(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】製パン用油脂組成物、製パン用穀粉生地、製パン用穀粉生地の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20231108BHJP
A21D 2/16 20060101ALI20231108BHJP
A21D 2/26 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
A23D9/00 502
A21D2/16
A21D2/26
(21)【出願番号】P 2019174109
(22)【出願日】2019-09-25
【審査請求日】2022-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】難波 真紀子
【審査官】河島 拓未
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/152099(WO,A1)
【文献】特開2017-143747(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
A21D
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)食用油脂中に、(B)ブランチングエンザイムを含有
し、
(A)食用油脂の25℃における固体脂含量は9%以上40%以下であり、
(B)ブランチングエンザイムの含有量は、(A)食用油脂100質量部に対して活性量25000u/g基準で0.03~3質量部である、製パン用油脂組成物。
【請求項2】
(C)α-アミラーゼを含有する請求項1記載の製パン用油脂組成物。
【請求項3】
(B)ブランチングエンザイムの活性量に対する(C)α-アミラーゼの活性量の比(C/B)は、0.0
45~
1である請求項2に記載の製パン用油脂組成物。
【請求項4】
穀粉に請求項1~3のいずれかに記載の製パン用油脂組成物を含有する製パン用穀粉生地。
【請求項5】
穀粉に請求項1~3のいずれかに記載の製パン用油脂組成物を添加することを特徴とする、製パン用穀粉生地の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製パンに使用することで、作業性が向上し、さらに弾力性に優れ、小麦粉本来の美味しさを感じられるパンが得られる製パン用油脂組成物に関する。また、本発明は、前記の製パン用油脂組成物を含有する製パン用穀粉生地及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多種多様なパンが製造される中、商品の差別化として小麦粉本来の美味しさを訴求する商品が多く製造されている。小麦粉本来の美味しさを高める方法として、イーストの香りを抑えた短時間発酵であるストレート法を採用する方法、反対に低温長時間発酵させることで小麦粉中の遊離アミノ酸量を増強させ、小麦粉の旨みを高める方法、小麦粉と熱湯を混ぜて撹拌した湯種生地を配合する方法などが挙げられる。しかし、いずれもパン生地のべたつきが生じるため、生産時にパン生地が容器に付着して歩留まりが低下するというがある。歩留まりは生産性と相関関係にあり、生産性向上を求められる製パンメーカーにとって歩留まりの向上は強く要望されている。
【0003】
また、焼成後のパンについては、消費者の購入動機のひとつである外観の良さが求められる。しかし店頭に陳列される際、パンの陳列方法として、陳列棚に水平に陳列する方法(水平陳列)、4方向から大量に商品をみられるように陳列する方法(平台大量陳列)、売り出し商品などをワゴン等にランダムに陳列する方法(投げ込み陳列)など、様々な陳列方法にて販売され、陳列方法によってはパンの外観を損なうおそれがある。具体的には、平台大量陳列は食パンなどを複数個重ねて陳列する際に採用される陳列方法であるが、上段の食パンの重みによって下段の食パンが変形すると陳列の崩壊につながり、陳列棚としての景観を損なうだけでなく陳列されたパンの商品価値も低下する。食パン以外のパン類も平台大量陳列や投げ込み陳列された場合、底部に位置するパン類が圧縮され見栄えの悪いパンとなるため、上部のパン類の重さによって下部のパン類が変形しない優れた弾力性を備えたパン類の提供が望まれる。
以上の理由から、小麦粉本来の美味しさが得られ、歩留まりが向上し、さらに弾力性に優れたパンの提供が望まれている。
