(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】RFeB系焼結磁石
(51)【国際特許分類】
H01F 1/057 20060101AFI20231108BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20231108BHJP
B22F 3/00 20210101ALN20231108BHJP
C22C 33/02 20060101ALN20231108BHJP
【FI】
H01F1/057 170
C22C38/00 303D
B22F3/00 F
C22C33/02 J
C22C33/02 K
(21)【出願番号】P 2019154463
(22)【出願日】2019-08-27
【審査請求日】2022-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2018208615
(32)【優先日】2018-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 通秀
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-027268(JP,A)
【文献】国際公開第2009/004994(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/030231(WO,A1)
【文献】特開2005-286175(JP,A)
【文献】特開2012-199270(JP,A)
【文献】国際公開第2014/156592(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00- 8/00
B22F 10/00-12/90
C22C 1/04- 1/05
C22C 5/00-25/00
C22C 27/00-28/00
C22C 30/00-30/06
C22C 33/02
C22C 35/00-45/10
H01F 1/00- 1/117
H01F 1/40- 1/42
H01F 41/00-41/04
H01F 41/08
H01F 41/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素Rを28~33質量%、Coを0~2.5質量%、Alを0.3~0.7質量%
、Cuを0.1~0.5質量%、Bを
0.96~1.2質量%、Oを1500ppm未満含有し、残部がFeであり、
CuとAlの含有率の合計が0.5質量%を超えており、
Alの含有率がCuの含有率よりも大きく、
結晶粒界に、R
6Fe
14-xAl
x型構造を有するRFeAl相が存在し、
保磁力が16kOe以上である
ことを特徴とするRFeB系焼結磁石。
【請求項2】
重希土類元素であるDy及びTbをいずれも含有しないことを特徴とする請求項
1に記載のRFeB系焼結磁石。
【請求項3】
さらにZrを0.05~0.35質量%含有していることを特徴とする請求項1
又は2に記載のRFeB系焼結磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類元素(以下、「R」とする)、鉄(Fe)及び硼素(B)を主な構成元素とするRFeB系焼結磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
RFeB系焼結磁石は、1982年に佐川眞人らによって見出されたものであり、残留磁束密度等の多くの磁気特性がそれまでの永久磁石よりもはるかに高いという特長を有する。そのため、RFeB系焼結磁石は、ハイブリッド自動車や電気自動車等の自動車用モータや産業機械用モータ等の各種モータ、スピーカー、ヘッドホン、永久磁石式磁気共鳴診断装置等、様々な製品に使用されている。
【0003】
初期のRFeB系焼結磁石は種々の磁気特性のうち保磁力iHcが比較的低いという欠点を有していたが、その後、RFeB系焼結磁石の内部にDyやTb等の重希土類元素RHを存在させることにより、保磁力が向上することが明らかになった。保磁力は磁化の向きとは逆向きの磁界が磁石に印加されたときに磁化が反転することに耐える力であるが、重希土類元素RHはこの磁化反転を妨げることにより、保磁力を増大させる効果を持つと考えられている。しかし、重希土類元素RHは高価且つ希少であるうえに、残留磁束密度を低下させる原因となるため、重希土類元素RHの含有量を増加させることは望ましくない。
【0004】
