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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】インクジェット用インク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/322 20140101AFI20231108BHJP
   C09D 11/324 20140101ALI20231108BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20231108BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
C09D11/322
C09D11/324
B41M5/00 120
B41J2/01 501
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019234900
(22)【出願日】2019-12-25
(65)【公開番号】P2021102726
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【弁理士】
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】杉本 博子
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/168817(WO,A1)
【文献】特開2011-190344(JP,A)
【文献】特開2019-189852(JP,A)
【文献】特開2018-090822(JP,A)
【文献】特開2017-008216(JP,A)
【文献】特開2004-175918(JP,A)
【文献】特開2004-149600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-11/54
B41M 5/00
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己分散顔料と、
溶媒と、
バインダー樹脂粒子とを含有し、
前記バインダー樹脂粒子は、ウレタンアクリル樹脂を含み、
前記溶媒は、第1溶媒又は第2溶媒を含み、
前記第1溶媒及び前記第2溶媒は、それぞれ、水及び水溶性有機溶媒を含み、
前記自己分散顔料は、第1自己分散顔料又は第2自己分散顔料を含み、
前記自己分散顔料及び前記溶媒の組み合わせは、
前記自己分散顔料が前記第1自己分散顔料を含み、前記溶媒が前記第1溶媒を含む第1の組み合わせ、
前記自己分散顔料が前記第2自己分散顔料を含み、前記溶媒が前記第1溶媒を含む第2の組み合わせ、又は
前記自己分散顔料が前記第2自己分散顔料を含み、前記溶媒が前記第2溶媒を含む第3の組み合わせであり、
前記第1自己分散顔料は、ハンセン溶解度パラメーターにおける分散項(dD)が16.5MPa0.5以上18.5MPa0.5以下、分極項(dP)が9.0MPa0.5以上12.0MPa0.5以下、水素結合項(dH)が20.0MPa0.5以上24.0MPa0.5以下であり、
前記第2自己分散顔料は、ハンセン溶解度パラメーターにおける分散項(dD)が16.5MPa0.5以上18.5MPa0.5以下、分極項(dP)が12.0MPa0.5超15.5MPa0.5以下、水素結合項(dH)が20.0MPa0.5以上24.0MPa0.5以下であり、
前記第1溶媒は、ハンセン溶解度パラメーターにおける分散項(dD)が16.5MPa0.5以上18.5MPa0.5以下、分極項(dP)が12.8MPa0.5以上14.0MPa0.5以下、水素結合項(dH)が17.5MPa0.5以上19.5MPa0.5以下であり、
前記第2溶媒は、ハンセン溶解度パラメーターにおける分散項(dD)が16.5MPa0.5以上18.5MPa0.5以下、分極項(dP)が11.0MPa0.5以上12.8MPa0.5未満、水素結合項(dH)が17.0MPa0.5以上19.0MPa0.5以下であるインクジェット用インクであって
前記第1溶媒は、
炭素原子数5以上8以下の第1ジオール化合物と、炭素原子数2以上4以下の第2ジオール化合物と、水とを含み、
前記インクジェット用インクにおける前記第1ジオール化合物の含有割合は、15.0質量%以上25.0質量%以下であり、
前記インクジェット用インクにおける前記第2ジオール化合物の含有割合は、5.0質量%以上15.0質量%以下であり、かつ
前記インクジェット用インクにおける水の含有割合は、55.0質量%以上65.0質量%以下であり、
前記第2溶媒は、
前記第1ジオール化合物と、水とを含み、
前記インクジェット用インクにおける前記第1ジオール化合物の含有割合は、25.0質量%以上35.0質量%以下であり、かつ
前記インクジェット用インクにおける水の含有割合は、55.0質量%以上65.0質量%以下である、インクジェット用インク。
【請求項2】
前記第1自己分散顔料及び前記第2自己分散顔料は、それぞれ、カーボンブラックを含む、請求項1に記載のインクジェット用インク。
【請求項3】
前記第2自己分散顔料が含む前記カーボンブラックは、表面にカルボキシ基を有する、請求項2に記載のインクジェット用インク。
【請求項4】
前記第1ジオール化合物は、2-メチルペンタン-2,4-ジオールであり、
前記第2ジオール化合物は、1,3-プロパンジオールである、請求項1~3の何れか一項に記載のインクジェット用インク。
【請求項5】
