IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 豊田合成株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-近赤外線センサカバー 図1
  • 特許-近赤外線センサカバー 図2
  • 特許-近赤外線センサカバー 図3
  • 特許-近赤外線センサカバー 図4
  • 特許-近赤外線センサカバー 図5
  • 特許-近赤外線センサカバー 図6
  • 特許-近赤外線センサカバー 図7
  • 特許-近赤外線センサカバー 図8
  • 特許-近赤外線センサカバー 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】近赤外線センサカバー
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/118 20150101AFI20231108BHJP
   G02B 1/18 20150101ALI20231108BHJP
【FI】
G02B1/118
G02B1/18
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019207790
(22)【出願日】2019-11-18
(65)【公開番号】P2021081539
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】奥村 晃司
(72)【発明者】
【氏名】深川 鋼司
(72)【発明者】
【氏名】澤村 一実
【審査官】池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/180421(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104932048(CN,A)
【文献】中国実用新案第204536583(CN,U)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0088731(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第101888771(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/118
G02B 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
近赤外線センサにおける近赤外線の送信部及び受信部を覆い、かつ近赤外線の透過性を有するカバー本体部を備える近赤外線センサカバーであって、
前記カバー本体部は、
樹脂材料により形成された基材と、
近赤外線の送信方向における前記基材の後面を含む後部に設けられ、かつ通電により発熱する線状の発熱体により構成されるヒータ部とを備え、前記送信方向における前記基材の後面を含む後部であって、前記ヒータ部が設けられた箇所とは異なる箇所の少なくとも一部は、凹凸形状をなす反射抑制構造部により構成され、前記反射抑制構造部は、複数の突条部によって構成され、前記突条部は、前記送信方向に対し傾斜して近赤外線の反射を抑制する反射抑制面を備えている近赤外線センサカバー。
【請求項2】
前記反射抑制構造部は、それぞれ断面三角形状をなし、かつ互いに隣り合った状態で平行に延び、かつ前記反射抑制面を備える複数の突条部により構成されている請求項1に記載の近赤外線センサカバー。
【請求項3】
各突条部の底部から頂部までの高さは、同突条部の延びる方向に一定であり、
各突条部の前記高さは150nm~400nmに設定され、前記突条部の配列方向における同突条部の底部の寸法は170nm~200nmに設定されている請求項2に記載の近赤外線センサカバー。
【請求項4】
各突条部には、同突条部の頂部から底部に向けて円弧状に凹み、かつ同突条部の延びる方向に沿って深さが変化する複数の凹部が、同突条部の延びる方向に繋がった状態で形成されており、
各突条部の前記底部から前記頂部の最も高い箇所までの高さは150nm~400nmに設定され、前記突条部の配列方向における同突条部の底部の寸法は150nm~400nmに設定され、
各凹部の半径は1mm~10mmに設定され、
前記突条部の延びる方向における各凹部の寸法としてピックフィードが、30μm~90μmに設定され、前記凹部の深さとしてスキャロップが、0.01μm~0.1μmに設定されている請求項2に記載の近赤外線センサカバー。
【請求項5】
前記反射抑制構造部は、角錐状をなし、かつ互いに隣り合った状態で、互いに交差する2方向に配列され、かつ前記反射抑制面を備える複数の突部により構成されている請求項1に記載の近赤外線センサカバー。
【請求項6】
複数の前記突部はそれぞれ四角錐状をなし、かつ前記突部において隣り合う2つの底辺に沿って配列されており、
各突部の高さは150nm~400nmに設定され、各底辺の長さは170nm~200nmに設定されている請求項5に記載の近赤外線センサカバー。
【請求項7】
前記反射抑制構造部は、前記送信方向における後側に形成された親水化膜により被覆されている請求項1~6のいずれか1項に記載の近赤外線センサカバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線センサにおける近赤外線の送信部及び受信部を覆う近赤外線センサカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
車両に設置される近赤外線センサは、近赤外線の送信部及び受信部を有する。送信部及び受信部は、近赤外線センサカバーのカバー本体部によって覆われる。カバー本体部は、近赤外線の透過性を有する。
