(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】光回路デバイス、及び光受信機
(51)【国際特許分類】
G02B 6/125 20060101AFI20231108BHJP
G02B 6/122 20060101ALI20231108BHJP
G02B 6/14 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
G02B6/125 301
G02B6/122 311
G02B6/14
(21)【出願番号】P 2020033970
(22)【出願日】2020-02-28
【審査請求日】2022-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】309015134
【氏名又は名称】富士通オプティカルコンポーネンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】岡 徹
【審査官】大西 孝宣
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第10126498(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0041726(US,A1)
【文献】国際公開第2012/086846(WO,A1)
【文献】特開昭63-224536(JP,A)
【文献】特開2017-142301(JP,A)
【文献】特開2015-079053(JP,A)
【文献】国際公開第2016/024459(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/12 - 6/14
G02F 1/00 - 1/125
G02F 1/21 - 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の入力光を90度の位相差を持つ2つの出力に分岐する第1光カプラと、
第2の入力光を180度の位相差を持つ2つの出力に分岐する第2光カプラと、
第1出力ポートと第2出力ポートを有する第3カプラであって、前記第1光カプラの一方の出力と前記第2光カプラの一方の出力を合波して、第1光信号
を前記第1出力ポートから出力し、前記第1光信号と180度の位相差を持つ第2光信号を
前記第2出力ポートから出力する第3光カプラと、
第3出力ポートと第4出力ポートを有する第4カプラであって、前記第1光カプラの他方の出力と前記第2光カプラの他方の出力を合波して、第3光信号
を前記第3出力ポートから出力し、前記第3光信号と180度の位相差を持つ第4光信号を
前記第4出力ポートから出力する第4光カプラと、
を有
し、
前記第3光カプラで前記第1光信号を出力する前記第1出力ポートと前記第2光信号を出力する前記第2出力ポートの位置関係と、前記第4光カプラで前記第3光信号を出力する前記第3出力ポートと前記第4光信号を出力する前記第4出力ポートの位置関係は、逆になっている、
光回路デバイス。
【請求項2】
前記第1光カプラの前記一方の出力を、前記第3光カプラの第1入力ポートに接続する第1の光導波路と、
前記第1光カプラの前記他方の出力を、前記第4光カプラの第3入力ポートに接続する第2の光導波路と、
前記第2光カプラの前記一方の出力を、前記第3光カプラの第2入力ポートに接続する第3の光導波路と、
前記第2光カプラの前記他方の出力を、前記第4光カプラの第4入力ポートに接続する第4の光導波路と、
を有し、前記第1の光導波路、前記第2の光導波路、前記第3の光導波路、及び前記第4の光導波路は交差しない、請求項
1に記載の光回路デバイス。
【請求項3】
前記第1の光導波路、前記第2の光導波路、前記第3の光導波路、及び前記第4の光導波路の少なくともひとつに挿入される位相シフタ、
を有する請求項
2に記載の光回路デバイス。
【請求項4】
前記第2光カプラは、第1導波路セグメント、前記第1導波路セグメントと所定の間隔で近接する第2導波路セグメント、前記第1導波路セグメントから連続する第3導波路セグメント、及び、前記第2導波路セグメントから連続する第4導波路セグメントを有し、
前記第2導波路セグメントは、光軸方向に幅が変化するテーパ導波路であり、
前記第3導波路セグメントと前記第4導波路セグメントは、互いに離隔する方向に延びている、請求項1~
3のいずれか1項に記載の光回路デバイス。
【請求項5】
前記第2光カプラは、TE1モードを発生するTE1発生器と、前記TE1モードの光を、同じ割合で、かつ位相が180度異なる2つのTE0モードに分割する1入力2出力光カプラとを有する、請求項1~
