(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】プレスフィット端子及びコネクタ装置
(51)【国際特許分類】
H01R 12/58 20110101AFI20231108BHJP
【FI】
H01R12/58
(21)【出願番号】P 2020060746
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2022-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【氏名又は名称】有田 貴弘
(74)【代理人】
【識別番号】100117662
【氏名又は名称】竹下 明男
(74)【代理人】
【識別番号】100103229
【氏名又は名称】福市 朋弘
(72)【発明者】
【氏名】山中 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 哲也
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 利一
(72)【発明者】
【氏名】外崎 貴志
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 哲也
(72)【発明者】
【氏名】島田 茂樹
【審査官】井上 信
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-13641(JP,A)
【文献】特開2015-76317(JP,A)
【文献】特開2011-210375(JP,A)
【文献】特開2011-187196(JP,A)
【文献】特開2009-21238(JP,A)
【文献】特開2007-328924(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 12/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に形成された
0.55mm径のスルーホール内に圧入されるプレスフィット端子であって、
アイホールを隔てて対向する2つの接触片を含むプレスフィット部を備え、
前記2つの接触片のそれぞれは、互いに平行な平行部と、前記平行部から前記プレスフィット部が挿入される向きに延びる前ばね部と、前記平行部から前記プレスフィット部が挿入される向きとは逆向きに延びる後ばね部とを含み、
前記プレスフィット部の厚みは、
0.4mmであり、
前記プレスフィット部について、前記アイホールの長さをLe[mm]とし、前記平行部の長さをLs[mm]としたとき、Ls/Leが0.57以上0.65以下であり、
前記プレスフィット部について、下記条件で算出される前側ばね強さをG
1[mm
3]、後側ばね強さをG
2[mm
3]としたとき、G
1/G
2が0.55以上1.45以下である、プレスフィット端子。
[条件]
・前記プレスフィット端子が挿入される向きを前向きとし、挿入される向きと逆向きを後ろ向きとする。
・前記アイホールの前端から後ろ向きに0.1mmの位置を前基準とし、前記アイホールの後端から前向きに0.1mmの位置を後基準とする。
・前記前基準における前記前ばね部の内縁から前記前ばね部の外縁に対して垂直な前基準面を仮定し、この前基準面における前記前ばね部の断面二次モーメントをI
1[mm
4]とする。
・前記後基準における前記後ばね部の内縁から前記後ばね部の外縁に対して垂直な後基準面を仮定し、この後基準面における前記後ばね部の断面二次モーメントをI
2[mm
4]とする。
・前記平行部における直線状の外縁のうち前記前ばね部側の端から前記アイホールの前端までの前記プレスフィット部の挿入方向の長さをL
1[mm]とする。
・前記平行部における直線状の外縁のうち前記後ばね部側の端から前記アイホールの後端までの前記プレスフィット部の挿入方向の長さをL
2[mm]とする。
・前側ばね強さG
1をI
1/L
1[mm
3]とし、後側ばね強さG
2をI
2/L
2[mm
3]とする。
【請求項2】
請求項1に記載のプレスフィット端子であって、
ばね強さG[mm
3]をG
1+G
2としたとき、Gが0.03mm
3以上0.04mm
3以下である、プレスフィット端子。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のプレスフィット端子であって、
前記前ばね部の外縁は、前に向うにつれて前記プレスフィット部の幅方向内側に向うように傾斜し、
