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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/155 20060101AFI20231108BHJP
【FI】
H02M3/155 W
H02M3/155 P
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020054352
(22)【出願日】2020-03-25
(65)【公開番号】P2021158716
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 誠
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 亮次
(72)【発明者】
【氏名】黒松 豊
【審査官】佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-109884(JP,A)
【文献】特開2014-030285(JP,A)
【文献】特開2010-124615(JP,A)
【文献】特開2012-244642(JP,A)
【文献】特開2009-291057(JP,A)
【文献】特開2018-019466(JP,A)
【文献】国際公開第2013/002301(WO,A1)
【文献】特開2019-187068(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリと負荷との間に並列に接続された複数のチョッパ部を含む多相チョッパ回路と、
前記多相チョッパ回路を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、各相において、キャリア信号のピークタイミングでチョッパ部に流れる電流を示す相電流の中間値を取得できるように、前記ピークタイミングと前記相電流の変動とを同期させ、
前記制御装置は、
前記多相チョッパ回路に対する電流指令を示す主電流指令に基づいて、各相のチョッパ部の電流指令を示す相電流指令をそれぞれ生成し、
記バッテリの電圧、前記多相チョッパ回路から前記負荷への入力電圧、および、前記相電流指令に基づいて、前記ピークタイミングと前記相電流の変動との同期ずれを補償するための補償値を算出し、
前記補償値を用いて前記相電流指令を補償し、
前記補償した相電流指令に従って、前記多相チョッパ回路を制御し、
前記バッテリの電圧と、前記入力電圧と、前記相電流指令と、前記補償値との関係が予め定められた3次元マップを用いて、前記バッテリの電圧、前記入力電圧、および、前記相電流指令に基づいて、前記補償値を算出する、電力変換装置。
【請求項2】
前記3次元マップは、前記相電流指令の変化に従って前記補償値が線形的に変化するように定められている、請求項1に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2012-161222号公報(特許文献1)には、直流電源と負荷との間に並列に接続された複数のチョッパ部を有する並列多重チョッパ装置が開示されている。この並列多重チョッパ装置においては、電流指令値と電流検出値との偏差を用いて電流制御を行ない、並列多重チョッパ装置の電圧指令値を算出する。そして、PWMキャリア信号と電圧指令値とを比較して、チョッパ部のスイッチング素子へのゲート指令が生成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-161222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、ゲート指令はパルス波形であるため、電流検出波形は電流リップルを含んだ波形となる。電流リップルの影響を低減させるため、PWMキャリア信号のピークタイミング(上限値,下限値)で電流変動の中間値(中間電流)を所取得できるように、PWMキャリア信号のピークタイミングと、電流変動と同期させることがある。これにより、PWMキャリア信号のピークタイミングでサンプリングを行ない、中間電流を取得することができる。
【0005】
しかしながら、電流検出遅延および/またはデッドタイム等の影響によって、PWMキャリア信号のピークタイミングと、電流変動とが同期しなくなる場合が起こり得る。PWMキャリア信号のピークタイミングと電流変動とが同期しなくなると、電流検出波形の立ち上がりと立ち下がりとでは、その傾きが異なり得るため、正確な電流を把握できなくなり、負荷に供給する電力に不足を生じさせてしまう可能性がある。直流電源と負荷との間に複数のチョッパ回路が並列接続された多相チョッパ回路を有する場合には、PWMキャリア信号のピークタイミングと、電流変動との同期ズレに起因した検出誤差が大きくなり、負荷に供給する電力の不足を生じさせる可能性が高まる。
