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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】燃料供給システムの制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02M 51/00 20060101AFI20231108BHJP
   F02M 37/08 20060101ALI20231108BHJP
   F02D 41/22 20060101ALI20231108BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
F02M51/00 A
F02M37/08 B
F02D41/22
F02D45/00 345
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020046110
(22)【出願日】2020-03-17
(65)【公開番号】P2021148011
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】岩井 顕
【審査官】竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-255501(JP,A)
【文献】特開2019-143527(JP,A)
【文献】特開平11-093789(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0171916(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 37/00-37/54
F02M 39/00-71/04
F02D 41/00-45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンクから燃料を汲み上げる電動のフィードポンプと、
前記フィードポンプから吐出された燃料が流れるフィードパイプと、
前記フィードパイプを通じて供給された燃料を加圧する高圧燃料ポンプと、
前記高圧燃料ポンプによって加圧された燃料を蓄えるデリバリパイプと、
前記デリバリパイプ内に蓄えられた燃料をエンジンの気筒内に噴射する筒内燃料噴射弁と、
前記フィードパイプに設けられ、同フィードパイプ内の燃料圧力であるフィード圧が既定の開弁圧力以上になると開弁して前記フィードパイプ内の燃料を前記燃料タンク内に戻し、前記フィード圧の過剰な上昇を抑制するリリーフ弁と、
前記フィードパイプにおける前記フィードポンプから前記高圧燃料ポンプまでの経路上に設けられ、前記フィードポンプから吐出される燃料の流れによって開弁する一方、前記フィードポンプが停止して燃料の供給が停止すると閉弁するチェック弁と、を備える燃料供給システムに適用され、
前記フィードポンプの駆動に関する特性に基づくデータであり、前記フィードポンプへの供給電力の決定に用いる写像データを記憶している記憶装置と、
要求フィード圧を実現するように前記写像データを用いて前記フィードポンプへの供給電力を制御する圧力調整処理を行う実行装置であり、前記リリーフ弁が開弁するまで徐々にフィード圧を増大させて前記リリーフ弁が開弁したときの、前記フィードポンプにおける電流値であるポンプ電流及び前記フィードポンプのインペラの単位時間当たりの回転数であるポンプ回転数を学習する学習処理と、前記学習処理の結果に基づいて前記写像データを更新する更新処理と、を実行する実行装置と、を備えた前記燃料供給システムの制御装置であり、
前記学習処理が完了すると、前記実行装置が、同実行装置の稼働が停止するまで前記圧力調整処理に替えて前記フィード圧を前記開弁圧力に維持する圧力維持処理を実行する燃料供給システムの制御装置。
【請求項2】
前記圧力調整処理を実行する制御モードを通常モードとし、前記圧力調整処理に替えて前記圧力維持処理を実行する制御モードを圧力維持モードとすると、
前記実行装置は、前記通常モードから前記圧力維持モードに移行したあとは、前記フィード圧が前記圧力調整処理において設定される要求フィード圧よりも低くなっているか否かを判定する判定処理を実行し、同判定処理を通じて前記フィード圧が前記要求フィード圧よりも低くなっていることが判定されたことを条件に、制御モードを前記通常モードに復帰させる
請求項1に記載の燃料供給システムの制御装置。
【請求項3】
前記判定処理が、前記実行装置を含む前記燃料供給システムが起動された際に、同燃料供給システムの稼働が停止されてから前記燃料供給システムが起動されるまでの時間であるソーク時間が既定時間以上であるか否かを判定し、前記ソーク時間が既定時間以上であるときに、前記フィード圧が要求フィード圧よりも低くなっていると判定する処理である
請求項2に記載の燃料供給システムの制御装置。
【請求項4】
要求ポンプ回転数を実現するように前記フィードポンプへの供給電力を制御するフィードポンプ制御装置を備える前記燃料供給システムに適用され、
前記写像データが、前記フィードポンプのインペラの単位時間当たりの回転数であるポンプ回転数と前記フィードポンプにおける電流値であるポンプ電流とを入力として前記フィード圧の推定値を出力する推定用写像データであり、
前記実行装置が、
要求ポンプ回転数を前記フィードポンプ制御装置に対して出力することによって前記フィードポンプを制御する実行装置であり、
前記圧力調整処理の一環として、要求フィード圧と燃料噴射量とに基づいて要求ポンプ回転数を算出する要求ポンプ回転数算出処理と、前記推定用写像データを用いて前記フィード圧の推定値を算出するフィード圧推定処理と、前記フィード圧推定処理を通じて算出した推定値と要求フィード圧との偏差を小さくするように要求ポンプ回転数を補正するフィード圧フィードバック処理と、を実行し、
前記学習処理において前記リリーフ弁が開弁したときのポンプ電流及びポンプ回転数を学習し、
前記更新処理において前記推定用写像データを補正する
請求項1~3のいずれか一項に記載の燃料供給システムの制御装置。
【請求項5】
前記フィード圧を検出する圧力センサが設けられた前記燃料供給システムに適用され、
前記判定処理が、前記圧力センサによって検出したフィード圧が既定圧力未満であるか否かを判定し、前記圧力センサによって検出したフィード圧が前記要求フィード圧以下の値である既定圧力未満であるときに、前記フィード圧が要求フィード圧よりも低くなっていると判定する処理である
請求項2に記載の燃料供給システムの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はエンジンに燃料を供給する燃料供給システムの制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、予め記憶したフィードポンプの駆動に関する特性、具体的にはフィードポンプにおける駆動電圧と吐出量と吐出圧との関係に基づいて、そのときの状況に応じて目標圧力を設定する燃料供給システムが開示されている。目標圧力は、フィードパイプ内の燃料の圧力がベーパの発生を防止する上で必要な圧力よりも高い圧力になるように設定される。そして、この燃料供給システムの制御装置は、目標圧力を実現するようにフィードポンプを制御するフィード圧制御を実行する。このように、ベーパの発生を防止する上で必要な水準に合わせて目標圧力を可変設定するフィード圧制御を実行することにより、必要以上にフィードポンプを稼働させなくて済むようになり、エネルギ消費量を低減できる。
【0003】
特許文献1に開示されている燃料供給システム(実施例2)では、フィードポンプの個体差や経時変化などに対応するため、実行条件が成立したときに、フィード圧制御の誤差を学習する学習処理を実行する。この学習処理は、フィードパイプ内の燃料の圧力が既定の開弁圧力以上になったときにリリーフ弁が開弁することに着目したものである。この学習処理では、フィードパイプ内の圧力が開弁圧力よりも低い値から徐々に上昇するようにフィードポンプの駆動電圧を徐々に変更し、リリーフ弁が開弁したときの駆動電圧補正量に基づいて誤差を学習する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-255501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、エンジンの運転が停止しているときには燃料が消費されないため、エンジンの運転を停止する際には、フィードポンプの駆動も停止させる。フィードポンプが停止すると、フィードパイプ内の燃料が燃料タンクに抜け出てしまう。そこで、フィードパイプに、フィードポンプから吐出される燃料の流れによって開弁する一方、フィードポンプが停止して燃料の供給が停止すると閉弁するチェック弁が設けられている燃料供給システムもある。
【0006】
フィードパイプ内の燃料の圧力が、リリーフ弁が開弁する圧力に達し、学習処理が行われたあとは、フィードパイプ内の燃料の圧力がフィード圧制御において設定される目標圧力よりも高くなっている。そのため、フィードパイプ内の燃料が消費され、圧力が目標圧力よりも低くなるまではエンジンの運転中であってもフィードポンプは駆動されない。
【0007】
