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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】定着装置、及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20231108BHJP
【FI】
G03G15/20 555
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019224900
(22)【出願日】2019-12-12
(65)【公開番号】P2021092737
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003443
【氏名又は名称】弁理士法人TNKアジア国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100129997
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 米藏
(72)【発明者】
【氏名】柴原 雅美
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-106234(JP,A)
【文献】特開2019-148724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
現像剤からなる画像が形成された記録紙をニップ域に挟み込んで加圧しつつヒーターにより加熱して、前記画像を前記記録紙に定着させる定着部と、
前記ニップ域の温度を検出する温度検出部と、
前記ニップ域の複数の初期温度別に、前記ヒーターへの電力供給開始に伴って該初期温度から変化する前記ニップ域の温度特性を記憶した記憶部と、
前記ヒーターへの電力供給開始前に、前記記憶部に記憶されている前記各初期温度の温度特性のうちから前記温度検出部により検出された温度に一致又は近似する初期温度の温度特性を選択し、該選択した温度特性に基づき前記ヒーターへの電力供給開始から予め設定された一定時間後の予測温度を算出し、前記ヒーターへの電力供給開始から前記一定時間後に前記温度検出部により検出された温度と前記予測温度の差に基づき前記ヒーターに供給される電力を制御する制御部と、を備える定着装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記ヒーターへの電力供給開始から前記一定時間後に前記温度検出部により検出された温度が前記予測温度よりも低い場合に、前記ヒーターへの電力を予め定められた第1の値だけ増大させる請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記ヒーターへの電力を増大させても、前記温度検出部により検出された温度が予め設定された目標値まで上昇しない場合に、警告を出力する請求項2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記ヒーターへの電力供給開始から前記一定時間後に前記温度検出部により検出された温度が前記予測温度よりも高い場合、前記温度検出部により検出された温度が前記定着に用いる予め定められた定着温度に達した後、前記ヒーターへの電力を予め定められた第3の値だけ減少させる請求項1に記載の定着装置。
【請求項5】
前記定着部は、無端状の定着ベルトと、前記定着ベルトに接触して前記定着ベルトとの間に前記ニップ域を形成する加圧ローラーとを備え、前記ヒーターとして前記定着ベルトを介して記録紙を加熱するセラミックヒーターを用いたものである請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載の定着装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記ヒーターへの電力供給開始前に前記温度検出部により検出された温度を前記ニップ域の初期温度として取得すると共に、前記ヒーターへの電力供給開始からの前記温度検出部により検出された温度の変化を該ニップ域の温度特性として取得し、前記取得した初期温度及び温度特性を前記記憶部に記憶させる請求項1乃至請求項5のいずれか1つに記載の定着装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1つに記載された定着装置と、
前記現像剤からなる画像を記録紙に形成する画像形成部と、を備え、
