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特許7379970λ/2位相差板、光学用品及び反射型投射システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】λ/2位相差板、光学用品及び反射型投射システム
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20231108BHJP
【FI】
G02B5/30
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019164862
(22)【出願日】2019-09-10
(65)【公開番号】P2021043313
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山肩 智樹
(72)【発明者】
【氏名】黒田 剛志
【審査官】小川 亮
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/169168(WO,A1)
【文献】特開2016-090862(JP,A)
【文献】特開平11-149015(JP,A)
【文献】特開2013-025065(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
λ/2位相差板であって、
前記λ/2位相差板は、第1のポジティブA層と第2のポジティブA層とを有し、前記第1のポジティブA層の遅相軸と前記第2のポジティブA層の遅相軸とが交差してなり、
下記条件1を満たす、λ/2位相差板。
<条件1>
前記λ/2位相差板に対して入射角α度で入射した直線偏光の430nm~580nmの波長域中の任意の120nm以上の幅の波長域における前記直線偏光の分光透過率が、入射角αが30~60度の範囲内から選択される少なくとも一つの10度幅の領域において2.0%以下を示す。
【請求項2】
前記条件1を満たす任意の120nm以上の幅の波長域の中心波長をλc[nm]、前記第1のポジティブA層の波長λc[nm]における面内位相差をRe1(λc)、前記第2のポジティブA層の波長λc[nm]における面内位相差をRe2(λc)と定義した際に、Re1(λc)>Re2(λc)である、請求項1に記載のλ/2位相差板。
【請求項3】
前記条件1を満たす任意の120nm以上の幅の波長域の中心波長λcが、波長500~600nmの中に位置する、請求項1又は2に記載のλ/2位相差板。
【請求項4】
前記第1のポジティブA層の波長550nmにおける面内位相差をRe1(550)、前記第2のポジティブA層の波長550nmにおける面内位相差をRe2(550)と定義した際に、前記Re1(550)が280~320nmであり、前記Re2(550)が230~270nmであり、Re1(550)>Re2(550)である、請求項1~3の何れか1項に記載のλ/2位相差板。
【請求項5】
前記λ/2位相差板の面内の水平方向をD1、前記λ/2位相差板の面内の前記水平方向に直交する方向をD2と定義し、さらに、前記第1のポジティブA層の遅相軸とD2とが成す角をθ1、前記第2のポジティブA層の遅相軸とD2とが成す角をθ2と定義した際に、θ1及びθ2が下記条件2-1に示す(A1)~(A4)の何れかの組み合わせを満たす、請求項1~4の何れか1項に記載のλ/2位相差板。
<条件2-1>
(A1)θ1が12.5~27.5度、かつ、θ2が57.5~72.5度
(A2)θ1が57.5~72.5度、かつ、θ2が12.5~27.5度
(A3)θ1が-12.5~-27.5度、かつ、θ2が-57.5~-72.5度
(A4)θ1が-57.5~-72.5度、かつ、θ2が-12.5~-27.5度
【請求項6】
第1の透明基材と第2の透明基材との間に、前記第1のポジティブA層及び前記第2のポジティブA層を有する、請求項1~5の何れか1項に記載のλ/2位相差板。
【請求項7】
前記条件1の前記直線偏光がS偏光である、請求項1~6の何れか1項に記載のλ/2位相差板。
【請求項8】
請求項1~7の何れか1項に記載のλ/2位相差板を含む光学用品。
【請求項9】
反射スクリーンである、請求項8に記載の光学用品。
【請求項10】
請求項1~7の何れか1項に記載のλ/2位相差板を含む反射スクリーンと、光源とを備えた、反射型投射システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、λ/2位相差板、光学用品及び反射型投射システムに関する。
【背景技術】
【0002】
光ピックアップ装置及び液晶プロジェクタ等の光学用品には、直線偏光の変換素子を含むものがある。直線偏光の変換素子としては、例えば、直線偏光の振動方向を90度回転するλ/2位相差板が挙げられる。直線偏光がλ/2位相差板を通過すると、P偏光はS偏光に変換され、S偏光はP偏光に変換される。
【0003】
λ/2位相差板は、位相差が波長の変化に伴って変化する波長依存性を有するため、中心波長(通常は550nm)から外れた波長に関しては機能が低下し、直線偏光の変換割合が低下する。
そこで、幅広い波長域においてλ/2位相差板として機能する波長板として、特許文献1及び2のλ/2位相差板が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-100114号公報
【文献】特開2004-170853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び2のλ/2位相差板は、2枚の波長板を所定の角度で積層してなるものである。しかし、特許文献1及び2のλ/2位相差板は、使用条件によっては直線偏光の変換割合が極端に低下することが頻発した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特許文献1及び2の波長板を用いても直線偏光の変換割合が低下する原因について鋭意検討した。その結果、本発明者らは、「特許文献1及び2では、もっぱらλ/2位相差板に対して直線偏光が略垂直に入射する条件のみを想定していること」、及び、「特許文献1及び2では、λ/2位相差板に対して直線偏光が斜めに入射する条件を想定しておらず、当該条件において、中心波長から外れた直線偏光の変換割合が極端に低下すること」を見出した。
