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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-07
(45)【発行日】2023-11-15
(54)【発明の名称】シリコン合金粒子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20220101AFI20231108BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20231108BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20231108BHJP
   H01G 11/50 20130101ALI20231108BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20231108BHJP
   C22C 21/02 20060101ALI20231108BHJP
   B22F 9/08 20060101ALI20231108BHJP
   C01B 33/06 20060101ALI20231108BHJP
【FI】
B22F1/00 N
H01M4/38 Z
H01G11/86
H01G11/50
H01G11/06
C22C21/02
B22F9/08 A
B22F9/08 C
C01B33/06
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020071641
(22)【出願日】2020-04-13
(65)【公開番号】P2021167457
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】早稲田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】吉田 淳
(72)【発明者】
【氏名】川浦 宏之
(72)【発明者】
【氏名】近藤 康仁
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 涼
(72)【発明者】
【氏名】中野 広幸
【審査官】清水 研吾
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/194794(WO,A1)
【文献】特開2012-82126(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0105626(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F1/00-12/90;C22C1/04-1/059;33/02
H01M 4/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質の中間体として用いられ、SiおよびAlを含有するシリコン合金粒子であって、
平均粒径が10μm以下であり、
前記シリコン合金粒子における前記Siの割合が、10質量%以上、25質量%以下であり、
前記シリコン合金粒子における前記Alの割合が、70質量%以上であり、
前記シリコン合金粒子における前記Siおよび前記Alの割合が、90質量%以上であり、
前記シリコン合金粒子が、Cuをさらに含有し、
前記シリコン合金粒子における前記Cuの割合が、1質量%以上、3質量%以下である、シリコン合金粒子。
【請求項2】
請求項1に記載のシリコン合金粒子の製造方法であって、
SiAlおよびCuを含有し、前記Siの割合が10質量%以上25質量%以下であり、前記Alの割合が70質量%以上であり、前記Siおよび前記Alの割合が90質量%以上であり、前記Cuの割合が1質量%以上3質量%以下である原料を準備する準備工程と、
前記原料を用いて粒子化処理を行い、平均粒径が10μm以下であるシリコン合金粒子を得る粒子化工程と、
を有するシリコン合金粒子の製造方法。
【請求項3】
前記粒子化処理が、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法またはロール急冷法である、請求項2に記載のシリコン合金粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シリコン合金粒子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