前記定着装置は、前記記録紙を加熱及び加圧して、前記画像を前記記録紙に定着させる画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録紙に形成された現像剤からなる画像を熱圧着により定着させる定着装置及びこれを備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置では、トナーを像担持体上の静電潜像に付与して、トナー像を形成し、このトナー像を像担持体から記録紙に転写して、トナー像を熱圧着により記録紙に定着させる。記録紙上のトナー像の熱圧着は、定着装置より行われる。この定着装置としては、無端状の定着ベルトと加圧ローラーの間にニップ域を形成し、記録紙をニップ域に挟み込んで加圧しつつ、面状ヒーターであるセラミックヒーターにより定着ベルトを介して記録紙を加熱し、記録用紙上のトナー像を加熱及び加圧するというオンデマンド方式のものがある。
【0003】
このセラミックヒーターは、昇温スピードが早く、1秒後には約100℃に達するため、省電力化に適するものの、セラミックヒーターの温度を速やかに制御する必要がある。
【0004】
また、画像形成装置が使用される地域は広く、その地域によって商用電源電圧が異なり、例えば欧州全体では商用電源電圧が220V、230V、240Vなどとなっている。その一方で、定着装置のヒーターについては、地域にかかわらず共通のものを用いるので、平均的な商用電源電圧230Vを基準にして、-4%~+4%の電圧範囲での稼働を想定している。しかしながら、商用電源電圧の違いが原因となって、ヒーターの温度の過不足が発生し得る。
【0005】
一方、特許文献1に記載の装置では、所定の制御周期毎に、サーミスターによるヒーターの検出温度に基づきヒーターに供給される電力を制御しており、その制御周期を、例えばヒーターの検出温度の変化率に基づき変更して、ヒーターの温度のオーバーシュートなどを改善している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-242618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、ヒーターへの電力供給開始からの経過時間と共に変化するニップ域の温度特性に着眼すると、ヒーターへの電力供給開始前のニップ域の初期温度によって、そのニップ域の温度特性の勾配が変化する。例えば、電力供給開始前のニップ域の初期温度が0℃の場合と50℃の場合とでは、ニップ域の温度特性の勾配が著しく異なる。これは、ニップ域の初期温度が定着装置の動作環境や動作条件などに応じて変化し、この初期温度がニップ域の温度特性の勾配に影響するためと考えられる。
【0008】
上記特許文献1では、ヒーターに供給される電力の制御周期を、ヒーターの検出温度の変化率に基づき変更して、ヒーターの温度のオーバーシュートを改善しているが、上記のようにニップ域の温度特性の勾配が著しく変化した場合には、ニップ域の温度の適確な制御が困難になると考えられる。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みなされたものであり、電力供給開始前のニップ域の初期温度に応じた該ニップ域の温度特性を取得し、この取得した温度特性に基づきヒーターに供給される電力を制御して、ニップ域の温度の過不足を未然に防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一局面に係る定着装置は、現像剤からなる画像が形成された記録紙をニップ域に挟み込んで加圧しつつヒーターにより加熱して、前記画像を前記記録紙に定着させる定着部と、前記ニップ域の温度を検出する温度検出部と、前記ニップ域の複数の初期温度別に、前記ヒーターへの電力供給開始に伴って該初期温度から変化する前記ニップ域の温度特性を記憶した記憶部と、前記ヒーターへの電力供給開始前に、前記記憶部に記憶されている前記各初期温度の温度特性のうちから前記温度検出部により検出された温度に一致又は近似する初期温度の温度特性を選択し、該選択した温度特性に基づき前記ヒーターへの電力供給開始から予め設定された一定時間後の予測温度を算出し、前記ヒーターへの電力供給開始から前記一定時間後に前記温度検出部により検出された温度と前記予測温度の差に基づき前記ヒーターに供給される電力を制御する制御部と、を備えるものである。
【0011】
また、本発明の一局面に係る画像形成装置は、上記本発明の定着装置と、前記現像剤からなる画像を記録紙に形成する画像形成部と、を備え、前記定着装置は、前記記録紙を加熱及び加圧して、前記画像を前記記録紙に定着させるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電力供給開始前のニップ域の初期温度に応じた該ニップ域の温度特性を取得し、この取得した温度特性に基づきヒーターに供給される電力を制御して、ニップ域の温度の過不足を未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る定着装置を備える画像形成装置の構成を示す正面断面図である。
