(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】絶縁回路基板の製造方法及びヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 23/36 20060101AFI20231108BHJP
H01L 23/12 20060101ALI20231108BHJP
H05K 3/00 20060101ALI20231108BHJP
H05K 1/02 20060101ALN20231108BHJP
【FI】
H01L23/36 C
H01L23/12 D
H05K3/00 X
H05K1/02 F
(21)【出願番号】P 2019219220
(22)【出願日】2019-12-04
【審査請求日】2022-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】石塚 博弥
【審査官】豊島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-153925(JP,A)
【文献】特開2017-073483(JP,A)
【文献】特開2007-182339(JP,A)
【文献】特開2012-038825(JP,A)
【文献】特表2005-509528(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 1/00 - 3/08
B23K31/02
B23K33/00
H01L23/12 -23/15
H01L23/29
H01L23/34 -23/36
H01L23/373-23/427
H01L23/44
H01L23/467-23/473
H05K 1/00 - 1/02
H05K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板の一方の面に回路層を形成するとともに、前記セラミックス基板の他方の面にアルミニウム又はアルミニウム合金からなる放熱層を形成して、絶縁回路基板を形成する絶縁回路基板形成工程と、該絶縁回路基板の前記放熱層に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるヒートシンクを接合するヒートシンク接合工程とを複数回実施することにより、ヒートシンク付き絶縁回路基板を複数個製造する方法であって、前記ヒートシンク接合工程では、前記放熱層と前記ヒートシンクとをMg含有Al系ろう材を介して積層し、その積層体の両面にカーボンシートを配置した状態で該積層体を積層方向に加圧しながら加熱しており、前記ヒートシンク接合工程で用いた前記カーボンシートを前記ヒートシンク接合工程における加熱温度以上
であって、前記Mg含有Al系ろう材中のMgがMgAl
2
O
4
に変化する温度に加熱するカーボンシート再生工程を有することを特徴とするヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法。
【請求項2】
前記カーボンシート再生工程は、2回目以降の前記ヒートシンク接合工程の前に実施することを特徴とする請求項1記載のヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法。
【請求項3】
セラミックス基板の一方の面にアルミニウム又はアルミニウム合金からなる第一回路層を形成す第一回路層形成工程とに、該第一回路層の上にアルミニウム又はアルミニウム合金からなる第二回路層を形成する第二回路層形成工程とを複数回実施することにより、絶縁回路基板を複数個製造する方法であって、前記第二回路層形成工程では、前記第一回路層と前記第二回路層となる金属板とをMg含有Al系ろう材を介して積層し、その積層体の両面にカーボンシートを配置した状態で該積層体を積層方向に加圧しながら加熱しており、前記第二回路層形成工程で用いた前記カーボンシートを前記第二回路層形成工程における加熱温度以上
であって、前記Mg含有Al系ろう材中のMgがMgAl
2
O
4
に変化する温度に加熱するカーボンシート再生工程を有することを特徴とする絶縁回路基板の製造方法。
【請求項4】