【0003】
上記近赤外線センサでは、送信部から近赤外線がカバー本体部を介して車両の外部へ向けて送信される。車両の外部の物体に当たり反射されて戻ってきた近赤外線は、カバー本体部を介して受信部で受信される。上記近赤外線センサでは、送信した近赤外線と受信した近赤外線とに基づき、車外の上記物体が認識されるとともに、車両と上記物体との距離、相対速度等が検出される。
【0004】
上記近赤外線センサでは、雪が付着すると、近赤外線の透過を妨げるため、検出を一時的に停止する処置を採っている。しかし、近赤外線センサの普及に伴い、降雪時でも上記物体認識機能、上記検出機能等を行なうことが要望されている。
【0005】
そこで、融雪機能を有する近赤外線センサカバーが種々考えられている。例えば、特許文献1及び特許文献2には、カバー本体部の骨格部分を構成する透明な基材に対し、上記近赤外線の送信方向における後側からヒータ部を積層してなる近赤外線センサカバーが記載されている。特許文献2では、ヒータ部として、通電により発熱する線状の発熱体を有するヒータフィルムが用いられている。そのため、カバー本体部に雪が付着しても、通電により発熱体が発熱されることで、その雪は、発熱体から伝わる熱によって溶かされる。従って、降雪時でも近赤外線センサに、上記物体認識機能、検出機能等を発揮させることができる。
【0006】
さらに、特許文献2には、上記送信方向におけるカバー本体部の後面に、近赤外線の反射を抑制する反射抑制層が形成された近赤外線センサカバーが記載されている。反射抑制層は、例えば、MgF2 (フッ化マグネシウム)等の誘電体が用いられて、真空蒸着、スパッタリング、WETコーティング等が行なわれることによって形成される。ヒータ部としてヒータフィルムが上記送信方向におけるカバー本体部の最後部に配置される場合には、反射抑制層は上記送信方向におけるヒータフィルムの後面に形成される。
【0007】
そのため、近赤外線センサの送信部から近赤外線が送信されると、その近赤外線は、送信方向におけるカバー本体部の後面に照射される。この際、照射された近赤外線が、カバー本体部の後面で反射されることは、反射抑制層によって抑制される。この抑制の分、反射抑制層、ひいてはカバー本体部を透過する近赤外線の量が多くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2016/12579号
【文献】特開2018-31888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、ヒータフィルム及び反射抑制層を備える上記従来の近赤外線センサカバーでは、カバー本体部の形成に際し、上記送信方向における基材の後面にヒータフィルムを貼付けた後に、そのヒータフィルムの後面に別途反射抑制層を付加しなければならず、その作業が大変である。
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、反射抑制層を付加する作業を行なわずに、近赤外線の反射を抑制する機能を付与することのできる近赤外線センサカバーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する近赤外線センサカバーは、近赤外線センサにおける近赤外線の送信部及び受信部を覆い、かつ近赤外線の透過性を有するカバー本体部を備える近赤外線センサカバーであって、前記カバー本体部は、樹脂材料により形成された基材と、近赤外線の送信方向における前記基材よりも後側に設けられ、かつ通電により発熱する線状の発熱体により構成されるヒータ部とを備え、前記送信方向における前記基材の後面を含む後部であって、前記ヒータ部が設けられた箇所とは異なる箇所の少なくとも一部は、凹凸形状をなす反射抑制構造部により構成され、前記凹凸形状は、前記送信方向に対し傾斜して近赤外線の反射を抑制する反射抑制面を備えている。
【0012】
上記の構成によれば、凹凸形状をなし、かつその凹凸形状が近赤外線の送信方向に対し傾斜する反射抑制面を有する反射抑制構造部は、いわゆるモスアイ構造による反射抑制機能を発揮する。そのため、近赤外線センサの送信部から近赤外線が送信されると、その近赤外線は、送信方向におけるカバー本体部の後面に照射される。この際、反射抑制構造部に照射された近赤外線は、反射されることを反射抑制面によって抑制される。この抑制の分、反射抑制構造部を透過する近赤外線の量が多くなる。
【0013】
反射抑制構造部を透過した近赤外線は、基材において反射抑制構造部よりも上記送信方向における前側部分を透過する。このようにして、近赤外線がカバー本体部を透過する。カバー本体部を透過した近赤外線は、外部の物体に当たって反射された後、再びカバー本体部において、上記反射抑制構造部を有する基材を透過する。カバー本体部を透過した近赤外線は、受信部によって受信される。上述したように反射抑制構造部で近赤外線の反射が抑制される分、カバー本体部を透過する近赤外線の量が多くなる。
【0014】
また、ヒータ部における線状の発熱体は通電されると発熱する。この熱の一部は、上記送信方向におけるカバー本体部の前面に伝達される。そのため、カバー本体部に雪が付着しても、その雪は、発熱体から伝わる熱によって溶かされる。
【0015】
上記近赤外線センサカバーでは、上記送信方向における基材よりも後側に、線状の発熱体からなるヒータ部が設けられている。また、上記送信方向における基材の後面を含む後部であって、ヒータ部が設けられた箇所とは異なる箇所の少なくとも一部によって反射抑制構造部が構成されている。従って、従来の近赤外線センサカバーとは異なり、カバー本体部の形成に際し、上記送信方向における基材の後面にヒータフィルムを貼付けたり、その後に、上記送信方向におけるヒータフィルムの後面に別途反射抑制層を付加したりしなくてもすむ。
