(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】スロットル制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 9/02 20060101AFI20231108BHJP
F02D 41/04 20060101ALI20231108BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
F02D9/02 305A
F02D41/04
F02D45/00 364G
(21)【出願番号】P 2020041121
(22)【出願日】2020-03-10
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】鰐部 昌博
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-118373(JP,A)
【文献】特開2006-144565(JP,A)
【文献】特開2013-142349(JP,A)
【文献】特開2019-138205(JP,A)
【文献】特開2019-203439(JP,A)
【文献】特開2020-67026(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 9/00
F02D 41/00-45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの吸気通路に設置されたスロットルバルブの開度を制御するスロットル制御装置において、
前記スロットルバルブの開度であるスロットル開度TAの目標値を目標開度TA*とし、前記スロットル開度TAの制御範囲の最大値を最大開度TAmaxとし、前記エンジンの負荷率KLの要求値を要求負荷率KL*とし、前記エンジンの現在の制御状態における前記負荷率KLの最大値を最大負荷率KLmaxとし、前記スロットルバルブの通過前の吸気圧に対する同スロットルバルブの通過後の吸気圧の比をスロットル前後圧力比RPとし、前記スロットル前後圧力比RPが既定値RPwotとなるときの前記スロットル開度TAを切替点開度TAwotとし、前記スロットル前後圧力比RPが前記既定値RPwotとなるときの前記負荷率KLを切替点負荷率KLwotとしたとき、
前記切替点負荷率KLwotよりも大きく、かつ前記最大負荷率KLmaxよりも小さい負荷率を負荷率閾値KLTの値として設定する負荷率閾値設定処理と、
前記要求負荷率KL*が前記負荷率閾値KLT以下の場合には同要求負荷率KL*を調整後要求負荷率KLrqmの値として設定するとともに、前記要求負荷率KL*が前記負荷率閾値KLTを超える場合には前記最大負荷率KLmaxを前記調整後要求負荷率KLrqmの値として設定する要求負荷率調整処理と、
前記負荷率KLを前記調整後要求負荷率KLrqmとするために必要な前記スロットル前後圧力比RPを要求圧力比RP*としたとき、前記要求圧力比RP*が前記既定値RPwot以下の値となる場合には前記スロットル前後圧力比RPが前記要求圧力比RP*となる前記スロットル開度TAを前記目標開度TA*の値として演算するとともに、前記要求圧力比RP*が既定値RPwotを超える値となる場合には下式の関係を満たす値を前記目標開度TA*の値として演算する目標開度演算処理と、
前記スロットル開度TAを前記目標開度TA*とすべく前記スロットルバルブを駆動するスロットル駆動処理と、
を行うスロットル制御装置。
【数1】
【請求項2】
「k」を、1未満の正の値を取る定数としたとき、前記負荷率閾値設定処理は、下式の関係を満たす値を前記負荷率閾値KLTの値として設定する請求項1に記載のスロットル制御装置。
【数2】
【請求項3】
前記目標開度演算処理にて演算された前記目標開度TA*が、前記切替点開度TAwotの値が取り得る範囲の最大値よりも大きく、かつ前記最大開度TAmaxよりも小さい値として予め設定された開度閾値TAT以上の値である場合には、同目標開度TA*の値を前記最大開度TAmaxに置き換えて前記スロットル駆動処理に受け渡す目標開度調整処理を行う請求項1又は2に記載のスロットル制御装置。
【請求項4】
エンジンの吸気通路に設置されたスロットルバルブの開度を制御するスロットル制御装置において、
前記スロットルバルブの開度であるスロットル開度TAの目標値を目標開度TA*とし、前記スロットル開度TAの制御範囲の最大値を最大開度TAmaxとし、前記エンジンの負荷率KLの要求値を要求負荷率KL*とし、前記エンジンの現在の制御状態における前記負荷率KLの最大値を最大負荷率KLmaxとし、前記スロットルバルブの通過前の吸気圧に対する同スロットルバルブの通過後の吸気圧の比をスロットル前後圧力比RPとし、前記負荷率KLを前記要求負荷率KL*とするために必要な前記スロットル前後圧力比RPを要求圧力比RP*とし、前記スロットル前後圧力比RPが既定値RPwotとなるときの前記スロットル開度TAを切替点開度TAwotとし、前記スロットル前後圧力比RPが前記既定値RPwotとなるときの前記負荷率KLを切替点負荷率KLwotとしたとき、
前記要求圧力比RP*が前記既定値RPwot以下の値となる場合には前記スロットル前後圧力比RPが前記要求圧力比RP*となる前記スロットル開度TAを調整前目標開度TArqの値として演算するとともに、前記要求圧力比RP*が既定値RPwotを超える値となる場合には下式の関係を満たす値を前記調整前目標開度TArqの値として演算する目標開度演算処理と、
前記調整前目標開度TArqが、前記切替点開度TAwotの値が取り得る範囲の最大値よりも大きく、かつ前記最大開度TAmaxよりも小さい値として予め設定された開度閾値TAT以下の値である場合には前記調整前目標開度TArqを前記目標開度TA*の値として設定するとともに、前記調整前目標開度TArqが前記開度閾値TATを超える値である場合には前記最大開度TAmaxを前記目標開度TA*の値として設定する目標開度調整処理と、
前記スロットル開度TAを前記目標開度TA*とすべく前記スロットルバルブを駆動するスロットル駆動処理と、
を行うスロットル制御装置。
【数3】
【請求項5】
前記切替点負荷率KLwotよりも大きく、かつ前記最大負荷率KLmaxよりも小さい負荷率を負荷率閾値KLTの値として設定する負荷率閾値設定処理と、
前記要求負荷率KL*が前記負荷率閾値KLTを超える場合には同要求負荷率KL*の値を前記最大負荷率KLmaxに置き換えて前記目標開度演算処理に受け渡す要求負荷率調整処理と、
を行う請求項4に記載のスロットル制御装置。
【請求項6】