特許文献1には、重希土類元素RHを添加することなくRFeB系焼結磁石の保磁力を向上させるためにGa(ガリウム)を添加することが記載されている。一般に、RFeB系焼結磁石では、結晶粒界に飽和磁化が大きい強磁性体が存在すると、隣接する結晶粒間で磁気的な相互作用が生じ、逆磁界(磁化と反対方向の磁界)が印加された際に、ある結晶粒で磁化が反転すると、当該相互作用によって、隣接する結晶粒の磁化も反転してしまうため、保磁力が小さくなる。そのような飽和磁化が大きい強磁性体として、典型的には結晶粒に含有されなかったR及びFeから成るものが挙げられる。それに対して、RFeB系焼結磁石にGa(ガリウム)を添加すると、R6Fe13Gaで表される、飽和磁化が比較的小さい強磁性体が結晶粒界に生成され、より飽和磁化が大きい強磁性体が生成されることが抑制される。これにより、逆磁界が印加された際に、ある結晶粒で磁化が反転しても、隣接する結晶粒の磁化を反転させる磁気的な相互作用が弱くなるため、保磁力が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-132628号公報
【文献】国際公開WO2014/017249号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、Gaもまた高価であるため、特許文献1に記載のようにRFeB系焼結磁石にGaを添加すると製造コストが高くなるという問題が生じる。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、高価な添加元素である重希土類元素RHやGaをできる限り用いることなく、保磁力が高いRFeB系焼結磁石を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明に係るRFeB系焼結磁石は、
希土類元素Rを28~33質量%、Co(コバルト)を0~2.5質量%(従って、Coを含有しない場合もある)、Al(アルミニウム)を0.3~0.7質量%、Bを0.9~1.2質量%、O(酸素)を1500ppm未満含有し、残部がFeであり、
結晶粒界に、R6Fe14-xAlx型構造を有するRFeAl相が存在し、
保磁力が16kOe以上である
ことを特徴とする。
【0009】
R6Fe14-xAlx型構造を有するRFeAl相は正方晶の結晶構造を有し、ここでxの値は0.5~3.5の範囲内の値を取り得る。また、RFeAl相のうちFeの一部はCoに置換され得ると共に、後述のように本発明に係るRFeB系焼結磁石がCuを含有する場合にはRFeAl相のうちAlの一部はCuに置換され得る。さらに、格子欠陥が生じることにより、Rの個数とFe(Co)とAl(Cu)を合わせた原子の個数の比は6:14から多少ずれ得る。
【0010】
希土類元素RにはNdやPr等の軽希土類元素を好適に用いることができる。また、希土類元素Rとして重希土類元素RHを用いる必要はない。但し、本発明において、希土類元素Rの一部として重希土類元素RHを含むことは排除されない。
【0011】
本実施形態のRFeB系焼結磁石は上記の各元素の他に、(添加元素としてではなく)不可避的不純物としてGaを0.2質量%以下含有していてもよい。また、その他の不可避的不純物として、Cr(クロム)を0.1質量%以下、Mn(マンガン)を0.1質量%以下、Ni(ニッケル)を0.1質量%以下、N(窒素)を2000ppm以下、C(炭素)を2000ppm以下、それぞれ含有していてもよい。Nの含有率は1000ppm以下、Cの含有率は1000ppm以下であることが望ましい。
【0012】
本発明に係るRFeB系焼結磁石は、
希土類元素Rを28~33質量%、Coを0~2.5質量%(従って、Coを含有しない場合もある)、Alを0.3~0.7質量%、Bを0.9~1.2質量%を含有し、残部がFeであるRFeB系磁石粉末を磁界中で配向させた後に焼結することによりRFeB系焼結体から成る基材を作製する基材作製工程と、
前記基材を700~900℃の範囲内の温度である第1時効温度に加熱する第1時効処理工程と、
前記第1時効処理工程を行った後の前記基材を530~580℃の範囲内の温度である第2時効温度に加熱する第2時効処理工程と
の各工程を、真空又は不活性ガス雰囲気中で行うことで、Oの含有率が1500ppm未満となるようにすることにより、製造することができる。
【0013】
前記第2時効温度は530~560℃の範囲内の温度であることが好ましい。
【0014】
