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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】布帛印刷物
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/02 20060101AFI20231108BHJP
   B41M 1/40 20060101ALI20231108BHJP
   B41M 3/06 20060101ALI20231108BHJP
   D06P 3/87 20060101ALI20231108BHJP
   D06P 5/22 20060101ALI20231108BHJP
   D06P 5/24 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
B32B5/02 Z
B41M1/40 C
B41M3/06 J
D06P3/87 C
D06P5/22 C
D06P5/24 Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019571079
(86)(22)【出願日】2019-12-13
(86)【国際出願番号】 JP2019048926
(87)【国際公開番号】W WO2020129841
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2018238085
(32)【優先日】2018-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】油 努
(72)【発明者】
【氏名】出田 康平
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-051872(JP,A)
【文献】特開2012-183794(JP,A)
【文献】特開2005-103933(JP,A)
【文献】特開2005-234561(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B41M 1/14
B41M 1/40
B41M 3/06
D06P 3/87
D06P 5/22
D06P 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
布帛、第一印刷層、および視覚情報を含む第二印刷層をこの順に有する布帛印刷物であって、前記布帛が杢布帛であり、前記第一印刷層にカーボンブラックを含み、
前記布帛を測色した複数測定点のL 表色系座標(L cx ,a cx ,b cx )と、その平均値(L cave. ,a cave. ,b cave. )とから下記式1で求めた各測定点の色差(ΔE cx )の標準偏差SD と、
前記第一印刷層を測色した複数測定点のL 表色系座標(L py ,a py ,b py )と、その平均値(L pave. ,a pave. ,b pave. )とから式2で求めた各測定点の色差(ΔE px )の標準偏差SD とが
式3を満たす布帛印刷物。
式1:
ΔE cx =[(L cx -L cave. +(a cx -a cave. +(b cx -b cave. 1/2
ただし、xは各測定点を表す。
式2:
ΔE py =[(L py -L pave. +(a py -a pave. +(b py -b pave. 1/2
ただし、yは各測定点を表す。
式3:
SD >SD
【請求項2】
前記第一印刷層を測色した表色系座標の平均値(L ,a ,b )と前記第二印刷層を測色したL表色系座標の平均値(L ,a ,b )とから求めた色差(ΔE12)が式4を満たす請求項1に記載の布帛印刷物。
式4:
ΔE12=[(L -L +(a -a +(b -b 1/2 >15
【請求項3】
前記布帛を構成する繊維が複数色の繊維を含む請求項1または2に記載の布帛印刷物。
【請求項4】
前記布帛が編物、織物、および不織布の中から選ばれる請求項1~のいずれかに記載の布帛印刷物。
【請求項5】
前記第一印刷層または前記第二印刷層のOD値が1.2以上である請求項1~のいずれかに記載の布帛印刷物。
【請求項6】
前記布帛がポリエステル系繊維を含む請求項1~のいずれかに記載の布帛印刷物。
【請求項7】
前記布帛がカチオン可染ポリエステルを含む請求項に記載の布帛印刷物。
【請求項8】
前記第一印刷層および/または前記第二印刷層にポリエステル樹脂を含む請求項1~のいずれかに記載の布帛印刷物。
