(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】インクジェット用インクセットおよび記録方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/40 20140101AFI20231108BHJP
C09D 11/32 20140101ALI20231108BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20231108BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20231108BHJP
C09C 1/62 20060101ALI20231108BHJP
C09C 3/08 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
C09D11/40
C09D11/32
B41J2/01 501
B41M5/00 120
B41M5/00 100
C09C1/62
C09C3/08
(21)【出願番号】P 2019180773
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】木田 浩明
(72)【発明者】
【氏名】瀧口 宏志
(72)【発明者】
【氏名】窪田 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】松本 晃
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-168946(JP,A)
【文献】特開2013-159646(JP,A)
【文献】特開2015-108110(JP,A)
【文献】特開2013-227454(JP,A)
【文献】特開2013-144807(JP,A)
【文献】特開2010-018651(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
B41J 2/01
B41M 5/00
C09C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のインクを、インクジェット法により吐出し、記録媒体に付着させる第1の付着工程と、
第2のインクを、インクジェット法により吐出し、前記第1のインクが付着した前記記録媒体に付着させる第2の付着工程と、
を備える記録方法に用いられるインクジェット用インクセットであって、
前記第1のインクは、複数個の金属粒子
および第1の界面活性剤を含有
し、
前記第2のインクは、金属材料以外の着色剤
および前記第1の界面活性剤とは異なる組成の第2の界面活性剤を含
み、
前記第1の界面活性剤の0.1質量%ジエチレングリコールジエチルエーテル溶液である第1の界面活性剤溶液、および、前記第2の界面活性剤の0.1質量%ジエチレングリコールジエチルエーテル溶液である第2の界面活性剤溶液を用意したとき、前記第1の界面活性剤溶液の表面張力は、前記第2の界面活性剤溶液の表面張力よりも低いものであり、
前記第1のインクの表面張力が、前記第2のインクの表面張力より低い、インクジェット用インクセット。
【請求項2】
前記第1のインクが、前記金属粒子の表面を修飾する表面処理剤として、リン系表面処理剤およびポリオキシアルキレンアミン化合物のうちの少なくとも1種を含有するものである請求項1に記載のインクジェット用インクセット。
【請求項3】
前記第2のインクの表面張力と、前記第1のインクの表面張力との差が、0.5mN/m以上である、請求項1または2に記載のインクジェット用インクセット。
【請求項4】
前記第1のインクおよび前記第2のインクが、いずれも、溶剤系インクである、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のインクジェット用インクセット。
【請求項5】
前記金属粒子が、鱗片状をなすものである、請求項1ないし
4のいずれか1項に記載のインクジェット用インクセット。
【請求項6】
複数個の金属粒子を含有する第1のインクを、インクジェット法により吐出し、記録媒体に付着させる第1の付着工程と、
金属材料以外の着色剤を含む第2のインクを、インクジェット法により吐出し、前記第1のインクが付着した前記記録媒体に付着させる第2の付着工程と、を備え、
前記第1のインクの表面張力が、前記第2のインクの表面張力より低い、記録方法。
【請求項7】
前記第1のインクが、前記金属粒子の表面を修飾する表面処理剤として、リン系表面処理剤およびポリオキシアルキレンアミン化合物のうちの少なくとも1種を含有するものである、請求項
6に記載の記録方法。
【請求項8】
前記第2のインクの表面張力と、前記第1のインクの表面張力との差が、0.5mN/m以上である、請求項
6または7に記載の記録方法。
【請求項9】
前記第1のインクおよび前記第2のインクが、いずれも、溶剤系インクである、請求項
6ないし
8のいずれか1項に記載の記録方法。
【請求項10】
前記第1のインクが第1の界面活性剤を含むものであり、
前記第2のインクが前記第1の界面活性剤とは異なる組成の第2の界面活性剤を含むものであり、
前記第1の界面活性剤の0.1質量%ジエチレングリコールジエチルエーテル溶液である第1の界面活性剤溶液、および、前記第2の界面活性剤の0.1質量%ジエチレングリコールジエチルエーテル溶液である第2の界面活性剤溶液を用意したとき、前記第1の界面活性剤溶液の表面張力は、前記第2の界面活性剤溶液の表面張力よりも低いものである、請求項
6ないし
9のいずれか1項に記載の記録方法。
【請求項11】
前記金属粒子が、鱗片状をなすものである、請求項
6ないし
10のいずれか1項に記載の記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用インクセットおよび記録方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、光沢感のある外観を呈する装飾品の製造方法として、金属めっきや、金属箔を用いた箔押し印刷、金属箔を用いた熱転写等が用いられてきた。
【0003】
しかし、これらの方法では、微細なパターンを形成することや、曲面部への適用が困難であるといった問題があった。
【0004】
他方、顔料または染料を含む組成物を、インクジェット法により、記録媒体に付与する記録方法が用いられている。このような方法では、微細なパターンの形成や、曲面部への記録にも好適に適用できるという点で優れている。
【0005】
そして、金属粒子を含むインクと、金属粒子ではない顔料や染料を含むカラーインクとを併用して、金属光沢を有する着色層、いわゆるメタリックカラーの印刷層を有する記録物を製造することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、金属粒子を含むインクと、カラーインクとを併用しても、形成される印刷層の光沢感を十分に優れたものとすることができないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の適用例として実現することができる。
【0009】
本発明の適用例に係るインクジェット用インクセットは、
第1のインクを、インクジェット法により吐出し、記録媒体に付着させる第1の付着工程と、
第2のインクを、インクジェット法により吐出し、前記第1のインクが付着した前記記録媒体に付着させる第2の付着工程と、
を備える記録方法に用いられるインクジェット用インクセットであって、
前記第1のインクは、複数個の金属粒子および第1の界面活性剤を含有し、
前記第2のインクは、金属材料以外の着色剤および前記第1の界面活性剤とは異なる組成の第2の界面活性剤を含み、
前記第1の界面活性剤の0.1質量%ジエチレングリコールジエチルエーテル溶液である第1の界面活性剤溶液、および、前記第2の界面活性剤の0.1質量%ジエチレングリコールジエチルエーテル溶液である第2の界面活性剤溶液を用意したとき、前記第1の界面活性剤溶液の表面張力は、前記第2の界面活性剤溶液の表面張力よりも低いものであり、
前記第1のインクの表面張力が、前記第2のインクの表面張力より低い。
【0010】
また、本発明の他の適用例に係るインクジェット用インクセットは、前記第1のインクが、前記金属粒子の表面を修飾する表面処理剤として、リン系表面処理剤およびポリオキシアルキレンアミン化合物のうちの少なくとも1種を含有するものである。
【0011】
また、本発明の他の適用例に係るインクジェット用インクセットは、前記第2のインクの表面張力と、前記第1のインクの表面張力との差が、0.5mN/m以上である。
【0012】
また、本発明の他の適用例に係るインクジェット用インクセットは、前記第1のインクおよび前記第2のインクが、いずれも、溶剤系インクである。
【0014】
また、本発明の他の適用例に係るインクジェット用インクセットは、前記金属粒子は、鱗片状をなすものである。
【0015】
本発明の適用例に係る記録方法は、複数個の金属粒子を含有する第1のインクを、インクジェット法により吐出し、記録媒体に付着させる第1の付着工程と、
金属材料以外の着色剤を含む第2のインクを、インクジェット法により吐出し、前記第1のインクが付着した前記記録媒体に付着させる第2の付着工程と、を備え、
前記第1のインクの表面張力が、前記第2のインクの表面張力より低い。
【0016】
また、本発明の他の適用例に係る記録方法は、前記第1のインクが、前記金属粒子の表面を修飾する表面処理剤として、リン系表面処理剤およびポリオキシアルキレンアミン化合物のうちの少なくとも1種を含有するものである。
【0017】
また、本発明の他の適用例に係る記録方法は、前記第2のインクの表面張力と、前記第1のインクの表面張力との差が、0.5mN/m以上である。
【0018】
また、本発明の他の適用例に係る記録方法は、前記第1のインクおよび前記第2のインクが、いずれも、溶剤系インクである。
【0019】
また、本発明の他の適用例に係る記録方法は、前記第1のインクが第1の界面活性剤を含むものであり、
前記第2のインクが前記第1の界面活性剤とは異なる組成の第2の界面活性剤を含むものであり、
前記第1の界面活性剤の0.1質量%ジエチレングリコールジエチルエーテル溶液である第1の界面活性剤溶液、および、前記第2の界面活性剤の0.1質量%ジエチレングリコールジエチルエーテル溶液である第2の界面活性剤溶液を用意したとき、前記第1の界面活性剤溶液の表面張力は、前記第2の界面活性剤溶液の表面張力よりも低いものである。
【0020】
また、本発明の他の適用例に係る記録方法は、前記金属粒子が、鱗片状をなすものである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
[1]記録方法
まず、本発明の記録方法について説明する。
【0022】
本発明の記録方法、言い換えると、記録物の製造方法は、複数個の金属粒子を含有する第1のインクを、インクジェット法により吐出し、記録媒体に付着させる第1の付着工程と、金属材料以外の着色剤を含む第2のインクを、インクジェット法により吐出し、第1のインクが付着した記録媒体に付着させる第2の付着工程とを備えている。そして、第1のインクの表面張力が、前記第2のインクの表面張力より低い。言い換えると、本発明の記録方法では、複数個の金属粒子を含有する第1のインクと、金属材料以外の着色剤を含み、かつ、第1のインクの表面張力よりも表面張力が大きい第2のインクとを備えるインクジェット用インクセットを用いる。
【0023】
これにより、光沢感に優れたメタリックカラーの印刷層を有する記録物の製造に好適に用いることができる記録方法を提供することができる。以下のような理由によるものと考えられる。
【0024】
