(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 15/06 20060101AFI20231108BHJP
B60C 3/04 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
B60C15/06 B
B60C15/06 C
B60C3/04 Z
(21)【出願番号】P 2019176012
(22)【出願日】2019-09-26
【審査請求日】2022-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】西島 茂樹
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-068671(JP,A)
【文献】特開2016-130078(JP,A)
【文献】特開2016-052840(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気入りタイヤであって、
一対のビード部のそれぞれに埋設されたビードコア間を延びるカーカスを含み、
タイヤ断面幅をWt(単位:mm)、タイヤ外径をDt(単位:mm)としたとき、次式(1)及び(2)を充足し、
Dt≦ 59.078×Wt
0.498 …(1)
Dt≧ 59.078×Wt
0.460
…(2)
前記カーカスは、前記各ビードコア間に架け渡される本体部と、前記ビードコアの回りをタイヤ軸方向の内側から外側に折り返されてタイヤ半径方向外側に延びる折返し部とを含むカーカスプライであり、
前記ビード部には、前記本体部と前記折返し部との間に配される第1エーペックスゴムと、前記折返し部のタイヤ軸方向外側に配される第2エーペックスゴムとが設けられ、
前記第2エーペックスゴムの複素弾性率E*bは、前記第1エーペックスゴムの複素弾性率E*aよりも大き
く、
前記第2エーペックスゴムの複素弾性率E*bと前記第1エーペックスゴムの複素弾性率E*aとの差(E*b-E*a)は、15~35MPaである、
空気入りタイヤ。
【請求項2】
空気入りタイヤであって、
一対のビード部のそれぞれに埋設されたビードコア間を延びるカーカスを含み、
タイヤ断面幅をWt(単位:mm)、タイヤ外径をDt(単位:mm)としたとき、次式(1)及び(2)を充足し、
Dt≦ 59.078×Wt
0.498
…(1)
Dt≧ 59.078×Wt
0.460
…(2)
前記カーカスは、前記各ビードコア間に架け渡される本体部と、前記ビードコアの回りをタイヤ軸方向の内側から外側に折り返されてタイヤ半径方向外側に延びる折返し部とを含むカーカスプライであり、
前記ビード部には、前記本体部と前記折返し部との間に配される第1エーペックスゴムと、前記折返し部のタイヤ軸方向外側に配される第2エーペックスゴムとが設けられ、
前記第2エーペックスゴムの複素弾性率E*bは、前記第1エーペックスゴムの複素弾性率E*aよりも大きく、
前記第2エーペックスゴムの複素弾性率E*bは、60~70MPaである、
空気入りタイヤ。
【請求項3】
空気入りタイヤであって、
一対のビード部のそれぞれに埋設されたビードコア間を延びるカーカスを含み、
タイヤ断面幅をWt(単位:mm)、タイヤ外径をDt(単位:mm)としたとき、次式(1)及び(2)を充足し、
Dt≦ 59.078×Wt
0.498
…(1)
Dt≧ 59.078×Wt
0.460
…(2)
前記カーカスは、前記各ビードコア間に架け渡される本体部と、前記ビードコアの回りをタイヤ軸方向の内側から外側に折り返されてタイヤ半径方向外側に延びる折返し部とを含むカーカスプライであり、
前記ビード部には、前記本体部と前記折返し部との間に配される第1エーペックスゴムと、前記折返し部のタイヤ軸方向外側に配される第2エーペックスゴムとが設けられ、
前記第2エーペックスゴムの複素弾性率E*bは、前記第1エーペックスゴムの複素弾性率E*aよりも大きく、