【請求項9】
前記第一印刷層および/または前記第二印刷層が架橋したウレタン結合および/または尿素結合を含むことを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の布帛印刷物。
【請求項10】
前記視覚情報は、品質表示、取扱法表示、製造ロット番号、およびマトリックス型二次元コードのうち少なくとも一つを含むものである請求項1~のいずれかに記載の布帛印刷物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載の布帛印刷物の製造方法であって、前記第一印刷層および/または前記第二印刷層をパッド印刷により印刷する布帛印刷物の製造方法。
【請求項12】
樹脂印刷版を用いる請求項11に記載の布帛印刷物の製造方法。
【請求項13】
前記樹脂印刷版の凹部に網点を有する凹版印刷版を用いる請求項12に記載の布帛印刷物の製造方法。
【請求項14】
前記樹脂印刷版の版表面と凹部に設けられた網点の最深部の高低差が40~120μmである請求項12または13記載の布帛印刷物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、視覚情報が布帛上に印刷された布帛印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維製品の布帛には製造元、サイズ、素材、製品名、取り扱い上の注意情報など多様な視覚情報が表示されている。情報表示方法としては、情報が記載されたタグを縫い付ける方法が一般的ではあるが、タグが直接肌に触れるインナーウェアなどでは、着用者を刺激する恐れがあるため、着心地を重視し、タグを用いず布帛上に直接情報表示する方法が提案されている。このような布帛上に直接情報表示する方法としては、特許文献1に示す熱転写ラベルや特許文献2に示すインクジェット法、特許文献3に示すパッド印刷による方法が知られている。
【0003】
ところで、複数の色の繊維からなる布帛、例えば杢布帛は、濃淡2色の糸を撚り合せた杢糸を使用しているのでムラのある複雑な視覚効果を有し、色の微妙な濃淡が優しい風合いとなるため消費者に商品の選択肢を提供することができる。しかし視覚情報を布帛上に直接表示する場合、単一色の表示では視認性が悪く、情報を読み取ることが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-276486号公報
【文献】特開平8-283636号公報
【文献】米国特許第7,498,277号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、布帛上に印刷された視覚情報が良好に視認できる布帛印刷物を提供することを目的とする。特に、複数の色の繊維からなる布帛、例えば杢布帛上に印刷された視覚情報が良好に視認できる布帛印刷物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決し、目的を達成するため、本発明は、布帛、第一印刷層、および視覚情報を含む第二印刷層をこの順に有する布帛印刷物であって、前記布帛が杢布帛であり、前記第一印刷層にカーボンブラックを含む、布帛印刷物である。
【0007】
さらに本発明の布帛印刷物は、
前記布帛を測色した複数測定点のL*a*b*表色系座標(L*cx,a*cx,b*cx)と、その平均値(L*cave.,a*cave.,b*cave.)とから下記式1で求めた各測定点の色差(ΔEcx)の標準偏差SDcと、
前記第一印刷層を測色した複数測定点のL*a*b*表色系座標(L*py,a*py,b*py)と、その平均値(L*pave.,a*pave.,b*pave.)とから式2で求めた各測定点の色差(ΔEpy)の標準偏差SDpとが
式3を満たす。
式1:
ΔEcx=[(L*cx-L*cave.+(a*cx-a*cave.+(b*cx-b*cave.1/2
ただし、xは各測定点を表す。
式2:
ΔEpy=[(L*py-L*pave.+(a*py-a*pave.+(b*py-b*pave.1/2
ただし、yは各測定点を表す。
式3:
SDc>SDp
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る布帛印刷物によれば、布帛上に印刷された視覚情報を良好に視認することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1で作製した印刷物である。
