(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】車両の前部構造
(51)【国際特許分類】
B62D 21/00 20060101AFI20231108BHJP
B62D 21/11 20060101ALI20231108BHJP
B62D 25/20 20060101ALI20231108BHJP
B60G 7/00 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
B62D21/00 A
B62D21/11
B62D25/20 C
B60G7/00
(21)【出願番号】P 2020052025
(22)【出願日】2020-03-24
【審査請求日】2023-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002424
【氏名又は名称】ケー・ティー・アンド・エス弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】秋本 康雄
(72)【発明者】
【氏名】竹田 篤
(72)【発明者】
【氏名】初岡 晋
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼安 信吾
(72)【発明者】
【氏名】荒井 大樹
(72)【発明者】
【氏名】久保山 翼
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-112902(JP,A)
【文献】特開2016-187991(JP,A)
【文献】特開2018-167671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 21/00
B62D 21/11
B62D 25/20
B60G 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前部に位置するサブフレームと、前記サブフレームに連結され前記車両の車輪を支持するアーム部材と、を備えるサスペンション機構を含む車両の前部構造であって、
前記サブフレームは、車両幅方向に間隔を置いて車両前後方向に延び、車両前方からの衝撃荷重が伝達される一対の延在部を含み、
前記アーム部材は、前記サブフレームに連結される筒状の第1ブッシュと、前記第1ブッシュより後方で前記サブフレームに連結される筒状の第2ブッシュと、を有し、
前記延在部は、前記アーム部材の前端部の直前に配置され、前記車両の前面に衝撃荷重が入力された場合、前記延在部の前記車両の上下方向一方側へ山折りとなるような屈曲変形を誘起する変形誘発部と、前記延在部の前記車両の上下方向他方側の面を補強する補強部と、を有し、
前記第1ブッシュは、軸方向が上下方向を向いた状態で、前記延在部の前記変形誘発部の後方に連結され、
前記補強部と前記アーム部材の前端部とが、前記車両の上下方向他方側でラップするよう配置される、
車両の前部構造。
【請求項2】
前記第1ブッシュは、前記車両の上下方向で前記アーム部材に圧入されることで、前記アーム部材に取り付けられる、
請求項1に記載の車両の前部構造。
【請求項3】
前記補強部は、補強部材を前記延在部に接合させることで形成され、
前記補強部材は、前記変形誘発部より前記車両の前方において前記延在部の前記車両の上下方向他方側に接合される接合部と、前記接合部から前記アーム部材の前端部に前記車両の上下方向でラップする位置まで延びるラップ部と、を有する、
請求項1又は2に記載の車両の前部構造。
【請求項4】
前記サブフレームは、車幅方向外側を向く面に開口部を有し、
前記アーム部材は、前記開口部から前記サブフレームの内部に挿入されて取り付けられ、
前記開口部の前記車両の上下方向他方側の縁部には車幅方向に突出するフランジが設けられ、前記開口部の前記車両の上下方向一方側の縁部には車幅方向に突出するフランジが設けられない、
請求項1から3のいずれか一項に記載の車両の前部構造。
【請求項5】
前記変形誘発部は、前記延在部の前記車両の下方への変形を誘起し、
前記補強部は、前記延在部の上面の前記車両の下方を向く面に接合される、
請求項1から4のいずれか一項に記載の車両の前部構造。
【請求項6】
前記延在部は、前記第1ブッシュよりも前記車両の前方側において、前記車両の前方から後方に向かうにつれて下方に傾斜する傾斜部を有し、
前記変形誘発部は、前記傾斜部の後端によって形成された屈曲部である、
