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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】自動変速機の潤滑制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 25/12 20060101AFI20231108BHJP
   F16H 57/04 20100101ALI20231108BHJP
   F16H 59/72 20060101ALI20231108BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20231108BHJP
   F16H 61/68 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
F16D25/12 C
F16H57/04 G
F16H59/72
F16H61/02
F16H61/68
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019183702
(22)【出願日】2019-10-04
(65)【公開番号】P2021060059
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100197561
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 三喜男
(72)【発明者】
【氏名】木下 友和
(72)【発明者】
【氏名】原 翔太郎
(72)【発明者】
【氏名】安部 祥司
(72)【発明者】
【氏名】白砂 俊明
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-094106(JP,A)
【文献】特開2019-138355(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 25/00-39/00,48/00-48/12
F16H 57/00-61/12,61/16-61/24,
61/66-61/70,63/40-63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の発進時に締結される発進用摩擦締結要素と、
前記発進用摩擦締結要素以外の潤滑部と、
前記発進用摩擦締結要素及び前記潤滑部を潤滑するための潤滑油を冷却するオイルクーラと、を備えた自動変速機の潤滑制御装置であって、
前記オイルクーラを経由して前記潤滑部に潤滑油を供給するとともに、潤滑油の流量が変更可能な第1の潤滑回路と、
前記オイルクーラを経由せずに前記発進用摩擦締結要素に潤滑油を供給する第2の潤滑回路と、
潤滑油の温度を検出する潤滑油温度検出手段と、
前記潤滑油温度検出手段によって検出された潤滑油の温度が所定値以上の場合は、前記第1の潤滑回路の流量を増大させるように制御する制御手段と、を備え
前記発進用摩擦締結要素には、前記第1の潤滑回路における中間部から分岐した部分からなる部分回路が接続されていることを特徴とする自動変速機の潤滑制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記潤滑油温度検出手段によって検出された潤滑油の温度が所定値以上の場合に、前記第2の潤滑回路の流量を制限するように制御することを特徴とする請求項1に記載の自動変速機の潤滑制御装置。
【請求項3】
前記第1の潤滑回路における部分回路の流路面積は、前記第2の潤滑回路の流路面積よりも小さく形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の自動変速機の潤滑制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に搭載される自動変速機の潤滑制御装置に関し、特に、自動変速機の摩擦締結要素の潤滑構造の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、車両に搭載される自動変速機は、動力伝達経路を切り換えるための複数の摩擦締結要素と、これらの摩擦締結要素に対する作動油の給排を制御する複数のソレノイドバルブを備えた油圧制御装置とを有し、コントロールユニットからの信号でソレノイドバルブの作動を制御することにより、車両の運転状態に応じた変速段を実現するように構成されている。
【0003】
この種の自動変速機の摩擦締結要素の変速時における摩擦締結要素を解放状態から締結状態に変化させる場合、摩擦締結要素の入力側の回転数と出力側の回転数との間の差回転によって摩擦板が発熱し、耐久性を低下させる課題があるが、摩擦締結要素に潤滑油を供給することによって、摩擦板が冷却されて、耐久性が確保されている。
【0004】
潤滑油は、通例、自動変速機の下部に配置されるオイルパンに貯留される。潤滑油は、オイルパンと各摩擦締結要素との間の潤滑回路を介して各摩擦締結要素に供給される。各摩擦締結要素に供給された潤滑油は、各摩擦締結要素で吸熱することによって各摩擦締結要素を冷却する。各摩擦締結要素を冷却した潤滑油は、再びオイルパンに戻される。
【0005】
また、オイルパンに戻される潤滑油は、各摩擦締結要素で吸熱したことによって高油温となるが、特許文献1に開示されているように、潤滑油路には、通例、潤滑油を冷却するためのオイルクーラが介装されているため、各摩擦締結要素には、オイルクーラによって冷却された潤滑油が供給されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-26028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、この種の自動変速機の摩擦締結要素には、車両の発進時に締結される発進用摩擦締結要素が含まれるが、特にトルクコンバータが廃止された変速機では、円滑な発進のため、この発進用摩擦締結要素をいわゆる半クラッチ状態を経由して、滑らせながら徐々に締結する必要があり、このとき、摩擦板は摺動摩擦により発熱し、潤滑油の油温が上昇し易い。
【0008】
このように、潤滑油が高温となる場合、例えば、潤滑油の粘性の低下に伴って、シール部からのリークや軸受の焼き付き、及び、潤滑油の劣化等が生じる虞がある。また、オイルパン内に、熱害を受けやすい熱害対策部品(例えば、自動変速機の作動油の給排及び潤滑油の供給を制御する制御装置としてのトランスミッションコントロールユニット(TCM)等)が配置される場合等においても、高油温の潤滑油によって熱害対策部品に熱害を与える虞がある。
【0009】
そこで、本発明は、自動変速機の潤滑制御装置において、発進用摩擦締結要素の耐久性を確保しながら、潤滑油の温度の上昇を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、自動変速機の潤滑制御装置において、
車両の発進時に締結される発進用摩擦締結要素と、
前記発進用摩擦締結要素以外の潤滑部と、
前記発進用摩擦締結要素及び前記潤滑部を潤滑するための潤滑油を冷却するオイルクーラと、
前記オイルクーラを経由して前記潤滑部に潤滑油を供給するとともに、潤滑油の流量が変更可能な第1の潤滑回路と、
前記オイルクーラを経由せずに前記発進用摩擦締結要素に潤滑油を供給する第2の潤滑回路と、
潤滑油の温度を検出する潤滑油温度検出手段と、
前記潤滑油温度検出手段によって検出された潤滑油の温度が所定値以上の場合は、前記第1の潤滑回路の流量を増大させるように制御する制御手段と、を備え
前記発進用摩擦締結要素には、前記第1の潤滑回路における中間部から分岐した部分からなる部分回路が接続されていることを特徴とする自動変速機の潤滑制御装置。
【0011】
請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の発明において、
前記制御手段は、前記潤滑油温度検出手段によって検出された潤滑油の温度が所定値以上の場合に、前記第2の潤滑回路の流量を制限するように制御することを特徴とする。
【0012】
なお、ここでいう「潤滑油の流量を制限する」とは、「第2の潤滑回路を遮断すること」による「第2の潤滑回路を経由しないこと」を含む。
【0014】
請求項に記載の発明は、前記請求項1又は2に記載の発明において、
前記第1の潤滑回路における部分回路の流路面積は、前記第2の潤滑回路の流路面積よりも小さく形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、発進時等のスリップ状態による発熱のために高い冷却性能が要求される発進用摩擦締結要素に対しては、オイルクーラを経由しない第2の潤滑回路を介して潤滑油が供給される。第2の潤滑回路の管路抵抗は、オイルクーラを経由する場合に比して低減されるので、発進用摩擦締結要素に対して冷却に必要な潤滑油の流量が供給されて、発進用摩擦締結要素の耐久性が確保される。
【0016】
潤滑油がオイルクーラを経由しない第2の潤滑回路を有する自動変速機の潤滑制御装置においては、潤滑油が常にオイルクーラを経由する場合に比して、潤滑油の温度が上昇しやすくなるが、潤滑油の温度が所定値以上の場合は、第1の潤滑回路の流量が増大されるので、オイルクーラを経由する潤滑油の流量が増大されて潤滑油が冷却される。
【0017】
以上により、発進用摩擦締結要素の耐久性を確保しながら、潤滑油の温度の上昇を抑制することができる。
【0018】
その結果、潤滑油の温度を所定値未満にコントロールすることができるので、潤滑油の粘性の低下が抑制され、例えば、シール部からのリーク等の不具合が抑制され得る。また、例えば、オイルパン内に熱害対策部品等が配置された場合に、潤滑油の温度が所定値以上となることによる該熱害対策部品に対する熱害が抑制される。
また、発進用摩擦締結要素には、第2の潤滑回路に加えて、第1の潤滑回路における部分回路からも潤滑油が供給されるので、第2の潤滑回路が制限された場合においても、発進摩擦締結要素に対して潤滑油が供給される。したがって、潤滑油の温度が所定値以上の場合においても、発進用摩擦締結要素の耐久性を確保することができる。
【0019】
請求項2に記載の発明によれば、発進用摩擦締結要素に対して潤滑油を供給するための第2の潤滑回路の流量を制限することで、第2の潤滑回路の潤滑油の流量を制限しない場合に比して、第1の潤滑回路に流入する潤滑油の割合を増大できる。
【0020】
また、オイルクーラを経由しない第2の潤滑回路の流量を制限することで、オイルクーラを経由しないことによって、冷却されていない潤滑油が発進用摩擦締結要素に供給されることによる潤滑油の温度上昇が抑制できる。これにより、より効果的に潤滑油を冷却できる。
【0022】
請求項に記載の発明によれば、潤滑油の温度が所定値以上の場合かつ発進用摩擦締結要素の冷却要求が低い場合において、発進用摩擦締結要素の潤滑油による攪拌抵抗及び引きずり抵抗を抑制することができる。



【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態に係る自動変速機の骨子図である。
図2図1の自動変速機の締結表である。
図3】本発明の自動変速機における第2ブレーキ部分の断面図である。
図4】本発明の自動変速機における第1ブレーキ及び第1~第3クラッチ部分の断面図である。
図5】本発明における自動変速機の油圧回路の一部を示す回路図である。
図6】本発明における自動変速機の油圧回路の残りの部分を示す回路図である。
図7】本発明における自動変速機のシステム図である。
図8】本発明における自動変速機の潤滑油供給パターンを示す表である。
