IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-燃料電池車両 図1
  • 特許-燃料電池車両 図2
  • 特許-燃料電池車両 図3
  • 特許-燃料電池車両 図4
  • 特許-燃料電池車両 図5
  • 特許-燃料電池車両 図6
  • 特許-燃料電池車両 図7
  • 特許-燃料電池車両 図8
  • 特許-燃料電池車両 図9
  • 特許-燃料電池車両 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】燃料電池車両
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04828 20160101AFI20231108BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20231108BHJP
   B60L 50/72 20190101ALI20231108BHJP
   B60L 58/30 20190101ALI20231108BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20231108BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20231108BHJP
   H01M 8/04313 20160101ALI20231108BHJP
   H01M 8/0432 20160101ALI20231108BHJP
   H01M 8/04492 20160101ALI20231108BHJP
   H01M 8/06 20160101ALI20231108BHJP
【FI】
H01M8/04828
B60L15/20 J
B60L50/72
B60L58/30
H01M8/00 Z
H01M8/04 Z
H01M8/04313
H01M8/0432
H01M8/04492
H01M8/06
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020000342
(22)【出願日】2020-01-06
(65)【公開番号】P2021111441
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】原山 貴司
(72)【発明者】
【氏名】浅井 綾乃
(72)【発明者】
【氏名】寺嶋 浩司
(72)【発明者】
【氏名】村田 成亮
(72)【発明者】
【氏名】山中 富夫
(72)【発明者】
【氏名】吉田 俊
【審査官】藤森 一真
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-090522(JP,A)
【文献】特開2015-118886(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102017218609(DE,A1)
【文献】特開2006-099994(JP,A)
【文献】特開2019-166928(JP,A)
【文献】特開2018-098039(JP,A)
【文献】特開2019-126127(JP,A)
【文献】特開2019-067662(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0270419(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00 - 3/12
B60L 7/00 - 13/00
B60L 15/00 - 58/40
H01M 8/04 - 8/0668
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池車両であって、
燃料電池と、
前記燃料電池の発電に伴って生成される生成水を貯留する貯留部と、
前記貯留部に前記生成水を貯留させる貯留状態と、前記貯留部から前記生成水を前記燃料電池車両の外部へと排出させる排水状態と、を切り替える排水弁と、
前記燃料電池車両が走行する道路に関する道路情報を取得する道路情報取得部と、
前記排水弁の動作を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記道路情報に関する予め定められた第一の条件であって前記排水状態を許容する第一の条件を満たす道路領域を、前記排水状態を許容する第一の道路領域として設定し、
前記燃料電池車両が前記第一の道路領域を走行していることを含む予め定められた排水実行条件が成立した場合に、排水を実行し、
前記道路情報は、前記燃料電池車両とは異なる他の燃料電池車両における前記道路への排水履歴に関する排水履歴情報を含み、
前記第一の条件は、前記他の燃料電池車両による前記道路への排水量と相関する値が予め定められた閾値以下である条件を含む、
燃料電池車両。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池車両において、
前記貯留部に貯留された前記生成水の貯留量を特定する特定部をさらに備え、
前記制御部は、特定された前記貯留量が多い場合に前記貯留量が少ない場合よりも広い領域を前記第一の道路領域として設定する、
燃料電池車両。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の燃料電池車両において、
前記制御部は、さらに、
前記道路情報に関する予め定められた第二の条件であって前記貯留状態とすべき第二の条件を満たす道路領域を、前記貯留状態とすべき第二の道路領域として設定し、
前記第二の道路領域において前記排水を実行しない、
燃料電池車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池車両に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、燃料電池の発電に伴って生成される生成水を外部に排出させる燃料電池車両が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-098039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、生成水をどこで排出させるかについては、何ら考慮されていない。しかし、例えば、打ち水の代替として生成水を排水させることが望ましい道路領域等、排水が望まれる道路領域も想定され得る。このため、適切な道路領域において燃料電池車両の外部へと生成水を排出できる技術が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
