132群内の7匹のマウスのうち6匹であった。この試験は、対照ADC群内の効果のなかったマウスの4.1 ± 2.0日間と比較して、41.7 ± 4.2日間の平均無増悪期間(TTP)という結果となった(P<0.0001)。総合的に言えば、IMMU-132治療マウスの平均生存期間(MST)は、対照ADCでは24日間、生理食塩水対照動物では14日間であったのに対し、66日間であった(データは省略;P<0.0001)。
【0415】
臨床的に意義のある投薬スキーム-現時点で臨床的に試験されているIMMU-132の反復最大耐量は、21日サイクルの1日目及び8日目における8mg/kg及び10mg/kgの投与である。ヒト用量の8mg/kgは、マウス用量の98.4mg/kg(すなわち、20gのマウスに対する約2mg)に変換される。ヒト膵腺癌異種移植片モデル(BxPC-3)を用いて、分割した2mgのIMMU-132による3つの異なる投薬スケジュールについて試験を行った。3つの異なる投与スケジュール:1つの群は1mgのIMMU-132投与を2回(1日目及び15日目に治療)受け、1つの群は0.5mgの投与を4回(1日目、8日目、22日目及び29日目に治療)受け、最後の群は0.25mgの投与を8回(1日目、4日目、8日目、11日目、22日目、25日目、29日目及び32日目に治療)受ける、を使用してこの総用量を分割した。3つ全ての投薬スキームは、未治療対照動物と比較して、腫瘍増殖抑制と全生存期間の両方の点において、有意な抗腫瘍効果をもたらした(それぞれ、P<0.0009及びP<0.0001)。3つの異なる治療群間のTTPに有意差はなく、1mg投薬群の22.4 ± 10.1日間から、0.25mg投薬群の31.7 ± 14.5日間(未治療対照群のTTP=5.0 ± 2.3日間)の範囲であった。
【0416】
NCI-N87ヒト胃腫瘍異種移植片を有するマウスを用いて、同様の投薬スケジュール試験を実施した(データは省略)。3つ全ての投薬スケジュールは、未治療対照マウスと比較して有意な抗腫瘍効果をもたらしたが、互いの差は認められなかった(AUC;P<0.0001)。同様に、全生存期間の点から言うと、3つ全ての投薬スケジュールは、未治療対照と比較して有意な生存効果をもたらした(P<0.0001)が、これら3つの異なるスケジュールのいずれかの間に差は認められなかった。
【0417】
適切な投薬スキームを更に区別するために、NCI-N87腫瘍を有するマウスを、0.5mgのIMMU-132を2週間にわたり週に1回マウスに注射してから1週間休薬し、その後別のサイクル(データは省略)を開始する(現行の臨床試験スケジュールにみられるような)という、長期的なIMMU-132投与に供した。合計で4つの治療サイクルにわたり動物に投与を行った。
【0418】
この投薬スケジュールは腫瘍増殖を遅延させ、対照ADC治療マウスにおける4.7 ± 2.2日間と比較して、15.7 ± 11.1日間のTTPをもたらした(P=0.0122)。総合的に言えば、長期的な投薬により、19匹の平均生存率は、対照ADC治療マウスの21日間からIMMU-132投与動物の63日間へと3倍高まった(P=0.0001)。重要なことに、これら全ての異なる投薬スキーム評価において、有意な体重減少を示さないマウスにおける治療関連毒性は認められなかった(データは省略)。
【0419】
考察
目下の第I/II相臨床試験(ClinicalTrials.gov,NCT01631552)において、IMMU-132(サシツズマブゴビテカン)は、広範囲の固形腫瘍を発症している患者に対して客観的な効果を示している(Starodub et al.,2015,Clin Cancer Res 21:3870-78)。この第I/II相臨床試験を継続する上で、IMMU-132の効果を更に、拡大リストのTrop-2陽性がんへと広げる必要がある。加えて、超毒性薬物を利用したその他臨床的に意義のあるADCとは対照的に、IMMU-132の独自性を、本発明者らが臨床開発を前進させるにつれて更に明らかにする必要がある。
【0420】