【0016】
上記近赤外線センサカバーにおいて、前記反射抑制構造部は、それぞれ断面三角形状をなし、かつ互いに隣り合った状態で平行に延び、かつ前記反射抑制面を備える複数の突条部により構成されていることが好ましい。
【0017】
上記の構成によるように、それぞれ断面三角形状をなし、かつ互いに隣り合った状態で平行に延びる複数の突条部により反射抑制構造部が構成されている場合には、突条部毎の反射抑制面が近赤外線の反射を抑制する。
【0018】
上記近赤外線センサカバーにおいて、各突条部の底部から頂部までの高さは、同突条部の延びる方向に一定であり、各突条部の前記高さは150nm~400nmに設定され、前記突条部の配列方向における同突条部の底部の寸法は170nm~200nmに設定されていることが好ましい。
【0019】
各突条部の底部から頂部までの高さが、同突条部の延びる方向に一定である場合、同高さ、及び突条部の底部の寸法が上記の条件を満たすように、反射抑制構造部が形成されることにより、近赤外線の反射を抑制する効果が一層高められる。
【0020】
上記近赤外線センサカバーにおいて、各突条部には、同突条部の頂部から底部に向けて円弧状に凹み、かつ同突条部の延びる方向に沿って深さが変化する複数の凹部が、同突条部の延びる方向に繋がった状態で形成されており、各突条部の前記底部から前記頂部の最も高い箇所までの高さは150nm~400nmに設定され、前記突条部の配列方向における同突条部の底部の寸法は150nm~400nmに設定され、各凹部の半径は1mm~10mmに設定され、前記突条部の延びる方向における各凹部の寸法としてピックフィードが、30μm~90μmに設定され、前記凹部の深さとしてスキャロップが、0.01μm~0.1μmに設定されていることが好ましい。
【0021】
上記の条件を満たす円弧状の凹部が各突条部に複数形成されている場合、各突条部の高さ、底部の寸法、各凹部の半径、ピックフィード及びスキャロップが上記の条件を満たすように、反射抑制構造部が形成されることにより、近赤外線の反射を抑制する効果が一層高められる。
【0022】
上記近赤外線センサカバーにおいて、前記反射抑制構造部は、角錐状をなし、かつ互いに隣り合った状態で、互いに交差する2方向に配列され、かつ前記反射抑制面を備える複数の突部により構成されていることが好ましい。
【0023】
上記の構成によるように、それぞれ角錐状をなし、かつ互いに隣り合った状態で、互いに交差する2方向に配列された複数の突部により反射抑制構造部が構成されている場合には、突部毎の反射抑制面が近赤外線の反射を抑制する。また、各突部が角錐状をなしているため、様々な方向における反射が抑制される。
【0024】
上記近赤外線センサカバーにおいて、複数の前記突部はそれぞれ四角錐状をなし、かつ前記突部において隣り合う2つの底辺に沿って配列されており、各突部の高さは150nm~400nmに設定され、各底辺の長さは170nm~200nmに設定されていることが好ましい。
【0025】
上記の構成によるように、それぞれ四角錐状をなす複数の突部が、隣り合う2つの底辺に沿って配列されることにより、反射抑制構造部が構成されている場合には、各突条部の高さと各底辺の長さとが上記の条件を満たすように設定されることにより、近赤外線の反射を抑制する効果が一層高められる。
【0026】
上記近赤外線センサカバーにおいて、前記反射抑制構造部は、前記送信方向における後側に形成された親水化膜により被覆されていることが好ましい。
近赤外線センサが作動に伴い熱を帯びた場合、その熱によって反射抑制構造部が結露して曇る懸念がある。しかし、上記の構成によるように、反射抑制構造部が親水化膜によって覆われることで、結露した水が親水化膜上で拡がるため、曇ることが抑制される。
【発明の効果】
【0027】
上記近赤外線センサカバーによれば、反射抑制層を付加する作業を行なわずに、近赤外線の反射を抑制する機能を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】第1実施形態における近赤外線センサカバーによってカバーが構成された近赤外線センサの側断面図。
図2】(a)は図1におけるカバー本体部の一部を拡大して示す部分側断面図、(b)は図2(a)における反射抑制構造部の一部を拡大して示す部分側断面図。
図3】第1実施形態における反射抑制構造部を拡大して示す部分背面図。
図4】第2実施形態における近赤外線センサカバーを、近赤外線センサとともに示す側断面図。
図5】(a)は図4におけるカバー本体部の一部を拡大して示す部分側断面図、(b)は図5(a)における反射抑制構造部の一部を拡大して示す部分側断面図。
図6】第2実施形態における反射抑制構造部を拡大して示す部分背面図。
図7】第1実施形態の変形例を示す図であり、反射抑制構造部の部分斜視図。
図8図7の8-8線断面図。
図9図7の9-9線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(第1実施形態)
以下、近赤外線センサカバーを具体化した第1実施形態について、図1図3を参照して説明する。
【0030】
なお、以下の記載においては、車両の前進方向を前方とし、後進方向を後方として説明する。また、上下方向は車両の上下方向を意味し、左右方向は車幅方向であって車両の前進時の左右方向と一致するものとする。
【0031】
また、図1図3では、近赤外線センサカバー21における各部を認識可能な大きさとするために、縮尺を適宜変更して各部を示している。この点は、第2実施形態を示す図4図6、及び変形例を示す図7図9についても同様である。