前記カーボンシート再生工程は、2回目以降の前記第二回路層形成工程の前に実施することを特徴とする請求項3記載の絶縁回路基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワー半導体素子が搭載されるパワーモジュール用基板等の絶縁回路基板の製造方法及び絶縁回路基板にヒートシンクが設けられたヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、大電流、高電圧を制御する半導体装置に用いられるパワーモジュール用基板は、セラミックス基板の一方の面にアルミニウム又は銅からなる回路層が形成され、他方の面にアルミニウム又は銅からなる放熱層が形成されている。この場合、回路層や放熱層を二層構造としたものも提案されている。
また、一般に、パワー半導体素子の放熱を促進するため、放熱層にはヒートシンクが接合される。
【0003】
例えば特許文献1には、パワーモジュール用基板の製造方法として、セラミックス基板の一方の面に銅又は銅合金からなる回路層を接合するとともに、セラミックス基板の他方の面に銅又は銅合金からなる金属層を接合し、この金属層にアルミニウム又はアルミニウム合金からなる第2金属層を固相拡散接合し、第2金属層にアルミニウム合金からなる冷却器(ヒートシンク)をMg含有Al系ろう材を用いてろう付け接合することが記載されている。また、このMg含有Al系ろう材を用いたろう付けは、窒素又はアルゴン等の雰囲気中で低荷重(例えば0.001MPa~0.5MPa)で行うことができ、剛性の低いアルミニウム製冷却器でも変形させることなく確実に接合できるとされている。
【0004】
このろう材に含まれるMgは、以下の反応式(1)により、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる金属層やヒートシンク表面の酸化膜を還元する。
3Mg+4Al2O3→3MgAl2O4+2Al・・(1)
このMgの還元作用により、金属層やヒートシンク表面に対する溶融ろう材の濡れ性を低下させ、接合性を向上させている。
また、セラミックス基板や金属板をろう材により接合する際に、積層体を積層方向に加圧する加圧装置が用いられ、この加圧装置には、加圧を均一にするために、積層体の両面にカーボンシートを用いたクッションシート(当て板)を配置することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1の第2金属層にヒートシンクを接合する際に、これらの積層体を加圧装置により加圧して加熱すると、溶融したMg含有Al系ろう材の余剰分がカーボンシートに付着する可能性がある。このカーボンシート及び加圧装置は、複数のパワーモジュール用基板にヒートシンクを接合する際に繰り返し使用される。
【0007】
このため、その繰り返しの使用によってカーボンシートにMgが堆積すると、そのMgが以下の反応式(2)、(3)、(4)、(5)に示すように酸素、水、炭素、二酸化炭素等と反応し、酸化物を経由して水酸化物や炭酸塩を生成する。
Mg+(1/2)O2→MgO・・(2)
MgO+H2O→Mg(OH)2・・(3)
MgO+C+O2→MgCO3 ・・(4)
MgO+CO2→MgCO3 ・・(5)
そのMgの酸化物や水酸化物が再度接合温度に加熱された際に分解して水(水蒸気)やCO、CO2等のガスを放出し、これらのガスによって金属層とヒートシンクとの間のMg含有Al系ろう材中のMgが酸化されてしまい、ヒートシンク等表面の酸化膜(Al2O3)に対するMgの還元作用(前述の(1)式による作用)を阻害するため、接合不良が発生する。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、カーボンシートを繰り返し使用しても、接合不良を生じさせないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、セラミックス基板の一方の面に回路層を形成するとともに、前記セラミックス基板の他方の面にアルミニウム又はアルミニウム合金からなる放熱層を形成して、絶縁回路基板を形成する絶縁回路基板形成工程と、該絶縁回路基板の前記放熱層に、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるヒートシンクを接合するヒートシンク接合工程とを複数回実施することにより、ヒートシンク付き絶縁回路基板を複数個製造する方法であって、前記ヒートシンク接合工程では、前記放熱層と前記ヒートシンクとをMg含有Al系ろう材を介して積層し、その積層体の両面にカーボンシートを配置した状態で該積層体を積層方向に加圧しながら加熱しており、前記ヒートシンク接合工程で用いた前記カーボンシートを前記ヒートシンク接合工程における加熱温度以上に加熱するカーボンシート再生工程を有する。
【0010】
