(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】インクジェット用組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/38 20140101AFI20231108BHJP
C09D 11/32 20140101ALI20231108BHJP
【FI】
C09D11/38
C09D11/32
(21)【出願番号】P 2019180772
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】瀧口 宏志
(72)【発明者】
【氏名】木田 浩明
(72)【発明者】
【氏名】蛭間 敬
(72)【発明者】
【氏名】牛山 智幸
(72)【発明者】
【氏名】寺田 勝
(72)【発明者】
【氏名】浅井 伸太朗
(72)【発明者】
【氏名】中谷 光伸
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-159646(JP,A)
【文献】特開2002-294135(JP,A)
【文献】特開2018-111767(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個の金属粒子と、疎水性リン系表面処理剤と、ポリオキシアルキレンアミン化合物と、溶剤と、を含有し、
前記ポリオキシアルキレンアミン化合物の含有量が、前記金属粒子:100質量部に対して、0.5質量部以上50質量部以下であ
り、
前記疎水性リン系表面処理剤の含有率をXP[質量%]、前記ポリオキシアルキレンアミン化合物の含有率をXA[質量%]としたとき、XA/XPが0.10以上10.0以下であるインクジェット用組成物。
【請求項2】
前記ポリオキシアルキレンアミン化合物が、下記式(1)で示される化合物、その塩、下記式(2)で示される化合物、その塩のうちの少なくとも1種である請求項1に記載のインクジェット用組成物。
【化1】
(式(1)中、Rは水素原子または炭素数が3以下のアルキル基であり、xは10以上の整数である。また、式(1)中、Rの条件が異なる複数種のオキシアルキレンユニットを備えていてもよい。)
【化2】
(式(2)中、R1、R2、R3は、それぞれ、独立に、炭素数が3以下のアルキル基であり、nは10以上の整数である。)
【請求項3】
前記金属粒子は、アルミニウムまたはアルミニウム合金で構成されたものである請求項1または2に記載のインクジェット用組成物。
【請求項4】
前記金属粒子の体積平均粒子径が、0.20μm以上1.00μm以下である請求項1ないし3のいずれか1項に記載のインクジェット用組成物。
【請求項5】
前記金属粒子が鱗片状をなすものである請求項1ないし4のいずれか1項に記載のインクジェット用組成物。
【請求項6】
前記金属粒子の平均厚さが10nm以上90nm以下である請求項5に記載のインクジェット用組成物。
【請求項7】
前記疎水性リン系表面処理剤は、フッ素系リン系化合物である請求項1ないし6のいずれか1項に記載のインクジェット用組成物。
【請求項8】
前記金属粒子の含有率をXM[質量%]、前記疎水性リン系表面処理剤の含有率をXP[質量%]としたとき、XP/XMが0.01以上1以下である請求項1ないし7のいずれか1項に記載のインクジェット用組成物。
【請求項9】
前記ポリオキシアルキレンアミン化合物が、下記式(3)で示される化合物またはその塩である請求項1に記載のインクジェット用組成物。
【化3】
(式(3)中、X1、X2は独立して1以上の整数であり、X1+X2は10以上の整数であり、X1/X2は0.05以上10.00以下である。また、式(3)中、オキシエチレンユニットとオキシプロピレンユニットの順番は問わない。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、光沢感のある外観を呈する装飾品の製造方法として、金属めっきや、金属箔を用いた箔押し印刷、金属箔を用いた熱転写等が用いられてきた。
【0003】
しかし、これらの方法では、微細なパターンを形成することや、曲面部への適用が困難であるといった問題があった。
【0004】
他方、顔料または染料を含む組成物を、インクジェット法により、記録媒体に付与する記録方法が用いられている。このような方法では、微細なパターンの形成や、曲面部への記録にも好適に適用できるという点で優れている。
【0005】
しかしながら、単に、顔料や染料の代わりに、金属粒子を適用しようとした場合、インクジェット法による液滴の吐出安定性に劣り、吐出不良を生じ易く、金属が本来有している光沢感等の特性を十分に発揮させることができないという問題点があった。
【0006】
上記のような問題を解決する目的で、フッ素系化合物で表面処理された金属粒子を用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これにより、金属粒子の分散性が向上し、インク組成物の吐出安定性が向上するものの、インク組成物を長期間保存した場合や過酷条件下で保存した場合におけるインク組成物の吐出安定性やインク組成物を用いて製造される記録物の光沢感が大きく低下するという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の適用例として実現することができる。
【0010】
本発明の適用例に係るインクジェット用組成物は、複数個の金属粒子と、疎水性リン系表面処理剤と、ポリオキシアルキレンアミン化合物と、溶剤と、を含有し、
前記ポリオキシアルキレンアミン化合物の含有量が、前記金属粒子:100質量部に対して、0.5質量部以上50質量部以下であり、
前記疎水性リン系表面処理剤の含有率をXP[質量%]、前記ポリオキシアルキレンアミン化合物の含有率をXA[質量%]としたとき、XA/XPが0.10以上10.0以下である。
【0011】
また、本発明の他の適用例に係るインクジェット用組成物では、前記ポリオキシアルキレンアミン化合物が、下記式(1)で示される化合物、およびその塩、下記式(2)で示される化合物、その塩のうちの少なくとも1種である。
【化1】
(式(1)中、Rは水素原子または炭素数が3以下のアルキル基であり、xは10以上の整数である。また、式(1)中、Rの条件が異なる複数種のオキシアルキレンユニットを備えていてもよい。)
【化2】
(式(2)中、R1、R2、R3は、それぞれ、独立に、炭素数が3以下のアルキル基であり、nは10以上の整数である。)
【0012】
また、本発明の他の適用例に係るインクジェット用組成物では、前記金属粒子は、アルミニウムまたはアルミニウム合金で構成されたものである。
【0013】
また、本発明の他の適用例に係るインクジェット用組成物では、前記金属粒子の体積平均粒子径が、0.20μm以上1.00μm以下である。
【0014】
また、本発明の他の適用例に係るインクジェット用組成物では、前記金属粒子が鱗片状をなすものである。
【0015】
また、本発明の他の適用例に係るインクジェット用組成物では、前記金属粒子の平均厚さが10nm以上90nm以下である。
【0016】
また、本発明の他の適用例に係るインクジェット用組成物では、前記疎水性リン系表面処理剤は、フッ素系リン系化合物である。
また、本発明の他の適用例に係るインクジェット用組成物では、前記金属粒子の含有率をXM[質量%]、前記疎水性リン系表面処理剤の含有率をXP[質量%]としたとき、XP/XMが0.01以上1以下である。
また、本発明の他の適用例に係るインクジェット用組成物では、前記ポリオキシアルキレンアミン化合物が、下記式(3)で示される化合物またはその塩である。
【化3】
(式(3)中、X1、X2は独立して1以上の整数であり、X1+X2は10以上の整数であり、X1/X2は0.05以上10.00以下である。また、式(3)中、オキシエチレンユニットとオキシプロピレンユニットの順番は問わない。)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
[1]インクジェット用組成物
まず、本発明のインクジェット用組成物について説明する。
【0018】
ところで、従来から、光沢感のある外観を呈する装飾品の製造方法として、金属めっきや、金属箔を用いた箔押し印刷、金属箔を用いた熱転写等が用いられてきた。
【0019】
しかし、これらの方法では、微細なパターンを形成することや、曲面部への適用が困難であるといった問題があった。
【0020】
他方、顔料または染料を含む組成物を、インクジェット法により、記録媒体に付与する記録方法が用いられている。このような方法では、微細なパターンの形成や、曲面部への記録にも好適に適用できるという点で優れている。
【0021】