前記後ばね部の外縁は、後ろに向うにつれて前記プレスフィット部の幅方向内側に向うように傾斜する、プレスフィット端子。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のプレスフィット端子であって、
前記平行部の外向き部分が、前記挿入方向に沿って見て弧状形状に形成されている、プレスフィット端子。
【請求項5】
請求項4に記載のプレスフィット端子を含むコネクタと、
スルーホールが形成された基板と、
を備え、
前記プレスフィット端子の前記プレスフィット部が前記スルーホールに圧入され、
前記挿入方向に沿って見て、前記平行部の外向き部分の曲率半径が、前記スルーホールの内周半径と同じか小さい、コネクタ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プレスフィット端子及びコネクタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、表裏を貫通する幅のあるスリット部と該スリット部を挟んで対向する二本の梁部材とから構成される接続部を有するプレスフィット端子を開示している。特許文献1では、梁部材の太さが、接続部中心の太さに対して接続部先端側及び接続部後端側の太さが細く形成され、スリット部の長さが、接続部中心から先端側までの長さに対して接続部中心から後端側までの長さが短く形成されている。
【0003】
特許文献2は、スルーホール内に導入される導入部と、当該導入部に連結され、前記スルーホール内に圧入保持される圧力保持部と、当該圧力保持部に連結された本体部とを有し、前記圧力保持部の中央から前記本体部側及び導入部側に長手方向に延びた開口部が形成されたプレスフィット端子を開示している。特許文献2では、圧力保持部の中央から本体部側の開口部一方端までの長手方向の長さと、圧力保持部の中央から導入部側の開口部他方端までの長手方向の長さとの比が、80:220~120:180の範囲内に規定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2008/038331号
【文献】特開2008-165987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プレスフィット端子は、例えば、挿入力と保持力とにより評価される。挿入力とは、スルーホールにプレスフィット端子を挿入するために必要な荷重である。保持力は、スルーホールからプレスフィット端子を引抜くために必要となる荷重である。プレスフィット端子としては、スルーホールに挿入し易く、かつ、スルーホールから抜け難いことが望まれる。このため、プレスフィット端子に対して、挿入力を小さくすること、及び、保持力を大きくすることが要請されている。
【0006】
また、近年、プレスフィット端子が組込まれるコネクタの小型化、プレスフィット端子が圧入される基板の小型化、プレスフィット端子の高密度化が要請されている。これにより、スルーホールの細径化、さらには、プレスフィット端子の薄型化が要請されている。
【0007】
このように、薄型化したプレスフィット端子については、挿入力を小さくすることと、保持力を大きくすることを両立することに関して、さらに改善の余地がある。
【0008】
そこで、本開示は、挿入力を小さくすることと、保持力を大きくすることの両立性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示のプレスフィット端子は、基板に形成されたスルーホール内に圧入されるプレスフィット端子であって、アイホールを隔てて対向する2つの接触片を含むプレスフィット部を備え、前記2つの接触片のそれぞれは、互いに平行な平行部と、前記平行部から前記プレスフィット部が挿入される向きに延びる前ばね部と、前記平行部から前記プレスフィット部が挿入される向きとは逆向きに延びる後ばね部とを含み、前記プレスフィット部の厚みは、0.3mm以上0.5mm以下であり、前記プレスフィット部について、前記アイホールの長さをLe[mm]とし、前記平行部の長さをLs[mm]としたとき、Ls/Leが0.57以上0.65以下であり、前記プレスフィット部について、下記条件で算出される前側ばね強さをG1[mm3]、後側ばね強さをG2[mm3]としたとき、G1/G2が0.55以上1.45以下である、プレスフィット端子。
[条件]
・前記プレスフィット端子が挿入される向きを前向きとし、挿入される向きと逆向きを後ろ向きとする。
・前記アイホールの前端から後ろ向きに0.1mmの位置を前基準とし、前記アイホールの後端から前向きに0.1mmの位置を後基準とする。