図9】本発明の自動変速機における各摩擦締結要素の温度の冷却特性の一例を示すマップである。
図10】本発明における自動変速機の潤滑油供給制御のフローチャートである。
図11図10のフローチャートにおける潤滑油供給パターン判定ステップの内容を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態に係る自動変速機10の詳細を説明する。
【0025】
図1は、本実施形態に係る自動変速機10の構成を示す骨子図である。この自動変速機10は、エンジンなどの駆動源にトルクコンバータなどの流体伝動装置を介することなく連結されている。自動変速機10は、変速機ケース11内に、駆動源に連結されて駆動源側(図の左側)に配設された入力軸12と、反駆動源側(図の右側)に配設された出力軸13とを有している。自動変速機10は、入力軸12と出力軸13とが同一軸線上に配置されたフロントエンジン・リヤドライブ車用の縦置き式のものである。
【0026】
入力軸12及び出力軸13の軸心上には、駆動源側から、第1、第2、第3、第4プラネタリギヤセット(以下、単に「第1、第2、第3、第4ギヤセット」という)PG1、PG2、PG3、PG4が配設されている。
【0027】
変速機ケース11内において、第1ギヤセットPG1の駆動源側に第1クラッチCL1が配設され、第1クラッチCL1の駆動源側に第2クラッチCL2が配設され、第2クラッチCL2の駆動源側に第3クラッチCL3が配設されている。また、第3クラッチCL3の駆動源側に第1ブレーキBR1が配設され、第3ギヤセットPG3の駆動源側且つ第2ギヤセットPG2の反駆動源側に第2ブレーキBR2が配設されている。
【0028】
第1、第2、第3、第4ギヤセットPG1、PG2、PG3、PG4は、いずれも、キャリヤに支持されたピニオンがサンギヤとリングギヤに直接噛合するシングルピニオン型である。第1、第2、第3、第4ギヤセットPG1、PG2、PG3、PG4は、回転要素として、サンギヤS1、S2、S3、S4と、リングギヤR1、R2、R3、R4と、キャリヤC1、C2、C3、C4とを有している。
【0029】
第1ギヤセットPG1は、サンギヤS1が軸方向に2分割されたダブルサンギヤ型である。サンギヤS1は、軸方向の駆動源側に配置された第1サンギヤS1aと、反駆動源側に配置された第2サンギヤS1bとを有している。第1及び第2サンギヤS1a、S1bは、同一歯数を有し、キャリヤC1に支持された同一ピニオンに噛合する。これにより、第1及び第2サンギヤS1a、S1bは、常に同一回転する。
【0030】
自動変速機10では、第1ギヤセットPG1のサンギヤS1、具体的には第2サンギヤS1bと第4ギヤセットPG4のサンギヤS4とが常時連結され、第1ギヤセットPG1のリングギヤR1と第2ギヤセットPG2のサンギヤS2とが常時連結され、第2ギヤセットPG2のキャリヤC2と第4ギヤセットPG4のキャリヤC4とが常時連結され、第3ギヤセットPG3のキャリヤC3と第4ギヤセットPG4のリングギヤR4とが常時連結されている。
【0031】
入力軸12は、第1ギヤセットPG1のキャリヤC1に第1サンギヤS1a及び第2サンギヤS1bの間を通じて常時連結され、出力軸13は、第4ギヤセットPG4のキャリヤC4に常時連結されている。具体的には、入力軸12は一対の第1サンギヤS1a、S1b間を通る動力伝達部材14を介して第1キャリヤC1に結合され、第4キャリヤC4と第2キャリヤC2は動力伝達部材15を介して結合されている。
【0032】
第1クラッチCL1は、入力軸12及び第1ギヤセットPG1のキャリヤC1と第3ギヤセットPG3のサンギヤS3との間に配設されて、これらを断接するようになっている。第2クラッチCL2は、第1ギヤセットPG1のリングギヤR1及び第2ギヤセットPG2のサンギヤS2と第3ギヤセットPG3のサンギヤS3との間に配設されて、これらを断接するようになっている。第3クラッチCL3は、第2ギヤセットPG2のリングギヤR2と第3ギヤセットPG3のサンギヤS3との間に配設されて、これらを断接するようになっている。
【0033】
第1ブレーキBR1は、変速機ケース11と第1ギヤセットPG1のサンギヤS1、具体的には第1サンギヤS1aとの間に配設されて、これらを断接するようになっている。第2ブレーキBR2は、変速機ケース11と第3ギヤセットPG3のリングギヤR3との間に配設されて、これらを断接するようになっている。
【0034】
以上の構成により、自動変速機10は、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、第3クラッチCL3、第1ブレーキBR1、第2ブレーキBR2の締結状態の組み合わせにより、図2に示すように、Dレンジでの1~8速と、Rレンジでの後退速とが形成されるようになっている。
【0035】
図3及び図4を用いて、第1及び第2ブレーキBR1、BR2、第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3の構造について説明する。
【0036】
図3に示すように、第1ブレーキBR1は、変速機ケース11から径方向内側に延びる縦壁部11aと一体的に設けられたドラム部材71aと、ドラム部材71aの径方向内側に設けられたハブ部材71bと、ハブ部材71bとドラム部材71aとの間に軸方向に並べて配置される複数の摩擦板71cと、複数の摩擦板71cの反駆動源側に配置されて複数の摩擦板71cを締結するピストン71dとを有している。
【0037】
第1ブレーキBR1は、ハブ部材71bの径方向内側にピストン71dを反駆動源側に付勢するリターンスプリング71eを備えている。
【0038】
ピストン71dと縦壁部11aとの間には、ピストン71dを締結方向に付勢する作動油が供給される締結油圧室(以下、「締結室」ともいう)P11が形成されている。縦壁部11aには、第1ブレーキBR1の締結室P11に作動油を供給するための締結用供給油路(以下、「締結油路」)L11が設けられている。締結油路L11を介して、図示しないバルブボディから締結室P11に作動油が供給されたときに複数の摩擦板71cが締結されて、第1ブレーキBR1のハブ部材71bが変速機ケース11に結合されるようになっている。
【0039】
第1ブレーキBR1のハブ部材71bは、径方向外側の円筒部71fと、該円筒部の駆動源側の端部から径方向内側に延びる縦壁部71gとを備えている。第1ブレーキBR1のハブ部材71bは、縦壁部71gの径方向内側の端部において動力伝達部材16を介してサンギヤS1aと接続されている。動力伝達部材16の径方向内側には、入力軸12が配置されている。
【0040】
動力伝達部材16及び入力軸12には、第1ブレーキBR1に潤滑油を供給するための潤滑油路L12が設けられている。潤滑油路L12は、バルブボディに連通する入力軸12の内に設けられた軸方向油路12a1と、入力軸12及び動力伝達部材16に設けられた径方向油路12a2、16aとを有する。バルブボディから供給される潤滑油は、潤滑油路L12を介して、第1ブレーキBR1に供給されるようになっている。
【0041】
図4に示すように、第2ブレーキBR2は、変速機ケース11に結合されるハブ部材72aと、ハブ部材72aの反駆動源側に配置されて第3ギヤセットPG3のリングギヤR3に結合されるドラム部材72bと、ハブ部材72aとドラム部材72bとの間に軸方向に並べて配置される複数の摩擦板72cと、複数の摩擦板72cの反駆動源側に配置されて複数の摩擦板72cを締結するピストン72dとを有している。
【0042】
第2ブレーキBR2は、摩擦板72cの径方向内側にピストン72dを付勢する作動油が供給される油圧室P21、P22を有している。油圧室P21、P22は、ピストン72dを締結方向に付勢する締結用作動油が供給される締結室P21と、ピストン72dを解放方向に付勢する解放用作動油が供給される解放室P22とを備えている。
【0043】
第2ブレーキBR2はまた、摩擦板72cの径方向内側にピストン72dに締結方向に付勢力を作用させるスプリング72eを備えている。
【0044】
第2ブレーキBR2のハブ部材72aは、摩擦板72cがスプライン係合されると共に変速機ケース11にスプライン係合される第1ハブ部材72fと、第1ハブ部材72fの駆動源側に配置されて変速機ケース11に嵌合されると共に第1ハブ部材72fより径方向内側に延びる第2ハブ部材72gと、第1ハブ部材72fより径方向内側において第2ハブ部材72gの反駆動側に結合される第3ハブ部材72hと、第1ハブ部材72fより径方向内側において第3ハブ部材72hの反駆動源側に結合される第4ハブ部材72iとを備えている。
【0045】
第1ハブ部材72fは、変速機ケース11の軸方向と直交する方向に延びて略円盤状に形成された縦壁部72f1と、縦壁部72f1の径方向内側において縦壁部72f1から反駆動源側に略円筒状に延びる円筒部72f2とを備えている。
【0046】
第1ハブ部材72fは、縦壁部72f1の外周面に形成された図示しないスプライン部が、変速機ケース11の図示しないスプライン部にスプライン係合されて変速機ケース11に結合されている。第1ハブ部材72fの円筒部72f2の外周面に設けられたスプライン部には、摩擦板72cがスプライン係合されている。
【0047】
第2ハブ部材72gは、変速機ケース11の軸方向と直交する方向に延びて略円盤状に形成された縦壁部72g1を備えている。第2ハブ部材72gの縦壁部72g1には、後述の締結室P21に締結用作動油を供給する締結油路L21と、解放室P22に解放用作動油を供給する解放油路L22と、摩擦板72cに潤滑用作動油を供給する潤滑油路L23が形成されている。
【0048】
締結油路L21、解放油路L22、及び、潤滑油路L23は、変速機ケース11の下方側に周方向に並んで配置され、第2ハブ部材72gは、締結油路L21、解放油路L22、及び、潤滑油路L23がそれぞれバルブボディ5に接続されるように形成されている。
【0049】
第3ハブ部材72hは、変速機ケース11の軸方向と直交する方向に延びて略円盤状に形成された縦壁部72h1と、縦壁部72h1の径方向外側から反駆動源側に略円筒状に延びる第1円筒部72h2と、縦壁部72h1の径方向内側から反駆動源側に略円筒状に延びる第2円筒部72h3とを備える。
【0050】
第3ハブ部材72hの第1円筒部72h2は、第1ハブ部材72fの円筒部72f2の径方向内側に設けられている。第3ハブ部材72hの第1円筒部72h2は、反駆動源側に第1ハブ部材72fの円筒部72f2の内周面に当接するように径方向外側に延びるフランジ部72h2’を備え、第1ハブ部材72fの第1円筒部72h2との間に潤滑用供給油路L21を形成するように設けられている。第3ハブ部材72hの第2円筒部72h3の外周側には、油圧室P21、P22が形成されている。
【0051】
第4ハブ部材72iは、変速機ケース11の軸方向と直交する方向に延びて略円盤状に形成され、第3ハブ部材72hの反駆動源側に配置されている。第4ハブ部材72iは、第3ハブ部材72hの第2円筒部72h3より径方向外側に延びるように形成され、第4ハブ部材72iの外周面がピストン72dに嵌合されている。
【0052】
ピストン72dは、第1ハブ部材72fの円筒部72f2とドラム部材72bとの間に配置されて第3ハブ部材72hの第2円筒部72h3の外周面に摺動自在に嵌合されている。ピストン72dは、環状に形成され、外周側に設けられて摩擦板72cを押圧する押圧部72d1と、内周側に設けられて油圧室P21、P22を形成する油圧室形成部72d2とを備えている。
【0053】