図2】定着装置の構成を示す断面図である。
図3】画像形成装置の主要内部構成を示す機能ブロック図である。
図4】定着装置のヒーターに電力を供給するヒーター電源部の構成を示す回路図である。
図5】電力供給開始前のニップ域の複数の初期温度別に、ヒーターへの電力供給開始からの経過時間と共に変化する該ニップ域の温度特性を示すグラフである。
図6】ヒーターへの電力供給の制御手順を示すフローチャートである。
図7図5のグラフに示す複数の温度特性別に、ヒーターに供給される電力を増大させることにより変化した温度特性と、電力を減少させることにより変化した温度特性とを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係る定着装置を備える画像形成装置について図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る定着装置21を備える画像形成装置1の構成を示す正面断面図である。
【0015】
画像形成装置1は、ファクシミリ機能、コピー機能、プリンター機能、及びスキャナー機能等の複数の機能を兼ね備える複合機である。画像形成装置1は、装置本体2と、画像読取装置3とを備える。装置本体2は、操作部4、画像形成部5、定着装置21、及び給紙部6等を備える。
【0016】
画像読取装置3は、原稿を搬送する原稿搬送部7と、原稿搬送部7により搬送される原稿又はコンタクトガラス8に載置される原稿を光学的に読み取るスキャナーと、を含むADF(Auto Document Feeder)である。画像読取装置3は、光照射部により原稿を照射し、その反射光をCCD(Charge-Coupled Device)センサーで受光することによって、原稿から画像を読み取って画像データを取得する。画像読取装置3によって取得された画像データは、図示しない内蔵HDD又はネットワークを介して接続されるパーソナルコンピューター等に記憶される。
【0017】
操作部4は、画像読取装置3の近傍であって、画像形成装置1の正面側に設けられる。ユーザーは、操作部4を介して、画像形成装置1によって実行可能な各種機能についての指示等を入力する。操作部4は、タッチパネル式の表示部9を含む。表示部9は、画像形成装置1が実行可能な各種機能に関する各種の画面を表示する。
【0018】
画像形成部5は、画像読取装置3によって取得された画像データ、又は、ネットワークを介して接続されるパーソナルコンピューター及び他のファクシミリ装置等から送られる画像データに基づいて、給紙部6から供給される記録紙Pにトナー像を形成する。
【0019】
画像形成部5は、画像形成ユニット10M、10C、10Y、及び10Bk(以下、単に「画像形成ユニット10」と記す場合がある。)を備える。画像形成ユニット10は、感光体ドラム11と、トナーを収容するトナーカートリッジと、感光体ドラム11の表面を均一に帯電させる帯電装置と、感光体ドラム11の表面を露光して静電潜像を形成する露光装置12と、感光体ドラム11へトナーを供給して静電潜像をトナー像に現像する現像装置と、1次転写ローラー13と、を備える。
【0020】
カラー印刷を行う場合、画像形成部5のマゼンタ用の画像形成ユニット10M、シアン用の画像形成ユニット10C、イエロー用の画像形成ユニット10Y及びブラック用の画像形成ユニット10Bkは、それぞれに、画像データを構成するそれぞれの色成分からなる画像データに基づいて、帯電、露光及び現像を行なって感光体ドラム11上にトナー像を形成し、トナー像を1次転写ローラー13により、駆動ローラー14及び従動ローラーに張架される中間転写ベルト15上に転写させる。
【0021】
中間転写ベルト15は、トナー像が転写される像担持面を外周面に有する。中間転写ベルト15は、感光体ドラム11の周面に当接した状態で駆動ローラー14によって駆動されて回転する。中間転写ベルト15は、各感光体ドラム11の回転と同期しながら、駆動ローラー14と従動ローラーとの間を無端走行する。
【0022】
中間転写ベルト15上に転写された各色のトナー像は、転写タイミングを調整して中間転写ベルト15上で重ね合わされ、カラーのトナー像となる。
【0023】
2次転写ローラー16は、中間転写ベルト15を挟んで駆動ローラー14との間に形成されるニップ域Nにおいて、中間転写ベルト15の表面に形成されるカラーのトナー像を給紙部6から搬送される記録紙Pに転写する。
