(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】中空糸膜モジュール
(51)【国際特許分類】
B01D 63/02 20060101AFI20231108BHJP
C02F 1/44 20230101ALI20231108BHJP
B01D 65/08 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
B01D63/02
C02F1/44 A
B01D65/08
(21)【出願番号】P 2019046712
(22)【出願日】2019-03-14
【審査請求日】2022-01-19
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】徳永 功次
(72)【発明者】
【氏名】丸井 一成
(72)【発明者】
【氏名】熊野 淳夫
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-115796(JP,A)
【文献】国際公開第2017/222063(WO,A1)
【文献】特開2019-025405(JP,A)
【文献】特開昭62-172964(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/22、61/00-71/82
C02F1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正浸透またはブラインコンセントレーションに用いられる中空糸膜モジュールであって、
容器と、
該容器の内部に収納され、並列的に配置された複数の中空糸膜からなる中空糸膜群と、
前記容器の外部から、前記容器の内部であり前記中空糸膜の外側の部分である外部領域に、液体を供給するための供給口と、
前記外部領域から、前記容器の外部に、液体を排出するための排出口と、
前記供給口から供給される液体を前記外部領域に向けて、少なくとも前記中空糸膜の長さ方向に平行な方向に吐出可能であり、前記中空糸膜の外表面を流れる前記液体を前記中空糸膜の長さ方向に平行な方向に流れやすくすることのできる
、ディストリビューターと、を備え
、
前記ブラインコンセントレーションは、前記中空糸膜モジュールの前記外部領域および中空部領域のいずれか一方の第1室に対象溶液の一部を流し、他方の第2室に対象溶液の他の一部を流して、前記第1室内の前記対象溶液を加圧することで、前記第1室内の前記対象溶液に含まれる溶媒を前記中空糸膜を介して前記第2室内に移行させ、前記第1室内の前記対象溶液を濃縮し、前記第2室内の前記対象溶液を希釈する膜分離処理である、中空糸膜モジュール。
【請求項2】
前記ディストリビューターは、前記中空糸膜群の径方向に分散して配置された複数の吐出口を有する、請求項1に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項3】
前記ディストリビューターから吐出され前記外部領域を通過した液体を回収して、前記排出口へ排出するコレクターをさらに備え、
前記コレクターは、前記中空糸膜群の径方向に分散して配置された複数の回収口を有する、
請求項1に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項4】
前記ディストリビューターから吐出され前記外部領域を通過した液体を回収して、前記排出口へ排出するコレクターをさらに備え、
前記コレクターは、前記中空糸膜群の径方向に分散して配置された複数の回収口を有する、請求項2に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項5】
前記コレクターの前記回収口の総面積は、前記ディストリビューターの前記吐出口の総面積よりも大きい、
請求項4に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項6】
前記ディストリビューターと前記コレクターとが対称の形状を有し、かつ、対称の位置関係で配置されている、
請求項3~5のいずれか1項に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項7】
前記中空糸膜群の外径が4cm以上である、
請求項1~6のいずれか1項に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項8】