そして、本発明者らはさらに検討した結果、λ/2位相差板に対して直線偏光が斜めに入射する使用条件であっても、幅広い波長域において直線偏光の変換割合を良好にし得るλ/2位相差板を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[10]を提供する。
[1]λ/2位相差板であって、前記λ/2位相差板は、第1のポジティブA層と第2のポジティブA層とを有し、前記第1のポジティブA層の遅相軸と前記第2のポジティブA層の遅相軸とが交差してなり、下記条件1を満たす、λ/2位相差板。
<条件1>
前記λ/2位相差板に対して入射角α度で入射した直線偏光の任意の120nm以上の幅の波長域における前記直線偏光の分光透過率が、入射角αが30~60度の範囲内から選択される少なくとも一つの10度幅の領域において2.0%以下を示す。
[2]前記条件1を満たす任意の120nm以上の幅の波長域の中心波長をλc[nm]、前記第1のポジティブA層の波長λc[nm]における面内位相差をRe1(λc)、前記第2のポジティブA層の波長λc[nm]における面内位相差をRe2(λc)と定義した際に、Re1(λc)>Re2(λc)である、[1]に記載のλ/2位相差板。
[3]前記条件1を満たす任意の120nm以上の幅の波長域の中心波長λcが、波長500~600nmの中に位置する、[1]又は[2]に記載のλ/2位相差板。
[4]前記第1のポジティブA層の波長550nmにおける面内位相差をRe1(550)、前記第2のポジティブA層の波長550nmにおける面内位相差をRe2(550)と定義した際に、前記Re1(550)が280~320nmであり、前記Re2(550)が230~270nmであり、Re1(550)>Re2(550)である、[1]~[3]の何れかに記載のλ/2位相差板。
[5]前記λ/2位相差板の面内の水平方向をD1、前記λ/2位相差板の面内の前記水平方向に直交する方向をD2と定義し、さらに、前記第1のポジティブA層の遅相軸とD2とが成す角をθ1、前記第2のポジティブA層の遅相軸とD2とが成す角をθ2と定義した際に、θ1及びθ2が下記条件2-1に示す(A1)~(A4)の何れかの組み合わせを満たす、[1]~[4]の何れかに記載のλ/2位相差板。
<条件2-1>
(A1)θ1が12.5~27.5度、かつ、θ2が57.5~72.5度
(A2)θ1が57.5~72.5度、かつ、θ2が12.5~27.5度
(A3)θ1が-12.5~-27.5度、かつ、θ2が-57.5~-72.5度
(A4)θ1が-57.5~-72.5度、かつ、θ2が-12.5~-27.5度
[6]第1の透明基材と第2の透明基材との間に、前記第1のポジティブA層及び前記第2のポジティブA層を有する、[1]~[5]の何れかに記載のλ/2位相差板。
[7]前記条件1の前記直線偏光がS偏光である、[1]~[6]の何れかに記載のλ/2位相差板。
[8][1]~[7]の何れかに記載のλ/2位相差板を含む光学用品。
[9]反射スクリーンである、[8]に記載の光学用品。
[10][1]~[7]の何れかに記載のλ/2位相差板を含む反射スクリーンと、光源とを備えた、反射型投射システム。
【発明の効果】
【0008】
本発明のλ/2位相差板、並びにこれを用いた光学用品及び反射型投射システムは、幅広い波長域において直線偏光の変換割合を良好にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明のλ/2位相差板の一実施形態を示す断面図である。
図2】実施例1~2、比較例1~2のλ/2位相差板に対して、入射角55度でS偏光を入射した際のS偏光の分光透過率を示す図。
図3】実施例1~2、比較例1~2のλ/2位相差板に対して、入射角45度でS偏光を入射した際のS偏光の分光透過率を示す図。
図4】実施例1~2、比較例1~2のλ/2位相差板に対して、入射角35度でS偏光を入射した際のS偏光の分光透過率を示す図。
図5】実施例1~2、比較例1~2のλ/2位相差板に対して、入射角25度でS偏光を入射した際のS偏光の分光透過率を示す図。
図6】実施例1~2、比較例1~2のλ/2位相差板に対して、入射角15度でS偏光を入射した際のS偏光の分光透過率を示す図。
図7】実施例1~2、比較例1~2のλ/2位相差板に対して、入射角5度でS偏光を入射した際のS偏光の分光透過率を示す図。
図8】実施例の二重像の評価手法を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を説明する。
[λ/2位相差板]
本発明のλ/2位相差板は、第1のポジティブA層と第2のポジティブA層とを有し、前記第1のポジティブA層の遅相軸と前記第2のポジティブA層の遅相軸とが交差してなり、下記条件1を満たすものである。
<条件1>
前記λ/2位相差板に対して入射角α度で入射した直線偏光の任意の120nm以上の幅の波長域における前記直線偏光の分光透過率が、入射角αが30~60度の範囲内から選択される少なくとも一つの10度幅の領域において2.0%以下を示す。
【0011】
図1は、本発明のλ/2位相差板の一実施形態を示す断面図である。図1のλ/2位相差板100は、第1のポジティブA層10と、第2のポジティブA層20とを有している。また、図1のλ/2位相差板100は、第1の透明基材50と、第2の透明基材60との間に、第1のポジティブA層10及び第2のポジティブA層20が配置されている。また、図1のλ/2位相差板100は、第1の透明基材50と第1のポジティブA層10との間、及び、第2の透明基材60と第2のポジティブA層20との間、接着剤層(30,40)を有している。