図2】比較例1で作製した印刷物である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を説明する。ただし、以下の実施の形態に限定されるものではなく、目的や用途に応じて種々に変更して実施することができる。
【0011】
<視覚情報>
本発明に係る布帛印刷物は、視覚情報を含む。ここで、視覚情報とは、文字、記号、コード、数字、図形、模様など、視覚に訴える情報をいう。また、視覚に訴えるとは、意匠性の有無に関わらず、視覚を通じて認識できるものをいう。好ましくは、物質で反射された光、または物質から発せられる光を通じて認識することができるものである。もちろん色と組み合わせることもできる。以下の目的のものが例示される。
商品名、トレードマーク、サービスマーク、ハウスマーク、団体表示、屋号。
キャラクター、画像(絵)、ポイントマークなど。これらは見る者に美観、喜び、感動などを与えるものにもなる。
品質表示、取扱方法、製造日、使用期限、製造ロット番号、“QRコード”(登録商標)として知られるマトリックス型二次元コードなど。これらは生産者、流通業者または消費者にとって重要な情報となる。
本発明の印刷物が有効に利用できる視覚情報は、品質表示マーク、取扱法表示マーク、製造ロット番号、およびマトリックス型二次元コードのうち少なくとも一つを含むものであることが好ましい。
【0012】
<布帛>
本発明に用いる布帛には、常法に従って布帛を製造することによって得られ、織物、編物もしくは不織布のいずれであってもよく、また織りと編みこみが混在した交編織編地の布帛であってもよい。
【0013】
織物の組織は、平織、斜文織、朱子織などの三原組織、変化平織、変化斜文織、変化朱子織などの変化組織、蜂の巣織、模紗織、梨地織などの特別組織、たて二重織、よこ二重織などの片二重組織、風通織、袋織、二重ビロード、タオル、シール、ベロアなどのたてパイル織、別珍、よこビロード、ベルベット、コール天などのよこパイル織、絽、紗、紋紗などのからみ組織などが好ましい。また、製織は有杼織機(フライシャットル織機など)または無杼織機(レピア織機、グリッパー織機、ウォータージェット織機、エアージェット織機など)などによって行われるのが好ましい。
【0014】
編物の種類は、緯編物であってもよく、また、経編物などであってもよい。編物の組織は、緯編は、平編、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畦編、レース編、添毛などが好ましく、経編は、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャカード編などが好ましい。また、織物は単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。また、製編は、丸編機、横編機、コットン式編機のような平型編機、トリコット編機、ラッシェル編機、ミラニーズ編機などによって行われるのが好ましい。
【0015】
本発明において、布帛は、織物または編物が好ましく、編物がさらに好ましい。
【0016】
また、本発明に係る布帛印刷物は、布帛を構成する繊維が複数色の繊維を含む布帛場合に好適である具体的な例としては、木目のように濃い色と薄い色が混ざり合った生地が好ましい。例えば、杢布帛である。色としては白色繊維と黒色繊維とを含むものがある。
【0017】
繊維には、マルチフィラメント糸、モノフィラメント糸を用いることができ、このような繊維を含み布帛としては、杢布帛が好ましい。
【0018】
本発明の布帛には、ポリエステル系繊維を用いることができる。ポリエステル系繊維にはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなど、いずれを使用しても良い。なかでもポリエチレンテレフタレート系繊維は良好な風合い、光沢を有し、またしわになりにくいなどのイージーケア性があり、また伸縮性を有する布帛を構成する繊維素材として好適である。また、ポリエチレンテレフタレート系繊維は、ポリウレタンウレア弾性繊維との組合せで用いる場合に好適であって、良好なストレッチ布帛とすることが可能である。ポリエステル系繊維は一般に分散染料を用いて染められるが、分散染料は色移りなど、堅牢度不良を発生させることがある。そのためカチオン染料で良好に染色することの出来るカチオン可染ポリエステル系繊維を用いることが好ましい。布帛に含まれるポリエステル系繊維の含有量は25質量%以上が好ましい。25質量%以上あることで、良好な風合いとなる。また、綿、絹などの天然繊維を含む布帛であってもよい。また、布帛に含まれるポリエステル系繊維の含有量が100質量%であってもよい。このような布帛は、耐久性が高い。