しかしながら、単に、顔料や染料の代わりに、金属粒子を適用しようとした場合、インクジェット法による液滴の吐出安定性に劣り、吐出不良を生じ易く、金属が本来有している光沢感等の特性を十分に発揮させることができないという問題点があった。
【0022】
上記のような問題を解決する目的で、フッ素系化合物で表面処理された金属粒子を用いることが提案されている。これにより、インク組成物の吐出安定性が向上するものの、インク組成物を長期間保存した場合や過酷条件下で保存した場合におけるインク組成物の吐出安定性やインク組成物を用いて製造される記録物の光沢感が大きく低下するという問題があった。
【0023】
そこで、発明者は、上記のような問題を解決する目的で鋭意研究を行った結果、本発明に至った。すなわち、本発明のインクジェット用組成物は、複数個の金属粒子と、疎水性リン系表面処理剤と、ポリオキシアルキレンアミン化合物と、溶剤と、を含有し、前記ポリオキシアルキレンアミン化合物の含有量が、前記金属粒子:100質量部に対して、0.5質量部以上50質量部以下である。
【0024】
これにより、インクジェット法を適用することによる利益を享受しつつ、インクジェット用組成物の製造後比較的短期間での、液滴の吐出安定性や、インクジェット用組成物中での金属粒子の分散安定性、当該インクジェット用組成物を用いて製造される記録物における光沢感等を優れたものとすることができる。それとともに、インクジェット用組成物を、長期間保存した場合や過酷条件下で保存した場合であっても、液滴の吐出安定性や、インクジェット用組成物中での金属粒子の分散安定性、当該インクジェット用組成物を用いて製造される記録物における光沢感等を十分に優れたものとすることができる。
【0025】
このような優れた効果が得られるのは、以下のような理由によると考えられる。
すなわち、疎水性リン系表面処理剤およびポリオキシアルキレンアミン化合物は、いずれも、金属粒子の分散安定性向上に寄与する成分であり、これらを含むことにより、インクジェット用組成物中における金属粒子の分散安定性を優れたものとすることができる。特に、疎水性リン系表面処理剤およびポリオキシアルキレンアミン化合物を含むことにより、これらの成分が相乗的に作用しあい、インクジェット用組成物中における金属粒子の分散安定性を優れたものとすることができるものと考えられる。より具体的には、疎水性リン系表面処理剤およびポリオキシアルキレンアミン化合物の両成分を含むことより、金属粒子の表面へのこれらの成分の付着が促進されるとともに、いったん、金属表面に付着したこれらの成分の離脱や交換反応が効果的に防止される。その結果、インクジェット用組成物を長期間保存した場合や過酷条件下で保存した場合であっても、金属粒子を好適に分散させることができ、インクジェット用組成物のインクジェット法による吐出安定性、製造される記録物の光沢感を優れたものとすることができると考えられる。また、疎水性リン系表面処理剤だけで処理された金属粒子では、金属粒子同士が凝集して分散安定性が劣るため、印刷特性の低下や記録物の光沢が低下しやすいのに対して、ポリオキシアルキレンアミン化合物を用いることで、金属粒子同士が凝集することを防ぐことができ、印刷特性と光沢値が高い状態を保持できる、と考えられる。
【0026】
これに対して、上記の条件を満足しない場合には、満足のいく結果が得られない。
例えば、インクジェット用組成物が、ポリオキシアルキレンアミン化合物を含んでいないと、疎水性リン系表面処理剤を含んでいたとしても、以下のような問題を生じる。すなわち、短期的には、インクジェット用組成物中での金属粒子の分散安定性等を優れたものとすることができても、インクジェット用組成物を長期間保存した場合や過酷条件下で保存した場合には、インクジェット用組成物中での金属粒子の分散状態を良好な状態に保つことができない。その結果、インクジェット法による吐出安定性や、製造される記録物の光沢感が著しく低下する。
【0027】
また、インクジェット用組成物が、疎水性リン系表面処理剤を含んでないと、ポリオキシアルキレンアミン化合物を含んでいたとしても、インクジェット用組成物中での金属粒子の分散状態を良好なものとすることが困難となる。特に、インクジェット用組成物を長期間保存した場合や過酷条件下で保存した場合に、インクジェット用組成物中での金属粒子の分散状態が著しく悪化し、インクジェット法による吐出安定性や、製造される記録物の光沢感が著しく低下する。
【0028】
また、インクジェット用組成物が、疎水性リン系表面処理剤およびポリオキシアルキレンアミン化合物を含んでいたとしても、ポリオキシアルキレンアミン化合物の含有量が前記下限値未満であると、以下のような問題を生じる。すなわち、前述したような疎水性リン系表面処理剤とポリオキシアルキレンアミン化合物とを併用することによる効果が十分に発揮されない。その結果、インクジェット用組成物を長期間保存した場合や過酷条件下で保存した場合において、インクジェット用組成物中での金属粒子の分散状態が低下し、インクジェット法による吐出安定性や、製造される記録物の光沢感を満足のいくものとすることができない。
【0029】
また、インクジェット用組成物が、疎水性リン系表面処理剤およびポリオキシアルキレンアミン化合物を含んでいたとしても、ポリオキシアルキレンアミン化合物の含有量が前記上限値を超えると、疎水性リン系表面処理剤の顔料への吸着を阻害したり、金属粒子の乾燥時の移動性が低下することで初期的な記録物の光沢値が低下し、さらに長期間保存した場合や過酷条件下で保存した場合の保存安定性も劣る。
【0030】
インクジェット用組成物におけるポリオキシアルキレンアミン化合物の含有量は、金属粒子:100質量部に対して、0.5質量部以上50質量部以下であればよいが、以下の条件を満足するのが好ましい。すなわち、金属粒子:100質量部に対するポリオキシアルキレンアミン化合物の含有量の下限は、1.0質量部であるのが好ましく、5.0質量部であるのがより好ましく、10.0質量部であるのがさらに好ましい。また、金属粒子:100質量部に対するポリオキシアルキレンアミン化合物の含有量の上限は、40.0質量部であるのが好ましく、35.0質量部であるのがより好ましく、30.0質量部であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0031】
なお、本明細書において、インクジェット用組成物とは、インクジェット法により吐出されるインクそのもののほか、当該インクの調製に用いられる原液を含む概念である。言い換えると、本発明のインクジェット用組成物は、そのまま、インクジェット法により吐出に供されるものであってもよいし、希釈等の処理の後にインクジェット法により吐出に供されるものであってもよい。
【0032】
インクジェット用組成物が、インクジェット法により吐出されるインクの原液である場合、本発明によれば、当該原液そのものの保存安定性、例えば、長期間保存した場合や過酷条件下で保存した場合における金属粒子の分散安定性に優れるとともに、当該原液を希釈して得られるインクの保存安定性も優れたものとすることができる。また、インクジェット用組成物が、インクジェット法により吐出されるインクの原液である場合、当該原液を長期間保存や過酷条件下で保存したり、当該原液を希釈して得られるインクを長期間保存や過酷条件下で保存した場合であっても、原液の希釈物であるインクを用いて製造される記録物の光沢感を優れたものとすることができる。
【0033】
以下、本発明のインクジェット用組成物の構成成分について説明する。
[1-1]金属粒子
本発明のインクジェット用組成物は、複数個の金属粒子を含有している。
【0034】
金属粒子は、外観上視認される部位の少なくとも一部が金属材料で構成されたものであり、通常、外表面付近が金属材料で構成されたものである。
【0035】
金属粒子は、インクジェット用組成物を用いて製造される記録物において、その外観に大きな影響を与える成分である。
【0036】
本発明のインクジェット用組成物中において、金属粒子は、通常、その表面に、後に詳述する疎水性リン系表面処理剤およびポリオキシアルキレンアミン化合物が付着しており、これらによって、表面修飾されている。
【0037】
金属粒子は、少なくとも、表面付近を含む領域が金属材料で構成されたものであればよく、例えば、全体が金属材料で構成されたものであってもよいし、非金属材料で構成された基部と、当該基部を被覆する金属材料で構成された被膜とを有するものであってもよい。また、金属粒子は、その表面に不働態膜のような酸化被膜等が形成されていてもよい。このような金属粒子であっても、従来においては、前述したような問題が発生しており、また、本発明を適用することにより、前述したような優れた効果が得られる。