【0012】
本明細書において、「XXに対して入射角YY度で入射した直線偏光」とは、「XXの法線方向からYY度ずれた方向から入射した直線偏光」を意味するものとする。
また、本明細書において、「10度幅の領域」とは、基準となる角度をx度とした際に、「x~x+10度」の領域のことを意味する。例えば、基準となる角度が40度の場合、40~50度の領域を意味する。
また、本明細書において、「入射角αが30~60度の範囲内から選択される少なくとも一つの10度幅の領域において、『xxx』を満たす。」とは、入射角αが30~60度の範囲内の、少なくとも一つの10度幅の領域で『xxx』を満たせば条件を満たし、それ以外の10度幅の領域では『xxx』を満たしてもよいし、満たさなくてもよいことを意味する。例えば、入射角40~50度の10度幅において『xxx』を満たせば、入射角30~40度の10度幅では『xxx』を満たさなくてもよい。なお、『xxx』とは、本明細書中の入射角αに関連する各種の条件を意味する。
本明細書において、「ポジティブA層」とは、面内における遅相軸方向の屈折率をNx、面内において遅相軸方向と直交する方向の屈折率をNy、厚さ方向の屈折率をNzとしたとき、Nx>Ny≒Nzの関係であるものである。
本明細書において、面内位相差(Re)は、面内における遅相軸方向の屈折率をNx、面内においてNxに直交する方向の屈折率をNy、膜厚をd(nm)とした際に、下記式で表すことができるものであり、単位はnmである。また、本明細書において、面内位相差(Re)は、特に断りのない限り、正面方向の面内位相差(ポジティブA層に光を垂直入射した際の面内位相差)を意味する。
面内位相差(Re)=(Nx-Ny)×d
【0013】
<条件1>
条件1は、λ/2位相差板に対して入射角α度で入射した直線偏光(P偏光又はS偏光)の任意の120nm以上の幅の波長域における直線偏光の分光透過率(入射光がP偏光の場合はP偏光の分光透過率であり、入射光がS偏光の場合はS偏光の分光透過率である。)が、入射角αが30~60度の範囲内から選択される少なくとも一つの10度幅の領域において2.0%以下を示すことを規定している。
【0014】
条件1では、「直線偏光の任意の120nm以上の幅の波長域における前記直線偏光の分光透過率が2.0%以下であること」を規定している。このことは、λ/2位相差板による直線偏光の変換割合が良好であることを示している。すなわち、条件1では、入射光がS偏光の場合はその殆どがP偏光に変換されること、及び、入射光がP偏光の場合はその殆どがS偏光に変換されることを意味している。
【0015】
条件1では、「任意の120nm以上の幅の波長域」における直線偏光の分光透過率を規定している。このように広い幅の波長域において直線偏光の変換割合を良好にすることにより、後述する各種の光学用途(反射型スクリーン、センサー等)において、性能を高めたり、製品設計の自由度を高めたりしやすくできる。
条件1における任意の120nm以上の幅の波長域は、可視光領域(380~780nm)に位置していてもよいし、可視光領域外に位置していてもよい。なお、可視光の波長域で条件1を満たす場合、λ/2位相差板を用いた反射スクリーンの色再現性を良好にし得る点で好ましい。
【0016】
λ/2位相差板に対する直線偏光の入射角は、λ/2位相差板の使用目的等に応じた理想的な入射角が存在する。しかし、λ/2位相差板に対する直線偏光の入射角を理想的な角度に完全に一致させたとしても、振動等の環境因子によって入射角が変動する場合がある。また、理想的な入射角が狭すぎる場合には、λ/2位相差板と光源とを特定の配置関係とする必要があり、製品設計の自由度が制限されてしまう。すなわち、条件1において、「入射角αが30~60度の範囲内から選択される“少なくとも一つの10度幅の領域”」と規定しているのは、前述した環境因子の影響により入射角が多少前後しても問題がないこと、及び、製品設計の自由度の制限を受けないことを意味している。当該効果をより良好にするためには、“少なくとも一つの15度幅の領域”において条件1と同様の条件を満たすことが好ましく、“少なくとも一つの20度幅の領域”において条件1と同様の条件を満たすことがより好ましい。
【0017】
条件1を満たす「任意の120nm以上の幅の波長域」は、広いほど好ましい。具体的には、条件1を満たす任意の波長域の幅は130nm以上であることが好ましく、150nm以上であることがより好ましく、160nm以上であることがさらに好ましい。ただし、広い範囲に渡って条件1を満たすことは難しい。条件1を満たす任意の波長域の幅の上限は、300nm以下程度であり、好ましくは250nm以下、より好ましくは200nm以下である。
【0018】
また、条件1で規定する分光透過率は、1.7%以下であることが好ましく、1.5%以下であることがより好ましい。条件1で規定する分光透過率は低いほど好ましい。
【0019】
λ/2位相差板は、入射光がP偏光及びS偏光の少なくとも何れかの場合に条件1を満たせばよい。
λ/2位相差板の用途の一例である反射スクリーンを考慮すると、入射光がS偏光の場合に条件1を満たすことが好ましい。入射光がS偏光の場合に条件1を満たすλ/2位相差板(反射スクリーン)に対して、S偏光を入射光として投影した場合、λ/2位相差板(反射スクリーン)の表面で反射したS偏光により映像を視認することができ、かつ、λ/2位相差板(反射スクリーン)の表面で反射せずに内部に侵入したS偏光はP偏光に変換されて界面反射率が低下するため、二重像を抑制することができる。
なお、λ/2位相差板では、P偏光はS偏光に変換され、S偏光はP偏光に変換される。ブリュースター角の観点からは、P偏光はS偏光よりも界面で反射されにくく透過しやすいが、前述したように直線偏光は変換されるため、同じλ/2位相差板を用いた場合には、入射光の直線偏光の種類に関わらず分光透過率の差は微差である。よって、同じλ/2位相差板を用いた場合、入射する直線偏光の種類(P偏光又はS偏光)に応じてλ/2位相差板を適切な角度で配置すれば、何れか一方の直線偏光が条件1を満たせば、他方の直線偏光も条件1を満たす場合が多い。