フィードパイプを通じて供給される燃料を加圧して筒内燃料噴射弁が接続されたデリバリパイプに送り込む高圧燃料ポンプが稼働していると、高圧燃料ポンプの稼働に伴う燃料圧力の脈動がチェック弁まで伝播する。学習処理が行われたあとフィードポンプが駆動されておらずチェック弁が閉弁しているときに燃料圧力の脈動がチェック弁に到達すると、チェック弁が脈動にあわせて開閉することになる。なお、フィードポンプが稼働している状態であれば、チェック弁はフィードポンプから供給される燃料の流れによって開弁方向に付勢され続けているため、脈動による閉弁は生じない。
【0008】
脈動によってチェック弁が閉弁すると、チェック弁が着座した途端に脈動のエネルギの逃げ場がなくなるため、フィードパイプに衝撃が加わり、配管が振動する。こうした衝撃の入力が脈動にあわせて繰り返されることにより、配管が共振し、大きな振動や騒音の原因になるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決するための燃料供給システムの制御装置は、燃料タンクから燃料を汲み上げる電動のフィードポンプと、前記フィードポンプから吐出された燃料が流れるフィードパイプと、前記フィードパイプを通じて供給された燃料を加圧する高圧燃料ポンプと、前記高圧燃料ポンプによって加圧された燃料を蓄えるデリバリパイプと、前記デリバリパイプ内に蓄えられた燃料をエンジンの気筒内に噴射する筒内燃料噴射弁と、前記フィードパイプに設けられ、同フィードパイプ内の燃料圧力であるフィード圧が既定の開弁圧力以上になると開弁して前記フィードパイプ内の燃料を前記燃料タンク内に戻し、前記フィード圧の過剰な上昇を抑制するリリーフ弁と、前記フィードパイプにおける前記フィードポンプから前記高圧燃料ポンプまでの経路上に設けられ、前記フィードポンプから吐出される燃料の流れによって開弁する一方、前記フィードポンプが停止して燃料の供給が停止すると閉弁するチェック弁と、を備える燃料供給システムに適用される。
【0010】
この制御装置は、前記フィードポンプの駆動に関する特性に基づくデータであり、前記フィードポンプへの供給電力の決定に用いる写像データを記憶している記憶装置と、要求フィード圧を実現するように前記写像データを用いて前記フィードポンプへの供給電力を制御する圧力調整処理を行う実行装置であり、前記リリーフ弁が開弁するまで徐々にフィード圧を増大させて前記リリーフ弁が開弁したときの、前記フィードポンプにおける電流値であるポンプ電流及び前記フィードポンプのインペラの単位時間当たりの回転数であるポンプ回転数を学習する学習処理と、前記学習処理の結果に基づいて前記写像データを更新する更新処理と、を実行する実行装置と、を備えている。
【0011】
そしてこの制御装置では、前記学習処理が完了すると、前記実行装置が、同実行装置の稼働が停止するまで前記圧力調整処理に替えて前記フィード圧を前記開弁圧力に維持する圧力維持処理を実行する。
【0012】
フィード圧が開弁圧力以上になると、リリーフ弁が開弁してフィードパイプから燃料が燃料タンク内に排出されるため、フィード圧を開弁圧力に維持するためには、フィードポンプを稼働させ続ける必要がある。
【0013】
上記構成によれば、学習処理が完了し、フィード圧が開弁圧力まで高まっているときには、実行装置が、稼働を停止するまで圧力調整処理に替えて圧力維持処理を実行するようになる。そのため、学習処理が実行されてフィード圧が開弁圧力まで高められたあとは、実行装置が稼働している間は、フィードポンプが稼働し続けるようになる。
【0014】
こうしてフィードポンプが稼働し続けていれば、チェック弁は、フィードポンプから供給される燃料の流れによって開弁方向に付勢され続けるため、高圧燃料ポンプの稼働に伴う脈動によって閉弁することがない。
【0015】
したがって、上記構成によれば、高圧燃料ポンプの稼働に伴う脈動が伝播することによるチェック弁の閉弁を抑制することができる。ひいては、チェック弁の閉弁に伴って繰り返し生じる衝撃を原因とするフィードパイプの振動、共振を抑制することができる。
【0016】
燃料供給システムの制御装置の一態様では、前記圧力調整処理を実行する制御モードを通常モードとし、前記圧力調整処理に替えて前記圧力維持処理を実行する制御モードを圧力維持モードとすると、前記実行装置は、前記通常モードから前記圧力維持モードに移行したあとは、前記フィード圧が前記圧力調整処理において設定される要求フィード圧よりも低くなっているか否かを判定する判定処理を実行し、同判定処理を通じて前記フィード圧が前記要求フィード圧よりも低くなっていることが判定されたことを条件に、制御モードを前記通常モードに復帰させる。
【0017】
フィード圧が圧力調整処理において設定される要求フィード圧よりも低くなっていれば、制御モードを通常モードに復帰させて圧力調整処理を開始したときから要求フィード圧を実現するためにフィードポンプが稼働し始める。そのため、フィード圧が要求フィード圧よりも低くなっていれば、高圧燃料ポンプの稼働に伴う脈動によってチェック弁が閉弁することはない。
【0018】
上記構成では、判定処理を通じてフィード圧が要求フィード圧よりも低くなっていると判定されたことを条件に、制御モードを通常モードに復帰させるため、高圧燃料ポンプの稼働に伴う脈動によってチェック弁が閉弁しなくなるのを待って圧力調整処理を再開することができる。
【0019】
燃料供給システムの制御装置の一態様では、前記判定処理が、前記実行装置を含む前記燃料供給システムが起動された際に、同燃料供給システムの稼働が停止されてから前記燃料供給システムが起動されるまでの時間であるソーク時間が既定時間以上であるか否かを判定し、前記ソーク時間が既定時間以上であるときに、前記フィード圧が要求フィード圧よりも低くなっていると判定する処理である。
【0020】
燃料供給システムの稼働が停止されているソーク時間が長くなるほど、フィードパイプの燃料の温度は低下し、フィード圧は低下する。そのため、充分なソーク時間が経過すれば、フィード圧は要求フィード圧よりも低くなる。
【0021】
そのため、上記構成のように、ソーク時間が既定時間以上であることに基づいて、フィード圧が要求フィード圧よりも低くなっていると判定する構成を採用することもできる。
燃料供給システムの制御装置の一態様では、前記制御装置は、要求ポンプ回転数を実現するように前記フィードポンプへの供給電力を制御するフィードポンプ制御装置を備える前記燃料供給システムに適用される。そして、この制御装置では、前記写像データが、前記フィードポンプのインペラの単位時間当たりの回転数であるポンプ回転数と前記フィードポンプにおける電流値であるポンプ電流とを入力として前記フィード圧の推定値を出力する推定用写像データである。
【0022】
そして、この制御装置では、前記実行装置が、要求ポンプ回転数を前記フィードポンプ制御装置に対して出力することによって前記フィードポンプを制御する実行装置であり、前記圧力調整処理の一環として、要求フィード圧と燃料噴射量とに基づいて要求ポンプ回転数を算出する要求ポンプ回転数算出処理と、前記推定用写像データを用いて前記フィード圧の推定値を算出するフィード圧推定処理と、前記フィード圧推定処理を通じて算出した推定値と要求フィード圧との偏差を小さくするように要求ポンプ回転数を補正するフィード圧フィードバック処理と、を実行し、前記学習処理において前記リリーフ弁が開弁したときのポンプ電流及びポンプ回転数を学習し、前記更新処理において前記推定用写像データを補正する。
【0023】
上記の制御装置は、フィード圧推定処理を通じて算出したフィード圧の推定値を用いてフィード圧フィードバック処理を実行する。そのため、この制御装置によれば、フィード圧を検出する燃料圧力センサを設けなくても、フィード圧フィードバック処理を実行することができる。なお、ポンプ回転数とポンプ電流とはポンプの仕事量と相関を有している。そこで、上記の制御装置では、ポンプ回転数とポンプ電流と燃料温度とを入力として、推定用写像データを用いてフィード圧の推定値を算出している。したがって、上記構成によれば、フィード圧を検出する圧力センサを必要とせずに、燃料供給システムを制御することができる。
【0024】
燃料供給システムの制御装置の一態様では、前記制御装置は、前記フィード圧を検出する圧力センサが設けられた前記燃料供給システムに適用される。この制御装置では、前記判定処理が、前記圧力センサによって検出したフィード圧が既定圧力未満であるか否かを判定し、前記圧力センサによって検出したフィード圧が前記要求フィード圧以下の値である既定圧力未満であるときに、前記フィード圧が要求フィード圧よりも低くなっていると判定する処理である。
【0025】
圧力センサを備えた燃料供給システムであれば、上記構成のように、フィード圧を検出し、検出したフィード圧が既定圧力未満であることに基づいてフィード圧が要求フィード圧よりも低くなっていると判定する構成を採用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】実施形態の制御装置と同制御装置の制御対象である燃料供給システムの構成を示す模式図。
図2】同実施形態の制御装置が実行するフィード圧制御に関する処理の流れを示すブロック図。
図3】燃料温度と要求フィード圧の関係を示すグラフ。
図4】(a)25℃に対応する推定用写像データ。(b)30℃に対応する写像。(c)70℃に対応する推定用写像データ。
図5】(a)学習処理におけるポンプ回転数の推移。(b)学習処理におけるフィード圧の推移。(c)学習処理におけるポンプ電流の推移。
図6】(a)補正前の写像。(b)補正後の写像。