本発明に係るRFeB系焼結磁石では、Alを0.3~0.7質量%含有するRFeB系磁石粉末を用いてRFeB系焼結体から成る基材を作製したうえで、第1時効処理工程で基材を700~900℃の範囲内の温度に加熱し、さらに第2時効処理工程で530~580℃の範囲内、好ましくは530~560℃の範囲内の温度に加熱することで、結晶粒界にRFeAl相が生成される。なお、第1時効処理工程が終了した時点では、結晶粒界にはRFeAl相が生成されていない。RFeAl相は、Fe原子の一部がAl原子に置換されていることにより、Fe原子同士の磁気的相互作用が弱められるため、飽和磁化が小さい。
【0015】
但し、基材作製工程において、RFeB系磁石粉末の周囲に酸素が多く存在すると、RFeB系磁石粉末内に希土類酸化物が多く形成され、焼結工程において希土類酸化物が溶解する際、その希土類酸化物にAlが多く取り込まれてしまう。このように希土類酸化物にAlが多く取り込まれてしまうと、結晶粒界にRFeAl相が生成されない。そのため、本発明では、最終的に得られるRFeB系焼結磁石における、不純物としてのOの含有率が1500ppm未満となるようにする。Oの含有率は、1000ppm未満であることが望ましい。
【0016】
本発明に係るRFeB系焼結磁石において、結晶粒界にはRFeAl相以外のRリッチ相が存在し得る。Rリッチ相は、RFeB系焼結磁石の結晶粒を構成するR2Fe14Bよりも希土類元素の含有率が高いものをいう。Rリッチ相には例えば、希土類酸化物(R2O3)に、Fe、Co、Al、Gaのうちの1種又は2種以上が固溶したものが挙げられる。Rリッチ相に固溶したFeは強磁性を有するが、本発明に係るRFeB系焼結磁石では、結晶粒界にRFeAl相が形成されることによって結晶粒界中のFeがRFeAl相に取り込まれるため、Rリッチ相に固溶するFeの濃度を低くすることができ、それによりRリッチ相(に固溶したFe)の飽和磁化を小さくすることができる。このようにFeの濃度が低いRリッチ相は、第2時効処理工程で基材を530~580℃で加熱することにより、結晶粒界の全体に亘って拡散する。特に、2個の結晶粒の間で隙間の小さいところにもRリッチ相を行き亘らせることができる。
【0017】
このように、本発明に係るRFeB系焼結磁石では、飽和磁化が小さいRFeAl相(及びRリッチ相)が結晶粒界に存在することにより、当該RFeB系焼結磁石に逆磁界が印加された際にある結晶粒で磁化が反転しても、結晶粒界を介して隣接する結晶粒の磁化を反転させる作用が弱くなるため、16kOe以上という高い保磁力を得ることができる。しかも、重希土類元素RHやGaをできる限り用いることなく、それらよりも安価なAlを用いればよいため、コストを抑えることができる。
【0018】
RFeAl相のR6Fe14-xAlxにおけるxの値が0.5を下回ると、RFeAl相内のFeによる飽和磁化が大きくなるため、隣接する結晶粒の磁化を反転させる磁気的な相互作用が強くなってしまう。一方、xの値が3.5を上回ると、RFeAl相が取り込むFeの量が少なくなり、それに伴って結晶粒界中のRリッチ相に固溶するFeの量が多くなって該Rリッチ相の飽和磁化が大きくなるため、隣接する結晶粒の磁化を反転させる磁気的な相互作用が強くなってしまう。そのため、本発明に係るRFeB系焼結磁石では、RFeAl相のR6Fe14-xAlxにおけるxの値を0.5~3.5の範囲内とすることが望ましい。
【0019】
本発明に係るRFeB系焼結磁石においてさらにCu(銅)を0.1~0.5質量%含有し、CuとAlの含有率の合計が0.5質量%を超えており、Alの含有率がCuの含有率よりも大きいことが好ましい。これにより、粒界相の濡れ性が向上(最適化)し、第2時効処理工程において粒界相を均一に分散させることができるため、保磁力がより向上する。
【0020】
また、本発明に係るRFeB系焼結磁石は、さらにZrを0.05~0.35質量%含有していることが好ましい。これにより、角型比を高くすることができる。ここで角型比は、磁化曲線の第2象限(減磁曲線)において、磁化が残留磁束密度Brの90%となるときの逆磁界Hk90と保磁力(磁化が0となるときの逆磁界)iHcの比Hk90/iHcで表される。角型比が高いほど、磁界の変動に伴う磁化の変動が小さく、変動磁界中で安定した特性を有することを意味する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高価な添加元素である重希土類元素RHやGaをできる限り用いることなく、保磁力が高いRFeB系焼結磁石を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明に係るRFeB系焼結磁石を製造する方法の一例を示す概略図。