前記ビード部には、前記第2エーペックスゴムのタイヤ軸方向の外側にクリンチゴムが設けられ、
前記第2エーペックスゴムのタイヤ半径方向の外端は、前記クリンチゴムのタイヤ半径方向の外端よりもタイヤ半径方向の外側に位置する、
空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記第2エーペックスゴムのタイヤ半径方向の外端は、タイヤ最大幅位置よりもタイヤ半径方向の内側に位置する、請求項1ないし3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記第2エーペックスゴムのタイヤ半径方向の内端は、前記ビードコアの外面からタイヤ半径方向の内外へ3mm以内に位置する、請求項1ないし4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記第2エーペックスゴムのタイヤ半径方向の最大高さは、前記第1エーペックスゴムのタイヤ半径方向の最大高さよりも大きい、請求項1ないし
5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記第2エーペックスゴムのタイヤ半径方向の最大高さは、前記第1エーペックスゴムのタイヤ半径方向の最大高さの2.5~4.0倍である、請求項6に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、空気入りタイヤには、燃費性能の向上が望まれている。下記特許文献1には、転がり抵抗値や空気抵抗を低減することを目的として、タイヤ外径を大きく、かつ、幅狭化した、いわゆる幅狭大口径の空気入りタイヤが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に幅狭大口径の空気入りタイヤでは、高い内圧が充填される傾向にあることから、縦バネが増加する。この結果、上記の空気入りタイヤについては、乗り心地性能やノイズ性能(ロードノイズ)について改善の余地があった。
【0005】
上述の縦バネの増加を抑制するために、例えば、ビード部に配されたビードエーペックスを、単に小さくする手法が考えられる。しかしながら、このような手法では、ビード部の面内ねじり剛性が小さくなり、操縦安定性能が悪化するという問題があった。
【0006】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、乗り心地性能、ノイズ性能及び操縦安定性能をバランス良く向上することができる幅狭大口径の空気入りタイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、空気入りタイヤであって、一対のビード部のそれぞれに埋設されたビードコア間を延びるカーカスを含み、タイヤ断面幅をWt(単位:mm)、タイヤ外径をDt(単位:mm)としたとき、次式(1)及び(2)を充足し、前記カーカスは、前記各ビードコア間に架け渡される本体部と、前記ビードコアの回りをタイヤ軸方向の内側から外側に折り返されてタイヤ半径方向外側に延びる折返し部とを含むカーカスプライであり、前記ビード部には、前記本体部と前記折返し部との間に配される第1エーペックスゴムと、前記折返し部のタイヤ軸方向外側に配される第2エーペックスゴムとが設けられ、前記第2エーペックスゴムの複素弾性率E*bは、前記第1エーペックスゴムの複素弾性率E*aよりも大きい。
Dt≦ 59.078×Wt0.498 …(1)
Dt≧ 59.078×Wt0.460 …(2)
【0008】
本発明に係る空気入りタイヤは、前記第2エーペックスゴムの複素弾性率E*bと前記第1エーペックスゴムの複素弾性率E*aとの差(E*b-E*a)が、15~35MPaである、のが望ましい。
【0009】
本発明に係る空気入りタイヤは、前記第2エーペックスゴムの複素弾性率E*bが、60~70MPaである、のが望ましい。
【0010】
