(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】印刷機の温度調節装置
(51)【国際特許分類】
B41F 33/00 20060101AFI20231108BHJP
B41F 31/04 20060101ALI20231108BHJP
B41F 31/14 20060101ALI20231108BHJP
B41F 31/26 20060101ALI20231108BHJP
B41F 13/10 20060101ALI20231108BHJP
B41F 17/22 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
B41F33/00 234
B41F31/04
B41F31/14 C
B41F31/26 Z
B41F13/10 324
B41F17/22
(21)【出願番号】P 2019204450
(22)【出願日】2019-11-12
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【氏名又は名称】藤本 信男
(72)【発明者】
【氏名】高取 偉織
(72)【発明者】
【氏名】長塚 良太
(72)【発明者】
【氏名】幡野 修
(72)【発明者】
【氏名】下村 亨
【審査官】加藤 昌伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-347214(JP,A)
【文献】特開平11-138758(JP,A)
【文献】特開2009-298162(JP,A)
【文献】特開平11-188851(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0297999(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41F 31/00 - 35/06
B41F 16/00 - 19/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷機に搭載された複数のインキ装置のローラの軸部分に温調水を供給することにより、前記ローラの温度を調節する印刷機の温度調節装置であって、
前記インキ装置の各々に対応して設けられた、前記インキ装置の各々におけるローラ群のうちインキ均し機能ローラの温度を調節する複数の均し機能ローラ用温度調節部を
有し、
前記印刷機が一時停止したときに、前記インキ均し機能ローラに、予め設定された温度の温水を供給する温水供給部を有し、
前記均し機能ローラ用温度調節部および前記温水供給部を制御する制御部を有し、
前記制御部は、
基準設定温度よりも高い設定温度で前記均し機能ローラ用温度調節部を作動させる高温モード、
前記基準設定温度よりも高くかつ前記高温モードの設定温度よりも低い設定温度で前記均し機能ローラ用温度調節部を作動させる中温モード、
前記基準設定温度で前記均し機能ローラ用温度調節部を作動させる通常運転モード、および
前記印刷機が一時停止したときに、前記均し機能ローラ用温度調節部の作動を停止すると共に、前記温水供給部から前記インキ均し機能ローラに前記温水を供給する一時停止モード
によって制御する機能を有することを特徴とする印刷機の温度調節装置。
【請求項2】
前記均し機能ローラ用温度調節部の各々は、供給する温調水の温度および流量を調節することにより、前記インキ均し機能ローラの温度を調節するものであることを特徴とする請求項1に記載の印刷機の温度調節装置。
【請求項3】
前記インキ均し機能ローラは、バイブレータローラとフォームローラとを備え、
前記インキ装置の各々に対応して設けられた、前記フォームローラの表面温度を検知する複数の温度センサを有し、
前記均し機能ローラ用温度調節部の各々は、対応する前記温度センサによる検知温度に基づいて、前記バイブレータローラの温度を調節するものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の印刷機の温度調節装置。
【請求項4】
前記インキ装置の各々におけるローラ群のうちインキ供給機能ローラの温度を調節する供給機能ローラ用温度調節部を有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の印刷機の温度調節装置。
【請求項5】