油圧室形成部72d2は、摩擦板70の反駆動源側から径方向内側に延びて第4ハブ部材72iの外周面に嵌合されるとともに、第3ハブ部材72hの第2円筒部72h3の外周面に嵌合されている。これにより、油圧室形成部72d2の反駆動源側の面と、第3ハブ部材72hの外周面と、第4ハブ部材72iの駆動源側の面とによって締結室P21が形成されている。油圧室形成部72d2の径方向内側の端部には、切欠き部72d3が設けられて、第2円筒部72h3と切欠き部72d3との間に解放室P22が形成されている。
【0054】
締結油路L21は、第2ハブ部材72gに設けられた径方向油路72g2と、第3ハブ部材72hに設けられた軸方向油路72h4と、第4ハブ部材72iに設けられた溝部72i1とを有する。バルブボディ5から供給された作動油は、締結油路L21を介して締結室P21に供給されるようになっている。
【0055】
解放油路L22は、第2ハブ部材72gに設けられた径方向油路72g3と、第3ハブ部材72hに設けられた軸方向油路72h5とを有する。バルブボディ5から供給された作動油は、締結油路L21を介して締結室P21に供給されるようになっている。
【0056】
潤滑油路L23は、第2ハブ部材72gに設けられた径方向油路72g4と、第3ハブ部材72hの第1円筒部72h2の外周面と第1ハブ部材72fの円筒部72f2の内周面との間に形成された周方向油路72h6とを有する。バルブボディ5から供給された潤滑油は、潤滑油路L23を介して摩擦板72cに供給されるようになっている。
【0057】
図3に示すように、第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3は、それぞれ、ハブ部材73a、74a、75aと、ドラム部材73b、74b、75bと、ハブ部材73a、74a、75aとドラム部材73b、74b、75bとの間に軸方向に並べて配置される複数の摩擦板73c、74c、75cと、複数の摩擦板73c、74c、75cの反駆動源側に配置されて複数の摩擦板73c、74c、75cを締結するピストン73d、74d、75dとを有している。
【0058】
複数の摩擦板73c、74c、75cよりも径方向内側には、締結室P31、P41、P51と、バランス室P32、P42、P52とが備えられている。バランス室P32、P42、P52内には、ピストン73d、74d、75dを解放側に付勢するリターンスプリング73e、74e、75eが配置されている。
【0059】
第2クラッチCL2のハブ部材73a及び第3クラッチCL3のハブ部材75aの内周側には、第2クラッチCL2のハブ部材73aと第3クラッチCL3のハブ部材75aを連結する動力伝達部材17が備えられている。
【0060】
動力伝達部材17は、径方向内側で軸方向に延びる円筒部17aと、該円筒部17aの軸方向中間部で第2クラッチCL2のハブ部材73aに対応する位置から径方向外側に延びる縦壁部17bとを有する。縦壁部17bの外周面には、第2クラッチCL2のハブ部材74aの内周面に形成されたスプライン部に嵌合するスプライン部が形成されている。
【0061】
円筒部17aの反駆動源側の端部には、第1ギヤセットPG1のサンギヤS1との相対回転を許容するスラストベアリング76が配置されている。
円筒部17aの外周面で縦壁部17bよりも駆動源側の部位には、後述の第3クラッチCL3のハブ部材75aの内周面に形成されたスプライン部に嵌合するスプライン部が形成されている。
【0062】
第3クラッチCL3のハブ部材75aは、外周面に複数の摩擦板75cを係合する円筒状のスプライン部75a1と、該スプライン部75a1から径方向内側に延びる縦壁部75a2と、該縦壁部75a2の径方向内側の端部から軸方向に延びる駆動源側の第1円筒部75a3及び反駆動源側の第2円筒部75a4とを有する。
【0063】
第1円筒部75a3の外周面と、第2円筒部75a4の内周面には、それぞれスプライン部が形成されている。第1円筒部75a3のスプライン部には、第3ギヤセットPG3のサンギヤS3に動力を伝達するための動力伝達部材18がスプライン嵌合されている。第2円筒部75a4のスプライン部は、動力伝達部材17の外周面のスプライン部にスプライン嵌合されている。
【0064】
これにより、第1クラッチCL1のドラム部材73bと、第2クラッチCL2のハブ部材74aと、第3クラッチCL3のハブ部材75aと、第3ギヤセットPG3のサンギヤS3が一体的に回転するようになっている。
【0065】
動力伝達部材17の内周側には、縦壁部11aに一体的に形成されたスリーブ部材19が配置されている。動力伝達部材17は、円筒部17aの内周面で縦壁部17bよりも反駆動源側の部位に設けられたベアリング77を介してスリーブ部材19に回転自在に支持されている。スリーブ部材19は、軸方向に延びる第1スリーブ部材19aと、該第1スリーブ部材19aの径方向外側に圧入された第2スリーブ部材19bとで形成されている。
【0066】
スリーブ部材19には、第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3の締結室P31、P41、P51及びバランス室P32、P42、P52に作動油を供給するための締結油路L30、L40、L50及びバランス室油路L60、L70、L80が設けられている。
【0067】
第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3の締結油路L30、L40、L50は、コントロールバルブ(図示せず)に連通される締結室用軸方向油路L31、L41、L51と、該締結室用軸方向油路L31、L41、L51と締結室P31、P41、P51とを連通させる締結用径方向油路L32、L42、L52とを備えている。
【0068】
締結室用軸方向油路L31、L41、L51は、変速機ケース11に固定されるとともに、軸方向に延びるとともに周方向の異なる位置に形成された径方向外側に開口する複数の溝19a1を備えた第1スリーブ部材19aと、該第1スリーブ部材19aの径方向外側に圧入された第2スリーブ部材19bとの間に形成されている。
【0069】
第1クラッチCL1の締結用径方向油路L32は、第2スリーブ部材19bを径方向に貫通する径方向油路と、該径方向油路を締結油圧室P31に連通させるように動力伝達部材17を径方向に貫通するように設けられた径方向油路とで形成されている。これにより、第1クラッチCL1の締結用の作動油は、締結油路L30を介して第1クラッチCL1の締結室P31に供給されるようになっている。
【0070】
第2クラッチCL2の締結用径方向油路L42は、第2スリーブ部材19bを径方向に貫通する径方向油路と、動力伝達部材17を径方向に貫通する径方向油路と、これらの径方向油路を締結室P41に連通させるように第3クラッチCL3のハブ部材75aの第2円筒部75a4を径方向に貫通するように設けられた径方向油路で形成されている。これにより、第2クラッチCL2の締結用の作動油は、締結油路L40を介して第2クラッチCL2の締結室P41に供給されるようになっている。
【0071】
第3クラッチCL3の締結用径方向油路L52は、第2スリーブ部材19bを径方向に貫通する径方向油路と、動力伝達部材17を径方向に貫通する径方向油路と、これらの径方向油路を締結室P51に連通させるように動力伝達部材18を径方向に貫通するように設けられた径方向油路とで形成されている。これにより、第3クラッチCL3の締結用の作動油は、締結油路L50を介して第3クラッチCL3の締結室P51に供給されるようになっている。
【0072】
バランス室油路L60、L70、L80は、締結油路P31同様に、変速機ケース11に設けられた図示しないコントロールバルブに連通された遠心バランス室用軸方向油路L61、L71、L81と、該遠心バランス室用軸方向油路L61、L71、L81と連通する遠心バランス室用径方向油路L62、L72、L82とを備えている。
【0073】
第1~第3クラッチCL1~CL3の遠心バランス室用軸方向油路L61、L71、L81は、スリーブ部材19の締結室用軸方向油路L31、L41、L51と異なる周方向位置に形成されている。
【0074】
第1クラッチCL1のバランス室用径方向油路L62は、第2スリーブ部材19bを径方向に貫通する径方向油路と、該径方向油路をバランス室用P32に連通させるように動力伝達部材17を径方向に貫通するように設けられた径方向油路とで形成されている。これにより、第1クラッチCL1のバランス室用の作動油は、バランス室油路L60を介して第1クラッチCL1のバランス室P32に供給されるようになっている。
【0075】
第2クラッチCL2のバランス室用径方向油路L72は、第2スリーブ部材19bを径方向に貫通する径方向油路と、動力伝達部材17を径方向に貫通する径方向油路と、これら締結用径方向油路をバランス室P42に連通させるように第3クラッチCL3のハブ部材75aの第2円筒部75a4を径方向に貫通するように設けられた径方向油路で形成されている。これにより、第2クラッチCL2の締結用の作動油は、バランス室油路L70を介して第2クラッチCL2のバランス室P42に供給されるようになっている。
【0076】
第3クラッチCL3のバランス室用径方向油路L82は、第2スリーブ部材19bを径方向に貫通する径方向油路と、動力伝達部材17を径方向に貫通する径方向油路と、これら径方向油路を締結室P81に連通させるように動力伝達部材18を径方向に貫通するように設けられた径方向油路とで形成されている。これにより、第3クラッチCL3のバランス室用の作動油は、バランス室油路L80を介して第3クラッチCL3のバランス室P52に供給されるようになっている。
【0077】
なお、本実施形態において、第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3のバランス室用軸方向油路L61、L71、L81は、スリーブ部材19に設けられた同一の溝によって形成されている。これにより、第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3のバランス室に対して、同時に作動油が供給されるようになっている。
【0078】
次に、第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3の複数の摩擦板73c、74c、75cを潤滑するための潤滑油の供給経路について説明する。
【0079】
第1クラッチCL1の摩擦板73cに供給される潤滑油の供給経路は、第1クラッチCL1のバランス室用軸方向油路L61と、第2スリーブ部材19bに形成された径方向油路と、ベアリング77と、スラストベアリングと76とを介して、第1クラッチCL1の遠心バランス室P32と第1ギヤセットPG1との間の空間Z1とが連通するように形成されている。
【0080】
空間Z1に流入した潤滑油は、第1ギヤセットPG1と第1クラッチCL1のバランス室P32との間に設けられたバッフルプレート78によって整流されて、第1クラッチCL1の摩擦板73c及び第1ギヤセットPG1のキャリヤC1のベアリングに供給される。
【0081】
第2クラッチCL2の摩擦板74cに供給される潤滑油の供給経路は、第2クラッチCL1のバランス室用軸方向油路L71と、第2スリーブ部材19bに形成された径方向油路と、ハブ部材75aの第2円筒部75a4の反駆動源側の端部に設けられた切欠き部を介して第2クラッチCL2の遠心バランス室P42と第2クラッチCL2のハブ部材74aとの間の空間Z2とが連通するように形成されている。これにより、空間Z2に流入した潤滑油が摩擦板74cに供給される。
【0082】