本発明に係る空気入りタイヤは、前記第2エーペックスゴムのタイヤ半径方向の外端が、タイヤ最大幅位置よりもタイヤ半径方向の内側に位置する、のが望ましい。
【0011】
本発明に係る空気入りタイヤは、前記ビード部には、前記第2エーペックスゴムのタイヤ軸方向の外側にクリンチゴムが設けられ、前記第2エーペックスゴムのタイヤ半径方向の外端は、前記クリンチゴムのタイヤ半径方向の外端よりもタイヤ半径方向の外側に位置する、のが望ましい。
【0012】
本発明に係る空気入りタイヤは、前記第2エーペックスゴムの最大厚さが、前記第1エーペックスゴムのタイヤ半径方向の外端からタイヤ半径方向の内外に、前記第1エーペックスゴムのタイヤ半径方向の最大高さの10%以内に位置する、のが望ましい。
【0013】
本発明に係る空気入りタイヤは、前記第2エーペックスゴムのタイヤ半径方向の内端が、前記ビードコアの外面からタイヤ半径方向の内外へ3mm以内に位置する、のが望ましい。
【0014】
本発明に係る空気入りタイヤは、前記第2エーペックスゴムのタイヤ半径方向の最大高さが、前記第1エーペックスゴムのタイヤ半径方向の最大高さよりも大きい、のが望ましい。
【0015】
本発明に係る空気入りタイヤは、前記第2エーペックスゴムのタイヤ半径方向の最大高さが、前記第1エーペックスゴムのタイヤ半径方向の最大高さの2.5~4.0倍である、のが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、タイヤ断面幅をWt(単位:mm)、タイヤ外径をDt(単位:mm)としたとき、次式(1)及び(2)を充足する、幅狭大口径の空気入りタイヤを前提としている。
Dt≦ 59.078×Wt0.498 …(1)
Dt≧ 59.078×Wt0.460 …(2)
【0017】
本発明の空気入りタイヤは、ビード部に、カーカスプライの本体部と折返し部との間に配される第1エーペックスゴムと、前記折返し部のタイヤ軸方向外側に配される第2エーペックスゴムとが設けられている。そして、前記第2エーペックスゴムの複素弾性率E*bは、前記第1エーペックスゴムの複素弾性率E*aよりも大きくされている。前記第2エーペックスゴムは、前記ビード部の面内ねじり剛性を高めることに寄与し、操縦安定性能を向上する。また、前記第1エーペックスゴムは、前記ビード部の縦バネの増加を抑制することに寄与するので、乗り心地性能やノイズ性能を向上する。
【0018】
したがって、本発明は、幅狭大口径の空気入りタイヤにおいて、乗り心地性能及びノイズ性能と、操縦安定性能とをバランス良く向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の空気入りタイヤ及び正規リムの断面図である。
【
図2】JATMA表示の従来タイヤにおける、タイヤ断面幅とタイヤ外径との関係をプロットしたグラフである。
【
図3】空気入りタイヤの大径化による効果を説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1は、本実施形態の空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」ということがある。)1のタイヤ回転軸(図示省略)を含むタイヤ子午線断面図である。
図1には、例えば、乗用車用のタイヤ1が示されている。但し、本発明は、重荷重用等のタイヤ1に適用されても良い。
【0021】
本明細書では、特に断りがない限り、タイヤ1の各部の寸法は、非リム組状態において、タイヤサイズで規定されるリム幅に合わせてビード部を保持したときに特定される値とする。
【0022】
タイヤ1は、本実施形態では、タイヤ断面幅をWt(単位:mm)、タイヤ外径をDt(単位:mm)としたとき、次式(1)及び(2)を充足している。このように、本発明では、幅狭大口径の空気入りタイヤ1が前提とされている。なお、タイヤ断面幅Wtは、本明細書では、タイヤ最大幅位置Mでのタイヤ軸方向距離である。タイヤ外径Dtは、本明細書では、タイヤ赤道C上で測定されるタイヤ1の外径である。タイヤ最大幅位置Mは、本明細書では、タイヤ1の外表面1aに設けられた文字やリムプロテクタ等の突起物を除いて特定される仮想外面において、最もタイヤ軸方向外側に突出する位置である。