【0004】
パン生地のべたつきを抑制する方法として、酵素と気相を含有する油脂組成物が提案されているが(特許文献1)、焼成後の弾力性を向上させる効果はなく、小麦粉の美味しさを高める効果も無いことから、パン品質として満足のいくものではない。
パンの弾力性を向上させる方法として、アルギニンを配合する方法が提案されている(特許文献2)。しかし、官能評価では弾力が向上しているが、パン類の変形を抑制するほどの弾力性が得られず、また小麦粉の美味しさを高める効果もない。さらに、凝集性(復元性)を改善する方法として、ブランチングエンザイムを使用する方法が提案されている(特許文献3)。しかしこの先行文献は食用油脂に酵素を含んだ油脂組成物でなく、一定の荷重を加えた際、凝集性改善(復元し易い)という効果はあるが、パンの弾力性を向上させる効果はない。また、小麦粉の美味しさを高める効果も得られない。そのほか、パンの老化を抑制し、ソフトさと弾力性を維持する方法として、分枝酵素(ブランチングエンザイム)を使用する方法も提案されている(特許文献4)。しかしこの先行文献は食用油脂に酵素を含んだ油脂組成物でなく、パンの老化に伴う弾力性の喪失を抑制する効果はあるが弾力性を高める効果はなく、歩留まりの向上効果も小麦粉の美味しさを高める効果も得られない。
【0005】
以上のように、歩留まりが高く、弾力性に優れ小麦粉本来の美味しさを感じられるパンが得られる方法は見出されていない
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-78812号公報
【文献】特開2019-115328号公報
【文献】国際公開第2015/152099号
【文献】特表2000-513568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、製パンに使用することで、作業性及び歩留まりが向上し、さらに弾力性に優れ、小麦本来の美味しさを感じられるパンが得られる製パン用油脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は鋭意検討を重ねた結果、食用油脂とブランチングエンザイムを組み合わせることによって上記課題を解決する知見を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の発明である。
【0009】
〔1〕
(A)食用油脂中に、(B)ブランチングエンザイムを含有する製パン用油脂組成物。
〔2〕
(C)α-アミラーゼを含有する〔1〕記載の製パン用油脂組成物。
〔3〕
(B)ブランチングエンザイムの活性量に対する(C)α-アミラーゼの活性量の比(C/B)は、0.005~5である〔2〕に記載の製パン用油脂組成物。
〔4〕
穀粉に〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の製パン用油脂組成物を含有する製パン用穀粉生地。
〔5〕
穀粉に〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の製パン用油脂組成物を添加することを特徴とする、製パン用穀粉生地の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、作業性及び歩留まりが向上し、さらに弾力性に優れ、小麦本来の美味しさを感じられるパンが得られる製パン用油脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔製パン用油脂組成物〕
本発明の製パン用油脂組成物は、(A)食用油脂、(B)ブランチングエンザイムを含有することを特徴とし、(C)α-アミラーゼを含有してもよい。なお、本発明の製パン用油脂組成物はショートニング、油中水型乳化物、水中油型乳化物いずれの形態においてもその効果を発揮することができる。
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0012】
((A)食用油脂)