・前記前基準における前記前ばね部の内縁から前記前ばね部の外縁に対して垂直な前基準面を仮定し、この前基準面における前記前ばね部の断面二次モーメントをI1[mm4]とする。
・前記後基準における前記後ばね部の内縁から前記後ばね部の外縁に対して垂直な後基準面を仮定し、この後基準面における前記後ばね部の断面二次モーメントをI2[mm4]とする。
・前記平行部における直線状の外縁のうち前記前ばね部側の端から前記アイホールの前端までの前記プレスフィット部の挿入方向の長さをL1[mm]とする。
・前記平行部における直線状の外縁のうち前記後ばね部側の端から前記アイホールの後端までの前記プレスフィット部の挿入方向の長さをL2[mm]とする。
・前側ばね強さG1をI1/L1[mm3]とし、後側ばね強さG2をI2/L2[mm3]とする。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、挿入力を小さくすることと、保持力を大きくすることの両立性が高められる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は実施形態に係るプレスフィット端子を示す正面図である。
【
図2】
図2はプレスフィット部がスルーホールに挿入される状態を示す説明図である。
【
図4】
図4は他のプレスフィット端子を示す断面図である。
【
図5】
図5は前基準面における前ばね部の断面形状を示す説明図である。
【
図7】
図7はプレスフィット端子の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0013】
本開示のプレスフィット端子は、次の通りである。
【0014】
(1)基板に形成されたスルーホール内に圧入されるプレスフィット端子であって、アイホールを隔てて対向する2つの接触片を含むプレスフィット部を備え、前記2つの接触片のそれぞれは、互いに平行な平行部と、前記平行部から前記プレスフィット部が挿入される向きに延びる前ばね部と、前記平行部から前記プレスフィット部が挿入される向きとは逆向きに延びる後ばね部とを含み、前記プレスフィット部の厚みは、0.3mm以上0.5mm以下であり、前記プレスフィット部について、前記アイホールの長さをLe[mm]とし、前記平行部の長さをLs[mm]としたとき、Ls/Leが0.57以上0.65以下であり、前記プレスフィット部について、下記条件で算出される前側ばね強さをG1[mm3]、後側ばね強さをG2[mm3]としたとき、G1/G2が0.55以上1.45以下である、プレスフィット端子である。
[条件]
・前記プレスフィット端子が挿入される向きを前向きとし、挿入される向きと逆向きを後ろ向きとする。
・前記アイホールの前端から後ろ向きに0.1mmの位置を前基準とし、前記アイホールの後端から前向きに0.1mmの位置を後基準とする。
・前記前基準における前記前ばね部の内縁から前記前ばね部の外縁に対して垂直な前基準面を仮定し、この前基準面における前記前ばね部の断面二次モーメントをI1[mm4]とする。
・前記後基準における前記後ばね部の内縁から前記後ばね部の外縁に対して垂直な後基準面を仮定し、この後基準面における前記後ばね部の断面二次モーメントをI2[mm4]とする。
・前記平行部における直線状の外縁のうち前記前ばね部側の端から前記アイホールの前端までの前記プレスフィット部の挿入方向の長さをL1[mm]とする。
・前記平行部における直線状の外縁のうち前記後ばね部側の端から前記アイホールの後端までの前記プレスフィット部の挿入方向の長さをL2[mm]とする。
・前側ばね強さG1をI1/L1[mm3]とし、後側ばね強さG2をI2/L2[mm3]とする。
【0015】
Ls/Leが0.57以上0.65以下であり、G1/G2が0.55以上1.45以下であるため、挿入力を小さくすることと、保持力を大きくすることとの両立性を高めることができる。
【0016】
(2)(1)のプレスフィット端子であって、ばね強さG[mm3]をG1+G2としたとき、Gが0.03mm3以上0.04mm3以下であってもよい。挿入力を小さくすることと、保持力を大きくすることを両立性がさらに改善される。
【0017】
(3)(1)又は(2)のプレスフィット端子であって、前記前ばね部の外縁は、前に向うにつれて前記プレスフィット部の幅方向内側に向うように傾斜し、前記後ばね部の外縁は、後ろに向うにつれて前記プレスフィット部の幅方向内側に向うように傾斜してもよい。前ばね部及び後ばね部が変形し易くなる。
【0018】