請求項1から5のいずれか一項に記載の車両の前部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の前方衝突の一形態として、フロントサイドメンバよりも車幅方向外側で起こるスモールオーバーラップ衝突という形態が知られている。また、スモールオーバーラップ衝突に対応するための、車両の前部構造が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1の車両の前部構造では、フロントサイドメンバに接続され、車両の前後方向に延びるサブフレームと、車輪を揺動支持するサスペンションアーム(アーム部材)と、を備える。サスペンションアームは、車両前後方向に2つ配置される連結部によってサブフレームと連結される。特許文献1の車両の前部構造では、さらに、サブフレームは、連結部よりも車両前方側に設けられ、衝突荷重の入力によりサイドシェルの変形を誘起する脆弱部を有する。
【0004】
特許文献1の車両の前部構造では、サブフレームは、車両前方から衝突荷重の入力を受けると、脆弱部を起点に変形する。変形したサブフレームは、連結部からサスペンションアームを脱落させる。サスペンションアームが脱落すると、サスペンションアームおよびサスペンションアームに支持された前輪は、車両後方側に配置された連結部を支点に車両外側に向かって回動する。このため、サスペンションアームおよび前輪が車室に向かって後退することが抑制される。この結果、特許文献1の車両の前部構造では、車室に意図せぬ衝撃エネルギを伝達することを防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の車両前方側の連結部は、軸方向(特許文献1の連結部では回動軸32aの方向)が車両前後方向に延びる。このため、車両前方から衝撃荷重の入力を受けた場合、連結部は、軸方向に沿った荷重が入力される。このため、サスペンションアームがサイドシェルから脱落しやすい。一方、サスペンションアームは、軸方向が上下方向である連結部によってサイドシェルに連結される場合もある。このような場合、軸方向が衝撃荷重の入力方向と異なる方向のため、サスペンションアームおよび車輪が車両後方側の連結部を支点に車両外側に向かって回動し難い。
【0007】
本発明の課題は、アーム部材が、軸方向が上下方向である連結部によってサブフレームに連結される場合であっても、アーム部材および車輪が車両後方側の連結部を支点に車両外側に向かって回動しやすい車両の前部構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の車両の前部構造は、サスペンション機構を含む。サスペンション機構は、サブフレームと、アーム部材と、を備える。サブフレームは、車両の前部に位置する。アーム部材は、サブフレームに連結され車両の車輪を支持する。サブフレームは、車両幅方向に間隔を置いて車両前後方向に延び、車両前方からの衝撃荷重が伝達される一対の延在部を含む。アーム部材は、筒状の第1ブッシュと、筒状の第2ブッシュと、を有する。第1ブッシュは、サブフレームに連結される。第2ブッシュは、第1ブッシュより後方でサブフレームに連結される。延在部は、変形誘発部と、補強部と、を有する。変形誘発部は、アーム部材の前端部の直前に配置され、車両の前面に衝撃荷重が入力された場合、延在部の車両の上下方向一方側へ山折りとなるような屈曲変形を誘起する。補強部は、延在部の車両の上下方向他方側の面を補強する。第1ブッシュは、軸方向が上下方向を向いた状態で、延在部の変形誘発部の後方に連結され、補強部とアーム部材の前端部とが、車両の上下方向他方側でラップするよう配置される。
【0009】
この車両の前部構造では、車両の前面に衝撃荷重が入力された場合、延在部が上下方向一方側に山折りとなるように屈曲変形する。延在部が屈曲変形すると、補強部がアーム部材の前端を上下方向一方側に押圧する。アーム部材が上下方向一方側に押圧されると、アーム部材は、第1ブッシュに対し上下方向一方側に片寄る。アーム部材が第1ブッシュに対して上下方向一方側に片寄ると、延在部の上下方向一方側に応力が集中しやすい。これによって、延在部の上下方向一方側が破断しやすい。この結果、アーム部材が、軸方向が上下方向である連結部によってサブフレームに連結される場合であっても、アーム部材および車輪が第2ブッシュを支点に車両外側に向かって回動しやすい。
【0010】
第1ブッシュは、車両の上下方向でアーム部材に圧入されることで、アーム部材に取り付けられてもよい。