3のいずれか1項に記載の光回路デバイス。
【請求項6】
前記TE1発生器は、TE0モードの入力光をTE奇モードに変換する第1モード変換部と、前記TE奇モードをTE1に変換する第2モード変換部を有する、請求項
5に記載の光回路デバイス。
【請求項7】
前記TE1発生器は、TM0モードの入力光を、高次偏波変換によりTE1モードに変換する、請求項
5に記載の光回路デバイス。
【請求項8】
前記TE1発生器は、上部コアと下部コアを有する導波路で形成され、前記上部コアと前記下部コアの幅方向の形状が異なっている、請求項
7に記載の光回路デバイス。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の光回路デバイスを有する光受信機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光回路デバイス、及び光受信機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高速大容量の通信が可能なコヒーレント光通信が基幹網等へ導入されている。コヒーレント光通信では、光電界の直交する2つの位相情報であるI信号とQ信号を用いて単位時間当たりに伝送可能な通信量を増やしている。
【0003】
I信号とQ信号を含む信号光を受信機で受信するには、受信時の位相の基準となる参照光と、信号光を混ぜ合わせて、I信号とQ信号に分離する。この機能を有する光導波路デバイスは、「90度光ハイブリッド」と呼ばれている。
【0004】
図1は、90度光ハイブリッドの機能図である。90度光ハイブリッドに入力された信号光と参照光は、それぞれ2分割され、分割された光成分の間に、90度の位相差が与えられる。入力光と同じ位相の成分がI成分、入力光と90度の位相差を持つ成分がQ成分である。2分割され、位相差が与えられた信号光と参照光は、混合されて、90度ずつ位相がシフトした4つの光信号Ip、In、Qp、Qnが、90度光ハイブリッドから出力される。
【0005】
信号の「p」と「n」は相補的な出力を表わす。IpとInは、180度の位相差をもち、QpとQnは、180度の位相差をもつ。Ip、In、Qp、及びQnの出力ポートは、光検出器アレイの入力に接続され、4つの光成分は電気信号に変換される。光電気変換後にIpとInの差、及びQpとQnの差をとることで、I信号とQ信号が得られる。
【0006】
基板型の光導波路デバイスで90度光ハイブリッドを実現する方法として、1×2カプラと2×2カプラを組み合わせた構成が知られている(たとえば、特許文献1参照)。1×2カプラと2×2カプラの組み合わせは、4×4MMI(Multi-Mode Interferometer;マルチモード干渉計)と比較して、利用するモードの数が少なく、モード間干渉の波長依存性の影響が小さい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
光トランスポートネットワークの標準化団体であるOIF(Optical Internetworking Forum)によって策定されたコヒーレントレシーバでは、90度光ハイブリッドの4つの出力ポートの配置に対応して、電気段への入力も、Ip、In、Qp、及びQnの順に配置されている。
【0009】
1×2カプラと2×2カプラを組み合わせた公知の構成を、標準化仕様のコヒーレントレシーバに適用すると、90度光ハイブリッドの4つの出力ポートと、電気段への入力の配置設計とが整合しない。ポート間の配置関係の不整合を補償するために光配線を引き回すと、クロストークや光損失が生じる。後段のデジタル信号プロセッサ(DSP)の設定を変えることで、90度光ハイブリッドの出力ポートと光電気変換部の位置関係の不整合を補うことも考えられるが、DSPの設定変更のための手間が増える。
【0010】
本発明は、簡単な構成で、光回路デバイスのポート間の位置関係を整合させて、光損失を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
開示の一つの態様では、光回路デバイスは、
第1の入力光を90度の位相差を持つ2つの出力に分岐する第1光カプラと、
第2の入力光を180度の位相差を持つ2つの出力に分岐する第2光カプラと、
前記第1光カプラの一方の出力と前記第2光カプラの一方の出力を合波して、第1光信号、及び前記第1光信号と180度の位相差を持つ第2光信号を出力する第3光カプラと、