【0024】
定着装置21は、記録紙P上のカラーのトナー像を記録紙Pに定着させる。定着処理の完了したカラー画像形成済みの記録紙Pは、排出トレイ17に排出される。
【0025】
給紙部6は、複数の給紙カセットを備える。ユーザーによって操作部4を介して記録紙Pのサイズが入力されると、入力されたサイズの記録紙Pを収容する給紙カセットのピックアップローラー18が回転駆動されて、記録紙Pが搬送路へと搬送される。
【0026】
図2は、定着装置21の構成を示す断面図である。図2に示すように定着装置21は、無端状の定着ベルト22と、定着ベルト22に接触して定着ベルト22との間にニップ域Nを形成する加圧ローラー23と、定着ベルト22を加熱するヒーター24と、ヒーター24を保持する保持部材25と、を備えている。ヒーター24は、面状ヒーターであり、所謂オンデマンド方式のものである。
【0027】
定着ベルト22は、金属又は合成樹脂によって形成される中空円筒状の基材層の表面に、シリコーンゴム等によって形成される弾性層と、PFA及びPTFE等のフッ素系樹脂によって形成される離型層とが積層されて構成される。定着ベルト22は、回転可能に設けられている。
【0028】
加圧ローラー23は、金属によって形成される円筒状の心材の表面に、シリコーンゴム等によって形成される弾性層と、PFA及びPTFE等のフッ素系樹脂によって形成される離型層とが積層されて構成される筒状の部材である。加圧ローラー23の軸方向と定着ベルト22の軸方向とは、平行である。
【0029】
加圧ローラー23の軸方向から見て加圧ローラー23の径方向中央部には、加圧ローラー23の軸方向に延びる軸23Aが設けられる。軸23Aの両端部は、図示しない軸受によって回転可能に支持されている。
【0030】
加圧ローラー23は、付勢された状態で、定着ベルト22の外周面に接触する。これによって、加圧ローラー23と定着ベルト22の間にニップ域Nが形成される。加圧ローラー23は、図示しない駆動機構を介して、図示しない駆動源によって駆動されることによって回転する。加圧ローラー23が回転すると、定着ベルト22は、加圧ローラー23に接触した状態で、加圧ローラー23の回転に伴って従動回転する。
【0031】
ヒーター24は、昇温スピードが早い面状のセラミックヒーターであり、このヒーター24により定着ベルト22を介して記録紙Pが加熱される。
【0032】
上記のようにカラーのトナー像が形成された記録紙Pは、加圧ローラー23と定着ベルト22により搬送されつつ、ニップ域Nに挟み込まれて加熱及び加圧され、これにより記録紙P上のカラーのトナー像が定着される。
【0033】
次に、画像形成装置1の制御に係る構成について説明する。図3は、画像形成装置1の主要内部構成を示す機能ブロック図である。図3に示すように画像形成装置1は、画像読取装置3と、画像形成部5と、表示部9と、操作部4と、タッチパネル33と、定着装置21と、記憶部36と、制御ユニット38とを備えている。これらの構成要素は、互いにバスを通じてデータ又は信号の送受信が可能とされている。
【0034】
表示部9は、液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)や有機EL(OLED:Organic Light-Emitting Diode)ディスプレイなどから構成される。
【0035】
操作部4は、テンキー、決定キー、スタートキーなどの物理キーを備えている。
【0036】
表示部9の画面には、タッチパネル33が配置されている。タッチパネル33は、所謂抵抗膜方式や静電容量方式などのタッチパネルであって、タッチパネル33に対するユーザーの指などの接触(タッチ)をその接触位置とともに検知して、その接触位置の座標を示す検知信号を制御ユニット38の後述する制御部39に出力する。このタッチパネル33は、操作部4と共に表示部9の画面に対するユーザー操作が入力される操作部としての役割を果たす。
【0037】
定着装置21は、図2に示すヒーター24に電力を供給するヒーター電源部34と、加圧ローラー23と定着ベルト22の間のニップ域Nの温度Fを検出する温度センサー35とを有する。温度センサー35は、例えばサーミスターである。
【0038】
記憶部36は、SSD(Solid State Drive)、HDD(Hard Disk Drive)などの大容量の記憶装置であって、各種のアプリケーションプログラムや種々のデータを記憶している。
【0039】
