(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】共重合ポリエステル組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 63/688 20060101AFI20231108BHJP
C08G 63/183 20060101ALI20231108BHJP
C08G 63/672 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
C08G63/688
C08G63/183
C08G63/672
(21)【出願番号】P 2019567391
(86)(22)【出願日】2019-06-24
(86)【国際出願番号】 JP2019025014
(87)【国際公開番号】W WO2020004350
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2022-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2018122846
(32)【優先日】2018-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡 一平
(72)【発明者】
【氏名】牧野 正孝
(72)【発明者】
【氏名】田中 陽一郎
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-265624(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0079346(KR,A)
【文献】特開2002-020472(JP,A)
【文献】特開平04-277532(JP,A)
【文献】特開2016-180092(JP,A)
【文献】特開2003-212985(JP,A)
【文献】特開平04-283279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G63
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体、ならびにエチレングリコールから得られる共重合ポリエステルを含有する共重合ポリエステル組成物であって、
テレフタル酸および/またはそのエステル形成性誘導体成分が全酸成分に対して50.0モル%以上68.0モル%以下、金属スルホネート基含有イソフタル酸および/またはそのエステル形成性誘導体成分が全酸成分に対して4.0モル%以上10.0モル%未満の組成であり、
イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、およびそれらのアルキルエステルから選ばれる少なくとも1種が、全酸成分に対して合計で22.0モル%以上
40.0モル%以下含有され、
下記化学式(1)で表されるポリアルキレンオキサイド化合物および下記化学式(2)で表される片末端封鎖ポリアルキレンオキサイド化合物の少なくとも1種が、ポリエステルに対して合計で1重量%以上15重量%以下含有され、
かつ示差走査熱量測定により求められるガラス転移点が50℃以上75℃以下であり、ゲル浸透クロマトグラフィーで測定される重量平均分子量が30000以上80000以下である共重合ポリエステル組成物。
H[-O-R]n-O-H 式(1)
H[-O-R]n-O-X 式(2)
(上記化学式(1)及び(2)において、Rは炭素数1~12のアルキレン基から選択される少なくとも1種であり、Xは炭素数1~10のアルキル基から選ばれる少なくとも1種であり、平均繰り返し単位数nは19~455の整数である。)
【請求項2】
示差走査熱量測定により求められる結晶融解熱量が10J/g以下である請求項1に記載の共重合ポリエステル組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の共重合組成とガラス転移点を有し、熱水中で優れた吸水膨潤性能を示す共重合ポリエステル組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
機能性繊維は、衣料用途のみならずインテリアや車輌内装、産業用途等幅広く利用されており、産業上の価値は極めて高い。一方で、求められる要求特性は多様化しており、単一成分のポリマーからなる単成分糸では対応できない場合がある。このような状況下、複数のポリマーを組み合わせて得られる複合繊維の開発が盛んとなっている。