前記排出口が、前記中空糸膜の長さ方向に平行な方向における前記供給口と反対側の端部に位置する、
請求項1~6のいずれか1項に記載の中空糸膜モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
膜分離法による液状混合物の分離・濃縮は、蒸留などの従来の分離技術に比べて相変化を伴わないため省エネルギー法であり、かつ物質の状態変化を伴わないことから、果汁の濃縮、ビール酵母の分離などの食品分野、あるいは工業排水からの有機物の回収といった多分野において幅広く利用されており、膜による水処理は、最先端技術を支える不可欠のプロセスとして定着している。
【0003】
このような膜分離法には、例えば、中空糸膜(中空糸型の半透膜)を集合させて圧力容器に収納してなる中空糸膜モジュールが用いられている。中空糸膜モジュールは、スパイラル型膜モジュールに比べ単位膜面積当たりの透過水量は多くないが、膜モジュール容積当たりの膜面積を大きくとることができるため、モジュール全体としての透過水量が多く、容積効率が非常に高いという利点があり、コンパクト性に優れる。
【0004】
中空糸膜モジュールにおいて、例えば、高浸透圧のドローソリューション(DS)(海水)が中空糸膜の外部領域を流れ、低浸透圧のフィードソリューション(FS)(淡水、または、DSより低濃度の溶液)が中空糸膜の中空部領域を流れる場合は、膜透過水は中空糸膜の中空部領域(内側)から外部領域に向かって流れる。この場合、淡水である膜透過水が中空糸膜の外部領域に流出して、中空糸膜外表面の濃度を低下させる。このため、中空糸膜外表面を流れるDSの流速が十分速くないと、中空糸膜外表面に低濃度の層(濃度分極層)が形成される場合がある。
【0005】
また、逆に、DSが中空糸膜の中空部領域を流れ、FSが中空糸膜の外部領域を流れる場合は、膜透過水は中空糸膜の外部領域から中空部領域に向かって流れる。この場合、中空糸膜の外表面の溶液から膜透過水として淡水が除かれるため、中空糸膜の外表面の濃度が増加する。このため、中空糸膜外表面を流れるFSの流速が十分速くないと、中空糸膜外表面に高濃度の層(濃度分極層)が形成される場合がある。
【0006】
上述のような濃度分極層が形成されると、膜の両面間の有効な濃度差(浸透圧差)が小さくなり、本来得られるはずの膜透過水量が得られなくなることがある。なお、正浸透以外の他の膜分離処理においても同様の課題がある。
【0007】
中空糸膜モジュールにおいて、例えば、芯管に設けられた多数の孔から生じる中空糸膜の外部領域の流れが、中空糸膜の中空部領域の流れとほぼ直交する、クロス流方式が用いられている。クロス流方式の場合、中空糸膜の外部領域を流れる液体は、中空糸膜群の中心の分配管(芯管)の孔より吐出され、中空糸膜モジュールの径方向および長さ方向に分散して流れるため、中空糸膜の外部領域を通過する液の流速(中空糸膜モジュールの長さ方向の流速)が小さく、中空糸膜の外表面に濃度分極が発生し易いという欠点がある。
【0008】
特許文献1(特公平7-29029号公報)には、かかる欠点を解消すべく、中空糸膜の外部領域の流れを中空糸膜モジュールの長さ(軸)方向に誘導するための構成が開示されている。具体的に、特許文献1に記載の中空糸膜モジュールは、例えば、モジュールの中心に位置する芯管(供給管)の一端部のみに設けられた開口の近傍から、中空糸膜層の他端側に設けられた排出口へ向けて、モジュールの長さ(軸)方向に液を流すことにより、中空糸膜の外部領域の流れの速度を高めて、中空糸膜の外表面に生じる濃度分極を抑制しようとするものである。
【0009】
しかし、特許文献1のモジュールにおいても、芯管の開口から排出口への最短距離から外れる部分(軸方向における芯管に開口が設けられた側の径方向における外周側など)では、淀みが生じて液の流速が低下する。このような淀み部分では、水の浸透によって生じる膜表面の濃度分極が解消されず、分離効率が著しく低下したり、分離に寄与しないデッドスペースが生じたりすることで、有効に膜を利用出来なくなる。
【0010】
尚、モジュール設置スペースに対する処理効率を考えると、モジュールに付属する容器、接続部品等の容積は少ない方が良いため、モジュールサイズをある程度大きくすることが求められる。しかし、中空糸膜モジュールの径(サイズ)が大きくなると、モジュールの径方向の流動抵抗が大きくなり、中空糸膜の外部領域の液が径方向に分配されにくくなる。このため、特に中空糸膜モジュールの径が大きい場合に、上記のようなデッドスペースの問題が顕著になると考えられる。