前記供給機能ローラ用温度調節部は、供給する温調水の流量を調節することにより、前記インキ供給機能ローラの温度を調節するものであることを特徴とする請求項4に記載の印刷機の温度調節装置。
【請求項6】
前記供給機能ローラ用温度調節部は、全てのインキ装置について、各インキ供給機能ローラの温度を調節する共通のものであることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の印刷機の温度調節装置。
【請求項7】
前記インキ供給機能ローラは、ファウンテンローラとトランスファローラとを備え、
前記インキ装置の各々に対応して設けられた、前記トランスファローラの表面温度を検知する複数の温度センサを有し、
前記供給機能ローラ用温度調節部は、前記インキ装置の各々に対応して設けられた、前記温調水の流量を調節する複数の流量調節弁を有し、対応する前記温度センサによる検知温度に基づいて、前記インキ装置毎に、供給する温調水の流量を調節することにより、前記ファウンテンローラおよび前記トランスファローラの温度を調節するものであることを特徴とする請求項6に記載の印刷機の温度調節装置。
【請求項8】
前記供給機能ローラ用温度調節部の複数が、前記インキ装置の各々に対応して設けられていることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の印刷機の温度調節装置。
【請求項9】
前記印刷機における版胴に冷却媒体を供給することにより、前記版胴を冷却する版胴用冷却部を有することを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の印刷機の温度調節装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷機に搭載された複数のインキ装置のローラの軸部分に温調水を供給することにより、各ローラの温度を調節する印刷機の温度調節装置に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷機においては、稼働中に生じる摩擦熱などにより、インキローラや版面の温度が次第に上昇し、これに伴ってインキの粘度が低下する結果、印刷品質に種々の悪影響をもたらす。特に、水なし平版印刷では、その影響が大きく、刷版非画線部において、温度上昇によってインキの粘度が低下することにより、反発性が低下して「地汚れ」と称される現象が発生する。このため、従来、通常のオフセット印刷機等において、インキ装置や版面の温度上昇を防止する印刷機の温度調節装置が種々提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、インキ装置のローラ群に温調水を通水する管路を、インキ供給機能ローラの温度を調節する第1系統管路と、インキ均し機能ローラの温度を調節する第2系統管路に分け、第1系統管路と第2系統管路とが別々に温度調節することができる印刷機の温度調節装置が開示されている。
このような印刷機の温度調節装置においては、インキ供給機能ローラおよびインキ均し機能ローラの各々を、最適な温度に維持しながら、印刷機を稼働することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、複数のインキ装置を搭載した印刷機においては、各インキ装置間において、インキ均し機能ローラの温度のバラツキが大きいため、上記の温度調節装置を適用しても、インキ装置の各々におけるインキ均し機能ローラの温度を均一にかつ高い精度で調節することが困難である。このため、得られる印刷物においては、地汚れが発生したり、インキの発色が悪くて彩度が低下したりする、という問題がある。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、その目的は、複数のインキ装置を搭載した印刷機について、インキ装置の各々におけるインキ均し機能ローラの温度を均一にかつ高い精度で調節することができる印刷機の温度調節装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の印刷機の温度調節装置は、印刷機に搭載された複数のインキ装置のローラの軸部分に温調水を供給することにより、前記ローラの温度を調節する印刷機の温度調節装置であって、