Dt≦ 59.078×Wt0.498 …(1)
Dt≧ 59.078×Wt0.460 …(2)
【0023】
図2は、JATMA表示の従来タイヤに対して実施された、タイヤ断面幅Wtとタイヤ外径Dtとの関係の調査結果をプロットしたグラフである。この調査結果から、JATMA表示の従来タイヤにおけるタイヤ断面幅Wtとタイヤ外径Dtとの平均的な関係は、同図に一点鎖線Kaで示されるように、次式(A)で示すことができる。
Dt= 59.078×Wt
0.448 …(A)
【0024】
これに対して、式(1)及び(2)を充足する領域Y1は、式(A)で示す平均的な関係Kaを、タイヤ外径Dtが大な方向に平行移動した位置に配される。このように、式(1)及び(2)を充足するタイヤ1は、幅狭・タイヤ外径Dtが大な、幅狭大口径となる。このようなタイヤ1は、転がり抵抗値や空気抵抗が低減するので、優れた燃費性能を有している。
【0025】
タイヤ外径Dtが相対的に大なタイヤ1Aは、
図3に概念的に示すように、タイヤ外径Dtが小なタイヤ1Bに比して接地部での周方向の曲げ変形が少ない。そのため、エネルギー損失量が小さく、転がり抵抗の低減に効果がある。よって式(2)から外れる場合、タイヤ大径化による転がり抵抗の低減が見込めなくなる。逆に式(1)から外れる場合、必要な負荷能力を確保するために使用内圧を高く設定する必要が生じ、そのため、乗り心地性能やノイズ性能に悪影響を与える。
【0026】
図1に示されるように、タイヤ1は、例えば、カーカス6とベルト層7とを含んでいる。カーカス6は、例えば、一対のビード部4に埋設されたビードコア5間を延びている。ベルト層7は、例えば、カーカス6のタイヤ半径方向の外側かつトレッド部2の内部に配されている。
【0027】
本実施形態のビードコア5は、タイヤ半径方向の外側に配される外面5a(
図2に示す)と、外面5aのタイヤ軸方向の内側に連なってタイヤ半径方向の内側に延びる内側面5bとを含む矩形状に形成されている。なお、ビードコア5は、このような態様に限定されるものではなく、円形状や六角形状等の種々の態様を採用しうる。
【0028】
本実施形態のカーカス6は、カーカスコードをタイヤ赤道Cに対して例えば75~90°の角度で配列した1枚のカーカスプライ6Aから形成される。カーカスプライ6Aは、例えば、各ビードコア5間に架け渡されてトロイド状に延びる本体部6aと、本体部6aに連なりビードコア5の回りをタイヤ軸方向の内側から外側に折り返されてタイヤ半径方向の外側に延びる折返し部6bとを含んでいる。本実施形態の折返し部6bは、ビードコア5よりもタイヤ半径方向の外側で本体部6aと接触している。
【0029】
ベルト層7は、例えば、ベルトコードをタイヤ赤道Cに対して例えば10~35°の角度で配列した2枚のベルトプライ7A、7Bから形成される。ベルト層7は、タイヤ赤道Cの両外側に、タイヤ軸方向のベルト端7eを有している。ベルト層7は、例えば、両ベルト端7e、7e間を連続して延びている。
【0030】
図4は、
図1のビード部4の拡大図である。
図4に示されるように、本実施形態のビード部4には、本体部6aと折返し部6bとの間に配される第1エーペックスゴム8Aと、折返し部6bのタイヤ軸方向外側に配される第2エーペックスゴム8Bとが設けられている。第2エーペックスゴム8Bの複素弾性率E*bは、本実施形態では、第1エーペックスゴム8Aの複素弾性率E*aよりも大きくされている。第2エーペックスゴム8Bは、幅狭大口径のタイヤ1のビード部4の面内ねじり剛性を高めることに寄与し、操縦安定性能を向上する。また、第1エーペックスゴム8Aは、幅狭大口径のタイヤ1のビード部4の縦バネの増加を抑制することに寄与するので、乗り心地性能やノイズ性能を向上する。