【0032】
図1に示すように、車両10の前端部には近赤外線センサ11が設置されている。近赤外線センサ11は、900nm付近の波長を有する近赤外線IR1を車両10の前方へ向けて送信し、かつ先行車両、歩行者等を含む車外の物体に当たって反射された近赤外線IR2を受信する。近赤外線センサ11は、送信した近赤外線IR1と受信した近赤外線IR2とに基づき、車外の上記物体を認識するとともに、車両10と上記物体との距離、相対速度等を検出する。
【0033】
なお、上述したように、近赤外線センサ11が車両10の前方に向けて近赤外線IR1を送信することから、近赤外線センサ11による近赤外線IR1の送信方向は、車両10の後方から前方へ向かう方向である。近赤外線IR1の送信方向における前方は、車両10の前方と概ね合致し、同送信方向における後方は車両10の後方と概ね合致する。そのため、以後の記載では、近赤外線IR1の送信方向における前方を単に「前方」、「前」等といい、同送信方向における後方を単に「後方」、「後」等というものとする。
【0034】
近赤外線センサ11の外殻部分の後半部はケース12によって構成され、前半部分はカバー17によって構成されている。ケース12は、筒状をなす周壁部13と、周壁部13の後端部に形成された底壁部14とを備えており、前面が開放された有底筒状をなしている。ケース12の全体は、PBT(ポリブチレンテレフタレート)等の樹脂材料によって形成されている。底壁部14の前側には、近赤外線IR1を送信する送信部15と、近赤外線IR2を受信する受信部16とが組付けられている。
【0035】
近赤外線センサ11におけるカバー17は、近赤外線センサカバー21によって構成されている。近赤外線センサカバー21は、筒状をなす周壁部22と、周壁部22の前端部に形成された板状のカバー本体部23とを備えている。
【0036】
カバー本体部23は、上記ケース12の前端開放部分を塞ぐ大きさに形成されている。カバー本体部23は底壁部14の前方に位置しており、送信部15及び受信部16を前方から覆っている。
【0037】
図1及び図2(a)に示すように、カバー本体部23の骨格部分は、基材24によって構成されている。基材24は、近赤外線IR1,IR2の透過性を有する透明な樹脂材料によって形成されている。ここでの透明には、無色透明のほか、着色透明(有色透明)も含まれる。第1実施形態では、基材24はPC(ポリカーボネート)によって形成されているが、そのほかにも、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)、COP(シクロオレフィンポリマー)等によって形成されてもよい。
【0038】
基材24の前面には、近赤外線IR1,IR2の透過性を有するとともに、基材24よりも高い硬度を有するハードコート層31が積層されている。ハードコート層31は、基材24の前面に公知の表面処理剤を塗布することにより形成されている。表面処理剤としては、例えば、アクリレート系、オキセタン系、シリコーン系等の有機系ハードコート剤、無機系ハードコート剤、有機無機ハイブリッド系ハードコート剤等が挙げられる。また、ハードコート剤として、紫外線(UV)の照射によって硬化されるタイプが用いられてもよいし、熱が加えられることによって硬化されるタイプが用いられてもよい。
【0039】
基材24よりも後側にはヒータ部32が設けられている。ヒータ部32は、通電により発熱する発熱体33によって構成されている。発熱体33の材料は、銀、銅等の金属、ITO(酸化インジウムスズ)、酸化スズ等の酸化金属系導電性材料、カーボン発熱体、導電性ペースト等である。発熱体33は、上記の材料を基材24の後面の一部に対し、スパッタリングしたり、印刷したり、ディスペンサー(液体定量吐出装置)等を用いて塗布したりすることによって形成されている。導電性ペーストとしては、例えば、樹脂材料中に銀粒子等をフィラーとして分散したものが用いられる。
【0040】
発熱体33は、線状をなしており、例えば、互いに平行に延びる複数の直線部と、隣り合う直線部の端部同士を連結する複数の連結部とを備えている。なお、第1実施形態では、従来のものとは異なり、ヒータ部32としてヒータフィルムは用いられていない。
【0041】
基材24の後面を含む後部であって、上記ヒータ部32が設けられた箇所とは異なる箇所は、送信部15から送信された近赤外線IR1の反射を抑制する反射抑制構造部25によって構成されている。
【0042】
図3は、反射抑制構造部25を拡大して示している。この図3では、後述する親水化膜34の図示が省略されている。図2(a),(b)及び図3に示すように、反射抑制構造部25は、互いに同一の断面形状を有する複数の微細な突条部26によって構成されている。第1実施形態における各突条部26の断面形状は直角三角形である。複数の突条部26は、互いに隣り合った状態で平行に形成されている。各突条部26の底部から頂部までの高さH1は、同突条部26の延びる方向に一定である。隣り合う突条部26間の空間は、断面三角形状をなす微細な溝部27となっている。突条部26及び溝部27の組合せが、同突条部26の配列方向(図2(a)及び図3では上下方向)に繰り返されることにより、すなわち、均一(規則的)に配列されることにより、微細な凹凸形状をなすモスアイ(Moth-eye:蛾の目)構造を有する反射抑制構造部25が構成されている。モスアイ構造は、蛾の目の表面に見られるような、光線(第1実施形態では近赤外線IR1)の波長よりも短い平均周期を有する凹凸構造である。各突条部26は、近赤外線IR1の送信方向に対し傾斜して近赤外線IR1を反射する反射抑制面28を備えている。各突条部26の上記高さH1は150nm~400nmに設定されている。また、突条部26の配列方向における同突条部26の底部の寸法A1は170nm~200nmに設定されている。反射抑制構造部25の断面は、全体として三角波状(のこぎり歯状)をなしている。