【0038】
金属粒子を構成する金属材料としては、単体としての金属や各種合金等を用いることができる。例えば、アルミニウム、銀、金、白金、ニッケル、クロム、錫、亜鉛、インジウム、チタン、鉄、銅などが挙げられる。これらのうち金属粒子は、アルミニウムまたはアルミニウム合金で構成されたものであるのが好ましい。アルミニウム、アルミニウム合金が好ましい理由として、鉄等とくらべて低い比重であることが挙げられる。これにより、アルミニウムまたはアルミニウム合金で構成された粒子をインクジェット用組成物中に分散させた場合の沈降が非常にゆっくり進行するため、濃度むらの発生等を効果的に防止しつつより長期間にわたってインクジェット用組成物を保管することができる。
【0039】
加えて、記録物の生産コストの上昇を抑制しつつ、記録物の光沢感、高級感を特に優れたものとすることができる。アルミニウムおよびアルミニウム合金は、本来、各種金属材料の中でも特に優れた光沢感を呈するものであるが、インクジェット用組成物に、これらの材料で構成された粒子を適用しようとした場合に、以下のような問題を生じることを本発明者は見出していた。すなわち、インクジェット用組成物の保存安定性は特に低いものとなり、ゲル化による粘度上昇による吐出安定性の低下等の問題が特に発生し易いことを本発明者は見出していた。これに対し、複数個の金属粒子とともに、疎水性リン系表面処理剤およびポリオキシアルキレンアミン化合物を併存させることにより、アルミニウムまたはアルミニウム合金で構成された粒子を用いた場合であっても、上記のような問題の発生を確実に防止することができる。すなわち、金属粒子が、アルミニウムまたはアルミニウム合金で構成されたものであることにより、本発明による効果がより顕著に発揮される。
【0040】
金属粒子は、球状、紡錘形状、針状等、いかなる形状のものであってもよいが、鱗片状をなすものであるのが好ましい。
【0041】
これにより、インクジェット用組成物が付与される記録媒体上で、当該金属粒子の主面が記録媒体の表面形状に沿うように配置することができる。その結果、金属粒子を構成する金属材料が本来有している光沢感等を、得られる記録物においてもより効果的に発揮させることができ、形成される印刷部の光沢感、高級感を特に優れたものとすることができるとともに、記録物の耐擦性を特に優れたものとすることができる。また、疎水性リン系表面処理剤およびポリオキシアルキレンアミン化合物を含んでいないインクジェット用組成物においては、金属粒子が鱗片状をなすものであると、インクジェット用組成物の保存安定性、吐出安定性が特に低いものとなり易い。これに対し、インクジェット用組成物が、金属粒子とともに、疎水性リン系表面処理剤およびポリオキシアルキレンアミン化合物を含んでいると、金属粒子が鱗片状をなすものであっても、このような問題の発生を確実に防止することができる。すなわち、金属粒子が鱗片状をなすものであると、本発明による効果がより顕著に発揮される。
【0042】
本発明において、鱗片状とは、平板状、湾曲板状等のように、所定の角度から観察した際、例えば、平面視した際の面積が、当該観察方向と直交する角度から観察した際の面積よりも大きい形状のことをいう。特に、投影面積が最大となる方向から観察した際、すなわち、平面視した際の面積S1[μm2]と、当該観察方向と直交する方向のうち観察した際の面積が最大となる方向から観察した際の面積S0[μm2]に対する比率S1/S0が、好ましくは2以上であり、より好ましくは5以上であり、さらに好ましくは8以上である。この値としては、例えば、任意の50個の粒子について観察を行い、これらの粒子についての算出される値の平均値を採用することができる。観察は、例えば電子顕微鏡、原子間力顕微鏡などを用いて行うことができる。
【0043】
金属粒子が鱗片状をなすものである場合、金属粒子の平均厚さの下限は、特に限定されないが、10nmであるのが好ましく、15nmであるのがより好ましく、20nmであるのがさらに好ましい。また、金属粒子が鱗片状をなすものである場合、金属粒子の平均厚さの上限は、特に限定されないが、90nmであるのが好ましく、70nmであるのがより好ましく、50nmであるのがさらに好ましく、30nmであるのがもっとも好ましい。
【0044】
これにより、上述したような粒子が鱗片状であることによる効果がより顕著に発揮される。
【0045】
金属粒子の体積平均粒子径の下限は、特に限定されないが、0.20μmであるのが好ましく、0.25μmであるのがより好ましく、0.30μmであるのがさらに好ましい。また、金属粒子の体積平均粒子径の上限は、特に限定されないが、1.00μmであるのが好ましく、0.90μmであるのがより好ましく、0.80μmであるのがさらに好ましい。
【0046】
これにより、インクジェット用組成物の保存安定性、吐出安定性をより優れたものとしつつ、インクジェット用組成物を用いて製造される記録物における不本意な色むらの発生等をより効果的に防止することができる。
【0047】
なお、本発明において、体積平均粒子径とは、粒子分散液をレーザー回折・散乱法を用いて測定された体積分布のメジアン径のことを指し、多数個の測定結果を大きさ毎の存在比率の累積として表した場合に、累積でちょうど中央値の50%を示す粒子のサイズである。金属粒子が鱗片状をなすものである場合、体積平均粒子径は、金属粒子を平面視した際の形状、大きさに基づいて求められるものとする。
【0048】
また、インクジェット用組成物に含まれる金属粒子の微粒子側からの体積累積分布率90%での粒径D90の下限は、0.50μmであるのが好ましく、0.55μmであるのがより好ましく、0.60μmであるのがさらに好ましい。また、インクジェット用組成物に含まれる金属粒子の微粒子側からの体積累積分布率90%での粒径D90の上限は、1.50μmであるのが好ましく、1.20μmであるのがより好ましく、0.95μmであるのがさらに好ましい。
【0049】
これにより、インクジェット用組成物の保存安定性、吐出安定性をより優れたものとしつつ、インクジェット用組成物を用いて製造される記録物における不本意な色むらの発生等をより効果的に防止することができる。
【0050】
インクジェット用組成物中における金属粒子の含有率の下限は、特に限定されないが、0.1質量%であるのが好ましく、0.2質量%であるのがより好ましく、0.3質量%であるのがさらに好ましい。また、インクジェット用組成物中における金属粒子の含有率の上限は、特に限定されないが、30質量%であるのが好ましく、15質量%であるのがより好ましく、10質量%であるのがさらに好ましく、5質量%であるのがもっとも好ましい。
【0051】
これにより、インクジェット法によるインクジェット用組成物の吐出安定性を特に優れたものとすることができるとともに、インクジェット用組成物を用いて形成される印刷部の光沢感を特に優れたものとすることができる。
【0052】
特に、インクジェット用組成物がインクジェット法により吐出されるインクそのものである場合、当該インク中における金属粒子の含有率の下限は、特に限定されないが、0.1質量%であるのが好ましく、0.2質量%であるのがより好ましく、0.3質量%であるのがさらに好ましい。また、インクジェット用組成物がインクジェット法により吐出されるインクそのものである場合、当該インク中における金属粒子の含有率の上限は、特に限定されないが、2.4質量%であるのが好ましく、2.2質量%であるのがより好ましく、1.8質量%であるのがさらに好ましい。
【0053】
また、インクジェット用組成物がインクジェット法により吐出されるインクの調製に用いられる原液である場合、当該原液中における金属粒子の含有率の下限は、特に限定されないが、2.0質量%であるのが好ましく、2.5質量%であるのがより好ましく、3.0質量%であるのがさらに好ましい。また、インクジェット用組成物がインクジェット法により吐出されるインクの調製に用いられる原液である場合、当該原液中における金属粒子の含有率の上限は、特に限定されないが、30質量%が好ましく、15質量%であるのがより好ましく、10質量%であるのがさらに好ましく、5質量%であるのがもっとも好ましい。
【0054】
金属粒子は、いかなる方法で製造されたものであってもよいが、Alで構成されたものである場合には、気相成膜法によりAlで構成された膜を形成し、その後、当該膜を粉砕することにより得られたものであるのが好ましい。これにより、本発明のインクジェット用組成物を用いて形成される印刷部において、Alが本来有している光沢感等をより効果的に表現させることができる。また、各粒子間での特性のばらつきを抑制することができる。また、当該方法を用いることにより、比較的薄い金属粒子であっても好適に製造することができる。