(4)(1)から(3)のいずれか1つの態様に係るプレスフィット端子であって、前記平行部の外向き部分が、前記挿入方向に沿って見て弧状形状に形成されていてもよい。スルーホールの内周面との接触面積が大きくなる。
【0019】
(5)(4)のプレスフィット端子を含むコネクタと、スルーホールが形成された基板と、を備え、前記プレスフィット端子の前記プレスフィット部が前記スルーホールに圧入され、前記挿入方向に沿って見て、前記平行部の外向き部分の曲率半径が、前記スルーホールの内周半径と同じか小さい、コネクタ装置とされてもよい。プレスフィット部とスルーホールの内周面との接触面積が大きくなる。
【0020】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示のプレスフィット端子及びコネクタ装置の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0021】
なお、本開示のプレスフィット端子は下記の背景下において有意義である。すなわち、プレスフィット端子では、保持力、接触面積及び挿入力の全ての特性について、高い次元で満足することが要請される。ここで、保持力及び挿入力は既に述べた通りである。接触面積は、プレスフィット端子が基板のスルーホールに挿入された状態における、プレスフィット端子とスルーホールとの接触面積である。電気的な接続を良好にするため、接触面積はなるべく大きいことが望まれる。プレスフィット端子がスルーホールに挿入された状態で、プレスフィット端子は一種のばねとなって、プレスフィット端子の両側部がスルーホールに押付けられる。プレスフィット端子によるばねが硬いほど保持力及び接触面積が大きくなるが、挿入力は大きくなってしまう。逆に、プレスフィット端子によるばねが柔らかいほど挿入力は小さくなるが、保持力及び接触面積は小さくなってしまう。このように、保持力及び接触面積と、挿入力とは、ばねの硬さによって左右され、保持力及び接触面積に対する要求と、挿入力に対する要求とは、トレードオフの関係にある。
【0022】
保持力、接触面積及び挿入力の全ての特性について、高い次元で満足するための形状が提案されている。ここで、従来のプレスフィット端子の厚みは、0.64mm程度である。プレスフィット端子の小型化、多極化等の要請に鑑み、プレスフィット端子の厚みを小さくすることが要請されている。
【0023】
厚みの薄い(例えば、厚み0.4mm)のプレスフィット端子の形状を検討する場合、例えば、1から設計するのではなく、既存の形状を縮小した相似形とすることが考えられる。しかしながら、厚みの薄いプレスフィット端子は、厚みだけではなく、正面視における大きさも小さい。また、金属板からプレス加工等によってプレスフィット端子を製造する場合において、加工のサイズ限界がある。このため、プレスフィット端子を、既存の形状を縮小した相似形に加工することは困難となり得る。このため、厚みの薄いプレスフィット端子については、新たに形状を検討する必要がある。
【0024】
上記のような背景下、本開示では、厚みの薄いプレスフィット端子に関し、保持力、接触面積及び挿入力を高い次元で満足できる形状について検討され、その結果、以下に示すプレスフィット端子の形状が想到された。
【0025】
[実施形態]
以下、実施形態に係るプレスフィット端子について説明する。
図1はプレスフィット端子20を示す正面図である。
図2はプレスフィット部30がスルーホール13に挿入される状態を示す説明図である。
図2ではスルーホール13に挿入される前のプレスフィット端子20及びスルーホール13に挿入されたプレスフィット端子20が示されている。
図3は
図2のIII-III線断面図である。
【0026】
プレスフィット端子20は、基板12に形成されたスルーホール13内に圧入される端子である。ここで、基板12は、ガラスエポキシ板等の絶縁板等によって形成されている。基板12には、表裏に貫通するスルーホール13が形成されている。スルーホール13は、円形の孔である。スルーホール13は、四角い孔等であってもよい。スルーホール13の内面には、銅等の金属による導電層13fが形成される。プレスフィット端子20がスルーホール13に圧入された状態で、プレスフィット端子20が導電層13fに接触して、当該導電層13fに電気的に接続される。導電層13fは、基板12の表面等に形成された回路に接続されていてもよい。
【0027】
プレスフィット端子20は、銅、銅合金等の金属によって形成される。プレスフィット端子20は、例えば、金属板をプレス加工することによって形成されてもよい。プレスフィット端子20の表面には、錫、錫合金等のめっきが形成されてもよい。
【0028】