【0003】
複合繊維の中でも、二成分のポリマーからなる異形芯鞘型複合繊維を割繊処理することで得られる極細異形断面糸は、滑らかな風合いを持った高密度織物として高い価値を有することが知られている。複合繊維の割繊には、片方のポリマー成分を薬剤によって収縮、膨潤、あるいは溶出させる手法を取ることが一般的である(特許文献1、2)。また、薬剤不使用化によるコスト低減を目的とし、異形芯鞘型複合繊維に適用すると熱水処理のみで割繊可能となる水膨潤性ポリエーテルエステルポリマーが提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特開昭61-108766号公報
【文献】国際公開第2013/47051号
【文献】日本国特開2005-200786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2に記載の異形芯鞘型複合繊維は、割繊に薬剤処理工程や回収工程が必要であるため、工程が複雑化し高コストとなる課題があった。そこで、当該課題を解決すべく特許文献3が提案する水膨潤性ポリエーテルエステルポリマーを異形芯鞘型複合繊維に適用すると、該組成物の複合比率が50%である場合に熱水処理のみで良好な割繊性を有する複合繊維を得ることができた。
【0006】
しかしながら、繊維強度の向上などを目的に該組成物の複合比率を65%以下に減少させると、熱水中での膨潤性能が膨潤率43%と不足していることから、薬剤処理適用品と比較して割繊不良が生じやすくなる課題が判明した。また、該組成物はポリエチレングリコールを50%共重合しているため、ポリエチレンテレフタレートの一般的な紡糸温度である290℃において耐熱性に劣る課題も判明した。
【0007】
本発明は、優れた膨潤率を示し、かつ粘度保持率の高い共重合ポリエステル組成物の提供を目的とする。具体的には、90℃の熱水中で60%以上の優れた膨潤率を示し、かつ290℃で20分間溶融滞留した際の粘度保持率が75%以上となる共重合ポリエステル組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体、ならびにエチレングリコールから得られる共重合ポリエステルを含有する共重合ポリエステル組成物であって、テレフタル酸および/またはそのエステル形成性誘導体成分が全酸成分に対して40.0モル%以上68.0モル%以下、金属スルホネート基含有イソフタル酸および/またはそのエステル形成性誘導体成分が全酸成分に対して4.0モル%以上10.0モル%未満の組成であり、かつ示差走査熱量測定により求められるガラス転移点が50℃以上75℃以下の共重合ポリエステル組成物により解決される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、共重合組成とガラス転移点を特定の範囲とすることによって、優れた膨潤率を示し、かつ粘度保持率の高い共重合ポリエステル組成物が得られる。具体的には、熱水中で60%以上の膨潤率を示し、かつポリエチレンテレフタレートの溶融紡糸温度290℃における耐熱性に優れた共重合ポリエステル組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施態様の共重合ポリエステル組成物は、ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体、ならびにエチレングリコールから得られる共重合ポリエステルを含有する共重合ポリエステル組成物であって、テレフタル酸および/またはそのエステル形成性誘導体成分が全酸成分に対して40.0モル%以上68.0モル%以下、金属スルホネート基含有イソフタル酸および/またはそのエステル形成性誘導体成分が全酸成分に対して4.0モル%以上10.0モル%未満の組成であり、かつ示差走査熱量測定により求められるガラス転移点が50℃以上75℃以下の共重合ポリエステル組成物である。
【0011】
ジカルボン酸としてはテレフタル酸が挙げられる。テレフタル酸のエステル形成性誘導体としては、それらのメチルエステル(DMT等)、エチルエステルなどのアルキルエステルが挙げられる。例えば、重縮合反応性に優れる点からメチルエステルを用いることが好ましい。
【0012】
テレフタル酸成分の組成比率は、ポリエステル組成物の290℃、20分間溶融滞留時の粘度保持率を75%以上とする点から、全酸成分に対して40.0モル%以上である。一方、組成物中におけるテレフタル酸成分由来の結晶構造が緩和して分子間の拘束力が低下し、吸水膨潤性能が発現する点から、テレフタル酸成分の組成比率は全酸成分に対して68.0モル%以下である。