カーボンシート再生工程により、カーボンシートを加熱すると、付着していたMg含有Al系ろう材中のMgがAlと結合してMgAl2O4に変化する。このMgAl2O4は化学的に安定であり、加熱されても、酸化を引き起こすガスの発生が抑制される。したがって、カーボンシート再生工程の後に行われるヒートシンク接合工程において、金属板の間に配置したMg含有Al系ろう材の還元作用を有効に発揮させて、良好な接合状態を得ることができる。
なお、カーボンシート再生工程は、複数個のヒートシンク付き絶縁回路基板を製造する際に、繰り返される(2回目以降の)ヒートシンク接合工程の前に必ず実施してもよいし、ヒートシンク接合工程を適宜の回数継続した後に実施してもよく、使用頻度、ろう材付着状況等に応じて実施すればよい。
【0011】
他の製造方法として、セラミックス基板の一方の面にアルミニウム又はアルミニウム合金からなる第一回路層を形成する第一回路層形成工程と、該第一回路層の上にアルミニウム又はアルミニウム合金からなる第二回路層を形成する第二回路層形成工程とを複数回実施することにより、絶縁回路基板を複数個製造する方法であって、前記第二回路層形成工程では、前記第一回路層と前記第二回路層となる金属板とをMg含有Al系ろう材を介して積層し、その積層体の両面にカーボンシートを配置した状態で該積層体を積層方向に加圧しながら加熱しており、前記第二回路層形成工程で用いた前記カーボンシートを前記第二回路層形成工程における加熱温度以上に加熱するカーボンシート再生工程を有する。
【0012】
この製造方法の場合も、カーボンシート再生工程は、複数個の絶縁回路基板を製造する際に、繰り返される(2回目以降の)第二回路層形成工程の前に必ず実施してもよいし、第二回路層形成工程を適宜の回数継続した後に実施してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、カーボンシート再生工程により、カーボンシートに付着していたMg含有Al系ろう材中のMgを安定化させて、酸化を引き起こすガスの発生が抑制されるので、Mg含有Al系ろう材の還元作用を有効に発揮させて、良好な接合状態を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第一実施形態のヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法を示すフローチャートである。
【
図2】第一実施形態のヒートシンク付き絶縁回路基板を示す断面図である。
【
図3】
図2に示すヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法のうちの絶縁回路基板形成工程を示す断面図である。
【
図4】
図2に示すヒートシンク付き絶縁回路基板の製造方法のうちのヒートシンク接合工程を示す断面図である。
【
図5】絶縁回路基板形成工程及びヒートシンク接合工程で用いられる加圧装置の例を示す正面図である。
【
図6】接合時に用いられる当て板の例を示す断面図である。
【
図7】本発明の第二実施形態の絶縁回路基板の製造方法を示すフローチャートである。
【
図8】本発明の第二実施形態の絶縁回路基板を示す断面図である。
【
図9】第二実施形態の絶縁回路基板の製造方法の第二回路層形成工程(接合前)を示す断面図である。
【
図10】複数個の接合体を順次作製した際の接合体の超音波探傷検査の写真であり、左側が最初に接合した接合体、右側が最後に接合した接合体を示す。
【
図11】
図10の最後の接合後のカーボンシートの表面観察写真である。
【
図12】カーボンシート再生工程後のカーボンシートのXPS(X線光電子分光)分析図である。
【
図13】カーボンシート再生工程後のカーボンシートを用いて製作した接合体の超音波探傷検査の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
<第一実施形態>
第一実施形態は、
図2に示すように、パワーモジュール用基板として用いられるヒートシンク付き絶縁回路基板1であり、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面に接合された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面に接合された放熱層13とを備える絶縁回路基板10と、この絶縁回路基板10の放熱層13のセラミックス基板11とは反対側の表面に接合されたヒートシンク14とを備えている。
【0017】
セラミックス基板11は、回路層12と放熱層13との間の電気的接続を遮断する絶縁材であって、窒化アルミニウム(AlN)、窒化珪素(Si3N4)等により形成され、厚さは例えば0.2mm~1.2mmである。