通常の着色剤を含むインクでは、着色剤を含む異なる組成の複数種のインクが重なり合うようにインクジェット法により吐出する場合、上層に位置するインクのほうが、下層に位置するインクよりも表面張力が低い方が良い場合がある。例えば、上層に位置するインクの表面張力を、下層に位置するインクの表面張力よりも低いものとすることにより、下層のインク上で、上層のインクが好適に濡れ広がり、上層のインクの濡れ広がりが不足する場合に発生する線の細りといった、不本意な画像の劣化を防止することができる。
【0025】
一方、複数個の金属粒子を含有する第1のインクと、金属材料以外の着色剤を含む第2のインクとを組み合わせて用いる場合、メタリックカラーの印刷層を形成するためには、記録媒体上に付与された第1のインク上に、第2のインクを付与する必要がある。
【0026】
このような第1のインクと第2のインクとの組み合わせにおいて、第1のインクの表面張力が、第2のインクの表面張力より低いと、第1のインク上に第2のインクが付与されると、第1のインク中に含まれる金属粒子の配列が乱され、光沢感が著しく低下するという問題を生じることを見出した。そして、本発明者は、鋭意研究の結果、金属粒子を含有する第1のインクの表面張力を、金属材料以外の着色剤を含む第2のインクの表面張力より低いものとすることにより、第1のインク中に含まれる金属粒子の配列が乱され、光沢感が低下するという問題の発生を効果的に防止することができることを見出し、本発明に至った。複数個の金属粒子を含有する第1のインク上に、金属材料以外の着色剤を含む第2のインクを付与し、第1のインクよりも第2のインクのほうが表面張力が高いことで、第2のインクが、第1のインクに過度に浸透してしまうことを抑制することができ、また、第2のインクの濡れ広がりを、むしろ制御することで、第1のインクの金属光沢感の低下を防止し、不本意な色むら等も効果的に防止することができることを見出した。
【0027】
これに対し、上記の条件を満足しない場合には、前述したような優れた効果が得られない。
【0028】
例えば、第1のインクの表面張力が、第2のインクの表面張力と同一である場合や、第2のインクの表面張力よりも高い場合には、光沢感に優れたメタリックカラーの印刷層を形成することができない。
【0029】
なお、本発明において、第1のインクおよび第2のインクについての表面張力とは、同一条件で測定される値のことを言い、具体的には、20℃において、Wilhelmy法(プレート法、垂直板法)に準拠して測定される値のことを言う。静的表面張力である。例えば、協和界面科学社製の表面張力計DYシリーズを用いて測定することができる。
【0030】
このように、20℃において、第1のインクと第2のインクとが、表面張力について所定の関係を満足することにより、通常、第1の付着工程および第2の付着工程の条件においても、上記の表面張力について所定の関係を満足するものとなり、前述したような効果が確実に発揮される。
【0031】
なお、以下の説明では、第1のインクおよび第2のインクを総称して、単に、インクということがある。
【0032】
また、第1のインクおよび第2のインクの表面張力は、例えば、これらの構成成分やそれらの含有率等により、好適に調整することができる。特に、後に詳述する界面活性剤の組成や含有率により、第1のインクおよび第2のインクの表面張力をより好適に調整することができる。
【0033】
前述したように、第1のインクの表面張力は、第2のインクの表面張力より低ければよいが、第2のインクの表面張力と第1のインクの表面張力との差の下限は、0.5mN/mであるのが好ましく、1.0mN/mであるのがより好ましく、2.0mN/mであるのがさらに好ましい。また、第2のインクの表面張力と第1のインクの表面張力との差の上限は、15mN/mであるのが好ましく、10mN/mであるのがより好ましく、5mN/mであるのがさらに好ましい。
【0034】
これにより、第1のインクおよび第2のインクの構成成分の選択の幅を広げつつ、前述した効果をより顕著に発揮させることができる。
【0035】
以下、本発明の記録方法の各工程について説明する。なお、第1のインクと第2のインクとを備えるインクジェット用インクセットについては、各工程の説明の後に詳述する。
【0036】
[1-1]第1のインク吐出工程
第1の付着工程では、複数個の金属粒子を含有する第1のインクを、インクジェット法により吐出し記録媒体に付着させる。
【0037】
記録媒体は、いかなるものであってもよく、吸収性または非吸収性のいずれを用いてもよく、例えば、普通紙、インクジェット用専用紙等の紙、プラスチック材料、金属、セラミックス、木材、貝殻、綿、ポリエステル、ウール等の天然繊維・合成繊維、不織布等を用いることができる。また、記録媒体の形状は、特に限定されず、シート状等、いかなるものであってもよい。
【0038】
インクジェット法の方式としては、ピエゾ方式や、インクを加熱して発生した泡によりインクを吐出させる方式等を用いることができるが、インクの変質のし難さ等の観点から、ピエゾ方式が好ましい。
【0039】
インクジェット法としてピエゾ方式を採用する場合、第1のインクを吐出する際のピエゾ素子の駆動波形や振動数、インクジェット法により吐出される第1のインクの液滴の大きさ等の各種条件は、特に限定されず、適宜調整することができる。
【0040】
第1のインクを吐出する際の雰囲気の温度の下限は、特に限定されないが、5℃であるのが好ましく、10℃であるのがより好ましく、15℃であるのがさらに好ましい。また、第1のインクを吐出する際の雰囲気の温度の上限は、特に限定されないが、50℃であるのが好ましく、40℃であるのがより好ましく、35℃であるのがさらに好ましい。
【0041】
これにより、第1のインクの吐出安定性をより優れたものとしつつ、記録物の製造条件においても前述したような表面張力の関係をより確実に満足させることができる。
【0042】
第1のインクを吐出する際の記録媒体の温度の下限は、特に限定されないが、5℃であるのが好ましく、10℃であるのがより好ましく、15℃であるのがさらに好ましい。また、第1のインクを吐出する際の記録媒体の温度の上限は、特に限定されないが、70℃であるのが好ましく、65℃であるのがより好ましく、60℃であるのがさらに好ましい。
【0043】
これにより、記録媒体への第1のインクの濡れ性をより好適なものとしつつ、記録物の製造条件においても前述したような表面張力の関係をより確実に満足させることができる。
【0044】
インクジェット法による第1のインクの吐出は、公知の液滴吐出装置を用いて行うことができる。
【0045】
本工程では、少なくとも1種の第1のインクを用いればよく、複数種の第1のインクを用いてもよい。
【0046】
[1-2]第2のインク吐出工程
第2の付着工程では、金属材料以外の着色剤を含む第2のインクを、インクジェット法により吐出し、第1のインクが付着した記録媒体に付着させる。
【0047】
本工程において、第2のインクは、少なくともその一部が、記録媒体に付着した第1のインクと重なるように吐出される。
【0048】
これにより、第1のインクの上に、第2のインクが重なり、記録媒体のインクを付着させた側から見た時に、金属光沢感を有する第1のインクの層の手前に、第2のインクが付着していることにより、第2のインクにより着色された金属光沢感を有する画像が視認できる。例えばカラーメタリック色である。
【0049】
インクジェット法としてピエゾ方式を採用する場合、第2のインクを吐出する際のピエゾ素子の駆動波形や振動数、インクジェット法により吐出される第2のインクの液滴の大きさ等の各種条件は、特に限定されず、適宜調整することができる。
【0050】
第2のインクを吐出する際の雰囲気の温度の下限は、特に限定されないが、5℃であるのが好ましく、10℃であるのがより好ましく、15℃であるのがさらに好ましい。また、第2のインクを吐出する際の雰囲気の温度の上限は、特に限定されないが、50℃であるのが好ましく、40℃であるのがより好ましく、35℃であるのがさらに好ましい。
【0051】
これにより、第2のインクの吐出安定性をより優れたものとしつつ、記録物の製造条件においても前述したような表面張力の関係をより確実に満足させることができる。
【0052】
第1の付着工程で第1のインクを吐出する際の雰囲気の温度TA1[℃]、第2の付着工程で第2のインクを吐出する際の雰囲気の温度TA2[℃]としたとき、TA1-TA2の絶対値は、20℃以下であるのが好ましく、15℃以下であるのがより好ましく、10℃以下であるのがさらに好ましく、さらに5℃以下が好ましく、よりさらには3℃以下が好ましい。
【0053】
これにより、インクジェット用インクセットにより形成される印刷層の光沢感をより優れたものとすることができる。
【0054】
第2のインクを吐出する際の記録媒体の温度の下限は、特に限定されないが、5℃であるのが好ましく、10℃であるのがより好ましく、15℃であるのがさらに好ましい。また、第2のインクを吐出する際の記録媒体の温度の上限は、特に限定されないが、70℃であるのが好ましく、65℃であるのがより好ましく、60℃であるのがさらに好ましい。
【0055】
これにより、第1のインクが付与された記録媒体への第2のインクの濡れ性をより好適なものとしつつ、記録物の製造条件においても前述したような表面張力の関係をより確実に満足させることができる。
【0056】
第1の付着工程で第1のインクを吐出する際の記録媒体の温度TM1[℃]、第2の付着工程で第2のインクを吐出する際の記録媒体の温度TM2[℃]としたとき、TM1-TM2の絶対値は、20℃以下であるのが好ましく、15℃以下であるのがより好ましく、10℃以下であるのがさらに好ましい。
【0057】
これにより、インクジェット用インクセットにより形成される印刷層の光沢感をより優れたものとすることができる。
【0058】
インクジェット法による第2のインクの吐出は、公知の液滴吐出装置を用いて行うことができるが、第1のインクと同一の装置を用いて行うのが好ましい。
【0059】
これにより、記録物の生産性をより優れたものとすることができる。また、第1のインクによるパターンと、第2のインクによるパターンとの位置合わせをより容易に行うことができる。
【0060】
本工程では、少なくとも1種の第2のインクを用いればよく、複数種の第2のインクを用いてもよい。
【0061】
なお、本発明の記録方法では、前述した第1の付着工程および第2の付着工程以外の工程を備えていてもよい。例えば、第1の付着工程に先立って記録媒体に前処理を行う前処理工程を有していてもよい。また、第1の付着工程で付与された第1のインクから溶剤を除去する工程、第2の付着工程で付与した第2のインクから液性媒体を除去する工程を、中間処理工程または後処理工程として有していてもよい。
【0062】
また、本発明においては、記録媒体上の任意の部位で、第1の付着工程の後に第2の付着工程を行えばよく、例えば、記録媒体上の異なる部位で、第1の付着工程と、第2の付着工程とを同時進行的に行ってもよい。また、記録媒体上の任意の部位で、第1の付着工程および第2の付着工程を行った後に、当該部位で、さらに、第1の付着工程を行ってもよい。
【0063】
[2]インクジェット用インクセット
次に、本発明のインクジェット用インクセットについて説明する。
【0064】
本発明のインクジェット用インクセットは、複数個の金属粒子を含有する第1のインクと、金属材料以外の着色剤を含み、第1のインクの表面張力よりも表面張力が高い第2のインクとを備える。そして、前述したようなインクジェットによる記録方法に適用されるものである。
【0065】
言い換えると、本発明のインクジェット用インクセットは、インクジェット法により吐出する複数種のインクを備えるインクジェット用インクセットであって、複数個の金属粒子を含有する第1のインクと、金属材料以外の着色剤を含む第2のインクと、を備え、前記第1のインクの表面張力が、前記第2のインクの表面張力より低い。