【0006】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、多相チョッパ回路において、各相のチョッパ回路に流れる電流の検出精度を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この開示に係る電力変換装置は、バッテリと負荷との間に並列に接続された複数のチョッパ部を含む多相チョッパ回路と、多相チョッパ回路を制御する制御装置とを備える。制御装置は、各相において、キャリア信号のピークタイミングでチョッパ部に流れる電流を示す相電流の中間値を取得できるように、ピークタイミングと相電流の変動とを同期させる。制御装置は、多相チョッパ回路に対する電流指令を示す主電流指令に基づいて、各相のチョッパ部の電流指令を示す相電流指令をそれぞれ生成し、バッテリの電圧、多相チョッパ回路から負荷への入力電圧、および相電流指令に基づいて、ピークタイミングと相電流の変動との同期ずれを補償するための補償値を算出し、補償値を用いて相電流指令を補償し、補償した相電流指令に従って、多相チョッパ回路を制御する。
【0008】
上記構成によれば、バッテリの電圧、多相チョッパ回路から負荷への入力電圧(システム電圧)、および相電流指令に基づいて相電流指令が補償される。電流検出遅延および/またはデッドタイム等に起因してキャリア信号のピークタイミングと電流変動とが適切に同期しなくなると、正確な電流が取得できず、実電流値と制御認識値とに乖離が生じる。これは、電流検出波形の立ち上がりと立下りとにおける傾きが異なることによって生じる。上記傾きは、システム電圧、バッテリ電圧および電流指令に起因するところ、これらを用いて相電流指令を補償することにより、キャリア信号のピークタイミングと電流変動とを適切に同期させることができる。これによって、ゆえに、電流の検出誤差を低減することができ、負荷に適切な電力を供給することが可能となる。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、多相チョッパ回路において、各相のチョッパ回路に流れる電流の検出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態に係る負荷駆動システムの全体構成図である。
図2】SW指令の生成を説明するための図である。
図3】電流検出遅延が生じた場合の電流検出を説明するための図である。
図4】電流検出波形の傾きを説明するための図である。
図5】デッドタイムが挿入された場合の電流検出を説明するための図である。
図6】多相チョッパ回路において生じる実電流値と制御認識値との乖離を概念的に示す図である。
図7】実施の形態に係る制御装置の機能ブロック図である。
図8】補償マップを説明するための図である。
図9】補償値の一例を説明するための図である。
図10】制御装置で実行される処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0012】
<負荷駆動システムの構成>
図1は、本実施の形態に係る負荷駆動システム1の全体構成図である。負荷駆動システム1は、バッテリ10と、多相チョッパ回路20と、負荷30と、制御装置40と、監視ユニット50と、電流センサ60と、電圧センサ70と、コンデンサC1と、コンデンサC2とを備える。負荷駆動システム1は、バッテリ10の電圧を昇圧し、昇圧した電圧を負荷30に供給する。また、負荷駆動システム1は、負荷30から供給された電圧を降圧してバッテリ10を充電する。
【0013】
バッテリ10は、たとえば、ニッケル水素電池あるいはリチウムイオン電池等の二次電池によって構成される。二次電池は、正極と負極との間に液体電解質を有する二次電池であってもよいし、固体電解質を有する二次電池(全固体電池)であってもよい。また、バッテリ10は、電気二重層キャパシタ等によって構成されてもよい。
【0014】
監視ユニット50は、バッテリ10の状態を監視する。監視ユニット50は、電圧センサ、電流センサおよび温度センサを含む(いずれも図示せず)。電圧センサは、バッテリ10の端子間電圧(バッテリ電圧)VBを検出する。電圧センサは、コンデンサC1の電圧を検出し、検出した電圧をバッテリ電圧VBとしてもよい。電流センサは、バッテリ10に入出力される電流(バッテリ電流)IBを検出する。電流センサは、バッテリ10に入力される電流(充電電流)を負値として検出し、バッテリ10から出力される電流(放電電流)を正値として検出する。温度センサは、バッテリ10の温度(バッテリ温度)TBを検出する。各センサは、検出結果を示す信号を制御装置40に出力する。