図7】(a)学習処理による学習結果を反映させた25℃に対応する推定用写像データ。(b)補正後の写像。(c)学習処理による学習結果を反映させた70℃に対応する推定用写像データ。
図8】履歴フラグをセットするフラグセットルーチンの処理の流れを示すフローチャート。
図9】制御モードを切り替える切替ルーチンの処理の流れを示すフローチャート。
図10】履歴フラグをクリアするフラグクリアルーチンの処理の流れを示すフローチャート。
図11】変更例の制御装置が実行するフィード圧制御に関する処理の流れを示すブロック図。
図12】変更例の制御装置が実行するフラグクリアルーチンの処理の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、燃料供給システムの制御装置の一実施形態について、図1図10を参照して説明する。
図1は、本実施形態の制御装置が適用される車載エンジンの燃料供給システムの構成を示している。本実施形態の制御装置100は、車載エンジンの燃料供給システムに適用される。
【0028】
図1に示すように、この制御装置100が適用される燃料供給システムには、燃料タンク51内に設置されたフィードポンプ52と、燃料タンク51外に設置された高圧燃料ポンプ60と、の2つの燃料ポンプが設けられている。フィードポンプ52は、ブラシレスモータによってインペラを回転させる電動式のポンプである。また、この燃料供給システムには、筒内燃料噴射弁44とポート燃料噴射弁30とが設けられている。筒内燃料噴射弁44は、エンジンの各気筒に設けられ、気筒内に直接燃料を噴射する。筒内燃料噴射弁44は、燃料の蓄圧容器である高圧側デリバリパイプ71に接続されている。また、ポート燃料噴射弁30は、エンジンの各気筒に繋がる吸気ポート内に燃料を噴射する。ポート燃料噴射弁30は燃料の蓄圧容器である低圧側デリバリパイプ31に接続されている。なお、この燃料供給システムが搭載されたエンジンは直列4気筒のエンジンであり、高圧側デリバリパイプ71には4つの筒内燃料噴射弁44が接続されている。また、低圧側デリバリパイプ31にも4つのポート燃料噴射弁30が接続されている。
【0029】
そして、この燃料供給システムには、フィードポンプ52から高圧燃料ポンプ60及び低圧側デリバリパイプ31に燃料を送る燃料通路であるフィードパイプ57と、高圧燃料ポンプ60から高圧側デリバリパイプ71に燃料を送る燃料通路である高圧燃料パイプ72と、が設けられている。なお、フィードパイプ57は、途中で分岐し、一方が高圧燃料ポンプ60に接続されており、もう一方が低圧側デリバリパイプ31に接続されている。
【0030】
高圧側デリバリパイプ71には、内部に蓄えられている燃料の圧力である高圧側燃料圧力を検出する燃料圧力センサ132が設置されている。燃料圧力センサ132は大気圧を基準としたゲージ圧で燃料圧力を示す。
【0031】
フィードポンプ52は、給電に応じて燃料タンク51内の燃料を、上流側フィルタ53を介して吸引してフィードパイプ57に送出する。フィードパイプ57における燃料タンク51の内部に位置する部分には、フィードポンプ52によりフィードパイプ57に送出された燃料の圧力、すなわちフィードパイプ57内の燃料の圧力であるフィード圧Pfが既定の開弁圧力を超えたときに開弁してフィードパイプ57から燃料タンク51に燃料をリリーフするリリーフ弁56が設けられている。
【0032】
また、フィードパイプ57におけるリリーフ弁56が設けられている部分よりも上流側の部分には、フィードポンプ側を下方にして配設され、弁体が下方に位置する弁座に自重で着座しており、フィードポンプ52から吐出される燃料の流れによって開弁するチェック弁59が設けられている。チェック弁59は、フィードポンプ52が停止して燃料の供給が停止すると閉弁する。すなわち、この燃料供給システムでは、フィードパイプ57におけるフィードポンプ52から高圧燃料ポンプ60までの経路上に、フィードポンプ52が停止したときに閉弁するチェック弁59が設けられている。
【0033】
そして、フィードパイプ57は、フィードパイプ57を流れる燃料中の不純物を濾過する下流側フィルタ58とフィードパイプ57内の燃料圧力の脈動を低減するためのパルセーションダンパ61とを介して高圧燃料ポンプ60に接続されている。
【0034】
高圧燃料ポンプ60は、プランジャ62、燃料室63、電磁スピル弁64、チェック弁65及びリリーフ弁66を備えている。プランジャ62は、エンジンのカムシャフト42に設けられたポンプカム67により往復駆動され、その往復駆動に応じて燃料室63の容積を変化させる。燃料室63は、電磁スピル弁64を介してフィードパイプ57に接続されている。
【0035】
電磁スピル弁64は、通電に応じて閉弁して、燃料室63とフィードパイプ57との間の燃料の流通を遮断するとともに、通電の停止に応じて開弁して、燃料室63とフィードパイプ57との間の燃料の流通を許容する。チェック弁65は、燃料室63から高圧側デリバリパイプ71への燃料の吐出を許容する一方、高圧側デリバリパイプ71から燃料室63への燃料の逆流を禁止する。リリーフ弁66は、チェック弁65を迂回する通路に設けられており、高圧側デリバリパイプ71側の圧力が過剰に高くなったときに開弁して燃料室63側への燃料の逆流を許容する。
【0036】
以上のように構成された高圧燃料ポンプ60の燃料の加圧動作について説明する。高圧燃料ポンプ60では、プランジャ62の往復動に応じて燃料室63の容積が変化する。以下の説明では、燃料室63の容積が拡大する方向へのプランジャ62の動作をプランジャ62の下降と記載し、これとは逆に燃料室63の容積が縮小する方向へのプランジャ62の動作をプランジャ62の上昇と記載する。
【0037】
高圧燃料ポンプ60において、電磁スピル弁64が開弁した状態でプランジャ62が下降を開始すると、燃料室63の容積の拡大に伴って、フィードパイプ57から燃料室63に燃料が流入する。プランジャ62が下降から上昇に転じた後も電磁スピル弁64が開弁した状態を維持すると、プランジャ62の下降中に燃料室63に流入した燃料がフィードパイプ57に押し戻される。プランジャ62の上昇中に電磁スピル弁64を閉弁し、その後にプランジャ62が上昇から下降に転じるまで、電磁スピル弁64の閉弁を維持すると、プランジャ62の上昇に伴う燃料室63の容積の縮小により、燃料室63内の燃料が加圧される。そして、燃料室63内の燃料圧力が高圧燃料パイプ72内の燃料圧力を上回ると、チェック弁65が開弁して、燃料室63内の加圧された燃料が高圧燃料パイプ72に送出される。こうして高圧燃料ポンプ60は、プランジャ62の往復動毎に、フィードパイプ57内の燃料を加圧して高圧燃料パイプ72に送出する。なお、プランジャ62の上昇中における電磁スピル弁64の閉弁時期を変えることで、高圧燃料ポンプ60が加圧動作毎に高圧燃料パイプ72に送出する燃料の量が増減される。
【0038】
こうした燃料供給システムを備えるエンジンは、制御装置100により制御される。制御装置100は、エンジンの制御装置であり、エンジンの燃料供給システムの制御も司る。すなわち、制御装置100は燃料供給システムの制御装置でもある。
【0039】
制御装置100は、各種演算処理を実行する実行装置101と、制御用のプログラムやデータが記憶された記憶装置102と、を備えている。そして、制御装置100は、実行装置101が記憶装置102に記憶されたプログラムを読み込んで実行することで、燃料供給システムの制御を含んだエンジンの制御を行っている。
【0040】
なお、制御装置100には、エンジンの運転状態を検出するための各種センサの検出信号が入力されている。図1に示すように、制御装置100には、アクセルポジションセンサ142によって運転者のアクセルの操作量の検出信号が入力され、車速センサ141によって車両の走行速度である車速の検出信号が入力されている。
【0041】
さらに、制御装置100には、他にも各種のセンサの検出信号が入力されている。例えば、図1に示すように、制御装置100には、高圧側デリバリパイプ71内の燃料圧力を検出する燃料圧力センサ132の他に、エアフロメータ133、クランクポジションセンサ134、カムポジションセンサ135、冷却水温センサ136が接続されている。
【0042】
エアフロメータ133は、エンジンの吸気通路を通じて気筒内に吸入される空気の温度と、吸入される空気の質量である吸入空気量を検出する。クランクポジションセンサ134は、エンジンの出力軸であるクランクシャフトの回転位相の変化に応じたクランク角信号を出力する。制御装置100は、クランクポジションセンサ134から入力されるクランク角信号に基づいて単位時間あたりのクランクシャフトの回転数である機関回転数を算出する。
【0043】
カムポジションセンサ135は、カムシャフト42の回転位相の変化に応じたカム角信号を出力する。冷却水温センサ136は、エンジンの冷却水の温度である冷却水温を検出する。
【0044】
また、制御装置100には、燃料タンク51内の燃料の温度である燃料温度Tfを検出する燃料温度センサ137と、燃料タンク51内の燃料の液面の高さの水準を検知して燃料の残量を示す検出信号を出力する燃料レベルセンサ138も接続されている。
【0045】