【
図2】実施例1、2、及び比較例の試料に対する放射光X線回折測定の結果を示すグラフ(a)、並びにその部分拡大図(b)。
【
図3】合金3を用いて作製した本実施形態のRFeB系焼結磁石であって、第1時効温度(a)、第1時効処理工程における加熱時間(b)、第2時効温度(c)、及び第2時効処理工程における加熱時間(d)が異なる複数の試料について保磁力を測定した結果を示すグラフ。
【
図4】合金3を用いて作製した本実施形態のRFeB系焼結磁石であって、第2時効処理工程後の冷却速度が異なる複数の試料について保磁力を測定した結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1~
図4を用いて、本発明に係るRFeB系焼結磁石の実施形態を説明する。
【0024】
(1) 組成
本実施形態のRFeB系焼結磁石は、全体の組成として、希土類元素Rを28~33質量%、Coを0~2.5質量%、Alを0.3~0.7質量%、Bを0.9~1.2質量%、Oを1500ppm未満含有し、残部としてFeを含有する。Coは含有していなくてもよい。希土類元素RにはNdやPr等の軽希土類元素を好適に用いることができる。また、希土類元素Rとして重希土類元素RHを用いる必要はない。但し、本実施形態のRFeB系焼結磁石は、希土類元素Rの一部として重希土類元素RHを含んでいてもよい。また、本実施形態のRFeB系焼結磁石は、これら各元素の他に、Cuを0.1~0.5質量%、及び/又はZrを0.05~0.35質量%含有していてもよい。Cuを含有する場合には、CuとAlの含有率の合計が0.5質量%を超え、且つAlの含有率がCuの含有率よりも大きいことが好ましい。また、これらの各元素の他に、本実施形態のRFeB系焼結磁石は上述の不可避的不純物も含有し得る。
【0025】
本実施形態のRFeB系焼結磁石の結晶粒界は、RFeAl相を有し、さらにRリッチ相が存在し得る。RFeAl相の組成はR6Fe14-xAlx(0.5≦x≦3.5)で表される。Rリッチ相は、R2O3に、Fe、Co、Al、Gaのうちの1種又は2種以上が固溶したものが典型例として挙げられる。ここでRリッチ相に固溶するFeの濃度は、FeがRFeAl相に取り込まれることにより、従来のRFeB系焼結磁石の結晶粒界中のRリッチ相に固溶するFeの濃度よりも低くなる。
【0026】
(2) 製造方法
本実施形態のRFeB系焼結磁石は、以下に述べる方法で製造することができる。以下に述べる各工程は、真空中又は不活性ガス雰囲気中で行う。
【0027】
まず、製造しようとするRFeB系焼結磁石と同じ含有率で希土類元素R、Co(含有していなくてもよい)、Al、B及びFe、並びに必要であればCu及び/又はZrを含有するRFeB系合金塊11を、例えばストリップキャスト法により作製する。次に、このRFeB系合金塊11を水素ガスに晒して水素分子を吸蔵させる(
図1(a))。これにより、RFeB系合金塊11が脆化する。このように脆化したRFeB系合金塊11を機械的に粉砕する粗粉砕を行うことにより、RFeB系粗粉12を作製する(
図1(b))。さらに、RFeB系粗粉12をジェットミルによって粒径の中央値D50が3μm以下の粒度分布となるように微粉砕することにより、RFeB系磁石粉末13を作製する(
図1(c))。作製されたRFeB系磁石粉末13の粒子中には、RFeB系合金塊11に吸蔵させた水素分子の一部が残存している。
【0028】
次に、製造しようとするRFeB系焼結磁石に対応した形状を有する容器19にRFeB系磁石粉末13を収容し、容器19内のRFeB系磁石粉末13に磁界を印加することにより、該RFeB系磁石粉末13を配向させる(
図1(d))。続いて、配向させたRFeB系磁石粉末13を容器19内に収容したままの状態で所定の焼結温度(900~1050℃の範囲内の温度が好ましい)に加熱する(
図1(e))ことにより、RFeB系磁石粉末13を焼結させる。これにより、RFeB系焼結体から成る基材14が得られる(
図1(f))。ここまでの操作が上記基材作製工程に該当する。
【0029】