【0015】
コンデンサC1は、電力線PL1および電力線NLの間に接続される。コンデンサC1は、バッテリ電圧VBを平滑化して多相チョッパ回路20に供給する。
【0016】
多相チョッパ回路20は、第1相~第9相の9台のチョッパ部を含む。第1相~第9相のチョッパ部は、電力線PL2と電力線NLとの間に互いに並列に接続されている。チョッパ部の各々は、リアクタンスと、2つのスイッチング素子と、2つのダイオードとを含む。チョッパ部の各々は、所謂、電流可逆チョッパ回路によって構成される。
【0017】
具体的には、第1相のチョッパ部は、リアクタンスL1と、スイッチング素子Q1,Q2と、ダイオードD1,D2とを含む。リアクタンスL1は、スイッチング素子Q1,Q2の接続ノードと電力線PL1との間に接続される。スイッチング素子Q1,Q2および後述のスイッチング素子Q3~Q18の各々は、たとえば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、MOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタあるいは、バイポーラトランジスタ等を用いることができる。ダイオードD1,D2は、スイッチング素子Q1,Q2のコレクタ-エミッタ間に逆並列にそれぞれ接続される。なお、以下においては、スイッチング素子Q1を上アームとも称し、スイッチング素子Q2を下アームとも称する。
【0018】
第2相のチョッパ部は、リアクタンスL2と、スイッチング素子Q3,Q4と、ダイオードD3,D4とを含む。第3相のチョッパ部は、リアクタンスL3と、スイッチング素子Q5,Q6と、ダイオードD5,D6とを含む。第4相のチョッパ部は、リアクタンスL4と、スイッチング素子Q7,Q8と、ダイオードD7,D8とを含む。第5相のチョッパ部は、リアクタンスL5と、スイッチング素子Q9,Q10と、ダイオードD9,D10とを含む。第6相のチョッパ部は、リアクタンスL6と、スイッチング素子Q11,Q12と、ダイオードD11,D12とを含む。第7相のチョッパ部は、リアクタンスL7と、スイッチング素子Q13,Q14と、ダイオードD13,D14とを含む。第8相のチョッパ部は、リアクタンスL8と、スイッチング素子Q15,Q16と、ダイオードD15,D16とを含む。第9相のチョッパ部は、リアクタンスL9と、スイッチング素子Q17,Q18と、ダイオードD17,D18とを含む。第2相~第9相のチョッパ部におけるリアクタンス、2つのスイッチング素子、および2つのダイオードの接続態様は、上述の第1相のチョッパ部と同様である。なお、以下においては、スイッチング素子Q3,Q5,Q7,Q9,Q11,Q13,Q15,Q17の各々を上アームとも称し、スイッチング素子Q4,Q6,Q8,Q10,Q12,Q14,Q16,Q18の各々を下アームとも称する。
【0019】
電流センサ60は、第1相のチョッパ部のリアクタンスL1に流れる電流を検出する。電流センサ60は、検出結果を制御装置40に出力する。
【0020】
コンデンサC2は、電力線PL2と電力線NLとの間に接続されている。コンデンサC2は、多相チョッパ回路20から供給された直流電圧を平滑化して負荷30に供給する。電圧センサ70は、コンデンサC2の両端の電圧、すなわち多相チョッパ回路20と負荷30とを結ぶ電力線PL2,NL間の電圧(以下「システム電圧」とも称する)VHを検出し、その検出結果を示す信号を制御装置40に出力する。
【0021】
制御装置40は、外部に設けられた電子制御ユニット(上位制御装置:図示せず)から入力された、電流指令値(IL指令メイン)に基づいて、多相チョッパ回路20を制御する。IL指令メインは、たとえば、コンデンサC2の両端の電圧、すなわちシステム電圧VHを目標電圧に保つために要する電力に基づいて算出される指令値である。制御装置40は、IL指令メインに基づいて、多相チョッパ回路20を制御するためのSW指令S1~S18を生成して、多相チョッパ回路20に出力する。多相チョッパ回路20の各相チョッパ部のスイッチング素子Q1~Q18は、SW指令S1~S18に従ってオン/オフされる。
【0022】
図2は、ある相(第j相:本実施の形態においてはjは1~9のいずれか)のSW指令の生成を説明するための図である。図2には、昇圧動作時における、キャリア信号(実線G1)、電圧指令(実線G2)、SW指令(実線G3)および相電流(実線G4)の時間変化が示されている。相電流とは、第j相のチョッパ部のリアクタンスLjに流れる電流である。なお、図2において、SW指令は、下アームに対する指令を示している。上アームに対するSW指令は、下アームに対するSW指令のHi/Loを反転させたものとなる。