(A)食用油脂としては、食用に適する油脂が使用でき、具体的には、牛脂、豚脂、魚油、パーム油、パーム核油、菜種油、大豆油、コーン油等の天然の動植物油脂、及びこれらの硬化油、極度硬化油、エステル交換油等が挙げられ、これらを目的に応じて適宜選択され、1種類又は2種類以上組み合わせて用いられる。(A)食用油脂に(B)ブランチングエンザイム、(C)α-アミラーゼを含有させることで、パン生地中にブランチングエンザイムおよびα-アミラーゼを均一に分散させることができ、作業性及び歩留まり向上効果、焼成したパンの弾力性向上効果ならびに美味しさ向上効果を十分に発揮させることができる。反対に、(B)ブランチングエンザイムおよび(C)α-アミラーゼを(A)食用油脂に含有させず、パン生地に単体でパン生地添加した場合は、本発明の効果を得ることは期待できない。
【0013】
(A)食用油脂は、パン製造時にパン生地中のグルテン形成を促し、パンの内相を細かなものにする。食用油脂は、グルテンに沿って伸びることによりグルテンの形成を促進する。よって、グルテン形成を促すためには、(A)食用油脂が可塑性を有し、グルテンに沿って伸びるという性質を備える必要がある。また、ブランチングエンザイムおよびα-アミラーゼが食用油脂中に沈殿せず分散状態を維持することが望ましい。これらの観点から、(A)食用油脂の25℃におけるSFC(固体脂含量)は4%以上であることが好ましく、9%以上であることがより好ましい。また、パン生地への混合性の観点から、25℃におけるSFCの上限は、40%以下であることが好ましい。
【0014】
((B)ブランチングエンザイム)
本発明において使用される(B)ブランチングエンザイムは、1,4-α-D-グルカン鎖の一部を受容体1,4-α-Dグルカンの6-OH基に転移させ、アミロペクチンまたはグリコーゲンのようなα-1,6結合の枝分かれ構造を生成する酵素(酵素番号:EC2.4.1.18)である。至適温度は60~75℃、好ましくは65~75℃である。至適pHは5~7であり、好ましくは5.5~7である。澱粉構造が変化することにより、パン生地の付着性低減により作業性及び歩留まりが向上し、焼成したパンの弾力性が向上する。(A)食用油脂に含有させず、(B)ブランチングエンザイムを単体でパン生地に添加した場合、ブランチングエンザイムがすばやく均一にパン生地中に分散することができず、均一な澱粉構造の変化を促すことができない。そのため、付着性低減効果が得られず、本発明の効果である作業性及び歩留まり向上が得られない。また、均一な澱粉構造の変化を促すことができない結果として、凝集性改善効果は得られるが、本発明の課題とする弾力性向上効果は得られない。
【0015】
本発明における弾力性とは、パン類をレオメーターにて一定の荷重で圧縮した際の変形率を指し、弾力性が向上するとは、変形率が小さいことを示す。一方、凝集性とは、パン類をレオメーターにて一定の距離圧縮することを2回繰り返し、圧縮応力が示す波形の面積比(2回目の圧縮面積/1回目の圧縮面積)を指し、凝集性が改善するとは、一定の距離圧縮した際の復元性が高いことを示す。
本発明において、ブランチングエンザイムを食用油脂に含有させず単体でパン生地に加えた場合、ブランチングエンザイムによる澱粉構造の変化が不均一であるため、凝集性は改善されるが、パン類の弾力性を向上させる効果はなく、ブランチングエンザイムを食用油脂に含有させることでパン類の弾力性を飛躍的に向上させることを見出した。また、この際、弾力性向上とともに凝集性の改善効果は消失する。
【0016】
また、(B)ブランチングエンザイムがパンを均一な澱粉構造に変化させることで、食した際に唾液に含まれるアミラーゼにより、パン中の澱粉が糖へと分解され易くなる。また、(A)食用油脂を使用することで、パンの内相が細かくなり、食した際に唾液がパン内部にまで浸透しやすくなる。その結果、(A)食用油脂と(B)ブランチングエンザイムを組み合わせることで、パンを食した際に小麦粉本来の甘みを強く感じることができることを見出した。(A)食用油脂および(B)ブランチングエンザイムを単体でパン生地に添加しても小麦本来の美味しさを向上させる効果は得られない。
【0017】
さらに、ブランチングエンザイムの使用は、パン生地の製造時において、生地のべたつきを抑制し、作業性と歩留まり(容器への生地の付着を抑制することによる)を向上するという効果がある。でんぷんを分解する作用がある、α-アミラーゼ等の酵素の使用は、その使用量によってはパン生地の製造時における作業性や歩留まりを低下するおそれがあるが、ブランチングエンザイムの使用は、他酵素の使用の利点を活かしつつ、作業性や歩留まりを向上するという効果がある。
【0018】
(B)ブランチングエンザイムの含有量は、(A)食用油脂100質量部に対して活性量25000u/g基準で好ましくは0.01~3質量部であり