【0066】
これにより、光沢感に優れたメタリックカラーの印刷層を有する記録物の製造に好適に用いることができるインクジェット用インクセットを提供することができる。
【0067】
[2-1]第1のインク
第1のインクは、複数個の金属粒子を含有するインクである。
そして、第1のインクの表面張力は、第2のインクの表面張力よりも低いものである。
【0068】
第1のインクの表面張力の下限は、特に限定されないが、15mN/mであるのが好ましく、18mN/mであるのがより好ましく、19mN/mであるのがさらに好ましい。また、第1のインクの表面張力の上限は、特に限定されないが、28mN/mであるのが好ましく、26mN/mであるのがより好ましく、24mN/mであるのがさらに好ましい。
【0069】
これにより、インクジェット法による吐出安定性をより優れたものとしつつ、記録媒体上で第1のインクをより好適に濡れ広がらせることができる。また、前述したような表面張力の関係をより好適に満足させることができる。
【0070】
[2-1-1]金属粒子
第1のインクは、複数個の金属粒子を含有している。複数個の金属粒子は、大きさや形状や材質が同じである金属粒子を複数個含有していてもよいし、大きさや形状や材質が異なる金属粒子を複数個含有していてもよい。
【0071】
金属粒子は、外観上視認される部位の少なくとも一部が金属材料で構成されたものであり、通常、外表面付近が金属材料で構成されたものである。
【0072】
金属粒子は、インクジェット用インクセットを用いて製造される記録物において、その外観、特に光沢感に大きな影響を与える成分である。
【0073】
金属粒子は、少なくとも、表面付近を含む領域が金属材料で構成されたものであればよく、例えば、全体が金属材料で構成されたものであってもよいし、非金属材料で構成された基部と、当該基部を被覆する金属材料で構成された被膜とを有するものであってもよい。また、金属粒子は、その表面に不働態膜のような酸化被膜等が形成されていてもよい。
【0074】
金属粒子を構成する金属材料としては、単体としての金属や各種合金等を用いることができる。例えば、アルミニウム、銀、金、白金、ニッケル、クロム、錫、亜鉛、インジウム、チタン、鉄、銅などがあげられる。これらのうち、金属粒子は、アルミニウムまたはアルミニウム合金で構成されたものであるのが好ましい。アルミニウム、アルミニウム合金が好ましい理由として、鉄等と比べて低い比重であることが挙げられる。これにより、アルミニウムまたはアルミニウム合金で構成された粒子を第1のインク中に分散させた場合の沈降が非常にゆっくり進行するため、濃度むらの発生等を効果的に防止しつつより長期間にわたって第1のインクを保管することができる。
【0075】
加えて、記録物の生産コストの上昇を抑制しつつ、記録物の光沢感、高級感を特に優れたものとすることができる。
【0076】
金属粒子は、球状、紡錘形状、針状等、いかなる形状のものであってもよいが、鱗片状をなすものであるのが好ましい。
【0077】
これにより、第1のインクが付与される記録媒体上で、当該金属粒子の主面が記録媒体の表面形状に沿うように配置することができる。その結果、金属粒子を構成する金属材料が本来有している光沢感等を、得られる記録物においてもより効果的に発揮させることができ、形成される印刷部の光沢感、高級感を特に優れたものとすることができるとともに、記録物の耐擦性を特に優れたものとすることができる。
【0078】
本発明において、鱗片状とは、平板状、湾曲板状等のように、所定の角度から観察した際、例えば、平面視した際の面積が、当該観察方向と直交する角度から観察した際の面積よりも大きい形状のことをいう。特に、投影面積が最大となる方向から観察した際、すなわち、平面視した際の面積S1[μm2]と、当該観察方向と直交する方向のうち観察した際の面積が最大となる方向から観察した際の面積S0[μm2]に対する比率S1/S0が、好ましくは2以上であり、より好ましくは5以上であり、さらに好ましくは8以上である。この値としては、例えば、任意の50個の粒子について観察を行い、これらの粒子についての算出される値の平均値を採用することができる。観察は、例えば電子顕微鏡、原子間力顕微鏡などを用いて行うことができる。
【0079】
金属粒子が鱗片状をなすものである場合、金属粒子の平均厚さの下限は、特に限定されないが、5nmであるのが好ましく、15nmであるのがより好ましい。また、金属粒子が鱗片状をなすものである場合、金属粒子の平均厚さの下限は、特に限定されないが、90nmであるのが好ましく、70nmであるのがより好ましい。さらには50nm以下が好ましく、30nm以下がより好ましい。
【0080】
これにより、上述したような粒子が鱗片状であることによる効果がより顕著に発揮される。
【0081】
金属粒子の体積平均粒子径の下限は、特に限定されないが、0.20μmであるのが好ましく、0.25μmであるのがより好ましく、0.30μmであるのがさらに好ましい。また、金属粒子の体積平均粒子径の上限は、特に限定されないが、1.00μmであるのが好ましく、0.90μmであるのがより好ましく、0.80μmであるのがさらに好ましい。
【0082】
これにより、第1のインクの保存安定性、吐出安定性をより優れたものとしつつ、第1のインクを用いて製造される記録物における不本意な色むらの発生等をより効果的に防止することができる。
【0083】
なお、本発明において、体積平均粒子径とは、粒子分散液をレーザー回折・散乱法を用いて測定された体積分布のメジアン径のことを指し、多数個の測定結果を大きさ毎の存在比率の累積として表した場合に、累積でちょうど中央値の50%を示す粒子のサイズである。金属粒子が鱗片状をなすものである場合、体積平均粒子径は、金属粒子を平面視した際の形状、大きさに基づいて求められるものとする。
【0084】
また、第1のインクに含まれる金属粒子の微粒子側からの体積累積分布率90%での粒径D90の下限は、0.40μmであるのが好ましく、0.45μmであるのがより好ましく、0.50μmであるのがさらに好ましい。さらには0.55μm以上が好ましく0.60μm以上が好ましい。
【0085】
また、第1のインクに含まれる金属粒子の微粒子側からの体積累積分布率90%での粒径D90の上限は、1.75μmであるのが好ましく、1.60μmであるのがより好ましく、1.50μmであるのがさらに好ましい。
【0086】
これにより、第1のインクの保存安定性、吐出安定性をより優れたものとしつつ、第1のインクを用いて製造される記録物における不本意な色むらの発生等をより効果的に防止することができる。
【0087】
第1のインク中における金属粒子の含有率の下限は、特に限定されないが、0.1質量%であるのが好ましく、0.2質量%であるのがより好ましく、0.3質量%であるのがさらに好ましい。また、第1のインク中における金属粒子の含有率の上限は、特に限定されないが、5.0質量%であるのが好ましく、4.0質量%であるのがより好ましく、3.0質量%であるのがさらに好ましい。
【0088】
これにより、インクジェット法による第1のインクの吐出安定性を特に優れたものとすることができるとともに、第1のインクを用いて形成される印刷部の光沢感を特に優れたものとすることができる。
【0089】
金属粒子は、いかなる方法で製造されたものであってもよいが、Alで構成されたものである場合には、気相成膜法によりAlで構成された膜を形成し、その後、当該膜を粉砕することにより得られたものであるのが好ましい。これにより、本発明のインクジェット用インクセットを用いて形成される印刷部において、Alが本来有している光沢感等をより効果的に表現させることができる。また、各粒子間での特性のばらつきを抑制することができる。また、当該方法を用いることにより、比較的薄い金属粒子であっても好適に製造することができる。
【0090】
このような方法を用いて金属粒子を製造する場合、例えば、基材上に、Alで構成された膜の形成を行うことにより、金属粒子を好適に製造することができる。前記基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のプラスチックフィルム等を用いることができる。また、基材は、成膜面に離型剤層を有するものであってもよい。
【0091】
また、前記粉砕は、液体中において、前記膜に超音波振動を付与することにより行われるものであるのが好ましい。これにより、後述するような粒径の金属粒子を容易かつ確実に得ることができるとともに、各金属粒子間での大きさ、形状、特性のばらつきの発生を抑制することができる。
【0092】
また、上記のような方法で、粉砕を行う場合、前記液体としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、n-ヘプタン、n-オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカン、トルエン、キシレン、シメン、デュレン、インデン、ジペンテン、テトラヒドロナフタレン、デカヒドロナフタレン、シクロヘキシルベンゼン等の炭化水素系化合物、またエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールn-ブチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、ビス(2-メトキシエチル)エーテル、p-ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系化合物、さらにプロピレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、シクロヘキサノン、アセトニトリル等の極性化合物を好適に用いることができる。このような液体を用いることにより、金属粒子の不本意な酸化等を防止しつつ、金属粒子の生産性を特に優れたものとし、また、各粒子間での大きさ、形状、特性のばらつきを特に小さいものとすることができる。
【0093】
[2-1-2]表面処理剤
第1のインクは、金属粒子の表面を修飾する表面処理剤を含んでいてもよい。
【0094】
これにより、第1のインク中における金属粒子の分散安定性、第1のインクの保存安定性、吐出安定性等を向上させることができる。
【0095】
表面処理剤としては、例えば、炭素数が2以上4以下の置換基を有していてもよいアルキル基を有する短鎖化合物、炭素数が8以上20以下の置換基を有していてもよいアルキル基を有する長鎖化合物、シラン化合物、リン系化合物、カルボン酸、イソシアネート化合物等を用いることができる。リン系化合物は、リンを含有する化合物であればよいが、例えば、リン酸誘導体、ホスホン酸誘導体、ホスフィン酸誘導体などが好ましい。誘導体としては、互変異性体、エステル化物、エーテル化物、構造式中の数素原子が有機置換基で置き換えられたもの、などがあげられる。これらは、界面活性剤などとして利用されるものも用いることができる。
【0096】
短鎖化合物が有するアルキル基および/または長鎖化合物が有するアルキル基が置換基を有するものである場合、当該置換基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基等のハロゲノ基、水酸基等が挙げられる。
【0097】
シラン化合物としては、ケイ素原子に、水素原子および/または炭化水素基が直接結合した構造を有する化合物を用いることができる。ただし、ここでの炭化水素基は、水素原子の一部または全部が他の原子または原子団で置換されたものであってもよい。
【0098】
リン系化合物としては、例えば、炭素数が6以上のアルキル基を、分子内に少なくとも1つ有する化合物、すなわち、長鎖アルキル系リン系化合物を用いることができる。