【0013】
より優れた耐熱性を付与する点から、テレフタル酸成分の組成比率は全酸成分に対して50.0モル%以上が好ましく、55.0モル%以上がより好ましい。また、優れた吸水膨潤性能が得られる点から、テレフタル酸成分の組成比率は全酸成分に対して65.0モル%以下が好ましく、60.0モル%以下がより好ましい。
【0014】
金属スルホネート基含有イソフタル酸としては、4-スルホイソフタル酸ナトリウム塩、4-スルホイソフタル酸カリウム塩、5-スルホイソフタル酸ナトリウム塩、5-スルホイソフタル酸カリウム塩、5-スルホイソフタル酸バリウム塩などが挙げられる。中でも、重合性に優れる点から5-スルホイソフタル酸ナトリウム塩、5-スルホイソフタル酸カリウム塩が好ましく、5-スルホイソフタル酸ナトリウム塩が特に好ましい。なお、これら金属スルホネート基を含有するイソフタル酸は、1種類の化学構造のものを用いても良く、2種類以上を組み合わせたものを用いても良い。
【0015】
金属スルホネート基含有イソフタル酸のエステル形成性誘導体としては、それらのメチルエステル(例えば、ジメチル5-スルホイソフタル酸ナトリウム塩(SSIA))、エチルエステルなどのアルキルエステル、それらの酸塩化物や酸臭化物などの酸ハロゲン化物、さらにはイソフタル酸無水物などが挙げられる。例えば、重縮合反応性に優れる点から、メチルエステルやエチルエステルなどのアルキルエステルが好ましく、メチルエステルが特に好ましい。
【0016】
金属スルホネート基含有イソフタル酸成分の組成比率は、ポリエステル組成物に適正な親水性とカチオン架橋構造を付与し吸水膨潤性能を発現させる点から、全酸成分に対して4.0モル%以上10.0モル%未満である。4.0モル%未満では十分にカチオン架橋構造が形成されず目的の吸水膨潤性能が得られない。10.0モル%以上では親水性が過剰となり、熱水中への溶解が膨潤に先行して進むことから目的の吸水膨潤性能は得られない。
【0017】
より優れた膨潤性能を有するポリエステル組成物が得られる点から、金属スルホネート基含有イソフタル酸成分の組成比率は、全酸成分に対して9.5モル%以下が好ましく、8.0モル%以下がより好ましく、6.0モル%以上8.0モル%以下がさらに好ましい。
【0018】
本発明の共重合ポリエステル組成物が優れた吸水膨潤性能を発現するため、示差走査熱量測定により求められる当該組成物のガラス転移点は50℃以上である。本発明の共重合ポリエステル組成物のガラス転移点が50℃未満の場合、熱水中で共重合ポリエステル組成物が軟化して流動変形・溶解が生じ、目的の吸水膨潤性能が得られない。また、ペレットが溶融・融着してしまうため60℃以上での乾燥処理が実施できず、乾燥が長時間化し生産効率が悪化する。
【0019】
一方、本発明の共重合ポリエステル組成物のガラス転移点が75℃より高いと、熱水中での分子運動が抑制され吸水膨潤性能が発現しない点から、ガラス転移点は75℃以下である。
【0020】
吸水膨潤性能に優れる点から、本発明の共重合ポリエステル組成物のガラス転移点は65℃以下が好ましく、より高温で乾燥可能である点から55℃以上がより好ましく、60℃以上がさらに好ましい。なお、共重合ポリエステル組成物のガラス転移点は、ジカルボン酸やエチレングリコール等のモノマー組成や重合反応条件等を適宜調整することにより所望の範囲に設定することができる。
【0021】
本発明の共重合ポリエステル組成物は、テレフタル酸成分、金属スルホネート基含有イソフタル酸成分に加え、それらと共重合性を有するその他のジカルボン酸成分を含む。その他のジカルボン酸成分としては、例えば、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、および/またはイソフタル酸ジメチル(DMI)など、それらのアルキルエステルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
その他のジカルボン酸成分としては、1種類の化合物種を使用しても良く、2種類以上を組み合わせても良いが、共重合ポリエステル組成物のガラス転移点が50℃以上75℃以下の範囲を逸脱しないよう化合物種を選択する。
【0023】