【0019】
<第一印刷層>
本発明に係る布帛印刷物は第一印刷層を有する。第一印刷層は布帛の上方に設けられた印刷層である。第一印刷層は布帛と直接接触していてもよく、第一印刷層と布帛との間に別の層があってもいい。また第一印刷層は複数の印刷層から構成されていてもいい。
【0020】
本発明に係る布帛印刷物は、下に示す式3を満たすことが好ましい。
【0021】
式3における標準偏差SDは、式1から求めた色差(ΔEcx)の標準偏差である。式1の色差(ΔEcx)は、印刷層が設けられていない布帛で無作為の20点を測色した各測定点のL表色系座標(L cx,a cx,b cx)と、当該20点の平均値(L cave.,a cave.,b cave.)とを用いて求めたものである
【0022】
また、式3における標準偏差SDは、式2から求めた色差(ΔEpx)の標準偏差である。色差(ΔEpx)は、第一印刷層があるが第二印刷層がないところから無作為に選んだ20点を測色した各測定点のL表色系座標(L py,a py,b py)と、当該20点の平均値(L pave.,a pave.,b pave.)とを用いて求めたものである。なお、第一印刷層が複数の印刷層から構成されている場合は、最表層の第一印刷層について測色するものとする。
【0023】
式1:
ΔEcx=[(L cx-L cave.+(a cx-a cave.+(b cx-b cave.1/2
ただし、xは各測定点を表す。
【0024】
式2:
ΔEpy=[(L py-L pave.+(a py-a pave.+(b py-b pave.1/2
ただし、yは各測定点を表す。
【0025】
式3:
SD>SD

第一印刷層が式3を満たすことで、複数色の繊維からなり色ムラが大きい布帛を、第一印刷層の存在により色ムラが小さく見えることになるしたがって、布帛上に印刷された視覚情報を良好に視認できることができるため、式3を満たすことが好ましい。なお、SDは、0.3<SD<5の範囲であることが好ましい。SDは0.3より小さいことが好ましく、より好ましくは、0.2以下である。
【0026】
また、第一印刷層には、ポリエステル樹脂を含むことが好ましい。ポリエステル樹脂は、ポリエステル系繊維との密着性が良好である。布帛の上に直接第一印刷層を設ければ密着性が良好となり、布帛の摩擦や洗濯によるダメージに対し耐性を有する。また、第一印刷層が硬化剤などによって架橋されていれば、さらに布帛の摩擦や洗濯によるダメージへの耐性が向上する。第一印刷層に含まれる硬化剤には制限はないが、イソシアネート化合物が好ましく用いられる。イソシアネート化合物は架橋により、架橋したウレタン結合および/または尿素結合による架橋構造を形成し、印刷層の耐久性を強化することができる。
【0027】
なお、第一印刷層に含まれる顔料としては、カーボンブラック、二酸化チタンなどの無機顔料、有機化合物を成分とする有機顔料を用いることができる。
【0028】
<第二印刷層>
次に、本発明に係る布帛印刷物は視覚情報を含む第二印刷層を有する。第二印刷層は第一印刷層上の全部または一部に設けられた印刷層である。また視覚情報を含むのであれば第二印刷層は複数の層からなっていてもよい。
【0029】
本発明では色差(ΔE12)が下に示す式4を満たすことが好ましい。ここで(L ,a ,b )は、布帛および第一印刷層があるところで無作為に選んだ3点を測色したL表色系座標の平均値である。また、(L ,a ,b )は、布帛、第一印刷層および第二印刷層があるところで無作為に選んだ3点を測色したL表色系座標の平均値である。
式4:
ΔE12=[(L -L +(a -a +(b -b 1/2>15
第二印刷層は式4を満たすことで、得られる布帛印刷物にある視覚情報を良好に視認することができる。なお、より視認性を向上するためには、ΔE12が30以上であることが好ましい。
【0030】
また、第二印刷層には、ポリエステル樹脂を含むことが好ましい。ポリエステル樹脂は、第一印刷層に好ましく含まれるポリエステル樹脂との密着性が良好で、摩擦や洗濯によるダメージに対し耐性を有する。また、第二印刷層に、硬化剤を含むことで、さらに布帛の摩擦や洗濯によるダメージへの耐性が向上する。なお、第二印刷層に含まれるポリエステル樹脂と第一印刷層に含まれるポリエステル樹脂が同じ構造単位を有することが好ましい。同じ構造単位を有することで、層間の密着性は向上し、さらに摩擦や洗濯によるダメージに対し耐性を有する。また、第二印刷層が硬化剤などによって架橋されていれば、さらに布帛の摩擦や洗濯によるダメージへの耐性が向上する。第二印刷層に含まれる硬化剤には制限はないが、イソシアネート化合物が好ましく用いられる。イソシアネート化合物は架橋により、ウレタン結合および/または尿素結合による架橋構造を形成し、印刷層の耐久性を強化することができる。