【0099】
カルボン酸としては、炭化水素基と、カルボキシル基とを有する化合物、すなわち、脂肪酸を好適に用いることができる。このような化合物の具体例としては、デカン酸、テトラデカン酸、オクタデカン酸、cis-9-オクタデセン酸等を挙げることができる。
【0100】
イソシアネート化合物としては、-N=C=Oで表される部分構造を有する化合物を用いることができる。
【0101】
また、表面処理剤としては、例えば、フッ素系化合物を用いてもよい。
また、フッ素系化合物は、分子内に少なくとも1個のフッ素原子を含むものであればよいが、より具体的には、例えば、上述したような短鎖化合物、長鎖化合物、シラン化合物、リン系化合物、カルボン酸、イソシアネート化合物が有する水素原子の少なくとも一部がフッ素原子で置換された構造を有する化合物等が挙げられる。
【0102】
中でも、表面処理剤は、炭素数3以上のアルキル基または該アルキル基の水素原子がフッ素原子に置換したフッ素アルキル基を有するものが好ましい。該アルキル基の炭素数の下限は、5であるのが好ましく、8であるのがより好ましい。また、該アルキル基の炭素数の上限は、30であるのが好ましく、20であるのがより好ましく、15であるのがさらに好ましい。
【0103】
上記のリン系化合物が、これらの置換基を有する場合、例えば、リン系化合物のリン原子に結合していた水素原子が置換されたもの、リン系化合物のリン原子に結合していた水酸基の水素原子が置換されたもの、などがあげられる。
【0104】
特に、第1のインクは、表面処理剤として、リン系表面処理剤およびポリオキシアルキレンアミン化合物のうちの少なくとも1種を含有するものであるのが好ましい。
【0105】
これにより、第1のインク中における金属粒子の分散安定性、第1のインクの吐出安定性をより優れたものとすることができる。また、第1のインクを前述したような表面張力を有するものとしてより好適に調製することができる。
【0106】
特に、第1のインクが、リン系表面処理剤およびポリオキシアルキレンアミン化合物の両方を含有するものであると、第1のインク中における金属粒子の分散安定性、特に、第1のインクを長期保存した場合や過酷条件で保存した場合の金属粒子の分散安定性や、第1のインクの吐出安定性をさらに優れたものとすることができる。また、第1のインクを前述したような表面張力を有するものとしてさらに好適に調製することができる。
【0107】
リン系表面処理剤としては、例えば、リン酸またはホスホン酸の一部が置換された構造を有し、例えば、フッ素原子、炭素数が3以上のアルキル基等が導入された化合物等が好ましく挙げられる。
【0108】
中でも、リン系表面処理剤は、分子内に、少なくとも1個のフッ素原子を有するリン系化合物であるフッ素系リン化合物であるのが好ましい。
【0109】
これにより、第1のインク中での金属粒子の分散安定性をより優れたものとすることができる。また、リン系表面処理剤とポリオキシアルキレンアミン化合物とを併用する場合に、リン系表面処理剤とポリオキシアルキレンアミン化合物とを併用することによる前述したような相乗効果がより顕著に発揮される。より具体的には、第1のインクの保存安定性、吐出安定性、インクジェット用インクセットを用いて製造される記録物の光沢感等をさらに優れたものとすることができる。
【0110】
リン系表面処理剤がフッ素系リン化合物である場合、当該フッ素系リン化合物は、パーフルオロアルキル構造を有するものであるのが好ましい。
【0111】
これにより、第1のインクの保存安定性をさらに優れたものとし、インクジェット用インクセットを用いて製造される記録物の印刷部の光沢感、耐擦性をさらに優れたものとすることができる。
【0112】
第1のインクは、リン系表面処理剤として、複数種の化合物を含んでいてもよい。このような場合、同一の金属粒子に複数種のリン系表面処理剤による表面処理が施されていてもよい。また、第1のインクは、金属粒子として、互いに異なるリン系表面処理剤で表面処理されたものを含んでいてもよい。
【0113】
また、リン系表面処理剤による金属粒子への表面処理は、例えば、前述したように、気相成膜法により形成した金属製の膜を液体中で粉砕して金属粒子を形成する際に、当該液体中にリン系表面処理剤を含ませておくことにより行うものであってもよい。
【0114】
同一の粒子に対し、複数種のリン系表面処理剤による表面処理を施す場合、各リン系表面処理剤に対応する複数の工程に分けて表面処理を行ってもよいし、同一工程で、複数種のリン系表面処理剤による表面処理を行ってもよい。
【0115】
第1のインク中におけるリン系表面処理剤の含有率の下限は、特に限定されないが、0.01質量%であるのが好ましく、0.02質量%であるのがより好ましく、0.04質量%であるのがさらに好ましい。また、第1のインク中におけるリン系表面処理剤の含有率の上限は、特に限定されないが、3.0質量%であるのが好ましく、2.0質量%であるのがより好ましく、1.5質量%であるのがさらに好ましい。
【0116】
これにより、インクジェット法による第1のインクの吐出安定性を特に優れたものとすることができるとともに、インクジェット用インクセットを用いて形成される印刷部の光沢感を特に優れたものとすることができる。
【0117】
第1のインク中における金属粒子の含有率をXM[質量%]、第1のインク中におけるリン系表面処理剤の含有率をXP[質量%]としたとき、XP/XMの値の下限は、特に限定されないが、0.01であるのが好ましく、0.02であるのがより好ましく、0.03であるのがさらに好ましい。また、XP/XMの値の上限は、特に限定されないが、1であるのが好ましく、0.9であるのがより好ましく、0.8であるのがさらに好ましい。
【0118】
これにより、インクジェット法による第1のインクの吐出安定性を特に優れたものとすることができるとともに、インクジェット用インクセットを用いて形成される印刷部の光沢感を特に優れたものとすることができる。
【0119】
ポリオキシアルキレンアミン化合物は、分子内にポリオキシアルキレン構造を有するアミン化合物であれば、いかなるものであってもよいが、下記式(1)で示される化合物、およびその塩、下記式(2)で示される化合物、その塩のうちの少なくとも1種であるのが好ましい。
【0120】
【化1】
(式(1)中、Rは水素原子または炭素数が3以下のアルキル基であり、xは10以上の数である。また、式(1)中、Rの条件が異なる複数種のオキシアルキレンユニットを備えていてもよい。)
【0121】
【化2】
(式(2)中、R1、R2、R3は、それぞれ、独立に、炭素数が3以下のアルキル基であり、nは10以上の数である。)
【0122】
これにより、第1のインクの保存安定性をより優れたものとすることができ、第1のインクを、長期間保存した場合や過酷条件下で保存した場合における、第1のインクの吐出安定性や製造される記録物の光沢感をより優れたものとすることができる。
【0123】
上記式(1)中のRは、水素原子または炭素数が3以下のアルキル基であればよいが、水素原子、メチル基であるのが好ましく、下記式(3)で示される化合物であるのがより好ましい。
【0124】
【化3】
(式(3)中、X1、X2は独立して1以上の整数であり、X1+X2は10以上の数である。また、式(3)中、オキシエチレンユニットとオキシプロピレンユニットの順番は問わない。)
【0125】
これにより、第1のインクの保存安定性をさらに優れたものとすることができ、第1のインクを長期間保存した場合や過酷条件下で保存した場合における第1のインクの吐出安定性や製造される記録物の光沢感をさらに優れたものとすることができる。
【0126】
また、上記式(2)におけるX2に対するX1の比率であるX1/X2の値、すなわち、ポリオキシアルキレンアミン化合物の分子内におけるオキシプロピレンユニットの物質量に対するオキシエチレンユニットの物質量の比率の下限は、0.05であるのが好ましく、0.15であるのがより好ましく、0.70であるのがさらに好ましい。また、X1/X2の値の上限は、10.00であるのが好ましく、8.00であるのがより好ましく、6.00であるのがさらに好ましい。
【0127】
これにより、第1のインクの保存安定性をさらに優れたものとすることができ、第1のインクを長期間保存した場合や過酷条件下で保存した場合における第1のインクの吐出安定性や製造される記録物の光沢感をさらに優れたものとすることができる。
【0128】
上記のように、上記式(3)中におけるオキシエチレンユニットとオキシプロピレンユニットの順番は問わない。より具体的には、上記式(3)では、連続するオキシエチレンユニットの末端にアミノ基が結合しており、連続するオキシプロピレンユニットの末端にメチル基が結合しているが、連続するオキシプロピレンユニットの末端にアミノ基が結合しており、連続するオキシエチレンユニットの末端にメチル基が結合していてもよい。また、上記式(3)で示される化合物は、ブロック共重合体であってもよいし、ランダム共重合体であってもよい。
【0129】
上記式(2)中のR1、R2、R3は、それぞれ、独立に、炭素数が3以下のアルキル基であればよいが、メチル基、エチル基であるのが好ましく、特に、R1、R2、R3のうちの1つがメチル基であり、残りの2つがエチル基であるのがより好ましい。
【0130】
これにより、第1のインクの保存安定性をさらに優れたものとすることができ、第1のインク長期間保存した場合や過酷条件下で保存した場合における第1のインクの吐出安定性や製造される記録物の光沢感をさらに優れたものとすることができる。
【0131】
上記式(2)中のR1、R2、R3のうちの1つがメチル基であり、残りの2つがエチル基である化合物を下記式(4)に示す。
【0132】
【化4】
(式(4)中、nは10以上の数である。)
【0133】
また、上記式(2)、上記式(4)中には示していないが、これらの化合物は、これらの式中に示す陽イオンに対応する陰イオンを備えている。当該陰イオンとしては、例えば、塩化物イオン、臭化物イオン等のハロゲン化イオン、水酸化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン等が挙げられる。
【0134】
ポリオキシアルキレンアミン化合物の重量平均分子量の下限は、特に限定されないが、300であるのが好ましく、500であるのがより好ましく、800であるのがさらに好ましく、1000以上であるのがもっとも好ましい。また、ポリオキシアルキレンアミン化合物の重量平均分子量の上限は、特に限定されないが、8000であるのが好ましく、5000であるのがより好ましく、3000であるのがさらに好ましい。
【0135】
これにより、第1のインクの保存安定性をさらに優れたものとすることができ、第1のインクを長期間保存した場合や過酷条件下で保存した場合における第1のインクの吐出安定性や製造される記録物の光沢感をさらに優れたものとすることができる。
【0136】
第1のインクは、ポリオキシアルキレンアミン化合物として、複数種の化合物を含んでいてもよい。このような場合、同一の金属粒子に複数種のポリオキシアルキレンアミン化合物による表面処理が施されていてもよい。また、第1のインクは、金属粒子として、互いに異なるポリオキシアルキレンアミン化合物で表面処理されたものを含んでいてもよい。
【0137】
また、ポリオキシアルキレンアミン化合物による金属粒子への表面処理は、例えば、前述したように、気相成膜法により形成した金属製の膜を液体中で粉砕して金属粒子を形成する際に、当該液体中にポリオキシアルキレンアミン化合物を含ませておくことにより行うものであってもよい。
【0138】
同一の粒子に対し、複数種のポリオキシアルキレンアミン化合物による表面処理を施す場合、各ポリオキシアルキレンアミン化合物に対応する複数の工程に分けて表面処理を行ってもよいし、同一工程で、複数種のポリオキシアルキレンアミン化合物による表面処理を行ってもよい。