【0043】
上記反射抑制構造部25は、成形用金型を用いた射出成形等の樹脂成形法によって形成されている。成形用金型としては、成形面に、反射抑制構造部25を反転した微細な凸凹形状が形成されたものが用いられる。成形用金型の成形面における微細な凸凹形状は、同成形面に対し、精密かつ微細な機械加工を行なうこと、例えば、微細加工装置における刃具を微細振動させながら成形用金型を移動させて切削等の機械加工を行なうことによって形成される。この成形用金型が用いられて樹脂成形が行なわれることで、同成形用金型表面の微細な凸凹形状が樹脂に転写され、微細な凹凸形状をなす反射抑制構造部25を有する基材24が形成される。
【0044】
図2(a),(b)に示すように、上記ヒータ部32及び反射抑制構造部25は、それらの後側に形成された親水化膜34によって被覆されている。親水化膜34には、金属酸化物からなるナノオーダーの微粒子(ナノ粒子)が均一に分散されている。金属酸化物としては、例えば、SiO2 (シリカ)を用いることができる。さらに、第1実施形態では、水に対する接触角が10度以下となるように親水化膜34が形成されている。なお、親水化膜34は、金属酸化物からなるナノオーダーの微粒子(ナノ粒子)を混合吸着(交互吸着)させることによって形成されたものであってもよい。
【0045】
そして、上記のように構成されたカバー本体部23における近赤外線IR1,IR2の透過率は60%以上であり、カバー本体部23の後面での近赤外線IR1の反射率は10%以下である。
【0046】
次に、上記のように構成された第1実施形態の作用について説明する。また、作用に伴い生ずる効果についても併せて説明する。
第1実施形態では、それぞれ断面三角形状をなし、かつ互いに隣り合った状態で平行に延びる複数の突条部26により構成され、かつ各突条部26が前後方向に対し傾斜する反射抑制面28を備える反射抑制構造部25は、いわゆるモスアイ構造による反射抑制機能を発揮する。そのため、図1及び図2(a)に示すように、近赤外線センサ11の送信部15から近赤外線IR1が送信されると、その近赤外線IR1は、カバー本体部23の後面に照射される。この際、親水化膜34を介して反射抑制構造部25に照射された近赤外線IR1は、反射されることを反射抑制面28によって抑制される。すなわち、モスアイ構造により、各突条部26の頂部から底部にかけて連続的に擬似的な屈折率が変化していくことで、カバー本体部23の後面での近赤外線IR1の反射が効果的に抑制される。
【0047】
特に、反射抑制構造部25では、透過する近赤外線IR1の波長の半分よりも小さくなるよう各突条部26の高さH1が150nm~400nmに設定され、各突条部26の寸法A1が170nm~200nmに設定されていることから、近赤外線IR1の反射を抑制する効果が一層高められる。
【0048】
上記反射抑制構造部25により、近赤外線IR1の反射率は10%以下に抑制される。この抑制の分、反射抑制構造部25を透過する近赤外線IR1の量が多くなる。
反射抑制構造部25を透過した近赤外線IR1は、基材24において反射抑制構造部25よりも前側の部分、及びハードコート層31を順に透過する。このようにして、近赤外線IR1がカバー本体部23を透過する。
【0049】
カバー本体部23を透過した近赤外線IR1は、先行車両、歩行者等を含む物体に当たって反射される。反射された近赤外線IR2は、再びカバー本体部23におけるハードコート層31、反射抑制構造部25を有する基材24及び親水化膜34を順に透過する。カバー本体部23を透過した近赤外線IR2は、受信部16によって受信される。近赤外線センサ11では、送信した近赤外線IR1と受信した近赤外線IR2とに基づき、上記物体の認識や、車両10と同物体との距離、相対速度等の検出が行われる。
【0050】
上述したように、反射抑制構造部25で近赤外線IR1の反射が抑制される分、カバー本体部23を透過する近赤外線IR1,IR2の量が多くなり、透過率が60%以上となる。そのため、カバー本体部23は近赤外線IR1,IR2の透過の妨げとなりにくい。近赤外線IR1,IR2のうち、カバー本体部23によって減衰される量を許容範囲にとどめることができる。従って、近赤外線センサ11は、上記物体認識機能や、上記検出機能等を発揮しやすい。
【0051】
また、カバー本体部23の後方に配置された近赤外線センサ11が作動に伴い熱を帯びた場合、その熱によって反射抑制構造部25が結露して曇る懸念がある。しかし、第1実施形態では、反射抑制構造部25が親水化膜34によって覆われていて、水に対する接触角が10度以下である。結露した水が親水化膜34上で拡がる。そのため、反射抑制構造部25が曇ることが抑制される。従って、反射抑制構造部25に、近赤外線IR1の反射を抑制する機能を十分発揮させることができる。
【0052】
さらに、近赤外線センサカバー21では、基材24の前面に形成されたハードコート層31が、カバー本体部23の耐衝撃性を高める。従って、カバー本体部23の前面に飛び石等により傷が付くのをハードコート層31によって抑制することができる。また、ハードコート層31は、カバー本体部23の耐候性を高める。従って、太陽光、風雨、温度変化等が原因で、カバー本体部23が変質したり劣化したりするのをハードコート層31によって抑制することができる。この点でも、近赤外線センサ11は、上記物体認識機能、上記検出機能等を発揮しやすい。
【0053】