[形態1]燃料電池車両であって、燃料電池と、前記燃料電池の発電に伴って生成される生成水を貯留する貯留部と、前記貯留部に前記生成水を貯留させる貯留状態と、前記貯留部から前記生成水を前記燃料電池車両の外部へと排出させる排水状態と、を切り替える排水弁と、前記燃料電池車両が走行する道路に関する道路情報を取得する道路情報取得部と、前記排水弁の動作を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記道路情報に関する予め定められた第一の条件であって前記排水状態を許容する第一の条件を満たす道路領域を、前記排水状態を許容する第一の道路領域として設定し、前記燃料電池車両が前記第一の道路領域を走行していることを含む予め定められた排水実行条件が成立した場合に、排水を実行し、前記道路情報は、前記燃料電池車両とは異なる他の燃料電池車両における前記道路への排水履歴に関する排水履歴情報を含み、前記第一の条件は、前記他の燃料電池車両による前記道路への排水量と相関する値が予め定められた閾値以下である条件を含む、燃料電池車両
【0006】
(1)本開示の一形態によれば、燃料電池車両が提供される。この燃料電池車両は、燃料電池と、前記燃料電池の発電に伴って生成される生成水を貯留する貯留部と、前記貯留部に前記生成水を貯留させる貯留状態と、前記貯留部から前記生成水を前記燃料電池車両の外部へと排出させる排水状態と、を切り替える排水弁と、前記燃料電池車両が走行する道路に関する道路情報を取得する道路情報取得部と、前記排水弁の動作を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記道路情報に関する予め定められた第一の条件であって前記排水状態を許容する第一の条件を満たす道路領域を、前記排水状態を許容する第一の道路領域として設定し、前記燃料電池車両が前記第一の道路領域を走行していることを含む予め定められた排水実行条件が成立した場合に、排水を実行する。この形態の燃料電池車両によれば、制御部が、排水状態を許容する第一の条件を満たす道路領域を、排水状態を許容する第一の道路領域として設定し、燃料電池車両が第一の道路領域を走行していることを含む予め定められた排水実行条件が成立した場合に、排水を実行するので、適切な道路領域において燃料電池車両の外部へと生成水を排出できる。
(2)上記形態の燃料電池車両において、前記道路情報は、前記道路の路面温度と相関する温度相関情報を含み、前記第一の条件は、前記路面温度と相関する温度相関条件を含んでいてもよい。この形態の燃料電池車両によれば、道路情報に道路の路面温度と相関する温度相関情報が含まれ、第一の条件に路面温度と相関する温度相関条件が含まれるので、路面温度に応じた適切な道路領域において燃料電池車両の外部へと生成水を排出できる。
(3)上記形態の燃料電池車両において、前記貯留部に貯留された前記生成水の貯留量を特定する特定部をさらに備え、前記制御部は、特定された前記貯留量が多い場合に前記貯留量が少ない場合よりも広い領域を前記第一の道路領域として設定してもよい。この形態の燃料電池車両によれば、制御部が、特定された貯留量が多い場合に貯留量が少ない場合よりも広い領域を第一の道路領域として設定するので、貯留状態とすべき道路領域において貯留量が貯留部の貯留可能上限量を超えてしまって排水せざるを得ない状況となることを抑制でき、また、貯留量に余裕がある場合に、より適切な道路領域において生成水を排出できる。
(4)上記形態の燃料電池車両において、前記道路情報は、前記燃料電池車両とは異なる他の燃料電池車両における前記道路への排水履歴に関する排水履歴情報を含み、前記第一の条件は、前記他の燃料電池車両による前記道路への排水量と相関する値が予め定められた閾値以下である条件を含んでいてもよい。この形態の燃料電池車両によれば、道路情報に燃料電池車両とは異なる他の燃料電池車両における道路への排水履歴に関する排水履歴情報が含まれ、第一の条件に他の燃料電池車両による道路への排水量と相関する値が予め定められた閾値以下である条件が含まれるので、制御部が、他の燃料電池車両による排水が少ない領域を第一の道路領域として設定できる。このため、或る特定の道路領域において複数の燃料電池車両による排水が集中して実行されることを抑制できる。
(5)上記形態の燃料電池車両において、前記第一の条件は、予め定められた第一の優先条件と、前記第一の優先条件とは異なる予め定められた第二の優先条件と、をOR条件として含み、前記制御部は、前記第一の道路領域のうち、前記第一の優先条件を満たす第一の優先道路領域において、前記第二の優先条件を満たす第二の優先道路領域と比較して優先的に前記排水を実行してもよい。この形態の燃料電池車両によれば、第一の条件に第一の優先条件と第二の優先条件とがOR条件として含まれ、制御部が、第一の優先条件を満たす第一の優先道路領域において第二の優先条件を満たす第二の優先道路領域と比較して優先的に排水を実行するので、第一の優先条件と第二の優先条件とを調整することにより、より適切な道路領域において生成水を排水できる。
(6)上記形態の燃料電池車両において、前記制御部は、さらに、前記道路情報に関する予め定められた第二の条件であって前記貯留状態とすべき第二の条件を満たす道路領域を、前記貯留状態とすべき第二の道路領域として設定し、前記第二の道路領域において前記排水を実行しなくてもよい。この形態の燃料電池車両によれば、制御部が、貯留状態とすべき第二の条件を満たす道路領域を、貯留状態とすべき第二の道路領域として設定し、第二の道路領域において排水を実行しないので、生成水の排水が望ましくない道路領域において生成水が排水されることを抑制できる。
本開示は、種々の形態で実現することも可能である。例えば、燃料電池車両の制御方法、燃料電池車両の排水タイミング決定システム等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】燃料電池車両の概略構成を示すブロック図である。
図2】燃料電池システムの概略構成を示す説明図である。
図3】排水処理の手順を示すフローチャートである。
図4】第一の道路領域の一例を示す説明図である。
図5】第2実施形態の排水処理の手順を示すフローチャートである。
図6】第3実施形態の燃料電池車両の概略構成を示すブロック図である。
図7】第4実施形態の燃料電池車両の概略構成を示すブロック図である。
図8】第4実施形態の排水処理の手順を示すフローチャートである。
図9】第5実施形態の燃料電池車両の概略構成を示すブロック図である。
図10】第5実施形態の排水処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
A-1.装置構成:
図1は、本開示の一実施形態としての燃料電池車両100の概略構成を示すブロック図である。燃料電池車両100は、燃料電池10を含む燃料電池システム50と、走行用モータ55と、ナビゲーション装置70と、通信装置80と、制御装置90とを備えている。燃料電池車両100は、燃料電池10から電力の供給を受けた走行用モータ55によって駆動する。
【0009】
図2は、燃料電池システム50の概略構成を示す説明図である。燃料電池システム50は、燃料電池10と、空気供給排出系20と、水素供給排出系30とを有する。
【0010】