【0139】
また、第1のインクがリン系表面処理剤およびポリオキシアルキレンアミン化合物を含むものである場合、ポリオキシアルキレンアミン化合物による表面処理は、リン系表面処理剤による表面処理と、同一工程で行ってもよいし、異なる工程で行ってもよい。ポリオキシアルキレンアミン化合物による表面処理は、リン系表面処理剤による表面処理の工程より先に行ってもよいし、リン系表面処理剤による表面処理の工程より後に行ってもよい。
【0140】
第1のインク中におけるポリオキシアルキレンアミン化合物の含有率の下限は、特に限定されないが、0.01質量%であるのが好ましく、0.06質量%であるのがより好ましく、0.10質量%であるのがさらに好ましい。また、第1のインク中におけるポリオキシアルキレンアミン化合物の含有率の上限は、特に限定されないが、1.0質量%であるのが好ましく、0.70質量%であるのがより好ましく、0.50質量%であるのがさらに好ましい。
【0141】
これにより、インクジェット法による第1のインクの吐出安定性を特に優れたものとすることができるとともに、インクジェット用インクセットを用いて形成される印刷部の光沢感を特に優れたものとすることができる。
【0142】
第1のインク中におけるリン系表面処理剤の含有率をXP[質量%]、第1のインク中におけるポリオキシアルキレンアミン化合物の含有率をXA[質量%]としたとき、XA/XPの値の下限は、0.10であるのが好ましく、0.40であるのがより好ましく、2.0であるのがさらに好ましい。また、XA/XPの値の上限は、10.0であるのが好ましく、8.0であるのがより好ましく、6.0であるのがさらに好ましい。
【0143】
これにより、第1のインクの保存安定性をさらに優れたものとすることができ、第1のインクを長期間保存した場合や過酷条件下で保存した場合における第1のインクの吐出安定性や製造される記録物の光沢感をさらに優れたものとすることができる。
【0144】
[2-1-3]分散媒
第1のインクは、金属粒子を分散する分散媒を含んでいる。
これにより、インクジェットによる第1のインクの吐出が可能となる。
【0145】
第1のインクは、分散媒として、水を含むものであってもよいが、有機溶媒、いわゆる溶剤を含むものであるのが好ましい。言い換えると、第1のインクは、溶剤系インクであるのが好ましい。溶剤系インクは、インクの溶媒成分として溶剤を含み、水を溶媒成分としていないインクをいう。溶剤の含有量はインクに30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましい。溶剤としては有機溶剤が好ましい。溶剤系インクの水の含有量は1質量%以下であり、0.5質量%以下が好ましい。
【0146】
これにより、記録媒体へ浸透作用がより向上し、密着性がより向上する。その一方で、第1のインクが溶剤系インクであると、通常、第2の付着工程で第2のインクが付与される時点で、記録媒体に付与された第1のインク中には、比較的多くの分散媒が残存している。このような状態で、第1のインクに第2のインクを重ね合わせるように付着させると、従来においては、金属粒子の配列が特に乱れやすく、記録物の金属光沢が低下するという問題が特に顕著に発生していた。これに対して、本発明では、第1のインクが溶剤系インクであっても、上記のような問題の発生を十分に防止することができる。すなわち、第1のインクが溶剤系インクである場合に、本発明による効果がより顕著に発揮される。
【0147】
溶剤としては、例えば、エステル化合物、エーテル化合物、ヒドロキシケトン、炭酸ジエステル、環状アミド化合物等を用いることができる。より具体的には、溶剤として用いることのできる化合物としては、例えば、2-(2-メトキシ-1-メチルエトキシ)-1-メチルエチルアセテート、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、4-メチル-1,3-ジオキソラン-2-オン、ビス(2-ブトキシエチル)エーテル、グルタル酸ジメチル、エチレングリコールジn-ブチレート、1,3-ブチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、1,6-ジアセトキシヘキサン、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ブトキシプロパノール、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルブチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールメチルブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、3-エトキシプロピオン酸エチル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、3-メトキシブチルアセテート、ジエチレングリコールジエチルエーテル、オクタン酸エチル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテル、酢酸シクロヘキシル、こはく酸ジエチル、エチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、こはく酸ジメチル、1-ブトキシ-2-プロパノール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、3-メトキシ-n-ブチルアセテート、ジアセチン、ジプロピレングリコールモノn-プロピルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ブチルグリコレート、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールモノn-ブチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドン、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、ビス(2-プロポキシエチル)エーテル、ジエチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルプロピルエーテル、ジエチレングリコールエチルプロピルエーテル、ジエチレングリコールメチルプロピルエーテル、ジエチレングリコールプロピルエーテルアセテート、トリエチレングリコールメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールエチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールプロピルエーテルアセテート、トリエチレングリコールブチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールブチルエチルエーテル、トリエチレングリコールエチルメチルエーテル、トリエチレングリコールエチルプロピルエーテル、トリエチレングリコールメチルプロピルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、n-ノニルアルコール、ジエチレングリコールモノノルマルブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコール2-エチルヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル、トリプロピレングリコールモノn-ブチルエーテル、ブチルセロソルブアセテート、γ-ブチロラクトン等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0148】
中でも溶剤としては、ジエチレングリコールジエチルエーテルおよびジエチレングリコールメチルエチルエーテルのうちの少なくとも一方を含んでいるのが好ましい。
【0149】
これにより、第1のインクの保存安定性をさらに優れたものとすることができ、第1のインクを長期間保存した場合や過酷条件下で保存した場合における第1のインクの吐出安定性や製造される記録物の光沢感をさらに優れたものとすることができる。また、第1のインクを前述したような表面張力を有するものとしてより好適に調製することができる。
【0150】
第1のインクを構成する溶剤全体に占めるジエチレングリコールジエチルエーテルの含有率およびジエチレングリコールメチルエチルエーテルの含有率の和の割合は、20質量%以上であるのが好ましく、30質量%以上であるのがより好ましく、40質量%以上であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0151】
第1のインク中における溶剤の含有率の下限は、特に限定されないが、60質量%であるのが好ましく、70質量%であるのがより好ましく、80質量%であるのがさらに好ましい。また、第1のインク中における溶剤の含有率の上限は、特に限定されないが、99.8質量%であるのが好ましく、99.5質量%であるのがより好ましく、99.0質量%であるのがさらに好ましい。
【0152】
[2-1-4]界面活性剤
第1のインクは、界面活性剤を含んでいてもよい。
これにより、第1のインクの表面張力をより好適に調整することができる。
【0153】
以下の説明では、第1のインクが含んでいる界面活性剤を第1の界面活性剤という。
第1の界面活性剤は、1種の成分であってもよいし、複数種の成分であってもよい。
【0154】
第1の界面活性剤としては、例えば、アクリル系界面活性剤、アセチレン系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0155】
中でも、第1の界面活性剤は、シリコーン系界面活性剤およびフッ素系界面活性剤のうちの少なくとも一方を含んでいるのが好ましく、フッ素系界面活性剤を含んでいるのがより好ましく、フッ素系界面活性剤の中でも、フッ素系オリゴマーを含んでいるのがさらに好ましい。
【0156】
これにより、第1のインクを前述したような表面張力を有するものとしてより好適に調製することができる。
【0157】
市販のフッ素系界面活性剤であるフッ素系オリゴマーとしては、例えば、メガファックR-40(DIC社製)、フタージェント710FL(ネオス社製)等が挙げられる。
【0158】
特に、第1のインクを構成する第1の界面活性剤中においてフッ素系界面活性剤の占める割合は、質量比で、50%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましく、90%以上であるのがさらに好ましい。
これにより、前述したような効果がより顕著に発揮される。
【0159】
第1のインク中における第1の界面活性剤の含有率の下限は、特に限定されないが、0.01質量%であるのが好ましく、0.02質量%であるのがより好ましく、0.03質量%であるのがさらに好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.1質量%がより好ましい。また、第1のインク中における第1の界面活性剤の含有率の上限は、特に限定されないが、0.7質量%であるのが好ましく、0.6質量%であるのがより好ましく、0.5質量%であるのがさらに好ましい。
【0160】
これにより、第1のインクを前述したような表面張力を有するものとしてより好適に調製することができるとともに、最終的に得られる記録物において、第1の界面活性剤が記録物の外観に悪影響を与えることをより好適に防止することができる。
【0161】
[2-1-5]その他の成分