第3クラッチCL3の摩擦板75cに供給される潤滑油の供給経路は、第3クラッチCL3のバランス室用軸方向油路L81と、第2スリーブ部材19bに形成された径方向油路と、第2クラッチCL2のハブ部材75aと動力伝達部材18との間のスプライン嵌合部と、動力伝達部材18の径方向内側の反駆動源側の端部に設けられた切欠き部を介して第3クラッチCL3の遠心バランス室と第2クラッチCL2のハブ部材の縦壁部との間の空間Z3とが連通するように形成されている。これにより、空間Z3に流入した潤滑油が摩擦板75cに供給される。
【0083】
前述のように、本実施形態において、第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3のバランス室用軸方向油路L61、L71、L81は、スリーブ部材19に設けられた同一の溝によって形成されている。これにより、第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3の摩擦板73c、74c、75cに対して、同時に潤滑油が供給されるようになっている。
【0084】
自動変速機10は、上述の各摩擦締結要素BR1、BR2、CL1、CL2、CL3を締結及び解放させることで、変速段を実現するための油圧制御装置2を有しており、この油圧制御装置2について詳しく説明する。
【0085】
油圧制御装置2は、図5及び図6に示すように、油圧源として、エンジン(図示せず)によって駆動されるリリーフバルブ付き機械式ポンプ(MOP)21(以下「メカポンプ」という)と、主としてエンジンの停止中に電気により駆動される電気式ポンプ(EOP)22(以下「電動ポンプ」という)とを備える。
【0086】
油圧制御装置2は、これらのポンプ21、22から吐出される作動油を調整し、変速制御のために各摩擦締結要素BR1、BR2、CL1、CL2、CL3に供給される締結圧や解放圧等の変速段形成用の作動圧を生成するとともに、摩擦締結要素BR1、BR2、CL1、CL2、CL3を含む変速機内の各潤滑部位への潤滑油の供給を制御する油圧制御回路20を備えている。なお、図5及び図6の油圧制御回路20は、主として潤滑用の回路が示されている。また、本実施形態において、油圧制御装置2は、特許請求の範囲における潤滑制御装置の機能を備えている。
【0087】
油圧制御回路20は、油圧とスプリング力とによって作動して油路の切り換えや油圧の調整等を行う複数のスプールバルブと、電気信号によって作動して油路を連通、遮断する複数のオンオフソレノイドバルブ(以下「オンオフバルブ」という)と、同じく電気信号によって作動して作動圧の給排や調整等を行う複数のリニアソレノイドバルブ(以下「リニアバルブ」という)とを有し、油圧源と、これらのバルブと、摩擦締結要素とが油路を介して連結されて変速制御や潤滑油の供給を制御する潤滑油供給制御等を行なうように回路が構成されている。
【0088】
油圧制御回路20を構成するバルブとして、メカポンプ21の吐出圧を所定のライン圧に調整するレギュレータバルブ31と、前記ライン圧と電動ポンプ22の吐出圧とを切り換え、変速制御用作動圧の元圧として摩擦締結要素側に選択的に供給するポンプシフトバルブ32と、電動ポンプ22の吐出油を潤滑油として供給するための電動ポンプ22の潤滑切換バルブ33とが備えられている。潤滑切換バルブ33の制御ポート331、332には、ライン圧を供給するライン圧油路aと電動ポンプ22の吐出油路bとがそれぞれ接続されている。
【0089】
ライン圧による力が電動ポンプ22の吐出圧とスプリングによる力より大きいときは、スプール333が図面上(以下、同様)左側に位置し、電動ポンプ22の吐出油路bが潤滑油追加油路cに連通する。逆の場合は、スプール333が右側に位置して電動ポンプ22の吐出油路bが潤滑切換バルブ33を介してポンプシフトバルブ32に接続されるようになっている。
【0090】
ポンプシフトバルブ32の両端の制御ポート321、322には、ライン圧を供給するライン圧油路aと潤滑切換バルブ33を介した電動ポンプ22の吐出油路bとがそれぞれ接続されている。
【0091】
そして、ライン圧とスプリング(図示せず)による力が電動ポンプ22の吐出圧による力より大きいときは、スプール323が図面上(以下、同様)右側に位置し、前記ライン圧油路aが変速用元圧油路dに連通する。逆の場合は、スプール323が左側に位置して電動ポンプ22の吐出油路bが変速用元圧油路dに連通するようになっている。
【0092】
なお、変速用元圧油路dから複数の変速用元圧分岐油路(図示せず)を介して、第1、第2ブレーキBR1、BR2、及び第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3用の締結圧をそれぞれ生成する複数の変速用リニアバルブ60(図7参照)に変速用制御元圧を供給する。そして、各リニアバルブ60によって生成された締結圧が、変速段に応じて各摩擦締結要素の締結室に供給され、対応する摩擦締結要素が締結されるようになっている。
【0093】
ライン圧油路aはリデューシングバルブ41に導かれ、リデューシングバルブ41によりライン圧が所定圧に減圧されて制御圧が生成される。この制御圧は、制御圧油路eから分岐した第1及び第2分岐制御圧油路e1、e2により、それぞれ第1及び第2オンオフバルブ51、52に供給される。
【0094】
第1オンオフバルブ51がオンのときは、第1分岐制御圧油路e1により、第2ブレーキ用の潤滑油増量バルブ34に制御圧が供給されるようになっている。
第2オンオフバルブ52がオンのときは、第2分岐制御圧油路e2により、第1~第3クラッチ用の潤滑油増量バルブ35に制御圧が供給されるようになっている。
これらの第1及び第2オンオフバルブ51、52及び潤滑油増量バルブ34、35による潤滑油増量作用については後述する。
【0095】
リデューシングバルブ41で生成される制御圧は、ライン圧制御用リニアバルブ61にも導かれ、レギュレータバルブ31に供給されてライン圧の設定圧を車両の運転状態に応じた所定の圧力に調整するためのライン圧調整圧が生成されるようになっている。レギュレータバルブ31の制御ポート311、312には、ライン圧油路aとライン圧制御用リニアバルブ61を介した制御圧油路eとがそれぞれ接続されている。
【0096】
レギュレータバルブ31は、ライン圧制御用リニアバルブ61の制御圧とスプリング(図示せず)による力がライン圧による力より小さいときは、スプール313が図面上(以下、同様)右側に位置し、ライン圧油路aと、主潤滑油路fとが連通するようになっている。逆の場合は、スプール313が左側に位置してライン圧油路aが、主潤滑油路fに加えてドレンポートに連通するようになっている。
【0097】
油圧制御回路20には、主潤滑油路f内の潤滑油圧を調整する潤滑用リデューシングバルブ42が備えられている。なお、潤滑用リデューシングバルブ42の下流側の主潤滑油路fには、フェイルセーフのために、ライン圧油路aがオリフィス80を介して接続されている。オリフィス80は、例えば、φ0.8mmの小さな径で形成されて、主潤滑油路fの潤滑油圧が急激に低下する等で圧力差が生じた場合に主潤滑油路fに対してライン圧油路aが接続されるようになっている。
【0098】
主潤滑油路fは、オイルクーラ91を経由した後、第1~第3潤滑分岐油路f1、f2、f3に分岐され、それぞれ固定オリフィス81、82、83を介して、第1及び第2ブレーキBR1、BR2、第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3及び変速機内の主軸Dに潤滑油を供給するようなっている。
【0099】
主潤滑油路fにはオイルクーラ91をバイパスするバイパス油路f’が設けられ、該バイパス油路f’にオイルクーラ91保護のための潤滑油リリーフバルブ92が設けられている。
【0100】
主潤滑油路fは、オイルクーラ91の上流側から分岐され、第4潤滑分岐油路f4が前述の第2ブレーキ用の潤滑油増量バルブ34に接続されている。主潤滑油路fは、オイルクーラ91の下流側からも第5潤滑分岐油路f5が分岐され、第1~第3クラッチ用の潤滑油増量バルブ35に接続されている。
【0101】
第1オンオフバルブ51がオンのときは、第1分岐制御圧油路e1から供給される制御圧により第2ブレーキ用の潤滑油増量バルブ34のスプール341が右側に位置し、第4潤滑分岐油路f4が第2ブレーキ用潤滑油増量油路(特許請求の範囲における第2の潤滑回路)gに連通される。第2ブレーキ用の潤滑油増量バルブ34及び増量オリフィス84を介して第2ブレーキBR2にオイルクーラ91を経由しない潤滑油を供給するようになっている。なお、第1潤滑分岐油路f1は、特許請求の範囲における第1の潤滑回路における中間部から分岐した部分からなる部分回路に相当する。また、本実施形態においては、第1潤滑分岐油路f1に設けられたオリフィス81の流路面積81aは、第2ブレーキ用潤滑油増量油路gに設けられたオリフィス84の流路面積84aよりも小さく形成されている。
【0102】
第2オンオフバルブ52がオンのときに、第2分岐制御圧油路e2から供給される制御圧により第1~第3クラッチ用の潤滑油増量バルブ35のスプール351が右側に位置し、第5潤滑分岐油路f5が第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3用の潤滑油増量油路hに連通される。第1~第3クラッチ用の潤滑油増量バルブ35及び増量オリフィス85を介して第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3に潤滑油が供給されるようになっている。なお、本実施形態においては、特許請求の範囲における第1の潤滑回路は、オイルクーラ91を経由して第1~第3クラッチCL1~CL3に潤滑油を供給する第2潤滑分岐油路f2と、第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3用の潤滑油増量油路hとによって構成されている。
【0103】
さらに、油圧制御回路20には、電動ポンプ22の吐出油を第2ブレーキBR2の潤滑油として供給するための電動ポンプ22の潤滑切換バルブ33が備えられている。電動ポンプ22の潤滑切換バルブ33には、ライン圧油路aからライン圧が制御圧として供給され、この制御圧によりスプール371が左側に位置すると電動ポンプ22の吐出油路bが潤滑油追加油路cに連通し、この状態で電動ポンプ22が作動すると、その吐出油が潤滑油追加油路cを介して第2ブレーキBR2に潤滑油として供給されるようになっている。
【0104】
図7に示すように、自動変速機10は、前述の変速制御用のバルブ60、潤滑制御用のバルブ51、52、61、及び、電動ポンプ22を制御するための制御装置としてのコントロールユニット200を備えている。コントロールユニット200には、車両の制御に用いられる種々の外部信号が入力される。
【0105】
コントロールユニット200への入力信号としては、車両の走行速度を検出する車速センサ201、アクセル開度(アクセルペダルの踏み込み量)を検出するアクセル開度センサ202、自動変速機10に入力される入力回転数としてのエンジンの回転数を検出するエンジン回転数センサ203、自動変速機10から出力される出力回転数を検出する出力回転数センサ204、自動変速機10の変速機ケース11の底部のオイル貯留部内に貯留される潤滑油の温度(ATF温度)を検出する潤滑油温度検出手段としての油温センサ205、自動変速機10に入力される入力トルクとしてのエンジンの出力トルクを検出する入力トルクセンサ206、各摩擦締結要素に供給される作動油の油圧を検出する油圧センサ207による検出信号が挙げられる。
【0106】