【0055】
このような方法を用いて金属粒子を製造する場合、例えば、基材上に、Alで構成された膜の形成を行うことにより、金属粒子を好適に製造することができる。前記基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のプラスチックフィルム等を用いることができる。また、基材は、成膜面に離型剤層を有するものであってもよい。
【0056】
また、前記粉砕は、液体中において、前記膜に超音波振動を付与することにより行われるものであるのが好ましい。これにより、後述するような粒径の金属粒子を容易かつ確実に得ることができるとともに、各金属粒子間での大きさ、形状、特性のばらつきの発生を抑制することができる。
【0057】
また、上記のような方法で、粉砕を行う場合、前記液体としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、n-ヘプタン、n-オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカン、トルエン、キシレン、シメン、デュレン、インデン、ジペンテン、テトラヒドロナフタレン、デカヒドロナフタレン、シクロヘキシルベンゼン等の炭化水素系化合物、またエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールn-ブチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、ビス(2-メトキシエチル)エーテル、p-ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系化合物、さらにプロピレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、シクロヘキサノン、アセトニトリル等の極性化合物を好適に用いることができる。このような液体を用いることにより、金属粒子の不本意な酸化等を防止しつつ、金属粒子の生産性を特に優れたものとし、また、各粒子間での大きさ、形状、特性のばらつきを特に小さいものとすることができる。
【0058】
[1-2]疎水性リン系表面処理剤
本発明のインクジェット用組成物は、疎水性リン系表面処理剤を含有している。
【0059】
疎水性リン系表面処理剤は、金属粒子に付着した状態で、当該疎水性リン系表面処理剤全体として、疎水性を発揮することができるリン系表面処理剤であればよい。疎水性を発揮することができるとは、疎水性リン系表面処理剤が付着した金属粒子が、有機溶剤中において分散可能となるようなことをいう。疎水性リン系表面処理剤のリン系表面処理剤としては、リン原子を含有するリン系化合物であればよいが、例えば、リン酸誘導体、ホスホン酸誘導体、ホスフィン酸誘導体等を、用いることができる。誘導体としては、例えば、互変異性体、エステル化物、エーテル化物、構造式中の水素原子が有機置換基で置き換えられたもの、などが挙げられる。これらの疎水性リン系表面処理剤としては、界面活性剤などとして利用されるものも用いることができる。疎水性リン系表面処理剤は、好ましくは、疎水性の原子または原子団を有している。
【0060】
疎水性の原子または原子団としては、例えば、フッ素原子、炭素数が3以上のアルキル基、水素原子の少なくとも一部がフッ素原子で置換されたアルキル基等が挙げられる。アルキル基または水素原子の少なくとも一部がフッ素原子で置換されたアルキル基等の炭素数は、3以上であるのが好ましく、5以上であるのがより好ましく、8以上であるのがさらに好ましい。炭素数の上限は、特に限定されないが、30であるのが好ましく、20であるのがより好ましく、15であるのがさらに好ましい。アルキル基または水素原子の少なくとも一部がフッ素原子で置換されたアルキル基等は、リン系表面処理剤のリン原子に結合したもの、または、リン系表面処理剤のリン原子に結合した水酸基がこれによりエーテル化したもの、が好ましい。
【0061】
中でも、疎水性リン系表面処理剤は、分子内に、少なくとも1個のフッ素原子を有するリン化合物であるフッ素系リン系化合物であるのが好ましい。
【0062】
これにより、金属粒子に付着した状態での疎水性をより高めることができ、インクジェット用組成物中での金属粒子の分散安定性をより優れたものとすることができる。また、後に詳述するポリオキシアルキレンアミン化合物と併用することによる相乗効果がより顕著に発揮され、インクジェット用組成物の保存安定性、吐出安定性、インクジェット用組成物を用いて製造される記録物の光沢感等をさらに優れたものとすることができる。特に、インクジェット用組成物を用いて製造される記録物において、金属粒子を印刷部の外表面付近に好適に配列させることができ、金属粒子を構成する金属材料が本来有している光沢感等の特性をより効果的に発揮させることができる。
【0063】
疎水性リン系表面処理剤がフッ素系リン系化合物である場合、当該フッ素系リン系化合物は、パーフルオロアルキル構造を有するものであるのが好ましい。
【0064】
これにより、インクジェット用組成物の保存安定性をさらに優れたものとし、インクジェット用組成物を用いて製造される記録物の印刷部の光沢感、耐擦性をさらに優れたものとすることができる。
【0065】
本発明のインクジェット用組成物は、疎水性リン系表面処理剤として、複数種の化合物を含んでいてもよい。このような場合、同一の金属粒子に複数種の疎水性リン系表面処理剤による表面処理が施されていてもよい。また、インクジェット用組成物は、金属粒子として、互いに異なる疎水性リン系表面処理剤で表面処理されたものを含んでいてもよい。
【0066】
また、疎水性リン系表面処理剤による金属粒子への表面処理は、例えば、前述したように、気相成膜法により形成した金属製の膜を液体中で粉砕して金属粒子を形成する際に、当該液体中に疎水性リン系表面処理剤を含ませておくことにより行うものであってもよい。
【0067】
同一の粒子に対し、複数種の疎水性リン系表面処理剤による表面処理を施す場合、各疎水性リン系表面処理剤に対応する複数の工程に分けて表面処理を行ってもよいし、同一工程で、複数種の疎水性リン系表面処理剤による表面処理を行ってもよい。
【0068】
インクジェット用組成物中における疎水性リン系表面処理剤の含有率の下限は、特に限定されないが、0.01質量%であるのが好ましく、0.02質量%であるのがより好ましく、0.04質量%であるのがさらに好ましい。また、インクジェット用組成物中における疎水性リン系表面処理剤の含有率の上限は、特に限定されないが、3.0質量%であるのが好ましく、2.0質量%であるのがより好ましく、1.5質量%であるのがさらに好ましい。
【0069】
これにより、インクジェット法によるインクジェット用組成物の吐出安定性を特に優れたものとすることができるとともに、インクジェット用組成物を用いて形成される印刷部の光沢感を特に優れたものとすることができる。
【0070】
特に、インクジェット用組成物がインクジェット法により吐出されるインクそのものである場合、当該インク中における疎水性リン系表面処理剤の含有率の下限は、特に限定されないが、0.01質量%であるのが好ましく、0.02質量%であるのがより好ましく、0.04質量%であるのがさらに好ましい。また、インクジェット用組成物がインクジェット法により吐出されるインクそのものである場合、当該インク中における疎水性リン系表面処理剤の含有率の上限は、特に限定されないが、1.0質量%であるのが好ましく、0.7質量%であるのがより好ましく、0.5質量%であるのがさらに好ましい。
【0071】
また、インクジェット用組成物がインクジェット法により吐出されるインクの調製に用いられる原液である場合、当該原液中における疎水性リン系表面処理剤の含有率の下限は、特に限定されないが、0.05質量%であるのが好ましく、0.10質量%であるのがより好ましく、0.20質量%であるのがさらに好ましい。また、インクジェット用組成物がインクジェット法により吐出されるインクの調製に用いられる原液である場合、当該原液中における疎水性リン系表面処理剤の含有率の上限は、特に限定されないが、3.0質量%であるのが好ましく、2.0質量%であるのがより好ましく、1.5質量%であるのがさらに好ましい。
【0072】
インクジェット用組成物中における金属粒子の含有率をXM[質量%]、インクジェット用組成物中における疎水性リン系表面処理剤の含有率をXP[質量%]としたとき、XP/XMの値の下限は、特に限定されないが、0.01であるのが好ましく、0.05であるのがより好ましく、0.06であるのがさらに好ましい。また、XP/XMの値の上限は、特に限定されないが、15であるのが好ましく、12であるのがより好ましく、9.0であるのがさらに好ましい。さらには1以下が好ましく、0.1以下が好ましい。