前記バインダー樹脂粒子の体積中位径は、40nm以上80nm以下である、請求項1~の何れか一項に記載のインクジェット用インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット用インクには、保存安定性(特に、高温環境でインクを長期保存しても粘度の変化を抑制する性質)に優れ、かつ画像濃度及び耐擦過性に優れる画像を形成できることが要求される。画像濃度に優れる画像を形成できるインクジェット用インクとして、例えば、水と、自己分散顔料と、バインダー樹脂粒子とを含有し、自己分散顔料及びバインダー樹脂粒子の粒子径が特定の関係を満たすインクジェット用インクが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-238444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のインクジェット用インクは、上述の要求の全てを十分に満足するものではない。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、保存安定性に優れ、かつ画像濃度及び耐擦過性に優れる画像を形成できるインクジェット用インクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るインクジェット用インクは、自己分散顔料と、溶媒と、バインダー樹脂粒子とを含有する。前記バインダー樹脂粒子は、ウレタンアクリル樹脂を含む。前記溶媒は、第1溶媒又は第2溶媒を含む。前記第1溶媒及び前記第2溶媒は、それぞれ、水及び水溶性有機溶媒を含む。前記自己分散顔料は、第1自己分散顔料又は第2自己分散顔料を含む。前記自己分散顔料及び前記溶媒の組み合わせは、前記自己分散顔料が前記第1自己分散顔料を含み、前記溶媒が前記第1溶媒を含む第1の組み合わせ、前記自己分散顔料が前記第2自己分散顔料を含み、前記溶媒が前記第1溶媒を含む第2の組み合わせ、又は前記自己分散顔料が前記第2自己分散顔料を含み、前記溶媒が前記第2溶媒を含む第3の組み合わせである。前記第1自己分散顔料は、ハンセン溶解度パラメーターにおける分散項(dD)が16.5MPa0.5以上18.5MPa0.5以下、分極項(dP)が9.0MPa0.5以上12.0MPa0.5以下、水素結合項(dH)が20.0MPa0.5以上24.0MPa0.5以下である。前記第2自己分散顔料は、ハンセン溶解度パラメーターにおける分散項(dD)が16.5MPa0.5以上18.5MPa0.5以下、分極項(dP)が12.0MPa0.5超15.5MPa0.5以下、水素結合項(dH)が20.0MPa0.5以上24.0MPa0.5以下である。前記第1溶媒は、ハンセン溶解度パラメーターにおける分散項(dD)が16.5MPa0.5以上18.5MPa0.5以下、分極項(dP)が12.8MPa0.5以上14.0MPa0.5以下、水素結合項(dH)が17.5MPa0.5以上19.5MPa0.5以下である。前記第2溶媒は、ハンセン溶解度パラメーターにおける分散項(dD)が16.5MPa0.5以上18.5MPa0.5以下、分極項(dP)が11.0MPa0.5以上12.8MPa0.5未満、水素結合項(dH)が17.0MPa0.5以上19.0MPa0.5以下である。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るインクジェット用インクは、保存安定性に優れ、かつ画像濃度及び耐擦過性に優れる画像を形成できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下において、体積中位径(D50)の測定値は、何ら規定していなければ、動的光散乱式粒径分布測定装置(シスメックス株式会社製「ゼータサイザーナノZS」)を用いて測定された値である。
【0009】
本明細書では、アクリル及びメタクリルを包括的に「(メタ)アクリル」と総称する場合がある。本明細書に記載の各成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0010】
<インクジェット用インク>
以下、本発明の実施形態に係るインクジェット用インク(以下、単にインクと記載することがある)を説明する。本発明のインクは、自己分散顔料と、溶媒と、バインダー樹脂粒子とを含有する。バインダー樹脂粒子は、ウレタンアクリル樹脂を含む。溶媒は、第1溶媒又は第2溶媒を含む。第1溶媒及び第2溶媒は、それぞれ、水及び水溶性有機溶媒を含む。自己分散顔料は、第1自己分散顔料又は第2自己分散顔料を含む。自己分散顔料及び溶媒の組み合わせは、自己分散顔料が第1自己分散顔料を含み、溶媒が第1溶媒を含む第1の組み合わせ、自己分散顔料が第2自己分散顔料を含み、溶媒が第1溶媒を含む第2の組み合わせ、又は自己分散顔料が第2自己分散顔料を含み、溶媒が第2溶媒を含む第3の組み合わせである。第1自己分散顔料は、ハンセン溶解度パラメーターにおける分散項(dD)が16.5MPa0.5以上18.5MPa0.5以下、分極項(dP)が9.0MPa0.5以上12.0MPa0.5以下、水素結合項(dH)が20.0MPa0.5以上24.0MPa0.5以下である。第2自己分散顔料は、ハンセン溶解度パラメーターにおける分散項(dD)が16.5MPa0.5以上18.5MPa0.5以下、分極項(dP)が12.0MPa0.5超15.5MPa0.5以下、水素結合項(dH)が20.0MPa0.5以上24.0MPa0.5以下である。第1溶媒は、ハンセン溶解度パラメーターにおける分散項(dD)が16.5MPa0.5以上18.5MPa0.5以下、分極項(dP)が12.8MPa0.5以上14.0MPa0.5以下、水素結合項(dH)が17.5MPa0.5以上19.5MPa0.5以下である。第2溶媒は、ハンセン溶解度パラメーターにおける分散項(dD)が16.5MPa0.5以上18.5MPa0.5以下、分極項(dP)が11.0MPa0.5以上12.8MPa0.5未満、水素結合項(dH)が17.0MPa0.5以上19.0MPa0.5以下である。
【0011】