本明細書で提供する研究はIMMU-132の特性を更に明らかにするものであり、胃癌及び膵腺癌に対するIMMU-132の効果を臨床的に意義のある投薬スキームで実証するものである。奏効するADCの優勢な見方では、正常組織と比較して腫瘍における発現レベルが高い抗原を認識する抗体、及び腫瘍細胞に結合する際に好ましく内部移行する抗体、を使用することが当然となっている(Panowski et al.,2014,mAbs 6:34-45)。現時点で承認済みのADCの全ては、非常に安定したリンカーで抗体に結合した低置換率(抗体あたり2~4つの薬物)の超毒性薬物(pM IC50)を使用している。IMMU-132はこのパラダイムから離れて3つの主な態様、(i)SN-38(適度に細胞傷害性の薬物(nM IC50))は化学療法剤として使用される、(ii)SN-38は抗体の8つの鎖間チオールに部位特異的にコンジュゲートして、抗体あたり7.6の薬物置換となる、及び(iii)カーボネートリンカーは、低pHで開裂可能だが、また24時間の血清中半減期で薬物を放出するものを使用する、を有する(Cardillo et al.,2011,Clin Cancer Res 17:3157-69)。IMMU-132は抗体で構成され、当該抗体は、本発明者らが説明したとおりエピトープに結合後に内部移行して、多くの異なるタイプの上皮性腫瘍で高発現し更にその対応する正常組織において低濃度で存在するヒトTrop-2に特異的である(Shih et al.,1995,Cancer Res 55:5857s-63s)。正常組織内に存在するにもかかわらず、同様の組織でTrop-2をまた発現するサルを用いた先行研究は、用量制限の好中球減少症及び下痢を発症するほど極めて高い用量でさえ、比較的軽度で可逆的な組織病理学的変化を示した。このことは、正常組織内の抗原が何らかの方法で隔離されたか、またはより少ない毒性の薬物を使用したことによりこれら正常組織を重大な損傷から守ったということを示唆している(Cardillo et al.,2011,Clin Cancer Res 17:3157-69)。
【0421】
本明細書において、本発明者らは、以前より報告されている方法と比較してより定量的な方法で、しかしまた重要なことに、均一(例えば、NCIN87)から極めて局所的(例えば、COLO 205)の範囲のTrop-2発現を示す異種移植片を用いて、インビトロ発現を試験することにより、複数のヒト固形腫瘍株におけるTrop-2発現の評価を拡大した。総合的に言えば、インビトロで測定されたTrop-2の表面発現レベルは、異種移植片のIHC解析後における染色強度と相関している。Trop-2発現細胞の局所的なポケットのみの存在が免疫組織学試験により明らかとなったCOLO 205のような腫瘍においてでさえ、IMMU-132が依然として特定腫瘍の退縮を誘導可能であったことが特に興味深く、このことは、抗原提示細胞に結合した複合体からSN-38が放出された結果としてバイスタンダー効果が生じ得ることを示唆している(Cardillo et al.,2011,Clin Cancer Res 17:3157-69)。実際に、SN-38は細胞膜を容易に貫通し、また腫瘍微小環境内へのSN-38の局所放出は、インタクト複合体の内部移行を必要とせずに細胞内部にSN-38を侵入させるための別の機構をもたらす。重要なことに、複合体に結合したSN-38は完全な活性化状態を維持するが、それはすなわち、グルクロン酸抱合されないこと、及び放出時にラクトン環形態となり得ることを意味する(Sharkey et al.,2015,Clin Cancer Res,21:5131-8)。この特性は独特であり、今日まで研究されてきたその他の徐放性SN-38製剤またはイリノテカン製剤のいずれかと比較してより選択的な方法で完全な活性化形態のSN-38を局在化させるという、IMMU-132の機能を特徴付けるものである。
【0422】