【0011】
特許文献2(国際公開第2015/125755号)においても、特許文献1と同様に、モジュールの中心に位置する芯管の一端部のみに設けられた開口から、モジュールの軸方向に液を流すことで、このようなデッドスペースを解消することが提案されている。しかし、特許文献2の中空糸膜モジュールでは、中空糸膜が交差配置されているため、中空糸膜の外部領域を通過する液の流速を十分に大きくすることには限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特公平7-29029号公報
【文献】国際公開第2015/125755号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記の課題に鑑み、本発明の目的は、中空糸膜の外部領域を通過する液の流速が速く、かつ、液の淀みが生じ難い、中空糸膜モジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(1) 容器と、
該容器の内部に収納され、並列的に配置された複数の中空糸膜からなる中空糸膜群と、
前記容器の外部から、前記容器の内部であり前記中空糸膜の外側の部分である外部領域に、液体を供給するための供給口と、
前記外部領域から、前記容器の外部に、液体を排出するための排出口と、
前記供給口から供給される液体を前記外部領域に向けて、少なくとも前記中空糸膜の長さ方向に平行な方向に吐出可能なディストリビューターと、を備える、中空糸膜モジュール。
【0015】
(2) 前記ディストリビューターは、前記中空糸膜群の径方向に分散して配置された複数の吐出口を有する、(1)に記載の中空糸膜モジュール。
【0016】
(3) 前記ディストリビューターから吐出され前記外部領域を通過した液体を回収して、前記排出口へ排出するコレクターをさらに備え、
前記コレクターは、前記中空糸膜群の径方向に分散して配置された複数の回収口を有する、(1)または(2)に記載の中空糸膜モジュール。
【0017】
(4) 前記コレクターの前記回収口の総面積は、前記ディストリビューターの前記吐出口の総面積よりも大きい、(3)に記載の中空糸膜モジュール。
【0018】
(5) 前記ディストリビューターと前記コレクターとが対称の形状を有し、かつ、対称の位置関係で配置されている、(3)または(4)に記載の中空糸膜モジュール。
【0019】
(6) 前記中空糸膜群の外径が4cm以上である、(1)~(5)のいずれかに記載の中空糸膜モジュール。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、中空糸膜の外部領域を通過する液の流速が速く、かつ、液の淀みが生じ難い、中空糸膜モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施形態1の中空糸膜モジュールの一例を示す断面模式図である。
【
図2】ディストリビューターの一例の概略図である。
【
図3】ディストリビューターの一例の概略図である。
【
図4】ディストリビューターの一例の概略図である。
【
図5】ディストリビューターの機能を説明するための模式図である。
【
図6】実施形態2の中空糸膜モジュールの一例を示す断面模式図である。
【
図7】実施形態3の中空糸膜モジュールの一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表すものである。また、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜変更されており、実際の寸法関係を表すものではない。
【0023】
<実施形態1>
図1を参照して、本実施形態の中空糸膜モジュールは、
容器1と、
並列的に配置された複数の中空糸膜21からなる中空糸膜群と、
容器1の外部から、外部領域3(容器1の内部であり中空糸膜の外側である部分)に連通する(液体を供給するための)供給口10と、
中空糸膜の外部領域3から連通する(容器1の外部に液体を排出するための)排出口13と、
供給口10から供給される液体を中空糸膜の外部領域3に向けて、少なくとも中空糸膜の長さ方向に平行な方向に吐出可能なディストリビューター100と、を備える。
【0024】