【0031】
さらに、第二印刷層には、顔料を含むことが好ましい。具体的には、カーボンブラック、二酸化チタンなどの無機顔料、有機化合物を成分とする有機顔料を用いることができる。ただし、第二印刷層に含まれる顔料は、第一印刷層に含まれる顔料と異なる色の顔料であることが好ましい。
【0032】
なお、前記第一印刷層または前記第二印刷層のOD値が1.2以上であることが好ましい。印刷層のOD値が1.2以上であることで、布帛および/または他の印刷層とのコントラストが明瞭となる。
【0033】
<布帛印刷物の製造方法>
次に本発明に係る布帛印刷物の製造方法について説明する。
【0034】
本発明に係る布帛印刷部は、布帛上に第一印刷層を印刷した後に、第一印刷上に視覚情報を含む第二印刷層を印刷することで製造することができる。第一印刷層は第二印刷層の視覚情報より広い領域に印刷される。それぞれの印刷層は、スクリーン印刷、インクジェット印刷、昇華転写印刷、パッド印刷することによって形成可能である。第一印刷層は、多孔質ゴム、スポンジなどの転写材料を、インク溜めに接触し、インクを付着させ、そして、転写材料を被印刷物に接触させるインクスタンプ印刷であってもいい。印刷速度が他方式よりも早いこと、インクの乾燥速度を調整することでにじみのない印刷物を作製できるため、パッド印刷が好ましく用いられる。
【0035】
パッド印刷はオフセット印刷の一種であって以下の工程を含むことが通常である。
(i)凹版印刷版の版面上にインクを載せる。
(ii)金属製のドクター刃で掻き取る。またはドクター刃の役割をするリング状のセラミックス製もしくは特殊金属製エッジ付きインクカップの中にインクを入れて版面上をインクカップで掻き取る。その結果凹版印刷版の凹部にインクが充填される。
(iii)凹版印刷版とシリコーンゴムなどの柔軟なパッドとを接触させる。その結果インクはパッドの表面に転写される。
(iv)パッドのインクが付着している面を被印刷体に圧着し、インクを被印刷体に転写する。
【0036】
パッド印刷で用いられる凹版印刷版は、(a)炭素鋼などをエッチングして作製した金属製の印刷版、(b)樹脂および顔料を含む樹脂層をレーザー彫刻により凹部を形成した樹脂印刷版、または(c)感光性樹脂層を露光現像により凹部を形成した樹脂印刷版を用いることができるが、これらに限定されない。
【0037】
このうち、感光性樹脂層から形成した印刷版は、原画に対して、凹部の線巾の精度が高く、再現性の高い視認性の良好な印刷物を与えることができるため好ましい。このような樹脂印刷版に用いられる感光性樹脂層は、少なくともバインダーポリマー、エチレン性二重結合を有する化合物、および光重合開始剤を含む感光性樹脂組成物から形成されることが好ましい。このような感光性樹脂層を有する印刷版材としては、PU52LR(東レ株式会社製)などが知られている。
【0038】
なお、印刷版の凹部には小さな突起である網点が存在していることが好ましい。凹部に網点を有することで、凹版印刷版の版面上にインクを載せ、金属製のドクター刃で掻き取る際に、インクの掻き取りムラを防止することができる。そのため、均一な色の印刷層を形成することが可能となる。
【0039】
また、印刷版の凹部に設けられた網点の頂部と凹部の最深部との高低差が40~120μmであることが好ましい。40μm以上であることで、十分な濃度の印刷層を形成することができ、120μm以下であることで、布帛にパッド印刷した際に、布帛へのインクの転移量が多すぎず、布帛の裏側にインクが裏移りするのを防止することができる。
【実施例
【0040】
以下、本発明を実施例で詳細に説明する。
【0041】
[評価方法]
(1)布帛および印刷層の測色方法
布帛および印刷層の測色は、SpectroEye(X-rite社製)を用いて行った。布帛の表色系座標および布帛上に印刷された第一印刷層の表色系座標は7mm間隔で20点のところで測定した。その値から標準偏差SDおよびSDを求めた。
【0042】