IMMU-132を用いた第I相臨床試験では、第II相における更なる研究のため、21日サイクルにおける2週間にわたり週に1回の8~10mg/kgの投与について確認した(Starodub et al.,2015,Clin Cancer Res 21:3870-78)。膵臓癌及び胃癌を含む広範囲の転移性固形腫瘍を有する患者に、複数の前治療からの再発後における長期間の病変安定化が認められた(Starodub et al.,2015,Clin Cancer Res 21:3870-78;Starodub et al.,2014,J Clin Oncol 32:5s(Suppl Abstr 3032))。異なる投薬スケジュールがより効果的となり得るかを確認するために、異種移植片モデルを用いた更なる試験を実施した。この目的のために、ヒト用量の8mg/kg(マウス用量の98.4mg/kg)当量を、21日サイクルにおける1週おき、週に1回、または週に2回を含む3つの異なる投薬スケジュールに分割した。膵臓腫瘍モデル及び胃腫瘍モデルでは、3つのスケジュール全てにおける治療効果に有意差は認められず、治療の中止後に初めて腫瘍が増悪した。それゆえ、これらのデータは、週に1回の投与レジメンの継続使用が、現時点で臨床的に求められていることを裏付けている。
【0423】
8~10mg/kgのそれぞれの治療用量のIMMU-132を推奨する臨床試験では(Starodub et al.,2015,Clin Cancer Res 21:3870-78)、抗体単独がIMMU-132の効果に寄与し得るかどうかを確認することが重要であった。ヒト異種移植片ヌードマウスモデルを用いた以前の試験には、非コンジュゲートhRS7 IgG単独(反復用量の25~50mg/kg)が含まれていたが、治療効果のエビデンスは認められなかった(Cardillo et al.,2011,Clin Cancer Res 17:3157-69)。しかしながら、マウスを用いた試験では、免疫学的機能を常に予測することは不可能である。hRS7のインビトロADCC活性は、Trop-2陽性の卵巣癌及び子宮癌において報告されている(Raji et al.,2011,J Exp Clin Cancer Res 30:106;Bignotti et al.,2011,Int J Gynecol Cnacer 21:1613-21;Varughese et al.,2011,Am J Obstet Gynecol 205:567;Varughese et al.,2011,Cancer 117:3163-72)。本発明者らは、3種類の異なる細胞株における非コンジュゲートhRS7のADCC活性を確認したが、IMMU-132がそのエフェクター機能の60~70%を失っていることが判明した。還元/NEMブロックIgGが同様にADCC活性を失っていることから、CL2A-SN-38構成要素の結合部はそれ自体、原因ではないと考えられる。
【0424】
抗体はまた、様々なアポトーシスシグナル伝達経路に作用することにより、細胞死を誘導することができる。しかしながら、本発明者らは、多数のアポトーシスシグナル伝達経路における非コンジュゲート抗体の効果を何ら観察しなかった。その代わりに、IMMU-132がSN-38の場合と同様の内因性アポトーシス現象を誘導したことを確認した。初期の現象には、JNK1/2のリン酸化に加え、カスパーゼ9、7及び3の活性化をもたらすp21WAF1/Cip1の上方制御が含まれ、最終的には、リン酸化ヒストンH2AX(γH2AX)41の増量により判定される、PARP切断及び有意なレベルのdsDNA切断がもたらされる。これらのデータは、IMMU-132の主な作用機序がSN-38と関連していることを示唆している。
【0425】
表面プラズモン共鳴(BIACORE)解析では、IMMU-132の平均結合レベルが約2倍低いにもかかわらず、IMMU-132のヒト新生児受容体(FcRn)への結合性に有意差は検出されなかった。FcRnへの結合性がIgG血清中半減期の長期化と関連しているとされてきたが(Junghans & Anderson,1996,Proc Natl Acad Sci USA 93:5512-16)、FcRnに対する抗体のインビトロ親和性がインビボクリアランス速度と一致し得ないことから(Datta-Mannan et al.,2007,J Biol Chem 282:1709-17)、この研究結果の総合的な重要性は未知である。腫瘍を有するマウスによる111In-DTPA-IMMU-132を用いた以前の実験では、両者の腫瘍への取り込み率がほぼ同等であるにもかかわらず、111In-DTPA-hRS7の場合と比較して若干速い速度で、複合体が血清中から消失することが明らかとなった(Cardillo et al.,2011,Clin Cancer Res 17:3157-69)。