回路層12は、純アルミニウム又はアルミニウム合金からなり、厚さは例えば0.1mm~2.0mmである。
放熱層13は純アルミニウム又はアルミニウム合金からなり、厚さは例えば0.1mm~2.0mmである。
ここで、 純アルミニウムとしては、例えば、2N(純度99%以上)、3N(純度99.9%以上)、4N(純度99.99%以上)のアルミニウムを用いることができ、アルミニウム合金としては、例えば、A3003やA6063等を用いることができる。
ヒートシンク14は、例えば、A3003やA6063等のアルミニウム合金により、板状、多穴管状等に形成される。放熱層13との接合面とは反対側に多数のピン状、板状等のフィンが形成される場合もある。
【0018】
次に、本実施形態のヒートシンク付き絶縁回路基板1の製造方法について説明する。
その製造方法は、回路層12となる金属板12´及び放熱層13となる金属板13´をそれぞれセラミックス基板11の各面にろう材21を介して積層し、その積層体を積層方向に加圧した状態で加熱することにより、セラミックス基板11の一方の面に回路層12を形成し、セラミックス基板11の他方の面に放熱層13を形成する絶縁回路基板形成工程と、絶縁回路基板形成工程後に放熱層13にヒートシンク14をMg含有Al系ろう材22を介して積層し、その積層体を積層方向に加圧した状態で加熱することにより、放熱層13にヒートシンク14を接合するヒートシンク接合工程と、を有しており、この絶縁回路基板形成工程とヒートシンク接合工程とを順に実施することによりヒートシンク付き絶縁回路基板1が製造される。
【0019】
この製造方法において、絶縁回路基板形成工程における積層体及びヒートシンク接合工程における積層体を加圧するために
図5に示す加圧装置110が用いられる。以下の加圧装置110の説明において、絶縁回路基板形成工程における積層体及びヒートシンク接合工程における積層体を区別することなく、積層体Sとして説明する。
この加圧装置110は、ベース板111と、ベース板111の上面の四隅等に垂直に取り付けられた複数のガイドポスト112と、これらガイドポスト112の上端部に固定された固定板113と、これらベース板111と固定板113との間で上下移動自在にガイドポスト112に支持された押圧板114と、固定板113と押圧板114との間に設けられて押圧板114を下方に付勢するばね等の付勢手段115とを備えている。
【0020】
固定板113および押圧板114は、ベース板111に対して平行に配置されており、ベース板111と押圧板114との間に積層体Sが配設される。
この場合、ベース板111及び押圧板114において、積層体Sと接する側に、加圧を均一にするための当て板30が配設される。
【0021】
当て板30は、
図6に示すように、二枚のカーボンシート31の間にグラファイトシート32を挟んだ構造とされている。
カーボンシート31は、耐熱性を有する硬質のカーボン材料により平板状に形成され、3000℃程度の高温で焼成したものである。このカーボンシート31は、かさ密度が1.6Mg/m
3以上1.9Mg/m
3以下の比較的硬質で平滑な平面に構成される。例えば、旭グラファイト株式会社製G-347(熱伝導率:116W/mK、弾性率:10.8GPa)を用いることができる。
【0022】
一方、グラファイトシート32は、クッション性を有する軟質のグラファイト材料により、鱗片状のグラファイト薄膜が雲母のように複数枚積層されて構成されたものであり、天然黒鉛を酸処理した後にシート状に成形してロール圧延してなるものである。このグラファイトシート32は、かさ密度が0.5Mg/m3以上1.3Mg/m3以下で軟質である。例えば旭グラファイト株式会社製T-5(熱伝導率:75.4W/mK、弾性率:11.4GPa)や、東洋炭素工業株式会社製黒鉛シートPF(圧縮率47%、復元率14%)などを用いることができる。
この当て板30を積層体Sの両端面に配置する際には、カーボンシート31が積層体Sの両端面に接触する。
【0023】
(絶縁回路基板形成工程)
図3に示すように、セラミックス基板11の両面に、それぞれろう材21を介して、回路層用金属板12´と放熱層用金属板13´とを積層する。ろう材21としては、Al-Si系等の合金が使用される。このろう材21は箔材を用いてもよいし、ペーストをセラミックス基板11又は両金属板12´,13´のいずれかに塗布することとしてもよい。