活物質としてシリコン粒子を用いることが知られている。例えば特許文献1には、Siからなる多孔質粒子の集合体からなり、多孔質粒子の内部に平均孔径が10nm以上10μm以下の範囲である多数のボイドが形成され、集合体の平均粒径が1μm以上100μm以下の範囲であるリチウム二次電池用負極活物質が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、シリコン微粒子が接合してなり、連続した空隙を有する三次元網目構造を有し、シリコン微粒子の平均粒径または平均支柱径(μ)が2nm~2μmであり、シリコン微粒子の粒径または支柱径の標準偏差(σ)と、シリコン微粒子の平均粒径または平均支柱径(μ)の比である、σ/μの値が0.03~1.50である多孔質シリコン粒子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-214054号公報
【文献】特開2013-203626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シリコン粒子は、活物質としての理論容量が4199mAh/gであり、一般的な活物質である黒鉛の理論容量(372mAh/g)に比べて、約10倍の値を示すため、高容量化、高エネルギー密度化が期待される。一方、例えばシリコン粒子がLiイオンを吸蔵する場合、最大でLi4.4Siの組成まで吸蔵できる。その結果、シリコン粒子の体積は、最大で約4倍まで膨張する。
【0006】
充放電に伴うシリコン粒子の体積変化が大きいと、電極内における電子伝導パスが経時的に途切れやすい。同様に、電極が固体電解質を含有する場合、電極内におけるイオン伝導パスも経時的に途切れやすい。一方、内部に空隙を有する多孔質シリコン粒子は、充放電に伴う体積変化が小さいことが想定される。
【0007】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、例えばLiイオンを吸蔵した場合であっても、体積変化が少ない多孔質シリコン粒子を得ることが可能なシリコン合金粒子を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示においては、SiおよびAlを含有するシリコン合金粒子であって、平均粒径が10μm以下であり、上記シリコン合金粒子における上記Siの割合が、50質量%以下である、シリコン合金粒子を提供する。
【0009】
本開示によれば、SiおよびAlを含有し、かつ、Siを所定の割合で含有するため、例えばLiイオンを吸蔵した場合であっても、体積変化が少ない多孔質シリコン粒子を得ることが可能なシリコン合金粒子とすることができる。
【0010】
上記開示においては、上記シリコン合金粒子における上記Siの割合が、10質量%以上であってよい。
【0011】
上記開示においては、上記シリコン合金粒子における上記Alの割合が、50質量%以上であってもよい。
【0012】
上記開示においては、上記シリコン合金粒子が、Ca、Cu、Mg、Na、SrおよびPの少なくとも一種をさらに含有していてもよい。
【0013】
上記開示においては、上記シリコン合金粒子における上記Siおよび上記Alの割合が、90質量%以上であってもよい。
【0014】
上記開示においては、シリコン合金粒子が、活物質の中間体として用いられてもよい。
【0015】
また、本開示においては、SiおよびAlを含有し、上記Siの割合が50質量%以下である原料を準備する準備工程と、上記原料を用いて粒子化処理を行い、平均粒径が10μm以下であるシリコン合金粒子を得る粒子化工程と、を有するシリコン合金粒子の製造方法を提供する。
【0016】
本開示によれば、SiおよびAlを含有し、かつ、Siを所定の割合で含有する原料を用いることで、例えばLiイオンを吸蔵した場合であっても、体積変化が少ない多孔質シリコン粒子を得ることが可能なシリコン合金粒子を得ることができる。
【0017】
上記開示においては、上記粒子化処理が、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法またはロール急冷法であってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本開示においては、例えばLiイオンを吸蔵した場合であっても、体積変化が少ない多孔質シリコン粒子を得ることが可能なシリコン合金粒子を提供できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本開示におけるシリコン合金粒子の製造方法を例示するフロー図である。
図2】実施例2で得られた多孔質シリコン粒子に対するSEM観察の結果である。
図3】比較例1で得られた多孔質シリコン粒子に対するSEM観察の結果である。
図4】実施例1~4および比較例1、2における評価用セルの拘束圧変動(相対値)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示について詳細に説明する。
【0021】
A.シリコン合金粒子