制御ユニット38は、プロセッサー、RAM(Random Access Memory)、及びROM(Read Only Memory)などから構成される。プロセッサーは、例えばCPU(Central Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、又はMPU(Micro Processing Unit)等である。制御ユニット38は、上記のROM又は記憶部36に記憶された制御プログラムが上記のプロセッサーで実行されることにより、制御部39として機能する。
【0040】
制御部39は、画像形成装置1を統括的に制御する。制御ユニット38は、画像読取装置3、画像形成部5、表示部9、操作部4、タッチパネル33、ヒーター電源部34、温度センサー35、記憶部36、などと接続されている。制御部39は、これらの構成要素の動作制御と、該各構成要素との間での信号またはデータの送受信を行う。
【0041】
制御部39は、画像形成装置1による画像形成に必要な各種の処理などを実行する処理部としての役割を果たす。また、制御部39は、タッチパネル33から出力される検知信号あるいは操作部4の物理キーの操作に基づき、ユーザーにより入力された操作指示を受け付ける。更に、制御部39は、表示部9の表示動作を制御する機能を有する。
【0042】
また、制御部39は、温度センサー35により検出された加圧ローラー23と定着ベルト22の間のニップ域Nの温度Fに基づきヒーター電源部34を制御して、ヒーター電源部34からヒーター24に供給される交流電力を調節する。
【0043】
図4は、定着装置21のヒーター24に電力を供給するヒーター電源部34の構成を示す回路図である。
【0044】
この図4に示すように商用電源41とヒーター24との間には、ヒーター電源部34として、リレーCR、フューズFS、チョークコイルLC1、交流スイッチング部42、チョークコイルLC2が設けられている。
【0045】
交流スイッチング部42は、ヒーター24に直列に接続されているスイッチング素子(例えば双方向サイリスター)を備え、そのスイッチング素子によって、ヒーター24への交流電力の通電のオン/オフを行う。交流電力がヒーター24に供給されるため、双方向に電流を導通させることが可能な双方向サイリスターが交流スイッチング部42に使用されている。
【0046】
制御部39は、リレーCRをオンにし、温度センサー35により検出された加圧ローラー23と定着ベルト22の間のニップ域Nの温度Fに基づき交流スイッチング部42のオンオフを制御して、ヒーター24に供給される交流電力を調節し、ニップ域Nの温度Fを目標値FTに設定する。制御部39による交流スイッチング部42のオンオフ制御は、例えば、ヒーター24に供給される交流電力が0のときに該交流スイッチング部42のオンオフを切り替える所謂ゼロクロスの制御であり、少なくとも半サイクル単位でヒーター24に供給される交流電力を調節する。
【0047】
このような構成の画像形成装置1において、例えば、ユーザーが、原稿を画像読取装置3にセットし、操作部4のスタートキーを操作すると、制御部39は、画像読取装置3により原稿の画像を読取らせて、この画像(トナー像)を画像形成部5により記録紙に印刷させ、定着装置21により記録紙上のトナー像を定着させる。
【0048】
ここで、定着装置21は、上記のようにヒーター24として面状のセラミックヒーターを用いたオンデマンド方式のものであるため、ヒーター24の昇温スピードが早く、ヒーター24の温度を速やかに制御する必要がある。
【0049】
しかしながら、ヒーター24への電力供給開始からの経過時間と共に変化する加圧ローラー23と定着ベルト22の間のニップ域Nの温度特性に着眼すると、ヒーター24への電力供給開始前のニップ域Nの初期温度が定着装置21の動作環境や動作条件などに応じて変化し、この初期温度によりニップ域の温度特性の勾配が大きく変化する。
【0050】
図5は、電力供給開始前のニップ域Nの初期温度F1(=0℃)、F2(=20℃)、F3(=50℃)別に、ヒーター24への電力供給開始からの経過時間tと共に変化する該ニップ域Nの温度特性f1、f2、f3を示すグラフである。この図5のグラフから明らかなようにニップ域Nの初期温度が高くなる程、ニップ域Nの温度が初期温度からより急峻に上昇する。このため、ヒーター24の温度を適確かつ速やかに調節するには、ニップ域Nの初期温度を考慮するのが好ましい。
【0051】