【0020】
条件1を満たしやすくするためには、第1のポジティブA層の遅相軸と第2のポジティブA層の遅相軸とを交差して配置することが好ましい。また、第1のポジティブA層の遅相軸は、λ/2位相差板の面内の水平方向に直交する方向(D2)と、所定の角度(θ1)を成すことが好ましく、同様に、第2のポジティブA層の遅相軸は、D2と所定の角度(θ2)を成すことが好ましい。θ1及びθ2の好ましい角度については後述する。
また、条件1を満たしやすくするためには、第1のポジティブA層の位相差と、第2のポジティブA層の位相差とを異なるものとすることが好ましい。例えば、後述する「Re1(λc)>Re2(λc)」又は「Re1(550)>Re2(550)」の関係を満たすことが好ましい。
また、条件1を満たしやすくするためには、λ/2位相差板を構成する互いに隣接する層の屈折率差を小さくすることが好ましい。
【0021】
λ/2位相差板内に侵入した直線偏光の波長ごとの変換割合は、下記のステップ(1)及び(2)によりシミュレーションすることができる。
(1)入射角α度における第1のポジティブA層の面内位相差Re1(α)、及び、入射角α度における第2のポジティブA層の面内位相差Re2(α)を波長ごとに算出する。
(2)上記(1)で算出したRe1(α)及びRe2(α)と、後述するθ1及びθ2とを考慮して、第1のポジティブA層及び第2のポジティブA層を通過した直線偏光が、ポアンカレ球のどの座標に変換されるかを検証する。
【0022】
上記ステップ(1)において、入射角α度におけるポジティブA層の面内位相差Re(α)は、下記式(i)で算出できる。下記式において、Re(0)は、入射角0度のポジティブA層の面内位相差を意味する。また、θは後述するθ1及びθ2の何れかを意味する。
【数1】
【0023】
図2は、実施例1~2、比較例1~2のλ/2位相差板に対して、入射角55度でS偏光を入射した際のS偏光の分光透過率を示す図であり、図3は、実施例1~2、比較例1~2のλ/2位相差板に対して、入射角45度でS偏光を入射した際のS偏光の分光透過率を示す図である。図2及び図3において、実線は実施例1、一点鎖線は実施例2、ピッチが広い破線は比較例1、ピッチが狭い破線は比較例2を示す。
図2及び図3から、実施例1~2のλ/2位相差板は、入射角45度から入射角55度の10度幅の領域において、任意の120nm以上の幅の波長域の波長幅の分光透過率が2.0%以下を示している(図2及び図3に共通して、実施例では、430nm近傍~580nm近傍の波長域において分光透過率が2.0%以下を示している。)
【0024】
本発明のλ/2位相差板の一実施形態は、前記条件1を満たす任意の120nm以上の幅の波長域の中心波長をλc[nm]、前記第1のポジティブA層の波長λc[nm]における面内位相差をRe1(λc)、前記第2のポジティブA層の波長λc[nm]における面内位相差をRe2(λc)と定義した際に、Re1(λc)>Re2(λc)であることが好ましい。
Re1(λc)>Re2(λc)とすることにより、条件1を満たしやすくすることができる。「Re1(λc)-Re2(λc)」の好適な範囲は、λc[nm]の値によって異なるため一概にはいえない。
λcが波長500~600nmの中に位置する場合、「Re1(λc)-Re2(λc)」は、20~80nmであることが好ましく、40~60nmであることがより好ましい。
Re1(λc)及びRe2(λc)の値は、λc[nm]の1/2の前後の値で調整することができる。
【0025】
本発明のλ/2位相差板の一実施形態として、前記条件1を満たす任意の120nm以上の幅の波長域の中心波長λcが、波長500~600nmの中に位置することが好ましく、波長505~570nmの中に位置することがより好ましく、波長510~560nmの中に位置することがさらに好ましい。
λcが波長500~600nmの中に位置することは、人の視感度の高い波長域にλcが位置することを意味する。例えば、入射光がS偏光の場合に条件1を満たし、λcが波長500~600nmの中に位置するλ/2位相差板を反射スクリーンとして用い、S偏光を入射光として用いた場合、λ/2位相差板(反射スクリーン)の表面で反射したS偏光により映像を視認することができ、かつ、λ/2位相差板(反射スクリーン)に侵入したS偏光はP偏光に変換されて界面反射率が低下するため、二重像を抑制することができる。
【0026】
本発明のλ/2位相差板の一実施形態として、前記第1のポジティブA層の波長550nmにおける面内位相差をRe1(550)、前記第2のポジティブA層の波長550nmにおける面内位相差をRe2(550)と定義した際に、前記Re1(550)が280~320nmであり、前記Re2(550)が230~270nmであり、Re1(550)>Re2(550)であることが好ましい。
当該構成を有することにより、人の視感度の高い波長域において、条件1を満たしやすくすることができる。当該構成を有する場合、第1のポジティブA層及び第2のポジティブA層は何れが光入射面側に位置してもよい。
当該構成において、Re1(550)は285~310nmであることがより好ましく、290~300nmであることがさらに好ましい。また、当該構成において、Re2(550)は235~260nmであることがより好ましく、240~250nmであることがさらに好ましい。また、当該構成において、「Re1(550)-Re2(550)」は、20~80nmであることがより好ましく、30~70nmであることがさらに好ましい。
【0027】