「k」を、1未満の正の値を取る定数としたとき、前記負荷率閾値設定処理は、下式の関係を満たす値を前記負荷率閾値KLTの値として設定する請求項5に記載のスロットル制御装置。
【数4】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのスロットルバルブの開度を制御するスロットル制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車載等のエンジンでは、スロットルバルブの開度制御を通じて、燃焼毎に気筒に流入する空気量であるシリンダ流入吸気量を調整している。スロットルバルブの開度制御は、アクセルペダル開度からスロットルバルブ通過後の吸気の圧力であるスロットル下流圧の要求値である要求スロットル下流圧PM*を求めるとともに、その要求スロットル下流圧PM*から目標開度TA*を決定することで行われている。
【0003】
スロットル開度が大きい大開度領域では、スロットルバルブを通過する吸気の流量のスロットル開度に対する感度が低くなることから、シリンダ流入吸気量の変更に必要なスロットル開度の変更量が増加する。そのため、大開度領域では、スロットル開度の大幅な変更が頻繁に行われる、いわゆるスロットルハンチングが発生し易くなる。
【0004】
これに対して、従来、特許文献1には、要求スロットル下流圧PM*が規定の圧力P1以上の場合には、式(1)に従って目標開度TA*を演算するスロットル制御装置が提案されている。式(1)における「TAwot」は、スロットル下流圧を上記規定の圧力P1とするために必要なスロットル開度を表している。また、式(1)における「ΔTC」は、式(2)により求められる補正開度である。なお、式(2)における「CD」は、エンジン回転数NEに応じて決定される係数であり、スロットル開度の変化に対するスロットル下流圧の変化の割合がスロットルハンチングを抑制可能な範囲の下限値となるようにその値が定められている。
【0005】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来のスロットル制御装置では、スロットルハンチングを抑制することは確かに可能であるが、要求スロットル下流圧PM*を最大値としたときの目標開度TA*がスロットルバルブの最大開度とならないため、本来発生可能な最大値までエンジントルクを高められなくなる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するスロットル制御装置は、エンジンの吸気通路に設置されたスロットルバルブの開度を制御する装置であり、下記の負荷率閾値設定処理、要求負荷率調整処理、目標開度演算処理、及びスロットル駆動処理を行う。負荷率閾値設定処理は、切替点負荷率KLwotよりも大きく、かつ最大負荷率KLmaxよりも小さい負荷率を負荷率閾値KLTの値として設定する処理である。要求負荷率調整処理は、要求負荷率KL*が負荷率閾値KLT以下の場合には同要求負荷率KL*を調整後要求負荷率KLrqmの値として設定するとともに、要求負荷率KL*が負荷率閾値KLTを超える場合には最大負荷率KLmaxを調整後要求負荷率KLrqmの値として設定する処理である。目標開度演算処理は、負荷率KLを調整後要求負荷率KLrqmとするために必要なスロットル前後圧力比RPを要求圧力比RP*としたとき、要求圧力比RP*が既定値RPwot以下の値となる場合にはスロットル前後圧力比RPが要求圧力比RP*となるスロットル開度TAを目標開度TA*の値として演算するとともに、要求圧力比RP*が既定値RPwotを超える値となる場合には式(3)の関係を満たす値を目標開度TA*の値として演算する処理である。スロットル駆動処理は、スロットル開度TAを目標開度TA*とすべくスロットルバルブを駆動する処理である。
【0009】
【数2】
なお、目標開度TA*はスロットルバルブの開度であるスロットル開度TAの目標値を、最大開度TAmaxはスロットル開度TAの制御範囲の最大値を、要求負荷率KL*はエンジンの負荷率KLの要求値を、最大負荷率KLmaxはエンジンの現在の制御状態における負荷率KLの最大値を、それぞれ表している。また、スロットル前後圧力比RPはスロットルバルブの通過前の吸気圧に対する同スロットルバルブの通過後の吸気圧の比を、切替点開度TAwotはスロットル前後圧力比RPが既定値RPwotとなるときのスロットル開度TAを、切替点負荷率KLwotはスロットル前後圧力比RPが既定値RPwotとなるときの負荷率KLを、それぞれ表している。
【0010】
上記スロットル制御装置での目標開度演算処理では、要求圧力比RP*が既定値RPwot以下の場合には、スロットル前後圧力比RPが要求圧力比RP*となるスロットル開度TAが目標開度TA*の値として演算される。要求圧力比RP*が既定値RPwotを超える場合にも、スロットル前後圧力比RPが要求圧力比RP*となるスロットル開度TAが目標開度TA*の値として演算すると、目標開度TA*が最大開度TAmaxに近づくにつれて、負荷率KLに対する目標開度TA*の感度が高くなる。そのため、大開度領域では、要求負荷率KL*の僅かな変化に対して目標開度TA*の値が大きく変化することになり、スロットルハンチングが発生してしまう。
【0011】
これに対して上記スロットル制御装置では、要求圧力比RP*が既定値RPwotを超える場合、すなわちスロットル開度TAが切替点開度TAwot以上となる大開度領域では、要求負荷率KL*に対して線形関係となるように目標開度TA*の値が演算される。こうした場合、要求圧力比RP*が既定値RPwotを超える領域では、要求負荷率KL*に対する目標開度TA*の変化率は一定となるため、スロットルハンチングが発生し難くなる。
【0012】
さらに、上記スロットル制御装置では、大開度領域の中でも要求負荷率KL*が負荷率閾値KLTを超える領域では、最大開度TAmaxが目標開度TA*の値として設定される。最大開度TAmaxに近いスロットル開度TAの範囲では、エンジンの負荷率KLが最大負荷率KLmax近傍の値に収束して、スロットル開度TAの変化に対して殆ど変化しなくなる。よって、そうした領域では目標開度TA*を最大開度TAmaxに固定して、要求負荷率KL*の微小変動に対応したスロットルバルブの駆動を行わないようにしている。
【0013】
しかも、要求負荷率KL*が最大負荷率KLmaxの場合には最大開度TAmaxとなるように目標開度TA*が演算されるため、本来発生可能な最大値までエンジントルクを高められる。また、大開度領域においても要求負荷率KL*に連動して変化する値として目標開度TA*が演算されるため、再循環排気や燃料蒸気、ブローバイガスなどの新気以外のガスが燃焼室に流入する状況でも、要求負荷率KL*の変化に追従して負荷率KLが変化するようにスロットル開度TAを制御することが可能となる。このように上記スロットル制御装置によれば、大開度領域におけるスロットルバルブの制御性を向上できる。