コントロールユニット200は、車速センサ201とアクセル開度センサ202とエンジン回転数センサ203と出力回転数センサ204とを含む各種センサからの検出値に基づいて自動変速機10の油圧制御装置2に制御信号を出力することで変速を制御する変速制御手段210と、後述の潤滑油供給制御手段220及び各摩擦締結要素検出手段としての各摩擦締結要素温度算出手段230と、を備えている。
【0107】
潤滑油供給制御手段220は、潤滑油の供給先及び各供給先に供給する潤滑油の供給量が設定された複数の潤滑油供給パターンを備えている。潤滑油供給制御手段220は、入力回転数センサ203、出力回転数センサ204、油温センサ205、入力トルクセンサ206、油圧センサ207からの入力信号に基づいて、油圧制御装置2に制御信号を出力することで、次のような潤滑油供給制御を行う。
【0108】
潤滑油供給制御は、各摩擦締結要素BR1、BR2、CL1、CL2、CL3の熱負荷を抑制しつつ、各摩擦締結要素における潤滑油の攪拌抵抗及び引きずり抵抗や、オイルポンプの吐出ロスを低減して燃費の向上を図るために、車両の状態に応じて、各摩擦締結要素に供給する潤滑油の供給パターンの切り換えを制御する。
【0109】
図8に示すように、潤滑油供給制御手段220は、潤滑油の供給先及び各供給先に供給する潤滑油量を切り換える複数の潤滑油量供給パターンを備えている。複数の潤滑油供給パターンは、第2ブレーキBR2に対する冷却要求レベルと、第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3に対する冷却要求レベル(具体的には、冷却要求レベル低L、冷却要求レベル高H、冷却要求レベル最高HH)とに応じて切り換えられるようになっている。
【0110】
冷却要求レベルは、各摩擦締結要素の温度に関するパラメータが閾値以上かどうかによって判定される。ここで、複数の潤滑油供給パターンを切り換えるための冷却要求レベルを判定するパラメータ及びパラメータ毎に設けられた閾値について説明する。
【0111】
複数の潤滑油供給パターンを切り換えるための冷却要求レベルを判定するパラメータとしては、各摩擦締結要素の温度上昇(発熱)に寄与する値が用いられる。具体的には、入力トルクセンサ206によって検出された入力トルクと、入力回転数センサ203によって検出された入力回転数と、各摩擦締結要素温度算出手段230によって算出された第2ブレーキB2の温度及び第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3の温度とが用いられる。
【0112】
入力トルクは、各摩擦締結要素の温度と比例関係にあるため、各摩擦締結要素の温度の上昇を推定することができる。入力回転数は、入力回転が上昇すると差回転ΔNが増大する。この差回転ΔNは、各摩擦締結要素の温度と比例関係にあるため、入力トルク同様に、各摩擦締結要素の温度の上昇を推定することができる。各摩擦締結要素の温度は、各摩擦締結要素の温度上昇を直接的に検出することができる。
【0113】
上述の各摩擦締結要素に供給する潤滑油の供給先及び供給量を切り換えるためのパラメータとしての各摩擦締結要素の温度は、本実施形態においては、各摩擦締結要素温度算出手段230によって算出される。各摩擦締結要素の温度は、入力回転数、出力回転数、入力トルク、各摩擦締結要素に連通する油路の油圧、及び、後述する各摩擦締結要素の周辺大気及び潤滑油への放熱による冷却温度とに基づいて算出される。
【0114】
具体的には、各摩擦締結要素温度算出手段230によって算出される各摩擦締結要素の温度T1は、直前のサイクルで算出した各摩擦締結要素温度T0と、各摩擦締結要素の吸収エネルギEと、各摩擦締結要素の摩擦板の熱容量Qと、各摩擦締結要素から周辺大気及び潤滑油への放熱速度(摩擦締結要素温度降下速度)Tcとサイクルタイム(1回の計算にかかる時間)tcによって求められる冷却温度(Tc×tc)と、次の数1から求められる。なお、直前のサイクルで算出した各摩擦締結要素温度T0の初期値は、油温センサ205によって検出されたATF温度が用いられる。
【数1】
【0115】
各摩擦締結要素の吸収エネルギEは、各摩擦締結要素の入力側と出力側の差回転ΔNと、各摩擦締結要素の伝達トルクTrqと、次の数2から求められる。
【数2】
【0116】
差回転ΔNは、入力回転数センサ203によって検出した入力回転数と、出力回転数センサ204によって検出した出力回転数と、変速段と、速度線図とに基づいて算出される。差回転ΔNは、現在の変速段で解放状態であって、次の変速段で締結状態になる摩擦締結要素のドラム部材とハブ部材との間に生じる回転差によって算出される。
【0117】
伝達トルクTrqは、摩擦面の数nと、ピストンリターンスプリングセット荷重Frと、摩擦係数μと、油圧センサ207によって検出した作動油圧Paと、ピストン大径Dpoと、ピストン小径Dpiと、各摩擦締結要素の摩擦面大径Doと、各摩擦締結要素の摩擦面小径Diと、次の数3とから求められる。
【数3】
【0118】
数式1の各摩擦締結要素の冷却温度Tcは、各摩擦締結要素の温度T1(前回のサイクルで算出された算出値)と、ATF温度から算出される各摩擦締結要素の発熱温度ΔT(各摩擦締結要素の温度-ATF温度)と、各摩擦締結要素の発熱温度ΔTに対する各摩擦締結要素の冷却温度Tc(各摩擦締結要素の温度降下速度)の関係を示すマップ(図9)と、から求められる。具体的には、図9に示すように、摩擦締結要素の発熱温度ΔT1であったときの摩擦締結要素の冷却温度Tc1の値を読むことで、摩擦締結要素の冷却温度Tcを求める。
【0119】
図9の各摩擦締結要素の発熱温度ΔTに対する各摩擦締結要素の冷却温度Tcのマップは、所定の変速状態において締結される所定の摩擦締結要素に、所定の流量の潤滑油を供給した場合における所定の摩擦締結要素の温度降下速度(冷却温度)を実験値に基づいて導出した近似式によって算出される。なお、各摩擦締結要素の発熱温度ΔTに対する各摩擦締結要素の冷却温度Tcのマップは、複数の変速状態において締結される摩擦締結要素毎に備えられている。
【0120】
上述のパラメータ(入力トルク、入力回転数、各摩擦締結要素の温度)の閾値は、各摩擦締結要素の発熱が比較的少なく、潤滑油の増大が必要となるときの条件が設定されている。例えば、入力トルクの閾値Tq1は、250Nmに設定され、入力回転数の閾値Ninは、3000rpmに設定され、第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3の温度の閾値Tcl1、Tcl2、Tcl3は、150℃で設定され、第2ブレーキの温度の第1の閾値Tlowは150℃に設定されている。なお、第2ブレーキの温度については、第1の閾値よりも高い温度である第2の閾値Thighが設定されている。例えば、第2の閾値Thighは180℃に設定されている。
【0121】
複数の潤滑油供給パターンは、図8に示すように、パターン1~パターン5が設定されている。ここで、複数の潤滑油供給パターンと、各潤滑油供給パターンを切り換えるためのパラメータの条件と、各潤滑油供給パターンで想定されるシーン(車両の状態)の一例について説明する。
【0122】
複数の潤滑油供給パターンは、第2ブレーキBR2に対する冷却要求レベルと、第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3に対する冷却要求レベルとに応じて切り換えられるようになっている。例えば、冷却要求レベルは、各摩擦締結要素の冷却が、各摩擦締結要素に常時供給される潤滑油の供給量で冷却することで耐久性の確保ができる冷却要求レベルである冷却要求レベル低Lと、該冷却要求レベル低Lよりも高い冷却要求レベルである冷却要求レベル高Hと、第2ブレーキBR2において冷却要求レベル高Hよりも高い冷却要求レベルである冷却要求レベル最高HHとが設定されている。
【0123】
第2ブレーキBR2に対する冷却要求レベルが低Lで、第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3に対する冷却要求レベルが低Lであるときに、第1潤滑油供給パターンとしてのパターン1が実行される。
【0124】
各パラメータの条件は、第2ブレーキBR2の温度が第1の閾値Tlow未満、かつ、第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3の潤滑油の供給量を決定するためのパラメータ(入力トルク、入力回転数、第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3の温度)のすべてがそれぞれの閾値Tq1、Nin、Tcl1、Tcl2、Tcl3未満であることである。
【0125】
パターン1では、第2ブレーキBR2には、第1潤滑分岐油路f1によって第1の所定流量(小)の潤滑油が供給される。第1~第3クラッチCL1~CL3には、第2潤滑分岐油路f2によって第2の所定流量(小)の潤滑油が供給される。
【0126】
想定されるシーンとしては、軽負荷時、燃費走行時、コースティングダウン(変速機としては減速時)、エンジン始動前(例えば、回転数500rpm未満時)等の、各摩擦締結要素に供給される潤滑油量が増大される必要がない状況が想定されている。このように、各摩擦締結要素の熱負荷が高くない状態(冷却要求レベルが低L)においては、潤滑油量を抑制することで、各摩擦締結要素の潤滑油による攪拌抵抗及び引きずり抵抗やオイルポンプの吐出ロスが抑制されている。
【0127】
第2ブレーキBR2に対する冷却要求レベルが低Lで、第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3に対する冷却要求レベルが高Hであるときに、第2潤滑油供給パターンとしてのパターン2が実行される。
【0128】
各パラメータの条件は、第2ブレーキBR2の温度が第1の閾値Tlow未満、かつ、第1~第3クラッチCL1~CL3の潤滑油の供給量を決定するためのパラメータ(入力トルク、入力回転数、第1~第3クラッチCL1~CL3の温度)のうちの一つ以上が所定値以上であることである。
【0129】
パターン2では、第2ブレーキBR2には、第1潤滑分岐油路(特許請求の範囲における部分回路)f1によって第1の所定流量(小)の潤滑油が供給される。第1~第3クラッチCL1~CL3には、第2潤滑分岐油路f2に加えて第1~第3クラッチ用潤滑増量油路hによって第2の所定流量よりも流量の多い第3の所定流量(大)の潤滑油が供給される。
【0130】
想定されるシーンとしては、ATF温度が比較的低温(例えば、第2ブレーキBR2の温度が第1の閾値Tlowに達する虞がない程度)であって、中負荷(例えば、アイドル状態等の低負荷時よりも負荷が高く、登坂路走行時等の高負荷時よりも負荷が低い状態)、加速時、アップシフト時、トルク要求によるダウンシフト時等のように、第2ブレーキBR2への潤滑油の供給量の増大が求められず、第1~第3クラッチCL1~CL3への潤滑油の供給量の増大が求められる状況が想定されている。
【0131】
具体的には、図2に示すように、加速時、アップシフト時、及び、トルク要求によるダウンシフト時(例えば、6速から3速へのダウンシフト時)等においては、第1~第3クラッチCL1~CL3には掴み換え(解放状態と締結状態とを変化させる状態)が生じるため、第1~第3クラッチCL1~CL3に対する冷却要求レベルが高くなる。
【0132】
一方、加速時及びアップシフト時において、第2ブレーキBR2を掴む(解放状態から締結状態にする)状況がなく、発進時(1速)のように第2ブレーキBR2をスリップさせることによる第2ブレーキBR2の温度上昇が生じない。
【0133】