【0073】
これにより、インクジェット法によるインクジェット用組成物の吐出安定性を特に優れたものとすることができるとともに、インクジェット用組成物を用いて形成される印刷部の光沢感を特に優れたものとすることができる。
【0074】
[1-3]ポリオキシアルキレンアミン化合物
本発明のインクジェット用組成物は、ポリオキシアルキレンアミン化合物を含有している。
【0075】
ポリオキシアルキレンアミン化合物は、分子内にポリオキシアルキレン構造を有するアミン化合物であれば、いかなるものであってもよいが、下記式(1)で示される化合物、およびその塩、下記式(2)で示される化合物、その塩のうちの少なくとも1種であるのが好ましい。
【0076】
【化3】
(式(1)中、Rは水素原子または炭素数が3以下のアルキル基であり、xは10以上の整数である。また、式(1)中、Rの条件が異なる複数種のオキシアルキレンユニットを備えていてもよい。)
【0077】
【化4】
(式(2)中、R1、R2、R3は、それぞれ、独立に、炭素数が3以下のアルキル基であり、nは10以上の整数である。)
【0078】
これにより、インクジェット用組成物の保存安定性をより優れたものとすることができ、インクジェット用組成物を、長期間保存した場合や過酷条件下で保存した場合における、インクジェット用組成物の吐出安定性や製造される記録物の光沢感をより優れたものとすることができる。
【0079】
上記式(1)中のRは、水素原子または炭素数が3以下のアルキル基であればよいが、水素原子、メチル基であるのが好ましく、下記式(3)で示される化合物であるのがより好ましい。
【0080】
【化5】
(式(3)中、X1、X2は独立して1以上の整数であり、X1+X2は10以上の整数である。また、式(3)中、オキシエチレンユニットとオキシプロピレンユニットの順番は問わない。)
【0081】
これにより、インクジェット用組成物の保存安定性をさらに優れたものとすることができ、インクジェット用組成物を長期間保存した場合や過酷条件下で保存した場合におけるインクジェット用組成物の吐出安定性や製造される記録物の光沢感をさらに優れたものとすることができる。
【0082】
また、上記式(3)におけるX2に対するX1の比率であるX1/X2の値、すなわち、ポリオキシアルキレンアミン化合物の分子内におけるオキシプロピレンユニットの物質量に対するオキシエチレンユニットの物質量の比率の下限は、0.05であるのが好ましく、0.15であるのがより好ましく、0.70であるのがさらに好ましい。また、X1/X2の値の上限は、10.00であるのが好ましく、8.00であるのがより好ましく、6.00であるのがさらに好ましい。
【0083】
これにより、インクジェット用組成物の保存安定性をさらに優れたものとすることができ、インクジェット用組成物を長期間保存した場合や過酷条件下で保存した場合におけるインクジェット用組成物の吐出安定性や製造される記録物の光沢感をさらに優れたものとすることができる。
【0084】
上記のように、上記式(3)中におけるオキシエチレンユニットとオキシプロピレンユニットの順番は問わない。より具体的には、上記式(3)では、連続するオキシエチレンユニットの末端にアミノ基が結合しており、連続するオキシプロピレンユニットの末端にメチル基が結合しているが、連続するオキシプロピレンユニットの末端にアミノ基が結合しており、連続するオキシエチレンユニットの末端にメチル基が結合していてもよい。また、上記式(3)で示される化合物は、ブロック共重合体であってもよいし、ランダム共重合体であってもよい。
【0085】
上記式(2)中のR1、R2、R3は、それぞれ、独立に、炭素数が3以下のアルキル基であればよいが、メチル基、エチル基であるのが好ましく、特に、R1、R2、R3のうちの1つがメチル基であり、残りの2つがエチル基であるのがより好ましい。
【0086】
これにより、インクジェット用組成物の保存安定性をさらに優れたものとすることができ、インクジェット用組成物を長期間保存した場合や過酷条件下で保存した場合におけるインクジェット用組成物の吐出安定性や製造される記録物の光沢感をさらに優れたものとすることができる。
【0087】
上記式(2)中のR1、R2、R3のうちの1つがメチル基であり、残りの2つがエチル基である化合物を下記式(4)に示す。
【0088】
【化6】
(式(4)中、nは10以上の整数である。)
【0089】
また、上記式(2)、上記式(4)中には示していないが、これらの化合物は、これらの式中に示す陽イオンに対応する陰イオンを備えている。当該陰イオンとしては、例えば、塩化物イオン、臭化物イオン等のハロゲン化イオン、水酸化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン等が挙げられる。
【0090】
ポリオキシアルキレンアミン化合物の重量平均分子量の下限は、特に限定されないが、300であるのが好ましく、500であるのがより好ましく、800であるのがさらに好ましく、1000であるのがもっとも好ましい。また、ポリオキシアルキレンアミン化合物の重量平均分子量の上限は、特に限定されないが、8000であるのが好ましく、5000であるのがより好ましく、3000であるのがさらに好ましい。
【0091】
これにより、インクジェット用組成物の保存安定性をさらに優れたものとすることができ、インクジェット用組成物を長期間保存した場合や過酷条件下で保存した場合におけるインクジェット用組成物の吐出安定性や製造される記録物の光沢感をさらに優れたものとすることができる。
【0092】
本発明のインクジェット用組成物は、ポリオキシアルキレンアミン化合物として、複数種の化合物を含んでいてもよい。このような場合、同一の金属粒子に複数種のポリオキシアルキレンアミン化合物による表面処理が施されていてもよい。また、インクジェット用組成物は、金属粒子として、互いに異なるポリオキシアルキレンアミン化合物で表面処理されたものを含んでいてもよい。
【0093】
また、ポリオキシアルキレンアミン化合物による金属粒子への表面処理は、例えば、前述したように、気相成膜法により形成した金属製の膜を液体中で粉砕して金属粒子を形成する際に、当該液体中にポリオキシアルキレンアミン化合物を含ませておくことにより行うものであってもよい。
【0094】
同一の粒子に対し、複数種のポリオキシアルキレンアミン化合物による表面処理を施す場合、各ポリオキシアルキレンアミン化合物に対応する複数の工程に分けて表面処理を行ってもよいし、同一工程で、複数種のポリオキシアルキレンアミン化合物による表面処理を行ってもよい。
【0095】
また、ポリオキシアルキレンアミン化合物による表面処理は、疎水性リン系表面処理剤による表面処理と、同一工程で行ってもよいし、異なる工程で行ってもよい。ポリオキシアルキレンアミン化合物による表面処理は、疎水性リン系表面処理剤による表面処理の工程より先に行ってもよいし、疎水性リン系表面処理剤による表面処理の工程より後に行ってもよい。
【0096】
インクジェット用組成物中におけるポリオキシアルキレンアミン化合物の含有率の下限は、特に限定されないが、0.01質量%であるのが好ましく、0.06質量%であるのがより好ましく、0.10質量%であるのがさらに好ましい。また、インクジェット用組成物中におけるポリオキシアルキレンアミン化合物の含有率の上限は、特に限定されないが、3.0質量%であるのが好ましく、2.0質量%であるのがより好ましく、1.5質量%であるのがさらに好ましい。
【0097】
これにより、インクジェット法によるインクジェット用組成物の吐出安定性を特に優れたものとすることができるとともに、インクジェット用組成物を用いて形成される印刷部の光沢感を特に優れたものとすることができる。
【0098】
特に、インクジェット用組成物がインクジェット法により吐出されるインクそのものである場合、当該インク中におけるポリオキシアルキレンアミン化合物の含有率の下限は、特に限定されないが、0.01質量%であるのが好ましく、0.06質量%であるのがより好ましく、0.10質量%であるのがさらに好ましい。また、インクジェット用組成物がインクジェット法により吐出されるインクそのものである場合、当該インク中におけるポリオキシアルキレンアミン化合物の含有率の上限は、特に限定されないが、1.0質量%であるのが好ましく、0.70質量%であるのがより好ましく、0.50質量%であるのがさらに好ましい。
【0099】