【0014】
なお、上記スロットル制御装置における負荷率閾値設定処理は、「k」を、1未満の正の値を取る定数としたとき、式(4)の関係を満たす値を負荷率閾値KLTの値として設定する処理とするとよい。
【0015】
【数3】
また、上記スロットル制御装置において、次の目標開度調整処理を併せ行うようにするとよい。すなわち、目標開度調整処理は、目標開度演算処理にて演算された目標開度TA*が、切替点開度TAwotの値が取り得る範囲の最大値よりも大きく、かつ最大開度TAmaxよりも小さい値として予め設定された開度閾値TAT以上の値である場合には、同目標開度TA*の値を最大開度TAmaxに置き換えてスロットル駆動処理に受け渡す処理である。
【0016】
上記課題を解決するもう一つのスロットル制御装置は、エンジンの吸気通路に設置されたスロットルバルブの開度を制御するスロットル制御装置において、スロットルバルブの開度であるスロットル開度TAの目標値を目標開度TA*とし、スロットル開度TAの制御範囲の最大値を最大開度TAmaxとし、エンジンの負荷率KLの要求値を要求負荷率KL*とし、エンジンの現在の制御状態における負荷率KLの最大値を最大負荷率KLmaxとし、スロットルバルブの通過前の吸気圧に対する同スロットルバルブの通過後の吸気圧の比をスロットル前後圧力比RPとし、負荷率KLを要求負荷率KL*とするために必要なスロットル前後圧力比RPを要求圧力比RP*とし、スロットル前後圧力比RPが既定値RPwotとなるときのスロットル開度TAを切替点開度TAwotとし、スロットル前後圧力比RPが既定値RPwotとなるときの負荷率KLを切替点負荷率KLwotとしたとき、要求圧力比RP*が既定値RPwot以下の値となる場合にはスロットル前後圧力比RPが要求圧力比RP*となるスロットル開度TAを調整前目標開度TArqの値として演算するとともに、要求圧力比RP*が既定値RPwotを超える値となる場合には式(5)の関係を満たす値を調整前目標開度TArqの値として演算する目標開度演算処理と、調整前目標開度TArqが、切替点開度TAwotの値が取り得る範囲の最大値よりも大きく、かつ最大開度TAmaxよりも小さい値として予め設定された開度閾値TAT以下の値である場合には調整前目標開度TArqを目標開度TA*の値として設定するとともに、調整前目標開度TArqが開度閾値TATを超える値である場合には最大開度TAmaxを目標開度TA*の値として設定する目標開度調整処理と、スロットル開度TAを目標開度TA*とすべくスロットルバルブを駆動するスロットル駆動処理と、を行っている。
【0017】
【数4】
上記スロットル制御装置では、要求圧力比RP*が既定値RPwotを超える場合、すなわちスロットル開度TAが切替点開度TAwot以上となる大開度領域では、要求負荷率KL*に対して線形関係となるように目標開度TA*の値が演算される。こうした場合、要求圧力比RP*が既定値RPwotを超える領域では、要求負荷率KL*に対する目標開度TA*の変化率は一定となるため、スロットルハンチングが発生し難くなる。
【0018】
さらに、上記スロットル制御装置では、大開度領域の中でも調整前目標開度TArqが開度閾値TATを超える領域では、最大開度TAmaxが目標開度TA*の値として設定される。最大開度TAmaxに近いスロットル開度TAの範囲では、エンジンの負荷率KLが最大負荷率KLmax近傍の値に収束して、スロットル開度TAの変化に対して殆ど変化しなくなる。よって、そうした領域では目標開度TA*を最大開度TAmaxに固定して、要求負荷率KL*の微小変動に対応したスロットルバルブの駆動を行わないようにしている。
【0019】
しかも、要求負荷率KL*が最大負荷率KLmaxの場合には最大開度TAmaxとなるように目標開度TA*が演算されるため、本来発生可能な最大値までエンジントルクを高められる。また、大開度領域においても要求負荷率KL*に連動して変化する値として目標開度TA*が演算されるため、再循環排気や燃料蒸気、ブローバイガスなどの新気以外のガスが燃焼室に流入する状況でも、要求負荷率KL*の変化に追従して負荷率KLが変化するようにスロットル開度TAを制御することが可能となる。このように上記スロットル制御装置によれば、大開度領域におけるスロットルバルブの制御性を向上できる。
【0020】
なお、上記スロットル制御装置において、更に切替点負荷率KLwotよりも大きく、かつ最大負荷率KLmaxよりも小さい負荷率を負荷率閾値KLTの値として設定する負荷率閾値設定処理と、要求負荷率KL*が負荷率閾値KLTを超える場合には同要求負荷率KL*の値を最大負荷率KLmaxに置き換えて目標開度演算処理に受け渡す要求負荷率調整処理と、を行うようにするとよい。また、「k」を、1未満の正の値を取る定数としたとき、上記負荷率閾値設定処理は式(6)の関係を満たす値を負荷率閾値KLTの値として設定する処理とするとよい。
【0021】
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】スロットル制御装置の第1実施形態の構成の模式図。
【
図2】スロットル前後圧力比、スロットル開度とスロットル通過流量との関係を示すグラフ。
【
図3】スロットル前後圧力比とΦ値との関係を示すグラフ。
【
図4】スロットル開度と飽和流量との関係を示すグラフ。
【
図5】スロットル開度とスロットル前後圧力比との関係を示すグラフ。
【
図6】目標開度演算ルーチンの一部を示すフローチャート。
【
図7】同目標開度演算ルーチンの残りの部分を示すフローチャート。
【
図8】エンジン回転数と最大負荷率との関係を示すグラフ。
【
図10】要求負荷率と目標開度との関係を示すグラフ。
【
図11】大開度領域での要求負荷率と目標開度との関係を示すグラフ。
【
図12】第2実施形態のスロットル制御装置が実行する目標開度演算ルーチンの一部を示すフローチャート。
【
図13】第3実施形態のスロットル制御装置が実行する目標開度演算ルーチンの一部を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1実施形態)
以下、スロットル制御装置の第1実施形態を、
図1~
図11を参照して詳細に説明する。本実施形態のスロットル制御装置は、車両に搭載された自然吸気式のエンジンに適用されている。
【0024】