本発明の共重合ポリエステル組成物は、優れた吸水膨潤性能を発現させる観点から、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、およびそれらのアルキルエステルから選ばれる少なくとも1種が、全酸成分に対して合計で22.0モル%以上含有することが好ましい。25モル%以上であることがより好ましく、35モル%以上であることがさらに好ましい。一方、耐熱性を十分確保する点から、56モル%以下であることがより好ましく、50モル%以下であることがさらに好ましい。
【0024】
本発明の共重合ポリエステル組成物において、テレフタル酸成分由来の結晶構造形成を効率的に阻害でき優れた吸水膨潤性能が得られる点から、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、および/またはそのアルキルエステルを用いることがより好ましく、ガラス転移点を50℃以上75℃以下とすることが容易なことからイソフタル酸および/またはそのアルキルエステルを用いることがさらに好ましい。
【0025】
本発明の共重合ポリエステル組成物において、優れた吸水膨潤性能を発現させる点から、示差走査熱量測定により求められる結晶融解熱量は10J/g以下とするのが好ましい。より優れた吸水膨潤性能を発現させる点から、結晶融解熱量は5J/g以下とすることがより好ましく、2J/g以下とすることがさらに好ましく、0J/g(非晶性)とすることが最も好ましい。なお、共重合ポリエステル組成物の結晶融解熱量は、ジカルボン酸やエチレングリコール等のモノマー組成や重合反応条件等を適宜調整することにより所望の範囲に設定することができる。
【0026】
本発明の共重合ポリエステル組成物は、ガラス転移点が50℃以上75℃以下の範囲を逸脱せず、また290℃における耐熱性を損なわない範囲で、下記化学式(1)で表されるポリアルキレンオキサイド化合物および/または下記化学式(2)で表される片末端封鎖ポリアルキレンオキサイド化合物が含有されていてもよい。含有したポリアルキレンオキサイド化合物はポリエステル中に共重合されていてもよく、未反応の状態でポリエステル組成物中に存在してもよい。ポリアルキレンオキサイド化合物が含有されたポリエステルは分子運動性および親水性に優れ、吸水膨潤性能を向上させることができる。
H[-O-R]n-O-H 式(1)
H[-O-R]n-O-X 式(2)
【0027】
上記式(1)及び(2)において、Rは炭素数1~12のアルキレン基から選択される少なくとも1種であり、1~4のアルキレン基から選択される少なくとも1種であることが好ましい。具体例としては、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基が挙げられ、エチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基がより好ましく、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基がさらに好ましく、エチレン基が特に好ましい。
【0028】
上記式(1)及び(2)における繰返し構造単位-(O-R)-は、1種類のみを使用しても良いし、2種類以上を組み合わせて使用してもいい。2種類以上を組み合わせる場合は、繰り返し構造単位のランダム共重合、ブロック共重合、交互共重合いずれでも良い。
【0029】
上記式(2)において、効率的に分子運動性を向上させる点から、Xは炭素数1~10のアルキル基である。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基が挙げられる。メチル基、エチル基、ブチル基、デシル基がより好ましく、メチル基、デシル基がさらに好ましい。
【0030】
上記式(1)及び(2)に示すポリアルキレンオキサイド化合物は、効率的に分子運動性および親水性を向上させる点から、平均繰り返し単位数nが19以上、455以下の範囲にあり、90以上、188以下であることが好ましい。
【0031】
本発明においてポリアルキレンオキサイド化合物を含有する場合は、吸水膨潤性能を効率的に向上させる点から、得られる共重合ポリエステル組成物に対して1重量%以上含有させることが好ましく、5重量%以上含有させることがさらに好ましい。一方、耐熱性の悪化を防ぐため、15重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがさらに好ましい。ここで記載している含有量はNMR測定によって求めることができる。
【0032】