本開示におけるSiおよびAlを含有するシリコン合金粒子であって、平均粒径が10μm以下であり、上記シリコン合金粒子における上記Siの割合が、50質量%以下である。
【0022】
本開示によれば、SiおよびAlを含有し、かつ、Siを所定の割合で含有するため、例えばLiイオンを吸蔵した場合であっても、体積変化が少ない多孔質シリコン粒子を得ることが可能なシリコン合金粒子とすることができる。具体的には、後述するように、シリコン合金粒子からAlを除去することで、空隙率が高い多孔質シリコン粒子を得ることができる。その結果、例えばLiイオンを吸蔵した場合であっても、多孔質シリコン粒子の空隙にLiが析出し、多孔質シリコン粒子の外形が増大することを抑制できる。
【0023】
シリコン合金粒子は、SiおよびAlを少なくとも含有する。シリコン合金粒子は、SiおよびAlのみを含有していてもよく、さらに他の元素を含有していてもよい。他の元素は、金属元素(半金属元素を含む)であってもよく、非金属元素であってもよい。金属元素としては、例えばCa、Cu、Mg、Na、Srが挙げられる。非金属元素としては、例えばPが挙げられる。なお、シリコン合金粒子に、不可避的に含有される元素(例えばO元素)または官能基(例えばOH基)は、シリコン合金粒子を構成する元素として考慮しない。シリコン合金粒子におけるSiおよびAlの割合は、例えば70質量%以上であり、80質量%以上であってもよく、90質量%以上であってもよい。
【0024】
シリコン合金粒子は、Siを含有する。シリコン合金粒子におけるSiの割合は、通常、50質量%以下であり、40質量%以下であってもよく、35質量%以下であってもよく、25質量%以下であってもよい。Siの割合は、例えば5質量%以上であり、7.5質量%以上であってもよく、10質量%以上であってもよい。
【0025】
シリコン合金粒子は、Alを含有する。シリコン合金粒子におけるAlの割合は、例えば50質量%以上であり、60質量%以上であってもよく、70質量%以上であってもよく、73質量%以上であってもよく、80質量%以上であってもよい。Alの割合が大きいと、シリコン合金粒子の製造時(特に急速冷却時)に、Alの単相が大きく析出する。そのため、後述する多孔化工程でAlを除去することで、粒子内に多くの空隙を形成することができる。Alの割合は、例えば95質量%以下である。AlおよびSiの合計質量に対するAlの質量割合は、例えば84.6%以上90.6%以下であることが好ましい。AlおよびSiの共晶組成(Al:87.6質量%、Si:12.6質量%)の近傍組成とすることで、均一な空隙を形成することができる。
【0026】
シリコン合金粒子は、Ca、Cu、Mg、Na、SrおよびPの少なくとも一種をさらに含有していてもよい。なお、これらの元素を添加元素と称する。シリコン合金粒子における添加元素の割合は、例えば10質量%以下であり、7質量%以下であってもよく、5質量%以下であってもよく、3質量%以下であってもよい。添加元素の割合は、0より大きくてもよい。
【0027】
シリコン合金粒子の平均粒径は、通常、10μm以下であり、5μm以下であってもよく、3μm以下であってもよい。一方、シリコン合金粒子の平均粒径は、例えば、0.1μm以上であり、1μm以上であってもよい。平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)で粒子を観察し、各粒子の長径をその粒子の直径として集計し、粒子数で除算して平均した値として求めることができる。シリコン合金粒子の形状としては、例えば、球状、楕円球状、柱状、鱗片状が挙げられる。
【0028】
シリコン合金粒子は、活物質の中間体として用いられることが好ましい。活物質は、負極活物質であってもよく、正極活物質であってもよい。また、活物質の用途は、蓄電デバイスであることが好ましい。
【0029】
また、本開示においては、SiおよびAlを含有するシリコン合金粒子であって、活物質の中間体として用いられ、上記シリコン合金粒子における上記Siの割合が、50質量%以下である、シリコン合金粒子を提供することもできる。この場合、シリコン合金粒子の平均粒径は、例えば100μm以下であり、30μm以下であってもよく、20μm以下であってもよい。平均粒径以外は、上述した内容と同様である。また、このようなシリコン合金粒子の製造方法を提供することもできる。製造方法の詳細については、後述する内容と同様である。
【0030】
B.シリコン合金粒子の製造方法
図1は、本開示におけるシリコン合金粒子の製造方法を例示するフロー図である。図1では、まず、SiのインゴットおよびAlのインゴットを準備し、これらを、Siの割合が50質量%以下となるように秤量し混合する。得られた混合物を、ガスアトマイザ(図示せず)の溶解チャンバに投入し真空排気する。その後、不活性ガスで溶解チャンバの雰囲気を置換し、高周波加熱法により混合物を溶解し、SiAl溶融物(溶湯)を得る。その後、溶解チャンバと噴霧チャンバとの間に差圧を生じさせ、溶融金属を下方に落とす。その溶融金属に高圧ガスを噴きつけることで、球状のSiAl合金粒子(シリコン合金粒子)が得られる。