図1に示すように、本実施形態の適用対象となるエンジン10には、燃焼室11に流入する吸気が流れる吸気通路12と、燃焼室11から排出された排気が流れる排気通路13と、が設けられている。また、エンジン10には、開弁/閉弁に応じて吸気通路12を燃焼室11に連通/遮断する吸気弁14と、開弁/閉弁に応じて排気通路13を燃焼室11に連通/遮断する排気弁15と、が設けられている。
【0025】
吸気通路12には、吸気中の塵等を濾過するエアクリーナ16と、吸気通路12を流れる吸気の流量である吸気流量GAを検出するエアフローメータ17と、が設けられている。また、吸気通路12におけるエアフローメータ17よりも下流側の部分には、スロットルバルブ18が設置されている。スロットルバルブ18は、回転可能に軸支された状態で吸気通路12内に設置されている。そして、スロットルバルブ18は、スロットルモータ19により回転駆動されるようになっている。さらに、吸気通路12におけるスロットルバルブ18よりも下流側の部分には、吸気中に燃料を噴射するインジェクタ20が設置されている。そして、燃焼室11には、吸気通路12を通じて流入した吸気とインジェクタ20が噴射した燃料との混合気に着火する点火プラグ21が設置されている。
【0026】
こうしたエンジン10においてスロットルバルブ18は、吸気通路12内での回転位置に応じて開口面積を変化させることで、同スロットルバルブ18を通過する吸気の流量であるスロットル通過流量を調整する弁となっている。以下の説明におけるスロットル開度TAは、開口面積が0となる回転位置である全閉位置からのスロットルバルブ18の回転角を表している。
【0027】
以上のように構成されたエンジン10は、エンジン制御ユニット22により制御されている。エンジン制御ユニット22は、エンジン制御に係る各種の演算処理を実行する演算処理回路と、プログラムやデータが記憶されたメモリと、を備えている。エンジン制御ユニット22には、上述のエアフローメータ17による吸気流量GAの検出信号に加え、運転者のアクセルペダルの踏み込み量であるアクセルペダル開度ACC、大気圧PA、スロットルバルブ18の開度であるスロットル開度TAなどの検出信号が入力されている。また、エンジン制御ユニット22には、クランクシャフト23の回転に応じて出力されるパルス状のクランク信号CRNKが入力されている。エンジン制御ユニット22は、そのクランク信号CRNKからエンジン回転数NEを求めている。
【0028】
エンジン制御ユニット22は、エンジン制御の一環としてスロットルバルブ18の開度制御を行っている。エンジン制御ユニット22は、負荷率閾値設定処理F1、要求負荷率調整処理F2、及び目標開度演算処理F3の各処理を通じて、スロットル開度TAの目標値である目標開度TA*を演算する。そして、エンジン制御ユニット22は、スロットル駆動処理F5において、スロットル開度TAを目標開度TA*とすべくスロットルバルブ18の駆動制御を行う。スロットルバルブ18の駆動制御は、例えば目標開度TA*に対するスロットル開度TAの偏差に応じてスロットルモータ19の駆動電流をフィードバック調整することで行われる。なお、本実施形態では、こうしたスロットルバルブ18の開度制御を行うエンジン制御ユニット22がスロットル制御装置に相当する構成となっている。
【0029】
続いて、本実施形態のエンジン制御ユニット22が行う目標開度TA*の演算の基本ロジックを説明する。
目標開度TA*の演算に際してエンジン制御ユニット22はまず、アクセルペダル開度ACC及びエンジン回転数NEに基づき、負荷率KLの要求値である要求負荷率KL*を算出する。負荷率KLは、燃焼室11に流入する吸気の質量であるシリンダ流入空気量を、シリンダの行程容積を占める標準大気状態の、すなわち標準大気圧:1013hPa、標準気温:20℃、標準相対湿度:60%の吸気の質量に対する比率で表したものである。すなわち、負荷率KLは、燃焼室11の吸気の充填効率ηcを表している。
【0030】
シリンダ流入吸気量は、吸気通路12におけるスロットルバルブ18よりも下流側の部分の吸気の圧力であるスロットル下流圧PMと、エンジン回転数NEと、により定まる。よって、要求負荷率KL*とエンジン回転数NEとに基づくことで、要求負荷率KL*分の負荷率KLを得るために必要なスロットル下流圧PMの値を求めることができる。エンジン制御ユニット22は、要求負荷率KL*とエンジン回転数NEとに基づき、要求負荷率KL*分の負荷率KLが得られるスロットル下流圧PMを要求スロットル下流圧PM*の値として演算している。
【0031】
ここで、スロットルバルブ18を通過し、エンジン10の各気筒の燃焼室11に分配供給される吸気の質量流量を吸気弁通過流量とする。なお、燃焼室11への吸気の流入は吸気弁14の開閉に応じて間欠的に行われるため、実際の吸気弁通過流量はエンジン10の回転に応じて変動する値となるが、ここではそうした変動分を均した値をバルブ通過流量として用いる。エンジン10が1回転する間に同エンジン10において行われる吸気行程の回数は、エンジン10の気筒数により定まった回数となる。よって、単位時間当たりのエンジン10の回転数であるエンジン回転数NEは、エンジン10において単位時間に行われる吸気行程の回数に比例した値となり、そのエンジン回転数NEに要求負荷率KL*を乗算した積(=NE×KL*)は、要求負荷率KL*分の負荷率KLが得られる吸気弁通過流量に比例する値となる。
【0032】
なお、本実施形態では、[rpm・%]を目標開度TA*の演算に用いる吸気の流量の単位として用いている。同単位を用いた場合の吸気弁通過流量[rpm・%]は、エンジン回転数NE[rpm]に要求負荷率KL*[%]を乗算した積と一致する値となる。
【0033】
スロットル開度TA及びエンジン回転数NEが一定に保持された定常状態における吸気弁通過流量は、スロットルバルブ18を通過する吸気の流量であるスロットル通過流量と等しい流量となる。したがって、スロットル下流圧PMが要求スロットル下流圧PM*となり、且つスロットル通過流量がエンジン回転数NEと要求負荷率KL*の積となるスロットル開度TAをスロットルバルブ18の目標開度TA*に設定すれば、要求負荷率KL*分の負荷率KLが得られるようになる。
【0034】
スロットル通過流量は、スロットルバルブ18を通過する吸気の速度と同スロットルバルブ18の開口面積との積となる。また、スロットルバルブ18の開口面積は、スロットル開度TAの関数となる。さらに、スロットルバルブ18を通過する吸気の速度は、スロットル上流圧PACに対するスロットル下流圧PMの比であるスロットル前後圧力比RPにより決まる。スロットル上流圧PACは、吸気通路12におけるスロットルバルブ18の上流側の部分の吸気の圧力を表している。本実施形態では、大気圧PAをスロットル上流圧PACとして用いている。スロットル前後圧力比RPの値が取り得る範囲は、0から1までの範囲となる。よって、スロットル開度TA、スロットル前後圧力比RP、スロットル通過流量の3つの値のうち、2つの値が定まれば、残りの一つの値も自ずと定まることになる。