一方、ヒータ部32を構成する線状の発熱体33は、通電されると発熱する。この熱の一部は、カバー本体部23の前面に伝達される。そのため、カバー本体部23の前面に雪が付着しても、通電により発熱体33が発熱されることで、その雪は、発熱体33から伝わる熱によって溶かされる。降雪時でも近赤外線センサ11に、上記物体認識機能や、上記検出機能等を発揮させることができる。
【0054】
ところで、第1実施形態の近赤外線センサカバー21では、上述したようにヒータ部32が、通電に伴い発熱する線状の発熱体33により構成されている。この発熱体33が、基材24の後面の一部に対し、スパッタリング、印刷、ディスペンサー(液体定量吐出装置)を用いた塗布等により形成されることで、基材24の後面の一部にヒータ部32が設けられる。従って、従来の近赤外線センサカバーとは異なり、ヒータ部32の形成のためにヒータフィルムを用いなくてもすむ。これに伴い、ヒータフィルムを基材24に貼付けるといった面倒な作業を行なわずに融雪機能を付与することができる。
【0055】
また、第1実施形態の近赤外線センサカバー21では、基材24の後面を含む後部の一部が反射抑制構造部25によって構成されている。従って、従来の近赤外線センサカバーとは異なり、カバー本体部23の形成に際し、基材24の後面にヒータフィルムを貼付けた後に、そのヒータフィルムの後面に別途反射抑制層を付加しなくてもすむ。成形用金型に直接微細加工を施して、同成形用金型を用いた射出成形等による成形のみを行なうことで、微細な凹凸形状をなし、反射抑制機能を有する反射抑制構造部25を基材24の後部の一部に簡易に形成することができる。このように、反射抑制層を付加する作業を行なわずに、近赤外線IR1の反射を抑制する機能を付与することができる。
【0056】
第1実施形態によると、上記以外にも、次の効果が得られる。
・従来技術において、ヒータ部として用いられるヒータフィルムは、一対の透明基材、発熱体、接着層等を積層することによって構成されていて、多層構造をなしている。層が多くなるに従い、以下に記載する種々の問題が発生する。
【0057】
(a)層間の界面では、近赤外線の反射や吸収が行なわれるところ、ヒータフィルムが用いられることで界面の数が多くなる。そのため、ヒータ部における近赤外線の反射や吸収の量が多くなり、近赤外線センサの検出精度を低下させる。
【0058】
(b)層間の界面では、近赤外線が少なからず屈折する。界面の数が多くなるに従い近赤外線の総屈折角度が多くなり、近赤外線センサの角度に関する検出精度を低下させる。
(c)層の数が多くなるに従い、ヒータ部の製造工程数及び材料が多くなり、製造コストを上昇させる。
【0059】
(d)隣り合う層では剥離の懸念があるところ、層の数が多くなるに従い、剥離の可能性のある箇所が増える。また、隣り合う層の熱膨張率の差が大きくなるに従い剥離が起りやすくなる。そのため、層の数が増えるに従い、界面での密着性を担保することが大変になる。
【0060】
これに対し、第1実施形態では、発熱体33によってヒータ部32を構成している。ヒータ部32の層の数は1つで済み、ヒータフィルムによってヒータ部を構成する場合よりも層が少なくなる。従って、上記(a)~(d)の事項が、ヒータフィルムによってヒータ部を構成する場合よりも良好になる。
【0061】
(第2実施形態)
次に、近赤外線センサカバーの第2実施形態について、図4図6を参照して説明する。
【0062】
第2実施形態では、図4に示すように、近赤外線センサカバー41が近赤外線センサ11とは別に設けられている。より詳しくは、近赤外線センサ11は、送信部15及び受信部16が組み付けられたケース12と、ケース12の前側に配置されて、送信部15及び受信部16を覆うカバー18とによって構成されている。カバー18は、可視光カット顔料の含有された樹脂材料、例えば、PC、PMMA、COP、樹脂ガラス等によって形成されている。
【0063】
近赤外線センサカバー41は、板状のカバー本体部42と、カバー本体部42の後面から後方へ突出する取付け部43とを備えている。カバー本体部42は、カバー18の前方に配置されており、送信部15及び受信部16を、前方からカバー18を介して間接的に覆っている。近赤外線センサカバー41は、取付け部43において車両10に固定されている。
【0064】
近赤外線センサカバー41は、第1実施形態における近赤外線センサ11のカバー17と同様、送信部15及び受信部16を前方から覆う機能を有するほかに、車両10の前部を装飾するガーニッシュとしての機能も有している。
【0065】
そのために、第2実施形態の近赤外線センサカバー41は、基本的には、図4及び図5(a)に示すように第1実施形態と同様に、ハードコート層31、自身の後部の一部に反射抑制構造部51が形成された基材、ヒータ部32及び親水化膜34を備えている。
【0066】
第2実施形態は、以下の点で第1実施形態と異なっている。
・基材が、その前部を構成する前基材45と、後部を構成する後基材46とに分割されている。
【0067】
・前基材45及び後基材46の間に加飾層47が設けられていて、前後方向に凹凸状をなしている。
・反射抑制構造部51が後基材46の後面を含む後部の一部(ヒータ部32が設けられていない部分)に設けられている。
【0068】
・反射抑制構造部51が複数の角錐状の突部52によって構成されている。
前基材45及び後基材46は、第1実施形態における基材24と同様の透明な樹脂材料によって形成されており、近赤外線IR1,IR2の透過性を有している。加飾層47は、近赤外線センサカバー41を装飾するための層であり、光輝加飾層や有色加飾層によって構成されている。加飾層47は、近赤外線IR1,IR2の透過率が高く、かつ可視光の透過率が低い材料によって、前後方向に凹凸状をなすように形成されている。