上記ポリアルキレンオキサイド化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール、片末端メチル基封鎖ポリエチレングリコール、片末端デシル基封鎖ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0033】
本発明の共重合ポリエステル組成物は、膨潤処理時の形態安定性を向上させる点から、ゲル浸透クロマトグラフィーで測定される重量平均分子量が30000以上であることが好ましく、紡糸や熱成型時の加工性が良好となる点から80000以下であることが好ましい。
【0034】
また、本発明の共重合ポリエステル組成物には、成形加工工程での各種ガイド、ローラー等の接触物との摩擦を低減し、工程通過性を向上させる目的や、製品の色調を調整する目的で粒子が含まれていてもよい。この含まれる粒子の種類は任意である。具体例を示すと二酸化ケイ素、二酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム等の無機粒子や、架橋ポリスチレン等の有機高分子粒子を用いることができる。これらの粒子の中でも、二酸化チタン粒子は、ポリマー中での分散性が良好で、比較的低コストであることから好ましい。
【0035】
本発明の共重合ポリエステル組成物は、任意の方法によって合成できる。例えば、以下に示す一般的なポリエチレンテレフタレートの合成方法と同様の工程を用いることができる。
【0036】
ポリエチレンテレフタレートはテレフタル酸とエチレングリコールとのエステル化反応、または、テレフタル酸ジメチルに代表されるテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとのエステル交換反応によって、テレフタル酸のグリコールエステルまたはその低重合体を生成させる第一段階の反応、そして第一段階の反応生成物を重合触媒の存在下で減圧加熱し、所望の重合度となるまで重縮合反応を行う第二段階の反応によって合成できる。
【0037】
本発明においては、上記工程のいずれかに、または工程と工程との間に共重合成分を添加する。共重合成分の添加時期は、例えば、エステル化反応前または、エステル交換反応時、エステル交換反応の終了した時点から重縮合反応が開始されるまで、あるいは重縮合反応が実質的に終了するまでのいつでもよい。
【0038】
エステル化は無触媒においても反応が進む。エステル交換反応においては、通常、酢酸リチウム2水和物(LAH)等のリチウム化合物、酢酸マンガン4水和物(MN)等のマンガン化合物、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、亜鉛化合物等を触媒に用いて進行させ、またエステル交換反応が実質的に完結した後に、該反応に用いた触媒を不活性化する目的で、リン酸(PA)等のリン化合物添加が行われる。重縮合反応触媒としては、三酸化アンチモン等のアンチモン系化合物、チタン系化合物、ゲルマニウム系化合物などの化合物等を用いることができる。
【0039】
本発明の共重合ポリエステル組成物は複合繊維の構成成分として用いることができる。ここで述べる複合繊維とは1本の繊維の中に2種以上のポリマーが分離して存在しているものを示している。
【実施例】
【0040】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。これらは例示であってこれらに限定されるものではない。
【0041】
<共重合ポリエステル組成物の組成分析>
共重合ポリエステル組成物における、金属スルホネート基含有イソフタル酸および/またはそのエステル形成性誘導体成分、共重合形成性ジカルボン酸および/またはそのエステル形成性誘導体成分、そしてポリアルキレンオキサイド成分の共重合量の分析は、核磁気共鳴装置(NMR)を用いて実施した。
装置:日本電子株式会社製 AL-400
重溶媒:重水素化HFIP
積算回数:128回
サンプル濃度:測定サンプル50mg/重溶媒1mL
【0042】
<共重合ポリエステル組成物の熱特性分析>
共重合ポリエステル組成物のガラス転移点、結晶融解熱量の分析は、示唆走査熱量計を用いて実施した。
装置:TA Instruments社製 Q-2000
サンプル:150℃で24時間真空乾燥
昇温速度:16℃/分、20℃から280℃まで
【0043】
<共重合ポリエステル組成物の分子量測定>
共重合ポリエステル組成物の分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。
