(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】定着装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20231108BHJP
G03G 21/00 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
G03G15/20 510
G03G21/00 386
G03G21/00 512
(21)【出願番号】P 2020002719
(22)【出願日】2020-01-10
【審査請求日】2022-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【氏名又は名称】北村 周彦
(72)【発明者】
【氏名】國政 拓人
【審査官】金田 理香
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-199029(JP,A)
【文献】特開2017-097192(JP,A)
【文献】特開2015-055850(JP,A)
【文献】特開2015-099199(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 13/02
13/14-13/16
13/20
13/34
15/00
15/02
15/14-15/16
15/20
15/36
21/00-21/02
21/14
21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能な定着部材と、
前記定着部材との間にシートを挟持して搬送する加圧ローラーと、
単一の光源と単一の画像センサーを有し、前記定着部材の前記シートが接触する領域のうち、前記シートの搬送方向と交差する幅方向の端部に光を照射し、前記光の反射光を用いて前記定着部材の回転速度を計測する計測部と、
前記計測部を前記幅方向に移動させる移動機構と、
前記計測部によって計測された前記回転速度に基づいて前記定着部材の駆動を制御し、前記反射光の不足による計測エラーの発生状況が所定の条件に該当した場合に、前記定着部材に傷が発生した旨の情報を出力する制御部と、を備えることを特徴とする定着装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記移動機構により、搬送される前記シートの前記幅方向のサイズに応じた位置に前記計測部を移動させることを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
制御部は、前記シートが接触する領域の幅方向の両端部で回転速度を計測することを特徴とする請求項2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記制御部は、搬送される前記シートの前記幅方向のサイズに応じた位置を含む所定の範囲内で前記移動機構により前記計測部を前記幅方向に移動させることで、前記計測エラーが発生する箇所を探知することを特徴とする請求項
2又は3に記載の定着装置。
【請求項5】
前記シートにトナー像を形成する作像装置と、
形成された前記トナー像を前記シートに定着させる請求項1乃至4のいずれか1項に記載の定着装置と、を備えることを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートにトナー像を定着させる定着装置及び定着装置を備える画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真プロセスにて画像を形成する画像形成装置においては、定着部材(定着ベルト、定着ローラー等)は、モーターへのクロック入力にて回転をさせている。定着部材が正常に回転しているかどうかは、定着部材の軸方向の端部に設けられたパルス板の回転を検知することで判定される。
【0003】
定着部材には、加圧ローラーによりシートが押圧される。シートの搬送方向と交差する幅方向の端部は、定着部材の同じ位置に繰り返し押圧されるため、長期の使用により、周方向に筋状の傷が形成される。すると、より大きなサイズのシートを用いる場合に、トナー像にこの傷が接触することで定着不良が発生してしまう。定着装置においてこの傷は避けられないため、この傷が形成されるまでの定着回数を考慮して、定着ベルトの交換時期が設定される。しかし、厚紙を多用した場合には、傷が形成されるまでの期間が大幅に短くなるため、定着ベルトの交換前に定着不良が発生してしまう。
【0004】