【0011】
この構成によれば、アーム部材が第1ブッシュに対し上下一方向側に片寄りやすい。
【0012】
補強部は、補強部材を延在部に接合させることで形成されてもよい。補強部材は、接合部と、ラップ部と、を有してもよい。接合部は、変形誘発部より車両の前方において延在部の車両の上下方向他方側に接合されてもよい。ラップ部は、接合部からアーム部材の前端部に車両の上下方向でラップする位置まで延びてもよい。
【0013】
この構成によれば、車両の前面に衝撃荷重が入力された場合、ラップ部がアーム部材を上下方向一方側に押圧しやすい。
【0014】
サブフレームは、車幅方向外側を向く面に開口部を有してもよい。アーム部材は、開口部からサブフレームの内部に挿入されて取り付けられてもよい。開口部の車両の上下方向他方側の縁部には車幅方向に突出するフランジが設けられてもよい。開口部の車両の上下方向一方側の縁部には車幅方向に突出するフランジが設けられてなくてもよい。
【0015】
この構成によれば、サブフレームの上下方向一方側が上下方向他方側に比べ強度が弱くなる。これによって、アーム部の片寄りによって延在部の上下方向一方側に応力が集中した場合、アーム部材がサブフレームの上下方向一方側を破断させやすい。
【0016】
変形誘発部は、延在部の車両の下方への変形を誘起してもよい。補強部は、延在部の上面の前記車両の下方を向く面に接合されてもよい。
【0017】
この構成によれば、補強部がアーム部材を下方に押圧しやすい。これによって、アーム部材は、下方に片寄りやすい。
【0018】
延在部は、傾斜部を有してもよい。傾斜部は、第1ブッシュよりも車両の前方側において、車両の前方から後方に向かうにつれて下方に傾斜する。変形誘発部は、傾斜部の後端によって形成された屈曲部であってもよい。
【0019】
この構成によれば、車両の前面に衝撃荷重が入力された場合に、延在部は、変形誘発部を起点として下方側に屈曲変形する。延在部が屈曲変形する際に、補強部の後方側が延在部の上方から離間しアーム部材の前端を押圧する。これによって、補強部がアーム部材に対して、車両上方から下方に向かって荷重を伝達する。この結果、アーム部材が下方に片寄る。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、アーム部材が、軸方向が上下方向である連結部によってサブフレームに連結される場合であっても、アーム部材および車輪が車両後方側の連結部を支点に車両外側に向かって回動しやすい車両の前部構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態における車両の前部構造を示す上面概略図。
【
図2】本発明の一実施形態における車両の前部構造を示す側面概略図。
【
図5】本発明の一実施形態における開口部の構成を示す概略斜視図。
【
図6】本発明の一実施形態における衝突時の態様を示す側面概略図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の第1実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下明細書において、車両Cの前後方向をQと図面に記し、前方側をFと記す。また、車両Cの左右方向(車幅方向の一例)をPと図面に記し、車両Cの後方からみて右側をRと記す。さらに、車両Cの上下方向をGと図面に記し、上側をUと記す。
【0023】
<全体構成>
図1に示すように、サスペンション機構Sを含む車両Cの前部構造1は、サブフレーム1aと、ロアアーム(アーム部材の一例)4と、を備える。
【0024】
サブフレーム1aは、一対のサイドシェル(延在部の一例)2を含む。一対のサイドシェル2は、車両Cの車幅方向Pに並んで配置される。また、一対のサイドシェル2は、車両Cの前後方向Qに向かって延びる。本実施形態では、一対のサイドシェル2の前端部2eおよび後端部2fは、車幅方向Pに向かって延びる前方センターシェル3aおよび後方センターシェル3bによって接続されて、サブフレーム1aを構成する。なお、本実施形態では、一対のサイドシェル2の前端部2eにおいて、車幅方向Pの外側端部は、一対のサイドシェル2の上方に位置する図示しない一対のサイドメンバよりも車幅方向Pの外側に位置しており、スモールオーバーラップ衝突時に衝突荷重を受けることができるようになっている。
【0025】