第1のインクは、上述した以外の成分を含むものであってもよい。このような成分としては、例えば、レベリング剤、バインダー、重合促進剤、重合禁止剤、光重合開始剤、分散剤、浸透促進剤、保湿剤、着色剤、定着剤、防黴剤、防腐剤、酸化防止剤、キレート剤、増粘剤、増感剤等が挙げられる。バインダーとしては、樹脂があげられ、例えばウレタン樹脂、アクリル樹脂、エステル樹脂、などがあげられる。
【0162】
また、第1のインクが溶剤系インクである場合、前述した溶剤に加えて、少量の水を含んでいてもよい。ただし、この場合、第1のインク中における水の含有率は、1.0質量%以下であるのが好ましく、0.5質量%以下であるのがより好ましく、0.1質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0163】
振動式粘度計を用いて、JIS Z8809に準拠して測定される、第1のインクの20℃での粘度の上限は、特に限定されないが、25mPa・sであるのが好ましく、15mPa・sであるのがより好ましい。また、振動式粘度計を用いて、JIS Z8809に準拠して測定される、第1のインクの20℃での粘度の下限は、特に限定されないが、0.5mPa・sであるのが好ましい。
これにより、インクジェット法による液滴吐出をより好適に行うことができる。
インクジェット用インクセットは、複数種の第1のインクを備えていてもよい。
【0164】
また、後述するように、インクジェット用インクセットは、複数種の第2のインクを備えていてもよいが、複数種の第1のインクと複数種の第2のインクとを備える場合、記録物の製造時に、第1のインクと、当該第1のインクと重なり合うように吐出される特定の第2のインクとの組み合わせで、前記の表面張力の関係を満足すればよい。言い換えると、記録物の製造時に、重ね合わせて用いることの無い第1のインクと第2のインクとの間では、前述したような表面張力の関係を満足していなくてもよい。
【0165】
[2-2]第2のインク
第2のインクは、金属粒子を含有せず、金属材料以外の着色剤を含有するインクである。第2のインクの表面張力は、第1のインクの表面張力よりも高いものである。
【0166】
そして、第2のインクは、少なくともその一部が、記録媒体に付着した第1のインクと重なり合うように吐出されるものである。
【0167】
第2のインクの表面張力の下限は、特に限定されないが、20mN/mであるのが好ましく、22mN/mであるのがより好ましく、25mN/mであるのがさらに好ましい。また、第2のインクの表面張力の上限は、特に限定されないが、35mN/mであるのが好ましく、33mN/mであるのがより好ましく、31mN/mであるのがさらに好ましい。
【0168】
これにより、インクジェット法による吐出安定性をより優れたものとしつつ、第1のインクが付与された記録媒体上で第2のインクをより好適に濡れ広がらせることができる。また、前述したような表面張力の関係をより好適に満足させることができる。
【0169】
[2-2-1]着色剤
第2のインクは、金属材料以外の着色剤を含有している。着色剤は、粒子である場合、粒子の大きさや形状や材質が同じである着色剤を複数個含有していてもよいし、大きさや形状や材質が異なる着色剤を複数個含有していてもよい。
【0170】
このような着色剤としては、いわゆる金属顔料以外の各種顔料や各種染料等が挙げられる。
【0171】
顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド2,3,5,17,22,23,38,81,48:1,48:2,48:3,48:4,49:1,52:1,53:1,57:1,63:1,112,122,144,146,149,166,170,176,177,178,179,185,202,207,209,254,101,102,105,106,108,108:1、C.I.ピグメントグリーン7,36,15,17,18,19,26,50、C.I.ピグメントブルー1,15,15:1,15:2,15:3,15:4,15:6,17:1,18,60,27,28,29,35,36,80、C.I.ピグメントイエロー1,3,12,13,14,17,55,73,74,81,83,93,94,95,97,108,109,110,129,138,139,150,151,153,154,168,184,185,34,35,35:1,37,37:1,42,43,53,157、C.I.ピグメントバイオレット1,3,19,23,50,14,16、C.I.ピグメントオレンジ5,13,16,36,43,20,20:1,104、C.I.ピグメントブラウン25,7,11,33等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0172】
染料としては、例えば、アゾ染料、アントラキノン染料、縮合多環芳香族カルボニル染料、インジゴイド染料、カルボニウム染料、フタロシアニン染料、メチン,ポリメチン染料等が挙げられる。染料の具体例としては、例えば、C.I.ダイレクトレッド2,4,9,23,26,28,31,39,62,63,72,75,76,79,80,81,83,84,89,92,95,111,173,184,207,211,212,214,218,221,223,224,225,226,227,232,233,240,241,242,243,247、C.I.アシッドレッド35,42,51,52,57,62,80,82,111,114,118,119,127,128,131,143,145,151,154,157,158,211,249,254,257,261,263,266,289,299,301,305,319,336,337,361,396,397、C.I.リアクティブレッド3,13,17,19,21,22,23,24,29,35,37,40,41,43,45,49,55、C.I.ベーシックレッド12,13,14,15,18,22,23,24,25,27,29,35,36,38,39,45,46、C.I.ダイレクトバイオレット7,9,47,48,51,66,90,93,94,95,98,100,101、C.I.アシッドバイオレット5,9,11,34,43,47,48,51,75,90,103,126、C.I.リアクティブバイオレット1,3,4,5,6,7,8,9,16,17,22,23,24,26,27,33,34、C.I.ベーシックバイオレット1,2,3,7,10,15,16,20,21,25,27,28,35,37,39,40,48、C.I.ダイレクトイエロー8,9,11,12,27,28,29,33,35,39,41,44,50,53,58,59,68,87,93,95,96,98,100,106,108,109,110,130,142,144,161,163、C.I.アシッドイエロー17,19,23,25,39,40,42,44,49,50,61,64,76,79,110,127,135,143,151,159,169,174,190,195,196,197,199,218,219,222,227、C.I.リアクティブイエロー2,3,13,14,15,17,18,23,24,25,26,27,29,35,37,41,42、C.I.ベーシックイエロー1,2,4,11,13,14,15,19,21,23,24,25,28,29,32,36,39,40、C.I.アシッドグリーン16、C.I.アシッドブルー9,45,80,83,90,185、C.I.ベーシックオレンジ21,23等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0173】
第2のインク中における着色剤の含有率の下限は、特に限定されないが、0.2質量%であるのが好ましく、0.4質量%であるのがより好ましく、0.7質量%であるのがさらに好ましい。また、第2のインク中における着色剤の含有率の上限は、特に限定されないが、7.0質量%であるのが好ましく、6.0質量%であるのがより好ましく、5.0質量%であるのがさらに好ましい。
【0174】
これにより、インクジェット法による第2のインクの吐出安定性を特に優れたものとすることができるとともに、第2のインクを用いて形成される印刷部の発色性を特に優れたものとすることができる。
【0175】
[2-2-2]液性媒体
第2のインクは、着色剤を溶解または分散する液性媒体を含有している。言い換えると、第2のインクは、着色剤を溶解する溶媒または着色剤を分散する分散媒として機能する液性媒体を含有している。
これにより、インクジェットによる第2のインクの吐出が可能となる。
【0176】
第2のインクは、液性媒体として、水を含むものであってもよいが、有機溶媒、いわゆる溶剤を含むものであるのが好ましい。言い換えると、第2のインクは、溶剤系インクであるのが好ましい。
【0177】
これにより、記録媒体への浸透作用がより向上し、記録媒体との密着性がさらに向上する。
【0178】
特に、第1のインクとともに第2のインクが、溶剤系インクであると、記録媒体との密着性や記録物の耐擦性などの各種耐久性をより優れたものとすることができる。
【0179】
溶剤としては、例えば、エステル化合物、エーテル化合物、ヒドロキシケトン、炭酸ジエステル、環状アミド化合物等を用いることができる。より具体的には、溶剤として用いることのできる化合物としては、例えば、2-(2-メトキシ-1-メチルエトキシ)-1-メチルエチルアセテート、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、4-メチル-1,3-ジオキソラン-2-オン、ビス(2-ブトキシエチル)エーテル、グルタル酸ジメチル、エチレングリコールジn-ブチレート、1,3-ブチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、1,6-ジアセトキシヘキサン、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ブトキシプロパノール、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルブチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールメチルブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、3-エトキシプロピオン酸エチル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、3-メトキシブチルアセテート、ジエチレングリコールジエチルエーテル、オクタン酸エチル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテル、酢酸シクロヘキシル、こはく酸ジエチル、エチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、こはく酸ジメチル、1-ブトキシ-2-プロパノール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、3-メトキシ-n-ブチルアセテート、ジアセチン、ジプロピレングリコールモノn-プロピルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ブチルグリコレート、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールモノn-ブチルエーテル、N-メチル-2-ピロリドン、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、ビス(2-プロポキシエチル)エーテル、ジエチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルプロピルエーテル、ジエチレングリコールエチルプロピルエーテル、ジエチレングリコールメチルプロピルエーテル、ジエチレングリコールプロピルエーテルアセテート、トリエチレングリコールメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールエチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールプロピルエーテルアセテート、トリエチレングリコールブチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールブチルエチルエーテル、トリエチレングリコールエチルメチルエーテル、トリエチレングリコールエチルプロピルエーテル、トリエチレングリコールメチルプロピルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、n-ノニルアルコール、ジエチレングリコールモノノルマルブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコール2-エチルヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル、トリプロピレングリコールモノn-ブチルエーテル、ブチルセロソルブアセテート、γ-ブチロラクトン等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0180】