また、制御装置100には、フィードポンプ52のインペラの単位時間当たりの回転数であるポンプ回転数Npを制御するフィードポンプ制御装置200が接続されている。フィードポンプ制御装置200は、制御装置100からの指令に基づき、フィードポンプ52への供給電力をパルス幅変調により調整することで、ポンプ回転数Npを増減している。なお、フィードポンプ制御装置200は、フィードポンプ52に供給されている電流であるポンプ電流Ip、及びポンプ回転数Npの情報を制御装置100に送信している。
【0046】
制御装置100は、エンジン制御の一環として、燃料噴射量制御、燃料圧力可変制御、及びフィード圧制御を実行している。
燃料噴射量制御に際して制御装置100はまず、機関回転数やエンジン負荷などのエンジン運転状態に応じて筒内燃料噴射弁44、ポート燃料噴射弁30の燃料噴射量の要求値である要求噴射量をそれぞれ演算する。続いて制御装置100は、要求噴射量分の燃料噴射に要する筒内燃料噴射弁44、ポート燃料噴射弁30の開弁時間をそれぞれ演算する。そして、制御装置100は、演算した開弁時間に相当する期間の間、燃料を噴射すべく各気筒の筒内燃料噴射弁44、ポート燃料噴射弁30を操作する。また、制御装置100は、燃料噴射制御の一環として、アクセルの操作量が「0」になっている減速中などに、燃料の噴射を停止してエンジンの燃焼室への燃料の供給を停止し、燃料消費率の低減を図るフューエルカット制御も行う。
【0047】
燃料圧力可変制御に際して制御装置100は、エンジン負荷などに基づき、高圧側燃料圧力の目標値を算出する。高圧側燃料圧力の目標値は基本的には、エンジン負荷が低いときには低い圧力に、エンジン負荷が高いときには高い圧力に設定される。そして、制御装置100は、燃料圧力センサ132による高圧側燃料圧力の検出値と高圧側燃料圧力の目標値との偏差を縮小すべく、高圧燃料ポンプ60の燃料送出量を調整する。具体的には、高圧側燃料圧力の検出値が目標値よりも低い場合には、プランジャ62の上昇期間における電磁スピル弁64の閉弁時期を早くして、高圧燃料ポンプ60の燃料送出量を増加させる。また、高圧側燃料圧力の検出値が目標値よりも高いときには、プランジャ62の上昇期間における電磁スピル弁64の閉弁時期を遅くして、高圧燃料ポンプ60の燃料送出量を減少させる。
【0048】
続いて、フィード圧制御の詳細を説明する。フィード圧制御は、次の目的で行われる。フィードポンプ52から送出されてフィードパイプ57を流れる燃料がエンジンの熱を受けて高温となると、フィードパイプ57内にベーパが発生して、高圧側デリバリパイプ71、低圧側デリバリパイプ31への燃料の供給が滞ることがある。燃料の圧力が高いほど、燃料の気化温度は高くなるため、フィードパイプ57でのベーパの発生を防止するには、フィードパイプ57へのフィードポンプ52の燃料送出量を多くしてフィード圧Pfを高くすればよい。しかしながら、燃料送出量を増加させれば、その分、フィードポンプ52の電力消費量が増えてしまう。そこで、フィード圧制御では、ベーパの発生を防止可能な限りにおいてフィード圧Pfを低い圧力に維持すべく、フィードポンプ52の燃料吐出量を調整することで、電力消費を抑えつつ、ベーパの発生を防止している。
【0049】
図2に、制御装置100の実行装置101が実行するフィード圧制御に係る処理の流れを示す。図2に示すようにフィード圧制御は、要求フィード圧算出処理M200、要求ポンプ回転数算出処理M210、フィード圧推定処理M220、及びフィード圧フィードバック処理M230の各処理を通じて行われる。
【0050】
要求フィード圧算出処理M200では、実行装置101は、燃料温度センサ137によって検出された燃料温度Tfに基づいてフィード圧Pfの目標値である要求フィード圧Pf*を算出する。
【0051】
図3に二点鎖線で示すように、この制御装置100では、燃料温度Tfに応じて3段階に要求フィード圧Pf*を切り替える。図3には、二点鎖線で示した要求フィード圧Pf*の他に、燃料の飽和蒸気圧と燃料温度との関係を、実線と一点鎖線と破線とで示している。なお、実線はガソリンの飽和蒸気圧と燃料温度との関係を示しており、一点鎖線はガソリンとエタノールとの混合燃料のうち、エタノールを容積比で20%含むE20燃料の飽和蒸気圧と燃料温度との関係を示している。また、破線はガソリンとメタノールとの混合燃料のうち、メタノールを容積比で15%含むM15燃料の飽和蒸気圧と燃料温度との関係を示している。
【0052】
制御装置100では、使用が想定される燃料のうち、最も飽和蒸気圧が高くなる燃料を使用した場合であっても要求フィード圧Pf*が、飽和蒸気圧を下回ることがないように、燃料温度Tfが高いときほど、要求フィード圧Pf*を高くする。具体的には、実行装置101は、要求フィード圧算出処理M200において、図3に示すように、燃料温度Tfが「T1」未満のときには、要求フィード圧Pf*として「P1」を算出する。そして、実行装置101は、燃料温度Tfが「T1」以上であり、且つ「T1」よりも高い「T2」未満のときには、要求フィード圧Pf*として「P1」よりも高い「P2」を算出する。また、実行装置101は、燃料温度Tfが「T2」以上のときには、要求フィード圧Pf*として「P2」よりも高く且つリリーフ弁56の開弁圧力Pxよりも僅かに低い「P3」を算出する。
【0053】
要求ポンプ回転数算出処理M210では、実行装置101は、燃料噴射量Qと、要求フィード圧算出処理M200を通じて算出した要求フィード圧Pf*とに基づいて、ポンプ回転数Npの目標値である要求ポンプ回転数Np*を算出する。なお、燃料噴射量Qは、燃料噴射量制御の一環として実行する要求噴射量算出処理M100を通じて算出された要求噴射量、すなわち筒内燃料噴射弁44に対する要求燃料噴射量とポート燃料噴射弁30に対する要求燃料噴射量との和に基づいて把握できる。
【0054】
制御装置100では、要求ポンプ回転数算出処理M210において、実行装置101が、燃料噴射制御の実行による燃料の消費量を考慮した上で要求フィード圧Pf*を実現するために必要なポンプ回転数Npを、要求ポンプ回転数Np*として算出する。
【0055】
具体的には、実行装置101は、記憶装置102に記憶されている回転数算出用写像データを用いて要求ポンプ回転数Np*を算出する。回転数算出用写像データは、図2に示すように、要求フィード圧Pf*と燃料噴射量Qとを入力として要求ポンプ回転数Np*を出力する演算マップである。この演算マップは、例えば、ガソリンを燃料として使用した実験の結果に基づいて要求ポンプ回転数Np*を算出できるように作成されている。図2には、要求ポンプ回転数Np*の等高線を図示している。この演算マップでは、要求フィード圧Pf*が高く、燃料噴射量Qが多いときほど、出力される要求ポンプ回転数Np*が大きくなる。
【0056】
フィード圧推定処理M220では、実行装置101は、フィードポンプ制御装置200から受信したポンプ回転数Np及びポンプ電流Ipと、燃料温度Tfとに基づいてフィード圧Pfの推定値を算出する。
【0057】
具体的には、実行装置101は、記憶装置102に記憶されている推定用写像データを用いてフィード圧Pfの推定値を算出する。推定用写像データは、図2に示すようにポンプ回転数Npとポンプ電流Ipとを入力としてフィード圧Pfを出力する演算マップである。記憶装置102には、推定用写像データとして、対応する燃料温度Tfの水準が異なる3つの演算マップが記憶されている。3つの演算マップは、例えば、「-30℃」に対応する演算マップと、「70℃」に対応する演算マップと、「25℃」に対応する演算マップであり、それぞれ、車両の使用環境下で想定される燃料温度の下限、上限、中央付近に対応する演算マップである。
【0058】
これら演算マップは、例えば、対応する燃料温度Tfのガソリンを燃料として使用した実験の結果に基づいてフィード圧Pfを算出できるようにそれぞれ作成されている。図2には、フィード圧Pfの等高線を図示している。この演算マップでは、ポンプ回転数が高く、ポンプ電流が大きいときほど、出力されるフィード圧Pfが高くなる。
【0059】
フィード圧推定処理M220では、まず、実行装置101は、記憶装置102に記憶されている演算マップのうち、2つの演算マップを用いて現在の燃料温度Tfに対応した写像を導出する。
【0060】
例えば、図4に示すように、現在の燃料温度Tfが30℃である場合、30℃よりも低い25℃に対応する推定用写像データと、30℃よりも高い70℃に対応する推定用写像データとから30℃に対応する写像を導出する。ここでは、線形補間によって30℃に対応する写像を導出する。図4(a)に示すように、25℃に対応する推定用写像データでは、ポンプ回転数Npが3000rpmでありポンプ電流Ipが4Aであるときのフィード圧Pfは250kPaになっている。一方で、図4(c)に示すように、70℃に対応する推定用写像データでは、ポンプ回転数Npが3000rpmでありポンプ電流Ipが4Aであるときのフィード圧Pfは200kPaになっている。そこで、実行装置101は、ポンプ回転数Npが3000rpmでありポンプ電流Ipが4Aであるときのフィード圧Pfを線形補間により算出する。そして、図4(b)に示すように、ポンプ回転数Npが3000rpmでありポンプ電流Ipが4Aであるときに出力されるフィード圧Pfが線形補間により算出された244.4kPaになるように、写像を導出する。ポンプ回転数Npとポンプ電流Ipの組み合わせが異なる他の状態に対しても同様に線形補間を行うことにより、30℃に対応する写像を導出することができる。なお、この実施形態では、リリーフ弁56の開弁圧力Pxが500kPaであるため、図4では500kPaがフィード圧Pfの上限になっている。