燃料電池10は、いわゆる固体高分子型燃料電池により構成されており、燃料ガスとしての水素と、酸化ガスとしての酸素を含む空気との供給を受けて発電する。燃料電池10は、複数の単セル11が積層されたスタック構造を有する。各単セルは、電解質膜の両面に電極を配置した膜電極接合体と、膜電極接合体を挟持する一対のセパレータとを有する。アノード側における膜電極接合体とセパレータとの間には、水素が流通するアノード流路が形成されている。カソード側における膜電極接合体とセパレータとの間には、酸化ガスが流通するカソード流路が形成されている。
【0011】
空気供給排出系20は、空気を燃料電池10に供給し、排出する。空気供給排出系20は、空気供給流路21と、コンプレッサ22と、開閉弁23と、空気排出流路24と、調圧弁25と、マフラ26とを有する。空気供給流路21は、一端が外気に連通しており、燃料電池10内に形成されたカソード流路の入口に他端が接続されている。コンプレッサ22は、後述する制御装置90の制御部92からの指令に応じて、空気供給流路21の一端から取り込まれた外気を圧縮して、空気供給流路21の他端側に設けられた開閉弁23の方へと送り出す。開閉弁23は、通常は閉じた状態であり、コンプレッサ22から送り出された圧縮ガスの圧力によって開弁し、燃料電池10のカソードへの圧縮ガスの流入を許容する。
【0012】
空気排出流路24は、燃料電池10内に形成されたカソード流路の出口に接続されており、燃料電池10のカソードから排出されるカソード排ガスを燃料電池システム50の外部へと導くための流路である。調圧弁25は、空気排出流路24に設けられており、制御部92からの指令に応じて燃料電池10のカソード側の背圧を調整する。マフラ26は、空気排出流路24において、消音のために設けられている。空気排出流路24におけるマフラ26よりも上流側には、後述する排気排水流路41が接続されている。
【0013】
水素供給排出系30は、水素タンク31から供給される水素を、燃料電池10に供給し、排出する。水素供給排出系30は、水素タンク31と、主止弁32と、水素供給流路33と、インジェクタ34と、水素排出流路35と、気液分離器40と、循環流路36と、水素ポンプ37と、排気排水流路41と、排水弁42とを有する。
【0014】
水素タンク31は、燃料電池10に供給するための水素を貯蔵している。主止弁32は、水素タンク31の口金に設けられており、制御部92からの指示に応じて開閉される。水素供給流路33は、水素タンク31と、燃料電池10内に形成されたアノード流路の入口とを接続する流路である。インジェクタ34は、水素供給流路33に設けられており、制御部92によって設定された駆動周期や開弁時間に応じて駆動し、水素を噴射する。
【0015】
水素排出流路35は、燃料電池10内に形成されたアノードから排出されるアノード排ガスの流路を構成している。アノード排ガスには、電気化学反応に用いられなかった水素に加えて、窒素ガス等の不純物ガスや燃料電池10の発電に伴って生成される生成水が含まれる。気液分離器40は、アノード排ガスに含まれる未消費の水素と生成水とを分離する。分離された生成水は、気液分離器40内に貯留される。循環流路36は、気液分離器40と、水素供給流路33のインジェクタ34よりも燃料電池10から遠い側とを接続している。水素ポンプ37は、循環流路36に配置され、アノード排ガスから分離された水素を水素供給流路33に循環させる。排気排水流路41は、気液分離器40とマフラ26とを接続する流路である。排水弁42は、排気排水流路41に配置されている。排水弁42は、例えばダイヤフラム弁により構成されている。排水弁42は、通常閉じられており、制御部92からの指令に応じて開かれる。排水弁42が閉弁されている状態では、気液分離器40内に生成水が貯留される。以下の説明では、排水弁42が閉じられている状態を、「貯留状態」とも呼ぶ。また、排水弁42が開弁されると、気液分離器40に貯留されていた生成水が排水として、排気排水流路41およびマフラ26を介して燃料電池システム50の外部へと排出される。以下の説明では、排水弁42が開かれている状態を、「排水状態」とも呼ぶ。
【0016】
図1に示すナビゲーション装置70は、GNSS(Global Navigation Satellite System)受信機を備えている。ナビゲーション装置70は、GNSSを構成する人工衛星から受信する航法信号に基づいて、燃料電池車両100の現在位置を表す現在位置情報を取得する。ナビゲーション装置70によって取得された現在位置情報は、制御部92へと送信される。また、ナビゲーション装置70には、地図情報が予め記憶されている。かかる地図情報は、地図に加えて、道路情報を有している。本実施形態において、道路情報には、道路の種別、道路の制限速度、道路勾配、橋、トンネル、踏切等の情報や、打ち水が推奨される道路領域の情報や、乾燥させたくない道路領域等の情報が含まれている。道路の種別としては、高速道路、自動車専用道路、砂利道等が該当する。なお、ナビゲーション装置70は、燃料電池車両100の乗員により設定される目的地情報を有していてもよい。ナビゲーション装置70が有する地図情報は、道路情報取得部94へと送信される。
【0017】
通信装置80は、高度道路交通システム(Intelligent Transport System)等の外部センターとの無線通信と、他の車両との車車間通信とを実行する。通信装置80は、燃料電池車両100の現在位置が含まれる地域の天気予報や季節情報を、外部センター等から取得して道路情報取得部94へと送信する。季節情報は、例えばカレンダーに基づく情報であり、3月~5月が春季、6月~8月が夏季、9月~11月が秋季、12月~2月が冬季等と定められてもよい。季節情報には、外気温の情報が含まれており、かかる外気温は、道路の路面温度と相関がある。なお、季節情報は、制御装置90に予め記憶されていてもよい。また、通信装置80は、上述の地図情報を、所定期間毎に、または乗員や外部センターからの指示により、無線通信を介して取得してもよい。
【0018】
制御装置90は、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)とを有するコンピュータにより構成されている。CPUは、ROMに予め記憶されている制御プログラムを実行することにより、制御部92、道路情報取得部94および特定部96として機能する。
【0019】
制御部92は、燃料電池システム50による発電を含めた燃料電池車両100の全体動作を制御する。制御部92は、燃料電池システム50のコンプレッサ22、開閉弁23、調圧弁25、主止弁32、インジェクタ34、水素ポンプ37、排水弁42とそれぞれ電気的に接続され、これらの動作を制御する。また、制御部92は、ナビゲーション装置70によって取得された現在位置情報を受信する。また、制御部92は、後述する排水処理を実行する。
【0020】
道路情報取得部94は、燃料電池車両100が走行する道路に関する道路情報を取得する。より具体的には、本実施形態の道路情報取得部94は、ナビゲーション装置70が有する地図情報と通信装置80が取得した情報とを、それぞれ受信して取得することにより、道路情報を取得する。
【0021】