そして、その積層体Sの両端面に当て板30を配置した状態で加圧装置110を用いて積層方向に加圧して、加圧装置110ごと真空雰囲気下で加熱した後、冷却することにより、セラミックス基板11に回路層用金属板12´及び放熱層用金属板13´を接合して、セラミックス基板11の一方の面に回路層12、他方の面に放熱層13が形成された絶縁回路基板10が製造される。
このときの接合条件は、例えば加圧力として0.1MPa以上3.4MPa以下、接合温度としては630℃以上655℃以下、加熱時間としては15分以上120分以下とされる。
【0024】
(ヒートシンク接合工程)
図4に示すように、絶縁回路基板形成工程でセラミックス基板11に形成した放熱層13の表面にMg含有Al系ろう材22を介してヒートシンク14を積層し、その積層体の両端面に当て板30を配置した状態で、加圧装置110を用いて積層体Sを積層方向に加圧して、加圧装置110ごと窒素雰囲気下で加熱した後、冷却することにより、放熱層13にヒートシンク14を接合する。この場合も、ろう材22は箔材を用いてもよいし、ペーストを放熱層13又はヒートシンク14のいずれかに塗布することとしてもよい。ろう材22 としては、Mg:0.1質量%~5質量%、残部:Al及び不可避不純物、からなる組成を有する箔材を用いるとよい。この箔材においては、Siを含有させることが好適である。この場合、箔材の組成を、Mg:0.1質量%~5質量%、Si:3質量%~12質量%、残部:Al及び不可避不純物、とすることが好ましい。箔材の厚さとしては5μm~100μmの範囲内とすることが好ましい。
【0025】
また、Mg含有Al系ろう材22として、アルミニウム系芯材の両面にMg含有Al系ろう材の層を形成したクラッド材を用いても良い。この場合、芯材としてはA6063アルミニウム合金を用い、心材の外側に形成する皮材としては、Mg:0.1質量%~5質量%、Si:3質量%~12質量%、残部:Al及び不可避不純物の組成を有するアルミニウム合金を用いることが好ましい。芯材の厚さは50μm~300μmの範囲内、皮材の厚さとしては5μm~100μmの範囲内とすることが好ましい。クラッド材全体の厚さとしては、60μm~500μmの範囲内とすることが好ましい。
【0026】
このヒートシンク接合工程の接合条件は、例えば、加圧力を0.1MPa~0.5MPa、加熱温度を590℃以上615℃以下とし、3分以上20分以下保持するのが好適である。
このヒートシンク接合工程において、Mg含有Al系ろう材22は放熱層13及び/又はヒートシンク14表面の酸化膜と反応して、これを分解する。そのときの反応式は前述の(1)式の通りである。
これにより、放熱層13及びヒートシンク14の表面に対する溶融ろう材の濡れ性が低下し、これらの接合性が向上する。
【0027】
このようにして絶縁回路基板形成工程及びヒートシンク接合工程を順に実施することにより、セラミックス基板11の一方の面に回路層12、他方の面に放熱層13が形成され、その放熱層13にヒートシンク14が接合されたヒートシンク付き絶縁回路基板1が製造される。
以上の絶縁回路基板形成工程とヒートシンク接合工程とからなる製造工程を複数回繰り返すことにより、ヒートシンク付き絶縁回路基板1を複数連続的に製造することが行われる。あるいは、絶縁回路基板形成工程のみを複数回繰り返して、複数の絶縁回路基板10を形成しておき、得られた複数の絶縁回路基板10にヒートシンク接合工程を実施して、順次ヒートシンク14を接合するようにしてもよい。その際に、前述した加圧装置110及び当て板30は繰り返し使用可能である。ただし、絶縁回路基板形成工程とヒートシンク接合工程とで使用するろう材の種類が異なるので、二つの工程で別個の加圧装置と当て板を用いてもよい。
【0028】
以上のようにして加圧装置110及び当て板30を接合に使用すると、当て板30の特にカーボンシート31は積層体Sの両面に直接接触するため、溶融したろう材の余剰分が表面に付着することがある。
この時、カーボンシート31の表面に付着したろう材に含まれるMgが、放熱層13やヒートシンク14表面の酸化膜、もしくは、大気に触れることにより反応し、MgOが生成される。生成されたMgOは空気中のH
2OやCO
2を容易に吸収し、Mg(OH)
2やMgCO
3を形成する。そのため、この余剰ろう材が付着したまま、再度カーボンシート31を使用する場合、接合温度まで加熱された際に、余剰ろう材に含まれるMg(OH)
2やMgCO
3が分解し、水(水蒸気)やCO、CO
2等のガスが放出される。そして、これらのガスによってMg含有Al系ろう材22中のMgが酸化されてしまい、酸化膜(Al