そこで、本実施形態では、複数の初期温度別に、ヒーター24への電力供給開始からの経過時間tと共に変化するニップ域Nの温度特性を記憶部36に記憶させておく。例えば、図5のグラフに示すニップ域Nの初期温度F1(=0℃)、F2(=20℃)、F3(=50℃)別に、ヒーター24への電力供給開始からの経過時間tと共に変化するニップ域Nの温度特性f1、f2、f3を記憶部36に記憶させておく。制御部39は、ヒーター24への電力供給開始前の時点で温度センサー35により検出されたニップ域Nの温度Fを初期温度FFとして取得し、記憶部36に記憶されている各初期温度F1、F2、F3の温度特性f1、f2、f3のうちからその取得した初期温度FFに一致又は近似する温度特性を選択する。そして、制御部39は、その選択した温度特性に基づきヒーター24への電力供給開始から予め設定された一定時間T後の予測温度FYを算出する。この後、制御部39は、ヒーター24への電力供給を開始させ、当該電力供給の開始から一定時間T後に温度センサー35により検出された温度Fを経過温度FJとして取得し、経過温度FJと予測温度FYの差に基づきヒーター24に供給される電力を制御する。例えば、制御部39は、経過温度FJが予測温度FYよりも低い場合に、それらの差に応じて予め定められている値だけ、ヒーター電源部34からヒーター24へと供給される電力を増大させる。
【0052】
これにより、ニップ域Nの初期温度FFに対応する該ニップ域Nの温度特性を反映したヒーター24への電力供給が行われ、ニップ域Nの温度不足などを防止することができる。尚、図5のグラフにおいては、ニップ域Nの初期温度F1(=50℃)の場合に、ヒーター24への電力供給開始から該ニップ域Nの温度Fが目標値FT(=200℃)に達するまでの時間(1秒程度)が最も短いので、一定時間Tをその時間の1/2(0.5秒)に設定している。
【0053】
次に、上記のようなヒーター24への電力供給の制御手順を、図6に示すフローチャートなどを参照して詳しく説明する。
【0054】
例えば、ユーザーが、原稿を画像読取装置3にセットし、操作部4のスタートキーを操作して画像形成実行指示を入力すると、制御部39は、この指示に従って、画像読取装置3により原稿の画像を読取らせて、画像形成部5による記録紙への該画像の形成を開始させる(S101)。
【0055】
このとき、制御部39は、ヒーター24への電力供給開始前の時点で、温度センサー35により検出されたニップ域Nの温度Fを初期温度FFとして取得し(S102)、記憶部36に記憶されている各初期温度F1、F2、F3の温度特性f1、f2、f3のうちからその取得した初期温度FFに一致又は近似する初期温度の温度特性を選択する(S103)。各初期温度F1、F2、F3のいずれかが初期温度FFに近似するとは、例えば両者の温度の差が一定の範囲に収まることである。
【0056】
そして、制御部39は、その選択した初期温度の温度特性に基づきヒーター24への電力供給開始から予め設定された一定時間T後の予測温度FYを算出する(S104)。
【0057】
制御部39は、ヒーター24への電力供給開始タイミングを待機し(S105「No」)、電力供給開始タイミングになると(S105「Yes」)、ヒーター電源部34によるヒーター24への電力供給を開始させる(S106)。例えば、このときにヒーター電源部34からヒーター24へと供給される交流電力は予め設定された値のものである。
【0058】
制御部39は、ヒーター24への電力供給の開始と同時に、経過時間tの計時を開始して(S107)、この経過時間tが一定時間Tに達するのを待機する(S108「No」)。そして、制御部39は、経過時間tが一定時間Tに達すると(S108「Yes」)、ヒーター24への電力供給開始から一定時間T後に温度センサー35により検出されたニップ域Nの温度Fを経過温度FJとして取得し(S109)、この経過温度FJからS104で算出した予測温度FYを差し引いて、両者の温度の差(FJ-FY)を算出し(S110)、この差(FJ-FY)が0以上であるか否かを判定する(S111)。
【0059】
そして、制御部39は、その差(FJ-FY)が0未満であれば(S111「No」)、すなわち経過温度FJが予測温度FYに達していなければ、ヒーター電源部34を制御して、該差(FJ-FY)の大きさに応じて予め定められた第1の値だけ、ヒーター電源部34からヒーター24へと供給される交流電力を増大させる(S112)。このとき、制御部39は、上記のように交流スイッチング部42のオンオフをゼロクロスで制御して、ヒーター電源部34からヒーター24へと供給される交流電力を少なくとも半サイクル単位で上記予め定められた第1の値だけ増大させる。
【0060】
また、制御部39は、その差(FJ-FY)が0以上であれば(S111「Yes」)、よって経過温度FJが予測温度FYに達するか超えていれば、S112の処理を行わない。処理はS113に移る。
【0061】