特定部96は、気液分離器40に貯留された生成水の貯留量を特定する。本実施形態において、特定部96は、生成水の貯留量を推定して特定する。より具体的には、特定部96は、燃料電池10の発電量や含水量、水温、反応ガスの水蒸気分圧等のパラメータを用いて、既知の関数式やマップを用いて推定し、特定する。なお、貯留量の推定に代えて、気液分離器40に水位センサが設けられて、かかる水位センサの検出信号に基づいて特定部96が貯留量を特定してもよい。水位センサは、例えば、排水処理の実行の契機を示す貯留量と対応する位置に配置される。
【0022】
A-2.排水処理:
図3は、排水処理の手順を示すフローチャートである。本実施形態の排水処理は、気液分離器40に貯留されて特定部96により特定された生成水の貯留量が、所定量を超えたことを契機として実行される。かかる所定量は、気液分離器40における生成水の貯留可能上限量よりも少ない量を示す値として、予め設定されて制御装置90のROMに記憶されている。
【0023】
制御部92は、ナビゲーション装置70から、現在位置情報を取得する(ステップS110)。道路情報取得部94は、燃料電池車両100が走行する道路に関する道路情報を取得する(ステップS120)。ステップS120において、道路情報取得部94は、燃料電池車両100の現在位置を中心とした所定の範囲の道路に関する道路情報を取得する。制御部92は、第一の条件を満たす道路領域を、排水状態を許容する第一の道路領域として設定する(ステップS130)。
【0024】
第一の条件は、道路情報に関する条件であって排水状態を許容する条件として、予め定められて制御装置90のROMに記憶されている。なお、第一の条件は、通信装置80を介して外部センター等から取得されてもよい。第一の条件は、例えば、下記(a)~(c)のようなOR条件であってもよい。なお、第一の条件は、下記(a)~(c)のような互いに異なる複数の条件を、互いにOR条件として全て含む1つの条件として設定されていてもよい。
(a)夏季であり、かつ、交差点ではなく、かつ、打ち水が推奨される道路領域であること
(b)春季または秋季であり、かつ、交差点ではないこと
(c)冬季であり、かつ、交差点ではなく、かつ、道路勾配が1%以下である平地であり、かつ、制限速度が予め定められた閾値以下である道路領域であること
【0025】
制御部92は、「夏季であること」と「春季または秋季であること」と「冬季であること」とを、カレンダーに基づいて特定する。また、制御部92は、打ち水が推奨される道路領域であることや、交差点でないことや、道路勾配が1%以下である平地であることや、制限速度が予め定められた閾値以下である道路領域であることを、ナビゲーション装置70が有する地図情報に基づいて特定する。
【0026】
夏季には、打ち水が推奨される道路領域において生成水の排水を許容することで、燃料電池10の生成水を有効活用して、気化熱による路面の温度上昇を抑制できる。また、交差点は、季節に関わらず生成水の排水が望ましくない。このため、第一の条件に「交差点ではないこと」が含まれることにより、交差点での排水が許容されないこととなる。また、冬季は、排水が路面で凍結するおそれがあるため、凍結による影響が小さい道路領域、すなわち、「交差点ではなく、かつ、道路勾配が1%以下である平地であり、かつ、制限速度が予め定められた閾値以下である道路領域」において生成水の排水を許容することで、安全性の低下を抑制できる。なお、「制限速度が予め定められた閾値以下である道路領域」とは、制限速度が比較的遅い道路領域を示しており、例えば、制限速度が40km/h以下の道路領域であってもよい。
【0027】
制御部92は、ステップS130において、第一の条件と道路情報とを照合することにより、第一の道路領域を設定する。例えば、制御部92は、道路情報取得部94が取得した季節情報が「夏季」である場合には、条件(a)を適用し、道路情報取得部94がナビゲーション装置70から取得した地図情報において、交差点ではなく、かつ、打ち水が推奨される道路領域を、第一の道路領域として設定する。また、例えば、取得した季節情報が「冬季」である場合には、条件(c)を適用し、地図情報において、交差点ではなく、かつ、道路勾配が1%以下である平地であり、かつ、制限速度が予め定められた閾値以下である道路領域を、第一の道路領域として設定する。
【0028】
図4は、第一の道路領域R1の一例を示す説明図である。図4では、第一の条件として条件(b)が適用された場合に設定された第一の道路領域R1の一例を示している。第一の道路領域R1は、交差点Cではない領域に設定されている。第一の道路領域R1は、ナビゲーション装置70の地図情報Mを示す画面上において、地図情報Mと重ね合わされて表示されてもよい。
【0029】
図3に示すように、制御部92は、排水実行条件が成立したか否かを特定する(ステップS140)。排水実行条件は、排水を実行するための条件として、予め設定されて制御装置90のROMに記憶されている。本実施形態において、排水実行条件は、「燃料電池車両100が第一の道路領域R1を走行している」との条件である。
【0030】
ステップS140において、制御部92は、ナビゲーション装置70によって取得された現在位置情報を用いて、燃料電池車両100が第一の道路領域R1を走行しているか否かを特定する。燃料電池車両100が第一の道路領域R1を走行しておらず、排水実行条件が成立していないと特定された場合(ステップS140:NO)、処理は、ステップS110に戻る。他方、燃料電池車両100が第一の道路領域R1を走行しており、排水実行条件が成立していると特定された場合(ステップS140:YES)、制御部92は、排水を実行する(ステップS150)。ステップS150の実行により、排水処理は完了する。
【0031】
本実施形態では、ステップS150において、制御部92は、排水弁42を閉弁状態から開弁状態へと切り替える制御を実行して、貯留状態から排水状態へと切り替える。すなわち、排水動作が制御部92によって自動的に実行される。燃料電池車両100において排水が実行されると、かかる排水に関する情報(以下、「排水履歴情報」とも呼ぶ)が、通信装置80による無線通信を介して外部センターおよび他の車両に通知されてもよい。排水履歴情報としては、排水が実行された道路領域を示す情報や排水量等が該当する。かかる通知を受け取った車両では、ナビゲーション装置の地図情報を示す画面上において、排水履歴情報が地図情報と重ね合わされて表示されてもよい。これにより、他の車両は、排水が実行された道路領域を知ることができるので、排水が実行された道路領域を避けて走行することができる。このため、例えば、排水による路面凍結に起因するスリップを抑制できる。なお、排水が実行された燃料電池車両100においても、ナビゲーション装置70の地図情報Mを示す画面上において、排水履歴情報が地図情報Mと重ね合わされて表示されてもよい。
【0032】
本実施形態において、気液分離器40は、本開示における貯留部に対応し、季節情報は、本開示における道路の路面温度と相関する温度相関情報に対応し、「夏季である」と「春季または秋季である」と「冬季である」とは、それぞれ本開示における路面温度と相関する温度相関条件に対応する。
【0033】