【0031】
本開示によれば、SiおよびAlを含有し、かつ、Siを所定の割合で含有する原料を用いることで、例えばLiイオンを吸蔵した場合であっても、体積変化が少ない多孔質シリコン粒子を得ることが可能なシリコン合金粒子を得ることができる。
【0032】
1.準備工程
本開示における原料は、SiおよびAlを少なくとも含有する。原料は、SiおよびAlのみを含有していてもよく、さらに他の元素を含有していてもよい。Si、Al、他の元素、これらの割合および他の事項については、上記「A.シリコン合金粒子」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0033】
本開示における原料は、Si(インゴットまたは粒子)およびAl(インゴットまたは粒子)を含有する混合物であってもよく、溶湯(溶融物)であってもよく、合金インゴット(溶湯を金型に鋳造して得られたもの)であってもよい。
【0034】
2.粒子化工程
本開示における粒子化工程は、上記原料を用いて粒子化処理を行い、平均粒径が10μm以下であるシリコン合金粒子を得る工程である。
【0035】
粒子化処理としては、例えば、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法およびロール急冷法が挙げられ、中でもガスアトマイズ法であることが好ましい。アトマイズ法またはロール急冷法を用いる場合、原料は溶湯であることが好ましい。溶湯を作製する際の雰囲気、および、粒子化処理の雰囲気は、それぞれ、Ar雰囲気等の不活性雰囲気であることが好ましい。なお、本開示においては、粒子化処理として、合金インゴットを破砕して粒子化する処理を用いてもよい。
【0036】
3.シリコン合金粒子
上述した各工程により得られるシリコン合金粒子については、上記「A.シリコン合金粒子」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0037】
C.他の実施態様
本開示においては、多孔質シリコン粒子の製造方法、多孔質シリコン粒子、蓄電デバイスを提供することもできる。
【0038】
1.多孔質シリコン粒子の製造方法
本開示においては、SiおよびAlを含有し、上記Siの割合が50質量%以下である原料を準備する準備工程と、上記原料に粒子化処理を行い、平均粒径が10μm以下であるシリコン合金粒子を得る粒子化工程と、上記シリコン合金粒子から上記Alを除去して多孔質シリコン粒子を得る多孔化工程と、を有する、多孔質シリコン粒子の製造方法を提供することもできる。
【0039】
本開示によれば、上記の各工程を行うことで、空隙率が高い多孔質シリコン粒子を得ることができる。準備工程および粒子化工程については、上記「B.シリコン合金粒子の製造方法」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0040】
多孔化工程では、シリコン合金粒子からAlを除去して多孔質シリコン粒子を得る。シリコン合金粒子がSiおよびAl以外の金属元素を含有する場合は、その金属元素を除去してもよく、除去しなくてもよい。シリコン合金粒子からAlを除去する除去処理としては、例えば、酸処理およびアルカリ処理が挙げられる。酸処理に用いられる酸としては、例えば、塩酸、硫酸が挙げられる。一方、アルカリ処理に用いられるアルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウムが挙げられる。酸またはアルカリは、水等の溶媒に希釈させて、処理液とすることが好ましい。処理液における酸またはアルカリの濃度は、例えば1mol/L以上5mol/L以下である。
【0041】
除去処理では、シリコン合金粒子からAlを除去する除去量が、シリコン合金粒子からSiが流出する流出量よりも多いことが好ましい。これにより、シリコン合金粒子にSiを積極的に残存させることができる。シリコン合金粒子に含まれるSi以外の金属元素の量を100質量部とした場合、除去処理により、Si以外の金属元素の量を15質量部以下にしてもよく、10質量部以下にしてもよく、5質量部以下にしてもよい。除去処理の温度は、例えば20℃以上60℃以下である。また、除去処理では、シリコン合金粒子および処理液を接触させることにより、Alを除去することが好ましい。処理液にシリコン合金粒子を浸漬してもよく、処理液をシリコン合金粒子に塗布してもよい。除去処理の時間は、例えば1時間以上5時間以下である。本開示においては、除去処理の多孔質シリコン粒子を洗浄し、乾燥することが好ましい。
【0042】