、より好ましくは0.03~0.5質量部である。
また、ブランチングエンザイムが食用油脂に配合されパン生地に投入された後、パン生地へなじみやすく、効果を発揮し易いという点から液状ブランチングエンザイムがより好ましい。
ブランチングエンザイムは、市販されており、例えばナガセケムテックスの「デナチームBBR LIGHT」や、ノボザイムジャパンの「SenseaForm」等が例示できる。
【0019】
ブランチングエンザイムの酵素活性は以下のように定義される。0.08Mリン酸バッファー(pH7.0)に溶解させた0.1%アミロースB(ナカライテスク株式会社製)50μlに、0.1Mリン酸バッファー(pH7.0)に溶解させた酵素溶液50μlを加え、50℃、30分間反応後にヨウ素試薬(0.26gI2と2.6gKIを10mlミリQ水にて溶解した液0.5mlと1N HCl 0.5mlを混ぜ、130mlに希釈した液)2mlを添加し、660nm吸光度の変化を測定する。本反応系で反応1分間に660nm吸光度を1%低下させる酵素量を1u(ユニット)と定義する。
【0020】
((C)α-アミラーゼ)
本発明において使用される(C)α-アミラーゼは、至適温度が45~80℃であることが好ましい。α-アミラーゼとは、α-1,4-グルコシド結合を加水分解することによってデキストリンを生成する酵素であり、Bacillus等の細菌由来、Malt等の穀物由来、及びAspergillus等のカビ由来のいずれも用いることができる。α-アミラーゼは、パン生地に含まれる澱粉のα-1,4-グルコシド結合を加水分解し、焼成中のパン生地の粘度が適度に低下する。これにより、グルテンの伸びが適度に向上し、パンの内相を細かなものにする。これにより、パンを食した際に小麦本来の甘みをより感じやすくすることができる。(C)α-アミラーゼを(A)食用油脂に含有させず単体でパン生地に添加してもパンの内相を細かくする効果は得られず、その結果、パンを食した際に小麦本来の甘みをより感じやすくする効果は得られない。
【0021】
(C)α-アミラーゼの含有量は(A)食用油脂100質量部に対して好ましくは活性量1500u/g基準で0.05~2質量部であり、より好ましくは0.1~0.6質量部である。
α-アミラーゼは、市販されており、例えばノボザイムジャパン(株)の「Fungamyl」、「Novamyl」、「Novamyl-3D」、「Opticake Fresh50B」等が例示できる。
【0022】
α-アミラーゼの酵素活性は以下のように定義される。
(1)サンプル吸光度の測定:5mLの緩衝液(Britton-Robinson Buffer、pH8.5、50mM(阿南功一ら著,「基礎生化学実験法6」,P277,丸善(株))にネオ.アミラーゼテスト「第一」〔第一化学薬品(株)より入手、製品番号701501-005〕を1錠添加し、約10秒間攪拌した後、2mM塩化カルシウム水溶液で希釈した1mLの酵素溶液を添加して、50℃にて15分間反応させる。1mLの0.5N水酸化ナトリウム水溶液を添加、攪拌することで反応を停止させた後、遠心分離(400×g、5分間)にて不溶成分を沈殿させ、得られた遠心上澄の620nmにおける吸光度を測定する。
(2)ブランク吸光度の測定:5mLの緩衝液(Britton-Robinson Buffer、pH 8.5、50mM(阿南功一ら著,「基礎生化学実験法6」,P277,丸善(株))にネオ.アミラーゼテスト「第一」を1錠添加し、約10秒間攪拌する。これに1mLの0.5N水酸化ナトリウム水溶液を添加、攪拌した後、1mLの酵素溶液を添加し、50℃にて15分間インキュベートした後、遠心分離(400×g、5分間)を行なう。得られた遠心上澄の620nmにおける吸光度を測定する。
(3)酵素活性の算出:ネオ.アミラーゼテスト「第一」同封の国際単位の検量線を基準とし、これに(1)と(2)の吸光度の差をあてはめることでアミラーゼの活性を算出する。
【0023】
本発明の製パン用油脂組成物において、(B)ブランチングエンザイムの活性量に対する(C)α-アミラーゼの活性量の比(C/B)は、特に制限されないが、例えば0.005~5である。
【0024】
上述したとおり、α-アミラーゼは、グルテンの伸びを適度に向上し、パンの内相を細かくすることにより、小麦本来の甘みをより感じやすくすることができるという効果を奏する。