以上説明した第1実施形態の燃料電池車両100によれば、制御部92は、排水状態を許容する第一の条件を満たす道路領域を、排水状態を許容する第一の道路領域R1として設定し、燃料電池車両100が第一の道路領域R1を走行していることを含む予め定められた排水実行条件が成立した場合に、排水を実行する。このため、生成水の排水が望ましい道路領域を示す条件を第一の条件として設定することにより、適切な道路領域において燃料電池車両100の外部へと生成水を排出できる。したがって、燃料電池10の生成水を有効活用でき、また、生成水の排水が望ましくない交差点C等の道路領域において生成水が排水されることを抑制できる。
【0034】
また、道路情報取得部94が取得する道路情報が、道路の路面温度と相関する温度相関情報としての季節情報を含んでおり、第一の条件が、路面温度と相関する温度相関条件としての季節に関する条件を含んでいるので、季節に応じた適切な道路領域において燃料電池車両100の外部へと生成水を排出できる。例えば、路面温度が高い夏季に打ち水が推奨される領域において生成水を排水させることができるので、燃料電池10の生成水を有効活用して気化熱により路面の温度上昇を抑制できる。また、例えば、路面温度が低い冬季に排水が路面で凍結することに起因する安全性の低下を抑制できる。したがって、路面温度に応じた適切な道路領域において燃料電池車両100の外部へと生成水を排出できる。
【0035】
B.第2実施形態:
第2実施形態の燃料電池車両100は、排水処理の具体的手順において、第1実施形態の燃料電池車両100と異なる。その他の構成は、第1実施形態と同様であるので、同一の構成には同一の符号を付し、それらの詳細な説明を省略する。
【0036】
図5は、第2実施形態の排水処理の手順を示すフローチャートである。第2実施形態の排水処理は、ステップS130よりも前にステップS125aがさらに実行される点と、第一の条件の具体的な内容とにおいて、第1実施形態の排水処理と異なる。
【0037】
特定部96は、ステップS120の実行後、気液分離器40に貯留された生成水の貯留量を特定する(ステップS125a)。本実施形態において、特定部96は、生成水の貯留量を上述のように推定して特定するが、気液分離器40に水位センサが設けられて、かかる水位センサの検出信号に基づいて特定してもよい。水位センサは、例えば、後述する貯留量閾値と対応する位置に配置される。なお、ステップS125aは、ステップS110やステップS120よりも前に実行されてもよい。
【0038】
制御部92は、第一の条件を満たす道路領域を、排水状態を許容する第一の道路領域として設定する(ステップS130)。
【0039】
第2実施形態において、第一の条件は、例えば、下記(d)、(e)のようなOR条件であってもよい。なお、説明の便宜上、第一の条件の一部が「冬季である」ものを代表して示している。
(d)冬季であり、かつ、交差点ではなく、かつ、道路勾配が1%以下である平地であり、かつ、制限速度が60km/h以下である道路領域であること(ただし、生成水の貯留量が貯留量閾値を超える場合に適用される)
(e)冬季であり、かつ、交差点ではなく、かつ、平地であり、かつ、制限速度が40km/h以下である道路領域であること(ただし、生成水の貯留量が貯留量閾値以下の場合に適用される)
【0040】
貯留量閾値は、気液分離器40における生成水の貯留可能上限量よりも少ない量を示す値として、予め設定されて制御装置90のROMに記憶されている。ステップS130において、制御部92は、ステップS125aにおいて特定部96によって特定された生成水の貯留量が貯留量閾値を超える場合に条件(d)を適用し、貯留量が貯留量閾値以下の場合に条件(e)を適用する。制御部92は、適用された第一の条件に適合する道路領域を、第一の道路領域として設定する。
【0041】
条件(d)は、条件(e)と比較して、制限速度に関する条件が緩和されている。このため、条件(d)に適合する道路領域は、条件(e)に適合する道路領域よりも広い。
【0042】
制御部92は、排水実行条件が成立したか否かを特定する(ステップS140)。燃料電池車両100が第一の道路領域を走行しておらず、排水実行条件が成立していないと特定された場合(ステップS140:NO)、処理は、ステップS110に戻る。他方、燃料電池車両100が第一の道路領域R1を走行しており、排水実行条件が成立していると特定された場合(ステップS140:YES)、制御部92は、排水を実行する(ステップS150)。
【0043】
以上説明した第2実施形態の燃料電池車両100によれば、第1実施形態と同様な効果を奏する。加えて、制御部92が、生成水の貯留量に応じた第一の条件を適用し、第一の条件を満たす道路領域を第一の道路領域として設定するので、生成水の貯留量に応じて第一の道路領域を設定できる。より具体的には、貯留量が多い場合に貯留量が少ない場合よりも広い領域を第一の道路領域として設定するので、貯留量が多い場合に貯留量が少ない場合よりも広い領域において排水が可能となる。このため、貯留状態とすべき道路領域において貯留量が気液分離器40の貯留可能上限量を超えてしまって排水せざるを得ない状況となることを抑制でき、また、気液分離器40の貯留量に余裕がある場合に、より適切な道路領域において生成水を排出できる。
【0044】
C.第3実施形態:
図6は、第3実施形態の燃料電池車両100bの概略構成を示すブロック図である。第3実施形態の燃料電池車両100bは、制御装置90に代えて制御装置90bを備える点と、第一の条件の具体的な内容とにおいて、第1実施形態の燃料電池車両100と異なる。排水処理の具体的手順を含めた他の構成は、第1実施形態と同様であるので、同一の構成には同一の符号を付し、それらの詳細な説明を省略する。
【0045】
制御装置90bが有する道路情報取得部94bは、道路情報の一つである排水履歴情報を、通信装置80を介して取得する。第3実施形態において、排水履歴情報とは、燃料電池車両100bとは異なる他の燃料電池車両における道路への排水履歴に関する情報を意味している。通信装置80は、かかる排水履歴情報を、無線通信を介して外部センターから受信するが、外部センターに限らず他の燃料電池車両から受信してもよい。
【0046】
第3実施形態において、第一の条件は、例えば、下記(f)のような条件であってもよい。なお、説明の便宜上、第一の条件の一部が「冬季である」ものを代表して示している。
(f)冬季であり、かつ、交差点ではなく、かつ、道路勾配が1%以下である平地であり、かつ、制限速度が予め定められた閾値以下である道路領域であり、かつ、所定期間内における他の燃料電池車両による排水回数が閾値以下であること
【0047】
閾値は、或る特定の道路領域において複数の燃料電池車両による排水が集中して実行されることを防ぐための値として、予め設定されて制御装置90bのROMに記憶されている。本実施形態において、閾値は、所定期間内における他の燃料電池車両による排水の回数の値として、例えば、5回等の値に設定されている。すなわち、他の燃料電池車両の排水が5回以上行われている道路領域は、第一の道路領域に適合しないこととなる。
【0048】