続いて、制御部39は、温度センサー35により検出されたニップ域Nの温度Fが予め設定された目標値FTに達したか否かを判定し(S113)、ニップ域Nの温度Fが目標値FTに達すると(S113「Yes」)、温度センサー35により検出されたニップ域Nの温度Fに基づきヒーター電源部34を制御して、ニップ域Nの温度Fを目標値FT(実際の定着動作に用いる定着温度)に維持するという通常の温度制御に移る(S114)。
【0062】
また、制御部39は、温度センサー35により検出されたニップ域Nの温度Fが目標値FTに達しなければ(S113「No」)、ニップ域Nの温度Fが目標値FTに達しなかったことを示すエラーメッセージを表示部9に表示させる(S115)。更に、制御部39は、データ通信部(図示せず)を通じて、エラーメッセージをサービスマンの端末装置などに送信して通知してもよい。
【0063】
このように本実施形態では、電力供給開始前に温度センサー35により検出されたニップ域Nの初期温度FFに対応する温度特性に基づき、電力供給開始から一定時間T後のヒーター24の予測温度FYを算出し、温度センサー35により一定時間T後に検出された経過温度FJからその予測温度FYを差し引いた差が0未満の場合に、その差の大きさに応じて予め定められた第1の値だけ、ヒーター電源部34からヒーター24へと供給される交流電力を増大させているので、定着装置21の動作環境や動作条件にかかわらず、ヒーター24の温度を適確かつ速やかに調節して、ニップ域Nの温度不足を確実に防止することができる。
【0064】
尚、上記実施形態では、経過温度FJから予測温度FYを差し引いた差(FJ-FY)が0以上であれば、ヒーター電源部34からヒーター24へと供給される交流電力の調整を行っていないが、この調整を行ってもよい。この場合、制御部39は、交流スイッチング部42のオンオフをゼロクロスで制御して、ヒーター電源部34からヒーター24へと供給される交流電力を少なくとも半サイクル単位で予め定められた第2の値だけ減少させる。これにより、ヒーター24の温度のオーバーシュートなどを改善することができる。
【0065】
また、上記実施形態では、経過温度FJから予測温度FYを差し引いた差(FJ-FY)が0以上となっていて、ニップ域Nの温度Fが目標値FTに達した場合において、制御部39が、温度センサー35により検出されたニップ域Nの温度Fに基づきヒーター電源部34を制御して、ニップ域Nの温度Fを目標値FTに維持するという通常の温度制御を行うとき(S114)、交流スイッチング部42のオンオフをゼロクロスで制御して、ヒーター電源部34からヒーター24へと供給される交流電力を予め定められた第3の値だけ減少させる、例えば、少なくとも半サイクル単位で予め定められた第3の値だけ減少させてもよい。これにより、実効電力の調整を行う。
【0066】
図7は、図5のグラフに示すニップ域Nの各温度特性f1、f2、f3別に、ヒーター電源部34からヒーター24へと供給される交流電力が増大されることにより変化した温度特性と、交流電力が減少されることにより変化した温度特性とを示すグラフである。この図7のグラフから明らかなようにニップ域Nの温度Fを、ヒーター24に供給される交流電力の増減により調節することが可能である。
【0067】
また、制御部39は、ヒーター24への電力供給開始前に温度センサー35により検出された温度Fを初期温度FFとして取得すると共に、ヒーター24への電力供給開始からの温度センサー35により検出された温度Fの変化をニップ域Nの温度特性として取得し、この取得した初期温度FF及び温度特性を記憶部36に記憶させてもよい。この場合は、初期温度FF及び温度特性の種類が増え、上記のような温度特性に基づくヒーター24の制御をより細やかに行うことができる。また、同一の初期温度FFについて複数の温度特性が記憶部36に記憶された場合は、これらの温度特性を平均化して、温度特性の精度を向上させることができる。
【0068】
また、上記実施形態では、本発明に係る画像形成装置として複合機を例示しているが、これは一例に過ぎず、モノクロプリンター、コピー機、ファクシミリ装置等の他の画像形成装置でもよい。
【0069】
また、図1乃至図7を用いて説明した上記実施形態の構成及び処理は、本発明の一例に過ぎず、本発明を当該構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0070】
1 画像形成装置
3 画像読取装置
4 操作部
5 画像形成部
9 表示部
21 定着装置
33 タッチパネル
34 ヒーター電源部
35 温度センサー
36 記憶部
38 制御ユニット
39 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7