中でも溶剤としては、ジエチレングリコールジエチルエーテルおよびジエチレングリコールメチルエチルエーテルのうちの少なくとも一方を含んでいるのが好ましい。
【0181】
これにより、第2のインクを前述したような表面張力を有するものとしてより好適に調製することができる。また、第2のインクのインクジェット法による吐出安定性をより優れたものとすることができる。
【0182】
第2のインクを構成する溶剤全体に占めるジエチレングリコールジエチルエーテルの含有率およびジエチレングリコールメチルエチルエーテルの含有率の和の割合は、20質量%以上であるのが好ましく、30質量%以上であるのがより好ましく、40質量%以上であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0183】
第2のインク中における溶剤の含有率の下限は、特に限定されないが、60質量%であるのが好ましく、70質量%であるのがより好ましく、80質量%であるのがさらに好ましい。また、第2のインク中における溶剤の含有率の上限は、特に限定されないが、99.8質量%であるのが好ましく、99.5質量%であるのがより好ましく、99.0質量%であるのがさらに好ましい。
【0184】
[2-2-3]界面活性剤
第2のインクは、界面活性剤を含んでいてもよい。
これにより、第2のインクの表面張力をより好適に調整することができる。
【0185】
以下の説明では、第2のインクが含んでいる界面活性剤を第2の界面活性剤という。
第2の界面活性剤は、1種の成分であってもよいし、複数種の成分であってもよい。複数の界面活性剤である場合、第2のインクに含有している含有量比(質量比)に配合したものを第2の界面活性剤という。
【0186】
第2の界面活性剤としては、例えば、アクリル系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0187】
中でも、第2の界面活性剤は、シリコーン系界面活性剤を含んでいるのが好ましく、ポリエステル変性シロキサンおよびポリエーテル変性シロキサンのうち少なくとも一方を含んでいるのがより好ましい。
【0188】
これにより、第2のインクを前述したような表面張力を有するものとしてより好適に調製することができる。
【0189】
市販のシリコーン系界面活性剤であるポリエステル変性シロキサン、ポリエーテル変性シロキサンとしては、例えば、BYK-315N(ビックケミー・ジャパン社製)、BYK-325(ビックケミー・ジャパン社製)等が挙げられる。
【0190】
特に、第2のインクを構成する第2の界面活性剤中においてシリコーン系界面活性剤の占める割合は、質量比で、50%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましく、90%以上であるのがさらに好ましい。
これにより、前述したような効果がより顕著に発揮される。
【0191】
なお、界面活性剤の使い分けとして下記のようにすることもできる。
アクリル系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤>シリコーン系界面活性剤(ポリエステル変性のもの)>シリコーン系界面活性剤(ポリエステル変性以外のもの)>フッ素系界面活性剤
ここで、>で区切ったまとまりをグループとして、より左に位置するグループのものを第2の界面活性剤として用い、より右に位置するグループのものを第1の界面活性剤に用いることが、表面張力を調整しやすく好ましい。ここで、フッ素を構造中に含むものはフッ素系界面活性剤とする。フッ素を構造中に含まずケイ素を構造中に含むものはシリコーン系界面活性剤とする。また、複数種の界面活性剤を1つのインクに含む場合は、最も含有量の多いものを上記の関係とすれば、表面張力を調整しやすく好ましい。
【0192】
また、前述した第1のインクが第1の界面活性剤を含むものであり、第2のインクが第1の界面活性剤とは異なる組成の第2の界面活性剤を含むものであり、かつ、以下の条件を満足するのが好ましい。すなわち、まず、第1の界面活性剤の0.1質量%ジエチレングリコールジエチルエーテル溶液である第1の界面活性剤溶液、および、第2の界面活性剤の0.1質量%ジエチレングリコールジエチルエーテル溶液である第2の界面活性剤溶液を用意する。このとき、第1の界面活性剤溶液の表面張力は、第2の界面活性剤溶液の表面張力よりも低いものであるのが好ましい。界面活性剤溶液が、このような関係を満たすものであるような、第1の界面活性剤と第2の界面活性剤である場合、第1インクよりも第2インクの表面張力を高いものにしやすく好ましい。
【0193】
これにより、記録物の製造条件においても前述したような表面張力の関係をより確実に満足させることができる。
【0194】
なお、第1の界面活性剤および第2の界面活性剤が、いずれも、複数種の化合物で構成されている場合、第1の界面活性剤と第2の界面活性剤とで、共通の前記化合物を含んでいても、これらの化合物の比率が、第1の界面活性剤と第2の界面活性剤とで異なる場合には、第1の界面活性剤と第2の界面活性剤とは、異なる組成を有する。より具体的には、例えば、第1の界面活性剤が、化合物A、化合物Bおよび化合物Cを質量比で20:30:50の比率で含有するものであり、第2の界面活性剤が、化合物A、化合物Bおよび化合物Cを質量比で30:50:20の比率で含有するものである場合、第1の界面活性剤と第2の界面活性剤との組成は異なるものである。
【0195】
第2のインク中における第2の界面活性剤の含有率の下限は、特に限定されないが、0.01質量%であるのが好ましく、0.02質量%であるのがより好ましく、0.03質量%であるのがさらに好ましい。また、第2のインク中における第2の界面活性剤の含有率の上限は、特に限定されないが、0.7質量%であるのが好ましく、0.6質量%であるのがより好ましく、0.5質量%であるのがさらに好ましい。
【0196】
これにより、第2のインクを前述したような表面張力を有するものとしてより好適に調製することができるとともに、最終的に得られる記録物において、第2の界面活性剤が記録物の外観に悪影響を与えることをより好適に防止することができる。
【0197】
[2-2-4]その他の成分
第2のインクは、上述した以外の成分を含むものであってもよい。このような成分としては、例えば、レベリング剤、バインダー、重合促進剤、重合禁止剤、光重合開始剤、分散剤、溶解補助剤、浸透促進剤、保湿剤、着色剤、定着剤、防黴剤、防腐剤、酸化防止剤、キレート剤、増粘剤、増感剤等が挙げられる。
【0198】
また、第2のインクが溶剤系インクである場合、前述した溶剤に加えて、少量の水を含んでいてもよい。ただし、この場合、第2のインク中における水の含有率は、1.0質量%以下であるのが好ましく、0.5質量%以下であるのがより好ましく、0.1質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0199】
振動式粘度計を用いて、JIS Z8809に準拠して測定される、第2のインクの20℃での粘度の上限は、特に限定されないが、25mPa・sであるのが好ましく、15mPa・sであるのがより好ましい。また、振動式粘度計を用いて、JIS Z8809に準拠して測定される、第2のインクの20℃での粘度の下限は、特に限定されないが、0.5mPa・sであるのが好ましい。
これにより、インクジェット法による液滴吐出をより好適に行うことができる。
インクジェット用インクセットは、複数種の第2のインクを備えていてもよい。
【0200】
本発明のインクジェット用インクセットは、第1のインク、第2のインクに加えて、これら以外のインクを1種または2種以上備えていてもよい。このようなインクとしては、例えば、第1のインク、第2のインクで形成された印刷層をコートするコート層を形成するためのクリアインク等が挙げられる。
【0201】
[3]記録物
次に、本発明に係る記録物について説明する。
【0202】
本発明に係る記録物は、上述したようなインクジェット用インクセットを構成するインクをインクジェット法により記録媒体上に付与することにより製造されたものであり、上述したような本発明の記録方法を用いて製造されたものである。
このような記録物は、光沢感に優れたメタリックカラーの印刷層を有するものである。
【0203】
本発明に係る記録物は、いかなる用途のものであってもよく、例えば、装飾品やそれ以外に適用されるものであってもよい。本発明に係る記録物の具体例としては、コンソールリッド、スイッチベース、センタークラスター、インテリアパネル、エンブレム、センターコンソール、メーター銘板等の車両用内装品、各種電子機器の操作部、装飾性を発揮する装飾部、指標、ロゴ等の表示物等が挙げられる。
【0204】
以上、本発明について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0205】
例えば、前述した実施形態では、第1のインクおよび第2のインクのいずれもが、溶剤系インクである場合について中心的に説明したが、第1のインクおよび第2のインクのうちの少なくとも一方は、例えば、水系インクや、紫外線硬化型インク等のエネルギー線硬化型インク等であってもよい。
【実施例】
【0206】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
[4]インクジェット用インクセットの製造
(実施例1)
[4-1]第1のインクの製造
まず、表面粗さRaが0.02μm以下で表面が平滑なポリエチレンテレフタレート製のフィルムを用意した。
【0207】
次に、このフィルムの一方の面の全体に、アセトンにより可溶化させた離型樹脂をロールコーターによりコーティングすることで離型層を形成した。
【0208】
離型層が形成されたポリエチレンテレフタレート製のフィルムを5m/sの速度で真空蒸着装置内に搬送し、減圧下において、Alで構成された厚さ17.4nmの膜を形成した。
【0209】
次に、Alの膜が形成されたポリエチレンテレフタレート製のフィルムを、テトラヒドロフラン中に浸漬し、40kHzの超音波振動を付与することにより、Al製の金属粒子の集合体である金属粉末の分散液が得られた。
【0210】
次に、遠心分離機にてテトラヒドロフランを除去し、ジエチレングリコールジエチルエーテルを添加して金属粉末の含有率が5質量%の懸濁液を得た。