【0023】
各相のキャリア信号には、キャリア周期360度をチョッパ部の台数で除算した位相ずつ位相差が設けられている。つまり、本実施の形態においては、各相のキャリア信号は、40度(=360度/9)ずつ位相がずれるように設定されている。
【0024】
制御装置40は、キャリア信号と電圧指令とを比較し、SW指令を生成する。具体的には、制御装置40は、キャリア信号が電圧指令以上となる区間においてはHiのSW指令を生成し、キャリア信号が電圧指令未満となる区間においてはLoのSW指令を生成する。
【0025】
制御装置40は、キャリア信号のピークタイミング(上限値,下限値)において相電流の中間値を取得できるように、キャリア信号のピークタイミングと相電流の変動とを同期させている。電圧指令は、図2に示すようにパルス波形であるため、相電流の電流検出波形は電流リップルを含んだ波形となる。キャリア信号のピークタイミングに同期したタイミングでサンプリングを行ない、電流変動の中間値(中間電流)を取得することにより、電流リップルの影響を低減させることができる。具体的には、図2に示すように、制御装置40は、キャリア信号のピークタイミングである時刻t1,t2,・・・,t9,・・・において電流を取得する。これにより、電流リップルの影響を低減させることができる。
【0026】
しかしながら、電流を検出するための回路(たとえば、電流センサ60および/または制御装置40)の処理の遅延に起因した電流検出遅延が生じる場合や、SW指令にデッドタイムが挿入される場合がある。電流検出遅延が生じると、遅延時間の影響によって、キャリア信号のピークタイミングと、電流検出のタイミングとに乖離が生じる。そのため、中間電流を取得することができず、電流リップルの影響を低減させることができない。また、SW指令にデッドタイムが挿入された場合、キャリア信号のピークタイミングと、電流変動とが同期しなくなり、中間電流を取得することができず、電流リップルの影響を低減させることができない。電流検出遅延および/またはデッドタイムの影響により電流リップルの影響を低減できないと、実電流値と制御認識値とに乖離が生じてしまう。そうすると、実電流値を正確に把握できず、負荷30に所望の電力を供給できなくなってしまう可能性がある。以下、それぞれのケースについて具体的に説明する。
【0027】
図3は、電流検出遅延が生じた場合の電流検出を説明するための図である。図3を参照して、電流検出遅延が生じると、電流検出タイミングが、キャリア信号のピークタイミングである時刻t1,t2,・・・,t9,・・・から、時刻t1a,t2a,・・・,t9a,・・・にそれぞれ遅れる。キャリア信号のピークタイミングで中間電流を取得できるように同期されているため、電流検出遅延が生じると中間電流を取得することができなくなってしまう。中間電流を取得できないと、実電流値と制御認識値とに乖離が生じる。これは、相電流の電流検出波形の傾きは、立ち上がりと立ち下がりとにおいて異なるためである。
【0028】
図4は、電流検出波形の傾きを説明するための図である。相電流の電流検出波形の傾きは、システム電圧VH、バッテリ電圧VBおよびリアクタンスLjのパラメータによって変化するところ、立ち上がりと立ち下がりとでは、その傾きが異なる。図4において、TOFFは、「上アームがON、かつ、下アームがOFF」である場合を示し、TONは、「上アームがOFF、かつ、下アームがON」である場合を示す。
【0029】
OFFにおいては、電流は、バッテリ10→リアクタンス→下アーム→バッテリ10の経路を流れる。そのため、リアクタンスのインダクタンスをLf、リアクタンスに流れる電流をIfとすると、以下の式(1)が成立する。
【0030】
VB=Lf×(dIf/dt)・・・(1)
上記式(1)を変形して、TOFFにおける電流の傾きを、以下の式(2)により表わすことができる。
【0031】
(dIf/dt)=VB/Lf・・・(2)
ONにおいては、電流は、バッテリ10→リアクタンス→上アームのコレクタ-エミッタ間に逆並列に接続されたダイオード→負荷30→バッテリ10の経路を流れる。そのため、以下の式(3)が成立する。
【0032】
VB-VH=Lf×(dIf/dt)・・・(3)
上記式(3)を変形して、TONにおける電流の傾きを、以下の式(4)により表わすことができる。
【0033】
(dIf/dt)=(VB-VH)/Lf・・・(4)