複数の中空糸膜21は、並列的に所定の間隔を開けて配置されている。なお、
図1では、中空糸膜21は中空糸膜モジュールの軸方向(芯管20の軸方向)と平行な方向に配置されている。
【0025】
また、中空糸膜モジュールは、供給口10を有する供給管に接続されたディストリビューター100や、中空糸膜21の中空部領域に連通した供給口12および排出口11を有しており、壁部材14,15によって固定されている。また、第2端4bの近傍の周囲の非透過性フィルム6で被覆されていない部分を介して中空糸膜21の外部領域3に連通した排出口13が、容器1の側面に設けられている。また、中空糸膜モジュールは、中空糸膜群をそれらの両端で固定する固定樹脂53,54を備える。なお、
図1に示される中空糸膜モジュールの樹脂壁51,52はO-リング51a,52aによって容器1の内壁に液密に固着されている。
【0026】
芯管20は、ディストリビューター100と接続されている。芯管20の側面には孔が設けられておらず、ディストリビューター100の近傍および第2端4b側は閉止されている。このため、供給口10に供給された液はディストリビューター100の吐出口100aのみから流出する。
【0027】
吐出口100aから流出した液体は、中空糸膜の外部領域3を中空糸膜の長さ方向(中空糸膜モジュールの軸方向)へ流れる。ここで、ディストリビューター100の吐出口100aからは、液体が少なくとも中空糸膜の長さ方向に平行な方向に吐出される。
【0028】
ディストリビューター100は、供給口10から供給される液体を中空糸膜の外部領域3に向けて、少なくとも中空糸膜21の長さ方向に平行な方向に吐出可能なものであれば特に限定されないが、中空糸膜群の径方向に分散して配置された複数の吐出口を有することが好ましい。このようなディストリビューターとしては、例えば、
図2~
図4に示されるような形状のディストリビューターが挙げられる。なお、
図2~
図4において、(a)は断面概略図であり、(b)は吐出口の方向から見た正面概略図である。
図2(b)、
図3(b)および
図4(b)に示されるように、複数の吐出口100aが中空糸膜群の径方向(図の紙面方向)に分散して配置されている。なお、
図2および
図3に示されるディストリビューター100は、
図1に示されるような芯管20の第1端4a側に装着されて使用されるが、
図4に示されるディストリビューター100は、固定樹脂53に埋没させることで芯管20を有さない状態で、供給口10を有する供給管に接続して使用することができる。
【0029】
なお、
図5に示されるような形状のディストリビューター100である場合でも、吐出口100aからの主な吐出方向は図中の実線矢印の方向であったとしても、吐出直後の拡散などにより少なくとも中空糸膜21の長さ方向(点線矢印の方向)に吐出されていれば、本実施形態に含まれる。
【0030】
本実施形態の中空糸膜モジュールにおいては、複数の中空糸膜が並列的に配置され、かつ、ディストリビューターによって中空糸膜の長さ方向に平行な方向に液が吐出されるため、中空糸膜の外部領域を流れる液体が、中空糸膜の長さ方向にほぼ平行に流れやすくなる。これにより、中空糸膜21の外表面付近における液体の流速を早くできるため、中空糸膜の外表面の濃度分極を低減できる。したがって、膜透過水量のロスが低減され、効率よく透過水量を得ることが可能となる。
【0031】
なお、
図1では、見やすさのためにディストリビューター100は固定樹脂53とは別に描かれているが、ディストリビューター100を固定樹脂53内に埋没させてもよい。この場合、例えば、複数本の中空糸膜からなる小束を複数作製し、各小束の端部がディストリビューターで分離された状態で、ディストリビューターと各小束とが接着樹脂(固定樹脂)により固定される。
【0032】
また、
図1において、中空糸膜群は、第1端4aと反対側の一端である第2端4bの近傍の周囲を除き、円筒状の非透過性フィルム6で被覆されている。これにより、中空糸膜群と容器との間隙に短絡流が生じることを抑制し、供給される液を中空糸膜間での軸方向の流れとして効率的に利用することができる。
【0033】
本実施形態の中空糸膜モジュールは、中空糸膜が並列的に配置され、液体を中空糸膜の長さ方向に平行な方向に吐出可能なディストリビューターを備えることにより、中空糸膜の外部領域を通過する液の流速が速く、かつ、液の淀みが生じ難い、中空糸膜モジュールを提供することができる。これにより、中空糸膜モジュール内の全体において中空糸膜の外表面の濃度分極を低減でき、膜透過水量のロスが低減されるため、効率よく膜分離を行う(透過水量を高める)ことが可能となる。