ここでRFeB系磁石粉末13の粒子中に含まれる水素分子は、焼結のための加熱によって外部に放出される。その際、RFeB系磁石粉末13中に不純物として存在する炭素と水素分子が反応してガス化する。これにより、RFeB系磁石粉末13から炭素を除去することができる。その際、水素分子と炭素が反応する前に水素分子がRFeB系磁石粉末13の粒子から脱離し難くするように、室温から焼結温度まで昇温する間の所定の温度(例えば450℃)までは不活性ガス雰囲気とし、その後、真空雰囲気中で焼結温度まで昇温することが好ましい。ここで真空雰囲気にすることは、水素分子と炭素が反応することで生成されるガスを除去することを目的としている。容器19には、上記焼結温度における耐熱性を有する材料から成るものを用いる。
【0030】
RFeB系の焼結体を作製する際には、RFeB系磁石粉末を磁界中で配向させる間又は配向後に圧縮成形を行う(プレス法)のが一般的である。それに対して本実施形態では、RFeB系磁石粉末13を配向させる間及び配向後に圧縮成形を行うことなく、RFeB系磁石粉末13を焼結させる(PLP(press-less process)法)。PLP法では圧縮成形を行うためのプレス機を使用する必要がないため、作業空間を小さくすることができる。そのため、作業空間内を不活性ガス雰囲気や真空雰囲気にすることが容易である。そうすると、RFeB系磁石粉末13の粒径を小さく(粒子の表面積を大きく)しても、RFeB系磁石粉末13が酸化し難くなる。これにより、作製される基材の酸素含有量を少なくすることができるため、基材内に希土類酸化物が形成され難くなる。それによってAlが希土類酸化物に取り込まれ難くなるため、結晶粒界にRFeAl相を生成することができる。また、RFeB系磁石粉末13の粒径を小さくことによって、RFeB系磁石粉末13の平均粒径が、得られるRFeB系焼結磁石中の結晶粒の平均粒径に近くなると、RFeB系磁石粉末13の平均粒径を小さくするほどRFeB系焼結磁石中の結晶粒の平均粒径も小さくなり、それによってRFeB系焼結磁石の保磁力を高くすることができる。なお、本発明に係るRFeB系焼結磁石は、プレス法を用いて作製することも可能であるが、ここまでに述べたように基材の酸素含有量を少なくするためにPLP法を用いる方が望ましい。
【0031】
上述のように基材14を作製し、一旦室温にした後、該基材14を700~900℃の範囲内の温度である第1時効温度に加熱する(
図1(g)、第1時効処理工程)。ここで第1時効温度に維持する時間は特に問わない。本発明者の実験によれば、第2時効温度に維持する時間が0分、すなわち第1時効温度に到達した瞬間に温度を下降させた場合であっても、次の第2時効処理工程を経て得られるRFeB系焼結磁石では保磁力が16kOeを上回る。
【0032】
次に、第1時効処理工程を行った基材14を530~580℃の範囲内、好ましくは530~560℃の範囲内の温度である第2時効温度に加熱する(
図1(h)、第2時効処理工程)。ここで第2時効温度に維持する時間は特に問わない。本発明者の実験によれば、第2時効温度に維持する時間が0分(第2時効温度に到達した瞬間に温度を下降させた場合)であっても、得られるRFeB系焼結磁石では保磁力が16kOeを上回る。その後、基材14を室温まで冷却する。
【0033】
以上の操作により、本実施形態のRFeB系焼結磁石15が得られる(
図1(i))。
【0034】
(3) 本実施形態のRFeB系焼結磁石の実施例
以下、本実施形態のRFeB系焼結磁石を製造した実施例を示す。
【0035】
表1に記載した組成(実測値)を有する6種のRFeB系合金塊(以下、合金1~7とする)をそれぞれ、ストリップキャスト法で作製した。なお、表1中の「TRE」は全ての希土類元素の含有率の和(Total Rare-Earth)をいい、ここではNd(ネオジム)、Pr(プラセオジム)、Dy(ジスプロシウム)、Tb(テルビウム)の含有率の和である。なお、これら4種以外の希土類元素は、不可避的不純物として含有されるものを除いて、合金1~7には含有されていない。なお、合金1~7には表1で挙げた元素の他に不可避的不純物が含まれ得る。
【表1】
【0036】
これら合金1~7についてそれぞれ、上述の条件で粗粉砕及び微粉砕を行うことによりRFeB系磁石粉末13を作製した。このRFeB系磁石粉末13を充填密度が3.4g/cm3となるようにRFeB系磁石粉末13を容器19に充填したうえで、該RFeB系磁石粉末13を磁界中で配向した。続いて、RFeB系磁石粉末13を容器19に充填したままで室温から、985℃~995℃の間の焼結温度まで加熱したうえで4時間維持した後に室温まで冷却することにより、基材14を作製した。焼結の際、室温から450℃に達するまではアルゴンガス雰囲気とし、その後は真空雰囲気とした。各合金1~7から得られた基材14をそれぞれ、800℃の第1時効温度で30分間加熱した後、540℃又は560℃(合金毎に表1に記載)である第2時効温度まで温度を低下させたうえで90分間維持し、その後急冷することにより、RFeB系焼結磁石15を得た。合金1~7からそれぞれ作製した各RFeB系焼結磁石を、実施例1~7の試料と呼ぶ。