また、前記トルク要求によるダウンシフト時においては、第2ブレーキBR2を掴む(解放状態から締結状態にする状況)が生じるが、この場合の第2ブレーキBR2の温度上昇は、第2ブレーキBR2のスリップ状態における第2ブレーキBR2の温度上昇に比して低く、第2ブレーキBR2に対する冷却要求レベルが低い。
【0134】
このように、第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3の熱負荷が高い状態で、第2ブレーキBR2の熱負荷が高くない状態においては、第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3に対する潤滑油の供給量を増大させて第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3の耐久性を確保するとともに、第2ブレーキBR2に対する潤滑油の供給量を抑制することで第2ブレーキBR2における潤滑油による攪拌抵抗及び引きずり抵抗やオイルポンプの吐出ロスが抑制されている。
【0135】
パターン2は、上述の各パラメータの条件以外に、エンジン始動後所定期間(例えば、回転数500rpm以上となった時点から3sec以内の期間)である場合においても適用される。
【0136】
具体的には、通常、車両の始動直後においては、遠心バランス室P32、P42、P52の潤滑油が抜けてオイルパンに貯留された状態になる場合がある。この場合に、締結操作が行われると、遠心バランス室P32、P42、P52に潤滑油が供給されていない状態で、締結油圧室P31、P41、P51に作動油が供給されることになる。
【0137】
各摩擦締結要素を締結するための所定の締結油圧は、遠心バランス室P32、P42、P52に潤滑油が供給されていることを前提とした圧力で設定されている。そのため、遠心バランス室P32、P42、P52に潤滑油が十分に供給されていない状態で所定の締結油圧が供給されると、締結のタイミングが速まり、乗員にショックを与える虞がある。
【0138】
この問題を解決するために、始動直後には、前述のように第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3に供給する潤滑油量を増大(第3の所定流量)することで、潤滑油を遠心バランス室P32、P42、P52に速やかに供給することができるようになっている。
【0139】
また、パターン2は、さらに、他の条件として、油温センサ205によって検出されたATF温度が所定値Toil(例えば、100℃)以上である場合においても適用される。
【0140】
具体的には、ATF温度が所定値Toil以上の場合、本実施形態においては、オイルパン内に配置されているトランスミッションコントロールモジュール(TCM)が高油温によって熱害を受ける虞があるため、ATF温度を下げる必要がある。
【0141】
潤滑油供給パターンをパターン2にすることで、オイルクーラ91を経由する油路(オイルクーラ91の下流)の抵抗を下げることができるので、オイルクーラ91を経由する油量を増やすことができ、効果的にATF温度を下げることができる。
【0142】
具体的には、第2潤滑油供給パターン(パターン2)では、第2オンオフバルブ52によって第1~第3クラッチ用の潤滑油増量バルブ35が開かれるので、オイルクーラ91の下流で分岐する第5潤滑分岐油路f5と第1~第3クラッチ用潤滑油増量油路hとが連通する。これにより、第1~第3分岐潤滑油供給油路f1~f3に加えて、第1~第3クラッチ用潤滑油増量油路hが連通することになるので、オイルクーラ91下流における抵抗が低減し、主潤滑油路fを流れる潤滑油の流量が増大される。その結果、オイルクーラ91によって冷却される潤滑油の流量を増大することができるので、ATF油温を低下させることができる。
【0143】
さらに、パターン2では、第1オンオフバルブ51によって第2ブレーキ用の潤滑油増量バルブ34が閉じられるので、オイルクーラ91の上流で分岐する第4潤滑分岐油路f4と、オイルクーラ91をバイパスする第2ブレーキ用潤滑油増量油路gとが連通されない。これにより、油圧制御回路20においてオイルクーラ91を経由しない第2ブレーキ用潤滑油増量回路gから第2ブレーキBR2に潤滑油が供給されず、オイルクーラ91を経由する油路を流れる潤滑油量をより増大させることができる。
【0144】
第2ブレーキBR2に対する冷却要求レベルが高Hで、第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3に対する冷却要求レベルが低Lであるときに、第3潤滑油供給パターンとしてのパターン3が実行される。
【0145】
各パラメータの条件は、第2ブレーキBR2の温度が第1の閾値Tlow以上、かつ、第1~第3クラッチCL1~CL3の潤滑油の供給量を決定するためのパラメータ(入力トルク、入力回転数、第1~第3クラッチCL1~CL3の温度)すべてが所定値未満であることである。
【0146】
パターン3では、第2ブレーキBR2には、第1潤滑分岐油路f1に加えて第2ブレーキ用潤滑油増量油路gによって第1の所定流量よりも流量の多い第4の所定流量(大)の潤滑油が供給される。第1~第3クラッチCL1~CL3には、第2潤滑分岐油路f2によって第2の所定流量(小)の潤滑油が供給される。
【0147】
想定されるシーンとしては、登坂時等の高負荷時、及び、渋滞時等のように第2ブレーキBR2への潤滑油の供給量の増大が求められるとともに、第1~第3クラッチCL1~CL3への潤滑油の供給量の増大が求められない状況が想定されている。
【0148】
具体的には、登坂に移行する場合におけるシフトダウンでは、第2ブレーキBR2においてすべりが生じる。特に、第2ブレーキBR2は、発進時におけるトルク容量を確保するために、摩擦板の数が他の摩擦締結要素に比して多く設定されている(図4参照)ため、スリップ状態での発熱量も他の摩擦締結要素に比して大きくなる。したがって、第2ブレーキBR2に対する冷却要求レベルが高くなる。また、登坂路において発進したりアクセルヒルホールドしたりするときには、高負荷の状態で第2ブレーキBR2がスリップ状態となるため、第2ブレーキBR2の温度が第1の閾値Tlow以上となり易く、このような場合においても、第2ブレーキBR2に対する冷却要求レベルが高くなる。
【0149】
渋滞時においては、発進と停止とが繰り返されるために、第2ブレーキBR2のスリップ状態の頻度が増すため、第2ブレーキBR2に対する冷却要求レベルが高くなる。
【0150】
このように、第2ブレーキBR2の冷却要求レベルが高く、第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3の冷却要求レベルが低い状態においては、第2ブレーキBR2に対する潤滑油の供給量を増大させて第2ブレーキBR2の耐久性を確保するとともに、第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3に対する潤滑油の供給量を抑制することで第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3における攪拌抵抗及び引きずり抵抗やオイルポンプの吐出ロスが抑制されている。
【0151】
第2ブレーキBR2に対する冷却要求レベルが高Hで、第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3に対する冷却要求レベルが高Hであるときに、第4潤滑油供給パターンとしてのパターン4が実行される。
【0152】
各パラメータの条件は、第2ブレーキBR2の温度が第1の閾値Tlow以上、かつ、第1~第3クラッチCL1~CL3の潤滑油の供給量を決定するためのパラメータ(入力トルク、入力回転数、第1~第3クラッチCL1~CL3の温度)のうちの一つ以上が所定値以上であることである。
【0153】
パターン4では、第2ブレーキBR2には、第1潤滑分岐油路f1に加えて第2ブレーキ用潤滑油増量油路gによって第1の所定流量よりも流量の多い第4の所定流量(大)の潤滑油が供給される。第1~第3クラッチCL1~CL3には、第2潤滑分岐油路f2に加えて第1~第3クラッチ用潤滑油増量油路hによって第2の所定流量よりも流量の多い第3の所定流量(大)の潤滑油が供給される。
【0154】
想定されるシーンとしては、ATF温度が比較的高温(例えば、第2ブレーキBR2の温度が第1の閾値Tlowに達する虞がある程度)であって、中負荷(例えば、アイドル状態等の低負荷時よりも負荷が高く、登坂路走行時等の高負荷時よりも負荷が低い状態)、加速時、アップシフト時、トルク要求によるダウンシフト時等のように、第2ブレーキBR2への潤滑油の供給量の増大が求められるとともに、第1~第3クラッチCL1~CL3への潤滑油の供給量の増大が求められる状況が想定されている。
【0155】
具体的には、パターン2と同様の走行シーンにおいて、ATF温度が比較的高温である場合は、第2ブレーキBR2及び第1~第3クラッチCL1~CL3に対する冷却要求レベルが高くなることが考えられる。
【0156】
このように、第2ブレーキBR2及び第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3の冷却要求レベルが高い状態においては、第2ブレーキBR2及び第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3に対する潤滑油の供給量を増大させることで、第2ブレーキBR2及び第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3の耐久性の確保を優先させることができる。
【0157】
パターン4は、上述の各パラメータの条件以外に、自動変速機がフェール状態である場合においても適用される。
【0158】
具体的には、例えば、入力回転数センサ203の異常を検出した場合、油温センサ205の異常を検出した場合、エンジンから変速機に入力される入力トルクセンサ206の異常を検出した場合(入力トルク情報信号が故障状態のステータスであった場合)のいずれか1つでも成立した場合に、フェール状態と判定される。
【0159】
これにより、フェール状態では、パターン4によって潤滑油の流量が第2ブレーキBR2及び第1~3クラッチCL1、CL2、CL3ともに潤滑油が増大されるので、各摩擦締結要素の焼き付き等が抑制されて信頼性が優先されるようになっている。
【0160】
第2ブレーキBR2に対する冷却要求レベルが最高HHであるときに、第5潤滑油供給パターンとしてのパターン5が実行される。
【0161】
各パラメータの条件は、第2ブレーキBR2の温度が第1の閾値Tlowよりも高い第2の閾値Thigh(例えば、180℃)以上であることである。
【0162】
パターン5では、第2ブレーキBR2には、第1潤滑分岐油路f1及び第2ブレーキ用潤滑油増量油路gに加え、電動ポンプ22の吐出油路bに接続される潤滑油追加油路cによって第4の所定流量(大)よりも多い第5の所定流量(特大)の潤滑油が供給される。第1~第3クラッチCL1~CL3には、第2潤滑分岐油路f2によって第2の所定流量の潤滑油が供給される。
【0163】
想定されるシーンとしては、アクセルヒルホールドやトーイング等の高負荷時で、第2ブレーキBR2に過大な熱負荷がかかる場合が想定されている。例えば、アクセルヒルホールドは、車両が登坂路において、ブレーキペダル操作によらず、運転者がアクセルペダルを踏み込むことによる要求駆動力を用いて停車状態が保たれる場合である。アクセルヒルホールドでは、登坂路における車両の自重によるずり下がりトルクと、要求駆動トルクとがバランスして制動状態が維持されているので、駆動源と駆動輪との間には差回転が生じる。この差回転によって、駆動源と駆動輪との間の第2ブレーキBR2がすべることで、第2ブレーキBR2に過大な熱負荷がかかり、これにより、第2ブレーキBR2の耐久性が低下しやすくなる。