【0034】
なお、本実施形態の中空糸膜モジュールでは、一般に効率性が高いと考えられている向流方式(中空糸膜の外部領域の流れと中空糸膜の中空部領域の流れとが逆方向である方式)での分離操作や、並流方式(中空糸膜の外部領域の流れと中空糸膜の中空部領域の流れとが同方向である方式)での分離操作も可能である。
【0035】
本実施形態の中空糸膜モジュールは、正浸透、逆浸透、ブラインコンセントレーション(BC)等の種々の膜分離処理に用いることができる。なお、BCとは、例えば、特開2018-65114号公報に記載されるような、中空糸膜モジュールの一方の第1室に対象溶液の一部を流し、他方の第2室に対象溶液の他の一部を流して、第1室内の対象溶液を加圧することで、第1室内の対象溶液に含まれる溶媒(水など)を中空糸膜を介して第2室内に移行させ、第1室内の対象溶液を濃縮し、第2室内の対象溶液を希釈する膜分離処理である。
【0036】
以下、本実施形態の中空糸膜モジュールの他の各構成部材等の詳細について説明する。
【0037】
芯管は、供給口に接続されている場合、該供給口から供給された液体を中空糸膜モジュール内の中空糸膜の外部領域3(外表面)に分配させる機能を有する管状部材である。また、芯管は、中空糸膜群における複数の中空糸膜の配置状態を維持するための骨格としても機能する。芯管は、中空糸膜エレメントの略中心部に位置させることが好ましい。
【0038】
芯管の径は大きすぎると、中空糸膜が占める領域が減少し、結果として中空糸膜モジュール中の膜面積が減少するため、容積あたりの透過水量が低下することがある。また、芯管の径が小さすぎると、供給液が芯管内を流動する際に圧力損失が大きくなり、結果として中空糸膜にかかる有効差圧が小さくなり処理効率が低下することがある。また、強度が低下して、供給液が中空糸膜層を流れる際に受ける中空糸膜の張力により芯管が破損する場合がある。これらの影響を総合的に考慮し、最適な径を設定することが重要である。中空糸膜群の断面積に対して芯管の断面積の占める面積割合は、4~20%が好ましい。
【0039】
中空糸膜の素材は、所望の分離性能を発現できる限り、特に限定されず、例えば、酢酸セルロース系樹脂、ポリアミド系樹脂、スルホン化ポリスルホン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂が使用可能である。この中では、酢酸セルロース系樹脂、スルホン化ポリスルホンやスルホン化ポリエーテルスルホンなどのスルホン化ポリスルホン系樹脂が、殺菌剤である塩素に対する耐性があり、微生物の増殖を容易に抑制することができる点で好ましい。特に、膜面での微生物汚染を効果的に抑制できる特徴がある。酢酸セルロースの中では、耐久性の点で三酢酸セルロースが好ましい。
【0040】
中空糸膜の外径は、正浸透膜、逆浸透、ブラインコンセントレーション(BC)等の種々の膜分離処理に用いられるものであれば特に限定されない。例えば、外径は160~320μmである。外径がこの範囲より小さいと、必然的に内径も小さくなるため、中空糸膜の中空部を流れる液体の流動圧損が大きくなり問題が生じうる。一方、外径がこの範囲より大きいと、モジュールにおける単位容積あたりの膜面積を大きくすることができなくなり、中空糸膜モジュールのメリットの一つであるコンパクト性が損なわれる場合がある。
【0041】
中空糸膜の中空率は、正浸透膜、逆浸透、ブラインコンセントレーション(BC)等の種々の膜分離処理に用いられるものであれば特に限定されないが、例えば、15~45%である。中空率がこの範囲より小さいと、中空部の流動圧損が大きくなり、所望の透過水量が得られない可能性がある。また、中空率がこの範囲より大きいと、正浸透処理での使用であっても十分な耐圧性を確保できない可能性がある。なお、中空率(%)は下記式:
中空率(%)=(内径/外径)2×100
により求めることができる。
【0042】
中空糸膜群(中空糸膜)の長さは、好ましくは0.2~2.5mである。この長さが長すぎると、中空糸膜の中空内部の流動圧損が大きくなり膜分離性能が低下しうる。このため、特にモジュールが大型化する場合は、長さを短くすることが好ましい。ただし、短すぎると、単位モジュール当りの膜面積が減少し処理量が少なくなり、経済性の点で好ましくない。また、中空糸膜群の外径との比が小さいと、被処理液が軸方向に流れにくくなる。