図2に示すように、サイドシェル2は、金属製の板部材であるサイドシェルアッパ2aと、サイドシェルアッパ2aの下方に配置されるサイドシェルロア2bと、を有する。サイドシェル2は、サイドシェルアッパ2aとサイドシェルロア2bとが、溶接により互いに接合されることによって形成される。サイドシェル2の内部は、中空であり、車幅方向Pの断面形状は、中空の閉断面となる。サイドシェル2は、後述する第1ブッシュ8および第2ブッシュ9を介して、サスペンション機構Sを構成するロアアーム4に連結される。
【0026】
図4に示すように、サイドシェルアッパ2aは、車両Cの上下方向Gの下方側に開口した断面コの字形状の金属製の板部材である。
図5に示すように、サイドシェルアッパ2aの車幅方向外側の側面の一部は、サイドシェルロア2bとともに、開口部10を形成する。サイドシェルアッパ2aの車幅方向外側の側面における開口部10の縁部には、側面から車幅方向外側に突出するフランジ10aが設けられている。
【0027】
同様に、
図4に示すように、サイドシェルロア2bは、車両Cの上下方向Gの上方側に開口した断面コの字形状の金属製の板部材である。
図5に示すように、サイドシェルロア2bの車幅方向外側の側面の一部は、サイドシェルアッパ2aとともに、開口部10を形成する。サイドシェルロア2bの車幅方向外側の側面における開口部10の縁部には、フランジは設けられない。
図1に示すように、開口部10は、ロアアーム4の車幅方向Pの内側端部4aが挿入される。
【0028】
サイドシェル2は、
図1および
図2に示すように、第1貫通孔12と、第2貫通孔13と、傾斜部14と、変形誘発部16と、補強部18と、を有する。
【0029】
第1貫通孔12は、サイドシェル2の上面2cおよび下面2dに、車両Cの上下方向Gに貫通して設けられる。第1貫通孔12は、サイドシェル2の車両後方側の開口部10が設けられた箇所に配置される。第1貫通孔12は、後述するロアアーム4の第1ブッシュ8に対して車両Cの上下方向Gで対向して位置し、第1ブッシュ8をサイドシェル2に取り付けるための第1ボルト(締結具の一例)24が挿入される。
【0030】
第2貫通孔13は、第1貫通孔12と同様に、サイドシェル2の上面2cおよび下面2dに、車両Cの上下方向Gに貫通して設けられる。第2貫通孔13は、サイドシェル2の車両後方側の開口部10が設けられた箇所において、第1貫通孔12から車両Cの前後方向Qの後方側に離間して配置される。第2貫通孔13は、ロアアーム4の第2ブッシュ9に対して車両Cの上下方向Gで対向して位置し、第2ブッシュ9をサイドシェル2に取り付けるための第2ボルト27が挿入される。
【0031】
傾斜部14は、車両Cの前方から後方へ向かうにつれて下方に傾斜する。本実施形態では、傾斜部14は、サイドシェル2の前端部2eから後方へ向かうにつれて下方に傾斜する。また、
図3に示すように、傾斜部14は、サイドシェル2の開口部10およびロアアーム4の近傍において、開口部10およびロアアーム4の前端部4cよりも車両Cの前方側に設けられる。
【0032】
変形誘発部16は、車両Cの前面に所定以上の衝撃荷重が入力された場合に、サイドシェル2の車両Cの上下方向Gへの屈曲変形を誘起する。変形誘発部16は、ロアアーム4よりも車両Cの前方側に配置される。本実施形態では、変形誘発部16は、ロアアーム4の前端部4cよりも前方側かつ傾斜部14の後端に配置されれる。すなわち、変形誘発部16は、ロアアーム4の前端部4cの直前に配置される。さらに、本実施形態では、変形誘発部16は、サイドシェル2の傾斜部14の後端と開口部10の前端との間に形成された屈曲部によって構成される。
【0033】
補強部18は、サイドシェル2の補強された部分である。補強部18は、傾斜部14のサイドシェルアッパ2aの上面2cの裏側面(サイドシェルロア2bを向く面)に配置される。補強部18は、サイドシェル2にリンフォース6を溶接により接合することで形成されている。これによって、補強部18は、サイドシェル2の他の部分に比べて、剛性が高くなる。このため、補強部18は、サイドシェル2が衝撃荷重の入力を受けた場合、サイドシェル2の他の部分に比べて変形しにくい。なお、リンフォース6については、後述する。
【0034】
ロアアーム4は、
図1に示すように、サスペンション機構Sの一部を構成し、車両Cの車幅方向Pに延びる。ロアアーム4の車幅方向Pの内側端部4aは、サイドシェル2の開口部10に挿入されてサイドシェル2の内部に配置される。ロアアーム4の車幅方向Pの外側端部4bは、図示しない継手を介して車両Cの車輪Wを支持する車軸に接続される。