また、インクジェット用組成物がインクジェット法により吐出されるインクの調製に用いられる原液である場合、当該原液中におけるポリオキシアルキレンアミン化合物含有率の下限は、特に限定されないが、0.05質量%であるのが好ましく、0.30質量%であるのがより好ましく、0.50質量%であるのがさらに好ましい。また、インクジェット用組成物がインクジェット法により吐出されるインクの調製に用いられる原液である場合、当該原液中におけるポリオキシアルキレンアミン化合物の含有率の上限は、特に限定されないが、3.0質量%であるのが好ましく、2.0質量%であるのがより好ましく、1.5質量%であるのがさらに好ましい。
【0100】
インクジェット用組成物中における疎水性リン系表面処理剤の含有率をXP[質量%]、インクジェット用組成物中におけるポリオキシアルキレンアミン化合物の含有率をXA[質量%]としたとき、XA/XPの値の下限は、0.10であるのが好ましく、0.40であるのがより好ましく、2.0であるのがさらに好ましい。また、XA/XPの値の上限は、10.0であるのが好ましく、8.0であるのがより好ましく、6.0であるのがさらに好ましい。
【0101】
これにより、インクジェット用組成物の保存安定性をさらに優れたものとすることができ、インクジェット用組成物を長期間保存した場合や過酷条件下で保存した場合におけるインクジェット用組成物の吐出安定性や製造される記録物の光沢感をさらに優れたものとすることができる。
【0102】
[1-4]溶剤
本発明のインクジェット用組成物は、溶剤を含有している。
溶剤は、主に、金属粒子を分散させる分散媒としての機能を有している。
【0103】
また、インクジェット用組成物が溶剤を含むことにより、インクジェットによるインクジェット用組成物の吐出が可能となる。インクジェット用組成物は、溶剤系組成物であることが好ましい。溶剤系組成物は、組成物の溶媒成分として溶剤を含有し、水を溶媒成分としない組成物である。溶剤系組成物の溶剤の含有量は、10質量%以上であり、30質量%以上が好ましい。溶剤としては有機溶剤が好ましい。溶剤系組成物の水の含有量は1質量%以下であり、0.5質量%以下が好ましい。
【0104】
溶剤は、水以外の液体成分、通常は、有機溶媒で構成されていることが好ましい。
溶剤としては、例えば、エステル化合物、エーテル化合物、ヒドロキシケトン、炭酸ジエステル、環状アミド化合物等を用いることができる。より具体的には、溶剤として用いることのできる化合物としては、例えば、2-(2-メトキシ-1-メチルエトキシ)-1-メチルエチルアセテート、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、4-メチル-1,3-ジオキソラン-2-オン、ビス(2-ブトキシエチル)エーテル、グルタル酸ジメチル、エチレングリコールジn-ブチレート、1,3-ブチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、1,6-ジアセトキシヘキサン、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ブトキシプロパノール、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルブチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールメチルブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、3-エトキシプロピオン酸エチル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、3-メトキシブチルアセテート、ジエチレングリコールジエチルエーテル、オクタン酸エチル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテル、酢酸シクロヘキシル、こはく酸ジエチル、エチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、こはく酸ジメチル、1-ブトキシ-2-プロパノール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、3-メトキシ-n-ブチルアセテート、ジアセチン、ジプロピレングリコールモノn-プロピルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ブチルグリコレート、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールモノn-ブチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドン、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、ビス(2-プロポキシエチル)エーテル、ジエチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルプロピルエーテル、ジエチレングリコールエチルプロピルエーテル、ジエチレングリコールメチルプロピルエーテル、ジエチレングリコールプロピルエーテルアセテート、トリエチレングリコールメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールエチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールプロピルエーテルアセテート、トリエチレングリコールブチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールブチルエチルエーテル、トリエチレングリコールエチルメチルエーテル、トリエチレングリコールエチルプロピルエーテル、トリエチレングリコールメチルプロピルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、n-ノニルアルコール、ジエチレングリコールモノノルマルブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコール2-エチルヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル、トリプロピレングリコールモノn-ブチルエーテル、ブチルセロソルブアセテート、γ-ブチロラクトン等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0105】
中でも溶剤としては、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテルおよびトリエチレングリコールモノブチルエーテルのうち少なくとも1種を含んでいるのが好ましく、ジエチレングリコールジエチルエーテルおよびジエチレングリコールメチルエチルエーテルのうちの少なくとも一方を含んでいるのがより好ましい。
【0106】
これにより、インクジェット用組成物の保存安定性をさらに優れたものとすることができ、インクジェット用組成物を長期間保存した場合や過酷条件下で保存した場合におけるインクジェット用組成物の吐出安定性や製造される記録物の光沢感をさらに優れたものとすることができる。
【0107】
インクジェット用組成物を構成する溶剤全体に占めるジエチレングリコールジエチルエーテルの含有率およびジエチレングリコールメチルエチルエーテルの含有率の和の割合は、40質量%以上であるのが好ましく、50質量%以上であるのがより好ましく、70質量%以上であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0108】
インクジェット用組成物中における溶剤の含有率の下限は、特に限定されないが、50.0質量%であるのが好ましく、60.0質量%であるのがより好ましく、70.0質量%であるのがさらに好ましい。また、インクジェット用組成物中における溶剤の含有率の上限は、特に限定されないが、99.8質量%であるのが好ましく、99.5質量%であるのがより好ましく、99.0質量%であるのがさらに好ましい。
【0109】
特に、インクジェット用組成物がインクジェット法により吐出されるインクそのものである場合、当該インク中における溶剤の含有率の下限は、特に限定されないが、70.0質量%であるのが好ましく、80.0質量%であるのがより好ましく、85.0質量%であるのがさらに好ましい。また、インクジェット用組成物がインクジェット法により吐出されるインクそのものである場合、当該インク中における溶剤の含有率の上限は、特に限定されないが、99.8質量%であるのが好ましく、99.5質量%であるのがより好ましく、99.0質量%であるのがさらに好ましい。
【0110】