プレスフィット端子20は、プレスフィット部30を備える。本実施形態では、プレスフィット部30の一端部に先端部22が連なり、プレスフィット部30の他端部に基端部26が連なる。先端部22は、プレスフィット端子20がスルーホール13に挿入される際に、最初にスルーホール13に挿入される部分である。基端部26は、スルーホール13側の導電層13fの電気的な接続先となる部分が連なる部分である。後述する
図6に示す例では、基端部26はコネクタ端子部54に連なる。プレスフィット部30が挿入される向きを前向き、挿入される向きとは逆向きを後ろ向きとする。
【0029】
プレスフィット部30は、先端部22と基端部26との間に設けられる部分である。プレスフィット部30の幅W2(ここでは最大幅)は、先端部22の最大幅W1よりも大きく、さらに、スルーホール13の径φよりも大きい。このため、プレスフィット部30は、スルーホール13の内周面に対して接触することができる。プレスフィット部30は、スルーホール13の内周面に対する接触状態を保つことで、導電層13fに対して電気的な接触を得るための部分であると把握されてもよい。
【0030】
より具体的には、プレスフィット端子20は、全体として直線状に延びる細長い板状に形成されている。
【0031】
先端部22は、同幅部分が連続する長方形板状部分を含む。この長方形板状部分の両側の縁は互いに平行である。先端部22の幅W1は、スルーホール13の径(直径)φよりも小さい。先端部22における長方形板状部分の先端部(プレスフィット部30とは反対側の端部)に、先端側に向けて徐々に細幅となる最先端部22aが設けられる。最先端部22aの存在により、プレスフィット端子20がスルーホール13内に容易に挿入される。先端部22は、スルーホール13の内周面に対して隙間をあけた状態でスルーホール13に挿入され得る。
【0032】
基端部26は、同幅部分が連続する長方形板状部分を含む。この長方形板状部分の両側の縁は互いに平行である。基端部26の幅は、プレスフィット部30の幅W2よりも小さい。ここでは、基端部26の幅は、先端部22の最大幅W1と同じである。基端部26の幅は、先端部22の幅とは異なっていてもよい。
【0033】
プレスフィット部30は、先端部22と基端部26との間に設けられる。プレスフィット部30は、アイホール31を隔てて対向する2つの接触片34を含む。アイホール31は、先端部22と基端部26とを結ぶ方向に細長い孔である。アイホール31の形状としては、具体的には、真円、オーバル形状、立方体、直方体等が挙げられる。アイホール31は、プレスフィット端子が挿入される方向に細長いことが好ましい。接触片34は、細長い板状に形成されている。2つの接触片34の一端部は、先端部22に連なっている。2つの接触片34の他端部は、基端部26に連なっている。
【0034】
2つの接触片34のそれぞれは、平行部36と、前ばね部35と、後ばね部37とを備える。
【0035】
2つの接触片34のそれぞれの平行部36は、互いに平行に並んでいる。より具体的には、2つの平行部36の外縁36aが、前後方向に沿って直線状に、かつ、互いに平行に並ぶ。2つの平行部36の内縁も、前後方向に沿って直線状に、かつ、互いに平行に並んでいてもよい。もっとも、アイホール31の形状によっては、2つの平行部36の内縁の一部又は全部が曲線を描くこともあり得る。
【0036】
前ばね部35は、平行部36からプレスフィット端子20が挿入される向き(前向き)に延びる部分である。前ばね部35は、プレスフィット部30がスルーホール13に挿入される際に、平行部36よりも容易に変形する部分である。前ばね部35の外縁35aは、前に向うにつれてプレスフィット部30の幅方向内側に向うように傾斜している。つまり、前ばね部35の外縁35aは、後端で上記平行部36の外縁36aに連なっており、前に向うに連れて徐々にプレスフィット部30の幅方向内側に向い、前端で先端部22の外縁に連なる。
【0037】
前ばね部35の外縁35aは、全体が直線状であってもよいし、全体が曲線であってもよいし、直線と曲線とが複合した形状であってもよい。前ばね部35の外縁35aと平行部36の外縁36aとは、曲線をなして連なってもよいし、角をなして連なってもよい。同様に、前ばね部35の外縁35aと先端部22の外縁とは、曲線をなして連なってもよいし、角をなして連なってもよい。ここでは、前ばね部35の外縁35aの中間部が直線をなし、その両端側部分が曲線をなしている。
【0038】