前記第1光カプラの他方の出力と前記第2光カプラの他方の出力を合波して、第3光信号、及び前記第3光信号と180度の位相差を持つ第4光信号を出力する第4光カプラと、を有する。
【発明の効果】
【0012】
簡単な構成で、光回路デバイスのポート間の位置関係が整合し、光損失を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】公知の90度光ハイブリッドの構成で生じる技術課題を説明する図である。
【
図3】2×2MMIと位相対称カプラの電界の伝達関数を示す図である。
【
図4】
図2の構成で生じる技術課題を説明する図である。
【
図6】
図5の光回路デバイスで用いられる位相反転カプラの機能ブロック図である。
【
図7】実施形態の光回路デバイスを用いたときの光配線を示す図である。
【
図10】位相反転カプラの異なる位置での伝搬状態を示す電界シミュレーション図である。
【
図12】
図11の位相反転カプラで用いられるTE1発生器の構成例である。
【
図14】
図13のTE1発生器でのモード変換を説明する図である。
【
図16】実施形態の光回路デバイスを用いた光受信機の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施形態の光回路デバイスについて説明する前に、発明者が見出した技術課題を、より詳しく説明する。
【0015】
図2は、公知の90度光ハイブリッドの構成で生じる技術課題を説明する図である。
図2は、上述した特許文献で提案されている光回路の構成を、わかりやすい形に描き直したものである。光回路は、ひとつの1×2カプラと、3つの2×2カプラC2~C4が、光導波路で接続されている。
【0016】
1×2カプラは、位相対称カプラC1、またはY分岐光スプリッタである。上記の特許文献では、「位相対称カプラ」は、入力光を2つの同じ位相の光信号に分割する光カプラであると定義されている。位相対称カプラC1の入力ポートに、参照光が入力されて、2分割される。分割された参照光の一方は、2×2カプラC2の一方の入力ポートに接続され、他方は、2×2カプラC3の一方の入力ポートに接続される。
【0017】
信号光は、2×2カプラC4の一方の入力ポートに入力されて、2分割される。分割された信号光の一方は、2×2カプラC2の他方の入力ポートに接続され、他方の光は、2×2カプラC3の他方の入力ポートに接続される。
【0018】
2×2カプラC2は、参照光と信号光を干渉させて、出力ポートP2とP3から、In信号とIp信号を出力する。2×2カプラC3は、参照光と信号光を干渉させて、出力ポートP1とP4から、Qn信号とQp信号を出力する。
【0019】
参照光は、√ILO*e^j(ωLOt-θLO)で表される。信号光は、√Isig*e^j(ωsigt-θsig)で表される。ILOとIsigは、参照光と信号光のパワー、ωLOとωsigは、参照光と信号光の角周波数、θLOとθsigは、参照光と信号光の位相である。
【0020】
図3は、2×2MMIと、位相対称カプラC1の電界の伝達関数を示す。位相対称カプラC1では、「1」に正規化された信号が入力されると、2つの出力ポートのそれぞれから1/√2の信号が同相で出力される。
【0021】
2×2MMIでは、一方の入力ポートに「1」に正規化された信号が入力されると、バーポートの出力は1/√2となり、クロスポートの出力は、1/√2*e^i(-π/2)となる。
【0022】
図3のカプラの機能に基づくと、
図2で参照光を位相対称カプラC1に入力し、信号光を2×2カプラC4の一方の入力ポートに入力すると、出力ポートP1、P2、P3、P4から出力される光パワーは、式(1)で示される。
【0023】
【0024】
P1とP4の出力は相補的であり、P1からQnが出力され、P4からQpが出力される。P2とP3の出力は相補的であり、P2からInが出力され、P3からIpが出力される。最終的なI信号はP3-P2で求められ、Q信号はP4-P1で求められる。
【0025】
【0026】
コヒーレントレシーバでは、Ip、In、Qp、Qnの光出力を電気信号に変換した後に、IpとInの差分、及びQpとQnの差分が取得される。電気段への入力、すなわち光検出器PDの出力を、OIFで規格化されているIp、In、Qp、Qnの順で配置すると、光配線に不都合が生じる。
【0027】
図4は、
図2の構成で生じる技術課題を示す。2×2カプラC2のポートP2から出力される光信号Inを、Inの電気信号を生成するPD-Inに接続し、ポートP3から出力される光信号Ipを、Ipの電気信号を生成するPD-Ipに接続する。
【0028】