装置:Waters社製 Waters-e2695
検出器:Waters社製 示差屈折率検出器RI(Waters-2414,感度128x)
カラム:昭和電工株式会社製 ShodexHFIP806M(2本連結)
カラム温度:30℃
溶媒:ヘキサフルオロイソプロパノール(0.01Nトリフルオロ酢酸ナトリウム添加)
流速:1.0mL/min
注入量:0.10mL
標準サンプル:標準ポリメタクリル酸メチル
【0044】
<共重合ポリエステル組成物の乾燥可能温度の測定>
ペレット2kgを縦400mm×幅400mm×高さ5mmのバットに投入し、0.1KPa以下に減圧した真空乾燥機内で24時間加温して、ペレット同士の融着が生じない上限温度を乾燥可能温度とした。
【0045】
<共重合ポリエステル組成物の290℃、20分粘度保持率の測定>
共重合ポリエステル組成物の溶融粘度はキャピログラフにより測定した。290℃におけるペレット溶融直後の粘度、および20分間溶融滞留後の粘度を以下の条件で測定し、290℃×20分粘度保持率を算出した。
装置:株式会社東洋精機製作所製キャピログラフ1B
キャピラリー内径:1.0mm
キャピラリー長:40.0mm
測定温度:290℃
剪断速度:243/sec
290℃、20分粘度保持率(%)=(B/A)×100
Aはペレット溶融直後の粘度、Bは20分間溶融滞留後の粘度
【0046】
<共重合ポリエステル組成物の熱水膨潤率>
共重合ポリエステル組成物の熱水膨潤率は以下の手順で測定した。共重合ポリエステル組成物のペレットを、0.1KPa以下に減圧した真空乾燥機にて乾燥可能温度で含水率300ppm以下となるまで乾燥した。その後、ポリエステル組成物の重量に対するイオン交換水の重量で表される浴比が1:100となるようにイオン交換水を加え、室温から90℃へ4℃/分で昇温した後、90℃×60分間の熱水処理を行った。昇温開始から5分毎にペレットの体積を計測し、熱水処理終了までに示した最大体積から共重合ポリエステルの熱水膨潤率を算出した。
熱水膨潤率(%)={(D-C)/C}×100
Cは熱水処理前の共重合ポリエステル組成物の体積(mm3)
Dは熱水処理中に共重合ポリエステル組成物が示す最大体積(mm3)
【0047】
<共重合ポリエステル組成物の熱水剥離性評価>
異形芯鞘型複合繊維に適用した際の割繊性の指標となる、ポリエチレンテレフタレート組成物に対する本発明の共重合ポリエステル組成物の熱水剥離性を下記の方法で評価した。共重合ポリエステル組成物ならびにポリエチレンテレフタレート(固有粘度:0.67dL/g)各0.5gをそれぞれ290℃、2MPaで60秒間プレス加工した。得られたフィルム状成型物を重ね合わせ、さらに290℃、2MPaで5秒間プレス加工し共重合ポリエステル組成物/ポリエチレンテレフタレート貼り合わせフィルムを作成した。貼り合わせフィルムを50mm×1mmの短冊状に切り出し、浴比が1:100となるようにイオン交換水を加え、室温から90℃へ4℃/分で昇温した後、90℃×60分間の熱水処理を行い、貼り合わせフィルムの剥離性を判定した。
◎:昇温開始から90℃到達までに貼り合わせフィルムが完全に剥離する。
〇:熱水処理終了までに貼り合わせフィルムが完全に剥離する。
△:熱水処理終了までに貼り合わせフィルムが部分的に剥離する。または剥離が全く生じないまま共重合ポリエステル組成物の溶解が進行する。
×:熱水処理終了時に貼り合わせフィルムは全く剥離せず、共重合ポリエステル組成物の溶解も進行しない。
【0048】
[参考例1]
ジメチルテレフタル酸(DMT)4.1kg(全酸成分に対して42.0モル%)、ジメチル5-スルホイソフタル酸ナトリウム(SSIA)1.2kg(全酸成分に対して8.0モル%)、イソフタル酸ジメチル(DMI)4.9kg(全酸成分に対して50.0モル%)、エチレングリコール(EG)5.8kg、酢酸マンガン4水和物(MN)3.0g、酢酸リチウム2水和物(LAH)50.0g、三酸化アンチモン(AO)2.5gを加え、140~230℃でメタノールを留出しつつエステル交換(EI)反応を行い、210分後、リン酸(PA)1.0gを添加した。さらに、[ペンタエリスリトール-テトラキス(3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェノール)プロピオネート)](BASF製“Irganox(登録商標。以下同じ。)1010”)25.0g、シリコーンオイル(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製“TSF433”)10.0gを加え、減圧および昇温開始し、重縮合反応を開始した。徐々に0.1kPa以下まで減圧し、同時に290℃まで昇温し、重合開始120分後、反応系を窒素パージして常圧に戻して重縮合反応を停止させ、口金からストランド状に押出して水槽冷却し、ペレット状にカッティングを実施した。