まず、ハンセン溶解度パラメーター(Hansen solubility parameter:HSP)について説明する。HSPは、物質の溶解性の予測に用いられる値である。HSPは、以下の3つのパラメーター(単位:MPa0.5)で構成されている。
分散項(dD):分子間の分散力によるエネルギー
分極項(dP):分子間の双極子相互作用によるエネルギー
水素結合項(dH):分子間の水素結合によるエネルギー
【0012】
HSPを構成する3つのパラメーターは、3次元空間(ハンセン空間)における座標と見做すことができる。ハンセン空間に特定の2つの物質を配置した場合、2つの物質の座標の距離が近いほど、2つの物質の性質が近似している傾向がある。
【0013】
HSPが未知である物質は、以下の方法によりHSPを測定することができる。まず、密閉可能な容器に、HSPを測定しようとする物質(以下、対象物質と記載することがある)1質量部と、HSPが公知である溶媒(例えば、文献値が存在する溶媒)49質量部とを投入する。次に、容器をハンドシェイクすることで対象物質及び溶媒を十分に混合する。次に、常温環境下(23℃)で容器を12時間静置する。次に、容器を上下反転させ、容器の底面を観察する。容器の底面に沈殿物及び凝集物の何れも存在しない場合、その溶媒は対象物質を溶解させたと判断する。この試験を、溶媒の種類を適宜変更しながら繰り返す。これにより、対象物質を溶解させる溶媒と、対象物質を溶解させない溶媒とにより構成される10種類の溶媒の組み合わせを決定する。10種類の溶媒の組み合わせとしては、半数程度(例えば4~6種)の溶媒が対象物質を溶解させる溶媒であり、残りの溶媒が対象物質を溶解させない溶媒である組み合わせが望ましい。そして、10種類の溶媒に対する試験結果に基づいて、ハンセン空間に、ハンセン球と呼ばれる球を描画する。
【0014】
ハンセン球を描画する方法を説明する。ハンセン空間に、対象物質を溶解させた溶媒の座標を含み、かつ対象物質を溶解させなかった溶媒の座標を含まない球(ハンセン球)を描画する。描画されたハンセン球の中心座標が、対象物質のHSPを示す。ハンセン球のサイズは、対象物質の種類によって異なる。詳しくは、性質の異なる様々な溶媒に対して溶解する対象物質は、ハンセン球の半径R0が大きい。逆に、特定の性質の限られた溶媒に対してのみ溶解する対象物質は、ハンセン球の半径R0が小さい。
【0015】
HSPを用いて2つの物質(例えば、溶媒X及び溶質Y)の溶解性を予測する具体的手法を説明する。まず、2つの物質を、HSPに基づいてハンセン空間内にそれぞれ配置する。そして、2つの物質の座標の距離Raを算出する。この距離Raが近いほど、2つの物質は互いに溶解し易いことを示す。2つの物質の距離Raは、下記数式(R)によって算出することができる。
【0016】
【数1】
【0017】
数式(R)において、dDx、dPx及びdHxは、それぞれ、溶媒Xの分散項(dD)、分極項(dP)及び水素結合項(dH)を示す。dDy、dPy及びdHyは、それぞれ、溶質Yの分散項(dD)、分極項(dP)及び水素結合項(dH)を示す。
【0018】
これを本発明のインクに当てはめると、ハンセン空間において、溶媒及び自己分散顔料の距離Rapと、溶媒及びバインダー樹脂粒子の距離Rarとは、それぞれ、下記数式(R-1)及び(R-2)により算出される。
【0019】
【数2】
【0020】
数式(R-1)及び(R-2)において、dDs、dPs及びdHsは、それぞれ、溶媒の分散項(dD)、分極項(dP)及び水素結合項(dH)を示す。dDp、dPp及びdHpは、それぞれ、自己分散顔料の分散項(dD)、分極項(dP)及び水素結合項(dH)を示す。dDr、dPr及びdHrは、それぞれ、バインダー樹脂粒子の分散項(dD)、分極項(dP)及び水素結合項(dH)を示す。
【0021】
溶質Yが溶媒Xに溶解するか否かは、ハンセン空間において、溶質Yのハンセン球が溶媒XのHSPの座標を含んでいるか否かで決定される。具体的には、溶質Yが溶媒Xに溶解するか否かは、溶質Yのハンセン球の半径R0に対する2つの物質の距離Raの比(Ra/R0)の大きさで決定される。以下、比(Ra/R0)を、相対エネルギー差(relative energy difference:RED)と記載する(下記数式(r))。REDが1未満である場合、溶質Yのハンセン球の内側に溶媒XのHSPの座標が存在するため、溶質Yは溶媒Xに溶解する。一方、REDが1超である場合、溶質Yのハンセン球の外側に溶媒XのHSPの座標が存在するため、溶質Yは溶媒Xに溶解しない。なお、REDがちょうど1である場合、溶質Yは溶媒Xに部分的に溶解する。
RED=Ra/R0・・・(r)
【0022】
以下、本発明のインクにおいて、溶媒及び自己分散顔料の相対エネルギー差(Rap/R0)を「REDp」と記載することがある。また、溶媒及びバインダー樹脂粒子の相対エネルギー差(Rar/R0)を「REDr」と記載することがある。
【0023】
溶媒Xが混合溶媒である場合、溶媒XのHSPは以下の方法により算出できる。まず、溶媒Xを構成する各溶媒について、その溶媒の分散項(dD)とその溶媒の質量比率(溶媒Xの質量に対するその溶媒の質量の比率)との積Aを算出する。次に、各溶媒の積Aを合算して和Bを算出する。この和Bを、混合溶媒の分散項(dD)とする。溶媒Xの分極項(dP)及び水素結合項(dH)についても、溶媒Xの分散項(dD)を算出する方法と同様の方法で算出することができる。これにより、混合溶媒である溶媒XのHSPが算出される。
【0024】