【0043】
中空糸膜としては、例えば、特許3591618号公報に記載されているように、三酢酸セルロース、エチレングリコール(EG)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)よりなる製膜溶液を3分割ノズルより吐出し、空中走行部を経て、水/EG/NMPよりなる凝固液中に浸漬させて中空糸膜を得、次いで中空糸膜を水洗した後、熱処理することにより酢酸セルロース系中空糸膜を製造することができる。また、テレフタル酸ジクロリド及び4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、ピペラジンより低温溶液重合法で得た共重合ポリアミドを精製した後、CaCl2及びジグリセリンを含むジメチルアセトアミド溶液に溶解して製膜溶液とし、この溶液を3分割ノズルより空中走行部を経て凝固液中に吐出させ、得られた中空糸膜を水洗した後、熱処理することによりポリアミド系中空糸膜を製造することができる。
【0044】
上記の中空糸膜は、並列的に配置された複数の中空糸膜からなる中空糸膜群として、容器内に組み込まれる。例えば、中空糸膜群の外周部に、芯管の孔のある部分とは反対側を残して、非透過性フィルムを配置し、中空糸膜群の両端部を接着した後、両端を切削することで、中空糸膜の両端の開口部が形成される。
【0045】
非透過性フィルムとは、中空糸膜の外部領域を流れる液体(被処理液)を実質的に透過しないか、あるいは、液体が透過する際の圧力損失が大きいフィルム材料であれば特に限定されないが、市販の樹脂製のフィルム、ゴムシート、目の小さな布などを用いることが好ましい。
【0046】
非透過性フィルムが、中空糸膜の外部領域を流れる液体の圧力に耐え得るようにするために、非透過性フィルムの上に支持部材を巻き付けてもよい。支持部材としては、天然繊維、合成高分子繊維、無機繊維などの線状物または織物自体が用いられるか、これらに接着剤を付着させた形のものが用いられる。この支持部材によって中空糸膜組立内部とその外部との圧力差が維持される。
【0047】
なお、芯管20は、中空糸膜群における複数の中空糸膜の配置状態を維持するための骨格としての機能を有しているため、芯管20を用いない場合は、別の骨格となる部材が必要である。この場合、例えば、非透過性フィルム6を中空糸膜の配置状態を維持するための強度を有する部材に変更してもよい。
【0048】
本実施形態の中空糸膜モジュールにおいては、中空糸膜の外部領域を流れる液体の軸方向の流れの一様性を向上させるために、中空糸膜群内に、整流板などの整流部材を付与してもよい。
【0049】
中空糸膜群の外径は、好ましくは4cm以上であり、より好ましくは10~60cmである。中空糸膜群の外径がこのような範囲にある、比較的外径の大きい中空糸膜モジュールを用いる場合、特に、中空糸膜の外部領域における液の流速が低下しやすいため、本実施形態の効果が顕著である。なお、外径が大きすぎると、膜交換作業等の維持管理での操作性が悪くなる可能性がある。
【0050】
<実施形態2>
図6を参照して、本実施形態は、中空糸膜の外部領域3に連通した排出口が、供給口10Aと反対側の端部の排出口10Bである点で、実施形態1とは異なる。それ以外の点は実施形態1と同様であるため、重複する説明は省略する。
【0051】
この排出口10Bは、中空糸膜群の中における芯管の孔20bを介して、中空糸膜の外部領域3に連通している。これにより、中空糸膜の外部領域3の液は、芯管20の孔20bを通って排出口10Bから排出される。
【0052】
実施形態1の場合は、中空糸膜モジュールの径方向における排出口13とは反対側において、液の淀みが生じる可能性があるが、本実施形態のように、排出口が中空糸膜モジュールの径方向の中心に設けられている場合においては、中空糸膜の外部領域3の液が芯管20の孔20bを介して(中空糸膜モジュールの径方向において)均一に排出されるため、中空糸膜モジュールの径方向の外周側における液の淀みが抑制され、デッドスペースの発生が抑制される。
【0053】
<実施形態3>