なお、本開示においては、シリコン合金粒子を準備する準備工程と、上記シリコン合金粒子から上記Alを除去して多孔質シリコン粒子を得る多孔化工程と、を有する、多孔質シリコン粒子の製造方法を提供することもできる。シリコン合金粒子は、自ら合成して準備してもよく、他者から購入して準備してもよい。
【0043】
2.多孔質シリコン粒子
本開示においては、Siを含有し、上記Siの割合が85質量%以上であり、平均粒径が10μm以下であり、空隙率が45体積%以上95体積%以下である、多孔質シリコン粒子を提供することもできる。
【0044】
本開示によれば、空隙率が高いため、例えばLiイオンを吸蔵した場合であっても、体積変化が少ない多孔質シリコン粒子とすることができる。このような多孔質シリコン粒子は、例えば、上述した多孔質シリコン粒子の製造方法により得ることができる。
【0045】
多孔質シリコン粒子は、少なくともSiを含有する。多孔質シリコン粒子におけるSiの割合は、通常、85質量%以上であり、90質量%以上であってもよく、95質量%以上であってもよい。多孔質シリコン粒子は、三次元網目構造の骨格状シリコンを有することが好ましい。三次元網目構造の骨格状シリコンは、内部に多数の空隙を有するため、例えばLiイオンを吸蔵した場合であっても、体積変化を抑制できる。
【0046】
多孔質シリコン粒子は、Alを含有していてもよく、含有していなくてもよい。多孔質シリコン粒子におけるAlの割合は、例えば15質量%以下であり、10質量%以下であってもよく、5質量%以下であってもよい。Alの割合は、0(検出限界以下)であってもよく、0より大きくてもよい。
【0047】
多孔質シリコン粒子は、Ca、Cu、Mg、Na、SrおよびPの少なくとも一種をさらに含有していてもよい。なお、これらの元素を添加元素と称する。多孔質シリコン粒子における添加元素の割合は、例えば、例えば40質量%以下であり、30質量%以下であってもよく、25質量%以下であってもよい。添加元素の割合は、例えば1質量%以上であり、5質量%以上であってもよい。
【0048】
多孔質シリコン粒子の平均粒径は、通常、10μm以下であり、5μm以下であってもよく、3μm以下であってもよい。一方、多孔質シリコン粒子の平均粒径は、例えば、0.1μm以上であり、1μm以上であってもよい。平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)で粒子を観察し、各粒子の長径をその粒子の直径として集計し、粒子数で除算して平均した値として求めることができる。
【0049】
多孔質シリコン粒子の空隙率は、例えば45体積%以上であり、50体積%以上であってもよく、60体積%以上であってもよく、70体積%以上であってもよく、80体積%以上であってもよい。一方、多孔質シリコン粒子の空隙率は、例えば95体積%以下である。空隙率は、水銀ポロシメータによる測定から求めることができる。
【0050】
多孔質シリコン粒子の細孔径は、例えば、1nm以上1μm以下である。また、多孔質シリコン粒子の細孔径の最頻値は、例えば0.01μm以上であり、0.5μm以上であってもよい。上記最頻値は、例えば1μm以下であり、0.5μm以下であってもよく、0.3μm以下であってもよい。細孔径は、水銀ポロシメータによる測定から求めることができる。
【0051】
多孔質シリコン粒子は、蓄電デバイスの活物質として用いられることが好ましい。活物質は、負極活物質であってもよく、正極活物質であってもよい。
【0052】
3.蓄電デバイス
本開示においては、上述した多孔質シリコン粒子を含有する蓄電デバイスを提供することもできる。蓄電デバイスは、正極と、負極と、上記正極および上記負極の間に形成された電解質層とを有することが好ましい。正極は、正極集電体および正極活物質層を有していてもよい。負極は、負極集電体および負極活物質層を有していてもよい。電解質層は、液体電解質層であってもよく、固体電解質層であってもよい。蓄電デバイスとしては、例えば、金属イオン電池、空気電池、キャパシタが挙げられる。金属イオン電池としては、典型的には、リチウムイオン電池が挙げられる。また、蓄電デバイスは、充放電可能であることが好ましい。
【0053】
蓄電デバイスは、全固体電池であってもよい。全固体電池は、正極と、負極と、上記正極および上記負極の間に形成された固体電解質層とを有する。全固体電池に用いられる固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質等の無機固体電解質が挙げられる。全固体電池は、正極、負極および固体電解質層を有する単位セルが、厚さ方向に沿って複数積層された積層電池であってもよい。複数の単位セルは、直列接続されていてもよく、並列接続されていてもよい。
【0054】