光信号IpをPD-Ipへ導くために、光配線がPDの配列を迂回し、配線長が長くなる。これは損失の増大につながる。
【0029】
配線長を短くするために、光導波路を交差させる設計も考えられるが、交差によるクロストークや損失の増大が生じる。
【0030】
<実施形態の構成>
図5は、実施形態の光回路デバイス11の模式図である。光回路デバイス11は、位相反転カプラ111と、2×2カプラ112、113、及び114を有し、全体として、90度光ハイブリッドとして機能する。公知の構成と異なり、光回路デバイス11は、一方の入力光を2分岐する光スプリッタとして、位相反転カプラ111を用いる。ここで、「位相反転カプラ」とは、入力された光を、同じ割合で、位相が180°異なる2つの光に分割するカプラをいう。
【0031】
図6は、位相反転カプラ111の機能を示す。「1」に正規化された光が、位相反転カプラ111に入力されると、2分岐されて、一方の出力ポートから、1/√2の光が出力され、他方の出力ポートから、-1/√2の光が出力される。
【0032】
位相反転カプラ111の2つの出力光の位相差は、正確に180度(πラジアン)である必要はなく、許容される誤差を含んでいてもよい。OIFの標準化仕様では、I信号とQ信号の位相差として、90度±7.5度の誤差を許容しているので、位相反転カプラ111の2つの出力の間の位相差も、180度±7.5度の誤差を含んでいてもよい。
【0033】
2×2カプラ112~114の機能は、
図3で示したとおりである。2×2カプラ112~114のバーポートとクロスポートに現れる光信号の位相差も、ある程度の誤差を含んでいてもよい。
【0034】
図5に戻って、位相反転カプラ111に参照光が入力されて、互いに180°の位相差をもつ2つの光が出力される。位相反転カプラ111は、出力される2つの光の間に180度の位相差を与える点に特徴がある。
【0035】
位相反転カプラ111の一方の出力は、光導波路115によって、2×2カプラ112の一方の入力に接続される。位相反転カプラ111の他方の出力は、光導波路117によって、2×2カプラ113の一方の入力に接続される。
【0036】
信号光は、2×2カプラ114の一方の入力ポートから入力されで、2分岐される。2×2カプラ114は、2つの出力を持つ光スプリッタであるが、
図3の伝達関数で示されるように、出力される2つの光の間に、90度の位相差を与える。
【0037】
2×2カプラ114の一方の出力は、光導波路116によって、2×2カプラ112の他方の入力に接続される。2×2カプラ114の他方の出力は、光導波路118によって2×2カプラ113の他方の入力に接続される。
【0038】
2×2カプラ112は、2つの入力ポートと、2つの出力ポートをもち、2×2カプラ114の一方の出力と、位相反転カプラ111の一方の出力を合波する光コンバイナである。
【0039】
2×2カプラ113は、2つの入力ポートと、2つの出力ポートをもち、2×2カプラ114の他方の出力と、位相反転カプラ111の他方の出力を合波する光コンバイナである。
【0040】
位相反転カプラ111と、2×2カプラ112、113、114を接続する光導波路115~117は、互いに交差しないので、交差導波路による過剰損失を防止できる。光導波路115と光導波路116は、同じ長さであってもよい。光導波路117と光導波路118は、同じ長さであってもよい。
【0041】
参照光は、√I
LO*e^j(ω
LOt-θ
LO)で表され、信号光は、√I
sig*e^j(ω
LOt-θ
LO)で表される。位相反転カプラ111を用いる場合、
図6の電界の伝達関数と、
図3の2×2MMIカプラの電界の伝達関数に基づいて、出力ポートP1~P4での光パワーを計算すると、式(2)になる。
【0042】
【0043】
式(2)のP2とP3の出力を、式(1)のP2、P3と比較すると、cosの項の正負の符号が反対になっている。プラス符号のP2の出力はIpであり、マイナス符号のP3の出力はInである。最終的なI信号は、P2-P3で求められる。
【0044】
P1とP4の出力関係は
図2と同じであり、P1からQnが出力され、P4からQpが出力される。最終的なQ信号は、P4-P1で求められる。
【0045】
【0046】
図7は、光回路デバイス11を用いたときの光配線を示す。標準化仕様のコヒーレントレシーバでは、電気段への入力を生成する光検出器は、PD-Ip、PD-In、PD-Qp、PD-Qnの順に配置されている。
【0047】
Ip信号を出力するポートP2は、光配線32によって、Ipの電気信号を生成するPD-Ipに接続される。In信号を出力するポートP3は、光配線33によって、Inの電気信号を生成するPD-Inに接続される。