【0069】
図6は、反射抑制構造部51を拡大して示している。この図6では、親水化膜34の図示が省略されている。図5(b)及び図6に示すように、複数の突部52は、それぞれ四角錐状をなしている。複数の突部52は、同突部52において隣り合い、かつ互いに直交する2つの底辺53,54に沿って配列されている。各突部52は、二等辺三角形の断面を有するとともに、上記送信方向に対し傾斜する反射抑制面55を備えている。各突部52の底部から頂部までの高さH2は150nm~400nmに設定されている。底辺53の長さL1は170nm~200nmに設定され、底辺54の長さL2は170nm~200nmに設定されている。
【0070】
そして、第2実施形態でも第1実施形態と同様に、上記カバー本体部42における近赤外線IR1,IR2の透過率は60%以上であり、カバー本体部42の後面での近赤外線IR1の反射率は10%以下である。
【0071】
上記以外の構成は、第1実施形態と同様である。そのため、第2実施形態において第1実施形態で説明したものと同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
第2実施形態では、それぞれ四角錐状をなし、かつ隣り合う2つの底辺53,54に沿って配列された複数の突部52により構成され、かつ各突部52が近赤外線IR1の送信方向に対し傾斜する反射抑制面55を備える反射抑制構造部51は、いわゆるモスアイ構造による反射抑制機能を発揮する。
【0072】
そのため、図4及び図5(a)に示すように、近赤外線センサ11の送信部15から近赤外線IR1が送信されると、その近赤外線IR1は、カバー本体部42の後面に照射される。この際、親水化膜34を介して反射抑制構造部51に照射された近赤外線IR1は、反射されることを、反射抑制面55によって抑制される。すなわち、モスアイ構造により、突部52の頂部(頂点)から底部にかけて連続的に擬似的な屈折率が変化していくことで、カバー本体部42の後面での近赤外線IR1の反射が効果的に抑制される。
【0073】
特に、各突部52の高さH2が150nm~400nmとなり、底辺53の長さL1と底辺54の長さL2とがいずれも170nm~200nmとなるように反射抑制構造部51が形成されていることにより、近赤外線IR1の反射を抑制する効果が一層高められる。
【0074】
上記反射抑制構造部51により、近赤外線IR1の反射率は10%以下に抑制される。この抑制の分、反射抑制構造部51を透過する近赤外線IR1の量が多くなる。
反射抑制構造部51を透過した近赤外線IR1は、後基材46において反射抑制構造部51よりも前側の部分、加飾層47、前基材45及びハードコート層31を順に透過する。このようにして、近赤外線IR1がカバー本体部42を透過する。
【0075】
車外の物体に当たって反射された近赤外線IR2は、再びカバー本体部42におけるハードコート層31、前基材45、加飾層47、後部の一部に反射抑制構造部51が形成された後基材46及び親水化膜34を順に透過する。カバー本体部42を透過した近赤外線IR2は、受信部16によって受信される。
【0076】
上述したように、反射抑制構造部51で近赤外線IR1の反射が抑制される分、カバー本体部42を透過する近赤外線IR1,IR2の量が多くなる。カバー本体部42における近赤外線IR1,IR2の透過率が60%以上となり、同カバー本体部42は近赤外線IR1,IR2の透過の妨げとなりにくい。近赤外線IR1,IR2のうち、カバー本体部42によって減衰される量を許容範囲にとどめることができる。
【0077】
従って、第2実施形態でも、第1実施形態と同様の作用及び効果が得られる。そのほかにも第2実施形態では、次の作用及び効果が得られる。
・第2実施形態では、各突部52が角錐状をなしているため、第1実施形態よりも多くの方向に対する近赤外線IR1の反射を抑制することができる。すなわち、入射される近赤外線IR1の角度依存に対応することができる。
【0078】
・カバー本体部42に対し前側から可視光が照射されると、その可視光はハードコート層31及び前基材45を透過し、加飾層47で反射される。車両前方から近赤外線センサカバー41を見ると、ハードコート層31及び前基材45を通して、その前基材45の後側(奥側)に加飾層47が位置するように見える。このように、加飾層47によって近赤外線センサカバー41が装飾され、同近赤外線センサカバー41及びその周辺部分の見栄えが向上する。
【0079】
特に、加飾層47は、前基材45及び後基材46の間に形成されていて、凹凸状をなしている。そのため、車両10の前方からは、加飾層47が立体的に見える。従って、近赤外線センサカバー41及びその周辺部分の見栄えがさらに向上する。
【0080】
・可視光の加飾層47での上記反射は、近赤外線センサ11よりも前側で行われる。加飾層47は、近赤外線センサ11を覆い隠す機能を発揮する。そのため、近赤外線センサカバー41の前側からは、近赤外線センサ11が見えにくい。従って、近赤外線センサ11が近赤外線センサカバー41を介して透けて見える場合に比べて意匠性が向上する。
【0081】
なお、上記実施形態は、これを以下のように変更した変形例として実施することもできる。上記実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0082】