布帛上に印刷された第一印刷層と布帛上に印刷された第二印刷層の色差ΔE12は、SpectroEye(X-rite社製)を用いて、布帛上にある第一印刷層の3点を無作為に選択し測色した。また布帛、第一印刷層の上にある第二印刷層の3点を無作為に選択し測色した。平均値のL表色系座標(L ,a ,b )の平均値と、平均値のL表色系座標(L ,a ,b )とから式4により算出した。
また、OD値の測定は、SpectroEye(X-rite社製)を用いて行った。OD値の白基準はMACBETH CALIBRATION REFERENCE K1277Dの白とし、布帛上に印刷された印刷層のOD値を測定した。
【0043】
(2)視覚情報の視認性
布帛に印刷された視覚情報の視認性は、5人の判定者が目視で確認した。判定者は矯正視力を含む両眼の測定の視力0.7以上で、サンプルと目との距離は50cmとした。各判定者は布帛に印刷された12個の文字を読み、すべて読めた場合を視認できたとした。判定の基準は以下のとおりである。
A: 視認できた人数が5人
B: 視認できた人数が3~4人
C: 視認できた人数が0~2人。
【0044】
(3)インクの裏移り
布帛に印刷された印刷層のインクの裏移りは、目視で確認した。判定基準は以下のとおりである。
A: なし
B: あり。
【0045】
実施例1:
(1)凹版印刷版の作製
7cm×14cmの感光性樹脂印刷版原版PU52LRから、ポリエステルフィルムからなるカバーフィルムを剥離し、3cm×3cmのベタ画像が形成されているポジフィルムを真空密着させ、ケミカル灯FL20SBL-360 20ワット(三菱電機オスラム(株)製)でグレースケール感度11±1段となる条件で露光(第一露光)した。次に、真空密着したポジフィルム(スクリーンフィルム)を剥離し、250線95%の網点が形成されたネガフィルムを真空密着し、主露光と同じ条件で露光した(第二露光)。その後、真空密着したポジフィルムを剥離した後に、液温25℃のエタノール水溶液(エタノール/水=80/20(質量比))でブラシ式現像装置により1分間現像し、60℃で10分間乾燥した。さらにケミカル灯FL20SBL-360 20ワット(三菱電機オスラム(株)製)で主露光と同条件で後露光し、版表面と凹部に設けられた網点の最深部の高低差が90μmである凹版印刷版1を得た。なお、版表面と凹部に設けられた網点間の最深部の高低差はレーザー顕微鏡“VK-X200”((株)キーエンス製)を用い、レンズ20倍率250倍で測定することで求めた。
【0046】
次に、新たに7cm×14cmの感光性樹脂印刷版原版PU52LRからポリエステルフィルムであるカバーフィルムのみを剥離し、2cm×2cmの範囲に洗濯時の取り扱い方法を5ptの大きさの文字で記載した視覚情報を有するポジフィルムを真空密着させ、ケミカル灯FL20SBL-360 20ワット(三菱電機オスラム(株)製)でグレースケール感度11±1段となる条件で露光した(第一露光)。次に、真空密着したポジフィルムを剥離し、250線95%のネガフィルムを真空密着し、第一露光と同じ条件で露光した(第二露光)。その後、真空密着したポジフィルムを剥離した後に、液温25℃のエタノール水溶液(エタノール/水=80/20(質量比))でブラシ式現像装置により1分間現像し、60℃で10分間乾燥した。さらにケミカル灯FL20SBL-360 20ワット(三菱電機オスラム(株)製)で第一露光と同条件で後露光し、版表面と凹部に設けられた網点間の最深部の高低差が90μmである凹版印刷版2を得た。
【0047】
(2)印刷物の作製
凹版印刷版1を、hermetic6-12 universal(TAMPOPRINT社製、パッド印刷機)に装着し、URETHANE2502 EO BLACK(EPTA社製)20gに硬化剤HARDENER N.2(EPTA社製)3gを添加したインクを用いて、1回スキージした。その後、凹版印刷版1をパッドに転写し、表1に示す複数色の繊維からなる杢布帛に第一印刷層を印刷した。続いて、凹版印刷版2をパッド印刷機に装着し、URETHANE2501 L WHITE(EPTA社製)20gに硬化剤HARDENER N.2(EPTA社製)3gを添加したインクを用いて、1回スキージした。その後、凹版印刷版2をパッドに転写し、第一印刷層上に第二印刷層を印刷した。こうして得られた印刷物を前述の評価方法で評価した結果、視覚情報の視認性が良好な印刷物を得ることができた。評価結果を表1に示す。また参考のため、その印刷物の写真を図1として示す。
【0048】
実施例2:第二印刷層を印刷する際に、URETHANE2500 COOLGRAY(EPTA社製)20gに硬化剤HARDENER N.2(EPTA社製)3gを添加したインクを用いたこと以外は実施例1と同様に印刷物を作製した。