2O
3)に対するMgの還元作用を阻害するため、接合不良が発生する。そのため、接合に用いられるMg含有Al系ろう材22におけるMgの還元作用を阻害しないようにするために、
図1に示すように、ヒートシンク付き絶縁回路基板1を複数個製造する際の途中で、以下に示すカーボンシート再生工程を実施する。
【0029】
(カーボンシート再生工程)
当て板30に用いていたカーボンシート31をヒートシンク接合工程の加熱温度以上の温度に加熱する。加熱条件としては、例えば、高真空または窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で、加熱温度としては650℃以上1100℃以下、加熱温度における保持時間として5分以上60分以下が好ましい。
このカーボンシート再生工程では、カーボンシート31を加熱すると、650℃以上1100℃以下に達する前に、付着していたMg含有Al系ろう材22中に含まれるMg(OH)2やMgCO3が水(水蒸気)やCO、CO2等のガスを放出し、MgOとなる。そして、加熱温度に達すると、Mg含有Al系ろう材22中に含まれるMg及びMgOは以下の反応式(1)、(6)、(7)、(8)に示すように、AlまたはAl2O3と反応してMgAl2O4に変化する。
3Mg+4Al2O3→3MgAl2O4+2Al・・(1)
Mg+2Al+2O2→MgAl2O4 ・・(6)
MgO+Al2O3→MgAl2O4 ・・(7)
MgO+2Al+3/2O2→MgAl2O4 ・・(8)
【0030】
このMgAl2O4は化学的に安定であり、H2OやCO2との反応性が無いため、ヒートシンク接合工程の加熱温度まで加熱されても、酸化を引き起こす可能性のある水(水蒸気)やCO、CO2等のガスの発生が抑制される。したがって、この再生されたカーボンシート31を用いて次に実施されるヒートシンク接合工程時に、放熱層13とヒートシンク14との間のMg含有Al系ろう材22の還元作用を有効に発揮させて、放熱層13とヒートシンク14との良好な接合状態を得ることができる。
なお、カーボンシート再生工程は、ヒートシンク接合工程を行うごとにMgOが蓄積されるため、毎回実施することが望ましい。
【0031】
<第二実施形態>
第二実施形態の絶縁回路基板2は、
図7に示すように、セラミックス基板11の一方の面に接合された回路層15が、第一回路層16と第二回路層17との二層構造とされている。セラミックス基板11の他方の面に放熱層13が接合されている点は第一実施形態と同様である。この放熱層13のセラミックス基板11とは反対側の表面にヒートシンク14を接合してもよいが、以下ではヒートシンクは接合されないものとして説明する。
【0032】
二層構造の回路層15のうち、セラミックス基板11に接合される第一回路層16は、純アルミニウム(例えば純度99.99質量%以上のアルミニウム)からなり、厚さは例えば0.1mm~2.0mmである。
第二回路層17は、第一回路層16より純度の低い純アルミニウム又はアルミニウム合金(例えばJIS規格の3000番台や6000番台のアルミニウム合金)からなり、厚さは例えば0.2mm~1.5mmである。
【0033】
この絶縁回路基板2を製造する場合、セラミックス基板11の一方の面に第一回路層16となる金属板16´、セラミックス基板11の他方の面に放熱層13となる金属板13´を接合することにより、セラミックス基板11の一方の面に第一回路層16を形成し、セラミックス基板11の他方の面に放熱層13を形成する第一接合工程(第一回路層形成工程)と、第一接合工程後に第一回路層16に第二回路層17となる金属板17´を接合することにより、第一回路層16に第二回路層17を形成する第二回路層形成工程とを有する。
【0034】
第一接合工程は、第一実施形態の絶縁回路基板形成工程と同様、加圧装置110及び当て板30を用い、ろう材21としてAl-Si系ろう材を用いて、0.1MPa以上3.4MPa以下の加圧力で加圧した状態で真空雰囲気下で630℃以上655℃以下の温度に15分以上120分以下保持した後、冷却することにより、セラミックス基板11に第一回路層16及び放熱層13をそれぞれ形成する。
【0035】
第二回路層形成工程は、
図8に示すように、第一接合工程で接合した第一回路層16の表面にMg含有Al系ろう材22を介して第二回路層17となる金属板17´を積層し、その積層体を0.1MPa~0.5MPaの加圧力で、590℃以上615℃以下の温度に3分以上20分以下保持した後、冷却することにより、第一回路層の上に第二回路層を形成する。この第二接合工程においても、第一実施形態と同様に加圧装置110及び当て板30が用いられ、接合時に積層体の両面に当て板30が配置される。