後ばね部37は、平行部36からプレスフィット端子20が挿入される向きとは逆向き(後ろ向き)に延びる部分である。後ばね部37は、プレスフィット部30がスルーホール13に挿入される際に、平行部36よりも容易に変形する部分である。平行部36の前後で、前ばね部35及び後ばね部37が容易に変形することで、平行部36が大きく傾かずに内側に変位することができる。後ばね部37の外縁37aは、後ろに向うにつれてプレスフィット部30の幅方向内側に向うように傾斜している。つまり、後ばね部37の外縁37aは、前端で上記平行部36の外縁36aに連なっており、後ろに向うに連れて徐々にプレスフィット部30の幅方向内側に向い、後端で基端部26の外縁に連なる。
【0039】
後ばね部37の外縁37aは、全体が直線状であってもよいし、全体が曲線であってもよいし、直線と曲線とが複合した形状であってもよい。後ばね部37の外縁37aと平行部36の外縁36aとは、曲線をなして連なってもよいし、角をなして連なってもよい。同様に、後ばね部37の外縁37aと基端部26の外縁とは、曲線をなして連なってもよいし、角をなして連なってもよい。ここでは、後ばね部37の外縁37aの中間部が直線をなし、その両端側部分が曲線をなしている。
【0040】
プレスフィット端子20の挿入方向に沿って見て、平行部36の外向き部分は、外向きに凸となる弧状の弧状面36fに形成されている。平行部36の外向き部分は、弧状面36fに形成されていれば、当該弧状面36fがスルーホール13の内周面に対して大きい面積で接触することが期待される。
【0041】
この弧状面36fの曲率半径rは、プレスフィット端子20が挿入されるスルーホール13の内周半径(φ/2)と同じか、当該内周半径(φ/2)よりも小さいことが好ましい。弧状面36fの曲率半径rがスルーホール13の内周半径(φ/2)と同じであれば、弧状面36fの全体がスルーホール13の内周面に接触することが期待される。なお、弧状面36fの曲率半径rとスルーホール13の内周半径(φ/2)とが同じとは、製造誤差範囲で同じである場合を含んでもよい。例えば、弧状面36fの曲率半径rはスルーホール13の内周半径(φ/2)に対して±20%以内の誤差範囲内で同じであってもよい。また、弧状面の曲率半径rがスルーホール13の内周半径(φ/2)よりも小さい場合でも、弧状面136fの曲率半径rがスルーホール13の内周半径(φ/2)より大きい場合と比較して、弧状面36fの中央の曲面部分が大きい面積でスルーホール13の内周面に接触することが期待される(
図3の範囲E1参照)。例えば、
図4に示すように、弧状面136fの曲率半径rがスルーホール13の内周半径(φ/2)より大きければ、弧状面136fの両縁部分が上記の場合よりも小さい面積でスルーホール13の内周面に接触することが想定されるからである(
図4の範囲E2参照)。弧状面の曲率半径rがスルーホール13の内周半径(φ/2)よりも小さいとしても、弧状面の曲率半径rは、スルーホール13の内周半径(φ/2)に対して70%以上であることが好ましい。
【0042】
前ばね部35及び後ばね部37の外向き部分も上記と同様に弧状面に形成されている。
【0043】
プレスフィット端子20の挿入方向に沿って見て、平行部36、前ばね部35及び後ばね部37の外向き部分が上記形状に形成されていることは必須では無い。例えば、平行部36、前ばね部35及び後ばね部37の外向き部分は、平面に形成されていてもよい。また、
図4に示すように、弧状面136fの曲率半径rがスルーホール13の内周半径(φ/2)よりも大きい場合を排除するものではない。
【0044】
プレスフィット部30の厚みは、0.3mm以上0.5mm以下に形成されている。好ましくは、プレスフィット部30の厚みは、0.4mmである。このように、プレスフィット部30の厚みが0.3mm以上0.5mm以下と小さく形成されることで、小型のスルーホール13に対応可能となる。スルーホール13及びプレスフィット部30の小型化が実現されれば、プレスフィット端子20の密集化、多極化等の要請に応えることができる。
【0045】
かかるプレスフィット部30に関し、各部の大きさ、形状は、以下の構成とされている。
【0046】
まず、プレスフィット部30について、アイホール31の長さをLe[mm]とし、平行部36の長さをLs[mm]としたとき、Ls/Leが0.57以上0.65以下である。ここで、アイホール31の長さLe[mm]は、前後方向に沿った方向において、アイホール31のうち最も前寄りにある前端と、最も後ろ寄りにある後端との距離である。また、平行部36の長さLs[mm]は、平行部36のうち前後方向に沿った直線状の外縁36aの長さである。
【0047】
また、プレスフィット部30について、下記条件で算出される前側ばね強さをG