目下の研究において、ELISAアッセイを使用してIgG構成要素のクリアランスを更に測定することにより、IMMU-132及び還元してNEMブロックしたIgGが非コンジュゲートhRS7とほぼ同等の速度で消失したことが判明した。このことは、鎖間ジスルフィドへの結合性が抗体を不安定化させないことを示唆している。予想したとおり、ELISAを使用してインタクト複合体のクリアランスをモニタリングすると(抗SN-38抗体を用いて補足し、抗イディオタイプ抗体でプローブ)、そのクリアランス速度は、IgG構成要素のみをモニタリングした際よりも速かった。この違いは、約1日間の半減期で複合体からSN-38が放出されていることを簡潔に反映している。本発明者らはまた、ELISAを使用して、異なる置換レベルで調製したサシツズマブゴビテカン複合体のクリアランス速度を調査し、それらのクリアランス速度に顕著な差異が認められないことを再度見出した(Goldenberg et al.,2015,Oncotarget 8:22496-512)。総合的に言えば、これらのデータは、抗体を緩やかに還元してから鎖間ジスルフィドの一部または全てに部位特異的修飾を施すことが、IgGの血清中クリアランスに影響を及ぼすとしても最小限の影響となることを示唆しているが、IMMU-132の全体的なクリアランス速度は主に、リンカーからSN-38が放出される速度によって決まる。
【0426】
加えて、大規模な細胞結合試験により、IMMU-132、非コンジュゲート抗体またはNEM修飾抗体の結合性に有意差がないことが実証されたが、このことは、鎖間ジスルフィドへの部位特異的結合が抗体の抗原結合特性を保護していることを示唆している。興味深いことに、オンレート及びオフレートに加えて全体的な親和性をより精度高く測定するBIACOREを使用して解析を行うと、IMMU-132には、naked hRS7の場合と比較して、Trop-2結合に関する算出KD値に大幅な2倍の改善が認められた。
【0427】
本発明者らは、この改善が、SN-38を抗体にコンジュゲートする際に付加された疎水性によるものであり得ると推測している。疎水性残基に加えてタンパク質結合部位の隔離領域の疎水性が、エピトープに対するより強い親和性を付与していることが示された(Park et al.,2000,Nat Biotechnol 18:194-98;Berezov et al.,2001,J Med Chem 44:2565-74;Young et al.,2007,Proc Natl Acad Sci USA 104:808013)。これらの領域は、タンパク質-タンパク質界面に存在する必要はなく、よりエネルギーの少ない接触残基に囲まれて存在していてもよい(Li et al.,2005,Structure 13:297-307)。SN-38結合部位はhRS7の相補性決定領域(CDR)内に存在していないが、抗体上のSN-38がエピトープ周囲の水分子の一部を置換することで、naked hRS7の場合と比較してIMMU-132にみられる結合親和性に無視できない改善をもたらし得ることが予想される。
【0428】
ADC開発におけるほとんどの試みは、安定したリンカー及び超毒性薬物の使用に向けられており、前臨床試験は、それら複合体に求められる特定の最適条件を示している(Panowski et al.,2014,mAbs 6:34-45;Phillips et al.,2008,Cancer Res 68:9280-90)。例えば、T-DM1を別の安定性に欠ける誘導体、T-SSPDM1と比較することにより、インタクトT-SSP-DM1が、腫瘍を有さないマウス内のT-DM-1と比較して、約2倍速い速度で消失し(Phillips et al.,2008,Cancer Res 68:9280-90;Erickson et al.,2012,Mol Cancer Ther 11:1133-42)、腫瘍内のT-DM1濃度がT-SSPDM1と比較して1.5倍高くなっていることが明らかとなった。予想外で最も興味深かったことは、標的腫瘍内における遊離活性メイタンシノイド異化代謝産物の量が2種類のADC間で極めて類似していることを発見したことであった(Erickson et al.,2012,Mol Cancer Ther 11:1133-42)。