図7を参照して、本実施形態では、ディストリビューター100から吐出され中空糸膜の外部領域3を通過した液体を回収して、排出口10Bへ排出するコレクター101をさらに備える点で、実施形態2とは異なる。それ以外の点は実施形態2と同様であるため、重複する説明は省略する。
【0054】
図7に示される中空糸膜モジュールでは、コレクター101は中空糸膜の外部領域に連通する排出口10Bを有する排出管に接続された状態で使用される。中空糸膜の外部領域3を通過した液体は、コレクター101の回収口101aによって回収され、排出口10Bから排出される。
【0055】
本実施形態においては、実施形態2よりもさらに、中空糸膜モジュールの径方向の外周側における液の淀みが抑制され、デッドスペースの発生が抑制される。
【0056】
コレクター101は、中空糸膜群の径方向に分散して配置された複数の回収口101aを有することが好ましい。この場合、中空糸膜モジュールの径方向の外周側における液の淀みを抑制する効果がより確実に得られる。
【0057】
コレクター101の回収口101aの総面積は、ディストリビューター100の吐出口100aの総面積よりも大きくするか、小さくするかは適宜設計し得る事項である。例えば、中空糸膜の中空部領域から膜を介して中空糸膜の外部領域に水を移動させる場合には、中空糸膜の外部領域の水量が増えるのでコレクターの回収口の総面積はディストリビューターの吐出口の総面積より大きい方が好ましい。一方、中空糸膜の外部領域から膜を介して中空糸膜の中空部領域に水を移動させる場合には、中空糸膜の外部領域の水量が減るのでコレクターの回収口の総面積はディストリビューターの吐出口の総面積より小さくてもよい。
【0058】
また、ディストリビューターとコレクターとが対称形状であるのが好ましい。また、ディストリビューターとコレクターとは、対称の位置関係で配置されていることが好ましい。対称の位置関係とは、ディストリビューターの吐出口とコレクターの回収口の位置が対向関係にあることを指す。このようにすることで、中空糸膜の外部領域の流れがより均質化される。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例で測定された特性値の測定は、以下の方法に従った。
【0060】
(1)中空糸膜群の長さの測定
中空糸膜群の両端部を樹脂で封止した後、樹脂(固定樹脂)の一部を切削し中空糸膜の両端部を開口させた。中空糸膜群の一端から他端までの距離を、中空糸膜群の長さとして測定した。
【0061】
(2)中空糸膜群の外径の測定
中空糸膜群が固定された固定樹脂の直径を測定した。
【0062】
(3)中空糸膜群の膜面積の測定
膜面積は、中空糸膜の外径、中空糸膜群に存在する中空糸膜の本数、中空糸膜の平均有効長から、下記式:
膜面積(m2)=π×中空糸膜外径(m)×中空糸膜本数×中空糸膜の平均有効長(m)
により求めた。
なお、中空糸膜の平均有効長は、中空糸膜群の長さから固定樹脂部の長さを除いた長さである。
【0063】
(4)透過水量の測定
中空糸膜モジュールを作製し、中空糸膜のそれぞれの中空(開口)部領域に連通する供給口より塩化ナトリウム濃度0.2g/Lの淡水を供給ポンプで供給し、中空部領域を通過させた後、中空部領域に連通する排出口から淡水を流出させた。一方、塩化ナトリウム濃度70g/Lの高濃度水溶液を中空糸膜の外部領域に連通する芯管に供給ポンプで供給し、中空糸膜の外部領域を通過させた後、中空糸膜群の外部領域に連通する排出口から流出させ、流量調整バルブで、圧力と流量を調整した。
【0064】
高濃度水溶液の供給圧力をPDS1(MPa)、供給流量をQDS1(L/min)、高濃度水溶液の排出水量をQDS2(L/min)、淡水の供給流量をQFS1(L/min)、淡水の流出流量をQFS2(L/min)、淡水の流出圧力をPFS2(kPa)とした場合、以下の条件での高濃度水溶液の流量増分(QDS2-QDS1)をモジュールの透過水量として測定した。温度は25℃に調整した。
PDS1=2.2MPa
PFS2=10kPa以下
QDS1/(QDS2-QDS1)=2
QFS2/(QDS2-QDS1)=0.1
ただし、淡水の入口圧力は0.1MPaとし、0.1MPaを越える場合は、0.1MPaとなるようにQFS1を設定した。
【0065】
<実施例1>
本実施例では、上記の実施形態1(
図1)に示されるような中空糸膜モジュールを作製し、透過水量を測定した。
【0066】