一方で、α-アミラーゼの添加量を過大に増加すると、でんぷんの分解が促進されるため、弾力性を向上するというブランチングエンザイムの効果が低下する傾向にある。そのため、ブランチングエンザイムの活性量に対するα-アミラーゼの活性量の比を調整することにより、本発明の効果をより一層発揮することができる。
α-アミラーゼの効果を得つつ、パンの弾力性を向上するという観点において、C/Bの下限値としては、好ましくは0.03以上であり、より好ましくは0.08以上であり、上限値としては、好ましくは3以下であり、より好ましくは1.5以下であり、特に好ましくは0.5以下である。
【0025】
また、でんぷんの分解が促進されると、生地のべたつきが生じるため、作業性を改善し、歩留まりを向上するというブランチングエンザイムの効果を低下するおそれがある。
α-アミラーゼの効果を得つつ、高い歩留まりを得られるという観点において、C/Bの下限値としては、好ましくは0.02以上であり、より好ましくは0.1以上である。上限値としては、好ましくは2以下であり、より好ましくは1以下であり、特に好ましくは0.3以下である。
【0026】
本発明における製パン用油脂組成物には、パン生地の伸展性や風味、パンの外観等を損なわない限りにおいて、パン用油脂組成物に一般的に使用される添加物である加工澱粉、その他酵素、乳化剤、保存料、pH調整剤、色素、香料等を適宜使用してもよい。
【0027】
〔製パン用油脂組成物の製造方法〕
本発明における製パン用油脂組成物の製造方法は、通常のショートニング、マーガリン、水中油型乳化物の製造方法において、ブランチングエンザイムおよびα-アミラーゼを失活しない温度で添加すればよい。例えば以下の製造方法が挙げられる。
まず油脂および油溶成分を融点温度以上の温度で加熱し、均一溶解後、加温した水および水に十分に溶解した水溶成分を添加し、均一に混合撹拌後、50~55℃まで降温する。次に、酵素を添加し、試作機を用いて急冷可塑化し、30℃以下まで冷却することにより、目的の製パン用油脂組成物を得る。上記製造において、高温状態にある均一混合物を冷却する際には均一混合物を入れている容器自身を外部から冷却しても良いが、一般的にショートニング、マーガリン製造に用いられるチラー、ボテーター、コンビネーター等を用いて急冷する方が性能上好ましい。
【0028】
〔製パン用穀粉生地〕
本発明の製パン用穀粉生地は、穀粉に本発明の製パン用油脂組成物を含有することを特徴とするものである。穀粉としては、小麦粉、米粉、大麦粉、ライ麦粉等が挙げられる。
本発明の製パン用穀粉生地において、パン類調製時に添加する本発明の製パン用油脂組成物の量は、パン類に使用する穀粉100質量部に対して、2~20質量部、好ましくは2~10質量部である。
【0029】
本発明の製パン用穀粉生地は、生地を加熱することができる限り、ストレート法、中種法、ノータイム法等いずれの製パン法にも使用することができる。また生地を作製後、冷凍および冷蔵工程を経る場合、焼成後冷凍を経る場合などいずれの工程にも使用できる。
【0030】
本発明の製パン用穀粉生地を焼成して得られるパンには、フィリングなどの詰め物をしたパンも含まれ、食パン、食事パン、特殊パン、調理パン、菓子パンなどが挙げられる。具体的には食事パンとして、フランスパン、バラエティブレッド、ロール(テーブルロール、バンズ、バターロール)が挙げられる。特殊パンとしてはマフィンなど、調理パンとしてはサンドイッチ、ホットドック、ハンバーガーなど、菓子パンとしてはジャムパン、あんパン、クリームパン、レーズンパン、メロンパンなどが挙げられる。
【0031】
本発明の製パン用穀粉生地に用いる原料としては、主原料の穀粉の他にイースト、イーストフード、乳化剤、油脂類(ショートニング、ラード、マーガリン、バター、液状油等)、水、加工澱粉、乳製品、食塩、糖類、調味料(グルタミン酸ソーダ類や核酸類)、保存料、ビタミン、カルシウム等の強化剤、蛋白質、アミノ酸、化学膨張剤、フレーバー等が挙げられる。さらにレーズン等の乾燥果実、小麦粉ふすま、全粒粉等を使用できる。
【0032】
〔製パン用穀粉生地の製造方法〕
次に本発明の製パン用穀粉生地の製造方法について説明する。本発明の製パン用穀粉生地の製造方法は、穀粉に本発明の製パン用油脂組成物を添加することを特徴とするものである。
【0033】
より詳細には、本発明の製パン用穀粉生地の製造方法は、以下の工程(i)、工程(ii)を備えることを特徴とする。
工程(i):(A)食用油脂中に、(B)ブランチングエンザイムを含有する製パン用油脂組成物を準備する工程。