【0048】
Qp信号を出力するポートP4は、光配線34によって、Qpの電気信号を生成するPD-Qpに接続される。Qn信号を出力するポートP1は、光配線31によって、Qnの電気信号を生成するPD-Qnに接続される。
【0049】
このレイアウトで、光配線31~34は、迂回や交差せずに、光回路デバイス11の出力ポートP1~P4を、対応する光検出器PDに最短距離で接続できる。配線レイアウトがシンプルになり、クロストークや光損失が抑制される。また、光電気変換機能を含む光受信フロントエンド回路を、小型化することができる。
【0050】
図8は、I信号とQ信号の位相差を示す図である。I信号は、光電気変換後のIp信号とIn信号の差分で求められ、式(2)から、
I=P2-P3=(I
sigI
LO)
1/2×cos(φ
0)
となる。
【0051】
Q信号は、光電気変換後のQp信号とQn信号の差分で求められ、式(2)から、
Q=P4-P1=(IsigILO)1/2×cos(φ0-π/2)
となる。
【0052】
式(2)に規定されるように、φ
0=(ω
sig-ω
LO)t-(θ
sig-θ
LO)である。ここで、ω
sigとω
LOは、それぞれ信号光と参照光の角周波数、θ
sigとθ
LOは、信号光と参照光の位相である。I信号とQ信号のφ
0に、φ
0=(ω
sig-ω
LO)t-(θ
sig-θ
LO)を代入すると、
図8に示すとおり、位相関係が互いに90度シフトしたI信号とQ信号が得られる。
【0053】
光回路デバイス11を用いることで、簡単な配線設計で光損失を抑制し、受信信号からI信号とQ信号を正しく取り出すことができる。光回路デバイス11で用いられる位相反転カプラ111は、入射光を同じ割合で2つに分割し、かつ、2つの光を180度前後の位相差で出力することができれば、どのような構成でもよい。以下で、位相反転カプラ111の構成例をいくつか呈示する。
【0054】
<位相反転カプラの構成例>
図9A、及び
図9Bは、位相反転カプラ111の構成例1として、位相反転カプラ111Aを示す。
図9Aは平面図、
図9Bは、
図9AのI-I'断面図である。位相反転カプラ111Aは、方向性結合器として形成される。
【0055】
位相反転カプラ111Aは、第1導波路セグメントWG1と、WG1と並列に配置される第2導波路セグメントWG2を有する。第1導波路セグメントWG1と第2導波路セグメントWG2は、間隔G1で、互いに近接して配置される。第1導波路セグメントWG1の導波路幅は一定であり、第2導波路セグメントWG2は、光軸方向に幅が変化するテーパ型導波路である。
【0056】
方向性結合器の断面Aの位置をP0、断面Bの位置をP8とする。断面Aから断面Bまでの距離が、テーパ長である。断面Aで、第2導波路セグメントWG2の幅はw1、第1導波路セグメントWG1の幅はw3である(w1>w3)。第2導波路セグメントWG2は、断面Bで幅がw3となるように、徐々に細くなる。第1導波路セグメントWG1は、断面Aから断面Bまで、同じ幅w3を維持する。断面Bでは、第1導波路セグメントWG1と第2導波路セグメントWG2の幅は同じである。
【0057】
図9Bに示すように、第1導波路セグメントWG1と第2導波路セグメントWG2は、基板201の上に、高屈折率材料で形成されたコアである。コアは、低屈折率材料のクラッド204で周囲を囲まれている。クラッド204は、同じ材料で形成される上部クラッド203と下部クラッド202を含んでいてもよいし、上部クラッド203を空気層としてもよい。
【0058】
第1導波路セグメントWG1と第2導波路セグメントWG2が、同じ高さhを有する場合、断面Bでの第1導波路セグメントWG1の断面積と、第2導波路セグメントWG2の断面積は等しくなる。断面Bで、第1導波路セグメントWG1は、第3導波路セグメントWG3となり、第2導波路セグメントWG2は、第4導波路セグメントWG4となって、互いに離隔する方向に分岐する。
【0059】
第1導波路セグメントWG1から、光が入力されるとする。入射光が断面Aから断面Bに伝搬する過程で、エバネッセント効果により、光の一部はクラッドに染み出して、徐々に第2導波路セグメントWG2に結合する。断面Bで、第1導波路セグメントWG1と第2導波路セグメントWG2の断面サイズが同じになり、光は同じ割合で2分岐される。
【0060】
エバネッセント結合に基づく導波路間の結合を考えると、奇モードの光は、導波路の幅方向(または横方向)に反対称の電界分布をもつ。断面Bでは、第1導波路セグメントWG1と第2導波路セグメントWG2の間で、電界分布の位相がπだけシフトする。