【0061】
フィード圧推定処理M220では、実行装置101は、こうして補間により導出した写像に、現在のポンプ回転数Np及びポンプ電流Ipを入力することにより、現在のフィード圧Pfの推定値を算出する。
【0062】
フィード圧フィードバック処理M230では、実行装置101は、要求フィード圧算出処理M200を通じて算出された要求フィード圧Pf*と、フィード圧推定処理M220を通じて算出されたフィード圧Pfの推定値とに基づいて要求ポンプ回転数Np*の補正量ΔNを算出する。具体的には、フィード圧フィードバック処理M230では、実行装置101は、フィード圧Pfの推定値が要求フィード圧Pf*よりも小さいときには、補正量ΔNを所定量大きくする。一方で、実行装置101は、フィード圧Pfの推定値が要求フィード圧Pf*よりも大きいときには、補正量ΔNを所定量小さくする。そして、実行装置101は、算出した補正量ΔNを、要求ポンプ回転数算出処理M210を通じて算出された要求ポンプ回転数Np*に加算して要求ポンプ回転数Np*を補正する。これにより、フィードポンプ制御装置200には、フィード圧フィードバック処理M230を通じて算出された補正量ΔNによって補正された後の要求ポンプ回転数Np*が入力される。そして、フィードポンプ制御装置200は、入力された要求ポンプ回転数Np*を実現するようにフィードポンプ52への供給電力を制御する。
【0063】
要求ポンプ回転数Np*を大きくすると、単位時間当たりにフィードポンプ52から吐出される燃料の量が増えるため、フィード圧Pfが高くなる。一方で、要求ポンプ回転数Np*を小さくすると、単位時間当たりにフィードポンプ52から吐出される燃料の量が減るため、フィード圧Pfが低くなる。すなわち、フィード圧フィードバック処理M230は、推定値と要求フィード圧Pf*との偏差を小さくするように要求ポンプ回転数Np*を補正する処理である。
【0064】
このようにこの実施形態の燃料供給システムでは、フィード圧Pfを検出するセンサを設けずに、燃料温度Tfとポンプ回転数Npとポンプ電流Ipとに基づいてフィード圧Pfの推定値を算出し、算出した推定値を用いてフィード圧Pfをフィードバック制御している。実行装置101は、こうしたフィード圧制御を通じて要求フィード圧Pf*を実現するように写像データを用いてフィードポンプ52への供給電力を制御する圧力調整処理を行っている。
【0065】
ところで、予め用意した推定用写像データを用いてフィード圧Pfの推定値を算出する場合、フィードポンプ52の劣化が進行してフィードポンプ52の駆動についての特性が変化した場合には、推定用写像データを用いて算出した推定値が実際のフィード圧Pfから乖離してしまう。
【0066】
そこで、制御装置100では、リリーフ弁56が開弁するまでフィードポンプ52の回転数を徐々に上昇させてリリーフ弁56が開弁するときのポンプ電流Ip及びポンプ回転数Npを学習する学習処理を実行するようにしている。
【0067】
次に、この学習処理について図5図7を参照して説明する。学習処理は、フューエルカット制御により燃料の噴射を停止しているときに、制御装置100の実行装置101によって実行される。なお、一回学習処理を行った後は、前回の学習処理が完了してから積算走行距離が一定量以上、例えば500km以上増えていることを条件に、フューエルカット中に次の学習処理が実行される。
【0068】
図5(a)は、学習処理におけるポンプ回転数の推移を、図5(b)は学習処理におけるフィード圧の推移を、図5(c)は学習処理におけるポンプ電流の推移を示している。時刻t1において学習処理を開始すると、実行装置101は要求ポンプ回転数Np*を一定の速度で徐々に増大させる。これにより、図5(a)及び図5(c)に示すようにポンプ回転数Np及びポンプ電流Ipが徐々に大きくなるとともに、図5(b)に示すようにフィード圧Pfが徐々に高くなる。
【0069】
そして、時刻t2においてフィード圧Pfがリリーフ弁56の開弁圧力Pxに到達すると、リリーフ弁56が開弁する。こうしてリリーフ弁56が開弁すると、ポンプ回転数Npが大きくなってもフィード圧Pfが上昇しなくなる。また、リリーフ弁56が開弁しているため、リリーフ弁56が閉弁していた時刻t2以前よりもフィードポンプ52の負荷が小さくなり、時刻t2以降は要求ポンプ回転数Np*を実現するためのポンプ電流Ipの上昇速度が小さくなる。
【0070】
実行装置101は、このポンプ電流Ipの変化速度の変化に基づいて時刻t2が、フィード圧Pfが開弁圧力Pxに到達した時点であると判定し、時刻t2におけるポンプ回転数Np及びポンプ電流Ipを学習値として取得する。すなわち、図5に点Xで示すポンプ電流Ipの値「Ix」を取得するとともに、点Yで示すポンプ回転数Npの値「Nx」を取得する。
【0071】
実行装置101は、こうして取得した学習値に基づいて推定用写像データを更新する更新処理を実行する。更新処理では、まず、図6に示す要領で補間により導出した写像を補正する。図6(a)には、図4(b)と同様の補間によって導出された30℃に対応する写像が示されている。図6では、この写像を補正する例を示して説明する。
【0072】
ここでは、図6(a)において太線で囲んだ状態においてリリーフ弁56が開弁すると想定されていた状態で学習処理が行われたものとする。すなわちポンプ電流Ipが7Aであり、ポンプ回転数Npが6000rpmになったときに、フィード圧Pfが500kPaに到達し、リリーフ弁56が開弁すると想定されていた状態で学習処理が行われたものとする。
【0073】
学習処理によって、リリーフ弁56が開弁したときのポンプ電流Ipが7.1Aであり、リリーフ弁56が開弁したときのポンプ回転数Npが6100rpmであることが学習された場合、実行装置101は、図6(a)に示す写像を、図6(b)に示すように補正する。つまり、学習処理を通じて取得したポンプ回転数Np及びポンプ電流Ipを入力した際に開弁圧力Pxと等しい値が出力されるように写像を補正する。具体的には、リリーフ弁56が開弁するときのポンプ電流Ipが「+0.1A」、そしてポンプ回転数が「+100rpm」ずれていたため、同じ出力を得るためのポンプ電流Ipの入力が「0.1A」分、そしてポンプ回転数が「100rpm」分大きくなるように写像を補正する。
【0074】
なお、このようにリリーフ弁56を開弁させるために必要なポンプ電流Ipやポンプ回転数Npが大きくなるのは、フィードポンプ52のインペラの摩耗が進行し、部品間のクリアランスが大きくなるなどして開弁圧力Pxを実現するために必要なフィードポンプ52の仕事量が増大した場合である。
【0075】
次に、実行装置101は、図7に示すように、補間によって導出した写像の補正内容を、記憶装置102に記憶されている推定用写像データに反映させる。ここでは、30℃に対応する写像を導出する際に用いた図7(a)に示す25℃に対応する推定用写像データと図7(c)に示す70℃に対応する推定用写像データに補正の内容を反映させる例を示して説明する。
【0076】
燃料温度Tfが高いほど燃料の粘度は低下するため、部品間のクリアランスが大きくなったことによる影響を受けやすくなり、開弁圧力Pxを実現するために必要なフィードポンプ52の仕事量が増大しやすい。更新処理では、こうした傾向を反映させるために、燃料温度Tfが高い場合ほど開弁圧力Pxを実現するためのポンプ回転数Npが高くなるように、図7(b)に示す学習処理による写像の補正内容を、25℃に対応する推定用写像データと70℃に対応する推定用写像データに反映させる。
【0077】
具体的には、補間によって導出した写像が対応する温度と補正内容を反映させる推定用写像データが対応する温度との乖離の度合いに応じて反映させる補正の量を調整するための調整比率を算出し、補間によって導出した写像に対して施した補正量にこの調整比率を用いた調整を加えて2つの推定用写像データに反映させる。
【0078】
調整比率は、対象とする推定用写像データが対応する燃料温度Tfと補間によって導出した写像が対応する燃料温度Tfとの差を、2つの推定用写像データが対応する燃料温度Tf同士の差で割った商である。すなわち、25℃に対応する推定用写像データに用いる調整比率は、(30℃-25℃)/(70℃-25℃)=0.11である。そして、70℃に対応する推定用写像データに用いる調整比率は、(70℃-30℃)/(70℃-25℃)=0.89である。
【0079】
実行装置101は、この調整比率を用いて、低温側の25℃に対応する演算マップに対しては、ポンプ回転数Npの軸のラベルに相当する値に対して、補間によって導出された写像に対する補正量と等しい「+100rpm」から同補正量に対して調整比率を乗じた積の「11rpm」を引いた「+89rpm」を加算する補正を施す。これにより、25℃に対応する推定用写像データは、図7(a)に示す状態に更新される。
【0080】
そして、実行装置101は、高温側の70℃に対応する演算マップに対しては、ポンプ回転数Npの軸のラベルに相当する値に対して、補間によって導出された写像に対する補正量と等しい「+100rpm」から同補正量に対して調整比率を乗じた積の「89rpm」を加えた「+189rpm」を加算する補正を施す。これにより、70℃に対応する推定用写像データは、図7(c)に示す状態に更新される。
【0081】