そこで、定着ベルトの傷を検知する手段を設けることが考えられる。例えば、特許文献1では、光学式のセンサーを用いて中間転写ベルトの傷を検知することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、センサーを追加することは、コストの上昇を招くため、望ましくない。
【0007】
本発明は、上記事情を考慮し、コストの上昇を抑制しつつ、定着ベルトの傷を検知することのできる定着装置及び画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明に係る定着装置は、回転可能な定着部材と、前記定着部材との間にシートを挟持して搬送する加圧ローラーと、前記定着部材の前記シートが接触する領域のうち、前記シートの搬送方向と交差する幅方向の端部に光を照射し、前記光の反射光を用いて前記定着部材の回転速度を計測する計測部と、前記計測部によって計測された前記回転速度に基づいて前記定着部材の駆動を制御し、前記反射光の不足による計測エラーの発生状況が所定の条件に該当した場合に、前記定着部材に傷が発生した旨の情報を出力する制御部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る定着装置は、前記シートの前記幅方向のサイズに応じた複数の前記計測部を備え、前記制御部は、複数の前記計測部のうち、搬送される前記シートの前記幅方向のサイズに応じた前記計測部に前記回転速度を計測させてもよい。
【0010】
本発明に係る定着装置は、前記計測部を前記幅方向に移動させる移動機構を備え、前記制御部は、前記移動機構により、搬送される前記シートの前記幅方向のサイズに応じた位置に前記計測部を移動させてもよい。
【0011】
本発明に係る定着装置において、前記制御部は、搬送される前記シートの前記幅方向のサイズに応じた位置を含む所定の範囲内で前記移動機構により前記計測部を前記幅方向に移動させることで、前記計測エラーが発生する箇所を探知してもよい。
【0012】
また、本発明に係る画像形成装置は、前記シートにトナー像を形成する作像装置と、形成された前記トナー像を前記シートに定着させる上記のいずれかの定着装置と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、コストの上昇を抑制しつつ、定着ベルトの傷を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係るプリンターの内部構成を模式的に示す正面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る定着装置の断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る定着ベルトに対向する計測部を示す斜視図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る傷検知処理の手順を示す流れ図である。
【
図5】本発明の一実施形態の変形例に係る移動機構を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ本発明の一実施形態に係るプリンター1(画像形成装置の一例)及び定着装置7について説明する。
【0016】
最初に、プリンター1の全体の構成について説明する。
図1は、プリンター1の内部構成を模式的に示す正面図である。以下、
図1における紙面手前側をプリンター1の正面側(前側)とし、左右の向きはプリンター1を正面から見た方向を基準として説明する。各図において、U、Lo、L、R、Fr、Rrは、それぞれ上、下、左、右、前、後を示す。
【0017】
プリンター1は、箱形の本体ハウジング2を備える。本体ハウジング2には、給紙カセット3からシートSを搬送路8に送り出す給紙ローラー5と、シートSにトナー像を形成する作像装置6と、トナー像をシートSに定着させる定着装置7と、トナー像が定着されたシートSを排出口15から排出トレイ4に排出する排出ローラー16と、が収容されている。
【0018】
作像装置6は、ドラムユニット12と、露光装置13と、現像剤容器10と、中間転写ベルト11と、二次転写ローラー14と、を備える。ドラムユニット12は、回転駆動される感光体ドラムと、感光体ドラムを帯電させる帯電装置と、露光装置13によって感光体ドラムに形成された潜像をトナーで現像することでトナー像を形成する現像装置と、トナー像を中間転写ベルト11に転写する一次転写ローラーと、感光体ドラムの表面を清掃するクリーニング装置と、を備える。露光装置13は、画像データに基づくレーザー光を感光体ドラムに照射することで潜像を形成する。現像剤容器10は、トナーを含む現像剤を収容し、現像剤を現像装置に供給する。中間転写ベルト11は、駆動ローラーと従動ローラーとに巻き掛けられている。二次転写ローラー14は、中間転写ベルト11上のトナー像をシートSに転写する。プリンター1は、4組のドラムユニット12及び現像剤容器10を備える。4つの現像剤容器10は、互いに異なる色のトナーを含む現像剤を収容し、4つのドラムユニット12は、互いに異なる色のトナー像を中間転写ベルト11に重ねて転写する。なお、1乃至3組又は5組以上のドラムユニット12及び現像剤容器10を備えるプリンター1に本発明が適用されてもよい。