工程(ii):穀粉に前記製パン用油脂組成物を混練する工程。
【0034】
本発明の製パン用穀粉生地の製造方法によれば、ブランチングエンザイムを食用油脂中に含有させた製パン用油脂組成物として準備した後に、穀粉へ混練するため、ブランチングエンザイムがすばやく均一にパン生地中に分散し、均一な澱粉構造の変化が生じる。この均一な澱粉構造の変化により、パン生地の付着性低減により作業性及び歩留まりが向上し、焼成したパンの弾力性が向上する。一方、ブランチングエンザイムと食用油脂をそれぞれ単体で穀粉へ混練した場合には、本発明の効果を得ることができない。
【0035】
工程(i)において、さらに、(A)食用油脂中に、(C)α-アミラーゼを含有することが好ましい。これにより、製パン用穀粉生地中のグルテンの伸びが適度に向上し、パンの内相を細かなものにすることができる。また、パンを食した際に小麦本来の甘みをより感じやすくすることができる。(C)α-アミラーゼを(A)食用油脂に含有させず単体でパン生地に添加してもパンの内相を細かくする効果は得られず、その結果、パンを食した際に小麦本来の甘みをより感じやすくする効果は得られない。
【0036】
工程(ii)において、製パン用油脂組成物と穀粉との混練は、ストレート法、中種法、ノータイム法等いずれの製パン法においても、例えば、ミキサーボウルなとの練り上げ装置で混練することができる。練り上げの方法は、装置によって異なるが、適度な撹拌条件、酵素反応に十分な温度と時間で設定することができる。例えば、中種法では、中種作製時に低速2分、中速2分で混練し、中種発酵後、発酵したパン生地を砂糖などの副原料と共に低速2分、中速4分混練後、製パン用油脂組成物を加え、さらに低速3分、中速4分で混練するなどの条件を挙げることができる。製造された製パン用穀粉生地は、例えば、デバイダー等で分割し、モルダー等を通して成形する。その後、型となる容器もしくは鉄板に並びに入れ、発酵や焼成がなされる。本発明の製造方法によれば、製パン用穀粉生地にべたつきを抑えるため、作業性を改善し、また、歩留まりを向上することができる。
【実施例】
【0037】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を制限するものではない。
(実施例1)
表1の配合組成で以下の方法により製パン用油脂組成物を製造した。パーム硬化油(融点42℃)5kg、パーム油30kg、菜種硬化油35kg(融点36℃)、および菜種油30kg、配合し加熱溶解したのち、50~55℃に降温し、ブランチングエンザイム100gを添加後、十分に撹拌を行い、ついでショートニング試作機を用いて急冷練り上げすることで製パン用油脂組成物を得た。なお、酵素の活性u/gは表1~2に示す通りである。
【0038】
表1及び表2に記した製パン用油脂組成物を使用して、以下の製造方法により食パンを製造した。なお、比較例3、4は食用油脂とブランチングエンザイムおよびα-アミラーゼをそれぞれ単独で(混合した油脂組成物としないで)パン生地へ配合した。
得られた食パンについて、生地のべたつき(付着性)、パンの弾力性、美味しさ(甘さ)、歩留まりを評価した。
【0039】
(食パンの製造方法)
〔中種生地調製〕
強力粉700g、イーストフード0.1g、イースト2g、水420をミキサーボウルに投入し、低速2分中速2分捏ね上げ、捏ね上げ温度24℃の中種生地を28℃で4時間発酵させた。
〔本捏生地調製〕
発酵させた中種生地をミキサーボウルに投入し、さらに強力粉300g、上白糖50g、脱脂粉乳20g、食塩17g、水220gを投入し低速3分、中速5分捏ね上げ、ここで製パン用油脂組成物を50g投入し、さらに低速3分、中速4分捏ね上げ、捏ね上げ温度28℃の生地を得た。フロアタイム20分取った後、210gに分割し、次いでベンチタイム15分取った後、モルダーを通してコッペパン形に成型した。U字型にした生地を食パン型に4つ入れ、温度38℃、湿度85%のホイロに30分入れて最終発酵を行った。最終発酵後、上火210℃、下火210℃のオーブンに入れ35分焼成した。焼成後、室温にて120分放冷し袋に入れた。
【0040】
評価項目としては、作業性の評価としてパン生地のべたつき(付着性)、歩留まり、焼成後のパンの弾力性、美味しさ(甘さ)の4つを評価項目として設けた。それぞれの評価項目について、評価方法を下記に記す。
【0041】
〔作業性の評価方法〕