なお、ポンプ電流Ipの軸のラベルに相当する値に対する補正量は、その絶対値が小さいため、この実施形態における学習処理では、いずれの推定用写像データに対しても調整比率による調整を加えずに、補間によって導出した写像と同じ量の補正を施している。
【0082】
こうした更新処理により、学習処理を実行して学習値を取得した時点におけるフィードポンプ52の駆動に関する特性を学習し、推定用写像データに反映させることができる。
ところで、エンジンの運転が停止しているときには燃料が消費されないため、エンジンの運転を停止する際には、フィードポンプ52の駆動も停止させる。図1に示すように、フィードパイプ57には、チェック弁59が設けられている。そのため、フィードポンプ52の駆動が停止して、フィードポンプ52からの燃料の供給が停止すると、チェック弁59が閉弁して、フィードパイプ57から燃料タンク51に燃料が抜け出てしまうことを抑制する。
【0083】
上述したように、フィードパイプ57内の燃料の圧力が、リリーフ弁56の開弁圧力Pxに達し、学習処理が完了したあとは、フィードパイプ57内の燃料の圧力が図3に示したフィード圧制御における要求フィード圧Pf*よりも高くなっている。そのため、フィードパイプ57内の燃料が消費され、フィード圧Pfが要求フィード圧Pf*よりも低くなるまではエンジンの運転中であってもフィードポンプ52は駆動されない。
【0084】
高圧燃料ポンプ60が稼働していると、高圧燃料ポンプ60の稼働に伴う燃料圧力の脈動がチェック弁59まで伝播する。学習処理が行われたあとフィードポンプ52が駆動されておらずチェック弁59が閉弁しているときに燃料圧力の脈動がチェック弁59に到達すると、チェック弁59が脈動にあわせて開閉することになる。なお、フィードポンプ52が稼働している状態であれば、チェック弁59はフィードポンプ52から供給される燃料の流れによって開弁方向に付勢され続けているため、脈動による閉弁は生じない。
【0085】
脈動によってチェック弁59が閉弁すると、チェック弁59が着座した途端に脈動のエネルギの逃げ場がなくなるため、フィードパイプ57に衝撃が加わり、配管が振動する。こうした衝撃の入力が脈動にあわせて繰り返されることにより、配管が共振し、大きな振動や騒音の原因になるおそれがある。
【0086】
そこで、この制御装置100では、学習処理を実行したあとは、開弁圧力Pxよりも低い要求フィード圧Pf*を設定してフィード圧Pfを調整する圧力調整処理に替えて、フィードポンプ52を駆動し続けてフィード圧Pfを開弁圧力Pxに維持する圧力維持処理を実行する。具体的には、制御装置100では、圧力調整処理を実行する制御モードを通常モードとし、圧力調整処理に替えて圧力維持処理を実行する制御モードを圧力維持モードとして、学習処理を実行したことを示す履歴フラグの状態に応じてこれらの制御モードを切り替える。
【0087】
以下、この制御モードの切り替えについて図8図10を参照して説明する。まず、図8を参照して、履歴フラグをセットするフラグセットルーチンについて説明する。履歴フラグは、「ON」になっていることに基づいて学習処理が実行された後であり、圧力維持モードを選択すべき状態であることを示す情報として記憶装置102に記憶されるフラグである。なお、履歴フラグの初期状態は「OFF」である。
【0088】
図8に示すフラグセットルーチンは、車両のメインスイッチがONにされており、制御装置100を含む燃料供給システムが稼働している間、履歴フラグが「OFF」であることを条件に実行装置101によって所定の制御周期毎に繰り返し実行される。
【0089】
図8に示すように、実行装置101はこのルーチンを開始すると、まずステップS100の処理において学習処理を実行したか否かを判定する。具体的には、実行装置101は、学習処理を通じ、フィード圧Pfが開弁圧力Pxに到達した時点であると判定したとき(図5における時刻t2の時点)に学習処理を実行したと判定する。
【0090】
ステップS100の処理において学習処理を実行したと判定した場合(ステップS100:YES)には、実行装置101はステップS110に処理を進め、記憶装置102に記憶されている履歴フラグを「ON」に更新する。なお、記憶装置102は、車両のメインスイッチがOFFになり、制御装置100への電力の供給が停止したあとも、履歴フラグの状態を保持する。
【0091】
こうしてS110の処理を通じて履歴フラグを「ON」に更新すると、実行装置101はこのフラグセットルーチンを終了させる。こうして履歴フラグが「ON」に更新されると、フラグセットルーチンの実行条件が成立しなくなるため、フラグセットルーチンは実行されなくなる。
【0092】
ステップS100の処理において学習処理をまだ実行していないと判定した場合(ステップS100:NO)には、実行装置101はステップS110の処理を実行せずに、そのままこのフラグセットルーチンを終了させる。この場合には、フラグセットルーチンの実行条件が成立している状態が継続するため、フラグセットルーチンが繰り返し実行される。制御装置100では、このようにしてフラグセットルーチンを繰り返し実行することにより,学習処理が実行されてフィード圧Pfが開弁圧力Pxに到達したときに履歴フラグを「ON」に更新する。
【0093】
図9に示す切替ルーチンは、履歴フラグの状態に応じて制御モードを切り替えるためのルーチンである。この切替ルーチンは、車両のメインスイッチがONにされており、制御装置100を含む燃料供給システムが稼働している間、実行装置101によって所定の制御周期毎に繰り返し実行される。
【0094】
図9に示すように、実行装置101はこのルーチンを開始すると、まずステップS200の処理において記憶装置102に記憶されている履歴フラグが「ON」であるか否かを判定する。ステップS200の処理において履歴フラグが「ON」であると判定した場合(ステップS200:YES)には、実行装置101はステップS210に処理を進め、制御モードとして圧力維持モードを選択する。圧力維持モードを選択した場合は、実行装置101は、フィードポンプ52を駆動し続けてフィード圧Pfを開弁圧力Px以上に維持し続ける圧力維持処理を実行する。
【0095】
一方で、ステップS200の処理において履歴フラグが「OFF」であると判定した場合(ステップS200:NO)には、実行装置101はステップS230へと処理を進める。そして、実行装置101は、ステップS230の処理において制御モードとして通常モードを選択する。通常モードを選択した場合は、実行装置101は、要求フィード圧Pf*を設定してフィード圧Pfをフィードバック制御する上述した圧力調整処理を実行する。
【0096】
こうして、ステップS210又はステップS230の処理を実行し、制御モードを選択すると、実行装置101は、この切替ルーチンを一旦終了させる。このように制御装置100では、履歴フラグの状態に応じて制御モードを切り替える。
【0097】
図10に示すフラグクリアルーチンは、履歴フラグが「ON」になっている状態で車両のメインスイッチがONにされ、制御装置100を含む燃料供給システムが起動したときに、実行装置101によって実行される。
【0098】
図10に示すように、実行装置101はこのルーチンを開始すると、まずステップS300の処理においてソーク時間Tsが既定時間Tth以上であるか否かを判定する。ソーク時間Tsは燃料供給システムの稼働が停止されてから再び起動されるまでの時間である。燃料供給システムには、ソーク時間Tsを計時するソークタイマが設けられており、実行装置101は、ソークタイマが計時しているソーク時間Tsを確認し、ソーク時間Tsが既定時間Tth以上であるか否かを判定する。なお、既定時間Tthは、フィードパイプ57内の燃料の温度が外気温相当まで低下し、フィード圧Pfが圧力調整処理において設定される要求フィード圧Pf*の最小値よりも低くなっていることを確認するための閾値である。そのため、既定時間Tthは、予め行う実験などの結果に基づき、ソーク時間Tsが既定時間Tth以上になっていれば、フィードパイプ57内の燃料の温度が外気温相当まで低下し、フィード圧Pfが圧力調整処理において設定される要求フィード圧Pf*の最小値よりも低くなっていると判断できるように、その長さが設定されている。
【0099】
ステップS300の処理においてソーク時間Tsが既定時間Tth未満であると判定した場合(ステップS300:NO)には、実行装置101は、そのままこのフラグクリアルーチンを終了させる。すなわち、この場合には、履歴フラグが「ON」のままであるため、燃料供給システムが起動されたあと、燃料供給システムの稼働が停止するまでのエンジンの運転中は、図9を参照して説明した切替ルーチンにおいて圧力維持モードが選択され続ける。そのため、この場合には、フィードポンプ52が駆動され続け、フィード圧Pfは開弁圧力Pxに維持された状態でエンジンが運転される。
【0100】
一方で、ステップS300の処理においてソーク時間Tsが既定時間Tth以上であると判定した場合(ステップS300:YES)には、実行装置101は、処理をステップS310へと進める。ステップS310の処理では、実行装置101は、記憶装置102に記憶されている履歴フラグを「OFF」に更新する。すなわち、「ON」になっていた履歴フラグをクリアする。そして、実行装置101は、このフラグクリアルーチンを終了させる。
【0101】
このようにステップS310の処理を通じて履歴フラグがクリアされると、図9を参照して説明した切替ルーチンにおいて通常モードが選択されるようになる。そのため、この場合には、圧力調整処理が実行され、フィード圧Pfが要求フィード圧Pf*になるようにフィードポンプ52が制御されるようになる。