【0035】
図2に、スロットル開度TA及びスロットル前後圧力比RPとスロットル通過流量との関係を示す。なお、スロットルバルブ18を通過する吸気の速度は、スロットル前後圧力比RPが1のときには0となり、スロットル前後圧力比RPが一定の値α以下のときには音速となる。そして、スロットル前後圧力比RPをαから1まで次第に増加させていったときのスロットルバルブ18を通過する吸気の速度は、スロットル前後圧力比RPがαのときの値である音速からスロットル前後圧力比RPが1のときの値である0まで次第に低下する。また、スロットル通過流量は、スロットルバルブ18を通過する吸気の速度とスロットルバルブ18の開口面積との積となる。そのため、スロットル前後圧力比RPが一定の状態ではスロットル開度TAが大きいほど、スロットル通過流量が多くなる。よって、スロットル開度TA及びスロットル前後圧力比RPに対するスロットル通過流量の変化傾向は
図2に示す通りとなる。
【0036】
ここで、スロットル前後圧力比RPがα以下の領域、すなわちスロットルバルブ18を通過する吸気の速度が音速以上となる音速域におけるスロットル通過流量を飽和流量とする。飽和流量は、スロットルバルブ18の開口面積と音速との積となり、その値はスロットル開度TAの関数となる。こうした飽和流量に対するスロットル通過流量の比をΦ値とする。スロットルバルブ18を通過する吸気の速度は、スロットル前後圧力比RPにより決まるため、Φ値はスロットル前後圧力比RPの関数となる。なお、Φ値は、スロットルバルブ18を通過する吸気の速度の、音速に対する比を表してもいる。
【0037】
図3に、Φ値とスロットル前後圧力比RPとの関係を示す。同図に示すように、スロットル前後圧力比RPがα以下の音速域でのΦ値は1となる。また、スロットル前後圧力比RPが1のときのΦ値は0となる。そして、スロットル前後圧力比RPをαから1へと次第に増加させていったときのΦ値は、スロットル前後圧力比RPがαのときの値である1からスロットル前後圧力比RPが1のときの値である0へと次第に減少していく値となる。エンジン制御ユニット22のメモリには、こうしたΦ値とスロットル前後圧力比RPとの関係が、Φ値演算マップMAP1として記憶されている。
【0038】
図4に、飽和流量とスロットル開度TAとの関係を示す。上述のように飽和流量は、スロットルバルブ18の開口面積に比例する。そして、スロットル開度TAと開口面積との関係は、吸気通路12及びスロットルバルブ18の寸法形状により決まるため、飽和流量とスロットル開度TAとの関係はそれらの設計仕様から求められるものとなっている。エンジン制御ユニット22のメモリには、こうした飽和流量とスロットル開度TAとの関係が、開度演算マップMAP2として記憶されている。
【0039】
スロットル通過流量は、現在のスロットル開度TAにおける飽和流量に、現在のスロットル前後圧力比RPにおけるΦ値を乗算した積として求めることができる。一方、上述のように、要求スロットル下流圧PM*は、要求負荷率KL*分の負荷率KLが得られるスロットル下流圧PMの値として求められている。よって、現在のスロットル上流圧PACが既知となれば、そのスロットル上流圧PACに対する要求スロットル下流圧PM*の比として、要求負荷率KL*分の負荷率KLが得られるスロットル前後圧力比RPである要求圧力比RP*の値を求めることができる。ちなみに、自然吸気式のエンジン10では、スロットル上流圧PACは大気圧PAと同じ圧力であると見做せる。そこで本実施形態では、要求スロットル下流圧PM*を大気圧PAで除算した商(=PM*/PA)を要求圧力比RP*の値として求めている。
【0040】
さらに、上述のように、要求負荷率KL*分の負荷率KLが得られる吸気弁通過流量は、要求負荷率KL*にエンジン回転数NEを乗算した積となる。また、定常状態では、吸気弁通過流量とスロットル通過流量とは等しい流量となる。よって、次の手順により、要求負荷率KL*分の負荷率KLを得るために必要な目標開度TA*の値を演算することができる。
【0041】
上記のように要求スロットル下流圧PM*は、吸気弁通過流量が、要求負荷率KL*分の負荷率KLが得られる流量となるときのスロットル下流圧PMを表している。よって、スロットル上流圧PACに対する要求スロットル下流圧PM*の比である要求圧力比RP*の値は、吸気弁通過流量が、要求負荷率KL*分の負荷率KLが得られる流量となるときのスロットル前後圧力比RPを表すことになる。そこで、
図3の関係に基づいて、スロットル前後圧力比RPが要求圧力比RP*であるときのΦ値の値を求め、その求めたΦ値の値により、要求負荷率KL*分の負荷率KLを得るために必要な吸気弁通過流量を除算した商を演算する。この商の値は、要求負荷率KL*分の負荷率KLが得られるスロットル開度TA、すなわち目標開度TA*における飽和流量を表す。そこで、
図4の関係に基づき、その商の値が飽和流量となるスロットル開度TAを目標開度TA*の値として求めれば、要求負荷率KL*分の負荷率KLが得られるスロットル開度TAを目標開度TA*の値として演算することができる。
【0042】
ただし、こうして演算した目標開度TA*に基づきスロットルバルブ18の開度制御を行う場合には、次の問題が生じる虞がある。
図5に、スロットル上流圧PAC及びエンジン回転数NEが一定の状態においてスロットル開度TAを変化させたときのスロットル前後圧力比RPの変化を示す。スロットル開度TAを0から最大開度TAmaxへと増加させていったときにスロットル前後圧力比RPは、スロットル開度TAが0のときの値である0からスロットル開度TAが最大開度TAmaxのときの値である1へと増加していく。ただし、スロットル開度TAが最大開度TAmaxに近づくと、スロットル開度TAに対するスロットル前後圧力比RPの変化率、すなわちスロットル開度TAの変化量に対するスロットル前後圧力比RPの変化量の比率は次第に小さくなる。そのため、スロットル前後圧力比RPが1に近い大開度領域では、スロットル開度TAに対するスロットル前後圧力比RPの感度が低くなる。すなわち、要求負荷率KL*の僅かな変化に対して目標開度TA*の値が大きく変化することになる。そしてその結果、大開度領域では、スロットル開度TAの大幅な変更が頻繁に行われる、いわゆるスロットルハンチングが発生して、スロットルモータ19等に多大な負荷をかける虞がある。