得られた共重合ポリエステル組成物のポリマー特性を表1に記す。
【0049】
[参考例2~5]
参考例1で用いたDMT、イソフタル酸ジメチルの含有モル量を表1に記載のとおり変更したこと以外は参考例1と同様に実施し、共重合ポリエステル組成物を得た。
[参考例6~7、実施例8]
参考例1で用いたDMT、SSIA、イソフタル酸ジメチルの含有モル量を表1に記載のとおり変更したこと以外は参考例1と同様に実施し、共重合ポリエステル組成物を得た。
【0050】
【0051】
[参考例9、実施例10~13]
参考例1で用いたDMT、SSIA、イソフタル酸ジメチルの含有モル量を表2に記載のとおり変更し、重縮合反応前に表2に記載のポリエチレングリコールを加えたこと以外は参考例1と同様に実施し、共重合ポリエステル組成物を得た。
【0052】
[実施例14]
参考例1で用いたDMT、SSIA、イソフタル酸ジメチルの含有モル量を表2に記載のとおり変更し、重縮合反応前に表2に記載の片末端メチル基封鎖ポリエチレングリコールを加えたこと以外は参考例1と同様に実施し、共重合ポリエステル組成物を得た。
【0053】
[実施例15]
参考例1で用いたDMT、SSIA、イソフタル酸ジメチルの含有モル量を表2に記載のとおり変更し、重縮合反応前に表2に記載の片末端デシル基封鎖ポリエチレングリコールを加えたこと以外は参考例1と同様に実施し、共重合ポリエステル組成物を得た。
【0054】
[実施例16]
参考例1で用いたDMT、SSIAの含有モル量を表2に記載のとおり変更し、イソフタル酸ジメチルを表2に記載のとおりナフタレンジカルボン酸ジメチルに変更し、重縮合反応前に表2に記載のポリエチレングリコールを加えたこと以外は参考例1と同様に実施し、共重合ポリエステル組成物を得た。
【0055】
[参考例17]
参考例1で用いたDMT、SSIAの含有モル量を表2に記載のとおり変更し、イソフタル酸ジメチルを表2に記載のとおりシクロヘキサンジカルボン酸ジメチルに変更したこと以外は参考例1と同様に実施し、共重合ポリエステル組成物を得た。
【0056】
[参考例18]
参考例1で用いたDMT、SSIAの含有モル量を表2に記載のとおり変更し、添加するイソフタル酸ジメチルの一部を表2に記載のとおりアジピン酸ジメチルに変更したこと以外は参考例1と同様に実施し、共重合ポリエステル組成物を得た。
【0057】
[実施例19]
参考例1で用いたDMT、SSIAの含有モル量を表2に記載のとおり変更し、添加するイソフタル酸ジメチルの一部を表2に記載のとおりセバシン酸ジメチルに変更したこと以外は参考例1と同様に実施し、共重合ポリエステル組成物を得た。
【0058】
【0059】
[比較例1~2]
参考例1で用いたDMT、SSIA、イソフタル酸ジメチルの含有モル量を表3に記載のとおり変更したこと以外は参考例1と同様に実施し、共重合ポリエステル組成物を得た。
比較例1で得られる組成物は、DMTの含有モル量が過剰であり組成物中に強固な結晶構造が形成したため、吸水膨潤性能は発現しなかった。
比較例2で得られる組成物は、DMTの含有モル量が少なく、吸水膨潤性能は有するが290℃で20分間溶融滞留した際の粘度保持率が75%未満となった。
【0060】
[比較例3]
参考例1で用いたDMT、SSIA、イソフタル酸ジメチルの含有モル量を表3に記載のとおり変更したこと以外は参考例1と同様に実施し、共重合ポリエステル組成物を得た。
比較例3で得られる組成物は、SSIA含有モル量が不十分であるため十分な吸水膨潤性能が得られなかった。熱水膨潤率は20%に留まり、ポリエチレンテレフタレート組成物に対する剥離性も発現しなかった。
【0061】
[比較例4]
参考例1で用いたDMT、SSIA、イソフタル酸ジメチルの含有モル量を表3に記載のとおり変更し、重縮合反応前に表3に記載のとおりポリエチレングリコールを加えたこと以外は参考例1と同様に実施し、共重合ポリエステル組成物を得た。
比較例4で得られる組成物は、SSIA含有モル量が過剰であり、熱水中への溶解が膨潤に先行して進むことから吸水膨潤性能は発現しなかった。