【0049】
実施例3:
(1)凹版印刷版の作製
7cm×14cmの感光性樹脂印刷版原版PU52LRからカバーフィルムのポリエステルフィルムのみを剥離し、2cm×2cmに5ptの大きさの洗濯時の取り扱い情報を記載したポジフィルムを真空密着させ、ケミカル灯FL20SBL-360 20ワット(三菱電機オスラム(株)製)でグレースケール感度11±1段となる条件で露光した(第一露光)。次に、真空密着したポジフィルムを剥離し、350線75%のネガフィルムを真空密着し、主露光と同じ条件で露光した(第二露光)。その後、真空密着したポジフィルムを剥離した後に、液温25℃のエタノール水溶液(エタノール/水=80/20(質量比))でブラシ式現像装置により1分間現像し、60℃で10分間乾燥した。さらにケミカル灯FL20SBL-360 20ワット(三菱電機オスラム(株)製)で主露光と同条件で後露光し、版表面と凹部に設けられた網点間に存在する最深部の高低差が40μmである凹版印刷版3を得た。
【0050】
(2)印刷物の作製
凹版印刷版1を、hermetic6-12 universal(TAMPOPRINT社製、パッド印刷機)に装着し、URETHANE2502 EO BLACK(EPTA社製)20gに硬化剤HARDENER N.2(EPTA社製)3gを添加したインクを用いて、1回スキージした。その後、凹版印刷版1をパッドに転写し、表1に示す複数色の繊維からなる杢布帛に第一印刷層を印刷した。続いて、凹版印刷版3をパッド印刷機に装着し、URETHANE2501 L WHITE(EPTA社製)20gに硬化剤HARDENER N.2(EPTA社製)3gを添加したインクを用いて、1回スキージした。その後、凹版印刷版3をパッドに転写し、第一印刷層上に第二印刷層を印刷した。こうして得られた印刷物を前述の評価方法で評価した結果、視覚情報の視認性できる印刷物を得ることができた。
【0051】
実施例4:
(1)凹版印刷版の作製
7cm×14cmの感光性樹脂印刷版原版PU52LRからカバーフィルムのポリエステルフィルムを剥離し、3cm×3cmのベタ画像が形成されているポジフィルムを真空密着させ、ケミカル灯FL20SBL-360 20ワット(三菱電機オスラム(株)製)でグレースケール感度11±1段となる条件で露光した(第一露光)。次に、真空密着したポジフィルム(スクリーンフィルム)を剥離し、150線95%のネガフィルムを真空密着し、主露光と同じ条件で露光した(第二露光)。その後、真空密着したポジフィルムを剥離した後に、液温25℃のエタノール水溶液(エタノール/水=80/20(質量比))でブラシ式現像装置により1分間現像し、60℃で10分間乾燥した。さらにケミカル灯FL20SBL-360 20ワット(三菱電機オスラム(株)製)で主露光と同条件で後露光し、網点の頂部と凹部の最深部との高低差が120μmである凹版印刷版4を得た。
【0052】
(2)印刷物の作製
凹版印刷版1を、hermetic6-12 universal(TAMPOPRINT社製、パッド印刷機)に装着し、URETHANE2502 EO BLACK(EPTA社製)20gに硬化剤HARDENER N.2(EPTA社製)3gを添加したインクを用いて、1回スキージした。その後、凹版印刷版1をパッドに転写し、表1に示す複数色の繊維からなる杢布帛に第―印刷層を印刷した。続いて、凹版印刷版4をパッド印刷機に装着し、URETHANE2501 L WHITE(EPTA社製)20gに硬化剤HARDENER N.2(EPTA社製)3gを添加したインクを用いて、1回スキージした。その後、凹版印刷版4をパッドに転写し、第一印刷層上に第二印刷層を印刷した。こうして得られた印刷物を前述の評価方法で評価した結果、視覚情報の視認性の良好な印刷物を得ることができたが、布帛の裏側にインクが裏移りしていた。
【0053】
比較例1
表1に示す布帛に、凹版印刷版2をパッド印刷機に装着し、URETHANE2502 EO BLACK(EPTA社製)20gに硬化剤HARDENER N.2(EPTA社製)3gを添加したインクを用いて、1回スキージ後、パッドに転写することを経て印刷した。この印刷物は、本発明で言うところの第一印刷層は存在しない。得られた印刷物では視覚情報を視認できなかった。参考までに布帛印刷物の写真を図2に示す。
【0054】
【表1】
【符号の説明】
【0055】
1 第一印刷層
2 布帛
3 第二印刷層
4 布帛
5 第二印刷層
図1
図2