閾値は、排水回数に限らず、排水量により表される値であってもよい。すなわち、閾値は、他の燃料電池車両による道路への排水量と相関する値であってもよい。外部センターから排水履歴情報を受信する態様においては、外部センターが他の複数の燃料電池車両の排水回数の合計値や排水量の合計値を算出してもよく、他の燃料電池車両から排水履歴情報を受信する態様においては、道路情報取得部94bが他の複数の燃料電池車両の排水回数の合計値や排水量の合計値を算出してもよい。
【0049】
以上説明した第3実施形態の燃料電池車両100bによれば、第1実施形態と同様な効果を奏する。加えて、道路情報が排水履歴情報を含み、第一の条件が他の燃料電池車両による道路への排水量と相関する値が予め定められた閾値以下である条件を含むので、制御部92bは、他の燃料電池車両による排水が少ない領域を第一の道路領域として設定できる。このため、或る特定の道路領域において複数の燃料電池車両による排水が集中して実行されることを抑制できる。
【0050】
D.第4実施形態:
図7は、第4実施形態の燃料電池車両100cの概略構成を示すブロック図である。第4実施形態の燃料電池車両100cは、制御装置90に代えて制御装置90cを備える点と、排水処理の具体的手順とにおいて、第1実施形態の燃料電池車両100と異なる。その他の構成は、第1実施形態と同様であるので、同一の構成には同一の符号を付し、それらの詳細な説明を省略する。
【0051】
第4実施形態において、第一の条件は、第一の優先条件と第二の優先条件とをOR条件として含んでいる。第一の優先条件と第二の優先条件とは、互いに異なる条件として、予め設定されて制御装置90cのROMに記憶されている。第4実施形態の制御装置90cが有する制御部92cは、排水処理において、第一の道路領域のうち、第一の優先条件を満たす道路領域において、第二の優先条件を満たす道路領域と比較して優先的に排水を実行する。
【0052】
図8は、第4実施形態の排水処理の手順を示すフローチャートである。第4実施形態の排水処理は、ステップS130~ステップS140に代えてステップS132c~ステップS144cが実行される点と、第一の条件の具体的な内容とにおいて、第1実施形態の排水処理と異なる。
【0053】
制御部92cは、ステップS120の実行後、第一の優先条件を満たす道路領域を、排水状態を許容する第一の優先道路領域として設定する(ステップS132c)。制御部92cは、第二の優先条件を満たす道路領域を、排水状態を許容する第二の優先道路領域として設定する(ステップS134c)。第一の優先道路領域および第二の優先道路領域は、いずれも第一の道路領域に含まれる。
【0054】
第4実施形態において、第一の優先条件は、例えば、下記(g)のような条件であってもよく、第二の優先条件は、例えば、下記(h)のような条件であってもよい。
(g)交差点ではなく、かつ、砂利道である
(h)交差点ではなく、かつ、舗装道路である
【0055】
舗装道路には、アスファルト舗装やコンクリート舗装等の舗装が施された道路が該当する。一般に、砂利道は、舗装道路よりも透水性に優れる。このため、砂利道の路面上に排水された生成水は、舗装道路の路面上に排水される場合と比較して、地中へとより浸透しやすく、路面上に残存することが抑制される。そこで、舗装道路よりも砂利道において優先的に排水が実行されるように、第一の優先条件として上記(g)のような条件が設定されている。
【0056】
制御部92cは、燃料電池車両100cが第一の優先道路領域を走行しているか否かを特定する(ステップS142c)。ステップS142cでは、排水実行条件として「燃料電池車両100cが第一の優先道路領域を走行している」との条件が成立したか否かが特定されることとなる。第一の優先道路領域を走行していると特定された場合(ステップS142c:YES)、すなわち、排水実行条件が成立していると特定された場合、制御部92cは、排水を実行する(ステップS150)。これにより、第一の優先道路領域において、生成水の排水が実行される。
【0057】
ステップS142cにおいて、第一の優先道路領域を走行していないと特定された場合(ステップS142c:NO)、すなわち、排水実行条件が成立していないと特定された場合、制御部92cは、燃料電池車両100cが第二の優先道路領域を走行しているか否かを特定する(ステップS144c)。ステップS142cとステップS144cとの実行により、制御部92cは、「燃料電池車両100が第一の優先道路領域を走行しておらず、かつ、第二の優先道路領域を走行している」との排水実行条件が成立したか否かを特定することとなる。第二の優先道路領域を走行していないと特定された場合(ステップS144c:NO)、すなわち、排水実行条件が成立していないと特定された場合、処理は、ステップS110に戻る。
【0058】
ステップS144cにおいて、第二の優先道路領域を走行していると特定された場合(ステップS144c:YES)、すなわち、排水実行条件が成立していると特定された場合、制御部92cは、排水を実行する(ステップS150)。これにより、第二の優先道路領域において、生成水の排水が実行される。このようにして、制御部92cは、第一の道路領域のうち、第一の優先条件を満たす第一の優先道路領域において、第二の優先条件を満たす第二の優先道路領域と比較して優先的に排水を実行する。
【0059】
以上説明した第4実施形態の燃料電池車両100cによれば、第1実施形態と同様な効果を奏する。加えて、第一の条件が第一の優先条件と第二の優先条件とを含み、制御部92cは、第一の道路領域のうち、第一の優先条件を満たす第一の優先道路領域において、第二の優先条件を満たす第二の優先道路領域と比較して優先的に排水を実行するので、第一の優先条件と第二の優先条件とを調整することにより、より適切な道路領域において生成水を排水できる。
【0060】
E.第5実施形態:
図9は、第5実施形態の燃料電池車両100dの概略構成を示すブロック図である。第5実施形態の燃料電池車両100dは、排水スイッチ60dをさらに備えることにより排水動作の開始の契機が手動で与えられる点と、制御装置90に代えて制御装置90dを備える点と、排水処理の具体的手順とにおいて、第1実施形態の燃料電池車両100と異なる。その他の構成は、第1実施形態と同様であるので、同一の構成には同一の符号を付し、それらの詳細な説明を省略する。
【0061】
排水スイッチ60dは、貯留状態から排水状態への切り替え動作の実行、すなわち排水の実行を指示するためのスイッチである。排水スイッチ60dは、制御部92dによって、アクティブ状態と非アクティブ状態とが切り替えられている。排水スイッチ60dがアクティブ状態である時には、乗員による排水スイッチ60dの押下げが可能となる。この状態において排水スイッチ60dが押下げられると、制御部92dを介して排水弁42が閉弁状態から開弁状態へと切り替えられる。他方、排水スイッチ60dが非アクティブ状態である時には、乗員による排水スイッチ60dの押下げが不可能となる。この状態においては、乗員が排水スイッチ60dを押下げて排水しようとしても、排水は実行されないこととなる。
【0062】