【0037】
併せて、比較例として、表1に記載した組成を有する合金1(比較例1)及び合金A(比較例2、3)を用いて、上記と同じ方法でRFeB系焼結磁石を作製した。第2時効温度は540℃(合金1を用いた試料)又は520℃(合金Aを用いた試料)とした。合金Aは、Alの含有率が0.16質量%であって、本発明のRFeB系焼結磁石の組成の範囲に含まれない。比較例1及び3では、実施例1~7及び比較例2よりも、Oの含有率が多くなるようにした。ここでOの含有率は、RFeB系合金塊11の粉砕からRFeB系磁石粉末13の容器19への充填までの工程において製造環境を制御することによって調整することができる。
【0038】
作製した実施例1~7及び比較例1~3の試料の組成を測定した結果を表2に示す。また、これら各試料の保磁力iHc及び角型比SQ、並びに角型比SQを求めるために測定したHk90の値を表3に示す。ここでHk90は磁化曲線の第2象限(減磁曲線)において、磁化が残留磁束密度B
rの90%となるときの逆磁界の値である。角型比SQはHk90/iHcで求められる。
【表2】
【表3】
【0039】
実施例1~7の試料はいずれも、表2に挙げた各元素の組成が本発明のRFeB系焼結磁石における組成の条件を満たしている。それに対して比較例1及び3の試料は、Oの含有率が本発明の要件(1500ppm未満)を満たしていない。また、比較例2及び3の試料は、Alの含有率が本発明の要件(0.3~0.7質量%)を満たしていない。一方、比較例2及び3の試料は、Al及びO以外の元素の含有率が実施例2の試料のそれら元素の含有率とほぼ同じ値になっている。
【0040】
これら各実施例のうちDyを含有しない実施例1~6の試料と比較例の試料の保磁力iHcを対比すると、実施例1~6の試料ではいずれも16.0kOeを上回る16.8~18.2kOeであるのに対して、比較例1~3の試料ではいずれも16.0kOeを下回る14.5~15.7kOeとなっている。特に、前述のようにAl及びO以外の元素の含有率が比較例2及び3とほぼ同じ値である実施例2の試料は、保磁力iHcが18.2kOeという、比較例2及び3よりも顕著に高い値を有している。
【0041】
また、実施例3~5の試料は、Zrを0.08~0.11質量%含有しており、角型比SQの値が他の試料(実施例1及び2、並びに比較例1~3)よりも高く(94.6~95.4%)なっている。実施例7の試料は、Dyを2.50質量%含有しており、保磁力iHcの値が他の試料よりも高くなっている。
【0042】
次に、実施例1及び2、並びに比較例の試料につき、X線回折測定を行った結果を
図2に示す。この測定では、あいちシンクロトン光センター(公益財団法人科学技術交流センター)の放射光X線回折測定を用い、波長0.09nmの放射光で測定を行った。
図2(a)には、各試料の測定結果を2θが10~70°の範囲で試料毎に示し、
図2(b)には横軸(2θ)及び縦軸(強度)を部分的に拡大し、3つの試料のデータを重ねて示している。
図2(b)に矢印で示した箇所には、実施例1及び2には現れており、比較例には現れていないピークが3つ存在する。これら3つのピークは、国際回折データセンター(International Centre for Diffraction Data:ICDD)が運営する粉末回折データベース「PDF」(Powder Diffraction File)に収録されているNd
6Fe
11Al
3(R
6Fe
14-xAl
xにおいてR=Nd, x=3)のX線回折パターン(PDF#01-078-9291)とよく一致している。このデータは、実施例1及び2の試料には、R
6Fe
14-xAl
xと同じ結晶構造を有する相、すなわちRFeAl相が含まれていることを意味している。
【0043】
次に、実施例2の試料につき、波長分散型X線分光法(WDX)を用いて、結晶粒界中で任意に選択し、R, Fe及びAlの3種の元素を全て含む測定点において、それら3種並びにCo及びCuの組成比を求めた。その結果を表4に示す。
【表4】
【0044】
これら6個の測定点では、R原子の組成比と、Fe, Co, Al及びCuの4種の原子の組成比の和との比が6:14に近い値となっており、RFeAl相が形成されていると考えられる。