【0035】
ロアアーム4は、
図2に示すように、第1ブッシュ8と、第2ブッシュ9と、車幅方向Pの内側端部4aに設けられた第1取付穴22と、第2取付穴23と、を有する。なお、
図2のロアアーム4は、概略構成が分かりやすいように断面図で示している。
【0036】
第1ブッシュ8は、第2ブッシュ9とともに、ロアアーム4をサイドシェル2に連結する。第1ブッシュ8は、車両Cの上下方向Gに延びる筒状に形成され、車両Cの上下方向Gに延びる第1取付軸20と、第1取付軸20の外側に配置された第1弾性体21と、第1弾性体21を車両Cの前後方向Qおよび車幅方向Pから覆う第1外筒28と、を含む。第1ブッシュ8の第1外筒28は、ロアアーム4に設けられた第1取付穴22に圧入される。この状態で、第1ボルト24がサイドシェル2に設けられた第1貫通孔12を通り第1取付軸20内に挿入されることで、第1ブッシュ8は、サイドシェル2とロアアーム4の車両Cの前方側の一部とを接続する。これによって、第1ブッシュ8は、その軸方向(第1ボルト24の挿入方向)を車両Cの上下方向Gに向けた状態で、サイドシェル2に連結される。
【0037】
第2ブッシュ9は、第1ブッシュ8とともに、ロアアーム4をサイドシェル2に連結する。第2ブッシュ9は、第1ブッシュ8と同様に、車両Cの上下方向Gに延びる第2取付軸25と、第2取付軸25の外側に配置された第2弾性体26と、第2弾性体26を車両Cの前後方向Qおよび車幅方向Pから覆う第2外筒29と、を含む。第2ブッシュ9の第2外筒29は、ロアアーム4に設けられた第2取付穴23に圧入される。この状態で、第2ボルト27がサイドシェル2に設けられた第2貫通孔13を通り第2取付軸25内に挿入されることで、第2ブッシュ9は、第1ブッシュ8よりも車両Cの後方側で、サイドシェル2とロアアーム4とを連結する。これによって、第2ブッシュ9は、その軸方向(第2ボルト27の挿入方向)を車両Cの上下方向Gに向けた状態で、サイドシェル2に連結される。
【0038】
リンフォース(補強部材の一例)6は、
図3および
図4に示すように、車両Cの前後方向Qに向かって延びる、車両Cの上下方向Gの下方側に開口した断面コの字形状の金属製の板部材である。また、リンフォース6は、サイドシェル2の傾斜部14の形状に合わせて形成され、サイドシェル2の内部に配置される。リンフォース6は、変形誘発部16よりも車両Cの前方側においてサイドシェル2に接合される接合部6bと、接合部6bから変形誘発部16よりも車両Cの後方まで延び、ロアアーム4の車幅方向Pの内側端部4aと車両Cの上下方向Gに間隔を置いて重複(ラップ)するラップ部6cを有する。また、ラップ部6cはサイドシェル2に接合されない。このため、リンフォース6の後端部6aは、ロアアーム4の前端部4cから車両Cの後方側へ離間して設けられ、車両Cの上面視において、ロアアーム4の車幅方向Pの内側端部4aとラップして配置される。本実施形態では、リンフォース6は、車両Cの前後方向Qに沿って、サイドシェル2の傾斜部14の途中から開口部10までの箇所の形状に合わせて形成される。
【0039】
<衝突時の態様>
次に、
図6を用いて、車両Cの前面に衝撃荷重の入力を受けた場合における、前部構造1の挙動を説明する。なお、
図6のロアアーム4は、概略構成が分かりやすいように断面図で示している。
【0040】
図6に示すとおり、サイドシェル2は、傾斜部14の後端に変形誘発部16(屈曲部)を有する。また、傾斜部14は、リンフォース6の車両Cの前方側の一部が溶接によって接合され、補強部18が設けられる。このため、サイドシェル2の前端部2eが衝突荷重の入力を受けた場合、サイドシェル2は変形誘発部16で車両下方に山折りに屈曲変形する。
【0041】
サイドシェル2が、変形誘発部16を起点として車両Cの下方側に屈曲変形すると、サイドシェル2の変形誘発部16よりも車両Cの後方側の箇所は、車両後方かつ上方に傾斜する。この状態において車輪W(
図1参照)に車両Cの後方に向かう荷重が入力されると、ロアアーム4の前端部4cは、第1ブッシュ8の第1取付穴22への圧入方向に沿った荷重の入力を受けやすくなる。
【0042】
さらに、サイドシェル2が変形誘発部16を起点として変形すると、リンフォース6の後部は屈曲せずそのまま残ろうとするため、後端部6aは、サイドシェル2から車両Cの下方側に離間して、ロアアーム4の前端部4cを車両Cの上方側から下方側へ押圧する。このため、ロアアーム4は、第1弾性体21の変形、または、第1取付穴22が第1外筒28上を滑ることによって、第1ブッシュ8の下端に寄る。