【0164】
このような状況においては、第2ブレーキBR2の冷却を最優先することによって、第2ブレーキBR2の耐久性が確保されるようになっている。
【0165】
なお、図8の第1~第5潤滑油供給パターン及び図9に示すマップは、コントロールユニット200の記憶部(図示せず)に予め記憶されている。
【0166】
図10及び図11のフローチャートを参照しながら、上記の潤滑油供給制御の動作の一例について、より具体的に説明する。
【0167】
図10のステップS1において、潤滑油供給制御に必要な各種情報を検出する。ステップS1では、アクセル開度、油温、入力回転、出力回転、入力トルク、油圧等の各種検出値が読み込まれる。
【0168】
続くステップS2では、フェール状態かを判定する。フェール状態にあるときは、潤滑油供給パターンを第4潤滑油供給パターンと判定して、フローをステップS30進め、パターン4で、第2ブレーキBR2及び第1~3クラッチCL1、CL2、CL3に潤滑油を供給する。フェール状態では、第4潤滑油供給パターンによって潤滑油の流量が第2ブレーキBR2及び第1~3クラッチCL1、CL2、CL3ともに潤滑油が増量されるので、各摩擦締結要素の焼き付き等が抑制されて信頼性が優先されるようになっている。
【0169】
なお、ステップS2のフェール状態の判定では、前述のように、入力回転数センサ、油温センサ205、入力トルクセンサ206のいずれか1つでも異常が検出された場合に、フェール状態と判定される。ステップS2でフェール状態でないと判定された場合、ステップS3に処理を進める。
【0170】
ステップS3では、第2ブレーキ温度算出手段223によって算出された第2ブレーキの温度に基づいて、第2ブレーキ(発進用摩擦締結要素)BR2の温度が第2の閾値Thigh(例えば、180℃)以上かどうかを判定する。
【0171】
第2ブレーキBR2の温度が、第2の閾値Thigh以上の場合、潤滑油供給パターンを第5潤滑油供給パターンと判定して、フローをステップS30進め、パターン5で、第2ブレーキBR2及び第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3に潤滑油を供給する。
【0172】
第2ブレーキBR2の温度が第2の閾値Thigh以上となるシーンとしては、例えば、アクセルヒルホールドやトーイング等の高負荷時で、第2ブレーキBR2に過大な熱負荷がかかる場合が想定される。このように第2ブレーキBR2に過大な熱負荷がかかる状態では、前述のように第5潤滑油供給パターン(パターン5)によって第2ブレーキに供給される潤滑油量は特大とされ、第1~3クラッチCL1、CL2、CL3に供給される潤滑油量は増加されない。これにより、第2ブレーキBR2に供給される潤滑油の割合を相対的に増やすことができるので、第2ブレーキBR2をより効果的に冷却することができる。
【0173】
ステップS3で第2ブレーキBR2の温度が、第2の閾値Thigh未満の場合、ステップS4に処理を進める。ステップS4において入力回転数が、アイドル回転数N0(例えば、500rpm)以上かどうかが判定される。ステップS4で入力回転数がアイドル回転数N0以上の場合、ステップS5に進みタイマーをカウントアップするとともに、ステップS6に処理を進める。一方、ステップS3で入力回転数がアイドル回転数N0未満の場合、ステップS7に進みタイマーを0に設定して、ステップS6に処理を進める。
【0174】
ステップS6において、タイマーが0かどうかを判定する。ステップS6でタイマーが0と判定された場合、すなわち、エンジン始動前(アイドル回転以前の初爆までの期間)の場合、潤滑油供給パターンを第1潤滑油供給パターンと判定して、フローをステップS30進め、パターン1で、第2ブレーキBR2及び第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3に潤滑油を供給するとともにフローをリターンする。エンジン始動前で潤滑が必要とされる前の状態においては、第2ブレーキBR2及び第1~第3クラッチCL1、Cl2、CL3に供給する潤滑油を増量させないことで、燃費の向上が図られている。
【0175】
ステップS6で、タイマーが0でない場合、ステップS8に処理を進め、ステップS8においてタイマーが3秒以上かを判定する。タイマーが所定時間t1(例えば、3秒)未満の場合(例えば、始動後3秒間が経過するまでの期間内の場合)、潤滑油供給パターンを第2潤滑油供給パターンと判定して、フローをステップS30進め、パターン2で、第2ブレーキBR2及び第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3に潤滑油を供給するとともにフローをリターンする。第2ブレーキBR2に供給する潤滑油量を抑制しながら、第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3に供給する潤滑油量を増大する。
【0176】
このように、始動直後には、前述のように第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3に供給する潤滑油量を増大(第3の所定流量)することで、潤滑油を遠心バランス室P32、P42、P52に速やかに供給することで、遠心バランス室P32、P42、P52に潤滑油が十分に供給されていない状態で所定の締結油圧が供給されることによる乗員へのショックを抑制することができる。
【0177】
ステップS8でタイマーが所定時間t1以上の場合、ステップS9に処理を進める。ステップS9では、変速動作中かどうかが判定される。変速動作中かどうかの判断は、変速開始時から変速終了時とを検出することで判断する。例えば、変速開始時点は、変速指令検出手段によって変速指令が出力されたかどうかによって判定され、変速終了時点は、入力回転数と、出力回転数と、変速比とによって、入力回転数と出力回転数との比が、変速後の減速比に一致したかどうかによって判定される。
【0178】
ステップS9で変速動作中の場合は、現在の潤滑油供給パターンを維持するとともに、フローをステップS30に進める。すなわち、変速動作中においては、潤滑油供給パターンの切り換え動作を行わずにフローをリターンする。これにより、変速中の緻密な締結制御中における摩擦板間の摩擦係数μの変化を抑制することができるので、摩擦締結要素の締結時に、潤滑油の粘性による引きずり抵抗によって、締結のタイミングが最適なタイミングからずれることによる変速ショックを抑制することができる。
【0179】
例えば、変速動作中に潤滑油の供給量が増大されるようなパターンの切り換えにおいて、潤滑油の粘性によって所望のタイミングよりも早いタイミングで各摩擦締結要素が締結されることによるショックの発生を抑制することができる。
【0180】
ステップS9で変速動作中でなかった場合、ステップS10に処理を進める。ステップS10では、潤滑油供給パターンがパターン5かどうかが判定される。ステップS10で、潤滑油供給パターンがパターン5である場合は、変速指指令が検出されても変速動作を禁止するとともに、フローをステップS30に進め、制御を実行してフローをリターンする。
【0181】
このように、第5潤滑油供給パターン(パターン5)では、各摩擦締結要素に潤滑油が供給されている場合に、アクセル開度及び車速に基づいて、変速制御手段210から変速指令が出力された場合においても、変速制御手段210による変速制御が抑制される。これにより、第2ブレーキBR2の熱負荷がより厳しいに車両の状態(例えば、アクセルヒルホールド及びトーイング等)においては、変速動作よりも第2ブレーキBR2の潤滑を優先することで、第2ブレーキBR2の耐久性を確実に確保することができる。
【0182】
ステップS10で、潤滑油供給パターンがパターン5以外であった場合、ステップS11に処理を進める。ステップS11では、潤滑油供給パターンの切り換え動作中かどうかが判定される。潤滑油供給パターンの切り換え動作中かどうかの判断は、例えば、潤滑油供給パターン切り換え指令が出力された時点からタイマーをカウントアップさせ、タイマーが潤滑油の供給量の切り換えが終わると考えられる所定時間t2の間である場合は、潤滑油供給パターン切り換え動作中と判断する。
【0183】
ステップS11で潤滑油供給パターンの切り換え動作中であった場合は、変速指指令が検出されても変速動作を禁止するとともに、フローをステップS30に進め、制御を実行してフローをリターンする。
【0184】
これにより、潤滑油供給パターン切り換え動作中における変速動作を禁止することができるので、変速動作中の緻密な締結制御中における摩擦板間の摩擦係数μの変化を防止することができる。その結果、例えば、変速動作中に、潤滑油の供給量が増加されるようなパターンの切り換え動作が重なることによって、潤滑油の粘性によって所望のタイミングよりも早いタイミングで各摩擦締結要素が締結されることによるショックの発生を抑制することができる。
【0185】
ステップS11で潤滑油供給パターンが切り換え動作中でなかった場合、ステップS12に処理を進め、変速を許可する。続くステップS13では、油温センサ205で検出されたATF温度が所定値Toil(例えば、100℃)以上かどうかを判定する。ステップS13でATF温度が所定値Toil以上の場合、潤滑油供給パターンを第2潤滑油供給パターンと判定して、フローをステップS30進め、パターン2で、第2ブレーキBR2及び第1~3クラッチCL1~CL3に潤滑油を供給する。
【0186】
ATF温度が所定値Toil以上の場合、本実施形態においては、オイルパン内に配置されているトランスミッションコントロールモジュール(TCM)が高油温によって熱害を受ける虞があるため、ATF温度を下げる必要がある。
【0187】
第2潤滑油供給パターン(パターン2)にすることで、前述のように、オイルクーラ91を経由する油路の抵抗を下げることができるので、オイルクーラ91を経由する油量を増やすことができ、効果的にATF温度を下げることができる。
【0188】
ステップS13で、ATF温度が所定値Toil未満であった場合、ステップS14に処理を進め、図11に示す潤滑油流量パターン判定フローによって、潤滑油供給パターンを決定する。
【0189】
ステップS15で第2ブレーキBR2の温度が第1の閾値Tlow(例えば、150℃)以上かどうかを判定し、第2ブレーキBR2の温度が第1の閾値Tlow未満の場合は、ステップS16で入力回転数が所定値Nin(例えば、3000rpm)以上かどうかを判定し、ステップS17で入力トルクが所定値Tq1(例えば、250Nm)以上かどうかを判定し、ステップS18で第1クラッチCL1の温度が所定値Tcl1(例えば、180℃)以上かを判定し、ステップS19で第2クラッチCL2の温度が所定値Tcl2(例えば、180℃)以上かを判定し、ステップS20で第3クラッチCL3の温度が所定値Tcl3(例えば、180℃)以上かを判定する。
【0190】
第2ブレーキBR2の温度が閾値Tlow未満、入力回転数が所定値Nin未満、入力トルクが所定値Tq1未満、第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3の温度が所定値Tcl1、Tcl2、Tcl3未満の場合、潤滑油供給パターンを第1潤滑油供給パターンと判定して、フローをステップS30進め、パターン1で、第2ブレーキBR2及び第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3に潤滑油を供給するとともにフローをリターンする。