【0045】
このように結晶粒界にRFeAl相が形成されることにより、Rリッチ相に固溶するFeの量が少なくなる。そして、RFeAl相の飽和磁化が小さいこと、及びRリッチ相に固溶するFeの量が少ないことにより、結晶粒同士の磁気的相互作用が小さくなるため、本実施形態のRFeB系焼結磁石は保磁力が高くなる。
【0046】
次に、合金3から得られたRFeB系磁石粉末を用いて作製された基材14に対して、第1時効処理工程及び第2時効処理工程における温度及び加熱時間が異なる複数の条件で試料を作製し、保磁力を測定した。以下、その結果を述べる。
【0047】
図3(a)に、第1時効温度が700℃、800℃、900℃という異なる3つの条件で作製した試料の、第1時効処理工程の後(第2時効処理工程の前)の保磁力と、得られたRFeB系焼結磁石(第2時効処理工程の後)の保磁力を示す。これら3つの試料では、第1時効処理工程での加熱時間は30分間、第2時効温度は560℃、第2時効処理工程での加熱時間は30分間に統一した。この実験の結果、得られたRFeB系焼結磁石の保磁力はいずれも16kOeを上回り、第1時効温度が上記範囲内ではその値に関わらずほぼ同じであった。
【0048】
図3(b)に、第1時効処理工程での加熱時間が0~540分の範囲内で異なる6つの条件で作製した試料の、第1時効処理工程の後の保磁力と、得られたRFeB系焼結磁石の保磁力を示す。これら6つの試料では、第1時効温度は800℃、第2時効温度は560℃、第2時効処理工程での加熱時間は30分間に統一した。得られたRFeB系焼結磁石の保磁力はいずれも16kOeを上回り、第1時効処理工程での加熱時間が上記範囲内ではその値に関わらずほぼ同じであった。
【0049】
図3(c)に、第2時効温度が530~580℃の範囲内で異なる6つの条件で作製した試料の、第1時効処理工程の後の保磁力と、得られたRFeB系焼結磁石の保磁力を示す。これら6つの試料では、第1時効温度は800℃、第1時効処理工程での加熱時間は30分間、第2時効処理工程での加熱時間は30分間に統一した。この実験の結果、得られたRFeB系焼結磁石の保磁力はいずれも16kOeを上回り、第2時効温度が上記範囲内では当該温度が高いほど保磁力が大きくなった。
【0050】
図3(d)に、第2時効処理工程での加熱時間が0~540分の範囲内で異なる6つの条件で作製した試料の、第1時効処理工程の後の保磁力と、得られたRFeB系焼結磁石の保磁力を示す。これら6つの試料では、第1時効温度は800℃、第1時効処理工程での加熱時間は30分間、第2時効温度は560℃に統一した。得られたRFeB系焼結磁石の保磁力はいずれも16kOeを上回り、第2時効処理工程での加熱時間が上記範囲内ではその値に関わらずほぼ同じであった。
【0051】
以上、
図3に示した実験結果より、本実施形態のRFeB系焼結磁石における保磁力の大きさには作製時の第1時効処理工程及び第2時効処理工程における加熱時間、並びに第1時効温度はほとんど影響を与えないこと、及び第2時効温度を調整することによって保磁力をより向上させることができることがわかる。
【0052】
次に、合金3から得られたRFeB系磁石粉末を用いて作製された基材14に対して、第1時効温度を800℃、第1時効処理工程の加熱時間を30分間、第2時効温度を540℃、第2時効処理工程の加熱時間(540℃に維持した時間)を30分間として時効処理を行い、その後第2時効温度から100℃まで冷却する際の冷却速度が異なる複数の例についてRFeB系焼結磁石の試料を作製した。併せて、比較例として、合金3から得られたRFeB系磁石粉末を用いて作製された基材14に対して、第1時効処理工程を行うことなく、第2時効処理工程を行った場合について、同様に冷却速度が異なる複数のRFeB系焼結磁石の試料を作製した。それらのRFeB系焼結磁石の試料につき、保磁力を測定した結果を
図4に示す。その結果、比較例の試料ではいずれも保磁力が16kOeを下回ったのに対して、第1時効処理工程と第2時効処理工程の双方を行った本実施例の試料ではいずれも保磁力が16kOeを上回った。本実施例の試料のうち、第2時効温度から100℃までの冷却速度が最も遅い(3℃/分)試料は、当該冷却速度が5℃/分以上である他の試料よりもやや保磁力が低くなった。すなわち、第2時効温度から100℃までの冷却速度は5℃/分以上とすることが好ましい。
【符号の説明】
【0053】
11…RFeB系合金塊
12…RFeB系粗粉
13…RFeB系磁石粉末
14…基材
15…RFeB系焼結磁石
19…容器