本発明のインクは、上述の構成を備えることにより、保存安定性に優れ、かつ画像濃度及び耐擦過性に優れる画像を形成できる。その理由を以下に説明する。本発明のインクは、特定の組み合わせ(上述の第1~第3の組み合わせ)の自己分散顔料及び溶媒を含有する。第1~第3の組み合わせにおいては、溶媒及び自己分散顔料の相対エネルギー差(REDp)は、概ね0.50以上0.90以下となる。本発明のインクにおいて、自己分散顔料は、REDpが0.50以上0.90以下であるため、溶媒に分散してはいるものの、分散状態がやや不安定である。そのため、本発明のインクは、記録媒体(例えば、紙)の表面に着弾した直後に、自己分散顔料が凝集し始める。記録媒体の表面で凝集した自己分散顔料は、記録媒体の内部には浸透せず、記録媒体の表面に留まる。このように、本発明のインクにより形成された画像は、記録媒体の表面に自己分散顔料が留まり易いため、画像濃度に優れる。
【0025】
また、本発明のインクは、バインダー樹脂粒子を含有する。バインダー樹脂粒子は、本発明のインクにより形成される画像の耐擦過性を向上させる。特に、ウレタンアクリル樹脂を含むバインダー樹脂粒子は、詳細な理由については不明であるが、他の樹脂を含むバインダー樹脂粒子と比較し、画像の耐擦過性を効果的に向上させる。
【0026】
更に、本発明のインクは、第1溶媒又は第2溶媒と、ウレタンアクリル樹脂を含むバインダー樹脂粒子とを組み合わせることで、以下の効果を発揮することができる。上述の組み合わせにおいては、溶媒及びバインダー樹脂粒子の相対エネルギー差(REDr)は、概ね0.10以上0.50以下となる。本発明のインクにおいて、バインダー樹脂粒子は、REDrが0.1以上0.50以下であるため、溶媒に高度に分散している。このように、本発明のインクは、バインダー樹脂粒子が溶媒に高度に分散しているため、保存安定性に優れる。
【0027】
(自己分散顔料)
自己分散顔料は、第1自己分散顔料又は第2自己分散顔料を含む。第1自己分散顔料は、HSPにおける分散項(dD)が16.5MPa0.5以上18.5MPa0.5以下、分極項(dP)が9.0MPa0.5以上12.0MPa0.5以下、水素結合項(dH)が20.0MPa0.5以上24.0MPa0.5以下である。第2自己分散顔料は、HSPにおける分散項(dD)が16.5MPa0.5以上18.5MPa0.5以下、分極項(dP)が12.0MPa0.5超15.5MPa0.5以下、水素結合項(dH)が20.0MPa0.5以上24.0MPa0.5以下である。
【0028】
第1自己分散顔料は、HSPにおける分散項(dD)が16.5MPa0.5以上17.5MPa0.5以下、分極項(dP)が9.5MPa0.5以上10.5MPa0.5以下、水素結合項(dH)が20.5MPa0.5以上21.5MPa0.5以下であることが好ましい。第2自己分散顔料は、HSPにおける分散項(dD)が17.0MPa0.5以上18.0MPa0.5以下、分極項(dP)が14.0MPa0.5以上15.0MPa0.5以下、水素結合項(dH)が22.5MPa0.5以上23.5MPa0.5以下であることが好ましい。
【0029】
自己分散顔料とは、分散剤が存在しない状態でも水に分散可能な顔料を示す。自己分散顔料は、水に対する可溶化基を表面に有する。可溶性基としては、例えば、ヒドロキシ基、塩を形成していてもよいスルホ基(-SO3H又は-SO3 -+)、塩を形成していてもよいカルボキシ基(-COOH又は-COO-+)が挙げられる(M+は、カチオンを示す)。自己分散顔料は、通常の顔料(分散剤が存在しない状態では水に分散しない顔料)に対して表面改質処理を行うことにより得ることができる。表面改質処理としては、例えば、酸処理、塩基処理、カップリング剤処理、ポリマーグラフト処理、プラズマ処理、酸化処理及び還元処理が挙げられる。
【0030】
表面改質処理の対象とする顔料としては、例えば、黄色顔料、橙色顔料、赤色顔料、青色顔料、紫色顔料、及び黒色顔料が挙げられる。黄色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー(74、93、95、109、110、120、128、138、139、151、154、155、173、180、185、及び193)が挙げられる。橙色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントオレンジ(34、36、43、61、63、及び71)が挙げられる。赤色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド(122及び202)が挙げられる。青色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー(15、より具体的には15:3)が挙げられる。紫色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントバイオレット(19、23、及び33)が挙げられる。黒色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブラック(7)が挙げられる。
【0031】
第1自己分散顔料及び第2自己分散顔料は、それぞれ、カーボンブラックを含むことが好ましい。この場合、第2自己分散顔料が含むカーボンブラックは、表面にカルボキシ基を有することが好ましい。
【0032】
自己分散顔料のD50としては、30nm以上250nm以下が好ましく、70nm以上160nm以下がより好ましい。
【0033】
自己分散顔料の市販品としては、例えば、キャボット社製のCAB-O-Jet(登録商標)シリーズ(例えば、CAB-O-Jet(登録商標)200、同300、同400、同250C、同260M、同270Y、同450C、同465M、同470Y、及び同480M)、同社のIJXシリーズ(例えば、IJX-157、同253、同266、同273、同444、及び同55)、オリヱント化学工業株式会社製のBONJET(登録商標)シリーズ(例えば、BONJET(登録商標)CW-1、同CW-1S、同CW-2、及び同CW-3)、東海カーボン株式会社製のAqua-Black(登録商標)シリーズ(例えば、Aqua-Black(登録商標)001、及び同162)が挙げられる。