上記のように、相電流の電流検出波形の傾きは、立ち上がりと立ち下がりとにおいて異なる。そのため、電流検出遅延が生じて、キャリア信号のピークタイミングと電流検出のタイミングとに乖離が生じると、たとえばキャリア信号の周期毎に電流の移動平均を取ったとしても、制御認識値と実電流値とには乖離が生じてしまう。
【0034】
図5は、デッドタイムが挿入された場合の電流検出を説明するための図である。図5の横軸には時間が示され、縦軸には電流が示されている。図5には、キャリア信号(G11)、理想電流検出波形(G12)、理想平均(G13)、実電流検出波形(G14)、および制御認識平均(G15)が示されている。
【0035】
制御装置40は、キャリア信号のピークタイミングに同期して、時刻t10,t11,t12,t13およびt14において、電流を取得する。キャリア信号のピークタイミングと、電流変動とが同期している場合には、理想電流検出波形G12に示されるように、キャリア信号のピークタイミングにおいて電流が中間電流となる。ゆえに、制御装置40は、各時刻t10~t14において、検出電流としてプロットP1で示す中間電流を取得することができる。各時刻t10~t14において取得された検出電流の移動平均は、理想平均G13として表わされる。理想平均G13で表わされる値が実電流値である。
【0036】
デッドタイムが挿入されると、スイッチングに遅れが生じる。そのため、実際の電流検出波形である実電流検出波形G14は、理想電流検出波形G12に対してデッドタイム分遅れる。これにより、キャリア信号のピークタイミングにおいて、電流が中間電流とならず、制御装置40は、各時刻t10~t14において、プロットP2で示す電流を取得する。図4において説明したように、電流検出波形の立ち上がりと立ち下がりとでは、その傾きが異なる。それゆえに、プロットP2の移動平均は、制御認識平均G15として示されるように、理想平均G13から乖離したものとなる。すなわち、理想平均をIx1、制御認識平均Ix2と表わすと、実電流値と制御認識値とには、ΔIx(=Ix2-Ix1)の乖離が生じる。
【0037】
以上のように、電流検出遅延および/またはデッドタイム等に起因して、実電流値と制御認識値とに乖離が生じ得る。さらに、本実施の形態にように、複数のチョッパ部が並列に接続された多相チョッパ回路においては、1相において上述のような乖離が生じると、多相チョッパ回路全体では、その並列台数倍の乖離が生じることとなる。
【0038】
図6は、多相チョッパ回路において生じる実電流値と制御認識値との乖離を概念的に示す図である。たとえば、1相のチョッパ部において実電流値と制御認識値とにΔIyの差が生じるような場合には、本実施の形態に係る9台のチョッパ部を含む多相チョッパ回路20においては、実電流値と制御認識値とに9ΔIyの差が生じることになる。実電流値と制御認識値との乖離が大きくなると、負荷30に供給する電力が不足したり、過剰になったりし得る。
【0039】
そこで、本実施の形態においては、多相チョッパ回路20において生じ得る、電流検出遅延および/またはデッドタイム等に起因した実電流値と制御認識値との乖離(差分)を推定し、当該乖離を補償するための補償値を算出する。そして、補償値を用いて各相の電流指令である相電流指令(IL指令)を補償することによって、実電流値と制御認識値とに乖離が生じることを抑制することができる。
【0040】
図4において説明したように、電流検出波形の傾きは、システム電圧VHと、バッテリ電圧VBと、インダクタンスとによって定まる。インダクタンスは、リアクタンスに流れる電流によって変化することに鑑みれば、電流検出波形の傾きは、システム電圧VHと、バッテリ電圧VBと、相電流指令(IL指令)とに基づいて算出することができる。そこで、システム電圧VH、バッテリ電圧VBおよびIL指令に基づいて、多相チョッパ回路20において生じ得る、電流検出遅延および/またはデッドタイム等に起因した実電流値と制御認識値との乖離(差分)を推定すれば、補償すべき補償値を算出することができる。電流検出遅延および/またはデッドタイム等に起因した実電流値と制御認識値との差分と、システム電圧VH、バッテリ電圧VBおよびIL指令との関係は、負荷駆動システム1の仕様および多相チョッパ回路20の仕様、実験あるいはシミュレーション等の結果に基づいて予め求めておくことができる。この関係を用いれば、システム電圧VH、バッテリ電圧VB、電流指令値および補償値の関係を、3次元マップとして定めることができる。以下においては、当該3次元マップを「補償マップ」とも称する。補償マップの詳細は後述する。
【0041】
<制御装置の機能ブロック>