【0061】
図10は、位相反転カプラ111Aの電界分布のシミュレーション結果である。シミュレーションのパラメータは以下のとおりである。第1導波路セグメントWG1と、第2導波路セグメントWG1を、高さ220nmのシリコン(Si)コアで形成し、Siコアの周囲を、SiO
2のクラッドで取り囲む。第2導波路セグメントWG2の断面Aでの幅w1は480nm、断面Bでの幅w3は400nmである。第1導波路セグメントWG1、第3導波路セグメントWG3、及び第4導波路セグメントWG4の幅w3は400nmである。第1導波路セグメントWG1と第2導波路セグメントWG2の間隔G1は200nm、光軸方向のテーパ長は100μmである。
【0062】
図10の(A)の位置P0(断面A)で、TE奇モードの光が第1導波路セグメントWG1に入力される。TE奇モードは、電界の主成分が基板201と水平、かつ導波路の幅方向に振動する導波モードのうち、実効屈折率が2番目に高いモードである。TEモードのうち、実効屈折率が最も高いモードは、TE偶モードである。
【0063】
TE奇モードは、実効屈折率がTE偶モードよりも低いため、断面A(位置P=0)では、導波路サイズが小さい第1導波路セグメントWG1に電界分布が局在する。この局在した光は、導波路が孤立している場合のTE0と同じとなる。導波路サイズが小さい第1導波路セグメントWG1にTE0の光を入力することで、テーパ型方向性結合器におけるTE奇モードへ変換可能である。
【0064】
図10の(B)の位置P6で、第2導波路セグメントWG2の導波路幅は、徐々に第1導波路セグメントWG1の幅w3に近づき、第1導波路セグメントWG1から染み出したTE奇モードのエバネッセント光が、第2導波路セグメントWG2に結合する。第2導波路セグメントWG2の幅は緩やかに遷移するため、電界分布は、連続性を保って断熱的に変化する。
【0065】
電界分布の「断熱的」な変化とは、導波路構造が十分に穏やかに変化するときに、入力された導波モードが、同一モードを維持したまま、エネルギーの増減なしに別の状態に遷移することをいう。
【0066】
図10の(C)の位置P8(断面B)で、第1導波路セグメントWG1と第2導波路セグメントWG2の断面サイズは、同じになる。TE奇モードの電界は、第1導波路セグメントWG1と第2導波路セグメントWG2に均等に存在し、かつ、TE奇モードの反対称の電界分布により、2つの導波路間で、光の位相は180度異なる。第2導波路セグメントWG2の電界分布が暗く示されているのは、位相反転により、強度がマイナスで表されているからである。
【0067】
図9に戻って、断面Bで、第1導波路セグメントWG1に連続する第3導波路セグメントWG3と、第2導波路セグメントWG2に連続する第4導波路セグメントWG4を徐々に離間することで、2つの光出力の位相がπだけシフトした位相反転カプラが実現する。
【0068】
図9、及び
図10で、TEモードの光を入力しているが、TMモードの光、すなわち電界の主成分が基板201と垂直な方向に振動する光を入力する場合も位相反転カプラ111Aは成立する。
【0069】
図11は、位相反転カプラ111の別の例として、位相反転カプラ111Bを示す。位相反転カプラ111Bは、1×2カプラ122と、TE1発生器121の組み合わせである。1×2カプラ122は、1×2MMI、Y分岐導波路などである。
【0070】
一般的に、1×2MMIやY分岐導波路にTE1を入力すると、位相がπだけシフトした2つのTE0が出力される。これを利用して、1×2カプラ122の前段にTE1発生器121を配置することで、入力光(TE0またはTM0)を、位相が互いに反転する2つのTE0出力に変換することが可能である。
【0071】
図12は、
図11で用いられるTE1発生器121の構成例である。TE1発生器121Aは、TE0モードの光を、TE1モードの光にモード変換する。
【0072】
TE1発生器121Aは、第1モード変換部80と、第2モード変換部90を有する。第1モード変換部80は、平行導波路81と、テーパ導波路82を有する。平行導波路81とテーパ導波路82は、所定の間隔をもって、隣接して配置される。
【0073】
第2モード変換部90は、平行導波路81から連続する平行導波路91と、テーパ導波路82から連続する平行導波路92と、平行導波路91,92を接続する結合導波路93を有する。結合導波路93の幅は、好ましくは、平行導波路91の幅、平行導波路92の幅、及び2つの導波路の間隔を足し合わせた幅よりも広く設定されている。