全固体電池は、正極、固体電解質層および負極を、厚さ方向に拘束する拘束部材を有していてもよい。拘束部材による拘束圧は、例えば0.5MPa以上であり、1MPa以上であってもよく、2MPa以上であってもよい。一方、上記拘束圧は、例えば、20MPa以下であり、10MPa以下であってもよい。
【0055】
なお、本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【実施例
【0056】
[実施例1]
10mm角の塊状のAlを90質量%と、塊状のSiを10質量%秤量して混合し、Ar雰囲気中において高周波加熱法により溶解して合金溶湯とした。この合金溶湯を、Ar不活性ガスを用いたガスアトマイズ法によって平均粒径8μmのAlSi合金粒子(粉末)を得た。
【0057】
得られたAlSi合金粒子を、純水中に希釈した3mol/Lの塩酸に入れ、室温25℃で1時間撹拌した後、十分に洗浄しながら濾過し、30℃の真空乾燥炉で2時間乾燥した。これにより、多孔質シリコン粒子を得た。
【0058】
[実施例2]
Alの割合を80質量%に変更し、Siの割合を20質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、AlSi合金粒子および多孔質シリコン粒子を得た。
【0059】
[実施例3]
Alの割合を65質量%に変更し、Siの割合を35質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、AlSi合金粒子および多孔質シリコン粒子を得た。
【0060】
[実施例4]
Alの割合を50質量%に変更し、Siの割合を50質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、AlSi合金粒子および多孔質シリコン粒子を得た。
【0061】
[比較例1]
Alの割合を92.7質量%に変更し、Siの割合を7.3質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、AlSi合金粒子および多孔質シリコン粒子を得た。
【0062】
[比較例2]
Alの割合を43質量%に変更し、Siの割合を57質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、AlSi合金粒子および多孔質シリコン粒子を得た。
【0063】
[評価]
(残存Al量測定)
実施例1~4および比較例1、2で得られた多孔質シリコン粒子を、HFおよびHNOに溶解させ、ICP発光分光分析(ICP-OES、日立ハイテクサイエンス製PS3520UVDDII)を行い、多孔質シリコン粒子に含まれる残存Al量を測定した。その結果を表1に示す。
【0064】
(SEM観察)
実施例1~4および比較例1、2で得られた多孔質シリコン粒子に対して、走査型電子顕微鏡(SEM、日立ハイテクサイエンス製S-4300)による観察を行った。代表的な結果を図2および図3に示す。図2は、実施例2で得られた多孔質シリコン粒子に対するSEM観察の結果であり、図3は、比較例1で得られた多孔質シリコン粒子に対するSEM観察の結果である。なお、SEM観察と同時に、エネルギー分散型X線分析(EDX)により元素分析を行った。
【0065】
図2に示すように、実施例2で得られた多孔質シリコン粒子は、内部に多数の空隙を有する三次元網目構造の骨格状シリコンを有することが確認された。一方、図3に示すように、比較例1で得られた多孔質シリコン粒子は、三次元網目構造の骨格状シリコンが確認されず、内部の空隙が少ないことが確認された。すなわち、三次元網目構造の骨格状シリコンを形成するためには、AlSi合金粒子(Alを除去する前の合金粒子)におけるSiの割合が、7.3質量%よりも多い必要があることが示唆された。ただし、Siの割合が7.3質量%以下であっても、例えば、Siに代わる他の金属が残存する場合は、三次元網目構造の骨格状シリコン(厳密には骨格状シリコン合金)が形成される可能性がある。
【0066】
(空隙率測定)
実施例1~4および比較例1、2で得られた多孔質シリコン粒子に対して、水銀ポロシメータ(カンタクローム製POWERMASTER60GT)を用いて、細孔分布とともに、空隙率を求めた。その結果を表1に示す。水銀ポロシメータでは、粒子間の空孔が測定結果に含まれることがあることから、多孔質化前の粒子の測定と、多孔質化後の粒子の測定とを行い、その差分値を細孔容積として求めた。その細孔容積を体積で割ることで空隙率を求めた。
【0067】
(拘束圧変動測定)
実施例1~4および比較例1、2で得られた多孔質シリコン粒子を用いて、評価用セルを作製し、拘束圧変動(体積変化)を測定した。評価用セルは、以下のように作製した。
【0068】