また、インクジェット用組成物がインクジェット法により吐出されるインクの調製に用いられる原液である場合、当該原液中における溶剤の含有率の下限は、特に限定されないが、50.0質量%であるのが好ましく、60.0質量%であるのがより好ましく、70.0質量%であるのがさらに好ましい。また、インクジェット用組成物がインクジェット法により吐出されるインクの調製に用いられる原液である場合、当該原液中における溶剤の含有率の上限は、特に限定されないが、97.0質量%であるのが好ましく、96.0質量%であるのがより好ましく、95.0質量%であるのがさらに好ましい。
【0111】
[1-5]その他の成分
本発明のインクジェット用組成物は、上述した以外の成分を含むものであってもよい。このような成分としては、例えば、レベリング剤、バインダー、重合促進剤、重合禁止剤、光重合開始剤、分散剤、界面活性剤、浸透促進剤、保湿剤、着色剤、定着剤、防黴剤、防腐剤、酸化防止剤、キレート剤、増粘剤、増感剤等が挙げられる。
【0112】
バインダーとしては、樹脂であればよいが、アクリル系樹脂、エステル系樹脂、ウレタン系樹脂などが好ましく挙げられ、アクリル系樹脂がより好ましい。バインダーを含む場合、組成物中に、0.1質量%以上含むことが好ましく、1質量%以下含むことが好ましく、0.5質量%以下含むことが好ましい。
【0113】
界面活性剤としては、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤などが好ましく挙げられ、シリコーン系界面活性剤が、特に好ましい。界面活性剤を含む場合、組成物中に、0.1質量%以上含むことが好ましく、1質量%以下含むことが好ましく、0.5質量%以下含むことが好ましい。
【0114】
また、本発明のインクジェット用組成物は、前述した溶剤に加えて、少量の水を含んでいてもよい。ただし、インクジェット用組成物中における水の含有率は、1.0質量%以下であるのが好ましく、0.5質量%以下であるのがより好ましく、0.1質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0115】
振動式粘度計を用いて、JIS Z8809に準拠して測定される、本発明のインクジェット用組成物の20℃での粘度の上限は、特に限定されないが、25mPa・sであるのが好ましく、15mPa・sであるのがより好ましい。また、振動式粘度計を用いて、JIS Z8809に準拠して測定される、本発明のインクジェット用組成物の20℃での粘度の下限は、特に限定されないが、3mPa・sであるのがより好ましい。
これにより、インクジェット法による液滴吐出をより好適に行うことができる。
【0116】
[2]記録物
次に、本発明に係る記録物について説明する。
【0117】
本発明に係る記録物は、上述したようなインクジェット用組成物をインクジェット法により記録媒体上に付与することにより製造されたものである。
【0118】
このような記録物は、光沢感に優れ、欠陥の発生が防止された印刷部を有するものである。
【0119】
記録媒体は、いかなるものであってもよく、吸収性または非吸収性のいずれを用いてもよく、例えば、普通紙、インクジェット用専用紙等の紙、プラスチック材料、金属、セラミックス、木材、貝殻、綿、ポリエステル、ウール等の天然繊維・合成繊維、不織布等を用いることができる。また、記録媒体の形状は、特に限定されず、シート状等、いかなるものであってもよい。
【0120】
インクジェット法の方式としては、ピエゾ方式や、インクを加熱して発生した泡によりインクを吐出させる方式等を用いることができるが、インクジェット用組成物の変質のし難さ等の観点から、ピエゾ方式が好ましい。
【0121】
インクジェット法によるインクジェット用組成物の吐出は、公知の液滴吐出装置を用いて行うことができる。
【0122】
本発明に係る記録物は、いかなる用途のものであってもよく、例えば、装飾品やそれ以外に適用されるものであってもよい。本発明に係る記録物の具体例としては、コンソールリッド、スイッチベース、センタークラスター、インテリアパネル、エンブレム、センターコンソール、メーター銘板等の車両用内装品、各種電子機器の操作部、装飾性を発揮する装飾部、指標、ロゴ等の表示物等が挙げられる。
【0123】
以上、本発明について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0124】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
[3]インクジェット用組成物としてのインクジェットインク製造用原液の製造
(実施例A1)
まず、表面粗さRaが0.02μm以下で表面が平滑なポリエチレンテレフタレート製のフィルムを用意した。
【0125】
次に、このフィルムの一方の面の全体に、アセトンにより可溶化させた離型樹脂をロールコーターによりコーティングすることで離型層を形成した。
【0126】
離型層が形成されたポリエチレンテレフタレート製のフィルムを5m/sの速度で真空蒸着装置内に搬送し、減圧下において、Alで構成された厚さ17.4nmの膜を形成した。
【0127】
次に、Alの膜が形成されたポリエチレンテレフタレート製のフィルムを、テトラヒドロフラン中に浸漬し、40kHzの超音波振動を付与することにより、Al製の金属粒子の集合体である金属粉末の分散液が得られた。
【0128】
次に、遠心分離機にてテトラヒドロフランを除去し、ジエチレングリコールジエチルエーテルを添加して金属粉末の含有率が5質量%の懸濁液を得た。
【0129】
次に、この懸濁液について、循環型の高出力超音波粉砕機で処理を施すことにより、所定の大きさになるまで金属粒子を粉砕した。当該処理では、20kHzの超音波を付与した。
【0130】
次に、前記懸濁液に、上記式(3)で示されるポリオキシアルキレンアミン化合物を加えて、40kHzの超音波照射のもと55℃で1時間の熱処理を施すことにより、金属粒子の凝集を解して一次粒子の状態で、金属粒子を分散させた。ここで、ポリオキシアルキレンアミン化合物としては、連続するオキシエチレンユニットの末端にアミノ基が結合しており、連続するオキシプロピレンユニットの末端にメチル基が結合しているブロック共重合体であり、上記式(3)中のX1とX2との間でX1/X2が3.1の条件を満足し、重量平均分子量が2000のものを用いた。
【0131】
さらに、そこに、疎水性リン系表面処理剤であるフッ素系リン系化合物としてのFHPを加えた。FHPは、CF3(CF2)5(CH2)2P(O)-(OH)2で示される化合物である。そして、28kHz超音波照射下にて55℃で3時間の熱処理を施すことにより、インクジェットインク製造用原液を得た。
【0132】
このようにして得られたインクジェットインク製造用原液中に含まれる金属粒子の体積平均粒子径は0.49μmであった。また、インクジェットインク製造用原液に含まれる金属粒子の微粒子側からの体積累積分布率90%での粒径D90は0.80μmであった。
【0133】
(実施例A2~A18)
金属粉末を表1、表2に示すような構成にするとともに、インクジェットインク製造用原液の調製に用いる原料の種類・比率を変更することにより、表1、表2に示すような組成となるようにした以外は、前記実施例A1と同様にしてインクジェットインク製造用原液を製造した。
【0134】
(比較例A1~A5)
金属粉末を表2に示すような構成にするとともに、インクジェットインク製造用原液の調製に用いる原料の種類・比率を変更することにより、表2に示すような組成となるようにした以外は、前記実施例A1と同様にしてインクジェットインク製造用原液を製造した。
【0135】