従来、人の視感度の高い波長域において直線偏光の変換割合を高めるためには、550nmの面内位相差270nmの2つのポジティブA層を積層したλ/2位相差板を用いていた。しかし、従来のλ/2位相差板は、入射光が斜めの場合に直線偏光の変換割合が大幅に低下してしまうものであった(比較例2参照)。上記の本発明のλ/2位相差板の一実施形態のように、Re1(550)とRe1(550)とを異なる値とすることにより、人の視感度の高い波長域において、条件1を満たしやすくすることができる。他の波長域の直線偏光の変換割合を高める場合も同様である。他の波長域の場合、Re1(λc)とRe1(λc)とを異なる値とすることが好ましい。
【0028】
本発明のλ/2位相差板の一実施形態として、前記λ/2位相差板の面内の水平方向をD1、前記λ/2位相差板の面内の前記水平方向に直交する方向をD2と定義し、さらに、前記第1のポジティブA層の遅相軸とD2とが成す角をθ1、前記第2のポジティブA層の遅相軸とD2とが成す角をθ2と定義した際に、θ1及びθ2が下記条件2-1に示す(A1)~(A4)の何れかの組み合わせを満たすことが好ましい。
<条件2-1>
(A1)θ1が12.5~27.5度、かつ、θ2が57.5~72.5度
(A2)θ1が57.5~72.5度、かつ、θ2が12.5~27.5度
(A3)θ1が-12.5~-27.5度、かつ、θ2が-57.5~-72.5度
(A4)θ1が-57.5~-72.5度、かつ、θ2が-12.5~-27.5度
【0029】
なお、水平方向とは、λ/2位相差板を基準とした際に、入射光の方位角の方向と直交する方向を意味する。後述の実施例では、地面に平行な方向を方位角0度とした際に、方位角90度の方向からλ/2位相差板に光を入射している。すなわち、後述の実施例では、水平方向は地面に平行な方向である。
条件2-1において、第1のポジティブA層及び第2のポジティブA層は何れが光入射面側に位置してもよい。
条件2-1では、D2を基準として時計回りの方向に遅相軸が存在する場合には成す角を「+」、D2を基準として反時計回りの方向に遅相軸が存在する場合には成す角を「-」としている。
【0030】
条件2-1を満たすことにより、条件1を満たしやすくすることができる。なお、条件2-1の前提として、第1のポジティブA層と第2のポジティブA層とは、Re1(λc)>Re2(λc)又はRe1(550)>Re2(550)の関係を満たすことが好ましい。
条件2-1に関して、θ1及びθ2は(A5)~(A8)の何れかの組み合わせを満たすことがより好ましい。
(A5)θ1が15.5~17.5度、かつ、θ2が59.0~61.0度
(A6)θ1が59.0~61.0度、かつ、θ2が15.5~17.5度
(A7)θ1が-15.5~-17.5度、かつ、θ2が-59.0~-61.0度
(A8)θ1が-59.0~-61.0度、かつ、θ2が-15.5~-17.5度
【0031】
<ポジティブA層>
ポジティブA層は、面内における遅相軸方向の屈折率をNx、面内において遅相軸方向と直交する方向の屈折率をNy、厚さ方向の屈折率をNzとしたとき、Nx>Ny≒Nzの関係であるものである。
【0032】
ポジティブA層は汎用性の観点から正分散性を示すものを用いることが好ましい。
正分散性とは、短波長側ほど透過光における位相差が大きい波長分散特性である。
【0033】
ポジティブA層の主成分は液晶化合物に由来する構成単位であることが好ましい。このため、第1のポジティブA層及び第2のポジティブA層の両方に液晶化合物に由来する構成単位を含むことが好ましい。主成分とは、ポジティブA層の全固形分の50質量%以上であることを意味し、好ましくは70質量%以上である。
【0034】
ポジティブA層を形成する液晶化合物は、分子内に重合性官能基を有する重合性液晶化合物を含むことが好ましい。重合性官能基を有することにより、液晶化合物を重合して固定することが可能になるため、配列安定性に優れ、位相差性の経時変化が生じにくくなる。また、重合性液晶化合物は、分子内に重合性官能基を2つ以上有することがより好ましい。重合性官能基を2つ以上有することにより、液晶化合物の三次元的な配向を、より安定させることができる。
重合性官能基としては、例えば、紫外線、電子線等の電離放射線、あるいは熱の作用によって重合するものを挙げることができる。これら重合性官能基としては、ラジカル重合性官能基が挙げられる。ラジカル重合性官能基の代表例としては、少なくとも1つの付加重合可能なエチレン性不飽和二重結合を持つ官能基が挙げられ、具体例として、置換基を有する若しくは有さないビニル基、アクリレート基(アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基を包含する総称)等が挙げられる。
また、重合性官能基として、一般的に知られているカチオン重合性官能基を使用してもよく、具体的には、脂環式エーテル基(エポキシ基、オキセタニル基等)、環状アセタール基、環状ラクトン基、環状イミノエーテル基、環状チオエーテル基、スピロオルソエステル基、ビニルオキシ基等が挙げられる。これらの中でも、脂環式エーテル基、ビニルオキシ基が好ましく、エポキシ基、オキセタニル基、ビニルオキシ基がより好ましい。
【0035】
また、液晶化合物は、末端に重合性官能基を有するものが特に好ましい。このような液晶化合物を用いることにより、例えば、液晶化合物の末端同士が互いに重合して、三次元的に配向した状態にすることができるため、安定性を備え、かつ、光学特性の発現性に優れた位相差層とすることができる。液晶化合物は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0036】
液晶化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。1種単独の場合、該1種の液晶化合物は重合性液晶化合物であることが好ましい。また、2種以上を組み合わせて用いる場合、少なくとも1種が重合性液晶化合物であることが好ましく、全てが重合性液晶化合物であることがより好ましい。
【0037】