本実施形態において、排水スイッチ60dは、後述するように、制御部92dによって排水状態が許可されている場合にアクティブ状態とされ、排水状態が禁止されている場合に非アクティブ状態とされる。排水スイッチ60dがアクティブ状態であるか非アクティブ状態であるかは、例えば、排水スイッチ60dの色が切り替えられて表示されることにより乗員に示されてもよく、音声によって乗員に通知されてもよい。これにより、乗員は、排水スイッチ60dがアクティブ状態である場合には生成水の排水が推奨されるものとして、排水スイッチ60dを押し下げるタイミングを知ることができる。
【0063】
第5実施形態の制御装置90dが有する制御部92dは、排水処理において、さらに、貯留状態とすべき第二の道路領域を設定する。
【0064】
図10は、第5実施形態の排水処理の手順を示すフローチャートである。本実施形態の排水処理は、第1実施形態の排水処理と同様に、気液分離器40に貯留されて特定部96により特定された生成水の貯留量が、所定量を超えたことを契機として実行される。本実施形態において、排水処理の開始時における排水スイッチ60dの状態は、非アクティブ状態である。制御部92dは、ステップS120の実行後、第一実施形態と同様に、第一の条件を満たす道路領域を、排水状態を許容する第一の道路領域として設定する(ステップS130)。また、制御部92dは、第二の条件を満たす道路領域を、貯留状態とすべき第二の道路領域として設定する(ステップS136d)。
【0065】
第二の条件は、道路情報に関する条件であって貯留状態とすべき条件として、予め定められて制御装置90dのROMに記憶されている。なお、第二の条件は、通信装置80を介して外部センターから取得されてもよい。第二の条件は、例えば、下記(i)のような条件であってもよい。
(i)交差点である
【0066】
制御部92dは、ステップS136dにおいて、第二の条件と道路情報とを照合することにより、第二の道路領域を設定する。第二の道路領域は、ナビゲーション装置70の地図情報を示す画面上において、地図情報と重ね合わされて表示されてもよい。
【0067】
制御部92dは、燃料電池車両100dが第一の道路領域を走行しているか否かを特定する(ステップS140d)。ステップS140dにおいて、制御部92dは、ナビゲーション装置70によって取得された現在位置情報を用いて、燃料電池車両100dが第一の道路領域を走行しているか否かを特定する。燃料電池車両100dが第一の道路領域を走行していると特定された場合(ステップS140d:YES)、制御部92dは、排水状態を許可する(ステップS152d)。ステップS152dの実行により、排水スイッチ60dが非アクティブ状態からアクティブ状態へと切り替えられるとともに、排水スイッチ60dがアクティブ状態となったことが乗員に通知される。
【0068】
制御部92dは、排水スイッチ60dが押下げられたか否かを特定する(ステップS154d)。排水スイッチ60dが押下げられていないと特定された場合(ステップS154d:NO)、処理は、ステップS140dに戻る。他方、排水スイッチ60dが押下げられたと特定された場合(ステップS154d:YES)、制御部92dは、排水を実行する(ステップS150)。本実施形態では、ステップS140dがYESであり、かつ、ステップS154dがYESである場合に、排水が実行される。ステップS140dとステップS154dとの実行により、制御部92dは、「燃料電池車両100が第一の道路領域を走行しており、かつ、排水スイッチ60dが押下げられた」との排水実行条件が成立したか否かを特定している。
【0069】
ステップS140dにおいて、燃料電池車両100dが第一の道路領域を走行していないと特定された場合(ステップS140d:NO)、制御部92dは、燃料電池車両100dが第二の道路領域を走行しているか否かを特定する(ステップS148d)。燃料電池車両100dが第二の道路領域を走行していないと特定された場合(ステップS148d:NO)、処理は、ステップS110に戻る。他方、第二の道路領域を走行していると特定された場合(ステップS148d:YES)、制御部92dは、排水状態を禁止する(ステップS156d)。本実施形態において、排水処理の開始時における排水スイッチ60dの状態は、非アクティブ状態であったため、ステップS156dでは、排水スイッチ60dの非アクティブ状態が維持される。この場合、第二の道路領域を走行しているタイミングにおいて乗員が排水スイッチ60dを押下げて排水しようとしても、排水は実行されないこととなる。すなわち、制御部92dは、第二の道路領域において排水を実行しないこととなる。ステップS156dの実行後、処理は、ステップS110に戻る。
【0070】
以上説明した第5実施形態の燃料電池車両100dによれば、第1実施形態と同様な効果を奏する。加えて、制御部92dが、貯留状態とすべき第二の条件を満たす道路領域を、貯留状態とすべき第二の道路領域として設定し、第二の道路領域において排水を実行しない。このため、生成水の排水が望ましくない道路領域において生成水が排水されることを抑制できる。
【0071】
F.他の実施形態:
F-1.他の実施形態1:
上記各実施形態において例示されていた第一の条件、第一の優先条件、第二の優先条件、第二の条件は、あくまで一例であり、種々変更可能である。例えば、上記第1実施形態において、第一の条件が、下記(j)のような条件であってもよい。
(j)外部センターによって指定された道路領域であること
かかる条件が適用されることにより、外部センターによって指定された道路領域を第一の道路領域として設定して排水を実行できるので、渋滞等の道路状況に応じて、より適切な道路領域において燃料電池車両100の外部へと生成水を排出できる。
【0072】
F-2.他の実施形態2:
上記第1~3実施形態では、道路情報取得部94、94bが取得する道路情報が季節情報を含んでおり、第一の条件が季節に関する条件を含んでいたが、本開示はこれに限定されるものではない。例えば、道路情報取得部94、94bが取得する天気予報に、燃料電池車両100、100b、100cの現在位置が含まれる地域の現在の気温情報が含まれていてもよく、かかる気温情報を道路情報の一つとして取得する態様であってもよい。かかる態様においては、例えば、第一の条件が、路面温度と相関する温度相関条件を含む下記(a2)、(b2)、(c2)のような条件であってもよい。
(a2)外気温が35℃以上であり、かつ、交差点ではなく、かつ、打ち水が推奨される道路領域であること
(b2)外気温が0℃以上35℃未満であり、かつ、交差点ではないこと
(c2)外気温が0℃未満であり、かつ、交差点ではなく、かつ、道路勾配が1%以下である平地であり、かつ、制限速度が予め定められた閾値以下である道路領域であること
現在の気温情報は、本開示における温度相関情報に対応し、「外気温が35℃以上であること」と「外気温が0℃以上35℃未満であること」と「外気温が0℃未満であること」とは、本開示における温度相関条件に対応する。また、第一の条件において、路面温度と相関する温度相関条件が省略されていてもよく、季節や気温に関わらず共通の第一の条件が設定されてもよい。このような構成によっても、上記第1~3実施形態と同様な効果を奏する。