パン製造時、焼成前のパン生地がべたつくと、ミキシング機へのパン生地の付着が多くなり次工程へと進む際の作業量が多くなる、もしくはミキシング、デバイダー、モルダーなどの機器へのパン生地の付着量が多くなり、洗浄作業に対する作業量が多くなることから作業性が低下する。したがって、パン生地のべたつきを作業性の評価とした。
(株)山電製「RHEONERII」を用いてフロアタイム終了後のパン生地を30gに分割し、15分間ベンチタイムを経たパン生地を各10個測定した。
パン生地を測定台に置き、直径3cmの円盤型プランジャーにて5mm/secで2cm圧縮し、プランジャーが上昇する際にパン生地に引っ張られる最大応力値(N)を測定し付着性の評価を行った。比較例1を使用した場合の応力値を100として、最大応力値(相対値)が110以上を「1」、110未満100以上を「2」、100未満95以上を「3」、95未満90以上を「4」、90未満を「5」として評価した。10個の平均値を作業性の評点とし、3以上を合格とした。
【0042】
〔歩留まりの評価方法〕
食パン製造時、前後の転圧板の高さを6cm、3cmに設定した(株)オシキリ「ワイドファインモルダーWF」を用いて210gのパン生地をコッペパン型に成型する際、モルダーから出たパン生地の長辺が25cm以上のものは食パン型に収まらないため、または生地表面が傷ついているものは生地表面の傷つきによるボリューム不良となるためそれらを成型不良とした。成型良好であった生地の割合を歩留まりとした。
歩留まり(%)=(1-成型不良個数/成型良好個数)×100
歩留まり95%以上を合格とした。
【0043】
〔弾力性の評価方法〕
(株)山電製「RHEONERII」を用いてパンを各10個測定した。焼成後1日目の食パンを4cmの厚さにスライスし、さらに中心部を5cm×5cmにカットした。カットしたパンを高さが4cmとなるように測定台に置き、直径3cmの円盤型プランジャーにて1mm/secで0.8(N)の荷重で2分間圧縮変形させた。2分後の変形(mm)を測定し弾力性の評価を行った。比較例1を使用した場合の変形(mm)を100として、110以上を「1」、110未満100以上を「2」、100未満95以上を「3」、95未満90以上を「4」、90未満を「5」として評価した。10個の平均値を弾力性の評点とし、3以上を合格とした。
【0044】
〔美味しさの評価方法〕
焼成後1日目の食パンクラム(中心部)を食した際の美味しさを10人のパネラーにて評価した。比較例1を使用した食パンクラムの美味しさ(甘み)を基準とし、美味しさ(甘み)を非常に強く感じる(5)、美味しさ(甘み)を強く感じる(4)、美味しさ(甘み)をやや強く感じる(3)、比較例1と同等(2)、美味しさ(甘み)が弱い(1)として評価した。10人のパネラーの平均値を美味しさの評点とし、3以上を合格とした。
【0045】
【0046】
【0047】
〔使用酵素〕
1)(商品名)「SenseaForm」(ブランチングエンザイム) ノボザイムジャパン(株)製、活性量25000u/g
2)(商品名)「デナチームBBR LIGHT」(ブランチングエンザイム) ナガセケムテックス(株)製、活性量50000u/g
3)(商品名)「Novamyl-3D」(マルトース生成α-アミラーゼ) ノボザイムジャパン(株)製、活性量1500u/g
4)(商品名)「Fungamyl」(α-アミラーゼ) ノボザイムジャパン(株)製、活性量15000u/g
〔使用乳化剤〕
3)(商品名)「エマルジーMS」(モノグリセリンモノ脂肪酸エステル)理研ビタミン(株)
4)(商品名)「リケマールPB100」(プロピレングリコールモノベヘン酸エステル)理研ビタミン(株)
【0048】
表1、2の結果より、(A)食用油脂と(B)ブランチングエンザイム含有した油脂組成物では、パン製造時の作業性、歩留まりが良好で、焼成後のパンの弾力性、美味しさが良好であることがわかる(実施例1~3)。また、(A)食用油脂に(B)ブランチングエンザイムおよび(C)α-アミラーゼを含有させることで、美味しさの効果が向上することが分かる(実施例4~9)。
油脂組成物中に(B)ブランチングエンザイムを含有しない場合、生地のべたつきの改善、弾力性、美味しさおよび歩留まりの向上効果は得られず(比較例1、2、5、6)、また、(B)ブランチングエンザイムおよび(C)α-アミラーゼを油脂組成物とせずに単独でパン生地へ添加した場合においても生地のべたつきの改善、弾力性、美味しさおよび歩留まりの向上効果は得られない(比較例3、4)ことが分かる。