図7は、本実施の形態に係る制御装置40の機能ブロック図である。図7を参照して、制御装置40は、電流指令生成部41と、電流補償部42と、加算器43と、減算器44と、フィードバック(FB)項演算部45と、SW指令生成部46とを含む。
【0042】
電流指令生成部41は、上位制御装置から受けるIL指令メインに基づいて、各チョッパ部への電流指令である各相IL指令IL1~IL9を生成する。電流指令生成部41は、たとえば、IL指令メインをチョッパ部の並列台数(本実施の形態においては9台)で乗算して各相IL指令IL1~IL9を生成する。電流指令生成部41は、各相IL指令IL1~IL9のうち、第j相のIL指令ILj(jは1~9のいずれか)を電流補償部42および加算器43に出力する。なお、jは、チョッパ部のリアクタンスを流れる電流を検出する電流センサが設けられる相の番号に対応する。本実施の形態においては、第1相チョッパ部に電流センサ60が設けられているため、j=1である。
【0043】
電流補償部42には、システム電圧VH、バッテリ電圧VBおよびIL指令ILjが入力される。電流補償部42は、システム電圧VH、バッテリ電圧VBおよびIL指令ILjを引数として、補償マップを用いてIL補償値を算出する。
【0044】
図8は、補償マップを説明するための図である。補償マップは、システム電圧VH、バッテリ電圧VB、IL指令ILjおよびIL補償値との関係を定めた3次元マップである。補償マップは、たとえば、制御装置40のメモリ(図示せず)に記憶されている。システム電圧VH、バッテリ電圧VBおよびIL指令ILjを引数として、補償マップを用いることにより、IL補償値を算出することができる。
【0045】
図9は、補償値の一例を説明するための図である。図9には、システム電圧VHがVx、かつ、バッテリ電圧VBがVB1である場合における、IL指令ILjとIL補償値との関係が示されている。IL指令ILjが負の場合にはIL指令ILjの大きさに応じた正のIL補償値が、IL指令ILjが正の場合にはIL指令ILjの大きさに応じた負のIL補償値が導かれる。
【0046】
再び図7を参照し、電流補償部42は、算出されたIL補償値を加算器43に出力する。
【0047】
加算器43には、電流指令生成部41からのIL指令ILjと、電流補償部42からのIL補償値とが入力される。加算器43は、IL指令ILjにIL補償値を加算して補償IL指令AILjを算出し、算出された補償IL指令AILjを減算器44に出力する。
【0048】
減算器44には、加算器43からの補償IL指令AILjと、第j相のリアクタンスLjに流れる電流(以下「第j相電流Ij」とも称する)とが入力される。上述のとおり、jは、チョッパ部のリアクタンスを流れる電流を検出する電圧センサが設けられる相の番号に対応する。ゆえに、本実施の形態において第j相電流Ijは、第1相電流I1である。
【0049】
減算器44は、補償IL指令AILjから第j相電流Ijを減算して、指令値に対する実値の偏差(以下「電流偏差」とも称する)を算出する。減算器44は、電流偏差をFB項演算部45に出力する。
【0050】
FB項演算部45は、減算器44から電流偏差を受ける。FB項演算部45は、電流偏差について所定ゲインによるPI(比例積分)演算を行なって制御偏差を求め、この制御偏差に応じた電圧指令を生成する。FB項演算部45は、生成した電圧指令をSW指令生成部46に出力する。
【0051】
SW指令生成部46は、キャリア信号と電圧指令とを比較して第j相のチョッパ部のSW指令を生成する。そして、SW指令生成部46は、第j相のチョッパ部のSW指令をベースに、キャリア周期360度をチョッパ部の台数で除算した位相ずつの位相差を持つように他の相のSW指令も生成する。SW指令生成部46は、生成したSW指令を多相チョッパ回路20に出力する。ある1相(j相)において算出したSW指令をベースに、他の相のSW指令を生成することで、制御装置40における処理負荷を低減することができる。
【0052】
なお、SW指令生成部46は、各相のキャリア信号と電圧指令とを比較して各相のSW指令を生成してもよい。各チョッパ部のスイッチング特性が同等である場合には、ある1相(j相)において算出した電圧指令を他の相にも展開することができる。これにより、制御装置40における処理負荷を低減することができる。
【0053】
上記のように、第j相の電流をフィードバックし、フィードバック結果を他の相にも展開することにより、すべての相のチョッパ部に対してリアクタンスを流れる電流を検出するための電流センサを設けなくてもよいので、部品点数の削減を図ることができる。
【0054】
<制御装置により実行される処理>