前記各実施例および各比較例について、インクジェットインク製造用原液に含まれる金属粉末の構成、インクジェットインク製造用原液の組成を表1、表2にまとめて示した。なお、表中、ジエチレングリコールジエチルエーテルを「DEDG」、疎水性リン系表面処理剤であるフッ素系リン系化合物としての上記に記すものを「FHP」、疎水性リン系表面処理剤であるアルキルリン化合物としてのJP-513(城北化学工業社製、イソトリデシルアシッドホスフェート)を「JP513」、上記式(3)で示されるポリオキシアルキレンアミン化合物であって、X1とX2との間でX1/X2が3.1の条件を満足し、重量平均分子量が2000のものを「POAA1」、上記式(3)で示されるポリオキシアルキレンアミン化合物であって、X1とX2との間でX1/X2が0.11の条件を満足し、重量平均分子量が600のものを「POAA2」、上記式(3)で示されるポリオキシアルキレンアミン化合物であって、X1とX2との間でX1/X2が6.33の条件を満足し、重量平均分子量が1000のものを「POAA3」、上記式(3)で示されるポリオキシアルキレンアミン化合物であって、X1とX2との間でX1/X2が7.25の条件を満足し、重量平均分子量が3000のものを「POAA4」、上記式(1)で示されるポリオキシアルキレンアミン化合物であって、Rがメチル基であって、重量平均分子量が3000のものを「POAA5」、上記式(4)で示されるポリオキシアルキレンアミン化合物であって、重量平均分子量が5000のものを「POAA6」、上記式(4)で示されるポリオキシアルキレンアミン化合物であって、重量平均分子量が3000のものを「POAA7」、疎水性リン系表面処理剤でもポリオキシアルキレンアミン化合物でもない分散剤であるDisperbyk-102(ビックケミー・ジャパン社製)を「BYK102」で示した。なお、POAA1~POAA5は、いずれも、連続するオキシエチレンユニットの末端にアミノ基が結合しており、連続するオキシプロピレンユニットの末端にメチル基が結合しているブロック共重合体であった。また、前記各実施例のインクジェットインク製造用原液を構成する金属粉末に関して、それぞれ任意の50個の金属粒子について観察を行った。その結果、投影面積が最大となる方向から観察した際、すなわち、平面視した際の面積S1[μm2]と、当該観察方向と直交する方向のうち観察した際の面積が最大となる方向から観察した際の面積S0[μm2]に対する比率であるS1/S0を求め、これらの平均値を求めたところ、S1/S0の平均値は、いずれも、19以上であった。表中の平均粒子径D50、D90は、マイクロトラックMT-3000(マイクロトラックベル社製、レーザー回析・散乱式粒子径分布測定装置)を用いて測定した。
【0136】
【0137】
【0138】
[4]インクジェット用組成物としてのインクジェットインクの製造
(実施例B1)
前記実施例A1で調製したインクジェットインク製造用原液の一部と、ジエチレングリコールジエチルエーテルと、トリエチレングリコールモノブチルエーテルと、γ-ブチロラクトンと、界面活性剤としてのBYK-333(ビックケミー・ジャパン社製。シリコーン系界面活性剤)と、バインダーとしてのUC-3000(東亞合成社製。アクリル系樹脂)とを所定の割合で混合した。これにより、表3に示すような組成のインクジェット用組成物としてのインクジェットインクを製造した。
【0139】
(実施例B2~B22)
前記実施例A1で調製したインクジェットインク製造用原液の代わりに、表3、表4に示すように、他の前記実施例で調製したインクジェットインク製造用原液を用いるとともに、当該インクジェットインク製造用原液と混合する原料の種類・比率を変更することにより、表3、表4に示すような組成となるようにした以外は、前記実施例B1と同様にしてインクジェットインクを製造した。
【0140】
(比較例B1~B5)
前記実施例A1で調製したインクジェットインク製造用原液の代わりに、表4に示すように、それぞれ、前記比較例A1~A5で調製したインクジェットインク製造用原液を用いるとともに、当該インクジェットインク製造用原液と混合する原料の種類・比率を調整することにより、表4に示すような組成となるようにした以外は、前記実施例B1と同様にしてインクジェットインクを製造した。
【0141】
前記各実施例および各比較例について、インクジェットインクの組成を表3、表4にまとめて示した。なお、表中、ジエチレングリコールジエチルエーテルを「DEDG」、ジエチレングリコールメチルエチルエーテルを「MEDG」、トリエチレングリコールモノブチルエーテルを「TEGMBE」、γ-ブチロラクトンを「GBL」、界面活性剤としてのBYK-333(ビックケミー・ジャパン社製)を「BYK-333」、バインダーとしてのUC-3000(東亞合成社製)を「UC-3000」で示した。また、前記各実施例および各比較例のインクジェットインク中に含まれる金属粉末の大きさ、形状は、それぞれの原料として用いたインクジェットインク製造用原液中に含まれる金属粉末と同様の条件のものであった。また、振動式粘度計を用いて、JIS Z8809に準拠して測定された前記各実施例のインクジェットインクの20℃における粘度は、いずれも、3mPa・s以上15mPa・s以下の範囲内の値であった。
【0142】
【0143】
【0144】
[5]評価
[5-1]吐出安定性
サーマルチャンバー内に設置した液滴吐出装置を用意し、ピエゾ素子の駆動波形を最適化した状態で、20℃、50%RHの環境下で、前記各実施例および各比較例の各インクジェットインクについて、ノズル穴のサイズが直径22μmの液滴吐出ヘッドの全ノズルから、ピエゾ素子の振動数を変化させつつ、液滴吐出を行った。各周波数での液滴吐出時間は20分間とした。20分間の吐出後時点で未吐出のノズル数が全ノズル数の0.5%未満の周波数までを実使用可能な最高周波数として、実使用可能な周波数範囲を以下の4段階の基準に従い、評価した。この値が大きいほど周波数特性に優れていると言える。C以上を良好なレベルとした。
【0145】
A:15kHz以上。
B:11kHz以上15kHz未満。
C:5kHz以上11kHz未満。
D:5kHz未満。
【0146】
[5-2]記録物の光沢値
まず、前記各実施例および各比較例のインクジェットインクを用いて、それぞれ、以下のようにして、記録物を製造した。
【0147】
すなわち、まず、インクジェットインクをインクジェット装置に投入し、当該インクジェット装置を用いて、2mm厚のポリカーボネート製の板状の記録媒体上に、Duty90%で、インクジェットインクを吐出して印刷部を形成することにより、記録物を得た。なお、Duty100%で約8mg/inch2の付着量とした。
【0148】
上記のようにして得られた前記各実施例および各比較例に係る記録物の印刷部について、光沢度計であるMINOLTA MULTI GLOSS 268を用い、煽り角度60°での光沢度を測定し、以下の基準に従い評価した。この値が大きいほど光沢性に優れていると言える。C以上を良好なレベルとした。
【0149】
A:光沢度が450以上。
B:光沢度が430以上450未満。
C:光沢度が400以上430未満。
D:光沢度が350以上400未満。
E:光沢度が350未満。
【0150】
[5-3]保存安定性評価
[5-3-1]インクジェットインクの加熱
前記各実施例および各比較例で得られたインクジェットインクについて、それぞれ、60℃×10日間の加熱処理を施し、その後、室温まで徐冷した。
【0151】
その後、これらの加熱処理を施したインクジェットインクを用いて、それぞれ、上記[5-2]で説明したのと同様にして、記録物を製造した。
【0152】
このようにして得られた各記録物について目視による観察を行い、以下の基準に従い評価した。B以上を良好なレベルとした。
【0153】
A:優れた光沢を示し、光沢ムラもまったく認められない。
B:優れた光沢を示し、光沢ムラもほとんど認められない。
C:光沢感が劣る。または、光沢ムラがはっきりと認められる。
【0154】
[5-3-2]インクジェットインク製造用原液の加熱
前記各実施例および各比較例で得られたインクジェットインク製造用原液、すなわち、実施例A1~A18および比較例A1~A5のインクジェットインク製造用原液について、それぞれ、60℃×10日間の加熱処理を施し、その後、室温まで徐冷した。
【0155】
次に、これらの加熱処理を施したインクジェットインク製造用原液を用いた以外は、前記と同様にして、実施例B1~B22および比較例B1~B5に対応する27種類のインクジェットインクを製造した。
【0156】
その後、これらのインクジェットインクを用いて、それぞれ、上記[5-2]で説明したのと同様にして、記録物を製造した。
【0157】
このようにして得られた各記録物について目視による観察を行い、以下の基準に従い評価した。B以上を良好なレベルとした。
【0158】
A:優れた光沢を示し、光沢ムラもまったく認められない。
B:優れた光沢を示し、光沢ムラもほとんど認められない。
C:光沢感が劣る。または、光沢ムラがはっきりと認められる。
これらの結果を表5、表6に示す。
【0159】
【0160】
【0161】
表5、表6から明らかなように、本発明のインクジェット用組成物は、吐出安定性に優れ、製造される記録物の光沢感を優れたものとすることができるものであった。また、本発明のインクジェット用組成物は、過酷条件下で保存した場合であっても、吐出安定性に優れており、記録物の光沢感を優れたものとすることができた。このようなことから、本発明のインクジェット用組成物は、過酷条件下で保存した場合だけでなく、長期間保存した場合であっても、優れた吐出安定性を保持することができ、製造される記録物の光沢感を優れたものとすることができると考えられる。これに対して、比較例では、満足な結果が得られなかった。