【0073】
F-3.他の実施形態3:
上記各実施形態において、道路情報取得部94、94bは、ナビゲーション装置70が有する地図情報と通信装置80が取得した情報とを、それぞれ受信して取得していたが、本開示はこれに限定されるものではない。例えば、ナビゲーション装置70が有する地図情報と通信装置80が取得した情報とのうちのいずれか一方を取得することにより道路情報を取得してもよい。また、例えば、燃料電池車両100、100~100dの走行環境における外気温を検出する外気温センサを燃料電池車両100、100~100dが備え、道路情報取得部94、94bは、かかる外気温センサによって検出された外気温の情報を道路情報の一つとして取得してもよい。また、例えば、燃料電池車両100、100a~100dが走行する道路の前方における情報を取得する監視センサを燃料電池車両100、100a~100dが備え、道路情報取得部94、94bは、かかる監視センサによって検出された情報を道路情報の一つとして取得してもよい。監視センサは、例えば、撮像カメラ、電波レーダ、レーザレーダ、超音波センサ等の任意のセンサにより構成されており、交差点の有無や砂利道等を検出可能に構成されていてもよい。道路情報取得部94、94bが外気温センサや監視センサの検出結果を取得する態様によっても、上記各実施形態と同様な効果を奏し、また、外部センター等との通信を省略できる。
【0074】
F-4.他の実施形態4:
上記第1~4実施形態の燃料電池車両100、100b、100cでは、排水動作が制御部92、92b、92cによって自動的に実行されていたが、上記第5実施形態と同様に排水スイッチが搭載されて、乗員からの指示に基づいて排水動作の開始の契機が与えられる態様であってもよい。かかる態様において、排水スイッチは、排水状態が許可されている場合にアクティブ状態とされ、排水状態が許可されていない場合に非アクティブ状態とされる。また、かかる態様において、排水実行条件は、「燃料電池車両100、100bが第一の道路領域を走行しており、かつ、排水スイッチが押下げられた」との条件や、「燃料電池車両100cが第一の優先道路領域を走行しており、かつ、排水スイッチが押下げられた」との条件や、「燃料電池車両100cが第二の優先道路領域を走行しており、かつ、排水スイッチが押下げられた」との条件であってもよい。また、上記第5実施形態の燃料電池車両100dでは、排水動作の開始の契機が乗員による排水スイッチ60dの押下げに基づいていたが、上記第1~4実施形態と同様に、排水スイッチ60dが省略されて、排水動作が制御部92dによって自動的に実行されてもよい。このような構成によっても、上記各実施形態と同様な効果を奏する。
【0075】
F-5.他の実施形態5:
上記第4実施形態の燃料電池車両100cでは、第二の優先道路領域を走行していると特定された場合に、第二の優先道路領域において排水が実行されていたが、本開示はこれに限定されるものではない。例えば、第二の優先道路領域を走行していると特定された場合に、さらに、燃料電池車両100cが第一の優先道路領域を走行予定であるか否かが特定される態様であってもよい。かかる態様においては、第一の優先道路領域を走行予定であると特定された場合に、ステップS110に戻り、第一の優先道路領域を走行予定でないと特定された場合に、第二の優先道路領域において排水が実行されてもよい。すなわち、第二の優先道路領域における排水実行条件が、「燃料電池車両100cが第二の優先道路領域を走行しており、かつ、第一の優先道路領域を走行予定でない」との条件であってもよい。燃料電池車両100cが第一の優先道路領域を走行予定であるか否かは、ナビゲーション装置70において乗員によって設定される目的地情報に基づいて特定されてもよい。例えば、燃料電池車両100cの現在位置から目的地へと向かう走行経路上において、燃料電池車両100cの現在位置を起点とする所定の範囲内に第一の優先道路領域が存在するか否かにより特定されてもよい。かかる構成によれば、燃料電池車両100cが第一の優先道路領域を走行予定である場合には、第一の優先道路領域において排水が実行され、第一の優先道路領域を走行予定ではない場合には、第二の優先道路領域において排水が実行される。かかる構成によっても、第一の優先道路領域において、第二の優先道路領域と比較して優先的に排水を実行できる。
【0076】
F-6.他の実施形態6:
上記各実施形態の排水処理は、気液分離器40に貯留されている生成水の量が所定量を超えたことを契機として実行されていたが、本開示はこれに限定されるものではない。例えば、燃料電池車両100、100b~100dを起動させるための図示しない起動スイッチがオンにされてから起動スイッチがオフにされるまでの期間内において、制御部92、92b、92cによって、所定のインターバルで繰り返し実行されてもよい。なお、所定のインターバルは、例えば、1秒等であってもよい。かかる構成によっても、上記各実施形態と同様な効果を奏し、また、第1、3~5実施形態においては、特定部96を省略できる。
【0077】
F-7.他の実施形態7:
上記各実施形態では、気液分離器40に生成水が貯留されていたが、気液分離器40に限らず、生成水を貯留可能な任意の貯留部に生成水が貯留されてもよい。例えば、気液分離器40と排水弁42との間に貯留部が設けられていてもよく、車室空間を加湿する加湿タンクが貯留部として機能してもよい。また、例えば、マフラ26の内部に遠心分離や邪魔板等によって生成水を分離可能な第二の気液分離器が設けられて、かかる第二の気液分離器の下流側に貯留部および排水弁が設けられていてもよい。すなわち一般には、燃料電池車両100、100b~100dは、燃料電池10の発電に伴って生成される生成水を貯留する貯留部と、貯留部に生成水を貯留させる貯留状態と貯留部から生成水を燃料電池車両100、100b~100dの外部へと排出させる排水状態とを切り替える排水弁とを備えていてもよい。かかる構成によっても、上記各実施形態と同様な効果を奏する。
【0078】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行なうことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0079】
10…燃料電池、11…単セル、20…空気供給排出系、21…空気供給流路、22…コンプレッサ、23…開閉弁、24…空気排出流路、25…調圧弁、26…マフラ、30…水素供給排出系、31…水素タンク、32…主止弁、33…水素供給流路、34…インジェクタ、35…水素排出流路、36…循環流路、37…水素ポンプ、40…気液分離器(貯留部)、41…排気排水流路、42…排水弁、50…燃料電池システム、55…走行用モータ、60d…排水スイッチ、70…ナビゲーション装置、80…通信装置、90、90b~90d…制御装置、92、92b~92d…制御部、94、94b…道路情報取得部、96…特定部、100、100b~100d…燃料電池車両、C…交差点、M…地図情報、R1…第一の道路領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10