まず、固体電解質である0.75LiS-0.25P(0.7g)と、負極活物質である多孔質シリコン粒子(0.6g)と、導電材であるVGCF(0.06g)と、バインダーであるPVDF系樹脂を5質量%で含有する酪酸ブチル溶液(0.24g)とを、ポリプロピレン製容器に添加した。この容器を超音波分散装置中で30秒間超音波処理した後、振とう器を用いて30分間振とう処理をして負極合材を得た。得られた負極合材を、アプリケーターを用いたブレード法により集電体(銅箔)上に塗工し、60分間自然乾燥し、さらに100℃に調整したホットプレート上で30分間乾燥して負極を得た。
【0069】
次に、固体電解質である0.75LiS-0.25P(0.3g)と、正極活物質であるLiNi1/3Co1/3Mn1/3(2g)と、導電材であるVGCF(0.03g)と、バインダーであるPVDF系樹脂を5質量%含有した酪酸ブチル溶液(0.3g)とを、ポリプロピレン製容器に添加した。この容器を超音波分散装置中で30秒間超音波処理した後、振とう器を用いて30分間振とう処理をして正極合材を得た。得られた正極合材を、アプリケーターを用いたブレード法により集電体(アルミニウム箔)上に塗工し、60分間自然乾燥し、さらに100℃に調整したホットプレート上で30分間乾燥して正極を得た。
【0070】
次に、固体電解質として平均粒径が2μmである0.75LiS-0.25P(0.4g)と、バインダーであるABR系樹脂を5質量%含有したヘプタン溶液(0.05g)とを、ポリプロピレン製容器に添加した。この容器を超音波分散装置中で30秒間超音波処理した後、振とう器を用いて30分間振とう処理をしてペーストを得た。得られたペーストを、アプリケーターを用いたブレード法により基板(アルミニウム箔)上に塗工し、100℃に調整したホットプレート上で30分間乾燥して固体電解質層を作製した。
【0071】
上記のようにして得られた、負極と、固体電解質層と、正極とを、この順で接するように積層した。この積層体に対して、130℃で200MPaの圧力を3分間印加して、評価用セルを得た。得られた評価用セルを拘束し、0.1Cで所定の電圧まで定電流で通電し初回充電を行った。初回充電における評価用セルの拘束圧変動(拘束圧増加量)をモニタリングした。一方、基準として、内部に空隙を有しない中実Si粒子(平均粒径8μm)を用いて、同様に評価用セルを作製し、同様に、初回充電における評価用セルの拘束圧変動(拘束圧増加量)をモニタリングした。この拘束圧変動を基準として、実施例1~5および比較例1、2における評価用セルの拘束圧変動(相対値)を求めた。その結果を表1および図4に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
表1および図4に示すように、実施例1~4では、相対的に拘束圧変動が小さかった。すなわち、充電に伴う体積膨張が抑制されることが確認された。これは、充電時に、多孔質シリコン粒子の空隙にLiが析出し、多孔質シリコン粒子の外形が増大することを抑制できたためであると推測される。一方、比較例1では、上述したように、三次元網目構造の骨格状シリコンが確認されず、多孔質シリコン粒子の空隙は少なかった。そのため、比較例1では、実施例1~4に比べて拘束圧変動が大きくなったと推測される。また、比較例2では、Siの割合が多く、除去されるAl量が少ないため、空隙率も小さくなった。そのため、比較例2では、実施例1~4に比べて拘束圧変動が大きくなったと推測される。
【0074】
[実施例5]
Alの割合を87質量%に変更し、Siの割合を13質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、AlSi合金粒子および多孔質シリコン粒子を得た。
【0075】
[実施例6]
Alの割合を82質量%に変更し、Siの割合を18質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、AlSi合金粒子および多孔質シリコン粒子を得た。
【0076】
[実施例7]
Alの割合を73質量%に変更し、Siの割合を27質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、AlSi合金粒子および多孔質シリコン粒子を得た。
【0077】
[実施例8]
Alの割合を87質量%に変更し、Siの割合を10質量%に変更し、さらに塊状のCuを3質量%秤量して混合したこと以外は、実施例1と同様にして、AlSiCu合金粒子および多孔質シリコン粒子を得た。
【0078】
[評価]
実施例5~8で得られた多孔質シリコン粒子に対して、上記と同様に、残存Al量測定、空隙率測定および拘束圧変動測定を行った。その結果を表2に示す。
【0079】
【表2】
【0080】
表2に示すように、実施例5~8では、相対的に拘束圧変動が小さかった。すなわち、充電に伴う体積膨張が抑制されることが確認された。これは、充電時に、多孔質シリコン粒子の空隙にLiが析出し、多孔質シリコン粒子の外形が増大することを抑制できたためであると推測される。
図1
図2
図3
図4