【0102】
以上のように、制御装置100では、学習処理が実行されると(ステップS100:YES)、履歴フラグが「ON」に更新される(ステップS110)。これにより、切替ルーチンを通じて制御モードが通常モードから圧力維持モードに切り替えられ、フィードポンプ52を駆動し続け、フィード圧Pfを開弁圧力Px以上に維持する圧力維持処理が実行されるようになる(ステップS200:YES、ステップS210)。
【0103】
制御モードが圧力維持モードに移行したあとは、燃料供給システムが起動される度に、フラグクリアルーチンが実行される。そして、フラグクリアルーチンにおいて、ソーク時間Tsが既定時間Tth以上であるか否かを判定する処理が実行される(ステップS300)。上述したように、この処理は、ソーク時間Tsが既定時間Tth以上であることに基づいて、フィード圧Pfが要求フィード圧Pf*よりも低くなっていることを判定する判定処理である。
【0104】
ソーク時間Tsが既定時間Tth以上である場合(ステップS300:YES)には、そのことに基づいて、履歴フラグがクリアされる。これにより、実行装置101は、制御モードを通常モードに復帰させる(ステップS200:NO、ステップS230)。すなわち、実行装置101は、通常モードから圧力維持モードに移行したあとは、フィード圧Pfが圧力調整処理において設定される要求フィード圧Pf*よりも低くなっているか否かを判定する判定処理として、ステップS300の処理を実行している。そして、実行装置101は、この判定処理を通じてフィード圧Pfが要求フィード圧Pf*よりも低くなっていることが判定されたことを条件に、制御モードを通常モードに復帰させる。
【0105】
本実施形態の作用について説明する。
フィード圧Pfが開弁圧力Px以上になると、リリーフ弁56が開弁してフィードパイプ57から燃料が燃料タンク51内に排出されるため、フィード圧Pfを開弁圧力Pxに維持するためには、フィードポンプ52を稼働させ続ける必要がある。
【0106】
制御装置100では、学習処理が完了し、フィード圧Pfが開弁圧力Pxまで高まっているときには、実行装置101が、稼働を停止するまで圧力調整処理に替えて圧力維持処理を実行するようになる。そのため、学習処理が実行されてフィード圧Pfが開弁圧力Pxまで高められたあとは、実行装置101が稼働している間は、フィードポンプ52が稼働し続けるようになる。
【0107】
こうしてフィードポンプ52が稼働し続けていれば、チェック弁59は、フィードポンプ52から供給される燃料の流れによって開弁方向に付勢され続けるため、高圧燃料ポンプ60の稼働に伴う脈動によって閉弁することがない。
【0108】
本実施形態の効果について説明する。
(1)圧力維持処理によりチェック弁59の閉弁が抑制される。すなわち、上記の制御装置100によれば、高圧燃料ポンプ60の稼働に伴う脈動が伝播することによるチェック弁59の閉弁を抑制することができる。ひいては、チェック弁59の閉弁に伴って繰り返し生じる衝撃を原因とするフィードパイプ57の振動、共振を抑制することができる。
【0109】
(2)フィード圧Pfが圧力調整処理において設定される要求フィード圧Pf*よりも低くなっていれば、制御モードを通常モードに復帰させて圧力調整処理を開始したときから要求フィード圧Pf*を実現するためにフィードポンプ52が稼働し始める。そのため、フィード圧Pfが要求フィード圧Pf*よりも低くなっていれば、高圧燃料ポンプ60の稼働に伴う脈動によってチェック弁59が閉弁することはない。
【0110】
上記の制御装置100では、判定処理を通じてフィード圧Pfが要求フィード圧Pf*よりも低くなっていると判定されたことを条件に、制御モードを通常モードに復帰させるため、高圧燃料ポンプ60の稼働に伴う脈動によってチェック弁59が閉弁しなくなるのを待って圧力調整処理を再開することができる。
【0111】
(3)燃料供給システムの稼働が停止されているソーク時間Tsが長くなるほど、フィードパイプ57内の燃料の温度は低下し、フィード圧Pfは低下する。そのため、充分なソーク時間Tsが経過すれば、フィード圧Pfは要求フィード圧Pf*よりも低くなる。上記の制御装置100のように、ソーク時間Tsが既定時間Tth以上であることに基づいて、フィード圧Pfが要求フィード圧Pf*よりも低くなっていると判定する構成を採用すれば、フィード圧Pfを検出する燃料圧力センサを設けることなく、判定処理を実現することができる。
【0112】
(4)制御装置100では、実行装置101が、フィード圧推定処理M220を通じて算出したフィード圧Pfの推定値を用いてフィード圧フィードバック処理M230を実行する。そのため、フィード圧Pfを検出する燃料圧力センサを設けなくても、フィード圧フィードバック処理M230を実行することができる。なお、ポンプ回転数Npとポンプ電流Ipはフィードポンプ52の仕事量と相関を有している。また、燃料温度Tfは、フィードポンプ52を構成する部品のクリアランスや、燃料の粘度と相関を有している。つまり、燃料温度Tfは、フィードポンプ52の仕事の効率に関係するフィードポンプ52の部品間からの燃料の漏れや部品間の摺動抵抗と相関を有している。そこで、制御装置100では、ポンプ回転数Npとポンプ電流Ipと燃料温度Tfとを入力として、推定用写像データを用いてフィード圧Pfの推定値を算出している。そして、この制御装置100では、リリーフ弁56が開弁するまでポンプの回転数を上昇させてリリーフ弁56が開弁するときのポンプ電流Ip及びポンプ回転数Npを学習する学習処理が実行される。この学習処理によれば、リリーフ弁56の開弁圧力Pxと等しいフィード圧Pfを実現するために必要な仕事量を学習できる。そして、制御装置100では、この学習処理の結果に基づいて推定用写像データを補正する更新処理を実行する。そのため、フィードポンプ52の劣化が進行しても、その影響を学習処理及び更新処理を通じて推定用写像データに反映させることができる。
【0113】
なお、フィードポンプ52の駆動に関する特性を学習する方法としては、高圧側デリバリパイプ71内の燃料圧力をフィード圧Pfまで低下させた状態でフィードポンプ52を駆動し、高圧側デリバリパイプ71内の燃料圧力を検出する燃料圧力センサ132の検出値を利用してフィードポンプ52の駆動に関する特性を学習する方法も考えられる。しかしこうした方法で学習を行うには、高圧側デリバリパイプ71内の燃料圧力をフィード圧Pfまで低下させなければならない。これに対して、上記の実施形態における学習処理によれば、高圧側デリバリパイプ71内の燃料圧力をフィード圧Pfまで低下させることを必要とせずに学習処理を行うことができる。
【0114】
(5)リリーフ弁56の開弁圧力Pxに到達した時点の状態を学習する学習処理としては、リリーフ弁56の開弁を物理的に検知する検知手段などを設ける構成を採用することもできる。これに対して、上記の実施形態における学習処理によれば、リリーフ弁56の開弁を物理的に検知する検知手段などを設けることなく、フィードポンプ制御装置200によって検知できるポンプ電流Ipを監視することによってリリーフ弁56の開弁を検知することができる。したがって、新たにリリーフ弁56の開弁を検知する手段を追加する必要がない。
【0115】
(6)制御装置100では、実行装置101は、燃料噴射を行っていないフューエルカット中に学習処理を実行する。そのため、燃料噴射量Qがゼロの状態で学習処理を実行することになり、燃料噴射量Qの変動のない、安定した状態で学習処理を行うことができる。したがって、燃料噴射量Qが変動している状態で学習処理を行う場合と比較して精度の高い学習を行うことができる。
【0116】
(7)学習処理を実行したあとは、履歴フラグがクリアされるまで圧力維持処理が実行される。圧力維持処理を実行されている場合には、フィードポンプ52が稼働し続けるため、圧力調整処理を通じて要求フィード圧Pf*を設定して要求フィード圧Pf*を実現するようにフィードポンプ52を制御している場合と比較してエネルギの消費量が多くなってしまう。これに対して、制御装置100では、学習処理が一定の走行距離以上の間隔を空けて実行されるようになっている。そのため、学習処理の実行頻度はそれほど高くなく、圧力維持処理を実行することによるエネルギの消費量の増大が抑制されている。
【0117】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・現在の燃料温度Tfに対応した写像を、複数の推定用写像データからの補間によって導出する例を示したが、こうした態様でなくてもよい。例えば、燃料噴射量Qと要求フィード圧Pf*とに加えて、燃料温度Tfを入力とした1つの推定用写像データを使って要求ポンプ回転数Np*を算出するようにしてもよい。
【0118】
図6を参照して説明した更新処理による写像の補正の態様は適宜変更してもよい。更新処理では、学習処理によって取得したポンプ回転数Np及びポンプ電流Ipを入力したときに出力されるフィード圧Pfの推定値が開弁圧力Pxにより近づくように写像を補正すればよい。
【0119】
・更新処理における推定用写像データへの学習結果の反映の態様は適宜変更してもよい。例えば、ポンプ電流Ipについての補正と同様に、いずれの推定用写像データに対しても補間によって導出した写像と同じ量の補正を施すようにしてもよい。