前記インキ装置の各々に対応して設けられた、前記インキ装置の各々におけるローラ群のうちインキ均し機能ローラの温度を調節する複数の均し機能ローラ用温度調節部を有し、
前記印刷機が一時停止したときに、前記インキ均し機能ローラに、予め設定された温度の温水を供給する温水供給部を有し、
前記均し機能ローラ用温度調節部および前記温水供給部を制御する制御部を有し、
前記制御部は、
基準設定温度よりも高い設定温度で前記均し機能ローラ用温度調節部を作動させる高温モード、
前記基準設定温度よりも高くかつ前記高温モードの設定温度よりも低い設定温度で前記均し機能ローラ用温度調節部を作動させる中温モード、
前記基準設定温度で前記均し機能ローラ用温度調節部を作動させる通常運転モード、および
前記印刷機が一時停止したときに、前記均し機能ローラ用温度調節部の作動を停止すると共に、前記温水供給部から前記インキ均し機能ローラに前記温水を供給する一時停止モード
によって制御する機能を有することを特徴とする。
【0008】
印刷機の温度調節装置においては、前記均し機能ローラ用温度調節部の各々は、供給する温調水の温度および流量を調節することにより、前記インキ均し機能ローラの温度を調節するものであることが好ましい。
【0009】
また、印刷機の温度調節装置においては、前記インキ均し機能ローラは、バイブレータローラとフォームローラとを備え、
前記インキ装置の各々に対応して設けられた、前記フォームローラの表面温度を検知する複数の温度センサを有し、
前記均し機能ローラ用温度調節部の各々は、対応する前記温度センサによる検知温度に基づいて、前記バイブレータローラの温度を調節するものであることが好ましい。
【0010】
また、印刷機の温度調節装置においては、前記インキ装置の各々におけるローラ群のうちインキ供給機能ローラの温度を調節する供給機能ローラ用温度調節部を有することが好ましい。
【0011】
また、印刷機の温度調節装置においては、前記供給機能ローラ用温度調節部は、供給する温調水の流量を調節することにより、前記インキ供給機能ローラの温度を調節するものであることが好ましい。
【0012】
また、印刷機の温度調節装置においては、前記供給機能ローラ用温度調節部は、全てのインキ装置について、各インキ供給機能ローラの温度を調節する共通のものであることが好ましい。
【0013】
また、印刷機の温度調節装置においては、前記インキ供給機能ローラは、ファウンテンローラとトランスファローラとを備え、
前記インキ装置の各々に対応して設けられた、前記トランスファローラの表面温度を検知する複数の温度センサを有し、
前記供給機能ローラ用温度調節部は、前記インキ装置の各々に対応して設けられた、前記温調水の流量を調節する複数の流量調節弁を有し、対応する前記温度センサによる検知温度に基づいて、前記インキ装置毎に、供給する温調水の流量を調節することにより、前記ファウンテンローラおよび前記トランスファローラの温度を調節するものであることが好ましい。
【0014】
また、印刷機の温度調節装置においては、前記供給機能ローラ用温度調節部の複数が、前記インキ装置の各々に対応して設けられていてもよい。
【0017】
また、印刷機の温度調節装置においては、前記印刷機における版胴に冷却媒体を供給することにより、前記版胴を冷却する版胴用冷却部を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の印刷機の温度調節装置によれば、インキ均し機能ローラの温度を調節する複数の均し機能ローラ用温度調節部が、複数のインキ装置に対応して設けられているため、インキ装置の各々におけるインキ均し機能ローラの温度を個別に調節することができ、その結果、各インキ均し機能ローラについて均一にかつ高い精度で温度を調節することができる。
また、均し機能ローラ用温度調節部の各々が、供給する温調水の温度および流量を調節することにより、インキ均し機能ローラの温度を調節する構成によれば、インキ均し機能ローラの温度をより高い精度で調節することができる。
【0019】
また、インキ装置の各々におけるインキ供給機能ローラの温度を調節する供給機能ローラ用温度調節部を有する構成によれば、インキ供給機能ローラおよびインキ均し機能ローラの各々を、最適な温度に調節することができる。
【0020】
また、インキ均し機能ローラに、予め設定された温度の温水を供給する温水供給部を有する構成によれば、印刷機が一時停止したときに、インキ均し機能ローラの温度が低下することが防止または抑制されるため、印刷機を再稼働したときに、インキ均し機能ローラを所要の温度に早期に調節することができる。