【0043】
この状態において車輪W(
図1参照)に車両Cの後方に向かう荷重が入力されると、入力された荷重はロアアーム4、第1ブッシュ8、第1ボルト24を通り、サイドシェル2に伝達される。このとき、ロアアーム4が第1ブッシュ8の下端に寄っているため、ロアアーム4から第1ブッシュ8に伝達する荷重は第1ブッシュ8の下部に集中する。このため、第1ボルト24からサイドシェル2に伝達される荷重もサイドシェル2の下部、すなわちサイドシェルロア2bに集中する。これによって、
図6の二点鎖線で示すように、サイドシェルロア2bが破断する。このとき、サイドシェルロア2bの車幅方向外側の側面における開口部10の縁部には、フランジが設けられないことにより、サイドシェルロア2bが、より破断しやすくなっている。この結果、ロアアーム4の車両Cの前方側の一部は、第1ブッシュ8から離れるとともにサイドシェル2から脱落する。
【0044】
サイドシェル2は、さらに、車両Cの後方側へ、衝突荷重を伝達する。このとき、サイドシェル2は、変形することによって衝突荷重のエネルギを吸収する。このため、衝撃荷重は、サイドシェル2の車両Cの後方側へ伝達されるにしたがって減衰する。
【0045】
第2ブッシュ9は、サイドシェル2によって減衰された衝突荷重の入力を受ける。このため、ロアアーム4の第2取付穴23は、第2ブッシュ9から脱落することなくとどまる。この結果、ロアアーム4の車両Cの後方側の一部は、サイドシェル2から脱落することなく、連結が維持される。
【0046】
これによって、ロアアーム4の内、車両Cの前方側の一部は、サイドシェル2から脱落する一方で、車両Cの後方側の一部は、サイドシェル2に第2ブッシュ9を介して連結された状態となる。このため、ロアアーム4の前端部4cは、第2ブッシュ9を中心として、車両Cの後方側かつ車幅方向Pの外側に向かって、回動し退避する。この結果、ロアアーム4とロアアーム4の車両Cの車幅方向Pの外側端部4bに接続する車輪Wとが、サイドシェル2よりも車両Cの後方側に荷重を伝達することを防止できる。
【0047】
以上説明したとおり、本発明によれば、ロアアーム4が、軸方向が上下方向Gである第1ブッシュ8によってサブフレーム1aに連結される場合であっても、ロアアーム4および車輪Wが車両後方側の第2ブッシュ9を支点に車両外側に向かって回動しやすい車両Cの前部構造1を提供できる。
【0048】
<他の実施形態>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の実施形態および変形例は必要に応じて任意に組合せ可能である。
【0049】
(a)本発明の実施形態では、リンフォース6は変形誘発部16を跨ぎ、リンフォース6の後部が変形誘発部16よりも車両Cの後方まで延びていたが、リンフォース6は変形誘発部16をまたがなくてもよい。この場合、変形誘発部16をロアアーム4の前端部4cの近傍(車両Cの上下方向Gで重なる位置も含む)とし、リンフォース6の前端、又は後端を変形誘発部16の前端と車両Cの上下方向Gでラップするようにすればよい。このようにすることで、サイドシェル2が変形誘発部16で屈曲変形した際、変形誘発部16近傍にてリンフォース6がロアアーム4の前端部4cに接触し、ロアアーム4の前端部4cを第1ブッシュ8の第1取付穴22への圧入方向に沿って押すことができる。
【0050】
(b)本発明の実施形態では、変形誘発部16を傾斜部14後端の屈曲部としたが、変形誘発部16これに限らず、脆弱部やビードを設ける等、荷重が入力された際にサイドシェル2を車両Cの上下方向Gに屈曲変形させることができるものであればよい。
【0051】
(c)本発明の実施形態では、アーム部材は、サスペンション機構Sの一部であるロアアームであったが、本発明はこれに限定されない。すなわち、サスペンション機構の方式によって、アーム部材はアッパーアームであってもよい。
【符号の説明】
【0052】
1:前部構造,1a:サブフレーム
2:サイドシェル(延在部の一例),2c:上面
4:ロアアーム(アーム部材の一例),4c:前端部
6:リンフォース(補強部材の一例),6a:後端部,6b:接合部,6c:ラップ部
8:第1ブッシュ,9:第2ブッシュ
10:開口部,10a:フランジ
14:傾斜部,16:変形誘発部,18:補強部
C:車両,G:上下方向,P:車幅方向,Q:前後方向
S:サスペンション機構,W:車輪