【0019】
プリンター1が外部のコンピューター等から画像形成ジョブを受信すると、シートSが給紙カセット3から搬送路8に送り出され、帯電した感光体ドラムの表面に露光装置13により画像データに基づく潜像が形成される。現像装置により潜像が現像されることで感光体ドラムにトナー像が形成され、感光体ドラムに形成されたトナー像が一次転写ローラーにより中間転写ベルト11に重ねて転写される。中間転写ベルト11上のトナー像は、二次転写ローラー14によりシートSに転写され、定着装置7によりシートSに定着される。トナー像が定着されたシートSは、排出トレイ4に排出される。
【0020】
次に、定着装置7の構成について説明する。
図2は、定着装置7の断面図である。定着装置7は、回転可能な定着ベルト21(定着部材の一例)と、定着ベルト21の内周面に接触し、定着ベルト21を加熱する面状ヒーター23と、面状ヒーター23を保持するヒーター保持部材25と、ヒーター保持部材25を支持する支持部材24と、定着ベルト21との間にシートSを挟持して搬送する加圧ローラー27と、加圧ローラー27を駆動するモーター等の駆動源28と、を備える。定着装置7は、ハウジング(図示省略)に収容されており、ハウジングは本体ハウジング2に固定されている。本実施形態では、定着ベルト21の下側に加圧ローラー27が位置する姿勢で定着装置7が配置された例を示すが、定着装置7はいかなる姿勢で配置されてもよい。
【0021】
定着ベルト21は、前後方向に貫通した中空部を有する筒状の無端ベルトであり、前後方向の長さがシートSの幅よりも長い。定着ベルト21は、基材層と、基材層の外周面に設けられる弾性層と、弾性層の外周面に設けられる離型層と、を備え(図示省略)、可撓性を有する。基材層は、ステンレス鋼やニッケル合金等の金属で形成される。弾性層は、シリコーンゴム等で形成される。離型層は、PFA(四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂)チューブ等で形成される。基材層の内周面に摺動層が形成される場合もある。摺動層は、ポリイミドアミドやPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等で形成される。
【0022】
面状ヒーター23は、前後方向を長手方向とする概ね矩形の板状に形成されている。面状ヒーター23は、基材と、断熱層と、発熱層と、コート層と、を備える。基材は、例えば、セラミックス等の電気絶縁性を有する材料により、前後方向を長手方向とする概ね矩形の板状に形成されている。断熱層は、例えば、セラミックス、ガラス等の、電気絶縁性を有するとともに熱伝導率の低い材料により、基材の下面に積層されている。断熱層は、発熱層が発生した熱が基材側に伝達することを抑制する。発熱層は、抵抗値の高い金属等の導電性を有する材料により、断熱層の下面に形成されている。コート層は、発熱層を被覆しており、コート層の下面が、定着ベルト21の内面に接触する。コート層は、例えば、セラミックス等の電気絶縁性を有するとともに定着ベルト21に対する滑り摩擦抵抗の小さな材料で形成されている。
【0023】
ヒーター保持部材25は、面状ヒーター23を定着ベルト21の内周面に接触するように保持する。ヒーター保持部材25は、定着ベルト21の前後方向の幅と同等の長さを有し、例えば、液晶ポリマー等の耐熱性の樹脂で形成されている。
【0024】
定着ベルト21の中空部には、前後方向を長手方向とする支持部材24が貫通しており、支持部材24の両端はハウジングに固定されている。支持部材24は、ステンレス鋼やアルミニウム合金等の金属で形成されている。支持部材24は、ヒーター保持部材25を支持する。定着ベルト21は、支持部材24に支持された円弧状のベルトガイド(図示省略)に支持され、ベルトガイドに沿って回転可能である。
【0025】
加圧ローラー27は、芯金と、芯金の外周面に設けられる弾性層と、弾性層の外周面に設けられる離型層と、を備える(図示省略)。芯金は、ステンレス鋼等の金属で形成される。弾性層は、シリコーンゴム等で形成される。離型層は、PFAチューブ等で形成される。加圧ローラー27は、ばね等の付勢部材(図示省略)によって右方に付勢されることで面状ヒーター23との間に定着ベルト21を挟持し、定着ベルト21と加圧ローラー27とが面接触するニップ領域Nを形成する。