【0021】
また、高温モード、中温モード、通常運転モードおよび一時停止モードによって制御する制御部を有する構成によれば、印刷機を稼働したときまたは再稼働したときに、インキ均し機能ローラを所要の温度に早期に調節することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の温度調節装置が適用される印刷機の構成を示す説明図である。
【
図2】
図1に示す印刷機におけるインキ装置の構成を示す説明図である。
【
図3】本発明の印刷機の温度調節装置の構成の概略を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る印刷機の温度調節装置の実施の形態について,図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の温度調節装置が適用される印刷機の構成を示す説明図である。
図2は、
図1に示す印刷機におけるインキ装置の構成を示す説明図である。
図3は、本発明の印刷機の温度調節装置の構成の概略を示す説明図である。
【0024】
図1に示す印刷機は、缶体の外周面に印刷するものであって、ブランケットホイール1の外周面に沿って8個の版胴2が固定位置に配置された、8色重ね刷りが可能な水なし平版印刷機である。この水なし平版印刷機における版胴2の各々には、各色のインキ装置3が配置されている。この水なし平版印刷機において、版胴2の各々には、各色のデザイン画像の版が装着され、各版胴2が回転することによって、各版胴2の外周面にインキ装置3からインキが転移され、各版胴2の版面の画線部に相当する箇所にインキが付着する。従って、ブランケットホイール1が回転すると、当該ブランケットホイール1に装着されたブランケット面と版胴2の版面とが順次回転接触することにより、ブランケット面には多色の画像が形成される。
【0025】
一方、印刷対象である缶体は、インフィードシュート5からターレットホイール6に供給され、ターレットホイール6の回転に応じて図示しないマンドレルホイールのマンドレルに嵌合移載され、回転するブランケットホイール1と回転接触することによって、ブランケット面上に形成された画像が缶体の周面に転写されて印刷される。なお、
図1において、7は、印刷が施された缶体の周面に仕上げワニスを塗布するためのアプリケーターローラであり、8は、移載用トランスファディスクであり、印刷が終了して仕上げワニスが塗装された缶体が、マンドレルホイールから移載用トランスファディスク8に受け渡され、次工程に送られる。
【0026】
各色のインキ装置3は、
図2に示すように、インキの供給源であるインキファウンテン11を有し、インキファウンテン11と版胴2との間には、ローラ群が設けられている。このローラ群においては、インキファウンテン11に接近する上流側に、インキファウンテン11からインキを供給する機能を有するインキ供給機能ローラ10aが配置され、版胴2に接近する下流側には、インキを均す機能を有するインキ均し機能ローラ10bが配置されている。
【0027】
インキ供給機能ローラ10aにおいては、ファウンテンローラ12、ダクターローラ13およびトランスファローラ14が上流側から下流側に向かってこの順で配置されている。
インキ均し機能ローラ10bは、3つのバイブレータローラ16,18,20を有する。上流側に配置されたバイブレータローラ16と、インキ供給機能ローラ10aにおけるトランスファローラ14との間には、ディストリビュータローラ15が配置されている。また、バイブレータローラ16,18の間、およびバイブレータローラ18,20の間には、それぞれディストリビュータローラ17,19が配置されている。また、バイブレータローラ18と版胴2との間には、フォームローラ21が配置され、バイブレータローラ20と版胴2との間には、フォームローラ22が配置されている。
【0028】
図示の例の印刷機の温度調節装置(以下、単に「温度調節装置」ともいう。)は、冷水を貯蔵する冷水タンクを有する冷水熱源25と、インキ装置3の各々におけるローラ群のうちインキ供給機能ローラ10aに温調水を供給することにより、当該インキ供給機能ローラ10aの温度を調節する単一の供給機能ローラ用温度調節部30と、インキ均し機能ローラ10bに温調水を供給することにより、当該インキ均し機能ローラ10bの温度を調節する複数の均し機能ローラ用温度調節部40と、所定の温度の温水を貯蔵する温水タンクを有する温水供給部50と、版胴2の各々を冷却する版胴用冷却部55と、これらを制御する制御部60とを有する。