【0043】
本実施形態では、こうした大開度領域でのスロットルハンチングを抑制すべく、下記の態様でスロットルバルブ18の目標開度TA*の演算を行っている。
図6及び
図7に、目標開度TA*の演算に係る目標開度演算ルーチンのフローチャートを示す。エンジン制御ユニット22は、エンジンの運転中に本ルーチンの処理を既定の制御周期毎に繰り返し実行する。
【0044】
本ルーチンの処理が開始されると、まずステップS100において、アクセルペダル開度ACC、エンジン回転数NE、及び大気圧PAの各値が取得される。続いて、ステップS110において、アクセルペダル開度ACC、及びエンジン回転数NEに基づき、要求負荷率KL*、及び要求スロットル下流圧PM*が演算される。さらに続くステップS120では、スロットル上流圧PACにより要求スロットル下流圧PM*を除算した商が要求圧力比RP*の値として演算される。なお、過給式のエンジンに適用する場合には過給圧の検出値又は推定値をスロットル上流圧PACの値として用いるようにするとよい。
【0045】
続いて、ステップS130において要求圧力比RP*が既定値RPwotよりも大きい値であるか否かが判定される。既定値RPwotの値としては、スロットルハンチングが発生する虞があるスロットル前後圧力の範囲の下限値よりも小さい値が設定されている。このときの要求圧力比RP*が既定値RPwot以下の値である場合には(S130:NO)、ステップS140に処理が進められる。これに対して、要求圧力比RP*が既定値RPwotよりも大きい値である場合(YES)には、
図7に示すステップS160に処理が進められる。
【0046】
ステップS140に処理が進められると、そのステップS140において、上述のΦ値演算マップMAP1を用いて、スロットル前後圧力比RPが要求圧力比RP*であるときのΦ値の値が、要求Φ値PHY*の値として求められる。さらに同ステップS140では、要求負荷率KL*とエンジン回転数NEとの積を要求Φ値PHY*で除算した商が、要求飽和流量BPM*の値として演算される。続いて、ステップS150において、開度演算マップMAP2を用いて飽和流量が要求飽和流量BPM*となるスロットル開度TAが目標開度TA*の値として演算された後、今回の本ルーチンの処理が終了される。
【0047】
一方、上述のステップS130での判定の結果として
図7のステップS160に処理が進められた場合には、そのステップS160において次の2つの値が演算される。まず、Φ値演算マップMAP1を用いて、スロットル前後圧力比RPが既定値RPwotであるときのΦ値の値が、切替点Φ値PHYwotの値として演算される。また、要求負荷率KL*にエンジン回転数NEを乗算した積を切替点Φ値PHYwotで除算した商が、切替点飽和流量BPMwotの値として演算される。
【0048】
続いて、ステップS170において、開度演算マップMAP2を用いて、飽和流量が切替点飽和流量BPMwotとなるスロットル開度TAが切替点開度TAwotの値として演算される。
さらに続くステップS180では、スロットル前後圧力比RPが既定値RPwotとなる負荷率KLの値が、切替点負荷率KLwotの値として演算される。切替点負荷率KLwotの演算に際してはまず、スロットル上流圧PACに既定値RPwotを乗算した積が、切替点スロットル下流圧PMwotの値として求められる。一方、エンジン制御ユニット22のメモリには、スロットル下流圧PM及びエンジン回転数NEと負荷率KLとの関係が、負荷率演算マップMAP3として記憶されている。切替点負荷率KLwotの値は、この負荷率演算マップMAP3を用いて、現在のエンジン回転数NEにおいてスロットル下流圧PMが切替点スロットル下流圧PMwotとなる負荷率KLを求めることで、演算されている。なお、こうして演算された切替点負荷率KLwotの値は、スロットル開度TA以外のエンジン10の制御状態を変えずに、スロットル開度TAを切替点開度TAwotとした場合の負荷率KLを示している。
【0049】
ちなみに、バルブタイミングやバルブリフト量などの吸気弁14や排気弁15の動弁特性を可変とする可変動弁機構が設けられたエンジンでは、スロットル下流圧PM及びエンジン回転数NEに加えて可変動弁機構の操作量によっても、負荷率KLが変化する。よって、可変動弁機構を備えるエンジンの場合には、スロットル下流圧PM、エンジン回転数NE、及び可変動弁機構の操作量と負荷率KLとの関係を記憶するように負荷率演算マップMAP3を構成する。そして、その負荷率演算マップMAP3を用いて、現在のエンジン回転数NE、可変動弁機構の操作量、及び切替点スロットル下流圧PMwotから切替点負荷率KLwotを演算するとよい。
【0050】
続いてステップS190において、現在のエンジン回転数NEにおける負荷率KLの最大値である最大負荷率KLmaxの演算が行われる。ここでの最大負荷率KLmaxの演算は、
図8に示すようなエンジン10におけるエンジン回転数NEと最大負荷率KLmaxとの関係が記憶された最大負荷率演算マップMAP4を用いて行われる。なお、こうして演算した最大負荷率KLmaxの値は、エンジン10の現在の運転状態において、スロットル開度TA以外の制御状態を変えずに、スロットル開度TAを最大開度TAmaxとした場合の負荷率KLを示している。
【0051】
続くステップS200では、切替点負荷率KLwot、及び最大負荷率KLmaxに基づき、式(7)の関係を満たす値として、負荷率閾値KLTの値が設定される。式(7)における「k」は、1未満の正の値を取る定数である。これにより、切替点負荷率KLwotよりも大きく、かつ最大負荷率KLmaxよりも小さい負荷率が、負荷率閾値KLTの値として設定される。なお、本実施形態では、「0.9」を定数kの値として設定している。
【0052】
【数6】
次に、ステップS210において、要求負荷率KL*が負荷率閾値KLTを超える値であるか否かが判定される。そして、要求負荷率KL*が負荷率閾値KLT以下の場合(NO)には、ステップS230において、要求負荷率KL*の値がそのまま、調整後要求負荷率KLrqmの値として設定された後、ステップS240に処理が進められる。これに対して、要求負荷率KL*が負荷率閾値KLTを超える値である場合(YES)には、ステップS220において、最大負荷率KLmaxの値が調整後要求負荷率KLrqmの値として設定された後、ステップS240に処理が進められる。すなわち、要求負荷率KL*が負荷率閾値KLTを超える場合には同要求負荷率KL*の値を最大負荷率KLmaxに置き換えてステップS240の処理に受け渡される。
【0053】