【0026】
次に、定着装置7の定着動作を説明する。加圧ローラー27が駆動されて所定の回転方向に回転すると、定着ベルト21が加圧ローラー27の回転に追従して回転し、定着ベルト21の内周面が面状ヒーター23に対して摺動する。面状ヒーター23の発熱層に電力が供給されると、発熱層が発熱して定着ベルト21が加熱される。定着ベルト21が所定の温度に達した後、トナーが転写されたシートSがニップ領域Nに搬送される。ニップ領域Nにおいて、シートSは定着ベルト21と加圧ローラー27とに挟持されて搬送される。このとき、定着ベルト21によってトナーが加熱及び加圧され、トナーがシートSに定着される。トナーが定着されたシートSは、定着ベルト21から分離されて、搬送路8に沿って搬送される。
【0027】
次に、定着ベルト21の電気的構成について説明する。
図3は、定着ベルト21に対向する計測部41を示す斜視図である。
【0028】
[計測部]
計測部41は、非接触式の光学式速度計であり、光源41Lと、画像センサー41Sと、プロセッサー41Pと、を備える(図示省略)。光源41Lが定着ベルト21の表面に光を照射し、この光の反射光を画像センサー41Sが読み取り、プロセッサー41Pが反射光で示される画像の移動速度を算出することで、定着ベルト21の回転速度を計測する。光源41Lは、例えば、半導体レーザーである。
【0029】
図3は、例えば、ISO(International Organization for Standardization)A4サイズの縦送り(シートSの長辺を搬送方向Yと平行にして搬送すること)で定着処理を行う様子を示している。シートSが搬送されるたびに定着ベルト21の同じ領域にシートSが接触する。この領域を接触領域21Cという。計測部41は、接触領域21Cのうち定着ベルト21の回転方向と交差する幅方向の端部21Eのいずれか一方に対向するように配置されている。光源41Lは、接触領域21Cの幅方向の端部21Eに光を照射する。
【0030】
[操作部]
操作部32は、本体ハウジング2の上部に設けられ、例えば、液晶等を用いた表示パネルと、表示パネルの上に重ねられたタッチパネルと、タッチパネルに隣接するキーパッドと、を備える。
【0031】
[制御部]
定着装置7は、制御部31によって制御される。制御部31は、プロセッサーとソフトウェアとによって実現されてもよいし、集積回路等のハードウェアによって実現されてもよい。プロセッサーは、メモリーに記憶されているプログラムを読み出して実行することで各種処理を実行する。プロセッサーとしては、例えば、CPU(Central Processing Unit)が使用される。メモリーは、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)等の記憶媒体を含む。メモリーには、定着装置7の制御に用いられる制御プログラムが記憶される。
【0032】
制御部31には、計測部41と操作部32が接続されている。制御部31は、計測部41によって計測された回転速度と設定された回転速度との差が所定範囲内に収まるように、駆動源28をフィードバック制御する。また、制御部31は、プリンター1を操作するための操作メニューなどの情報を操作部32に表示させるとともに、プリンター1に対する操作を操作部32を介して受け付ける。
【0033】
また、制御部31は、通信回線を通じてサービスセンターに接続されており、サービスセンターとの間でデータの送受信を行う。制御部31は、計測部41による計測結果から定着ベルト21の傷を検知した場合に、定着ベルト21に傷が発生した旨の情報をサービスセンターに送信する。
【0034】
次に、定着ベルト21の傷を検知する機能について説明する。加圧ローラー27によってシートSが定着ベルト21に押し当てられると、定着ベルト21の接触領域21Cが圧縮されるため、接触領域21Cのうち回転方向と交差する幅方向の端部21Eには、シートSの端部に沿った段状の変形が生じる。この変形が繰り返されるうちに、定着ベルト21の表面に亀裂が発生し、環状の傷となる。
【0035】
例えば、A4サイズの縦送り(
図3参照)で多量の定着処理が実行されたことで接触領域21Cの幅方向の端部21Eに傷が発生した場合、A4サイズの横送り(シートSの短辺を搬送方向Yと平行にして搬送すること)で定着処理を実行すると、トナー像に定着ベルト21の傷が接触することが考えられる。この場合、傷に接触した部分の加熱及び加圧が不十分となり、定着不良が発生するおそれがある。
【0036】