ポジティブA層は、ホモジニアス配向する液晶化合物を用いてポジティブA層を形成することが好ましい。モジニアス配向とは、液晶化合物の分子長軸が水平方向に配向している状態を意味する。ポジティブA層は、スメクチック相を示すことが好ましい。ここで、スメクチック相とは、一方向にそろった分子が相構造を有している状態をいう。
【0038】
ポジティブA層の液晶化合物としては、円盤状液晶材料(ディスコティック液晶材料)と、棒状液晶材料とが挙げられる。
ポジティブA層の液晶化合物は汎用の材料を用いることができ、例えば、特開2008-297210号公報に記載の一般式(I)で表される化合物、特開2010-84032号公報に記載の一般式(1)で表される化合物、特開2016-53709号公報に記載の液晶化合物A0等が挙げられる。ポジティブA層の液晶化合物は、下記式(1)~(17)に示す化合物を用いることもできる。
【0039】
【化1】
【0040】
【化2】
【0041】
【化3】
【0042】
ポジティブA層は、例えば、透明基材上に、ポジティブA層を構成する成分及び溶剤を含むポジティブA層形成用インキを塗布、乾燥、硬化等することにより形成することができる。
ポジティブA層形成用インキ中における液晶化合物の含有量としては、特に限定されないが、該インキ中に5質量%以上40質量%以下の割合で含まれていることが好ましく、10質量%以上30質量%以下の割合で含まれていることがより好ましい。液晶化合物の量が5質量%未満であると、透明基材上に多量にインキを塗布する必要があるため、製造し難いとともに、多量の溶剤除去が必要となり、溶剤残存に起因する信頼性の悪化が生じやすい。一方で、40質量%を超えると、その重合性液晶組成物の粘度が高くなりすぎるために、ポジティブA層の作製の作業性が悪くなる。
また、ポジティブA層形成用インキの固形分質量(溶剤を除いた質量)に対する液晶化合物の含有量は、好ましくは75~99.9質量%、より好ましくは80~99質量%、更に好ましくは85~98質量%である。
【0043】
ポジティブA層形成用インキ中には、重合開始剤、レベリング剤及び配向促進剤等を含んでいてもよい。
第1のポジティブA層及び第2のポジティブA層の厚みは、付与する位相差値を考慮して適宜調整することができ、通常は0.1~10μm程度である。
【0044】
<透明基材>
本発明のλ/2位相差板の一実施形態は、透明基材を有することが好ましい。また、本発明のλ/2位相差板の一実施形態は、第1の透明基材と第2の透明基材との間に、前記第1のポジティブA層及び前記第2のポジティブA層を有することがより好ましい。
透明基材は、ポジティブA層等を形成する際の支持体としての役割、あるいは、ポジティブA層等を保護する役割等を有する。
【0045】
透明基材は、ポリマーから形成したものでもよいし、ガラスから形成したものであってもよい。
ポリマーとしては、セルロースアシレート、ポリカーボネート系ポリマー、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル系ポリマー、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマー、ポリスチレンやアクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)等のスチレン系ポリマー等を利用することができる。また、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、エチレン・プロピレン共重合体の如きポリオレフィン系ポリマー、塩化ビニル系ポリマー、ナイロンや芳香族ポリアミド等のアミド系ポリマー、イミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、塩化ビニリデン系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、ビニルブチラール系ポリマー、アリレート系ポリマー、ポリオキシメチレン系ポリマー、エポキシ系ポリマー、又はこれらポリマーの混合物等が挙げられる。
ガラスは、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラス及び石英ガラス等が挙げられる。
【0046】
透明基材は、光学的等方性のものが好ましい。本明細書において、光学的等方性とは、550nmの面内位相差が5nm以下であるものをいう。
【0047】
本発明のλ/2位相差板の一実施形態は、上述したように、第1の透明基材と第2の透明基材との間に、前記第1のポジティブA層及び前記第2のポジティブA層を有することが好ましい。その際、第1の透明基材と第2の透明基材とは、同一であってもよいし、異なるものであってもよい。例えば、第1の透明基材の屈折率をn1、第2の透明基材の屈折率をn2とした場合、n1=n2の関係であってもよいし、n1≠n2の関係であってもよい。また、n1≠n2の関係の場合において、第1の透明基材と第2の透明基材のうち、屈折率の高い方を直線偏光の光入射面側となるように用いることにより、光入射面側の反射率を高めつつ、出射側界面の反射率を低くすることができ、反射スクリーンの視認性を良好にすることができる。
【0048】
第1の透明基材と第2の透明基材との間に、第1のポジティブA層及び第2のポジティブA層を有するλ/2位相差板を反射スクリーンとして用いる場合、光入射面側の透明基材の屈折率は、1.1~1.9であることが好ましく、1.3~1.7であることがより好ましい。また、この場合、光出射面側の透明基材の屈折率は、光入射面側の透明基材の屈折率と同一であってもよいが、光入射面側の透明基材の屈折率未満であることが好ましい。
【0049】
透明基材の厚みは、ポリマーから形成した透明基材の場合は、通常25~125μm程度であり、ガラスから形成した透明基材の場合は、通常100μm~5mm程度である。
【0050】
<その他の層>
本発明のλ/2位相差板の一実施形態は、その他の層を有していてもよい。