【0074】
第1モード変換部80で、平行導波路81にTE0の光が入力される。この入力端で、テーパ導波路82の幅は、平行導波路81の幅よりも広く、2つの導波路間でモード結合はほとんど生じない。TE0の導波モードのうち、TE偶モードよりも実効屈折率の小さいTE奇モードは、幅の狭い平行導波路81に局在する。
【0075】
テーパ導波路82の幅が徐々に狭くなって、平行導波路81の幅に近づくことで、TE奇モードが徐々にテーパ導波路82に結合する。テーパ導波路82の長さを十分に長くとることで、ほとんどパワーまたはエネルギーの損失なしに、平行導波路81に入力されたTE0を、TE奇モードに変換可能である。
【0076】
第2モード変換部90で、平行導波路91と平行導波路92のTE奇モードの電界分布は、結合導波路93で、TEモードの電界分布に遷移する。TE奇モードは、導波路の幅方向の電界分布が、反対称関数となり、2つのピークをもつ。TEモードのうち、2番目に実効屈折率の高いTE1モードも、幅方向の電界成分が反対称で2つのピークをもつ。TE奇モードとTE1モードの電界分布の類似性から、平行導波路91及び92から結合導波路93に伝搬した光は、TE1モードの光に変換され、結合導波路93から、TE1モードの光が出力される。
【0077】
図13は、TE1発生器の別の構成例として、TE1発生器121Bを示す。TE1発生器121Bは、入力されたTM0を、TE1に変換して出力する。
【0078】
TE1発生器121Bは、上部コア131と下部コア132を有する導波路130で形成される。
【0079】
光軸方向の位置Z=0で、上部コア131と下部コア132の幅は等しく、w11である。光軸方向の中央部の位置Z=0.5で、下部コア132の幅w14は、開始点の幅w11と等しいが(w14=w11)、上部コア131の幅は、w13まで低減される(w13<w11)。
【0080】
位置Z=0.5からZ=1までは、上部コア131の幅は一定である(w13=w12)。一方、下部コア132の幅は、w14からw12まで、徐々に減少する。Z=1の位置で、上部コア131と下部コア132は、同じ幅w12となる。
【0081】
Z=0からZ=1の区間にわたって、上部コア131の幅と下部コア132の幅が異なり、導波路130は高さ方向の中心に対して非対称の形状を有する。
【0082】
図14は、
図13のTE1発生器121Bにおけるモード変換を説明する図である。TM0モードとTE1モードの屈折率を、TE1発生器121Bの光軸方向の位置Zの関数として示す。実線は、
図13の系を導波するモードのうち、2番目に大きい実効屈折率を示し、破線は、3番目に大きい実効屈折率を示す。実効屈折率が一番大きいTE0は省略されている。
【0083】
Z=1で、導波路130にTM0モードの光が入力されると、光は、上部コア131と下部コア132で形の異なる導波路130を伝搬する。Z=1では、TM0モードの実効屈折率は、TE1モードの実効屈折率よりも高い。Z=0では、TE1モードの実効屈折率は、TM0モードの実効屈折率よりも高い。TM0モードは、磁界の主要成分が、光伝搬方向と直交する面内で、基板と垂直方向に振動し、Zの位置にかかわらず、実効屈折率の変化が小さい。
【0084】
一方、TE1モードは、電界の主要成分が、光伝搬方向と直交する面内で、基板と水平方向に振動する。TE1モードの実効屈折率は、Z=1からZ=0に向かって、大きく変化する。
【0085】
上部コア131と下部コア132の断面形状が異なる導波路130では、光軸方向の中央(Z=0.5)付近で、TM0モードとTE1モードの実効屈折率の大小関係が入れ替わる。この領域では、個別のTM0モードとTE1モードが存在しないTM0-TE1ハイブリッドモードとなる。TM0モードとTE1モードのカップリングを利用して、断熱的に偏波変換が行われる。
【0086】
図13に戻って、Z=1で導波路130に入力されたTM0モードは、Z=0で、TE1モードで出力される。このTE1発生器121Bも、位相反転カプラ111BのTE1発生器121として有効に用いられる。
【0087】
<光回路デバイスの変形例>
図15は、変形例として、光回路デバイス11Aを示す。光回路デバイス11Aの基本構成は、
図5の光回路デバイス11と同じであるが、隣接する光カプラを接続する光導波路に、位相シフタ119が挿入されている。位相シフタ119は、たとえば電圧駆動のシフタであり、印加される電圧を制御することで、導波路の屈折率を変化させて、光の伝搬速度、すなわち位相を制御する。
【0088】