【0036】
そして、この絶縁回路基板2を複数製造する際に、加圧装置110及び当て板30を繰り返し使用するが、途中で当て板30を第二回路層形成工程時の加熱温度以上の温度に加熱して、カーボンシート31を再生するカーボンシート再生工程を実施する。カーボンシート再生工程は、第一実施形態と同様である。
このようにして、適宜カーボンシート再生工程を挟みながら、複数の絶縁回路基板2を製造することにより、接合状態が良好な絶縁回路基板2を得ることができる。
【0037】
なお、前述の第一実施形態では、絶縁回路基板形成工程、ヒートシンク接合工程の二つの接合工程を経てヒートシンク付き絶縁回路基板を形成し、一方、第二実施形態では、第一接合工程、第二回路層形成工程の二つの接合工程を経て絶縁回路基板2を形成しており、これら二つの工程を順次繰り返す途中でカーボンシート再生工程を設けたが、第一実施形態では絶縁回路基板形成工程、第二実施形態では第一接合工程のみを複数回繰り返して複数の接合体を形成し、その後に、その接合体についてそれぞれヒートシンク接合工程、又は第二回路層形成工程を繰り返し実施することも可能である。ヒートシンク接合工程又は第二回路層形成工程を複数回繰り返すうちのいずれかの間でカーボンシート再生工程を実施すればよい。
また、第二実施形態において、セラミックス基板の回路層とは反対側の面に放熱層を形成したが、放熱層を有しない場合も含むものとする。その場合、第一接合工程は、第一回路層のみを形成することになる。本発明では、この第一接合工程について、放熱層の有無にかかわらず第一回路層形成工程と称している。
【0038】
また、当て板としてカーボンシートの間にグラファイトシートを挟んだ構造のものを用いたが、カーボンシートとグラファイトシート等のクッション材との二層構造のもの、カーボンシートのみのものも用いることができる。カーボンシートとクッション材との二層構造の場合は、接合されるべき積層体の両端面にカーボンシートが接触するように配置される。
【実施例】
【0039】
二枚のアルミニウム製金属板(平面サイズ70mm×70mm、厚さ0.8mm)の間にMg含有Al系ろう材としてAl-10質量%Si-1.5質量%Mg合金ろう材箔(厚さ0.02mm)を介在して積層し、その積層体の両面に実施形態で用いた当て板を接触させて加圧装置により加圧し、窒素雰囲気で加熱した。加圧力は0.2MPa、加熱温度は600℃で10分とした。
当て板を変えずに3回接合を繰り返して、最初の接合体と最後の接合体とを超音波探傷装置により両金属板の接合界面を観察した。
図10の左側が最初の接合体、右側が最後の接合体であり、最後の接合体には、接合不良(白く写った部分)が認められる。
図11は、この最後の接合体まで使用されたカーボンシートの表面写真であり、ろう材が付着している(矢印が示す白い箇所にろう材が付着している)。
次に、3回の接合に用いたカーボンシートを900℃で20分加熱するカーボンシート再生工程を実施した。このカーボンシート再生工程後のカーボンシートの表面をXPS装置(X線光電子分光装置)を用いて分析した。その結果を
図12に示す。この
図11において、各元素分析図のなかの4本の線は、上から2本が3回接合後、下から2本がカーボンシート再生工程後である。この
図12で示されるように、カーボンシート再生工程後のカーボン成分(Cls)では、CO系のピークが消失しているのがわかる。また、Mg成分(Mg2p)において、カーボンシート再生工程を経ることによりピークのシフトが認められ、MgOがMgAl
2O
4に変化したことが示されている。
そこで、このカーボンシート再生工程を経たカーボンシートを使用して、上記と同様に接合体を形成し、超音波探傷装置で接合界面を観察したところ、
図13に示すように、接合不良は認められなかった。したがって、接合に使用されたために、そのまま再使用したのでは接合不良が生じるカーボンシートでも、カーボンシート再生工程を経ることにより、接合不良を生じることなく再使用できることがわかる。
【符号の説明】
【0040】
1…ヒートシンク付き絶縁回路基板
2…絶縁回路基板
10…絶縁回路基板
11…セラミックス基板
12,15…回路層
12´…回路層用金属板
16…第一回路層
17…第二回路層
13…放熱層
13´…金属層用金属板
14…ヒートシンク
21…ろう材
22…Mg含有Al系ろう材
30…当て板
31…カーボンシート
32…グラファイトシート
110…加圧装置