図10は、制御装置40で実行される処理の手順を示すフローチャートである。図10に示すフローチャートは、所定の制御周期毎に制御装置40によって繰り返し実行される。なお、図10に示すフローチャートの各ステップ(以下ステップを「S」と略す)は、制御装置40によるソフトウェア処理によって実現される場合について説明するが、その一部あるいは全部が制御装置40内に作製されたハードウェア(電気回路)によって実現されてもよい。
【0055】
制御装置40は、IL指令メインに基づいて、各相IL指令を算出する(S1)。具体的には、制御装置40は、IL指令メインを多相チョッパ回路20のチョッパ部の台数で除算することにより、各相IL指令を算出する。
【0056】
制御装置40は、各相IL指令のうち、第j相のIL指令ILjをピックアップする(S3)。
【0057】
制御装置40は、システム電圧VH、バッテリ電圧VBおよびIL指令ILjを引数として、補償マップを用いて、IL補償値を算出する(S5)。
【0058】
制御装置40は、IL指令ILjにIL補償値を加算して、補償IL指令AILjを算出する(S7)。
【0059】
制御装置40は、補償IL指令AILjから第j相電流Ijを減算して、指令値に対する実値の偏差である電流偏差を算出する(S9)。
【0060】
制御装置40は、算出した電流偏差について所定ゲインによるPI演算を行なって制御偏差を求め、この制御偏差に応じた電圧指令を算出する(S11)。
【0061】
制御装置40は、キャリア信号と電圧指令とを比較して第j相のSW指令を生成し、生成された第j相のSW指令をベースに、他の相のSW指令を生成する(S13)。
【0062】
そして、制御装置40は、生成したSW指令を多相チョッパ回路20に出力する(S15)。これにより、制御装置40は、多相チョッパ回路20を制御する。
【0063】
以上のように、本実施の形態に係る負荷駆動システム1においては、制御装置40が、システム電圧VH、バッテリ電圧VBおよび電流指令に基づいて、電流指令を補償するための補償値を求め、補償値を用いて電流指令を補償する。電流検出遅延および/またはデッドタイム等に起因してキャリア信号のピークタイミングと電流変動とが適切に同期しなくなると、実電流値と制御認識値とに乖離が生じる。これは、電流検出波形の立ち上がりと立下りとにおける傾きが異なることによって生じる。上記傾きは、システム電圧VH、バッテリ電圧VBおよび電流指令に起因するところ、これらを用いて電流指令を補償することにより、キャリア信号のピークタイミングと電流変動とを適切に同期させることができる。キャリア信号のピークタイミングと電流変動とを適切に同期させることにより、電流の検出誤差を低減できる。電流の検出精度が向上することにより、負荷30に適切な電力を供給することが可能となる。
【0064】
(変形例)
実施の形態においては、制御装置40は、IL指令メインをチョッパ部の並列台数で乗算して各相IL指令を生成した。すなわち、実施の形態においては、制御装置40は、IL指令メインを均等分配して各相IL指令を生成した。しかしながら、各相において、スイッチング損失、オン抵抗による損失、銅損失(巻線の損失)等が異なる場合もあり得る。このような場合には、相間の発熱を均等にするために、損失分を考慮して各相IL指令間に差を持たせてもよい。
【0065】
各相IL指令間に差を持たせる場合には、各相においてリアクタンスに流れる電流を検出する電流センサを設け、各相において実施の形態で説明した制御を実行すればよい。具体的には、制御装置40は、各相IL指令IL1~IL9を算出して、各相IL指令IL1~IL9にIL補償値を加算して各相の補償IL指令AIL1~AIL9を算出する。
【0066】
そして、制御装置40は、各相において電流フィードバックを行ない、各相のSW指令を生成して、各チョッパ部を制御する。
【0067】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0068】
1 負荷駆動システム、10 バッテリ、20 多相チョッパ回路、30 負荷、40 制御装置、41 電流指令生成部、42 電流補償部、43 加算器、44 減算器、45 フィードバック(FB)項演算部、46 SW指令生成部、50 監視ユニット、60 電流センサ、70 電圧センサ、C1 コンデンサ、C2 コンデンサ、NL,PL1,PL2 電力線。
図1
図2
図3
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図8
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図10