【0034】
本発明のインクにおける自己分散顔料の含有割合としては、4.0質量%以上15.0質量%以下が好ましく、6.0質量%以上10.0質量%以下がより好ましい。自己分散顔料の含有割合を4.0質量%以上とすることで、本発明のインクにより形成される画像の画像濃度をより向上できる。また、自己分散顔料の含有割合を15.0質量%以下とすることで、本発明のインクの流動性を向上できる。
【0035】
[溶媒]
溶媒は、第1溶媒又は第2溶媒を含む。第1溶媒及び第2溶媒は、それぞれ、水及び水溶性有機溶媒を含む。溶媒は、水及び水溶性有機溶媒のみを含有することが好ましい。溶媒における水及び水溶性有機溶媒の合計含有割合としては、80質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、100質量%が更に好ましい。
【0036】
第1溶媒は、HSPにおける分散項(dD)が16.5MPa0.5以上18.5MPa0.5以下、分極項(dP)が12.8MPa0.5以上14.0MPa0.5以下、水素結合項(dH)が17.5MPa0.5以上19.5MPa0.5以下である。第1溶媒は、HSPにおける分散項(dD)が17.0MPa0.5以上18.0MPa0.5以下、分極項(dP)が13.0MPa0.5以上13.5MPa0.5以下、水素結合項(dH)が18.0MPa0.5以上18.5MPa0.5以下であることが好ましい。
【0037】
第2溶媒は、HSPにおける分散項(dD)が16.5MPa0.5以上18.5MPa0.5以下、分極項(dP)が11.0MPa0.5以上12.8MPa0.5未満、水素結合項(dH)が17.0MPa0.5以上19.0MPa0.5以下である。第2溶媒は、HSPにおける分散項(dD)が17.0MPa0.5以上18.0MPa0.5以下、分極項(dP)が11.5MPa0.5以上12.5MPa0.5以下、水素結合項(dH)が17.5MPa0.5以上18.5MPa0.5以下であることが好ましい。
【0038】
なお、溶媒のHSPは、水の含有割合と、水溶性有機溶媒の種類及び含有割合とを適宜変更することにより調整することができる。例えば、溶媒のHSPにおける分散項(dD)を増大しようとする場合、高い分散項(dD)を有する化合物(例えば、水)の含有割合を増大させるか、又は低い分散項(dD)を有する化合物の含有割合を低下させればよい。
【0039】
(水)
本発明のインクにおける水の含有割合としては、45.0質量%以上75.0質量%以下が好ましく、55.0質量%以上65.0質量%以下が好ましい。水の含有割合を45.0質量%以上75.0質量%とすることで、溶媒のHSPを上述の範囲に調整し易くなる。
【0040】
(水溶性有機溶媒)
水溶性有機溶媒としては、例えば、多価アルコール、多価アルコールのエーテル化合物、含窒素化合物、アルコール化合物、含硫黄化合物、炭酸プロピレン及び炭酸エチレンが挙げられる。
【0041】
多価アルコールとしては、例えば、炭素原子数5以上8以下の第1ジオール化合物、炭素原子数2以上4以下の第2ジオール化合物、1,2,6-ヘキサントリオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、糖アルコール(例えば、キシリトール)、及び糖類(例えば、キシロース、グルコース及びガラクトース)が挙げられる。
【0042】
第1ジオール化合物としては、例えば、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、及び1,2-ヘキサンジオールが挙げられる。第1ジオール化合物としては、2-メチルペンタン-2,4-ジオールが好ましい。
【0043】
第2ジオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ブチレングリコール及びジエチレングリコールが挙げられる。第2ジオール化合物としては、1,3-プロパンジオールが好ましい。
【0044】
多価アルコールのエーテル化合物としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル及びジグリセリンのエチレンオキシド付加物が挙げられる。
【0045】
含窒素化合物としては、例えば、ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン及びトリエタノールアミンが挙げられる。
【0046】
アルコール化合物としては、例えば、エタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール及びベンジルアルコールが挙げられる。
【0047】
含硫黄化合物としては、例えば、チオジエタノール、チオジグリセロール、スルフォラン及びジメチルスルホキシドが挙げられる。
【0048】
本発明のインクにおける水溶性有機溶媒の含有割合としては、15.0質量%以上40.0質量%以下が好ましく、25.0質量%以上35.0質量%以下がより好ましい。水溶性有機溶媒の含有割合を15.0質量%以上40.0質量%以下とすることで、溶媒のHSPを上述の範囲に調整し易くなる。
【0049】
第1溶媒は、第1ジオール化合物と、第2ジオール化合物と、水とを含むことが好ましい。この場合、本発明のインクにおける第1ジオール化合物の含有割合としては、15.0質量%以上25.0質量%以下が好ましい。また、本発明のインクにおける第2ジオール化合物の含有割合としては、5.0質量%以上15.0質量%以下が好ましい。更に、本発明のインクにおける水の含有割合としては、55.0質量%以上65.0質量%以下が好ましい。
【0050】