【0031】
複素弾性率E*は、本明細書では、JIS‐K6394の規定に準拠して、次に示される条件で(株)岩本製作所製の粘弾性スペクトロメータを用いて測定した値である。
初期歪:10%
振幅:±2%
周波数:10Hz
変形モード:引張
温度:70℃
【0032】
第2エーペックスゴム8Bの複素弾性率E*bと第1エーペックスゴム8Aの複素弾性率E*aとの差(E*b-E*a)は、15~35MPaであるのが望ましい。差(E*b-E*a)が15MPa未満の場合、又は、差(E*b-E*a)が35MPaを超える場合、ビード部4の面内ねじり剛性の増加による操縦安定性能、及び、縦バネの増加を抑制することによるノイズ性能や乗り心地性能をバランス良く高めることができなくなる。
【0033】
第2エーペックスゴム8Bの複素弾性率E*bは、60~70MPaであるのが望ましい。第2エーペックスゴム8Bの複素弾性率E*bが60MPa未満の場合、面内ねじり剛性を高めることができなくなるおそれがある。第2エーペックスゴム8Bの複素弾性率E*bが70MPaを超える場合、ビード部4の縦バネが大きくなり、乗り心地性能やノイズ性能が悪化するおそれがある。
【0034】
第1エーペックスゴム8Aは、例えば、ビードコア5の外面5aからタイヤ半径方向外側に延びている。第1エーペックスゴム8Aは、本実施形態では、タイヤ半径方向外側に向かってテーパ状の三角形状に形成されている。このような第1エーペックスゴム8Aは、縦バネの過度の低減を抑制して、操縦安定性能を高める。
【0035】
第2エーペックスゴム8Bは、本実施形態では、本体部6a及び折返し部6bのタイヤ軸方向外側に隣接して配されている。このような第2エーペックスゴム8Bは、本体部6a及び折返し部6bがタイヤ軸方向の内側に大きく倒れ込むのを抑制するので、操縦安定性能をさらに高く維持する。
【0036】
第2エーペックスゴム8Bのタイヤ半径方向の外端11eは、例えば、タイヤ最大幅位置Mよりもタイヤ半径方向の内側に位置している。このような第2エーペックスゴム8Bは、ビード部4の面内ねじり剛性の過度の増加を抑制して、ノイズ性能を高く維持する。
【0037】
第2エーペックスゴム8Bの最大厚さd2は、本実施形態では、第1エーペックスゴム8Aのタイヤ半径方向の外端10eからタイヤ半径方向の内外に、第1エーペックスゴム8Aのタイヤ半径方向の最大高さH1の10%以内に位置している。これにより、縦バネが過度に小さくなる第1エーペックスゴム8Aの外端10e近傍の剛性が補強されて、本体部6a及び折返し部6bの倒れ込みが効果的に抑制される。
【0038】
特に限定されるものではないが、乗り心地性能及びノイズ性能と、操縦安定性能とをバランス良く向上するために、第2エーペックスゴム8Bの最大厚さd2は、2.0~4.0mmであるのが望ましい。
【0039】
第2エーペックスゴム8Bのタイヤ半径方向の内端11iは、ビードコア5の外面5aからタイヤ半径方向の内外へ3mm以内に位置するのが望ましい。第2エーペックスゴム8Bの内端11iが外面5aからタイヤ半径方向の外側へ3mmを超えて位置する場合、面内ねじり剛性の向上効果が小さくなるおそれがある。第2エーペックスゴム8Bの内端11iが外面5aからタイヤ半径方向の内側へ3mmを超えて位置する場合、ビード部4の面内ねじり剛性の向上が見込めなくなるとともに、タイヤ質量が大きくなるおそれがある。
【0040】
第2エーペックスゴム8Bのタイヤ半径方向の最大高さH2は、第1エーペックスゴム8Aのタイヤ半径方向の最大高さH1の2.5倍以上、又は、4.0倍以下であるのが望ましい。第2エーペックスゴム8Bの最大高さH2が第1エーペックスゴム8Aの最大高さH1の2.5倍未満の場合、縦バネの増加抑制効果が過度に大きくなるおそれがある。第2エーペックスゴム8Bの最大高さH2が第1エーペックスゴム8Aの最大高さH1の4.0倍を超える場合、ビード部4の面内ねじり剛性が過度におおきくなるおそれがある。このような観点より、第2エーペックスゴム8Bのタイヤ半径方向の最大高さH2は、第1エーペックスゴム8Aのタイヤ半径方向の最大高さH1の3.0倍以上、又は、3.5倍以下であるのがさらに望ましい。