ステップS240に処理が進められると、そのステップS240において、切替点開度TAwot、最大開度TAmax、調整後要求負荷率KLrqm、切替点負荷率KLwot、及び最大負荷率KLmaxに基づき、式(8)に示す関係を満たす値として目標開度TA*の値が演算された後、今回の本ルーチンの処理が終了される。
【0054】
【数7】
図9に、スロットル開度TA及び負荷率KLを座標軸とした直交座標系に式(8)の各パラメータをプロットしたものを示す。同図に示す線分LABは、スロットル開度TAが切替点開度TAwotであり、且つ負荷率KLが切替点負荷率KLwotである座標点Aと、スロットル開度TAが最大開度TAmaxであり、且つ負荷率KLが最大負荷率KLmaxである座標点Bと、の2つの座標点を繋ぐ線分である。ステップS240では、こうした線分LAB上において、負荷率KLが調整後要求負荷率KLrqmとなる座標点Cのスロットル開度TAの値が、目標開度TA*の値として演算される。すなわち、式(8)は、座標点A、B間の線形補間を通じて目標開度TA*の値を演算する式となっている。ちなみに、式(8)の関係に従えば、調整後要求負荷率KLrqmの値として最大負荷率KLmaxが設定されている場合には、最大開度TAmaxが目標開度TA*の値として演算されることになる。
【0055】
本実施形態の作用及び効果について説明する。
図10に、本実施形態のスロットル制御装置における要求負荷率KL*と目標開度TA*の演算値との関係を示す。また、
図11には、
図10において一点鎖線で囲まれた領域における上記関係が示されている。
【0056】
本実施形態では、要求負荷率KL*が切替点負荷率KLwot以下の場合、下記の態様で目標開度TA*を演算している。すなわち、この場合の目標開度TA*の演算に際してはまず、要求負荷率KL*分の負荷率KLが得られるスロットル前後圧力比RPが、要求圧力比RP*の値として演算される。そして、エンジン10におけるスロットル前後圧力比RPとスロットル開度TAとの関係に基づき、スロットル前後圧力比RPが要求圧力比RP*となるスロットル開度TAが目標開度TA*の値として演算される。すなわち、要求負荷率KL*が切替判定値KLwot以下となる場合には、要求負荷率KL*分の負荷率KLが得られるスロットル開度TAの理論値が目標開度TA*の値として演算される。
【0057】
以下の説明では、こうした態様での目標開度TA*の演算値を、目標開度TA*の理論演算値と記載する。なお、
図10及び
図11には、切替点負荷率KLwotを超える領域での要求負荷率KL*と目標開度TA*の理論演算値との関係が二点鎖線で示されている。
【0058】
また、本実施形態では、要求負荷率KL*が切替点負荷率KLwotを超え、かつ負荷率閾値KLT以下の場合には、下記の態様で目標開度TA*が演算される。すなわち、この場合の目標開度TA*の演算に際しては、スロットル前後圧力比RPが既定値RPwotとなるスロットル開度TAである切替点開度TAwotが求められる。また、スロットル開度TAを切替点開度TAwotとした場合の負荷率KLが切替点負荷率KLwotの値として、スロットル開度TAを最大開度TAmaxとした場合の負荷率KLが最大負荷率KLmaxの値としてそれぞれ求められる。そして、要求負荷率KL*に対して線形関係となる値として目標開度TA*が演算される。なお、以下の説明では、こうした態様での目標開度TA*の演算値を同目標開度TA*の線形近似演算値と記載する。
【0059】
負荷率KLが切替点負荷率KLwotを超える大開度領域では、スロットル前後圧力比RPが1に近い値となり、スロットル開度TAに対するスロットル前後圧力比RPの感度が低くなる。そのため、要求負荷率KL*が得られるスロットル開度TAの理論値を目標開度TA*の値に設定してスロットルバルブ18の駆動制御を行うと、スロットルハンチングが発生し易くなる。これに対して本実施形態では、そうした大開度領域での要求負荷率KL*に対する目標開度TA*の変化率が一定となるため、スロットルハンチングが発生し難くなる。
【0060】
さらに、要求負荷率KL*が負荷率閾値KLTを超える場合には、目標開度TA*の線形近似値が最大開度TAmaxに近い値となる。こうした最大開度TAmax近傍のスロットル開度TAの範囲では、エンジン10の負荷率KLが実質的に最大負荷率KLmaxに見做せる値、すなわち、最大負荷率KLmaxからの負荷率KLのずれが、エンジン制御において許容される公差の範囲内となる値となる。こうした範囲内での要求負荷率KL*の微小変動に対応してスロットル開度TAを調整しても、スロットルモータ19の負荷を高めるだけで、エンジン10の運転状態には殆ど影響がない。そのため、本実施形態では、そうした場合には、目標開度TA*の値を最大開度TAmaxに固定している。
【0061】
なお、本実施形態のスロットル制御装置では、要求負荷率KL*が最大負荷率KLmaxとなるときの目標開度TA*が必ず、最大開度TAmaxとなる。そのため、本来発生可能な最大値までエンジントルクを高められる。また、実質的に最大負荷率KLmaxと見做せる範囲よりも低い要求負荷率KL*の値の範囲内では、同要求負荷率KL*の変化に連動して変化する値として目標開度TA*が演算される。そのため、再循環排気や燃料蒸気、ブローバイガスなどの新気以外のガスが燃焼室11に流入する状況でも、要求負荷率KL*の変化に追従して負荷率KLが変化するようにスロットル開度TAを制御することが可能となる。
【0062】
以上説明した本実施形態では、目標開度演算ルーチンにおけるステップS200の処理が負荷率閾値設定処理F1に、ステップS210~S230の処理が要求負荷率調整処理F2に、それぞれ対応している。そして、目標開度演算ルーチンにおける上記以外の処理が目標開度演算処理F3に、それぞれ対応している。
【0063】
(第2実施形態)
次に、スロットル制御装置の第2実施形態を、
図12を併せ参照して詳細に説明する。なお本実施形態にあって、上記実施形態と共通する構成については、同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0064】
第1実施形態のスロットル制御装置は、負荷率閾値設定処理F1、要求負荷率調整処理F2、及び目標開度演算処理F3を通じて目標開度TA*を演算していた。これに対して、本実施形態のスロットル制御装置は、負荷率閾値設定処理F1、及び要求負荷率調整処理F2を実施せず、目標開度演算処理F3と目標開度調整処理F4とを通じて目標開度TA*を演算している。
【0065】