【0429】
言い換えると、T-SSP-DM1により、より安定なT-DM1と比較して安定性が低いほどより効率的に薬物を腫瘍に放出するという事実に起因するリンカーの安定性不足を克服することが可能となった。当然のことではあるが、腫瘍内活性薬物異化代謝産物の2種ADC間におけるこの同等性は、腫瘍を有する動物においてほぼ同等の抗腫瘍効果をもたらした。最終的には、超毒性薬物及び安定性に欠けるリンカーを使用する際に生じる毒性問題を基準として、T-DM1を選択した(Phillips et al.,2008,Cancer Res 68:9280-90)。SN-38がこれらマイタンシンと比較して少なくとも対数倍低毒性であるため、ADCから放出されるSN-38の毒性はより低いことが予想される。しかしながら、血清中に放出されているにもかかわらず、ヒト胃腫瘍異種移植片またはヒト膵臓腫瘍異種移植片内に局在化したSN-38の量は、20倍多いSN-38当量を含むイリノテカン用量を注射された腫瘍を有するマウスの場合と比較して、最大136倍多かった(Sharkey et al.,2015,Clin Cancer Res,21:5131-8)。本発明者らはIMMU-132の開発にあたり、より安定したリンカーを試験してきたが、それらリンカーは、IMMU-132と比較して、腫瘍異種移植片モデルにおいて著しく効果が低かった(Govindan et al.,2013,Mol Cancer Ther 12:968-78)。
【0430】
同様に、SN-38をより速やかに放出するリンカー(例えば、約10時間の血清中半減期)も異種移植片モデルにおいて効果が低く(Moon et al.,2008,J Med Chem 51:6916-26;Govindan et al.,2009,Clin Chem Res 15:6052-61)、SN-38の放出が効果の向上をもたらす最適窓が存在することを示唆している。それゆえ、現在のデータは、IMMU-132が、イリノテカンと比較して、より効率的な方法で薬物を腫瘍へと向かわせて放出していることを示している。
【0431】
初期の臨床試験が様々な固形腫瘍における有望で客観的な効果を示しており、重要なことに、イリノテカン治療約と比較して、下痢の発症率を低下させつつ、より良好な安全性プロファイルを示している(Starodub et al.,2015,Clin Cancer Res 21:3870-78)。
【0432】
要約すると、IMMU-132(サシツズマブゴビテカン)はADC開発におけるパラダイムシフトである。IMMU-132は、より忍容性の高い、イリノテカンの活性代謝物であるSN-38の7~8個の分子を抗Trop-2抗体に結合するための適度に安定したリンカーを使用している。これらは超毒性ADCに相対する反直観的な特性と思われるにもかかわらず、非臨床試験では、IMMU-132が、有意な効果を示し顕著な毒性を伴わずに、極めて効率的にTrop-2発現腫瘍を標的とすることが実証されている。膵臓癌、胃癌、TNBC、小細胞肺癌及び非小細胞肺癌を含む広範囲の固形腫瘍に対する初期の第I/II相臨床試験では、IMMU-132は同様に、これらの患者に管理可能な毒性を示しつつ、IgGまたはSN-38のいずれかに対する免疫応答が検出されることなく、何ヶ月もの投薬を行った後であっても、抗腫瘍効果を示した(Starodub et al.,2015,Clin Cancer Res 21:3870-78)。このような多種多様な固形腫瘍においてTrop-2の高発現がみられるため、IMMU-132を用いた臨床試験は、特に、ほとんどの現行療法手法に耐性を示す進行癌において継続している。
【0433】
実施例18.第I/II相臨床試験の更なる結果
トリプルネガティブ乳癌(TNBC)