【0029】
冷水熱源25における冷水タンクには、所定の温度の冷水が貯蔵されている。この冷水の温度は、例えば7~13℃である。
また、冷水熱源25には、3つの冷水供給管26,27,28が設けられており、冷水供給管26には供給機能ローラ用温度調節部30が接続され、冷水供給管27には温水供給部50が接続され、冷水供給管28には版胴用冷却部55が接続されている。
【0030】
供給機能ローラ用温度調節部30は、全てのインキ装置3について、各インキ供給機能ローラ10aの温度を調節する共通のものである。この供給機能ローラ用温度調節部30においては、その内部に設けられた温調水用の配管にポンプ(図示省略)およびヒータ(図示省略)が上流側から下流側にこの順で直列に配置されており、ヒータの下流側には、インキ装置3に対応して分岐した複数(図示の例では8本)の温調水供給管31が接続されている。この温調水供給管31の各々は、対応するインキ装置3のインキ供給機能ローラ10aにおけるファウンテンローラ12およびトランスファローラ14の軸部分に接続されている。図示しないが、供給機能ローラ用温度調節部30には、ファウンテンローラ12およびトランスファローラ14の軸部分に供給された温調水を供給機能ローラ用温度調節部30の内部に戻す戻り管が設けられており、これにより、温調水を循環して使用可能とされている。
【0031】
供給機能ローラ用温度調節部30は、供給する温調水の流量を調節することにより、インキ装置3の各々におけるインキ供給機能ローラ10aの温度を調節するものである。この例では、温調水供給管31の各々に、温調水の流量を調節する流量調節弁(図示省略)が設けられており、これにより、インキ装置3の各々に供給される温調水の流量を個別に調節することが可能とされている。具体的には、インキ装置3の各々の内部には、トランスファローラ14の表面温度を検知する非接触式の温度センサ35が配置されており、この温度センサ35による検知温度とインキ供給機能ローラ10aの基準設定温度とに基づいて、インキ装置3毎に、供給する温調水の流量が調節される。
この基準設定温度は、インキ装置3におけるフォームローラ22の目標温度、雰囲気温度、印刷機の印刷方式などを考慮して適宜設定される。具体的な例を挙げると、基準設定温度をS1、フォームローラ22の目標温度をTとしたとき、S1=T-3℃~T+1℃である。
また、供給機能ローラ用温度調節部30におけるインキ供給機能ローラ10aの基準設定温度は、後述する均し機能ローラ用温度調節部40におけるインキ均し機能ローラ10bの基準設定温度より高い温度であることが好ましい。供給機能ローラ用温度調節部30におけるインキ供給機能ローラ10aの基準設定温度を高くすることにより、インキの流動性が高くなるため、インキファウンテン11からインキを取り出しやすくなる。
【0032】
また、供給機能ローラ用温度調節部30による温調水は、ヒータの作動または冷水熱源25から導入される冷水の量の調整によって、所定の温度に調節される。この温調水の温度は、インキ装置3におけるフォームローラ22の目標温度T、雰囲気温度、印刷機の印刷方式などを考慮して適宜設定される。
【0033】
均し機能ローラ用温度調節部40は、インキ装置3の各々に対応して複数設けられており、図示の例では、印刷機が8個のインキ装置を有することから、8個の均し機能ローラ用温度調節部40が設けられている。
【0034】
均し機能ローラ用温度調節部40の各々においては、その内部に設けられた温調水用の配管にポンプ(図示省略)およびヒータ(図示省略)が上流側から下流側にこの順で直列に配置されており、ヒータの下流側には、温調水供給管41が接続されている。各温調水供給管41は、対応するインキ装置3の均し機能ローラ用温度調節部40における3つのバイブレータローラ16,18,20の各々の軸部分に接続されている。図示しないが、均し機能ローラ用温度調節部40の各々には、バイブレータローラ16,18,20の軸部分に供給された温調水を、対応する均し機能ローラ用温度調節部40の内部に戻す戻り管が設けられており、これにより、温調水を循環して使用可能とされている。