【0062】
[比較例5]
参考例1で用いたDMT、SSIAの含有モル量を表3に記載のとおり変更し、重縮合反応前に表3に記載のとおり片末端メチル基封鎖ポリエチレングリコールを加えたこと以外は参考例1と同様に実施し、共重合ポリエステル組成物を得た。
比較例5で得られる組成物は、ガラス転移点低下効果の大きい片末端メチル基封鎖ポリエチレングリコール(平均繰り返し単位数n:90)を多量に用いた影響から、得られる共重合ポリエステル組成物のガラス転移点が50℃未満となり、熱水中で膨潤に先行して流動変形・溶解が生じたため目的の吸水膨潤性能が得られなかった。熱水膨潤率は40%に留まり、ポリエチレンテレフタレート組成物に対する剥離性も不十分であった。また、乾燥可能温度が55℃と低く、290℃で20分間溶融滞留した際の粘度保持率も75%未満となった。
【0063】
[比較例6]
参考例1で用いたDMT、SSIAの含有モル量を表3に記載のとおり変更し、添加するイソフタル酸ジメチルの一部を表3に記載のとおりナフタレンジカルボン酸ジメチルに変更したこと以外は参考例1と同様に実施し、共重合ポリエステル組成物を得た。
比較例6で得られる組成物は、ガラス転移点上昇効果の大きいナフタレンジカルボン酸成分をポリアルキレンオキサイド化合物と併用せずに用いた影響から、得られる共重合ポリエステル組成物のガラス転移点が75℃よりも高くなり、熱水中での分子運動が抑制されたため目的の吸水膨潤性能が得られなかった。熱水膨潤率は10%に留まり、ポリエチレンテレフタレート組成物に対する剥離性も発現しなかった。
【0064】
[比較例7]
参考例1で用いたDMT、SSIAの含有モル量を表3に記載のとおり変更し、添加するイソフタル酸ジメチルの一部を表3に記載のとおりアジピン酸ジメチルに変更し、重縮合反応前に表3に記載のポリエチレングリコールを加えたこと以外は参考例1と同様に実施し、共重合ポリエステル組成物を得た。
比較例7で得られる組成物は、SSIA含有モル量が過剰であり、かつガラス転移点低下効果の大きいアジピン酸成分を多量に用いた影響から、熱水中で膨潤に先行して流動変形・溶解が生じて目的の吸水膨潤性能が得られなかった。熱水膨潤率は30%に留まり、ポリエチレンテレフタレート組成物に対する剥離性も不十分であった。また、乾燥可能温度が40℃と低く、290℃で20分間溶融滞留した際の粘度保持率も75%未満となった。
【0065】
[比較例8]
DMTを2.5kg(全酸成分に対して95.0モル%)、SSIAを0.3kg(全酸成分に対して5.0モル%)、平均繰返し単位数nが90のポリエチレングリコール5.0kg(得られる共重合ポリエステル組成物に対して50質量%)、1,4-ブチレングリコール(BG)3.7kg、テトラ-n-ブトキシチタン9.0gを加え、140~200℃でメタノールを留出しつつEI反応を行った。210分後、Irganox1010を25.0g加え、250℃まで昇温し減圧を開始した。徐々に0.1kPa以下まで減圧し、重合開始120分後、反応系を窒素パージして常圧に戻して重縮合反応を停止させ、口金からストランド状に押出して水槽冷却し、ペレット状にカッティングして共重合ポリエステル組成物を得た。
テレフタル酸成分が過剰であることから、ポリエステル組成物は強固な結晶構造を形成し、目的の吸水膨潤性能は発現しなかった。熱水膨潤率は30%に留まり、ポリエチレンテレフタレート組成物に対する剥離性も不十分であった。
【0066】
[比較例9]
参考例1で用いたDMT、SSIAの含有モル量を表3に記載のとおり変更し、イソフタル酸ジメチル(共重合形成性ジカルボン酸成分)を添加しなかった以外は参考例1と同様に実施して得た共重合ポリエステル組成物に対し、表3に記載のとおりポリエチレングリコールを後混練して、共重合/混練ポリエステルを得た。
テレフタル酸成分が過剰であることから、ポリエステル組成物は強固な結晶構造を形成し、目的の吸水膨潤性能は発現しなかった。熱水膨潤率は40%に留まり、ポリエチレンテレフタレート組成物に対する剥離性も不十分であった。
【0067】
【0068】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更及び変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお本出願は、2018年6月28日付で出願された日本特許出願(特願2018-122846)に基づいており、その全体が引用により援用される。