1[mm
3]、後側ばね強さをG
2[mm
3]としたとき、G
1/G
2が0.55以上1.45以下である。
[条件]
まず、アイホール31の前端から後ろ向きに0.1mmの位置を前基準SFとする。
図1において、前基準SFは、前後方向に対して直交する直線として示される。同様に、アイホール31の後端から前向きに0.1mmの位置を後基準SRとする。
図1において、後基準SRは、前後方向に対して直交する直線として示される。
【0048】
前基準SFにおける前ばね部35の内縁から前ばね部35の外縁35aに対して垂直な前基準面TFを仮定する。ここで、前ばね部35の外縁35aに対して垂直な前基準面TFとは、プレスフィット部30をその厚み方向に沿って見た場合に観察され得る前ばね部35の外縁35aに対して垂直な前基準面TFを意味する。この前基準面TFにおける前ばね部35の断面二次モーメントをI1[mm4]とする。
【0049】
同様に、前記後基準SRにおける後ばね部37の内縁から後ばね部37の外縁37aに対して垂直な後基準面TRを仮定し、この後基準面TRにおける後ばね部37の断面二次モーメントをI2[mm4]とする。
【0050】
さらに、平行部36における直線状の外縁36aのうち前ばね部35側の端からアイホール31の前端までのプレスフィット部30の挿入方向の長さをL1[mm]とする。
【0051】
また、平行部36における直線状の外縁36aのうち後ばね部37側の端からアイホール31の後端までのプレスフィット部30の挿入方向の長さをL2[mm]とする。
【0052】
そして、前側ばね強さG1をI1/L1[mm3]とし、後側ばね強さG2をI2/L2[mm3]と定義する。
【0053】
[断面二次モーメントについて]
上記前基準面TF、後基準面TRにおける断面二次モーメントは、例えば、次のようにして求められ得る。
【0054】
前基準面TFにおける前ばね部35の断面形状は、例えば、
図5に示すように、長方形状の第1部分Aと、円の一部を直線でカットした第2部分Bとを合成した形状である。このため、前基準面TFにおける断面二次モーメントは、第1部分Aの断面二次モーメントと、第2部分Bの断面二次モーメントとの和であると考えることができる。
【0055】
この断面形状において、プレスフィット部30の厚みをt[mm]、プレスフィット部30の外向き部分の曲率半径をr[mm]、アイホール31側の内向き部分から外向き部分までの寸法をばね厚みh[mm]とすると、前基準面TFにおける断面二次モーメントは、下記式により算出される。
【0056】
【0057】
なお、上記式において、Iaは第1部分Aの断面二次モーメントであり、Ibは第2部分Bの断面二次モーメントである。また、Saは第1部分Aの断面積であり、Sbは第2部分Bの断面積である。さらに、yaは第1部分Aの中立軸の位置であり、ybは第2部分Bの中立軸の位置であり、yは第1部分Aと第2部分Bとを合わせた全体の中立軸の位置である。
【0058】
後基準面TRにおける断面二次モーメントについても、上記と同様に求められ得る。
【0059】
上記断面二次モーメントの求め方は一例である。前基準面TFにおける前ばね部35の断面形状、後基準面TRにおける後ろばね部37の断面形状等に基づく計算方法によって、断面二次モーメントが求められ得る。
【0060】
このように構成されたプレスフィット端子20によると、Ls/Leが0.57以上0.65以下であり、G1/G2が0.55以上1.45以下であるため、挿入力を小さくすることと、保持力を大きくすることとの両立性が高まる。
【0061】
上記プレスフィット端子20において、ばね強さG[mm3]をG1+G2としたとき、Gが0.03mm3以上0.04mm3以下とされていてもよい。これにより、挿入力を小さくすることと、保持力を大きくすることを両立性がさらに改善される。
【0062】
また、前ばね部35の外縁35aは、前に向うにつれてプレスフィット部30の幅方向内側に向うように傾斜し、後ばね部37の外縁37aは、後ろに向うにつれてプレスフィット部30の幅方向内側に向うように傾斜している。このため、プレスフィット端子20をスルーホール13に圧入すると、平行部36に対して傾斜する外縁35a、37aを有する前ばね部35及び後ばね部37が、平行部36の両端側で容易に変形できる。
【0063】
また、平行部36の外向き部分が弧状面36fに形成されているため、平行部36がスルーホール13の内周面に大きい面で接触し易くなり、接触面積をより大きくできる。
【0064】