そこで、本実施形態に係る定着装置7は、以下の構成によって定着ベルト21の傷を検知する。定着装置7は、回転可能な定着ベルト21(定着部材の一例)と、定着ベルト21との間にシートSを挟持して搬送する加圧ローラー27と、定着ベルト21のシートSが接触する領域(接触領域21C)のうち、シートSの搬送方向Yと交差する幅方向の端部21Eに光を照射し、この光の反射光を用いて定着ベルト21の回転速度を計測する計測部41と、計測部41によって計測された回転速度に基づいて定着ベルト21の駆動を制御し、反射光の不足による計測エラーの発生状況が所定の条件に該当した場合に、定着ベルト21に傷が発生した旨の情報を出力する制御部31と、を備える。
【0037】
図4は、傷検知処理の手順を示す流れ図である。プリンター1に画像形成ジョブが入力されると、制御部31は、以下の傷検知処理を実行する。最初に、制御部31は、計測エラーの回数を累積するカウンターnを0に初期化し(ステップS01)、駆動源28により加圧ローラー27を回転させることで、定着ベルト21を回転させる(ステップS03)。
【0038】
次に、制御部31は、計測部41に定着ベルト21の回転速度を計測させ(ステップS05)、計測エラーが発生したか否かを判定する(ステップS07)。定着ベルト21に傷が発生していない場合には、計測に必要な量の反射光が得られるから計測エラーは発生しないが、定着ベルト21に傷が発生した場合には、光源41Lからの入射光が傷によって散乱されるため、計測に必要な量の反射光が得られなくなり、計測エラーが発生する。制御部31は、計測エラーが発生したと判定した場合には(ステップS07:YES)、ステップS09の処理に移行し、計測エラーが発生していないと判定した場合には(ステップS07:NO)、ステップS19の処理に移行する。
【0039】
ステップS09において、制御部31は、再度、計測部41に回転速度を計測させ、計測エラーが発生したか否かを判定する(ステップS11)。制御部31は、計測エラーが発生したと判定した場合には(ステップS11:YES)、ステップS13の処理に移行し、計測エラーが発生していないと判定した場合には(ステップS11:NO)、ステップS19の処理に移行する。
【0040】
ステップS13において、制御部31は、カウンターnに1を加算する。次に、制御部31は、カウンターnの値が10に達したか否かを判定する(ステップS15)。制御部31は、カウンターnの値が10に達したと判定した場合には(ステップS15:YES)、ステップS17の処理に移行し、カウンターnの値が10に達していないと判定した場合には(ステップS15:NO)、ステップS09以降の処理を繰り返す。
【0041】
ステップS17において、制御部31は、操作部32に、定着ベルト21に傷が発生した旨の情報を表示させる。例えば、「定着ベルトに傷が発生した可能性があります。できるだけ早くサービスセンターに連絡してください。」といったメッセージを表示させる。あるいは、制御部31は、定着ベルト21に傷が発生した旨の情報を通信回線を通じてサービスセンターに送信してもよい。
【0042】
一方、ステップS19において、制御部31は、画像形成ジョブが終了したか否かを判定する。制御部31は、画像形成ジョブが終了したと判定した場合には(ステップS19:YES)、ステップS21の処理に移行し、画像形成ジョブが終了していないと判定した場合には(ステップS19:NO)、ステップS01以降の処理を繰り返す。
【0043】
ステップS21において、制御部31は、排出トレイ4へのシートSの排出が完了したか否かを判定する。制御部31は、シートSの排出が完了したと判定した場合には(ステップS21:YES)、傷検知処理を終了し、シートSの排出が完了していないと判定した場合には(ステップS21:NO)、ステップS21の処理を繰り返す。
【0044】
以上説明した本実施形態に係る定着装置7によれば、定着ベルト21の回転速度を計測する計測部41を利用して、定着ベルト21の傷を検知することができる。従来、定着ベルト21の回転速度の検知には、定着ベルト21の端部に装着されたキャップの回転をギアを介してパルス板に伝達し、パルス板の回転速度をフォトインタラプターを用いて計測するという構成が一般的であったが、本実施形態に係る定着装置7によれば、従来の構成を計測部41で置き換えることで、定着ベルト21の回転速度の計測機能と、定着ベルト21の傷の検知機能と、を計測部41が兼ね備えることができる。よって、本実施形態に係る定着装置7によれば、コストの上昇を抑制しつつ、定着ベルト21の傷を検知することができる。
【0045】
上記実施形態が以下のように変形されてもよい。
【0046】