第2溶媒は、第1ジオール化合物と、水とを含むことが好ましい。この場合、本発明のインクにおける第1ジオール化合物の含有割合としては、25.0質量%以上35.0質量%以下が好ましい。また、本発明のインクにおける水の含有割合としては、55.0質量%以上65.0質量%以下が好ましい。
【0051】
[組み合わせ]
自己分散顔料及び溶媒の組み合わせは、自己分散顔料が第1自己分散顔料を含み、溶媒が第1溶媒を含む第1の組み合わせ、自己分散顔料が第2自己分散顔料を含み、溶媒が第1溶媒を含む第2の組み合わせ、又は自己分散顔料が第2自己分散顔料を含み、溶媒が第2溶媒を含む第3の組み合わせである。自己分散顔料及び溶媒の組み合わせとしては、第3の組み合わせが好ましい。具体的な第3の組み合わせとしては、カルボキシ基を有するカーボンブラックを含む自己分散顔料と、2-メチルペンタン-2,4-ジオール及び水を含む溶媒との組み合わせが好ましい。
【0052】
[バインダー樹脂粒子]
バインダー樹脂粒子は、ウレタンアクリル樹脂を含む。バインダー樹脂粒子は、ウレタンアクリル樹脂のみを含むことが好ましい。バインダー樹脂粒子におけるウレタンアクリル樹脂の含有割合としては、80質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、100質量%が更に好ましい。
【0053】
バインダー樹脂粒子のD50としては、40nm以上80nm以下が好ましい。バインダー樹脂粒子のD50を40nm以上とすることで、本発明のインクにより形成される画像の耐擦過性をより向上できる。バインダー樹脂粒子のD50を80nm以下とすることで、本発明のインクの吐出性を向上できる。
【0054】
本発明のインクにおけるバインダー樹脂粒子の含有割合としては、0.1質量%以上5.0質量%以下が好ましく、0.5質量%以上2.0質量%以下がより好ましい。バインダー樹脂粒子の含有割合を0.1質量%以上とすることで、本発明のインクにより形成される画像の耐擦過性をより向上できる。バインダー樹脂粒子の含有割合を5.0質量%以下とすることで、本発明のインクの吐出性を向上できる。
【0055】
[他の成分]
本発明のインクは、必要に応じて、公知の添加剤(より具体的には、例えば、界面活性剤、溶解安定剤、乾燥防止剤、酸化防止剤、粘度調整剤、pH調整剤及び防カビ剤)を更に含有してもよい。
【0056】
(界面活性剤)
界面活性剤は、本発明のインクに含まれる各成分の相溶性及び分散安定性を向上させる。また、界面活性剤は、本発明のインクの布帛に対する浸透性(濡れ性)を向上させる。界面活性剤としては、例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤が挙げられる。界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤が好ましい。
【0057】
ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンヘキサデシルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートエーテル、モノデカノイルショ糖、及びアセチレングリコールのエチレンオキシド付加物が挙げられる。ノニオン界面活性剤としては、アセチレングリコールのエチレンオキシド付加物が好ましい。
【0058】
本発明のインクが界面活性剤を含有する場合、本発明のインクにおける界面活性剤の含有割合としては、0.1質量%以上5.0質量%以下が好ましく、0.5質量%以上2.0質量%以下がより好ましい。
【0059】
[インクの調製方法]
本発明のインクは、例えば、自己分散顔料を含む顔料分散液と、水溶性有機溶媒と、水と、バインダー樹脂粒子を含む樹脂粒子分散液と、必要に応じて配合される他の成分(例えば、界面活性剤)とを攪拌機により均一に混合することにより調製できる。本発明のインクの調製では、各成分を均一に混合した後、フィルター(例えば、孔径5μm以下のフィルター)でろ過することにより、異物及び粗大粒子を除去してもよい。
【実施例
【0060】
以下、本発明の実施例を説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0061】
[インクの調製]
以下の方法により、実施例及び比較例のインクを調製した。各インクの調製に用いた原料を以下に示す。
【0062】
(顔料分散液)
自己分散顔料を含む顔料分散液として、以下の顔料分散液(P-1)及び(P-2)を準備した。顔料分散液(P-1)は、表面改質されたカーボンブラック(A)を含有していた。顔料分散液(P-2)は、表面にカルボキシ基を有するカーボンブラック(B)を含有していた。
顔料分散液(P-1):オリヱント化学工業株式会社製「BONJET(登録商標)BLACK CW-2」、カーボンブラック(A)の含有割合15.0質量%
顔料分散液(P-2):東海カーボン株式会社製「Aqua-Black(登録商標)162」、カーボンブラック(B)の含有割合19.2質量%
【0063】
(樹脂粒子分散液)
バインダー樹脂粒子を含む樹脂粒子分散液として、以下の樹脂粒子分散液(R-1)及び(R-2)を準備した。樹脂粒子分散液(R-1)は、ウレタンアクリル樹脂粒子を含有していた。樹脂粒子分散液(R-2)は、アクリル樹脂粒子を含有していた。
樹脂粒子分散液(R-1):ジャパンコーティングレジン株式会社製「モビニール(登録商標)6763」、ウレタンアクリル樹脂粒子の含有割合40.0質量%、個数平均粒子径60nm
樹脂粒子分散液(R-2):ジャパンコーティングレジン株式会社製「モビニール(登録商標)6760」、アクリル樹脂粒子の含有割合45.0質量%、個数平均粒子径110nm
【0064】
(HSP)