【0120】
・更新処理において、他の燃料温度Tf対応する写像への反映を行わず、学習処理を実行した際に使用していた写像のみを更新するようにしてもよい。
・燃料温度Tfを燃料温度センサ137によって検出する例を示したが、燃料温度Tfを推定によって求めるようにしてもよい。
【0121】
・上記の実施形態では、フィード圧推定処理M220を通じてフィード圧Pfを推定する例を示し、学習処理を実行して推定用写像データを更新する例を示した。これに対して、学習処理の結果に基づいて更新処理を通じて更新する写像データは、こうした推定用写像には限らない。例えば、図1に破線で示すように、フィード圧Pfを検出する燃料圧力センサ131を備える燃料供給システムの制御装置100に上記実施形態に準ずる学習処理を実行する構成を適用することもできる。こうした制御装置100では、図11に示すように、フィード圧推定処理M220を実行せずに、燃料圧力センサ131によって検出したフィード圧Pfに基づいてフィード圧フィードバック処理M230を実行する。
【0122】
こうした制御装置100では、学習処理の結果に基づいて要求ポンプ回転数算出処理M210に用いる回転数算出用写像データを更新する。例えば、リリーフ弁56が開弁したときのポンプ回転数Np、ポンプ電流Ipに基づいて、回転数算出用写像データを作成する際のフィードポンプ52の特性からの乖離の状態を把握し、その乖離の状態にあわせた補正を施すことにより、特性の乖離の状態を反映させるように回転数算出用写像データを更新すればよい。
【0123】
このように、上記実施形態の制御装置100と同様に、学習処理を実行したり、学習処理を実行したあとに、圧力維持処理を実行したりする構成は、フィード圧Pfを検出する燃料圧力センサ131を備えている燃料供給システムに適用することもできる。
【0124】
・上記の実施形態では、判定処理としてソーク時間Tsが既定時間Tth以上であるか否かを判定する例を示したが、判定処理の内容はこうした態様に限らない。例えば、上記の変更例のように、フィード圧Pfを検出する燃料圧力センサ131を備えている燃料供給システムに適用される制御装置100の場合には、図10に示したフラグクリアルーチンに替えて、図12に示すフラグクリアルーチンを実行する構成を採用することもできる。
【0125】
図12に示すように、このフラグクリアルーチンでは、実行装置101は、まずステップS400の処理において燃料圧力センサ131によって検出したフィード圧Pfが既定圧力Pth未満であるか否かを判定する。なお、既定圧力Pthは、フィード圧Pfが圧力調整処理において設定される要求フィード圧Pf*の最小値よりも低くなっていることを確認するための閾値である。そのため、既定圧力Pthは、圧力調整処理において設定される要求フィード圧Pf*の最小値よりも低い値に設定されている。
【0126】
ステップS400の処理においてフィード圧Pfが既定圧力Pth未満であると判定した場合(ステップS400:YES)には、実行装置101は、処理をステップS410へと進める。ステップS410の処理では、実行装置101は、記憶装置102に記憶されている履歴フラグを「OFF」に更新する。すなわち、「ON」になっていた履歴フラグをクリアする。そして、実行装置101は、このフラグクリアルーチンを終了させる。
【0127】
このようにステップS410の処理を通じて履歴フラグがクリアされると、図9を参照して説明した切替ルーチンにおいて通常モードが選択されるようになる。そのため、この場合には、圧力調整処理が実行され、フィード圧Pfが要求フィード圧Pf*になるようにフィードポンプ52が制御されるようになる。
【0128】
一方で、ステップS400の処理においてフィード圧Pfが既定圧力Pth以上であると判定した場合(ステップS400:NO)には、実行装置101は、そのままこのフラグクリアルーチンを終了させる。
【0129】
このように、フィード圧Pfを検出する燃料圧力センサ131を備えた燃料供給システムに適用される制御装置100では、フィード圧Pfが既定圧力Pth未満であるか否かを判定する態様で判定処理を実現することができる。
【0130】
・上記の実施形態や変更例では、フィード圧制御においてフィード圧フィードバック処理M230を実行する例を示したが、フィード圧Pfについてのフィードバック処理を実行しない制御装置において、学習処理を実行する態様を採用することもできる。例えば、フィード圧制御において、要求フィード圧Pf*を入力とするオープン制御によってフィードポンプ52を制御することもできる。この場合には、このオープン制御においてフィードポンプ52への供給電力を決定する際に用いる写像データに学習処理の結果を反映させるようにすればよい。こうした構成を採用する場合においても、上記の実施形態と同様に、学習処理の実行後に、圧力維持処理を実行する構成を採用することにより、チェック弁59の閉弁を抑制することができる。
【0131】
・前回の学習処理が完了してからの制御装置100の起動回数が所定回数以上になっていることを条件に、次の学習処理をフューエルカット中に実行するようにしてもよい。
・学習処理を実行する条件は適宜変更してもよい。例えば、アイドル運転中であれば、燃料噴射量Qは比較的安定しているため、アイドル運転中に学習処理を実行するようにしてもよい。
【0132】
・上記実施形態では、推定用写像データの例として、演算マップを例示したが、写像データは、演算マップに限らない。例えば、数式で表現される演算モデルであってもよい。すなわち、係数を実験の結果に基づいて適合した適合済み演算モデルや、機械学習を用いて作成した機械学習済みモデルであってもよい。こうした演算モデルを学習処理の結果に基づいて更新する制御装置に対しても、上記実施形態と同様に、圧力維持処理を実行する構成を採用すれば、チェック弁59の閉弁による振動の発生を抑制できる。
【0133】
・判定処理の内容は、適宜変更してもよい。例えば、燃料温度センサ137の検出値に基づいて、燃料温度Tfが外気温相当まで低下していることを判定した際に、フィード圧Pfが要求フィード圧Pf*よりも低くなっていると判定するようにしてもよい。
【0134】
・上記の実施形態では、履歴フラグは燃料供給システムの稼働が停止している間も保持される例を示したが、履歴フラグが燃料供給システムの稼働が停止した際にクリアされる態様であってもよい。この場合には、図10図12を参照して説明したフラグクリアルーチンを実行する必要はない。この場合には、学習処理が実行されたあと、燃料供給システムの稼働が停止されるまでの間は、圧力維持モードが選択されて圧力維持処理が実行され、フィードポンプ52が稼働し続ける。この点は上記の実施形態と同様であるが、次に燃料供給システムの制御装置100が起動されたときには、履歴フラグはクリアされている。そのため、次に燃料供給システムの制御装置100が起動されたときには、通常モードが選択され、圧力調整処理が実行されるようになる。こうした構成の場合には、次の起動の際にフィード圧Pfが充分に下がっていない場合には、脈動によるチェック弁59の閉弁が発生し、振動が発生する可能性がある。しかし、少なくとも学習処理を実行したあと、燃料供給システムの稼働が停止されるまでの間は、圧力維持処理が実行され、チェック弁59の閉弁が抑制されるため、振動の発生を抑制することができる。
【0135】
・制御装置100が、フィードポンプ制御装置200を通じてフィードポンプ52を制御する例を示したが、制御装置100とフィードポンプ制御装置200の機能を兼ね備えた1つの制御装置になっている構成を採用してもよい。また、3つ以上のユニットによって制御装置が構成されていてもよい。
【0136】
・実行装置は、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。たとえば、上記実施形態においてソフトウェア処理されたものの少なくとも一部を、ハードウェア処理する専用のハードウェア回路(たとえばASIC等)を備えてもよい。すなわち、実行装置は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。(a)上記処理の全てを、プログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶するROM等のプログラム格納装置とを備える。(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置およびプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備える。(c)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備える。ここで、処理装置およびプログラム格納装置を備えたソフトウェア実行装置や、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。
【符号の説明】
【0137】
44…筒内燃料噴射弁
51…燃料タンク
52…フィードポンプ
56…リリーフ弁
57…フィードパイプ
59…チェック弁
60…高圧燃料ポンプ
71…高圧側デリバリパイプ
72…高圧燃料パイプ
100…制御装置
101…実行装置
102…記憶装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12