【0041】
このような第2エーペックスゴム8Bの最大高さH2は、特に限定されるものではないが、例えば、25~40mmであるのが望ましい。
【0042】
本実施形態のビード部4には、第2エーペックスゴム8Bのタイヤ軸方向の外側にクリンチゴム13が設けられている。クリンチゴム13は、例えば、第2エーペックスゴム8Bの複素弾性率E*bよりも小さい複素弾性率E*2で形成されるのが望ましい。このようなクリンチゴム13は、ビード部4の縦バネの増加を抑制しノイズ性能を高める。クリンチゴム13の複素弾性率E*2と第2エーペックスゴム8Bの複素弾性率E*bとの差(E*b-E*2)は、例えば、15~30MPaが望ましい。
【0043】
クリンチゴム13は、例えば、第2エーペックスゴム8Bのタイヤ軸方向の外側に隣接して配され、かつ、タイヤ1の外表面1aを形成している。なお、クリンチゴム13は、このような態様に限定されるものではない。
【0044】
クリンチゴム13のタイヤ半径方向の外端13eは、第2エーペックスゴム8Bのタイヤ半径方向の外端11eよりもタイヤ半径方向の内側に位置している。このようなクリンチゴム13は、ビード部4の縦バネの増加を抑制しつつ面内ねじり剛性をバランス良く高める。特に限定されるものではないが、クリンチゴム13の外端13eと第2エーペックスゴム8Bの外端11eとの間のタイヤ半径方向の距離Laは、第1エーペックスゴム8Aの最大高さH1の20%以上が望ましく、50%以下が望ましい。
【0045】
クリンチゴム13のタイヤ半径方向の内端13iは、本実施形態では、ビードコア5よりもタイヤ半径方向の内側に位置している。なお、クリンチゴム13の内端13iは、このような態様に限定されるものではない。
【0046】
図5は、
図1のビード部4の拡大図である。
図5に示されるように、本実施形態のカーカス6の本体部6aは、タイヤ最大幅位置Mよりもタイヤ半径方向の内側において、タイヤ軸方向に対して50~60度の角度θ1で傾斜している第1傾斜部16を含んでいる。このような第1傾斜部16は、旋回時、タイヤ1に横方向の力が作用したときに効果的に撓むことができ、ビード部4の横バネを高め、操縦安定性能を向上しうる。角度θ1は、本明細書では、本体部6aのカーカスコードの中心線6cで特定される。中心線6cが円弧でのびる場合は、中心線6c上の任意の点の接線で特定される。
【0047】
第1傾斜部16は、本実施形態では、直線状に延びている。このような第1傾斜部16は、横バネが過度に高くなることを抑制し、乗り心地性能を高く維持する。本明細書では、「直線状」とは、カーカスコードの中心線が直線で延びるものの他、その曲率半径が1000mm以上の円弧状のものを含む。
【0048】
第1傾斜部16は、本実施形態では、第1エーペックスゴム8Aのタイヤ軸方向内側に隣接する第1部分16a、及び、第2エーペックスゴム8Bのタイヤ軸方向内側に隣接する第2部分16bを含んでいる。このような第1傾斜部16は、第1エーペックスゴム8A及び第2エーペックスゴム8Bと協同して操縦安定性能を効果的に向上する。
【0049】
第1傾斜部16のタイヤ半径方向の長さL3は、第2エーペックスゴム8Bの最大高さH2よりも小さくされている。また、第1傾斜部16のタイヤ半径方向の長さL3は、第1エーペックスゴム8Aの最大高さH1よりも大きくされている。このような第1傾斜部16は、横バネが過度に大きくなるのを抑制し、乗り心地性能が悪化することを抑制する。
【0050】