実施形態に記載の方法により、各インクの調製に用いた自己分散顔料及びバインダー樹脂粒子のHSP及びハンセン球の半径R0を測定した。測定された値と、水及び水溶性有機溶媒のHSPの文献値とを下記表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
表1に示す通り、カーボンブラック(A)は、実施形態に記載の第1自己分散顔料であった。カーボンブラック(B)は、実施形態に記載の第2自己分散顔料であった。
【0067】
(インク(I-1)の調製)
顔料分散液(P-1)と、樹脂粒子分散液(R-1)と、2-メチルペンタン-2,4-ジオールと、1,3-プロパンジオールと、ノニオン界面活性剤(日信化学工業株式会社「オルフィン(登録商標)E1010」、アセチレングリコールのエチレンオキシド付加物)と、イオン交換水とを混合した。得られた混合物を、孔径5μmのフィルターでろ過した。これにより、インク(I-1)を得た。各原料の使用量は、インク(I-1)の組成が下記表2に示す組成となるように調整した。
【0068】
(インク(I-2)~(I-4)及び(i-1)~(i-8)の調製)
下記表2に示す組成のインクが得られるように各原料の種類及び使用量を変更した以外は、インク(I-1)の調製と同様の方法により、インク(I-2)~(I-4)及び(i-1)~(i-8)を調製した。
【0069】
なお、下記表2において、MPD、PD及びTGMEは、それぞれ、2-メチルペンタン-2,4-ジオール、1,3-プロパンジオール及びトリエチレングリコールモノブチルエーテルを示す。
【0070】
【表2】
【0071】
(溶媒のHSPの算出)
実施形態に記載の方法により、各インクの溶媒(水及び水溶性有機溶媒を含む混合溶媒)のHSPを算出した。以下、インク(I-1)の溶媒のHSPの算出方法を具体例として挙げる。インク(I-2)~(I-4)及び(i-1)~(i-8)の溶媒のHSPについても、以下の算出方法と同様の方法により算出した。
【0072】
まず、インク(I-1)のHSPにおける分散項(dD)を算出した。インク(I-1)の溶媒において、2-メチルペンタン-2,4-ジオールの含有割合は、22.2質量%である。1,3-プロパンジオールの含有割合は、11.1質量%である。水の含有割合は、66.7質量%である。以上から、2-メチルペンタン-2,4-ジオールの分散項(dD)及び比率(0.222)を乗じた積Aと、1,3-プロパンジオールの分散項(dD)及び比率(0.111)を乗じた積Aと、水の分散項(dD)及び比率(0.667)を乗じた積Aとをそれぞれ求めた。具体的な計算式を以下に示す。
【0073】
2-メチルペンタン-2,4-ジオールの分散項(dD)の積A:16.2MPa0.5×0.222≒3.60MPa0.5
1,3-プロパンジオールの分散項(dD)の積A:16.8MPa0.5×0.111≒1.86MPa0.5
水の分散項(dD)の積A:18.1MPa0.5×0.667≒12.07MPa0.5
【0074】
そして、3つの溶媒の分散項(dD)の積Aを合算した和Bを、インク(I-1)の溶媒の分散項(dD)とした。具体的な計算式を以下に示す。
【0075】
分散項(dD):3.60MPa0.5+1.86MPa0.5+12.07MPa0.5≒17.5MPa0.5
【0076】
同様の方法により、インク(I-1)の溶媒の分極項(dP)及び水素結合項(dH)を算出した(下記数式(P-1)及び(H-1))。
【0077】
分極項(dP):1.8MPa0.5×0.222+13.5MPa0.5×0.111+17.1MPa0.5×0.667≒13.3MPa0.5・・・(P-1)
水素結合項(dH):20.0MPa0.5×0.222+23.2MPa0.5×0.111+16.9MPa0.5×0.667≒18.3MPa0.5・・・(H-1)
【0078】
(REDp及びREDrの算出)
各インクについて、溶媒及び自己分散顔料の相対エネルギー差(REDp)と、溶媒及びバインダー樹脂粒子の相対エネルギー差(REDr)とを算出した。詳しくは、各インクについて、実施形態に記載の数式(R-1)及び(R-2)を用いて、溶媒及び自己分散顔料のハンセン空間内での距離Rapと、溶媒及びバインダー樹脂粒子のハンセン空間内での距離Rarとをそれぞれ算出した。次に、実施形態に記載の数式(r)を用いて、距離Rapと、自己分散顔料のハンセン球の半径R0とから、REDpを算出した。同様に、距離Rarと、バインダー樹脂粒子のハンセン球の半径R0とから、REDrを算出した。算出したREDp及びREDrを下記表3に示す。
【0079】
【表3】
【0080】
各インクの溶媒が、実施形態に記載の第1溶媒及び第2溶媒の何れに該当するかを以下に示す。なお、「N/A」は、第1溶媒及び第2溶媒の何れにも該当しない溶媒であることを示す。
インク(I-1)の溶媒:第1溶媒
インク(I-2)の溶媒:第1溶媒
インク(I-3)の溶媒:第2溶媒
インク(I-4)の溶媒:第1溶媒
インク(i-1)の溶媒:N/A
インク(i-2)の溶媒:N/A
インク(i-3)の溶媒:N/A
インク(i-4)の溶媒:N/A
インク(i-5)の溶媒:N/A
インク(i-6)の溶媒:N/A
インク(i-7)の溶媒:N/A
インク(i-8)の溶媒:N/A
【0081】
<評価>
以下の方法により、各インクの保存安定性と、形成される画像の画像濃度及び耐擦過性とを評価した。評価結果を下記表4に示す。
【0082】
[評価機]
画像濃度及び耐擦過性の評価においては、評価機として、京セラドキュメントソリューションズ株式会社製の試作機を用いた。評価機は、内部に保温用ヒーター及び温度検知機能を有する記録ヘッド(京セラ株式会社製「KJ4B-QA」)を備えていた。評価において、記録ヘッドの温度は25℃に設定した。また、評価は温度23℃、湿度50%RH環境下(常温常湿環境下)で行った。
【0083】
