(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】ステータ
(51)【国際特許分類】
H02K 3/34 20060101AFI20231108BHJP
H02K 9/19 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
H02K3/34 Z
H02K9/19 A ZHV
H02K3/34 D
(21)【出願番号】P 2019203216
(22)【出願日】2019-11-08
【審査請求日】2022-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】越野 尚人
(72)【発明者】
【氏名】長井 信吾
(72)【発明者】
【氏名】河西 啓友
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-297924(JP,A)
【文献】特開2019-009866(JP,A)
【文献】特開2012-186880(JP,A)
【文献】特開2011-167045(JP,A)
【文献】特開2003-070199(JP,A)
【文献】特開2006-320171(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/34
H02K 9/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状のヨークと、前記ヨークの内周面から半径方向内側に突出し周方向に間隔を空けて設けられる複数のティースと、を備えるステータコアと、
前記ティースの周囲に巻回されたコイルと、
隣り合う前記ティース間のスロットに挿入され前記スロット内の空隙を埋める、多孔質体を含む支持部材と、
前記コイル及び前記支持部材の、ステータコア軸方向の両端を覆う被覆部材と、
を備え、
前記スロットの底面から前記ヨークの外周面まで貫通する第一流路、及び、前記被覆部材の、前記支持部材との当接面からその対向面まで貫通する第二流路
が形成され
、
前記第一流路は、前記スロットの底面の、ステータコア周方向幅の中央部分に設けられ、
前記スロット内において、前記コイルは一列のみ配置され、
前記コイルは、前記スロットの底面とは離間され、
前記コイルと前記スロットの底面との間に前記支持部材が充填された、
ステータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両駆動用の回転電機(モータ)に用いられるステータの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両や電気自動車の駆動源として、回転電機が用いられる。回転電機の固定子であるステータは、環状のヨークと、ヨーク内周面から径方向中心に突出し、周方向に間隔を空けて設けられた複数のティースを備える。それぞれのティースにはコイルが巻回される。
【0003】
また、隣り合うティース間のスロットには、支持部材が挿入される。スロット内の空隙が支持部材によって埋められることで、ティースからのコイルの抜けが抑制される。
【0004】
例えば特許文献1、2では、支持部材は多孔質体を含む。多孔質体はその内部にATF(Automatic Transmission Fluid)等の冷却液が含浸可能となっており、これによりコイル及びステータコアの冷却が図られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-9499号公報
【文献】特開2006-320171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本明細書で開示されるステータは、多孔質体内に流れ込む冷却液の、スロット内での滞留を従来よりも抑制可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書で開示されるステータは、ステータコア、コイル、支持部材、及び被覆部材を備える。ステータコアは、環状のヨークと、ヨークの内周面から半径方向内側に突出し周方向に間隔を空けて設けられる複数のティースを備える。コイルは、ティースの周囲に巻回される。支持部材は、隣り合うティース間のスロットに挿入されスロット内の空隙を埋める。またこの支持部材は多孔質体を含む。被覆部材は、コイル及び支持部材の、ステータコア軸方向の両端を覆う。またステータには、スロットの底面からヨークの外周面まで貫通する第一流路、及び、被覆部材の、支持部材との当接面からその対向面まで貫通する第二流路の少なくとも一方が形成される。
【発明の効果】
【0008】
本明細書で開示されるステータによれば、多孔質体内に流れ込む冷却液が、第一流路及び第二流路の少なくとも一方からステータ外部に排出されるので、そのような流路が形成されていない従来のステータよりも、スロット内の冷却液の滞留を抑制可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に係るステータの外形を例示する斜視図である。
【
図3】ステータコアのティースに巻回されるコイルを例示する斜視図である。
【
図4】スロット内に挿入される支持部材を例示する斜視図である。
【
図7】コイルが分布巻きであるときの、A-A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本実施形態に係るステータついて、図面を参照しながら説明する。
図1を参照して、本実施形態に係るステータ10は、回転電機の固定子であって、ステータコア20、コイル30(
図3参照)、支持部材50(
図4参照)、及び被覆部材である樹脂モールド40を含んで構成される。
【0011】
以下の説明においては、
図1に示すように、ステータコア20の環状部材であるヨーク22(
図2参照)の周方向を「ステータコア周方向」、ステータコア20の半径方向を「ステータコア半径方向」、及びステータコア20の厚さ方向を「ステータコア軸方向」という。
【0012】
図2を参照して、ステータコア20は磁路を形成する磁気回路部材であって、例えば複数の電磁鋼板をステータコア軸方向に積層して製造される。または、磁性粉を加圧成形してステータコア20を製造してもよい。
【0013】
ステータコア20は、ヨーク22及び複数のティース24を備える。ヨーク22は環状部材であり、ティース24は、ヨーク22の内周面から半径方向内側に突出する。さらにティース24は、ステータコア周方向に間隔を空けて複数設けられる。隣り合うティース24,24間にスロット26が形成される。
【0014】