図12に、本実施形態のスロットル制御装置が実行する目標開度演算ルーチンの、第1実施形態との相違部分を示す。本実施形態のスロットル制御装置が実行する目標開度演算ルーチンは、第1実施形態の目標開度演算ルーチンにおけるステップS200~S240の処理を、
図12に示すステップS300~S330の処理に置き換えたものとなっている。すなわち、本実施形態では、要求圧力比RP*が既定値RPwotを超える場合(
図6のS130:YES)には、
図7のステップS160~S190において切替点開度TAwot、切替点負荷率KLwot、最大負荷率KLmax等が演算された後、
図12のステップS300に処理が進められる。
【0066】
ステップS300に処理が進められると、そのステップS300において、切替点開度TAwot、最大開度TAmax、要求負荷率KL*、切替点負荷率KLwot、及び最大負荷率KLmaxに基づき、式(9)に示す関係を満たす値として調整前目標開度TArqの値が演算される。式(9)は、
図9に示した座標点A,B間の線形補間を通じて調整前目標開度TArqの値を演算する式となっている。
【0067】
【数8】
続いてステップS310において、調整前目標開度TArqが既定の開度閾値TATを超過しているか否かが判定される。開度閾値TATには、切替点開度TAwotの値が取り得る範囲の最大値よりも大きく、かつ最大開度TAmaxよりも小さい値が予め設定されている。調整前目標開度TArqが開度閾値TAT以下の値である場合(S310:NO)には、ステップS330において、調整前目標開度TArqの値がそのまま目標開度TA*の値として設定された後、今回の本ルーチンの処理が終了される。これに対して、調整前目標開度TArqが開度閾値TATを超過する値である場合(S310:YES)には、ステップS320において、最大開度TAmaxが目標開度TA*の値として設定された後、今回の本ルーチンの処理が終了される。すなわち、ステップS300で演算したスロットルバルブ18の調整前目標開度TArqが開度閾値TATを超える値である場合には、調整前目標開度TArqの値を最大開度TAmaxに置き換えた値が目標開度TA*の値としてスロットル駆動処理F5に受け渡される。
【0068】
上述のように第1実施形態では、要求負荷率KL*が負荷率閾値KLTを超える場合に目標開度TA*を最大開度TAmaxに固定していた。これに対して本実施形態では、目標開度TA*の線形近似演算値である調整前目標開度TArqが既定の開度閾値TATを超える場合に目標開度TA*を最大開度TAmaxに固定している。すなわち、本実施形態は、目標開度TA*を最大開度TAmaxに固定するか否かを、要求負荷率KL*の代わりに調整前目標開度TArqを用いて判定する点において第1実施形態と相違している。こうした本実施形態でも、第1実施形態と同様の作用、効果を奏することができる。なお、本実施形態では、目標開度演算ルーチンにおけるステップS310~S330の各処理が目標開度調整処理F4に対応し、同目標開度演算ルーチンにおけるステップS310~S330以外の処理が目標開度演算処理F3に対応する。
【0069】
(第3実施形態)
次に、スロットル制御装置の第3実施形態を、
図13を併せ参照して詳細に説明する。なお本実施形態にあって、上記実施形態と共通する構成については、同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。本実施形態のスロットル制御装置は、目標開度TA*の演算に際して、第1実施形態のスロットル制御装置が実施する負荷率閾値設定処理F1、及び要求負荷率調整処理F2と、第2実施形態のスロットル制御装置が実施する目標開度調整処理F4と、を併せ行うものとなっている。
【0070】
図13に、本実施形態のスロットル制御装置が実行する目標開度演算ルーチンの、第1実施形態との相違部分を示す。本実施形態のスロットル制御装置は、第1実施形態の目標開度演算ルーチンにおけるステップS240の処理の代わりに、
図13に示すステップS400~S430の処理を行うものとなっている。すなわち、本実施形態では、要求圧力比RP*が既定値RPwotを超える場合(
図6のS130:YES)の
図7のステップS220又はステップS230での調整後要求負荷率KLrqmの設定後に、
図13のステップS400に処理が進められる。
【0071】
ステップS400に処理が進められると、そのステップS400において、調整後要求負荷率KLrqm等に基づき、式(10)に示す関係を満たす値として調整前目標開度TArqの値が演算される。
【0072】
【数9】
その後、ステップS410において、調整前目標開度TArqが既定の開度閾値TATを超過しているか否かが判定される。そして、調整前目標開度TArqが開度閾値TAT以下の値である場合(NO)には、ステップS430において調整前目標開度TArqの値がそのまま目標開度TA*の値として設定される。また、調整前目標開度TArqが開度閾値TATを超過する値である場合(YES)には、ステップS410において最大開度TAmaxが目標開度TA*の値として設定される。そして、目標開度TA*が設定されると、今回の本ルーチンの処理が終了される。
【0073】
こうした本実施形態では、要求負荷率KL*が負荷率閾値KLTを超える場合、調整前目標開度TArqが開度閾値TATを超える場合の双方において、目標開度TA*が最大開度TAmaxに固定される。こうした本実施形態でも、第1実施形態と同様の作用、効果を奏することができる。
【0074】
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・第1実施形態及び第3実施形態では、式(7)の関係を満たす値として、負荷率閾値KLTの値を設定していたが、切替点負荷率KLwotよりも大きく、かつ最大負荷率KLmaxよりも小さい負荷率を設定するのであれば、それ以外の態様で負荷率閾値KLTの値を設定するようにしてもよい。例えば、負荷率閾値KLTの値を定数としてもよい。また、上記実施形態では、開度閾値TATを定数としていたが、切替点開度TAwot、最大開度TAmaxなどから演算される可変値としてもよい。
【0075】
・上記各実施形態では、スロットル制御装置を自然吸気式のエンジン10に適用した場合について説明したが、大気圧PAの代わりに過給圧をスロットル上流圧PACとして用いるようにすれば、過給式のエンジンにも適用できる。
【符号の説明】
【0076】
10…エンジン
11…燃焼室
12…吸気通路
13…排気通路
14…吸気弁
15…排気弁
16…エアクリーナ
17…エアフローメータ
18…スロットルバルブ
19…スロットルモータ
20…インジェクタ
21…点火プラグ
22…エンジン制御ユニット
23…クランクシャフト