特に、弧状面36fの曲率半径rがスルーホール13の半径と同じか小ければ、弧状面36fの中央部が比較的大きい面積でスルーホール13の内周面に接触し易くなり、接触面積をより大きくできる。
【0065】
図6は上記プレスフィット端子20が基板12に圧入されたコネクタ装置50を示す図である。コネクタ装置50は、基板12と、コネクタ60とを備える。コネクタ60は、上記プレスフィット端子20を含む。
図6では、プレスフィット端子20の基端部26にコネクタ端子部54が一体的に繋がっている。コネクタ端子部54は、基端部26に対して曲った状態(ここでは直角に曲った状態)で連なっている。プレスフィット端子20のうち基端部及びコネクタ端子部54は、コネクタ60のコネクタハウジング61内に組込まれている。基端部はコネクタハウジング61から出ていてもよい。コネクタ端子部54は、コネクタハウジング61内の空間の底から開口に向けて突出するように配置される。ここでは、コネクタハウジング61には、複数のプレスフィット端子20が組込まれている。このため、コネクタハウジング61内には、複数のコネクタ端子部54が間隔をあけて立並ぶ。また、コネクタハウジング61の外面から複数のプレスフィット端子20が突出する。そして、コネクタハウジング61の外面から突出する複数のプレスフィット端子20が同時に複数のスルーホール13に圧入される。複数のプレスフィット端子20が複数のスルーホール13に圧入された状態で、コネクタ60が基板12に実装固定される。
【0066】
ケース52は、基板12を収容可能な空間を有する筺状に形成されている。ケース52には、コネクタハウジング61を外部に露出させる開口53が形成されている。コネクタハウジング61が開口53内に配設された状態で、基板12がケース52内に固定される。ケース52内における基板12の固定は、ネジ止構造、嵌め込み構造、それらの複合構造等が利用され得る。
【0067】
上記のようなコネクタ装置50において、コネクタ60に多数のコネクタ端子部54が組込まれることがあり得る。この場合には、多数のプレスフィット端子20を同時にスルーホール13に圧入する作業が生じ得る。このような場合において、多数のプレスフィット端子20について、接触荷重を大きくしつつ、挿入力の最大値を小さくできるという点で有効である。
【0068】
また、平行部36の外向き部分の曲率半径rが、スルーホール13の内周半径と同じか小さければ、プレスフィット部30とスルーホール13の内周面との接触面積が大きくなる。
【0069】
[実施例]
本実施例では、上記実施形態で説明したプレスフィット端子20について、挿入量、保持力、及び、接触面積の評価が説明される。評価は、有限要素法を用いたCAE(Computer Aided Engineering)解析により導きだされた。
【0070】
プレスフィット端子20については、Ls/Le、G1/G2、G(=G1+G2)の値を変えて、評価が行われた。なお、プレスフィット端子20の厚みは、0.4mmであり、スルーホール13の径φは0.55mmである。
【0071】
図7に評価結果が示される。同図に示すように、Ls/Leが0.57以上0.65以下となり、かつ、G
1/G
2が0.55以上1.45となる実施例1及び2の場合において、挿入力を低くすることと、保持力及び接触面積を大きくすることとが、高い次元で両立していることがわかる。例えば、これらの実施例1及び2であれば、挿入力63N以下、保持力20N以上、接触面積0.49mm
2以上を実現できることがわかる。当該条件に加えて、G(=G
1+G
2)が0.03mm
3以上0.04mm
3以下となっていても、挿入力を低くすることと、保持力及び接触面積を大きくすることとが、高い次元で両立し得る。さらに、G(=G
1+G
2)が0.034mm
3以上0.037mm
3以下となっていると、挿入力を低くすることと、保持力及び接触面積を大きくすることとが、高い次元で両立し得ると推測される。
【0072】
なお、上記実施形態及び各変形例で説明した各構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0073】
12 基板
13 スルーホール
13f 導電層
20 プレスフィット端子
22 先端部
22a 最先端部
26 基端部
30 プレスフィット部
31 アイホール
34 接触片
35 前ばね部
35a、36a、37a 外縁
36 平行部
36f、136f 弧状面
37 後ばね部
50 コネクタ装置
52 ケース
53 開口
54 コネクタ端子部
60 コネクタ
61 コネクタハウジング
A 第1部分
B 第2部分
TF 前基準面
TR 後基準面