上述の作用を効果的に発揮させるために、第1傾斜部16のタイヤ半径方向の外端16eは、第2エーペックスゴム8Bの外端11eのタイヤ半径方向内側に位置するのが望ましい。また、第1傾斜部16のタイヤ半径方向の内端16iは、ビードコア5の外面5aのタイヤ半径方向外側に位置するのが望ましい。さらに、第1傾斜部16の長さL3は、第2エーペックスゴム8Bの最大高さH2の70%~90%が望ましい。
【0051】
図6は、
図1のビード部4の拡大図である。
図6に示されるように、本体部6aは、第1傾斜部16のタイヤ半径方向の外側に連なってタイヤ軸方向の外側に凸となる第1円弧状部17と、第1傾斜部16のタイヤ半径方向の内側に連なってタイヤ軸方向の内側に凸となる第2円弧状部18とを含んでいる。第1円弧状部17及び第2円弧状部18は、カーカスコードの中心線6cで特定される曲率半径が、単一の円弧で形成される部分であり、かつ、25mm以下となる部分である。
【0052】
第1円弧状部17は、本実施形態では、タイヤ最大幅位置Mの近傍に位置している。第1円弧状部17は、例えば、第1傾斜部16とタイヤ最大幅位置Mとの間に位置している。第2円弧状部18は、本実施形態では、ビードコア5の外面5aと内側面5bとが交差するコーナ部5cに隣接して設けられている。第2円弧状部18は、例えば、コーナ部5cのタイヤ半径方向の内外に延びている。そして、第1円弧状部17の曲率半径R1は、本実施形態では、第2円弧状部18の曲率半径R2よりも小さく形成されている。このような第1円弧状部17は、サイドウォール部3の縦バネを低減して、乗り心地性能やノイズ性能を高めるのに役立つ。また、第2円弧状部18は、カーカスプライ6Aのルースを抑制し、操縦安定性能を高く維持するのに役立つ
【0053】
幅狭大口径のタイヤ1において、乗り心地性能及びノイズ性能と、操縦安定性能とをバランス良く向上するために、タイヤ最大幅高さHaがタイヤ断面高さH(
図1に示す)の40%~60%であるのが望ましい。タイヤ最大幅高さHaは、本明細書では、ビードベースラインBLとタイヤ最大幅位置Mとの間のタイヤ半径方向の距離である。タイヤ断面高さHは、本明細書では、タイヤ外径Dtとリム径(図示省略)との差の1/2である。
【0054】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施され得る。
【実施例】
【0055】
図1の基本構造を有するサイズ175/60R18の乗用車用かつ幅狭大口径の空気入りタイヤが、表1の仕様に基づき試作された。そして、各テストタイヤの操縦安定性能、ノイズ性能及び乗り心地性能ついてテストが行われた。各テストタイヤの共通仕様やテスト方法は、以下の通りである。
【0056】
<操縦安定性能・ノイズ性能・乗り心地性能>
各テストタイヤが、上記の条件で、排気量1800ccの乗用車の全輪に装着された。そして、テストドライバーが、上記テスト車両をドライアスファルト路面の周回コースであるテストコースを走行させ、このときの応答性、剛性感、グリップ力、安定性、過渡特性に関する操縦安定性能及び乗り心地性能がテストドライバーの官能により評価された。また、ノイズ性能については、上記走行中の車内で測定される100~350Hz域の音圧レベルによって評価された。操縦安定性能及び乗り心地性能の結果は、比較例1を100とする評点で表され、数値が大きいほど良好である。騒音性能の結果は、比較例1の音圧レベル(dB)を100とする指数で表され、数値が小さいほど良好である。
リム:18×5.0J
内圧:260KPa
速度:40~100Km/h(但し、操縦安定性能は、上限を120Km/hとする。)
テスト結果が表1に示される。
【0057】
【0058】
テストの結果、実施例のテストタイヤは、比較例のテストタイヤに比して操縦安定性能と、騒音性能及び乗り心地性能とがバランス良く向上していることが理解される。
【符号の説明】
【0059】
1 空気入りタイヤ
4 ビード部
5 ビードコア
6 カーカス
6A カーカスプライ
6a 本体部
6b 折返し部
8A 第1エーペックスゴム
8B 第2エーペックスゴム