さらにステータコア20には、スロット26の底面26A、言い換えるとヨーク22の内周面から、ヨーク22の外周面22Aまで貫通する第一流路28が形成される。後述するように、第一流路28は、スロット26内に挿入された、多孔質体を含む支持部材50(
図4参照)に流れ込んだ冷却液をステータ10の外部に排出するための排出口として機能する。
【0015】
図2を参照して、第一流路28は、スロット底面26Aの、ステータコア周方向幅A1の中央部分に設けられてよい。後述するように、集中巻きのコイル30が用いられる場合、
図5に例示されるように、スロット26内には、コイル30,30が隣り合って設けられる。またスロット26内には、コイル30,30の間に、スロット26の周方向中央部分の空隙を埋めるようにして、支持部材50が挿入される。スロット底面26Aのステータコア周方向幅A1の中央部分に第一流路28が形成されることで、支持部材50の径方向外側に第一流路28が接続されることになり、支持部材50内の冷却液がスムーズに第一流路28に排出される。
【0016】
図4を参照して、コイル30はティース24の周囲に巻回される。コイル30の巻回にはいくつかの方法があり、例えば
図4では集中巻きの例が示される。集中巻きでは、予め四角筒状に巻回されたコイル30がティース24に差し込まれる。
図4に例示されるように、スロット底面26Aとコイル30との間に絶縁部材34が挟み込まれてもよく、またティース24の半径方向内側端部にコイル30用の抜け止めリング32が固定されてもよい。
【0017】
また
図5を参照して、コイル30は、導体であるコイル本体31と、コイル本体31の外周面を覆う絶縁被膜33を備える。
【0018】
図5に例示されるように、集中巻きでは、一つのスロット26に複数のコイル30が配置される。ティース24にコイル30を差し込む際に、差し込み済みの隣のコイル30との干渉を抑制するため、スロット26内ではコイル30,30間に空隙が設けられる。この空隙が支持部材50によって埋められる。
【0019】
図4及び
図5を参照して、支持部材50はスロット26内に挿入される。例えばスロット26内にすべてのコイル30が差し込まれた後に、支持部材50が挿入される。支持部材50は例えば熱硬化性材料から構成され、ゲル状(粘性流体状)の支持部材50がスロット26内に挿入(充填)される。さらにこのステータの組立体を加熱処理することで支持部材50が硬化する。
【0020】
支持部材50は多孔質体を含む。例えば支持部材50の全体が多孔質体から構成されてもよい。例えば加熱処理の過程で支持部材50が発泡し、ステータコア径方向に沿って連通された連泡構造が形成される。後述するように、支持部材50が多孔質体を含むことで、当該多孔質体に冷却液が入り込み、コイル30及びステータコア20が冷却される。
【0021】
支持部材50によりスロット26内の空隙が埋められることで、コイル30のティース24からの抜けが抑制される。なお、確実なコイル30の固定のため、支持部材50が接着性を備えていてもよい。
【0022】
図1を参照して、ステータコア20、コイル30及び支持部材50を含むステータ組立体の、ステータコア軸方向両端に、被覆部材である樹脂モールド40が形成される。樹脂モールド40は、コイル30のコイルエンド部分、つまり、コイル30の、ステータコア軸方向両端部分及びこれに隣接する支持部材50の同軸方向両端部分を覆う、環状部材である。
【0023】
樹脂モールド40が、コイル30及び支持部材50のステータコア軸方向両端部分、つまり、ステータコア20よりもステータコア軸方向両端にはみ出した部分を覆うことで、当該はみ出し部分が周辺部材から保護される。例えば樹脂モールド40はエポキシ樹脂またはワニスから構成されてよい。
【0024】
樹脂モールド40には第二流路42が形成される。例えば硬化後の樹脂モールド40に第二流路が穿孔される。
図1、
図6を参照して、第二流路42は、支持部材50との当接面40Aからその対向面40Bまで貫通する。後述するように、支持部材50に流れ込んだ冷却液は、第二流路42からステータ10の外部に排出される。
【0025】
図5、
図6を参照して、図示しないロータの遠心力等により、ステータ10の内周面に冷却液が供給される。冷却液は例えばATF(Automatic Transmission Fluid)であってよい。ステータ10の内周面に供給された冷却液は、
図6の矢印に例示されるように、多孔質体を含む支持部材50内に入り込む(含浸する)。これによってコイル30及びステータコア20が冷却される。
【0026】
さらに支持部材50内の冷却液は、第一流路28及び第二流路42からステータ10の外部に排出され、新たな冷却液が支持部材50内に入り込む。このように、支持部材50内の冷却液が入れ替わることで、コイル30及びステータコア20が継続的に冷却される。
【0027】
<他の実施形態>
図1、
図6では、ステータ10に第一流路28及び第二流路42が形成されていたが、要するに支持部材50に滞留する冷却液がステータ10の外部に排出されればよいので、ステータ10には、第一流路28及び第二流路42の少なくとも一方が形成されていればよい。
【0028】
また、例えば
図5では、集中巻きのコイル30がティース24に巻回されていたが、本実施形態に係るステータ10はこの形態に限られない。例えば
図7に例示されるように、分布巻きのコイル30においても、第一流路28及び第二流路42(図示せず)を備えたステータ10を構成可能である。
【0029】
なお、分布巻きにおいては、スロット26には、コイル30が一列のみティース24に巻回される。このような場合において、ステータコア径方向に沿って最も外側のコイル30が第一流路28を塞がないような構造とすることが好適である。例えば、コイル30の巻回に当たり、スロット26の底面26Aとは離間するように、コイル30がスロット26内に配置される。さらにコイル30とティース24の間に、支持部材50が挿入(充填)される。このようにすることで、支持部材50を流路として、コイル30とティース24の間に冷却液が通過し、コイル30及びティース24の冷却が図られる。また冷却後の冷却液は第一流路28及び第二流路42からステータ10外に排出される。
【符号の説明】
【0030】
10 ステータ、20 ステータコア、22 ヨーク、22A ヨーク外周面、24 ティース、26 スロット、26A スロット底面、28 第一流路、30 コイル、31 コイル本体、32 抜け止めリング、33 絶縁被膜、34 絶縁部材、40 樹脂モールド(被覆部材)、40A 当接面、40B 対向面、42 第二流路、50 支持部材。