【0035】
均し機能ローラ用温度調節部40の各々は、供給する温調水の温度および流量を調節することにより、対応するインキ装置3のインキ均し機能ローラ10bの温度を調節するものである。温調水供給管41の各々には、温調水の流量を調節する流量調節弁(図示省略)が設けられており、これにより、インキ装置3の各々に供給される温調水の流量を均し機能ローラ用温度調節部40毎に個別に調節することが可能とされている。
また、均し機能ローラ用温度調節部40の各々は、配管51によって温水供給部50に接続されており、均し機能ローラ用温度調節部40による温調水は、ヒータの作動または冷水熱源25から導入される冷水の量の調整によって、必要な温度に調節される。
具体的には、インキ装置3の各々の内部には、フォームローラ22の表面温度を検知する非接触式の温度センサ45が配置されており、この温度センサ45による検知温度とインキ均し機能ローラ10bの基準設定温度とに基づいて、インキ装置3毎に、供給する温調水の温度および流量が調節される。
【0036】
均し機能ローラ用温度調節部40におけるインキ均し機能ローラ10bの基準設定温度は、インキ装置3におけるフォームローラ22の目標温度、雰囲気温度、印刷機の印刷方式などを考慮して適宜設定される。具体的な例を挙げると、基準設定温度をS2、フォームローラ22の目標温度をTとしたとき、S2=T-8℃~T-4℃である。
【0037】
温水供給部50は、印刷機が一時停止したときに、インキ装置3の各々におけるインキ均し機能ローラ10bに、予め設定された温度の温水を供給するものである。具体的には温水供給部50は、配管51および各均し機能ローラ用温度調節部40内に設けられた配管を介して、温調水供給管41の各々に接続されており、印刷機が一時停止したときには、均し機能ローラ用温度調節部40による温調水の供給が停止すると共に、温水供給部50からの温水が、温調水供給管41を介してインキ均し機能ローラ10bにおけるバイブレータローラ16,18,20に供給される。温水供給部50には、ヒータ(図示省略)が設けられており、このヒータの作動によって、温水タンクに貯蔵された温水が所定の温度に保持されている。温水の温度は、例えばインキ装置3におけるフォームローラ22の目標温度に応じて設定され、具体的な例を挙げると35~38℃である。
【0038】
版胴用冷却部55は、版胴2の各々に冷却媒体を供給することにより、版胴2を冷却するものである。この例の版胴用冷却部55においては、冷却媒体として空気が用いられている。具体的に説明すると、この版胴用冷却部55においては、内部に熱交換器が設けられており、この熱交換器に冷水熱源25から冷水を循環させることにより、空気が所定の温度に冷却される。この冷却された空気が、配管56を介して版胴2の各々に供給されることにより、各版胴2が冷却される。版胴2に供給される空気の温度は、例えば15~22℃である。
【0039】
上記の冷水熱源25、供給機能ローラ用温度調節部30、均し機能ローラ用温度調節部40、温水供給部50および版胴用冷却部55の動作は、制御部60によって制御される。この例の制御部60は、基準設定温度よりも高い設定温度で均し機能ローラ用温度調節部40を作動させる高温モード、基準設定温度よりも高くかつ高温モードの設定温度よりも低い設定温度で均し機能ローラ用温度調節部40を作動させる中温モード、基準設定温度で均し機能ローラ用温度調節部を作動させる通常運転モード、および印刷機が一時停止したときに、均し機能ローラ用温度調節部40の作動を停止すると共に、温水供給部50からインキ均し機能ローラ10bに温水を供給する一時停止モードによって制御する機能を有するものである。
【0040】
高温モードは、印刷機の稼働を開始する時、または印刷機を長時間停止した後に再稼働する時に用いられるモードである。高温モードにおける均し機能ローラ用温度調節部40の設定温度は、基準設定温度をS2℃としたとき、例えばS2+3℃である。高温モードによる動作時間は、例えば50~90秒間である。
この高温モードにおいては、供給機能ローラ用温度調節部30を基準設定温度よりも高い設定温度で作動させることが好ましく、また、版胴用冷却部55から版胴2に供給される空気は、通常運転時よりも高い温度であることが好ましい。
【0041】