まず、三酢酸セルロース(CTA、ダイセル化学工業社、LT35)41重量%、N-メチル-2-ピロリドン(NMP、三菱化学社)35.2重量%、エチレングリコール(EG、三菱化学社)23.5重量%、安息香酸(ナカライテスク社)0.3重量%を180℃で均一に溶解して製膜原液を得た。得られた製膜原液を減圧下で脱泡した後、アーク型(三分割)ノズルより163℃で外気と遮断された空間中に吐出し、空間時間0.03秒を経て、NMP/EG/水=27/18/55からなる12℃の凝固浴に浸漬した。引続き、多段傾斜桶水洗方式で中空糸膜の洗浄を行い、湿潤状態のまま振り落した。得られた中空糸膜を90℃の水に浸漬し、20分間熱水処理を行った。得られた中空糸膜は、内径が90μm、外径が200μmであった。
【0067】
得られた複数の中空糸膜を、芯管の周りに、互いに所定の間隔を開けて並列的に配置した状態で、中空糸膜および供給菅の両端部をエポキシ樹脂でポッティングさせて固定させた後、樹脂部の両端部を切削して中空糸膜の中空部を開口させることで、中空糸膜の集合体(中空糸膜群)を作製した。その中空糸膜群に対して、他方の端部から約3cm中心側の部分を除く外周部を、非透過性フィルムで覆った。
【0068】
得られた中空糸膜群の長さ、外径、中空糸膜モジュール当たりの膜面積を表1に示す。
【0069】
この中空糸膜群を圧力容器に装填して、
図1に示されるような中空糸膜モジュールを作製した。なお、ディストリビューターとしては、
図2に示されるようディストリビューターを用いた。得られた中空糸膜モジュールについて、上記(4)の方法で透過水量の測定を実施した。なお、透過水量の測定は、淡水の流れ方向と塩水の流れ方向とが逆方向となる状態(向流状態)で行った。測定結果を表1に示す。表1において、変化率(%)は比較例1の透過水量を基準として下記式を用いて算出した。
変化率(%)=(透過水量-0.035)/0.035×100
【0070】
<実施例2>
実施例1と同様の中空糸膜を用いて、上記の実施形態2(
図6)に示されるような中空糸膜モジュールを作製した。それ以外は実施例1と同様にして、透過水量の測定を行った。
【0071】
<実施例3>
実施例1と同様の中空糸膜を用いて、上記の実施形態3(
図7)に示されるような中空糸膜モジュールを作製した。それ以外は実施例1と同様にして、透過水量の測定を行った。
【0072】
<比較例1>
実施例1と同様の中空糸膜を用いて、従来の中空糸膜モジュール(モジュールの中心に位置する芯管の側面に設けられた多数の開口から、モジュールの径方向に液を流し、中空糸膜が交差配置されている中空糸膜モジュール)を作製した。また、非透過性フィルムはなしとした。それ以外は実施例1と同様にして、透過水量の測定を行った。
【0073】
<比較例2>
実施例1と同様の中空糸膜を用いて、従来の中空糸膜モジュール(モジュールの中心に位置する芯管の側面に設けられた多数の開口から、モジュールの径方向に液を流し、中空糸膜が並列配置されている中空糸膜モジュール)を作製した。また、非透過性フィルムはなしとした。それ以外は実施例1と同様にして、透過水量の測定を行った。
【0074】
<比較例3>
実施例1と同様の中空糸膜を用いて、特許文献2(国際公開第2015/125755号)に示されるような中空糸膜モジュール(モジュールの中心に位置する芯管の一端部のみに設けられた開口から、モジュールの軸方向に液を流し、中空糸膜が並列配置されている中空糸膜モジュール)を作製した。それ以外は実施例1と同様にして、透過水量の測定を行った。
【0075】
【0076】
表1に示す結果から、ディストリビューターを備え、液の流れが中空糸膜の長さ方向(中空糸膜モジュールの軸方向)に流れる軸流であり、中空糸膜の配置が並列的である実施例1~3では、従来の中空糸膜モジュールである比較例1~3よりも、透過水量が増加することが分かる。
【0077】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0078】
1 容器、10,10A 中空糸膜の外部領域に連通する供給口、11 中空糸膜の中空部領域に連通する排出口、12 中空糸膜の中空部領域に連通する供給口、10B,13 中空糸膜の外部領域に連通する排出口、14,15 壁部材、100 ディストリビューター、100a 吐出口、101 コレクター、101a 回収口、20 芯管、21 中空糸膜、3 中空糸膜の外部領域、4a 第1端、4b 第2端、51,52 樹脂壁、53,54 固定樹脂、6 非透過性フィルム。