図7図9は、第1実施形態における反射抑制構造部25の変形例を示している。なお、図7では親水化膜34の図示が省略されている。これらの図7図9に示すように、各突条部26は、二等辺三角形の断面形状を有している。各突条部26には、同突条部26の頂部から底部に向けて円弧状に凹み、かつ同突条部26の延びる方向に深さが変化する複数の凹部61が、同突条部26の延びる方向に繋がった状態で形成されている。すなわち、隣り合う凹部61は、最も浅い箇所、表現を変えると、突条部26が最も高い箇所(底部から最も遠い箇所)で繋がっている。各突条部26は、近赤外線IR1の送信方向に対し傾斜して近赤外線IR1を反射する反射抑制面28を備えている。
【0083】
各突条部26の底部から頂部までの高さH1は、同突条部26の延びる方向に異なっている。各突条部26の底部から頂部の最も高い箇所までの高さH1は、150nm~400nmに設定されている。また、突条部26の配列方向における同突条部26の底部の寸法A1は、150nm~400nmに設定されている。
【0084】
各凹部61の半径は1mm~10mmに設定されている。ここで、突条部26の延びる方向における各凹部61の寸法をピックフィードP1とし、同凹部61の深さをスキャロップS1とする。各凹部61は、ピックフィードP1が30μm~90μmとなり、スキャロップS1が0.01μm~0.1μmとなるように形成されている。ピックフィードP1は、反射抑制構造部25を形成するための成形用金型の成形面に対し機械加工を行なう際の加工工具の移動量である。
【0085】
なお、反射抑制構造部25が親水化膜34によって後側から被覆されている点は、第1実施形態と同様である。
このように、円弧状をなす複数の凹部61が、突条部26の延びる方向に繋がった状態で形成されている変形例でも、第1実施形態と同様、反射抑制構造部25がモスアイ構造による反射抑制機能を発揮する。すなわち、モスアイ構造により、各突条部26の頂部から底部にかけて連続的に擬似的な屈折率が変化していくことで、カバー本体部23の後面での近赤外線IR1の反射が効果的に抑制される。
【0086】
特に、各突条部26の高さH1、底部の寸法A1、各凹部61の半径、ピックフィードP1及びスキャロップS1が上記の条件を満たすように、反射抑制構造部25が形成されることにより、近赤外線IR1の反射を抑制する効果を一層高めることができる。
【0087】
・上記近赤外線センサカバー21が車両前後に設けられる場合には、各突条部26に平行な方向を車幅方向とするのが好ましい。このようにすると、垂直方向とする場合に比べ、角度依存性が低く、より広角で、広い範囲の近赤外線を検出することができる。
【0088】
・第1実施形態における突条部26の断面形状が、直角三角形から第2実施形態及び上記図7図9の変形例と同様の二等辺三角形に変更されてもよい。
上記断面形状としては、直角三角形よりも二等辺三角形が好ましい。ここで、断面形状において、頂部を構成する二辺がなす角を挟角とすると、二等辺三角形において直角三角形におけるよりも挟角を大きくでき、生産性が向上し、また、反射抑制構造部25,51が損傷しにくい。
【0089】
・第1実施形態及び上記図7図9の変形例における反射抑制構造部25は、基材24の後面を含む後部であって、ヒータ部32が設けられた箇所とは異なる箇所の全部を構成するものであってもよいし、一部を構成するものであってもよい。
【0090】
同様に、第2実施形態における反射抑制構造部51は、後基材46の後面を含む後部であって、ヒータ部32が設けられた箇所とは異なる箇所の全部を構成するものであってもよいし、一部を構成するものであってもよい。
【0091】
・第2実施形態における反射抑制構造部51は、四角錐状とは異なる角錐状、例えば三角錐状、六角錐状等をなす複数の突部52によって構成されてもよい。また、反射抑制構造部51は、角錐状とは異なる錐状、例えば円錐状をなす複数の突部52によって構成されてもよい。
【0092】
・ヒータ部32を後側から被覆する親水化膜34が省略されて、反射抑制構造部25,51のみが親水化膜34によって被覆されてもよい。
・近赤外線センサ11のカバー17として機能する、第1実施形態及び上記図7図9の変形例の近赤外線センサカバー21における基材の構成が、近赤外線センサ11とは別に設けられる第2実施形態の近赤外線センサカバー41における基材の構成に適用されてもよい。また、第2実施形態の近赤外線センサカバー41における基材の構成が、第1実施形態及び上記図7図9の変形例の近赤外線センサカバー21における基材の構成に適用されてもよい。
【0093】
・ハードコート層31をフラクタル構造によって構成し、同ハードコート層31に撥水機能を持たせてもよい。
・近赤外線センサカバー21,41は、近赤外線センサ11が車両10の前部とは異なる箇所、例えば後部に設置された場合にも適用可能である。この場合、近赤外線センサ11は、車両10の後方に向けて近赤外線IR1を送信する。近赤外線センサカバー21,41は、近赤外線IR1の送信方向における送信部15の前方、すなわち、送信部15に対し車両10の後方に配置される。
【0094】
また、近赤外線センサカバー21,41は、近赤外線センサ11が車両10の前部又は後部の両側部、すなわち、斜め前側部や斜め後側部に設置された場合にも適用可能である。
【符号の説明】
【0095】
11…近赤外線センサ、15…送信部、16…受信部、21,41…近赤外線センサカバー、23,42…カバー本体部、24…基材、25,51…反射抑制構造部、26…突条部、28,55…反射抑制面、32…ヒータ部、33…発熱体、34…親水化膜、45…前基材(基材)、46…後基材(基材)、52…突部、53,54…底辺、61…凹部、A1…寸法、H1,H2…高さ、IR1,IR2…近赤外線、L1,L2…長さ、P1…ピックフィード、S1…スキャロップ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9