【0211】
次に、この懸濁液について、循環型の高出力超音波粉砕機で処理を施すことにより、所定の大きさになるまで金属粒子を粉砕した。当該処理では、20kHzの超音波を付与した。
【0212】
次に、前記懸濁液に、上記式(3)で示されるポリオキシアルキレンアミン化合物および上記式(4)で示されるポリオキシアルキレンアミン化合物を加えて、40kHzの超音波照射のもと55℃で1時間の熱処理を施すことにより、金属粒子の凝集を解して一次粒子の状態で、金属粒子を分散させた。ここで、上記式(3)で示されるポリオキシアルキレンアミン化合物としては、連続するオキシエチレンユニットの末端にアミノ基が結合し、連続するオキシプロピレンユニットの末端にメチル基が結合しているブロック共重合体で、式(3)においてX1/X2が3.1の条件を満足し、重量平均分子量が2000のものを用いた。また、上記式(4)で示されるポリオキシアルキレンアミン化合物としては、重量平均分子量が5000のものを用いた。
【0213】
さらに、そこに、リン系表面処理剤であるフッ素系リン化合物としてのFHPを用いた。FHPは、CF3(CF2)5(CH2)2-P(O)-(OH)2である。これを加えて、28kHz超音波照射下にて55℃で3時間の熱処理を施すことにより、第1のインク製造用原液を得た。
【0214】
このようにして得られた第1のインク製造用原液中に含まれる金属粒子の体積平均粒子径は0.49μmであった。また、第1のインク製造用原液に含まれる金属粒子の微粒子側からの体積累積分布率90%での粒径D90は0.80μmであった。
【0215】
上記のように調製した第1のインク製造用原液と、ジエチレングリコールジエチルエーテルと、トリエチレングリコールモノブチルエーテルと、γ-ブチロラクトンと、界面活性剤としてのBYK-333(ビックケミー・ジャパン社製)と、バインダーとしてのパラロイドB60(ダウ・ケミカル社製)とを所定の割合で混合した。これにより、表1に示すような組成の第1のインクを製造した。
【0216】
[4-2]第2のインクの製造
C.I.ピグメントブルー15:4の15.0質量%ジエチレングリコールジエチルエーテル分散液、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、γ-ブチロラクトン、パラロイドB60(ロームアンドハース社製)およびBYK-350(ビックケミー・ジャパン社製)を所定の割合で混合することにより、表2に示す組成の第2のインクを得た。
【0217】
これにより、1種の第1のインクと1種の第2のインクとからなるインクジェット用インクセットを得た。
【0218】
(実施例2~11)
第1のインクの調製に用いる原料の種類・比率を変更することにより、表1に示すような組成となるようにした以外は、前記実施例1と同様にして第1のインクを製造した。また、第2のインクの調製に用いる原料の種類・比率を変更することにより、表2に示すような組成となるようにした以外は、前記実施例1と同様にして第2のインクを製造した。これにより、第1のインクと第2のインクとからなるインクジェット用インクセットを得た。
【0219】
(比較例1~10)
第1のインクの調製に用いる原料の種類・比率を変更することにより、表1に示すような組成となるようにした以外は、前記実施例1と同様にして第1のインクを製造した。また、第2のインクの調製に用いる原料の種類・比率を変更することにより、表2に示すような組成となるようにした以外は、前記実施例1と同様にして第2のインクを製造した。これにより、第1のインクと第2のインクとからなるインクジェット用インクセットを得た。
【0220】
前記各実施例および各比較例について、インクジェット用インクセットを構成する第1のインクの組成を表1にまとめて示し、インクジェット用インクセットを構成する第2のインクの組成を表2にまとめて示した。なお、表中、C.I.ピグメントブルー15:4を「P.B.15:4」、ジエチレングリコールジエチルエーテルを「DEDG」、ジエチレングリコールメチルエチルエーテルを「MEDG」、γ-ブチロラクトンを「GBL」、ポリエチレングリコールモノブチルエーテルを「BTGH」、リン系表面処理剤であるフッ素系リン化合物としての上記に示すものを「FHP」、リン系表面処理剤であるアルキルリン化合物としてのJP-513(城北化学工業社製)を「JP513」、上記式(3)で示されるポリオキシアルキレンアミン化合物であって、X1とX2との間でX1/X2が3.1の条件を満足し、重量平均分子量が2000のものを「POAA1」、上記式(4)で示されるポリオキシアルキレンアミン化合物であって、重量平均分子量が5000のものを「POAA2」、界面活性剤としてのBYK-333(ビックケミー・ジャパン社製)を「BYK-333」、界面活性剤としてのBYK-3550(ビックケミー・ジャパン社製)を「BYK-3550」、界面活性剤としてのメガファックR-40(DIC社製)を「R-40」、界面活性剤としてのフタージェント710FL(ネオス社製)を「710FL」、界面活性剤としてのBYK-315N(ビックケミー・ジャパン社製)を「BYK-315N」、界面活性剤としてのディスパロンUVX-35(楠本化成社製)を「UVX-35」、界面活性剤としてのBYK-350(ビックケミー・ジャパン社製)を「BYK-350」、界面活性剤としてのBYK-325(ビックケミー・ジャパン社製)を「BYK-325」、界面活性剤としてのBYK-333(ビックケミー・ジャパン社製)を「BYK-333」、バインダーとしてのパラロイドB60(ダウ・ケミカル社製、アクリル系樹脂)を「B60」で示した。また、前記各実施例および各比較例のインクジェット用インクセットを構成する第1のインク中に含まれる金属粉末の大きさ、形状は、それぞれの原料として用いた第1のインク製造用原液中に含まれる金属粉末と同様の条件のものであった。また、振動式粘度計を用いて、JIS Z8809に準拠して測定された前記各実施例のインクジェット用インクセットを構成する第1のインクおよび第2のインクの20℃における粘度は、いずれも、0.5mPa・s以上15mPa・s以下の範囲内の値であった。また、POAA1は、連続するオキシエチレンユニットの末端にアミノ基が結合しており、連続するオキシプロピレンユニットの末端にメチル基が結合しているブロック共重合体であった。また、前記各実施例のインクジェット用インクセットを構成する第1のインク中に含まれる金属粉末に関して、それぞれ任意の50個の金属粒子について観察を行った。その結果、投影面積が最大となる方向から観察した際、すなわち、平面視した際の面積S1[μm2]と、当該観察方向と直交する方向のうち観察した際の面積が最大となる方向から観察した際の面積S0[μm2]に対する比率であるS1/S0を求め、これらの平均値を求めたところ、S1/S0の平均値は、いずれも、19以上であった。また、前記各実施例のインクジェット用インクセットの調整に用いた第1の界面活性剤および第2の界面活性剤について、それぞれ、0.1質量%ジエチレングリコールジエチルエーテル溶液を調製した。第1の界面活性剤の0.1質量%ジエチレングリコールジエチルエーテル溶液を第1の界面活性剤溶液、第2の界面活性剤の0.1質量%ジエチレングリコールジエチルエーテル溶液を第2の界面活性剤溶液とした。これらの溶液について、表面張力を測定したところ、いずれも、第1の界面活性剤溶液の表面張力は、第2の界面活性剤溶液の表面張力よりも低いものであった。同様に各比較例についても、それぞれ、第1の界面活性剤溶液、第2の界面活性剤溶液を調整して表面張力を確認したところ、第1の界面活性剤溶液の表面張力が、第2の界面活性剤溶液の表面張力より低いという関係を満たさなかった。
【0221】
表面張力は、協和界面科学社製 表面張力計 DY-300を用いて測定した。各インクも測定し値を表中に記す。
【0222】
【0223】
【0224】
[5]評価
[5-1]カラーメタリック評価
まず、前記各実施例および各比較例のインクジェット用インクセットを用いて、それぞれ、以下のようにして、記録物を製造した。
【0225】
まず、記録媒体として、塩化ビニル製のインクジェット用記録メディアを用意した。
また、インクジェット用インクセットを構成する第1のインクおよび第2のインクをインクジェット装置に投入し、当該インクジェット装置を用いて、以下のパターンで吐出した。第1のインクおよび第2のインクの吐出は、雰囲気温度、記録媒体の温度が40℃の状態で行った。
【0226】
すなわち、各記録媒体上に、1区画が3cm×3cmの領域を、10×10の行列状に仮想的に配置して、100個の領域を設けた。
【0227】
次に、第1行目の10個の領域に、第1のインクをインクジェット法により、duty10%で付与し、第2行目以降、dutyが10%ずつ増加するように第1のインクの付与量を増加させ、第10行目の10個の領域での第1のインクのdutyが100%となるようにした。なおduty100%が8mg/inch2の付着量とした。
【0228】
その後、上記のようにして第1のインクが付与された各領域について、以下のようにして第2のインクを付与した。すなわち、第1列目の10個の領域に、第2のインクをインクジェット法により、duty10%で付与し、第2列目以降、dutyが10%ずつ増加するように第2のインクの付与量を増加させ、第10列目の10個の領域での第2のインクのdutyが100%となるようにした。
【0229】
上記のようにして得られた前記各実施例および各比較例に係る記録物の各100個の領域について、光沢度計であるMINOLTA MULTI GLOSS 268を用い、煽り角度60°での光沢度を測定した。
【0230】
そして、比較例1の記録物をリファレンスとして、評価対象である記録物と比較例1の記録物との対応する領域同士、すなわち、両記録物で第1のインクのdutyが同一でかつ第2のインクのdutyも同一である領域同士についての光沢度を比較した。そして、比較例1の記録物の対応する領域に比べて光沢度が20以上上昇した領域を抽出し、以下の基準に従い評価した。この値が大きいほど、メタリックカラーの印刷層の光沢感に優れているといえる。C以上を良好なレベルとした。
【0231】
A:100個の領域のうち光沢度が20以上上昇した領域が20個以上である。
B:100個の領域のうち光沢度が20以上上昇した領域が10個以上19個以下である。
C:100個の領域のうち光沢度が20以上上昇した領域が5個以上9個以下である。
D:100個の領域のうち光沢度が20以上上昇した領域が1個以上4個以下である。
E:100個の領域のうち光沢度が20以上上昇した領域が存在しない。
【0232】
[5-2]第1のインクの単独評価(参考)
前記各実施例および各比較例のインクジェット用インクセットを構成する第1のインクを用い、第2のインクは用いなかった以外は上記[5-1]と同様にして、第1のインクのみをduty100%で付与して記録物を作成した。記録物を目視で観察し、以下の基準に従い評価した。
【0233】
A:金属光沢感が非常に優れている。
B:Aよりは劣るが金属光沢感が優れている。
C:金属光沢感が感じられるが弱い。
D:金属光沢感が若干感じられる程度。
【0234】
これらの結果を、前記各実施例および各比較例のインクジェット用インクセットを構成する第1のインクおよび第2のインクの表面張力、第2のインクの表面張力と第1のインクの表面張力との差とともに、表3に示す。
【0235】
【0236】
表3から明らかなように、本発明ではカラーメタリックの優れた結果が得られた。これに対して、比較例では、満足な結果が得られなかった。なお、第1のインクのみによる金属光沢感の評価においては、比較例においても優れていた例もあったが、カラーメタリック色の画像を記録する際に、本実施形態が必要であることがわかった。