中温モードは、高温モードが終了した後、または印刷機を短時間停止した後に再稼働する時に用いられるモードである。中温モードにおける均し機能ローラ用温度調節部40の設定温度は、基準設定温度をS2℃としたとき、例えばS2+2℃である。また、中温モードによる動作時間は、例えば50~90秒間である。
この中温モードにおいては、供給機能ローラ用温度調節部30を基準設定温度よりも高くかつ高温モードによる設定温度よりも低い設定温度で作動させることが好ましく、また、版胴用冷却部55から版胴2に供給される空気は、通常運転時よりも高くかつ高温モードより低い温度であることが好ましい。
【0042】
一時停止モードにおいては、均し機能ローラ用温度調節部40による温調水の供給が停止すると共に、温水供給部50からインキ均し機能ローラ10bに、所定の量の温水が供給される。温水供給部50からの温水の供給量は、例えば20Lである。温水の流量および供給時間は適宜設定され、例えば温水の流量が100L/min、温水の供給時間は、10~15秒間である。
【0043】
上記の印刷機の温度調節装置においては、印刷機が稼働すると、供給機能ローラ用温度調節部30、均し機能ローラ用温度調節部40および版胴用冷却部55の動作が開始され、これらの動作は、開始時に制御部60による高温モードによって制御され、次いで、中温モードによって制御され、その後、通常運転モードによって制御される。
各モードにおいては、供給機能ローラ用温度調節部30によって、所定の温度の温調水がファウンテンローラ12およびトランスファローラ14に供給され、温度センサ35による検知温度および設定温度に基づいて、温調水の流量を調節することにより、ファウンテンローラ12およびトランスファローラ14の温度が調節される。また、均し機能ローラ用温度調節部40によって、温調水がバイブレータローラ16,18,20に供給され、温度センサ45による検知温度および設定温度に基づいて、温調水の流量および温度を調節することにより、バイブレータローラ16,18,20の温度が調節される。更に、版胴用冷却部55によって、版胴2に冷却された空気が供給されることにより、版胴2が冷却される。
【0044】
そして、印刷機が一時停止したときには、制御部60による一時停止モードによって、均し機能ローラ用温度調節部40の作動が停止すると共に、温水供給部50からバイブレータローラ16,18,20に所定の量の温水が供給される。その後、印刷機が再稼働すると、再度、供給機能ローラ用温度調節部30、均し機能ローラ用温度調節部40および版胴用冷却部55によって、インキ装置3におけるローラ群および版胴2の温度が調節される。このとき、印刷機の停止時間が長時間である場合には、最初の印刷機の稼働と同様にして、高温モード、中温モードおよび通常運転モードの順で、供給機能ローラ用温度調節部30、均し機能ローラ用温度調節部40および版胴用冷却部55が制御される。一方、印刷機の停止時間が短時間である場合には、高温モードによる制御が省略され、中温モードおよび通常運転モードの順で、供給機能ローラ用温度調節部30、均し機能ローラ用温度調節部40および版胴用冷却部55が制御される。
【0045】
以上において、印刷機が停止すると、摩擦熱などの発生がなくなるため、均し機能ローラ用温度調節部40による温調水の供給を継続した場合には、バイブレータローラ16,18,20の温度が急速に低下する。そのため、印刷機を再稼働したときには、バイブレータローラ16,18,20の温度を安定させるために相当に長い時間を要する。然るに、一時停止モードによって、均し機能ローラ用温度調節部40による温調水の供給が停止すると共に、温水供給部50からバイブレータローラ16,18,20に温水が供給されることにより、バイブレータローラ16,18,20の温度が維持される。その結果、印刷機を再稼働したときには、バイブレータローラ16,18,20の温度を早期に安定させることができる。
【0046】
以上説明したように、本発明の印刷機の温度調節装置によれば、インキ均し機能ローラ10bの温度を調節する複数の均し機能ローラ用温度調節部40が、複数のインキ装置3に対応して設けられているため、インキ装置3の各々におけるインキ均し機能ローラ10bの温度を個別に調節することができ、その結果、各インキ均し機能ローラ10bについて均一にかつ高い精度で温度を調節することができる。