上記実施例で説明した第I/II相臨床試験(NCT01631552)を、10mg/kgで治療した56名のTNBC患者を集めて継続している。患者集団はこれまで、IMMU-132治療を開始する前に、タキサン治療を含む少なくとも2種類の前治療により広く治療を受けてきた。前治療としては、シクロホスファミド、ドキソルビシン、カルボプラチン、ゲムシタビン、カペシタビン、エリブリン、シスプラチン、アナストロゾール、ビノレルビン、ベバシズマブ及びタモキシフェンが挙げられる。この広い治療暦にもかかわらず、TNBC患者は、IMMU-132に対して十分な反応を示し、2名の完全寛解(CR)が確認され、13名が部分寛解(PR)、また25名が安定(SD)となり、客観的奏効率は29%(15/52)であった(データは省略)。CRとPRとSDの症例を足し合わせると、TNBCの治療は、IMMU-132治療患者において71%の好ましい奏効率となった(データは省略)。多数の前治療暦を有するこのTNBC患者集団の平均無増悪期間は、これまでのところ9.4ヶ月間(2.9~14.2ヶ月間の範囲)であった。しかしながら、試験における患者の72%はなおも治療継続中であった。
【0434】
転移性NSCLC
臨床試験はまた、転移性非小細胞肺癌(NSCLC)を有する患者で継続中であり、これまでのところ29名の評価可能な患者を集め、8mg/kgまたは10mg/kgのIMMU-132で治療を行った。RESIST 1.1基準による最良効果を判定した(データは省略)。29名の患者のうち、8名がPRで13名がSDであった。NSCLC患者の無増悪期間は、NSCLC患者の21/33(64%)がPRまたはSDであることを示した(データは省略)。平均無増悪期間は9/4ヶ月間(1.8~15.5+ヶ月間の範囲)であり、患者の47%はなおも治療を受けている。8mg/kgまたは10mg/kgのIMMU-132で治療したNSCLC患者の無増悪生存期間を測定した(データは省略)。平均PFSは、8mg/kgで3.4ヶ月間であり、10mg/kgで3.8ヶ月間であった。しかしながら、試験はなおも継続中であり、平均無増悪生存期間の数字は改善する可能性がある。
【0435】
転移性SCLC
転移性SCLC患者において同等の結果が認められた(データは省略)。無増悪期間(データは省略)は、平均4.9ヶ月間(1.8~15.7+ヶ月間の範囲)を示し、7名の患者はなおもIMMU-132による治療を受けている。無増悪生存期間(データは省略)は、8mg/kgで2.0ヶ月間の平均PFS、10mg/kgで3.6ヶ月間の平均PFSを示した。平均OSは、8mg/kgで8.1ヶ月間であり、これまでのところ10mg/kgでは測定できていない。
【0436】
尿路上皮癌
8mg/kgまたは10mg/kgのIMMU-132で治療した尿路上皮癌患者で同様の結果が得られた。11名の評価可能な患者の最良効果データは、6名のPR及び2名のSDを示した(データは省略)。無増悪期間(データは省略)は、平均8.1ヶ月間(3.6~9.7+ヶ月間の範囲)を示した。
【0437】
要約すると、継続中の第I/II相臨床試験は、列挙した用量でADCを投与すると、少なくともTNBC、NSCLC、SCLC及び尿路上皮癌に対するIMMU-132の優れた効果を示している。これら多数の前治療を施され耐性を示す転移性がんに対する優れた治療効果は、臨床使用を妨げ得る重篤な毒性を誘導することなく発揮された。IMMU-132は、多種多様な固形がんを有し多数の前治療暦(平均2~5つの前治療)のある患者において許容可能な安全性プロファイル示した。グレード3またはそれ以上の有害反応を示す好中球減少症のみが、患者集団の20%超で発症した。試験は更に、干渉する宿主の抗IMMU-132抗体を誘発することなく、反復用量のIMMU-132を治療量でヒト患者に投与可能であることを実証している。これらの結果は、ヒト患者における多種多様なTrop-2陽性がんを治療するためのIMMU-132の安全性及び有効性を実証している。
【0438】
上記の記載内容から、当業者は、本発明の本質的な特徴を容易に見極めることができ、また、本発明の趣旨及び範囲を逸脱することなく本発明の様々な変更及び修正を行い、過度な実験をすることなく様々な用法及び条件に適合させることができる。本明細書に引用した全ての特許、特許出願及び刊行物は、参照として本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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