なお、画像濃度及び耐擦過性の評価において、画像濃度の測定には、蛍光分光光度計(コニカミノルタ株式会社製「FD-5」)を用いた。また、画像濃度の測定条件は、光源としてD50光源を用い、視野角を2°とした。
【0084】
[画像濃度]
評価機を用いて、1枚の印刷用紙(Mondi BP社製「COLOR COPY(登録商標)90」)に25mm×25mmのソリッド画像を形成した。ソリッド画像が形成された印刷用紙(以下、評価用紙Aと記載することがある)を、常温常湿環境下にて24時間保存した。その後、評価用紙Aに形成されたソリッド画像の画像濃度(ID)を測定した。ソリッド画像の画像濃度は、以下の評価基準に沿って評価した。
【0085】
(画像濃度の評価基準)
A(特に良好):IDが1.30以上
B(良好):IDが1.25以上1.30未満
C(不良):IDが1.25未満
【0086】
[耐擦過性]
評価機を用いて、1枚の印刷用紙(Mondi社製「COLOR COPY(登録商標)90」)に25mm×25mmのソリッド画像を形成した。ソリッド画像を形成してから5秒後に、以下で説明する擦り試験を行った。擦り試験では、まず未使用の印刷用紙(Mondi社製「COLOR COPY(登録商標)90」)の画像濃度(初期画像濃度ID0)を測定した。次に、上述のソリッド画像上に、上述の未使用の印刷用紙(以下、評価用紙Bと記載することがある)を重ねて置いた。次に、評価用紙B上に、50mm×40mmの長方形状の底面を有する金属製の錘(1kg)を載置した。そして、評価用紙B及び錘を一体として動かすことで、評価用紙Bをソリッド画像に5往復摩擦させた。擦り試験後に、評価用紙Bにおいて錘が載置されていた領域(ソリッド画像と摩擦した領域)の画像濃度(試験後画像濃度ID1)を測定した。試験後画像濃度ID1に対する初期画像濃度ID0の差(ID1-ID0)を評価値FDとした。ソリッド画像の耐擦過性は、以下の評価基準に沿って評価した。
A(良好):FDが0.030未満
B(不良):FDが0.030以上
【0087】
[保存安定性]
振動式粘度計(ニッテツ北海道制御システム株式会社製「VM-200T」)を用い、評価対象となるインクの粘度(初期粘度V1)を測定した。次に、容積50mLの容器に、評価対象となるインクを約30g投入した。上述の容器を、内温60℃に設定された恒温器に入れ、1ヶ月間保温した。その後、上述の容器を恒温器から取り出した後、上述の容器を室温にて3時間静置した。その後、上述の容器から測定対象となるインクを取り出し、上述の振動式粘度計を用いて粘度(処理後粘度V2)を測定した。測定された初期粘度V1及び処理後粘度V2に基づいて、粘度変化率[%]を算出した(下記数式(V))。算出された粘度変化率を、測定対象となるインクの保存安定性の評価値とした。インクの保存安定性は、以下の評価基準に沿って評価した。
粘度変化率[%]=100×(V1-V2)/V1・・・(V)
【0088】
(保存安定性の評価基準)
A(特に良好):粘度変化率の絶対値が2%以下
B(良好):粘度変化率の絶対値が2%超5%以下
C(不良):粘度変化率の絶対値が5%超。
【0089】
下記表4において、組み合わせ「1」、「2」及び「3」は、それぞれ、実施形態に記載の第1~第3の組み合わせを示す。N/Aは、該当する組み合わせが存在しないことを示す。
【0090】
【表4】
【0091】
表4に示すように、実施例1~4のインクは、自己分散顔料と、溶媒と、バインダー樹脂粒子とを含有していた。バインダー樹脂粒子は、ウレタンアクリル樹脂を含んでいた。溶媒は、第1溶媒又は第2溶媒を含んでいた。第1溶媒及び第2溶媒は、それぞれ、水及び水溶性有機溶媒を含んでいた。自己分散顔料は、第1自己分散顔料又は第2自己分散顔料を含んでいた。自己分散顔料及び溶媒の組み合わせは、自己分散顔料が第1自己分散顔料を含み、溶媒が第1溶媒を含む第1の組み合わせ、自己分散顔料が第2自己分散顔料を含み、溶媒が第1溶媒を含む第2の組み合わせ、又は自己分散顔料が第2自己分散顔料を含み、溶媒が第2溶媒を含む第3の組み合わせであった。実施例1~4のインクは、上述の構成を満たすことにより、優れた保存性を発揮しつつ、画像濃度及び耐擦過性に優れる画像を形成できた。
【0092】
一方、比較例1~8のインクは、上述の構成を満たさなかった。そのため、比較例1~8のインクは、保存安定性が不良であるか、又は形成される画像の画像濃度及び耐擦過性のうち少なくとも一方が不良であった。
【0093】
比較例1のインクは、第1~第3の組み合わせを満たさなかったため、形成される画像の画像濃度が不良であった。より詳しくは、比較例1のインクは、REDpが0.5未満となる自己分散顔料及び溶媒を含有していたため、記録媒体の表面で自己分散顔料が十分に凝集しなかったと判断される。
【0094】
比較例2のインクは、第1~第3の組み合わせを満たさなかったため、保存安定性が不良であった。より詳しくは、比較例2のインクは、REDpが0.9超となる自己分散顔料及び溶媒を含有していたため、自己分散顔料の分散状態が不安定であったと判断される。
【0095】
比較例3及び4のインクは、第1~第3の組み合わせを満たさなかったため、保存安定性が不良であった。より詳しくは、比較例3及び4のインクは、REDrが0.5超となるバインダー樹脂粒子及び溶媒を含有していたため、バインダー樹脂粒子の分散状態が不安定であったと判断される。
【0096】
比較例5のインクは、バインダー樹脂粒子を含有していなかったため、形成される画像の耐擦過性が不良であった。
【0097】
比較例6~8のインクは、ウレタンアクリル樹脂を含むバインダー樹脂粒子ではなく、アクリル樹脂を含むバインダー樹脂粒子を含有していたため、形成される画像の耐擦過性が不良であった。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明のインクは、画像を形成するために用いることができる。