その他の層としては、ポジティブA層を配向させやすくするための配向膜、紫外線吸収層、中間膜及び接着剤層等が挙げられる。中間膜は、λ/2位相差板に耐衝撃性及び飛散防止性等を付与するために形成される層であり、例えば、ポリビニルブチラール等から形成することができる。
なお、条件1を満たしやすくするためには、λ/2位相差板を構成する互いに隣接する層の屈折率差を小さくすることが好ましい。また、その他の層は 光学的等方性のものが好ましい。
【0051】
<光学物性>
本発明のλ/2位相差板の一実施形態は、JIS K7361-1:1997に準拠して測定される全光線透過率が60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。このため、本発明のλ/2位相差板は偏光子を有さないことが好ましい。
また、本発明のλ/2位相差板の一実施形態は、JIS K7136:2000に準拠して測定されるヘイズが2.0%以下であることが好ましく、1.0%以下であることがより好ましい。
【0052】
本発明のλ/2位相差板は、例えば、第1の透明基材上に第1のポジティブA層を形成してなる積層体1と、第2の透明基材上に第2のポジティブA層を形成してなる積層体2とを、接着剤層を介して貼り合わせることにより製造することができる。
【0053】
<用途>
本発明のλ/2位相差板は、例えば、各種の光学用品として用いることができる。
光学用品としては、光学センサ、光学測定器、光ピックアップ装置及び液晶プロジェクタ等に組み込まれる部品(直線偏光変換部材)が挙げられる。
別の光学用品として反射スクリーンが挙げられる。入射光がS偏光の場合に条件1を満たすλ/2位相差板に対して、S偏光を入射光として投影した場合、λ/2位相差板(反射スクリーン)の表面で反射したS偏光により映像を視認することができ、かつ、λ/2位相差板(反射スクリーン)の表面で反射されず内部に侵入したS偏光はP偏光に変換されて界面反射率が低下するため、二重像を抑制することができる。なお、λ/2位相差板を反射スクリーンとして用いる場合、λcが波長500~600nmの中に位置することが好ましい。反射スクリーンのより具体的な例として、ヘッドアップディスプレイが挙げられる。
別の光学用品として、偏光サングラス、カメラ用のフィルタ等の偏光フィルタが挙げられる。偏光フィルタは、本発明のλ/2位相差板と、偏光子とを有するものである。偏光サングラス等の偏光フィルタに入射する反射光は、偏光フィルタに対して斜め方向から入射するものが殆どであり、また、反射光はS偏光の割合が多い。よって、本発明のλ/2位相差板と、P偏光をカットする偏光子とを有する偏光フィルタは、反射光に多く含まれるS偏光をλ/2位相差板でP偏光に変換し、変換したP偏光を偏光子で吸収する一方で、反射光中のP偏光をλ/2位相差板でS偏光に変換して透過するため、反射光をカットする特性に優れている。
【0054】
[反射型投射システム]
本発明の反射型投射システムは、上述した本発明のλ/2位相差板と、光源とを備えてなるものである。
【0055】
光源は特に限定されない。光源から投射される光としては、非偏光、直線偏光及び円偏光が挙げられる。
直線偏光を投射可能な光源としては、有機EL等の表示素子上に偏光子を配置したもの、及び、液晶プロジェクタが挙げられる。円偏光を投射可能な光源としては、直線偏光を投射可能な光源に位相差層を付加したものが挙げられる。
光源から投射される光が直線偏光以外の場合、λ/2位相差板と光源との間に偏光子を配置し、直線偏光に変換してからλ/2位相差板に入射すればよい。
【実施例
【0056】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、「部」及び「%」は特に断りのない限り質量基準とする。
【0057】
1.ポジティブA層を有する積層体の作製
<積層体1>
厚み80μmのPETフィルム上に、ポリシンナメート系化合物を含有する配向膜形成組成物(固形分4%、プロピレングリコールモノメチルエーテル希釈)を、塗布し、塗膜を形成した。得られた塗膜を120℃で1分間乾燥して、偏光露光20mJ/cm(310nm)照射を行い、膜厚が200nmの配向膜を形成した。
次いで、配向膜上に、下記組成のポジティブA層形成用インキをバーコーターで塗布、乾燥、硬化し、PETフィルム、配向膜及びポジティブA層(第1のポジティブA層)をこの順に備えた積層体1を得た。乾燥条件は、温度120℃、時間60秒とした。硬化条件(紫外線照射量)は200mJ/cmとした。なお、積層体1のポジティブA層(第1のポジティブA層)の厚みは、Re(550)が295nmとなるように調整した。また、ポジティブA層(第1のポジティブA層)は正分散性を示し、Re(450)/Re(550)が1.09であった。
<ポジティブA層形成用インキ>
上記式(11)で表される液晶化合物を25質量%、光重合開始剤(BASF社製、商品名:イルガキュア907)を5質量%、フッ素系界面活性剤(DIC社製、商品名:メガファックF554)を0.4質量%含み、残部が溶剤(MEK:MIBK=1:1の混合溶剤)である、組成物。
【0058】
<積層体2>
ポジティブA層の厚みを変更し、ポジティブA層(第2のポジティブA層)のRe(550)を245nmとした以外は、積層体1と同様にして、PETフィルム、配向膜及びポジティブA層(第1のポジティブA層)をこの順に備えた積層体2を得た。
【0059】
<積層体3>
ポジティブA層の厚みを変更し、Re(550)を270nmとした以外は、積層体1と同様にして、PETフィルム、配向膜及びポジティブA層をこの順に備えた積層体3を得た。
【0060】
2.λ/2位相差板の作製
[実施例1]
光学的等方性を有する厚み1mmのガラス板(屈折率1.51)上に、光学的等方性を有するアクリル系粘着剤層(厚み25μm)を形成し、さらに該粘着剤層上に、上記積層体1のポジティブA層(第1のポジティブA層)側の面を貼り合わせ、積層体Aを得た。