また、均し機能ローラ用温度調節部40の各々が、供給する温調水の温度および流量を調節することにより、インキ均し機能ローラ10bの温度を調節するものであるため、インキ均し機能ローラ10bの温度をより高い精度で調節することができる。
【0047】
また、インキ装置3の各々におけるインキ供給機能ローラ10aの温度を調節する供給機能ローラ用温度調節部30が設けられているため、インキ供給機能ローラ10aおよびインキ均し機能ローラ10bの各々を、最適な温度に調節することができる。
【0048】
また、インキ均し機能ローラ10bに、予め設定された温度の温水を供給する温水供給部50が設けられていることにより、印刷機が一時停止したときに温水供給部50から温水が供給されることにより、インキ均し機能ローラ10bの温度が低下することが防止または抑制されるため、印刷機を再稼働したときに、インキ均し機能ローラを所要の温度に早期に調節することができる。
【0049】
また、制御部60は、高温モード、中温モード、通常運転モードおよび一時停止モードによって制御する機能を有するため、印刷機を稼働したときまたは再稼働したときに、インキ均し機能ローラ10bを所要の温度に早期に調節することができる。
【0050】
以上、本発明の温度調節装置の実施の形態について説明したが、本発明は、上記の形態に限定されず、種々の変更を加えることが可能である。
例えば供給機能ローラ用温度調節部は、インキ装置の各々に対応して複数設けられていてもよい。
また、上記の例の版胴用冷却部は、冷却媒体として空気を用いる空冷式のものであるが、冷却媒体として水を用いた水冷式の版胴用冷却部を用いることもできる。
【0051】
[実験例]
本発明の温度調節装置を用い、下記の条件で、水なし平版印刷機のインキ装置におけるローラ群の温度調節を行いながら、印刷機を稼働させた。
フォームローラ(22)の目標温度=36℃
高温モード:
供給機能ローラ用温度調節部(30)の設定温度=37℃(温調水の温度=37℃)
均し機能ローラ用温度調節部(40)の設定温度=33℃(温調水の初期流量=12.5L/min)
版胴用冷却部55から供給される空気の温度=22℃
中温モード:
供給機能ローラ用温度調節部(30)の設定温度=36℃(温調水の温度=36℃)
均し機能ローラ用温度調節部(40)の設定温度=32℃(温調水の初期流量=12.5L/min)
版胴用冷却部55から供給される空気の温度=20℃
通常運転モード:
供給機能ローラ用温度調節部(30)の設定温度=35℃(温調水の温度=35℃)
均し機能ローラ用温度調節部(40)の設定温度=30℃(温調水の初期流量=12.5L/min)
版胴用冷却部55から供給される空気の温度=15℃
【0052】
そして、各インキ装置におけるフォームローラ(22)の温度が安定した後、各フォームローラ(22)の温度を測定したところ、最高値が38.2℃、最低値が35.0℃であり、各フォームローラ(22)の温度のバラツキが3.2℃であった。また、得られた印刷物(缶体)の表面を観察したところ、地汚れの発生は認められず、また、各インキ装置によるインキの発色が良好で、色の混濁も認められなかった。
【0053】
また、特許文献1に記載の温度調節装置によって、水なし平版印刷機のインキ装置におけるローラ群の温度調節を行いながら、印刷機を稼働させ、各フォームローラの温度を測定したところ、最高値が44.8℃、最低値が32.4℃であり、各フォームローラの温度のバラツキが12.4℃であった。また、得られた印刷物(缶体)の表面を観察したところ、地汚れの発生は認められ、また、緑色などの発色が不良で、黄色および橙色の混濁が認められた。
【符号の説明】
【0054】
1 ブランケットホイール
2 版胴
3 インキ装置
5 インフィードシュート
6 マンドレルホイール
7 アプリケーターローラ
8 トランスファディスク
10a インキ供給機能ローラ
10b インキ均し機能ローラ
11 インキファウンテン
12 ファウンテンローラ
13 ダクターローラ
14 トランスファローラ
15,17,19 ディストリビュータローラ
16,18,20 バイブレータローラ
21,22 フォームローラ
25 冷水熱源
26,27,28 冷水供給管
30 供給機能ローラ用温度調節部
31 温調水供給管
35 温度センサ
40 均し機能ローラ用温度調節部
41 温調水供給管
45 温度センサ
50 温水供給部
51 配管
55 版胴用冷却部
56 配管
60 制御部