【0191】
また、第2ブレーキBR2の温度が第1の閾値Tlow未満、且つ、入力回転数と入力トルクと第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3の温度とのうちのいずれか1つが所定値以上の場合、潤滑油供給パターンを第2潤滑油供給パターンと判定して、フローをステップS30進め、パターン2で、第2ブレーキBR2及び第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3に潤滑油を供給するとともにフローをリターンする。
【0192】
一方、ステップS15で第2ブレーキBR2の温度が第1の閾値Tlow以上の場合は、ステップS21で入力回転数が所定値Nin(例えば、3000rpm)以上かどうかを判定し、ステップS22で入力トルクが所定値Tq1(例えば、250Nm)以上かどうかを判定し、ステップS23で第1クラッチCL1の温度が所定値Tcl1(例えば、180℃)以上かを判定し、ステップS24で第2クラッチCL2の温度が所定値Tcl2(例えば、180℃)以上かを判定し、ステップS25で第3クラッチCL3の温度が所定値Tcl3(例えば、180℃)以上かを判定する。
【0193】
第2ブレーキBR2の温度が閾値Tlow以上、入力回転数が所定値Nin未満、入力トルクが所定値Tq1未満、第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3の温度が所定値Tcl1、Tcl2、Tcl3未満の場合、潤滑油供給パターンを第3潤滑油供給パターンと判定して、フローをステップS30進め、パターン3で、第2ブレーキBR2及び第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3に潤滑油を供給するとともにフローをリターンする。
【0194】
また、第2ブレーキBR2の温度が閾値Tlow以上、かつ、入力回転数と入力トルクと第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3の温度とのうちのいずれか1つが所定値以上の場合、潤滑油供給パターンを第4潤滑油供給パターンと判定して、フローをステップS30進め、パターン4で、第2ブレーキBR2及び第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3に潤滑油を供給するとともにフローをリターンする。
【0195】
以上の構成によれば、第2ブレーキBR2の温度、入力トルク、入力回転数、第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3の温度に応じて、潤滑油供給パターンを切り換えることができるので、第2ブレーキBR2、及び、第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3に対して車両の状態に応じて適切な潤滑油量を供給することができる。
【0196】
これにより、通常は燃費重視で、第2ブレーキBR2、及び、第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3への潤滑油量を削減しつつ、必要に応じて、第2ブレーキBR2、及び、第1~第3クラッチCL1、CL2、CL3それぞれに必要な量の潤滑油を供給することができる。その結果、車両の状態を考慮して変速機全体として燃費の向上と、各摩擦締結要素の耐久性の確保と、の両立を図ることができる。
【0197】
特に、発熱に対してシビアな第2ブレーキBR2の潤滑油量の切り換えについては、より熱負荷に直接的なパラメータである第2ブレーキBR2の温度を用いることで、潤滑油の供給量を適切に設定することができる。
【0198】
一方、第2ブレーキBR2に比して発熱量が小さい他の摩擦締結要素への潤滑油量の切り換えについては、比較的検出が容易な入力トルクをパラメータとして用いることで、潤滑油の供給量を適切に設定することができる。
【0199】
これにより、制御内容や制御条件を複雑化することなく、車両の状態に応じて、自動変速機の各摩擦締結要素に必要に応じた潤滑油量を供給することで、燃費の向上と、各摩擦締結要素の信頼性の確保との両立を図ることができる。
【0200】
前述のように、発進時等のスリップ状態による発熱のために高い冷却性能が要求される第2ブレーキBR2に対しては、オイルクーラ91を経由しない第2ブレーキ用潤滑油増量油路(第2の潤滑回路)gを介して潤滑油が供給される。第2の潤滑回路gの管路抵抗は、オイルクーラ91を経由する場合に比して低減されるので、第2ブレーキBR2に対して冷却に必要な潤滑油の流量が供給されて、第2ブレーキBR2の耐久性が確保される。
【0201】
潤滑油がオイルクーラ91を経由しない第2の潤滑回路gを有する場合においては、潤滑油が常にオイルクーラ91を経由する場合に比して、潤滑油の温度が上昇しやすくなるが、潤滑油の温度(ATF温度)が所定値以上の場合は、オイルクーラ91を経由する第2潤滑分岐油路f1に加えて第1~第3クラッチの潤滑油増量油路hが連通するので、第1の潤滑回路f2、hの流量が増大されるので、オイルクーラ91を経由する潤滑油の流量が増大されて潤滑油が冷却される。
【0202】
以上により、第2ブレーキBR2の耐久性を確保しながら、潤滑油の温度の上昇を抑制することができる。
【0203】
その結果、潤滑油の温度を所定値未満にコントロールすることができるので、潤滑油の粘性の低下が抑制され、例えば、シール部からのリーク等の不具合が抑制される。また、例えば、オイルパン内にTCM等の熱害対策部品等が配置された場合に、潤滑油の温度が所定値以上となることによる該熱害対策部品に対する熱害が抑制される。
【0204】
前述のように、第2ブレーキBR2に対する第2ブレーキ用潤滑油増量回路gからの潤滑油の供給を遮断することで、第2ブレーキ用潤滑油増量回路gを遮断しない場合に比して、第1の潤滑回路f2、hに流入する潤滑油の割合を増大できる。
【0205】
また、潤滑油がオイルクーラ91を経由しないことによって、冷却されていない潤滑油が第2ブレーキBR2に供給されて、潤滑油の温度が上昇するが、オイルクーラ91を経由しない第2ブレーキ用潤滑油増量回路gを遮断するので、潤滑油の温度上昇が抑制できる。これにより、より効果的に潤滑油を冷却できる。
【0206】
前述のように、第2ブレーキBR2には、第2ブレーキ用潤滑油増量回路gに加えて、第1潤滑分岐油路(部分回路)f1からも潤滑油が供給されるので、第2ブレーキ用潤滑油増量回路gが制限された場合においても、第2ブレーキBR2に対して第1潤滑分岐油路f1から潤滑油を供給できる。したがって、潤滑油の温度が所定値以上の場合においても、第2ブレーキBR2の耐久性を確保することができる。
【0207】
前述のように、第1潤滑分岐油路f1に設けられた固定オリフィス81の流路面積81aは、第2ブレーキ用潤滑油増量回路gに設けられた増量オリフィス84の流路面積84aよりも小さく形成されているので、潤滑油の温度が所定値以上の場合かつ第2ブレーキBR2の冷却要求が低い場合において、第2ブレーキBR2の潤滑油による攪拌抵抗及び引きずり抵抗を抑制することができる。
【0208】
本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能である。
【0209】
例えば、本実施形態において第1ブレーキBR1に供給される潤滑油は、入力軸12に設けられた潤滑油路L12から供給される構成について説明したが、第1ブレーキBR1に供給される潤滑油は、第1~第3クラッチCL1~CL3の潤滑油の供給経路と同じ供給経路から供給されてもよい。この場合、第1~第3クラッチCL1~CL3及び第1ブレーキBR1に対する潤滑油の供給量は、図11のフローチャートのステップS20及びステップS25の後のステップに、第1ブレーキBR1の温度が所定値(例えば、180℃)以上かを判定するステップを追加するように構成してもよい。
【0210】
また、例えば、本実施形態において、潤滑油供給パターンは、第2ブレーキBR2の温度と、入力回転数と、入力トルクと、第1~第3クラッチCL1~CL3の温度とが所定の閾値以上かどうかによって決定する構成について説明したが、入力トルクと、第2ブレーキBR2の温度とによって潤滑油供給パターンを決定してもよい。
【0211】
また、例えば、本実施形態において、潤滑油供給パターンは、第2ブレーキBR2の温度と、入力回転数と、入力トルクと、第1~第3クラッチCL1~CL3の温度とが所定の閾値以上かどうかによって決定する構成について説明したが、入力トルクと、入力回転数、または、第1~第3クラッチCL1~CL3の温度と、第2ブレーキBR2の温度とによって潤滑油供給パターンを決定してもよい。
【0212】
また、例えば、本実施形態において、各摩擦締結要素の温度は、計算によって算出される構成について説明したが、図7に仮想線で示すように、各摩擦締結要素の温度は、各摩擦締結要素の温度センサ等を用いて検出されてもよい。
【0213】
また、例えば、本実施形態において、ステップS8における変速動作中かどうかの判定には、変速完了時の判定には、各摩擦締結要素が完全締結したかどうかによって判定してもよい。
【0214】
また、例えば、本実施形態において、変速動作中においては潤滑油供給パターンの切り換え動作を制限するとともに、潤滑油供給パターンの切り換え動作中においては変速動作を禁止する構成について説明したが、変速動作中における潤滑油供給パターンの切り換え動作の制限と、潤滑油供給パターンの切り換え動作中における変速動作の禁止とのうちのどちらか一方のみを行ってもよい。
【0215】
また、例えば、本実施形態において、各摩擦締結要素に対する潤滑油の供給量を増大させるために、各摩擦締結要素用増大回路(増量オリフィス及び増大バルブ)を有する構成について説明したが、各摩擦締結要素に対する潤滑油の供給量を増大させるための構成として、増量オリフィス84、85、潤滑油増量バルブ34、35、及び、固定オリフィス81、82、83に代えて、可変オリフィスを用いて、車両の運転状態に応じてオリフィス径を調整してもよい。
【0216】
なお、本実施形態においては、潤滑油を供給するための第2ブレーキ用潤滑油増量油路(第2の潤滑回路)gの流量を制限する例として、第2ブレーキ用潤滑油増量油路gを遮断する構成について説明したが、上述の可変オリフィスを用いて、第2ブレーキ用潤滑油増量油路gに設けられた増量オリフィス84の流路面積を縮小することで潤滑油の流量を制限する構成を備えていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0217】
以上のように、本発明によれば、自動変速機の潤滑制御装置において、発進用摩擦締結要素の耐久性を確保しながら、潤滑油の温度の上昇を抑制するので、変速機の製造産業分野において好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0218】
2 油圧制御装置(潤滑制御装置)
10 自動変速機
81a 固定オリフィスの流路面積(部分回路の流路面積)
84a 増量オリフィスの流路面積(第2の潤滑回路の流路面積)
91 オイルクーラ
200 コントロールユニット(制御手段)
205 油温センサ(潤滑油温度検出手段)
BR2 第2ブレーキ(発進用摩擦締結要素)
CL1~CL3、BR1 第1~3クラッチ、第1ブレーキ(潤滑部)
f1 部分回路
f2、h 第1の潤滑回路
g 第2の潤滑回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図11