積層体AのPETフィルム及び配向膜を剥離し、該剥離面上に、光学的等方性を有するアクリル系粘着剤層(厚み25μm)を形成した。次いで、該アクリル系粘着剤層上に、上記積層体2のポジティブA層(第2のポジティブA層)側の面を貼り合わせ、積層体Bを得た。
積層体BのPETフィルム及び配向膜を剥離し、該剥離面上に、光学的等方性を有するアクリル系粘着剤層(厚み25μm)及び光学的等方性を有するTACフィルム(鹸化処理品、厚み80μm)を積層した。
以上の工程により、ガラス板、アクリル系粘着剤層、ポジティブA層(第1のポジティブA層)、アクリル系粘着剤層、ポジティブA層(第2のポジティブA層)、アクリル系粘着剤層、TACフィルムをこの順に有する、実施例1のλ/2位相差板(縦50mm、横(水平方向)50mm)を得た。この際、実施例1のλ/2位相差板は、θ1が16.5度、θ2が60.0度となるようにした。なお、λ/2位相差板の面内の水平方向をD1、λ/2位相差板の面内の前記水平方向に直交する方向をD2と定義した際に、θ1とは、第1のポジティブA層の遅相軸とD2とが成す角のことを意味し、θ2とは、第2のポジティブA層の遅相軸とD2とが成す角のことを意味する。
【0061】
[実施例2]
θ1を22.5度、θ2を67.5度に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2のλ/2位相差板を得た。
【0062】
[比較例1]
光学的等方性を有する厚み1mmのガラス板(屈折率1.51)上に、光学的等方性を有するアクリル系粘着剤層(厚み25μm)を形成し、さらに該粘着剤層上に、上記積層体3のポジティブA層側の面を貼り合わせ、積層体Cを得た。
積層体CのPETフィルム及び配向膜を剥離し、該剥離面上に、光学的等方性を有するアクリル系粘着剤層(厚み25μm)及び光学的等方性を有するTACフィルム(鹸化処理品、厚み80μm)を積層した。
以上の工程により、ガラス板、アクリル系粘着剤層、ポジティブA層、アクリル系粘着剤層、TACフィルムをこの順に有する、比較例1のλ/2位相差板(縦50mm、横(水平方向)50mm)を得た。この際、比較例1のλ/2位相差板は、ポジティブA層の遅相軸と、D2(λ/2位相差板の面内の水平方向に直交する方向)との成す角が45.0度となるようにした。
【0063】
[比較例2]
上記の積層体3を2つ準備した。一方の積層体3を積層体3i、他方の積層体3を積層体3iiとする。また、積層体3iの層構成は、PETフィルムi、配向膜i及びポジティブA層iとして、積層体3iiの層構成は、PETフィルムii、配向膜ii及びポジティブA層iiとする。
光学的等方性を有する厚み1mmのガラス板(屈折率1.51)上に、光学的等方性を有するアクリル系粘着剤層(厚み25μm)を形成し、さらに該粘着剤層上に、積層体3iのポジティブA層i側の面を貼り合わせ、積層体Aを得た。
積層体AのPETフィルムi及び配向膜iを剥離し、該剥離面上に、光学的等方性を有するアクリル系粘着剤層(厚み25μm)を形成した。次いで、該アクリル系粘着剤層上に、積層体3iiのポジティブA層ii側の面を貼り合わせ、積層体Bを得た。
積層体BのPETフィルムii及び配向膜iiを剥離し、該剥離面上に、光学的等方性を有するアクリル系粘着剤層(厚み25μm)及び光学的等方性を有するTACフィルム(鹸化処理品、厚み80μm)を積層した。
以上の工程により、ガラス板、アクリル系粘着剤層、ポジティブA層i、アクリル系粘着剤層、ポジティブA層ii、アクリル系粘着剤層、TACフィルムをこの順に有する、比較例1のλ/2位相差板(縦50mm、横(水平方向)50mm)を得た。この際、比較例2のλ/2位相差板は、ポジティブA層iの遅相軸と、D2(λ/2位相差板の面内の水平方向に直交する方向)との成す角を22.5度、ポジティブA層iiの遅相軸と、D2(λ/2位相差板の面内の水平方向に直交する方向)との成す角を67.5度とした。
【0064】
3.測定、評価
3-1.分光透過率
実施例及び比較例のλ/2位相差板に対して、所定の入射角でS偏光を入射し、S偏光の分光透過率を測定した。λ/2位相差板は、λ/2位相差板の横方向(水平方向)が地面と平行となるように配置した。分光透過率は、日本分光社製のV7100を用いて測定した。入射角5~55度の範囲で10度ごとに変更した。結果を図2~7に示す。また、各入射角において、分光透過率が2.0%以下を示す波長の幅を表1に示す。
【0065】
3-2.全光線透過率
ヘイズメーター(HM-150、村上色彩技術研究所製)を用いて、実施例及び比較例のλ/2位相差板の全光線透過率(JISK7361-1:1997)を測定した。全光線透過率が60%以上のものを「A」、60%未満のものを「C」とした。
【0066】
3-3.二重像
実施例及び比較例のλ/2位相差板に対して、入射角45度でS偏光を光源とする映像光を入射し、図8の位置関係から目視で観察した。二重像が気にならないものを「A」、二重像が気になるものを「C」とした。結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
図2~7及び表1の結果から、実施例のλ/2位相差板は、30~60度の入射角が大きい範囲の少なくとも一つの10度幅の領域において、120nm以上の幅広い波長域で直線偏光の変換割合を良好にし得ることが確認できる。また、実施例のλ/2位相差板は、可視光の波長域で前述した効果を奏するため、実施例のλ/2位相差板を用いた反射スクリーンは色再現性を良好にし得るものである。さらに、図2~7及び表1の結果から、実施例のλ/2位相差板は、前述した効果を奏する入射角30~60度の中心である入射角45度において、二重像が生じることを抑制できることが確認できる。
【符号の説明】
【0069】
10:第1のポジティブA層
20:第2のポジティブA層
30,40:接着剤層
50:第1の透明基材
60:第2の透明基材
100:λ/2位相差板
200:光源
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8