上記実施形態では、A4サイズの縦送りで定着処理を行う場合の接触領域21Cの幅方向の端部21Eに計測部41が対向するように配置された例が示されたが、シートSの幅方向のサイズに応じた複数の計測部41を備え、制御部31が、複数の計測部41のうち、搬送されるシートSの幅方向のサイズに応じた計測部41により回転速度を計測するように構成されていてもよい。例えば、上記実施形態の位置に加えて、A5サイズ、A6サイズ、JIS(Japanese Industrial Standards)B4サイズ、B5サイズ等の縦送り又は横送りに対応する接触領域21Cの幅方向の端部21Eに対向する複数の計測部41が設けられ、制御部31が、画像形成ジョブで指定されたシートSの幅方向のサイズに対応する計測部41に回転速度を計測させる。この構成によれば、幅方向のサイズが異なる2種類以上のシートSが使用される場合でも、定着ベルト21の傷を検知することができる。
【0047】
上記実施形態では、計測部41が固定されている例が示されたが、計測部41を幅方向に移動させる移動機構51を備え、制御部31が、移動機構51により、搬送されるシートSの幅方向のサイズに応じた位置に計測部41を移動させるように構成されてもよい。
図5は、本変形例に係る移動機構51を示す斜視図である。移動機構51は、複数のプーリー52と、複数のプーリー52に巻き掛けられたベルト53と、を備え、ベルト53に計測部41が固定されている。計測部41は、計測部41の前後方向の移動を案内するレール等の案内部材に支持されている(図示省略)。制御部31は、移動機構51により、画像形成ジョブで指定されたシートSの幅方向のサイズに対応する位置に計測部41を移動させて回転速度を計測させる。この構成によれば、幅方向のサイズが異なる2種類以上のシートSが使用される場合でも、1つの計測部41で、定着ベルト21の傷を検知することができる。
【0048】
また、部材の摩耗や変形により、ニップ領域Nにおける圧力が幅方向で不均一になった場合、接触領域21Cの幅方向の端部21Eのうち圧力の高い方の端部21Eにおいて、他方の端部21Eよりも先に傷が発生することが考えられる。そのため、本変形例に係る傷検知処理は、接触領域21Cの幅方向の両端部21Eで実行されることが望ましい。この構成によれば、ニップ領域Nにおける圧力が幅方向で不均一になった場合であっても、早期に定着ベルト21の傷を検知することができる。
【0049】
また、部材の摩耗や変形により接触領域21Cの位置が幅方向に変化したために、予め想定された位置と異なる位置に傷が発生することが考えられる。そのため、制御部31が、搬送されるシートSの幅方向のサイズに応じた位置を含む所定の範囲内で移動機構51により計測部41を幅方向に移動させることで、計測エラーが発生する箇所を探知するように構成されてもよい。具体的には、制御部31は、画像形成ジョブで指定されたシートSの幅方向のサイズに対応する位置を中心とする幅4mmの範囲内で、1秒間隔で0.5mmずつ計測部41を移動させながら、定着ベルト21の回転速度を計測させ、10回の計測エラーが連続して発生した場合に、定着ベルト21に傷が発生した旨の情報を操作部32に表示させる。
【0050】
この処理は、プリンター1に画像形成ジョブが入力されるたびに実行されてもよい。あるいは、シートSのサイズごとに印刷ページ数を累積し、画像形成ジョブで指定されたシートSの累積印刷ページ数が閾値を超えた場合にのみ実行されてもよい。あるいは、シートSのサイズごとに定期的に実行されてもよい。この構成によれば、予め想定された傷の位置と実際に発生した傷の位置とがずれている場合であっても、定着ベルト21の傷を検知することができる。
【0051】
上記実施形態では、反射光で示される画像の移動速度を算出することで定着ベルト21の回転速度を計測する例が示されたが、計測部41は、2本のレーザー光の干渉縞を対象物の表面の凹凸が横切るときの周波数偏移から対象物の移動速度を算出するものであってもよい。
【0052】
上記実施形態では、面状ヒーター23を備える定着装置7に本発明が適用された例が示されたが、誘導加熱ヒーター、ハロゲンヒーター等を備える定着装置7に本発明が適用されてもよい。また、上記実施形態では、定着ベルト21(定着部材の一例)を備える定着装置7に本発明が適用された例が示されたが、定着ベルト21に代えて、定着ローラー(定着部材の一例)を備える定着装置7に本発明が適用されてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 プリンター(画像形成装置)
6 作像装置
7 定着装置
21 定着ベルト(定着部材)
21C 接触領域(定着部材のシートが接触する領域)
21E 端部
27 加圧ローラー
31 制御部
41 計測部
51 移動機構