図15の例では、2×2カプラ113と2×2カプラ114を接続する光導波路118に位相シフタ119が挿入されているが、光導波路115~118の少なくともひとつに位相シフタを挿入してもよい。
【0089】
位相シフタ119を用いることで、製造誤差等により光導波路の光路長が所望の値からずれたときに、光路長のずれを補償して、I信号とQ信号の位相差を90度に保つことができる。
【0090】
<光受信機への適用例>
図15は、実施形態の光回路デバイス11を用いた光受信機1の構成例である。光受信機1は、光受信フロントエンド回路10と、信号処理回路20を有する。光回路デバイス11は、光受信フロントエンド回路10で、90度光ハイブリッド11X、及び11Y(以下、適宜、「90度光ハイブリッド11」と総称する)に用いられる。
【0091】
光受信機1は、一例として、DP-QPSK(偏波多重直交位相変調:Dual Polarization Quadrature Phase Shift Keying)方式の受信機である。光伝送路から受信される信号光(SIGNAL)は、偏光ビームスプリッタ(PBS)で、互いに直交する2つの偏波に分離され、X偏波用の90度光ハイブリッド11Xと、Y偏波用の90度光ハイブリッド11Yに入力される。
【0092】
局発光源LOから出力される参照光は、ビームスプリッタ(BS)で2つに分岐され、X偏波用の90度光ハイブリッド11Xと、Y偏波用の90度光ハイブリッド11Yに入力される。
【0093】
90度光ハイブリッド11X、及び11Yの各々で、上述した位相反転カプラ111が用いられており、参照光は、位相反転カプラ111で、180度の位相差をもつ2つの光に分割される。信号光は、2×2カプラ114で、90度の位相差をもつ2つの光に分割される。
【0094】
分割された光成分は2×2カプラ112及び113で混合され、90度ずつ位相がシフトした4つの光信号Ip、In、Qp、Qnが出力される。
【0095】
互いに180度の位相差をもつIp信号とIn信号は、光検出器の組12aで検出される。光検出器の組12aから出力される光電流は、トランスインピータンスアンプを含む増幅回路13aで電圧信号に変換されて、信号処理回路20に出力される。
【0096】
互いに180度の位相差をもつQp信号とQn信号は、光検出器の組12bで検出される。光検出器の組12bから出力される光電流は、トランスインピータンスアンプを含む増幅回路13bで電圧信号に変換されて、信号処理回路20に出力される。
【0097】
位相反転カプラ111を用いることで、90度光ハイブリッド11の4つの出力ポートの配列と、電気段(光検出器の組12a、12b、及び増幅回路13a、13b)への入力の配列が一致し、光配線長が最短化されている。
【0098】
Y偏波用の90度光ハイブリッド11Yでも、同様の動作が行われる。90度光ハイブリッド11Yの4つの出力ポートの配列と、電気段(光検出器の組12c、12d、及び増幅回路13c、13d)への入力の配列が一致して、光配線長が最短化されている。
【0099】
増幅回路13a~13dから出力されるアナログ電気信号は、信号処理回路20のアナログ-デジタル変換器(ADC)21a~21dでデジタルサンプリングされ、DSP25で波形歪の補償を受けて、復元される。
【0100】
以上、特定の構成例に基づいて本発明を説明したが、本発明は上述した構成例に限定されない。光回路デバイス11の光導波路を形成する際に、SOI(Silicon-On-Insulator)基板のSi層を利用してSiコアを形成し、BOX(Buried Oxide)層のSiO2をクラッドに用いてもよい。コアとクラッドの屈折率の差が大きいので、コアへの光閉じ込めが強く、小さな曲げ半径でも光損失を抑制することができる。
【0101】
本発明の構成は、シリコン基板上に堆積したシリカガラスをエッチングしたPLC(Planer Lightwave Circuit:プレーナ光波回路)や、InP,GaAs等の化合物半導体材料を用いた光回路にも、適用可能である。
【符号の説明】
【0102】
1 光受信機
10 光受信フロントエンド回路
11 光回路デバイス
11X、11Y 90度光ハイブリッド
111、111A、111B 位相反転カプラ(第2光カプラ)
112 2×2カプラ(第3光カプラ)
113 2×2カプラ(第4光カプラ)
114 2×2カプラ(第1光カプラ)
115 光導波路(第3光導波路)
116 光導波路(第1光導波路)
117 光導波路(第4光導波路)
118 光導波路(第2光導波路)
119 位相シフタ
121、121A、121B TE1発生器
122 1×2カプラ
20 信号処理回路